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特許7211377切削インサート及び該切削インサートを用いた転削工具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】切削インサート及び該切削インサートを用いた転削工具
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/08 20060101AFI20230117BHJP
   B23C 5/20 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
B23C5/08 A
B23C5/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020019364
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021122908
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 篤
(72)【発明者】
【氏名】津田 貴大
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/147816(WO,A1)
【文献】特開2007-038319(JP,A)
【文献】特開2015-186827(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0240871(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/08
B23C 5/20
B23B 27/16
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面の外周部に少なくとも一つの第1のチップ座が設けられ、他方の面の外周部に少なくとも一つの第2のチップ座が設けられた円盤状の工具本体と、
各々の前記第1のチップ座に第1のねじを用いて固定された第1の切削インサートと、
各々の前記第2のチップ座に第2のねじを用いて固定された第2の切削インサートと、
を備え、
前記一方の面の外周部には平置きタイプである前記第1の切削インサートのみが配置され、前記他方の面には縦置きタイプである前記第2の切削インサートのみが配置され、
前記第1のねじ及び前記第2のねじは、締付け方向が同一である
転削工具。
【請求項2】
前記第1の切削インサートは、前記第2の切削インサートと同一の形状であって、
前記第1のチップ座に固定された状態ですくい面として機能し、かつ前記第2のチップ座に固定された状態で側面として機能する第1の面と、
前記第2のチップ座に固定された状態ですくい面として機能し、かつ前記第1のチップ座に固定された状態で側面として機能する第2の面と、を有している、
請求項1に記載の転削工具。
【請求項3】
平置きタイプの前記第1の切削インサートの切れ刃として使用される切れ刃と、縦置きタイプの前記第2の切削インサートの切れ刃として使用される切れ刃とが、略同一の刃長に形成されている、
請求項1又は2に記載の転削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサート及び該切削インサートを用いた転削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
切削中の転削工具には、被削物からの反力によって切削抵抗が生じる。切削抵抗は、転削工具の回転方向(例えば、反時計回り)に対して逆向き(例えば、時計回り)に作用する主分力と、転削工具の送り方向(テーブル送りの逆方向、径方向外向き)に対して逆向き(径方向内向き)に作用する送り分力と、転削工具の軸方向に作用する背分力と、に分解できる。
【0003】
径方向に切り込んで溝切り加工等を行うサイドカッタは、切削抵抗のうちの背分力がほとんど生じないため、主分力及び送り分力を考慮して設計される。サイドカッタは、例えば、円盤状の工具本体の外周部に等間隔に切削インサートが配置されている。幅が広い溝を加工するサイドカッタでは、工具本体の両面に交互に切削インサートが配置された千鳥刃と呼ばれるタイプも流通している(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/147513号
【文献】特開2001-38517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
千鳥刃のサイドカッタにおいて、取付け孔がすくい面を貫通する平置きタイプ(lay-down type)の切削インサートを、右回りで締まる右ねじを用いて固定すると、一方の面の切削インサートのねじが締まり、他方の面の切削インサートのねじが緩む向きに送り分力が作用する。また、千鳥刃のサイドカッタにおいて、取付け孔が側面を貫通する縦置きタイプ(tangential type)の切削インサートを、右ねじを用いて固定すると、一方の面の切削インサートのねじが緩み、他方の面の切削インサートのねじが締まる向きに主分力が作用する。
【0006】
千鳥刃のサイドカッタでは、一方の面と他方の面とでねじの緩みやすさに差が生じる可能性がある。切削抵抗を考慮して十分な締結力を確保できるよう設計すると、ねじが緩みやすい側の切削インサートを基準にしてサイドカッタ全体の切削条件が制限される。両面の締結力を均衡させるため、いずれか一方の面の切削インサートを左ねじ(逆ねじ)を用いて固定し、いずれか他方の面の切削インサートを右ねじで固定することも考えられる。しかしながら、複数の種類のねじが混在していると、切削インサートの交換作業やねじの在庫管理が煩雑になり、作業者の負担が増加する。
【0007】
そこで、本発明は、工具本体の両面でねじの締結力を均衡させることができ、同じ種類のねじを用いて固定できる切削インサート及び該切削インサートを用いた転削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る転削工具は、円盤状の工具本体と、第1の切削インサートと、第2の切削インサートと、を備えている。工具本体は、一方の面の外周部に少なくとも一つの第1のチップ座が設けられ、他方の面の外周部に少なくとも一つ第2のチップ座が設けられている。第1の切削インサートは、各々の第1のチップ座に第1のねじを用いて固定されている。第2の切削インサートは、各々の第2のチップ座に第2のねじを用いて固定されている。第1の切削インサートは平置きタイプであり、かつ第2の切削インサートは縦置きタイプである。第1のねじ及び第2のねじは、同一の締付け方向である。
【0009】
この態様によれば、工具本体の一方の面に送り分力でねじが締まる向きで固定された切削インサートが配置され、工具本体の他方の面に主分力でねじが締まる向きで固定された切削インサートが配置されるため、送り分力及び主分力のいずれの切削抵抗が作用してもねじが緩みにくい。工具本体の両側でねじの締結力を均衡させることができ、同じ種類のねじを用いて固定できる。
【0010】
上記態様において、第1の切削インサートは、第2の切削インサートと同一の形状であってもよい。その場合、第1の切削インサートは、第1の面と、第2の面と、を有している。第1の面は、第1のチップ座に固定された状態ですくい面として機能し、かつ第2のチップ座に固定された状態で側面として機能する。第2の面は、第2のチップ座に固定された状態ですくい面として機能し、かつ第1のチップ座に固定された状態で側面として機能する。
【0011】
また、本発明の一態様に係る切削インサートは、円盤状の工具本体の両面にそれぞれ取り付けられて転削工具を構成する。切削インサートは、取付け孔が形成された第1の面と、該第1の面に交差する第2の面と、を有している。第1の面は、工具本体の一方の面に固定された状態で平置きタイプのすくい面として機能し、かつ工具本体の他方の面に固定された状態で縦置きタイプの側面として機能する。第2の面は、他方の面に固定された状態で縦置きタイプのすくい面として機能し、かつ一方の面に固定された状態で平置きタイプの側面として機能する。
【0012】
これらの態様によれば、一種類の切削インサートを平置きと縦置きと両方に使用できるため、経済性に優れている。二種類の切削インサートを用意する必要がないため、消耗品の在庫管理の負担を軽減できる。
【0013】
上記態様において、切削インサートは、第1の面及び第2の面の少なくとも一方を複数有していてもよい。
【0014】
この態様によれば、同一の切削インサートについて、平置きして複数回使用したり、縦置きして複数回使用したりできるため経済性に優れている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、両側の締結力を均衡させることができ、同じ種類のねじを用いて固定できる切削インサート及び転削工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の第1実施形態の転削工具の一例を示す斜視図である。
図2図2は、図1に示された切削インサートを拡大して示す斜視図である。
図3図3は、図2に示された切削インサートの面ABCDを示す図である。
図4図4は、図2に示された切削インサートの面ABD´A´を示す図である。
図5図5は、図2に示された切削インサートの面BCC´D´を示す図である。
図6図6は、図2に示された切削インサートの面CDB´C´を示す図である。
図7図7は、図2に示された切削インサートの面DAA´B´を示す図である。
図8図8は、本発明の第2実施形態の転削工具の一例を示す斜視図である。
図9図9は、図8に示された切削インサートを拡大して示す斜視図である。
図10図10は、図9に示された切削インサートの面ABCDEを示す図である。
図11図11は、図9に示された切削インサートの面BCD´E´を示す図である。
図12図12は、図9に示された切削インサートの面DEB´C´を示す図である。
図13図13は、本発明の第3実施形態の転削工具の一例を示す斜視図である。
図14図14は、図13に示された切削インサートを拡大して示す斜視図である。
図15図15は、図14に示された切削インサートの面EFGHを示す図である。
図16図15は、図14に示された切削インサートの面BCGFを示す図である。
図17図17は、平置きタイプの切削インサートに作用する送り分力を説明する図である。
図18図18は、縦置きタイプの切削インサートに作用する主分力を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。本発明の一実施形態の転削工具1は、例えば千鳥刃のサイドカッタであり、円盤状の工具本体3の両側に切削インサート2を取り付けて使用する。
【0018】
転削工具1は、送り分力及び主分力のいずれの切削抵抗が作用してもねじ(5L,5R)が緩みにくいように、円盤状の工具本体3の一方の面3Lには平置きタイプの切削インサート2Lを取り付け、反対側の他方の面3Rには縦置きタイプの切削インサート2Rを取り付けたことが特徴の一つである(図1図8及び図13参照)。
【0019】
平置きタイプの切削インサート2Lは、縦置きタイプの切削インサート2Rと同じ形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。平置きタイプと縦置きタイプと双方に使用可能な切削インサート2は、第1の面(ABCD,A´B´C´D´(第1実施形態);ABCDE,A´B´C´D´E´(第2実施形態);ABCD(第3実施形態))が、一方の面3Lに取り付けられた状態ですくい面として機能し、他方の面3Rに取り付けられた状態で側面として機能する。
【0020】
第2の面(CDB´C´,BCC´D´(第1実施形態);CDC´D´(第2実施形態);CDHG(第3実施形態))が、他方の面3Rに取り付けられた状態ですくい面として機能し、一方の面3Lに取り付けられた状態で側面として機能する。切削インサート2が対称軸Oを有している場合、切削インサート2は、複数の第1の面や複数の第2の面を含み、複数回使用できる。以下、図面を参照して各構成について詳しく説明する。
【0021】
[第1実施形態]
図1から図7を参照して第1実施形態の転削工具1について説明する。図1は、本発明の第1実施形態の転削工具1の一例を示す斜視図である。図1に示すように、転削工具1は、交換可能な切削インサート2と、切削インサート2を固定する工具本体3と、を備えている。転削工具1は、回転軸AXを中心に回転すると被削物を切削するように構成されている。回転方向Xにおいて切削インサート2が進む向きを前向きとして転削工具1の前後左右を定義する。図示した例では、被削物に溝切り加工等を行うサイドカッタとして転削工具1が構成されている。
【0022】
工具本体3は、円盤状に形成され、一方の面3Lと、該一方の面3Lとは反対側の他方の面3Rと、を有している。一方の面3Lは、工具本体3の例えば左側面であり、他方の面3Rは、工具本体3の例えば右側面である。工具本体3について、一方の面3Lを含む第1の部分(例えば左半分)と、他方の面3Rを含む第2の部分(例えば右半分)とに分割可能に構成してもよい。第1の部分と第2の部分との間に取付け可能なスペーサ等を備えていてもよい。分割可能に構成する場合、スペーサの幅で加工する溝の幅を調整できる。
【0023】
一方の面3Lの外周部には、少なくとも一つの第1のチップ座4Lが設けられている。同様に、他方の面3Rの外周部には、少なくとも一つの第2のチップ座4Rが設けられている。図示した例では、一方の面3Lの外周部に六つの第1のチップ座4Lが等間隔に設けられ、他方の面3Lの外周部に六つの第2のチップ座4Rが等間隔に設けられている。
【0024】
工具本体3の回転方向Xにおいて、各々の第2のチップ座4Rは、隣接する一対の第1のチップ座4Lの間に配置されている。換言すると、転削工具1の回転方向Xにおいて、工具本体2には、第1のチップ座4Lと第2のチップ座4Rとが交互に設けられている。
【0025】
第1のチップ座4Lには、第1のねじ5Lを用いて第1の切削インサート2Lが固定されている。第2のチップ座4Rには、第2のねじ5Rを用いて第2の切削インサート2Rが固定されている。第1のねじ5Lと第2のねじ5Rとは締付け方向が同一であり、例えばどちらも右ねじである。第1のねじ5Lと第2のねじ5Rとが、どちらも左ねじであってもよい。図示した例では、第1のねじ5Lと第2のねじ5Rとが同一の形状である。
【0026】
図1に示すように、第1の切削インサート2Lは、すくい面を貫通するように取付け孔9が形成された平置きタイプの切削インサートである。第2の切削インサート2Rは、すくい面に交差する側面を貫通するように取付け孔9が形成された縦置きタイプの切削インサートである。図示した例では、側面のうちの逃げ面を貫通するように取付け孔9が形成されている。逃げ面ではない側面に取付け孔9を形成してもよい。
【0027】
なお、前述したねじ5L,5Rが左ねじの場合、転削工具1を構成する切削インサート2L,2R及び工具本体3の形状は、ねじ5L,5Rが右ねじの場合と鏡面対称の形状になる。すなわち、切削インサート2L,2Rにおいて、右ねじの5Lで固定される切削インサート2Lが左勝手であれば、左ねじの5Lで固定される切削インサート2Lは右勝手になる。左ねじの5Rで固定される切削インサート2Rが右勝手であれば、左ねじの5Rで固定される切削インサート2Lは左勝手になる。
【0028】
工具本体3において、ねじ5L,5Rが右ねじの場合に、一方の面3Lが工具本体3の左側面であり、他方の面3Rが工具本体3の右側面であれば、ねじ5L,5Rが左ねじの場合には、一方の面3Lが工具本体3の右側面になり、他方の面3Rが工具本体3の左側面になる。平置きタイプの切削インサート2L及び該切削インサート2Lを固定する第1のチップ座4Lは、右側面になった一方の面3Lに配置される。縦置きタイプの切削インサート2R及び該切削インサート2Rを固定する第2のチップ座4Rは、左側面になった他方の面3Rに配置される。
【0029】
図示した例では、第1の切削インサート2Lを90°回転させると第2の切削インサート2Rと同一の形状になる。図2から図7を参照して説明する切削インサート2は、第1のチップ座4Lに装着可能な第1の切削インサート2Lとしても使用できるし、第2のチップ座4Rに装着可能な第2の切削インサート2Rとしても使用できる。
【0030】
図2は、図1に示された切削インサート2を拡大して示す斜視図である。図3から図7は、図2に示された切削インサート2の各々の面を示す図である。図2に示すように、切削インサート2は、略正四角柱に形成され、八つのコーナA,B,C,D,A´,B´,C´,D´を有している。取付け孔9は、面ABCDと、該面ABCDとは反対側の面A´B´C´D´とを貫通するように形成されている。
【0031】
図示した例では、切削インサート2が対称軸Oを中心に180°対称に形成されている。つまり、面ABCDと面A´B´C´D´とは180°回転した同一の形状に形成されている。図4に示された面ABD´A´と図7に示された面DAA´B´とは、180°回転した同一の形状に形成されている。図5に示された面BCC´D´と図6に示された面CDB´C´とは、180°回転した同一の形状に形成されている。図示した例では、面ABCD及び面A´B´C´D´と、面ABD´A´、面BCC´D´、面CDB´C´及び面DAA´B´とは、略直交している。
【0032】
面ABCDと面ABD´A´とが交差する稜線ABの少なくとも一部は、第1の切れ刃21として形成されている。面A´B´C´D´と面DAA´B´とが交差する稜線A´B´の少なくとも一部は、第2の切れ刃22として形成されている。切削インサート2が工具本体3の第1のチップ座4Lに装着された状態において、面ABCDは、第1の切れ刃21に対してすくい面として機能し、面ABD´A´は、第1の切れ刃21に対して逃げ面として機能する。
【0033】
同様に、切削インサート2が工具本体3の第1のチップ座4Lに装着された状態において、面A´B´C´D´は、第2の切れ刃22に対してすくい面として機能し、面DAA´B´は、第2の切れ刃22に対して逃げ面として機能する。
【0034】
つまり、面ABCDと面A´B´C´D´とを貫通する取付け孔9が形成された切削インサート2は、平置きタイプとして機能できる。面ABCDがすくい面として機能するとき、該すくい面に交差する側面は、面CDB´C´を含んでいる。面A´B´C´D´がすくい面として機能するとき、該すくい面に交差する側面は、面BCC´D´を含んでいる。
【0035】
面CDB´C´と面ABCDとが交差する稜線CDの少なくとも一部は、第3の切れ刃23として形成されている。面BCC´D´と面A´B´C´D´とが交差する稜線C´D´の少なくとも一部は、第4の切れ刃24として形成されている。
【0036】
切削インサート2が工具本体3の第2のチップ座4Rに装着された状態において、面CDB´C´は、第3の切れ刃23に対してすくい面として機能し、面ABCDは、第3の切れ刃23に対して逃げ面(側面)として機能する。
【0037】
同様に、切削インサート2が工具本体3の第2のチップ座4Rに装着された状態において、面BCC´D´は、第4の切れ刃24に対してすくい面として機能し、面A´B´C´D´は、第4の切れ刃24に対して逃げ面(側面)として機能する。つまり、面ABCDと面A´B´C´D´とを貫通する取付け孔9が形成された切削インサート2は、縦置きタイプとして機能できる。
【0038】
面ABCD及び面A´B´C´D´はいずれも、切削インサート2が工具本体3の第1のチップ座4Lに固定された状態ですくい面として機能し、かつ工具本体3の第2のチップ座4Rに固定された状態で側面として機能する第1の面の一例である。
【0039】
面CDB´C´及び面BCC´D´はいずれも、切削インサート2が工具本体3の第2のチップ座4Rに固定された状態ですくい面として機能し、かつ工具本体3の第1のチップ座4Lに固定された状態で側面として機能する第2の面の一例である。
【0040】
第1実施形態に係る切削インサート2は、二つの第1の面と二つの第2の面とを有している。平置きして切れ刃21,22を使用でき、縦置きして切れ刃23,24を使用でき、合計四回使用できるため経済性に優れている。
【0041】
以上のように構成された本発明の第1実施形態の転削工具1は、工具本体3の一方の面3Lに平置きタイプの切削インサート2Lが配置されている。図17は、平置きタイプの切削インサート102に作用する送り分力fyを説明する図である。千鳥刃のサイドカッタにおいて、平置きタイプの切削インサート102を右ねじ5を用いて固定すると、一方の面3Lの切削インサート102の右ねじ5が締まり、他方の面3Rの切削インサート102の右ねじ5が緩む向きに送り分力fyが作用する。
【0042】
また、第1実施形態の転削工具1は、他方の面3Rに縦置きタイプの切削インサート2Rが配置されている。図18は、縦置きタイプの切削インサート202に作用する主分力fxを説明する図である。千鳥刃のサイドカッタにおいて、縦置きタイプの切削インサート202を右ねじ5を用いて固定すると、一方の面3Lの切削インサート202の右ねじ5が緩み、他方の面3Rの切削インサート205の右ねじ105が締まる向きに主分力fxが作用する。
【0043】
つまり、第1実施形態の転削工具1は、工具本体3の一方の面3Lに送り分力fyでねじ5Lが締まる向きで固定された平置きタイプの切削インサート2Lが配置され、他方の面3Rに主分力fxでねじ5Rが締まる向きで固定された縦置きタイプの切削インサート2Rが配置されている。そのため、送り分力及び主分力のいずれの切削抵抗が作用してもねじ5L,5Rが緩みにくい。同じ種類のねじ5L,5Rを用いて工具本体3の両面3L,3Rの締結力を均衡させることができる。
【0044】
続いて、図8から図16を参照して本発明の第2及び第3実施形態の転削工具1について説明する。なお、第1実施形態の構成と同一又は類似の機能を有する構成は、同一の符号を付して対応する第1実施形態の記載を参酌することとし、ここでの説明を省略する。また、その他の構成は、第1実施形態と同一である。
【0045】
[第2実施形態]
図8は、本発明の第2実施形態の転削工具1の一例を示す斜視図である。図8に示すように、第2実施形態は、第1実施形態と切削インサート2の形状が異なる。図9は、図8に示された切削インサート2を拡大して示す斜視図である。図10から図12は、図9に示された切削インサート2の各々の面を示す図である。
【0046】
図9に示すように、切削インサート2は、略五角柱に形成され、十つのコーナA,B,C,D,E,A´,B´,C´,D´,E´を有している。取付け孔9は、面ABCDEと、該面ABCDEとは反対側の面A´B´C´D´E´とを貫通するように形成されている。
【0047】
図示した例では、切削インサート2が対称軸Oを中心に180°対称に形成されている。つまり、図11に示された面BCD´E´と図12に示された面DEB´C´とは、180°回転した同一の形状に形成されている。同様に、図11に示された面ABE´A´と図12に示された面EAA´B´とは、180°回転した同一の形状に形成されている。図示した例では、面ABCDE及び面A´B´C´D´E´と、面ABE´A´、面BCD´E´、面CDC´D´、面DEB´C´及び面EAA´B´とは、略直交している。
【0048】
面ABCDEと面ABE´A´とが交差する稜線ABの少なくとも一部は、第1の切れ刃21として形成されている。面A´B´C´D´E´と面EAA´B´とが交差する稜線A´B´の少なくとも一部は、第2の切れ刃22として形成されている。
【0049】
切削インサート2が工具本体3の第1のチップ座4Lに装着された状態において、面ABCDEは、第1の切れ刃21に対してすくい面として機能し、面ABE´A´は、第1の切れ刃21に対して逃げ面として機能する。
【0050】
同様に、切削インサート2が工具本体3の第1のチップ座4Lに装着された状態において、面A´B´C´D´E´は、第2の切れ刃22に対してすくい面として機能し、面EAA´B´は、第2の切れ刃22に対して逃げ面として機能する。
【0051】
つまり、面ABCDEと面A´B´C´D´E´とを貫通する取付け孔9が形成された切削インサート2は、平置きタイプとして機能できる。面ABCDEがすくい面として機能するとき、該すくい面に交差する側面は、面CDC´D´を含んでいる。面A´B´C´D´がすくい面として機能するとき、該すくい面に交差する側面は、面CDC´D´を含んでいる。
【0052】
面CDC´D´と面ABCDEとが交差する稜線CDの少なくとも一部は、第3の切れ刃23として形成されている。面CDC´D´と面A´B´C´D´E´とが交差する稜線C´D´の少なくとも一部は、第4の切れ刃24として形成されている。切削インサート2が工具本体3の第2のチップ座4Rに装着された状態において、面CDC´D´は、第3の切れ刃23に対してすくい面として機能し、面ABCDEは、第3の切れ刃23に対して逃げ面(側面)として機能する。
【0053】
同様に、切削インサート2が工具本体3の第2のチップ座4Rに装着された状態において、面CDC´D´は、第4の切れ刃24に対してすくい面として機能し、面A´B´C´D´E´は、第4の切れ刃24に対して逃げ面(側面)として機能する。つまり、面ABCDEと面A´B´C´D´E´とを貫通する取付け孔9が形成された切削インサート2は、縦置きタイプとして機能できる。
【0054】
面ABCDE及び面A´B´C´D´E´はいずれも、第2実施形態における第1の面である。面CDC´D´は、第2実施形態における第2の面である。第2実施形態は、二つの第1の面と、一つの第2の面とを有している。第2実施形態に係る切削インサート2は、平置きして切れ刃21,22を使用でき、縦置きして切れ刃23,24を使用でき、合計四回使用できるため経済性に優れている。
【0055】
以上のように構成された本発明の第2実施形態の転削工具1及びその切削インサート2によれば、第1実施形態と同様に、送り分力及び主分力のいずれの切削抵抗が作用してもねじ5L,5Rが緩みにくい。同じ種類のねじ5L,5Rを用いて工具本体3の両面3L,3Rの締結力を均衡させることができる。
【0056】
第2実施形態に係る切削インサート2は、五角柱状であるものの、図10に示すように、平置きタイプの切削インサート2Lの切れ刃として使用される第1の切れ刃21と、縦置きタイプの切削インサート2Rの切れ刃として使用される第3の切れ刃23とが、略同一の刃長に形成されている。両面の切削抵抗を均衡させることができる。なお、工具本体3の一方の面3Lと他方の面3Rで切削インサート2の切れ刃の刃長が異なる場合、いずれか一方の面の負荷が大きくなるおそれがある。
【0057】
[第3実施形態]
図13は、本発明の第3実施形態の転削工具1の一例を示す斜視図である。図13に示すように、第3実施形態は、第1実施形態と切削インサート2の形状が異なる。図14は、図13に示された切削インサート2を拡大して示す斜視図である。図15及び図16は、図14に示された切削インサート2の各々の面を示す図である。
【0058】
図14に示すように、切削インサート2は、略四角錐台に形成され、八つのコーナA,B,C,D,E,F,G,Hを有している。取付け孔9は、面ABCDと、該面ABCDとは反対側の面EFGHとを貫通するように形成されている。図示した例では、面ABCDと、面ABFE、面BCGF、面CDHG及び面DAEHとは、鋭角に交差している。面EFGHと、面ABFE、面BCGF、面CDHG及び面DAEHとは、鈍角に交差している。
【0059】
面ABCDと面ABFEとが交差する稜線ABの少なくとも一部は、第1の切れ刃21として形成されている。切削インサート2が工具本体3の第1のチップ座4Lに装着された状態において、面ABCDは、第1の切れ刃21に対してすくい面として機能し、面ABFEは、第1の切れ刃21に対して逃げ面として機能する。つまり、面ABCDと面EFGHとを貫通する取付け孔9が形成された切削インサート2は、平置きタイプとして機能できる。面ABCDがすくい面として機能するとき、該すくい面に交差する側面は、面CDHGを含んでいる。
【0060】
面CDHGと面ABCDとが交差する稜線CDの少なくとも一部は、第3の切れ刃23として形成されている。切削インサート2が工具本体3の第2のチップ座4Rに装着された状態において、面CDHGは、第3の切れ刃23に対してすくい面として機能し、面ABCDは、第3の切れ刃23に対して逃げ面(側面)として機能する。つまり、面ABCDと面A´B´C´D´とを貫通する取付け孔9が形成された切削インサート2は、縦置きタイプとして機能できる。
【0061】
面ABCDEは、第3実施形態における第1の面である。面CDHGは、第3実施形態における第2の面である。第3実施形態は、一つの第1の面と、一つの第2の面とを有している。第3実施形態に係る切削インサート2は、平置きタイプと縦置きタイプと双方に使用できるため経済性に優れている。
【0062】
以上のように構成された本発明の第3実施形態の転削工具1及びその切削インサート2によれば、第1実施形態と同様に、送り分力及び主分力のいずれの切削抵抗が作用してもねじ5L,5Rが緩みにくい。さらに、第3実施形態によれば、図15及び図16に示すように、第1の切れ刃21の刃先の角度θ1や第3の切れ刃23の刃先の角度θ2を鋭角に形成できるため、すくい角が正となり刃先が先行するポジティブタイプの切削インサートとして構成できる。
【0063】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…転削工具、2…切削インサート、2L…第1の切削インサート、2R…第2の切削インサート、3…工具本体、3L…第1の面、3R…第2の面、4L…第1のチップ座、4R…第2のチップ座、5L…第1のねじ、5R…第2のねじ、9…取付け孔、21…第1の切れ刃、22…第2の切れ刃、23…第3の切れ刃、24…第4の切れ刃、A,A´,B,B´,C,C´,D,D´,E,E´,F,G,H…コーナ、AX…工具本体の回転軸、O…切削インサートの対称軸、X…回転方向、Y…送り方向、Z…軸方向、fx…主分力、fy…送り分力、fs…ねじの締付け方向、θ1,θ2…刃先の角度。
図1
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