(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】燃料電池システム及び燃料電池の運転方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04858 20160101AFI20230117BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20230117BHJP
H01M 8/04828 20160101ALI20230117BHJP
H01M 8/04791 20160101ALI20230117BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20230117BHJP
H01M 8/043 20160101ALI20230117BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20230117BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M8/04 Z
H01M8/04828
H01M8/04791
H01M8/04746
H01M8/043
H01M8/04537
H01M4/86 B
(21)【出願番号】P 2019019512
(22)【出願日】2019-02-06
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】竹井 力
(72)【発明者】
【氏名】水下 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】平光 雄介
【審査官】笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-117599(JP,A)
【文献】国際公開第2011/036765(WO,A1)
【文献】特開2009-016155(JP,A)
【文献】特開2016-027534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04858
H01M 8/04
H01M 8/04828
H01M 8/04791
H01M 8/04746
H01M 8/043
H01M 8/04537
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードとカソードのうち、少なくともカソードにセラミックスの粒子担体に触媒粒子を担持した電極を用いる燃料電池と、
前記アノードに水素の供給が可能な水素供給源と、
前記カソードに空気の供給が可能であって、前記カソードに供給する空気の流量及び空気の圧力の調整が可能な空気供給手段と、
前記燃料電池に接続される負荷の大きさを調整可能な負荷調整手段と、
前記燃料電池の内部を加湿した状態で水素と空気を供給するように、前記水素供給源と前記空気供給手段を制御する通常運転制御手段と、
前記燃料電池の内部の湿度が前記通常運転制御手段が制御する状態よりも低下し、前記カソードに供給される空気の酸素分圧が前記通常運転制御手段が制御する状態よりも高くなるように、前記空気供給手段を制御する劣化抑制運転制御手段と、
前記燃料電池に微小負荷を与え、その後、前記燃料電池の電池電圧が一定となるように、前記負荷調整手段を制御するとともに、前記カソードに供給される空気が前記通常運転制御手段が制御する状態と同等の圧力となるように、前記空気供給手段を制御する出力性能回復運転制御手段と
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記出力性能回復運転制御手段は、前記燃料電池の電池抵抗の値が所定の範囲内に収束した時に制御を終了することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記劣化抑制運転制御手段は、前記負荷が前記通常運転制御手段が制御する状態よりも小さくなるように、前記負荷調整手段を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
アノードとカソードのうち、少なくともカソードにセラミックスの粒子担体に触媒粒子を担持した電極を用いる燃料電池の運転方法であって、
前記燃料電池の内部を加湿した状態で空気と水素を供給する通常運転工程と、
前記燃料電池の内部の湿度を前記通常運転工程よりも低下させるとともに、前記燃料電池に供給する空気の酸素分圧を前記通常運転工程よりも増加させ、前記セラミックスの粒子担体の表面に電子空乏層を形成させる劣化抑制運転工程と、
前記燃料電池に微小負荷を与えるとともに、前記燃料電池の電池電圧が一定となるように、負荷を増大させ、前記電子空乏層を消失させる出力性能回復運転工程と、
を有することを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項5】
前記出力性能回復運転工程は、前記燃料電池の電池抵抗の値が所定の範囲内に収束した時に終了することを特徴とする請求項4に記載の燃料電池の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システム及び燃料電池の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、カーボン粒子担体に白金などの触媒粒子を担持した電極触媒からなる電極触媒層を備えた燃料電池システムが開示されている。かかる電極触媒では、負荷変動によって白金粒子が溶出又は粗大化する劣化現象が促進され、高加湿下では、負荷変動による白金粒子の溶出または粗大化が更に促進される。一方、低加湿下では、発電特性が低減するが、負荷変動による白金粒子の溶出又は粗大化が抑制される。よって、一時的に高電圧となる起動停止時や燃料電池のアイドリング直後の負荷変動時のみ低加湿状態とし、高電圧、負荷変動による白金粒子の溶出又は粗大化を抑制し、高電圧、負荷変動が安定した後は高加湿状態として発電特性の向上を図り、電極の劣化の抑制と発電特性の向上の両立を図るようにしている。
【0003】
また、特許文献1には、カソードを、カーボン粒子担体上に白金などの触媒粒子を担持したものから、酸化スズ系セラミックス粒子担体上に白金などの触媒粒子を担持したものに変更した燃料電池システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、セラミックスの粒子担体に触媒粒子を担持したカソードでは、触媒粒子の劣化抑制に伴い燃料電池の内部を低加湿にすると、電池抵抗が増加されるので燃料電池の出力性能が抑制され、燃料電池の内部を高加湿にするだけでは、燃料電池の出力性能を速やかに回復することができない。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、触媒粒子の劣化抑制に伴い出力性能が抑制された燃料電池の出力性能を速やかに回復できる、燃料電池システム及び燃料電池の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る燃料電池システムは、アノードとカソードのうち、少なくともカソードにセラミックスの粒子担体に触媒粒子を担持した電極を用いる燃料電池と、前記アノードに水素の供給が可能な水素供給源と、前記カソードに空気の供給が可能であって、前記カソードに供給する空気の流量及び空気の圧力の調整が可能な空気供給手段と、前記燃料電池に接続される負荷の大きさを調整可能な負荷調整手段と、前記燃料電池の内部を加湿した状態で水素と空気を供給するように、前記水素供給源と前記空気供給手段を制御する通常運転制御手段と、前記燃料電池の内部の湿度が前記通常運転制御手段が制御する状態よりも低下し、前記カソードに供給される空気の酸素分圧が前記通常運転制御手段が制御する状態よりも高くなるように、前記空気供給手段を制御する劣化抑制運転制御手段と、前記燃料電池に微小負荷を与え、その後、前記燃料電池の電池電圧が一定となるように、前記負荷調整手段を制御するとともに、前記カソードに供給される空気が前記通常運転制御手段が制御する状態と同等の圧力となるように、前記空気供給手段を制御する出力性能回復運転制御手段とを備える。
【0008】
上記(1)の構成によれば、劣化抑制運転制御手段は、燃料電池の内部の湿度が通常運転制御手段が制御する状態よりも低下し、カソードに供給される空気の酸素分圧が通常運転制御手段が制御する状態よりも高くなるように、空気供給手段を制御する。これにより、セラミックスの粒子担体の表面に電子空乏層が形成されるので、燃料電池の出力性能が抑制され、セラミックスの粒子担体に担持された触媒粒子の劣化が抑制される。また、出力性能回復運転制御手段は、燃料電池に微小負荷を与え、その後、燃料電池の電池電圧が一定となるように、負荷調整手段を制御するとともに、カソードに供給される空気が通常運転制御手段が制御する状態と同等の圧力となるように、空気供給手段を制御する。これにより、セラミックスの粒子担体の表面に形成された電子空乏層の消失を加速することができるので、触媒粒子の劣化抑制に伴い出力性能が抑制された燃料電池の出力性能を速やかに回復できる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、前記出力性能回復運転制御手段は、前記燃料電池の電池抵抗の値が所定の範囲内に収束した時に制御を終了する。
【0010】
上記(2)の構成によれば、出力性能回復運転制御手段は、燃料電池の電池抵抗の値が所定の範囲内に収束した時に制御を終了するので、燃料電池システムは、通常運転を開始できる。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、前記劣化抑制運転制御手段は、前記負荷が前記通常運転制御手段が制御する状態よりも小さくなるように、前記負荷調整手段を制御する。
【0012】
上記(3)の構成によれば、劣化抑制運転制御手段は、内部は低加湿且つ電子空乏層を形成した状態で負荷が通常運転制御手段が制御する状態よりも小さくなるように、負荷調整手段を制御するので、酸化された白金粒子の溶出劣化加速反応を抑制することができる。
【0013】
(4)本発明の一実施形態に係る燃料電池の運転方法は、アノードとカソードのうち、少なくともカソードにセラミックスの粒子担体に触媒粒子を担持した電極を用いる燃料電池の運転方法であって、前記燃料電池の内部を加湿した状態で空気と水素を供給する通常運転工程と、前記燃料電池の内部の湿度を前記通常運転工程よりも低下させるとともに、前記燃料電池に供給する空気の酸素分圧を前記通常運転工程よりも増加させ、前記セラミックスの粒子担体の表面に電子空乏層を形成させる劣化抑制運転工程と、前記燃料電池に微小負荷を与えるとともに、前記燃料電池の電池電圧が一定となるように、負荷を増大させ、前記電子空乏層を消失させる出力性能回復運転工程とを有する。
【0014】
上記(4)の方法によれば、出力性能回復運転工程は、燃料電池に微小負荷を与えるとともに、燃料電池の電池電圧が一定となるように、負荷を増大させ、電子空乏層を消失させるので、触媒粒子の劣化抑制に伴い出力性能が抑制された燃料電池の出力性能を速やかに回復できる。
【0015】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の方法において、前記出力性能回復運転工程は、前記燃料電池の電池抵抗の値が所定の範囲内に収束した時に終了する。
【0016】
上記(5)の方法によれば、出力性能回復運転制御工程は、燃料電池の電池抵抗の値が所定の範囲内に収束した時に終了するので、燃料電池は、通常運転を開始できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、触媒粒子の劣化抑制に伴い出力性能が抑制された燃料電池の出力性能を速やかに回復できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムが搭載される燃料電池自動車の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】
図1に示した燃料電池の構成を概略的に示す図である。
【
図3】
図1に示した制御装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図4】セラミックスの粒子担体に触媒粒子を担持させた電極の劣化メカニズムを説明するための図である。
【
図5】
図1に示した燃料電池システムの作動タイミングを示すタイミングチャートである。
【
図6】セラミックスの粒子担体に触媒粒子を担持させた電極の構成を概略的に示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る燃料電池の運転方法を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池システム1が搭載される燃料電池自動車100の構成を概略的に示すブロック図である。
図2は、
図1に示した燃料電池2の構成を概略的に示す図である。
図3は、
図1に示した制御装置10の構成を概略的に示すブロック図である。
【0021】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る燃料電池システム1が搭載される燃料電池自動車(FCV(Fuel Cell Vehicle))100は、レンジエクステンダ型の電動車両であって、駆動用バッテリ(二次電池)6からモータ7に電力が供給され、駆動用バッテリ6を充電する場合や駆動用バッテリ6からモータ7に供給する電力が不足する場合(モータ7の出力が不足する場合)に燃料電池システム1が運転される。
【0022】
本発明の一実施形態に係る燃料電池システム1が搭載される燃料電池自動車100は、燃料電池システム1、DC/DCコンバータ8、駆動用バッテリ6、インバータ9、モータ7及び制御装置(FCV-ECU)10を備える。
【0023】
燃料電池システム1は、燃料電池(FC(Fuel Cell))2、水素供給源3及び空気供給手段4を含み、DC/DCコンバータ8、駆動用バッテリ6、インバータ9及びモータ7とともに制御装置10によって制御される。この意味において、制御装置10は、燃料電池システム1の一部を構成する。
【0024】
燃料電池2は、燃料ガス(水素)と酸化ガス(酸素)の電気化学反応によって発電可能である。燃料電池2は、セル(single cell)(図示せず)が複数積層されることによって構成される。
【0025】
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る燃料電池2は、アノード(負極)21とカソード(正極)22のうち、少なくともカソード22にセラミックスの粒子担体221に触媒粒子222を担持した電極を用いる。セラミックスは、例えば、酸化スズのセラミックスである。触媒粒子222は、例えば、貴金属の触媒粒子222であり、例えば、白金のナノ粒子である。
【0026】
アノード21には、燃料ガス(水素ガス)が供給可能であり、カソード22には、酸化ガス(空気)が供給可能である。これにより、アノード21では、燃料ガスがH2→2H++2e-の反応によって、プロトン(水素イオンH+)と電子に分解され、プロトンは電解質膜23を通りカソード22へ移動し、電子は導線内を通ってカソード22へ移動する。一方、カソード22では、プロトンと電子とが酸化ガスに含まれる酸素と反応し、4H++O2+4e-→2H2Oの反応によって、水(以下「反応水」という)が生成される。これにより、燃料電池2の内部は加湿される。
【0027】
図1に示すように、燃料電池2には、温度計(温度センサ)24が設けられている。温度センサ24は、制御装置10に接続され、燃料電池2の作動温度は制御装置10で管理される。
【0028】
また、燃料電池2には、燃料電池抵抗計25が設けられている。燃料電池抵抗計25は、制御装置10に接続され、燃料電池2の電池抵抗は制御装置10で管理される。
【0029】
水素供給源3は、アノード21に水素(燃料ガス)の供給が可能な供給源であり、例えば、水素タンク(H2タンク)31、元弁32及び減圧弁33を含んでいる。したがって、水素供給源3は、アノード21に供給する水素の供給/停止を任意に選択可能であり、アノード21に供給する水素の圧力を任意に調整可能である。
【0030】
空気供給手段4は、カソード22に空気(酸化ガス)の供給が可能な供給手段である。空気供給手段4がカソード22に供給する空気は、例えば、大気から導入される無加湿の空気である。これにより、燃料電池2の発電開始直後は燃料電池2の内部を低加湿に保つことができ、燃料電池2の発電開始直後は燃料電池2の電池電圧が高電圧になり難く、カソード22のセラミックスの粒子担体221に担持された触媒粒子222の劣化を抑制できる。
【0031】
空気供給手段4は、例えば、燃料電池自動車100の走行による自然吸気と空気圧縮機41とで構成される。したがって、燃料電池自動車100の走行によってカソード22に空気の供給が可能であり、空気圧縮機41の稼働によってもカソード22に空気の供給が可能である。
【0032】
空気供給手段4は、カソード22に供給する空気の流量の調整が可能である。カソード22に供給する空気の流量は、例えば、燃料電池自動車100の走行速度によって調整可能である。また、カソード22に供給する空気の流量は、例えば、空気圧縮機41の稼働によっても調整可能である。
【0033】
空気供給手段4には、流量計(流量センサ)42が設けられている。流量センサ42は、制御装置10に接続され、カソード22に供給される空気の流量は制御装置10で管理可能である。
【0034】
本発明の一実施形態に係る燃料電池システム1は、更に、水素再循環手段5を含む。水素再循環手段5は、燃料電池2から排出された水素をアノード21に再循環させる手段であり、例えば、水素再循環ポンプ51を含んでいる。
【0035】
図4は、セラミックスの担体221に触媒222を担持した電極の劣化抑制メカニズムを説明するための図である。ここでは、セラミックスの担体に白金(Pt)を担持した電極の劣化抑制メカニズムを例に説明する。
【0036】
Ptの電気化学的酸化反応(Pt→Pt
2++2e
-)は、電子の移動を伴う反応である。セラミックスの担体221(例えば、酸化スズ)の場合、セラミックスの担体221に酸素を吸着することで担体表面の電子を奪う。これにより、
図4(a)に示すように、セラミックスの担体221(SnO
2)の表面の電子濃度が低下し、セラミックスの担体221の表面に電子が移動しにくい電子空乏層223が形成される(これにより、電子空乏層223を劣化抑制層と称することができる)。この電子空乏層223がPt劣化加速反応の電子の移動をしにくくするため、Ptの劣化が抑制される。これにより、燃料電池2の出力は抑制される。
【0037】
したがって、燃料電池2の出力を回復するには、セラミックスの担体221(SnO2)の表面に形成された電子空乏層223を消失させる必要がある。セラミックスの担体221(SnO2)の表面に形成された電子空乏層223が消失すると、電子の移動が容易になり、燃料電池2の出力が回復する。
【0038】
本発明の一実施形態に係る燃料電池システム1では、通常運転、劣化抑制運転、出力性能回復運転の順に実行することにより、燃料電池2の劣化を抑制するとともに、燃料電池2の高出力運転を可能にする。
【0039】
本発明の一実施形態に係る燃料電池システム1は、上述した通常運転、劣化抑制運転及び出力性能回復運転を可能にするために、更に、負荷調整手段11、通常運転制御手段12、劣化抑制運転制御手段13及び出力性能回復運転制御手段14を備える。
【0040】
負荷調整手段11は、燃料電池2に接続される負荷の大きさを調整可能である。負荷は、例えば、DC/DCコンバータ8、インバータ9、駆動用バッテリ6又はモータ7であり、負荷調整手段11は、これらの負荷の大きさを任意に調整可能である。負荷調整手段11は、例えば、DC/DCコンバータ8、インバータ9及びモータ7を制御する制御装置10に設けられる(
図3参照)。
【0041】
通常運転制御手段12は、燃料電池2の内部を加湿した状態で水素と空気を供給するように、水素供給源3と空気供給手段4を制御する。これにより、燃料電池2の内部が加湿された状態で水素と空気が供給される(通常運転)。通常運転では、
図6(a)に示すように、触媒222からセラミックスの担体221に電子が流れ、燃料電池2の高出力運転を可能にする。
【0042】
通常運転制御手段12は、例えば、水素供給源3(元弁32,減圧弁33)及び空気供給手段4(空気圧縮機41)を制御する制御装置10に設けられる(
図3参照)。
【0043】
劣化抑制運転制御手段13は、燃料電池2の内部の湿度が通常運転制御手段12が制御する状態よりも低下し、カソード22に供給される空気の酸素分圧が通常運転制御手段12が制御する状態よりも高くなるように、空気供給手段4を制御する。これにより、
図5に示すように、燃料電池2の内部の湿度(空気極22の加湿度)が低下し、カソード22に供給される空気の酸素分圧が高くなる(劣化抑制運転)。劣化抑制運転では、カソード22に供給される空気の酸素分圧が高くなるので、セラミックスの担体221(SnO
2)の表面の電子濃度が低下し、
図6(b)に示すように、セラミックスの担体221の表面に電子空乏層223が形成される。これにより、触媒222からセラミックスの担体221に電子が流れ難くなり、燃料電池2の劣化抑制を可能にする。尚、酸素分圧を高めるには、空気圧縮機41を運転してもよいし、燃料電池2の空気排気口を塞いでもよい(デッドエンド方式)。
【0044】
劣化抑制運転制御手段13は、例えば、空気供給手段4(空気圧縮機41)を制御する制御装置10に設けられる(
図3参照)。
【0045】
また、劣化抑制運転制御手段13は、内部は低加湿且つ電子空乏層を形成した状態で燃料電池2の負荷が通常運転制御手段12が制御する状態よりも小さくなるように、負荷調整手段11を制御する(例えば、無負荷になるように制御する)。これにより、燃料電池2が無負荷になり、酸化された触媒粒子222(例えば、白金粒子)の溶出劣化加速反応を抑制できる。
【0046】
出力性能回復運転制御手段14は、燃料電池2に微小負荷を与え、その後、燃料電池2の電池電圧が一定となるように、負荷調整手段11を制御するとともに、カソード22に供給される空気が通常運転制御手段12が制御する状態と同等の圧力となるように、空気供給手段4を制御する。これにより、
図5に示すように、燃料電池2に微小負荷が与えられると、燃料電池2の電池電圧が一旦下がる。そして、燃料電池2の電池電圧が一定となるように負荷調整手段11を制御すると、燃料電池2に接続された負荷が漸次大きくなるように調整され、燃料電池2の内部の湿度(空気極22の加湿度)が漸次高くなる。また、カソード22に供給される空気が通常運転制御手段12が制御する状態と同等の圧力なる(出力性能回復運転)。
【0047】
出力性能回復運転では、燃料電池2の電池電圧が一旦下がり、燃料電池2に接続された負荷が漸次大きくなるので、
図6(c)に示すように、電子空乏層223の厚みが漸次薄くなり、やがて、電子空乏層223が消失する。
【0048】
また、出力性能回復運転制御手段14は、燃料電池2の電池抵抗の値が所定の範囲内に収束した時に制御を終了する。所定の範囲内は、例えば、XΩ~YΩであり、一定と認められる範囲に収束した場合に制御を終了する。これにより、燃料電池システム1は、通常運転を開始(再開)できる(
図6(d)参照)。
【0049】
上述した本発明の一実施形態に係る燃料電池システム1によれば、劣化抑制運転制御手段13は、燃料電池2の内部の湿度が通常運転制御手段12が制御する状態よりも低下し、カソード22に供給される空気の酸素分圧が通常運転制御手段12が制御する状態よりも高くなるように、空気供給手段4を制御する。これにより、セラミックスの粒子担体221の表面に電子空乏層223が形成されるので、燃料電池2の出力性能が抑制され、酸化された触媒粒子222(白金粒子)の溶出劣化加速反応を抑制することができる。また、出力性能回復運転制御手段14は、燃料電池2に微小負荷を与え、その後、燃料電池2の電池電圧が一定となるように、負荷調整手段11を制御するとともに、カソード22に供給される空気が通常運転制御手段12が制御する状態と同等の圧力となるように、空気供給手段4を制御する。これにより、セラミックスの粒子担体221の表面に形成された電子空乏層223の消失を加速することができるので、触媒粒子222の劣化抑制に伴い出力性能が抑制された燃料電池2の出力性能を速やかに回復できる。
【0050】
図7は、本発明の一実施形態に係る燃料電池2の運転方法を概略的に示すフローチャートである。
【0051】
本発明の一実施形態に係る燃料電池2の運転方法は、アノード21とカソード22のうち、少なくともカソード22にセラミックスの粒子担体221に触媒粒子222を担持した電極を用いる燃料電池2の運転方法である。
【0052】
本実施形態に係る燃料電池の運転方法は、通常運転工程(ステップS1)、劣化抑制運転工程(ステップS3)及び出力性能回復運転工程(ステップS5)を有する。
【0053】
通常運転工程(ステップS1)は、燃料電池2の内部を加湿した状態で空気と水素を供給する工程である。通常運転工程が終了すると(ステップS2:Yes)、劣化抑制運転工程(ステップS3)に移行する。
【0054】
劣化抑制運転工程(ステップS3)は、燃料電池2の内部の湿度を通常運転工程(ステップS1)よりも低下させるとともに、燃料電池2に供給する空気の酸素分圧を通常運転工程(ステップS1)よりも増加させ、セラミックスの粒子担体221の表面に電子空乏層223を形成させる工程である。劣化抑制運転工程が終了すると(ステップS4:Yes)、出力性能回復運転工程(ステップS5)に移行する。
【0055】
出力性能回復運転工程(ステップS5)は、燃料電池2に微小負荷を与え、その後、燃料電池2の電池電圧が一定となるように、負荷を増大させ、電子空乏層223を消失させる工程である。
【0056】
また、出力性能回復工程(ステップS5)は、燃料電池2の電池抵抗の値が所定の範囲内に収束した時に終了する(ステップS6:Yes)。所定の範囲内は、例えば、XΩ~YΩであり、一定と認められる範囲に収束した場合に終了する。これにより、燃料電池は、通常運転工程(ステップS1)を再開できる。
【0057】
上述した本発明の一実施形態に係る燃料電池2の運転方法によれば、出力性能回復運転工程(ステップS3)は、燃料電池2に微小負荷を与えるとともに、燃料電池2の電池電圧が一定となるように、負荷を増大させ、電子空乏層223の消失を加速させることができるので、触媒粒子の劣化抑制に伴い出力性能が抑制された燃料電池の出力性能を速やかに回復できる。
【0058】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0059】
1 燃料電池システム
2 燃料電池
21 アノード
22 カソード(空気極)
221 粒子担体(担体)
222 触媒粒子(触媒)
223 電子空乏層
23 電解質膜
24 温度計(温度センサ)
25 燃料電池抵抗計
3 水素供給源
31 水素タンク
32 元弁
33 減圧弁
4 空気供給手段
41 空気圧縮機
42 流量計(流量センサ)
5 水素再循環手段
51 水素再循環ポンプ
6 駆動用バッテリ
7 モータ
8 DC/DCコンバータ
9 インバータ
10 制御装置(FCV,ECU)
11 負荷調整手段
12 通常運転制御手段
13 劣化抑制運転制御手段
14 出力性能回復運転制御手段
100 燃料電池自動車