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特許7211284変位の推定装置、変位の推定方法、及び変位の推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】変位の推定装置、変位の推定方法、及び変位の推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20230117BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20230117BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20230117BHJP
   G06F 30/13 20200101ALI20230117BHJP
【FI】
G01N3/00 Z
E04B1/24 ESW
G01L1/00 M
G06F30/13
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019120980
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021006788
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】北岡 聡
(72)【発明者】
【氏名】三井 和也
(72)【発明者】
【氏名】桑田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】廣嶋 哲
(72)【発明者】
【氏名】半谷 公司
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/151298(WO,A1)
【文献】特開2018-131882(JP,A)
【文献】特開2018-131883(JP,A)
【文献】特開2019-056220(JP,A)
【文献】特開2016-095599(JP,A)
【文献】特開2000-193536(JP,A)
【文献】特開2004-303227(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106250626(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0112788(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0078894(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00~3/62
E04B 1/24
G01L 1/00
G06F 30/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交するx軸及びy軸に沿ってそれぞれ延びる平板状に形成された弾性要素の端面に外力が作用し、前記弾性要素がその厚さ方向であるz軸に沿う方向に座屈するときに、前記z軸に沿う方向に向けた前記弾性要素の面外変位wを推定する変位の推定装置であって、
前記弾性要素は、前記z軸に沿って見たときに、前記y軸に沿う方向の長さよりも前記x軸に沿う方向の長さが長い矩形状を呈し、
前記弾性要素の前記y軸に沿う方向の長さの中心の位置を通り、前記x軸に沿う線を基準線としたときに、
前記面外変位wが前記基準線に対して前記y軸に沿う方向に対称になると推定される場合に、前記面外変位wを(1)式により推定し、前記面外変位wが前記基準線に対して前記y軸に沿う方向に非対称になると推定される場合に、前記面外変位wを(2)式により推定する推定部を備える変位の推定装置。
ただし、(1)式及び(2)式中のYの値は、前記y軸の座標を前記弾性要素の前記y軸に沿う方向の長さを用いて無次元化した値であり、Nは2以上の自然数であり、a,a,bは未定係数である。
【数1】
【請求項2】
前記Nは2である請求項1に記載の変位の推定装置。
【請求項3】
互いに直交するx軸及びy軸に沿ってそれぞれ延びる平板状に形成された弾性要素の端面に外力が作用し、前記弾性要素がその厚さ方向であるz軸に沿う方向に座屈するときに、前記z軸に沿う方向に向けた前記弾性要素の面外変位wを推定する変位の推定方法であって、
前記弾性要素は、前記z軸に沿って見たときに、前記y軸に沿う方向の長さよりも前記x軸に沿う方向の長さが長い矩形状を呈し、
前記弾性要素の前記y軸に沿う方向の長さの中心の位置を通り、前記x軸に沿う線を基準線としたときに、
前記面外変位wが前記基準線に対して前記y軸に沿う方向に対称になると推定される場合に、前記面外変位wを(3)式により推定し、前記面外変位wが前記基準線に対して前記y軸に沿う方向に非対称になると推定される場合に、前記面外変位wを(4)式により推定する推定工程を行う変位の推定方法。
ただし、(3)式及び(4)式中のYの値は、前記y軸の座標を前記弾性要素の前記y軸に沿う方向の長さを用いて無次元化した値であり、Nは2以上の自然数であり、a,a,bは未定係数である。
【数2】
【請求項4】
前記Nは2である請求項3に記載の変位の推定方法。
【請求項5】
互いに直交するx軸及びy軸に沿ってそれぞれ延びる平板状に形成された弾性要素の端面に外力が作用し、前記弾性要素がその厚さ方向であるz軸に沿う方向に座屈するときに、前記z軸に沿う方向に向けた前記弾性要素の面外変位wを推定する推定装置用の変位の推定プログラムであって、
前記弾性要素は、前記z軸に沿って見たときに、前記y軸に沿う方向の長さよりも前記x軸に沿う方向の長さが長い矩形状を呈し、
前記弾性要素の前記y軸に沿う方向の長さの中心の位置を通り、前記x軸に沿う線を基準線としたときに、
前記推定装置を、
前記面外変位wが前記基準線に対して前記y軸に沿う方向に対称になると推定される場合に、前記面外変位wを(5)式により推定し、前記面外変位wが前記基準線に対して前記y軸に沿う方向に非対称になると推定される場合に、前記面外変位wを(6)式により推定する推定部として機能させる変位の推定プログラム。
ただし、(5)式及び(6)式中のYの値は、前記y軸の座標を前記弾性要素の前記y軸に沿う方向の長さを用いて無次元化した値であり、Nは2以上の自然数であり、a,a,bは未定係数である。
【数3】
【請求項6】
前記Nは2である請求項5に記載の変位の推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位の推定装置、変位の推定方法、及び変位の推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、梁等の弾性要素における面外変位を推定する方法として、(1)式で表されるフーリエ級数を用いるのが一般的である(例えば、非特許文献1参照)。なお、(1)式におけるYの値は、弾性要素のy軸に沿う方向の座標を、この弾性要素のy軸に沿う方向の長さで除して無次元化した値である。
【0003】
【数1】
【0004】
フーリエ級数の基底は直交性を有するため、フーリエ級数により多くの曲面を精度よく近似できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Stephen P. Timoshenko and James M. Gere、「Theory of Elastic Stability」 Second Edition
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フーリエ級数には近似の収れんが遅いという問題がある。例えば建築物の部材や部材を構成する平板状の弾性要素に生じる座屈変形を近似しようとした場合、フーリエ級数の第15項部分和程度、すなわち、(1)式でNを15程度とする必要がある。この場合、近似関数は、未定係数a以外の三角関数による項を30含む。
このようにフーリエ級数では近似の収れんに多くの項数が必要であるため、フーリエ級数による分析は手計算では行うことができず、計算機を用いた数値計算が必要になる。さらに、従来の変位の推定方法では、推定結果を物理的に理解しやすく定式化できないという技術課題がある。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、フーリエ級数を用いた場合よりも推定に必要な計算を簡単に行うとともに、推定結果を物理的に理解しやすく定式化できる変位の推定装置、変位の推定方法、及び変位の推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の変位の推定装置は、互いに直交するx軸及びy軸に沿ってそれぞれ延びる平板状に形成された弾性要素の端面に外力が作用し、前記弾性要素がその厚さ方向であるz軸に沿う方向に座屈するときに、前記z軸に沿う方向に向けた前記弾性要素の面外変位wを推定する変位の推定装置であって、前記弾性要素は、前記z軸に沿って見たときに、前記y軸に沿う方向の長さよりも前記x軸に沿う方向の長さが長い矩形状を呈し、前記弾性要素の前記y軸に沿う方向の長さの中心の位置を通り、前記x軸に沿う線を基準線としたときに、前記面外変位wが前記基準線に対して前記y軸に沿う方向に対称になると推定される場合に、前記面外変位wを(2)式により推定し、前記面外変位wが前記基準線に対して前記y軸に沿う方向に非対称になると推定される場合に、前記面外変位wを(3)式により推定する推定部を備えることを特徴としている。
ただし、(2)式及び(3)式中のYの値は、前記y軸の座標を前記弾性要素の前記y軸に沿う方向の長さを用いて無次元化した値であり、Nは2以上の自然数であり、a,a,bは未定係数である。
【0009】
【数2】
【0010】
また、本発明の変位の推定方法は、互いに直交するx軸及びy軸に沿ってそれぞれ延びる平板状に形成された弾性要素の端面に外力が作用し、前記弾性要素がその厚さ方向であるz軸に沿う方向に座屈するときに、前記z軸に沿う方向に向けた前記弾性要素の面外変位wを推定する変位の推定方法であって、前記弾性要素は、前記z軸に沿って見たときに、前記y軸に沿う方向の長さよりも前記x軸に沿う方向の長さが長い矩形状を呈し、前記弾性要素の前記y軸に沿う方向の長さの中心の位置を通り、前記x軸に沿う線を基準線としたときに、前記面外変位wが前記基準線に対して前記y軸に沿う方向に対称になると推定される場合に、前記面外変位wを(4)式により推定し、前記面外変位wが前記基準線に対して前記y軸に沿う方向に非対称になると推定される場合に、前記面外変位wを(5)式により推定する推定工程を行うことを特徴としている。
ただし、(4)式及び(5)式中のYの値は、前記y軸の座標を前記弾性要素の前記y軸に沿う方向の長さを用いて無次元化した値であり、Nは2以上の自然数であり、a,a,bは未定係数である。
【0011】
【数3】
【0012】
また、本発明の変位の推定プログラムは、互いに直交するx軸及びy軸に沿ってそれぞれ延びる平板状に形成された弾性要素の端面に外力が作用し、前記弾性要素がその厚さ方向であるz軸に沿う方向に座屈するときに、前記z軸に沿う方向に向けた前記弾性要素の面外変位wを推定する推定装置用の変位の推定プログラムであって、前記弾性要素は、前記z軸に沿って見たときに、前記y軸に沿う方向の長さよりも前記x軸に沿う方向の長さが長い矩形状を呈し、前記弾性要素の前記y軸に沿う方向の長さの中心の位置を通り、前記x軸に沿う線を基準線としたときに、前記推定装置を、前記面外変位wが前記基準線に対して前記y軸に沿う方向に対称になると推定される場合に、前記面外変位wを(6)式により推定し、前記面外変位wが前記基準線に対して前記y軸に沿う方向に非対称になると推定される場合に、前記面外変位wを(7)式により推定する推定部として機能させることを特徴としている。
ただし、(6)式及び(7)式中のYの値は、前記y軸の座標を前記弾性要素の前記y軸に沿う方向の長さを用いて無次元化した値であり、Nは2以上の自然数であり、a,a,bは未定係数である。
【0013】
【数4】
【0014】
発明者らは、三角関数を用いつつも、フーリエ級数よりも少ない項数で、弾性要素の面外変位を推定できる関数を複数検討した。その結果、面外変位wがx軸に沿う基準線に対して対称な場合には(2)式を用いて、面外変位wがx軸に沿う基準線に対して非対称な場合には(3)式を用いて弾性要素の面外変位wをそれぞれフーリエ級数よりも少ない項数で推定できることを見出した。なお、(4)式及び(6)式は(2)式と同一であり、(5)式及び(7)式は(3)式と同一である。
(2)式又は(3)式は、フーリエ級数よりも少ない項数で弾性要素の面外変位wを推定できるため、フーリエ級数を用いた場合よりも推定に必要な計算を簡単に行うことができる。さらに、面外変位wを同程度の精度で推定するために必要な項数が、(1)式のフーリエ級数を用いて推定する場合よりも、(2)式又は(3)式を用いて推定する場合の方が少ないため、フーリエ級数を用いた場合よりも推定結果を物理的に理解しやすく定式化することができる。
【0015】
また、前記の変位の推定装置、変位の推定方法、及び変位の推定プログラムにおいて、前記Nは2であってもよい。
これらの発明によれば、(2)式又は(3)式を求めるのに必要な未定係数が、a,a,b,及びbの4つ以下であるため、解の公式が知られている4次以下の方程式を用いてa,a,b,及びbを容易に求めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の変位の推定装置、変位の推定方法、及び変位の推定プログラムによれば、フーリエ級数を用いた場合よりも推定に必要な計算を簡単に行うとともに、推定結果を物理的に理解しやすく定式化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態の変位の推定装置が適用されるH形鋼を備える建築物の斜視図である。
図2】同H形鋼に曲げモーメントが作用したときのFEMによる解析結果を示す図である。
図3】同変位の推定装置の概要を示す図である。
図4】同H形鋼のウェブがx軸に沿う方向に十分長い場合に、y軸方向に対称となるようにウェブが座屈している状態を模式的に示す斜視図である。
図5図4のウェブにおけるx軸に沿う方向の半波長分を拡大した斜視図である。
図6】ウェブに圧縮力が作用する場合の、y軸の座標によるウェブの面外変位の推定結果の一例を表す図である。
図7】ウェブに圧縮力が作用する場合の、y軸の座標によるウェブの面外変位の推定結果の他の例を表す図である。
図8】Nに対する、(1)式でウェブの面外変位を推定したときの標準偏差の比を表す図である。
図9】Nに対する、(1)式でウェブの面外変位を推定したときの差分の2乗和の比を表す図である。
図10】y軸方向に非対称となるように座屈したウェブの斜視図である。
図11】y軸方向に非対称となるようにウェブが座屈した場合の、y軸の座標によるウェブの面外変位の推定結果の一例を表す図である。
図12】y軸方向に非対称となるようにウェブが座屈した場合の、y軸の座標によるウェブの面外変位の推定結果の他の例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る変位の推定装置の一実施形態を、図1から図12を参照しながら説明する。
この変位の推定装置(推定装置、以下単に推定装置と言う)は、例えば図1に示す建築物1に、鉄骨梁として用いられるH形鋼10等の変位を推定するのに用いられる。H形鋼10は、上フランジ(第1フランジ)11と、下フランジ(第2フランジ)12と、上フランジ11及び下フランジ12を互いに連結するウェブ13と、を備えている。なお、図1では、後述する床スラブ20を二点鎖線で示している。
H形鋼10が備える上フランジ11、下フランジ12、及びウェブ13は弾性要素である。なお、弾性要素は、材料非線形を考慮しない要素である。
【0019】
H形鋼10は、例えば水平面に沿う方向に延びている。上フランジ11は、平板状に形成され、上フランジ11の厚さ方向が上下方向に沿うように配置されている。下フランジ12は、平板状に形成され、上フランジ11よりも下方に配置されている。下フランジ12は、下フランジ12の厚さ方向が上下方向に沿うように配置されている。
ウェブ13は、ウェブ13の厚さ方向に見たときに矩形状を呈する平板状に形成されている。ウェブ13は、ウェブ13の厚さ方向が水平面に沿うように配置されている。ウェブ13は、上フランジ11の下面における幅方向の中心と、下フランジ12の上面における幅方向の中心とを連結している。
【0020】
H形鋼10の長手方向の端部は、柱15等に固定されている。H形鋼10は、床スラブ20を床スラブ20の下方から支持している。H形鋼10の上フランジ11には、頭付きスタッド等のシヤコネクタ21が設けられている。シヤコネクタ21は、床スラブ20に埋設されている。
建築物1は、床スラブ20上に図示しない設備を設置する等して用いられる。
【0021】
図2に、H形鋼10の長手方向の中間部に下向きの外力F1が作用するH形鋼10のFEM(Finite Element Method)による解析結果を示す。H形鋼10の長手方向の端部は、柱15に固定されている。下向きに作用する外力F1により、H形鋼10に曲げモーメントが作用している。この解析結果では、ウェブ13における端部に、局部座屈が生じる領域R1がある。
本実施形態の推定装置は、FEMによる解析を行うことなく、H形鋼10に外力が作用して座屈(局部座屈)したときのH形鋼10の面外変位を推定する。ここで言う面外変位は、面に直交する方向の変位を意味する。
以下では、説明を簡単にするために、推定装置が面外変位を推定する対象である弾性要素が、ウェブ13である場合について説明する。なお、H形鋼10においてフランジ11,12の厚さが無視できる程度に薄い、フランジ11,12の剛性が無視できる程度に低い等の場合には、H形鋼10のウェブ13の面外変位がウェブ13単体の面外変位に等しくなる。
【0022】
図3に、本実施形態の推定装置50を示す。推定装置50はコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)51と、主記憶装置55と、補助記憶装置60と、入出力インタフェース(IO・I/F)65と、記録・再生装置70と、を備えている。CPU51、主記憶装置55、補助記憶装置60、入出力インタフェース65、及び記録・再生装置70は、バス75により互いに接続されている。
主記憶装置55は、CPU51のワークエリア等になるRAM(Random Access Memory)等である。
入出力インタフェース65は、キーボードやマウス等の入力装置66、及び表示装置67に接続される。
記録・再生装置70は、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体71に対するデータの記録や再生を行う。
【0023】
補助記憶装置60は、各種データやプログラム等が記憶されるハードディスクドライブ装置等である。補助記憶装置60には、前記コンピュータを推定装置50として機能させるための変位の推定プログラム(以下、単に推定プログラムと言う)61や、OSプログラム等の各種プログラム等が格納されている。推定プログラム61を含む各種プログラムは、記録・再生装置70を介して記録媒体71から補助記憶装置60に取り込まれる。推定プログラム61等は、記録媒体71に格納される。
なお、これらのプログラムは、CDやDVD等のディスク型の記録媒体や、図示されていない通信装置を介して外部装置から補助記憶装置60に取り込まれてもよい。
【0024】
CPU51は、各種演算処理を実行する。CPU51は、機能的に、ウェブ13の面外変位を推定する推定部52を備えている。CPU51の機能構成要素である推定部52は、補助記憶装置60に格納されている推定プログラム61等をCPU51が実行することで機能する。推定プログラム61等は、推定装置50用のプログラムである。推定プログラム61は、推定装置50を推定部52として機能させる。
【0025】
本実施形態の推定装置50の推定部52では、図4に示すように、ウェブ13の位置座標を、x軸、y軸、及びz軸で構成する右手系の直交座標系に基づいて認識する。ウェブ13は、互いに直交するx軸及びy軸に沿ってそれぞれ延びるとする。x軸及びy軸のうち、例えばx軸は水平面に沿って延び、y軸は上下方向に沿って延びるとする。z軸は、x軸及びy軸にそれぞれ直交し、ウェブ13の厚さ方向に沿うとする。z軸に沿う方向(以下、z軸方向と言う)に見たときに、ウェブ13は、x軸に沿う方向(以下、x軸方向と言う)に延びる辺、及びy軸に沿う方向(以下、y軸方向と言う)に延びる辺をそれぞれ有する矩形状を呈する。ウェブ13は、y軸方向の長さよりもx軸方向の長さが十分長いとする。ここで言うウェブ13が、y軸方向の長さよりもx軸方向の長さが十分長いとは、ウェブ13のx軸方向の各端に配置されy軸方向に延びる表面(以下、x軸方向の端面と言う)13aの境界条件が座屈変形に与える影響を無視できる程度の長さをウェブ13が有していることを意味する。
【0026】
なお、後述するように、ウェブ13のx軸方向の端面13aに外力F2が作用してウェブ13が座屈すると、ウェブ13が、x軸方向の第1端(x軸方向の端面13aの一方)に向かうに従い、z軸の正の向き及びz軸の負の向きに交互に変位して、ウェブ13が全体として複数の波長分の波状(以下、x軸方向に波状と言う)に変位する。ウェブ13において、x軸方向の第2端がx軸の原点であり、この第2端からx軸方向の第1端に向かう向きがx軸の正の向きである。
y軸の原点は、ウェブ13の下端である。y軸の正の向きは、上向きである。
z軸の原点は、ウェブ13のz軸方向の中心(厚さ方向の中心)である。z軸の正の向きは、x軸の正の向き及びy軸の正の向きに対して、右手系の直交座標系を構成する向きである。
【0027】
ここで、ウェブ13のy軸方向の長さ(せい)を、bとする。なお、以下に説明する長さ等の単位には、長さに対しては「m」といった、SI単位が好ましく用いられる。
推定装置は、例えば、ウェブ13に曲げモーメントが作用したときの、x軸及びy軸の所定の座標における面外変位を推定する。
【0028】
本実施形態の推定装置50の推定部52では、ウェブ13の面外変位を推定する際に、以下の1から6の仮定を行っている。
1.ウェブ13の厚さ(z軸方向の長さ)は薄く、ウェブ13の厚さはウェブ13のx軸方向の長さ及びy軸方向の長さに比べて短い。
2.ウェブ13のたわみ(座屈による面外変位)は小さく、ウェブ13の厚さよりも小さい。
3.ウェブ13の厚さ方向の中央面は、ウェブ13の曲げによって伸縮することなく、中立面を保つ。
4.ウェブ13の断面では、曲げに対して平面保持の仮定が成立する。
5.ウェブ13の材料は、均質であり、等方性を有する。
6.ウェブ13に外力が作用したときの変位は、フックの法則に従う。
【0029】
(1.面外変位が基準線に対して対称と推定される場合の面外変位の推定)
図4に示すように、ウェブ13のx軸方向の端面13aにx軸方向に外力(たとえば圧縮力)F2が作用すると、ウェブ13がx軸方向に波状に変位する。外力(たとえば圧縮力)F2は、y軸方向の全長にわたって等しい大きさで作用する外力である。
x軸方向に波状に変位したウェブ13におけるx軸方向の面外変位がsin(πx/a)の式で表されると仮定すると、ウェブ13のx軸方向に波状に変位したウェブ13の波長は、2aになる。
【0030】
ウェブ13に外力(たとえば圧縮力)F2が作用している場合、従来は(1)式で表されるフーリエ級数を用いてウェブ13のz軸方向に向けた面外変位wを推定していた。y軸の座標がyであるウェブ13の部分のYの値は、(y/b)の値となる。このため、ウェブ13のz軸方向に向けた面外変位wは、(1)式のYに(y/b)の値を代入したときの面外変位wの値として得られる。
発明者らは、三角関数を用いつつも、フーリエ級数よりも少ない項数で、ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wを推定できる関数を複数検討した。ここで、ウェブ13のy軸方向の長さbの中心の位置を通り、x軸に沿う線を基準線M1とする。
【0031】
その結果、ウェブ13に外力(たとえば圧縮力)F2が作用し、ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wが基準線M1に対してy軸方向に対称になると推定される場合、ウェブ13のy軸のある座標における面外変位(第1面外変位)wは(11)式により、フーリエ級数よりも少ない項数で推定されることを見出した。ただし、(11)式中のYの値は、y軸の座標をウェブ13のy軸方向の長さbを用いて無次元化した値である。Nは2以上の自然数であり、a,a,bは未定係数である。
cosπY及びcos(π/2)Yは、基底となる。(11)式では、面外変位wをYのみの関数として表している。
【0032】
【数5】
【0033】
ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wが基準線M1に対して対称になると推定される場合とは、例えば、ウェブ13の形状、拘束条件、及びウェブ13に作用する外力の全てが基準線M1に対して対称である場合等である。z軸方向に見て、ウェブ13はx軸方向に沿う辺及びy軸方向に沿う辺を有する矩形状であるため、基準線M1になり得るのは、ウェブ13のy軸方向の中心かつz軸の原点を通りx軸方向に沿う線である。
この例では、ウェブ13のy軸方向の各端に配置されx軸方向に延びる表面(以下、y軸方向の端面と言う)13bがそれぞれ固定支持されていて、外力F2が等分布な圧縮力であるため、ウェブ13の形状、拘束条件、及びウェブ13に作用する外力の全てが、基準線M1に対してy軸方向に対称になる。このため、ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wが基準線M1に対してy軸方向に対称になる、と推定部52が推定(判断)し、推定部52は、ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wを(11)式により推定する。
【0034】
(11)式を用いてウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wを実際に推定するには、以下のような手順で推定することが好ましい。
すなわち、(11-1)式のように、Yの値、及びウェブ13のy軸方向の長さbを用いて表現した値を、y軸の座標とする。言い換えれば、(11-1A)式のように、Yの値は、y軸の座標を長さbを用いて無次元化した値(y軸の座標の2倍を長さbで除した値から1を引いた値)である。
そして、(11)式に(11-1)式を代入して得られる(11-2)式により、ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wを推定する。
【0035】
【数6】
【0036】
なお、前記の推定を推定装置50を操作する操作者が行い、その推定した結果を推定装置50に入力してもよい。
Nが2の場合には、(11)式は(12)式のようになり、(11-2)式は(12-1)式のようになる。
【0037】
【数7】
【0038】
図5に示すように、ウェブ13のx軸方向の長さが半波長aである部分のウェブ13の全領域における面外変位(第2面外変位)Wを、y軸のある座標におけるz軸方向に向けたの面外変位wを用いることによりy軸及びx軸の関数として表すと、(13)式のようになる。
(13)式に(11-2)式を代入すると、(13-1)式が得られる。
【0039】
【数8】
【0040】
図4の面外変位Wは、図5の面外変位Wをx軸方向に繰り返したものである。図4のウェブ13の面外変位Wを推定することと図5のウェブ13の面外変位Wを推定することは同義であることから、前記(13)式は図5の面外変位Wを推定したものである。
例えば、図5のウェブ13に外力F2が作用する前における、ウェブ13においてx軸の座標がx、y軸の座標がyの部分(以下、推定対象部分と言う)のz軸の座標は0である。ウェブ13に外力F2が作用した後において、この推定対象部分における面外変位Wは、(13-2)式により推定され、このときのz軸の座標は、0に(13-2)式により推定した面外変位Wを足した値となる。すなわち、外力F2が作用した後では、推定対象部分は、x軸の座標がx、y軸の座標がy、z軸の座標がWとなる位置に配置されていると推定される。
【0041】
【数9】
【0042】
前記(12)式における未定係数a,a,b,bの値は、以下のように求められる。
ここで、ウェブ13の厚さをt、ウェブ13のポアソン比をν、ウェブ13のヤング係数をE、ウェブ13の板剛性をD、ウェブ13の座屈応力度をσcr、座屈によるウェブ13のx軸方向の変位をδとする。
このとき、板剛性Dは(14)式で表され、座屈変形によりウェブ13内で生じる歪エネルギーU、外力F2により与えられる外力ポテンシャルVは、それぞれ(15)式,(16)式で表される。また、エネルギー法における全ポテンシャルエネルギーΠは、前記歪エネルギーU及び前記外力ポテンシャルVの和である(17)式によって与えられる。
【0043】
【数10】
【0044】
(17)式において全ポテンシャルエネルギーΠを0とした式を座屈応力度σcrについて解くと、(22)式及び(23)式を用いて、(24)式のように座屈応力度σcrが表される。
ただし、a,a,b,b、及び半波長aは(24)式による座屈応力度σcrに最小の正の値を与える実数である。
【0045】
【数11】
【0046】
具体的には、半波長aを定数として扱った状態で、前記全ポテンシャルエネルギーΠを未定係数a,a,b,bで偏微分した関数が0に等しいことを表す方程式を連立させて、実数であるa,a,b,bが求められる。連立方程式の解となるa,a,b,bの組が複数ある場合には、a,a,b,bの複数の組のうち、(24)式による座屈応力度σcrに最小の正の値を与えるa,a,b,bの組に基づいて(a,a,b,bの組を(24)式に代入して)座屈応力度σcrを求める。次に、半波長aを変数として扱い、前記a,a,b,bの組が求められた全ポテンシャルエネルギーΠを半波長aで偏微分した関数が0に等しいことを表す方程式から、半波長aを求める。以上のように求められた前記a,a,b,bの組及び半波長aに基づいて求められた座屈応力度σcrが、求める座屈応力度σcrとなる。
連立方程式の解となる未定係数a,a,b,bの組が1つのみの場合には、a,a,b,bの組が(24)式による座屈応力度σcrに最小の正の値を与える場合に、a,a,b,bの組に基づいて座屈応力度σcrを求める。次に、半波長aを変数として扱い、前述のように座屈応力度σcrを求める。
【0047】
求めた前記a,a,b,b、及び半波長aの値から、ウェブ13のy軸方向の面外変位wを推定した(12-1)式及び(13)式が具体的に求められる。
(12-1)式の精度の評価
図6及び図7に、y軸方向に対称となるようにウェブ13が座屈すると推定される場合の、y軸の座標によるウェブ13の面外変位wの推定結果を表す。この面外変位wは、図5の切断線A1-A1の断面における面外変位である。
図6及び図7において、横軸はウェブ13の長さbに対するy軸の座標(Yの値)を表し、縦軸は推定したウェブ13の面外変位wを表す。横軸の0はウェブ13の下端を表し、横軸の1はウェブ13の上端を表す。なお、図6及び図7では、y軸の座標の0から1までを数十の区間に分割して示している。区間の境界の座標は、例えば0,0.02,0.04,‥,1等である。
【0048】
図6及び図7において、実線による線L1はFEMによる解析結果を表す。FEMにより推定されたウェブ13の面外変位wは、基準線M1(図5参照)に対してy軸方向に対称になる。
図6において、点線による線L2は本実施形態の(12-1)式を用いて推定した結果を表す。線L2が線L1にほぼ一致しているため、線L2が線L1に重なっている。
図7において、点線による線L3は、Nが1の場合の(1)式によるフーリエ級数を用いてウェブ13の面外変位wを推定した結果を表す。同様に、一点鎖線による線L4、二点鎖線による線L5は、Nが5,15の場合の(1)式によるフーリエ級数を用いてウェブ13の面外変位wを推定した結果を表す。線L5が線L1にほぼ一致しているため、線L5が線L1に重なっている。(1)式によるフーリエ級数を用いてウェブ13の面外変位wを推定した結果は、Nが大きくなるのに従い、FEMにより推定されたウェブ13の面外変位wに一致する。
【0049】
表1に、y軸の座標が0及び1以外の各区間の境界の座標におけるFEMで推定したウェブ13のy軸方向の面外変位wに対する(12-1)式(Nが2の場合の(11-2)式)で推定したウェブ13の面外変位wの比の標準偏差に対する、y軸の座標が0及び1以外の各区間の境界の座標におけるFEMで推定したウェブ13の面外変位wに対する(1)式で推定したウェブ13の面外変位wの比の標準偏差、の比を表す。
(1)式において、Nは、1,3,5,7,10,15と変化させた。この比が1であると、FEMで推定したウェブ13の面外変位wに対する(12-1)式で推定したウェブ13の面外変位wの比の散らばり具合、及び(1)式で推定したウェブ13の面外変位wの比の散らばり具合が、互いに同等になる。
表1には、後述するy軸方向に非対称となるようにウェブ13が座屈する場合の結果も併せて載せている。
【0050】
【表1】
【0051】
図8に、表1をグラフ化したものを示す。図8において、横軸はNを表し、縦軸は標準偏差の比を表す。実線による線L8はy軸方向に対称となるようにウェブ13が座屈する場合の結果を表し、点線による線L9はy軸方向に非対称となるようにウェブ13が座屈する場合の結果を表す。
線L8で示すように、Nが大きくなるのに従い標準偏差の比は小さくなるが、Nを15にしても標準偏差の比は10以上である。
【0052】
表2に、y軸の座標が0及び1以外の各区間の境界の座標における(12-1)式で推定したウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wと、FEMで推定したウェブ13の面外変位wと、の差分を2乗したものの和に対する、y軸の座標が0及び1以外の各区間の境界の座標における(1)式で推定したウェブ13の面外変位wと、FEMで推定したウェブ13の面外変位wと、の差分を2乗したものの和、の比を表す。
(1)式において、Nは、1,3,5,7,10,15と変化させた。この比が1であると、FEMで推定したウェブ13の面外変位wに対する、(12-1)式で推定したウェブ13の面外変位wの誤差、及び(1)式で推定したウェブ13の面外変位wの誤差が、互いに同等になる。
表2には、後述するy軸方向に非対称となるようにウェブ13が座屈する場合の結果も併せて載せている。
【0053】
【表2】
【0054】
図9に、表2をグラフ化したものを示す。図9において、横軸はNを表し、縦軸は差分の2乗和の比を表す。実線による線L10はy軸方向に対称となるようにウェブ13が座屈する場合の結果を表し、点線による線L11はy軸方向に非対称となるようにウェブ13が座屈する場合の結果を表す。
線L10で示すように、Nが大きくなるのに従い差分の2乗和の比は小さくなるが、Nを15にしても差分の2乗和の比は10以上である。Nを15にしても、(12-1)式で推定したウェブ13の面外変位wとFEMで推定したウェブ13の面外変位wとの誤差は、(1)式で推定したウェブ13の面外変位wとFEMで推定したウェブ13の面外変位wとの誤差よりも小さい。
【0055】
(2.面外変位が基準線に対して非対称と推定される場合の面外変位の推定)
次に、図10に示すように、ウェブ13のx軸方向の端面13cに外力(たとえば曲げモーメント)F3が作用する場合について説明する。この例では、ウェブ13のy軸方向の端面13bは、x軸方向の全長にわたってそれぞれ固定支持されている。外力(たとえば曲げモーメント)F3は、基準線M1よりも上方でウェブ13を圧縮するように作用する一方で、基準線M1よりも下方でウェブ13を引張るように作用するため、y軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wは基準線M1に対してy軸方向に非対称になると推定される。
ウェブ13の面外変位wが基準線M1に対して非対称になると推定される場合とは、例えば、ウェブ13の形状、拘束条件、及びウェブ13に作用する外力のいずれか1つが基準線M1に対して非対称である場合等である。
【0056】
この例についても発明者らは、フーリエ級数よりも少ない項数で、ウェブ13の面外変位を推定できる関数を複数検討した。その結果、0以上1以下の座標をとるy軸に対して、ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wは(27)式により、フーリエ級数よりも少ない項数で推定されることを見出した。cos2πY及びsinπYは、基底となる。(27)式では、面外変位wをYのみの関数として表している。
なお、この場合には、(27-0)式のように、Yの値、及びウェブ13のy軸方向の長さbを用いて表現した値(Yの値と長さbとの積)を、y軸の座標とする。言い換えれば、(27-0A)式のように、Yの値は、y軸の座標を長さbを用いて(y軸の座標を長さbで除して)無次元化した値である。
【0057】
【数12】
【0058】
ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wが基準線M1に対してy軸方向に非対称になる、と推定部52が推定した場合に、推定部52は、ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wを(27)式により推定する。y軸の座標がyであるウェブ13の部分のz軸方向に向けた面外変位wは、(27)式のYに(y/b)の値を代入したときの面外変位wの値として得られる。
(27)式を用いてウェブ13のYのある値におけるz軸方向に向けた面外変位wを実際に推定するには、以下のような手順で推定することが好ましい。すなわち、(27)式に(11-1)式を代入して得られる(27-1)式により、ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wを推定する。
【0059】
【数13】
【0060】
なお、前記の推定を推定装置50を操作する操作者が行い、その推定した結果を推定装置50に入力してもよい。
【0061】
ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wの推定に(27-1)式を適用する際には、(27-1)式においてNが2であるとした。図10に示すように、ウェブ13のx軸方向の長さが半波長aである部分のウェブ13の全領域における面外変位Wを、y軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wを用いることによりy軸及びx軸の関数として表すと、(28)式のようになる。この場合、歪エネルギーUに関して前記(15)式に代えて、(29)式を用い、外力ポテンシャルVに関して前記(16)式に代えて、(30)式を用いる。
【0062】
【数14】
【0063】
この場合の座屈応力度σcrは、(24)式のように表されるが、定数Aとして(31)式により得られる値を用いる。
【0064】
【数15】
【0065】
未定係数a,a,b,b、及び半波長aの値は、前述のように、(24)式による座屈応力度σcrに最小の正の値を与える実数として求められる。これらa,a,b,b、及び半波長aの値から、ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wを推定した(27-1)式及び(28)式が具体的に求められる。
(27-1)式の精度の評価
図11及び図12に、y軸方向に非対称となるようにウェブ13が座屈する場合の、y軸の座標によるウェブ13の面外変位wの推定結果を表す。この面外変位wは、図10の切断線A2-A2の断面における面外変位である。
図11及び図12において、横軸はウェブ13の長さbに対するy軸の座標を表し、縦軸は推定したウェブ13の面外変位wを表す。
図11及び図12において、実線による線L14はFEMによる解析結果を表す。図11において、点線による線L15は本実施形態の(28)式を用いて推定した結果を表す。
【0066】
図12において、点線による線L16は、Nが1の場合の(1)式によるフーリエ級数を用いてウェブ13の面外変位wを推定した結果を表す。同様に、一点鎖線による線L17、二点鎖線による線L18は、Nが5,15の場合の(1)式によるフーリエ級数を用いてウェブ13の面外変位wを推定した結果を表す。線L18が線L14にほぼ一致しているため、線L18が線L14に重なっている。
(1)式によるフーリエ級数を用いてウェブ13の面外変位wを推定した結果は、Nが大きくなるのに従い、FEMにより推定されたウェブ13の面外変位wに一致する。
【0067】
表1に(1)式及び(27-1)式でウェブ13の面外変位wを推定したときのFEMにより推定されたウェブ13の面外変位wに対する比の標準偏差の比を表し、図8に、表1をグラフ化したものを示す。線L9で示すように、Nが大きくなるのに従い標準偏差の比は小さくなるが、Nを15にしても標準偏差の比は6程度である。Nが3以上の場合には、y軸方向に非対称となるようにウェブ13が座屈する場合の標準偏差の比は、ウェブ13に圧縮力F2が作用する場合の標準偏差の比よりも小さい。
【0068】
表2に、(1)式及び(27-1)式でウェブ13の面外変位wを推定したときのFEMにより推定されたウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wに対する差分の2乗和の比を表す(ただし、(27-1)式においてN=2である。)。図9に、表2をグラフ化したものを示す。線L11で示すように、Nが大きくなるのに従い差分の2乗和の比は小さくなり、Nが15のときには差分の2乗和の比は1よりも小さくなる。すなわち、(1)式で推定したウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wの誤差が(27-1)式で推定したウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wの誤差よりも小さくなる。
なお、FEMにより推定されたウェブ13の面外変位wに対して、Nが15のときの(1)式で推定したウェブ13の面外変位wの誤差と同等の誤差にするための、(27-1)式に必要なNは、15よりも小さいことが分かっている。
【0069】
前記ウェブ13単体の面外変位wの推定は、フランジ11,12の厚さが無視できる程度に薄い、フランジ11,12の剛性が無視できる程度に低い等の場合におけるH形鋼10のウェブ13の面外変位wの推定に用いることができる。
なお、本実施形態の変位の推定方法(以下単に推定方法と言う)では、ウェブ13の面外変位wを(11-2)式又は(27-1)式により推定する推定工程を行う。
なお、yを含む(11-2)式を用いてウェブ13の面外変位wを推定することと、Yを含む(11)式を用いてウェブ13の面外変位wを推定することとは、同義である。同様に、yを含む(27-1)式を用いてウェブ13の面外変位wを推定することと、Yを含む(27)式を用いてウェブ13の面外変位wを推定することとは、同義である。
【0070】
以上説明したように、本実施形態の推定装置50、推定方法、及び推定プログラム61では、発明者らは、三角関数を用いつつも、フーリエ級数よりも少ない項数で、ウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wを推定できる関数を複数検討した。その結果、面外変位wが基準線M1に対して対称な場合には(11)式を用いて、面外変位wが基準線M1に対して非対称な場合には(27)式を用いてウェブ13の面外変位wをそれぞれフーリエ級数よりも少ない項数で精度良く推定できることを見出した。
(11)式又は(27)式は、フーリエ級数よりも少ない項数でウェブ13のy軸のある座標におけるz軸方向に向けた面外変位wを推定できるため、フーリエ級数を用いた場合よりも推定に必要な計算を簡単に行うことができる。さらに、面外変位wを同程度の精度で推定するために必要な項数が、(1)式のフーリエ級数を用いて推定する場合よりも、(11)式又は(27)式を用いて推定する場合の方が少ないため、フーリエ級数を用いた場合よりも推定結果を物理的に理解しやすく定式化することができる。
【0071】
また、(11)式又は(27)式においてNは2である。(11)式又は(27)式は半波長aを含まない式であり、(11)式又は(27)式を求めるのに必要な定数が、未定係数a,a,b,及びbの4つ以下である。このため、解の公式が知られている4次以下の方程式を用いて、未定係数a,a,b,及びbの定数を容易に求めることができる。
【0072】
なお、本実施形態の推定装置50を用いて、H形鋼10の上フランジ11、下フランジ12、及びウェブ13の面外変位wを推定することができる。この場合、フランジ11,12の厚さ(y軸方向の長さ)は、フランジ11,12のx軸方向の長さ及びz軸方向の長さに比べて小さいことが好ましい。
【0073】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、(11)式、(27)式等におけるNは3以上でもよい。
弾性要素であるH形鋼10は鉄鋼で形成されているとしたが、弾性要素を形成する材料は弾性をしていれば鉄鋼に限定されず、木やゴム等でもよい。
【符号の説明】
【0074】
13 ウェブ(弾性要素)
13a,13c 端面
50 変位の推定装置(推定装置)
52 推定部
M1 基準線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12