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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】生体刺激装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/08 20060101AFI20230117BHJP
   A61N 1/36 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
A61N1/08
A61N1/36
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019016143
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2019155082
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2018039473
(32)【優先日】2018-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】鐘堂 健三
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-076195(JP,A)
【文献】特開2014-104248(JP,A)
【文献】特開2005-017099(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0262747(US,A1)
【文献】特開昭61-1200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00-1/44
A61F 9/00-9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極、および、前記複数の電極と刺激電流経路との接続状態を切換えるデマルチプレクサ、を備える電極ユニットと、
前記刺激電流経路と接続されており、前記刺激電流経路を介して生体組織へ出力される刺激電流を発生させる刺激回路、および、前記生体組織への前記刺激電流の出力状態を、前記刺激電流経路を介して検出する検出部と、を備える刺激制御ユニットと、
前記刺激回路における前記刺激電流の発生動作を制御する制御部と、
を備える生体刺激装置であって、
前記制御部は、前記刺激電流経路が前記複数の電極の何れとも非接続となる状態に前記デマルチプレクサを設定したうえで、刺激電流の発生動作を前記刺激回路に実行させるテスト動作を実行し、テスト動作に基づいて前記刺激電流が前記生体組織へ出力されたことが前記検出部によって検出された場合に、その後の刺激電流の発生動作を制止する、生体刺激装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記刺激回路の出力電圧によって前記出力状態を検出する請求項1記載の生体刺激装置。
【請求項3】
前記電極ユニットは電源回路を有し、
前記電極ユニットは、前記デマルチプレクサに対して、前記刺激回路の電源電圧よりも高い電源電圧を前記電源回路から供給される電力に基づいて印加する昇圧回路を有し、
前記制御部は、前記テスト動作を、電源投入時に実行する請求項1記載の生体刺激装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記テスト動作に基づいて前記刺激電流の発生動作を制止させた後、時間をあけて再度テスト動作を実行し、再度のテスト動作に基づいて、前記刺激電流が前記生体組織へ出力されなくなった場合には、前記刺激電流の発生動作を開始させる請求項1から3のいずれかに記載の生体刺激装置。
【請求項5】
前記刺激電流経路とは異なる第2の刺激電流経路を介して前記刺激回路と接続される帰還電極と、
前記刺激電流経路につながる前記刺激回路の出力と、前記第2刺激電流経路につながる前記刺激回路の出力との間をショーティングさせるためのスイッチと、を持ち、
前記制御部は、前記テスト動作をさせる前に、前記スイッチを制御して、前記刺激電流経路-前記電極-生体-前記帰還電極-前記第2の刺激電流経路による経路に存在する容量成分をショーティングさせ、ショーティングの解除後に、前記テスト動作を開始させる、請求項1から4のいずれかに記載の生体刺激装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、体内に埋植された状態で、生体組織に対して電気刺激を行う生体刺激装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種の生体刺激装置が提案されている。例えば、生体に埋植されたモジュールが、患者において機能が失われた部位に電気刺激を与えることで、失われた機能の再生、代替、リハビリテーション等を行うものが知られている。
【0003】
一例として、特許文献1には、制御部と電極ユニットとがケーブルを介して電気的に接続された体内装置を持つ装置が開示されている。この装置では、電極ユニットに、複数の電極とデマルチプレクサとが設けられており、デマルチプレクサが、電気刺激を出力する電極を選択するスイッチとして利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-120590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電極ユニットにおいて、複数の電極から刺激電流を出力する電極を選択するために、デマルチプレクサが設けられているが、デマルチプレクサと電極をつないでいる配線が故障によって断線した場合を考える。デマルチプレクサが、モノリシック構造の半導体デバイスで構成されている場合、電極につながっているデマルチプレクサの端子には、デマルチプレクサ内の最高電位点及び最低電位点に対して、通常動作では逆バイアスされている寄生ダイオード素子が存在する。前記故障が発生した状態で刺激電流を流すと、意図した電流経路のインピーダンスが無限大であるため、刺激回路は出力する電圧を出力可能な最大電圧まで増加させる。この時に、故障していない配線につながるデマルチプレクサの端子に存在する寄生ダイオード素子を経由して、意図しない刺激電流が生体に流れることを防ぐために、デマルチプレクサには、十分に高い電源電圧を与える必要がある。
【0006】
本開示は、従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、十分に高い電源電圧が得られていることを、適正に検出できる生体刺激装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1態様に係る生体刺激装置は、複数の電極、および、前記複数の電極と刺激電流経路との接続状態を切換えるデマルチプレクサ、を備える電極ユニットと、前記刺激電流経路と接続されており、前記刺激電流経路を介して生体組織へ出力される刺激電流を発生させる刺激回路、および、前記生体組織への前記刺激電流の出力状態を、前記刺激電流経路を介して検出する検出部と、を備える刺激制御ユニットと、前記刺激回路における前記刺激電流の発生動作を制御する制御部と、を備える生体刺激装置であって、前記制御部は、前記刺激電流経路が前記複数の電極の何れとも非接続となる状態に前記デマルチプレクサを設定したうえで、刺激電流の発生動作を前記刺激回路に実行させるテスト動作を実行し、テスト動作に基づいて前記刺激電流が前記生体組織へ出力されたことが前記検出部によって検出された場合に、その後の刺激電流の発生動作を制止する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、故障を検出する機能が適正に動作するかどうかを検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】1つの実施形態における生体刺激装置の概略構成を示した図である。
図2】体内装置の概略構成を示した図である。
図3】患者への装着状態における体内装置を示した図である。
図4】体内装置の電気的な構成を示す回路図である。
図5図4を参照し、体内装置の動作を説明するための図である。
図6】体内装置の第1の動作を示すフローチャートである。
図7】体内装置の第2の動作を示すフローチャートである。
図8】体内装置の第3の動作を示すフローチャートである。
図9】体内装置の第4の動作を示すタイミングチャートである。
図10】体内装置の第5の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本開示の例示的な実施形態に係る生体刺激装置を説明する。
【0011】
実施形態に係る生体刺激装置は、生体内に埋植され、生体組織に対して電気刺激を与えるデバイスである。生体刺激装置は、患者において機能が失われた部位に対して刺激電流(電気刺激)を与える。これにより、失われた機能の再生、代替、リハビリテーション等を行うことができる。この種の装置としては、種々の装置(例えば、人工網膜、人工内耳、ペースメーカー等)が知られており、本開示の技術は、種々の装置に適宜適用され得る。
【0012】
以下では、生体刺激装置の説明を、視覚再生補助装置の実施形態に基づいて説明を行う。視覚再生補助装置は、患者の失われた視覚機能を再生又は代替する。より詳細には、体内外で撮像された外界像に基づいて、機能が失われた視覚神経系に対して電気刺激を行うことで、疑似光覚(フォスフェン)による像を、患者に視覚させる。視覚再生補助装置には、脳刺激型、神経刺激型、網膜刺激型、等の種類があるが、ここでは、網膜刺激型の装置を実施例として示す。但し、生体刺激装置は、網膜刺激型以外の装置においても、適用可能である。
【0013】
本実施形態における生体刺激装置は、外界像を得るための撮像部が体外に設けられた体外撮像型の装置である。このような生体刺激装置は、体外装置10(図1参照)と、体内装置20(図2,3参照)と、に大別される。図面に示す生体刺激装置は、脈絡膜上-経
網膜刺激型(STS:Suprachoroidal Transretinal Stimulation)に適合した装置である。この場合、眼球強膜に切り込みを入れて形成した切開創(フラップ)から電極41(電極ユニット40)が挿入され、電極41が脈絡膜に位置される。その結果、網膜に電極41を直接接触させずに電気刺激が可能となる。
【0014】
<体外装置>
図1に示すように、体外装置10は、眼鏡タイプのウェアラブルデバイスであり、本実施形態では顔に装着される。また、本実施形態の体外装置10は、カメラ12、処理装置13a、送信部15、を有する。
【0015】
カメラ12(主には、ビデオカメラ)は、患者の前方の外界像を取得するために利用される。例えば、CCDカメラ等が利用されてもよい。カメラ12は、例えば、患者の頭の向きに応じた外界像が撮影されるように、患者の頭部に取り付けられることが好ましい。
【0016】
処理装置13aは、演算処理・制御処理を行う、プロセッサを有する。処理装置13aは、カメラ12で取得される外界像(画像)を処理して、体内装置20に送信する制御信号を生成する。生成された制御信号は、送信部15へ出力される。前述したように、制御信号には、体内装置20の動作を制御するための制御情報が少なくとも含まれている。この制御情報は、本実施形態において体内装置20によって出力される刺激電流の制御に利用される。処理装置13aは、ケース13内に収容されている。
【0017】
送信部15は、処理装置13aで生成される信号を、体内装置20(より詳細には、刺激制御ユニット30:図2参照)に送信するために利用される。送信部15は、電磁波として、信号に含まれる情報を体内装置20に伝送する。例えば、波長、周期、振幅、位相などの少なくとも何れかが信号に応じて変調された電磁波が、体内装置20へ非接触(例えば、コイルリンク)で送信される。送信部15は、体内に埋植された受信部(本実施形態では、刺激制御ユニット30、図2図3参照)の位置付近に固定される。
【0018】
本実施例では、生体刺激装置の電源として、バッテリー13bが体外装置10に設けられている。各部への電力は、バッテリー13bから供給される。電力は、送信部15から体内装置20へ非接触で送信される。例えば、電力は、制御信号が重畳された状態で体内装置20へ送信される。また、制御信号とは別の電力信号として体内装置20へ非接触で送信されてもよい。
【0019】
<体内装置>
図2,3に示すように、体内装置20には、少なくとも、刺激制御ユニット30と、電極ユニット40と、を少なくとも有する。また、体内装置20は、帰還電極34を有する。
【0020】
前述の通り、体内装置20で消費される電力は、刺激制御ユニット30が体外装置10から受信する電力によって賄われる。刺激制御ユニット30から電極ユニット40への給電は、刺激制御ユニット30と、電極ユニット40との間に設けられたケーブル50を介して行われる。なお、ケーブル50は、刺激制御ユニット30と、電極ユニット40と、を接続する複数の配線を束ねたものである。
【0021】
ここで、図4を参照して、体内装置20における電気的な概略構成を示す。
【0022】
<刺激制御ユニット>
図4に示すように、刺激制御ユニット30は、少なくとも、刺激回路310と、検出部320と、を有する。本実施形態では、刺激回路310によって、刺激電流が発生される。より詳細には、双極性のパルス信号が、刺激電流として発生される。
【0023】
刺激回路310は、スイッチ群SW0~SW4と定電流源322とを含む。また、刺激回路310は、刺激電流経路510と接続される。刺激電流経路510は、刺激回路310によって発生される刺激電流が導かれる導線である。ここでは、刺激電流経路510は、ケーブル50の一部である。また、刺激回路310には、所定の電源電圧Vstimが印加される。
【0024】
更に、刺激回路310は、第2刺激電流経路520と接続される。第2刺激電流経路を介して、刺激回路310は帰還電極34と接続される。
【0025】
検出部320は、装置の動作状態を検出する。例えば、生体組織への刺激電流の出力状態が、刺激電流経路510を介して検出される。本実施例の検出部320では、刺激回路310の出力電圧によって出力状態が検出される。より詳細には、刺激電流経路510の負荷の状態変化を利用した検出が行われる。刺激電流経路510における負荷は、刺激電流経路510に接続される電極ユニット40内の回路の状態に応じて変化する。
【0026】
検出部320には、一例として、コンパレータ321を含む。定電流源322の出力端子電圧が、コンパレータ321に入力され、閾値と比較される。比較結果が、コンパレータ321から出力される。定電流源322の出力端子電圧は、上述の負荷に応じて変化する。これにより、結果として、刺激電流経路510における負荷の変化を、コンパレータ321からの出力信号に基づいて検出できる。
【0027】
刺激電流経路510における刺激回路310とデマルチプレクサ421との間、第2刺激電流経路における刺激回路310と帰還電極34との間、にそれぞれコンデンサC1,C2が配置される。コンデンサC1,C2によって、刺激電流経路510,第2刺激電流経路520を介して生体に直流が流れることが防止される。
【0028】
また、図4に示すように、刺激制御ユニット30は、交流電源330を有する。本実施例では、交流電源330からの交流に、デマルチプレクサ421制御信号が重畳される。このとき、交流周波数は1MHz程度以上であり、更には、輻射ノイズを低減するために、交流電圧の振幅を小さく抑えることが好ましい。
【0029】
<電極ユニット>
電極ユニット40は、図3に示すように、網膜E1(視覚神経系の一例)の近傍に設置(埋植)され、各々の電極41からの刺激電流によって、網膜E1へ電気刺激を与える。刺激電流は、電極41と帰還電極34との間で流れる。このため、刺激する部位(組織)を挟むようにして、電極ユニット40と帰還電極34とは設置される。
【0030】
図4に示すように、電極ユニット40は、複数の電極41と、デマルチプレクサ421と、電位調節回路422と、を有する。デマルチプレクサ421は、刺激電流経路510と、複数の電極41との接続状態を切換える電極切換スイッチSW11を有し、電極切換スイッチSW11によって、刺激電流経路510と複数の電極41との接続状態が切換えられる。デマルチプレクサ421の入力端子425は、刺激電流経路510と接続されている。
【0031】
また、電極ユニット40は、整流回路423(本実施例における電源回路)と、昇圧回路424と、を有する。整流回路423は、交流電源330からの交流電力を直流に変換する。昇圧回路424は、整流回路423からの直流電力に基づいて、所定の電源電圧Vhを発生させてデマルチプレクサ421に印加する。ここで、デマルチプレクサ421の電源電圧Vhは、刺激回路310の電源電圧Vstimに比べて大きい(つまり、Vh>Vstim)。
【0032】
電位調節回路422は、デマルチプレクサ421における寄生ダイオードの逆バイアスを維持するために、デマルチプレクサ421の電位を調節する。詳細には、入力端子425における電位を、電源電位Vhと基準電位(本実施例では、接地電位)との間に収められるようにする。電位調節回路422は、電源電圧Vh側と、基準電位側との間で、入力端子425の接続先を切換えるスイッチSW12を持つ。
【0033】
<制御部>
本実施形態において、制御部300は、刺激制御ユニット30内に設けられている。制御部300は、体内装置20の動作を制御する。例えば、制御部300は、体内装置20の各部に対して、体外装置10から受信した制御信号に基づく各種の動作を実行させる。また、制御部300は、検出部320での検出結果(より詳細には、コンパレータ321の出力)に基づいて体内装置20における動作状態を監視する。監視の結果、異常が検出された場合、制御部300は、刺激動作を制止する。この処理は、体外装置10からの制御信号に基づく動作よりも優先される。異常としては、断線や回路の故障等がありうる。
【0034】
<動作説明>
体内装置20では、断線等が生じていない場合、刺激回路310-コンデンサC1-刺激電流経路510-電極切換スイッチSW11-電極41-生体-帰還電極34-第2刺激電流経路520-コンデンサC2-刺激回路310の経路(便宜上、経路Pと称する)で、生体に刺激電流を出力する。
【0035】
本実施形態では、カソーディックファーストの双極性パルス信号が、刺激電流として出力される。カソーディックファーストの場合、ファースト(1st)パルスとして負極性の電流が電極41から出力され、セカンド(2nd)パルスとして正極性の電流が電極41から出力される。制御部300は、刺激回路310のスイッチSW0~SW4を適宜切換えることによって、刺激電流を発生させる。
【0036】
また、制御部300は、双極性パルス信号の出力に応じて電位調節回路422を制御して、デマルチプレクサ421における寄生ダイオードの逆バイアスを維持する。詳細には、1stパルスの出力時には、スイッチSW12を、接地電位の第1端子422aに接続させる。また、2ndパルスの出力時には、スイッチSW12を、第2端子422bに接続させる。その結果として、デマルチプレクサ421(および入力端子425)における電位変動を許容電圧範囲内に抑えることができる。
【0037】
以上のようにして生体組織に対して適正に刺激電流が出力される場合、経路Pに刺激電流が流れることによる電圧降下は、刺激回路310の電源電圧Vstimよりも十分小さく設計されるので、定電流源322の出力端子電圧は、コンパレータ321に設定された閾値よりも下がらず、コンパレータ321から信号は出力されない。
【0038】
ここで、経路P上において断線が生じた場合、電源電圧Vhが適正に確保されていれば、断線によってファーストパルスが流れなくなる。また、断線によって負荷インピーダンスが増大することで、経路Pの電圧降下も増大し、定電流源322の出力端子電圧が、コンパレータ321に設定された閾値よりも下がる。その結果として、刺激電流の発生動作にもかかわらず生体組織へ刺激電流が出力されない不正常な状態であることを、コンパレータ321から出力される信号に基づいて検出できる。この場合、制御部300は、刺激回路310による刺激電流の発生動作を制止する。
【0039】
しかしながら、電源投入直後等では、昇圧回路424によって所定の電源電圧Vhが確保されるまでに、一定の時間を要する。電極切換スイッチSW11から電極41までの経路上において断線が生じている場合、所定の電源電圧Vhが確保されるまでの間にファーストパルスの出力動作が行われると、経路Pでは電流が流れないものの、デマルチプレクサ421の寄生ダイオードによって生じる、不正な経路である経路Q(図5参照)で、電流が不正に流れてしまう場合があり得る。より詳細には、Vstim>Vh+VFならば、経路Qで生体へ刺激電流が流れてしまう。なお、VFは、寄生ダイオードによる順方向降下電圧である。このように、経路Qで電流が流れてしまうと、断線が生じていても、定電流源322の出力端子電圧が閾値よりも下がらない場合が想定される。この場合、検出部320からの出力は、断線が無く経路Pで刺激電流が出力される場合と同様になってしまう。つまり、検出部320が所期する機能を発揮できない期間が、電源投入直後等に生じ得る。故に、刺激動作の前には、十分な電源電圧が得られていることを確認する必要がある。
【0040】
<テスト動作>
そこで、本実施形態では、検出部320が所期する機能を発揮できない期間であるか否かが、以下のようなテスト動作に基づいて判別される。
【0041】
すなわち、制御部300は、刺激電流経路510が複数の電極41の何れとも非接続となる状態に、デマルチプレクサ421を設定する。つまり、電極切換スイッチSW11を、いずれの端子にも接続させない。この状態で、刺激電流の発生動作を実行させる(テスト動作)。
【0042】
刺激電流経路510が複数の電極41の何れとも非接続であるので、十分な電源電圧Vhが確保されていれば、テスト動作に基づいて経路Qでも電流は流れない。つまり、検出部320として大きな負荷インピーダンスが検出される。より詳細には、コンパレータ321からの信号が刺激電流の発生動作と同時に出力される。これによって、検出部320が有効に機能する期間であると制御部300において判別できる。一方、電源電圧Vhが不十分であれば、不正な経路Qで電流が流れる。結果、コンパレータ321からの信号はテスト出力に基づいて出力されない。つまり、結果、制御部300は、検出部320が所期する機能を発揮できない期間であると、判別できる。この場合、制御部は、刺激電流の発生動作を制止する。その結果、断線等を抱えた不正常な状態において、不正な経路Qで刺激電流が生体組織へ出力され続けてしまうことを回避できる。
【0043】
ここで、テスト動作で発生させる刺激電流は、不正な経路Qが有効か否かを確認できる程度の電流値であればよく、生体組織へ電気刺激を与えるための動作(刺激動作)において発生される刺激電流に対して、より小さな電流値であってもよい。
【0044】
上記の手法の他に、十分な電源電圧が得られていることを確認する方法としては、例えば、デマルチプレクサに電圧検出機能を持たせると共に、交流電源の受電回路に負荷変調機能を持たせ、負荷変調の有無で検出結果を通知することが考えられる。しかし、ケーブル50の配線間あるいは芯線と生体間に不安定な寄生容量を持つフレキシブル・ケーブルを介して出力される、1MHz程度以上の交流給電波形を正確に検出することは容易では無い。また、電極ユニット40と刺激制御ユニット30の双方において、回路構成が複雑化してしまう。
【0045】
これに対し、本実施形態は、比較的簡単な回路構成で、デマルチプレクサ421へ十分な電源電圧が供給されていることを検出できる。
【0046】
<電源投入直後のテスト動作>
本実施形態において、制御部300は、上記のテスト動作を、電源投入後の最初の刺激動作(より詳しくは、外界像に基づく電気刺激)に先んじて実行してもよい。その結果、十分な電源電圧Vhが昇圧回路424によって確保されていない状態で、外界像に基づく電気刺激が実行されることを、抑制できる。また、体内装置20の電源投入後、デマルチプレクサ421の駆動(電源供給)が開始されてから所定時間が経過したタイミングで実行してもよい(図6図8参照)。
【0047】
<エラー報知>
本実施形態において、制御部300は、テスト動作に基づいて刺激電流の発生動作を制止させた後、エラー報知を実行してもよい(図6参照)。例えば、制御部300は、体外装置10側へ、エラー信号を出力してもよい。体外装置は、エラー信号に基づいて音声等で、患者に、装置の状態が不安定である旨を報知してもよい。視覚障碍者にとって、刺激動作が停止していることと、外界像が暗闇であることの区別はつかないので、エラー報知が生じた場合は、装置の使用をやめることができる。
【0048】
<再テスト>
また、制御部300は、テスト動作に基づいて刺激電流の発生動作を制止させた後、デマルチプレクサの駆動動作を再度実施してから、テスト動作を実行してもよい(図7参照)。制止からテスト動作が再度行われるまでの時間は、例えば、常に一定であってもよいし、装置が所定の条件を満たすまでの時間であってもよい。
【0049】
再度のテスト動作の結果として、経路Qで電流が流れないことが確認できた場合には(換言すると、テスト動作に基づく刺激電流が生体組織へ出力されなくなった場合には)、制御部300は、刺激電流の発生動作を開始させる。
<ショーティング動作>
また、制御部300は、上記の電源投入直後に行われるテスト動作において、以下のショーティング動作を実行してもよい(図8参照)。ショーティング動作において、制御部300は、刺激回路310を制御して、第1および第2刺激電流経路510,520を含む刺激経路における容量成分を放電する。容量成分には、コンデンサC1,C2の容量の他、配線間、又は、配線―生体間等の寄生容量(例えば、電極41と体液との間の電気二重層容量)等が存在する。換言すれば、第1刺激電流経路510-電極41-生体-帰還電極32-第2の刺激電流経路520による経路に存在する容量成分における容量成分が、ショーティング動作において放電される。
【0050】
ここでは、刺激経路における容量成分を、直列容量成分Cstimとして表す。直列容量成分Cstimは、コンデンサC1,C2および寄生コンデンサからなり、刺激電流の充放電のアンバランスによって蓄積される電荷によって、電圧が充電される。
【0051】
本実施形態では、2つのコンデンサC1,C2の刺激回路310側端子における電位が等しくなるように、刺激回路310内のスイッチを切換えることで、容量成分に蓄積された電荷を放電させる。放電は、デマルチプレクサ421の電極切換スイッチSW11をいずれかの端子と予め接続させた状態で行われる。各々の端子に接続を切換えつつ、放電を行ってもよい。全ての端子を接続させた状態で放電を行ってもよい。
【0052】
ところで、刺激経路における容量成分に電荷が蓄積されると、Vstim<Vh+VFの範囲であっても、検出部320がデマルチプレクサの動作状態を適正に検出できなくなってしまう場合が考えられる。直列容量成分における電位差VcstimがVhと逆極性であると、等価的にVhを下げる方向となり、Vstim>Vh+VF-Vcstimとなって、寄生ダイオードが順バイアスされてしまう。その結果、不正な経路Q(図5参照)が有効となってしまう。
【0053】
これに対し、本実施形態では、上記のショーティング動作によって刺激経路における容量成分が放電されるので、刺激経路における容量成分への電荷の蓄積によって不正な経路Qが有効になることを抑制できる。
【0054】
<刺激動作開始後におけるテスト動作>
制御部300は、上記のテスト動作を、外界像に基づく刺激動作の開始後に実行してもよい(図10参照)。例えば、所定フレーム分の刺激動作毎に、上記のテスト動作が実行されてもよい。ここでいう、1フレーム分の刺激動作には、少なくとも、1枚の外界像に対応する電気刺激出力が含まれる。テスト動作は、1フレーム毎に実行されてもよいし、複数フレーム毎に実行されてもよい。外界像に基づく刺激動作の開始後にテスト動作が実行されることにより、刺激経路における容量成分に電荷が蓄積した影響で不正な経路Qが有効か否かを、制御部300は検出できる。また、刺激動作中に断線等が生じた場合に、その断線によって不正な経路Qが有効か否かを、制御部300は検出できる。また、1stパルス、2ndパルスにおける極性(出力電流極性)に応じて、スイッチSW12が接続を第1端子422aと第2端子422bとの間で切換えられるので、デマルチプレクサ421(および入力端子425)の電位を許容電圧範囲内に抑えることができ(つまり、寄生ダイオードの逆バイアス状態を保持でき)、その結果として、不正な経路Q(図5参照)で電流が流れることを抑制できる。
【0055】
この場合、図10に示すように、ショーティング動作と組み合わせて、テスト動作が実行されてもよい。ショーティング動作は、テスト動作の直前であることが望ましい。これは、図9のようにテスト動作がショーティング動作の前では、刺激経路における容量成分に蓄積された電荷によって、適正なテスト結果が得られない可能性があるからである。
【0056】
以上、実施形態に基づいて説明を行ったが、本開示は、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
生体刺激装置 1
刺激制御ユニット 30
電極ユニット 40
電極 41
制御部 300
刺激回路 310
検出部 320
デマルチプレクサ 421
第1刺激電流経路 510
第2刺激電流経路 520
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10