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特許7211686有機性排水の生物処理方法及び生物処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】有機性排水の生物処理方法及び生物処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20230117BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20230117BHJP
【FI】
C02F3/12 D
C02F3/12 S
C02F3/12 H
C02F3/34 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018189863
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2020058959
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-06-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595011238
【氏名又は名称】クボタ環境エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】植地 俊仁
(72)【発明者】
【氏名】安部 剛
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-227737(JP,A)
【文献】特開平07-116685(JP,A)
【文献】特開2014-208322(JP,A)
【文献】特開2015-160188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00
3/12- 3/34
7/00
11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物処理助剤が保持されたリアクターに汚泥を接触させて生物処理助剤を溶出させる生物処理助剤溶出工程と、
前記生物処理助剤溶出工程で生物処理助剤が溶出された汚泥により生物処理槽で特定微生物群を優占化するとともに優占化した汚泥によって有機性排水を処理する生物処理工程とを含む有機性排水の生物処理方法であって、
前記生物処理工程中の汚泥の浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を50~70[%/SS]の範囲に調整する汚泥調整工程を備え、
前記汚泥調整工程は、前記生物処理工程における汚泥の引抜量を調整する工程、前記生物処理工程への有機性排水の投入量を調整する工程、前記汚泥に無機物を添加する工程、生物処理工程における窒素‐MLSS負荷を調整する工程の少なくとも1または複数を組合せた工程である有機性排水の生物処理方法。
【請求項2】
前記窒素‐MLSS負荷を調整する工程は、前記窒素‐MLSS負荷が0.015~0.04[kg‐N/kg‐MLSS・日]の範囲に入るように調整する工程である請求項記載の有機性排水の生物処理方法。
【請求項3】
前記生物処理工程によって特定微生物群が優占化された汚泥を固液分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程で固液分離された汚泥を嫌気処理することなく所定期間曝気して減容化する減容化工程と、
前記減容化工程で減容化された汚泥を脱水処理する脱水処理工程と、
を含む請求項1または2記載の有機性排水の生物処理方法。
【請求項4】
前記生物処理助剤が腐植物質及び/または珪酸を含むミネラルであり、前記特定微生物群がバチルス属細菌を含む土壌微生物群である請求項1からの何れかに記載の有機性排水の生物処理方法。
【請求項5】
汚泥に接触させて溶出させる生物処理助剤が保持されたリアクターと、
前記リアクターにより生物処理助剤が溶出された汚泥により特定微生物群を優占化するとともに優占化した汚泥によって有機性排水を処理する生物処理槽とを含む有機性排水の生物処理装置であって、
前記生物処理槽中の汚泥の浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を50~70[%/SS]の範囲に調整するために、前記生物処理槽における汚泥の引抜量の調整、前記生物処理槽への有機性排水の投入量の調整、前記汚泥への無機物の添加、前記生物処理槽における窒素‐MLSS負荷の調整の少なくとも1または複数の組合せを実行する汚泥調整機構を備えている有機性排水の生物処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水の生物処理方法及び生物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機性排水を生物処理する水処理設備に搬入された汚水は、し渣の除去等の前処理が行なわれた後に一旦貯留槽に貯留され、貯留槽から活性汚泥が充填された生物処理槽に定量的に送水されて生物処理される。そして、生物処理槽で生物処理された被処理水は、活性炭吸着等の高度処理が行なわれた後に河川等に放流される。一方、生物処理槽から引抜かれた固体成分である余剰汚泥はフィルタプレス脱水機などで脱水された後、焼却等の処理が行なわれる。
【0003】
余剰汚泥は、初沈汚泥や民間の工場排出汚泥などの他の汚泥に比べて有機物濃度が高く、一般的に有機物の割合が高い汚泥ほど脱水が難しいと言われる難脱水汚泥であり、余剰汚泥の処理コストが水処理に掛かるコストの中で大きな割合、例えば10~30%程度を占めることから、コスト低減のために余剰汚泥の最終形態である脱水ケーキを減らす、つまり脱水ケーキの含水率を下げる技術が求められている。
【0004】
そこで、特許文献1には、生物処理助剤に汚泥を接触させて、汚泥中の特定微生物群を優占化した汚泥によって有機性排水を処理する生物処理工程と、前記生物処理工程によって特定微生物群が優占化された汚泥を固液分離する固液分離工程と、前記固液分離工程で固液分離された汚泥を曝気して所定期間滞留させて減容化する減容化工程と、前記減容化工程で減容化された汚泥を脱水処理する脱水処理工程と、を含む有機性排水の生物処理方法が提案されている。
【0005】
生物処理助剤として腐植物質及び/または珪酸等のミネラルが用いられ、前記生物処理助剤でバチルス属細菌を含む土壌微生物群が特定微生物群として優占化される。
【0006】
この様な有機性排水の生物処理方法を採用することにより、汚泥沈降性の改善、汚泥脱水性の向上、汚泥発生量の低減、臭気の抑制などが見込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-160188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の活性汚泥法を採用する場合には、生物処理工程における浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)は、MLSSの値にかかわらず、つまり汚泥の引抜量をどのように調整しても、ほぼ75~80[%/SS]の範囲に収まっていたのであるが、上述したリアクターを用いて特定微生物群を優占化した汚泥を用いて生物処理する場合には、浮遊物質の強熱減量(VSS)が大幅に低下することが見込まれていた。
【0009】
しかし、本願発明者らの実証実験の結果、特許文献1に記載された有機性排水の生物処理方法を採用しても、汚泥脱水性の向上、汚泥発生量の低減が十分に達成できない場合があることが判った。
【0010】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、特定微生物群を優占化した汚泥を用いて生物処理する際に、安定的に汚泥脱水性の向上、汚泥発生量の低減が可能な有機性排水の生物処理方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明による有機性排水の生物処理方法の第一の特徴構成は、生物処理助剤が保持されたリアクターに汚泥を接触させて生物処理助剤を溶出させる生物処理助剤溶出工程と、前記生物処理助剤溶出工程で生物処理助剤が溶出された汚泥により生物処理槽で特定微生物群を優占化するとともに優占化した汚泥によって有機性排水を処理する生物処理工程とを含む有機性排水の生物処理方法であって、前記生物処理工程中の汚泥の浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を50~70[%/SS]の範囲に調整する汚泥調整工程を備え、前記汚泥調整工程は、前記生物処理工程における汚泥の引抜量を調整する工程、前記生物処理工程への有機性排水の投入量を調整する工程、前記汚泥に無機物を添加する工程、生物処理工程における窒素‐MLSS負荷を調整する工程の少なくとも1または複数を組合せた工程である点にある。
【0012】
リアクターから汚泥に供給される生物処理助剤によって汚泥中で特定微生物群が優占化され、その特定微生物群による生物処理の結果、有機性排水に含まれる有機物に対する分解効率が向上するとともに余剰汚泥の発生量自体も少なくなり、そのような余剰汚泥に含まれる未処理の有機物の含有率も少なくなるため、余剰汚泥の高い減容化率が得られる。そして、本願発明者らは、鋭意試験研究を重ねた結果、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を所定の目標範囲である50~70[%/SS]の範囲に調整することによって、余剰汚泥の発生量の低減化と脱水性の向上を図ることができるようになった。
【0013】
汚泥調整工程では、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲に入るように、浮遊物質に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲よりも高い値を示す場合には汚泥の引抜量を多くなるように調整し、所定の目標範囲よりも低い値を示す場合には汚泥の引抜量を少なくなるように調整することが好ましく、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲に入るように、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲よりも高い値を示す場合には生物処理工程への有機性排水の投入量が多くなるように調整し、所定の目標範囲よりも低い値を示す場合には生物処理工程への有機性排水の投入量が少なくなるように調整することが好ましく、汚泥に無機物を添加することにより、強熱減量(VSS)を所定の目標範囲に調整することが好ましく、生物処理工程における窒素‐MLSS負荷を調整することにより、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を所定の目標範囲に調整することが好ましい。そして、上述の工程の少なくとも1または複数を組合せた工程であることが好ましい。
【0014】
同第の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記窒素‐MLSS負荷を調整する工程は、前記窒素‐MLSS負荷が0.015~0.04[kg‐N/kg‐MLSS・日]の範囲に入るように調整する工程である点にある。
【0015】
窒素‐MLSS負荷を上述の範囲に調整することにより、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を所定の目標範囲に調整することができる。
【0016】
同第の特徴構成は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記生物処理工程によって特定微生物群が優占化された汚泥を固液分離する固液分離工程と、前記固液分離工程で固液分離された汚泥を嫌気処理することなく所定期間曝気して減容化する減容化工程と、前記減容化工程で減容化された汚泥を脱水処理する脱水処理工程と、を含む点にある。
【0017】
固液分離工程で固液分離された汚泥を曝気することにより微生物の自己分解作用が促進され、汚泥の減容化が図られるとともに、脱水処理工程で効率的に脱水される。
【0018】
同第の特徴構成は、上述の第一から第の何れかの特徴構成に加えて、前記生物処理助剤が腐植物質及び/または珪酸を含むミネラルであり、前記特定微生物群がバチルス属細菌を含む土壌微生物群である点にある。
【0019】
腐植物質及び/または珪酸等のミネラルを生物処理助剤として汚泥に供給すると、汚泥中の微生物叢がバチルス属細菌を含む土壌微生物群に優占化される。このような汚泥で有機性排水を生物処理することで、有機性排水の処理効率が上昇し、汚泥の発生量の低減及び悪臭の発生の抑制が可能になるといった効果が得られる。
【0020】
本発明による有機性排水の生物処理装置の特徴構成は、汚泥に接触させて溶出させる生物処理助剤が保持されたリアクターと、前記リアクターにより生物処理助剤が溶出された汚泥により特定微生物群を優占化するとともに優占化した汚泥によって有機性排水を処理する生物処理槽とを含む有機性排水の生物処理装置であって、前記生物処理槽中の汚泥の浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を50~70[%/SS]の範囲に調整するために、前記生物処理槽における汚泥の引抜量の調整、前記生物処理槽への有機性排水の投入量の調整、前記汚泥への無機物の添加、前記生物処理槽における窒素‐MLSS負荷の調整の何れか一つまたは2以上の組み合わせを実行する汚泥調整機構を備えている点にある。
【発明の効果】
【0021】
以上説明した通り、本発明によれば、特定微生物群を優占化した汚泥を用いて生物処理する際に、安定的に汚泥脱水性の向上、汚泥発生量の低減が可能な有機性排水の生物処理方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明による生物処理装置及び有機性排水の生物処理方法が適用される排水処理設備の説明図
図2】リアクターの説明図
図3】(a),(b)は有機性排水の生物処理方法の手順を示すフローチャート
図4】実設備での実績例の説明図
図5】(a)はASB導入設備と未導入設備で得られた汚泥に等量の凝集薬剤を添加したときの脱水性能の結果を示す説明図、(b)はASB導入設備と未導入設備で得られた汚泥に対する凝集薬剤の添加の有無による脱水性能の結果を示す説明図
図6】排水処理設備の別実施形態の説明図
図7】排水処理設備の別実施形態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明による有機性排水の生物処理方法を説明する。
図1には、本発明による有機性排水の生物処理方法が適用される排水処理設備が示されている。し尿や浄化槽汚泥が有機性排水となる。排水処理設備は、し尿受入槽、前処理設備、貯留槽を備えたし尿受入設備と、浄化槽汚泥受入槽、前処理設備、貯留槽を備えた浄化槽汚泥受入設備を備えている。前処理設備は、し尿や浄化槽汚泥に含まれる夾雑物等の生物処理不適物を除去するスクリーン機構などを備えた設備である。貯留槽に貯留されたし尿や浄化槽汚泥などの有機性排水は、汚泥投入ポンプP2,P3により生物処理槽に向けて定量供給され、生物処理槽で微生物により分解され、固液分離槽で固液分離される。
【0024】
固液分離槽で汚泥から分離された処理水は活性炭浄化装置などで高度処理され、消毒された後に河川に放流され、固液分離槽に溜まった汚泥の一部は汚泥返送路L1を介して返送汚泥として生物処理槽に返送され、残りは余剰汚泥引抜ポンプP1により余剰汚泥として引抜かれ、汚泥調質槽で数日間曝気された汚泥は、脱水設備で脱水されて、脱水汚泥として堆肥化や焼却処理される。脱水設備としてフィルタプレス式脱水機や直胴型遠心脱水機などを用いることができる。
【0025】
本実施形態では、生物処理槽として主に脱窒処理する嫌気槽、主に硝化処理する好気槽を備え、有機性排水がいわゆる生物学的硝化脱窒法で処理される。なお、生物処理槽の具体的な態様はこの様な構成に限ることはなく、公知の生物処理が行なわれるように構成されていればよい。固液分離槽として膜分離装置が浸漬配置された膜分離槽が好適に用いられるが、沈殿槽で構成されていてもよい。
【0026】
汚泥を返送するための汚泥返送路L1には、生物処理助剤が保持されたリアクターが設けられ、返送汚泥がリアクターを通過する際に溶け出した生物処理助剤が生物処理槽に投入され、特定微生物群が優占化される。なお、図1中、破線で示すように、リアクターは汚泥返送路以外に生物処理槽に浸漬設置されていてもよい。なお、汚泥返送路L1には、リアクターのメンテナンスなどの際に、リアクターを介さずに返送するバイパス路L2が設けられ、返送汚泥をリアクターに供給するかバイパス路L2に供給するかを切り替えるバルブ機構が設けられている。
【0027】
つまり、リアクターから汚泥に供給される生物処理助剤によって汚泥中で特定微生物群が優占化され、その特定微生物群による生物処理の結果、有機性排水に含まれる有機物に対する分解効率が向上するとともに余剰汚泥の発生量自体も少なくなる。
【0028】
そして、そのような余剰汚泥に含まれる未処理の有機物の含有率も少なくなるため、汚泥調質槽では専ら特定微生物群の自己分解が促進され、余剰汚泥の高い減容化率が得られる。なお、本発明が適用される排水処理設備として汚泥調質槽は必須ではないが、汚泥調質槽を備えた方が脱水性能は向上する。
【0029】
生物処理助剤として腐植物質及び/または珪酸を含むミネラルが用いられ、生物処理助剤で優占化される特定微生物群はバチルス属細菌を含む土壌微生物群である。
【0030】
腐植物質及び/または珪酸等のミネラルを生物処理助剤として汚泥に供給すると、汚泥中の微生物叢がバチルス属細菌を含む土壌微生物群に優占化される。このような汚泥で有機性排水を生物処理することで、有機性排水の処理効率が上昇し、汚泥の発生量の低減及び悪臭の発生の抑制が可能になるといった効果が得られる。
【0031】
図2(a),(b)には、槽外型のリアクターの概略構成が示されている。
槽外型のリアクター17は、汚泥が通流するようにメッシュ状の容器で構成された生物処理助剤保持部17aと、汚泥滞留槽17bと、汚泥の流入管17c、汚泥の流出管17c’及びドレイン管17dと、汚泥滞留槽17b内で生物処理助剤保持部17aに汚泥を循環供給する循環機構17eとしての散気装置等を備えている。尚、管路17cが流出管、管路17c’が流入管として構成されていてもよい。
【0032】
生物処理助剤として、ペレット状に成形した腐植成分やミネラル塊、詳しくは腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石等のうちの一種または複数種が用いられる。このような成分からなる生物処理助剤に汚泥が接触すると通性嫌気性菌である土壌微生物群が優占化され、例えばバチルス属細菌のような土壌微生物群が優占化される。
【0033】
リアクター17によって生物処理助剤に接触した汚泥が生物処理槽に返送されると、生物処理槽で通性嫌気性菌である土壌微生物群である特定微生物群が優占化され、当該特定微生物群によって硝化・脱窒等の生物処理が行なわれる。この様なリアクターが導入された設備をASB(Activation of Soil Bacteria)導入設備という。
【0034】
各貯留槽には、有機性排水に含まれる全窒素濃度T-Nを計測するセンサN1,N2が設けられ、各有機性排水に含まれる全窒素濃度T-Nが計測される。また、生物処理槽に充填されている汚泥がサンプリングされてMLSS、強熱減量(VSS)などが測定される。なお、各有機性排水に含まれる全窒素濃度T-Nは、各貯留槽からサンプリングされた有機性排水から測定してもよく、また、MLSSは生物処理槽に設置されたMLSSセンサを用いて計測するように構成してもよい。
【0035】
上述した排水処理設備には、さらに、生物処理槽中の汚泥の浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を所定の目標範囲に調整する制御部が設けられている。制御部には、センサN1,N2の値もしくはサンプルを分析して得られた全窒素濃度T-Nの値、MLSSの値、強熱減量(VSS)の値が入力され、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)の値が所定の目標範囲に入るように、余剰汚泥の引抜量が調整され、または生物処理槽への有機性排水の投入量が調整される。
【0036】
即ち、本発明の有機性排水の生物処理方法は、生物処理助剤が保持されたリアクターに汚泥を接触させて生物処理助剤を溶出させる生物処理助剤溶出工程と、生物処理助剤溶出工程で生物処理助剤が溶出された汚泥により生物処理槽で特定微生物群を優占化するとともに優占化した汚泥によって有機性排水を処理する生物処理工程とを含み、生物処理槽中の汚泥の浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を所定の目標範囲に調整する汚泥調整工程を備えている。
【0037】
図3(a)に示すように、汚泥調整工程では、1日に2回程度の頻度で汚泥がサンプリングされ、サンプリングされた汚泥の加熱乾燥処理により汚泥の浮遊物質(SS)が測定され、さらに加熱乾燥後の加熱処理を経て浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が算出される(SA1)。そして、当該浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲に入っているか否かが判断され(SA2)、目標範囲に入っていない場合には、制御部により当該浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が調整される(SA3)。当該浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)の調整のために、生物処理槽からの汚泥の引抜量の調整、及び/または貯留槽から生物処理槽への汚泥の投入量の調整が行なわれる。
【0038】
つまり、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が、予め設定された所定の目標範囲に入るように、余剰汚泥引抜ポンプP1の出力が可変制御されることにより、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲に調整されるようになる。
【0039】
例えば、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲よりも高い値を示す場合には汚泥の引抜量を多くなるように調整し、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲よりも低い値を示す場合には汚泥の引抜量を少なくなるように調整すればよい。
【0040】
浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)の調整に際しては、汚泥の引抜量を調整する以外に、生物処理槽への有機性排水の投入量を調整してもよい。図6に示すように、汚泥投入ポンプ(し尿投入ポンプ)P2及び/または汚泥投入ポンプ(浄化槽汚泥投入ポンプ)P3を出力調整することにより全窒素濃度T-Nの流入量を調整することも可能である。
【0041】
例えば、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲よりも高い値を示す場合には生物処理工程への有機性排水の投入量が多くなるように調整し、所定の目標範囲よりも低い値を示す場合には生物処理工程への有機性排水の投入量が少なくなるように調整すればよい。
【0042】
また、図6に破線で示すように、汚泥投入ポンプP2,P3に替えて、或いは汚泥投入ポンプP2,P3に加えて貯留槽から生物処理槽への汚泥の投入経路にバルブ機構を設けて、制御部によりバルブの開度を調整することで窒素‐MLSS負荷を調整することも可能である。生物処理槽からの汚泥の引抜量の調整と貯留槽から生物処理槽への汚泥の投入量の調整の双方を行なうように構成してもよい。
【0043】
さらに、図7に示すように、し尿と浄化槽汚泥を混合する混合槽を設けて、し尿用の貯留槽から汚泥投入ポンプP2により投入されるし尿と、浄化槽汚泥用の貯留槽から汚泥投入ポンプP3により投入される浄化槽汚泥とを、混合槽で混合し、混合済みの有機性排水を汚泥投入ポンプP4で生物処理槽に投入するように構成してもよい。この場合には、混合槽に備えたセンサN3により、混合済みの有機性排水に含まれる全窒素濃度T-Nを計測するように構成すれば、全窒素濃度T-Nを計測するセンサを各貯留槽に設ける必要が無くなる。
【0044】
なお、混合槽にセンサN3を設けることなく、混合槽の汚泥をサンプリングして全窒素濃度T-Nを測定してもよく、この場合でも、し尿と浄化槽汚泥の双方をサンプリングする必要が無い点で作業が軽減される。
【0045】
浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)の目標範囲は、50~70[%/SS]の範囲に設定されることが好ましく、55~62[%/SS]に設定されることがさらに好ましい。
【0046】
浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)の目標範囲が70[%/SS]を超えると、汚泥の十分な減量化が困難になり、また、浮遊物質の強熱減量(VSS)の目標範囲が50[%/SS]より低下すると、水処理を担っている活性汚泥中の微生物量が少なくなり、水処理が不安定になるという不都合な事態が生じる。
【0047】
浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)の目標範囲を55~62[%/SS]の範囲とすることにより、より確実に余剰汚泥の発生量の低減化と脱水性の向上を図ることができる。
【0048】
汚泥調整工程では、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が目標範囲である50~70[%/SS]に調整されることで、効果的に余剰汚泥の発生量の低減化と脱水性の向上を図ることができる。
【0049】
図3(b)には、汚泥調整工程の他の例が示されている。当該汚泥調整工程では、1日に2回程度の頻度で汚泥がサンプリングされ、サンプリングされた汚泥の加熱乾燥処理により汚泥の浮遊物質(SS)が測定され、さらに加熱乾燥後の加熱処理を経て浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が算出される(SB1)。さらに、窒素-MLSS負荷が測定される(SB2)。そして、当該浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲に入っているか否かが判断されるとともに(SB3)、窒素-MLSS負荷が所定範囲に収束しているか否かが判断され(SB4)、何れかが目標範囲から逸脱している場合には、生物処理槽からの汚泥の引抜量の調整、及び/または貯留槽から生物処理槽への汚泥の投入量の調整が行なわれる(SB5)。
【0050】
即ち、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を目標範囲である50~70[%/SS]に調整し、且つ、生物処理工程における窒素‐MLSS負荷を0.015~0.04[kg‐N/kg‐MLSS・日]に調整ですることで、効果的に余剰汚泥の発生量の低減化と脱水性の向上を図ることができる。
【0051】
さらに他の例を説明する。本願発明者らの試験研究の結果、汚泥の浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)と生物処理槽の窒素‐MLSS負荷との間に相関関係が認められるとの新知見が得られている。そこで、窒素‐MLSS負荷を調整することにより浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を好ましい値に調整することができる。その結果、余剰汚泥の発生量の低減化と脱水性の向上を図ることができるようになる。
【0052】
例えば、生物処理槽に接続された余剰汚泥引抜ポンプP1の出力を可変して余剰汚泥の引抜量を調整するとMLSS濃度を調整でき、予め測定された全窒素濃度T-Nの値に基づいて生物処理工程への有機性排水の投入量を調整することにより、窒素‐MLSS負荷を調整することができる。なお、余剰汚泥引抜ポンプP1の出力が一定値に設定されている場合には、汚泥引抜経路に備えたバルブ機構の開度調整により、MLSS濃度を調整することも可能である。
【0053】
つまり、生物処理槽に供給される有機性排水の全窒素濃度T-NとMLSS濃度に基づいて求まる窒素‐MLSS負荷が、予め設定された所定の目標範囲に入るように、余剰汚泥引抜ポンプP1の出力が可変制御されることにより、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲に調整されるようになる。
【0054】
例えば、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲よりも高い値を示す場合には汚泥の引抜量を多くなるように、及び/または生物処理工程への有機性排水の投入量が多くなるように調整して、窒素‐MLSS負荷を高くし、所定の目標範囲よりも低い値を示す場合には汚泥の引抜量を少なくなるように、及び/または生物処理工程への有機性排水の投入量が少なくなるように調整することにより、窒素‐MLSS負荷を低くすればよい。
【0055】
汚泥調整工程では、上述の調整により、窒素‐MLSS負荷が0.015~0.04[kg‐N/kg‐MLSS・日]の範囲、好ましくは0.02~0.03[kg‐N/kg‐MLSS・日]の範囲に入るように調整される。即ち、生物処理工程における窒素‐MLSS負荷を0.015~0.04[kg‐N/kg‐MLSS・日]の範囲、好ましくは0.02~0.03[kg‐N/kg‐MLSS・日]の範囲に調整ですることで、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を目標範囲である50~70[%/SS]、好ましくは55~62[%/SS]に調整できるようになり、効果的に余剰汚泥の発生量の低減化と脱水性の向上を図ることができる。
【0056】
生物処理工程によって特定微生物群が優占化された汚泥を固液分離する固液分離工程と、固液分離工程で固液分離された汚泥を嫌気処理することなく所定期間曝気して減容化する減容化工程と、減容化工程で減容化された汚泥を脱水処理する脱水処理工程が実行される。固液分離工程で固液分離された汚泥を曝気することにより微生物の自己分解作用が促進され、汚泥の減容化が図られるとともに、脱水処理工程で効率的に脱水される。
【0057】
以上説明したように、本発明による有機性排水の生物処理装置は、汚泥に接触させて溶出させる生物処理助剤が保持されたリアクターと、前記リアクターにより生物処理助剤が溶出された汚泥により特定微生物群を優占化するとともに優占化した汚泥によって有機性排水を処理する生物処理槽とを含む有機性排水の生物処理装置であって、生物処理槽中の汚泥の浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を所定の目標範囲に調整する汚泥調整機構としての制御部を備えている。
【0058】
浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を目標範囲に調整するために、窒素‐MLSS負荷を調整する例を説明したが、窒素‐MLSS負荷の値にかかわらず、生物処理槽からの汚泥の引抜量の調整、及び/または貯留槽から生物処理槽への汚泥の投入量の調整を行なうように構成してもよい。
【0059】
浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を目標範囲に調整するために、リアクターに保持される生物処理助剤の粒径を調整してもよい。生物処理助剤の粒径を小さく粉末状にすれば、リアクターを通過する際に返送汚泥に溶け出す生物処理助剤の量が増して、より多くの特定微生物群が生物処理槽で優占化され、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を低下させることができる。また、粒径を小さくした粉末状の生物処理助剤を生物処理槽へ投入してもよい。さらに、返送汚泥の一部をリアクターを介さずにバイパス路L2で返送するように構成し、リアクターを介して返送する汚泥量の調整によっても返送汚泥に溶け出す生物処理助剤の量を調整することも可能である。
【0060】
また、浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲に入るように、上述した何れかの方策とともに、余剰汚泥に無機物を添加して、実質的に浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)を下げることで、脱水性能を向上させてもよい。
【0061】
浮遊物質(SS)に対する強熱減量(VSS)が所定の目標範囲に入るように、上述した何れかの方策とともに、余剰汚泥に薬剤を投入して特定微生物群を含む微生物を溶解させてもよい。薬剤として、アルカリ性薬剤、酸性薬剤、酵素系薬剤などの薬剤を添加すればよい。さらには、余剰汚泥を加熱処理して特定微生物群を含む微生物を溶解させてもよい。
【実施例
【0062】
図4には、3か所のASB導入設備A,B,Cにおいて、過去1年の窒素-MLSS負荷[kg‐N/kg‐MLSS・日]の平均値と、浮遊物質(SS)に対する強熱減量VSS[%/SS]の範囲が示されている。窒素の測定方法は、下水試験方法(2012年度版)、HACH分析法、MLSSの測定は、MLSS計、下水試験方法(2012年度版)を用いている。VSS[%/SS]の測定方法も下水試験方法(2012年度版、第12節)に詳述されている通り、汚泥を105~110℃、2時間で加熱乾燥させてSSを求め、その乾燥物を600±25℃、30分間で強熱し、揮散した物質(有機物量)を測定することで得られる。
【0063】
従来、ASB未導入設備におけるVSS[%/SS]の値は、MLSS濃度にかかわらず略75~80[%/SS]であることが知られている。ASB導入設備A,Bでは、VSSが59.5~69.4[%/SS]と従来よりも低下しており、汚泥の脱水性能が向上しているが、ASB導入設備CではVSS[%/SS]が72.9~80.0[%/SS]と従来と殆ど変っていない。
【0064】
各設備で窒素-MLSS負荷を比較すると、強熱減量VSS[%/SS]と窒素-MLSS負荷に相関が見られることが判明した。つまり、窒素-MLSS負荷が0.014[kg‐N/kg‐MLSS・日]と低い値のASB導入設備CはVSSが高い値を示すのに対して、窒素-MLSS負荷が0.022[kg‐N/kg‐MLSS・日]、0.028[kg‐N/kg‐MLSS・日]と高い値のASB導入設備A,Bでは、何れも強熱減量VSS[%/SS]の値が低下するという現象が確認できた。
【0065】
従って、ASB導入設備で好ましい汚泥減少効果、脱水性能の向上を図るために、強熱減量VSS[%/SS]を調整するか、窒素‐MLSS負荷[kg‐N/kg‐MLSS・日]を調整することが有効であるとの知見が得られた。
【0066】
次に、ASB導入設備と未導入設備で、直胴型遠心脱水機を用いた脱水性の比較試験を実施したところ、図5(a)に示すように、同じ無機凝集剤添加率で、ASB導入設備の方が含水率6ポイント低いことが判明した。このときの強熱減量VSS[%/SS]はASB導入設備で59.5~61.8[%/SS]、未導入設備で71.2~76.5[%/SS]であった。
【0067】
ASB導入設備と未導入設備で、フィルタプレス脱水機を用いた脱水性の比較試験を実施したところ、図5(b)に示すように、ASB導入設備では、無機凝集剤を添加しなくても、無機凝集剤を添加したASB未導入設備と同程度の含水率が実現できた。このときのVSSはASB導入設備で67.3~69.4[%/SS]、未導入設備で74.3~75.0[%/SS]であった。
【0068】
つまり、ASBが導入され、VSSが調整されることにより汚泥の脱水特性が良好になることが確認できた。
【符号の説明】
【0069】
17:リアクター
17a:生物処理助剤保持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7