(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】連続鋳造用鋳型に対する熱電対の設置構造、連続鋳造用鋳型の温度測定方法、及び、連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/16 20060101AFI20230117BHJP
【FI】
B22D11/16 104B
B22D11/16 A
B22D11/16 104R
(21)【出願番号】P 2019075870
(22)【出願日】2019-04-11
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】村上 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】高屋 慎
(72)【発明者】
【氏名】上田 航也
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-261650(JP,A)
【文献】実開昭63-180140(JP,U)
【文献】特開2006-205196(JP,A)
【文献】特開2014-046312(JP,A)
【文献】特開2009-078298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造用鋳型に対する熱電対の設置構造であって、
前記連続鋳造用鋳型が、加工孔径1.0mm以下の
貫通しない加工孔を有し、
前記加工孔に、前記加工孔径-0.02mm以下の熱電対径を有する熱電対が設置されて
おり、
前記加工孔は前記連続鋳造用鋳型を構成する板に直接形成されている、
連続鋳造用鋳型に対する熱電対の設置構造。
【請求項2】
連続鋳造用鋳型に加工孔径1.0mm以下の
貫通しない加工孔を設け、
前記加工孔に、前記加工孔径-0.02mm以下の熱電対径を有する熱電対を設置して、前記鋳型の温度を測定
し、
前記加工孔は前記連続鋳造用鋳型を構成する板に直接形成されている、
連続鋳造用鋳型の温度測定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法により鋳型の温度を測定しながら前記鋳型内に溶融金属を注入して連続的に鋳造を行う、
連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、連続鋳造用鋳型に対する熱電対の設置構造、連続鋳造用鋳型の温度測定方法、及び、連続鋳造方法等を開示する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造においては、凝固シェル形成時における鋳型内の潤滑状態が、鋳片の表面品質(割れ、鋳型パウダー噛み込み)に大きく影響する。この点、従来より、凝固シェル形成の安定化及び連続鋳造の操業安定化を目的に、連続鋳造時に鋳型の温度を測定することによって、鋳型内の潤滑状態を把握している。
【0003】
特許文献1及び2に開示されているように、鋳型の温度測定は熱電対を用いて実施されるのが一般的である。鋳型への熱電対の取り付けは、鋳型に機械加工(ドリル等)で予め熱電対より若干大き目の加工孔を設けて、ここに熱電対を挿入する方法が採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5915589号公報
【文献】特許第6119640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術においては、熱電対の応答性や感度が十分でなく、凝固シェルの形成を安定化させるような鋳型内潤滑状態を精度よく把握することは困難である。鋳型内の潤滑不良によって拘束性ブレークアウトなどが発生すると、長時間の操業停止などが余儀なくされて大きな損益を被ることとなるため、熱電対を使用して鋳型の温度を測定するにあたり、熱電対の感度や応答性を向上させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、連続鋳造用鋳型に対する熱電対の設置構造であって、前記連続鋳造用鋳型が、加工孔径1.0mm以下の貫通しない加工孔を有し、前記加工孔に、前記加工孔径-0.02mm以下の熱電対径を有する熱電対が設置されており、前記加工孔は前記連続鋳造用鋳型を構成する板に直接形成されている、連続鋳造用鋳型に対する熱電対の設置構造を開示する。
【0007】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、連続鋳造用鋳型に加工孔径1.0mm以下の貫通しない加工孔を設け、前記加工孔に、前記加工孔径-0.02mm以下の熱電対径を有する熱電対を設置して、前記鋳型の温度を測定し、前記加工孔は前記連続鋳造用鋳型を構成する板に直接形成されている、連続鋳造用鋳型の温度測定方法を開示する。
【0008】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、上記本開示の方法により鋳型の温度を測定しながら前記鋳型内に溶融金属を注入して連続的に鋳造を行う、連続鋳造方法を開示する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の技術によれば、熱電対を使用して鋳型の温度を測定する際、熱電対の感度や応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】鋳型10に対する熱電対20の設置構造について説明するための概略図である。水平断面における鋳型10等の形状を概略的に示している。
【
図2】鋳型10に設けられた加工孔11等について説明するための概略図である。
【
図3】二次元伝熱解析条件(1)について説明するための図である。
【
図4】二次元伝熱解析条件(2)について説明するための図である。
【
図5】二次元伝熱解析条件(3)について説明するための図である。
【
図6】二次元伝熱解析条件(4)について説明するための図である。
【
図7】二次元伝熱解析条件(5)について説明するための図である。
【
図8】加工孔径による温度誤差をグラフ化した図である。
【
図9】実機試験での鋳造初期の熱電対の応答性(熱電対温度変動)の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者の知見によると、熱電対を鋳型に取り付けて鋳型の温度を測定する場合に熱電対の応答性や感度を向上させるためには、加工孔における熱電対の接触状態と、加工孔や熱電対が測定温度へ及ぼす影響(加工孔の存在による温度変化や熱電対による抜熱の影響等)との2つを考慮することが重要である。加工孔における熱電対の接触状態の改善については、従来より、様々な提案がなされている。例えば、熱電対を加工孔の内部に溶着すること等である。一方、加工孔や熱電対が測定温度へ及ぼす影響については十分な検討がなされていない。これに対し、本開示の技術によれば、鋳型における加工孔径と熱電対径とを工夫することで、熱電対による鋳型の温度測定時、加工孔や熱電対が測定温度へ及ぼす影響を顕著に抑制することができ、温度誤差を極力小さくしつつ、熱電対の応答性や感度を顕著に向上させることができる。
【0012】
1.連続鋳造用鋳型に対する熱電対の設置構造
図1に連続鋳造用鋳型に対する熱電対の設置構造の一例を示す。また、
図2に、連続鋳造用鋳型に設けられた加工孔等の一例を示す。
図1及び2に示すように、設置構造100においては、連続鋳造用鋳型10が、加工孔径1.0mm以下の加工孔11を有し、当該加工孔11に、加工孔径-0.02mm以下の熱電対径を有する熱電対20が設置されている。尚、本願において「径」とは直径(最大径)をいう。
【0013】
1.1.鋳型10
鋳型は、連続鋳造用の鋳型として一般的なものをいずれも採用可能である。スラブ等の矩形断面を有する鋳片を得る場合は、
図1に示すように、水平断面形状において長辺と短辺とを有する略矩形状の鋳型10を採用できる。具体的には、鋳型10は、長辺を構成する板10a及びバックフレーム15aと、短辺を構成する板10b及びバックフレーム15bとを備えていてもよい。ただし、本開示の設置構造において採用され得る鋳型はこの形状に限定されるものではなく、断面形状が矩形状以外の多角形状であってもよいし、断面形状が略円形状であってもよいし、これら以外の形状であってもよい。
【0014】
鋳型10の材質としては、冷却を優先する観点から、一般的には銅合金が採用される。ただし、銅合金以外の材料で鋳型10を構成してもよい。
【0015】
図1に示すように、鋳型として略矩形状の鋳型10を採用する場合、当該鋳型10は、長辺を構成する板10aと短辺を構成する板10bとを組み合わせて構成され得る。鋳型10を構成する板には、冷却水を流通させるための流路が設けられていてもよい。例えば、
図2(A)に示すように、スリット12を有する板10aと、板10aに重ね合わせられるバックフレーム15aとによって、鋳型10の長辺を構成した場合、当該スリット12を冷却水流路として機能させることができる。板10aは、例えば、
図2(B)に示すようなボルト部13において固定され得る。
【0016】
鋳型10には、熱電対20を挿入するための加工孔11が設けられる。加工孔11は鋳型10のどの部分に設けられていてもよい。例えば、
図2(A)に示すように、冷却水を流通させるための複数のスリット12の間となる位置に設けられていてもよい。また、
図2(B)に示すように、板10aを固定するためのボルト部13に加工孔11が設けられていてもよい。この場合、加工孔11が設けられたボルトをボルト部13に固定することで、鋳型10に加工孔11が設けられることとなってもよい。
【0017】
加工孔11は加工孔径が1.0mm以下である。加工孔径が1.0mm以下であれば、加工孔11の存在による温度変化の影響等が顕著に抑えられる。また、加工孔径を1.0mm以下とすることで、熱電対20の先端部の接触状態にほとんど影響されることなく、高い応答性で鋳型の温度を測定することが可能となる。加工孔径の下限は特に限定されるものではない。後述するように、加工孔径は、熱電対径よりも0.02mm以上大きいことから、加工孔径の下限は自ずと0.02mm超となる。加工孔径は0.05mm以上であってもよいし、0.1mm以上であってもよいし、0.5mm以上であってもよい。加工孔11の深さは特に限定されるものではなく、鋳型10を構成する板の厚み等に応じて、適宜決定可能である。例えば、加工孔11の深さを13mm以上30mm以下とすることができる。このような径や深さを有する加工孔11は、例えば、放電加工やガンドリルを用いた加工等により形成可能である。鋳型10に設けられる加工孔11の数は特に限定されるものではなく、一つであっても複数であってもよい。
【0018】
1.2.熱電対20
熱電対20は連続鋳造用鋳型の温度を測定可能な熱電対であればよい。熱電対20の種類は特に限定されるものではなく、K、J、T、E、N、R、S、B等のJIS規格における種々の熱電対を採用可能である。鋳型10に設置される熱電対20の数は特に限定されるものではなく、一つであっても複数であってもよい。
【0019】
熱電対20の熱電対径は、上記した加工孔径-0.02mm以下である。例えば、加工孔径が1.0mmである場合、熱電対径は0.98mm以下である。このように、熱電対径を加工孔径よりも若干小さくすることで、熱電対20を加工孔11内に容易に挿入可能となる。熱電対径の下限は特に限定されるものではなく、熱電対として機能し得る径であればよい。例えば、熱電対孔径を上記した加工孔径-0.50mm以上としてもよい。すなわち、加工孔径が1.0mmである場合、熱電対径を0.50mm以上0.98mm以下としてもよい。設置構造100においては、熱電対20の先端が加工孔11の突き当たり(最深部)にまで達していてもよい。
【0020】
加工孔径11が1.0mm以下であることで、熱電対20の熱電対径も0.98mm以下と自ずと細いものとなる。熱電対20として細いものを用いることで、温度測定時、熱電対20そのものによる抜熱の影響が低減される。結果として、熱電対20の応答性が向上する。
【0021】
2.連続鋳造用鋳型の温度測定方法
本開示の技術は、鋳型の温度測定方法としての側面も有する。すなわち、連続鋳造用鋳型10に加工孔径1.0mm以下の加工孔11を設け、加工孔11に、加工孔径-0.02mm以下の熱電対径を有する熱電対20を設置して、鋳型10の温度を測定する、連続鋳造用鋳型の温度測定方法である。上述したように、加工孔径を1.0mm以下とすることで、加工孔11の存在による温度変化や熱電対20による抜熱の影響等を顕著に抑えることができ、温度誤差を極力小さくしつつ、熱電対の応答性や感度を顕著に向上させることができる。
【0022】
3.連続鋳造方法
本開示の技術は、溶融金属の連続鋳造方法としての側面も有する。すなわち、上記の温度測定方法により鋳型10の温度を測定しながら鋳型10内に溶融金属を注入して連続的に鋳造を行う、連続鋳造方法である。上述したように、本開示の温度測定方法を採用することで、加工孔11の存在による温度変化や熱電対20による抜熱の影響等を顕著に抑えることができ、温度誤差を極力小さくしつつ、熱電対の応答性や感度を顕著に向上させることができる。すなわち、連続鋳造時において、鋳型10内の凝固シェルの形成を安定化させるような鋳型10内の潤滑状態を精度よく把握することができる。結果として、鋳型10内の潤滑不良に起因した拘束性ブレークアウトの発生等を防止できる。
【0023】
本開示の連続鋳造方法において、連続鋳造対象である溶融金属の種類に特に制限はない。例えば、溶鋼が挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示しつつ、本開示の技術について具体的に説明する。ただし、本開示の技術は以下に示す実施例に限定されるものではない。以下の実施例においては、熱電対の常用性と鋳型加工孔精度との両面を考慮しつつ、鋳型に対する熱電対の設置条件(加工孔径等)を変化させて、熱電対の感度や応答性の変化を確認した。
【0025】
1.加工孔径について
二次元伝熱解析により、銅板(Cr-Zr-Cu)からなる鋳型に対して、当該銅板内に冷却水を流通させつつ、鋳型内に溶融金属を注入した場合を模擬し、当該鋳型に設けられた加工孔が鋳型温度に及ぼす影響を確認した。下記表1に、二次元伝熱解析の条件を示す。
【0026】
【0027】
1.1.条件(1)
図3に二次元伝熱解析条件(1)を示す。
図3に示すように、条件(1)においては鋳型に特に加工孔を設けることなく、鋳型内部の溶融金属による伝熱と、スリットに流れる冷却水からの伝熱とを解析し、鋳型内の温度分布を評価した。
【0028】
1.2.条件(2)
図4に二次元伝熱解析条件(2)を示す。
図4に示すように、条件(2)においては、鋳型に孔径がφ5mm、深さ13mmの加工孔を設けたうえで、鋳型内部の溶融金属による伝熱と、スリットに流れる冷却水からの伝熱とを解析し、鋳型内の温度分布を評価した。
【0029】
1.3.条件(3)
図5に二次元伝熱解析条件(3)を示す。
図5に示すように、条件(3)においては、鋳型に孔径がφ3mm、深さ13mmの加工孔を設けたうえで、鋳型内部の溶融金属による伝熱と、スリットに流れる冷却水からの伝熱とを解析し、鋳型内の温度分布を評価した。
【0030】
1.4.条件(4)
図6に二次元伝熱解析条件(4)を示す。
図6に示すように、条件(4)においては、鋳型に孔径がφ1mm、深さ13mmの加工孔を設けたうえで、鋳型内部の溶融金属による伝熱と、スリットに流れる冷却水からの伝熱とを解析し、鋳型内の温度分布を評価した。
【0031】
1.5.条件(5)
図7に二次元伝熱解析条件(5)を示す。
図7に示すように、条件(5)においては、鋳型に幅5mm×1mm、深さ13mmの加工孔を設けたうえで、鋳型内部の溶融金属による伝熱と、スリットに流れる冷却水からの伝熱とを解析し、鋳型内の温度分布を評価した。
【0032】
1.6.評価結果
条件(1)の二次元伝熱解析において鋳型表面から13mmにおける温度(条件(2)~(5)において加工孔の最深部内壁面となる場所の温度)T1を求めた。一方、条件(2)~(5)の各々について加工孔の最深部(鋳型表面から13mm)の壁面温度T2~T5を求めた。T2~T5の各々についてT1に対する温度差を求め、T1に対する温度差が5℃以下である場合を「○」、T1に対する温度差が5℃超である場合を「×」とした。結果を
図8及び下記表2に示す。
【0033】
【0034】
図8及び表2に示すように、加工孔の径が大きいほど、条件(1)に対する温度差が大きくなる。
図8及び表2に示す条件(1)~(4)の結果から、鋳型に対して加工孔を設ける場合、加工孔の径が1.0mm以下であれば、加工孔の存在による温度誤差が無視できる程度に顕著に小さくなることが分かる。また、条件(5)から、加工孔の開口の一辺が1mm以下であったとしても、他辺が1mmを超える場合(すなわち、加工孔が幅広の開口形状を有するものである場合)は、加工孔の存在による温度誤差が大きくなることが分かる。
【0035】
本発明者の知見では、鋳型に加工孔を設ける場合、加工孔径が増大すると、上記の温度誤差が自乗的或いは2次関数的に増大する傾向にある。加工孔径が2倍となると、加工孔の開口面積が4倍と自乗的に増加することと対応しているものと考えられる。この点、加工孔径1.0mm以下の場合、加工孔径1.0mm超の場合と比べて、温度誤差が顕著に低減できるものといえる。
【0036】
2.熱電対径について
加工孔径1.0mm以下の場合、現状の機械加工技術であっても、加工径の150倍程度の深さまで、加工精度よく加工可能である。すなわち、実機の鋳型に対して1.0mm以下の加工孔を精度よく形成可能である。一方、このような小さな加工孔を設ける場合、当然、当該加工孔に挿入される熱電対も細いものとなる。熱電対が細い場合、熱電対そのものによる抜熱の影響が低減される。すなわち、熱電対の応答性が向上するものと考えられる。一方、熱電対が細い場合、断面強度が低下し、熱電対を鋳型に押し付けているバネ力に対して、熱電対が座屈してしまう虞があり、熱電対を加工孔の目的とする位置にまで挿入できない虞がある。また、熱電対が細径である場合、放電前に溶断し、接触不良が発生する虞があることから、熱電対を加工孔に溶着することも難しい。この点、本発明者の知見では、加工径-0.02mm以下(加工孔径が1.0mmの場合は、熱電対径が0.98mm以下)であれば、熱電対が加工孔の中で拘束されることがなく、当該熱電対を加工孔中の測定点にまでスムーズに挿入することができる。
【0037】
3.実機試験
伝熱解析における効果を実機試験により確認した。具体的には、下記表3に示す条件にて連続鋳造を行い、鋳造初期の熱電対の応答性(熱電対温度変動)の評価を行った。評価結果を
図9に示す。
【0038】
【0039】
図9に示すように、比較例と比べて実施例のほうが、熱電対により測定される温度上昇の傾きが大きい(実施例:A、比較例:B)。これは、比較例よりも実施例のほうが、鋳型の温度上昇に対する熱電対の応答性が高いことを意味する。比較例の熱電対径が3.5mmであるのに対し、実施例の熱電対径が0.98mmと細径であることから、実施例においては熱電対による抜熱の影響等が抑えられ、熱電対の応答性が向上したものと考えられる。
【0040】
また、
図9に示すように、温度上昇後の定常状態における測定温度が、比較例と実施例とで大きく乖離した。具体的には、比較例においては、定常状態における鋳型の温度が約160℃となる一方、実施例においては、定常状態における鋳型の温度が約120℃となり、その温度差が約40℃となった。これは、伝熱解析による結果とよく一致している。上述したように、伝熱解析の結果から、比較例のようにφ5.0mmの加工孔を設けた場合は、加工孔を設けない場合と比較して、約36℃の温度差が生じる一方、実施例のようにφ1.0mmの加工孔を設けた場合は、加工孔を設けない場合と比較して、温度差が約3℃と極めて小さくなる。すなわち、実機試験において、実施例及び比較例の間で測定温度に約40℃の差が生じているのは、比較例においては加工孔の存在によって伝熱が阻害され、加工孔の壁面温度が大きく変わったことに起因する。加工孔による温度誤差を抑えるためには、加工孔を1.0mm以下と小さくすることが有効であることが分かる。
【0041】
また、
図9の領域Cにおいては、湯面レベル制御が機能するまでの湯面上昇のオーバーシュートの影響で熱電対温度が上昇し、その後、湯面目標値に低下して戻ることで熱電対温度も急激に低下している。実施例においては、熱電対がこの急激な温度低下にうまく追従して温度を測定できている(温度が約25℃低下している)のに対し、比較例においては、実際の温度変化が熱電対による測定温度の変化にほとんど表れていない(温度が約7℃しか変化していない)。この点、比較例よりも実施例のほうが、熱電対の感度が高いものといえる。本発明者の経験上、比較例及び実施例のように実温度に対する熱電対の感度に20℃もの差が生じると、鋳型内の潤滑状態の予測精度が大きく変わる。すなわち、比較例において予測できなかったブレークアウトを実施例において予測できるようになる。具体的には、比較例と比べて、実施例では、鋳型内潤滑不良によるブレークアウトの予測精度が1.4~1.5倍程度に向上するものと考えられる。
【0042】
以上のとおり、熱電対を使用して鋳型の温度を測定する際、熱電対の感度や応答性を向上させるには、(1)鋳型に設けられる加工孔の加工孔径を1.0mm以下とするとともに、(2)加工孔に設置される熱電対の熱電対径を加工孔径-0.02mm以下とすることが有効である。
【符号の説明】
【0043】
10 鋳型
10a 板(長辺)
10b 板(短辺)
11 加工孔
12 スリット(冷却水流路)
13 ボルト部
15a バックフレーム(長辺)
15b バックフレーム(短辺)
20 熱電対
100 鋳型に対する熱電対の設置構造