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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20230117BHJP
【FI】
B60H1/22 611C
B60H1/22 671
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019189004
(22)【出願日】2019-10-15
(65)【公開番号】P2021062787
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 伸弘
【審査官】村山 美保
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-263123(JP,A)
【文献】特開平09-240257(JP,A)
【文献】特開平11-268523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般温度調整要素を経た空調空気が導入される一般導入口と、車両室内を向く一般吹出口と、前記一般導入口と前記一般吹出口とを連絡する一般ダクトと、を具備する一般空調ユニットと、
車両室内において前部座席の側方に配置されている筐体と、温度調整器とブロワとを具備し前記筐体の内部に配置され前記一般温度調整要素よりも短時間で暖機される近接温度調整要素と、前記近接温度調整要素を経た空調空気が導入される近接導入口と、前記筐体の表面に露出し前記前部座席を向く近接吹出口と、前記近接導入口と前記近接吹出口とを連絡する近接ダクトと、を具備する近接空調ユニットと、を具備し、
車両の起動後に先ず、前記一般空調ユニットの暖房運転を停止したままで前記近接空調ユニットの暖房運転を開始し次いで、所定の運転期間が経過した後に、前記一般空調ユニットの暖房運転を開始し、
前記近接空調ユニットの暖房運転を開始する際に、先ず、前記ブロワをオフにしたままで前記温度調整器をオンにし、次いで、所定の待機期間が経過した後に、前記ブロワをオンにし、
前記所定の待機期間の終点は、前記温度調整器の起動後に30秒以上の所定時間が経過したとき、および/または、前記温度調整器付近の温度が30℃以上の所定温度になったときである、車両用空調装置。
【請求項2】
前記所定の運転期間の終点は、前記近接空調ユニットの暖房運転を開始した後3分以上の所定時間が経過したとき、および/または、前記一般空調ユニットの前記吹き出し口付近の温度が30℃以上の所定温度になったときである、請求項に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記一般吹出口は、前記車両室内において前部座席の前側かつ下側に開口する足元用フロント吹出口である、請求項1または請求項2に記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両室内全体を空調するための空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両には、車両室内全体を暖房や冷房するための空調装置が搭載されている。この種の空調装置は、暖房のための温熱や冷房のための冷熱を生じるための温度調整要素を有する。例えば、ガソリン等の石油燃料を動力源としエンジンを原動機とするエンジン車においては、温度調整要素における暖房用の熱源として、石油燃料の燃焼時の排熱を利用するのが一般的である。
【0003】
近年台頭がめざましい電気自動車は、リチウムイオン二次電池等の自動車用電池を動力源とするものである。電気自動車では石油燃料の燃焼時の排熱を利用できないため、電気自動車用の温度調整要素は、暖房用の熱源として電熱ヒータを備えるのが一般的である。当該電熱ヒータは、電気モータの動力源である自動車用電池を動力源とする。
エンジンと電気モータとを併用したハイブリッド車については、温度調整要素の暖房時の熱源はその走行モードに応じて決定され得る。当該熱源としては、エンジン車と同様に排熱が用いられるか、または、電気自動車と同様に自動車用電池を動力源とする電熱ヒータが用いられる。
【0004】
これらの温度調整要素は、車両室内全体を空調する都合上、大型となる傾向がある。このような温度調整要素は、一般には、車両における前側かつ車両室外、例えばインストルメントパネルの裏側等に配置されている(例えば、特許文献1参照)。一般的な空調装置においては、温度調整要素を経た空調空気は、導入口を通じてダクトに流入し、車両室内を向く吹出口を経て、車両室内に供給される。
【0005】
ところで、寒冷時において、車両の起動開始直後に空調装置の暖房運転を開始すると、温度調整要素の熱源であるエンジンや電熱ヒータが冷たいことにより、これらを経た空調空気は、求められる温度を大きく下回る。また、当該温度調整要素は車両の前端部に配置され、当該温度調整要素から、車両室内の座席に着座する乗員までの距離は遠い。したがって、温度調整要素を経た空調空気の温度は乗員に到達する迄にさらに低下する。したがって、車両の起動開始直後に暖房運転を開始すると、空調装置は冷たい空調空気を吹き出すだけであり、このことが乗員に与える不快感は非常に大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-81024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、車両の起動開始直後に暖房運転を開始した場合において、冷たい空調空気が供給されることにより乗員に与える不快感を軽減し得る車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の車両用空調装置は、
一般温度調整要素を経た空調空気が導入される一般導入口と、車両室内を向く一般吹出口と、前記一般導入口と前記一般吹出口とを連絡する一般ダクトと、を具備する一般空調ユニットと、
車両室内において前部座席の側方に配置されている筐体と、温度調整器とブロワとを具備し前記筐体の内部に配置されている近接温度調整要素と、前記近接温度調整要素を経た空調空気が導入される近接導入口と、前記筐体の表面に露出し前記前部座席を向く近接吹出口と、前記近接導入口と前記近接吹出口とを連絡する近接ダクトと、を具備する近接空調ユニットと、を具備し、
車両の起動後に、
先ず、前記一般空調ユニットの暖房運転を停止したままで前記近接空調ユニットの暖房運転を開始し、
次いで、所定の近接空調運転期間が経過した後に、前記一般空調ユニットの暖房運転を開始する、車両用空調装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用空調装置によると、車両の起動開始直後に暖房運転を開始した場合にも、冷たい空調空気が供給されることにより乗員に与える不快感を軽減し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車両室内における実施例1の車両用空調装置を模式的に表す説明図である。
図2】実施例1の車両用空調装置を側面視した様子を模式的に表す説明図である。
図3】実施例1の車両用空調装置を側面視した様子を模式的に表す説明図である。
図4】実施例1の車両用空調装置における前部座席用の近接吹出口を模式的に表す説明図である。
図5】実施例1の車両用空調装置における前部座席用の近接吹出口を模式的に表す説明図である。
図6】実施例1の車両用空調装置におけるリヤ近接空調ユニットの要部を模式的に表す説明図である。
図7】評価試験1の結果を表すグラフである。
図8】評価試験2の結果を表すグラフである。
図9】評価試験2の結果を表すグラフである。
図10】実施例2の車両用空調装置の要部を模式的に表す説明図である。
図11】実施例2の車両用空調装置の要部を模式的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の車両用空調装置は、一般空調ユニットと近接空調ユニットとを有する。
このうち一般空調ユニットは、車両室内を向く一般吹出口を具備するものであり、既述した従来の空調装置と同様に、車両室内全体を空調するためのものである。
【0012】
一方、近接空調ユニットは、前部座席を向く近接吹出口を有する。このような吹出口を有する近接空調ユニットでは、前部座席に着座した乗員に対して空調空気を吹き出すことで、車両室内において乗員に近接した部分だけに空調を行うことができる。
【0013】
本明細書においては、このように「車両室内において乗員に近接した部分だけに空調を行う」技術を近接空調と称し、近接空調を行うための機構を近接空調ユニットと称する。近接空調を行うための温度調整要素を近接温度調整要素と称する。
また、従来どおりに車両室内の広範囲にわたって空調を行う技術を一般空調と称し、当該一般空調を行うための機構を一般空調ユニットと称する。一般空調を行うための温度調整要素を一般温度調整要素と称する。
【0014】
本発明の車両用空調装置は、一般空調ユニットによって一般空調を行うことができ、かつ、近接空調ユニットによって近接空調を行うことができる。
【0015】
一般空調ユニットが車両室内全体を空調する都合上、一般空調ユニットの一般温度調整要素は大型となる傾向がある。したがって、このような一般温度調整要素を暖機するには比較的長い時間を要する。このため、従来の空調装置において車両の起動直後に暖房運転を開始した場合に冷たい空調空気が吹き出す現象の主たる要因は、当該一般空調ユニットにあると考えられる。
【0016】
一方、近接空調ユニットの近接温度調整要素は、乗員に近接した部分だけに空調を行う都合上、一般温度調整要素に比べると小型であり比較的短時間で暖機され得る。
また、近接温度調整要素は、車両室内において近接吹出口および前部座席の近くに配置される。このため、近接温度調整要素を経た空調空気は、前部座席に着座した乗員に迅速に供給される。したがって、当該空調空気の温度は大きく温度低下することなく、乗員に到達する。
【0017】
さらに、一般空調ユニットの一般吹出口が車両室内を向き、当該一般吹出口から吹き出した空調空気が車両室内に供給されるのに対し、近接空調ユニットの近接吹出口は前部座席を向き、当該近接吹出口から吹き出した空調空気は前部座席に着座した乗員に直接吹きつけられる。このため、一般空調ユニットによると車両室内全体を温めることにより乗員を間接的に温めるのに対し、近接空調ユニットによると乗員を直接的に温める。これにより、近接空調ユニットによると、前部座席に着座した各乗員を迅速にかつ効率良く温め得る。
【0018】
ここで、本発明の車両用空調装置によると、車両の起動後に、先ず、一般空調ユニットの暖房運転を停止したままで近接空調ユニットの暖房運転を開始し、次いで、所定の運転期間が経過した後に、一般空調ユニットの暖房運転を開始する。
【0019】
既述したように、車両の起動直後において、一般空調ユニットの一般温度調整要素は暖機前であり一般空調ユニットは冷たい空調空気を吹き出す状態にある。一方、リヤ近接空調ユニット用のリヤ近接温度調整要素は、一般空調ユニット用の一般温度調整要素に比べて暖機に要する時間が短い。このため、リヤ近接温度調整要素を経た空調空気は、迅速に温められる。
したがって、本発明の車両用空調装置によると、車両の起動後に、先ず、一般空調ユニットの暖房運転を停止したままで近接空調ユニットの暖房運転を開始することで、冷たい一般温度調整要素を経た空調空気が車両室内に供給されることを阻止しつつ、近接温度調整要素により迅速に温めた空調空気を後部座席に着座した乗員に供給し得る。
【0020】
また、近接空調ユニットの暖房運転開始後、所定の運転期間が経過した後に、一般空調ユニットの暖房運転を開始することで、一般空調ユニットにより車両室内の全体を暖房することが可能である。このような本発明の車両用空調装置によると、車両の起動開始直後に暖房運転を開始した場合において、冷たい空調空気が供給されることにより乗員に与える不快感を軽減し得る。
【0021】
なお、詳細は後述する実施例の欄で説明するが、本発明の発明者は、実際に、一般空調ユニットと近接空調ユニットとを有し、かつ、上記した制御方法で暖房運転される本発明の車両用空調装置を製造した。そして、車両の起動開始直後に当該本発明の車両用空調装置により暖房運転を開始し、前部座席に着座した乗員の近傍における温度の推移を測定した。その結果、前部座席に着座した乗員の近傍における温度は、近接空調ユニットの暖房運転開始後間もなく好適な温度にまで上昇し、かつ、所定の運転期間の経過後に近接空調ユニットの暖房運転を停止し一般空調ユニットの暖房運転を開始しても、あまり低下しなかった。
つまり、本発明の車両用空調装置によると車両の起動開始直後に暖房運転を開始した場合にも、実際に、乗員は冷たさを感じ難く、これにより乗員に与える不快感を軽減し得ることは、実験により裏付けられている。
【0022】
以下、本発明の車両用空調装置を構成要素毎に説明する。
なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施形態中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0023】
以下、必要に応じて、空調空気の流路上流側を単に上流側と称し、空調空気の流路下流側を単に下流側と称する場合がある。
さらに、本発明の車両用空調装置は、後述するように、後部座席用の近接空調ユニットを備え得る。当該後部座席用の近接空調ユニットと上記した前部座席用の近接空調ユニットとを区別するために、必要に応じて、前者をリヤ近接空調ユニットと称し、後者をフロント近接空調ユニットと称する場合がある。また、前部座席用の近接空調をフロント近接空調と称し、後部座席用の近接空調をリヤ近接空調と称する場合がある。さらに、フロント近接空調ユニットにおける各構成要素のはじめに「フロント」を付し、リヤ近接空調ユニットにおける各構成要素のはじめに「リヤ」を付す場合がある。加えて、後述するフロント近接空調における「運転期間」、「待機期間」の初めに「フロント」を付し、リヤ近接空調における「運転期間」、「待機期間」の初めに「リヤ」を付す場合がある。
【0024】
本発明の車両用空調装置は、一般空調ユニットとフロント近接空調ユニットとを具備する。
一般空調ユニットは、一般温度調整要素を経た空調空気が導入される一般導入口と、車両室内を向く一般吹出口と、一般導入口と一般吹出口とを連絡する一般ダクトと、を具備する。
このうち一般温度調整要素としては、温度調整器とブロワとを具備する、一般的なものを使用することができる。温度調整器としては、例えば、既述したように暖房用の熱源として電熱ヒータを有する、所謂暖房換気空調(HVAC:heating ventilating air conditioning)システムと称されるものを用いても良いし、または、エンジンの排熱を熱源とするものを用いても良い。一般温度調整要素のブロワとしては、シロッコファンやプロペラファン等の一般的なものを用い得る。
本明細書では、必要に応じて、一般温度調整要素の温度調整器およびブロワを、各々、一般温度調整器および一般ブロワと称し、近接温度調整要素の温度調整器およびブロワを、各々、近接温度調整器および近接ブロワ等と称することで、両者を区別するものとする。
【0025】
なお、本明細書において、一般空調ユニットを暖房運転する、とは、一般温度調整要素を経た空調空気が車両室内に供給される状態をいう。具体的には、このとき一般温度調整器はオン状態であり、一般ブロワもまたオン状態であるといえる。
同様に、本明細書において、フロント近接空調ユニットを暖房運転する、とは、フロント近接温度調整要素を経た空調空気が車両室内に供給される状態をいう。このときフロント近接温度調整器はオン状態であり、フロント近接ブロワもまたオン状態である。
【0026】
これとは逆に、一般空調ユニットの暖房運転を停止する、とは、一般温度調整要素を経た空調空気が車両室内に供給されない状態をいう。このとき、少なくとも一般ブロワがオフ状態であれば、一般温度調整器はオン状態であっても良い。一般ブロワがオフ停止状態であれば、一般温度調整要素を経た空調空気が車両室内に供給されることはない。勿論、このとき一般温度調整器はオフ状態にあっても良い。
同様に、フロント近接空調ユニットの暖房運転を停止する、とは、フロント近接温度調整要素を経た空調空気が車両室内に供給されない状態をいう。そして、このとき少なくともフロント近接ブロワがオフ停止状態であれば、フロント近接温度調整器はオン状態であっても良い。
【0027】
本発明の車両用空調装置は、上記した一般温度調整要素を具備しても良いが、当該一般温度調整要素を経た空調空気が一般空調ユニットに導入されるだけであっても良い。この場合にも、一般温度調整要素の運転制御、すなわち、一般温度調整器や一般ブロワのオン/オフ制御ができれば、本発明の車両用空調装置は、上記した効果を奏し得る。
この視点から、本発明の車両用空調装置は、一般温度調整要素およびフロント近接温度調整要素の暖房運転状態を制御可能な空調制御要素を有する、捉えることもできる。空調制御要素は、一般温度調整要素およびフロント近接温度調整要素のみの制御を行うものであっても良いし、その他の車両用電装品を制御するための制御要素と兼用しても良い。例えば、空調制御要素は、車両のECU(engine-control-unit)に一体化されていても良い。
【0028】
本発明の車両用空調装置は、暖房運転のみを行うものであっても良いし、暖房運転と冷房運転とを行うものであっても良い。この場合、近接空調ユニットおよび一般空調ユニットの両方が暖房運転可能かつ冷房運転可能であっても良いし、近接空調ユニットと一般空調ユニットとの一方のみが暖房運転可能かつ冷房運転可能であり他方が暖房運転可能であっても良い。
【0029】
さらには、近接空調ユニットおよび一般空調ユニットは、冷房運転を行う際に上記と同様の運転制御を行っても良い。これを基に、以下のような発明を抽出することが可能である。
一般温度調整要素を経た空調空気が導入される一般導入口と、車両室内を向く一般吹出口と、前記一般導入口と前記一般吹出口とを連絡する一般ダクトと、を具備する一般空調ユニットと、
車両室内において前部座席の側方に配置されている筐体と、前記筐体の内部に配置されている近接温度調整要素と、前記近接温度調整要素を経た空調空気が導入される近接導入口と、前記筐体の表面に露出し前記前部座席を向く近接吹出口と、前記近接導入口と前記近接吹出口とを連絡する近接ダクトと、を具備する近接空調ユニットと、を具備し、
車両の起動後に、
先ず、前記一般空調ユニットの冷房運転を停止したままで前記近接空調ユニットの冷房運転を開始し、
次いで、所定の近接空調運転期間が経過した後に、前記一般空調ユニットの冷房運転を開始する、車両用空調装置。
上記の車両用空調装置によると、熱暑時等の一般空調ユニットの一般温度調整要素が熱くなっているときにも、車両の起動開始直後に冷房運転を開始した場合に、一般空調ユニットから熱風が吹き出すことを抑制できる。これにより、当該車両用空調装置によると、乗員に与える不快感を軽減し得る。
【0030】
一般空調ユニットの一般導入口は、上記した一般温度調整要素を経た空調空気が導入されれば良く、一般温度調整要素の位置に応じた位置に配置すれば良い。例えば、一般温度調整要素がインストルメントパネルの裏側、すなわち、インストルメントパネルの車両進行方向先側に配置される場合には、一般導入口もまたインストルメントパネルの裏側に配置すれば良い。一般温度調整要素に接続用のダクトが設けられていれば、一般導入口は当該接続用のダクトに接続すれば良い。
【0031】
一般空調ユニットの一般吹出口は、車両室内を向くものであれば良く、例えば、車両室内において前部座席の前側かつ下側に開口する足元用フロント吹出口、インストルメントパネルに設けられ前部座席の前側に開口する前部座席用吹出口、フロントウインドウの下側に配置され上側に開口するデフロスタ、コンソールボックスにおける筐体に配置され後部座席の前側に開口するコンソール一般吹出口等を例示できる。
【0032】
一般ダクトは、上記した一般導入口と一般吹出口とを連絡するダクトであれば良い。当該一般ダクトの内部には一般温度調整要素を経た空調空気が流通する。
【0033】
フロント近接空調ユニットは、車両室内において前部座席の側方に配置されているフロント筐体と、フロント近接温度調整器とフロント近接ブロワとを具備しフロント筐体の内部に配置されているフロント近接温度調整要素と、フロント近接温度調整要素を経た空調空気が導入されるフロント近接導入口と、フロント筐体の表面に露出し前部座席を向くフロント近接吹出口と、フロント近接導入口とフロント近接吹出口とを連絡するフロント近接ダクトと、を具備する。
【0034】
このうちフロント筐体は、二つの前部座席、例えば運転席と助手席との間に配置されても良いし、何れか一つの前部座席のみの側方、例えば前部座席とドアとの間に配置されても良い。
フロント筐体としては内部空間を有するものが用いられる。フロント筐体の内部空間には、フロント近接温度調整要素が配置される。前部座席を向くフロント近接吹出口は、フロント筐体の表面に露出するように、フロント筐体に一体化される。また、フロント近接温度調整要素を経た空調空気が導入されるフロント近接導入口、および、フロント近接導入口とフロント近接吹出口とを連絡するフロント近接ダクトもまた、フロント筐体の内部に配置される。
【0035】
フロント筐体の内部空間には、上記したフロント近接空調ユニットの各構成要素のみを配置しても良いし、当該フロント近接空調ユニットの構成要素に加えて、後述するリヤ近接空調ユニットの各構成要素を配置することもできる。さらに、これらに加えて、それ以外の車両搭載機器を配置しても良い。当該車両搭載機器としては、例えば、ドリンクホルダ、テーブル、オーディオ機器、カーナビゲーションシステムまたはそのモニタ、各種の機器を操作するためのタッチパネル等が例示される。
【0036】
フロント近接温度調整器は、加熱のみを行うものであっても良いし、加熱と冷却との両方を行うものであっても良い。例えば、フロント近接温度調整器としては、PTCヒータ等の電熱ヒータを好ましく用い得る。場合によっては、熱電変換素子、吸着式や吸収式のヒートポンプ等をフロント近接温度調整器として用いても良い。
【0037】
フロント近接ブロワとしては、一般ブロワと同様に、シロッコファンやプロペラファン等の一般的なものを用い得る。なお、フロント近接ブロワの大きさや出力は、フロント近接温度調整器の大きさに応じて適宜設定すれば良いが、既述したように、フロント近接温度調整器としては一般温度調整器よりも小さなものを使用することができる。また、フロント近接空調ユニットは座席に着座した乗員の近くに配置される。このため、フロント近接ブロワとしては、一般ブロワよりも小さくかつ低出力のものを好適に使用できる。
【0038】
フロント筐体の表面に露出するフロント近接吹出口の形状は特に限定しないが、前部座席に着座した乗員の近傍を近接空調することを考慮すると、前部座席に着座した乗員に沿って延びるスリット状であることが好ましい。
具体的には、当該フロント近接吹出口は、前部座席の前後方向に沿って延びるのが好ましい。換言すると、フロント近接吹出口における長手方向の一端部は、前部座席の前後方向において、長手方向の他端部よりも前側に位置するのが好ましい。この場合には、フロント近接吹出口から吹き出す空調空気を乗員の脚部に吹きつけ得る。
または、当該フロント近接吹出口は、前部座席の上下方向に沿って延びても良い。換言すると、フロント近接吹出口における長手方向の一端部は、前部座席の上下方向において、長手方向の他端部よりも上側に位置するのが好ましい。この場合には、フロント近接吹出口から吹き出す空調空気を乗員の胴体に吹きつけ得る。
【0039】
ここで、例えば、「フロント近接吹出口における長手方向の一端部が前部座席の前後方向において他端部よりも前側に位置する」とは、「フロント近接吹出口の長手方向を前部座席の前後方向と概略同じ方向に向ける」ことを意味する。フロント近接吹出口の長手方向は前部座席の前後方向と一致しなくて良いが、両者のなす角は90°以下であるのが好ましく、45°以下であるのがより好ましく、30°以下であるのがさらに好ましく、15°以下であるのが特に好ましい。
【0040】
また、「座席の前後方向」は、「座席の向き」と捉えることもでき、座席に着座し乗員の臀部と膝とをむすぶ方向と一致する。当該乗員の膝側が座席の前側であり、臀部側が座席の後側である。
【0041】
フロント近接吹出口の長手方向を前部座席の前後方向と概略同じ方向に向けることで、フロント近接吹出口から流出した空調空気を、乗員の臀部と膝との間にある大腿部の全体にわたって吹きつけることができ、乗員の大腿部を効率良く暖めまたは冷やすことができる。
【0042】
ここで、寒冷下においては人体の背中や大腿部を暖めるのが良いとされているため、より小さい熱量によって乗員に暖かさを知覚させるためには、乗員の背中や大腿部を集中的に暖めるのが合理的である。
背中に関しては、座席の背もたれに覆われ、場合によってはシートヒータで暖められる。このため乗員は、背中よりも大腿部において、より寒さや暖かさを知覚し易いと考えられる。
【0043】
本発明の車両用空調装置において、フロント近接吹出口の形状を前部座席の前後方向に沿って延びるスリット状とする場合には、フロント近接空調の空調空気を乗員の大腿部に集中して、かつ、当該大腿部の全体にわたって吹きつけることができる。このことにより、乗員が快適な温度であると知覚するように、効率の良い空調を行うことが可能である。
【0044】
前部座席に着座した乗員の大腿部を充分な範囲で温めるまたは冷やすためには、フロント近接吹出口の長手方向の長さをある程度長くするのが好ましい。具体的には、当該フロント近接吹出口の長手方向の長さは、前部座席における座面の前後方向の長さの50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがさらに好ましい。
フロント近接吹出口の長手方向の実際の長さは、150mm以上であるのが好ましく、170mm以上であるのがより好ましく、200mm以上であるのが特に好ましい。
【0045】
なお、フロント近接吹出口は、長手方向を有する都合上、短手方向も有する。フロント近接吹出口の長手方向の長さと短手方向の長さとの比率は特に問わないが、省エネルギの観点からは、フロント近接吹出口の流路断面積は過大でないのが好ましい。したがって、フロント近接吹出口における短手方向の長さは短い方が好ましい。具体的には、フロント近接吹出口の長手方向の長さは短手方向の長さの2倍以上であるのが好ましく、3倍以上であるのがより好ましく、5倍以上であるのがさらに好ましく、10倍以上であるのが特に好ましい。長手方向と短手方向とは直交する方向であるのが好ましいが、両者は直角以外の角度で交差しても構わない。この場合の両者の交差角(劣角)は、45°以上であるのが好ましく、60°以上であるのがより好ましく、75°以上であるのがさらに好ましい。
【0046】
さらに、フロント近接空調により乗員の大腿部をより効率的に暖めるまたは冷やすためには、空調空気が乗員の大腿部の上を流通するのが良い。このため、フロント近接吹出口は前部座席の座面よりもさらに上側に位置するのが好ましい。好ましくは、フロント近接吹出口の上端は、前部座席の座面よりも上側にあり、かつ、フロント近接吹出口の上端と座面との上下方向の距離は50mm以上であるのが好ましい。また、この場合、フロント近接吹出口の下端もまた座面よりも上側にあり、かつフロント近接吹出口の下端と座面との上下方向の距離は10mm以上であるのがより好ましい。
上記したフロント近接吹出口の上端と座面との上下方向の距離のより好ましい範囲として、70mm以上、100mm以上、150mm以上の各範囲を挙げることができる。当該フロント近接吹出口の上端と座面との上下方向の距離に特に上限はないが、好ましい範囲として、250mm以下、230mm以下、200mm以下の各範囲を挙げることができる。
【0047】
また、上記したフロント近接吹出口の下端と座面との上下方向の距離のより好ましい範囲として、20mm以上、40mm以上、80mm以上の各範囲を挙げることができる。当該フロント近接吹出口の下端と座面との上下方向の距離に特に上限はないが、好ましい範囲として、170mm以下、150mm以下、140mm以下の各範囲を挙げることができる。
【0048】
さらに、フロント近接空調において、空調空気は、乗員の身体のなるべく大きな範囲に吹きつけるのが好ましい。例えば、フロント近接吹出口によって乗員の大腿部を温めまたは冷やす場合には、空調空気は、乗員の一対の大腿部のうち吹出口に近い側の大腿部から遠い側の大腿部に向けて、流通するのが良い。乗員の二つの大腿部の上に空調空気を流通させるためには、前部座席に対してフロント筐体とは逆側の側方に、空調空気を吸入する吸入ダクトを設ければ良い。こうすることで、乗員の大腿部の上方で空調空気の乱流が生じたり、滞留したりすることが抑制され、乗員の大腿部に適度に温度調整された空調空気が連続的に供給される。したがって、この場合には、乗員の大腿部を効率的に暖め得る。このような吸入ダクトは、例えば、前部座席を挟んでフロント筐体と逆側に位置するサイドドアに設けることができる。
【0049】
前部座席に着座した乗員の大腿部をフロント近接空調によって効率的に暖めるためには、空調空気は、スリット状をなすフロント近接吹出口の長手方向の全体にわたって、均一に吹き出すのが好ましい。
当該フロント近接吹出口の長手方向の全体にわたって空調空気を均一に吹き出すためには、フロント近接ダクトのうちフロント近接吹出口の上流側に位置する部分に、空調空気を整流するための整流機構を設けるのが有効である。
【0050】
上記した整流機構の具体的な構造は実施例の欄に例示するが、フロント近接ダクトに当該整流機構を設ける目的は、フロント近接吹出口の上流側において、フロント近接ダクトにおける空調空気の流通方向を変えることで、当該空調空気をフロント近接吹出口の長手方向の全体にわたって略均等に分配することにある。フロント近接ダクトにおける空調空気の流通方向を変えることで、フロント近接ダクトを流通する空調空気がフロント近接吹出口の一部から直接吹き出すことが抑制されれば、当該空調空気をフロント近接吹出口の長手方向に均等に分配し易くなる。
【0051】
本発明の車両用空調装置においては、車両の起動後に、先ず、一般空調ユニットの暖房運転を停止したままでフロント近接空調ユニットの暖房運転を開始し、次いで、所定のフロント運転期間が経過した後に、一般空調ユニットの暖房運転を開始する。これにより、本発明の車両用空調装置によると、車両の起動開始直後に暖房運転を開始した場合にも、冷たい空調空気の供給を抑制し得る。
なお、ここでいう車両の起動後とは、電気自動車やハイブリッド車においては車両の電源を起動した後を意味し、エンジン車においては電源に加えてエンジンを起動した後を意味する。
【0052】
ところで、本発明の車両用空調装置においては、上記した「所定の」フロント運転期間の具体的な長さは特に規定せず、車両の起動後、一般空調ユニットの暖房運転を開始する前に、少しでもフロント近接空調ユニットの暖房運転を行えば、乗員への冷たい空調空気の供給が抑制される本発明の効果が生じる。しかし、当然乍ら、フロント運転期間がある程度長い方が当該効果は大きくなる。このため、上記したフロント運転期間には好ましい範囲が存在すると考えられる。
【0053】
具体的には、当該所定のフロント運転期間は、フロント近接空調ユニットの暖房運転を開始した後3分以上の所定時間が経過したとき、および/または、一般空調ユニットの一般吹出口付近の温度が30℃以上の所定温度になったときであるのが好ましい。フロント近接空調をこのような運転期間で行った後に一般空調ユニットの暖房運転を開始することで、フロント近接空調によって乗員が充分に温められてから車両室内全体の一般空調が開始されるために、一般空調ユニットの暖房運転開始直後に一般吹出口から仮に冷たい空調空気が吹き出したとしても、乗員が当該空調空気の冷たさを知覚し難くなる。なお、一般空調ユニットの暖房運転停止時にも、一般温度調整器がオン状態である場合には、一般空調ユニットの一般吹出口付近の温度は徐々に上昇する。
【0054】
上記した所定のフロント運転期間は、フロント近接空調ユニットの暖房運転を開始した後4分以上の所定時間が経過したとき、および/または、一般空調ユニットの一般吹出口付近の温度が35℃以上の所定温度になったときであるのがより好ましい。
【0055】
ここで、一般空調ユニットにおける一般吹出口付近の温度は、例えば赤外線センサ等の温度センサによって実測しても良いし、演算により求めても良い。例えば、一般導入口の内部に赤外線センサ等の温度センサを配置しても良い。また、HVACシステム等の一般温度調整要素が何らかの接続用ダクトを介して一般導入口に接続される場合には、当該接続用ダクトの内部に温度センサを配置しても良い。更には、電気自動車やハイブリッド車においては、外気温や電動モータの運転時間、電動モータの回転数、電動モータの温度、電動モータの停止時間等を基にして、また、エンジン車であれば外気温やエンジンの運転時間、エンジンの回転数やエンジンの温度、エンジンの停止時間等を基にして、一般温度調整要素の温度を演算し、当該一般温度調整要素の温度を基に一般吹出口付近の温度を演算しても良い。
【0056】
既述したように、フロント近接温度調整要素は、一般温度調整要素に比べて速く暖機され得る。しかし乍ら、フロント近接空調ユニットの暖房運転開始直後には、フロント近接温度調整要素が冷たいために、フロント近接吹出口から冷たい空調空気が吹き出す虞がある。
本発明の車両用空調装置においては、フロント近接空調ユニットにおけるフロント近接温度調整器とフロント近接ブロワとを異なるタイミングでオン/オフ制御する場合に、フロント近接吹出口から冷たい空調空気が吹き出すことを抑制し得る。
【0057】
具体的には、車両の起動後、フロント近接空調ユニットの暖房運転を開始する際に、先ず、フロント近接ブロワをオフにしたままでフロント近接温度調整器をオンにし、次いで、所定のフロント待機期間が経過した後に、フロント近接ブロワをオンにする。予め温められたフロント近接温度調整器により空調空気は信頼性高く温められ、フロント近接吹出口からは温かい空調空気が吹き出す。
【0058】
ここでいう「所定の」フロント待機期間の具体的な長さは特に規定しないが、フロント待機期間がある程度長い方が、上記した効果は大きくなる。
フロント待機期間は、フロント近接温度調整器の起動後30秒以上の所定時間が経過したとき、および/または、フロント近接温度調整器付近の温度が30℃以上の所定温度になったときであるのが好ましく、フロント近接温度調整器の起動後60秒以上の所定時間が経過したとき、および/または、フロント近接温度調整器付近の温度が35℃以上の所定温度になったときであるのがより好ましい。
【0059】
なお、フロント近接空調器付近の温度は、温度センサにより実測しても良いし、リヤ近接空調器の設定温度を基に演算しても良い。
【0060】
一般空調についても同様に、一般温度調整器と一般ブロワとを異なるタイミングでオン/オフ制御することができる。具体的には、フロント運転期間の経過後、一般空調ユニットの暖房運転を開始する際に、先ず、一般温度調整器をオンにし、次いで、所定の一般待機期間が経過した後に一般ブロワをオンにする。この場合、一般吹出口から冷たい空調空気が吹き出すことをさらに抑制し得る。
なお、一般温度調整器は、車両の起動時に予めオンにしておいても良い。何れの場合にも、一般温度調整器の暖機が完了するまで一般ブロワをオフにしていれば、暖機前の一般温度調整器を経た冷たい空調空気は、車両室内に吹き出さない。上記した所定の一般待機期間の具体的な長さは特に規定しないが、既述したフロント待機期間と同様にして、一般温度調整器の起動後経過時間、および/または一般温度調整器付近の温度に応じて適宜設定すれば良い。
【0061】
車両には、前部座席以外にも後部座席が配置される場合が多い。当該後部座席については、前部座席のフロント近接空調と同様に、リヤ近接空調を行うことができる。
【0062】
リヤ近接空調には、車両室内において後部座席の前方に配置されているリヤ筐体と、リヤ近接温度調整器とリヤ近接ブロワとを具備し前記リヤ筐体の内部に配置されているリヤ近接温度調整要素と、前記リヤ近接温度調整要素を経た空気が導入されるリヤ近接導入口と、前記リヤ筐体の表面に露出し前記後部座席を向くリヤ近接吹出口と、前記リヤ近接導入口と前記リヤ近接吹出口とを連絡するリヤ近接ダクトと、を具備するリヤ近接空調ユニットを使用し得る。なお、リヤ近接ダクト、リヤ近接導入口およびリヤ近接吹出口は、リヤ近接温度調整要素とともに、リヤ筐体の内部に配置すれば良い。
【0063】
リヤ近接空調ユニットの各構成要素は、前部座席用のフロント近接空調ユニットにおける各構成要素と別個に設けても良いし、一部併用しても良い。具体的には、リヤ近接吹出口については、後部座席を向く都合上、フロント近接空調ユニットにおけるフロント近接吹出口とは別個に設ける必要がある。しかしそれ以外の構成要素は、フロント近接空調ユニットにおける各構成要素と併用することが可能である。例えば、リヤ筐体、リヤ近接温度調整要素、および、リヤ近接導入口は、フロント筐体、フロント近接温度調整要素、および、フロント近接導入口と併用することが可能である。リヤ近接ダクトについては、フロント近接空調ユニットにおけるフロント近接ダクトと一体化しても良い。
【0064】
なお、リヤ近接空調ユニットの各構成要素とフロント近接空調ユニットにおける各構成要素とを一部併用する場合には、本発明の車両用空調装置全体を小型化できる利点がある。一方、リヤ近接空調ユニットの各構成要素とフロント近接空調ユニットにおける各構成要素とを別個に設ける場合には、フロント近接空調とリヤ近接空調とを別々に行うことができ、各座席に着座した乗員に個別にきめ細かく対応し得る利点がある。
【0065】
リヤ筐体、リヤ近接温度調整要素、リヤ近接ダクト、および、リヤ近接導入口については、既述したフロント近接空調ユニットにおけるフロント筐体、フロント近接温度調整要素、フロント近接ダクト、および、フロント近接導入口と同様のものを使用し得る。
【0066】
リヤ筐体の表面に露出するリヤ近接吹出口の位置や形状は特に限定しないが、後部座席に着座した乗員の大腿部近傍を近接空調することを考慮すると、後部座席に着座した乗員の身幅方向、すなわち後部座席の幅方向或いは車幅方向に沿って延びるスリット状であることが好ましい。例えば、リヤ筐体が二つの前部座席の間に配置されるコンソールボックスであれば、リヤ近接吹出口は、当該コンソールボックスの後壁に露出し後側に向けて開口すればよい。
この場合、リヤ近接吹出口はコンソールボックスの後壁に取付けられる。車両の上下方向におけるリヤ近接吹出口の位置は特に問わないが、空調空気を後部座席に着座した乗員の大腿部付近に吹き出し得る位置とするのが好ましい。
【0067】
ところで、コンソールボックスの意匠性向上の観点から、空調装置の吹出口をコンソールボックスにおける下部に配置することが要求されている。本発明の発明者らは、特許第6540317号において、内装品における下部に空調装置の吹出口を配置し、当該吹出口から後方かつ上方に向けて空調空気を吹き出す技術を開示している。当該特許第6540317号には、内装品がコンソールボックスの後壁とする実施例が開示されている。
本発明の車両用空調装置において、コンソールボックスの後壁および当該後壁に配置されるリヤ近接吹出口は、特許第6540317号におけるコンソールボックスの後壁および吹出口と同様の配置や形状にするのが好ましい。こうすることで、リヤ近接吹出口から吹き出す空調空気を、後部座席に着座する乗員の大腿部に、効率良く届け得る。
【0068】
具体的には、コンソールボックスすなわちリヤ筐体の後壁は、リヤ近接吹出口の上側に傾斜面を有するのが好ましい。当該傾斜面は、その上下方向の高さが前側から後側に向けて高くなるように傾斜し、その下端はリヤ近接吹出口の上端に繋がるのが良い。このような傾斜面は、コアンダ効果により、リヤ近接吹出口から吹き出した空調空気を傾斜面の延びる方向、すなわち、上方かつ後方に導くことが可能である。
【0069】
当該傾斜面は、平面であっても良いし屈曲面または湾曲面であっても良い。さらに、当該傾斜面は上下方向に二つの領域を有しても良い。当該二つの領域の一方であり下側すなわちリヤ近接吹出口側に位置する領域を下領域と称し、当該二つの領域の他方であり下領域の上側に位置する領域を上領域と称する。傾斜面が上領域と下領域とを有する場合、上領域の傾斜角度は下領域の傾斜角度よりも大きい方が好ましい。このような上領域および下領域を有する傾斜面によると、空調空気を上方に向けて段階的に導くことができ、空調空気を乗員の大腿部に向けて効率良く供給し得る。
【0070】
傾斜面は、上領域および下領域以外の領域を有しても良い。例えば、上領域と下領域との間に、湾曲面状の領域が介在しても良い。この場合、上領域と下領域とが滑らかに連続し、空調空気の乱流が生じ難くなる利点がある。
【0071】
なお、上領域および下領域は、平面であっても良いし湾曲面であっても良い。上領域および下領域が湾曲面である場合、上領域の接線の傾斜角度および下領域の接線の傾斜角度を、各々、上領域の傾斜角度および下領域の傾斜角度とみなし得る。
より具体的には、前後方向および上下方向に延びる平面で傾斜面を切断した断面において、上領域を示す曲線における上下方向の中心点を接点として接線をとり、これを上領域の接線とすればよい。同じ断面において、下領域を示す曲線における上下方向の中心点を接点として接線をとり、これを下領域の接線とすればよい。そして、水平方向に延びる直線とこれら接線との交差角度を、これら接線の傾斜角度とすればよい。
【0072】
下領域の傾斜角度と上領域の傾斜角度との差の好ましい範囲として、5°以上45°以下、10°以上30°以下、15°以上25°以下の各範囲を例示できる。
【0073】
リヤ近接ダクトには、リヤ近接吹出口の近傍に、風向調整フィンを設けるのが好ましい。当該風向調整フィンは、上方に向けて揺動することで、リヤ近接吹出口から吹き出す空調空気を上方に案内できるものであるのがよい。このような風向調整フィンにより、リヤ近接吹出口から吹き出す空調空気をより効率良く上方に導き得る。
【0074】
リヤ近接空調においては、既述したフロント近接空調と同様に、リヤ近接温度調整器とリヤ近接ブロワとを異なるタイミングでオン/オフ制御することが好ましい。
具体的には、車両の起動後、リヤ近接空調ユニットの暖房運転を開始する際に、先ず、リヤ近接ブロワをオフにしたままでリヤ近接温度調整器をオンにし、次いで、所定のリヤ待機期間が経過した後に、リヤ近接ブロワをオンにすれば良い。これにより、車両の起動直後にリヤ近接吹出口から冷たい空調空気が吹き出すことを抑制し得る。
【0075】
リヤ近接空調におけるリヤ近接温度調整器およびリヤ近接ブロワのオン/オフ制御は、前部座席用のフロント近接温度調整器およびフロント近接ブロワのオン/オフ制御とは別で行っても良いし、同期しても良い。
なお、上記のリヤ近接温度調整器およびリヤ近接ブロワのオン/オフ制御において、「所定の」リヤ待機期間の好ましい長さは、フロント近接温度調整器およびフロント近接ブロワのオン/オフ制御における「所定の」フロント待機期間の好ましい長さと同様にして、リヤ近接温度調整器の起動後経過時間、および/またはリヤ近接温度調整器付近の温度に応じて適宜設定すれば良い。更には、リヤ待機期間として、既述したフロント待機期間を採用しても良い。
同様に、「所定の」リヤ運転期間の好ましい長さは、フロント近接温度調整器およびフロント近接ブロワのオン/オフ制御における「所定の」フロント運転期間の好ましい長さと同様にして、リヤ近接温度調整器の起動後経過時間、および/または、一般空調ユニットの一般吹出口付近の温度に応じて適宜設定すれば良い。
なお、リヤ近接空調器付近の温度は、温度センサにより実測しても良いし、リヤ近接空調器の設定温度を基に演算しても良い。
【0076】
本発明の車両用空調装置が、一般空調ユニットおよびフロント近接空調ユニットに加えてリヤ近接空調ユニットを具備する場合には、車両の起動後に、先ず、一般空調ユニットの暖房運転を停止したままでフロント近接空調ユニットおよびリヤ近接空調ユニットの暖房運転を開始し、次いで、既述した所定の近接空調運転期間が経過した後に、一般空調ユニットの暖房運転を開始すれば良い。これにより、既述したように、車両の起動開始直後に暖房運転を開始した場合において、冷たい空調空気の供給を抑制し得る。
【0077】
フロント近接空調ユニットとリヤ近接空調ユニットとは、同時に暖房運転を開始しても良いし、順次暖房運転を開始しても良い。フロント近接空調ユニットとリヤ近接空調ユニットとは、何れを先に暖房運転を開始しても良い。
なお、リヤ近接空調ユニットを暖房運転する、とは、リヤ近接温度調整要素を経た空調空気が車両室内に供給される状態をいい、このときリヤ近接温度調整器はオン状態であり、リヤ近接ブロワもまたオン状態である。また、リヤ近接空調ユニットの暖房運転を停止する、とは、リヤ近接温度調整要素を経た空調空気が車両室内に供給されない状態をいい、このとき少なくともリヤ近接ブロワがオフ状態であれば良い。
【0078】
参考までに、一般空調ユニットとリヤ近接空調ユニットのみを具備しフロント近接空調ユニットを具備しない車両用空調装置においては、車両の起動後に、先ず、一般空調ユニットの暖房運転を停止したままでリヤ近接空調ユニットの暖房運転を開始し、次いで、既述した所定のリヤ運転期間が経過した後に、一般空調ユニットの暖房運転を開始すれば良い。これに対して、本発明の車両用空調装置が一般空調ユニット、フロント近接空調ユニットおよびリヤ近接空調ユニットを具備する場合、一般空調ユニットの暖房運転を開始する前のフロント近接空調ユニットおよびリヤ近接空調ユニットの運転期間は、フロント近接空調を基準としたフロント運転期間を採用しても良いし、リヤ近接空調を基準としたリヤ運転期間を採用しても良い。
【0079】
以下、具体例を挙げて本発明の車両用空調装置を説明する。
【0080】
(実施例1)
車両室内における実施例1の車両用空調装置を模式的に表す説明図を図1に示す。実施例1の車両用空調装置を側面視した様子を模式的に表す説明図を図2および図3に示す。実施例1の車両用空調装置における前部座席用の近接吹出口を模式的に表す説明図を図4および図5に示す。実施例1の車両用空調装置におけるリヤ近接空調ユニットの要部を模式的に表す説明図を図6に示す。評価試験1の結果を表すグラフを図7に示し、評価試験2の結果を表すグラフを図8および図9に示す。
以下、上、下とは鉛直方向における上、下を指し、前、後、左、右とは車両進行方向における前、後、左、右を意味するものとする。左右方向は車幅方向であり、前後方向は車両進行方向である。
【0081】
図1に示すように、実施例1の車両用空調装置1は、車両室内95に配置され、フロント近接吹出口20を有するフロント近接空調ユニット2、足元用フロント吹出口30fおよびリヤ一般吹出口30rを有する一般空調ユニット3、および、リヤ近接吹出口40を有するリヤ近接空調ユニット4、を具備する。
【0082】
図1に示すように、筐体5は車両のセンターコンソールボックスであり、フロント近接吹出口20およびリヤ近接吹出口40は同じ筐体5に配置される。車両室内95には二つの前部座席90(図2参照)が設けられている。筐体5は、二つの前部座席90の一方である運転席と他方である助手席との間に配置され、かつ、後部座席91(図2参照)の前方に配置されている。
【0083】
フロント近接空調ユニット2は、筐体5に加えて、フロント近接温度調整要素21、フロント近接導入口22、フロント近接吹出口20およびフロント近接ダクト23を有する。
図2に示すように、フロント近接温度調整要素21は、筐体5の内部に配置されている。フロント近接温度調整要素21は、フロント近接ブロワ21bと、当該フロント近接ブロワ21bの下流側に位置するフロント近接温度調整器21hとを有する。フロント近接温度調整器21hは図略の電源に接続されたPTCヒータである。
【0084】
図1に示すように、二つのフロント近接吹出口20は、筐体5の左壁および右壁に各々設けられ、筐体5の表面に露出する。筐体5の右壁に設けられたフロント近接吹出口20は二つの前部座席90のうち、筐体5の右側にある運転席を向く。筐体5の左壁に設けられたフロント近接吹出口20は、二つの前部座席90のうち、筐体5の左側にある助手席を向く。
【0085】
図2に示すように、フロント近接導入口22は、フロント近接温度調整要素21におけるフロント近接温度調整器21h側の部分に一体化されている。フロント近接導入口22と上記した2つのフロント近接吹出口20とは、フロント近接ダクト23により連絡されている。フロント近接導入口22には、後述するフロント近接空調ユニット2の暖房運転時に、フロント近接温度調整要素21を経た空調空気が導入され、当該空調空気はフロント近接ダクト23を通じて二つのフロント近接吹出口20に供給され、当該フロント近接吹出口20を経て前部座席90に向けて吹き出す。
【0086】
リヤ近接空調ユニット4は、上記した筐体5をフロント近接空調ユニット2と共有し、さらに、リヤ近接温度調整要素41、リヤ近接導入口42、リヤ近接吹出口40、およびリヤ近接ダクト43を具備する。
【0087】
図2に示すように、リヤ近接温度調整要素41は、筐体5の内部においてフロント近接温度調整要素21よりも後側かつ下側に配置されている。リヤ近接温度調整要素41は、リヤ近接ブロワ41bと、当該リヤ近接ブロワ41bの下流側に位置するリヤ近接温度調整器41hとを有する。リヤ近接温度調整器41hは、フロント近接温度調整器21hとは別のPTCヒータである。
【0088】
図1に示すように、二つのリヤ近接吹出口40は、筐体5の後壁における下側部分の左右に各々設けられ、筐体5の表面に露出する。各リヤ近接吹出口40は後部座席91(図2参照)を向く。
【0089】
図2に示すように、リヤ近接導入口42は、リヤ近接温度調整要素41におけるリヤ近接温度調整器41h側の部分に一体化されている。リヤ近接導入口42と上記した2つのリヤ近接吹出口40とは、リヤ近接ダクト43により連絡されている。リヤ近接導入口42には、後述するようにリヤ近接空調ユニット4の暖房運転時に、リヤ近接温度調整要素41を経た空調空気が導入され、当該空調空気はリヤ近接ダクト43を通じて二つのリヤ近接吹出口40に供給され、当該リヤ近接吹出口40を経て後部座席91に向けて吹き出す。
【0090】
一般空調ユニット3は、一般温度調整要素31、二つの一般導入口32、二つの足元用フロント吹出口30f、二つのリヤ一般吹出口30r、および二つの一般ダクト33を具備する。
【0091】
図1に示すように、二つの足元用フロント吹出口30fは、インストルメントパネル92の下方に設けられている。当該足元用フロント吹出口30fは、前部座席90すなわち運転席および助手席の足元かつ前方に配置されている。図1および図2に示すように、二つのリヤ一般吹出口30rは、筐体5の後壁において、リヤ近接吹出口40の上側に配置され、車両室内95の後部を向いている。二つの足元用フロント吹出口30fおよび二つのリヤ一般吹出口30rは、車両室内95を向く一般空調ユニット3の一般吹出口である。
【0092】
図2に示すように、足元用フロント吹出口30fおよびリヤ一般吹出口30rは、各々、一般ダクト33を介して、インストルメントパネル92の裏側(すなわち図1におけるインストルメントパネル92の前側)に配置されているHVACシステムに接続されている。当該HVACシステムには図略の一般ブロワが一体化されている。当該HVACシステムは、実施例1の車両用空調装置1における一般温度調整要素31に相当する。当該一般温度調整要素31には、二つの一般導入口32が一体化されている。二つの一般導入口32には、後述する一般空調ユニット3の暖房運転時において、一般温度調整要素31を経た空調空気が導入される。
一方の一般導入口32fは、分岐形状をなす二つの一般ダクト33の一方(33f)によって、二つの足元用フロント吹出口30fに連絡される。また、他方の一般導入口32rは、分岐形状をなす二つの一般ダクト33の他方(33r)によって、二つのリヤ一般吹出口30rに連絡される。
【0093】
実施例1の車両用空調装置1の動作を説明する。
実施例1の車両用空調装置1では、車両の起動後に暖房運転を行う際に、先ず、一般空調ユニット3の暖房運転を停止したままでフロント近接空調ユニット2およびリヤ近接空調ユニット4の暖房運転を開始する。
【0094】
このとき先ず、フロント近接空調ユニット2においては、図2に示すように、フロント近接ブロワ21bをオフにしたままでフロント近接温度調整器21hをオンにする。リヤ近接空調ユニット4においては、リヤ近接ブロワ41bをオフにしたままでリヤ近接温度調整器41hをオンにする。なお、実施例1の車両用空調装置1においては、フロント待機期間をフロント近接温度調整器21hの起動後30秒とし、リヤ待機期間をリヤ近接温度調整器41hの起動後30秒とした。当該フロント待機期間の経過後にフロント近接ブロワ21bをオンにし、かつ、リヤ待機期間の経過後にリヤ近接ブロワ41bをオンにすることで、予熱されたフロント近接温度調整要素21を経た空調空気を前部座席90に着座した乗員96に供給し、かつ、予熱されたリヤ近接温度調整要素41を経た空調空気を後部座席91に着座した乗員96に供給する。これにより、冷たいフロント近接温度調整要素21や冷たいリヤ近接温度調整要素41を経た冷たい空調空気を、前部座席90に着座した乗員96や後部座席91に着座した乗員96に吹きつけることなく、前部座席90に着座した乗員96および後部座席91に着座した乗員96の大腿部96tを近接空調により温めることが可能である。
【0095】
なお、このとき一般空調ユニット3の暖房運転は停止されているため、冷たい一般温度調整要素31を経た冷たい空調空気を車両室内95に吹き出すこともなく、前部座席90に着座した乗員96や後部座席91に着座した乗員96を充分に温め得る。
【0096】
実施例1の車両用空調装置1においては、図3に示すように、所定のフロント運転期間およびリヤ運転期間が経過した後に、フロント近接空調ユニット2およびリヤ近接空調ユニット4の暖房運転を停止し、かつ、一般空調ユニット3の暖房運転を開始する。これにより、一般温度調整要素31を経た空調空気が、足元用フロント吹出口30fおよびリヤ一般吹出口30rから車両室内95の前部および後部に吹き出す。ここで、実施例1の車両用空調装置1においては、一般空調ユニット3の暖房運転開始直後には、一般温度調整要素31は充分に暖機されていない。しかしこのとき、前部座席90に着座する乗員96の大腿部96tはフロント近接空調ユニット2により既に温められており、また、後部座席91に着座する乗員96の大腿部96tはリヤ近接空調ユニット4により既に温められている。このため、乗員96は、一般空調ユニット3による冷たい空調空気が車両室内95に供給されても、冷たさを知覚し難い。これにより、本発明の車両用空調装置1によると、一般空調ユニット3の一般温度調整要素31が暖機されるまでの間に乗員96に与える不快感を軽減し得る。一般温度調整要素31が暖機されると、一般温度調整要素31を経た温かい空調空気が車両室内95に供給される。これにより、車両室内95が一般空調される。
【0097】
なお、実施例1の車両用空調装置1においては、フロント運転期間をフロント近接ブロワ21bの起動後、つまり、フロント近接空調ユニット2の暖房運転開始後3分とした。また、リヤ運転期間をリヤ近接ブロワ41bの起動後、つまり、リヤ近接空調ユニット4の暖房運転開始後3分とした。さらに、一般空調ユニット3の停止時には、一般温度調整要素31の一般ブロワおよび一般温度調整器をオフにした。
【0098】
実施例1の車両用空調装置1におけるフロント近接空調ユニット2は、前部座席90に着座する乗員96の大腿部96tの略全体に空調空気を吹きつけ得る。これにより、前部座席90に着座する乗員96を近接空調により迅速にかつ充分に温めることができ、車両の起動直後であり一般温度調整要素31が充分に暖機されていない場合にも、乗員96に与える不快感を軽減できる。
【0099】
このように、前部座席90に着座する乗員96の大腿部96tの略全体に空調空気を吹きつけるためには、フロント近接空調ユニット2における整流機構、すなわち、フロント近接吹出口20付近の形状が大きく関係すると考えられる。
【0100】
実施例1の車両用空調装置1におけるフロント近接吹出口20は、図4に示すように、フロント近接温度調整要素21の上側に配置され、フロント近接温度調整器21hに対面する。
【0101】
図2および図4に示すように、フロント近接吹出口20における長手方向の一端部は前側に配置され、他端部は後側に配置されている。
フロント近接吹出口20は前部座席90の座面93よりも上方に配置され、その長手方向を前後方向に向けている。前部座席90は車両進行方向を向いており、前部座席90の前後方向は車両の進行方向と一致する。したがって、実施例1の車両用空調装置1におけるフロント近接吹出口20は、その長手方向を車両進行方向における前後方向に向けるともいい得る。
【0102】
図4に示すように、長手方向すなわち前後方向におけるフロント近接吹出口20の長さL1は、最大値で、約200mmである。また、図2に示すように、フロント近接吹出口20の上端41uは、前部座席90における座面93の上方に配置されている。フロント近接吹出口20の上端41uと前部座席90の座面93との上下方向の距離は約150mmであり、フロント近接吹出口20の下端41lと前部座席90の座面93との上下方向の距離は約140mmである。
【0103】
フロント近接温度調整要素21で生成されフロント近接ダクト23に導入された空調空気は、上記したフロント近接吹出口20を経て車両室内95に吹き出す。フロント近接吹出口20が、その長手方向を前後方向に向けることから、フロント近接吹出口20から吹き出した空調空気は、前部座席90の上方、すなわち、前部座席90に着座した乗員96の大腿部96tの全体にわたって吹きつけられる。このため、実施例1の車両用空調装置1によると、乗員96を効果的に暖めることができるために、効率の良い空調を行い得るといえる。
【0104】
さらに、図4に示すように、フロント近接温度調整要素21は、フロント近接吹出口20における長手方向の両端部の間に配置されている。こうすることで、フロント近接温度調整要素21とフロント近接吹出口20とを適切な位置関係にでき、空調空気の熱損失やフロント近接ダクト23の圧力損失が低減される。また、実施例1の車両用空調装置においては、フロント近接温度調整要素21を、フロント近接吹出口20における長手方向の略中央に配置した。こうすることで、実施例1の車両用空調装置1は、空調空気を前後方向に均等に分配するのに有利である。
【0105】
図4に示すように、フロント近接吹出口20の開口径は、フロント近接導入口22の開口径よりも遙かに大きく、フロント近接吹出口20の流路断面積は、フロント近接導入口22の流路断面積よりも遙かに大きい。フロント近接導入口22とフロント近接吹出口20とを連絡するフロント近接ダクト23は、その流路断面積が徐々に大きくなるように、フロント近接導入口22とフロント近接吹出口20とを滑らかに連絡する。
【0106】
図5に示すように、フロント近接ダクト23におけるフロント近接吹出口20の上流側の部分は、筒状をなすダクト本体6mと、当該ダクト本体6mにおけるフロント近接吹出口20側の部分に一体化されているガイドフィン部材6gおよび多孔板6pとを有する。図5に示すように、ガイドフィン部材6gは、スリット状をなす内側開口6inを多数有する略箱状の部材であり、ダクト本体6mにおけるフロント近接吹出口20側の部分に装着され、当該ダクト本体6mの開口であるダクト開口6moを、外側つまり左側から覆っている。多孔板6pは、貫通孔状をなす外側開口6ouを多数有するパンチングメタルであり、ガイドフィン部材6gに装着され、ガイドフィン部材6gの内側開口6inを外側つまり左側から覆っている。したがって、実施例1の車両用空調装置1におけるフロント近接吹出口20は、実質的には、ダクト本体6mのダクト開口6mo、ガイドフィン部材6gの内側開口6inおよび多孔板6pの外側開口6ouによって区画形成された小さな開口の集合体といい得る。
なお、実施例1の車両用空調装置1において、ガイドフィン部材6gの内側開口6inの開口径は約8~40mmであり、隣り合う当該内側開口6inの距離は約2~15mmである。また、多孔板6pの外側開口6ouの開口径は約2~6mmであり、隣り合う当該外側開口6ouの距離は約5~10mmである。
【0107】
なお、ガイドフィン部材6gの内部には、複数のフィンが配列した風向案内部(図略)が設けられている。当該風向案内部は、さらに、フィンの向きを調整するための図略の操作端を有する。風向案内部は、空調空気の吹出方向を案内することができる。
【0108】
実施例1の車両用空調装置1において、ダクト開口6mo、内側開口6inおよび外側開口6ouの開口面積は、ダクト開口6mo>内側開口6in>外側開口6ouの順に小さくなっている。このため、フロント近接ダクト23を流通する空調空気の流路は、フロント近接吹出口20において段階的に絞られる。このため、フロント近接ダクト23における空調空気の流速はフロント近接吹出口20において高められ、かつ、フロント近接吹出口20から吹き出した空調空気が拡散する。したがって、実施例1の車両用空調装置1によると比較的少量の空調空気を効果的に乗員96に供給できる。
【0109】
さらに、図2に示すように、実施例1の車両用空調装置1におけるリヤ近接空調ユニット4は、筐体5の下部に配置されたリヤ近接吹出口40を経て後部座席91に着座する乗員96の大腿部96tに空調空気を吹きつけ得る。これにより、後部座席91に着座する乗員96を近接空調により迅速にかつ充分に温めることができ、車両の起動直後であり一般温度調整要素31が充分に暖機されていない場合にも、乗員96に与える不快感を軽減できる。
このように、筐体5の下部に配置されたリヤ近接吹出口40から、後部座席91に着座する乗員96の大腿部96tに空調空気を吹きつけるためには、リヤ近接空調ユニット4および筐体5におけるリヤ近接吹出口40付近の形状が大きく関係すると考えられる。
【0110】
実施例1の車両用空調装置1におけるリヤ近接吹出口40は、図6に示すように、筐体5の下部に配置される。筐体5における後壁は、リヤ近接吹出口40の上側に傾斜面50を有する。当該傾斜面50の下端はリヤ近接吹出口40の上端と繋がり、当該傾斜面50は前側かつ下側から後側かつ上側に向けて延びている。傾斜面50は上領域50uと下領域50lとを有する。下領域50lは傾斜面50におけるリヤ近接吹出口40側に位置する領域であり、上領域50uは当該下領域50lよりも上側に位置する領域である。下領域50lの傾斜角度は上領域50uの傾斜角度よりも小さい。具体的には、下領域50lの傾斜角度は、40°程度であり、下領域50lと上領域50uとの傾斜角度の差は20°程度である。
このような傾斜面50を有することにより、実施例1の車両用空調装置1では、リヤ近接吹出口40から吹き出した空調空気が、コアンダ効果により、上方かつ後方に導かれ、後部座席91に着座する乗員96の大腿部96tに向けて吹きつけられる。
【0111】
また、リヤ近接ダクト43におけるリヤ近接吹出口40の上流側には、風向調整要素45が設けられている。当該風向調整要素45は、複数の横フィン45hおよび縦フィン45vを有する。このうち複数の横フィン45hは左右方向に延びるとともに、上流側から下流側に向けて延び、リヤ近接ダクト43に枢支される。横フィン45hは、枢支軸を中心として、上下に揺動可能である。
横フィン45hが上方に揺動すると、リヤ近接ダクト43内の空調空気が上方に案内される。したがって、リヤ近接吹出口40から吹き出す空調空気は、当該風向調整要素45によっても上方に案内される。上記した傾斜面50によるコアンダ効果に加えて、当該風向調整要素45によって空調空気を上方に案内することで、リヤ近接吹出口40から吹き出す空調空気を後部座席91に着座する乗員96の大腿部96tにより効率良く供給できる。
【0112】
〔評価試験1〕
車両の起動開始直後、前部座席90に乗員96が着座した状態で、実施例1の車両用空調装置1における一般空調ユニット3の暖房運転を停止したままで、フロント近接空調ユニット2の暖房運転を開始した。フロント近接空調ユニット2の暖房運転開始後4分が経過した後に、フロント近接空調ユニット2の暖房運転を停止しかつ一般空調ユニット3の暖房運転を開始した。このときのフロント近接吹出口20付近の温度変化を図7の#1に示し、乗員96の大腿部96t上の温度の変化を図7の#2に示し、足元用フロント吹出口30f付近の温度変化を図7の#3に示す。なお、このときの外気温は16℃程度であった。また、一般空調ユニット3の暖房運転停止時には、図略の一般ブロワはオフ状態にありかつ図略の一般温度調整器はオン状態にある。つまり、車両の起動開始直後に一般温度調整器は暖機を開始している。
【0113】
図7の#1に示すように、フロント近接空調ユニット2の暖房運転開始後30秒程度でフロント近接吹出口20付近の温度は35℃程度に上昇した。図7の#2に示すように、乗員96の大腿部96t上の温度も、フロント近接吹出口20付近の温度上昇に伴って35℃程度に上昇した。
【0114】
図7の#3に示すように、車両の起動直後、すなわち、一般温度調整器の起動直後には足元用フロント吹出口30f付近の温度は低い。一般温度調整器が温められ、その熱伝導により足元用フロント吹出口30f付近の温度が乗員96の体温程度に上昇するまでに3分程度を要した。一般空調ユニット3の暖房運転開始後、つまり、一般ブロワがオンされると、一般温度調整器を経た空調空気が到達して足元用フロント吹出口30f付近の温度がさらに上昇した。
【0115】
図7の#2に示されるように、フロント近接空調ユニット2の暖房運転が停止し、一般空調ユニット3の暖房運転が開始すると、乗員96の大腿部96t上の温度は多少低下するものの、その温度は32℃程度と比較的高い温度で留まった。
この結果は、車両の起動開始直後に本発明の車両用空調装置1によって暖房運転を開始した場合に、乗員96が冷たさを感じ難いことを裏付ける。車両の起動開始直後に乗員96が空調空気の冷たさを感じ難ければ、当然乍ら、乗員96に与える不快感は軽減する。
【0116】
参考までに、車両の起動開始直後、前部座席90に乗員96が着座した状態で、フロント近接空調ユニット2の暖房運転を停止したまま一般空調ユニット3の暖房運転を開始したときの、乗員96の大腿部96t上の温度変化も測定した。図7の#4に示すように、この場合には、一般空調ユニット3の暖房運転開始直後において、乗員96の大腿部96t上の温度は非常に低い。また、当該温度は足元用フロント吹出口30f付近の温度が上昇するにつれて僅かに上昇するものの、30℃を上回ることはなかった。
以上の結果から、一般空調ユニット3の暖房運転開始前に近接空調ユニットを所定の運転期間(評価試験1では4分間)暖房運転することで、乗員96の大腿部96tひいては乗員96の身体を迅速にかつ比較的高い温度に温め得ることがわかる。
【0117】
〔評価試験2〕
ところで、図7の#1に示すように、フロント近接空調ユニット2の暖房運転直後にはフロント近接吹出口20の温度は低い。これは、フロント近接温度調整要素21、具体的にはフロント近接温度調整器21hが暖機されていないことによると考えられる。より詳しくは、図9に示すように、フロント近接空調ユニット2の暖房運転開始後30秒程度が経過すると、フロント近接温度調整器21hが充分に暖機されてフロント近接吹出口20の温度が35℃程度にまで上昇する。つまり、フロント近接温度調整器21hの暖機がなされていないときにフロント近接ブロワ21bをオンにすると、充分に温められていない空調空気がフロント近接吹出口20に供給され、当該空調空気により乗員96が冷たさを知覚する虞がある。
【0118】
評価試験2では、フロント近接空調ユニット2の暖房運転を開始する際に、先ず、フロント近接ブロワ21bをオフにしたままでフロント近接温度調整器21hをオンにし、次いで、所定の待機期間、具体的には30秒間が経過した後に、フロント近接ブロワ21bをオンにした。すると、図8に示すように、フロント近接ブロワ21bをオンにした直後、すなわち、フロント近接空調ユニット2の暖房運転を開始した直後にも拘らず、35℃程度の温かい空調空気がフロント近接吹出口20から吹き出した。
この結果から、フロント近接空調ユニット2の暖房運転を開始する際に、先ず、フロント近接ブロワ21bをオフにしたままでフロント近接温度調整器21hをオンにし、次いで、フロント近接ブロワ21bをオンにすることで、リヤ近接吹出口40から冷たい空調空気が吹き出すことを抑制し得ることがわかる。
【0119】
なお、上記の評価試験1および評価試験2は、フロント近接空調ユニット2および一般空調ユニット3について、暖房運転開始のタイミングと乗員近傍の温度との関係を評価したものであり、リヤ近接空調ユニット4および一般空調ユニット3についての評価試験ではない。しかし、当該評価試験1及び評価試験2の結果から、リヤ近接空調ユニット4および一般空調ユニット3についても同様の効果が得られることは想像に難くない。
【0120】
(実施例2)
実施例2の車両用空調装置は、一般空調ユニットが、一般吹出口として、リヤ一般吹出口を有さず足元用フロント吹出口のみを有する点で実施例1の車両用空調装置と相違する。その余については、実施例2の車両用空調装置は実施例1の車両用空調装置と概略同じである。
実施例2の車両用空調装置の要部を模式的に表す説明図を図10および図11に示す。以下、実施例1との相違点を中心に、実施例2の車両用空調装置を説明する。
【0121】
実施例2の車両用空調装置1における一般空調ユニット3は、一般吹出口として、足元用フロント吹出口30fのみを有する。
【0122】
実施例2の一般空調ユニット3はリヤ一般吹出口30rを有さないが、実施例1の車両用空調装置1と同様に、車両の起動後に、先ず、一般空調ユニット3の暖房運転を停止したままでフロント近接空調ユニット2およびリヤ近接空調ユニット4の暖房運転を開始する。また、このとき、実施例1の車両用空調装置1と同様に、フロント近接空調ユニット(図略)およびリヤ近接空調ユニット4の暖房運転を開始する際に、先ず、フロント近接ブロワ(図略)およびリヤ近接ブロワ41bをオフにしたままでフロント近接温度調整器(図略)およびリヤ近接温度調整器41hをオンにし、次いで、所定の待機期間経過後に、フロント近接ブロワおよびリヤ近接ブロワ41bをオンにする。
これにより、実施例2の車両用空調装置1においても、車両の起動開始直後に、一般空調ユニット3の足元用フロント吹出口30fから冷たい空調空気が吹き出すことを抑制できる。さらに、車両の起動開始直後に、フロント近接空調ユニットのフロント近接吹出口およびリヤ近接空調ユニット4のリヤ近接吹出口40から冷たい空調空気が吹き出すことも抑制できる。
【0123】
実施例2の車両用空調装置1では、フロント近接空調ユニットおよびリヤ近接空調ユニット4の暖房運転開始後、所定の運転期間が経過した後に、フロント近接空調ユニットおよびリヤ近接空調ユニット4の暖房運転を継続したままで、一般空調ユニット3の暖房運転を開始する。このような実施例2の車両用空調装置1によると、近接空調と一般空調とが同時に行われる。このため、例えば、一般空調ユニット3の暖房運転停止時に一般温度調整器をオフにしている場合等、一般空調ユニット3の運転開始直後に足元用フロント吹出口30fから車両室内95に冷たい空調空気が吹き出す場合にも、乗員96には近接空調による温かい空調空気が供給され続けるため、乗員96に与える不快感が軽減される。
なお、フロント近接空調ユニット、リヤ近接空調ユニット4および一般空調ユニット3の暖房運転は、乗員96が適宜制御することも可能である。このため、一般温度調整要素31の暖機が完了し一般空調による空調空気が充分に温かくなった場合等には、適宜、乗員96が近接空調ユニットの暖房運転を停止すれば良い。
【0124】
本発明は、上記し且つ図面に示した実施形態にのみ限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。また、実施形態を含む本明細書に示した各構成要素は、それぞれ任意に抽出し組み合わせて実施できる。
【符号の説明】
【0125】
1:車両用空調装置
2:フロント近接空調ユニット(近接空調ユニット)
20:フロント近接吹出口(近接吹出口)
21:フロント近接温度調整要素(近接温度調整要素)
21b:フロント近接ブロワ(近接ブロワ)
21h:フロント近接温度調整器(近接温度調整器)
22:フロント近接導入口(近接導入口)
23:フロント近接ダクト(近接ダクト)
3:一般空調ユニット
30f:足元用フロント吹出口(一般吹出口)
30r:リヤ一般吹出口(一般吹出口)
31:一般温度調整要素
32:一般導入口
33:一般ダクト
4:リヤ近接空調ユニット(近接空調ユニット)
40:リヤ近接吹出口(近接吹出口)
41:リヤ近接温度調整要素(近接温度調整要素)
41b:リヤ近接ブロワ(近接ブロワ)
41h:リヤ近接温度調整器(近接温度調整器)
42:リヤ近接導入口(近接導入口)
43:リヤ近接ダクト(近接ダクト)
5:筐体
90:前部座席
91:後部座席
95:車両室内
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11