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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20230117BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230117BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230117BHJP
   C22C 38/60 20060101ALN20230117BHJP
【FI】
C21D8/12 A
H01F1/147 175
C22C38/00 303U
C22C38/60
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021556183
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2020042471
(87)【国際公開番号】W WO2021095859
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019206630
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019206812
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】村川 鉄州
(72)【発明者】
【氏名】藤村 浩志
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193731(JP,A)
【文献】特開2019-178380(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135414(WO,A1)
【文献】特開2001-107202(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0084895(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C22C 38/00-38/60
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50~4.00%、
sol.Al:0.0001~1.000%、
S:0.0100%以下、
N:0.0100%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、CuおよびAu:総計で2.50~5.00%、
Sn:0.000~0.400%、
Sb:0.000~0.400%、
P:0.000~0.400%、並びに
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCd:総計で0.0000~0.0100%を含有し、
質量%での、Mn含有量を[Mn]、Ni含有量を[Ni]、Co含有量を[Co]、Pt含有量を[Pt]、Pb含有量を[Pb]、Cu含有量を[Cu]、Au含有量を[Au]、Si含有量を[Si]、sol.Al含有量を[sol.Al]と表したときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する鋼材に対して熱間圧延を行い、250℃超、550℃以下の温度域で巻き取ることで熱間圧延鋼板を得る工程と、
前記熱間圧延鋼板に対して第1の冷間圧延を行う工程と、
前記第1の冷間圧延の後に中間焼鈍を行う工程と、
前記中間焼鈍の後に第2の冷間圧延を行う工程と、
前記第2の冷間圧延の後に、仕上げ焼鈍および歪取焼鈍のいずれか一方もしくは両方を行う工程と、を有し、
前記熱間圧延時の仕上げ圧延の最終パスをAr1温度以上の温度域で行い、
前記仕上げ焼鈍においては、Ac1温度未満の温度域で2時間以下保持し、
前記歪取焼鈍においては、600℃以上、Ac1温度未満の温度域で1200秒以上保持する
ことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0.00% ・・・(1)
【請求項2】
前記鋼材が、質量%で、
Sn:0.020~0.400%、
Sb:0.020~0.400%、
P:0.020~0.400%、並びに
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCd:総計で0.0005~0.0100%
からなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記仕上げ焼鈍においては、600℃以上、Ac1温度未満の温度域で10~1200秒間保持することを特徴とする請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記歪取焼鈍においては、750℃以上、Ac1温度未満の温度域で1時間以上保持することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記第1の冷間圧延を行う工程においては、累積圧下率80~92%で冷間圧延を行い、
前記第2の冷間圧延を行う工程においては、累積圧下率5~25%で冷間圧延を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記中間焼鈍は、Ac1温度未満の温度域で行うことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記仕上げ焼鈍および前記歪取焼鈍の両方を行うことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
本願は、2019年11月15日に、日本に出願された特願2019-206630号、および、2019年11月15日に、日本に出願された特願2019-206812に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、例えばモータの鉄心に使用される。無方向性電磁鋼板には、その板面に平行なすべての方向の平均(以下、「板面内の全周平均(全方向平均)」ということがある)において優れた磁気特性を有すること、例えば低鉄損及び高磁束密度を有することが要求される。
【0003】
これまで種々の技術が提案されているが、板面内の全周平均において十分な磁気特性を得ることは困難である。例えば、板面内のある特定の方向で十分な磁気特性が得られるとしても、他の方向では十分な磁気特性が得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許第4029430号公報
【文献】日本国特許第6319465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前述の問題点に鑑み、板面内の全周平均(全方向平均)で優れた磁気特性を得ることができる無方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
また、無方向性電磁鋼板は、生産コストを低減するために、モータの鉄心に加工する際に、加工しやすい材料であることが好ましい。そのため、本発明は、好ましくは、全周平均(全方向平均)で優れた磁気特性を得ることができ、且つ加工性に優れた無方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、本発明者らは、板面内の全周平均で優れた磁気特性を得ることができる無方向性電磁鋼板の製造には、α-γ変態系の化学組成を前提とすること、熱間圧延時にオーステナイトからフェライトへの変態で結晶組織を微細化すること、第1の冷間圧延を所望の累積圧下率で行うこと、中間焼鈍を所望の条件で行うことで張出再結晶(以下、バルジング)を発生させることによって、通常は発達しにくい{100}結晶粒を発達させやすくすること、所望の条件下で第2の冷間圧延(スキンパス圧延)、および仕上げ焼鈍または歪取焼鈍を行うことによって、{100}結晶粒が{111}結晶粒を蚕食することが重要であることを知見した。
【0008】
上記知見に基づいてなされた本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50~4.00%、
sol.Al:0.0001~1.000%、
S:0.0100%以下、
N:0.0100%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、CuおよびAu:総計で2.50~5.00%、
Sn:0.000~0.400%、
Sb:0.000~0.400%、
P:0.000~0.400%、並びに
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCd:総計で0.0000~0.0100%を含有し、
質量%で、Mn含有量を[Mn]、Ni含有量を[Ni]、Co含有量を[Co]、Pt含有量を[Pt]、Pb含有量を[Pb]、Cu含有量を[Cu]、Au含有量を[Au]、Si含有量を[Si]、sol.Al含有量を[sol.Al]と表したときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する鋼材に対して熱間圧延を行い、250℃超、550℃以下の温度域で巻き取ることで熱間圧延鋼板を得る工程と、
前記熱間圧延鋼板に対して第1の冷間圧延を行う工程と、
前記第1の冷間圧延の後に中間焼鈍を行う工程と、
前記中間焼鈍の後に第2の冷間圧延を行う工程と、
前記第2の冷間圧延の後に仕上げ焼鈍および歪取焼鈍のいずれか一方もしくは両方を行う工程と、を有し、
前記熱間圧延時の仕上げ圧延の最終パスをAr1温度以上の温度域で行い、
前記仕上げ焼鈍においては、Ac1温度未満の温度域で2時間以下保持し、
前記歪取焼鈍においては、600℃以上、Ac1温度未満の温度域で1200秒以上保持する。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0.00% ・・・(1)
(2)上記(1)に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法では、前記鋼材は、質量%で、
Sn:0.020~0.400%、
Sb:0.020~0.400%、
P:0.020~0.400%、並びに
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCd:総計で0.0005~0.0100%
からなる群から選ばれる1種以上を含有してもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法では、
前記仕上げ焼鈍においては、600℃以上、Ac1温度未満の温度域で10~1200秒間保持してもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法では、
前記歪取焼鈍においては、750℃以上、Ac1温度未満の温度域で1時間以上保持してもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法では、
前記第1の冷間圧延を行う工程においては、累積圧下率80~92%で冷間圧延を行い、
前記第2の冷間圧延を行う工程においては、累積圧下率5~25%で冷間圧延を行ってもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法では、
前記中間焼鈍は、Ac1温度未満の温度域で行ってもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法では、
前記仕上げ焼鈍および前記歪取焼鈍の両方を行ってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る上記態様によれば、板面内の全周平均(全方向平均)で優れた磁気特性を得ることができる無方向性電磁鋼板の製造方法を提供することができる。
本発明に係る上記好ましい態様によれば、全周平均(全方向平均)で優れた磁気特性を得ることができ、且つ加工性に優れた無方向性電磁鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0011】
まず、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法において用いられる鋼材(単に、本実施形態に係る鋼材と記載する場合がある)、および本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法によって製造される、無方向性電磁鋼板(単に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板と記載する場合がある)の化学組成について説明する。以下の説明において、無方向性電磁鋼板又は鋼材に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。以下に「~」を挟んで記載する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」または「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。
【0012】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板及び鋼材は、フェライト-オーステナイト変態(以下、α-γ変態)が生じ得る化学組成である。具体的には、質量%で、C:0.0100%以下、Si:1.50~4.00%、sol.Al:0.0001~1.000%、S:0.0100%以下、N:0.0100%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、CuおよびAu:総計で2.50~5.00%、Sn:0.000~0.400%、Sb:0.000~0.400%、P:0.000~0.400%、並びに、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCd:総計で0.0000~0.0100%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する。さらに、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Au、Siおよびsol.Alの含有量が後述する所定の条件を満たす。
【0013】
(C:0.0100%以下)
Cは、無方向性電磁鋼板の鉄損を高めたり、磁気時効を引き起こしたりする。従って、C含有量は低ければ低いほど好ましい。このような現象は、C含有量が0.0100%超で顕著である。このため、C含有量は0.0100%以下とする。C含有量の低減は、板面内の全周平均における磁気特性の均一な向上にも寄与する。そのため、C含有量は、好ましくは0.0060%以下であり、より好ましくは0.0040%以下であり、より一層好ましくは0.0020%以下である。
なお、C含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱炭処理のコストを踏まえ、0.0005%以上とすることが好ましい。
【0014】
(Si:1.50~4.00%)
Siは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、無方向性電磁鋼板の鉄損を低減したり、降伏比を増大させて、鉄心への打ち抜き時の加工性を向上したりする。Si含有量が1.50%未満では、これらの作用効果を十分に得ることができない。従って、Si含有量は1.50%以上とする。Si含有量は、好ましくは2.00%以上であり、より好ましくは2.50%以上である。
一方、Si含有量が4.00%超では、無方向性電磁鋼板の磁束密度が低下したり、硬度の過度な上昇により打ち抜き時の加工性が低下したり、冷間圧延が困難になったりする。従って、Si含有量は4.00%以下とする。Si含有量は、好ましくは3.50%以下であり、より好ましくは3.30%以下である。
【0015】
(sol.Al:0.0001~1.000%)
sol.Alは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、無方向性電磁鋼板の鉄損を低減する。sol.Alは、飽和磁束密度に対する磁束密度B50の相対的な大きさの向上にも寄与する。ここで、磁束密度B50とは、5000A/mの磁場における磁束密度である。sol.Al含有量が0.0001%未満では、これらの作用効果を十分に得ることができない。また、Alには製鋼での脱硫促進効果もある。従って、sol.Al含有量は0.0001%以上とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.100%超であり、より一層好ましくは0.200%以上であり、更に好ましくは0.300%以上である。
一方、sol.Al含有量が1.000%超では、無方向性電磁鋼板の磁束密度が低下したり、降伏比が低下して、打ち抜き時の加工性が低下したりする。従って、sol.Al含有量は1.000%以下とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.500%以下であり、より好ましくは0.400%以下である。
なお、本実施形態においてsol.Alとは、酸可溶性Alを意味し、固溶状態で鋼中に存在する固溶Alのことを示す。
【0016】
(S:0.0100%以下)
Sは、含有させることが必須の元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される元素である。Sは、微細なMnSの析出により、焼鈍における再結晶及び結晶粒の成長を阻害する。再結晶及び結晶粒の成長が阻害されると、無方向性電磁鋼板の鉄損が増し、且つ磁束密度が低下する。従って、S含有量は低ければ低いほど好ましい。このような再結晶及び結晶粒成長の阻害による鉄損の増加および磁束密度の低下は、S含有量が0.0100%超で顕著である。このため、S含有量は0.0100%以下とする。S含有量は、好ましくは0.0060%以下であり、より好ましくは0.0040%以下である。
なお、S含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱硫処理のコストを踏まえ、0.0003%以上とすることが好ましい。
【0017】
(N:0.0100%以下)
NはCと同様に、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させるので、N含有量は低ければ低いほど好ましい。したがって、N含有量は0.0100%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0050%以下であり、より好ましくは0.0030%以下である。
なお、N含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱窒処理のコストを踏まえ、0.0010%以上とすることが好ましい。
【0018】
(Mn、Ni、Co、Pt、Pb、CuおよびAu:総計で2.50~5.00%)
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、CuおよびAuは、α-γ変態を生じさせるために必要な元素であることから、これらの元素の少なくとも1種を2.50%以上含有させる。これらの元素の全てを含有させる必要はなく、いずれか1種でもその含有量が2.50%以上であればよい。これらの元素の含有量の総計は、好ましくは3.00%以上である。
一方で、これらの元素の含有量の総計が5.00%を超えると、コスト高となり、無方向性電磁鋼板の磁束密度が低下する場合がある。したがって、これらの元素の含有量の総計は5.00%以下とする。これらの元素の含有量の総計は、好ましくは4.50%以下である。
なお、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、CuおよびAuの総計は、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、CuおよびAuの含有量の合計値を算出することで得られる。
【0019】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板および鋼材は、α-γ変態が生じ得る条件として、さらに以下の条件を満たす化学組成を有する。つまり、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たす。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0.00% ・・・(1)
【0020】
前述の(1)式を満たさない場合には、α-γ変態が生じないため、無方向性電磁鋼板の磁束密度が低くなる。そのため、(1)式の左辺は0.00%超とする。(1)式の左辺は、好ましくは0.30%以上であり、より好ましくは0.50%以上である。
(1)式の左辺の上限は特に限定しないが、2.00%以下、または1.00%以下としてもよい。
【0021】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板および鋼材の化学組成の残部は、Feおよび不純物からなる。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、あるいは本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法によって製造された、無方向性電磁鋼板の特性に悪影響を及ぼさない範囲で許容されるものが例示される。
【0022】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板および鋼材は、Feの一部に加え、以下の元素を任意元素として含有してもよい。下記任意元素を含有させない場合の含有量の下限は0%である。以下、各任意元素について詳細に説明する。
【0023】
(Sn:0.000~0.400%、Sb:0.000~0.400%、P:0.000~0.400%)
SnおよびSbは冷間圧延および再結晶後の集合組織を改善することで、無方向性電磁鋼板の磁束密度を向上させる。そのため、これらの元素を必要に応じて含有させてもよい。上記効果を確実に得るためには、SnおよびSbのうち1種でもその含有量を0.020%以上とすることが好ましい。一方、SnおよびSbが過剰に含まれると鋼が脆化する。したがって、Sn含有量およびSb含有量はいずれも0.400%以下とする。
【0024】
また、Pは再結晶後の鋼板の硬度を確保するために含有させてもよい。この効果を確実に得るためには、P含有量を0.020%以上とすることが好ましい。一方、Pが過剰に含まれると鋼の脆化を引き起こす。したがって、P含有量は0.400%以下とする。
【0025】
(Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCd:総計で0.0000~0.0100%)
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn及びCdは、溶鋼の鋳造時に溶鋼中のSと反応して硫化物および/または酸硫化物を生成する。以下、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn及びCdを総称して「粗大析出物生成元素」ということがある。
【0026】
粗大析出物生成元素の析出物の粒径は1~2μm程度であり、MnS、TiN、AlN等の微細析出物の粒径(100nm程度)よりはるかに大きい。これら微細析出物は粗大析出物生成元素の析出物に付着し、中間焼鈍などの焼鈍における再結晶及び結晶粒の成長を阻害しにくくなる。これらの作用効果を十分に得るためには、粗大析出物生成元素の総計は0.0005%以上であることが好ましい。なお、上記作用を十分に得るためには、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCdのうち全てを含有する必要はなく、いずれか1種でもその含有量が0.0005%以上であることが好ましい。
【0027】
一方、粗大析出物生成元素の総計が0.0100%を超えると、硫化物および/または酸硫化物の総量が過剰となり、中間焼鈍などの焼鈍における再結晶及び結晶粒の成長が阻害される。従って、粗大析出物生成元素の含有量の総計は0.0100%以下とする。
なお、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCdの含有量の総計は、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCdの含有量の合計値を算出することで得られる。
【0028】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板および鋼材の化学組成は、一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)や発光分光分析(OES:Optical Emission Spectroscopy)を用いて測定すればよい。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。sol.Alは、試料を酸で加熱分解した後の濾液を用いてICP-AESによって測定すればよい。
【0029】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の集合組織について説明する。製造方法の詳細については後述するが、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板はα-γ変態が生じ得る化学組成であり、第1の冷間圧延、中間焼鈍、第2の冷間圧延(スキンパス圧延)を経て、所望の条件で仕上げ焼鈍または歪取焼鈍を行うことで組織を微細化することによって、{100}結晶粒が成長した組織を有する。これにより、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は例えば{100}<011>方位の集積強度が5以上となり、圧延方向に対して45°方向の磁束密度B50が特に高くなる。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、このように特定の方向で磁束密度が高くなるが、板面内の全周平均で高い磁束密度が得られる。{100}<011>方位の集積強度が5未満になると、磁束密度を低下させる{111}<112>方位の集積強度が高くなり、全体的に磁束密度が低下してしまう。
【0030】
{100}<011>方位の集積強度は、X線回折法又は電子線後方散乱回折(electron backscatter diffraction:EBSD)法により測定することができる。X線及び電子線の試料からの反射角等が結晶方位毎に異なるため、ランダム方位試料を基準にしてこの反射強度等で結晶方位強度を求めることができる。
【0031】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の磁気特性について説明する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向において、磁気特性が最も優れる。一方、圧延方向となす角度が0°、90°の2つの方向において、磁気特性が最も劣る。ここで、当該45°は、理論的な値であり、実際の製造に際しては45°に一致させることが容易でない場合がある。したがって、理論的には、磁気特性が最も優れる方向が、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向であれば、実際の無方向性電磁鋼板においては、当該45°は、(厳密に)45°に一致していないものも含むものとする。このことは、当該0°、90°においても同じである。
【0032】
また、理論的には、磁気特性が最も優れる2つの方向の磁気特性は同じになるが、実際の製造に際しては当該2つの方向の磁気特性を同じにすることが容易でない場合がある。したがって、理論的には、磁気特性が最も優れる2つの方向の磁気特性が同じであれば、当該同じは、(厳密に)同じでないものも含むものとする。このことは、磁気特性が最も劣る2つの方向においても同じである。
【0033】
なお、上述の角度は、時計回りおよび反時計回りの何れの向きの角度も正の値を有するものとして表記したものである。時計回りの方向を負の方向とし、反時計回りの方向を正の方向とする場合、前述した圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向は、前述した圧延方向となす角度のうち絶対値の小さい方の角度が45°、-45°となる2つの方向となる。
【0034】
前述した圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向は、圧延方向となす角度が45°、135°となる2つの方向とも表記できる。
【0035】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の磁束密度を測定すると、圧延方向に対して45°方向の磁束密度B50が1.700T以上となる。また、板面内の全周平均(全方向平均)の磁束密度B50が1.650T以上となる。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、圧延方向に対して45°方向の磁束密度が高いものの、板面内の全周平均(全方向平均)でも高い磁束密度が得られる。
【0036】
磁束密度B50は、無方向性電磁鋼板から、圧延方向に対して45°、0°方向等から55mm角の試料を切り出し,単板磁気測定装置を用いて、5000A/mの磁場における磁束密度を測定することで得られる。全周平均(全方向平均)での磁束密度B50は、圧延方向に対して、0°、45°、90°および135°の磁束密度の平均値を算出することで得られる。
【0037】
鉄損W10/400は、無方向性電磁鋼板の板厚により変化する。無方向性電磁鋼板の板厚が減少する程、鉄損W10/40は低くなる。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、板厚が0.30~0.40mmの場合、鉄損W10/400は20.00W/kg以下となる。後述する歪取焼鈍を行うと、鉄損W10/400はより低減され、板厚が0.30~0.40mmの場合には15.20W/kg以下となる。
【0038】
鉄損W10/400は、無方向性電磁鋼板から採集した試料に対し、単板磁気測定装置を用いて、最大磁束密度が1.0Tになるように400Hzの交流磁場をかけたときに生じる、全周平均のエネルギーロス(W/kg)を測定することで得られる。
【0039】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、熱間圧延、第1の冷間圧延、中間焼鈍、第2の冷間圧延(スキンパス圧延)、および、仕上げ焼鈍または歪取焼鈍のいずれか一方もしくは両方を行う。
【0040】
具体的には、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、上述した化学組成を有する鋼材に対して熱間圧延を行い、250℃超、550℃以下の温度域で巻き取ることで熱間圧延鋼板を得る工程と、
前記熱間圧延鋼板に対して第1の冷間圧延を行う工程と、
前記第1の冷間圧延の後に中間焼鈍を行う工程と、
前記中間焼鈍の後に第2の冷間圧延を行う工程と、
前記第2の冷間圧延の後に、仕上げ焼鈍および歪取焼鈍のいずれか一方もしくは両方を行う工程と、を有し、
前記熱間圧延時の仕上げ圧延の最終パスをAr1温度以上の温度域で行い、
前記仕上げ焼鈍においては、Ac1温度未満の温度域で2時間以下保持し、
前記歪取焼鈍においては、600℃以上、Ac1温度未満の温度域で1200秒以上保持する。
【0041】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、前記仕上げ焼鈍においては、600℃以上、Ac1温度未満の温度域で10~1200秒間保持してもよい。
また、前記歪取焼鈍においては、750℃以上、Ac1温度未満の温度域で1時間以上保持してもよい。
【0042】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、前記第1の冷間圧延を行う工程においては、累積圧下率80~92%で冷間圧延を行い、
前記第2の冷間圧延を行う工程においては、累積圧下率5~25%で冷間圧延を行ってもよい
【0043】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、前記中間焼鈍は、Ac1温度未満の温度域で行ってもよい。
【0044】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、前記仕上げ焼鈍および前記歪取焼鈍の両方を行ってもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0045】
まず、上述した化学組成を有する鋼材を加熱し、熱間圧延を施す。鋼材は、例えば通常の連続鋳造によって製造されるスラブである。熱間圧延の粗圧延および仕上げ圧延はγ域(Ar1温度以上)の温度域で行う。つまり、仕上げ圧延の仕上温度(最終パスの出側温度)がAr1温度以上となるように熱間圧延を行う。これにより、その後の冷却によってオーステナイトがフェライトへと変態し、結晶組織が微細化する。結晶組織が微細化された状態で冷間圧延を施すと、バルジングが発生しやすく、通常は成長しにくい{100}結晶粒を成長させやすくすることができる。仕上温度の上限は特に限定しないが、例えば950℃以下とすればよい。
仕上げ圧延の仕上温度がAr1温度以上となるように、鋼材の加熱温度は、例えば1100~1250℃とすればよい。
【0046】
また、本実施形態では、巻取りは、250℃超、550℃以下の温度域で行う。好ましくは530℃以下、より好ましくは500℃以下、より一層好ましくは480℃以下である。550℃以下の温度域まで冷却すれば、オーステナイトからフェライトへの変態は完了する。
巻取り温度が250℃以下であると、巻取り中に再結晶をせず、加工粒が残存するため、結晶組織の微細化がされない。そのため、上述の巻取り温度は、250℃超の温度域まで行う。好ましくは、300℃以上、400℃以上である。
【0047】
その後、必要に応じて、コイルを巻き戻して、酸洗を行ってもよい。コイルを巻き戻した後、または酸洗を行った後は、熱間圧延鋼板に対して第1の冷間圧延を行う。
【0048】
第1の冷間圧延では累積圧下率を80~92%とすることが好ましい。なお、累積圧下率が高いほど、その後のバルジングによって{100}結晶粒が成長しやすくなるが、熱間圧延鋼板の巻取りが困難になり、操業が困難になりやすくなる。第1の冷間圧延における累積圧下率を上述の範囲内とすることで、その後のバルジングによる{100}結晶粒の成長を好ましく制御することができる。
【0049】
なお、ここでいう累積圧下率は、第1の冷間圧延前の熱間圧延鋼板の板厚:tと、第1の冷間圧延後の鋼板(冷間圧延鋼板)の板厚tとを用いて、(1-t/t)×100(%)で表される。
【0050】
第1の冷間圧延の後は、中間焼鈍を行う。本実施形態では、フェライトからオーステナイトへと変態しない温度域で中間焼鈍を行うことが好ましい。つまり、中間焼鈍をAc1温度未満の温度域で行うことが好ましい。このような条件で中間焼鈍を行うことによってバルジングが生じ、{100}結晶粒が成長しやすくなる。また、中間焼鈍の焼鈍時間(Ac1温度未満の温度域での保持時間)は、5~60秒とすることが好ましい。また、中間焼鈍は600℃以上で行うことが好ましく、また無酸化雰囲気にて行うことが好ましい。
【0051】
中間焼鈍の後は、第2の冷間圧延(スキンパス圧延)を行う。上述したようにバルジングが発生した状態で冷間圧延を行うと、バルジングが発生した部分を起点に{100}結晶粒がさらに成長する。第2の冷間圧延(スキンパス圧延)の累積圧下率は5~25%とすることが好ましい。
【0052】
なお、ここでいう累積圧下率は、第2の冷間圧延前の鋼板の板厚:tと、第2の冷間圧延後の鋼板の板厚tとを用いて、(1-t/t)×100(%)で表される。
【0053】
{100}<011>結晶粒には歪が溜まりにくく、{111}<112>結晶粒には歪が溜まりやすい性質がある。第2の冷間圧延を行った後、焼鈍を行うことで、歪の少ない{100}<011>結晶粒が歪の差を駆動力として{111}<112>結晶粒を蚕食する。これにより、{100}結晶粒がさらに成長する。歪の差を駆動力にして発生するこの蚕食現象は歪誘起粒界移動(SIBM)と呼ばれる。
【0054】
第2の冷間圧延における累積圧下率を5%以上とすることで、十分な歪量を確保でき、その後の焼鈍で歪誘起粒界移動(SIBM)が起き、{100}<011>結晶粒を大きく成長させることができる。
また、第2の冷間圧延における累積圧下率を25%以下とすることで、歪量が多くなり過ぎることを抑制できる。その結果、{111}<112>結晶粒の中から新しい結晶粒が生まれる再結晶核生成(Nucleation)が発生することを抑制できる。この再結晶核生成では、生成される結晶粒の大部分が{111}<112>結晶粒のため、再結晶核生成が発生すると無方向性電磁鋼板の磁気特性が劣化する場合がある。
【0055】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板において所望の歪分布を有するように制御する場合には、第1の冷間圧延の累積圧下率(%)をRm、第2の冷間圧延(スキンパス圧延)の累積圧下率(%)をRsとした場合に、86<Rm+0.2×Rs<92、かつ5<Rs<20を満たすことが好ましい。無方向性電磁鋼板が所望の歪分布を有することで、無方向性電磁鋼板の磁気特性を高めることができる。
【0056】
第2の冷間圧延(スキンパス圧延)を施した後は、仕上げ焼鈍および歪取焼鈍のいずれか一方もしくは両方を行う。仕上げ焼鈍を行う場合は、その後に歪取焼鈍を行ってもよく、行わなくてもよい。また、歪取焼鈍を行う場合は、歪取焼鈍の前に仕上げ焼鈍を行ってもよく、行わなくてもよい。
仕上げ焼鈍および歪取焼鈍の両方を行えば、より磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0057】
所望の条件で仕上げ焼鈍を行うことで、第2の冷間圧延時に生じた歪を解放して無方向性電磁鋼板の加工性および磁気特性を向上することができる。
また、所望の条件で歪取焼鈍を行うことで、打ち抜き加工により生じた歪を解放する効果および{100}結晶粒を更に成長させる効果を得ることができ、無方向性電磁鋼板の磁気特性を高めることができる。
【0058】
仕上げ焼鈍では、Ac1温度未満の温度域で2時間以下の間保持する。好ましくは1時間以下である。仕上げ焼鈍は、無方向性電磁鋼板の磁気特性が低下しないように、フェライトがオーステナイトへ変態しない温度とする。そのため、仕上げ焼鈍はAc1温度未満の温度域で行う。このような条件で仕上げ焼鈍を行うことによって、{100}結晶粒が{111}結晶粒を蚕食し、無方向性電磁鋼板の磁気特性を向上させることができる。
【0059】
仕上げ焼鈍では、600℃以上、Ac1温度未満の温度域で10~1200秒間保持することが好ましい。保持時間を10秒以上とすることで、第2の冷間圧延(スキンパス圧延)で生じた歪を十分に解放でき、複雑な形状に打ち抜く際の反りを抑制することができる、すなわち無方向性電磁鋼板の加工性を向上することができる。
保持時間を1200秒以下とすることで、結晶粒が粗大になり過ぎることを抑制できる。その結果、打ち抜き時にダレが大きくなり、打ち抜き精度が低下することを抑制できる、すなわち無方向性電磁鋼板の加工性を向上することができる。
【0060】
また、保持する温度を600℃以上とすることで、第2の冷間圧延(スキンパス圧延)で生じた歪を十分に解放することができ、複雑な形状に打ち抜く際の反りを抑制できる、すなわち無方向性電磁鋼板の加工性を向上することができる。
【0061】
仕上げ焼鈍後、または(仕上げ焼鈍を省略した場合は)第2の冷間圧延後は、必要に応じて打ち抜き加工が行われる。これにより、無方向性電磁鋼板が所望の形状に加工される。
【0062】
第2の冷間圧延後、または仕上げ圧延後は、歪取焼鈍を行う。
歪取焼鈍では、600℃以上、Ac1温度未満の温度域で1200秒以上保持する。1200秒以上保持することによって、打ち抜き時に生じた歪が十分に解放される効果、および{100}結晶粒が更に成長する効果を得ることができる。その結果、無方向性電磁鋼板の磁気特性を高めることができる。
【0063】
Ac1温度以上の温度域で保持すると、フェライトの一部若しくは全てがオーステナイトに変態してしまい、そのオーステナイトが保持後の冷却時にフェライトに変態する。その結果、{100}<011>方位が著しく減少することで、無方向性電磁鋼板の磁気特性が劣化する。そのため、歪取焼鈍における保持温度はAc1温度未満とする。
また、600℃未満の温度域で保持しても、上述の歪解放の効果および{100}結晶粒の成長効果を得ることができない。そのため、歪取焼鈍における保持温度は600℃以上とする。
【0064】
歪取焼鈍では、750℃以上、Ac1温度未満の温度域で1時間以上保持することが好ましい。750℃以上の温度域で1時間以上の保持を行うことで、上述の歪解放の効果および{100}結晶粒の成長効果をより確実に得ることができる。
保持時間の上限は特に限定しないが、例えば4時間以下、3時間以下とすればよい。
【0065】
以上の方法により、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0066】
なお、本実施形態においてAr1温度は、1℃/秒の平均冷却速度で冷却中の鋼材(鋼板)の熱膨張変化から求める。また、本実施形態においてAc1温度は、1℃/秒の平均加熱速度で加熱中の鋼材(鋼板)の熱膨張変化から求める。
【0067】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、例えば回転電機の鉄心に好適に適用される。この場合、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板から個々の平板状薄板を切り出し、これらの平板状薄板を適宜積層することにより、回転電機に用いられる鉄心が作製される。この鉄心は、優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板が適用されているため、鉄損が低い。その結果、優れたトルクを有する回転電機を得ることができる。
【実施例
【0068】
次に、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法について、実施例を示しながら具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法のあくまでも一例にすぎず、本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法が下記の例に限定されるものではない。
【0069】
(第1の実施例)
溶鋼を鋳造することにより、以下の表1に示す化学組成のスラブを作製した。表中の式左辺とは、前述の(1)式の左辺の値を表している。その後、作製したスラブを1150℃まで加熱し、表2中に示す条件で熱間圧延を行うことで、板厚2.5mmの熱間圧延鋼板を得た。
【0070】
仕上げ圧延の仕上温度は800℃であり、全ての鋼板のAr1温度よりも高い温度であった。
【0071】
次に、得られた熱間圧延鋼板に対し、酸洗を行うことでスケールを除去した。その後、85%の累積圧下率で板厚が0.385mmになるまで第1の冷間圧延を行うことで鋼板(冷間圧延鋼板)を得た。得られた鋼板を加熱し、無酸化雰囲気中で、全ての鋼板のAc1温度よりも低い温度である700℃で、5~60秒保持する中間焼鈍を行った。次いで、9%の累積圧下率で板厚が0.35mmになるまで第2の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0072】
なお、表1に示す全ての例のAc1温度は約850℃であった。Ar1温度は、1℃/秒の平均冷却速度で冷却中の鋼板の熱膨張変化から求め、Ac1温度は、1℃/秒の平均加熱速度で加熱中の鋼板の熱膨張変化から求めた。
【0073】
第2の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った後、仕上げ焼鈍を行った。この時の到達温度(保持温度)および保持時間を表2に示す。
【0074】
無方向性電磁鋼板の加工性を評価するために、仕上げ焼鈍後に、打ち抜き精度を評価する試験を行った。試験では、3mm×50mmの打ち抜き金型を用い、打ち抜いた材料の形状を測定した。打ち抜きは、長辺方向が鋼板の圧延方向と平行になるように行った。形状測定では打ち抜いた材料の長辺および短辺を測定し、且つ長辺方向の片方の端を指で押さえてもう一端の浮き上がり量を測定した。
【0075】
仕上げ焼鈍を行った後、800℃で2時間保持する、歪取焼鈍を行った。歪取焼鈍を行った後は、単板磁気測定装置を用いて磁束密度B50を測定した。55mm角の試料を鋼板の圧延方向に対し0°および45°の2種類の方向に採取し、磁束密度B50を測定した。圧延方向に対して、45°方向の磁束密度を45°方向の磁束密度B50とした。圧延方向に対して、0°、45°、90°および135°の磁束密度の平均値を算出することで、磁束密度B50の全周平均を得た。
【0076】
また、無方向性電磁鋼板から採集した試料に対し、最大磁束密度が1.0Tになるように400Hzの交流磁場をかけたときに生じる、全周平均のエネルギーロス(W/kg)を測定することで鉄損W10/400を得た。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表2中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。本発明例であるNo.101~No.110、No.112~No.114、No.120~No.126、No.128、No.129およびNo.132は、加工性に優れ(打ち抜き後の寸法精度も良く、浮上り量もほとんどなく)、かつ45°方向及び全周平均共において優れた磁気特性(高い磁束密度B50および低い鉄損W10/400)を有していた。また、本発明例であるNo.115~117は、優れた磁気特性を有するが、加工性は他の本発明例と比べるとやや劣位であった。
【0080】
一方、比較例であるNo.111は仕上げ焼鈍時の保持温度がAc1温度よりも高かったため、寸法精度は劣化し、磁束密度も劣化した。また、比較例であるNo.118、No.119、No.127およびNo.130は、巻取り温度が適切ではなかったため、磁束密度が低下し、および/または鉄損が高くなった。
【0081】
(第2の実施例)
溶鋼を鋳造することにより、以下の表3に示す化学組成のスラブを作製した。表中の式左辺とは、前述の(1)式の左辺の値を表している。その後、作製したスラブを1150℃まで加熱し、表4中に示す条件で熱間圧延を行うことで、板厚2.5mmになるように熱間圧延鋼板を得た。
【0082】
仕上げ圧延後は500℃まで水冷し、その後熱間圧延鋼板を巻き取った。
仕上げ圧延の仕上温度は800℃であり、全ての鋼板のAr1温度よりも高い温度であった。
【0083】
次に、得られた熱間圧延鋼板に対し、酸洗を行うことでスケールを除去した。その後、85%の累積圧下率で板厚が0.385mmになるまで第1の冷間圧延を行うことで鋼板(冷間圧延鋼板)を得た。得られた鋼板を加熱し、無酸化雰囲気中で、全ての鋼板のAc1温度よりも低い温度である、700℃で5~60秒間保持する中間焼鈍を行った。次いで、9%の累積圧下率で板厚が0.35mmになるまで第2の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0084】
第2の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った後、全ての鋼板のAc1温度よりも低いである700℃で、30秒間保持する仕上げ焼鈍を行った。その後、第1の実施例と同様の方法により、加工性評価、並びに、磁束密度B50および鉄損W10/400の測定を行った。なお、Ar1温度およびAc1温度は第1の実施例と同様の方法により測定した。
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
No.201~No.216は全て本発明例であり、いずれも加工性に優れ(打ち抜き後の寸法精度が良好であり、浮上り量が小さく)、且つ優れた磁気特性(高い磁束密度B50および低い鉄損W10/400)を有していた。特に、No.202~No.204はNo.201、No.205~No.214よりも磁束密度B50が高かった。No.205~No.214はNo.201~No.204よりも鉄損W10/400が低かった。No.215、216はNo.202よりも鉄損W10/400は低かったが、磁束密度B50は低かった。
【0088】
(第3の実施例)
溶鋼を鋳造することにより、以下の表5に示す化学組成のスラブを作製した。表中の式左辺とは、前述の(1)式の左辺の値を表している。その後、作製したスラブを1150℃まで加熱し、表6中に示す条件で熱間圧延を行うことで、板厚2.5mmの熱間圧延鋼板を得た。
【0089】
仕上げ圧延の仕上温度は800℃であり、全ての鋼板のAr1温度よりも高い温度であった。
【0090】
次に、得られた熱間圧延鋼板に対し、酸洗を行うことでスケールを除去した。その後、85%の累積圧下率で板厚が0.385mmになるまで第1の冷間圧延を行うことで鋼板(冷間圧延鋼板)を得た。得られた鋼板を加熱し、無酸化雰囲気中で、全ての鋼板のAc1温度よりも低い温度である700℃で、5~60秒保持する中間焼鈍を行った。次いで、9%の累積圧下率で板厚が0.35mmになるまで第2の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0091】
なお、表5に示す全ての例のAc1温度は約850℃であった。
【0092】
第2の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った後、仕上げ焼鈍を行った。この時の到達温度(保持温度)および保持時間を表6に示す。その後、第1の実施例と同様の方法により、加工性評価、並びに、磁束密度B50および鉄損W10/400の測定を行った。なお、Ar1温度およびAc1温度は第1の実施例と同様の方法により測定した。
なお、本実施例において歪取焼鈍は行わなかった。
【0093】
【表5】
【0094】
【表6】
【0095】
表6中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。本発明例であるNo.301~No.310、No.312~No.314、No.320およびNo.321は、加工性に優れ(打ち抜き後の寸法精度も良く、浮上り量もほとんどなく)、かつ45°方向及び全周平均共において優れた磁気特性(高い磁束密度B50および低い鉄損W10/400)を有していた。また、本発明例であるNo.315~317は、磁気特性は良好であるが、加工性は他の本発明例と比べるとやや劣位であった。
【0096】
一方、比較例であるNo.311は仕上げ焼鈍時の保持温度がAc1温度よりも高かったため、寸法精度は劣化し、磁束密度も劣化した。また、比較例であるNo.318およびNo.319は、巻取り温度が適切ではなかったため、磁束密度が低下し、鉄損が高くなった。
【0097】
(第4の実施例)
溶鋼を鋳造することにより、以下の表7に示す化学組成のスラブを作製した。表中の式左辺とは、前述の(1)式の左辺の値を表している。その後、作製したスラブを1150℃まで加熱し、表8中に示す条件で熱間圧延を行うことで、板厚2.5mmの熱間圧延鋼板を得た。
【0098】
仕上げ圧延の仕上温度は800℃であり、全ての鋼板のAr1温度よりも高い温度であった。
【0099】
次に、得られた熱間圧延鋼板に対し、酸洗を行うことでスケールを除去した。その後、85%の累積圧下率で板厚が0.385mmになるまで第1の冷間圧延を行うことで鋼板(冷間圧延鋼板)を得た。得られた鋼板を加熱し、無酸化雰囲気中で、全ての鋼板のAc1温度よりも低い温度である700℃で、5~60秒保持する中間焼鈍を行った。次いで、9%の累積圧下率で板厚が0.35mmになるまで第2の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0100】
なお、表7に示す全ての例のAc1温度は約850℃であった。
【0101】
第2の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った後、第1の実施例と同様の方法により、加工性評価を行った。
なお、本実施例において仕上げ焼鈍は行わなかった。
【0102】
加工性評価の試験後、800℃で2時間保持する、歪取焼鈍を行った。歪取焼鈍を行った後は、第1の実施例と同様の方法により、磁束密度B50および鉄損W10/400の測定を行った。なお、Ar1温度およびAc1温度は第1の実施例と同様の方法により測定した。
【0103】
【表7】
【0104】
【表8】
【0105】
表8中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。本発明例であるNo.401~No.408、No.411およびNo.412は、打ち抜き後の寸法精度は良好であったが、浮上り量はやや発生した。また、45°方向及び全周平均共において優れた磁気特性(高い磁束密度B50および低い鉄損W10/400)を有していた。
【0106】
一方、比較例であるNo.409およびNo.410は、巻取り温度が適切ではなかったため、磁束密度が低下し、鉄損が高くなった。