(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】炭化珪素エピタキシャル基板、炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20230117BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20230117BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20230117BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/20
C23C16/34
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2021108742
(22)【出願日】2021-06-30
(62)【分割の表示】P 2020085444の分割
【原出願日】2016-04-06
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2015101018
(32)【優先日】2015-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 圭司
(72)【発明者】
【氏名】西口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】日吉 透
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-014469(JP,A)
【文献】特開2007-066944(JP,A)
【文献】特開2008-235331(JP,A)
【文献】特開2006-313850(JP,A)
【文献】特開平01-286997(JP,A)
【文献】特開2003-142357(JP,A)
【文献】国際公開第2011/142074(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/064256(WO,A1)
【文献】Osamu Ishiyama et al.,Gate oxide reliability on trapezoid-shaped defects and obtuse triangular defects in 4H-SiC epitaxial wefers,Japanese journal of Applied Physics,2014年03月,Volume 53, Number 4S,04EP15-1 - 04EP15-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 25/20
C23C 16/34
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素単結晶基板と、
前記炭化珪素単結晶基板上に形成されているエピタキシャル層と、
を備え、
前記エピタキシャル層の表面において、
台形状の窪みである台形状欠陥の欠陥密度が0.1個/cm
2以下であり、
前記台形状欠陥は、平面視において<11-20>方向と交差する上底部および下底部を含み、
前記上底部の幅は、0.1μm以上100μm以下であり、前記下底部の幅は、50μm以上5000μm以下である、
炭化珪素エピタキシャル基板。
【請求項2】
炭化珪素単結晶基板と、
前記炭化珪素単結晶基板上に形成されているエピタキシャル層と、
を備え、
前記エピタキシャル層の表面において、
台形状の窪みである台形状欠陥の欠陥密度が0.1個/cm
2以下であり、
前記台形状欠陥は、上底部と下底部とを含み、
前記上底部は、突起部を含み、前記下底部は、複数のステップバンチングを含む、
炭化珪素エピタキシャル基板。
【請求項3】
炭化珪素単結晶基板と、
前記炭化珪素単結晶基板上に形成されているエピタキシャル層と、
を備え、
前記エピタキシャル層の表面において、
台形状の窪みである台形状欠陥の欠陥密度が0.1個/cm
2以下であり、
前記台形状欠陥は、平面視において<11-20>方向と交差する上底部および下底部
を含み、
前記上底部の幅は、0.1μm以上100μm以下であり、前記下底部の幅は、50μm以上5000μm以下であり、
前記上底部は、突起部を含み、前記下底部は、複数のステップバンチングを含む、
炭化珪素エピタキシャル基板。
【請求項4】
炭化珪素単結晶基板と、
前記炭化珪素単結晶基板上に形成されているエピタキシャル層と、
を備え、
前記エピタキシャル層の表面における算術平均粗さは、0.1nm以下であり、
前記表面において、
キャロット欠陥の欠陥密度が0.1個/cm
2以下であり、
台形状の窪みである台形状欠陥が形成されており、
前記台形状欠陥は、平面視において<11-20>方向と交差する上底部および下底部を含み、
前記上底部の幅は、0.1μm以上100μm以下であり、前記下底部の幅は、50μm以上5000μm以下である、
炭化珪素エピタキシャル基板。
【請求項5】
炭化珪素単結晶基板と、
前記炭化珪素単結晶基板上に形成されているエピタキシャル層と、
を備え、
前記エピタキシャル層の表面における算術平均粗さは、0.1nm以下であり、
前記表面において、
キャロット欠陥の欠陥密度が0.1個/cm
2以下であり、
台形状の窪みである台形状欠陥が形成されており、
前記台形状欠陥は、上底部と下底部とを含み、
前記上底部は、突起部を含み、前記下底部は、複数のステップバンチングを含む、
炭化珪素エピタキシャル基板。
【請求項6】
炭化珪素単結晶基板と、
前記炭化珪素単結晶基板上に形成されているエピタキシャル層と、
を備え、
前記エピタキシャル層の表面における算術平均粗さは、0.1nm以下であり、
前記表面において、
キャロット欠陥の欠陥密度が0.1個/cm
2以下であり、
台形状の窪みである台形状欠陥が形成されており、
前記台形状欠陥は、平面視において<11-20>方向と交差する上底部および下底部を含み、
前記上底部の幅は、0.1μm以上100μm以下であり、前記下底部の幅は、50μm以上5000μm以下である、
前記上底部は、突起部を含み、前記下底部は、複数のステップバンチングを含む、
炭化珪素エピタキシャル基板。
【請求項7】
請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板を準備する工程と、
前記エピタキシャル層上に酸化珪素膜を形成する工程と、
を備える、
炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
第1主面と、前記第1主面の反対側に位置する第2主面とを有する炭化珪素単結晶基板と、前記第1主面上に形成されており、前記炭化珪素単結晶基板が位置する側の反対側に第3主面を有するエピタキシャル層とを含む、炭化珪素エピタキシャル基板と、
前記第3主面上に形成されている酸化珪素膜と、
前記第3主面側に接続されている第1電極と、
前記第2主面側に接続されている第2電極と、
を備え、
前記炭化珪素エピタキシャル基板は、請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板であり、
前記酸化珪素膜の厚さは、10nm以上100nm以下であり、
25℃環境、20mA/cm
2の一定電流密度で行われる、経時絶縁破壊測定における絶縁破壊電荷総量が60C/cm
2以上である、
炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法、炭化珪素エピタキシャル基板、炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2013-34007号公報(特許文献1)には、短いステップバンチングがないことを特徴とする、炭化珪素エピタキシャル基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一目的は、化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)によって、炭化珪素エピタキシャル基板の表面を研磨する工程におけるタクトタイムを短縮することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法は、炭化珪素単結晶基板上に、第1層をエピタキシャル成長させる工程と、該第1層の最表面に、該第1層と化学組成もしくは密度が異なる第2層を形成する工程と、を備える。第1層の厚さに対する第2層の厚さの比率は、0%を超えて10%以下である。
【0006】
本開示の一態様に係る炭化珪素エピタキシャル基板は、炭化珪素単結晶基板と、該炭化珪素単結晶基板上に形成されているエピタキシャル層である第1層と、該第1層の最表面に形成されている第2層と、を備える。第2層は、第1層と化学組成もしくは密度が異なる。第1層の厚さに対する第2層の厚さの比率は、0%を超えて10%以下である。
【0007】
本開示の一態様に係る炭化珪素エピタキシャル基板は、炭化珪素単結晶基板と、該炭化珪素単結晶基板上に形成されているエピタキシャル層と、を備える。エピタキシャル層の表面における算術平均粗さは、0.1nm以下である。エピタキシャル層の表面において、キャロット欠陥の欠陥密度が0.1個/cm2以下であり、台形状の窪みである台形状欠陥の欠陥密度が0.1個/cm2以下である。台形状欠陥は、平面視において<11-20>方向と交差する上底部および下底部を含む。上底部の幅は、0.1μm以上100μm以下である。下底部の幅は、50μm以上5000μm以下である。上底部は、突起部を含む。下底部は、複数のステップバンチングを含む。
【0008】
本開示の一態様に係る炭化珪素半導体装置は、第1主面と、該第1主面の反対側に位置する第2主面とを有する炭化珪素単結晶基板と、該第1主面上に形成されており、該炭化珪素単結晶基板が位置する側の反対側に第3主面を有するエピタキシャル層とを含む、炭化珪素エピタキシャル基板を備える。さらに炭化珪素半導体装置は、第3主面上に形成されている酸化珪素膜と、該第3主面側に接続されている第1電極と、第2主面側に接続されている第2電極と、を備える。酸化珪素膜の厚さは、10nm以上100nm以下である。25℃環境、20mA/cm2の一定電流密度で行われる、経時絶縁破壊測定における絶縁破壊電荷総量が60C/cm2以上である。
【発明の効果】
【0009】
上記によれば、CMPによって、炭化珪素エピタキシャル基板の表面を研磨する工程におけるタクトタイムを短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一態様に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【
図2】第1層形成工程および第2層形成工程を図解する概略断面図である。
【
図4】
図3中のIV-IV線に沿う概略断面図である。
【
図5】本開示の一態様に係る炭化珪素エピタキシャル基板の構成の一例を示す概略断面図である。
【
図7】
図6中のVII-VII線に沿う概略断面図である。
【
図8】
図6中のVIII-VIII線に沿う概略断面図である。
【
図10】本開示の一態様に係る炭化珪素半導体装置の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【
図11】不純物領域形成工程を図解する概略断面図である。
【
図12】酸化珪素膜形成工程を図解する概略断面図である。
【
図13】本開示の一態様に係る炭化珪素半導体装置の構成の一例を示す概略断面図である。
【
図14】定電流TDDBの測定結果を示すワイブルプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。また本明細書の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示す。ここで結晶学上の指数が負であることは、通常、数字の上に”-”(バー)を付すことによって表現されるが、本明細書では数字の前に負の符号を付すことによって結晶学上の負の指数を表現する。また「平面視」とは、エピタキシャル層の表面をその法線方向から見た視野を示す。
【0012】
〔1〕本開示の一態様に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法は、炭化珪素単結晶基板上に、第1層をエピタキシャル成長させる工程と、該第1層の最表面に、該第1層と化学組成もしくは密度が異なる第2層を形成する工程と、を備える。第1層の厚さに対する第2層の厚さの比率は、0%を超えて10%以下である。
【0013】
炭化珪素半導体装置において、酸化珪素膜の寿命および信頼性は、その下地である炭化珪素エピタキシャル基板の表面性状の影響を受けると考えられる。たとえば、大きなステップバンチングを含む表面に、酸化珪素膜を形成すると、酸化珪素膜の厚さにバラツキが生じる可能性がある。またキャロット欠陥等の表面欠陥上に、酸化珪素膜を形成すると、酸化珪素膜の膜質が変化することも考えられる。酸化珪素膜の厚さ、膜質にバラツキがあると、局所的な電界集中が起こりやすくなり、酸化珪素膜の寿命および信頼性が低下すると考えられる。
【0014】
そのため、酸化珪素膜の形成前に、CMPによって表面性状を改善する試みもなされている。しかし、炭化珪素(SiC)は硬度が高く、研磨され難いため、CMPには長時間を要している。さらにCMPを行ってもなお、炭化珪素エピタキシャル基板の表面には、微小な凹凸、表面欠陥等が残存する可能性がある。
【0015】
そこで上記〔1〕の製造方法では、第1層の最表面に、CMPによって容易に研磨できる第2層を形成している。第2層は、第1層と化学組成が異なるか、もしくは第1層と密度が異なる。
【0016】
第1層は、炭化珪素単結晶基板上に成長させたホモエピタキシャル層である。第1層における炭素と珪素との組成比は略1:1と考えてよい。たとえば第2層は、この化学量論比からずれた組成とする。これにより、第2層は、第1層すなわち炭化珪素よりも硬度が低くなり、CMPが容易になると考えられる。あるいは、第2層は、第1層と密度が異なる層でもよい。すなわち第1層と比較して、第2層の結晶構造を疎または密とすることにより、CMPが容易になると考えられる。
【0017】
第1層の厚さに対する第2層の厚さの比率は、0%を超え10%以下とする。当該比率が10%超えると、タクトタイムの短縮効果が低減する可能性がある。
【0018】
なお上記〔1〕において、第2層は第1層上に成長させてもよいし、第1層の一部を変質させることにより形成してもよい。
【0019】
〔2〕上記〔1〕において、第2層における珪素の組成比は、第1層における珪素の組成比より大きくてもよい。
【0020】
〔3〕上記〔1〕において、第2層における炭素の組成比は、第1層における炭素の組成比より大きくてもよい。
【0021】
〔4〕上記〔1〕において、第2層の密度は、第1層の密度より低くてもよい。
〔5〕上記〔1〕において、第2層は、CMPにおける化学反応の触媒となる元素を含有していてもよい。
【0022】
〔6〕上記の製造方法は、CMPによって、第2層を研磨する工程をさらに備えていてもよい。
【0023】
〔7〕本開示の一態様に係る炭化珪素エピタキシャル基板は、炭化珪素単結晶基板と、該炭化珪素単結晶基板上に形成されているエピタキシャル層である第1層と、該第1層の最表面に形成されている第2層と、を備える。第2層は、第1層と化学組成もしくは密度が異なる。第1層の厚さに対する第2層の厚さの比率は、0%を超えて10%以下である。
【0024】
上記第2層を備える炭化珪素エピタキシャル基板では、CMPにおけるタクトタイムが短く、プロセスウィンドウが広くなることが期待される。さらに、この炭化珪素エピタキシャル基板に対してCMPを行うことにより、従来は残存していた微小な凹凸および表面欠陥等の低減が期待される。
【0025】
〔8〕本開示の一態様に係る炭化珪素エピタキシャル基板は、炭化珪素単結晶基板と、該炭化珪素単結晶基板上に形成されているエピタキシャル層と、を備える。エピタキシャル層の表面における算術平均粗さは、0.1nm以下である。エピタキシャル層の表面において、キャロット欠陥の欠陥密度が0.1個/cm2以下であり、台形状の窪みである台形状欠陥の欠陥密度が0.1個/cm2以下である。台形状欠陥は、平面視において<11-20>方向と交差する上底部および下底部を含む。上底部の幅は、0.1μm以上100μm以下であり、下底部の幅は、50μm以上5000μm以下である。上底部は、突起部を含む。下底部は、複数のステップバンチングを含む。
【0026】
上記の表面性状を有する炭化珪素エピタキシャル基板を用いて製造された炭化珪素半導体装置では、酸化珪素膜の寿命および信頼性の向上が期待される。
【0027】
ここで算術平均粗さは、「JIS B 0601」に準拠して測定される算術平均粗さ(Ra)を示している。算術平均粗さは、AFM(Atomic Force Microscope)を用いて測定するものとする。AFMには、たとえばVeeco社製の「Dimension3000」等を用いることができる。カンチレバー(探針)には、たとえば、Bruker社製の型式「NCHV-10V」が好適である。AFM条件は次のとおりである。AFMの測定モードはタッピングモードに設定する。タッピングモードでの測定領域は10μm四方とする。測定ピッチは40nmとする。測定深さは1.0μmとする。測定領域内での走査速度は1周期当たり5秒とする。1走査ライン当たりのデータ数は512ポイントとする。走査ライン数は512とする。カンチレバーの変位制御は15.50nmに設定する。
【0028】
キャロット欠陥および台形状欠陥の欠陥密度は、ノマルスキータイプの光学顕微鏡(たとえば製品名「MX-51」、オリンパス社製)を用いて、50倍~400倍の倍率で、エピタキシャル層の表面を全面分析し、検出された各欠陥の個数をエピタキシャル層の表面の面積で除することにより算出することができる。ただし、ここでいう全面は、通常、半導体装置に利用されない領域を含まないものとする。半導体装置に利用されない領域とは、たとえば基板のエッジから3mmの領域である。
【0029】
〔9〕本開示の一態様に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、上記〔8〕の炭化珪素エピタキシャル基板を準備する工程と、エピタキシャル層上に酸化珪素膜を形成する工程と、を備える。
【0030】
〔10〕本開示の一態様に係る炭化珪素半導体装置は、第1主面と、該第1主面の反対側に位置する第2主面とを有する炭化珪素単結晶基板と、該第1主面上に形成されており、該炭化珪素単結晶基板が位置する側の反対側に第3主面を有するエピタキシャル層とを含む、炭化珪素エピタキシャル基板を備える。さらに炭化珪素半導体装置は、第3主面上に形成されている酸化珪素膜と、該第3主面側に接続されている第1電極と、第2主面側に接続されている第2電極と、を備える。酸化珪素膜の厚さは、10nm以上100nm以下である。25℃環境、20mA/cm2の一定電流密度で行われる、経時絶縁破壊測定における絶縁破壊電荷総量が60C/cm2以上である。
【0031】
以下、上記のように一定の電流密度で行われる経時絶縁破壊測定を「定電流TDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)」とも記す。定電流TDDBで測定される絶縁破壊電荷総量(以下「QBD」と記す。)は、酸化珪素膜の寿命および信頼性の指標である。本開示の炭化珪素エピタキシャル基板を備える炭化珪素半導体装置では、QBDが60C/cm2以上となり得る。なお上記〔10〕における25℃環境とは、所定の校正を受けた恒温設備において、測定環境を25℃に設定することを示す。したがって、たとえば恒温設備の能力によっては、測定中に、測定環境が25℃から±2℃程度変動してもよい。
【0032】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明するが、本開示の実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0033】
〔第1実施形態:炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法〕
図1は、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板(第1炭化珪素エピタキシャル基板100および第2炭化珪素エピタキシャル基板101)の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図1に示すように、当該製造方法は、第1層形成工程(S1)および第2層形成工程(S2)を備える。当該製造方法は、第2層形成工程(S2)の後に研磨工程(S3)をさらに備えていてもよい。以下、各工程について説明する。
【0034】
〔第1層形成工程(S1)〕
図2は、第1層形成工程(S1)および第2層形成工程(S2)を図解する概略断面図である。第1層形成工程(S1)では、炭化珪素単結晶基板10上に、第1層11をホモエピタキシャル成長させる。炭化珪素単結晶基板10は、たとえば炭化珪素のバルク単結晶をスライスすることにより準備される。スライスには、たとえばワイヤーソーを使用できる。炭化珪素のポリタイプは4H-SiCが望ましい。4H-SiCは、電子移動度、絶縁耐力等において他のポリタイプより優れている。炭化珪素単結晶基板10の導電型は、たとえばn型でよい。炭化珪素単結晶基板10の口径は、100mm以上でもよいし、150mm以上でもよいし、300mm以下でもよい。
【0035】
炭化珪素単結晶基板10は、第1主面91と、第1主面91の反対側に位置する第2主面92とを有する。エピタキシャル成長面となる第1主面91は、(0001)面または(000-1)面から1°以上8°以下傾斜した面であることが望ましい。傾斜させる方向は、<11-20>方向が望ましい。傾斜させる角度(オフ角)は、2°以上7°以下でもよいし、3°以上6°以下でもよいし、3°以上5°以下でもよい。
【0036】
第1層形成工程(S1)では、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により、第1層11をホモエピタキシャル成長させる。
図3は、成膜装置1の一例を示す概略側面図である。
図4は、
図3のIV-IV線に沿う概略断面図である。成膜装置1は、横型ホットウォールCVD装置である。
図3および
図4に示すように、成膜装置1は、発熱体6と、断熱材5と、石英管4と、誘導加熱コイル3とを備える。発熱体6は、たとえば黒鉛製である。
図4に示すように、成膜装置1において、発熱体6は2つ設けられており、各発熱体6は、曲面部7および平坦部8を含む半円筒状の中空構造を有している。2つの平坦部8は、互いに対向するように配置されており、2つの平坦部8に取り囲まれた空間が、炭化珪素単結晶基板10が配置されるチャンバ2となっている。
【0037】
第1層11の成長条件は、たとえば次のとおりである。チャンバ2内の温度は、たとえば1500℃~1700℃程度でよい。キャリアガスは、たとえば水素(H2)ガス等でよい。水素ガスの流量は、たとえば50slm~200slm程度でよい。流量の単位「slm(Standard Liter per Minute)」は、標準状態(0℃、101.3kPa)における「L/min」を示している。チャンバ2の圧力は、たとえば5~15kPa程度でよい。
【0038】
原料ガスは、たとえばシラン(SiH4)ガス等のSi原料ガスと、プロパン(C3H8)ガス、アセチレン(C2H2)ガス等のC原料ガスとを含む。原料ガスにおけるC/Si比は、たとえば0.9~1.3程度でよい。ここで「C/Si比」は、原料ガス中のSi原子数に対するC原子数の比を示している。
【0039】
ドーパントガスは、たとえばアンモニア(NH3)ガス、窒素(N2)ガス等を含む。ドーパントガスの流量は、第1層11の不純物濃度が、たとえば1×1014cm-3以上2×1016cm-3以下となるように調整するとよい。
【0040】
第1層11の厚さは、適宜変更できる。第1層11の厚さの下限は、たとえば5μmでもよいし、10μmでもよいし、20μmでもよい。第1層11の厚さの上限は、100μmでもよいし、75μmでもよいし、50μmでもよい。
【0041】
〔第2層形成工程(S2)〕
第2層形成工程(S2)では、第1層11の最表面に、第1層11と化学組成もしくは密度が異なる第2層12を形成する。第2層12は、第1層11の表面にエピタキシャル成長させてもよいし、第1層11の一部を変質させて形成してもよい。
【0042】
第2層12は、第1層11に比し、CMPによる研磨が容易な層である。第1層11の厚さに対する第2層12の厚さの比率は、0%を超えて10%以下とする。同比率は、第2層12の厚さを第1層11の厚さで除した値の百分率を示している。同比率の下限は0.1%でもよいし、1%でもよい。同比率の上限は、8%でもよいし、5%でもよいし、3%でもよい。これらの範囲で、CMPのタクトタイムが短縮する、あるいはプロセスウィンドウが拡大することが期待される。第2層12の厚さは、たとえば0.1μm以上1.0μm以下でもよいし、0.1μm以上0.5μm以下でもよい。
【0043】
第2層12の形成条件は、たとえば次のとおりである。所定の厚さの第1層11を成長させた後、原料ガスのうち、Si原料ガスの供給を停止する。C原料ガス、およびキャリアガスであるH2ガスの供給は継続し、キャリアガスの流量に対するC原料ガスの流量の比率が、たとえば0.05%以上0.10%以下となるように、各ガスの流量を調整する。チャンバ2内の圧力を8kPa以下に調整する。圧力の調整は、10秒以内で行うことが望ましい。さらに基板温度を20~40℃程度上昇させる。
【0044】
これらの操作を行うことにより、第1層11より炭素の組成比が大きい第2層12が形成される。このように、化学量論比からずれた組成を有する第2層12は、炭化珪素より軟質であり、CMPによる研磨が容易になることが期待される。また炭素は、炭化珪素よりも反応性に富むことから、第2層12において炭素の組成比を大きくすることにより、CMPにおける化学作用の促進が期待される。さらに組成の変化に伴って、ピット、キャロット欠陥、台形状欠陥等の構成が変化することも期待される。ここでピットとは、貫通らせん転位(Threading Screw Dislocation:TSD)に起因する表面欠陥であり、平面視において略円形の表面形状を呈し、表面からの深さが8nm以上のものを示すものとする。ピットの深さは、AFMによって測定できる。測定条件には、前述のAFM条件を援用できる。
【0045】
あるいは、上記において、所定の厚さの第1層11を成長させた後、原料ガスのうち、C原料ガスの供給を停止してもよい。この場合、キャリアガスの流量に対するSi原料ガスの流量の比率が、たとえば0.05%以上0.10%以下となるように、各ガスの流量を調整する。チャンバ2内の圧力を8kPa以下に調整する。圧力の調整は、10秒以内で行うことが望ましい。さらに基板温度を20~40℃程度上昇させる。
【0046】
これらの操作を行うことにより、第1層11より珪素の組成比が大きい第2層12が形成される。このように、化学量論比からずれた組成を有する第2層12は、炭化珪素より軟質であり、CMPによる研磨が容易になることが期待される。さらに組成の変化に伴って、ピット、キャロット欠陥、台形状欠陥等の構成が変化することも期待される。
【0047】
また上記のように化学量論比からずれた組成とすることにより、結晶構造が疎となり、第1層11より密度が低い第2層12が形成されることもある。これにより、CMPによる研磨が容易になることも考えられる。
【0048】
第2層12に、CMPにおける化学反応の触媒となる元素(触媒元素)を含有させてもよい。触媒元素がCMPの化学作用を促進することで、タクトタイムの短縮が期待される。触媒元素としては、たとえばアルミニウム(Al)、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)等が挙げられる。すなわち第2層12は、Al、PtおよびPdからなる群より選択される少なくとも1種を含有していてもよい。たとえば、第1層11の最表面に、アルミニウムをイオン注入して第2層12を形成することが考えられる。あるいは、第2層12をエピタキシャル成長させる際に、トリメチルアルミニウム〔Al(CH3)3〕等を導入することが考えられる。
【0049】
〔研磨工程(S3)〕
研磨工程(S3)では、CMPによって、第2層12を研磨する。研磨工程(S3)では、第2層12を完全に除去してもよいし、第2層12の一部を残存させてもよい。研磨工程(S3)における研磨量は、好ましくは第2層12の厚さと同程度とする。CMPの砥粒は、たとえばコロイダルシリカ、フュームドシリカ、アルミナ等でよい。CMPの研磨液は、たとえば過酸化水素水等の酸化剤を含むものでもよい。前述のようにCMPに適した組成等を有する第2層12に対して、CMPを行うことにより、算術平均粗さを0.1nm以下まで低減し、なおかつ欠陥密度を低減できる可能性がある。CMP後、第2炭化珪素エピタキシャル基板101を純水、酸、アルカリ等で洗浄してもよい。
【0050】
〔第2実施形態:炭化珪素エピタキシャル基板〕
次に上記の製造方法によって製造された第1炭化珪素エピタキシャル基板100および第2炭化珪素エピタキシャル基板101について説明する。
【0051】
〔第1炭化珪素エピタキシャル基板〕
図2に示す第1炭化珪素エピタキシャル基板100は、前述の第1層形成工程(S1)および第2層形成工程(S2)を経て製造された基板である。第1炭化珪素エピタキシャル基板100は、炭化珪素単結晶基板10と、炭化珪素単結晶基板10上に形成されているエピタキシャル層である第1層11と、第1層11の最表面に形成されている第2層12とを備える。第2層12は、第1層11と化学組成もしくは密度が異なる。第1層11の厚さに対する第2層12の厚さの比率は、0%を超えて10%以下である。
【0052】
ここで第1層11および第2層12の化学組成および厚さは、たとえばXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)、AES(Auger Electron Spectroscopy)等によって測定できる。第1層11と第2層12との密度差は、たとえばフォトルミネッセンス法、ラマン分光法、X線回折法等によって測定できる。前述のように、第2層12はCMPによる研磨が容易な層である。第1炭化珪素エピタキシャル基板100の表面をCMPによって研磨することにより、表面性状に優れる第2炭化珪素エピタキシャル基板101を製造できる可能性がある。
【0053】
〔第2炭化珪素エピタキシャル基板〕
図5は、本実施形態に係る第2炭化珪素エピタキシャル基板101の構成の一例を示す概略断面図である。
図5に示す第2炭化珪素エピタキシャル基板101は、前述の第1層形成工程(S1)~研磨工程(S3)を経て製造された基板である。第2炭化珪素エピタキシャル基板101は、炭化珪素単結晶基板10と、炭化珪素単結晶基板10上に形成されているエピタキシャル層13とを備える。ここでエピタキシャル層13は、前述の第1層11に相当する。第2炭化珪素エピタキシャル基板101では、前述の第2層12がCMPにより実質的に除去されている。第2炭化珪素エピタキシャル基板101は、優れた表面性状を有する。
【0054】
エピタキシャル層13の表面における算術平均粗さは、0.1nm以下である。これにより酸化珪素膜の寿命および信頼性の向上が期待される。算術平均粗さは小さいほど望ましい。算術平均粗さは、0.08nm以下でもよいし、0.06nm以下でもよいし、0.04nm以下でもよい。生産性を考慮すると、算術平均粗さの下限は、たとえば0.01nmでもよい。
【0055】
エピタキシャル層13の表面において、キャロット欠陥の欠陥密度は、0.1個/cm2以下である。これにより酸化珪素膜の寿命および信頼性の向上が期待される。キャロット欠陥は、多くがTSDに起因する表面欠陥の一つであり、エピタキシャル層13の表面においてキャロット状の平面形状を呈する。キャロット欠陥の欠陥密度は低いほど望ましく、理想的には0(ゼロ)である。キャロット欠陥の欠陥密度は、0.05個/cm2以下でもよいし、0.01個/cm2以下でもよい。
【0056】
エピタキシャル層13の表面において、台形状欠陥20の欠陥密度は、0.1個/cm2以下である。これにより酸化珪素膜の寿命および信頼性の向上が期待される。台形状欠陥の欠陥密度は低いほど望ましく、理想的には0(ゼロ)である。台形状欠陥の欠陥密度は、0.05個/cm2以下でもよいし、0.01個/cm2以下でもよい。
【0057】
図6は、台形状欠陥20を図解する概略平面図である。
図6に示すように、台形状欠陥20は、平面形状が台形状の窪みである。台形状欠陥は、<11-20>方向と交差する上底部21および下底部22を含む。上底部21の幅(W1)は0.1μm以上100μm以下であり、下底部22の幅(W2)は50μm以上5000μm以下である。上底部21と下底部22との距離(台形の高さ)は、たとえば50μm以上500μm以下である。
【0058】
図8は、
図6中のVIII-VIII線に沿う概略断面図である。
図8に示すように上底部21は、突起部24を含む。突起部24は、上底部21の略中央に位置していてもよい。上底部21において、突起部24は、突起部24以外の部分に対して、5~20nm程度突起している。突起部24の高さ(h)は、白色干渉顕微鏡(たとえば製品名「BW-D507」、ニコン社製)によって測定できる。光源には水銀ランプを用いる。測定視野は250μm×250μmとする。
【0059】
図7は、
図6中のVII-VII線に沿う概略断面図である。
図7中の角度(θ)は、オフ角を示している。
図7に示すように、台形状欠陥20の内部、すなわち上底部21と下底部22との間の領域では、エピタキシャル層13の表面が、炭化珪素単結晶基板10に向かって僅かに後退している。台形状欠陥20は、炭化珪素単結晶基板10とエピタキシャル層13との界面に起点23を有している。起点23は、突起部24と連結していることもある。ただし突起部24は、TSDおよび貫通刃状転位(Threading Edge Dislocation:TED)とは連結していない。
【0060】
図9は、
図6中の領域IXの拡大図である。
図9に示すように、下底部22は複数のステップバンチング25を含む。「ステップバンチング」とは、複数の原子ステップが束をなし、1nm以上の段差となった線状欠陥を示す。ステップバンチングにおける段差の大きさは、たとえば1~5nm程度である。ステップバンチングにおける段差の大きさは、たとえばAFMによって測定できる。この場合も、前述のAFM条件を援用できる。下底部22に含まれるステップバンチングの本数は、たとえば2~100本程度であることがあり、2~50本程度であることもある。下底部22に含まれるステップバンチングの本数も、下底部22をAFMで観察することにより、計数できる。
【0061】
〔第3実施形態:炭化珪素半導体装置の製造方法〕
以下、上記の第2炭化珪素エピタキシャル基板101を用いた炭化珪素半導体装置1000について説明する。ここでは、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を例にとって説明する。ただし本実施形態はMOSFETに限定されない。本実施形態は、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等に適用してもよい。
【0062】
図10は、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置1000の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図10に示すように、当該製造方法は、基板準備工程(S10)と、不純物領域形成工程(S20)と、酸化珪素膜形成工程(S30)と、電極形成工程(S40)とを備える。以下、各工程について説明する。
【0063】
〔基板準備工程(S10)〕
基板準備工程(S10)では、前述した第1層形成工程(S1)、第2層形成工程(S2)および研磨工程(S3)によって、第2炭化珪素エピタキシャル基板101を製造し、準備する(たとえば
図1等を参照のこと)。
【0064】
〔不純物領域形成工程(S20)〕
図11は、不純物領域形成工程(S20)を図解する概略断面図である。
図11に示すように、第2炭化珪素エピタキシャル基板101は、第1主面91と、第1主面91の反対側に位置する第2主面92とを有する炭化珪素単結晶基板10と、第1主面91上に形成されており、炭化珪素単結晶基板10が位置する側の反対側に第3主面93を有するエピタキシャル層13とを含む。
【0065】
この工程では、第3主面93に対してイオン注入が行われる。イオン注入は、第2炭化珪素エピタキシャル基板101を300℃~600℃程度に加熱した状態で行われる。先ず、たとえばアルミニウム等のp型不純物がエピタキシャル層13の所定位置に注入される。これにより、ボディ領域31が形成される。次いで、たとえばリン(P)等のn型不純物がボディ領域31の所定位置に注入される。これによりソース領域32が形成される。次いで、たとえばアルミニウム等のp型不純物がソース領域32の所定位置に注入される。これによりコンタクト領域33が形成される。2つのボディ領域31に挟まれた領域は、JFET領域34となる。
【0066】
イオン注入後、熱処理を行う。熱処理雰囲気は、たとえばアルゴン(Ar)雰囲気等でよい。熱処理温度は、たとえば1800℃程度でよい。熱処理時間は、たとえば30分程度でよい。これによりイオン注入された不純物が活性化する。
【0067】
〔酸化珪素膜形成工程(S30)〕
図12は、酸化珪素膜形成工程(S30)を図解する概略断面図である。この工程では、
図12に示すように、第3主面93上に酸化珪素膜35が形成される。酸化珪素膜35は、たとえば二酸化珪素等から構成される。酸化珪素膜35は、ゲート絶縁膜として機能する。酸化珪素膜35は、たとえば熱酸化により形成してもよい。熱酸化における雰囲気は、酸素雰囲気等でよい。熱酸化における熱処理温度は、たとえば1300℃程度でよい。熱酸化における熱処理時間は、たとえば30分程度でよい。
【0068】
酸化珪素膜35が形成された後、さらに窒素雰囲気中で熱処理を行ってもよい。たとえば、一酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(N2O)等の雰囲気中、1100℃程度で、1時間程度に亘って熱処理を行ってもよい。さらにその後に、アルゴン雰囲気中で熱処理を行ってもよい。たとえば、アルゴン雰囲気中、1100~1500℃程度で、1時間程度に亘って熱処理を行ってもよい。
【0069】
〔電極形成工程(S40)〕
図13は、炭化珪素半導体装置1000の構成の一例を示す概略断面図である。第3電極43は、たとえばCVD法によって、酸化珪素膜35上に形成される。第3電極43は、ゲート電極として機能する。第3電極43は、たとえば不純物が添加され導電性を有するポリシリコン等から構成してもよい。
【0070】
層間絶縁膜36は、たとえばCVD法によって形成される。層間絶縁膜36は、たとえば二酸化珪素等から構成してもよい。層間絶縁膜36は、第3電極43を覆い、かつ酸化珪素膜35と接するように形成される。
【0071】
次いで、所定位置の酸化珪素膜35および層間絶縁膜36がエッチングによって除去される。これにより、ソース領域32およびコンタクト領域33が、酸化珪素膜35から露出する。当該露出部に、第1電極41がたとえばスパッタリング法によって形成される。第1電極41はソース電極として機能する。第1電極41は、たとえばチタン(Ti)、アルミニウム、珪素、ニッケル(Ni)等を含んでいてもよい。第1電極41が形成された後、第1電極41と第2炭化珪素エピタキシャル基板101とを、たとえば900~1100℃程度の温度で熱処理する。これにより、第1電極41と第2炭化珪素エピタキシャル基板101とがオーミック接触するようになる。
【0072】
次いで、第1電極41に接するように、配線層37が形成される。配線層37は、たとえばアルミニウム等から構成してもよい。
【0073】
さらに、第2主面92に接する第2電極42が形成される。第2電極42は、ドレイン電極として機能する。第2電極42は、たとえばニッケルおよび珪素を含む合金(たとえばNiSi等)から構成してもよい。
【0074】
その後、所定のダイシングブレードにより、第2炭化珪素エピタキシャル基板101を複数のチップに分割する。以上より、
図13に示す炭化珪素半導体装置1000が完成する。
【0075】
〔第4実施形態:炭化珪素半導体装置〕
次に、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置1000について説明する。
図13に示す炭化珪素半導体装置1000は、いわゆるプレーナ構造を有する縦型MOSFETである。本実施形態において、チップサイズ、すなわち
図13に示す断面構造部をユニットセル構造として含むMOSFETの有効面積は、たとえば1mm
2~100mm
2程度である。
【0076】
炭化珪素半導体装置1000は、第1主面91と、第1主面91の反対側に位置する第2主面92とを有する炭化珪素単結晶基板10と、第1主面91上に形成されており、炭化珪素単結晶基板10が位置する側の反対側に第3主面93を有するエピタキシャル層13とを含む、第2炭化珪素エピタキシャル基板101を備える。
【0077】
さらに炭化珪素半導体装置1000は、第3主面93上に形成されている酸化珪素膜35と、第3主面93側に接続されている第1電極41と、第2主面92側に接続されている第2電極42と、を備える。
【0078】
酸化珪素膜35の厚さは、10nm以上100nm以下である。酸化珪素膜35上には、第3電極43が形成されている。
【0079】
エピタキシャル層13は、ドリフト領域30、ボディ領域31、ソース領域32、コンタクト領域33、およびJFE領域34を含む。
【0080】
ボディ領域31、すなわち第1ボディ領域311および第2ボディ領域312は、第1導電型を有する。第1導電型は、たとえばp型である。ボディ領域31は、第3主面93において酸化珪素膜35と接している。ボディ領域31における不純物濃度は、たとえば1×1016cm-3以上1×1018cm-3以下程度でよい。
【0081】
ソース領域32は、ボディ領域31内に設けられている。ソース領域32は、第1電極41と接している。ソース領域は、第2導電型を有する。第2導電型は、第1導電型と異なる導電型である。たとえば第1導電型がp型の場合、第2導電型はn型である。ソース領域32における不純物濃度は、たとえば5×1019cm-3程度でよい。
【0082】
コンタクト領域33は、ボディ領域31内に設けられている。コンタクト領域33は、第1電極41と接している。コンタクト領域は、第1導電型を有する。コンタクト領域33における不純物濃度は、たとえば1×1020cm-3程度でよい。
【0083】
ドリフト領域30は、第2導電型を有する。ドリフト領域30における不純物濃度は、たとえば1×1014cm-3以上1×1016cm-3以下でよい。
【0084】
JFET領域34は第2導電型を有する。JFET領域34は、第1ボディ領域311と第2ボディ領域312との間に挟まれている。またJFET領域34は、第3主面93と垂直な方向において、酸化珪素膜35とドリフト領域30との間に挟まれている。JFET領域34における不純物濃度は、たとえば1×1014cm-3以上1×1016cm-3以下でよい。
【0085】
ここで炭化珪素半導体装置1000の動作を説明する。炭化珪素半導体装置1000において、オフ状態とは、第3電極43(ゲート電極)の電圧が閾値未満の状態である。オフ状態では、酸化珪素膜35(ゲート絶縁膜)の直下に位置するボディ領域31と、JFET領域34との間のpn接合が逆バイアスとなり、非導通状態が維持される。オン状態とは、第3電極43に閾値以上の電圧が印加された状態である。オン状態では、ソース領域32とJFET領域34とが電気的に接続され、第1電極41(ソース電極)と第2電極42(ドレイン電極)との間に電流が流れる。
【0086】
第2実施形態で説明したように、エピタキシャル層13は優れた表面性状を有する。よってエピタキシャル層13上に形成されている酸化珪素膜35には、寿命および信頼性の向上が期待できる。
【0087】
酸化珪素膜35の寿命および信頼性は、定電流TDDBによって評価される。定電流TDDBにおけるQBDが多いほど、酸化珪素膜35の寿命が長いといえる。炭化珪素半導体装置1000では、25℃環境、20mA/cm2で行われる定電流TDDBにおけるQBDが60C/cm2以上である。これにより、大電流通電、高温等の厳しい環境下でも安定した動作が期待できる。QBDは70C/cm2以上でもよいし、80C/cm2以上でもよい。生産性を考慮すると、QBDの上限は、たとえば200C/cm2でもよい。
【0088】
〔評価〕
〔定電流TDDB測定〕
次に、本実施形態に従う炭化珪素半導体装置1000における定電流TDDBの測定結果を説明する。
【0089】
以下のようにして、試料1~試料3に係る炭化珪素エピタキシャル基板を製造した。試料1~試料3の口径は150mmとした。試料1では、15.5μmの第1層11をホモエピタキシャル成長させた後、最表面の0.5μm分を第2層12に変換した。第2層12は、Si原料ガスの供給を停止した後、キャリアガス(H2ガス)の流量に対するC原料ガスの流量の比率を、0.08%に調整し、基板温度を30℃上昇させることで形成した。このとき各ガスの流量調整は約8秒間で行った。こうして第1層11と化学組成が異なる第2層12を形成した。第2層12における炭素の組成比は、第1層11における炭素の組成比より大きいものである。CMPにより、第2層12を研磨した。研磨量は0.5μmとした。
【0090】
試料2および試料3では、15μmのエピタキシャル層を成長させた。試料2および試料3では、第2層を形成せず、CMPを行わなかった。これら以外は試料1の製造条件と同じとした。
【0091】
前述のようにして、試料1~試料3の表面性状を評価した。結果を表1に示す。
【0092】
【0093】
試料1から、MOSFETであるチップを22個製造した。同様に、試料2および試料3から、チップをそれぞれ22個製造した。
【0094】
25℃環境、20mA/cm
2の一定電流密度で、定電流TDDB測定を行った。結果を
図14に示す。
図14は、定電流TDDBの測定結果を示すワイブルプロットである。
図14中、縦軸は累積故障率をワイブル確率紙にプロットしたものを示し、横軸は絶縁破壊電荷総量(Q
BD)を示している。
図14では、Q
BDが多いほど、酸化珪素膜の寿命が長いことを示している、またプロット群の傾きが垂直に近いほど、信頼性が高いことを示している。
図14中、三角形の凡例は試料1を示し、四角形の凡例は試料2を示し、円形の凡例は試料3を示す。
【0095】
図14から分かるように、本実施形態に従う試料1では、Q
BDが80C/cm
2以上である。また試料1では、プロット群が垂直に近く、信頼性が高いと評価できる。
【0096】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0097】
1 成膜装置、2 チャンバ、3 誘導加熱コイル、4 石英管、5 断熱材、6 発熱体、7 曲面部、8 平坦部、10 炭化珪素単結晶基板、11 第1層、12 第2層、13 エピタキシャル層、20 台形状欠陥、21 上底部、22 下底部、23 起点、24 突起部、25 ステップバンチング、30 ドリフト領域、31 ボディ領域、311 第1ボディ領域、312 第2ボディ領域、32 ソース領域、33 コンタクト領域、34 JFET領域、35 酸化珪素膜、36 層間絶縁膜、37 配線層、41 第1電極、42 第2電極、43 第3電極、91 第1主面、92 第2主面、93 第3主面、100 第1炭化珪素エピタキシャル基板、101 第2炭化珪素エピタキシャル基板、1000 炭化珪素半導体装置。