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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】巻鉄心
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/245 20060101AFI20230117BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230117BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230117BHJP
   C22C 38/02 20060101ALI20230117BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230117BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
H01F27/245 155
H01F1/147 175
C22C38/00 303U
C22C38/02
C22C38/60
C21D8/12 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022525228
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2021039555
(87)【国際公開番号】W WO2022092118
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2020178553
(32)【優先日】2020-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】中村 修一
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148036(JP,A)
【文献】国際公開第2020/027215(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/027218(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/027219(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F1/14-1/28
H01F27/24-27/26
C21D8/12
C22C38/00
C22C38/02
C22C38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面視において略矩形状の巻鉄心本体を備える巻鉄心であって、
前記巻鉄心本体は、長手方向に第1の平面部とコーナー部とが交互に連続し、当該各コーナー部を挟んで隣接する2つの第1の平面部のなす角が90°である方向性電磁鋼板が、板厚方向に積み重ねられた部分を含み、側面視において略矩形状の積層構造を有し、
前記各コーナー部は、前記方向性電磁鋼板の側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部を2つ以上有するとともに、隣り合う前記屈曲部の間に第2の平面部を有しており、且つ、一つのコーナー部に存在する屈曲部それぞれの曲げ角度の合計が90°であり、
前記屈曲部の側面視における内面側曲率半径rは1mm以上5mm以下であり、
前記方向性電磁鋼板が
質量%で、
Si:2.0~7.0%、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
Goss方位に配向する集合組織を有し、且つ
少なくとも一つの前記屈曲部に隣接する前記第1の平面部および前記第2の平面部の1つ以上において、前記屈曲部との境界に対して垂直方向に9mm以内の領域における亜粒界の存在頻度が、以下の(1)式を満足することを特徴とする、巻鉄心。
(Nac+Nal)/Nt≧0.010 ・・・(1)
ここで、上記(1)式中のNtは、前記屈曲部に隣接する前記第1の平面部もしくは前記第2の平面部の前記領域内に、前記屈曲部との前記境界に対して平行方向および垂直方向に2mm間隔で複数個の測定点を配置した場合、前記平行方向および前記垂直方向で隣接する2つの測定点を結んだ線分の総数である。
上記(1)式中のNacは、前記屈曲部との前記境界と平行な方向の前記線分のうち、亜粒界を確認できる線分の数であり、上記(1)式中のNalは、前記屈曲部との前記境界と垂直な方向の線分のうち、亜粒界を確認できる線分の数である。
【請求項2】
少なくとも一つの前記屈曲部に隣接する前記第1の平面部および前記第2の平面部の1つ以上において、以下の(2)式を満足することを特徴とする、請求項1に記載の巻鉄心。
(Nac+Nal)/(Nbc+Nbl)>0.30 ・・・(2)
ここで、上記(2)式中のNbcは、前記屈曲部との前記境界と平行な方向の前記線分のうち、前記亜粒界以外の粒界を確認できる線分の数であり、上記(2)式中のNblは、前記屈曲部との前記境界と垂直な方向の前記線分のうち、前記亜粒界以外の粒界を確認できる線分の数である。
【請求項3】
少なくとも一つの前記屈曲部に隣接する前記第1の平面部および前記第2の平面部の1つ以上において、以下の(3)式を満足することを特徴とする、請求項1又は2に記載の巻鉄心。
Nal/Nac≧0.80 ・・・(3)
【請求項4】
前記方向性電磁鋼板の前記化学組成が、質量%で、
Si:2.0~7.0%、
Nb:0~0.030%、
V:0~0.030%、
Mo:0~0.030%、
Ta:0~0.030%、
W:0~0.030%、
C:0~0.0050%、
Mn:0~1.0%、
S:0~0.0150%、
Se:0~0.0150%、
Al:0~0.0650%、
N:0~0.0050%、
Cu:0~0.40%、
Bi:0~0.010%、
B:0~0.080%、
P:0~0.50%、
Ti:0~0.0150%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.10%、
Cr:0~0.30%、及び
Ni:0~1.0%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の巻鉄心。
【請求項5】
前記方向性電磁鋼板の前記化学組成において、Nb、V、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.0030~0.030質量%含有することを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の巻鉄心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻鉄心に関する。本願は、2020年10月26日に、日本に出願された特願2020-178553号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、Siを7質量%以下含有し、二次再結晶粒が{110}<001>方位(Goss方位)に集積した二次再結晶集合組織を有する鋼板である。方向性電磁鋼板の磁気特性は、{110}<001>方位への集積度に大きく影響される。近年、実用されている方向性電磁鋼板は、結晶の<001>方向と圧延方向との角度が、5°程度の範囲内に入るように制御されている。
【0003】
方向性電磁鋼板は積層されて変圧器の鉄心などに用いられるが、主要な磁気特性として高磁束密度、低鉄損であることが求められている。結晶方位はこれら特性と強い相関を有することが知られており、例えば、特許文献1~3のような精緻な方位制御技術が開示されている。
【0004】
方向性電磁鋼板において、上記結晶方位を認識する境界は結晶粒界であり、結晶方位を制御するための結晶粒界の移動の挙動は比較的深く研究されている。しかし、結晶粒の内部に存在するわずかな転位が特定の配置をもって構成する亜粒界(小角粒界、小傾角粒界)の制御による特性改善技術はあまり多くはなく、特許文献4~7などが開示されている程度である。
【0005】
また、巻鉄心の製造は従来、例えば特許文献8に記載されているような、鋼板を筒状に巻き取った後、筒状積層体のままコーナー部を一定曲率になるようにプレスし、略矩形に形成した後、焼鈍することにより歪取りと形状保持を行う方法が広く知られている。
【0006】
一方、巻鉄心の別の製造方法として、巻鉄心のコーナー部となる鋼板の部分を内面側曲率半径が5mm以下の比較的小さな屈曲領域が形成されるように予め曲げ加工し、当該曲げ加工された鋼板を積層して巻鉄心とする、特許文献9~11のような技術が開示されている。当該製造方法によれば、従来のような大掛かりなプレス工程が不要で、鋼板は精緻に折り曲げられて鉄心形状が保持され、加工歪も曲げ部(角部)のみに集中するため上記焼鈍工程による歪除去の省略も可能となり、工業的なメリットは大きく適用が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2001-192785号公報
【文献】日本国特開2005-240079号公報
【文献】日本国特開2012-052229号公報
【文献】日本国特開2004-143532号公報
【文献】日本国特開2006-219690号公報
【文献】日本国特開2001-303214号公報
【文献】国際公開第2020/027215号
【文献】日本国特開2005-286169号公報
【文献】日本国特許第6224468号公報
【文献】日本国特開2018-148036号公報
【文献】豪国特許出願公開第2012337260号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、鋼板を内面側曲率半径が5mm以下の比較的小さな屈曲領域が形成されるように予め曲げ加工し、当該曲げ加工された鋼板を積層して巻鉄心とする方法により製造した変圧器鉄心の効率を詳細に検討した。その結果、結晶方位の制御がほぼ同等で、単板で測定される磁束密度および鉄損もほぼ同等である鋼板を素材とした場合であっても、鉄心の効率に差が生じる場合があることを認識した。
【0009】
この原因を探究したところ、問題となる効率の差は、素材ごとの屈曲時の鉄損劣化の程度の差が原因となっていることが推測された。
この観点で様々な鋼板製造条件、鉄心形状について検討して鉄心効率への影響を分類した。その結果、特定の製造条件により製造した鋼板を、特定の寸法形状の鉄心素材として使用することで、鉄心の効率を、鋼板素材の磁気特性に見合った最適な効率になるように制御できるとの結果を得た。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、鋼板を内面側曲率半径が5mm以下の比較的小さな屈曲領域が形成されるように予め曲げ加工し、当該曲げ加工された鋼板を積層して巻鉄心とする方法により製造した巻鉄心において、不用意な鉄心の効率の悪化が抑制されるように改善した巻鉄心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、側面視において略矩形状の巻鉄心本体を備える巻鉄心であって、
前記巻鉄心本体は、長手方向に第1の平面部とコーナー部とが交互に連続し、当該各コーナー部を挟んで隣接する2つの第1の平面部のなす角が90°である方向性電磁鋼板が、板厚方向に積み重ねられた部分を含み、側面視において略矩形状の積層構造を有し、
前記各コーナー部は、前記方向性電磁鋼板の側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部を2つ以上有するとともに、隣り合う前記屈曲部の間に第2の平面部を有しており、且つ、一つのコーナー部に存在する屈曲部それぞれの曲げ角度の合計が90°であり、
前記屈曲部の側面視における内面側曲率半径rは1mm以上5mm以下であり、
前記方向性電磁鋼板が
質量%で、
Si:2.0~7.0%、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
Goss方位に配向する集合組織を有し、且つ
少なくとも一つの前記屈曲部に隣接する前記第1の平面部および前記第2の平面部の1つ以上において、前記屈曲部との境界に対して垂直方向に9mm以内の領域における亜粒界の存在頻度が、以下の(1)式を満足することを特徴とする。
(Nac+Nal)/Nt≧0.010 ・・・(1)
ここで、上記(1)式中のNtは、前記屈曲部に隣接する前記第1の平面部もしくは前記第2の平面部の前記領域内に、前記屈曲部との前記境界に対して平行方向および垂直方向に2mm間隔で複数個の測定点を配置した場合、前記平行方向および前記垂直方向で隣接する2つの測定点を結んだ線分の総数である。
上記(1)式中のNacは、前記屈曲部との前記境界と平行な方向の前記線分のうち、亜粒界を確認できる線分の数であり、上記(1)式中のNalは、前記屈曲部との前記境界と垂直な方向の線分のうち、亜粒界を確認できる線分の数である。
【0012】
また、本発明の一実施形態の前記構成において、少なくとも一つの前記屈曲部に隣接する前記第1の平面部および前記第2の平面部の1つ以上において、以下の(2)式を満足してもよい。
(Nac+Nal)/(Nbc+Nbl)>0.30 ・・・(2)
ここで、上記(2)式中のNbcは、前記屈曲部との前記境界と平行な方向の前記線分のうち、前記亜粒界以外の粒界を確認できる線分の数であり、上記(2)式中のNblは、前記屈曲部との前記境界と垂直な方向の前記線分のうち、前記亜粒界以外の粒界を確認できる線分の数である。
【0013】
また、本発明の一実施形態の前記構成において、少なくとも一つの前記屈曲部に隣接する前記第1の平面部および前記第2の平面部の1つ以上において、以下の(3)式を満足してもよい。
Nal/Nac≧0.80 ・・・(3)
【0014】
また、本発明の一実施形態の前記構成において、前記方向性電磁鋼板の前記化学組成が、質量%で、
Si:2.0~7.0%、
Nb:0~0.030%、
V:0~0.030%、
Mo:0~0.030%、
Ta:0~0.030%、
W:0~0.030%、
C:0~0.0050%、
Mn:0~1.0%、
S:0~0.0150%、
Se:0~0.0150%、
Al:0~0.0650%、
N:0~0.0050%、
Cu:0~0.40%、
Bi:0~0.010%、
B:0~0.080%、
P:0~0.50%、
Ti:0~0.0150%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.10%、
Cr:0~0.30%、及び
Ni:0~1.0%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなるものであってもよい。
また、本発明の一実施形態の前記構成において、前記方向性電磁鋼板の前記化学組成において、Nb、V、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.0030~0.030質量%含有してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、曲げ加工された鋼板を積層してなる巻鉄心において、不用意な鉄心の効率の悪化を効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る巻鉄心の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2図1の実施形態に示される巻鉄心の側面図である。
図3】本発明に係る巻鉄心の別の一実施形態を模式的に示す側面図である。
図4】本発明に係る巻鉄心を構成する1層の方向性電磁鋼板の一例を模式的に示す側面図である。
図5】本発明に係る巻鉄心を構成する1層の方向性電磁鋼板の別の一例を模式的に示す側面図である。
図6】本発明に係る巻鉄心を構成する方向性電磁鋼板の屈曲部の一例を模式的に示す側面図である。
図7】方向性電磁鋼板で観測される結晶方位に関連するずれ角(α、β、γ)を模式的に説明するための図である。
図8】実施例で製造した巻鉄心の寸法パラメーターを示す模式図である。
図9】本実施形態において、粒界を特定するための測定点の配置方法を説明するためのメッシュ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る巻鉄心について順に詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。なお、下記する数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。また、化学組成に関する「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「垂直」、「同一」、「直角」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
また、本明細書において「方向性電磁鋼板」のことを単に「鋼板」または「電磁鋼板」と記載し、「巻鉄心」のことを単に「鉄心」と記載する場合もある。
【0018】
本実施形態に係る巻鉄心は、側面視において略矩形状の巻鉄心本体を備える巻鉄心であって、
前記巻鉄心本体は、長手方向に第1の平面部とコーナー部とが交互に連続し、当該各コーナー部を挟んで隣接する2つの第1の平面部のなす角が90°である方向性電磁鋼板が、板厚方向に積み重ねられた部分を含み、側面視において略矩形状の積層構造を有し、
前記各コーナー部は、前記方向性電磁鋼板の側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部を2つ以上有するとともに、隣り合う前記屈曲部の間に第2の平面部を有しており、且つ、一つのコーナー部に存在する屈曲部それぞれの曲げ角度の合計が90°であり、
前記屈曲部の側面視における内面側曲率半径rは1mm以上5mm以下であり、
前記方向性電磁鋼板が
質量%で、
Si:2.0~7.0%、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
Goss方位に配向する集合組織を有し、且つ
少なくとも一つの前記屈曲部に隣接する前記第1の平面部および前記第2の平面部の1つ以上において、前記屈曲部との境界に対して垂直方向に9mm以内の領域における亜粒界の存在頻度が、以下の(1)式を満足することを特徴とする、巻鉄心。
(Nac+Nal)/Nt≧0.010 ・・・(1)
ここで、上記(1)式中のNtは、前記屈曲部に隣接する前記第1の平面部もしくは前記第2の平面部の前記領域内に、前記屈曲部境界に対して平行方向および垂直方向に2mm間隔で複数個の測定点を配置した場合、前記平行方向および前記垂直方向で隣接する2つの測定点を結んだ線分の総数である。
上記(1)式中のNacは、前記屈曲部境界と平行な方向の前記線分のうち、亜粒界を確認できる線分の数であり、上記(1)式中のNalは、前記屈曲部境界と垂直な方向の線分のうち、亜粒界を確認できる線分の数である。
【0019】
1.巻鉄心及び方向性電磁鋼板の形状
まず、本実施形態の巻鉄心の形状について説明する。ここで説明する巻鉄心および方向性電磁鋼板の形状自体は、特に目新しいものではない。例えば背景技術において特許文献9~11として紹介した公知の巻鉄心および方向性電磁鋼板の形状に準じたものに過ぎない。
図1は、巻鉄心の一実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、図1の実施形態に示される巻鉄心の側面図である。また、図3は、巻鉄心の別の一実施形態を模式的に示す側面図である。
なお、本実施形態において側面視とは、巻鉄心を構成する長尺状の方向性電磁鋼板の幅方向(図1におけるY軸方向)に視ることをいう。側面図とは側面視により視認される形状を表した図(図1のY軸方向の図)である。
【0020】
本実施形態に係る巻鉄心は、側面視において略矩形状(略多角形状)の巻鉄心本体10を備える。当該巻鉄心本体10は、方向性電磁鋼板1が、板厚方向に積み重ねられ、側面視において略矩形状の積層構造2を有する。当該巻鉄心本体10を、そのまま巻鉄心として使用してもよいし、必要に応じて、積み重ねられた複数の方向性電磁鋼板1を一体的に固定するために、結束バンド等、公知の締付具等を備えていてもよい。
【0021】
本実施形態において、巻鉄心本体10の鉄心長に特に制限はない。鉄心において鉄心長が変化しても、屈曲部5の体積は一定であるため屈曲部5で発生する鉄損は一定である。鉄心長が長いほうが巻鉄心本体10に対する屈曲部5の体積率は小さくなるため、鉄損劣化への影響も小さい。よって、巻鉄心本体10の鉄心長は長いほうが好ましい。巻鉄心本体10の鉄心長は、1.5m以上であることが好ましく、1.7m以上であるとより好ましい。なお、本実施形態において、巻鉄心本体10の鉄心長とは、側面視による巻鉄心本体10の積層方向の中心点における周長をいう。
【0022】
本実施形態の巻鉄心は、従来公知のいずれの用途にも好適に用いることができる。
【0023】
図1及び2に示すように、巻鉄心本体10は、長手方向に第1の平面部4とコーナー部3とが交互に連続し、当該各コーナー部3において隣接する2つの第1の平面部4のなす角が90°である方向性電磁鋼板1が、板厚方向に積み重ねられた部分を含み、側面視において略矩形状の積層構造2を有する。なお、本明細書において、「第1の平面部」および「第2の平面部」をそれぞれ単に「平面部」と記載する場合もある。
方向性電磁鋼板1の各コーナー部3は、側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部5を2つ以上有しており、且つ、一つのコーナー部3に存在する屈曲部5それぞれの曲げ角度の合計が90°となっている。コーナー部3は、隣り合う屈曲部5の間に第2の平面部4aを有している。したがって、コーナー部3は2以上の屈曲部5と1以上の第2の平面部4aとを備えた構成となっている。
図2の実施形態は1つのコーナー部3中に2つの屈曲部5を有する場合である。図3の実施形態は1つのコーナー部3中に3つの屈曲部5を有する場合である。
【0024】
これらの例に示されるように、本実施形態では、1つのコーナー部は2つ以上の屈曲部により構成できるが、加工時の変形による歪み発生を抑制して鉄損を抑える点からは、屈曲部5の曲げ角度φは60°以下であることが好ましい。具体的には、例えば図3におけるφ1、φ2、φ3は60°以下であることが好ましく、45°以下であることがより好ましい。
1つのコーナー部に2つの屈曲部を有する図2の実施形態では、鉄損低減の点から、例えば、φ1=60°且つφ2=30°とすることや、φ1=45°且つφ2=45°等とすることができる。また、1つのコーナー部に3つの屈曲部を有する図3の実施形態では、鉄損低減の点から、例えばφ1=30°、φ2=30°且つφ3=30°等とすることができる。更に、生産効率の点からは折り曲げ角度(曲げ角度)が等しいことが好ましいため、1つのコーナー部に2つの屈曲部を有する場合には、φ1=45°且つφ2=45°とすることが好ましく、また、1つのコーナー部に3つの屈曲部を有する図3の実施形態では、鉄損低減の点から、例えばφ1=30°、φ2=30°且つφ3=30°とすることが好ましい。
【0025】
図6を参照しながら、屈曲部5について更に詳細に説明する。図6は、方向性電磁鋼板の屈曲部(曲線部分)の一例を模式的に示す図である。屈曲部5の曲げ角度とは、方向性電磁鋼板1の屈曲部5において、折り曲げ方向の後方側の直線部と前方側の直線部の間に生じた角度差を意味し、方向性電磁鋼板1の外面において、屈曲部5を挟む両側の平面部4,4aの表面である直線部分を延長して得られる2つの仮想線Lb-elongation1、Lb-elongation2がなす角の補角の角度φとして表される。この際、延長する直線が鋼板表面から離脱する点が、鋼板外面側の表面における平面部4,4aと屈曲部5の境界であり、図6においては、点Fおよび点Gである。
【0026】
さらに、点Fおよび点Gのそれぞれから鋼板外表面に垂直な直線を延長し、鋼板内面側の表面との交点をそれぞれ点Eおよび点Dとする。この点Eおよび点Dが鋼板内面側の表面における平面部4,4aと屈曲部5の境界である。
そして本実施形態において屈曲部5とは、方向性電磁鋼板1の側面視において、上記点D、点E、点F、点Gにより囲まれる方向性電磁鋼板1の部位である。図6においては、点Dと点Eの間の鋼板表面、すなわち屈曲部5の内側表面をLa、点Fと点Gの間の鋼板表面、すなわち屈曲部5の外側表面をLbとして示している。
【0027】
また、本実施形態では、屈曲部5の側面視において、屈曲部5の内面側曲率半径rを規定する。図6を例にとって、屈曲部5の内面側曲率半径rを決定する方法を具体的に説明する。最初に、屈曲部5を挟む両側の平面部4,4aのそれぞれにおいて、平面部の表面である直線部分と少なくとも1mm以上に亘って接する直線を確定する。これらをそれぞれ仮想線Lb-elongation1とLb-elongation2とし、この交点を点Bとする。理想的には、線分BFの長さおよび線分BGの長さは同じになるが、現実的には加工状況のばらつきや不可避的な変動などのため、多少の差異を生じることがある。このような場合も本発明の効果の妥当な評価が可能となるように、点B、点Fおよび点Gから、点F’および点G’を決定する。すなわち、線分BFと線分BGのうち長い方の距離をLL(例えば線分BGが線分BFより長いとする。)とし、仮想線Lb-elongation1上で点Bから点Fに向かって距離LLだけ離れた点を点F’とし、仮想線Lb-elongation2上で点Bから点Gに向かって距離LLだけ離れた点を点G’とする。このとき、点F’か点G’のどちらかは、それぞれ元の点Fまたは点Gと一致することとなる(例えば線分BGが線分BFより長い場合、点G´が元の点Gと一致する。)。
なお、線分BFと線分BGの長さが等しい場合、図6において、点F´は元の点Fと一致し、これにともなって以下で説明する点E´は元の点Eと一致することになる。
そして、線分BFの長さおよび線分BGの長さが異なる場合は、点F’および点G’のそれぞれから鋼板外表面に垂直な直線を延長し、2直線の交点を曲率中心Aとする。そして、線分AF’および線分AG’と鋼板内面側の表面Laとの交点をそれぞれ点E’および点D’とする。このとき、点Aを中心として点E’および点D’を通る円が本実施形態における屈曲部5を近似する曲面であり、線分AE’の長さ(これは線分AD’の長さに一致する)が本実施形態のおける内面側曲率半径rである。内面側曲率半径rが小さいほど屈曲部5の曲線部分の曲がりは急であり、内面側曲率半径rが大きいほど屈曲部5の曲線部分の曲がりは緩やかになる。
本実施形態の巻鉄心では、板厚方向に積層された各方向性電磁鋼板1の各屈曲部5における内面側曲率半径rは、ある程度の変動を有するものであってもよい。この変動は、成形精度に起因する変動であることもあり、積層時の取り扱いなどで意図せぬ変動が発生することも考えられる。このような意図せぬ誤差は、現在の通常の工業的な製造であれば0.3mm程度以下に抑制することが可能である。このような変動が大きい場合は、十分に多数の鋼板について内面側曲率半径rを測定し、平均することで代表的な値を得ることができる。また、何らかの理由で意図的に変化させることも考えられるが、本実施形態はそのような形態を除外するものではない。
また、本実施形態においては上記のように線分BFと線分BGの長さが異なり、曲げ加工が非対称となることを想定している。このような状況においては、該線分長さが短い側の領域でより局所的に歪が集中していると考えられ、本発明の効果は該線分長さが短い側でより効果的に発揮されると思われる。しかし、後述する亜粒界の計測は、特に該線分長さが短い側の平面部で行う必要はなく、曲げ加工が非対称であったか対称であったかを意識する必要はない。該線分長さが長い側においても歪は屈曲部の外側に広がっており、その領域で本発明の効果が発揮されることは明確だからである。
【0028】
なお、屈曲部5の形状の観察方法および内面側曲率半径rの測定方法にも特に制限はないが、例えば、市販の顕微鏡(Nikon ECLIPSE LV150)を用いて15~200倍で観察することにより測定することができる。ここで、平面部4、4aを決定するためには、低倍率で撮影して広い領域を観察するとよい。また、内面側曲率半径rを決定する場合には、高倍率で撮影し、かつ撮影枚数を増やして連続写真とするとよい。また、内面側曲率半径rを求める際、低倍率で撮影し、測定誤差が懸念される場合には撮影した図を拡大して測定する必要がある。
本実施形態では、屈曲部5の内面側曲率半径rを、1mm以上5mm以下の範囲とし、かつ、下記に説明する、摩擦係数が制御された特定の方向性電磁鋼板を用いることによって、巻鉄心の騒音を抑制することが可能となる。屈曲部5の内面側曲率半径rは、好ましくは3mm以下である。この場合に、本実施形態の効果がより顕著に発揮される。
また、鉄心内に存在するすべての屈曲部5が、本実施形態が規定する内面側曲率半径rを満足することが最も好ましい形態である。本実施形態の内面側曲率半径rを満足する屈曲部5と満足しない屈曲部5が存在する場合は、少なくとも半数以上の屈曲部5が、本実施形態が規定する内面側曲率半径rを満足することが望ましい形態である。
【0029】
図4及び図5は巻鉄心本体10における1層分の方向性電磁鋼板1の一例を模式的に示す図である。図4及び図5の例に示されるように本実施形態に用いられる方向性電磁鋼板1は、折り曲げ加工されたものであって、2つ以上の屈曲部5から構成されるコーナー部3と、第1の平面部4を有し、1つ以上の方向性電磁鋼板1の長手方向の端面である接合部6を介して側面視において略矩形の環を形成する。
本実施形態においては、巻鉄心本体10が、全体として側面視が略矩形状の積層構造2を有していればよい。図4の例に示されるように、1つの接合部6を介して1枚の方向性電磁鋼板1が巻鉄心本体10の1層分を構成する(つまり、一巻ごとに1箇所の接合部6を介して1枚の方向性電磁鋼板1が接続される)ものであってもよく、図5の例に示されるように1枚の方向性電磁鋼板1が巻鉄心の約半周分を構成し、2つの接合部6を介して2枚の方向性電磁鋼板1が巻鉄心本体10の1層分を構成する(つまり、一巻ごとに2箇所の接合部6を介して2枚の方向性電磁鋼板1が互いに接続される)ものであってもよい。
【0030】
本実施形態において用いられる方向性電磁鋼板1の板厚は、特に限定されず、用途等に応じて適宜選択すればよいものであるが、通常0.15mm~0.35mmの範囲内であり、好ましくは0.18mm~0.23mmの範囲である。
【0031】
2.方向性電磁鋼板の構成
次に、巻鉄心本体10を構成する方向性電磁鋼板1の構成について説明する。本実施形態においては、隣接して積層される電磁鋼板の屈曲部5に隣接する平面部4,4aの亜粒界の存在頻度、および亜粒界の存在頻度を制御した電磁鋼板の鉄心内での配置部位を特徴とする。
【0032】
(1)屈曲部に隣接する平面部の亜粒界の存在頻度
本実施形態の巻鉄心を構成する方向性電磁鋼板1は、少なくとも屈曲部の一部において、積層される鋼板の亜粒界の存在頻度が高くなるよう制御される。屈曲部5近傍の亜粒界の存在頻度が低くなると、本実施形態での鉄心形状を有する鉄心における効率劣化の回避効果が発現しない。これは言い換えると、屈曲部5近傍に亜粒界を配置することで効率劣化が抑制されやすいことを示している。
このような現象が発生するメカニズムは明確ではないが、以下のように考えられる。
本実施形態が対象とする鉄心は、曲げによる巨視的な歪(変形)は非常に狭い領域である屈曲部5内に制限されている。しかしミクロな歪や塑性歪に伴う弾性歪が生じると、鋼板内部の結晶組織としてみると、屈曲部5で形成された転位が屈曲部5の外側、すなわち平面部4,4aにも移動し広がると考えられる。一般的に塑性変形による結晶内への転位の分散は鉄損を著しく劣化させることが知られている。この際、屈曲部5近傍に亜粒界を配置し、亜粒界を平面部4,4aへの転位の移動の障害(転位の消失サイト)もしくは弾性歪の緩和帯として機能させれば、変形による転位や弾性歪の分散領域を屈曲部5の極近傍に留めることが可能となる。本実施形態は、この作用により鉄心効率の低下を抑制できるものと考えられる。ここで注意すべきは、本実施形態で比較的多量に分散させる亜粒界も、基本的には転位の特殊な配列により構成されていることである。上記で変形により発生した転位は鉄損を著しく劣化させることを述べたが、亜粒界を形成する転位は、結晶粒内のわずかな方位差を解消し不用意な応力を緩和するように配置されていると考えられる。この点で、亜粒界は適度な量であれば磁気特性への悪影響の懸念はなく、変形による転位の消滅サイトとして有効に作用するものと考えられる。このような本実施形態の作用機序は本実施形態が対象とする特定形状の鉄心での特別な現象と考えられ、これまでほとんど考慮されてはいないが、本発明者らが得た知見と合致する解釈が可能である。
【0033】
本実施形態においては、亜粒界の存在頻度は以下のように測定される。
【0034】
本実施形態では、方向性電磁鋼板1で観測される結晶方位に関連する以下の4つの角度α、β、γ、φ3Dを使用する。なお、後述するとおり、角度αは、圧延面法線方向Zを回転軸とする理想的な{110}<001>方位(Goss方位)からのずれ角、角度βは、圧延直角方向(板幅方向)Cを回転軸とする理想的な{110}<001>方位からのずれ角、角度γは、圧延方向Lを回転軸とする理想的な{110}<001>方位からのずれ角を意味する。
ここで、「理想的な{110}<001>方位」とは、実用鋼板の結晶方位を表示する際の{110}<001>方位ではなく、学術的な結晶方位としても{110}<001>方位である。
一般的に再結晶した実用鋼板の結晶方位の測定では、±2.5°程度の角度差は厳密に区別せずに結晶方位が規定される。従来の方向性電磁鋼板であれば、幾何学的に厳密な{110}<001>方位を中心とする±2.5°程度の角度範囲域を「{110}<001>方位」とする。しかし、本実施形態では、±2.5°以下の角度差も明確に区別する必要がある。
このため、幾何学的に厳密な結晶方位としての{110}<001>方位を規定する本実施形態では、従来の公知文献などで用いられる{110}<001>方位との混同を回避するため、「理想{110}<001>方位(理想Goss方位)」と記載する。
【0035】
ずれ角α:方向性電磁鋼板1で観測される結晶方位の、圧延面法線方向Z周りにおける理想{110}<001>方位からのずれ角。
ずれ角β:方向性電磁鋼板1で観測される結晶方位の、圧延直角方向C周りにおける理想{110}<001>方位からのずれ角。
ずれ角γ:方向性電磁鋼板1で観測される結晶方位の、圧延方向L周りにおける理想{110}<001>方位からのずれ角。
上記のずれ角α、ずれ角β、及びずれ角γの模式図を、図7に示す。
【0036】
角度φ3D:方向性電磁鋼板の圧延面上で隣接し且つ間隔が2mmである2つの測定点で測定する結晶方位の上記ずれ角を、それぞれ(α、β、γ)および(α、β、γ)と表したとき、φ3D=[(α-α+(β-β+(γ-γ1/2により得られる角度。
この角度φ3Dを、「空間3次元的な方位差」と記述することがある。
【0037】
現在、実用的に製造されている方向性電磁鋼板の結晶方位は、圧延方向と<001>方向とのずれ角が、概ね5°以下となるよう制御されている。この制御は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板1でも同様である。このため、方向性電磁鋼板の「粒界」を定義するとき、一般的な粒界(大傾角粒界)の定義である「隣接する領域の方位差が15°以上となる境界」を適用することができない。例えば、従来の方向性電磁鋼板では、鋼板面のマクロエッチングにより粒界を顕出するが、この粒界の両側領域の結晶方位差は通常、2~3°程度である。
【0038】
本実施形態では、後述するように、結晶と結晶との境界を厳密に規定する必要がある。このため、粒界の特定法として、マクロエッチングのような目視をベースとする方法は採用しない。
【0039】
本実施形態では、粒界を特定するために、方向性電磁鋼板1の圧延面上に2mm間隔で測定点を設定し、測定点ごとに結晶方位を測定する。例えば、結晶方位は、X線回折法(ラウエ法)により測定すればよい。ラウエ法とは、鋼板にX線ビームを照射して、透過または反射した回折斑点を解析する方法である。回折斑点を解析することによって、X線ビームを照射した場所の結晶方位を同定することができる。照射位置を変えて複数箇所で回折斑点の解析を行えば、各照射位置の結晶方位分布を測定することができる。ラウエ法は、粗大な結晶粒を有する金属組織の結晶方位を測定するのに適した手法である。
【0040】
本実施形態での測定点は、図9に示すように、屈曲部5に隣接する平面部4,4aの領域内に、屈曲部5と平面部4,4aの境界に対して平行方向および垂直方向に等間隔(2mm間隔)で配置する。該境界の平行方向には、方向性電磁鋼板1の幅中央を起点とし両側に20点ずつ計41点を配置し、該境界の垂直方向には該境界から1mm離れた点を起点として5点配置する。このようにして、合計205個の測定点を配置し、さらに205点の測定を少なくとも鋼板10枚に対して実施することで、合計2050点測定する。ただし、測定点が鋼板の幅方向端部に近い場合は方位測定の誤差が大きくなり異常なデータとなりやすいので、測定の際には切断端に近い測定点は避ける。つまり、鋼板幅が80mm程度以下の場合は、該境界の平行方向での測定点は適宜減らすものとする。なお、図9は、測定点の配置位置をわかりやすくするために、便宜上、各構成要素の寸法比率(間隔及びメッシュ間距離)を実際とは異なる比率にて示している。つまり図9に示すメッシュ図は、概念図であり、実際の寸法を反映するものではない。
ここで、屈曲部5と平面部4,4aの境界に対して垂直方向の計測対象域の大きさは、最大でも該境界から9mmの地点までとするのがよい。このように計測対象域が比較的短くするのは、屈曲部5で発生する弾性歪は塑性歪領域である屈曲部5の大きさの数倍程度の領域にしか広がっていないためである。あるいは、転位はせいぜい変形領域の数倍程度までしか移動しないため、亜粒界がこれ以上離れて存在していても亜粒界による歪の緩和や転位移動の障害として働く機能が作用しにくくなるためである。また該境界と平行方向の計測対象域の幅は80mm程度になるが、これは一般的な方向性電磁鋼板において少なくとも1つの結晶粒の全幅に亘る領域を計測することが好ましいことと、測定点の数が多くなると計測作業の効率が低下することを考慮して設定している。計測に十分な時間をかけるのであれば平行方向の測定点を増やすことは好ましく、巻鉄心を構成するように積層された方向性電磁鋼板の全幅に亘ることが好ましいことは言うまでもない。
また、屈曲部5近傍の平面部4,4aの結晶方位の測定が難しい場合には、平面部4,4aから、上述の垂直方向に上記の計測対象領域の5倍以上の領域の測定が可能となるように、鋼板を切り出し、その鋼板の結晶方位の測定点を平行方向および垂直方向に等間隔(2mm間隔)で配置する。平行方向には、鋼板の幅中央を起点とし両側に20点ずつ計41点を配置し、垂直方向には21点を配置し、合計861点の結晶方位の測定を鋼板10枚に対して実施し、合計8610点測定する。このように、コア素材としての鋼板が有している亜粒界の平均頻度を導出することにより、屈曲部近傍での結晶方位測定値の代わりの値としてもよい。もちろん、亜粒界の平均頻度を精度よく導出するために、垂直方向の測定点を増やすことも好ましく、上述のように平行方向の測定点を増やすことも好ましい。
【0041】
上述した測定を実施し、各測定点に関して、上記したずれ角α、ずれ角β、及びずれ角γを特定する。特定した各測定点での各ずれ角に基づいて、隣接する2つの測定点を結ぶ線分上に亜粒界が存在するか否かを判断する。具体的に、屈曲部5に隣接する第1の平面部4もしくは第2の平面部4aの領域内に、屈曲部5との境界である屈曲部境界に対して平行方向および垂直方向に2mm間隔で複数個の測定点を配置し、隣接する2つの測定点を結ぶ線分上に亜粒界が存在するか否かを判断する。
なお、本実施形態においては、2つの測定点の間における粒界の存在の有無および粒界の数を判断するための「粒界点」という概念を定義して規定してもよい。
【0042】
具体的には、隣接する2つの測定点についての上記角度φ3Dが、2.0°>φ3D≧0.5°である場合は該2点間の中央に境界条件BAを満足する粒界点が存在し、φ3D≧2.0°である場合は該2点間の中央に境界条件BBを満足する粒界点が存在すると判断する。
【0043】
境界条件BAを満足する粒界が、本実施形態が注目する亜粒界である。一方、境界条件BBを満足する粒界は、マクロエッチングで認識されていた従来の二次再結晶粒の粒界とほぼ同じであると言える。
【0044】
粒界点の判断は、上記平行方向および垂直方向で隣接する2点を結ぶ各線分について実施する。つまり斜めの方向で隣接する点については実施しない。平行方向に41点、垂直方向に5点の測定点を設定し、鋼板10枚を測定した場合、粒界点の判断は、3640箇所(つまり、線分の合計が3640)について行うこととなる。そして、粒界点の判定を行う箇所の総数(線分の合計)をNt(上述の測定では3640)とする。上記屈曲部5の境界と平行な方向(方向性電磁鋼板1の幅方向)で隣接する2点間で、上記境界条件BAを満足する粒界点の数をNacとし、上記境界条件BBを満足する粒界点の数をNbcとする。つまり、屈曲部境界と平行な方向の線分のうち、亜粒界を確認できる線分の数をNac、亜粒界を確認できない線分の数をNbcとする。さらに上記屈曲部5の境界と垂直な方向(方向性電磁鋼板1の圧延方向)で隣接する2点間で、上記境界条件BAを満足する粒界点の数をNalとし、上記境界条件BBを満足する粒界点の数をNblとする。つまり、屈曲部境界と垂直な方向の線分のうち、亜粒界を確認できる線分の数をNal、亜粒界を確認できない線分の数をNblとする。
【0045】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板1は、境界条件BBを満足する粒界に比較し、境界条件BAを満足する粒界を比較的高い頻度で存在させることで、屈曲部5で発生し平面部4,4aの領域に移動する転位を効果的に消失させたり、弾性歪の緩和を生じさせたりできる。その結果、鉄心効率が改善される。
注意を要するのは、境界条件BBを満足する粒界、すなわち従来認識されている一般的な粒界も該転位消失効果を有していることである。言い換えると、境界条件BAを満足する粒界がまったく存在しない場合であっても、境界条件BBを満足する粒界による転位消失効果は期待できることである。例えば結晶粒径を微細化して、境界条件BBを満足する粒界点の数が多くなれば転位消失効果はそれなりの大きさで発現する。ただし、この場合は微細粒による磁気特性低下が懸念される。亜粒界が従来の一般的粒界よりも転位消失に有効に作用するという特徴を明確にするため、本実施形態ではあえて境界条件BAを満足する粒界点の一定数以上の存在を必須条件とするものである。
【0046】
本実施形態に係る巻鉄心においては、積層された任意の方向性電磁鋼板1の少なくとも一つの屈曲部5近傍の平面部4,4aにおいて、以下の(1)式を満足することを特徴とする。
(Nac+Nal)/Nt≧0.010 ・・・・・(1)
(1)式の左辺の分子は、測定領域内で亜粒界が確認される粒界点の合計であり、この(1)式における規定は、上記で説明したメカニズムの基本的な特徴に対応するものとなる。すなわち、上記(1)における左辺((Nac+Nal)/Nt)は、単位面積あたりの亜粒界の存在密度を表す指標であり、本実施形態の巻鉄心においては、屈曲部5近傍における当該存在密度を一定以上確保することが重要である。上記(1)式を満たすことで、亜粒界が屈曲部5で発生した転位の平面部4,4a側への移動の障害となり、本発明の効果が発現する。(1)式の左辺は、好ましくは0.030以上、さらに好ましくは0.050以上である。また、巻鉄心に存在する屈曲部5に隣接する平面部4,4aのすべてにおいて上記(1)式を満足することが好ましいことは言うまでもない。
【0047】
別の実施形態としては、積層された任意の方向性電磁鋼板1の少なくとも一つの屈曲部5近傍の平面部4,4aにおいて、さらに以下の(2)式を満足することを特徴とする。
(Nac+Nal)/(Nbc+Nbl)>0.30・・・・・・(2)
この規定は、特に、亜粒界が通常の粒界よりも、転位の移動障害として作用しやすいという特徴に対応するもので、本実施形態の好ましい形態の一つに対応する。上記(2)式を満たすことで平面部領域への転位の移動を十分に抑制することができる。(2)式の左辺については、好ましくは0.80以上、さらに好ましくは1.80以上である。また、巻鉄心に存在する屈曲部5に隣接する平面部4,4aのすべてにおいて上記(2)式を満足することが好ましいことは言うまでもない。
【0048】
さらに別の実施形態としては、積層された任意の方向性電磁鋼板1の少なくとも一つの屈曲部5近傍の平面部4,4aにおいて、さらに以下の(3)式を満足することを特徴とする。
Nal/Nac≧0.80 ・・・・・・(3)
この規定は、上記で説明したメカニズムを考慮すると、特に平面部4,4aへ向かう方向(屈曲部5境界と垂直な方向)と交差するように存在する亜粒界は、平面部4,4aへ向かう方向(屈曲部5境界と垂直な方向)と平行に存在する亜粒界よりも、平面部4,4aの方向への転位の移動障害として作用しやすいという特徴に対応するものである。上記(3)式を満たすことで平面部領域への転位の移動を十分に抑制することができる。(3)式の左辺については、好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.5以上である。また、巻鉄心に存在する屈曲部5に隣接する平面部4,4aのすべてにおいて上記(3)式を満足することが好ましいことは言うまでもない。
【0049】
(2)方向性電磁鋼板
上述のように、本実施形態において用いられる方向性電磁鋼板1において母鋼板は、当該母鋼板中の結晶粒の方位が{110}<001>方位に高度に集積された鋼板であり、圧延方向に優れた磁気特性を有するものである。
本実施形態において母鋼板は、公知の方向性電磁鋼板を用いることができる。以下、好ましい母鋼板の一例について説明する。
【0050】
母鋼板の化学組成は、質量%で、Si:2.0%~6.0%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる。この化学組成は、結晶方位を{110}<001>方位に集積させたGoss集合組織に制御し、良好な磁気特性を確保するためである。その他の元素については、特に限定されるものではないが、本実施形態では、Si、Feおよび不純物に加えて、以下の選択元素を含有してもよい。例えば、Feの一部に置き換えて、下記元素を以下の範囲で含有することが許容される。代表的な選択元素の含有範囲は以下のとおりである。
C:0~0.0050%、
Mn:0~1.0%、
S:0~0.0150%、
Se:0~0.0150%、
Al:0~0.0650%、
N:0~0.0050%、
Cu:0~0.40%、
Bi:0~0.010%、
B:0~0.080%、
P:0~0.50%、
Ti:0~0.0150%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.10%、
Cr:0~0.30%、
Ni:0~1.0%、
Nb:0~0.030%、
V:0~0.030%、
Mo:0~0.030%、
Ta:0~0.030%、
W:0~0.030%。
これらの選択元素は、その目的に応じて含有させればよいので下限値を制限する必要がなく、実質的に含有していなくてもよい。また、これらの選択元素が不純物として含有されても、本実施形態の効果は損なわれない。また、実用鋼板においてC含有量を0%とすることは、製造上困難であるため、C含有量は0%超としてもよい。また、これら選択元素の内、Nb、V、Mo、Ta、W、特にNbについては、方向性電磁鋼板においてインヒビター形態に影響を及ぼし、亜粒界の存在頻度を高めるように作用する元素と知られており、本実施形態においては積極的に活用すべき元素と言える。亜粒界頻度を高める効果を期待する場合、Nb、V、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.0030~0.030質量%含有することが好ましい。なお、不純物は意図せず含有される元素を指し、母鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境等から混入する元素を意味する。不純物の合計含有量の上限は、例えば、5%であればよい。
【0051】
母鋼板の化学成分は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、母鋼板の化学成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。具体的には、例えば、被膜除去後の母鋼板の中央の位置から35mm角の試験片を取得し、島津製作所製ICPS-8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより特定できる。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。
【0052】
なお、上記の化学組成は、母鋼板としての方向性電磁鋼板1の成分である。測定試料となる方向性電磁鋼板1が、表面に酸化物等からなる一次被膜(グラス被膜、中間層)、絶縁被膜等を有している場合は、これらを下記の方法で除去してから化学組成を測定する。
例えば、絶縁被膜の除去方法として、被膜を有する方向性電磁鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬すればよい。具体的には、NaOH:30~50質量%+HO:50~70質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、80~90℃で5~10分間、浸漬した後に、水洗して乾燥することで、方向性電磁鋼板から絶縁被膜を除去できる。なお、絶縁被膜の厚さに応じて、上記の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する時間を変えればよい。
また、例えば、中間層の除去方法として、絶縁被膜を除去した電磁鋼板を、高温の塩酸に浸漬すればよい。具体的には、溶解したい中間層を除去するために好ましい塩酸の濃度を予め調べ、この濃度の塩酸に、例えば30~40質量%塩酸に、80~90℃で1~5分間、浸漬した後に、水洗して乾燥させることで、中間層が除去できる。通常は、絶縁被膜の除去にはアルカリ溶液を用い、中間層の除去には塩酸を用いるように、処理液を使い分けて各被膜を除去する。
【0053】
(3)方向性電磁鋼板の製造方法
母鋼板である方向性電磁鋼板1の製造方法は、特に限定されないが、後述するように仕上げ焼鈍工程を緻密に制御することによって、境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界(二次再結晶粒を分割する粒界)を意図的に作り込むことができる。このような境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界(二次再結晶粒を分割する粒界)を有する方向性電磁鋼板を用いて巻鉄心を製造することで、鉄心の効率劣化を抑制することが可能な巻鉄心を得ることができる。また、境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界(二次再結晶粒を分割する粒界)は、鉄心加工時の歪を緩和する効果を高く実現できる。そのため、絶縁コーティング焼き付け焼鈍時には、800℃から500℃までの冷却速度を60℃/秒以下とすることが好ましく、50℃/秒以下とすることがより好ましい。また当該冷却速度の下限は特に限定されるものではないが、生産性の悪化や炉体の冷却能力、冷却帯の長さが長くなり過ぎないよう考慮すれば、現実的には好ましくは10℃/秒以上、さらに好ましくは20℃/秒以上である。
仕上げ焼鈍工程は、具体的には、スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030~0.030%であるとき、加熱過程にて、700~800℃でのPHO/PHを0.030~5.0とするか、900~950℃でのPHO/PHを0.010~0.20とするか、950~1000℃でのPHO/PHを0.005~0.10とするか、1000~1050℃でのPHO/PHを0.0010~0.050とするか、のうちの少なくとも一方を制御することが好ましい。このとき、さらに、950~1000℃での保持時間を150分以上とするか、1000~1050℃での保持時間を150分以上とするか、のうちの少なくとも一方を制御することが好ましい。
また、1050~1100℃での保持時間は300分以上とすることが好ましい。
一方、上記スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030~0.030%でないときは、加熱過程にて、700~800℃でのPHO/PHを0.030~5.0とし、且つ900~950℃でのPHO/PHを0.010~0.20とするか、950~1000℃でのPHO/PHを0.0050~0.10とするか、1000~1050℃でのPHO/PHを0.0010~0.050とするか、のうちの少なくとも一つを制御することが好ましい。このとき、さらに、950~1000℃での保持時間を300分以上とするか、1000~1050℃での保持時間を300分以上とするか、のうちの少なくとも一方を制御することが好ましい。
また、1050~1100℃での保持時間は300分以上とすることが好ましい。
また、仕上げ焼鈍工程の加熱過程にて、鋼板中の一次再結晶領域と二次再結晶領域との境界部位に0.5℃/cm超の温度勾配を与えながら二次再結晶を生じさせることがより好ましい。例えば、仕上げ焼鈍の加熱過程の800℃から1150℃の温度範囲内で二次再結晶粒が成長中に上記の温度勾配を鋼板に与えることが好ましい。また、上記温度勾配を与える方向が圧延直角方向Cであることが好ましい。
上記のPHO/PHは、酸素ポテンシャルと呼ばれ、雰囲気ガスの水蒸気分圧PHOと水素分圧PHとの比である。
製造方法の好ましい具体例としては、例えば、Cを0.04~0.1質量%とし、その他は上記母鋼板の化学組成を有するスラブを1000℃以上に加熱して熱間圧延を行った後、必要に応じて熱延板焼鈍を行い、次いで、1回又は中間焼鈍を挟む2回以上の冷延により冷延鋼板とし、当該冷延鋼板を、例えば湿水素-不活性ガス雰囲気中で700~900℃に加熱して脱炭焼鈍し、必要に応じて更に窒化焼鈍し、焼鈍分離剤を塗布した上で、1000℃程度で仕上焼鈍し、900℃程度で絶縁皮膜を形成する方法が挙げられる。さらにその後、動摩擦係数および静摩擦係数を調整するための塗装などを実施してもよい。
また、一般的に「磁区制御」と呼ばれる処理を鋼板の製造工程において公知の方法で施した鋼板であっても本実施形態の効果を享受できる。
【0054】
本実施形態で使用される方向性電磁鋼板1の特徴である亜粒界は、例えば特許文献7に公開されているように、仕上焼鈍の温度域毎の処理雰囲気と滞留時間によって調整する。その方法は特に限定されるものでなく、公知の方法を適宜用いればよい。このように鋼板全体の亜粒界形成頻度を高めておくことで、巻鉄心を製造する際に屈曲部5が任意の位置に形成された場合でも、巻鉄心において上記の各式が満足されることが期待される。または、屈曲部5近傍に多くの亜粒界が配置された巻鉄心を製造するためには、亜粒界頻度の高い箇所が屈曲部5近傍に配置されるように鋼板を折り曲げる位置を制御する方法も有効である。この方法においては、鋼板製造時点で一次再結晶組織、窒化条件や焼鈍分離剤塗布の状態を局所的に変更するなど公知の方法に応じて二次再結晶の粒成長が局所的に変動した鋼板を製造し、亜粒界頻度を高めた箇所を選択して折り曲げ加工することでもよい。
【0055】
3.巻鉄心の製造方法
本実施形態に係る巻鉄心の製造方法は、前記本実施形態に係る巻鉄心を製造することができれば特に制限はなく、例えば背景技術において特許文献9~11として紹介した公知の巻鉄心に準じた方法を適用すれば良い。特にAEM UNICORE社のUNICORE(https://www.aemcores.com.au/technology/unicore/)製造装置を使用する方法は最適と言える。
【0056】
さらに公知の方法に準じて、必要に応じて熱処理を実施してもよい。また得られた巻鉄心本体10は、そのまま巻鉄心として使用してもよいが、更に必要に応じて、積み重ねられた複数の方向性電磁鋼板1を結束バンド等、公知の締付具等を用いて固定して巻鉄心としてもよい。
【0057】
本実施形態は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例
【0058】
以下、本発明の実施例を挙げながら、本発明の技術的内容について更に説明する。以下に示す実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した条件例であり、本発明は、この条件例に限定されるものではない。また本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0059】
(方向性電磁鋼板)
表1に示した成分(質量%、表示以外の残部はFe)を有するスラブを素材として、表2に示す成分(質量%、表示以外の残部はFe)および板厚t(μm))を有する方向性電磁鋼板(製品板)を製造した。ここで、仕上げ焼鈍条件は特許文献7に記載の仕上げ焼鈍条件などを用い屈曲部近傍の亜粒界頻度を変化させた。表1および表2における「-」は、含有量を意識した制御および製造をしておらず、含有量の測定を実施していない元素であることを意味する。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
(評価方法)
(1)亜粒界頻度
上記の方法で製造した鋼板(鋼種A1~D1)に対して、屈曲部近傍領域の8mm×80mmの領域において、前述のように合計205点の結晶方位の測定点を2mm間隔で配置し、結晶方位の測定を実施した。さらに当該測定を鋼板10枚に対し実施した。得られた合計2050点の測定結果に基づき、隣接する測定点間における粒界点の判定を3640箇所について行い、Nac、Nal、Nbc、Nbl等を求めた。
【0063】
(2)方向性電磁鋼板の磁気特性
方向性電磁鋼板1の磁気特性は、JIS C 2556:2015に規定された単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)に基づいて測定した。
【0064】
磁気特性として、800A/mで励磁したときの鋼板の圧延方向の磁束密度B8(T)と、励磁磁束密度が1.7T、周波数50Hzでの鋼板の鉄損値とを測定した。
【0065】
(3)鉄心の効率
各鋼板を素材として、表3および図8に示す形状を有するコアNo.a~cの巻鉄心を製造した。なお、L1はX軸方向に平行で、中心CLを含む平断面での巻鉄心の最内周にある互いに平行な方向性電磁鋼板1間の距離(内面側平面部間距離)である。L1´はX軸方向に平行で、最内周にある方向性電磁鋼板1の第1の平面部4の長さ(内面側平面部長さ)である。L2はZ軸方向に平行で、中心CLを含む縦断面での巻鉄心の最内周にある互いに平行な方向性電磁鋼板1間の距離(内面側平面部間距離)である。L2´はZ軸方向に平行で、最内周にある方向性電磁鋼板1の第1の平面部4の長さ(内面側平面部長さ)である。L3はX軸方向に平行で、中心CLを含む平断面での巻鉄心の積層厚さ(積層方向の厚さ)である。L4はX軸方向に平行で中心CLを含む平断面での巻鉄心の積層鋼板幅である。L5は巻鉄心の最内部の互いに隣り合って、かつ、合わせて直角をなすように配置された平面部間距離(屈曲部間の距離)である。言い換えると、L5は、最内周の方向性電磁鋼板1の平面部4,4aのうち、最も長さが短い平面部4aの長手方向の長さである。rは巻鉄心の内面側の屈曲部5の曲率半径であり、φは巻鉄心の屈曲部5の曲げ角度である。
得られた巻鉄心の鉄損を測定し、それらの鉄損の比として算出される通称ビルディングファクター(BF)と呼ばれる鉄心効率を測定した。ここでBFとは、巻鉄心の鉄損値を、巻鉄心の素材である方向性電磁鋼板の鉄損値で割った値である。BFが小さいほど、素材鋼板に対する巻鉄心の鉄損が低減することを示している。なお本実施例では、BFが1.12以下であった場合を、鉄損効率の悪化を抑制できたものとして評価した。
【0066】
【表3】
【0067】
(実施例1;No.1~6)
鋼種A1を用い、仕上焼鈍雰囲気およびヒートサイクル条件で亜粒界頻度を変えた鋼板A1-(1~6)を製造し、コアNo.aの巻鉄心を製造し、鉄心効率を評価した。
(実施例2;No.7~12)
鋼種B1を用い、脱炭焼鈍時の加熱速度を50~400℃/sとし、部分的に結晶粒径を変えた鋼板B1-(1~6)を製造し、コアNo.bの巻鉄心を製造し、鉄心効率を評価した。
(実施例3;No.13~25)
鋼種C1を用い、仕上焼鈍の雰囲気、温度勾配条件で亜粒界頻度を顕著に変えた鋼板C1-(1~9)を製造し、C1-8においては折り曲げ形状(内面側曲率半径r)を変えたコアNo.bの巻鉄心を製造し、鉄心効率を評価した(主として、亜粒界頻度の大小および曲げ形態の影響の違いを評価した)。
(実施例4;No.26~36)
鋼種D1を用い、仕上焼鈍の雰囲気、温度勾配条件で亜粒界頻度を顕著に変えた鋼板D1-(1~11)を製造し、コアNo.cの巻鉄心を製造し、鉄心効率を評価した(主として、亜粒界頻度の大小および曲げ形態の影響の違いを評価した)。
(実施例5;No.37~52)
鋼種E1~T1を用い、仕上焼鈍の雰囲気および保持時間、ならびに温度勾配条件で亜粒界頻度を顕著に変えた鋼板を製造し、コアNo.a~cのいずれかの巻鉄心を製造し、鉄心効率を評価した。
【0068】
そして、実施例1~実施例3における鉄心効率評価結果を表4に示す。なお、表4の(1)~(3)式の「判定」において、表記「〇」は、式を満足していた場合を意味し、表記「×」は、式を満足していなかった場合を意味する。
【0069】
【表4A】
【0070】
【表4B】
【0071】
【表4C】
【0072】
【表4D】
【0073】
【表4E】
【0074】
【表4F】
【0075】
【表4G】
【0076】
【表4H】
【0077】
【表4I】
【0078】
以上の結果より、本発明の巻鉄心は、少なくとも一つのコーナー部3において、2つ以上存在する屈曲部5の少なくとも一つについて上述した(1)式を満たすため、低鉄損な特性を備えることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、曲げ加工された鋼板を積層してなる巻鉄心において、不用意な効率の悪化を効果的に抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0080】
1 方向性電磁鋼板
2 積層構造
3 コーナー部
4 平面部
5 屈曲部
6 接合部
10 巻鉄心本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9