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特許7211420パラメータ推定装置、パラメータ推定方法及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】パラメータ推定装置、パラメータ推定方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20230117BHJP
   G01R 31/3842 20190101ALI20230117BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20230117BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230117BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/3842
G01R31/389
H01M10/48 P
H02J7/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020521675
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2019000538
(87)【国際公開番号】W WO2019230033
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2018105347
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武智 裕章
(72)【発明者】
【氏名】片岡 智美
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224919(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106501736(CN,A)
【文献】特開2013-050433(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129248(WO,A1)
【文献】特開2014-202630(JP,A)
【文献】特開2012-058089(JP,A)
【文献】特開2012-058028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/367
G01R 31/382
G01R 31/3842
G01R 31/385
G01R 31/387
G01R 31/389
G01R 31/392
H02J 7/00
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の等価回路モデルのパラメータを推定するパラメータ推定装置であって、
前記二次電池の電圧を時系列的に取得する電圧取得部と、
前記二次電池の充放電電流を時系列的に取得する電流取得部と、
前記電圧取得部で取得した電圧及び前記電流取得部で取得した充放電電流に基づいて前記パラメータを推定する推定部と、
前記電流取得部で取得した充放電電流又は前記電圧取得部で取得した電圧に基づいて前記推定部によるパラメータの推定を禁止する禁止部と、
前記電流取得部で取得した充放電電流及び前記電圧取得部で取得した電圧を記憶する記憶部と、
前記電流取得部で取得した充放電電流及び前記記憶部に記憶した充放電電流の差分を算出する第1算出部と、
前記電圧取得部で取得した電圧及び前記記憶部に記憶した電圧の差分を算出する第2算出部と
を備え、
前記禁止部は、前記第1算出部で算出した差分が第2閾値より小さく、且つ前記第2算出部で算出した差分が第3閾値より小さい場合、前記パラメータの推定を禁止するパラメータ推定装置。
【請求項2】
前記禁止部は、前記充放電電流の絶対値が第1閾値より小さい場合、前記パラメータの推定を禁止する請求項1に記載のパラメータ推定装置。
【請求項3】
前記等価回路モデルは、抵抗及びコンデンサの組み合わせによって表される請求項1又は請求項2に記載のパラメータ推定装置。
【請求項4】
前記推定部は、逐次最小二乗法により前記パラメータを推定する請求項1から請求項3の何れか1項に記載のパラメータ推定装置。
【請求項5】
前記推定部は、カルマンフィルタを用いて前記パラメータを推定する請求項1から請求項4の何れか1項に記載のパラメータ推定装置。
【請求項6】
二次電池の等価回路モデルのパラメータを推定するパラメータ推定方法であって、
前記二次電池の電圧を時系列的に取得するステップと、
前記二次電池の充放電電流を時系列的に取得するステップと、
取得した充放電電流及び取得した電圧を記憶部に記憶するステップと、
取得した充放電電流及び前記記憶部に記憶した充放電電流の差分を算出するステップと、
取得した電圧及び前記記憶部に記憶した電圧の差分を算出するステップと、
取得した電圧及び取得した充放電電流に基づいて前記パラメータを推定するステップと、
取得した充放電電流又は取得した電圧に基づいて前記パラメータの推定を禁止するステップと
を含み、
前記禁止するステップにおいて、算出した充放電電流の差分が第2閾値より小さく、且つ算出した電圧の差分が第3閾値より小さい場合、前記パラメータの推定を禁止するパラメータ推定方法。
【請求項7】
コンピュータに、二次電池の等価回路モデルのパラメータを推定させるコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
前記二次電池の電圧を時系列的に取得するステップと、
前記二次電池の充放電電流を時系列的に取得するステップと、
取得した充放電電流及び取得した電圧を記憶部に記憶するステップと、
取得した充放電電流及び前記記憶部に記憶した充放電電流の差分を算出するステップと、
取得した電圧及び前記記憶部に記憶した電圧の差分を算出するステップと、
取得した電圧及び取得した充放電電流に基づいて前記パラメータを推定するステップと、
取得した充放電電流又は取得した電圧に基づいて前記パラメータの推定を禁止するステップと
を実行させ、
前記禁止するステップにおいて、算出した充放電電流の差分が第2閾値より小さく、且つ算出した電圧の差分が第3閾値より小さい場合、前記パラメータの推定を禁止するコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パラメータ推定装置、パラメータ推定方法及びコンピュータプログラムに関する。本出願は、2018年5月31日出願の日本出願第2018-105347号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載事項を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、HV(Hybrid Vehicle:ハイブリッド車)、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle:プラグインハイブリッド車)、EV(Electric Vehicle:電気自動車)等の電動車両が急速に普及している。電動車両にあっては、バッテリを効率的に制御するためにバッテリの状態推定を精度良く行う必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、バッテリ(二次電池)の充放電電流値及び端子電圧値に基づいて、バッテリのワールブルグインピーダンスを近似したバッテリ等価回路モデルにおけるパラメータを推定するバッテリのパラメータ推定装置が記載されている。このパラメータ推定装置は、バッテリ等価回路モデルのパラメータとバッテリの内部抵抗を同時に推定可能であるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、抵抗及びコンデンサを有するバッテリ等価回路モデルの状態方程式のパラメータを、カルマンフィルタを用いて推定する状態推定部を有するパラメータ推定装置が記載されている。このバッテリ等価回路には、ローパスフィルタで前処理された充放電電流値及び端子電圧値が入力される。ローパスフィルタの時定数は、バッテリ温度に応じた時定数τと、バッテリの劣化度補正係数λHと、充電率補正係数λcとの積によって得られる補正後の時定数τcが用いられる。
【0005】
更に、特許文献3には、蓄電池(バッテリ)の端子電圧uL、電流i、開放電圧OCV(Open Circuit Voltage)、及び内部インピーダンスRa,Rb,Cbの関係を示す関係式に基づいて、Ra,Rb,Cb及びOCVを同定する蓄電池劣化診断装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-81800号公報
【文献】特開2012-63251号公報
【文献】特開2016-156771号公報
【発明の概要】
【0007】
本開示の一態様に係るパラメータ推定装置は、二次電池の等価回路モデルのパラメータを推定するパラメータ推定装置であって、前記二次電池の電圧を時系列的に取得する電圧取得部と、前記二次電池の充放電電流を時系列的に取得する電流取得部と、前記電圧取得部で取得した電圧及び前記電流取得部で取得した充放電電流に基づいて前記パラメータを推定する推定部と、前記電流取得部で取得した充放電電流又は前記電圧取得部で取得した電圧に基づいて前記推定部によるパラメータの推定を禁止する禁止部とを備える。
【0008】
本開示の一態様に係るパラメータ推定方法は、二次電池の等価回路モデルのパラメータを推定するパラメータ推定方法であって、前記二次電池の電圧を時系列的に取得するステップと、前記二次電池の充放電電流を時系列的に取得するステップと、取得した電圧及び取得した充放電電流に基づいて前記パラメータを推定するステップと、取得した充放電電流又は取得した電圧に基づいて前記パラメータの推定を禁止するステップとを含む。
【0009】
本開示の一態様に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、二次電池の等価回路モデルのパラメータを推定させるコンピュータプログラムであって、コンピュータに、前記二次電池の電圧を時系列的に取得するステップと、前記二次電池の充放電電流を時系列的に取得するステップと、取得した電圧及び取得した充放電電流に基づいて前記パラメータを推定するステップと、取得した充放電電流又は取得した電圧に基づいて前記パラメータの推定を禁止するステップとを実行させる。
【0010】
なお、本願は、このような特徴的な処理部を備えるパラメータ推定装置として実現したり、特徴的な処理をステップとするパラメータ推定方法として実現したり、係るステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムとして実現したりすることができるだけでなく、パラメータ推定装置の一部又は全部を半導体集積回路として実現したり、パラメータ推定装置を含むシステムとして実現したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1に係る電池監視装置が搭載された車両の要部構成例を示すブロック図である。
図2】電池監視装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3A】抵抗及びコンデンサの組み合わせによって表される二次電池の等価回路モデルを示す説明図である。
図3B】抵抗及びコンデンサの組み合わせによって表される二次電池の等価回路モデルを示す説明図である。
図3C】抵抗及びコンデンサの組み合わせによって表される二次電池の等価回路モデルを示す説明図である。
図4】二次電池ユニットの端子電圧及び充放電電流の波形の一例を示すグラフである。
図5】二次電池ユニットの等価回路モデルのパラメータを逐次推定した結果を示すグラフである。
図6】二次電池ユニットの充放電電流とパラメータRbとの対応を示すグラフである。
図7】パラメータの推定に係る機能ブロックの関係を模式的に示す説明図である。
図8】実施形態1に係る電池監視装置でパラメータを適時推定する制御部の処理手順を示すフローチャートである。
図9】実施形態1に係る電池監視装置で電流判定のサブルーチンに係る制御部の処理手順を示すフローチャートである。
図10】二次電池ユニットの等価回路モデルのパラメータを適時推定した結果を示すグラフである。
図11】パラメータの推定及び充電率の算出に係る機能ブロックの関係を模式的に示す説明図である。
図12】パラメータ及び充電率の推定に係る機能ブロックの関係を模式的に示す説明図である。
図13】実施形態2に係る電池監視装置でパラメータを適時推定する制御部の処理手順を示すフローチャートである。
図14】実施形態2に係る電池監視装置で電圧判定のサブルーチンに係る制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示が解決しようとする課題]
しかしながら、特許文献1には、少なくともバッテリ等価回路モデルのパラメータを算出するための実際の計算式は示されておらず、シミュレーション結果では、充電中及び充電終了後の放電停止中の期間に、内部抵抗R0の推定値が大きくずれる傾向が見られる。また、特許文献2に記載の技術によれば、時定数τ及び補正係数λH,λcを実験的に求める必要があり、実際にはバッテリのばらつきや劣化状態も考慮しなければならないため、非常に煩雑である。更に、特許文献3に記載の技術では、電流iがゼロである場合に上述の関係式が成立せず、電流iが一定の場合は内部インピーダンスを精度よく推定することができない。
【0013】
本開示は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、二次電池の充放電電流又は電圧に関わらず、二次電池の内部パラメータを高精度に推定することが可能なパラメータ推定装置、パラメータ推定方法及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【0014】
[本開示の効果]
本願の開示によれば、二次電池の充放電電流又は電圧に関わらず、二次電池の内部パラメータを高精度に推定することが可能となる。
【0015】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0016】
(1)本開示の一態様に係るパラメータ推定装置は、二次電池の等価回路モデルのパラメータを推定するパラメータ推定装置であって、前記二次電池の電圧を時系列的に取得する電圧取得部と、前記二次電池の充放電電流を時系列的に取得する電流取得部と、前記電圧取得部で取得した電圧及び前記電流取得部で取得した充放電電流に基づいて前記パラメータを推定する推定部と、前記電流取得部で取得した充放電電流又は前記電圧取得部で取得した電圧に基づいて前記推定部によるパラメータの推定を禁止する禁止部とを備える。
【0017】
(9)本開示の一態様に係るパラメータ推定方法は、二次電池の等価回路モデルのパラメータを推定するパラメータ推定方法であって、前記二次電池の電圧を時系列的に取得するステップと、前記二次電池の充放電電流を時系列的に取得するステップと、取得した電圧及び取得した充放電電流に基づいて前記パラメータを推定するステップと、取得した充放電電流又は取得した電圧に基づいて前記パラメータの推定を禁止するステップとを含む。
【0018】
(10)本開示の一態様に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、二次電池の等価回路モデルのパラメータを推定させるコンピュータプログラムであって、コンピュータに、前記二次電池の電圧を時系列的に取得するステップと、前記二次電池の充放電電流を時系列的に取得するステップと、取得した電圧及び取得した充放電電流に基づいて前記パラメータを推定するステップと、取得した充放電電流又は取得した電圧に基づいて前記パラメータの推定を禁止するステップとを実行させる。
【0019】
本態様にあっては、二次電池の電圧及び充放電電流に基づいて二次電池のパラメータを推定する間に、二次電池の充放電電流又は電圧が所定の条件を満たす場合は、パラメータの推定を行わない。これにより、パラメータの推定誤差が大きくなる蓋然性が高い場合に、パラメータの更新が繰り延べされる。
【0020】
(2)前記禁止部は、前記充放電電流の絶対値が第1閾値より小さい場合、前記パラメータの推定を禁止することが好ましい。
【0021】
本態様によれば、充放電電流の絶対値が第1閾値より小さい場合にパラメータの推定を行わないようにするため、パラメータの推定誤差が必然的に大きくなる場合に、パラメータの更新が繰り延べされる。
【0022】
(3)前記電流取得部で取得した充放電電流を記憶する記憶部と、前記電流取得部で取得した充放電電流及び前記記憶部に記憶した充放電電流の差分を算出する第1算出部とを更に備え、前記禁止部は、前記第1算出部で算出した差分が第2閾値より小さい場合、前記パラメータの推定を禁止することが好ましい。
【0023】
本態様によれば、充放電電流を取得の都度記憶し、取得した最新の充放電電流と記憶した充放電電流との差分が第2閾値より小さい場合は、パラメータの推定を行わない。これにより、パラメータの推定誤差が必然的に大きくなる場合に、パラメータの更新が繰り延べされる。
【0024】
(4)前記電圧取得部で取得した電圧を記憶する記憶部と、前記電圧取得部で取得した電圧及び前記記憶部に記憶した電圧の差分を算出する第2算出部とを更に備え、前記禁止部は、前記第2算出部で算出した差分が第3閾値より小さい場合、前記パラメータの推定を禁止することが好ましい。
【0025】
本態様によれば、二次電池の電圧を取得の都度記憶し、取得した最新の電圧と記憶した電圧との差分が第3閾値より小さい場合は、パラメータの推定を行わない。これにより、パラメータの推定誤差が必然的に大きくなる場合に、パラメータの更新が繰り延べされる。
【0026】
(5)前記記憶部は、前記電圧取得部で取得した電圧を更に記憶し、前記電圧取得部で取得した電圧及び前記記憶部に記憶した電圧の差分を算出する第2算出部を更に備え、前記禁止部は、前記第1算出部で算出した差分が前記第2閾値より小さく、且つ前記第2算出部で算出した差分が第3閾値より小さい場合、前記パラメータの推定を禁止することが好ましい。
【0027】
本態様によれば、二次電池の電圧をも取得の都度記憶し、取得した最新の充放電電流と記憶した充放電電流との差分が第2閾値より小さく、且つ取得した最新の電圧と記憶した電圧との差分が第3閾値より小さい場合は、パラメータの推定を行わない。これにより、パラメータの推定誤差が必然的に大きくなる場合に、パラメータの更新が繰り延べされる。
【0028】
(6)前記等価回路モデルは、抵抗及びコンデンサの組み合わせによって表されることが好ましい。
【0029】
本態様によれば、二次電池の等価回路モデルは抵抗及びコンデンサの組み合わせによって表されるものであり、例えばフォスタ型RC等価回路やカウエル型RC梯子回路等が適用される。
【0030】
(7)前記推定部は、逐次最小二乗法により前記パラメータを推定することが好ましい。
【0031】
本態様によれば、二次電池の電圧及び充放電電流の関係を表す関係式に対し、時系列的に取得した電圧及び充放電電流を逐次適用して最小二乗法を用いることにより、上記関係式の係数を決定し、決定した係数に基づいてパラメータを推定する。これにより、二次電池のパラメータが時系列的に推定される。
【0032】
(8)前記推定部は、カルマンフィルタを用いて前記パラメータを推定することが好ましい。
【0033】
本態様によれば、二次電池の等価回路モデルの状態ベクトルと、二次電池の観測ベクトルとを時系列的に比較して等価回路モデルを逐次修正することにより、等価回路モデルのパラメータが時系列的に推定される。
【0034】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係るパラメータ推定装置、パラメータ推定方法及びコンピュータプログラムを、二次電池と共に車両に搭載されて二次電池の状態を監視する電池監視装置に適用した具体例について詳述する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、各実施形態で記載されている技術的特徴は、お互いに組み合わせることが可能である。
【0035】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る電池監視装置100が搭載された車両の要部構成例を示すブロック図である。車両は、電池監視装置100の他に、二次電池ユニット50、リレー11,12、インバータ13、モータ14、DC/DCコンバータ15、電池16、電気負荷17、始動スイッチ18及び充電器19を備える。
【0036】
リレー11は、二次電池ユニット50の正極側とインバータ13の入力側及びDC/DCコンバータ15の入力側との間に接続されている。インバータ13の出力側は、モータ14の一端に接続されている。DC/DCコンバータ15の出力側は、電池16の正極側、電気負荷17の一端及び始動スイッチ18の一端に接続されている。リレー12は、二次電池ユニット50の正極側と充電器19の正極側との間に接続されている。二次電池ユニット50の負極側、モータ14の他端、電池16の負極側、電気負荷17の他端、及び充電器19の負極側は、共通電位に接続されている。
【0037】
リレー11及び12のオン/オフは、不図示のリレー制御部が行う。インバータ13は、不図示の車両コントローラからの指令により、リレー11がオンである間にモータ14への通電制御を行う。充電器19は、車両の停止時に車外の電源から電力供給を受けて、リレー12がオンである間に二次電池ユニット50を充電する。
【0038】
電池16は、例えば12Vの鉛蓄電池であり、電気負荷17への電力供給を行なうと共に、リレー11がオンである間に二次電池ユニット50から電力が供給されるDC/DCコンバータ15によって充電される。電池16は、電圧が12Vに限定されたり、電池の種類が鉛蓄電池に限定されたりするものではない。
【0039】
二次電池ユニット50は、例えばリチウムイオン電池である複数のセル51が直列又は直並列に接続されて筐体内に収容されている。二次電池ユニット50は、更に、筐体内に電圧センサ52、電流センサ53及び温度センサ54を有する。
【0040】
電圧センサ52は、各セル51の電圧及び二次電池ユニット50の両端間の電圧を検出し、検出した電圧を電圧検出線50aを介して電池監視装置100へ出力する。電流センサ53は、例えばシャント抵抗又はホールセンサで構成されており、二次電池ユニット50の充電電流及び放電電流(以下、充放電電流と言う)を検出し、検出した充放電電流を電流検出線50bを介して電池監視装置100へ出力する。温度センサ54は、例えばサーミスタで構成されており、複数のセル51の内の何れか1箇所以上の表面温度を検出し、検出した温度を温度検出線50cを介して電池監視装置100へ出力する。
【0041】
図2は、電池監視装置100の機能構成の一例を示すブロック図である。電池監視装置100は、CPU(Central Processing Unit)を含む制御部101が装置全体を制御する。制御部101には、時間を計時するタイマ109と、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically EPROM:登録商標)等の不揮発性メモリ、及びDRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)等の書き換え可能なメモリを用いた記憶部110とが接続されている。
【0042】
制御部101には、また、電圧センサ52で検出された電圧を取得する電圧取得部102と、電流センサ53で検出された電流を取得する電流取得部103と、温度センサ54で検出された温度を取得する温度取得部104と、各セル51の充電率及び電圧のバランスを調整するセルバランス調整部108とが接続されている。電圧取得部102、電流取得部103、温度取得部104、及びセルバランス調整部108の機能は、制御部101がハードウェアを用いて実行するソフトウェア処理によって実現される。これらの機能の一部又は全部が、マイクロコンピュータを含む集積回路によって実現されてもよい。なお、制御部101が制御する電圧及び電流の取得頻度は、例えば10msであるが、これに限定されるものではない。温度は適時取得される。
【0043】
制御部101が実行するソフトウェア処理によって実現される機能には、内部パラメータ推定部105、電流積算部106及び充電率算出部107が更に含まれる。制御部101が実行すべきソフトウェア(プログラム)は、予め記憶部110の不揮発性メモリに記憶されている。制御部101が実行するソフトウェア処理により発生した情報は、記憶部110の書き換え可能なメモリに一時的に記憶される。制御部101による各ソフトウェア処理の手順を定めたコンピュータプログラムを、不図示の手段を用いて予め記憶部110にロードし、制御部101がコンピュータプログラムを実行するようにしてもよい。
【0044】
内部パラメータ推定部105は、二次電池ユニット50の等価回路モデルを表す抵抗及びコンデンサの値(以下、これらの抵抗及びコンデンサの値を内部パラメータ又は単にパラメータと言う)を推定する。これらの内部パラメータは、二次電池ユニット50の充電率(SOC:State Of Charge)、温度、劣化度等によって変化するものであり、二次電池ユニット50の電圧及び充放電電流を観測することによって逐次推定することができる。詳細については後述する。
【0045】
電流積算部106は、電流取得部103で取得した充放電電流を積算する。電流の積算値は、電流を時間で積分したものであり、充電量の変化分に相当する。積算を開始するタイミングは、二次電池ユニット50又は電池監視装置100自体の起動タイミングであり、電流積算部106は、継続的に積算値を算出する。なお所定のタイミングで積算値をリセットするようにしてもよい。
【0046】
充電率算出部107は、電流積算部106により算出された積算値と、二次電池ユニット50の満充電容量(FCC:Full Charge Capacity)とに基づいて現時点の充電率を算出する。充電率は、満充電容量に対する充電量の比率として表される。充電率の初期値をSOCinとした場合、現時点の充電率は、SOCinが算出されたときから現時点までの間に電流積算部106が算出した積算値を充電率に換算した値を、SOCinに加算して算出される。
【0047】
次に、二次電池の等価回路モデルについて説明する。図3A図3B及び図3Cは、抵抗及びコンデンサの組み合わせによって表される二次電池の等価回路モデルを示す説明図である。図3Aは、本実施形態に係る二次電池ユニット50の等価回路モデルである。この等価回路モデルは、OCVを起電力とする電圧源に、抵抗Raと、抵抗Rb及びコンデンサCbの並列回路とを直列に接続した回路によって表される。抵抗Raは、電解液抵抗に対応する。抵抗Rbは電荷移動抵抗に対応し、コンデンサCbは電気二重層容量に対応する。抵抗Raに電荷移動抵抗を含めることとし、抵抗Rbが拡散抵抗に対応することにしてもよい。
【0048】
二次電池の等価回路モデルは、図3Aに示すものに限定されない。例えば、図3Bに示すように、抵抗R0に抵抗Rj及びコンデンサCj(j=1,2,…,n)の並列回路をn個直列接続した、無限級数の和による近似で表されるn次(nは自然数)のフォスタ型RC梯子回路であってもよいし、図3Cに示すように、一端同士が接続されたn個の抵抗Rj(j=1,2,…,n)夫々の他端が、直列接続されたn個のコンデンサCjの間に接続されたn次のカウエル型RC梯子回路であってもよい。
【0049】
上述した電池監視装置100は、始動スイッチ18がオンされている場合、又は停車中に充電器19による充電が行われている場合、通常モードで動作しており、例えば10ms毎に二次電池ユニット50の電圧及び充放電電流を取得すると共に、二次電池ユニット50の温度を適時取得する。一方、始動スイッチ18がオンされていない場合、且つ停車中に充電器19による充電が行われていない場合、電池監視装置100は低消費電力モードで動作しており、一定時間毎に起動して、通常モードの場合と同様に二次電池ユニット50の電圧、充放電電流及び温度を取得する。
【0050】
電池監視装置100は、取得した電圧、充放電電流及び温度に基づいて、等価回路モデルのパラメータを推定すると共に、充電率を算出する。充電率の初期値SOCinが求められていない場合は、始動スイッチ18がオンされた直後に取得した電圧、又は始動スイッチ18がオンされておらず充電器19による充電も行われていないときに取得した電圧を開放電圧(OCV)としてSOCinを算出すればよい。具体的には、二次電池ユニット50に固有のOCV-SOC特性を記憶した変換テーブルを参照して、取得した電圧に対応するSOCをSOCinとする。なお、充電器19による充電が完了して二次電池ユニット50が満充電の状態にあるときは、SOCin=100%としてもよい。
【0051】
次に、内部パラメータ推定部105にて等価回路モデルのパラメータを推定する方法について説明する。図3Aに示す等価回路モデルのパラメータについて、以下の近似式(1)~(4)が成立することが知られている(詳細については、「バッテリマネジメント工学」足立修一他著、東京電気大学出版、6.2.2章参照)。
【0052】
uL(k)=b0・i(k)+b1・i(k-1)-a1・uL(k-1)
+(1+a1)・OCV・・・・・・・・・・・・・・(1)
b0=Ra・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
b1=TsRa/(RbCb)+Ts/Cb-Ra・・・・・・・・(3)
a1=Ts/(RbCb)-1・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
但し、
uL:取得した電圧
i:取得した充放電電流
Ts:取得する周期
【0053】
上記の式(2)~(4)から、パラメータであるRa、Rb及びCbを逆算すると、以下の式(5)~(7)が成立する。
【0054】
Ra=b0・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
Rb=(b1-a1b0)/(1+a1)・・・・・・・・・・・・(6)
Cb=Ts/(b1-a1b0)・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
【0055】
本実施形態では、逐次最小二乗法を式(1)に適用して係数b0、b1及びa1を決定し、決定した係数を式(5)~(7)に代入してパラメータRa、Rb及びCbを推定する。なお、各パラメータを一通り推定する間は、OCVが一定であるものとしている。温度取得部104で取得した温度に応じて、推定したパラメータを補正してもよい。
【0056】
パラメータRa、Rb及びCbは、カルマンフィルタを用いて算出することも可能である。具体的には、二次電池ユニット50に、端子電圧及び充放電電流で表される入力信号を与えた場合の観測ベクトルと、二次電池ユニット50の等価回路モデルに上記と同じ入力信号を与えた場合の状態ベクトルとを比較し、これらの誤差にカルマンゲインを掛けて等価回路モデルにフィードバックすることにより、両ベクトルの誤差が最小となるように等価回路モデルの修正を繰り返す。これにより、パラメータが推定される。
【0057】
以下では、車両の走行中に二次電池ユニット50の電圧及び充放電電流を取得して最小二乗法で算出したパラメータの例について説明する。図4は、二次電池ユニット50の端子電圧及び充放電電流の波形の一例を示すグラフである。図の上段に電圧波形を示し、下段に電流波形を示す。図4において、横軸は時間を表し、縦軸は電圧又は電流を表す。図の下段に示す電流波形では、電流が正の場合は充電電流であり、電流が負の場合は放電電流である。この充電電流及び放電電流と対応させて、図の上段に示す電圧波形を見ると、二次電池の電圧は、内部抵抗による電圧降下により、充放電の都度、上下に大きく変動することがわかる。
【0058】
図5は、二次電池ユニット50の等価回路モデルのパラメータを逐次推定した結果を示すグラフである。図の上段、中段及び下段夫々にパラメータRa、Rb及びCbの推定結果を実線で示す。図中の破線は、いわゆる交流インピーダンス法によって実測した各パラメータの大きさを示すものである。図5において、横軸は時間を表し、縦軸は抵抗又は容量を表す。図5上段に示すパラメータRaは、概ね実測値と一致しているが、図の中段及び下段に示すパラメータRb及びCbは、時折り実測値から大きくずれている。
【0059】
このずれが生じるタイミングを検討する。図6は、二次電池ユニット50の充放電電流とパラメータRbとの対応を示すグラフである。図の上段に充放電電流の推移を示し、下段に推定されたパラメータRbの推移を示す。図6において、横軸は時間を表し、縦軸は電流又は抵抗を表す。図6から把握されるように、パラメータRbが実測値から大きくずれる期間は、充放電電流の大きさが略一定又は略ゼロとなる期間に対応している(例えば区間T1及びT2参照)。
【0060】
このずれの原因を式(1)及び式(5)~(7)から解析する。式(1)では4つの未知数(a1、b0、b1及びOCV)があり、これらの値を求めるには少なくとも4つの式が必要である。しかしながら、取得した充放電電流iについて、i(k)=i(k-1)=0の場合は、b0及びb1に関する項の値がゼロとなり、式(5)~(7)の各式が成立しなくなる。また、i(k)=i(k-1)=一定の場合は、その一定電流が流れることによるOCVの変化がu(k)に現れるだけであり、u(k)の変化が極めて小さくなるため、精度よくパラメータを推定することができない。
【0061】
そこで、本実施形態では、図2に示す機能ブロックに電流判定部111を更に追加して、パラメータの推定が適切に行えない蓋然性が高い場合に、内部パラメータ推定部105によるパラメータの推定を禁止する。図7は、パラメータの推定に係る機能ブロックの関係を模式的に示す説明図である。内部パラメータ推定部105は、電流判定部111によってパラメータの推定が禁止されない場合に、電圧取得部102で取得した電圧(端子電圧uL)及び電流取得部103で取得した充放電電流iに基づいて、上述のとおりパラメータRa,Rb,Cbを出力する。
【0062】
電流判定部111は、電流取得部103で取得した充放電電流iが第1閾値より小さい場合、及び電流取得部103で取得した充放電電流iの変化量が第2閾値より小さい場合に、内部パラメータ推定部105によるパラメータの推定を禁止する。電流判定部111によってパラメータの推定を禁止された場合、内部パラメータ推定部105は、前回推定したパラメータを更新せずに出力し続ける。
【0063】
以下では、上述した電池監視装置100の動作を、それを示すフローチャートを用いて説明する。図8は、実施形態1に係る電池監視装置100でパラメータを適時推定する制御部101の処理手順を示すフローチャートであり、図9は、電流判定のサブルーチンに係る制御部101の処理手順を示すフローチャートである。図8に示す処理はメインルーチンであり、例えば10ms毎に起動されて周期的に実行される。各ステップにおける取得結果及び算出結果は、適宜記憶部110に記憶される。図8では、端子電圧を単に電圧と言う。また図9では、充放電電流を単に電流と言う。
【0064】
図8のメインルーチンが起動された場合、制御部101は、電圧取得部102によって二次電池ユニット50の電圧uL(k)を取得する(S11)と共に、電流取得部103によって充放電電流i(k)を取得する(S12)。次いで、制御部101は、電流判定に係るサブルーチンを呼び出す(S13)。
【0065】
図9に移って、電流判定に係るサブルーチンが呼び出された場合、制御部101は、電流i(k)の絶対値である|i(k)|が第1閾値より小さいか否かを判定し(S21)、第1閾値より小さい場合(S21:YES)、パラメータの推定を禁止する旨を記憶して(S22)メインルーチンにリターンする。第1閾値は、実験やシミュレーションによって求めた固定値でもよいし、走行条件によって変更される可変値でもよい。
【0066】
|i(k)|が第1閾値より小さくない場合(S21:NO)、制御部101は、前回取得して記憶部110に記憶した電流i(k-1)と、今回取得した電流i(k)との差分である|Δi|を算出する(S23:第1算出部に相当)。本願では、差分の絶対値を単に差分と言う。次いで、制御部101は、算出した|Δi|が第2閾値より小さいか否かを判定し(S24)、第2閾値より小さい場合(S24:YES)、ステップS22に処理を移す。これにより、パラメータの推定を禁止する旨が記憶される。
【0067】
|Δi|が第2閾値より小さくない場合(S24:NO)、制御部101は、パラメータの推定を禁止しない旨を記憶して(S25)メインルーチンにリターンする。
【0068】
図8に戻って、電流判定に係るサブルーチンからリターンした場合、制御部101は、パラメータの推定を禁止する旨が記憶されているか否か、即ちパラメータの推定が禁止されているか否かを判定し(S14:禁止部に相当)、禁止されている場合(S14:YES)、パラメータの推定を行わずに図8のメインルーチンの実行を終了する。これにより、制御部101は、前回推定したパラメータを更新せずに出力し続ける。
【0069】
パラメータの推定が禁止されていない場合(S14:NO)、制御部101は、逐次最小二乗法を用いて、式(1)~(7)によりパラメータRa(k),Rb(k),Cb(k)を推定する(S15:推定部に相当)。次いで、制御部101は、出力するパラメータの推定値をRa(k-1),Rb(k-1),Cb(k-1)からRa(k),Rb(k),Cb(k)に更新して(S16)メインルーチンの実行を終了する。
【0070】
次に、図8及び9に示す処理によってパラメータを推定した場合の効果について説明する。図10は、二次電池ユニット50の等価回路モデルのパラメータを適時推定した結果を示すグラフである。図の上段、中段及び下段夫々にパラメータRa、Rb及びCbの推定結果を実線で示す。図中の破線は、いわゆる交流インピーダンス法によって実測した各パラメータの大きさを示すものである。図10において、横軸は時間を表し、縦軸は抵抗又は容量を表す。図10によれば、各パラメータRa、Rb及びCbが、何れも実測値に向かって収束する様子が読み取れる。
【0071】
ここで、上述の式(1)に最小二乗法を適用すれば、パラメータの推定と同時にOCVの推定が可能であり、二次電池ユニット50に固有のOCV-SOC特性を参照して、推定したOCVから更にSOCを推定することができる。しかしながら、本実施形態では、取得した充放電電流iが所定の条件を満たす場合にのみパラメータを推定するため、OCV及びSOCが推定できない場合が生じる。
【0072】
そこで、本実施形態では、充電率算出部107によって充電率を逐次算出する。図11は、パラメータの推定及び充電率の算出に係る機能ブロックの関係を模式的に示す説明図である。図11における内部パラメータ推定部105及び電流判定部111については、図7と同様であるため、説明を省略する。図11では、特に充電率算出部107について、機能ブロックの内容を具体的に記載した。
【0073】
電流積算部106は、電流取得部103で取得した充放電電流iを積算することにより、充電量の変化分を算出する。電流取得部103による電流の取得周期をΔt(例えば10ミリ秒)とし、周期的に取得される電流値をIbi(i=1,2,…)とした場合、充電量の変化分はΣIbi×Δt(i=1,2,)で算出される。
【0074】
充電率算出部107は、例えば電圧取得部102で取得した電圧と、OCV-SOC特性を記憶した変換テーブルとに基づいて、初期SOCを算出し、SOCinとして記憶している。一方、充電率算出部107は、電流積算部106が算出した充電量の変化分を満充電容量FCCで除算することによって充電率の変化分を逐次算出している。出力されるSOCoは、以下の式(8)のとおり、記憶されているSOCinに充電率の変化分を加算することによって算出される。式(8)の{}内は、充電率の変化量に相当する。
【0075】
SOCo=SOCin±{ΣIbi×Δt(i=1,2,…,m)/FCC}・・(8)
但し、
符号±:+(プラス)及び-(マイナス)夫々は充電時及び放電時に対応
数値m:SOCinを求めたときから現時点までの充放電電流の積算回数
【0076】
以上の図11では、充電率算出部107によって充電率を算出する場合について説明したが、カルマンフィルタを用いて充電率を推定することも可能である。図12は、パラメータ及び充電率の推定に係る機能ブロックの関係を模式的に示す説明図である。図12における内部パラメータ推定部105及び電流判定部111については、図7と同様であるため、説明を省略する。充電率推定部112は、電圧取得部102で取得した電圧と、電流取得部103で取得した充放電電流と、内部パラメータ推定部105で推定したパラメータとに基づいて、出力するSOCoを推定する。
【0077】
具体的には、充電率推定部112は、内部パラメータ推定部105が推定したパラメータをパラメータデータ処理した後に、二次電池ユニット50の状態を表した状態ベクトルを生成すると共に、電圧取得部102及び電流取得部103での取得結果に基づく観測値を表した観測ベクトルを生成する。そして、充電率推定部112は、これらのベクトルに基づきカルマンフィルタを用いて二次電池ユニット50の状態を更新して二次電池ユニット50の充電率を推定する。カルマンフィルタを用いた充電率の推定については、特開2015-224927号公報に詳しいので、詳細な説明を省略する。
【0078】
以上のように本実施形態1によれば、二次電池ユニット50の電圧及び充放電電流に基づいて二次電池ユニット50のパラメータを推定する間に、二次電池ユニット50の充放電電流が所定の条件を満たす場合は、パラメータの推定を行わない。これにより、パラメータの推定誤差が大きくなる蓋然性が高い場合に、パラメータの更新が繰り延べされる。従って、二次電池ユニット50の充放電電流の大きさに関わらず、二次電池ユニット50のパラメータを高精度に推定することが可能となる。
【0079】
また、本実施形態1によれば、二次電池ユニット50の充放電電流の絶対値が第1閾値より小さい場合にパラメータの推定を行わないようにするため、パラメータの推定誤差が必然的に大きくなる場合に、パラメータの更新を繰り延べることができる。
【0080】
更に、本実施形態1によれば、二次電池ユニット50の充放電電流を取得の都度記憶部110に記憶し、取得した最新の充放電電流と記憶した充放電電流との差分が第2閾値より小さい場合は、パラメータの推定を行わない。従って、パラメータの推定誤差が必然的に大きくなる場合に、パラメータの更新を繰り延べることができる。
【0081】
更に、本実施形態1によれば、二次電池ユニット50の等価回路モデルは抵抗Ra,Rb及びコンデンサCbの組み合わせによって表されるものであり、例えばn次のフォスタ型RC等価回路やn次のカウエル型RC梯子回路等を適用することもできる。
【0082】
更に、本実施形態1によれば、二次電池ユニット50の電圧及び充放電電流の関係を表す式(1)に対し、時系列的に取得した電圧及び充放電電流を逐次適用して最小二乗法を用いることにより、式(1)の係数b0、b1及びa1を決定し、決定した係数に基づいてパラメータRa、Rb及びCbを推定する。これにより、二次電池の内部パラメータを時系列的に推定することができる。
【0083】
更に、本実施形態1によれば、二次電池ユニット50の等価回路モデルの状態ベクトルと、二次電池ユニット50の観測ベクトルとを時系列的に比較して等価回路モデルを逐次修正することにより、等価回路モデルのパラメータを時系列的に推定することができる。
【0084】
(実施形態2)
実施形態1が、時系列的に取得した二次電池ユニット50の充放電電流に基づいてパラメータの推定を禁止する形態であるのに対し、実施形態2は、時系列的に取得した二次電池ユニット50の充放電電流及び電圧に基づいてパラメータの推定を禁止する形態である。実施形態2に係る電池監視装置100の構成例は実施形態1の場合と同様であるため、実施形態1に対応する箇所には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0085】
図13は、実施形態2に係る電池監視装置100でパラメータを適時推定する制御部101の処理手順を示すフローチャートであり、図14は、電圧判定のサブルーチンに係る制御部101の処理手順を示すフローチャートである。図13に示す処理はメインルーチンであり、周期的に実行される。図13に示すステップS33bを除くステップS31からS36までの処理は、実施形態1の図8に示すステップS11からS16までの処理と同様であるため、これらのステップの説明を簡略化する。
【0086】
図13のメインルーチンが起動された場合、制御部101は、二次電池ユニット50の電圧uL(k)を取得し(S31)、更に充放電電流i(k)を取得した(S32)後に、電流判定に係るサブルーチンを呼び出す(S33)。電流判定に係るサブルーチンは、実施形態1の図9に示すものと全く同一であるため、説明を省略する。次いで、制御部101は、電圧判定に係るサブルーチンを呼び出す(S33b)。
【0087】
図14に移って、電圧判定に係るサブルーチンが呼び出された場合、制御部101は、前回取得して記憶部110に記憶した電圧uL(k-1)と、今回取得した電圧uL(k)との差分である|ΔuL|を算出する(S43:第2算出部に相当)。次いで、制御部101は、算出した|ΔuL|が第3閾値より小さいか否かを判定し(S44)、第3閾値より小さい場合(S44:YES)、パラメータの推定を禁止する旨を記憶して(S42)メインルーチンにリターンする。
【0088】
|ΔuL|が第3閾値より小さくない場合(S44:NO)、制御部101は、パラメータの推定を禁止しない旨を記憶して(S45)メインルーチンにリターンする。なお、ステップS42及びS45夫々で記憶する禁止する旨及び禁止しない旨は、図9に示す電流判定に係るサブルーチンのステップS22及びS25で記憶する禁止する旨及び禁止しない旨とは別の記憶領域に記憶される。
【0089】
図13に戻って、電圧判定に係るサブルーチンからリターンした場合、制御部101は、電流判定によりパラメータの推定を禁止する旨が記憶されているか否か、即ちパラメータの推定が禁止されているか否かを判定する(S34:禁止部に相当)。禁止されていない場合(S34:NO)、制御部101は、逐次最小二乗法を用いて、パラメータRa(k),Rb(k),Cb(k)を推定する(S35:推定部に相当)。次いで、制御部101は、出力するパラメータの推定値をRa(k-1),Rb(k-1),Cb(k-1)からRa(k),Rb(k),Cb(k)に更新して(S36)メインルーチンの実行を終了する。
【0090】
ステップS34でパラメータの推定が禁止されている場合(S34:YES)制御部101は、更に、電圧判定によりパラメータの推定が禁止されているか否かを判定する(S37:禁止部に相当)。ここでもパラメータの推定が禁止されている場合(S37:YES)、制御部101は、パラメータの推定を行わずに図13のメインルーチンの実行を終了する。これにより、制御部101は、前回推定したパラメータを更新せずに出力し続ける。
【0091】
一方、電流判定ではパラメータの推定が禁止されているものの、電圧判定ではパラメータの推定が禁止されていない場合(S37:NO)、制御部101は、ステップS35に処理を移して、パラメータの推定を行い、メインルーチンの実行を終了する。
【0092】
なお、図13に示すメインルーチンのフローチャートでは、電流判定に係るサブルーチン及び電圧判定に係るサブルーチンの両方を呼び出したが、電流判定に係るサブルーチンを呼び出さず、ステップS34での判定をスキップしてステップS37に処理を移すようにしてもよい。この場合は、時系列的に取得した二次電池ユニット50の電圧の逐次差分値に基づいて、パラメータを推定すべきか否かが判定される。
【0093】
以上のように本実施形態2によれば、二次電池ユニット50の電圧が所定の条件を満たす場合、即ち二次電池ユニット50の電圧を取得の都度記憶部110に記憶し、取得した最新の電圧と記憶した電圧との差分が第3閾値より小さい場合は、パラメータの推定を行わない。従って、例えば二次電池ユニット50のOCV-SOC特性がフラットであり、内部抵抗が小さく、充放電電流が流れても電圧変化が小さいためにパラメータの推定誤差が大きくなる場合は、パラメータの更新が繰り延べされる。
【0094】
また、本実施形態2によれば、二次電池ユニット50の電圧をも取得の都度記憶部110に記憶し、取得した最新の充放電電流と記憶した充放電電流との差分が第2閾値より小さく、且つ取得した最新の電圧と記憶した電圧との差分が第3閾値より小さい場合は、パラメータの推定を行わない。従って、例えば一定の電流で充放電を行っている間であっても、二次電池ユニット50の電圧変化が一定の閾値より小さいためにパラメータの推定誤差が大きくなる場合は、パラメータの更新が繰り延べされる。換言すれば、一定の電流で充放電を行っている間であっても、二次電池ユニット50の電圧変化が一定の閾値より大きくなった場合は、パラメータの推定が積極的に行われる。
【符号の説明】
【0095】
100 電池監視装置
101 制御部
102 電圧取得部
103 電流取得部
104 温度取得部
105 内部パラメータ推定部
106 電流積算部
107 充電率算出部
108 セルバランス調整部
109 タイマ
110 記憶部
111 電流判定部
112 充電率推定部
11、12 リレー
13 インバータ
14 モータ
15 DC/DCコンバータ
16 電池
17 電気負荷
18 始動スイッチ
19 充電器
50 二次電池ユニット
50a 電圧検出線
50b 電流検出線
50c 温度検出線
51 セル
52 電圧センサ
53 電流センサ
54 温度センサ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14