(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】接合継手および接合継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20230117BHJP
【FI】
B23K20/12 Z
B23K20/12 D
(21)【出願番号】P 2021526851
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2020023837
(87)【国際公開番号】W WO2020256030
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019112004
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】松井 翔
(72)【発明者】
【氏名】吉永 千智
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-166037(JP,A)
【文献】特表2000-510768(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0125297(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
B21J 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部を有する鋼材と、鋼板とが、摩擦圧接により接合された接合継手であって、
前記鋼板は、前記鋼材の前記軸部との接合部の端部において、マルテンサイト面積率が80%以上の金属組織を有する、接合継手。
【請求項2】
HAZ軟化部を有する、請求項1に記載の接合継手。
【請求項3】
前記鋼板が炭素を0.15質量%以上含有する、請求項1又は2に記載の接合継手。
【請求項4】
前記鋼板の上面に、樹脂板および金属板のうちの少なくとも1枚の板材が重ね合わされており、
前記鋼材の前記軸部は、前記板材を貫通して前記鋼板と摩擦圧接により接合されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合継手。
【請求項5】
前記鋼材は、前記接合部とは反対側の端部に、前記軸部よりも断面径が大きい頭部を有しており、
前記板材は、前記鋼板と前記鋼材の前記頭部とによって挟持されている、請求項4に記載の接合継手。
【請求項6】
前記鋼板の引張強度が500MPa以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の接合継手。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項の接合継手の製造方法であって、
前記製造方法は、前記鋼材を回転させながら前記鋼板の上面に押圧する摩擦圧接工程を含み、
前記摩擦圧接工程は、前記鋼材を前記鋼板の上面に押圧するときの加圧力F(kN)および回転数R(rpm)が、以下の式(1)~式(3)を満たす、接合継手の製造方法。
F≧0.45×D
2-0.5 ・・・(1)
D<12のとき、R≧36000/D-1000 ・・・(2)
D≧12のとき、R≧2000 ・・・(3)
上記式(1)~式(3)中のDは、前記軸部が円柱の場合は、前記軸部の垂直断面である円の直径(mm)、前記軸部が多角柱の場合は、前記軸部の垂直断面である多角形の最小包含円の直径(mm)を表す。
【請求項8】
前記鋼板の引張強度が500MPa以上である、請求項7に記載の接合継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦圧接接合により接合された接合継手に関する。
【背景技術】
【0002】
複数枚の金属板を接合する手段として、重ね合わされた複数枚の金属板を、リベットなどの接続部材を用いて接合する技術が知られている。
特に近年では、重ね合わされた上板と下板に対して、接続部材を回転させながら上板の上面に押圧し、上板を貫通させて、接続部材と下板とを摩擦圧接する接合技術などが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウム板と鋼板のような強度の異なる2枚の板材を、リベット等の接合要素(すなわち、頭部および軸部を有する接続部材)を用いて、摩擦圧接のプロセスにより接合する技術が開示されている。具体的には、次のようなプロセスを経て、強度の異なる2枚の板材を接合する技術が開示されている。
すなわち、2枚の板材を、強度の低い方の板材を上板にして重ね合わせ、上板の上面に、ホルダーに支持された接続部材をセットし、接続部材を回転させながら下方に移動させて、上板の内部に向けて押圧する。このとき、接続部材と上板との間には、接続部材の回転によって強い摩擦が生じ、接続部材の先端部が加熱されるため、上板が軟化して、接続部材が上板内に進入することが可能となる。
このようにして、回転しながら上板内に進入する接続部材の先端部が、下板の上面に到達すると、接続部材の軸部と下板との間で摩擦圧接のプロセスが進行し、接続部材の軸部と下板が摩擦圧接される。これにより、接続部材と下板が摩擦圧接部(接合部)で接合されるとともに、上板が接続部材の頭部と下板との間で固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような特許文献1の技術に限らず、鋼製の丸棒を鋼板に摩擦圧接する技術(摩擦スタッド)などによって形成された接合継手においては、特に高い炭素量の鋼板(例えば、引張強度が980MPaを超える高強度の鋼板等)を用いると、摩擦圧接部(接合部)の強度が低下してしまい、結果的に接合継手としての継手強度も低下してしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、摩擦圧接接合により接合された接合継手に関し、継手強度に優れた接合継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、摩擦圧接によって接合された接合継手の継手強度が低下する原因について詳細に調べたところ、鋼板が塑性変形することで形成される鋼板の接合部近傍(接合部の端部)の金属組織が、
図1に示すように、硬質相(主にマルテンサイト相P
M)と、該硬質相よりも柔らかい軟質相(主にフェライト相P
F)とからなる二相の不均一な金属組織(以下、単に「二相組織」と称する。)となっていて、その二相組織の硬質相と軟質相の界面に局所的なひずみが集中しやすく、延性破壊を引き起こしやすくなっていると考えられた。
そこで、本発明者らは、鋼板における接合部の端部の金属組織を所定の均質な組織とすることで、局所的なひずみ集中がなくなり接合継手としての継手強度が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
ここで、接合部の端部とは、鋼板の表面と塑性変形した鋼板が成す角部を指す(
図1(a)、
図3(a)の符号X
1で示す部分)。また、接合部の端部の金属組織とは、上記鋼板の表面の延長線上における接合部の端部から30μm内側の鋼板内の金属組織を指す(
図1(a)、
図3(a)の符号X
2で示す部分)。
【0008】
本発明の具体的な態様は、以下のとおりである。
【0009】
[1]軸部を有する鋼材と、鋼板とが、摩擦圧接により接合された接合継手であって、前記鋼板は、前記鋼材の前記軸部との接合部の端部において、マルテンサイト面積率が80%以上の金属組織を有する、接合継手。
【0010】
[2]HAZ軟化部を有する、前記[1]の接合継手。
【0011】
[3]前記鋼板が炭素を0.15質量%以上含有する、前記[1]又は[2]の接合継手。
【0012】
[4]前記鋼板の上面に、樹脂板および金属板のうちの少なくとも1枚の板材が重ね合わされており、前記鋼材の前記軸部は、前記板材を貫通して前記鋼板と摩擦圧接により接合されている、前記[1]~[3]のいずれかの接合継手。
【0013】
[5]前記鋼材は、前記接合部とは反対側の端部に、前記軸部よりも断面径が大きい頭部を有しており、前記板材は、前記鋼板と前記鋼材の前記頭部とによって挟持されている、前記[4]の接合継手。
【0014】
[6]前記鋼板の引張強度が500MPa以上である、前記[1]~[5]のいずれかの接合継手。
【0015】
[7]前記[1]~[6]のいずれかの製造方法であって、前記製造方法は、前記鋼材を回転させながら前記鋼板の上面に押圧する摩擦圧接工程を含み、前記摩擦圧接工程は、前記鋼材を前記鋼板の上面に押圧するときの加圧力F(kN)および回転数R(rpm)が、以下の式(1)~式(3)を満たす、接合継手の製造方法。
F≧0.45×D2-0.5 ・・・(1)
D<12のとき、R≧36000/D-1000 ・・・(2)
D≧12のとき、R≧2000 ・・・(3)
上記式(1)~式(3)中のDは、前記軸部が円柱の場合は、前記軸部の垂直断面である円の直径(mm)、前記軸部が多角柱の場合は、前記軸部の垂直断面である多角形の最小包含円の直径(mm)を表す。
【0016】
[8]前記鋼板の引張強度が500MPa以上である、請求項7に記載の接合継手の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、摩擦圧接接合により接合された接合継手に関し、継手強度に優れた接合継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、従来の摩擦圧接によって接合された接合継手10’を示す図であり、
図1(a)は、従来の接合継手10’の接合部Pおよびその近傍部分の断面図であり、
図1(b)は、従来の接合継手10’における接合部Pの端部(
図1(a)の符号X
2で示す部分)の金属組織を示す電子顕微鏡写真である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る接合継手10の製造方法を説明するための模式図であり、
図2(a)は、鋼材1と鋼板2が接合を開始する前の状態であり、
図2(b)は、鋼材1を回転させながら下方に移動させて、鋼板2を加圧した状態である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る接合継手10を示す図であり、
図3(a)は、接合継手10の接合部Pおよびその近傍部分の断面図であり、
図3(b)は、接合継手10における接合部Pの端部(
図3(a)の符号X
2で示す部分)の金属組織を示す電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、本発明の別の実施形態に係る接合継手を説明するための模式図であり、
図4(a)は、板材3(上板)を貫通した鋼材1と鋼板2(下板)とを摩擦圧接により接合してなる接合継手10Aを示す図であり、
図4(b)は、板材3B(上板)の貫通孔31を貫通したリベット状の鋼材1Bと鋼板2(下板)とを摩擦圧接により接合してなる接合継手10Bを示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の接合継手に用い得る鋼材の例として、軸部の下方側先端部が円錐形状である場合の鋼材を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の接合継手に用い得る鋼材の他の例として、軸部の下方側先端部が球面形状である場合の鋼材を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の接合継手の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
[接合継手]
図3(a)に示すように、本発明の一実施形態に係る接合継手10は、円柱状の軸部を有する丸棒状の鋼材1と、鋼板2とによって構成されており、鋼材1の軸部の下方側先端部(底面)と鋼板2とが、摩擦圧接により接合されている。
【0021】
そして、接合継手10の鋼板2は、
図3(b)に示すように、鋼材1の軸部の下方側先端部と鋼板2との接合部Pの端部において、マルテンサイト面積率が80%以上の金属組織を有している。
このように、本実施形態の接合継手10は、鋼板2における接合部Pの端部の金属組織が、マルテンサイト面積率80%以上の金属組織、すなわち軟質相と硬質相の界面への局所的なひずみ集中が生じにくい均質なマルテンサイトP
Mから成る金属組織であるため、優れた継手強度を発揮することができる。
なお、接合継手10は、上述のマルテンサイトP
Mの均質な金属組織によって、高い継手強度が得られるだけでなく、継手強度のばらつきも少なくすることができる。
【0022】
マルテンサイト面積率が80%以上の金属組織は、20%以下の面積率であれば残留オーステナイト等のマルテンサイトPM以外の相を含み得る。また、接合部の端部の金属組織は、マルテンサイトPMの面積率が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。マルテンサイトPMの面積率が90%以上、更には95%以上であれば、より安定して高い継手強度を得ることができる。
【0023】
なお、鋼板における接合部の端部のマルテンサイト面積率80%以上の金属組織は、接合継手の接合部を板厚方向に沿って切断し、その切断面を研磨してエッチングした後、その表面を走査型電子顕微鏡で拡大観察することにより、確認することができる。エッチング後の表面を拡大観察するに当たっては、鋼板の表面の延長線上における接合部の端部から30μm内側の鋼板内の位置(すなわち、
図1(a)、
図3(a)の符号X
2で示す部分)を中心にして、20μm×20μm以上の広さの観察視野で拡大観察する。
【0024】
このようなマルテンサイト面積率が80%以上の金属組織は、鋼材と鋼板とを後述する所定の加圧力および回転数条件下で摩擦圧接することにより、鋼板の母材組織(具体的には、接合部の端部の組織)を、オーステナイト変態を経てマルテンサイト変態させることで得ることができる。
また、このようなマルテンサイト面積率が80%以上の金属組織は、鋼材と鋼板の摩擦圧接後に、継手全体を加熱・急冷(焼入れ)することでも得ることができる。
【0025】
しかしながら、継手全体の加熱・急冷は、接合の熱履歴を受けていない母材部まで焼入れされてしまい、母材がもつ特性が損なわれてしまうので好ましくない。したがって、継手全体の加熱・急冷によって母材の特性が広域にわたって損なわれていないという観点からHAZ軟化部が存在している方が好ましい。
【0026】
継手全体が加熱・急冷されていないことは、接合時に生じるHAZ軟化部の有無を確認することで確かめることができる。HAZ軟化部は接合時の入熱によって焼戻され、熱の影響を受けていない母材部よりも硬さが低い領域のことを指す。したがって、摩擦圧接後に継手全体を加熱・急冷した場合、HAZ軟化部も焼入れされ、HAZ軟化部がなくなる。HAZ軟化部の有無は鋼板の摩擦圧接されている面から板厚方向に0.2mm深い位置において、母材部から摩擦圧接部中心までの硬さ分布を測定することで確認することができる。この時の測定荷重は例えば200gとし、測定間隔は0.2mmとする。この測定した硬度分布において母材部から摩擦圧接部中心に近づくにつれて硬さが小さくなった後、摩擦圧接により焼入れされた高硬度な領域が見られた場合、HAZ軟化部が存在していると判断でき、同時に継手全体の加熱・急冷による焼入れが行われていないと判断できる。
【0027】
マルテンサイト面積率が80%以上の金属組織を得るためには、鋼板が炭素を0.15質量%以上含有することが好ましい。炭素の含有量は0.20質量%以上がより好ましく、0.25質量%以上がさらに好ましい。
【0028】
[接合継手の製造方法]
本発明の接合継手は、例えば、以下のような摩擦圧接工程を含む製造方法により得ることができる。
なお、かかる製造方法の説明に当たっては、上記実施形態の接合継手10の製造方法を例示的に用いる。
【0029】
(摩擦圧接工程)
図2に示すように、鋼材1を回転させながら下方側に移動させて、鋼材1の軸部の下方側先端部を鋼板2の上面に接触させる。このとき、鋼材1の軸部の下方側先端部が鋼板2の上面に接触した後に、鋼材1の回転速度と加圧力を調整することで、鋼材1と鋼板2との間に摩擦熱を発生させることができ、鋼材1の軸部の下方側先端部と鋼板2とが摩擦圧接される。
【0030】
この摩擦圧接工程における各種条件に関し、本発明者らは、種々の成分の鋼板について種々の加圧力、回転数および鋼材の半径を変えて実験し、得られた結果を回帰式で表現した。
すなわち、摩擦圧接工程においては、鋼材1を鋼板2の上面に押圧するときの加圧力F(kN)および回転数R(rpm)は、以下の式(1)~式(3)を満たすものを採用する。
F≧0.45×D2-0.5 ・・・(1)
D<12のとき、R≧36000/D-1000 ・・・(2)
D≧12のとき、R≧2000 ・・・(3)
上記式(1)~式(3)中のDは、鋼材1の軸部が円柱の場合は、軸部の垂直断面である円の直径(mm)、軸部が多角柱の場合は、軸部の垂直断面である多角形の最小包含円の直径(mm)を表す。
【0031】
この摩擦圧接工程において、鋼材1と鋼板2とを、上記式(1)~式(3)を満たす特定の加圧力および回転数で摩擦圧接することにより、鋼板2への入熱が上昇し、鋼材1の軸部と鋼板2との間に摩擦圧接部(接合部P)が形成されるとともに、鋼板2における接合部Pの端部の組織が、オーステナイト変態を経てマルテンサイト変態し、上述のマルテンサイト面積率が80%以上の金属組織が形成される。
このようにして、
図3(a)に示すような、鋼材1と鋼板2とが接合部Pを介して接合された接合継手10が得られる。
【0032】
なお、上記加圧力および回転数は、鋼材が丸棒状以外の形態(例えば、リベット状等の形態)でも同様である。
また、後述するように接合継手が上板として板材を含む場合も、上記と同様にして鋼材を上記式(1)~式(3)を満たす特定の加圧力および回転数で回転させながら鋼板に押圧することで、同様の接合継手を得ることができる。
【0033】
なお、加圧力Fの上限値としては、特に限定されないが、加圧力が高いと設備が大型化してしまうので、500kN以下であることが好ましい。
また、回転数Rの上限値としては、特に限定されないが、高加圧力の条件では回転数を上げることが難しいとの理由から、D<12のときは15000rpm以下、D≧12のときは5000rpm以下であることが好ましい。
【0034】
以下、本発明の接合継手に用いられる各種構成部材について説明する。
【0035】
[鋼材]
上述の実施形態の接合継手10では、鋼材として、円柱状の軸部を有する丸棒状の鋼材1が例示的に用いられているが、本発明において、鋼材の形態はこのようなものに限定されない。例えば、鋼材の軸部の形状としては、円柱、および角柱等が挙げられる。なお、摩擦圧接を安定して行うためには、鋼材の軸部の形状は円柱または五角形以上の正多角柱であることが好ましい。
したがって、鋼材としては、例えば、円柱状または多角柱状の軸部を有する棒状の鋼材、あるいは、円柱状または多角柱状の軸部と、該軸部の上方側端部に設けられた、該軸部よりも断面径が大きい頭部と、を有するリベット状の鋼材などを用いてもよい。
つまり鋼材は、当分野において一般的に接続部材として使用されている丸棒やリベットなどを採用することができ、例えば、上述の特許文献1などに開示されている中実構造または中空構造のものを採用することができる。
【0036】
なお、後述する
図4(b)に示す本発明の別の実施形態に係る接合継手10Bでは、鋼材としてリベット状の鋼材1Bが用いられている。この接合継手10Bにおいては、リベット状の鋼材1Bが、接合部Pから延びる軸部11と、該軸部11の上方側端部に位置し、該軸部11よりも断面径が大きい頭部12と、を有しているため、上板として配置された板材3Bを、鋼材1Bの頭部12と鋼板2(下板)によって挟持して、より強固に固定することができ、また、鋼材1Bと鋼板2との摩擦圧接部(接合部P)の継手強度も優れることから、板材3Bと鋼板2の接合継手としてより優れた継手強度を発揮することができる。
【0037】
このようなリベット状の鋼材を用いる場合、頭部の直径は、軸部の直径の1.5倍以上であることが好ましく、また、軸部の長さは、鋼板(下板)との圧接のしやすさなどの点から、板材(上板)の板厚(上板が複数枚ある場合は、その総板厚)の1.5倍以上であることが好ましい。ここで、軸部および頭部の直径は、軸部の延びる方向に対して直交する平面方向の断面形状が、円形の場合はその直径を意味し、多角形の場合はその最小包含円の直径を意味する。
なお、鋼材の軸部の直径としては、例えば20mm未満の直径が挙げられ、好ましくは3.0mm~8.0mmの直径が挙げられる。
【0038】
また、鋼材の材質については、鋼であればその種類や強度などは特に限定されない。
【0039】
[鋼板]
上述の実施形態の接合継手10では、鋼板として平板状の鋼板2が用いられている。
鋼板としては、鋼材と摩擦圧接し得る鋼板であれば特に限定されないが、上板として板材を用いる場合は、当該板材の引張強度以上の引張強度を有する鋼板を用いることが好ましい。
【0040】
鋼板の具体的な強度は、特に限定されず、例えば500MPa以上の引張強度が挙げられるが、引張強度が980MPaを超える高強度の鋼板(高炭素量の鋼板)を用いた場合は、継手強度が低下しやすいため、本発明はこのような高強度の鋼板を用いる場合に、特に有利である。
なお、鋼板の引張強度は、1180MPa以上であることが好ましい。
【0041】
鋼板の引張強度については、鋼板において摩擦圧接接合による熱影響を受けていない箇所から例えばJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z2241:2011に準拠して引張試験を行い測定する。接合部や部材形状の都合でJIS5号引張試験片が採取できない場合は、各種規格に定められている鋼板の引張試験片形状を採用してもよい。また、各種規格に定められている引張試験片が採取できない場合は、摩擦圧接接合による熱影響を受けていない箇所の断面における、鋼板表面から板厚を4で割った値分だけ深い位置におけるビッカース硬さを測定し、3.27倍した値を鋼板の引張強度(単位:MPa)として代用してもよい。
【0042】
また、鋼板としては、めっき鋼板や塗装鋼板などの表面処理鋼板を用いてもよい。
なお、鋼板の構造は、少なくとも接合対象部分が板状の構造を有していればよく、鋼板全体が板状の構造を有していなくてもよい。
【0043】
[板材]
図4(a)および(b)に示す本発明の別の実施形態に係る接合継手10A、10Bでは、鋼板2(下板)の上面に上板として板材3、3Bが重ね合わされており、丸棒状の鋼材1の軸部やリベット状の鋼材1Bの軸部11が板材3、3Bを貫通して、鋼板2と摩擦圧接により接合されている。なお、
図4(b)に示す接合継手10Bにおいては、板材3Bは、リベット状の鋼材1Bの頭部12と鋼板2とによって挟持されている。
このように、鋼板の上面に重ね合わされる板材(上板)は、鋼材(具体的には、鋼材の軸部)が貫通して鋼板と摩擦圧接し得るものを用いることができ、例えば、樹脂板や金属板などを用いることができる。ここで、金属板としては、例えば、アルミニウム板やアルミニウム合金板等の軽金属板、鋼板などが挙げられる。樹脂板としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどに加え、炭素繊維強化樹脂(CFRP)などの複合材料が挙げられる。
なお、このような板材は、同種または異種の板材を複数枚重ね合わせて用いることもできる。
【0044】
本発明の接合継手は、このような多種多様の板材(上板)を含むものであっても、鋼材と鋼板(下板)の摩擦圧接部(接合部)の継手強度が優れることから、板材(上板)と鋼板(下板)の継手として優れた継手強度を発揮することができる。
【0045】
なお、板材(上板)として鋼板を用いる場合は、鋼材と、下板となる鋼板との摩擦圧接をより確実に行わせるために、下板となる鋼板よりも引張強度が低い鋼板を上板に用いることが好ましい。
【0046】
また、この板材においても、少なくとも接合対象部分が板状の構造を有していればよく、板材全体が板状の構造を有していなくてもよい。
【0047】
さらに、板材は、接合強度や接合精度などの点から、鋼材が貫通する予定の箇所に貫通孔を有していてもよい。なお、板材が複数枚の場合は、すべての板材がこのような貫通孔を有していてもよく、一部の板材のみが貫通孔を有していてもよい。
【0048】
板材に貫通孔を設ける場合、当該貫通孔の直径は、摩擦圧接の際に鋼材の軸部が貫通できれば、鋼材の軸部の直径よりも大きくても、小さくてもよい。
【0049】
[別の実施形態]
以下、上述の実施形態の接合継手10とは鋼材や板材の態様が異なる、本発明の別の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、接合継手10と異なる構成以外の構成は、基本的に接合継手10と同様であるため、説明を省略する。
【0050】
図4(a)に示す実施形態では、接合継手10Aは、円柱状の軸部のみからなる丸棒状の鋼材1と、鋼板2(下板)と、アルミニウム板からなる板材3(上板)とによって構成されている。
この接合継手10Aは、鋼板2の上面に板材3が重ね合わされて、その上方側から丸棒状の鋼材1が板材3を貫通して、鋼材1の下方側先端部(底面)と鋼板2とが摩擦圧接により接合されている。
なお、この接合継手10Aにおいては、丸棒状の鋼材1が頭部を有していないため、板材3は、丸棒状の鋼材1と鋼板2との間に挟持されていない。
【0051】
さらに、
図4(b)に示す実施形態では、接合継手10Bは、円柱状の軸部11および当該軸部11よりも断面径が大きい頭部12を有するリベット状の鋼材1Bと、鋼板2(下板)と、鋼材1Bの軸部11が貫通する箇所に、軸部11よりも小さい直径を有する貫通孔31が設けられた板材3B(上板)と、によって構成されている。
この接合継手10Bは、鋼板2の上面に板材3Bが重ね合わされて、その上方側からリベット状の鋼材1Bの軸部11が板材3Bの貫通孔31内を貫通して、鋼材1Bの軸部11の下方側先端部(底面)と鋼板2とが摩擦圧接により接合されている。
【0052】
これらの実施形態の接合継手10A、10Bにおいても、鋼板2が、丸棒状の鋼材1の軸部やリベット状の鋼材1Bの軸部11と鋼板2との接合部Pの端部において、マルテンサイト面積率が80%以上の金属組織を有しているため、上述の接合継手10と同様に局所的なひずみ集中が抑制され、優れた継手強度を発揮することができる。
【0053】
また、本発明においては、鋼材の軸部先端部が、円錐形状や角錐形状を有していてもよく、あるいは、球面形状のような曲面を有していてもよい。ここで、
図5は、本発明の接合継手に用い得る鋼材の例として、軸部の下方側先端部が円錐形状である場合の鋼材を模式的に示し、
図6は、鋼材の他の例として、軸部の下方側先端部が球面形状である場合の鋼材を模式的に示す。
なお、鋼材の軸部先端部がこのような立体形状(すなわち、円錐形状や角錐形状、球面形状などの形状)を有している場合、当該立体形状の頂点14の位置は、
図5および
図6に示すように、軸部の中心軸線13上にあることが望ましい。頂点14の位置が軸部の中心軸線13上にあると、安定して摩擦熱を発生させることができ、摩擦圧接が行いやすくなる。
【0054】
なお、本発明の接合継手は、上述した各実施形態や後述する実施例等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明例および比較例を例示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこのような発明例のみに限定されるものではない。
【0056】
鋼材として、直径が4.0mm~6.0mmの範囲で異なる鋼製の丸棒(いずれも長さ7mm、引張強度1000MPa)を用い、鋼板として炭素量が0.35質量%(引張強度1500MPa)の鋼板もしくは炭素量が0.14質量%(引張強度1000MPa)の鋼板(いずれの鋼板も板厚1.6mm)を用いて、摩擦圧接により鋼材と鋼板とを接合し、本発明例1~5および比較例1~6の接合継手を作製した。
ただし本発明例4では、接合後の前記接合継手に対し加熱・急冷(焼入れ)を行った。具体的には、継手全体を900℃に加熱して300秒保持した後、急冷を行った。
【0057】
さらに、作製した本発明例1~5および比較例1~6の接合継手を用いて、鋼板における接合部の端部の金属組織と継手強度との関係について検証した。
なお、摩擦圧接の際の加圧力および回転数は、下記の表1に示すとおりであり、摩擦圧接の際の押込み量は、いずれも2.5mmである。
【0058】
接合部の端部の金属組織は、接合継手の接合部およびその近傍部分を切断して、その切断面を研磨、エッチングした後の表面を、走査型電子顕微鏡で拡大観察することにより確認した。
また、接合継手の継手強度は、接合した丸棒を鋼板から垂直方向に引っ張ることで接合部を破断させた際の最大荷重(kN)を測定した。
丸棒(鋼材の軸部)の直径、摩擦圧接時の加圧力および回転数、接合部の端部の金属組織、ならびに継手強度の測定結果は、以下の表1に示すとおりである。
【0059】
また、接合継手におけるHAZ軟化部の有無を、鋼板の摩擦圧接されている面から板厚方向に0.2mm深い位置において、母材部から摩擦圧接部中心までの硬さ分布を測定することで確認した。
HAZ軟化部の有無、および鋼板の炭素量(質量%)は、以下の表2に示すとおりである。
【0060】
【0061】
【0062】
表1に示すように、鋼板の接合部の端部がマルテンサイト面積率80%以上の金属組織である本発明例の接合継手においては、いずれも優れた継手強度を有しているのに対し、鋼板の接合部の端部がマルテンサイト面積率の低い金属組織である比較例の接合継手においては、いずれも継手強度が著しく低いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、摩擦圧接接合により接合された接合継手において、優れた継手強度を発揮することができるため、例えば、自動車の車体部品や建築物の構造体などの様々な構造部品の製造に適用することが可能である。
したがって、本発明は、産業上の利用可能性が高いものである。
【符号の説明】
【0064】
1 鋼材
2 鋼板
3 板材
P 接合部