(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】水中油型乳化化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/06 20060101AFI20230117BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/87 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/891 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/39 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/24 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/23 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
A61K8/06
A61Q19/00
A61K8/87
A61K8/81
A61K8/73
A61K8/34
A61K8/44
A61K8/891
A61K8/31
A61K8/39
A61K8/365
A61K8/24
A61K8/23
(21)【出願番号】P 2019563858
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2017084551
(87)【国際公開番号】W WO2019120590
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】502189579
【氏名又は名称】エルブイエムエイチ レシェルシェ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】北村 三矢子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 舞
(72)【発明者】
【氏名】迫田 剛嘉
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/052146(WO,A1)
【文献】特表2016-504377(JP,A)
【文献】特開2017-132820(JP,A)
【文献】特表平08-505875(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0022680(US,A1)
【文献】特開2006-327952(JP,A)
【文献】特表2010-515720(JP,A)
【文献】特開2008-001620(JP,A)
【文献】特開2016-088868(JP,A)
【文献】特開2017-081868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水性媒体と、
(B)アニオン界面活性剤、
(C)
非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物を含有する、液状油剤、
(D)疎水基変性親水性ウレタンポリマー、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、及び疎水基変性親水性多糖類からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー、及び
(E)電荷中和剤を含有し、
25℃における粘度が10,000mPa・s以上である、水中油型乳化化粧料であって、
前記
液状油剤の含有比率は、前記水中油型乳化化粧料の全質量基準で20質量%以上である、水中油型乳化化粧料。
【請求項2】
前記疎水基変性親水性ウレタンポリマーは、ポリアルキレンオキシド成分を含む疎水基変性ポリエーテルウレタンを含有する、請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項3】
前記疎水基変性親水性ウレタンポリマーは、ポリエチレンオキシド及び/又はポリプロピレンオキシドを含む疎水基変性ポリエーテルウレタンを含有する、請求項1又は2に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項4】
前記疎水基変性親水性多糖類は、疎水基変性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースを含有する、請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項5】
成分(A)から(E)の混合物を、高圧ホモジナイザーにより100MPa以上の圧力で乳化するステップを含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の水中油型乳化化粧料の調製方法。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の水中油型乳化化粧料を肌へ施用するステップを含む、肌のナリシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品に用いられる製剤の一つである水中油型乳化物は、製剤中における適当量の油剤によって高いナリシング効果および保護効果を示し、特に高い粘性を有するそのような製剤は化粧クリームやエッセンスといった一般的なスキンケア製剤によく用いられる。
【0003】
微細に分散したエマルションは高圧で乳化された水中油型乳化化粧料であり、このようなエマルションは一般的に多量の油剤を安定的に配合することができると考えられている(特許文献1)。加えて、特定の成分の高圧乳化により、十分な透明性と長期安定性を備えるゲル状の水中油型乳化組成物が得られることが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-87931号公報
【文献】特開2017-105766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された水中油型乳化化粧料では、含まれる添加剤によってはその安定性を維持できないため、実用に適しにくく、一方、特許文献2のゲル状の水中油型乳化組成物は、べたつく傾向にあり、化粧料として望ましくない感触を示す。
【0006】
本発明の目的は、べたつきがなく優れた安定性を示しながら、多量の油剤を含むことができる水中油型乳化化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(A)水性媒体、(B)アニオン界面活性剤、(C)油剤、(D)疎水基変性親水性ウレタンポリマー、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、及び疎水基変性親水性多糖類からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー、及び(E)電荷中和剤を含有する水中油型乳化化粧料であり、25℃における粘度が10,000mPa・s以上という特徴を有する化粧料を提供する。「(A)水性媒体」は、以下単に「成分(A)」とも呼ばれ、他の成分も同様に呼ばれる。「(メタ)アクリル」という用語はアクリル又はメタクリルを指し、類似の骨格でも同様である。
【0008】
本発明の水中油型乳化化粧料は、多量の油剤を含有させることが可能であり、油剤が多いにもかかわらず、べたつきがなく優れた安定性を示す。さらに、優れたナリシング効果と、みずみずしく軽い感触、肌への浸透感を含む優れたテクスチャーとを有する。これらの特性に加えて、十分な耐光性と、変色・褪色が少ないという特徴も有している。
【0009】
一般の水中油型乳化化粧料は、肌への浸透性が低く、重さやべたつきを感じやすい傾向にある。本発明者らは、これが生じる理由が、十分なナリシング効果を発揮するための、適切な量で製剤中に油剤を安定的に乳化することと分散することが、過剰量の界面活性剤や界面活性助剤、ワックス類及び増粘剤を必要とし、これらの成分が重い感触やべたつきをもたらすからであると見出した。結果として、べたつきのないみずみずしい感触でありながら、高浸透性によって高いナリシング効果も提供する化粧料製剤は、存在していなかった。
【0010】
上述の特許文献に開示された微細なエマルションを得る方法を実施することにより、ゲル状の外観を呈する水中油型乳化物を得ることができるが、これは、均一なサイズと、それらの間に電荷反発を有する粒子が、表面上近距離に位置し、そしてそれらの互いの電荷反発により、規則的な結晶様構造が形成されるためと考えられる。この乳化物においては、重さやべたつきを生じさせる因子を含有せずに、ナリシング効果を有する油剤を多量に添加できるが、電荷中和剤のような、一般的に使用される様々な添加剤が化粧料に添加された場合、微細なエマルションを含有するそのようなゲルは時間とともに不安定になる傾向にあり、徐々に粘度が減少していき、合一が引き起こされる可能性がある。
【0011】
微細なエマルションで構成されるゲルが形成される原理を考えると、この現象の理由は、内的あるいは外的環境の影響が、結晶様構造を担うエマルション粒子間の電荷反発力の経時的な脆弱を引き起こし、結果として合一がもたらされると考えられる。
【0012】
特許文献1及び2は、この問題点の解決策を扱っておらず、特許文献1の場合、化粧料に一般的に用いられる種々の添加剤を添加した場合、安定性は不十分になる場合がある。特許文献2の場合では、べたつきが生じるおそれがある。このべたつきは、化粧料を安定させるために多量の界面活性剤の添加の必要性に起因するものであると考えられる。
【0013】
これらの化粧料とは対照的に、本発明の水中油型乳化化粧料は、べたつきのない軽い感触を有し、高浸透性によって高いナリシング効果を与え、経時安定性に優れた化粧料である。これらの効果は、成分(A)から(E)の組み合わせによりもたらされるが、特に成分(D)は、エマルション粒子とそれ自身の疎水基との相互作用により製剤の粘度を高め、ゲルの形成に有効に寄与し、調製直後と、例えば50℃に1か月静置した後の粘度において、経時での粘度が劇的に維持されている。
【0014】
成分(D)以外の水溶性ポリマー、例えば、キサンタンガムや、カルボマー又はアルキルコポリマーといったアニオン性ポリマー、ヒドロキシエチルセルロースのようなノニオン性ポリマーが用いられる場合は、エマルション粒子間の電荷反発が妨げられ、結果として、粘度が低下して安定なゲル状水中油型乳化化粧料を得ることができない。
【0015】
微細化エマルションで構成されるゲルは電荷反発により粒子の安定性を保っていることから、成分(E)のような電解質を添加するとその安定性が損なわれることが想像される。しかし、本発明によれば、他の成分、特に(D)成分による協働相互作用により、粒子の安定性が損なわれることなく優れた経時安定性が得られる。さらに、ナリシング効果、みずみずしく軽い感触、肌への浸透感といった感触も向上する。
【0016】
両親媒性ポリマーは、側鎖及び/又は末端鎖に疎水基を有しうる。例えば、両親媒性ポリマーは、疎水基変性親水性ウレタンポリマー及び/又は疎水基変性親水性多糖類であってよく、この場合、好ましくは、疎水基変性親水性ウレタンポリマーは、ポリオキシアルキレン成分を含む疎水基変性ポリエーテルウレタンを含有し、疎水基変性親水性多糖類は、疎水基変性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースを含有する。このような両親媒性ポリマーの使用は、ナリシング効果、みずみずしく軽い感触、べたつきのなさ、肌への浸透感、伸び広がりのよさ、が特に優れるようになり、耐光性、低変色の特徴も顕著に向上する。
【0017】
本発明の水中油型乳化化粧料は、水中油型乳化化粧料の全質量基準で20質量%以上の含有比率である油剤を含有することができる。このような大量の油剤を配合することにより、ナリシング効果が顕著に向上する。
【0018】
また、油剤としては、本発明の水中油型乳化化粧料は、液状油剤を含有することができる。液状油剤は、好ましくは、非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物である。このような油剤を使用することで、乳化化粧料の安定性が向上する。
【0019】
本発明の水中油型乳化化粧料は、100MPa以上の圧力で乳化することにより得ることができる。油剤の配合量が多い場合であっても、このような乳化により、乳化安定性に優れ、べたつきが低減され、ナリシング効果、みずみずしく軽い感触、肌への浸透感等の感触が大変優れた水中油型乳化化粧料を容易に得ることが可能になる。なお、通常の分散工程により得られる水中油型乳化化粧料は、通常、調製後に即座に分離する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、べたつきがなく優れた安定性を示しながら、多量の油剤を含有させることができる水中油型乳化化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態に係る水中油型乳化化粧料における成分(A)は水性媒体であり、少なくとも水を含有し、成分(B)から(E)の媒体となるものである。成分(A)は水のみからなっていてよく、成分(B)、(D)及び(E)以外の水溶性成分を含んでもよい。
【0022】
水溶性成分には、ポリオール、モノオール、多糖類、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、防腐剤、合成系水溶性ポリマー、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤等が含まれる。水溶性成分には、抗菌剤、抗炎症剤、ビタミン及びアミノ酸も含まれる。
【0023】
ポリオールの例には、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、及びグリセリンが含まれる。多糖類には、ローカストビーンガム、グアーガム、フェヌグリークガム等のガラクトマンナン;カラギーナン、ガラクタン、アラビアガム、ペクチン、マンナン、デンプン等の植物系多糖類;キサンタンガム、デキストラン、スクシノグルカン、カードラン、ジェランガム等の微生物系多糖類等が含まれる。
【0024】
ノニオン界面活性剤としては、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80のようなソルビタン脂肪酸エステルのエチレンオキシド付加物;オレス-2、セテス-6、ラウレス-4のようなアルキルエーテルのエチレンオキシド付加物を用いることができる。水添レシチンは、両性界面活性剤の例である。
【0025】
フェノキシエタノールは防腐剤の例であり、エタノールはモノオールの例である。
【0026】
実施形態に係る水中油型乳化化粧料における成分(B)は、アニオン界面活性剤である。
【0027】
アニオン界面活性剤には、ラウリン酸塩、パルミチン酸塩等の脂肪酸セッケン;セチルリン酸塩等のリン酸エステル塩;N-ラウロイルグルタミン酸塩、N-ミリストイル-L-グルタミン酸塩等のN-アシルグルタミン酸塩;N-ラウロイルグルタミン酸塩、N-ミリストイルグルタミン酸塩、N-ステアロイルグルタミン酸塩等のN-アシルグルタミン酸塩;N-ラウロイルグリシン塩、N-ミリストイルグリシン塩、N-ステアロイルグリシン塩等のN-アシルグリシン塩;N-ラウロイルアラニン塩、N-ミリストイルアラニン塩、N-ステアロイルアラニン塩等のN-アシルアラニン塩;N-ラウロイルアスパラギン酸塩、N-ミリストイルアスパラギン酸塩、N-ステアロイルアスパラギン酸塩等のN-アシルアスパラギン酸塩;N-ココイル-N-メチルタウリン塩、N-ラウロイル-N-メチルタウリン塩、N-ミリストイル-N-メチルタウリン塩、N-ステアロイル-N-メチルタウリン塩、N-ココイルタウリン塩等の長鎖アシル低級アルキル型タウリン塩;ジラウロイルグルタミン酸リシンNa、サーファクチンナトリウム等が挙げられる。なかでも、N-ステアロイルグルタミン酸ナトリウム等のN-アシルグルタミン酸塩が含まれる。
【0028】
本実施形態に係る水中油型乳化化粧料における成分(C)は、油剤である。添加される油剤は、好ましくは液状油剤である。油剤には、極性油剤、非極性油剤、シリコーン油剤が含まれる。
【0029】
油剤には、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソトリデシル、パルミチン酸エチルヘキシル、エチルヘキサン酸セチル、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、トリエチルヘキサノイン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリイソステアリン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル、テトライソステアリン酸ペンタエリスリチル、テトライソステアリン酸ポリグリセル-2、ジ(カプリル酸/カプリン酸)プロパンジオール、ジイソステアリン酸プロパンジオール、オクタカプリル酸ポリグリセリル-6が含まれる。
【0030】
さらに、油剤には、乳酸オクチルドデシル、リンゴ酸ジイソステアリル、イソステアリン酸ポリグリセリル-2、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2、トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2、(イソステアリン酸/セバシン酸)ジトリメチロールプロパンオリゴエステル、トリエチルヘキサン酸エリスリチル、トリポリヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル、イソステアリン酸トレハロースエステルズ、ペンタイソステアリン酸ジペンタエリスリチル、ヒドロキシステアリン酸エチルヘキシル、ポリヒドロキシステアリン酸、流動パラフィン、スクワラン、α-オレフィンオリゴマー、ワセリン、ポリイソブチレン、ポリブテン、イソドデカン、イソヘキサデカン、重質流動イソパラフィンが含まれる。
【0031】
シリコーン油剤もまた油剤として用いられてよい。シリコーン油剤の例には、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、トリメチルシロキシケイ酸、高重合度メチルフェニルポリシロキサンが含まれる。
【0032】
これらの油剤のうち、1以上の液状非極性油剤及び液状シリコーン油剤を配合することが好ましい。好適な液状非極性油剤には、スクワラン、イソドデカン及びα-オレフィンオリゴマーが含まれ、好適な液状シリコーン油剤としては、ジメチルポリシロキサン及びデカメチルシクロペンタシロキサンが挙げられる。
【0033】
これらに加えて使用し得る他の油剤には、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、ヒドロキシステアリン酸フィトステリル、オレイン酸フィトステリル、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、テトラ(ヒドロキシステアリン酸/イソステアリン酸)ジペンタエリスリチル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル、(エチルヘキサン酸/ステアリン酸/アジピン酸)グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸/ミリスチン酸/ステアリン酸)グリセリル、水添パーム油、ワセリン、ヘキサ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ジペンタエリスリチル、ペースト状の植物油(野菜油、Vegetable oil)、シア脂(Butyrospermum Parkii)、マンゴー種子脂(Mangifera Indica)、アボカド脂(Persea Gratissima)等のペースト状油剤が含まれる。乳化化粧料中のペースト状油剤の量及びワックス類の量は、製品にべたつきを与えないために制限されることが好ましい。本発明の一実施形態によれば、乳化化粧料は1%未満のワックス類を含有し、好ましくはワックス類を含まない。
【0034】
実施形態に係る水中油型乳化化粧料における成分(D)は、両親媒性ポリマーであり、疎水基変性親水性ウレタンポリマー、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー及び疎水基変性親水性多糖類からなる群より選ばれる。
【0035】
上記両親媒性ポリマーにおいて、疎水基とは、疎水性を有する基であり、疎水基変性とは、分子への疎水基の付加である。
【0036】
疎水基は、C1~30の炭化水素基であってよく、典型的にはC1~30の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。炭素原子の数は、好ましくは6~30であり、より好ましくは12~24である。
【0037】
直鎖状又は分岐状のアルキル基は、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ドコシル基(ベヘニル基)、デシルテトラデシル基であり得る。
【0038】
(疎水性基変性)親水性ウレタンポリマーには、(疎水性基変性)ポリエーテルウレタンが含まれ、前記ポリエーテルウレタンは、ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシドのようなポリアルキレンオキシド成分を含む。このような有用なウレタンポリマーは、PEOブロック、PEO/PPOブロック、PEO/PPO/PEOブロック、PPO/PEO/PPOブロック等を有する親水性ウレタンポリマーの末端又は側鎖に、上述した疎水基が導入されたものが含まれる。PEOはポリエチレンオキシドを、PPOはポリプロピレンオキシドを表し、これらは、それぞれ、PEG(ポリエチレングリコール)及びPPG(ポリプロピレングリコール)として記載されることがある。ウレタンを形成するイソシアネートは、芳香族イソシアネート、脂肪族イソシアネート又は脂環式イソシアネートであってよい。
【0039】
疎水基変性親水性ウレタンポリマーには、(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー(商品名:ADEKA NOLTM GT-700)、PPG-12/メチレンジフェニルジイソシアネート)コポリマー(商品名:EXPERTGELTM EG412)が含まれる。
【0040】
親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する有用な(メタ)アクリルポリマーは、カルボキシ基のような親水基を有する(メタ)アクリルポリマーであって、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有するものである。
【0041】
このようなポリマーには、カルボキシ基と、疎水性ブロックと親水性ブロックとから構成され、該親水性ブロック側で主鎖と結合した両親媒性側鎖とを有する(メタ)アクリルポリマーが含まれる。
【0042】
疎水性ブロックは、1を超す炭素原子の長さを有し、それ自体が疎水性であり、典型的には炭化水素骨格である。疎水性ブロックは、好ましくは炭素数12~24の炭化水素骨格である。
【0043】
親水性ブロックとは、1を超す炭素原子の長さを有し、それ自体が親水性であり、典型的にはポリオキシアルキレン骨格である。親水性ブロックは、好ましくはポリオキシエチレン骨格であり、10~30のオキシエチレンの繰り返しを有する。すなわち、それは好ましくは-(CH2CH2O)n-の骨格を有し、ここでnは10~30であり、nの値は好ましくは12~25、より好ましくは20~25である。親水性ブロックは、直接主鎖と結合してよく、又はリンカーを介して主鎖と結合できる。リンカーは、オキシカルボニル基(-CO-O-)であってよく、この-O-部分が好ましくはポリオキシアルキレン骨格の炭素原子と結合する。
【0044】
(メタ)アクリルポリマーは、アルコキシカルボニル基を有していてもよく、アルコキシカルボニル基中のアルキル基は、好ましくは、C1~24のアルキル基である。
【0045】
特に好適なものは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンモノアルキルエーテルエステルを繰返し単位として有するポリマー[(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキル/(メタ)アクリル酸POEモノアルキルエーテルエステル共重合体]である。このような成分の例には、ダウ・ケミカル社製、アキュリン22(AcylynTM22)、アキュリン28(AcylynTM28)が含まれる。
【0046】
親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する有用な(メタ)アクリルポリマーは、疎水性ブロックと親水性ブロックとから構成され、該親水性ブロック側で主鎖と結合した両親媒性側鎖と、置換又は無置換のアミド基と、を有する(メタ)アクリルポリマーである。なお、両親媒性側鎖は、親水性ブロックと疎水性ブロックを有し、そのため、親水性基と疎水性基を含む側鎖に相当する。疎水性ブロックと親水性ブロックは上記と同様であり、アミド基の水素原子は、アルキル置換タウリン基等のアルキル置換アミノアルキルスルホン酸基で置換されていてもよい。このような成分には、アクリロイルジメチルタウリンアンモニウムメタクリル酸ベヘネス-25クロスポリマー(商品名:ARISTOFLEXTM HMB)が含まれる。
【0047】
親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する他の有用な(メタ)アクリルポリマーは、モノマー単位として、N-ビニルピロリドンと、親水性基と疎水性基を含む置換基で置換された(メタ)アクリルアミドと、を有する(メタ)アクリルポリマーである。置換基には、アルキル置換タウリン基等のアルキル置換アミノアルキルスルホン酸基が含まれる。アルキル置換タウリン基の例には、ジメチルタウリン基(-NH-C(CH3)2-CH2-SO3H)が含まれる。アルキル置換タウリン基は側鎖を構成しており、-SO3H(又はこの塩)が親水基、-NHと-SO3H(又はこの塩)の間の部分が疎水基である。このような成分の一つは、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマー(商品名:ARISTOFLEXTM AVC)である。
【0048】
親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する他の有用な(メタ)アクリルポリマーは、(メタ)アクリル酸と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとをモノマー単位として有する(メタ)アクリルポリマーである。この場合において、ヒドロキシアルキル基は側鎖を構成し、ヒドロキシアルキル基中のヒドロキシ基が親水基、アルキル基が疎水基である。ヒドロキシアルキル部分のアルキル基の炭素数は3~12であってよい。このような成分の一つは、アクリレーツコポリマー(商品名:BALANCETM RCFTMg)である。
【0049】
有用な疎水基変性親水性多糖類は、上述した疎水基で変性されたヒドロキシアルキルアルキルセルロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)である。このような成分の一つは、疎水基がステアロイル基である、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名:SANGELOSETM 90L)である。
【0050】
本実施形態に係る水中油型乳化化粧料における成分(E)は、電荷中和剤である。電荷中和剤は、クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムのような一般的なバッファーから選択できる。他のバッファー、抗酸化剤、pH調整剤、キレート剤、美白剤、植物エキス、抗菌剤、抗炎症剤、ビタミン、アミノ酸等であって水中で電離するものも、電荷中和剤として用いることができる。電荷中和剤は、当業者により電解質とも呼ばれ得る。
【0051】
25℃における水中油型乳化化粧料の粘度は、好ましくは10,000mPa・s以上である。25℃における粘度は、より好ましくは50,000~300,000mPa・sであり、好ましくはゲル状の外観を呈する。
【0052】
水中油型乳化化粧料は、100MPa以上の圧力で乳化して得ることができ、圧力は好ましくは150MPa以上であり、より好ましくは200MPa以上であり、好ましくは500MPa以下である。
【0053】
乳化は、高圧ホモジナイザーを用いて実施できる。高圧ホモジナイザーは、ポンプにより流体に加圧し、流路に設けられた微細なスリットから噴出させることにより、乳化を行う装置をいう。
【0054】
水中油型乳化化粧料は、例えば、成分(A)~(E)を混合し、高圧ホモジナイザーを用いて200MPaの圧力で乳化して得ることができる。
したがって、本発明は、上記の水中油型乳化化粧料の調製方法にも関する。この方法は、成分(A)から(E)の混合物を、高圧ホモジナイザーにより、100MPa以上、好ましくは150MPa以上、より好ましくは200MPa以上、また、好ましくは500MPa以下の圧力で乳化するステップを含む。圧力は200MPaとすることができる。
調製方法の第1のステップでは、第1の混合物を得るために、水性媒体(A)、アニオン界面活性剤(B)及びポリマー(C)を温度Tで加熱し、混合し撹拌(例えば2500rpmの速度で)すればよい。
第2のステップでは、第1のステップで得られた第1の混合物に油剤(D)及び電荷中和剤(E)をこの順で加え、第1のステップと同じ条件で撹拌された第2の混合物を得ることができる。第2のステップにおける成分の混合及び添加は、好ましくは温度Tに等しい温度で行われる。
第3のステップでは、第2の混合物を温度Tから室温まで冷却した後、高圧ホモジナイザー(例えば、モデルStar Burst:スギノマシン社の製品)で乳化して、水中油型乳化化粧料を得る。圧力は、好ましくは100MPa以上、好ましくは150MPa以上、より好ましくは200MPa以上で、好ましくは500MPa以下である。圧力は200MPaとすることができる。
【0055】
水中油型乳化化粧料において、成分(C)の含有比率は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは20~60質量%である。好ましくは、成分(B)の含有比率は0.1~10質量%、成分(D)の含有比率は0.01~2質量%、成分(E)の含有比率は、0.001~5質量%である。成分(A)は残分を構成する。成分(C)の含有比率の下限は、好ましくは30質量%、より好ましくは40質量%であり、下限は50質量%であってもよい。成分(C)は、好ましくは(C1)非極性油剤及びシリコーン油剤からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(C2)これ以外の油剤とを含み、油剤全体に対するC1成分の含有比率は、好ましくは50~98質量%である。より好ましくは60~98質量%であり、更に好ましくは70~95質量%である。これらの比率は、水中油型乳化化粧料の全質量を基準とする。
【0056】
水中油型乳化化粧料は、高いナリシング効果、みずみずしい軽い感覚、べたつきのなさ、及び優れた安定性といった特性を発揮する。高いナリシング効果は、微細化エマルションに内包された適当量の油剤に起因し、みずみずしい軽い感触は、アニオン界面活性剤からなるエマルション粒子間の電荷反発によって形成される結晶様構造に起因する。べたつきのなさは、水溶性ポリマー、界面活性剤及び界面活性助剤の少ない配合量に起因し、安定性は、成分(D)による結晶様構造の保持に起因する。
本発明はまた、上述した水中油型乳化化粧料を肌に施用するステップを含むスキンケアの方法に関する。スキンケアは、肌のナリシングを含み、これは、みずみずしく軽い感触、べたつきのなさ及び/又は肌への浸透感とともに好適に得ることができる。特定の実施形態では、本発明は、上述した水中油型乳化化粧料を肌に施用するステップを含む、肌のナリシング方法に関する。
【0057】
実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることを意味するものではない。
【0058】
<実施例1~9、比較例1~5>
表1に示す、含有するポリマーの種類及び含有量が異なる水中油型乳化化粧料は、以下の方法によりを調製された(実施例1~9及び比較例1~5)。まず、水性媒体(欄「a」)アニオン界面活性剤(欄「b」)及びポリマー(欄「c」)を加熱し、撹拌機を用いて2500rpmで混合し撹拌した。次に、油剤(欄「d」)、電荷中和剤(欄「e」)をこの順で添加して、成分を同条件にて混合し撹拌して、混合物を得た。混合物を室温まで冷却した後、高圧ホモジナイザー(Star Burst:スギノマシン社製)を用いて、200MPaの圧力で処理し、水中油型乳化化粧料を得た。各原料の含有量(質量%)は、表1に示すとおりである。
【0059】
<官能評価>
実施例1~9及び比較例1~5の水中油型乳化化粧料は、ナリシング効果、みずみずしく軽い感触、べたつきのなさ、肌への浸透感を、本発明者らが所属する組織の化粧品専門評価パネルによる肌への単回使用試験において評価され、評価は以下の基準で行われた。結果を表1に示す。
(1)ナリシング効果、みずみずしく軽い感触、肌への浸透感
A:強い
B:中程度
C:ほとんど感じない
D:感じない
(2)べたつきのなさ
A:べたつきを全く感じない
B:べたつきをほとんど感じない
C:べたつきをわずかに感じる
D:べたつきを感じる
【0060】
<外観評価>
実施例1~9及び比較例1~5の水中油型乳化化粧料について、変色の有無を評価した。調製した各水中油型乳化化粧料を透明容器に収容し、蓋で密閉して、自然光のもとで1か月保管した後に各水中油型乳化化粧料の変色の有無を評価した。評価は変色の少ない順にA~Dの4段階で行われ、変色が全く認められなかったものをAとした。結果を表1に示す。
【0061】
<安定性の評価>
実施例1~9及び比較例1~5の水中油型乳化化粧料について、経時安定性を評価した。各化粧料を透明容器に収容し、蓋で密閉して、50℃で1か月保管した。保管後、油相と水相の分離を観察した。調製翌日および50℃で1か月保管後に、回転粘度計(Anton Paar GmbH製のRheolab QC)(回転数10rpm)を用いて、各化粧料のせん断粘度を25℃で測定した。油相と水相の分離の程度と、調製翌日から50℃での1か月保管までの粘度変化を観察し、初めの状態から変化の小さい順にA~Dの4段階のスケールで評価した。結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
<実施例10~12、比較例6>
実施例10~12及び比較例6について、表2に示す、電荷中和剤の種類及び含有量が異なる水中油型乳化化粧料を、実施例1~9、比較例1~5と同様の方法により調製した。各原料の含有量(質量%)は、表2に示すとおりである。
【0064】
実施例10~12及び比較例6の水中油型乳化化粧料について、実施例1~9、比較例1~5と同様の方法により、官能評価、外観評価、及び経時安定性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0065】
【0066】
<実施例13~16、比較例7>
実施例13~16及び比較例7について、表3に示す、油剤及びノニオン界面活性剤の種類及び含有量が異なる水中油型乳化化粧料を、実施例1~9、比較例1~5と同様の方法により調製した。各原料の含有量(質量%)は、表3に示すとおりである。
【0067】
実施例13~16及び比較例7の水中油型乳化化粧料について、実施例1~9、比較例1~5と同様の方法により、官能評価、外観評価、及び経時安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0068】
【0069】
<実施例17、比較例8>
実施例17について、表4に示す組成を有する水中油型乳化化粧料を、実施例1~9、比較例1~5と同様の方法により調製した。比較例8の水中油型乳化化粧料は、高圧ホモジナイザーによる高圧乳化を行わずに、攪拌機を用いて2500rpmで10分間撹拌しるのみにより得られた。各原料の含有量(質量%)は、表4に示すとおりである。
【0070】
実施例17及び比較例8の水中油型乳化化粧料について、実施例1~9、比較例1~5と同様の方法により、官能評価、外観評価、及び経時安定性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0071】