(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】位相調整方法、補正値算出装置、モータ制御装置、電動アクチュエータ製品及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20230117BHJP
H02P 6/30 20160101ALI20230117BHJP
G01D 5/245 20060101ALI20230117BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230117BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
H02P6/16
H02P6/30
G01D5/245 110L
G01D5/245 R
B62D5/04
B62D6/00
(21)【出願番号】P 2021531503
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2020047012
(87)【国際公開番号】W WO2021161650
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2020022305
(32)【優先日】2020-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】西岡 優介
(72)【発明者】
【氏名】青崎 義宏
(72)【発明者】
【氏名】山村 浩之
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-274855(JP,A)
【文献】特開2013-042662(JP,A)
【文献】特開2018-088810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
H02P 6/30
G01D 5/245
B62D 5/04
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスモータのロータの回転角度を検出する回転角度センサの位相調整方法であって、
前記回転角度センサによって検出した前記ロータの回転角度に基づいて前記ブラシレスモータを時計回り及び反時計回りに回転するように同一のトルク指令電流でそれぞれ駆動したときの第1回転速度及び第2回転速度を測定し、
前記第1回転速度と前記第2回転速度との間の回転速度差を算出し、
前記回転角度センサの位相と前記ロータの位相との間のずれ量と前記第1回転速度と前記第2回転速度との間の回転速度差
との間の既知の特性と、前記算出した回転速度差と、に基づいて、前記回転角度センサの位相を補正する補正値を算出する、
ことを特徴とする位相調整方法。
【請求項2】
前記ブラシレスモータを時計回り及び反時計回りに回転させて前記第1回転速度及び前記第2回転速度をそれぞれ測定する際に、前記回転角度センサによって検出した前記ロータの回転角度に基づいて進角制御することを特徴とする請求項1に記載の位相調整方法。
【請求項3】
前記ロータを安定点へ回転駆動したときの前記回転角度センサの検出値に基づいて前記補正値を求めた後に、前記ブラシレスモータを時計回り及び反時計回りに回転させて、前記第1回転速度と前記第2回転速度との間の回転速度差が減少するように、前記補正値を補正する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の位相調整方法。
【請求項4】
前記第1回転速度及び前記第2回転速度の測定を複数回反復し、
前記複数回の測定のうち第(i-1)回目(iは2以上の整数)に測定した前記第1回転速度及び前記第2回転速度に応じて算出した前記補正値で前記回転角度センサを補正しながら前記ブラシレスモータを駆動して、第i回目の前記第1回転速度及び前記第2回転速度を測定する、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の位相調整方法。
【請求項5】
第(i-1)回目の測定において前記ブラシレスモータを駆動する際に前記回転角度センサの補正に用いた前記補正値と第i回目の測定において前記ブラシレスモータを駆動する際に前記回転角度センサの補正に用いた前記補正値との間の変化量と、第(i-1)回目に測定した前記第1回転速度と前記第2回転速度との間の前記回転速度差と第i回目に測定した前記第1回転速度及と前記第2回転速度との間の前記回転速度差との間の変化量とに基づいて、第i回目に測定した前記第1回転速度及と前記第2回転速度との間の前記回転速度差が減少するように前記補正値を補正する、ことを特徴とする請求項4に記載の位相調整方法。
【請求項6】
ブラシレスモータのロータの回転角度を検出する回転角度センサの位相を調整する補正値を算出する補正値算出装置であって、
前記回転角度センサによって検出した前記ロータの回転角度に基づいて、前記ブラシレスモータを駆動するモータ制御部と、
前記モータ制御部により前記ブラシレスモータを時計回り及び反時計回りに回転するように同一のトルク指令電流でそれぞれ駆動したときの第1回転速度と第2回転速度との回転速度差を算出する回転速度差算出部と、
前記回転速度差が減少するように前記回転角度センサの位相を補正する補正値を算出する算出部と、
を備えることを特徴とする補正値算出装置。
【請求項7】
ブラシレスモータのロータの回転角度を検出する回転角度センサと、
前記回転角度センサの位相を調整する補正値を算出する請求項6に記載の補正値算出装置と、
を備え、
前記補正値算出装置の前記モータ制御部は、前記算出部が算出した前記補正値に応じて前記回転角度センサを補正して、前記ブラシレスモータを駆動することを備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって制御されるブラシレスモータと、
を備えることを特徴とする電動アクチュエータ製品。
【請求項9】
請求項7に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって制御されるブラシレスモータと、
を備え、前記ブラシレスモータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相調整方法、補正値算出装置、モータ制御装置、電動アクチュエータ製品及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスDCモータやACサーボモータ等のブラシレスモータの駆動電流を制御するためには、モータのロータの回転角度を検出する回転角度センサで取得した角度情報が、ロータの位相(例えばロータの電気角)と予め想定した位相関係になっている必要がある。すなわち、回転角度センサの角度情報に基づいてモータを制御するため、ロータの回転角度基準と回転角度センサの回転角度基準とが一致していることで、精度の高い制御が可能となる。
【0003】
ブラシレスモータのロータと、このロータの位相を検出する位相検出器との位相差を調整する技術として、下記特許文献1に記載の調整方法が知られている。特許文献1に記載の調整方法では、ロータを安定点に対するCW方向の機械角180゜以内の所定角度からCCW方向の安定点へ回転駆動する工程A1と、工程A1における駆動距離B1を計測する工程A2と、ロータを安定点に対するCCW方向の機械角180゜以内の所定角度からCW方向の安定点へ回転駆動する工程A3と、工程A3における駆動距離B2を計測する工程A4と、駆動距離B1及びB2に基づいて励磁原点を求める工程A5とによりモータ磁極位相の調整を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の調整方法では、ロータを安定点へ停止させる際に摩擦抵抗の影響等を受けるために実際に停止した点と安定点との誤差が生じ、高精度な調整が困難である。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、複雑な演算を行うことなく、ブラシレスモータのロータの回転角度を検出する回転角度センサの位相調整を高精度に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、ブラシレスモータのロータの回転角度を検出する回転角度センサの位相調整方法が与えられる。位相調整方法では、回転角度センサによって検出したロータの回転角度に基づいてブラシレスモータを時計回り及び反時計回りに回転するように同一のトルク指令電流でそれぞれ駆動したときの第1回転速度及び第2回転速度を測定し、第1回転速度と第2回転速度との間の回転速度差が減少するように、回転角度センサの位相を補正する補正値を算出する。
【0007】
本発明の他の一形態によれば、ブラシレスモータのロータの回転角度を検出する回転角度センサの位相を調整する補正値を算出する補正値算出装置が与えられる。補正値算出装置では、回転角度センサによって検出したロータの回転角度に基づいて、ブラシレスモータを駆動するモータ制御部と、モータ制御部によりブラシレスモータを時計回り及び反時計回りに回転するように同一のトルク指令電流でそれぞれ駆動したときの第1回転速度と第2回転速度との回転速度差を算出する回転速度差算出部と、回転速度差が減少するように回転角度センサの位相を補正する補正値を算出する算出部と、を備える。
【0008】
本発明の更なる他の一形態によれば、ブラシレスモータのロータの回転角度を検出する回転角度センサと、回転角度センサの位相を調整する補正値を算出する上記の補正値算出装置と、を備えるモータ制御装置が与えられる、補正値算出装置のモータ制御部は、算出部が算出した補正値に応じて回転角度センサを補正して、ブラシレスモータを駆動する。
【0009】
本発明の更なる他の一形態によれば、上記のモータ制御装置と、モータ制御装置によって制御されるブラシレスモータと、を備えることを特徴とする電動アクチュエータ製品が与えられる。
本発明の更なる他の一形態によれば、上記のモータ制御装置と、モータ制御装置によって制御されるブラシレスモータとを備え、ブラシレスモータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与することを特徴とする電動パワーステアリング装置が与えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複雑な演算を行うことなく、ブラシレスモータのロータの回転角度を検出する回転角度センサの位相調整を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態のモータ制御装置の一例の概略構成図である。
【
図2】センサユニットの一例の概略を示す分解図である。
【
図4】回転角度測定部の機能構成の一例の説明図である。
【
図5】モータのロータの回転角度基準とセンサユニットの回転角度基準との間の角度ずれ量の説明図である。
【
図6】モータ制御部の機能構成の一例の説明図である。
【
図7】時計回り方向の回転速度と反時計回り方向の回転速度との間の回転速度差と角度ずれ量と間の関係の説明図である。
【
図9】第1実施形態の補正値算出部の機能構成の一例の説明図である。
【
図10】第1実施形態の位相調整方法の一例のフローチャートである。
【
図11】
図10の回転角度差算出ルーチンの一例のフローチャートである。
【
図12】第2実施形態の補正値算出部の機能構成の一例の説明図である。
【
図13】第2実施形態の位相調整方法の一例のフローチャートである。
【
図14】実施形態のモータ制御装置を備える電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
(第1実施形態)
(構成)
図1を参照する。実施形態のモータ制御装置1は、ブラシレスDCモータやACサーボモータ等のブラシレスモータであるモータ2のロータの回転角度を検出する回転角度センサであるセンサユニット10と、センサユニット10が検出した回転角度に基づいてモータ2を駆動する(ECU:Electronic Control Unit)である制御装置20を備える。
以下の説明では、センサユニット10が、モータ2のロータの回転角度θmに応じた正弦信号SIN=sinθmと余弦信号COS=cosθmを出力するセンサである場合について説明するが、本発明の適用対象はこのようなセンサに限定されない。本発明は、ブラシレスモータの回転角度を検出する様々な形式の回転角度センサに適用可能である。
【0014】
図2を参照して、センサユニット10の構成例を説明する。センサユニット10は、磁石11と、回路基板12と、支持部材13とを備える。
磁石11は、モータ2の回転軸3の出力端4と反対側の端部5に固定され、回転軸3の周方向に沿って配列された異なる磁極(S極及びN極)を有している。
回路基板12には磁束を検出するMR(磁気抵抗:Magnetic Resistance)センサ素子14が実装されている。
【0015】
回路基板12は、図示しない固定手段によって支持部材13に固定されている。支持部材13は、図示しない固定手段によってモータ2に固定される。例えば、これらの固定手段は、例えばネジ等の締結手段やカシメ等であってよい。
回路基板12が支持部材13に固定される位置と、支持部材13がモータ2に固定される位置は、回路基板12が支持部材13に固定され且つ支持部材13がモータ2に固定されたときに、支持部材13とモータ2との間に回路基板12が配置されて、MRセンサ素子14が磁石11に近接するように決定されている。
【0016】
支持部材13は、例えば回路基板12を覆うカバーである。支持部材13は、例えば、
図1において下方に開口する凹部を有しており、回路基板12は支持部材13の凹部内に固定される。支持部材13をモータ2に固定すると、支持部材13の凹部の開口部がモータ2によって遮蔽され、支持部材13の凹部とモータ2によって画成される内部空間内に回路基板12が収納される。これにより、外部からの衝撃や異物から回路基板12が保護される。
【0017】
支持部材13は、例えばアルミ合金などの熱伝導性のよい金属で形成されて、ヒートシンクとしての役割を果たしてよい。また、支持部材13はヒートシンクそのものであってもよい。
センサユニット10と制御装置20との間はハーネス15によって電気的に接続され、ハーネス15は、センサユニット10と制御装置20との間で信号を伝達する。
【0018】
図1を参照する。制御装置20は、プロセッサ21と、記憶装置22と、アナログディジタル変換器(ADC:Analog-Digital Converter)23及び24と、駆動回路25と、電流センサ26と、I/F(インタフェース)回路27を備える。
プロセッサ21は、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
【0019】
記憶装置22は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置22は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
以下に説明する制御装置20の機能は、例えばプロセッサ21が、記憶装置22に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0020】
ADC23及び24は、センサユニット10のMRセンサ素子14が出力する正弦信号SIN及び余弦信号COSをディジタル信号へ変換する。プロセッサ21は、ディジタル信号へ変換された正弦信号SIN及び余弦信号COSを読み取る。プロセッサ21は、正弦信号SIN及び余弦信号COSに基づいて、モータ2を駆動するための制御信号を生成する。
【0021】
駆動回路25は、プロセッサ21が生成した制御信号に基づいて、モータ2を駆動するモータ電流を供給する。駆動回路25は、例えばモータ電流をオンオフするスイッチング素子を備えるインバータであってよい。
電流センサ26は、モータ電流を検出する。本実施形態では、モータ2は3相モータであり、電流センサ26は、U相モータ電流Ium、V相モータ電流Ivm及びW相モータ電流Iwmを検出する。なお、本発明の適用対象は3相モータに限定されない。本発明は、様々な相数のモータに適用可能である。
プロセッサ21は、I/F回路27を経由して、U相モータ電流Ium、V相モータ電流Ivm及びW相モータ電流Iwmの検出値を読み取る。
【0022】
次に、
図3を参照して制御装置20の機能構成を説明する。制御装置20は、回転角度測定部30と、補正部31と、モータ制御部32と、補正値算出部33を備える。モータ制御部32と補正値算出部33は、特許請求の範囲に記載の「補正値算出装置」の一例である。
回転角度測定部30は、正弦信号SIN及び余弦信号COSに基づいてモータ2のロータの回転角度θmの検出値である検出角度θcを算出する。
図4を参照する。回転角度測定部30は、加算器35と、減算器36と、演算部37を備える。
【0023】
演算部37は、加算器35の出力(COS+SIN)と減算器36の出力(COS-SIN)とに基づいてモータ2のロータの検出角度θcを演算する。
【0024】
図3を参照する。補正部31は、MRセンサ素子14の検出信号に基づいて演算した検出角度θcと、モータ2のロータの位相(例えば、ロータの電気角)と、の間のずれを補償するように検出角度θcを補正して補正済回転角度θaを算出する。
図5を参照して、検出角度θcとロータの位相との間のずれ(以下「角度ずれ量」と表記することがある)Δθを説明する。実線は検出角度θcを示し、破線はモータ2のU相誘起電圧を示す。
図5は、4極対モータのU相誘起電圧波形を例として示している。
【0025】
例えば角度ずれ量Δθは、ロータの回転角度が所定のロータ側回転角度基準であるときのロータの機械角θrmと、検出角度θcが所定のセンサ側回転角度基準であるときのロータの機械角θrcとの間の差分として与えられる(Δθ=θrc-θrm)。ロータ側回転角度基準は、ロータの所定の機械角や、例えば誘起電圧の立ち上がり点又は立ち下がり点(誘起電圧のゼロクロス点)、ロータの所定の電気角(例えば0[deg])であってよい。センサ側回転角度基準は、例えば所定の検出角度θc(例えば0[deg])であってよい。
【0026】
図3を参照する。記憶装置22(
図1参照)には、角度ずれ量Δθの角度ずれを補償するための補正値Cを示す補正値データ34が格納されている。補正値Cは、例えば角度ずれ量Δθと等しい値でよい。
補正部31は、補正値データ34を記憶装置22から読み出し、検出角度θcから補正値Cを減じて補正済回転角度θa(θa=θc-C=θc-Δθ)を算出する。補正部31は、補正済回転角度θaをモータ制御部32へ出力する。
【0027】
一方で、モータ制御部32には、電流センサ26が検出したモータ電流Ium、Ivm及びIwmの検出値も入力される。
モータ制御部32は、補正済回転角度θaと、モータ電流Ium、Ivm及びIwmとに基づいて、駆動回路25を介してモータ2を駆動するための制御信号を生成する。
図6を参照してモータ制御部32の機能構成を説明する。モータ制御部32は、トルク指令値演算部40と、微分器41と、電流指令値演算部42と、3相/2相変換部43と、減算器44及び45と、PI(比例積分)制御部46及び47と、2相/3相変換部48と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部49とを備える。
【0028】
トルク指令値演算部40は、モータ2の用途に応じて発生させる目標トルクのトルク指令値Trefを演算する。例えばモータ2が、電動パワーステアリング装置に設けられ車両の操舵系に操舵補助力を付与する場合には、トルク指令値演算部40は、操舵トルク及び車速に基づいてアシストマップを用いてトルク指令値Trefを演算する。
微分器41は、補正済回転角度θaを微分してモータ2の回転速度(回転角速度)ωeを算出する。
【0029】
電流指令値演算部42は、トルク指令値Tref及び回転速度ωeを用いて、d軸電流指令値Idref及びq軸電流指令値Iqrefを算出する。
3相/2相変換部43は、補正済回転角度θaを用いてモータ電流Ium、Ivm及びIwm)を2相の電流に変換する。具体的には、3相のモータ電流を2相の電流であるd軸モータ電流Idm及びq軸モータ電流Iqmに変換する。
【0030】
減算器44は、d軸電流指令値Idrefとフィードバックされているd軸モータ電流値Idmとの偏差Id(=Idref-Idm)を演算する。減算器45は、q軸電流指令値Iqrefとフィードバックされているq軸モータ電流値Iqmとの偏差Iq(=Iqref-Iqm)を演算する。
PI制御部46は、d軸電流指令値Idrefとd軸モータ電流Idmとの偏差Idに基づいてd軸電圧指令値Vdrefを求める。同様に、PI制御部47は、q軸電流指令値Iqrefとq軸モータ電流Iqmとの偏差Iqに基づいてq軸電圧指令値Vqrefを求める。
【0031】
2相/3相変換部48は、補正済回転角度θaを用いて、d軸電圧指令値Vdref及びq軸電圧指令値Vqrefからなる2相の電圧を、空間ベクトル変調(空間ベクトル変換)により、3相の電圧(U相電圧指令値Vuref、V相電圧指令値Vvref及びW相電圧指令値Vwref)に変換する。
PWM制御部49は、U相電圧指令値Vuref、V相電圧指令値Vvref及びW相電圧指令値Vwrefに基づいて、PMW制御により駆動回路25を制御する制御信号を生成する。
【0032】
図3を参照する。補正値算出部33は、回転角度測定部30が正弦信号SIN及び余弦信号COSから演算した検出角度θcに基づいて、検出角度θcとロータの位相との間の角度ずれを補償するための補正値Cを算出する。
以下、補正値算出部33による補正値Cの算出方法の概略を説明する。
【0033】
図7は、時計回り方向及び反時計回り方向に回転するようにモータ2を同一のトルク指令電流で駆動した場合のそれぞれの回転速度ωc及びωccの間の回転速度差Δω(Δω=ωcc-ωc)と、角度ずれ量Δθとの関係の一例を示す図である。なお、回転速度ωcはモータ2が時計回り方向に回転する場合の回転速度を示し、回転速度ωccはモータ2が反時計回り方向に回転する場合の回転速度を示す。
【0034】
本願発明者らは、MRセンサ素子14の検出信号に基づいて演算した検出角度θcとモータ2のロータの位相との間に角度ずれがある場合には、角度ずれ量Δθと回転速度差Δωとの間に相関があることに注目した。
【0035】
図8A及び
図8Bを参照して、角度ずれ発生時に回転速度差Δωが生じる理由について説明する。一点鎖線の座標軸は真のdq座標系の座標軸を示し、破線の座標軸は角度ずれが発生している場合のdq座標系の座標軸を示す。
検出角度θcとロータの位相とがθ1ずれていると、通常駆動の場合(
図8A)には、時計回り方向のq軸電流指令値60(トルク指令電流)がcosθ1でベクトル62へ分解され、同様に、反時計回り方向のq軸電流指令値61(トルク指令電流)がベクトル63へ分解される。時計回り方向のq軸電流(ベクトル62)と、反時計回り方向の-q軸電流(ベクトル63)の大きさは等しいため、回転速度差Δωは発生しない。
【0036】
一方で、弱め界磁等のために進角θ2で進角制御を行う場合には、
図8Bに示すように時計回り方向の電流指令値64がベクトル66へ分解され、反時計回り方向の電流指令値65がベクトル67へ分解される。この場合には、時計回り方向のq軸電流(ベクトル66)と、反時計回り方向の-q軸電流(ベクトル67)との大きさが異なるので回転速度差Δωが発生する。このとき、電流指令値64のq'軸成分、すなわち時計回り方向のトルク指令電流(q'軸電流指令値)と電流指令値65のq'軸成分、すなわち反時計回り方向のトルク指令値電流(q'軸電流指令値)は同一である。
【0037】
このように、MRセンサ素子14の検出信号に基づいて演算した検出角度θcとモータ2のロータの位相との間に角度ずれに起因して、時計回り方向の回転速度ωc及び反時計回り方向の回転速度ωccの間に回転速度差Δωが生じる。
そこで、補正値算出部33は、モータ2を時計回り及び反時計回りに回転するように同一のトルク指令電流でそれぞれ駆動したときの回転速度ωc及び回転速度ωccを測定し、回転速度ωcと回転速度ωccとの間の回転速度差|Δω|が減少するように補正値Cを算出する。回転速度ωc及び回転速度ωccは、それぞれ特許請求の範囲に記載の「第1回転速度」及び「第2回転速度」の一例である。
【0038】
図9を参照して、補正値算出部33の機能構成を説明する。補正値算出部33は、微分器50と、回転速度差算出部51と、算出部52を備える。
補正値算出部33により補正値Cを算出する際には、モータ制御部32は、補正部31から出力される補正済回転角度θaに基づいて、所定のトルク指令値で(すなわち所定のq'軸電流指令値で)時計回りに回転するようにモータ2を駆動する。
【0039】
初めて補正値Cを算出する際には、補正部31は、補正値Cの初期値(例えば0[deg])を用いて検出角度θcを補正して補正済回転角度θaを出力する。
微分器50は、検出角度θcを微分することにより、時計回りに回転するモータ2の回転速度ωcを算出する。
【0040】
その後に、モータ制御部32は、モータ2を時計回りに回転した時と同じトルク指令値で(すなわちモータ2を時計回りに回転した時と同じq'軸電流指令値で)、反時計回りに回転するようにモータ2を駆動する。微分器50は、検出角度θcを微分することにより、反時計回りに回転するモータ2の回転速度ωccを算出する。
また、上記において時計回り及び反時計回りにモータ2を回転させる際に、モータ制御部32は補正済回転角度θaに基づいて進角制御する。また、上記において時計回り及び反時計回りにモータ2を回転させる際に、モータ制御部32は回転速度に応じて弱め界磁のためのd軸電流値を設定して制御してよい。
なお、微分器50に代えて微分器41(
図6)を用いて、補正済回転角度θaを微分して回転速度ωc及び回転速度ωccを算出してもよい。また、時計回りの回転と反時計回り回転の順番を逆にしてもよい。
【0041】
回転速度差算出部51は、回転速度ωcと回転速度ωccとの間の回転速度差Δω=ωcc-ωcを算出する。
算出部52は、回転速度ωcと回転速度ωccとの間の回転速度差|Δω|が減少するように、補正値Cを算出する。
【0042】
例えば、
図7に示すように回転速度差Δωに対する角度ずれ量Δθの特性が既知の場合には、回転速度差Δωに対する角度ずれ量Δθの特性マップから、回転速度差Δωに対応する角度ずれ量Δθを補正値Cとして取得してよい。
また、回転速度差Δωと角度ずれ量Δθとの関係を線形近似し、回転速度差Δωに所定係数を乗算して補正値Cを算出してもよい。
算出部52は、算出した補正値Cを記憶装置22に補正値データ34として格納する。
【0043】
また、回転速度ωc及び回転速度ωccの測定工程、回転速度差Δωの算出工程、及び補正値Cの算出工程からなる一連の工程を、複数回にわたって反復してもよい。また、これら一連の工程を、回転速度差Δωの大きさ|Δω|が所定の閾値T以下になるまで複数回にわたって反復してもよい。
【0044】
以下、上記一連の工程を複数回にわたって反復する場合の処理の例について説明する。以下の説明において、第i回目(iは自然数)に測定した時計回り方向の回転速度及び反時計回り方向の回転速度をそれぞれ回転速度ωci及びωcciと表記する。また、回転速度ωci及びωcciとの間の差分(ωcci-ωci)を第i回目の回転速度差Δωiと表記する。回転速度差Δωiに基づいて算出した補正値Cを第i回目の補正値Ciと表記する。
【0045】
1回目の補正値C1を算出する際には、記憶装置22に格納された補正値データ34の値を初期値(例えば0[deg])に初期化した後、モータ2を時計回り方向及び反時計回り方向に回転させて回転速度ωc1と回転速度ωcc1を測定し、1回目の回転速度差Δω1を算出し、1回目の補正値C1を算出する。算出部52は、算出した補正値C1を記憶装置22に補正値データ34として格納する。
【0046】
その後、2回目またはそれ以降である第i回目の回転速度差Δωiを算出する際には、モータ制御部32は、第(iー1)回目に算出した補正値C(i-1)で検出角度θcを補正して得られた補正済回転角度θaに基づいて、時計回り方向及び反時計回り方向にモータ2を回転させる。
微分器50は、このときの回転速度を第i回目の回転速度ωciと回転速度ωcciとして算出し、回転速度差算出部51は差分(ωcci-ωci)を第i回目の回転速度差Δωiとして算出する。
【0047】
算出部52は、第i回目の回転速度差Δωiに基づいて角度ずれ量Δθiを算出する。この角度ずれ量Δθiは、前回求めた補正値C(i-1)で検出角度θcを補正して得られた補正済回転角度θaとロータの位相との間の角度ずれ量であるので、算出部52は、補正値C(i-1)に角度ずれ量Δθiを加算する補正を行うことにより、第i回目の補正値Ciを算出する。算出部52は、記憶装置22に格納されていた第(i-1)回目の補正値C(i-1)を、算出した補正値Ciで更新する。
【0048】
第i回目の補正値Ciの算出において角度ずれ量Δθiを算出する際に、算出部52は、第i回目の回転速度差Δωiに固定の係数を乗算して角度ずれ量Δθiを算出してもよい。
これに代えて算出部52は、回転速度差Δωiに可変係数αiを乗算して角度ずれ量Δθiを算出してもよい。例えば算出部52は、回転速度差Δωの変化量に対する補正値Cの変化量の比(補正値Cの変化量/回転速度差Δωの変化量)を可変係数αiとして算出してよい。
【0049】
例えば、算出部52は、第(i-1)回目の回転速度差Δω(i-1)と第i回目の回転速度差Δωiとの間の変化量(Δωi-Δω(i-1))に対する、第(i-1)回目の測定においてモータ2を駆動する際の補正値C(i-2)と第i回目の測定においてモータ2を駆動する際の補正値C(i-1)との間の変化量(C(i-1)-C(i-2))の比((C(i-1)-C(i-2))/(Δωi-Δω(i-1)))を、可変係数αiとして算出してもよい。
なお、2回目の角度ずれ量Δθ2を算出する場合には、算出部52は、補正値C(i-2)として補正値Cの初期値(例えば0[deg])を使用する。
【0050】
(動作)
次に、
図10を参照して第1実施形態の位相調整方法の一例について説明する。なお、位相調整方法を開始した状態では、記憶装置22に格納された補正値データ34の値(補正値C)は初期値(例えば0[deg])に初期化されている。
ステップS1において補正部31とモータ制御部32と補正値算出部33は、回転速度差Δωを算出する。ステップS1の回転速度差算出ルーチンの一例を
図11に示す。
【0051】
ステップS11において補正部31は、MRセンサ素子14の検出信号に基づいて演算した検出角度θcを、現時点で記憶装置22に格納された補正値データ34の値(補正値C)で補正して、補正済回転角度θaを算出する。モータ制御部32は、補正済回転角度θaに基づいて所定のq軸電流指令値で時計回り方向に弱め界磁等のための進角制御を行いモータ2を駆動する。
ステップS12において補正値算出部33の微分器50は、時計回り方向の回転速度ωcを算出する。
【0052】
ステップS13においてモータ制御部32は、補正済回転角度θaに基づいて、所定のq軸電流指令値で反時計回り方向に弱め界磁等のための進角制御を行いモータ2を駆動する。
ステップS14において微分器50は、反時計回り方向の回転速度ωccを算出する。
ステップS15において補正値算出部33の回転速度差算出部51は、時計回り方向及び反時計回り方向の回転速度ωc及びωccの差分(ωcc-ωc)を、回転速度差Δωとして算出する。その後に回転速度差算出ルーチンは終了する。
【0053】
図10を参照する。ステップS2において補正値算出部33の算出部52は、回転速度差Δωに応じて補正値Cを算出する。算出部52は、算出した補正値Cを記憶装置22に補正値データ34として格納する。
ステップS3において補正部31とモータ制御部32と補正値算出部33は、回転速度差Δωを算出する。ステップS3の処理は、ステップS1の回転速度差算出ルーチンと同様である。
【0054】
ステップS4において算出部52は、ステップS3で算出した回転速度差の大きさ|Δω|が所定閾値T以下であるか否かを判定する。回転速度差の大きさ|Δω|が所定閾値T以下でない場合(ステップS4:N)に処理はステップS5へ進む。
ステップS5において算出部52は、回転速度差Δωに応じて角度ずれ量Δθを算出する。算出部52は、現時点で記憶装置22に格納されている補正値データ34の値(補正値C)に算出した角度ずれ量Δθを加算して補正する。
【0055】
算出部52は、現時点で記憶装置22に格納されている補正値データ34の値(補正値C)を、補正後の補正値で更新する。その後に処理はステップS3へ戻る。
回転速度差の大きさ|Δω|が所定閾値T以下である場合(ステップS4:Y)に処理は終了する。
【0056】
(第1実施形態の効果)
(1)微分器50は、MRセンサ素子14によって検出したモータ2のロータの回転角度に基づいてモータ2を時計回り及び反時計回りに回転するように同一トルク指令電流でそれぞれ駆動したときの回転速度ωc及びωccを測定する。算出部52は、回転速度ωcと回転速度ωccとの間の回転速度差Δωが減少するように、MRセンサ素子14の位相を補正する補正値を算出する。
【0057】
これにより、複雑な演算を行うことなく、ブラシレスモータのロータの回転角度を検出する回転角度センサの位相調整を高精度に行うことができる。
なお、回転角度センサの位相を調整する方法としては、モータの誘起電圧を用いてロータの位相を検出し、回転角度センサの位相との位相差を調整する方法が考えられる。しかしながら、かかる方法では、大きな誘起電圧を発生させるためにモータを高速回転させることから誘起電圧のばらつきが大きくなる。また誘起電圧測定回路のばらつきも加わることから、高精度の調整が困難である。
【0058】
また、回転角度センサの位相を調整する方法としては、時計回り方向及び反時計回り方向において同一のトルク指令値でモータを回転させて、実際の加速度が最大となる位相差を検出して、回転角度センサの位相との位相差を調整する方法が考えられる。しかしながら、回転角度センサの検出信号から加速度を演算するとノイズが大きくなることから、高精度の調整が困難である。
【0059】
これに対して本実施形態の位相調整方法では、回転速度差Δωを測定する際の電流指令値やトルク指令値を大きくすることができるので、モータの回転速度を制限する負荷トルクに対するモータの発生トルクの比を大きくすることができるので、高精度な位相調整が可能となる。
また、回転速度は出力トルクと等価なことから、時計回り及び反時計回りの回転速度差Δωを低減するように調整することで、モータの回転軸を支持する支持部材の負荷トルクの時計回り及び反時計回りの差を含めた補正が可能となり、実製品に組み込んだ状態での調整が可能である。さらには、回転速度の測定時間を長くすることで、測定時の平均化効果により精度の向上が期待できる。
【0060】
(2)モータ制御部32は、モータ2を時計回り及び反時計回りに回転させて回転速度ωc及びωccをそれぞれ測定する際に、MRセンサ素子14によって検出したロータの回転角度に基づいて進角制御する。
これにより、ロータの位相と回転角度センサの位相との位相差を、時計回り及び反時計回りの回転速度差Δωとして検出することが可能となる。
【0061】
(3)補正部31とモータ制御部32と補正値算出部33は、時計回り及び反時計回りの回転速度ωc及びωccの測定を複数回反復する。モータ制御部32は、複数回の測定のうち第(i-1)回目(iは2以上の整数)に測定した回転速度ωc及びωccの回転速度差Δωに応じて算出した補正値C(i-1)でMRセンサ素子14を補正しながらモータ2を駆動して、第i回目の回転速度ωci及びωcciを測定する。これにより、補正値Ciを徐々に小さくしながら微調整して位相調整の精度を向上できる。
【0062】
(4)補正値算出部33の算出部52は、第(i-1)回目の測定においてモータ2を駆動する際にMRセンサ素子14の補正に用いた補正値C(i-2)と第i回目の測定においてモータ2を駆動する際にMRセンサ素子14の補正に用いた補正値C(i-1)との間の変化量と、第(i-1)回目の回転速度差Δω(i-1)と第i回目の回転速度差Δωiとの間の変化量と、に基づいて第i回目の回転速度差Δωiが減少するように補正値Cを補正する。これにより、回転速度差Δωに対する角度ずれ量Δθの特性が非線形性を有していてもマップやルックアップテーブルを用いずに、簡易な計算で補正値Cを補正することができる。
【0063】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。時計回り及び反時計回りの回転速度ωc及びωccから算出した回転速度差Δωが大きい場合、すなわち、MRセンサ素子14の検出信号に基づいて演算した検出角度θcとロータの位相との間の角度ずれ量Δθが大きい場合には、回転速度差の大きさ|Δω|が閾値T以下となる補正値Cを算出するのに要する時間が長くなるおそれがある。また例えば、角度ずれ量Δθが過大だとモータ制御部32によるモータ制御が困難になることがある。
【0064】
そこで、第2実施形態では、まず、ロータを安定点へ回転駆動したときのMRセンサ素子14の検出信号から演算した検出角度θcに基づいて補正値Cを求めて疎調整を行う。
その後に、検出角度θcを補正値Cで補正して得られる補正済回転角度θaに基づいてモータ2を時計回り及び反時計回りに回転させて回転速度ωc及びωccを測定し、回転速度ωcと回転速度ωccとの間の回転速度差の大きさ|Δω|が減少するように補正値Cを補正して微調整を行う。
【0065】
(構成)
図12を参照する。第2実施形態の補正値算出部33は、
図9を参照して説明した第1実施形態の補正値算出部33と同様の構成を備えており、同様の構成要素には同じ参照符号を付し説明を省略する。
第2実施形態の補正値算出部33により補正値Cを算出する場合、モータ制御部32は、まずモータ2を安定点へ回転駆動してロータを安定点に固定させる。例えば、モータ制御部32は、モータ2のU相コイル、V相コイル、W相コイル間に所定電流を流して、モータ2を安定点へ回転駆動する。例えば、モータ制御部32は、U相コイルに2×a[A]、V相コイル及びW相コイルに各々(-a)[A]を流す。
【0066】
この状態で、補正値算出部33は、MRセンサ素子14の検出信号から演算した検出角度θcsを読み込む。補正値算出部33の算出部52は、安定点に固定されているときのロータ角度とロータ側回転角度基準との間の関係性と検出角度θcsとに基づいて補正値Cの初期値C0を算出する。
例えば、算出部52は、安定点に固定されているときのロータ角度とロータ側回転角度基準との間の差分Δθsを検出角度θcsから減じた差分(θcs-Δθs)を初期値C0として算出する。算出部52は、初期値C0を記憶装置22に補正値データ34として格納する。
【0067】
次にモータ制御部32は、補正値C0で検出角度θcを補正して得られた補正済回転角度θaに基づいて、時計回り方向及び反時計回り方向にモータ2を回転させる。
算出部52は、回転速度差Δωに基づいて角度ずれ量Δθを算出する。この角度ずれ量Δθは、補正値C0で検出角度θcを補正して得られた補正済回転角度θaとロータの位相との間の角度ずれ量であるので、算出部52は、補正値C0に角度ずれ量Δθを加算する補正を行うことにより補正値Cを算出する。算出部52は、記憶装置22に格納されていた補正値C0を、補正後の補正値Cで更新する。
【0068】
回転速度ωc及び回転速度ωccの測定工程、回転速度差Δωの算出工程、及び補正値Cの算出工程からなる一連の工程を、複数回にわたって反復してもよい。また、これら一連の工程を、回転速度差Δωの大きさ|Δω|が所定の閾値T以下になるまで複数回にわたって反復してもよい。
1回目の補正値C1を算出する際には、ロータを安定点に固定して算出した補正値C0で検出角度θcを補正して得られた補正済回転角度θaに基づいて、時計回り方向及び反時計回り方向にモータ2を回転させる。
【0069】
算出部52は、1回目の回転速度差Δω1に基づいて角度ずれ量Δθ1を算出する。算出部52は、補正値C0に角度ずれ量Δθ1を加算する補正を行うことにより1回目の補正値C1を算出する。算出部52は、記憶装置22に格納されていた補正値C0を、補正後の補正値C1で更新する。
その後、2回目またはそれ以降である第i回目の回転速度差Δωiの算出は、第1実施形態と同様である。
【0070】
(動作)
次に、
図13を参照して第2実施形態の位相調整方法の一例について説明する。
ステップS21においてモータ制御部32は、まずモータ2を安定点へ回転駆動してロータを安定点に固定させる。
【0071】
ステップS22において補正値算出部33は、MRセンサ素子14の検出信号から演算した検出角度θcsを読み込む。補正値算出部33の算出部52は、安定点に固定されているときのロータ角度とロータ側回転角度基準との間の関係性と検出角度θcsとに基づいて補正値Cの初期値C0を算出する。算出部52は、初期値C0を記憶装置22に補正値データ34として格納する。
【0072】
ステップS23において補正部31とモータ制御部32と補正値算出部33は、回転速度差Δωを算出する。ステップS23の処理は、
図10のステップS1の回転速度差算出ルーチンと同様である。
その後のステップS24及びS25の処理は、
図10のステップS4及びS5の処理と同様である。
【0073】
(第2実施形態の効果)
補正値算出部33の算出部52は、モータ2のロータを安定点へ回転駆動したときのMRセンサ素子14の検出信号から演算した検出角度θcsに基づいて補正値Cを算出する。モータ制御部32は、補正値Cで検出角度θcを補正して得られた補正済回転角度θaに基づいて、時計回り方向及び反時計回り方向にモータ2を回転させる。算出部52は、回転速度差Δωが減少するように補正値Cを補正する。
【0074】
このように、モータ2のロータを安定点へ回転駆動したときのMRセンサ素子14の検出信号に基づいて粗調整を行うことにより、MRセンサ素子14の位相調整に要する時間を短縮することができる。
また、MRセンサ素子14の位相とロータの位相との位相差が大きく、モータ制御部32によるモータ制御が困難であっても、位相調整を行うことが可能となる。
【0075】
(モータ制御装置の適用例)
次に、
図14を参照して、本実施形態のモータ制御装置1を、車両の操舵系に付与する操舵補助力を制御する電動パワーステアリング装置に適用した場合の構成例を説明する。
操向ハンドル101のコラム軸102は減速ギア103、ユニバーサルジョイント104A及び104B、ピニオンラック機構105を経て操向車輪のタイロッド106に連結されている。コラム軸102には、操向ハンドル101の操舵トルクThを検出するトルクセンサ110が設けられており、操向ハンドル101の操舵力を補助するモータ2が減速ギア103を介してコラム軸102に連結されている。
【0076】
上述の制御装置20は、パワーステアリング装置を制御する電子制御ユニットとして使用される。制御装置20には、電源であるバッテリ114から電力が供給されると共に、イグニションキー111からイグニションキー信号が入力される。
制御装置20は、上記のように演算したモータ2の回転角度θmと減速ギア103の減速比Nとに基づいて、操向ハンドル101の操舵角θを演算する。制御装置20は、操舵角θと、操舵トルクThと、車速センサ112で検出された車速Vhとに基づいて、アシストマップ等を用いてアシスト指令の操舵補助指令値の演算を行い、演算された操舵補助指令値に基づいてモータ2に供給する電流Iを制御する。
【0077】
このような構成の電動パワーステアリング装置において、操向ハンドル101から伝達された運転手のハンドル操作による操舵トルクThをトルクセンサ110で検出し、モータ2の回転角度θmに基づいて操舵角θを演算し、操舵トルクTh、操舵角θ及び車速Vhに基づいて算出される操舵補助指令値によってモータ2は駆動制御され、この駆動が運転手のハンドル操作の補助力(操舵補助力)として操舵系に付与される。
【符号の説明】
【0078】
1...モータ制御装置、2...モータ、3...回転軸、4...出力端、5...端部、10...センサユニット、11...磁石、12...回路基板、13...支持部材、14...MRセンサ素子、15...ハーネス、20...制御装置、21...プロセッサ、22...記憶装置、23、24...アナログディジタル変換器(ADC)、25...駆動回路、26...電流センサ、27...I/F(インタフェース)回路、30...回転角度測定部、31...補正部、32...モータ制御部、33...補正値算出部、34...補正値データ、35...加算器、36、44、45...減算器、37...演算部、40...トルク指令値演算部、41、50...微分器、42...電流指令値演算部、46、47...PI(比例積分)制御部、48...2相/3相変換部、49...PWM(Pulse Width Modulation)制御部、51...回転速度差算出部、52...算出部