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特許7211369光ファイバ用プリフォーム、光ファイバ用プリフォームの製造方法、及び、光ファイバ用プリフォームの脈理ピッチの設定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】光ファイバ用プリフォーム、光ファイバ用プリフォームの製造方法、及び、光ファイバ用プリフォームの脈理ピッチの設定方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/018 20060101AFI20230117BHJP
【FI】
C03B37/018 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019546987
(86)(22)【出願日】2018-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2018037067
(87)【国際公開番号】W WO2019069989
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2017196036
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】早川 正敏
(72)【発明者】
【氏名】塩▲崎▼ 学
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-010368(JP,A)
【文献】特開2012-062240(JP,A)
【文献】特開2013-047165(JP,A)
【文献】特開2013-056794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/012
C03B 8/04
G01M 11/00
G02B 6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ用プリフォームであって、
ガラス材料と、屈折率調整用の添加剤と、を備え、
前記プリフォームは、コア材内に前記添加剤の濃度差による脈理を有し、前記脈理は、前記プリフォームの径方向の中心から外周に向かって少なくともその一部において同心状の屈折率周期性を有し、前記屈折率周期性の周期を示す各脈理ピッチが前記プリフォームの中心から外周に向けて増加する、光ファイバ用プリフォーム。
【請求項2】
前記屈折率周期性の周期を示す前記脈理ピッチが2μm以上10μm以下の範囲内で前記プリフォームの中心から外周に向けて増加する、
請求項1に記載の光ファイバ用プリフォーム。
【請求項3】
前記脈理ピッチは、少なくとも3つ以上の異なる厚さを含む、
請求項1又は請求項2に記載の光ファイバ用プリフォーム。
【請求項4】
前記脈理ピッチは、5.5μm、6.0μm、及び6.5μmの3つの異なる厚さを含む、
請求項3に記載の光ファイバ用プリフォーム。
【請求項5】
前記脈理ピッチは、5μm、6μm、及び7μmの3つの異なる厚さを含む、
請求項3に記載の光ファイバ用プリフォーム。
【請求項6】
前記脈理ピッチは、少なくとも5つの異なる厚さを含む、
請求項1又は請求項2に記載の光ファイバ用プリフォーム。
【請求項7】
前記脈理ピッチは、4.0μm、4.5μm、5.0μm、5.5μm、6.0μm、6.5μm、7.0μm、7.5μm、及び8.0μmの9つの異なる厚さを含む、
請求項6に記載の光ファイバ用プリフォーム。
【請求項8】
前記脈理ピッチは、0.3μm単位以上で前記プリフォームの中心から外周に向けて増加する、
請求項1~請求項7の何れか1項に記載の光ファイバ用プリフォーム。
【請求項9】
前記脈理ピッチは、0.5μm単位で前記プリフォームの中心から外周に向けて増加する、
請求項8に記載の光ファイバ用プリフォーム。
【請求項10】
前記プリフォームの中心から外周に向かう半径と前記プリフォームの中心から外周に向けて増加する前記各脈理ピッチとの関係を近似する曲線が上に凸となるように、前記各脈理ピッチが前記プリフォームの中心から外周に向けて増加するように設定された、
請求項1~請求項9の何れか1項に記載の光ファイバ用プリフォーム。
【請求項11】
光ファイバ用プリフォームの製造方法であって、
堆積対象物を回転させながら前記堆積対象物の軸方向にガラス微粒子を合成するように構成された加熱源を前記堆積対象物に対して相対的に繰り返し往復移動させ、コア材内のガラス原料に屈折率調整用の添加剤を添加しつつ合成されたガラス微粒子を順次積層させることで前記堆積対象物上の径方向にガラス層を順次積層させる工程を備え、
前記積層させる工程では、前記添加剤の濃度差による脈理が生じ、
前記積層させる工程では、前記ガラス層の厚みが前記プリフォームの径方向の中心から外周に向けて増加するように前記各ガラス層を堆積させる、
光ファイバ用プリフォームの製造方法。
【請求項12】
前記加熱源の移動速度を低下させることで前記ガラス層の厚みが前記プリフォームの径方向の中心から外周に向けて増加するように前記各ガラス層を順に積層させる、
請求項11に記載の光ファイバ用プリフォームの製造方法。
【請求項13】
前記ガラス原料の供給量を増加させることで前記ガラス層の厚みが前記プリフォームの径方向の中心から外周に向かって増加するように前記各ガラス層を順に積層させる、
請求項11又は12に記載の光ファイバ用プリフォームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバ用プリフォーム、光ファイバ用プリフォームの製造方法、及び、光ファイバ用プリフォームの脈理ピッチの設定方法に関する。
本出願は、2017年10月6日出願の日本出願第2017-196036号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ガラス微粒子堆積体の製造方法を開示する。この製造方法では、トラバース毎に堆積するガラス微粒子層の厚みが隣接する層毎に異なるように、各ガラス微粒子層を積層している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-047165号公報
【文献】特開2013-096899号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示は、ガラス材料と屈折率調整用の添加剤とを備える光ファイバ用プリフォームを提供する。このプリフォームは添加剤の濃度差による脈理を有し、当該脈理は、プリフォームの径方向の中心から外周に向かって少なくともその一部において同心状の屈折率周期性を有する。屈折率周期性の周期を示す各脈理ピッチは、プリフォームの中心から外周に向けて増加する。
【0005】
本開示は、光ファイバ用プリフォームの製造方法を提供する。この製造方法は、堆積対象物を回転させながら堆積対象物の軸方向にガラス微粒子を合成するように構成された加熱源を堆積対象物に対して相対的に繰り返し往復移動させ、ガラス原料に屈折率調整用の添加剤を添加しつつ合成されたガラス微粒子を順次積層させることで堆積対象物上の径方向にガラス層を順次積層させる工程を備えている。積層させる工程では、ガラス層の厚みがプリフォームの径方向の中心から外周に向けて増加するように各ガラス層を堆積させる。
【0006】
本開示は、光ファイバ用プリフォームの脈理ピッチの設定方法を提供する。この設定方法は、屈折率調整用の添加剤が添加され、当該添加剤の濃度差による脈理を有する光ファイバ用プリフォームの屈折率周期性の周期を示す脈理ピッチを設定する方法である。この設定方法は、屈折率周期性の周期を示す複数の脈理ピッチのそれぞれにおける、プリフォームの中心から外周に向かう半径と屈折率分布のずれ量との関係を算出する算出工程と、算出工程で算出された各脈理ピッチにおける半径と屈折率分布のずれ量との関係を参照して、最適な脈理ピッチの変動パターンを合成する合成工程と、を備えている。合成工程では、各脈理ピッチがプリフォームの中心から外周に向けて増加するように合成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態に係る、脈理を有する光ファイバ用のガラスプリフォームの一部断面図を含む模式図である。
図2図2は、外付け化学気相堆積法(OVD法)により図1に示すガラスプリフォームを製造する方法を説明するための模式図である。
図3図3は、図1に示すガラスプリフォームにおける、規格化半径に対する最適な脈理ピッチの関係を近似する曲線を示す図である。
図4A図4Aは、脈理ピッチを4.0μmと変動させた場合のレーザ光の重心位置の変動を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図4B図4Bは、脈理ピッチを4.5μmと変動させた場合のレーザ光の重心位置の変動を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図4C図4Cは、脈理ピッチを5.0μmと変動させた場合のレーザ光の重心位置の変動を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図5A図5Aは、脈理ピッチを5.5μmと変動させた場合のレーザ光の重心位置の変動を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図5B図5Aは、脈理ピッチを6.0μmと変動させた場合のレーザ光の重心位置の変動を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図5C図5Cは、脈理ピッチを6.5μmと変動させた場合のレーザ光の重心位置の変動を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図6A図6Aは、脈理ピッチを7.0μmと変動させた場合のレーザ光の重心位置の変動を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図6B図6Bは、脈理ピッチを7.5μmと変動させた場合のレーザ光の重心位置の変動を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図6C図6Cは、脈理ピッチを8.0μmと変動させた場合のレーザ光の重心位置の変動を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図7図7は、図4A図4C図5A図5C及び図6A図6Cに示す各シミュレーション結果においてレーザ光の重心位置の変動が少ない部分を合成したグラフである。
図8図8は、レーザ光の重心位置の変動が少ない部分を合成した別のグラフである。
図9図9は、レーザ光の重心位置の変動が少ない部分を合成した更に別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
OVD法等によって光ファイバ用プリフォームのためのガラス微粒子堆積体を製造する場合、一般的には、トラバース速度及び回転速度は一定である。この場合、ガラス微粒子積層体を構成する各ガラス層の厚みも略一定となり、これに伴ってガラス微粒子堆積体からなるプリフォームに、出発材のトラバース周期又は回転周期に応じた縞状のすじ(脈理)が発生することがある。このような脈理を有するプリフォームの屈折率分布を測定するために測定用レーザ光をガラス母材の側面から入射すると、ガラス母材に脈理による周期的な屈折率の変化があることから、レーザ光が回折してしまい、屈折率分布の一部に乱れが生じてしまう。その結果、脈理を有するプリフォームの正確な屈折率分布を測定できないことがある。そこで、脈理を有する光ファイバ用プリフォームの屈折率分布を精度よく測定することが望まれている。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、脈理を有する光ファイバ用プリフォームの屈折率分布を精度よく測定できる。
【0010】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容をそれぞれ個別に列記して説明する。本実施形態に係る光ファイバ用プリフォームは、ガラス材料と、屈折率調整用の添加剤と、を備えている。プリフォームは添加剤の濃度差による脈理を有し、脈理は、プリフォームの径方向の中心から外周に向かって少なくともその一部において同心状の屈折率周期性を有する。屈折率周期性の周期を示す脈理ピッチは、プリフォームの中心から外周に向けて増加する。
【0011】
この光ファイバ用プリフォームでは、屈折率周期性の周期を示す脈理ピッチがプリフォームの中心から外周に向けて増加している。本発明者のシミュレーション等を含む検討によれば、図4A図4C図5A図5C及び図6A図6Cに例示されるように、屈折率分布のずれ量(歪み)に相当する測定用レーザ光の重心位置が半径(規格化半径)方向の位置に応じてゼロからプラス方向又はマイナス方向に大きく又はやや大きく振れてしまうことがわかってきた。そして本発明者は更に検討を進め、屈折率周期性の周期を示す脈理ピッチがプリフォームの中心から外周に向けて増加するように設定すると、例えば図7に示すように屈折率分布のずれ量に相当する測定用レーザ光の重心位置を半径方向のいずれの位置においてもゼロ付近(例えば0~±20μmの範囲内)に収めることができることがわかってきた。このため、プリフォームにおける脈理ピッチをプリフォームの中心から外周に向けて増加することで、脈理ピッチによるプリフォームでの屈折率分布の測定結果を歪まないようにすることができ、これにより、脈理を有する光ファイバ用プリフォームの屈折率分布を更に精度よく測定することが可能となる。
【0012】
この光ファイバ用プリフォームでは、屈折率周期性の周期を示す脈理ピッチが2μm以上10μm以下の範囲内でプリフォームの中心から外周に向けて増加してもよい。この構成によれば、脈理を有する光ファイバ用プリフォームの屈折率分布を更に精度よく且つ確実に測定することが可能となる。
【0013】
この光ファイバ用プリフォームでは、脈理ピッチは、少なくとも3つの異なる厚さを含んでもよく、例えば、脈理ピッチは、5.5μm、6.0μm及び6.5μmの3つの異なる厚さを含んでもよく、また、脈理ピッチは、5μm、6μm及び7μmの3つの異なる厚さを含んでもよい。また、脈理ピッチは、少なくとも5つの異なる厚さを含んでもよく、更に少なくとも7つの異なる厚さを含んでもよく、例えば、脈理ピッチは、4.0μm、4.5μm、5.0μm、5.5μm、6.0μm、6.5μm、7.0μm、7.5μm、及び8.0μmの9つの異なる厚さを含でもよい。更に、脈理ピッチは、0.3μm単位以上でプリフォームの中心から外周に向けて増加してもよく、例えば、0.5μm単位でプリフォームの中心から外周に向けて増加してもよい。
【0014】
この光ファイバ用プリフォームでは、プリフォームの中心から外周に向かう半径とプリフォームの中心から外周に向けて増加する各脈理ピッチとの関係を近似する曲線が上に凸となるように、各脈理ピッチがプリフォームの中心から外周に向けて増加するように設定されていてもよい。この構成によれば、脈理を有する光ファイバ用プリフォームの屈折率分布を更に精度よく且つ確実に測定することが可能となる。
【0015】
本実施形態に係る光ファイバ用プリフォームの製造方法は、堆積対象物を回転させながら堆積対象物の軸方向にガラス微粒子を合成するように構成された加熱源を堆積対象物に対して相対的に繰り返し往復移動させ、ガラス原料に屈折率調整用の添加剤を添加しつつ合成されたガラス微粒子を順次積層させることで堆積対象物上の径方向にガラス層を順次積層させる工程を備えている。この積層させる工程では、ガラス層の厚みがプリフォームの径方向の中心から外周に向けて増加するように各ガラス層を堆積させている。
【0016】
この光ファイバ用プリフォームの製造方法では、屈折率周期性の周期を示す脈理ピッチに相当するガラス層の厚みがプリフォームの中心から外周に向けて増加する。この場合、上記と同様に、脈理ピッチによるプリフォームでの屈折率分布の測定結果を歪まないようにすることができるため、屈折率分布を精度よく測定することが可能な、脈理を有する光ファイバ用プリフォームを製造することができる。
【0017】
この光ファイバ用プリフォームの製造方法では、加熱源の移動速度を低下させることでガラス層の厚みが光ファイバ用プリフォームの径方向の中心から外周に向けて増加するように各ガラス層を順に積層させてもよい。この場合、各ガラス層の厚みの増加を容易に実現することができる。
【0018】
この光ファイバ用プリフォームの製造方法では、ガラス原料の供給量を増加させることでガラス層の厚みが光ファイバ用プリフォームの径方向の中心から外周に向かって増加するように各ガラス層を順に積層させてもよい。この場合、各ガラス層の厚みの増加を容易に実現することができる。
【0019】
本実施形態に係る光ファイバ用プリフォームの脈理ピッチの設定方法は、屈折率調整用の添加剤が添加され、当該添加剤の濃度差による脈理を有する光ファイバ用プリフォームの屈折率周期性の周期を示す脈理ピッチを設定する方法である。この設定方法は、屈折率周期性の周期を示す複数の脈理ピッチのそれぞれにおけるプリフォームの中心から外周に向かう半径と屈折率分布のずれ量との関係を算出する算出工程と、算出工程で算出された各脈理ピッチにおける半径と屈折率分布のずれ量との関係を参照して、最適な脈理ピッチの変動パターンを合成する合成工程と、を備えている。合成工程では、各脈理ピッチがプリフォームの中心から外周に向けて増加するように合成している。
【0020】
この光ファイバ用プリフォームの脈理ピッチの設定方法では、各脈理ピッチがプリフォームの中心から外周に向けて増加するように最適な脈理ピッチの変動パターンを合成している。この場合、上記と同様に、脈理ピッチによるプリフォームでの屈折率分布の測定結果を歪まないようにすることができるため、屈折率分布を精度よく測定することが可能な、脈理を有する光ファイバ用プリフォームの構成を設計することができる。
【0021】
この光ファイバ用プリフォームの脈理ピッチの設定方法では、合成工程では、2μm以上10μm以下の範囲内の各脈理ピッチがプリフォームの中心から外周に向けて増加する順になるように最適な脈理ピッチの変動パターンを合成してもよい。この場合、屈折率分布の測定により好適な構成を有する光ファイバ用プリフォームの構成を設計することができる。
【0022】
[本願発明の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る光ファイバ用プリフォーム、その製造方法、及び、脈理ピッチの設定方法の具体例を以下に図面を参照しつつ説明する。本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、また、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
図1は、本実施形態に係る脈理を有する光ファイバ用プリフォームの一部断面図を含む模式図である。光ファイバ用のガラスプリフォーム1(コア材)は、ガラス材料と屈折率調整用の添加剤とから実質的に構成され、図1に示すように、中央部2と、中央部2の外周に順に積層される複数(本実施形態では例えば9層)のガラス堆積層3と、を備えている。複数のガラス堆積層3の各層は、屈折率調整用の添加材の濃度差による脈理を有し、同心状の屈折率周期性を有する。複数のガラス堆積層3の各層の厚さは、後述する脈理ピッチPにそれぞれ相当する。
【0024】
図2は、外付け化学気相堆積法(OVD法)により図1に示すガラスプリフォームを製造する製造方法を説明するための模式図である。ガラスプリフォーム1を製造するには、図2に示すように、排気装置を有する反応容器内において、少なくともガラス原料ガスと火炎形成ガスとをバーナ11(加熱源)に供給し、バーナ11が噴出する酸水素火炎中でススを生成する。そして、バーナ11を成長軸方向T1及びT2に沿って往復トラバースさせながら、軸線を中心として出発材12を回転方向S1に回転させて、出発材12の外周面に生成したススをスス付けさせる。これにより、ガラス微粒子堆積体13を作製する。
【0025】
ここで用いる出発材は、例えば出発棒又はターゲットロッド等と呼ばれることもあり、アルミナ(酸化アルミニウム)等のセラミック又は石英などからなるロッド又はパイプである。ガラス材料は、例えば、高純度のGeCl及び高純度のSiCl等である。火炎形成ガスは、例えばO(酸素)ガス、H(水素)ガス、及びN(窒素)ガス等を混合したガスである。このような材料から、図2に示す製造方法により製造されたガラス微粒子堆積体13を、加熱焼結することにより、光ファイバ用の透明なガラスプリフォーム1を作製する。ガラスプリフォーム1を所定の加工条件で線引きすることによりガラスファイバを製造することができるが、その線引きの前にコア相当部分で所定の屈折率分布が形成されているか否かを測定する。
【0026】
この測定の際、ガラスプリフォーム1内に生成される脈理により、測定される屈折率分布が歪んでしまい、正確な屈折率分布が測定できないことがある。この問題に対し、本発明者らは、まず、ガラスプリフォーム1における各脈理ピッチPに対して、屈折率分布のずれ量(歪み)に相当する測定用レーザ光の重心位置と半径(規格化半径)方向の位置との関係について検討したところ、図4A図4C図5A図5C及び図6A図6Cに示すシミュレーション結果を得た。これら関係について評価したところ、図4A図4C図5A図5C及び図6A図6Cに示すように、各脈理ピッチPの大きさ(幅:μm)に応じて、レーザ光の重心位置の変動が大きく異なることが分かった。これらのシミュレーションは、各脈理ピッチPを一定とした場合の測定用レーザ光の重心位置の変化を示す。そこで、本発明者らは更に検討を進めたところ、レーザ光の重心位置の変動を示す図におけるレーザ光の重心位置が、各図の丸印に示すように、ゼロになる部分が点在して存在することに気が付いた。そして、このような部分(最適部分)を繋げ合わせた好適な脈理ピッチを設定することで、屈折率分布のずれ量(歪み)をガラスプリフォーム1の半径方向の全体において低減出来るのではないかということに想到した。ここで用いる規格化半径(x/R)は、プリフォームの半径位置xをプリフォームのコア半径Rに対する比で表したもので、規格化半径0(ゼロ)はプリフォームの中心位置を示し、規格化半径1.0はコア半径の位置を示す。重心位置は、測定用レーザ光がガラスプリフォーム1の側面から入射し、入射光と垂直でガラスプリフォーム1の中心軸を含む平面を通過してから25mm離れた位置における入射光と垂直な平面上の測定用レーザ光強度分布の重心位置を示しており、重心位置0は脈理がない場合の重心位置に対応する。
【0027】
具体的には、図4Aに示すように、脈理ピッチPが4.0μmの場合、規格化半径(x/R)がゼロの位置において、レーザ光の重心位置も0μm程度になる。図4Bに示すように、脈理ピッチPが4.5μmの場合、規格化半径(x/R)が0.1の位置において、レーザ光の重心位置も0μm程度になる。図4Cに示すように、脈理ピッチPが5.0μmの場合、規格化半径(x/R)が0.2強の位置において、レーザ光の重心位置も0μm程度になる。なお、ここでいう「0μm程度」とは、例えば、重心位置のゼロ(0μm)を中心とした±20μmの範囲内を示し、より詳細には、重心位置のゼロ(0μm)を中心とした±10μmの範囲内を示すことができる。以下の説明においても同様である。
【0028】
同様に、図5Aに示すように、脈理ピッチPが5.5μmの場合、規格化半径(x/R)が0.4弱の位置において、レーザ光の重心位置も0μm程度になる。図5Bに示すように、脈理ピッチPが6.0μmの場合、規格化半径(x/R)が0.5弱の位置において、レーザ光の重心位置も0μm程度になる。図5Cに示すように、脈理ピッチPが6.5μmの場合、規格化半径(x/R)が0.6弱の位置において、レーザ光の重心位置も0μm程度になる。
【0029】
同様に、図6Aに示すように、脈理ピッチPが7.0μmの場合、規格化半径(x/R)が0.7強の位置において、レーザ光の重心位置も0μm程度になる。図6Bに示すように、脈理ピッチPが7.5μmの場合、規格化半径(x/R)が0.8強の位置において、レーザ光の重心位置も0μm程度になる。図6Cに示すように、脈理ピッチPが8.0μmの場合、規格化半径(x/R)が1.0弱の位置において、レーザ光の重心位置も0μm程度になる。
【0030】
そして、これらの好適部分を合成して、脈理ピッチPがガラスプリフォーム1の中心から外周に向けて、4.0μm、4.5μm、5.0μm、5.5μm、6.0μm、6.5μm、7.0μm、7.5μm、8.0μmと順に増加するようにプリフォームの各部分(ガラス層)を構成することで、半径方向の何れにおいても、レーザ光の重心位置を略ゼロ(若しくはその付近)に収めることが可能であることがわかった(図7参照)。そこで、図4A図4C図5A図5C及び図6A図6Cに示す各脈理ピッチPの最適な部分(レーザ光の重心位置がゼロ付近の部分)を合成して図7に示すようにすることで、脈理の影響を受けにくく、より確実な屈折率分布を測定することができるガラスプリフォーム1を得ることができることが確認できた。ガラスプリフォーム1における最適な脈理ピッチについては、例えば図3に示すピッチ変動を例示することができる。図3に示すような脈理ピッチ変動を有する増加脈理ピッチを備えることにより、例えば、ガラスプリフォーム1の屈折率分布を測定した場合に、脈理による屈折率分布のずれを低減できることから、より正確な屈折率分布を測定することが可能となる。図4A図4C図5A図5C図6A図6C及び図7の上下方向に伸びたエラーバーは、半径方向の当該位置において、脈理の位相の違いにより変化する測定用レーザ光の重心位置を示す。シミュレーションは測定用レーザ光の入射ビーム径を12μmとして行ったが、特に脈理のピッチが6μmより大きくなるとエラーバーが大きくなる傾向がある。よって、半径方向の当該位置における平均的な重心位置を得るために、半径方向にわたって脈理ピッチの1周期程度の範囲で重心位置を平均化することが好ましい。
【0031】
以上、ガラスプリフォーム1は、屈折率周期性の周期を示す脈理ピッチPがプリフォームの中心から外周に向けて増加する構成を採用している。図4A図4C図5A図5C図6A図6C及び図7等のシミュレーション結果に示すように、プリフォームにおける脈理ピッチをプリフォームの中心から外周に向けて増加することで、脈理ピッチによるプリフォームでの屈折率分布の測定結果を歪まないようにすることができ、これにより、脈理を有するガラスプリフォームの屈折率分布を更に精度よく測定することが可能となる。
【0032】
ガラスプリフォーム1では、屈折率周期性の周期を示す脈理ピッチが2μm以上10μm以下の範囲内でプリフォームの中心から外周に向けて増加する。このため、脈理を有するガラスプリフォームの屈折率分布を更に精度よく且つ確実に測定することが可能となる。本実施形態では、脈理ピッチが9つの異なる厚さを含んで増加する構成であるが、脈理ピッチに含まれる厚さの数はこれに限定されない。脈理ピッチが3つ以上の異なる厚さを含む態様でもよいし、5つ以上の異なる厚さを含む態様でもよいし、7つ以上の異なる厚さを含む態様でもよい。また、本実施形態では、各脈理ピッチは、0.5μm単位でガラスプリフォーム1の中心から外周に向けて増加しているが、これに限定されず、例えば0.3μm単位以上でガラスプリフォーム1の中心から外周に向けて増加してもよい。
【0033】
ガラスプリフォーム1では、プリフォームの中心から外周に向かう半径とプリフォームの中心から外周に向けて増加する各脈理ピッチとの関係を近似する曲線が、例えば図3に示すように、上に凸となるように、各脈理ピッチがプリフォームの中心から外周に向けて増加するように設定されたものとすることもできる。この場合、脈理を有するガラスプリフォームの屈折率分布を更に精度よく且つ確実に測定することが可能となる。
【0034】
また、出発材12(堆積対象物)を回転させながら出発材12の軸方向にガラス微粒子を合成するためのバーナ11(加熱源)を出発材12に対して相対的に繰り返し往復移動させ、ガラス原料に屈折率調整用の添加剤を添加しつつ合成されたガラス微粒子を順次積層させることで、出発材12上の径方向にガラス層を順次積層させて、ガラスプリフォーム1を製造することができる。この製造方法では、ガラス層の厚みがガラスプリフォームの径方向の中心から外周に向けて増加するように各ガラス層を堆積させている。この製造方法では、上記同様に、屈折率周期性の周期を示す脈理ピッチPに相当するガラス層の厚みがプリフォームの中心から外周に向けて増加するようになっている。このため、上述したように、脈理ピッチによるプリフォームでの屈折率分布の測定結果を歪まないようにすることができるため、屈折率分布を精度よく測定することが可能な、脈理を有するガラスプリフォームを製造することができる。
【0035】
この製造方法の一態様として、バーナ11の移動速度を低下させることでガラス層の厚みがガラスプリフォームの径方向の中心から外周に向けて増加するように各ガラス層を順に積層させてもよい。また、ガラス原料の供給量を増加させることでガラス層の厚みがガラスプリフォームの径方向の中心から外周に向かって増加するように各ガラス層を順に積層させてもよい。いずれの場合であっても、各ガラス層の厚みを順次増加することを容易に実現できる。
【0036】
本実施形態に係る脈理ピッチの設定方法は、屈折率調整用の添加剤が添加され、当該添加剤の濃度差による脈理を有するガラスプリフォームの屈折率周期性の周期を示す脈理ピッチを設定する設定方法である。この設定方法は、屈折率周期性の周期を示す複数の脈理ピッチのそれぞれにおけるプリフォームの中心から外周に向かう半径と屈折率分布のずれ量との関係を算出する算出工程(図4A図4C図5A図5C、及び、図6A図6C参照)と、算出工程で算出された各脈理ピッチにおける半径と屈折率分布のずれ量との関係を参照して、最適な脈理ピッチの変動パターンを合成する合成工程(図7及び図3参照)と、を備える。合成工程では、各脈理ピッチがプリフォームの中心から外周に向けて増加するように合成する。この場合、上記と同様に、脈理ピッチによるプリフォームでの屈折率分布の測定結果を歪まないようにすることができるため、屈折率分布を精度よく測定することが可能な、脈理を有するガラスプリフォームの構成を好適に設計することができる。
【0037】
以上、本実施形態に係る光ファイバ用のガラスプリフォーム及びその製造方法、設計方法について説明してきたが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の変形を適用することができる。例えば、上記のガラスプリフォームにおいては、脈理ピッチが4.0~8.0μmの9段階となる例を示したが、図8に示すように、脈理ピッチPが5.5μm、6.0μm、6.5μmの3段階からなり、これら脈理ピッチPがプリフォームの中心から外周に向けて増加する構成を採用してもよい。この場合でも、脈理ピッチによるプリフォームでの屈折率分布の測定結果をある程度は歪まないようにすることができ、これにより、脈理を有するガラスプリフォームの屈折率分布を精度よく測定することができる。図8に示すa1は脈理ピッチPが5.5μmの場合の測定用レーザ光の重心位置の変動を示し、a2は脈理ピッチPが6.0μmの場合の測定用レーザ光の重心位置の変動を示し、a3は脈理ピッチPが6.5μmの場合の測定用レーザ光の重心位置の変動を示している。これらa1~a3を順に合成することで、好適な脈理ピッチとすることができる。
【0038】
また、例えば、図9に示すように、脈理ピッチPが5.0μm、6.0μm、7.0μmの3段階からなり、これら脈理ピッチPがプリフォームの中心から外周に向けて増加する構成を採用してもよい。この場合でも、脈理ピッチによるプリフォームでの屈折率分布の測定結果をある程度は歪まないようにすることができ、これにより、脈理を有するガラスプリフォームの屈折率分布を精度よく測定することができる。図9に示すb1は脈理ピッチPが5.0μmの場合の測定用レーザ光の重心位置の変動を示し、b2は脈理ピッチPが6.0μmの場合の測定用レーザ光の重心位置の変動を示し、b3は脈理ピッチPが7.0μmの場合の測定用レーザ光の重心位置の変動を示している。これらb1~b3を順に合成することで、好適な脈理ピッチとすることができる。本発明は、屈折率調整用の添加剤が添加されて当該添加剤の濃度差による脈理を有する光ファイバ用のプリフォームであれば、シングルモード光ファイバ又はマルチモード光ファイバ等の光ファイバの種類に限定されず適用可能である。本発明は、屈折率分布の形状についてもステップインデックス型又はグレーデットインデックス型のいずれにも適用可能であり、他の形状であっても良い。特に、屈折率分布形状がグレーデッドインデックス型のマルチモード光ファイバのプリフォームはコア径が大きく、また屈折率調整用の添加剤の濃度が大きいため、脈理による影響が出やすいことから本発明の適用が好ましい。
【符号の説明】
【0039】
1…ガラスプリフォーム、2…中央部、3…ガラス堆積層、11…バーナ、12…出発材、13…ガラス微粒子堆積体、S1…回転方向、T1,T2…成長軸方向(トラバース方向)。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9