(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】鋼管杭
(51)【国際特許分類】
E02D 5/28 20060101AFI20230117BHJP
E02D 5/72 20060101ALI20230117BHJP
E02D 5/54 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
E02D5/28
E02D5/72
E02D5/54
(21)【出願番号】P 2021048837
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2022-05-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512283575
【氏名又は名称】株式会社シグマベース
(74)【代理人】
【識別番号】100090549
【氏名又は名称】加川 征彦
(72)【発明者】
【氏名】榎本 隆彦
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-172750(JP,A)
【文献】特開2001-164567(JP,A)
【文献】実開昭55-062643(JP,U)
【文献】特開2016-217107(JP,A)
【文献】特開2020-139283(JP,A)
【文献】特開2021-004502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/28
E02D 5/72
E02D 5/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭本体である、外径165.2mm・板厚5mm~外径318.5mm・板厚
6mmの範囲の単一外径の溶接鋼管からなる軸鋼管の先端に、回転により掘削推進力を発揮する端面板を有する先端部材が固定された、回転圧入工法による鋼管杭であって、
前記端面板は、前記軸鋼管の外周面より外側部分である鍔部に互いに上下逆向きに傾斜した傾斜面部を有し、
前記先端部材は、前記端面板の上面に、外周面は開先付き隅肉溶接により内周面は隅肉溶接により溶接固定された短尺のシームレス鋼管からなる台座鋼管を有し、
前記端面板の下面に垂直に溶接固定された掘削刃を有し、
前記先端部材の前記台座鋼管に前記軸鋼管の下端部が溶接固定されてなり、
前記台座鋼管の外径D1は前記軸鋼管の外径Dより大、内径D1’は前記軸鋼管の内径D’より小であり、
前記台座鋼管の高さHは、前記台座鋼管の内径D1’の90%以下であることを特徴とする鋼管杭。
【請求項2】
前記端面板は、その中心部に円形の中心穴を有し、前記掘削刃はその端面板側の縁部に前記中心穴に臨んで開口する切欠きを有することを特徴とする請求項1記載の鋼管杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼管杭本体である軸鋼管の先端に、回転により掘削推進力を発揮する端面板を有する先端部材が固定された回転圧入工法用の鋼管杭に関する。
【背景技術】
【0002】
回転圧入工法による鋼管杭として、鋼管杭本体である軸鋼管の先端に回転により掘削推進力を発揮する端面板を有する先端部材が固定された鋼管杭が広く採用されている。
【0003】
特許文献1は拡底鋼管杭の発明であるが、従来の拡底鋼管杭(特開2009-127267、特開2002-217947等)では、鋼管杭本体である軸鋼管の先端に、掘削推進力を発揮する面積の広い拡底板4ないし拡底支持翼2’(特許文献1における端面板に相当)を固定しただけなので、小径の軸鋼管が大径の端面板の中央の狭い領域に集中荷重が作用することになり、端面板がその剛性の点で拡底部として必ずしも有効に働かないという問題に対して、特許文献1では軸鋼管の下側部分を大径の拡底側鋼管とし、この拡底側鋼管を端面板に溶接固定した構成としている。
これにより、すなわち、端面板に溶接固定される拡底側鋼管(下側の軸鋼管)が大径であることにより、端面板に作用する集中荷重が緩和され、先端部材が拡底部として有効に作用するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の拡底鋼管杭は上述の通り、鋼管杭本体である軸鋼管の下側部分を大径の拡底側鋼管としたことで、軸鋼管の全体が同径である従来の拡底鋼管杭と比較して、端面板への応力集中が緩和され、先端部材が拡底部として有効に作用するものであるが、軸鋼管の一部である拡底側鋼管が大径であることで、軸鋼管の鋼材費が高くなるという問題もある。
【0006】
本発明は上記背景のもとになされたもので、軸鋼管と先端部材との間の回転トルクについての十分高い接合強度を確保可能であり、軸鋼管の下側部分を大径の拡底側鋼管とすることなく先端部材を拡底部として有効に機能させることが可能な鋼管杭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する請求項1の発明は、
鋼管杭本体である、外径165.2mm・板厚5mm~外径318.5mm・板厚6mmの範囲の単一外径の溶接鋼管からなる軸鋼管の先端に、回転により掘削推進力を発揮する端面板を有する先端部材が固定された、回転圧入工法による鋼管杭であって、
前記端面板は、前記軸鋼管の外周面より外側部分である鍔部に互いに上下逆向きに傾斜した傾斜面部を有し、
前記先端部材は、前記端面板の上面に、外周面は開先付き隅肉溶接により内周面は隅肉溶接により溶接固定された短尺のシームレス鋼管からなる台座鋼管を有し、
前記端面板の下面に垂直に溶接固定された掘削刃を有し、
前記先端部材の前記台座鋼管に前記軸鋼管の下端部が溶接固定されてなり、
前記台座鋼管の外径D1は前記軸鋼管の外径Dより大、内径D1’は前記軸鋼管の内径D’より小であり、
前記台座鋼管の高さHは、前記台座鋼管の内径D1’の90%以下であることを特徴とする。
【0008】
請求項2は、請求項1の鋼管杭において、前記端面板は、その中心部に円形の中心穴を有し、前記掘削刃はその端面板側の縁部に前記中心穴に臨んで開口する切欠きを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軸鋼管が先端部材側に拡底側鋼管のような大径管部分を持たないので、軸鋼管の鋼材費が安く済む。
そして、端面板に固定された台座鋼管は、外周面は開先付き隅肉溶接により内周面は隅肉溶接により溶接固定されているので、鋼管杭本体である軸鋼管と端面板との間の回転トルクについての十分高い接合強度を確保可能であり、軸鋼管の下側部分を大径管(大径の拡底側鋼管)にしなくても鋼管杭打設時の大きな回転トルクに対応することができる。
また、台座鋼管の長さL1が台座鋼管内径の90%以下であれば台座鋼管の端面板に対する内面溶接の溶接作業が可能である。
なお、拡底側鋼管のような大径管でないことで、端面板の中央部の狭い領域に集中荷重が作用することに関しては、端面板の板厚を厚くすることで対応することができる。
【0010】
請求項2によれば、端面板の中心部に円形の中心穴を有し、端面板の下面中央に固定された掘削刃が前記中心穴に臨んで開口する切欠きを有するので、支持力を損なうことなく推進力を向上させることが可能となる。
すなわち、端面板の中心の中心穴は、掘削土の抵抗を低減させて推進力を向上させ、一方、掘削刃に設けた切欠きは、掘削土の中心穴内への侵入を制御して掘削土を適度に管内に侵入させ、推進力向上と支持力確保の両者をバランスよく確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施例の鋼管杭の長さの一部を省略した全体図である。
【
図3】
図2のB-B断面図(但し裏当て金の図示は省略)である。
【
図7】
図2、
図4、
図6における裏当て金の詳細図であり、(イ)は裏当て金の側面図、(ロ)は平面図、(ハ)は斜視図である。
【
図8】
図2における台座鋼管と端面板との溶接部の溶接要領を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の鋼管杭を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1に示すように、本発明の鋼管杭1は、鋼管杭本体である軸鋼管2の先端に、回転により掘削推進力を発揮する端面板3を有する先端部材4が固定された鋼管杭であり、回転圧入工法によって地盤に貫入される。
【0014】
図2は
図1のA部の要部断面による拡大図、
図3は
図2のB-B断面図(但し裏当て金の図示は省略)である。
前記先端部材4は、前記端面板3の上面に溶接固定された厚肉短尺の台座鋼管5を有し、前記端面板3の下面に垂直に溶接固定された掘削刃6を有している。
【0015】
前記端面板3は、前記台座鋼管5の外周面より外側部分である鍔部7に互いに上下逆向きに傾斜した傾斜面部8a、8bを有している。図示例では端面板3の直径方向両側に傾斜面部8a、8bを設けている。なお、傾斜面部8a、8bは端面板3の直径方向の片側だけに設けてもよい。
また、端面板3の中心部には中心穴3aを設けている。
【0016】
前記掘削刃6は、
図2~
図5(
図5に単独図)に示すように端面板3側に、互いに平行な両辺6bを有しその先端側部分6cが三角形状である五角形家形をなしており、端面板3の前記中心穴3aに臨んで開口する切欠き6aを有している。
この実施例の切欠き6aの形状は、幅が前記中心穴3aの直径d
2と同寸法であり、掘削刃6の全体輪郭である五角形と概ね相似の五角形としている。
【0017】
図2~
図5において、前記軸鋼管2の外径をD、内径をD’、板厚をtで示す。前記台座鋼管5の外径をD1、内径をD1’、板厚をt1で示す。前記端面板3の外径をD2、板厚をt2、中心穴径をd2で示す。
前記台座鋼管5の外径D1は、
図3にも示す通り軸鋼管2の外径Dより大であり、内径D1’は軸鋼管2の内径D1’より小である。
台座鋼管5の高さ寸法(深さ)Hは、端面板3への内面溶接が可能な深さとするが、後述する表1に記載の数値の通りであり、台座鋼管5の内径の90%以下にするとよい。
【0018】
本発明の鋼管杭において実施が想定される各部の寸法を表1「鋼管杭の各部の寸法」に示す。
軸鋼管2の外径サイズ(外径D)として5種類(165.2mmφ、190.7mmφ、216.3mmφ、267.4mmφ、318.5mmφ)を想定している。
表1には、軸鋼管2について前記5種の各サイズ(外径D、内径D’、板厚t)に対応する台座鋼管5の各サイス(外径D1、内径D1’、板厚t1)を示している。
また、軸鋼管2及び台座鋼管5の5種の各サイズに対して端面板3の4種~6種の外径D2・板厚t2、及び1種又は2種の中心穴径D0を示している。
端面板3については、軸鋼管2の外径Dのそれぞれのサイズ毎の複数種の外径D2・板厚t2について1~11のナンバーを付して示している。
【0019】
表1に記載の通り、台座鋼管5はその板厚が顕著に厚いので、溶接鋼管ではなくシームレス鋼管(継目無鋼管)を用いている。なお、市況品の溶接鋼管の外径は最大で318.5mmまであるが、表1に記載の台座鋼管5の各サイズに記載の板厚のものは溶接鋼管には存在しない。
前記台座鋼管5の端面板3への溶接は、内面は隅肉溶接、外周面は開先付きの隅肉溶接の内外面溶接であり、十分堅固に端面板3に溶接固定されている。
この場合、
図8に示すように、台座鋼管5の外周面側に開先を設けかつ下端面と端面板3との間に隙間(ルート間隔a、ルート幅b)をあけて、外周面側からの開先付き隅肉溶接により完全溶け込み溶接を行い、次いで内周面の隅肉溶接を行う。
これにより、台座鋼管5の端面板3への溶接接合は十分堅固な溶接接合を実現できる。
【0020】
軸鋼管2と台座鋼管5との間の溶接は、
図2及びその要部拡大図である
図6、
図4に示すように裏当て金9を用いて溶接する。なお、
図6では裏当て金9に断面を示すハッチングを省略している。
この裏当て金9は、詳細を
図7(イ)、(ロ)、(ハ)に示すように、大径部分9aと小径部分9bとが段差部分9cを介在させて一体連続してなるとともに、周方向の一部に切込み(間隙)9dを有して非閉鎖円形断面をなし、弾性的に径が縮小可能とされている構造である。
裏当て金9の大径部分9aの外径D4は軸鋼管2の内径D’より僅かに小径であり、小径部分9bの外径D5は台座鋼管5の内径D1’より僅かに大径である。
したがって、この裏当て金9の小径部分9bを台座鋼管5に嵌め込むと、その段差部9cが台座鋼管5と軸鋼管2との間の内面段差部に載る態様で、かつ、小径部分9bが台座鋼管5に緊密に嵌合する。
その状態で軸鋼管2を台座鋼管5に溶接接続する。従来のように軸鋼管を端面板に直接溶接固定する構造では裏当て金有りの突合せ溶接接続が不可能であるのに対して、裏当て金有りの突合せ溶接接続をすることができるので、完全溶け込み溶接が可能であり、軸鋼管2の端面板3側に対する十分な接合強度を確保できる。
これにより、鋼管杭本体である軸鋼管2と端面板3との間の回転トルクについての十分高い接合強度を確保可能であり、台座鋼管5が大径管でなくても鋼管杭打設時の大きな回転トルクに対応することができる。
なお、溶接方式として被覆アーク溶接、MIG溶接、MAG溶接、TIG溶接等のうち特にMAG溶接が適切である。
【0021】
なお、台座鋼管5が拡底側鋼管のような大径管でないことで、端面板の中央部の狭い領域に集中荷重が作用することに関しては、端面板3の板厚を厚くすることで対応することができる。
具体的には、表1における「端面板」欄に記載のサイズを採用すれば、十分大きな回転トルクについて十分高い接合強度を確保可能であり、台座鋼管5が大径管でなくても鋼管杭打設時の大きな回転トルクに対応することができる。
特に、表1における「端面板」欄の「ナンバー(No.)」欄のNo.1,3,5,9,11等の端面板3を採用する場合には、顕著に大きな回転トルクについて十分高い接合強度を確保可能であり、台座鋼管5が大径管でなくても鋼管杭打設時の顕著に大きな回転トルクに対応することができる。
なお、本発明における台座鋼管5は主としてシームレス鋼管を想定しているが、板厚t1として10mm、15mm、20mmのうち、板厚10mmのものは溶接鋼管にも存在するので、溶接鋼管を使用してもよい。
【0022】
また、台座鋼管5が拡底側鋼管のような大径管でないことで、端面板3における鍔部の領域を外径は同じでも半径方向に広くとることができるので、鍔部の傾斜面部の半径方向の幅を広くとることが可能となり、掘削力を高めることにつながる。
この場合、前述の集中荷重への対応ととして端面板3の板厚を厚くすることは、掘削作用に直接関わる上下逆向き傾斜の傾斜面部8a、8bの板厚を厚くすることでありその剛性を高くすることであるから、前述の集中荷重への対応と同時に、掘削力の向上も兼ねることになる。
【0023】
前記先端部材4の機能についてさらに説明すると、端面板3の中心部に円形の中心穴3aを有し、端面板3の下面中央に固定された掘削刃6が前記中心穴3aに臨んで開口する切欠き6aを有するという構成により、支持力を損なうことなく推進力を向上させることが可能となる。
すなわち、端面板3の中心穴3aは、回転圧入時に端面板3に対する掘削土からの圧力を低減させる圧抜きとして作用する。すなわち、掘削土の抵抗を低減させて推進力を向上させる効果(したがって、施工性の向上)を奏する。
この場合、掘削刃6が端面板3の中心穴3aに位置していても、前記中心穴に臨んで開口する切欠き6aを有するので、掘削土が中心穴内(鋼管内)に侵入することをそれほど妨げない。すなわち、掘削刃6に設けた切欠き6aは、掘削土の中心穴内(鋼管内)への侵入に対する制御作用を奏する。
このように、端面板3の中心部にあけた中心穴3aと掘削刃6側に形成した切欠き6aとが、相互に影響し合い協働して作用し、圧抜きの作用を損なうことなく、掘削土が管内に侵入することによる一定の閉塞効果を奏して支持力を確保できる。
上記の通り、本発明において端面板3の下面中央に固定された掘削刃6が中心穴3aに臨んで開口する切欠き6aを有するという構成により、推進力を向上させることが可能となるので、回転圧入する際に求められる大きな推進力に対応することができる。
【0024】
また、地中に礫、転石、その他の軽い地中障害のために端面板3の推進が難儀する場合でも、端面板3の下面に五角形家形の掘削刃6を固定した構成により、円滑な端面板推進が可能となり、施工性が向上する。
また、掘削刃6の切欠き6aの形状が掘削刃6の五角形家形と相似の五角形家形なので、五角形家形の掘削刃6が土をほぐす作用と、切欠き6aの作用(掘削土の中心穴内(鋼管内)への侵入に対する制御作用)とが協働して作用し、支持力を損なうことなく推進力を向上させる効果を一層高めることができる。
なお、実施例の切欠き6aの形状(内縁形状)は、掘削刃6の形状と概ね相似形であるが、三角形部分は例えば半円弧状等であってもよい。また、切欠き6aの幅は実施例のように、中心穴3aの直径に合わせるのが適切であるが、必ずしも合わせなくてもよい(幅が若干広くても狭くてもよい)。
【0025】
表1に実施例で想定される鋼管杭の各部の寸法を示す。
【表1】
【符号の説明】
【0026】
1 鋼管杭
2 軸鋼管
3 端面板
3a 中心穴
4 先端部材
5 台座鋼管(厚肉短尺の台座鋼管)
6 掘削刃
7 鍔部
8a (上向き)傾斜面部
8b (下向き)傾斜面部
9 裏当て金
D 軸鋼管の外径
D’ 軸鋼管の内径
t 軸鋼管の板厚
D1 台座鋼管の外径
D1’ 台座鋼管の内径
t1 台座鋼管の板厚
D2 端面板の外径
D2’端面板の内径
t2 端面板の板厚
d2 中心穴
D4 裏当て金の大径部分の外径
D5 裏当て金の小径部分の外径