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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】トリポード型等速継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/205 20060101AFI20230117BHJP
   F16D 3/20 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
F16D3/205 M
F16D3/20 K
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019094069
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020190250
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】小畠 啓志
(72)【発明者】
【氏名】安藤 陽星
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102009013038(DE,A1)
【文献】特開2015-102117(JP,A)
【文献】特開2002-327773(JP,A)
【文献】特開2008-25599(JP,A)
【文献】特開平7-151158(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0005694(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/00-3/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脚軸に取り付けられた内輪と、凸状外周面をそれぞれ有し前記内輪から外周側に突設された3つのトラニオンと、前記3つのトラニオンに回転可能に支持された3つのローラと、前記3つのローラを収容する円筒状外輪とを備え、前記内輪が前記円筒状外輪内に前記円筒状外輪の回転軸線方向に相対移動可能且つ相対回転不能に嵌め入れられているトリポード型等速継手であって、
前記ローラは、前記トラニオンの凸状外周面と摺動可能に嵌合する円筒状内周面を有するインナーローラと、前記インナーローラに複数本の円柱状転動体を介して支持された円環状のアウターローラと、前記トラニオンの先端側の前記アウターローラから内周面側に一体に突き出して前記複数本の円柱状転動体および前記インナーローラの移動を規制する規制部とを、有するものであり、
前記インナーローラと前記規制部との前記トラニオンの中心軸線方向の隙間が、予め設定されたジョイント角のときの前記トラニオンと前記インナーローラとの接点の往復移動量よりも大きく、前記円柱状転動体のクラウニング長さよりも小さい値に設定されている
ことを特徴とするトリポード型等速継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性を損なわずに強制力を低減可能なトリポード型等速継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脚軸に取り付けられた内輪から外周側に突設され、凸状外周面をそれぞれ有する3つのトラニオン(突起)と、前記3つのトラニオンの先端部に回転可能に支持された3つのローラと、前記3つのローラを収容する円筒状外輪とを備え、前記内輪が前記円筒状外輪に前記円筒状外輪の回転軸線方向に相対移動可能且つ相対回転不能に嵌め入れられているトリポード型等速継手が、知られている。たとえば、特許文献1に記載されたトリポード型等速継手がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-163411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記トリポード型等速継手において、前記脚軸(内輪)の回転中心線と前記円筒状外輪の回転中心線との間の角度に対応するジョイント角の変化に伴って、前記トラニオンの凸状外周面と前記ローラとの間の接点も前記トラニオンの突出し方向において変位する。ローラは、転動体として機能する複数本のニードルを径方向に挟むインナーローラおよびアウターローラから構成されている。そのアウターローラのトラニオン先端側の端部には、内向きの鍔部が形成され、アウターローラのトラニオン根元側の端部にはスナップリングが設けられ、ニードルおよびインナーローラのアウターローラに対する移動が規制されている。
【0005】
しかしながら、前記脚軸(内輪)の回転中心線と前記円筒状外輪の回転中心線との間の角度に対応するジョイント角が変化すると、インナーローラとアウターローラのトリポードの突出し方向の隙間が詰まり、インナーローラがアウターローラの鍔部或に当接して強制力が発生し、耐久性が低下する可能性があった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為なされたものであり、その目的とするところは、ジョイント角の変化による強制力の発生を抑制して、高い耐久性を有するトリポード型等速継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨とするところは、(a)脚軸に取り付けられた内輪と、凸状外周面をそれぞれ有し前記内輪から外周側に突設された3つのトラニオンと、前記3つのトラニオンに回転可能に支持された3つのローラと、前記3つのローラを収容する円筒状外輪とを備え、前記内輪が前記円筒状外輪内に前記円筒状外輪の回転軸線方向に相対移動可能且つ相対回転不能に嵌め入れられているトリポード型等速継手であって、(b)前記ローラは、前記トラニオンの凸状外周面と摺動可能に嵌合する円筒状内周面を有するインナーローラと、前記インナーローラに複数本の円柱状転動体を介して支持された円環状のアウターローラと、前記トラニオンの先端側の前記アウターローラから内周面側に一体に突き出して前記複数本の円柱状転動体および前記インナーローラの移動を規制する規制部とを、有するものであり、(c)前記インナーローラと前記規制部との前記トラニオンの中心軸線方向の隙間が、予め設定されたジョイント角のときの前記トラニオンと前記インナーローラとの接点の往復移動量よりも大きく、前記円柱状転動体のクラウニング長さよりも小さい値に設定されている。
【発明の効果】
【0008】
上記のように構成されたトリポード型等速継手では、前記インナーローラと前記規制部との前記トラニオンの中心軸線方向の隙間が、予め設定されたジョイント角のときの前記トラニオンと前記インナーローラとの接点の往復移動量よりも大きく、前記円柱状転動体のクラウニング長さよりも小さい値に設定されているので、前記インナーローラが前記規制部に当接することがなく、また前記転動体の転動面とエッジ当たりすることが抑制される。これにより、インナーローラから加えられる強制力が抑制され、高い耐久性が得られる。
【0009】
好適には、前記インナーローラと前記規制部との前記トラニオンの中心軸線方向の隙間は、ジョイント角が10°であるときの前記トラニオンと前記インナーローラとの接点の往復移動量よりも小さく設定される。これにより、前記インナーローラが前記規制部に当接することが解消される。
【0010】
好適には、予め設定されたジョイント角は、最も多用されるときのジョイント角であるジョイント常用角であり、さらに好適には6°である。これにより、前記インナーローラと前記規制部との前記トラニオンの中心軸線方向の隙間がジョイント常用角として設定された角度であるときの前記トラニオンと前記インナーローラとの接点の往復移動量よりも大きく設定されているので、ジョイント常用角では、インナーローラの端面が円柱状転動体の円柱状外周面に入ることがなく、インナーローラのエッジ当たりによる応力集中が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例であるトリポード型等速継手が適用された車両用動力伝達軸を説明する正面図である。
図2図1のトリポード型等速継手を構成する、第2回転部材に設けられた円筒状外輪を説明する断面図である。
図3図1のトリポード型等速継手を図1の左側から視た、トラニオンの中心軸線を含む横断面を示す図である。
図4図1のトリポード型等速継手のトラニオンの中心軸線と平行な方向におけるインナーローラとアウターローラの規制部との間の隙間を、模式的に示す横断面である。
図5図1のトリポード型等速継手における上死点の場合のトラニオンの中心に対するトラニオンとインナーローラとの接点の移動量を説明する模式図である。
図6図1のトリポード型等速継手における下死点の場合のトラニオンの中心に対するトラニオンとインナーローラとの接点の移動量を説明する模式図である。
図7】比較例のトリポード型等速継手を示す図であり図3に対応する断面図である。
図8図1のトリポード型等速継手の隙間と図7のトリポード型等速継手の隙間とを、対比して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例
【0013】
図1は本発明の等速継手16が適用された車両用ドライブシャフト10の全体的な構成を説明する概略図である。図1の車両用ドライブシャフト10は、たとえばFF車両の前部に幅方向に配置されるフロントドライブシャフトであって、たとえば機械構造用炭素鋼製の中間シャフト12と、その中間シャフト12の両端に固設された一対の等速継手14および20とから構成される。
【0014】
一対の等速継手14および20のうち、中間シャフト12の車体外側の端部に設けられている等速継手14は、バーフィールド型等速ジョイントから構成され、図示しない駆動輪(前輪)が固定されるハブ22に連結されている。また、一対の等速継手14および20のうち、中間シャフト12の車体内側の端部に設けられている等速継手20は、摺動式のトリポード型等速ジョイントから構成され、図示しない終減速装置のサイドギヤに連結されている。これにより、車両用ドライブシャフト10は、たとえば、トランスアクスル内の終減速装置から出力される駆動力を車両の前輪である駆動輪に伝達する。
【0015】
バーフィールド型等速ジョイントから成る等速継手14は、中間シャフト12の車体外側の一端部12aに相対回転不能に嵌装された内輪15と、内部に収容室16aが形成された円筒状の外輪16とを備え、その内輪15は外輪16の内部に形成された収容室16a内に収容されている。外輪16は、その回転軸線C4方向に突き出してハブ22に形成された嵌合孔22aに相対回転不能に嵌合される連結軸16bを備えている。連結軸16bの端部外周面にはスプライン歯が形成されるとともに嵌合孔22aの内周面にはスプライン歯が形成されており、連結軸16bは嵌合孔22aにスプライン嵌合される。
【0016】
上記内輪15と外輪16との間には、略円筒状のケージ14aおよび複数のボール14bが設けられており、これらのボール14bは、ケージ14aに形成された複数の保持孔内に保持されている。内輪15の外周面および外輪16の内周面には、複数のボール14bに対応する複数本の案内溝14cがそれらの中心軸線方向にそれぞれ形成されており、複数のボール14bはそれら複数本の案内溝14c内に嵌め入れられて案内されるようになっている。これにより、外輪16およびハブ22は、中間シャフト12の車両外側の端部を起点とする所定範囲内の円弧運動が許容されている。
【0017】
中間シャフト12の端部と外輪16との間の開口部分は、軟質樹脂製の合成ゴムからなる蛇腹状のブーツ18により覆われている。このブーツ18は、その大径端が外輪16の周囲に嵌め着けられ、内径端が中間シャフト12の端部に嵌め着けられている。そのブーツ18内には潤滑グリースが充填されている。
【0018】
摺動式トリポード型等速ジョイントからなる等速継手20は、中間シャフト12(脚軸)の車体内側の他端部12bに嵌め着けられた内輪24と、内部に収容室26aが形成された外輪26とを備え、その内輪24は外輪26に形成された収容室26a内に相対回転不能且つ外輪26の回転軸線C2方向の移動可能に収容されている。外輪26は、その回転軸線C2方向に突き出して前記終減速装置のサイドギヤの中央に形成されたスプライン嵌合孔に相対回転不能に嵌合される連結軸26bを備えている。
【0019】
図2は、上記等速継手20の外輪26の構成を一部切り欠き拡大して示す図である。図2において、等速継手20の外輪26からその回転軸線C2方向に突き出す連結軸26bは、スプライン歯が形成されたスプライン軸部26dと、そのスプライン軸部26dよりもやや大きい径を有してそのスプライン軸部26dに続いて位置し前記終減速装置のデフケースに摺動可能に嵌合されてそれにより支持される嵌合軸部26eと、その嵌合軸部26eに続いて位置しその嵌合軸部26eより大きい径を有する大径軸部26fとを有している。
【0020】
上記内輪24には、周方向の等間隔で外周側に突き出してローラ30をそれぞれ支持する3つのトラニオン(突起)24aが設けられている。外輪26の内周面には、3つのローラ30をそれぞれ受け入れてそれを回転軸線C2に平行な方向に案内する長手状の3本の案内溝26cが設けられている。これにより、内輪24は、外輪26に対して、回転軸線C2方向に相対移動可能且つ相対回転不能に嵌め入れられている。
【0021】
中間シャフト12の端部と外輪26との間の開口部分は、軟質樹脂材料からなる蛇腹状のブーツ28により覆われている。このブーツ28は、その大径端が外輪26の周囲に嵌め着けられ、内径端が中間シャフト12の端部に嵌め着けられている。そのブーツ28内には高粘性の潤滑油として機能する潤滑グリースが充填されている。
【0022】
図3は、1つのローラ30を受け入れてそれを回転軸線C2に平行な方向に案内する1本の案内溝26cを示す断面図である。図3に示すように、内輪24と外輪26とは、内輪24の回転軸線C1および外輪26の回転軸線C2を含む面内において、内輪24にスプライン嵌合により相対回転不能に嵌合された中間シャフト12の車体内側の他端部(軸脚)12bを中心とする所定のジョイント角θtの範囲内の相対回転が許容されている。
【0023】
内輪24から周方向の等間隔で外周側に突き出す3つのトラニオン24aは、言い換えると、内輪24の回転軸線C2から外周側に向かって、3つのトラニオン24aのそれぞれの中心軸線C3方向に突き出している。このトラニオン24aは、中心軸線C3に直交する方向に凸となる環状の部分球面である凸状外周面24bを備えている。また、トラニオン24aには、凸状外周面24bが内接するローラ30が嵌め付けられている。ローラ30は、インナーローラ32と、複数本の円柱状転動体(転動体)34と、円環状のアウターローラ36と、スナップリング38とを備えている。インナーローラ32は、トラニオン24aの凸状外周面24bと摺動可能に嵌合する円筒状内周面32aを有し、アウターローラ36は、インナーローラ32に複数本の円柱状転動体(ニードル)34を介して支持されている。
【0024】
アウターローラ36は、複数本の円柱状転動体34およびインナーローラ32の移動を規制する規制部36aと、スナップリング38が嵌め付けられる環状溝36bとを有する。規制部36aは、トラニオン24aの先端側のアウターローラ36から内周面側へ内向きフランジ状に一体に突き出している。環状溝36bは、トラニオン24aの基端部側のアウターローラ36に形成されている。外輪26の案内溝26cには、周方向に対向する一対の凹溝26gが形成されており、アウターローラ36は、その一対の凹溝26g内に嵌め入れられた凸状外周面36cを備えている。
【0025】
アウターローラ36は、凹溝26gに沿って直線運動する。これに対し、ジョイント角θの増加に伴ってトラニオン24aの凸状外周面24bが円弧運動する。このため、部分球面である凸状外周面24bの球心Mを通る回転軸線C1まわりの仮想円を仮想円PCとすると、中心軸線C3と直交する仮想円PCの接線Lに対して、凸状外周面24bとインナーローラ32の円筒状内周面32aとの接点Tは、等速継手20の回転に同期して中心軸線C3方向に往復する。インナーローラ32は、その円筒状内周面32aに当接して移動するトラニオン24aの凸状外周面24bとの摩擦によって中心軸線C3方向に移動させられる。
【0026】
図4は、トラニオン24aの中心軸線C3と平行な方向におけるインナーローラ32とアウターローラ36の規制部36aとの間の隙間CLを、模式的に示す図である。インナーローラ32および円柱状転動体34は、規制部36aとスナップリング38との間で、アウターローラ36に対する中心軸線C3方向の所定の相対移動量以上の相対移動が制限されている。これにより、図4に示すように、所定の相対移動量を下まわるインナーローラ32とアウターローラ36との相対移動が許容されるように、インナーローラ32とアウターローラ36の規制部36aとの間の隙間CLが設定されている。
【0027】
図5は、接点Tの往復移動のうちの上死点において、接点Tと中心軸線C3と直交する仮想円PCの接線Lとの、中心軸線C3方向の距離Duを説明する図である。この距離Duは、上死点における凸状外周面24bの中心Mに対するトラニオン24aとインナーローラ32との接点Tの移動量である。図5において、接点Tは仮想円PCよりも外周側に位置しており、仮想円PCの半径をDpとし、ジョイント角をθとすると、距離Duは、次式(1)により表される。ここで、ジョイント角θは、仮想円PCの中心と凸状外周面24bの球心Mとを結ぶ直線と、中心軸線C3との成す角、すなわち外輪26の回転軸線C2と内輪24の回転軸線C1との成す角である。
【0028】
Du=〔(1-cosθ)/4cosθ〕・Dp ・・・(1)
【0029】
図6は、接点Tの往復移動のうちの下死点において、接点Tと中心軸線C3に直交する仮想円PCの接線Lとの、中心軸線C3方向の距離Ddを説明する図である。この距離Ddは、下死点における凸状外周面24bの中心Mに対するトラニオン24aとインナーローラ32との接点Tの移動量である。図6において、接点Tは仮想円PCよりも内周側に位置しており、仮想円PCの半径をDpとし、ジョイント角をθとすると、距離Ddは、次式(2)により表される。
【0030】
Dd=(3/4)・(1-cosθ)・Dp ・・・(2)
【0031】
凸状外周面24bとインナーローラ32の円筒状内周面32aとの接点Tの往復移動量Dは、DuとDdとの合計(すなわちD=Du+Dd)で表わされる。本実施例の等速継手20においては、インナーローラ32とアウターローラ36の規制部36aとの間の隙間CLは、ジョイント角θがジョイント常用角θnである6°のときの接点Tの往復移動量DであるD6を上まわり、且つ円柱状転動体34のクラウニング長さLsを下まわる値となるように、すなわち、D6<CL<Lsを満足するように、設定されている。ジョイント常用角θnは、最も多用される平均的車両荷重である時のジョイント角θであり、例えば、1名乗車または定積載時のジョイント角θである。また、ジョイント常用角θnである6°は、車両用のトリポード型等速継手の転動疲労寿命およびノイズ・振動性能の観点から、車両適合検討段階で、1名乗車または定積載時のジョイント角θが6°以下の車両に対して適合を考慮した場合に採用されている値である。
【0032】
なお、隙間CLの上限値は、ジョイント角θが10°であるときの接点Tの往復移動量DであるD10とクラウニング長さLsとのいずれか小さい値であってもよい。すなわち、D6<CL<Min(D10,Ls)を満足するように、隙間CLが設定されていてもよい。例えば、クラウニング長さLsがD10より大きい値である場合には、D6<CL<D10を満足するように、隙間CLが設定されていてもよい。
【0033】
図7は、比較例のトリポード型等速継手を示す図であり図3に対応する図である。本実施例の等速継手(トリポード型等速継手)20は、図3に示すように規制部36aがアウターローラ36から内周側へ一体に突き出した内向フランジ状に構成されていたのに対し、図7に示す比較例のトリポード型等速継手は、規制部136aがスナップリングにより構成されている。図7のインナーローラ132および円柱状転動体134は、規制部136aとスナップリング138との間で、アウターローラ136に対する中心軸線C3方向の所定の相対移動量以上の相対移動が制限されている。これにより、所定の相対移動量を下まわるインナーローラ132とアウターローラ136との相対移動が許容されるように、インナーローラ132とスナップリングである規制部136aとの間の隙間が設定されている。このような図7の構造のトリポード型等速継手では、インナーローラ132の脱落防止機能が2枚のスナップリングで行われているため、部品点数の多さから、寸法のばらつきの影響で隙間の詰まりが起こりやすい構造となっている。
【0034】
図8は、比較例である図7の構造である比較例品1および2の場合の隙間と、本実施例の図3の構造である実施例品の場合の隙間を、対比して示す図である。図8において、▽は隙間の下限値、△は隙間の上限値、○は隙間の中央値を示している。比較例品1および比較例品2の場合は、隙間の下限値と上限値との間の大きく、且つ相互にばらついている。これに対して、図8の右端にしめす実施例品の場合は、隙間CLの下限値と上限値との間が小さい。また、実施例品は、図示しないがばらつきも小さい。
【0035】
上述のように、本実施例のトリポード型の等速継手20によれば、中間シャフト(脚軸)12に取り付けられた内輪24と、凸状外周面24bをそれぞれ有し内輪24から外周側に突設された3つのトラニオン24aと、3つのトラニオン24aに回転可能に支持された3つのローラ30と、3つのローラ30を収容する外輪(円筒状外輪)26とを備え、内輪24が外輪26内に外輪26の回転軸線C2方向に相対移動可能且つ相対回転不能に嵌め入れられている等速継手20(トリポード型等速継手)であって、ローラ30は、トラニオン24aの凸状外周面24bと摺動可能に嵌合する円筒状内周面32aを有するインナーローラ32と、インナーローラ32に複数本の円柱状転動体34を介して支持された円環状のアウターローラ36と、トラニオン24aの先端側のアウターローラ36から内周面側に一体に突き出して複数本の円柱状転動体34およびインナーローラ32の移動を規制する規制部36aとを有するものであり、インナーローラ32と規制部36aとのトラニオン24aの中心軸線C3方向の隙間CLが、予め設定されたジョイント角θのときのトラニオン24aとインナーローラ32との接点Tの往復移動量よりも大きく、円柱状転動体34のクラウニング長さLsよりも小さい値に設定されているので、インナーローラ32が規制部36aに当接することがなく、また円柱状転動体34の円筒状外周面である転動面とエッジ当たりすることが抑制される。これにより、インナーローラ32から加えられる強制力が抑制され、高い耐久性が得られる。
【0036】
また、本実施例のトリポード型の等速継手20では、インナーローラ32と規制部36aとのトラニオン24aの中心軸線C3方向の隙間CLは、ジョイント角θが10°であるときのトラニオン24aとインナーローラ32との接点Tの往復移動量D10よりも小さく設定される。これにより、インナーローラ32が規制部36aに当接することが解消される。
【0037】
また、本実施例のトリポード型の等速継手20では、予め設定されたジョイント角θはジョイント常用角θnである。また、本実施例のトリポード型の等速継手20では、ジョイント常用角θnは6°である。これにより、インナーローラ32と規制部36aとのトラニオン24aの中心軸線C3方向の隙間CLがジョイント常用角θnとして設定された6°であるときのトラニオン24aとインナーローラ32との接点Tの往復移動量D6よりも大きく設定されているので、ジョイント常用角θnでは、インナーローラ32の端面が円柱状転動体34の円柱状外周面である転動面に入ることがなく、インナーローラ32のエッジ当たりによる応力集中が回避される。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0039】
例えば、前述の実施例の等速継手20において、内輪24は中間シャフト12の軸端にスプライン嵌合されたものであったが、相互に一体に形成されたものであってもよい。
【0040】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0041】
12 :中間シャフト(脚軸)
20 :等速継手(トリポード型等速継手)
24 :内輪
24a:トラニオン
24b:凸状外周面
26 :外輪(円筒状外輪)
30 :ローラ
32 :インナーローラ
32a:円筒状内周面
34 :円柱状転動体(転動体)
36 :アウターローラ
36a:規制部
C2 :外輪の回転軸線
C3 :トラニオンの中心軸線
CL :隙間
D :往復移動量
Ls :クラウニング長さ
θ :ジョイント角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8