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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】通信用電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/18 20060101AFI20230117BHJP
【FI】
H01B11/18 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022567448
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2021047520
(87)【国際公開番号】W WO2022138704
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020214860
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安好 悠太
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 達也
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-53956(JP,A)
【文献】特開2016-207298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
有機ポリマーを含有し、前記導体の外周を被覆する絶縁層と、
前記絶縁層の外周を被覆する金属箔と、
有機ポリマーと、粉末状の磁性材料とを含有し、前記金属箔の外周を被覆する磁性シース層と、を有し、
前記磁性シース層の引張弾性率が、前記絶縁層の引張弾性率よりも低く、
融点100℃以下の有機ポリマーを低融点ポリマーとし、各層を構成する有機ポリマー成分の中で、前記低融点ポリマーが占める質量割合を、低融点成分割合として、
前記低融点成分割合が、前記磁性シース層において、前記絶縁層よりも大きくなっている、通信用電線。
【請求項2】
前記通信用電線はさらに、金属素線を編んだ編組体として構成され、前記金属箔の外周を被覆する編組層を有し、
前記磁性シース層は、前記編組層の外周を被覆している、請求項1に記載の通信用電線。
【請求項3】
前記磁性シース層において、前記低融点ポリマーの含有量が、融点が100℃を超える高融点ポリマーの含有量よりも少ない、請求項1または請求項2に記載の通信用電線。
【請求項4】
前記低融点成分割合が、
前記磁性シース層において、15%以上、45%以下であり、
前記絶縁層において、10%以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の通信用電線。
【請求項5】
前記磁性シース層は前記低融点ポリマーとして、エチレンと極性モノマーとの共重合体を含有している、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の通信用電線。
【請求項6】
3点曲げ試験により評価される柔軟性が、23℃と150℃の両方において、前記磁性シース層において、前記絶縁層以上となっている、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の通信用電線。
【請求項7】
前記磁性シース層が、有機ポリマー成分100質量部に対し、前記磁性材料を200質量部以上800質量部以下含有する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の通信用電線。
【請求項8】
前記通信用電線はさらに、前記磁性シース層の外周に、有機ポリマーを含有し、磁性材料を含有しないアウターシース層を有する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の通信用電線。
【請求項9】
前記低融点成分割合が、前記磁性シース層において、前記アウターシース層よりも大きくなっている、請求項8に記載の通信用電線。
【請求項10】
前記磁性シース層は、前記アウターシース層に対して接着性を有する有機ポリマーを含有する、請求項8または請求項9に記載の通信用電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信用電線に関する。
【背景技術】
【0002】
通信用電線として用いられる同軸電線においては、信号線の外周に外部導体として設けられる金属箔や金属編組層が、外部からのノイズの侵入や外部へのノイズの放出を低減するノイズシールドの役割を果たす。しかし、同軸電線は、外部の電磁波の干渉による通信信号への影響を受けやすいため、1GHz以上の高周波帯での使用が想定される場合には、金属箔や金属編組層を信号線の外周に設けるだけでは、ノイズの影響の低減において不十分となる場合がある。そこで、通信信号への外部電磁波の影響をさらに低減する観点から、フェライトコアと称されるもの等、磁性材料を含んだ部材が、同軸電線の外周に取り付けられる場合がある。あるいは、特許文献1,2等に開示されるように、金属箔や金属編組等、金属材料よりなるシールド体を設けたうえで、さらにその外側に磁性材料を含むシース層を設けて通信用電線が構成される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-197509号公報
【文献】特開平3-88214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通信用電線として用いられる同軸電線において、外部電磁波との干渉を低減することを目的に、フェライトコア等の部材を外周部に配置するとすれば、質量の増加と、通信用電線の配策に要するスペースの増大が、顕著となる。自動車等、使用する電線の軽量化や省スペース化が重要となっている分野において、通信用電線への電磁波対策に、フェライトコア等の部材の取り付けを採用することは、現実的ではない。
【0005】
一方で、特許文献1,2に開示される形態のように、同軸電線の外周に、磁性材料を含むシールド層を一体に設ければ、フェライトコアを用いる場合よりも、軽量性および省スペース性を高めやすい。しかし、この種の磁性材料を含むシース層は、電磁波の遮蔽を十分に行えるように、多量の磁性材料を含有することにより、柔軟性が低くなりやすい。自動車内等、屈曲や振動を頻繁に受ける環境で、柔軟性の低いシース層を有する同軸電線を使用し続けると、内側の金属箔に大きな負荷が印加される可能性がある。
【0006】
図3に、従来一般の同軸型の通信用電線1’を、軸線方向に沿って曲げた状態を示す。ここでは、導体2の中央部から、曲げの外側に相当する領域のみを表示している。通信用電線1’は、導体2の外周に絶縁層3を設けたコア線4の外側に、金属箔5と編組層6をこの順に有し、さらに編組層6の外周に磁性材料を含む磁性シース層7を有している。通信用電線1’を曲げた際に、金属箔5および編組層6は、コア線4の曲げに追随するが、磁性シース層7は、柔軟性が低いことにより、曲がりにくいため、コア線4の曲げに追随することができない。このため、図中に楕円で表示するように、曲げを加えられた編組層6が、磁性シース層7の内周面に、小面積の接触部A’で接することになる。すると、この小面積の接触部A’において、金属箔5が編組層6とコア線4の間に挟みつけられ、金属箔5に、圧迫や摩擦を伴う大きな負荷が印加されることになる。このように、金属箔5の外周に、曲げに追随しにくい磁性シース層7が配置されていることで、通信用電線1’の屈曲時に、コア線4と磁性シース層7の間に挟み込まれた金属箔5に大きな負荷が印加され、編組層6が設けられている場合には、特にその負荷の印加が深刻となる。その結果、金属箔5に破断や亀裂等の損傷が発生しやすくなる。金属箔5の損傷は、通信用電線1’のノイズ遮蔽性能の低下につながる。
【0007】
上記のような、柔軟性の低い磁性シース層の存在に起因する金属箔の損傷を避けることが、屈曲や振動を受ける環境でも、同軸型の通信用電線におけるノイズ遮蔽性能を維持するうえで重要である。さらに、自動車内等、高温になりやすい環境で通信用電線を使用する場合には、高温環境に置かれたとしても、同様に、磁性シース層の存在に起因する金属箔の損傷を避けて、高いノイズ遮蔽性能を維持できることが望まれる。
【0008】
以上に鑑み、金属箔の外周に設けた磁性材料を含むシース層の影響により、屈曲時に金属箔に損傷が発生しにくい通信用電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示にかかる通信用電線は、導体と、有機ポリマーを含有し、前記導体の外周を被覆する絶縁層と、前記絶縁層の外周を被覆する金属箔と、有機ポリマーと、粉末状の磁性材料とを含有し、前記金属箔の外周を被覆する磁性シース層と、を有し、前記磁性シース層の引張弾性率が、前記絶縁層の引張弾性率よりも低く、融点100℃以下の有機ポリマーを低融点ポリマーとし、各層を構成する有機ポリマー成分の中で、前記低融点ポリマーが占める質量割合を、低融点成分割合として、前記低融点成分割合が、前記磁性シース層において、前記絶縁層よりも大きくなっている。
【発明の効果】
【0010】
本開示にかかる通信用電線は、金属箔の外周に設けた磁性材料を含むシース層の影響により、屈曲時に金属箔に損傷が発生しにくいものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一実施形態にかかる通信用電線の構成を示す、軸線方向に垂直に切断した断面図である。
図2図2は、柔軟性の高い磁性シース層を有する本開示の一実施形態にかかる通信用電線に曲げを加えた状態を、軸線方向に沿った断面にて表示する断面図である。図2および次の図3では、導体の中央部よりも外側の領域のみを表示している。また、アウターシース層は省略している。
図3図3は、柔軟性の低い磁性シース層を有する従来一般の通信用電線に曲げを加えた状態を、軸線方向に沿った断面にて表示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施態様を説明する。
本開示にかかる通信用電線は、導体と、有機ポリマーを含有し、前記導体の外周を被覆する絶縁層と、前記絶縁層の外周を被覆する金属箔と、有機ポリマーと、粉末状の磁性材料とを含有し、前記金属箔の外周を被覆する磁性シース層と、を有し、前記磁性シース層の引張弾性率が、前記絶縁層の引張弾性率よりも低く、融点100℃以下の有機ポリマーを低融点ポリマーとし、各層を構成する有機ポリマー成分の中で、前記低融点ポリマーが占める質量割合を、低融点成分割合として、前記低融点成分割合が、前記磁性シース層において、前記絶縁層よりも大きくなっている。
【0013】
上記通信用電線においては、金属箔の外側に設けられる磁性シース層が、内側の絶縁層よりも低い引張弾性率を有している。つまり、磁性シース層が高い柔軟性を有している。そのため、通信用電線に曲げが加えられた際に、磁性シース層がその曲げによく追随し、磁性シース層あるいは任意にその内側に設けられた編組層等の部材と大きな面積で接触した状態を維持する。その結果、金属箔の特定の箇所に、磁性シース層から大きな負荷が集中して印加されにくくなり、屈曲を経ても金属箔に損傷が発生しにくくなる。さらに、上記通信用電線においては、低融点成分割合が、磁性シース層において、絶縁層よりも大きくなっている。つまり、磁性シース層の方が、絶縁層よりも融点100℃以下の低融点ポリマーを多く含んでいる。そのため、通信用電線が高温に曝された際に、磁性シース層の方が、絶縁層よりも、低い温度から軟化を開始する。その結果、高温になっても、磁性シース層の方が絶縁層以上の柔軟性を有する状態が維持されやすく、上記のような、磁性シース層が曲げに追随することによる金属箔の損傷の抑制が、高温になる環境においても、達成される。よって、上記通信用電線は、自動車内等、振動や屈曲を加えられ、かつ高温になる環境においても、高い電磁波遮蔽性能を維持するものとして、好適に利用することができる。
【0014】
ここで、前記通信用電線はさらに、金属素線を編んだ編組体として構成され、前記金属箔の外周を被覆する編組層を有し、前記磁性シース層は、前記編組層の外周を被覆しているとよい。金属箔の外周に、金属素線よりなる編組層が設けられることで、通信用電線に曲げが加えられた際に金属箔に印加される負荷が大きくなりやすいが、本開示の実施形態にかかる通信用電線においては、磁性シース層が通信用電線の曲げによく追随し、金属箔と編組層の間の接触面積が大きく維持されるため、編組層を介して磁性シース層から金属箔に印加される負荷が、効果的に軽減される。
【0015】
ここで、前記磁性シース層において、前記低融点ポリマーの含有量が、融点が100℃を超える高融点ポリマーの含有量よりも少ないとよい。また、前記低融点成分割合が、前記磁性シース層において、15%以上、45%以下であり、前記絶縁層において、10%以下であるとよい。すると、常温および高温において、磁性シース層の柔軟性を高くし、通信用電線の曲げに伴う金属箔の損傷を抑制する効果に、特に優れる。
【0016】
前記磁性シース層は前記低融点ポリマーとして、エチレンと極性モノマーとの共重合体を含有しているとよい。そのような共重合体は、低い融点と高い柔軟性を有するとともに、磁性材料に対して高い親和性を示す傾向がある。その結果、磁性シース層において、磁性シース層の柔軟性および機械的強度が、効果的に向上される。
【0017】
3点曲げ試験により評価される柔軟性が、23℃と150℃の両方において、前記磁性シース層において、前記絶縁層以上となっているとよい。このことは、常温から150℃程度の高温に至るまで、磁性シース層の方が絶縁層以上の柔軟性を維持することを意味する。よって、常温から高温に至るまでの環境において、通信用電線に曲げを加えた際に、磁性シース層を曲げに追随させることによって、金属箔への損傷の形成を効果的に抑制することができる。
【0018】
前記磁性シース層が、有機ポリマー成分100質量部に対し、前記磁性材料を200質量部以上800質量部以下含有するとよい。すると、磁性シース層が、高い電磁波遮蔽性能を示すとともに、有機ポリマー成分によって発揮される柔軟性を損ないにくくなる。
【0019】
前記通信用電線はさらに、前記磁性シース層の外周に、有機ポリマーを含有し、磁性材料を含有しないアウターシース層を有するとよい。アウタースース層は、磁性シース層を外部の物体との接触から保護するものとなる。また、磁性シースに生じた亀裂や割れ等の損傷が進展するのを、アウターシース層の存在によって、抑制することができる。
【0020】
この場合に、前記低融点成分割合が、前記磁性シース層において、前記アウターシース層よりも大きくなっているとよい。一般的には、磁性シース層は、磁性材料を含有することで、磁性材料を含有しないアウターシース層よりも、柔軟性が低くなりやすく、特に高温では柔軟性が低下しやすい。しかし、磁性シース層の方がアウターシース層よりも低融点成分割合が大きくなっていることで、常温から高温に至るまで、磁性シース層が高い柔軟性を維持し、通信用電線を曲げた際に、磁性シース層から金属箔に大きな負荷が印加されるのを、効果的に抑制することができる。
【0021】
また、前記磁性シース層は、前記アウターシース層に対して接着性を有する有機ポリマーを含有するとよい。すると、アウターシース層の存在により、磁性シース層に生じた損傷の進展を抑制する効果が、高くなる。
【0022】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を用いて、本開示の一実施形態にかかる通信用電線について、詳細に説明する。以下、各種特性については、特記しない限り、常温(おおむね23℃)で測定される値とする。
【0023】
(通信用電線の全体構成)
図1に、本開示の一実施形態にかかる通信用電線1について、軸線方向に垂直に切断した断面図を示す。通信用電線1は、同軸電線として構成されており、例えば1GHz以上の高周波域の信号を伝送するのに、好適に用いることができる。
【0024】
通信用電線1は、導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁層3とを有するコア線4を備えている。そして、コア線4の外周には、金属シールド層として、金属箔5と、金属素線を編んだ編組体として構成された編組層6とが設けられている。金属箔5が、コア線4の外周を被覆し、さらに金属箔5の外周を被覆して、編組層6が設けられている。編組層6の外周には、磁性材料を含有する磁性シース層7が設けられている。また、さらに磁性シース層7の外周に、任意に、磁性材料を含有しないアウターシース層8が設けられている。
【0025】
本実施形態にかかる通信用電線1においては、ともに有機ポリマーを含む層として形成されている磁性シース層7と絶縁層3が、引張弾性率および成分組成において、下記の関係1および関係2を有しており、さらに関係3を有していることが好ましい。
・関係1:磁性シース層7の引張弾性率が、絶縁層3の引張弾性率よりも低い。
・関係2:低融点成分割合が、磁性シース層7において、絶縁層3よりも大きくなっている。
・関係3:さらに、3点曲げ試験により評価される柔軟性が、23℃と150℃の両方で、磁性シース層7において、絶縁層3以上となっているとよい。
【0026】
ここで、引張弾性率は、JIS K 7161に準拠した引張試験により、評価することができる。また、融点100℃以下の有機ポリマーを低融点ポリマーとし、各層(絶縁層3と磁性シース層7のそれぞれ)を構成する有機ポリマー成分の中で、低融点ポリマーが占める質量割合を、低融点成分割合とする。換言すると、各層を構成する有機ポリマー成分全体を100質量部として、低融点ポリマーの含有量を、質量部を単位として表示した際の数値が、%を単位とする低融点成分割合となる。3点曲げ試験とは、JIS K 7171に準拠した曲げ特性試験により、試料の長さ方向両端を支持して中央部に曲げを加えた際の最大曲げ応力を、3点曲げ力として計測する試験であり、得られた3点曲げ力の値が小さいほど、柔軟性が高いことを示す。以下では、3点曲げ力(単位:N)として、対象としている層を長さ80mmに切り出したものに対して計測される値を表示している。
【0027】
後に詳しく説明するように、磁性シース層7と絶縁層3が上記関係1,2を有すること、さらに好ましくは関係3を有することで、常温および高温の環境において、通信用電線1を屈曲させた際に、磁性シース層7の存在に起因する損傷が、金属箔5において発生しにくくなっている。以下、通信用電線1の各構成部材について、詳細に説明する。
【0028】
(導体)
導体2は、電気信号の伝送を担うものである。導体2を構成する材料としては、種々の金属材料を用いることができるが、高い導電性を有する等の点から、銅合金を用いることが好ましい。導体2は、単線として構成されてもよいが、屈曲時の柔軟性を高める等の観点から、複数の素線(例えば7本)が撚り合わせられた撚線として構成されることが好ましい。この場合に、素線を撚り合わせた後に、圧縮成形を行い、圧縮撚線としてもよい。導体2が撚線として構成される場合に、全て同じ素線よりなっても、2種以上の素線を含んでいてもよい。導体2の径は、特に限定されるものではない。導体断面積として、0.05mm以上、また1.0mm以下の範囲を例示することができる。
【0029】
(絶縁層)
絶縁層3は、コア線4において、導体2を絶縁するものであり、絶縁性の有機ポリマーを含んでいる。磁性シース層7との間に上記関係1および関係2を満たす限りにおいて、有機ポリマーの種類は、特に限定されるものではないが、ポリオレフィンやオレフィン系共重合体等のオレフィン系ポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系ポリマー、各種エンジニアリングプラスチック、エラストマー、ゴム等を挙げることができる。有機ポリマーは、1種のみを用いても、混合、積層等により、2種以上を合わせて用いてもよい。有機ポリマーは、架橋されていてもよく、また、発泡されていてもよい。
【0030】
通信特性を高める観点からは、絶縁層3を構成する有機ポリマーとして、上記で列挙したうち、低分子極性のものを用いることが好ましい。例えば、ポリプロピレン(PP)をはじめとするポリオレフィン等、無極性の有機ポリマーを用いることが好ましい。ポリオレフィンとしては、ホモPP等のホモポリオレフィンを用いても、ブロックPP等のブロックポリオレフィンを用いてもよい。絶縁層3は、変性ポリオレフィン等、極性を有する有機ポリマーを含んでもよいが、その含有量は、有機ポリマー成分全体に対する質量割合で、10%以下、さらには5%以下に留めておくことが好ましい。
【0031】
関係1,2に規定されるとおり、絶縁層3は、磁性シース層7との比較において、高い引張弾性率を有し、低融点ポリマーを少量しか含まない。それらの観点から、絶縁層3における低融点成分割合、つまり融点100℃以下の低融点ポリマーの割合が、10%以下、さらには5%以下であることが好ましく、その少量の低融点ポリマー以外のポリマー成分は、融点が100℃超、好ましくは150℃以上の高融点ポリマーであるとよい。絶縁層3は、低融点ポリマーを全く含有しなくてもよいが、ある程度の柔軟性や押出し成形性を確保する観点からは、低融点成分割合にして1%以上の低融点ポリマーを含む形態も好ましい。絶縁層3に含有させることができる低融点ポリマーとしては、酸変性された水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)等の熱可塑性エラストマー、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリエチレン等の酸変性ポリオレフィン、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等のエチレン系共重合体を例示することができる。
【0032】
絶縁層3は、有機ポリマーに加え、適宜、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、金属水酸化物等の難燃剤、銅害防止剤、ヒンダードフェノール系や硫黄系等の酸化防止剤、酸化亜鉛等の金属酸化物を例示することができる。ただし、絶縁層3は、磁性シース層7に含有されるような、磁性材料よりなる添加剤は、含有しない方がよい。
【0033】
絶縁層3は、材料全体として、磁性シース層7よりも高い引張弾性率を有していれば、絶対値としてどのような引張弾性率を有するものであってもよいが、磁性シース層7の引張弾性率を相対的に低くしやすくするとともに、コア線4の曲げをある程度制限することで、曲げに伴う金属箔5の損傷を避ける観点から、絶縁層3の引張弾性率は、1600MPa以上、さらには1695MPa以上であるとよい。一方、絶縁層3においても、十分な柔軟性を確保する観点から、絶縁層3の引張弾性率は2500MPa以下であるとよい。また、絶縁層3の3点曲げ力は、上記関係3を充足しやすくするとともに、常温および室温においてコア線4の曲げをある程度制限する観点から、23℃で2.0N以上、150℃で0.8N以上であるとよい。一方、常温から高温に至るまで、絶縁層3の柔軟性を確保する観点から、絶縁層3の3点曲げ力は、23℃で3.3N以下、150℃で2.0N以下であるとよい。絶縁被覆3の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1mm以上、また1.0mm以下の範囲を例示することができる。
【0034】
(金属箔)
金属箔5は、金属材料の薄膜として構成されている。金属箔5は、コア線4に対して侵入するノイズ、またコア線4から放出されるノイズを遮蔽する。金属箔5を構成する金属の種類は、特に限定されるものではなく、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を例示することができる。金属箔5は、単一の金属種より構成されても、2種以上の金属種の層が積層されてもよい。また、金属箔5は、独立した金属薄膜よりなる形態のほか、ポリエチレンテレフタレート(PET)をはじめとするポリマーフィルム等の基材に、蒸着、めっき、接着等によって金属層が結合されたものであってもよい。金属箔5が基材を有する場合の方が、基材の寄与により、金属箔5の強度が向上し、屈曲時の金属箔5の損傷が起こりにくくなる。一方で、金属箔5が独立した金属薄膜より構成されている場合の方が、通信用電線1に曲げを加えた際の金属箔5への負荷の印加を磁性シース層7の特性と組成を規定することで低減することの効果が、相対的に高くなる。ノイズ遮蔽性を高める観点から、金属箔5は、コア線4に対して、縦添え状に配置することが好ましい。ノイズ遮蔽効果を高める観点から、金属箔の厚さは、1μm以上であることが好ましい。一方、通信用電線1を曲げた際に、金属箔5が追随して曲げ変形しやすいように、また、絶縁層3および磁性シース層7の材料の選択による金属箔5の損傷抑制の効果を高く得る観点から、金属箔5の厚さは、40μm以下であることが好ましい。
【0035】
(編組層)
編組層6は、複数の金属素線が相互に編み込まれて、中空筒状に成形された編組体として構成されている。編組層6は、外部導体として機能し、金属箔5とともに、コア線4に対して侵入するノイズ、またコア線4から放出されるノイズを遮蔽する役割を果たす。編組層6を構成する金属素線としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料、あるいはそれら金属材料の表面に、スズ等によってめっきを施したものを例示することができる。
【0036】
金属箔5および編組層6は複数層としてもよく、また、金属箔5と編組層6の間、あるいはそれらの層の内外に、別の層を設けてもよい。ただし、後に説明するように、本実施形態にかかる通信用電線1においては、通信用電線1に曲げを加えた際に起こりうる、編組層6を介した磁性シース層7から金属箔5への負荷の印加を、磁性シース層7の特性と組成を規定することで低減しており、その効果を高める観点から、編組層6と金属箔5、また編組層6と磁性シース層7は、間に他の部材を介在させず、直接接触していることが好ましい。なお、編組層6は通信用電線1に必須に設けられるものではないが、磁性シース層7の内側に金属材料よりなる編組層が設けられることで、設けられない場合と比較して、通信用電線1を屈曲させた際に金属箔5に外側から印加される負荷が大きくなる。そのため、後に説明するように、磁性シース層7を高い柔軟性を有するものとすることで、金属箔5への負荷の印加を低減することの効果が、編組層6を設ける場合の方が大きくなる。
【0037】
(磁性シース層)
磁性シース層7は、金属箔5および編組層6を介して、コア線4の外周を被覆している。磁性シース層7は、編組層6に対して接合されておらず、通信用電線1に曲げを加えた際に、編組層6とは独立して変形する(図2参照)。
【0038】
磁性シース層7は、粒子状の磁性材料と、有機ポリマーとを含有している。磁性材料の粉末は、有機ポリマーより構成されるマトリクス中に分散された状態をとる。磁性シース層7に含有される磁性材料は、好ましくは強磁性材料であり、さらに好ましくは、軟磁性を有する金属または金属化合物である。磁性シース層7に、磁性材料、特に軟磁性材料が含有されることにより、通信用電線1において、優れたノイズ遮蔽効果を得ることができる。つまり、通信用電線1の外部からの電磁波が、通信用電線1に侵入し、ノイズとなってコア線4を伝送される信号に影響を与える現象、および、コア線4を伝送される信号に起因するノイズが、通信用電線1の外部に放出される現象を、抑制することができる。磁性シース層7に含有される磁性材料における磁性損失により、ノイズの要因となりうる高周波の電磁波が吸収され、減衰されるからである。通信用電線1において、ノイズ遮蔽効果は、金属箔5および編組層6によっても発揮されるが、通信用電線1を、1GHz以上のような高周波域の通信に用いる場合には、ノイズの影響が深刻になりやすく、金属箔5および編組層6とともに磁性シース層7を設けることで、ノイズの影響を効果的に低減することができる。
【0039】
高周波領域で、高いノイズ遮蔽性を示す軟磁性材料として、鉄(純鉄または少量の炭素を含む鉄)、ケイ素鋼、Fe-Si-Al合金(センダスト)、Fe-Cr-Al-Si合金やFe-Cr-Si合金等の磁性ステンレス鋼、Fe-Ni系合金(パーマロイ)、フェライト等を例示することができる。これらの材料の中で、ノイズ遮蔽性にとりわけ優れる等の観点から、Fe-Si-Al合金またはフェライトを用いることが、特に好ましい。フェライトとしては、Ni-Zn系のものを、特に好適に用いることができる。磁性材料は、1種のみを用いても、混合等により、2種以上を合わせて用いてもよい。
【0040】
磁性シース層7における磁性材料の含有量は、特に限定されるものではないが、高いノイズ遮蔽効果を得る等の観点から、有機ポリマー成分の合計を100質量部として、200質量部以上であることが好ましい。一方、柔軟性等、有機ポリマーによって発揮される特性を磁性シース層7において確保する観点から、その含有量は、800質量部以下であることが好ましい。
【0041】
磁性シース層7においては、絶縁層3との間に上記関係1および関係2を満たす限りにおいて、用いられる有機ポリマーの種類は、特に限定されるものではない。例えば、ポリオレフィンやオレフィン系共重合体等のオレフィン系ポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系ポリマー、各種エンジニアリングプラスチック、エラストマー、ゴム等を用いることができる。有機ポリマーは、1種のみを用いても、混合、積層等により、2種以上を合わせて用いてもよい。後述するように、融点が100℃以上の有機ポリマーと、融点が100℃を超える有機ポリマーを混合して用いる形態が特に好ましい。有機ポリマーは、架橋されていてもよく、また、発泡されていてもよい。
【0042】
磁性シース層7は、上記関係2のように、融点100℃以下の低融点ポリマーを、少なくとも絶縁層3より多く含有している。磁性シース層7に含有される低融点ポリマーとしては、オレフィン系熱可塑性樹脂や、SEBSをはじめとするスチレン系エラストマー等、各種熱可塑性ポリマーを好適に用いることができる。特に好適に用いることができるオレフィン系熱可塑性樹脂として、ポリエチレン等のポリオレフィン、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリエチレン等の酸変性ポリオレフィン、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-酢酸ブチル共重合体(EBA)等の、エチレンと極性モノマーとの共重合体、ポリアミド共重合体等を挙げることができる。中でも、エチレンと極性モノマーとの共重合体は、低い融点を有する点に加え、極性を有することで磁性材料との間に高い親和性を示す点でも、磁性シース層7を構成する有機ポリマーとして用いるのに適している。ポリマー成分と磁性材料との間の親和性が高いことで、磁性シース層7の柔軟性および機械的強度が向上する。好ましくは、低融点ポリマーの融点は、90℃以下であるとよい。低融点ポリマーとしては、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。有機ポリマーの融点は、示差走査熱量測定法(DSC)によって計測することができる。
【0043】
有機ポリマーを含む組成物は、融点の低い有機ポリマーを多く含有することで、柔軟になり、引張弾性率が低くなる傾向がある。よって、磁性シース層7が低融点ポリマーを多く含むことで、絶縁層3との間で、低融点ポリマーの含有量そのものを規定する上記関係2を満たすのみならず、引張弾性率を規定する関係1も満たすものとなりやすい。磁性シース層7は、低融点ポリマーを多く含むほど、柔軟性が高くなるが、融点100℃以下の低融点ポリマーに加えて、融点が100℃を超える高融点ポリマーを含んでいることが好ましい。高融点ポリマーの含有により、磁性シース層7において、耐加熱変形性を確保することができる。つまり、高温環境における磁性シース層7の変形を抑制することができる。
【0044】
磁性シース層7における低融点成分割合は、15%以上、さらには25%以上であるとよい。すると、磁性シース層7が、常温および高温の環境で、高い柔軟性を示すものとなりやすい。一方、磁性シース層7における低融点ポリマーの含有量は、高融点ポリマーの含有量より少ないとよい。つまり、低融点成分割合にして、50%未満であるとよい。さらに好ましくは、低融点成分割合が、45%以下、さらには40%以下であるとよい。すると、高い耐加熱変形性が得られる。高融点ポリマーとしては、ブロックPP等のポリオレフィンを例示することができる。好ましくは、高融点ポリマーは、130℃以上の融点を有しているとよい。高融点ポリマーとしては、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0045】
磁性シース層7は、接着性成分として、アウターシース層8に対して接着性を有する有機ポリマーを含有していることが好ましい。それにより、磁性シース層7とアウターシース層8の間の密着性が高くなる。すると、後にアウターシース層8に関する項で説明する、磁性シース層に亀裂や割れ等の損傷が発生した場合に、アウターシース層8の存在により、その損傷の進展を抑制する効果が、高くなる。磁性シース層7に亀裂等の損傷が生じても、その損傷の周囲の磁性シース層7の各部位が、アウターシース層8に接着された状態に維持されることにより、磁性シース層7の組織の崩壊が進行しにくくなるからである。例えば、アウターシース層8がオレフィン系ポリマーを主成分とするものである場合に、磁性シース層7に含有される接着性成分としては、酸変性ポリオレフィンを好適に用いることができる。また、アウターシース層8がポリ塩化ビニル等のハロゲン系ポリマーを主成分とするものである場合に、磁性シース層7に含有される接着性成分としては、ポリアミドを好適に用いることができる。低融点ポリマーを接着性成分として兼用してもよく、酸変性ポリオレフィンやポリアミドは、そのように、低融点ポリマーかつ接着性成分として用いることができる。
【0046】
磁性シース層7は、磁性材料と有機ポリマーに加え、適宜、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、難燃剤、銅害防止剤、酸化防止剤、金属酸化物等を例示することができる。
【0047】
磁性シース層7は、有機ポリマーおよび磁性材料を含む材料全体として、関係1のように、絶縁層3より低い引張弾性率を有している。絶対値として、磁性シース層7がどのような引張弾性率を有するものであってもよいが、磁性シース層7の柔軟性を十分に高める観点から、1500MPa以下、さらには1000MPa以下であるとよい。一方、磁性シース層7の材料強度を確保する等の観点から、磁性シース層7の引張弾性率は、200MPa以上、さらには500MPa以上であるとよい。磁性シース層7の引張弾性率は、用いる有機ポリマーの種類や磁性材料の含有量等によって調整することができる。
【0048】
さらに、磁性シース層7は、全体として、絶縁層3との間に、上記関係3を満たすことが好ましい。つまり、3点曲げ試験により評価される柔軟性が、磁性シース層7において、絶縁層3以上となっている。換言すると、23℃と150℃の両方で、3点曲げ試験によって計測される3点曲げ力として、磁性シース層7について得られる値が、絶縁層3について得られる値以下となっているとよい。磁性シース層7の3点曲げ力の大きさ自体は、特に限定されるものではないが、関係3を満たしやすくし、磁性シース層7において、常温から高温に至るまで十分な柔軟性を確保する観点から、23℃で2.0N以下、さらには1.5N以下であるとよく、150℃で1.0N以下、さらには0.5N以下であるとよい。一方、磁性シース層7の材料強度を確保しやすくする等の観点から、磁性シース層7の3点曲げ力は、23℃で0.2N以上、150℃で0.1N以上であるとよい。磁性シース層7の3点曲げ力の大きさは、用いる有機ポリマーの種類や磁性材料の含有量等によって調整することができる。
【0049】
磁性シース層7の厚さは、ノイズ遮蔽効果を高める等の観点から、0.1mm以上とするとよい。一方、コア線4の曲げに追随しやすくする等の観点から、その厚さは、0.5mm以下としておくとよい。磁性シース層7としては、含有される有機ポリマーや磁性材料の種類や量を異ならせて、複数種の層を積層して設けてもよい。その場合には、各層が、単独で、また集合体として、上記関係1,2を満たすものとする。
【0050】
(アウターシース層)
アウターシース層8は、磁性シース層7の外周を被覆して設けられる層であり、通信用電線1全体としての外周に露出している。アウターシース層8は、不可避的不純物を除いて、磁性材料を含有していない。
【0051】
アウターシース層8は、省略してもよいが、設けておくことで、磁性シース層7およびさらに内側の各構成部材を、外部の物体との接触等から、物理的に保護する役割を果たす。また、磁性シース層7においては、磁性材料の含有により、硬度が高くなり、亀裂や割れ等の損傷が発生しやすくなる場合があるが、磁性シース層7がアウターシース層8で被覆されていることで、磁性シース層7に亀裂や割れ等の損傷が生じることがあっても、その損傷が進展し、大きな空隙の形成に至るのを、抑制することができる。すると、損傷の進展によって、磁性シース層7の面に空隙が形成され、その空隙を介して電磁波が漏洩することで、磁性シース層7のノイズ遮蔽性能が低下する事態が、起こりにくくなる。
【0052】
アウターシース層8は、有機ポリマーを含んでいることが好ましい。具体的な有機ポリマーとしては、磁性シース層7を構成する有機ポリマーと同様に、ポリオレフィンやオレフィン系共重合体等のオレフィン系ポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系ポリマー、各種エンジニアリングプラスチック、エラストマー、ゴム等を挙げることができる。中でも、柔軟性や磁性シース層7との接着性に優れる等の点から、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)等、比較的高融点のエラストマーを用いることが好ましい。有機ポリマーは、1種のみを用いても、混合、積層等により、2種以上を合わせて用いてもよい。有機ポリマーは、架橋されていてもよく、また、発泡されていてもよい。
【0053】
アウターシース層8は、絶縁層3と同様に、磁性シース層7よりも、低融点成分割合が小さくなっていることが好ましい。アウターシース層8が多量の低融点ポリマーを含まないことで、アウターシース層8において高い耐熱性を確保することができる。また、相対的に、磁性シース層7を、高温でも高い柔軟性を示すものとしやすい。一方、アウターシース層8は、磁性シース層7の柔軟性を妨げないようにする観点から、絶縁層3よりは低融点成分割合が大きくなっていることが好ましい。それらの観点から、アウターシース層8における低融点成分量は、5%以上、また20%以下であることが好ましい。アウターシース層8に含まれるそれら低融点ポリマー以外のポリマー成分は、融点が100℃超、さらには150℃以上の高融点ポリマーであるとよい。アウターシース層8に含まれる低融点ポリマーとしては、絶縁層3と同様、酸変性された水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)等の熱可塑性エラストマー、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリエチレン等の酸変性ポリオレフィン、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等のエチレン系共重合体を例示することができる。
【0054】
アウターシース層8は、有機ポリマーに加え、適宜、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、金属水酸化物等の難燃剤、銅害防止剤、ヒンダードフェノール系や硫黄系等の酸化防止剤、酸化亜鉛等の金属酸化物を例示することができる。
【0055】
アウターシース層8は、構成材料全体として、磁性シース層7の構成材料よりも、低い引張弾性率を有していることが好ましい。すると、アウターシース層8が高い柔軟性を有することにより、アウターシース層8が、磁性シース層7の柔軟性を妨げにくくなる。磁性シース層7とアウターシース層8との複合体全体としての弾性率が、1000MPa以下であるとよい。さらに、磁性シース層7とアウターシース層8との複合体全体として、3点曲げ試験によって評価される柔軟性が、少なくとも150℃において、絶縁層3よりも高いことが好ましい。すると、高温環境において、磁性シース層7がアウターシース層8を伴って柔軟に曲げ変形することができ、曲げに伴う金属箔5への負荷を小さく抑えやすくなる。
【0056】
アウターシース層8の厚さは、特に限定されるものではないが、磁性シース層7に対する保護性能を高める等の観点から、0.1mm以上とするとよい。一方、柔軟性を高めやすくする等の観点から、アウターシース層8の厚さは、1.0mm以下としておくとよい。
【0057】
(通信用電線の曲げと金属箔の損傷)
本実施形態にかかる通信用電線1においては、絶縁層3と磁性シース層7が、上記関係1および関係2を満たすことにより、常温および高温の環境で、通信用電線1に曲げが加えられた際に、金属箔5に損傷が発生しにくくなっている。
【0058】
図3に、磁性シース層7の柔軟性が絶縁層3の柔軟性よりも低くなった従来一般の通信用電線1’を、軸線方向に沿って曲げた状態を模式的に示す。図3および次に説明する図2では、導体2の中央近傍から曲げの外側に相当する領域のみを表示している。また、アウターシース層8は省略している。一般に、有機ポリマーは高い柔軟性を示すが、磁性材料等の無機材料を有機ポリマーに添加することで、材料全体としての柔軟性が低下することがある。よって、通信用電線1’において、磁性材料を含まない絶縁層3に比べて、磁性材料を含んだ磁性シース層7の柔軟性が低くなりやすい。このように磁性シース層7の柔軟性が低い通信用電線1’を、軸線方向に沿って曲げると、図3に示すように、絶縁層3の有機ポリマーが高い柔軟性を有することにより、コア線4が柔軟に曲げ変形される。薄膜構造をとる金属箔5、および金属細線が編み込まれた構造をとる編組層6も、柔軟にその変形に追随する。しかし、磁性シース層7は、柔軟性が低いことにより、通信用電線1’全体としての曲げ、またコア線4の曲げに追随することができず、内側の各層よりも曲率半径の大きい曲げ状態をとることになる。
【0059】
すると、図3中に楕円で表示するように、曲げの外側において、編組層6が、磁性シース層7の内周面と、小面積の接触部A’で接することになる。この接触部A’においては、磁性シース層7から内側に向かって力学的負荷が印加される。この力学的負荷は、編組層6を介して、金属箔5に印加され、金属箔5は、編組層6とコア線4の間に、挟み付けられることになる。金属箔5は、金属薄膜より構成されていることにより、有機ポリマーを含む各層3,7,8や編組層6よりも耐屈曲性に劣り、破断等の損傷を生じやすい。よって、金属箔5が、磁性シース層7から編組層6を介して、大きな負荷を印加され、磁性シース層7とコア線4に挟まれた状態で、圧迫や摩擦を受けると、破断等の損傷を生じる可能性がある。図3のように、小面積の接触部A’に付加が集中すると、金属箔5に損傷が発生する可能性が高くなる。金属箔5に、破断や亀裂等の損傷が発生すると、通信用電線1’におけるノイズ遮蔽能力の低下につながる。
【0060】
しかし、本実施形態にかかる通信用電線1においては、関係1に規定されるように、磁性シース層7の引張弾性率が、絶縁層3の引張弾性率よりも低くなっている。つまり、磁性シース層7が、絶縁層3よりも高い柔軟性を示す。すると、図2に示すように、通信用電線1の軸線方向に沿って曲げを加えた際に、絶縁層3の引張弾性率が高くなっていることにより、絶縁層3を含むコア線4の柔軟な曲げが制限され、小さい曲率半径での曲げが起こりにくくなる。一方で、磁性シース層7は、高い柔軟性を有することで、コア線4および金属箔5、編組層6の曲げによく追随して曲がることができる。すると、図2に楕円で示すように、曲げの外側において、編組層6が磁性シース層7の内周面に、大面積の接触部Aで接触した状態を維持したまま、通信用電線1が全体として曲がることになる。この場合には、磁性シース層7から編組層6を介して金属箔5に印加される力学的負荷が、大面積の接触部Aに分散され、金属箔5の各部に印加される負荷が小さく抑えられる。すると、金属箔5に、亀裂や破断等の損傷が発生しにくくなり、金属箔5によって発揮されるノイズ遮蔽効果が、通信用電線1の曲げを経ても高く維持される。
【0061】
さらに、本実施形態にかかる通信用電線1は、常温での引張弾性率を規定する関係1を満たすのみならず、関係2のように、低融点成分割合が、磁性シース層7において、絶縁層3よりも大きくなっている。関係2を満たすことにより、常温のみならず高温でも、通信用電線1の曲げに伴う金属箔5の損傷が発生しにくくなっている。一般に、有機ポリマーの柔軟性は、高い温度応答性を示し、高温になって有機ポリマーが軟化を起こすと、柔軟性が上昇するのに対し、磁性材料は、金属や金属化合物から形成されているため、数百度程度の温度では、物性に大きな温度依存性を示さない。よって、通信用電線1において、磁性材料を含有しない絶縁層3は、高温環境において常温よりも顕著に高くなった柔軟性を示しやすい一方、磁性材料を含有する磁性シース層7の柔軟性は、高温でも常温に比べて大幅には高くなりにくい。つまり、常温では、磁性シース層7が絶縁層3よりも高い柔軟性を示していたとしても、高温になった際に、絶縁層3の柔軟性が大幅に上昇する一方、磁性シース層7の柔軟性はあまり上昇しないことにより、両者の柔軟性の関係性が逆転し、絶縁層3の方が磁性シース層7よりも高い柔軟性を示す可能性がある。すると、常温では、図2のように、絶縁層3を含むコア線4の柔軟な曲げが制限されるとともに、磁性シース層7がコア線4に追随して曲がることができ、曲げに伴う金属箔5の損傷を回避できるとしても、高温になると、図3のように、絶縁層3を含むコア線4が柔軟に曲がる一方で、磁性シース層7がそのコア線4の曲げに追随することができなくなり、金属箔5に損傷が発生しやすくなる。
【0062】
これに対し、本実施形態にかかる通信用電線1においては、関係2のように、低融点成分割合が、磁性シース層7において、絶縁層3よりも大きくなっていることにより、加熱を受けた際に、磁性シース層7の方が絶縁層3よりも、低い温度から軟化を起こしやすい。融点の低い有機ポリマーの方が、また融点の低いポリマーの含有割合の多い組成物の方が、低い加熱温度でも軟化を起こすからである。磁性シース層7の方が、絶縁層3よりも低い加熱温度から、軟化による柔軟性の上昇を起こすことにより、引張弾性率の低さ(関係1)によって得られる磁性シース層7の柔軟性の高さが、高温になっても、絶縁層3に逆転されずに、保持される。すると、高温の環境において通信用電線1が曲げを受けた際にも、常温の場合と同様に、図2のように、磁性シース層7が、コア線4および金属箔5、編組層6に追随して柔軟に曲がることができる。その結果、高温環境においても、曲げに伴う大きな負荷の印加により、金属箔5が損傷を起こす事態を、避けやすくなる。
【0063】
高温環境でも常温環境と同様に、磁性シース層7が絶縁層3よりも高い柔軟性を維持することによる、高温環境下での通信用電線1の耐屈曲性の向上は、上記関係2の低融点成分割合の関係を満たすのみならず、関係3も満たす場合、つまり、3点曲げ試験により評価される柔軟性が、23℃と150℃の両方で、磁性シース層7において、絶縁層3以上となっている場合に、さらに効果的に達成される。関係2に従って、磁性シース層7における低融点成分割合を高めるほど、関係3も満たされやすくなり、高温における磁性シース層7の柔軟性が高くなるため、曲げへの追随性が良くなる。一方で、低融点成分の含有量を高融点成分の含有量よりも少なく抑えておけば、磁性シース層7において、高温での柔軟性に加えて、耐加熱変形性も確保することができる。
【0064】
以上のように、本実施形態にかかる通信用電線1においては、磁性シース層7が絶縁層3との比較において、所定の特性を有することで、常温および高温において、高い柔軟性を示す。そのため、常温および高温の環境において、通信用電線1に曲げが加えられた際に、金属箔5の特定の箇所に、編組層6を介して磁性シース層7から大きな負荷が印加されることで、亀裂や破断等の損傷が金属箔5に発生するのが、抑制される。その結果、金属箔5によって得られるノイズ遮蔽性が、高く維持されることになる。本実施形態にかかる通信用電線1は、自動車用等、屈曲や振動による曲げが頻繁に加えられ、しかも高温に曝されやすい環境における高速通信の用途に、好適に利用することができる。
【0065】
なお、上記に説明した通信用電線1は、同軸構造をとっていることで、屈曲時にコア線4と磁性シース層7の間に挟み込まれた金属箔5に大きな負荷が印加されるため、磁性シース層7の柔軟性の向上による負荷の低減の効果が特に大きく現れるが、通信用電線の構造は、そのような同軸型のものに限られない。通信を担うコア線の外周を被覆して金属箔5が設けられ、金属箔5の外周に、適宜編組層6を介して磁性シース層7が設けられたものであれば、どのような通信用電線であってもよい。同軸線以外の通信用電線として、コア線が1対の絶縁電線を含むツイストペア線やパラレルペア線を例示することができる。
【実施例
【0066】
以下に実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0067】
[通信用電線の作製]
銅合金の撚線として構成された導体の外周に、押出し成形によって絶縁層を形成して、コア線とした。絶縁層の構成材料としては、下の表1に、「絶縁層」として表示した各成分を混合したものを用いた。導体断面積は0.18mm、絶縁層の厚さは0.54mmとした。
【0068】
コア線の外周に、金属箔として、銅箔(厚さ25μm;厚さ9μmの銅薄膜と厚さ16μmのPETフィルムを厚さ1μm以下の接着層で接着したもの)を縦添え状に配置した。さらに、銅箔の外周に、編組層を形成した。編組層は、スズめっき軟銅線(TA線)よりなる一重編組として構成した。
【0069】
編組層の外周に、磁性シース層を形成した。磁性シース層としては、試料#1~#9のそれぞれにおいて、下の表2に示す有機ポリマーおよび磁性材料粉末を混合したものを、肉厚0.20mmで押出し成形した。さらに、各試料について、磁性シース層の外周に、押出し成形によってアウターシース層を形成することで、通信用電線を完成させた。アウターシース層の肉厚は0.20mmとした。アウターシース層の構成材料としては、いずれの試料についても、下の表1に、「アウターシース層」として表示した各成分を混合したものを用いた。
【0070】
絶縁層、磁性シース層、アウターシース層を構成する各成分としては、以下のものを用いた。
(有機ポリマー)
・ブロックPP1:日本ポリプロ社製 ブロックPP 「ノバテック BC06C」
・ブロックPP2:日本ポリプロ社製 ブロックPP 「ノバテック EC9GD」
・ホモPP:日本ポリプロ社製 「ノバテック EA9FTD」
・TPO1:ライオンデル・バセル社製 TPO 「Adflex Q200F」
・TPO2:エクソン・モービル社製 TPO 「サントプレーン 203-40」
・TPO3:日本ポリプロ社製 TPO 「ウェルネクス RMG02」
・EEA:NUC社製 「NUC 6940」
・酸変性SEBS:旭化成社製 「タフテック M1913」
(磁性材料)
・Fe-Si-Al合金:山陽特殊製鋼社製「FME3D-AH」
・Ni-Znフェライト:JFEケミカル社製「KNI-109」
(その他の添加剤)
・銅害防止剤:ADEKA社製 「CDA-1」
・ヒンダードフェノール系酸化防止剤:BASF社製 「Irganox 1010FF」
・硫黄系酸化防止剤:川口化学社製 「アンテージMB」(2-メルカプトベンゾイミダゾール)
・酸化亜鉛:ハクスイテック社製 「亜鉛華2種」
・難燃剤:協和化学工業株式会社製 「キスマ5」(水酸化マグネシウム)
【0071】
[評価]
(1)引張弾性率
絶縁層、磁性シース層、アウターシース層のそれぞれの構成材料について、引張弾性率の計測を行った。計測は、JIS K 7161に準拠した引張試験により、常温、大気中にて行った。計測試料としては、上記のように通信用電線を形成する途中で、計測対象とする層の形成まで完了した段階の電線に対し、その対象の層よりも内側の部材を引き抜いて除去したものを用いた。つまり、絶縁層に対する計測には、コア線から導体を除去した試料を用いた。磁性シース層に対する計測には、磁性シース層まで形成した電線から、内部のコア線と金属箔、編組層を除去した試料を用いた。アウターシース層に対する計測には、アウターシース層まで形成した通信用電線から、内部のコア線と金属箔、編組層を除去した試料を用いた。アウターシース層は磁性シース層に密着しており、両者を分離することは困難であるため、アウターシース層に対する計測は、磁性シース層との複合体に対して行った。よって、引張弾性率の計測結果には、磁性シース層の寄与も含まれることになる。
【0072】
(2)3点曲げ力
絶縁層、磁性シース層、アウターシース層のそれぞれの構成材料について、JIS K 7171に準拠した曲げ特性試験により、3点曲げ力の計測を行った。3点曲げ力の評価にも、上記引張弾性率の評価と同様に、対象とする層よりも内側の構成部材を抜き取った試料を用いた。上記引張弾性率の評価と同様、アウターシース層に対する評価は、磁性シース層との複合体に対して行った。計測に際しては、各試料を長さ80mmに切り出して、試料の両端を支持して中央部に曲げを加えた際の最大曲げ応力(単位:N)を計測し、3点曲げ力とした。計測は、大気中にて、常温(23℃)および150℃の環境で、それぞれ行った。
【0073】
(3)耐屈曲性
各試料にかかる通信用電線(アウターシース層まで形成したもの)に対して、耐屈曲性を評価した。具体的には、各通信用電線の同じ箇所を、曲げ直径(R)50mm、曲げ角度90度、屈曲速度5回/秒で屈曲させる屈曲操作を100回行った。その後、屈曲を加えた箇所において通信用電線を解体し、金属箔を目視観察した。金属箔に全く損傷が見られないものを、耐屈曲性が特に「A+」と評価し、凹形状として観測される圧迫の痕跡が金属箔に見られるものを、耐屈曲性が高い「A」と評価した。一方、金属箔に破断が生じているものを、耐屈曲性が低い「B」と評価した。屈曲操作は、大気中で、常温(23℃)および150℃の環境で、それぞれ行った。なお、凹形状の圧迫痕程度の損傷であれば、金属箔に生じても、通信用電線のノイズ遮蔽性能にほぼ影響を与えない。
【0074】
(4)耐加熱変形性
各試料にかかる通信用電線(アウターシース層まで形成したもの)に対して、85℃にて5時間、100gの荷重を、錘をのせたブレード(金属片)によって、通信用電線の側方から、長さ0.7mmにわたる領域に印加し続けた。加熱および荷重の印加を行う前の初期状態と、加熱および荷重の印加を行った後の状態(加熱後)で、通信用電線の外径を、最短箇所において計測し、初期状態の外径に対する加熱後の外径減少量の比率を記録し、加熱変形率とした。つまり、以下のように加熱変形率を見積もった。
[加熱変形率]=([初期状態の外径]-[加熱後の外径])/[初期状態の外径]×100%
加熱変形率が20%未満のものを、耐加熱変形性が高い「A」と評価した。一方、加熱変形率が20%以上のものを、加熱変形性が低い「B」と評価した。
【0075】
[結果]
表1に、全試料の絶縁層材料およびアウターシース層の作製に用いた材料について、成分組成を、質量部を単位として上段に示すとともに、引張弾性率および各温度での3点曲げ力の測定結果を下段に示す。また、表2に、試料#1~#9のそれぞれについて、磁性シース層の成分組成を、質量部を単位として上段に示すとともに、各評価の結果を下段に示す。表1,2には、各ポリマー成分について、DSCによって計測した融点、および引張弾性率の値も合わせて示す。なお、表1,2において、各成分の含有量は、有機ポリマーの合計量を100質量部として表示しており、低成分割合等、有機ポリマー全体に占める個別の有機ポリマーの割合(単位:%)は、表示された質量部数の数値そのものに対応する。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
表2によると、試料#1~#4,#6,#7は、上記関係1,2をともに満たしている。つまり、磁性シース層の引張弾性率が、絶縁層の引張弾性率(1695MPa)よりも低くなっており、かつ、磁性シース層における低融点成分割合、つまり融点100℃以下の低融点ポリマーであるEEAの質量部数が、絶縁層における低融点成分割合(酸変性SEBSの含有割合である2%)よりも大きくなっている。これらの各試料においては、耐屈曲性評価において、23℃および150℃の両方で、耐屈曲性が高い(A)または特に高い(A+)との結果が得られている。
【0079】
上記に対し、試料#5,#9では、磁性シース層の引張弾性率が、絶縁層の引張弾性率よりも高くなっており、関係1を満たしていない。これら試料#5,#9においては、耐屈曲性評価において、23℃および150℃の両方で、耐屈曲性が低い(B)との結果が得られている。また、試料#8においては、磁性シース層が低融点ポリマーであるEEAを含んでおらず、低融点成分割合が、絶縁層の低融点成分割合よりも小さくなっており、関係2を満たしていない。この試料#8においては、耐屈曲性評価において、23℃では高い耐屈曲性が得られているものの(A+)、150℃では耐屈曲性が低くなっている(B)。このように、試料#1~#4,#6,#7と、試料#5,#8,#9との対比から、磁性シース層において、絶縁層と比較して、引張弾性率が低く、かつ低融点成分割合が大きくなっていることで、常温および150℃の高温で、通信用電線において高い耐屈曲性が得られ、通信用電線の曲げに伴う金属箔の破断を防止できることが分かる。
【0080】
試料#1~#3は、オレフィン系ポリマーとして、引張弾性率の低いTPO3のみを含んでおり、試料#9は、オレフィン系ポリマーとして、引張弾性率の高いブロックPP1のみを含んでいる。そして、試料#4~#8は、それら2種のオレフィン系ポリマーをともに含んでおり、中でも試料#4,#6~#8は、引張弾性率の高いブロックPP1の含有量が相互に揃っている。しかし、得られている耐屈曲性の評価結果は、いずれも融点が100℃を超える高融点ポリマーである2種のオレフィン系ポリマーの含有の有無および含有比率の差異を超えて、上記のように、磁性シース層と絶縁層における引張弾性率および低融点成分割合の関係性との間に、高い相関性を有している。よって、通信用電線において、常温および高温での屈曲に伴う金属箔の損傷を避けるうえで、引張弾性率および低融点成分割合の2つのパラメータに着目し、磁性シース層において絶縁層よりも、引張弾性率を低く、また低融点成分割合を大きくしておくことが、個別のポリマー成分の引張弾性率に着目するよりも、良い指針となると言える。
【0081】
さらに、関係1,2を満たしている試料#1~#4,#6,#7の評価結果を相互に比較すると、試料#7で、150℃における耐屈曲性評価の結果が、高い(A)との評価に留まっているのに対し、他の試料においては、23℃と150℃の両方で、特に高い(A+)との評価結果が得られている。試料#7では、23℃および150℃において、磁性シース層の3点曲げ力が、絶縁層よりも大きくなっているのに対し、試料#7以外の試料では、23℃と150℃の両方において、磁性シース層の3点曲げ力が、絶縁層の値以下となっている。このことから、3点曲げ力によって評価される柔軟性が、23℃と150℃の両方で、磁性シース層において、絶縁層以上となっていることで、常温と高温の両方で、特に高い耐屈曲性が得られ、屈曲に伴う金属箔の損傷を、特に高度に抑制できると言える。
【0082】
最後に、試料#1および試料#2では、23℃と150℃の両方で高い耐屈曲性が得られているものの、耐加熱変形性は低くなっている(B)。それら試料#1,#2以外の試料では、高い耐加熱変形性が得られている。試料#1,#2以外は、磁性シース層において、低融点ポリマーであるEEAの含有量が、高融点ポリマーであるTPO3およびブロックPP1の含有量(2種の合計量)よりも少なく抑えられているのに対し、試料#1,#2では、低融点ポリマーであるEEAの含有量が、高融点ポリマーであるTPO3およびブロックPP1の含有量(2種の合計量)よりも多くなっている。通信用電線の耐加熱変形性の向上は、本開示にかかる通信用電線において、課題とするものではないが、常温および高温での高い耐屈曲性と両立して、高い加熱変形性を達成する観点からは、磁性シース層における低融点ポリマーの含有割合(低融点成分割合)を、絶縁層よりも大きくしておくとともに、高融点ポリマーの含有割合よりも大きくしておくとよいことが分かる。
【0083】
なお、上記の試料#1~#9ではいずれも、磁性シース層における磁性材料の種類および含有量が同じになっているが、その量の磁性材料の含有により、磁性シース層が十分に高いノイズ遮蔽性を示すことも、別途確認している。確認のための評価としては、CISPR25(国際無線障害特別委員会による「車載受信機保護のための妨害波の推奨限度値および測定法」の規格)に準拠した放射エミッション評価を行った。具体的には、1500mmに切り出した試料#1の通信用電線を試料として用い、電波暗室内にて、通信用電線の中央部から側方に1.0m離した位置にホーンアンテナを設置した。そして、通信用電線に、1.6GHzの周波数の電気信号を入力し、この際のノイズ放射量を、ホーンアンテナにより計測した。試料#1に対して計測されたノイズ放射量は、5.8dB(μV/m)であった。おおむね、ノイズ放射量が16dB(μV/m)未満であれば、通信用電線として、ノイズ遮蔽性が十分に高いと言える。
【0084】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0085】
1,1’ 通信用電線
2 導体
3 絶縁層
4 コア線
5 金属箔
6 編組層
7 磁性シース層
8 アウターシース層
A,A’ 接触部
図1
図2
図3