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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】錠剤、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20230117BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230117BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20230117BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
A61K31/496
A61K47/12
A61K9/20
A61P25/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019024334
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020132535
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 裕介
(72)【発明者】
【氏名】古川 宗樹
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-212852(JP,A)
【文献】特表2007-503460(JP,A)
【文献】特開2004-217650(JP,A)
【文献】特開2015-091769(JP,A)
【文献】特開2014-114243(JP,A)
【文献】特開2014-129343(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104622824(CN,A)
【文献】特開2017-105806(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106667952(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウムを含む錠剤であって、
前記錠剤中のアリピプラゾールの含有量が3mg未満であり、
前記錠剤中のステアリン酸マグネシウムの含有量がアリピプラゾール100質量部に対して90質量部以下であり、
前記ステアリン酸マグネシウムの平均粒径が10~50μmである、錠剤。
【請求項2】
アリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウムを含む錠剤であって、
前記錠剤中のステアリン酸マグネシウムの含有量がアリピプラゾール100質量部に対して34質量部以上90質量部以下であり、
前記ステアリン酸マグネシウムの平均粒径が10~50μmであり、
日本薬局方一般試験法の溶出試験法のパドル法による溶出試験において、900mLの水中で、パドル回転数50rpmの場合に、180分後のアリピプラゾールの溶出率が20%以上である、錠剤。
【請求項3】
一錠中の前記アリピプラゾールの含有量が3mg未満である、請求項2記載の錠剤。
【請求項4】
アリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウムを含む錠剤の製造方法であって、
前記錠剤中のステアリン酸マグネシウムの含有量がアリピプラゾール100質量部に対して34質量部以上、90質量部以下であり、
アリピプラゾールを含有する粉末と、平均粒径が10~50μmであるステアリン酸マグネシウムの粉末と、を含む原料粉末を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られる混合物を打錠する打錠工程と、を含む、錠剤の製造方法。
【請求項5】
一錠中の前記アリピプラゾールの含有量が3mg未満である、請求項に記載の錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリピプラゾールを含有する錠剤、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
統合失調症等の治療薬であるアリピプラゾールを含有する錠剤が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
該錠剤には、アリピプラゾールの含有量が異なる複数種類の製剤があり、一錠中アリピプラゾールを3mg、6mg、12mgおよび24mg含む錠剤(3mg錠、6mg錠、12mg錠および24mg錠)に加えて、小児への適用などのために一錠中のアリピプラゾールの含有量が1mgである錠剤(1mg錠)も販売されている。
【0004】
なお、アリピプラゾールの3mg錠、6mg錠、12mg錠および24mg錠については、出願人を含む数社からジェネリック医薬品が既に販売されているが、1mg錠については、ジェネリック医薬品は販売されていない。
【0005】
なお、出願人は6mg錠のジェネリック医薬品については、その製造販売の承認を得るために、既に臨床試験による生物学的同等性試験の結果を取得している。そして、3mg錠と12mg錠のジェネリック医薬品については、3mg錠および12mg錠におけるアリピプラゾールの溶出性が、所定の基準により6mg錠(標準製剤)と同等と判断される溶出性を有することを示すデータを提出することで、臨床試験を要さずに、承認を得ている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「エビリファイ(登録商標)錠」の医療用医薬品添付文書、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構、2018年3月改訂(第19版)
【文献】「アリピプラゾール錠「ニプロ」」の医療用医薬品添付文書、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構、2018年4月改訂(第4版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、アリピプラゾールの1mg錠のジェネリック医薬品を開発するにあたり、3mg錠および12mg錠と同様に、6mg錠と同等の溶出性を有することを示して臨床試験を要さずに承認を得ることを目指し、1mg錠の設計を試みた。
【0008】
本発明者らは、まず既に承認を得たアリピプラゾール錠のうち最も薬剤含有量が少ない3mg錠に準じ、3mg錠と同じ大きさであって、3mg錠のアリピプラゾールの含有量のみを1mgに減らし、アリピプラゾールの減少分の2mgを賦形剤(乳糖水和物)で補った1mg錠について検討した。その結果、このような1mg錠では、アリピプラゾールの溶出性(所定時間経過後の溶出率)が大幅に低下してしまい、6mg錠と同等の溶出性を有するとは言えないことが分かった。この結果に基づき、本発明者らは更に検討したところ、上記1mg錠において、滑沢剤として錠剤中に含有するステアリン酸マグネシウムの含有量を減らせば、アリピプラゾールの溶出性が高まることを見出した。
【0009】
すなわち、3mg錠におけるステアリン酸マグネシウムの量は、当該3mg錠の大きさの錠剤において滑沢剤としての機能を果たす上で必要な量であるところ、錠剤の大きさとステアリン酸マグネシウムの量を3mg錠と同じに保持したまま、有効成分(アリピプラゾール)の量を1mgに減らすと、有効成分に対するステアリン酸マグネシウムの比率は3倍になる。このように、アリピプラゾール含有錠剤において、アリピプラゾール量に対するステアリン酸マグネシウム量の比率が高くなると、アリピプラゾールの溶出速度が低下することを本発明者らは見出した。なお、その理由は明らかではないが、例えば、アリピプラゾールとステアリン酸マグネシウム(マグネシウムイオン)との間でキレート形成等の何らかの反応が生じることにより、溶出性を低下させることが原因であると推測される。
【0010】
このため、錠剤中のステアリン酸マグネシウムの含有率(錠剤の総量に対するステアリン酸マグネシウム量の比率)を低減すれば、アリピプラゾール量に対するステアリン酸マグネシウムの比率が低下し、アリピプラゾールの溶出性の低下を抑制できると考えられる。
【0011】
しかし、滑沢剤であるステアリン酸マグネシウムの錠剤中の含有率が低くなると、滑沢剤としての機能を十分に果たせず、打錠器に付着し易くなり安定的な錠剤の製造が難しくなる可能性がある。したがって、錠剤中のステアリン酸マグネシウムの含有率はあまり減らすことは望ましくない。
【0012】
さらに、アリピプラゾールの含有量の減少に合わせて錠剤全体の大きさを縮小すれば、錠剤の総量に対するステアリン酸マグネシウムの比率を維持したまま、アリピプラゾール量に対するステアリン酸マグネシウムの比率を低下させることができ、アリピプラゾールの溶出性の低下を抑制できるとも考えられる。
【0013】
しかし、医薬品用の錠剤の大きさは適切な範囲内であることが求められる。すなわち、服用者の取り扱い性等の観点からその大きさの下限が制限され、飲み込み易さ等の観点からその大きさの上限が制限される。例えば、現在販売されているアリピプラゾールの3mg錠の直径は6mmであるが、これよりも錠剤の大きさを小さくすることは、服用者の取り扱い性等の観点から望ましくない。このため、現在販売されているアリピプラゾールの1mg錠(先発品)の直径は、3mg錠と同じ6mmである。このように、錠剤の大きさをこれ以上小さくすることも望ましくない。
【0014】
上記の課題に鑑みて、本発明は、アリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウムを含有する錠剤において、前記錠剤中のアリピプラゾールの含有量に対するステアリン酸マグネシウムの比率を高く設定せざるを得ない場合において、アリピプラゾールの溶出性の低下を抑制すること、および、そのように溶出性の低下が抑制された錠剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
〔1〕 アリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウムを含む錠剤であって、
前記錠剤中のアリピプラゾールの含有量が3mg未満であり、
前記錠剤中のステアリン酸マグネシウムの含有量がアリピプラゾール100質量部に対して90質量部以下であり、
前記ステアリン酸マグネシウムの平均粒径が10~50μmである、錠剤。
【0016】
〔2〕 アリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウムを含む錠剤であって、
前記錠剤中のステアリン酸マグネシウムの含有量がアリピプラゾール100質量部に対して34質量部以上であり、
日本薬局方一般試験法の溶出試験法のパドル法による溶出試験において、900mLの水中で、パドル回転数50rpmの場合に、180分後のアリピプラゾールの溶出率が20%以上である、錠剤。
【0017】
〔3〕 前記錠剤中のステアリン酸マグネシウムの含有量がアリピプラゾール100質量部に対して90質量部以下であり、
ステアリン酸マグネシウムの平均粒径が10~50μmである、〔2〕に記載の錠剤。
【0018】
〔4〕 一錠中の前記アリピプラゾールの含有量が3mg未満である、〔2〕または〔3〕に記載の錠剤。
【0019】
〔5〕 アリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウムを含む錠剤の製造方法であって、
前記錠剤中のステアリン酸マグネシウムの含有量がアリピプラゾール100質量部に対して34質量部以上、90質量部以下であり、
アリピプラゾールを含有する粉末と、平均粒径が10~50μmであるステアリン酸マグネシウムの粉末と、を含む原料粉末を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られる混合物を打錠する打錠工程と、を含む、錠剤の製造方法。
【0020】
〔6〕 一錠中の前記アリピプラゾールの含有量が3mg未満である、〔5〕に記載の錠剤の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウムを含有する錠剤において、前記錠剤中のアリピプラゾールの含有量に対するステアリン酸マグネシウムの比率が高い場合において、アリピプラゾールの溶出性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】錠剤の製造方法の実施形態の一例を示すフロー図である。
図2】アリピプラゾール100質量部に対するステアリン酸マグネシウムの含有量(質量部)および平均粒径と、溶出率と、の関係を示すグラフである。
図3】平均粒径の異なるステアリン酸マグネシウムについて、アリピプラゾールに対するステアリン酸マグネシウムの比率と溶出性との関係を示すグラフである。
図4】ステアリン酸マグネシウムの平均粒径と溶出率との関係を示すグラフである。
図5】ステアリン酸マグネシウム(大粒径)の含有率と溶出率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施形態の錠剤は、少なくともアリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウムを含む錠剤である。アリピプラゾール〔一般名〕は、統合失調症等の治療薬として知られており、化学名は、7-[4-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-1-ピペラジニル]ブトキシ]-3,4-ジヒドロ-2(1H)-キノリノンである。
【0024】
錠剤中のアリピプラゾールの含有量に対するステアリン酸マグネシウムの比率は、アリピプラゾール100質量部に対して、ステアリン酸マグネシウムが34質量部以上であり、好ましくは40質量部以上であり、より好ましくは50質量部以上であり、さらに好ましくは54質量部以上である。本発明は、このように、錠剤中のアリピプラゾールの含有量に対するステアリン酸マグネシウムの比率が高い場合に生じる、アリピプラゾールの溶出性低下を改善するものである。
【0025】
また、錠剤中のアリピプラゾールの含有量に対するステアリン酸マグネシウムの比率の上限については、アリピプラゾール100質量部に対して、ステアリン酸マグネシウムが90質量部以下であることが好ましく、より好ましくは70質量部以下であり、さらに好ましくは60質量部以下である。ステアリン酸マグネシウムが多すぎると、アリピプラゾールの溶出性低下を抑制しにくくなる。
【0026】
錠剤の総量に対するステアリン酸マグネシウムの比率(錠剤中のステアリン酸マグネシウムの含有率)は、好ましくは0.4~1.1質量%であり、より好ましくは0.5~0.8質量%であり、さらに好ましくは0.58~0.7質量%である。錠剤中のステアリン酸マグネシウムの含有率は、安定的な製造のためには、1質量%以上であることが望ましいが、この程度の範囲内であれば、ステアリン酸マグネシウムの含有率が低下しても、安定的な製造が可能であると考えられる。
【0027】
錠剤に含有されるステアリン酸マグネシウムの平均粒径は10μm以上であることが好ましく、より好ましくは11μm以上である。ステアリン酸マグネシウムの平均粒径がこの範囲であれば、ステアリン酸マグネシウムをある程度含有させても、十分にアリピプラゾールの溶出性低下を抑制することができる。ステアリン酸マグネシウムの平均粒径の上限は、特に制限されないが、通常、50μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以下である。なお、本明細書において、平均粒径とは、体積基準の平均粒子径である。
【0028】
本実施形態の錠剤は、日本薬局方一般試験法の溶出試験法のパドル法による溶出試験において、900mLの水中で、パドル回転数50rpmの場合に、180分後のアリピプラゾールの溶出率が20%以上である。本発明では、ステアリン酸マグネシウムの含有量を一定量以上に維持しながら、ステアリン酸マグネシウムの平均粒径を制御することにより、上記のように十分な溶出率を担保することができる。
【0029】
本実施形態の錠剤において、一錠中のアリピプラゾールの含有量は、好ましくは3mg未満であり、より好ましくは0.1~2.5mgであり、さらに好ましくは、0.5~1.5mg、最も好ましくは1mgである。このようにアリピプラゾールの含有量が少ない場合には、錠剤中のアリピプラゾールの含有量に対するステアリン酸マグネシウムの比率は高くなり易く、そのような場合における溶出性の低下を改善するという本発明の効果を有意に発揮することができる。
【0030】
本実施形態の錠剤は、アリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウム以外に、固形製剤に通常用いられる成分、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム以外)等から選択される少なくとも1種の成分を含んでいてもよい。
【0031】
賦形剤としては、薬学的に許容され得る一般的な賦形剤を用いることができ、例えば、結晶セルロース、ブドウ糖、果糖、乳糖(乳糖水和物を包含する)、白糖(精製白糖を包含する)、還元麦芽糖、デキストラン、糖アルコール(例えば、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、トレハロース、マルチトール、ラクチトール)、グリセリン脂肪酸エステル、無機粉体(例えば、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト)、デンプン、部分α化デンプン、トウモロコシデンプンなどが挙げられる。賦形剤は1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
賦形剤の錠剤中の含有率(錠剤の総量に対する比率)は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、例えば、62~98質量%が好ましい。
【0032】
結合剤としては、薬学的に許容され得る一般的な結合剤を用いることができ、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、部分けん化ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ゼラチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、デキストリン、キタンサンガム、アラビアゴム末、プルランなどが挙げられる。結合剤は1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
結合剤の錠剤中の含有率(錠剤の総量に対する比率)は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、例えば、0.01~10質量%が好ましい。
【0033】
崩壊剤としては、薬学的に許容され得る一般的な崩壊剤を用いることができ、例えば、クロスポビドン、カルボキシスターチナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クエン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、低置換度ヒドロキシピロピルセルロース、クロスカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルメロース、ヒドロキシプロピルスターチなどが挙げられる。崩壊剤は1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
崩壊剤の錠剤中の含有率(錠剤の総量に対する比率)は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、例えば、0~16.3質量%が好ましい。
【0034】
滑沢剤としては、薬学的に許容され得る一般的な滑沢剤を用いることができ、ステアリン酸マグネシウム以外では、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、タルク等を用いることができる。ステアリン酸マグネシウム以外の滑沢剤は1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム以外)の錠剤中の含有率(錠剤の総量に対する比率)は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、例えば、0.01~5質量%が好ましい。
【0035】
本実施形態のアリピプラゾール含有錠剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、医薬品等に用いられる薬学的または生理学的に許容される上記以外の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、着色剤(例えば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、食用青色2号等)、酸化防止剤、界面活性剤、増粘剤、保存剤、安定化剤、香料、溶解補助剤等が挙げられる。
【0036】
錠剤は、特に限定されず、素錠であってもよいし、コーティング錠であってもよいし、あるいは口腔内崩壊錠などであってもよい。
【0037】
<錠剤の製造方法>
本実施形態の錠剤の製造方法は、アリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウムを含む錠剤の製造方法である。
本発明の製造方法で製造されるのは、錠剤中のアリピプラゾールの含有量に対するステアリン酸マグネシウムの比率が、アリピプラゾール100質量部に対して、ステアリン酸マグネシウムが34質量部以上、好ましくは40質量部以上であり、より好ましくは50質量部以上であり、さらに好ましくは54質量部以上であるアリピプラゾール含有錠剤であり、本発明の製造方法によれば、このように錠剤中のアリピプラゾールの含有量に対するステアリン酸マグネシウムの比率が高い錠剤において生じるアリピプラゾールの溶出性低下を改善することができる。
本実施形態の製造方法は、少なくとも混合工程と打錠工程とを含む。
混合工程では、アリピプラゾールを含有する粉末と、平均粒径が10~50μmであるステアリン酸マグネシウムの粉末と、を含む原料粉末が混合される。
打錠工程では、前記混合工程で得られる混合物が打錠される。
【0038】
混合工程で混合されるステアリン酸マグネシウム粉末の平均粒径は、好ましくは10~50μmであり、より好ましくは11~20μmである。これにより、ステアリン酸マグネシウムをある程度含有させても、十分にアリピプラゾールの溶出性低下を抑制することができる。なお、ステアリン酸マグネシウム粉末の平均粒径は、例えば、レーザー光散乱/回折によって測定することができる。
【0039】
混合工程で得られる原料粉末中のステアリン酸マグネシウムの量は、アリピプラゾール100質量部に対して90質量部以下であり、好ましくは70質量部以下であり、より好ましくは60質量部以下である。ステアリン酸マグネシウムが多すぎると、アリピプラゾールの溶出性低下を抑制しにくくなる。
【0040】
図1は、錠剤の製造方法の実施形態の一例を示すフロー図である。図1に示される錠剤の製造方法においては、まず、アリピプラゾール、乳糖水和物およびトウモロコシデンプンを流動層造粒機に投入する。該流動層造粒機内で、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を精製水に溶解した液に着色剤を分散させた液を噴霧し、流動層造粒法による造粒を実施する。
【0041】
引き続き流動層造粒機内で造粒物を乾燥した後、篩過することで整粒を行う。得られた整粒品を結晶セルロースとステアリン酸マグネシウム(平均粒径:10~50μm)と共に混合し(混合工程)、混合物を打錠することで(打錠工程)、アリピプラゾール含有錠剤(素錠)を得ることができる。
【0042】
混合工程では、例えば、水平円筒型混合機、V型混合機、二重円錐型混合機などの容器回転型混合機を用いることが好ましい。混合条件としては、例えば、回転数3~20rpm程度、混合時間0.5~30分程度とすることができる。このような混合機や条件を採用すれば、混合時にステアリン酸マグネシウム粒子が粉砕され、平均粒径が小さくなってしまうことを抑制できる。
【0043】
本実施形態は、上記の製造方法によって得られる錠剤にも関する。すなわち、当該錠剤は、アリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウムを含む錠剤であって、前記錠剤中のアリピプラゾールの含有量に対するステアリン酸マグネシウムの比率がアリピプラゾール100質量部に対してステアリン酸マグネシウム34質量部以上、90質量部以下であり、アリピプラゾールを含有する粉末と、平均粒径が10~50μmであるステアリン酸マグネシウムの粉末と、を含む原料粉末を混合し、該混合によって得られる混合粉末を打錠することによって得られる、錠剤である。
【0044】
以上説明した実施形態によれば、アリピプラゾールおよびステアリン酸マグネシウムを含有する錠剤において、錠剤中のアリピプラゾールの含有量に対するステアリン酸マグネシウムの比率が所定の比率以上であっても、アリピプラゾールの溶出性の低下を抑制することができる。
【0045】
ここで、所定の比率は、アリピプラゾール100質量部に対してステアリン酸マグネシウム34質量部以上である。錠剤中の有効成分(アリピプラゾール)の含有量が少ない(例えば、3mg未満)場合に、かかる比率に処方設計せざるを得ないことが多く、そのような場合、アリピプラゾールの溶出率の低下が生じる傾向がある。本発明は、この溶出率低下を抑制するという課題を解決するものである。
【実施例
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
本実施例では、図1を用いて説明した上述の錠剤の製造方法により、アリピプラゾール含有錠剤を製造した。
【0048】
具体的には、まず、アリピプラゾール1質量部、乳糖水和物(200M/DFE Pharma製)71.45質量部およびトウモロコシデンプン(松谷化学工業製)10質量部を流動層造粒機(MP-01型/パウレック製)に投入した。該流動層造粒機内で、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L/日本曹達製)2質量部を5質量%の溶液となるよう精製水に溶解した溶液に着色剤(三二酸化鉄/癸巳化成製)0.004質量部を分散させた液を噴霧し、給気温度85℃で流動層造粒法による造粒を実施した。
【0049】
引き続き流動層造粒機内で、給気温度85℃で排気温度が40℃になるまで造粒物を乾燥した後、網目24meshのステンレス製篩で篩過することで、整粒を行った。次に、V型混合機を用いて、得られた整粒品全量と結晶セルロース(旭化成製)10質量部とステアリン酸マグネシウム(平均粒径(実測値):14.24μm)、太平化学産業製「特製」グレード)0.55質量部とを6rpmで10分間混合し、次いで、ロータリー式打錠機(クリーンプレスコレクト19K/菊水製作所製)を用いて混合物を打錠することで、1錠の総質量が95mg(着色剤除く)であり、表1に示す配合組成を有する、直径6mm、厚さ2.6mmの素錠を得た。
【0050】
(実施例2、比較例1~6)
表1に示される配合組成となるように、ステアリン酸マグネシウムの平均粒径と配合量、および、乳糖水和物および/または結晶セルロースの配合量を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2および比較例1~6の錠剤を製造した。
【0051】
ステアリン酸マグネシウム(StMg)の粉末としては、平均粒径(実測値)の異なる下記の3種のステアリン酸マグネシウム粉末を用いた。
・平均粒径14.24μm(太平化学産業製「特製」):平均粒径「大」又は「大粒径」
・平均粒径9.06μm(太平化学産業製「一般」):平均粒径「中」又は「中粒径」
・平均粒径5.94μm(太平化学産業製「軽質」):平均粒径「小」又は「小粒径」
【0052】
【表1】
【0053】
<溶出試験1>
実施例1および比較例1~3で得られた錠剤、並びに基準品(ニプロ製「アリピプラゾール錠6mg「ニプロ」」;6mg錠)について、日本薬局方一般試験法溶出試験法のパドル法によるアリピプラゾールの溶出試験を行った。試験液(水)の液量は900mLとし、パドル回転数50rpmにて、180分後までの所定時間経過後の溶出率(%)を紫外可視吸光度測定法により測定した。なお、基準品との溶出性を比較するために、実施例1および比較例1~3で得られた錠剤は、それぞれ6個分を900mLの水中に投入して溶出試験を行った。この試験は、それぞれ3回実施した。得られた結果(3回の平均値)を図2に示す。
【0054】
図2に示されるように、アリピプラゾール100質量部に対して中粒径のステアリン酸マグネシウム(StMg)を100質量部含む比較例1では、基準品に対して大きく溶出率が低下した。中粒径のStMgの含有量を50質量部に下げた比較例2では、比較例1より溶出率が上がり、StMgを含有しない比較例3では、基準品より溶出率が高くなった。このことから、StMgの配合量を減らすことで、アリピプラゾールの溶出性を高めることができると考えられる。しかし、滑沢剤であるStMgを配合しない比較例3では、打錠工程において杵への付着等の打錠障害が多くなり、歩留まりが悪く、安定的な錠剤製造ができなかった。中粒径のStMgの含有量を50質量部よりも更に減らした場合にも、同様に、錠剤を安定的に製造できなくなる可能性がある。
【0055】
これに対して、実施例1では、大粒径のStMgを用いることで、アリピプラゾール100質量部に対するStMgの含有量を55質量部(錠剤中のStMgの含有率:0.58質量%)に維持しつつ、溶出率を基準品に近いレベルに高めることができた。
【0056】
図3は、溶出試験1(図2)の結果において、180分経過時の溶出率をプロットして作成したグラフである。図3は、平均粒径の異なるステアリン酸マグネシウムについて、アリピプラゾールに対するステアリン酸マグネシウムの比率と溶出性との関係を示すグラフである。図3のグラフからも、平均粒径の大きい(大粒径の)ステアリン酸マグネシウムを用いた場合、ステアリン酸マグネシウムを所定量配合したままで、アリピプラゾールの溶出率を必要な範囲に上げることが可能となることが分かる。
【0057】
なお、図3から、大粒径のStMgを用いれば、アリピプラゾールに対するStMgの比率をアリピプラゾール100質量部に対して約37質量部まで増加しても、基準品と同じ溶出率(約28%)の錠剤を得ることができることが分かった。
【0058】
<溶出試験2>
実施例1,2および比較例1,4,5で得られた錠剤、並びに、基準品について、溶出試験1と同様の試験を行った。
【0059】
実施例1、比較例4,5および基準品について、溶出試験2で得られた結果を表2および図4に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2および図4に示されるように、ステアリン酸マグネシウムの含有量がアリピプラゾール100質量部に対して55質量部である場合において、大粒径のステアリン酸マグネシウムを用いる場合(実施例1)では、基準品と生物学的に同等の溶出性を示すと判断され、中粒径および小粒径のステアリン酸マグネシウム用いる場合(比較例4,5)では、基準品と生物学的に同等の溶出性を示さないと判断された。
【0062】
なお、溶出試験による生物学的同等性は、「含量が異なる経口固形製剤の生物学的同等性試験ガイドライン」(平成24年2月29日 薬食審査発第0229第10号)に基づき、基準品を標準製剤としたときに、溶出挙動が等しいとみなされるかどうかにより判断した。具体的には、F2(同ガイドラインに示されるf2関数)の値が61以上の場合、同等と判断した。
【0063】
また、実施例1,2、比較例6および基準品について、溶出試験2で得られた結果を表3および図5に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3および図5に示されるように、大粒径のステアリン酸マグネシウムを用いた場合、アリピプラゾール100質量部に対して55質量部および70質量部のアリピプラゾールを含有する実施例1および2については、基準品に対して生物学的に同等の溶出性を示すと判断された。なお、ステアリン酸マグネシウムの含有量がアリピプラゾール100質量部に対して100質量部である比較例6については、基準品に対して生物学的に同等でないと判断された。なお、生物学的同等性の判断基準は表2の場合と同様である。
【0066】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5