(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】炭素短繊維湿式不織布及び炭素繊維強化樹脂
(51)【国際特許分類】
D21H 13/50 20060101AFI20230117BHJP
D04H 1/4242 20120101ALI20230117BHJP
D04H 1/545 20120101ALI20230117BHJP
D21H 11/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
D21H13/50
D04H1/4242
D04H1/545
D21H11/00
(21)【出願番号】P 2018234002
(22)【出願日】2018-12-14
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福田 元道
(72)【発明者】
【氏名】増田 敬生
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-128705(JP,A)
【文献】特開2004-323992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 13/50
D04H 1/4242
D04H 1/545
D21H 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結束炭素短繊維本数が5本以上である炭素短繊維束が1cm
2あたり3個以上であり、炭素短繊維の平均繊維長が1mm以上50mm未満であり、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量が15質量%未満であり、流れ方向の引張強度が30N/m以上5000N/m未満であ
り、セルロース繊維を含有することを特徴とする炭素短繊維湿式不織布。
【請求項2】
炭素短繊維の配合量が10質量%以上98質量%以下である請求項1記載の炭素短繊維湿式不織布。
【請求項3】
坪量が20g/m
2以上500g/m
2未満である請求項1又は請求項2記載の炭素短繊維湿式不織布。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の炭素短繊維湿式不織布と、該炭素短繊維湿式不織布と複合化された樹脂とからなる炭素繊維強化樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素短繊維湿式不織布及び炭素繊維強化樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は鉄よりも軽量であり、強度が強いという優れた力学特性を有している。そのため、炭素繊維複合材料は航空機、自動車、テニスラケット、釣り竿、風力発電の羽根などの幅広い分野で使用されており、今後も用途が拡大すると予想される。
【0003】
炭素繊維としては、現在主に、ポリアクリロニトリルを炭素化、黒鉛化することで得られるPAN系炭素繊維と、タールピッチ液化石炭を溶融紡糸してから炭素化、黒鉛化することで得られるピッチ系炭素繊維とが使用されている。こうして生産された炭素繊維は、織物として加工するか、あるいは一方向に並べた後に、未硬化樹脂を含浸させた炭素繊維プリプレグと呼ばれる材料を、目標とする成形物の型に合うように裁断した後に樹脂を硬化することで得られる、炭素繊維強化樹脂(以下、「炭素繊維強化樹脂」を「CFRP」と略記する場合がある)として使用されることが多い。あるいは、CFRP廃材をリサイクルして得られた炭素繊維を使用する場合は、炭素繊維がリサイクル過程において短繊維化して炭素短繊維となることから、織物として加工することはできないため、不織布として加工されることが一般的である。
【0004】
炭素短繊維をシート化して炭素短繊維湿式不織布とする方法としては、炭素短繊維と水膨潤フィブリル化繊維とを水中に分散させ、抄紙用スラリーを作製し、繊維を交絡させて、炭素短繊維湿式不織布を製造する方法が開示されている。水膨潤フィブリル化繊維としては、フィブリル化パラ型芳香族ポリアミド繊維や、フィブリル化アクリル繊維が挙げられている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1では、炭素短繊維湿式不織布をCFRP加工する際の繊維・樹脂の成形流動性や不織布内の炭素短繊維の均一性などの点については考慮されておらず、CFRP加工する際にトラブルが発生する場合がある。CFRP加工の際に繊維・樹脂の成形流動性が低い場合、複雑な形状のCFRPを加工する際に細かい部分にまで繊維・樹脂が広がらず、複雑な形状に加工することができない場合がある。また、不織布内の炭素短繊維が均一でない場合、CFRP加工後の強度も不均一になり、CFRPとしては適さない場合がある。
【0005】
また、炭素短繊維湿式不織布を製造する別方法としては、炭素短繊維75質量%~97質量%、セルロース25質量%~3質量%からなる炭素短繊維湿式不織布を製造する方法において、含窒素有機溶媒を含有する水性分散助剤を炭素短繊維に対して10質量%以下と炭素短繊維を所定量の水に添加して撹拌し、さらに水でスラリー固形分濃度を0.05質量%以下に希釈して回流させる工程を経た後、湿式抄紙する方法が示されている(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2の炭素短繊維湿式不織布は、ガス透過性や導電性を有する不織布であり、CFRPに使用される不織布ではないため、炭素短繊維湿式不織布をCFRP加工する際の繊維・樹脂の成形流動性や不織布内の炭素短繊維の均一性などの点においては考慮されておらず、CFRP加工の際やCFRP加工後に不具合が発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/021366号パンフレット
【文献】特開2004-353124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、CFRPに加工する際に優れた成形流動性を示し、またCFRP加工後には優れた強度及び均一性を持つ炭素短繊維湿式不織布を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、この課題を解決するため研究を行った結果、下記手段を見出した。
【0009】
<1>結束炭素短繊維本数が5本以上である炭素短繊維束が1cm2あたり3個以上であり、炭素短繊維の平均繊維長が1mm以上50mm未満であり、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量が15質量%未満であり、流れ方向の引張強度が30N/m以上5000N/m未満であり、セルロース繊維を含有することを特徴とする炭素短繊維湿式不織布。
<2>炭素短繊維の配合量が10質量%以上98質量%以下である<1>記載の炭素短繊維湿式不織布。
<3>坪量が20g/m2以上500g/m2未満である<1>又は<2>記載の炭素短繊維湿式不織布。
<4><1>~<3>のいずれかに記載の炭素短繊維湿式不織布と、該炭素短繊維湿式不織布と複合化された樹脂とからなる炭素繊維強化樹脂。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、CFRPに加工する際に優れた成形流動性を示し、CFRP加工後には優れた強度及び均一性を持つ炭素短繊維湿式不織布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例において、<CFRP成形流動性評価>の際に、リブ成形する方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、CFRPに加工する際に優れた成形流動性を持つ炭素短繊維湿式不織布を得るための発明である。炭素短繊維湿式不織布をCFRPに加工する際において、炭素短繊維湿式不織布の成形流動性が低い場合、複雑な形状に加工することができないという問題が発生する場合がある。すなわち、炭素短繊維が樹脂と共に流動せず、樹脂のみが複雑な形状を形成するが、樹脂のみの箇所の強度が非常に弱くなり、CFRPとしては適さないという問題が発生する場合がある。また、炭素短繊維湿式不織布の成形流動性はあったとしても、炭素短繊維が流動するにあたり、炭素短繊維が寄り集まり、高密度となる箇所ができ、その結果、低密度箇所の強度と高密度箇所の強度が不均一となるため、CFRPの品質も不均一になり、CFRP加工用炭素短繊維湿式不織布として適さないという問題が発生する場合があった。
【0013】
これらの問題を解決するため、鋭意研究を行った結果、結束炭素短繊維本数が5本以上である炭素短繊維束が1cm2あたり3個以上であり、炭素短繊維の平均繊維長が1mm以上50mm未満であり、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量が15質量%未満であり、流れ方向の引張強度が30N/m以上5000N/m未満であることを特徴とする炭素短繊維湿式不織布は、炭素短繊維湿式不織布の成形流動性が高く、CFRP加工後の強度及び均一性も高いことが分かった。
【0014】
結束炭素短繊維本数が5本以上である炭素短繊維束が1cm2あたり3個未満である炭素短繊維湿式不織布は、分散された炭素短繊維同士が複雑に交錯することによって成形流動性が低くなり、CFRP用炭素短繊維湿式不織布として適さない場合がある。炭素短繊維の平均繊維長が1mm未満の場合は、炭素短繊維が短いため、炭素短繊維湿式不織布の強度が十分に発揮されず、CFRP加工後の強度が弱くなる。また、炭素短繊維の平均繊維長が50mm以上である場合は、長い繊維同士が複雑に交錯することにより、炭素短繊維湿式不織布の成形流動性が低くなり、CFRP用炭素短繊維湿式不織布として適さない。炭素短繊維の平均繊維長は、より好ましくは3mm以上30mm以下である。
【0015】
流れ方向の引張強度が30N/m未満である場合、抄紙の際に紙切れが多発して、生産性が著しく劣り、CFRP用炭素短繊維湿式不織布として適さない。流れ方向の引張強度が5000N/m以上である場合、繊維同士が強く結着していることから、成形流動性が低くなり、CFRP用炭素短繊維湿式不織布として適さない。流れ方向の引張強度は、より好ましくは50N/m以上4500N/m以下であり、さらに好ましくは100N/m以上4000N/m以下である。
【0016】
本発明において、炭素短繊維湿式不織布に含まれる全繊維に対して、炭素短繊維の配合量は10~98質量%であることが好ましく、20~97質量%であることがより好ましく、30~96質量%であることがさらに好ましい。炭素短繊維の配合量が10質量%未満である場合は、加工した際に炭素短繊維が持つ「強度が高く、質量が軽い」という効果が十分に発揮できない場合がある。炭素短繊維の含有量が98質量%よりも多い場合は、繊維同士の結着が不十分となり、脱落繊維が発生する場合がある。
【0017】
なお、本発明において、炭素短繊維とは、繊維長が50mm以下の繊維を言う。また、繊維長の下限値は、0.1mmであることが好ましい。炭素短繊維の繊維長が0.1mm未満になると、湿式不織布を製造する際に繊維が脱落する場合がある。繊維長の上限値は特に規定しないが、繊維長が50mmを超える繊維が含まれると、その繊維を核に繊維がダマ状の塊となり、均一に抄紙を行うことが難しくなる場合がある。
【0018】
炭素短繊維としては、PAN系、ピッチ系など、どのような製法で製造された炭素短繊維でも使用することができる。また、新品未使用の炭素短繊維でも、廃棄された炭素繊維をリサイクル処理して得られた炭素短繊維でもなんら問題は無い。炭素短繊維を得るのに必要なコストを考慮すると、リサイクル処理して得られた炭素短繊維がより好ましい。
【0019】
本発明の炭素短繊維湿式不織布においては、性能を阻害しない範囲で、バインダー合成繊維を使用することができる。バインダー合成繊維としては、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割繊維などの複合繊維;未延伸繊維;低融点合成樹脂単繊維;湿熱接着性バインダー樹脂繊維等が挙げられる。バインダー合成繊維は、繊維全体又は繊維の一部のガラス転移温度又は溶融温度(融点)が低く、抄紙機の乾燥工程において、バインダー能力を発現する。複合繊維は、皮膜を形成しにくいので、炭素短繊維湿式不織布の空間を保持したまま、機械的強度を向上させることができる。より具体的には、複合繊維としては、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ等が挙げられる。未延伸繊維としては、ポリエステル等の未延伸繊維が挙げられる。また、ポリエチレンやポリプロピレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)等の低融点合成樹脂単繊維や、ポリビニルアルコール系のような湿熱接着性バインダー樹脂繊維は、乾燥工程で皮膜を形成しやすいが、本発明では使用することができる。
【0020】
本発明において、炭素短繊維湿式不織布に含まれる全繊維に対して、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量は15質量%未満であり、12質量%未満がより好ましく、10質量%未満がさらに好ましい。湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量が15質量%以上である場合、炭素短繊維同士が強く結着することで、成形流動性が阻害され、CFRP用炭素短繊維湿式不織布として適さない。湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量の下限値は特に規定しておらず、ゼロ質量%でもなんら支障はないが、2質量%以上配合させることで、湿潤状態でもある程度強度を発現するため、抄造性が安定する傾向にある。
【0021】
本発明の炭素短繊維湿式不織布においては、性能を阻害しない範囲で、半合成繊維、合成繊維(バインダー合成繊維を除く)、無機繊維、セルロース繊維等を含有することもできる。
【0022】
合成繊維(バインダー合成繊維を除く)としては、例えば、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ベンゾエート系、ポリクラール系、フェノール系などの合成繊維を挙げることができる。また、無機繊維としては、ガラス繊維、岩石繊維、スラッグ繊維、金属繊維などの無機繊維が挙げられる。また、半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられる。
【0023】
合成繊維(バインダー合成繊維を除く)、バインダー合成繊維、無機繊維及び半合成繊維の繊維長は特に限定しないが、3mm以上30mm未満であることが好ましい。これらの繊維の繊維長が長いほど、一本あたりの繊維同士の接触点が多くなり、繊維が脱落しにくくなる傾向があるため、これらの繊維の繊維長は3mm以上であることが好ましい。繊維長が長すぎる場合は、抄紙性や不織布の地合いが悪化する場合があるため、30mm未満であることが好ましい。繊維径についても特に限定しないが、1μm以上30μm未満であることが好ましく、2μm以上20μm未満であることが特に好ましい。繊維径が1μm未満の繊維を配合すると、炭素短繊維湿式不織布内が過剰に密な構造になることから、例えば炭素短繊維湿式不織布に樹脂を浸透させるなどの加工を行う際に樹脂の浸透を阻害し、加工後のCFRPの性能が下がる場合がある。繊維径が30μm以上である場合は、合成繊維(バインダー合成繊維を除く)又は無機繊維が脱落しやすい場合がある。
【0024】
セルロース繊維の種類としては、天然セルロース繊維、再生セルロース繊維等が挙げられる。天然セルロース繊維としては、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなどの木材パルプ;藁パルプ、竹パルプ、リンターパルプ、ケナフパルプなどの木本類又は草本類のパルプが挙げられる。再生セルロース繊維としては、レーヨン、キュプラ、リヨセル等の再生セルロース繊維が挙げられる。これらのセルロース繊維は、フィブリル化(叩解)されていてもなんら差し支えない。さらに、古紙、損紙などから得られるパルプ繊維を使用してもよい。
【0025】
上記セルロース繊維の中で、針葉樹パルプ、リンターパルプ及びリヨセルの群から選ばれる1種以上のセルロース繊維を使用することが好ましく、リヨセルを使用することがより好ましい。また、リヨセルはフィブリル化(叩解)されていることが好ましい。これらの好ましいセルロース繊維を使用することによって、繊維の脱落を抑制することができる。また、炭素短繊維湿式不織布を抄紙法で製造する場合の操業性が安定するという効果も得られる。
【0026】
フィブリル化(叩解)セルロース繊維は、上記のセルロース繊維をフィブリル化することによって製造することができる。フィブリル化するための装置としては、ビーター、PFIミル、シングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、また、顔料等の分散や粉砕に使用するボールミル、ダイノミル、ミキサー、摩砕装置、高速の回転刃により剪断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、繊維懸濁液に少なくとも20MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより繊維に剪断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等の装置が挙げられる。これらの装置を、単独又は組み合わせて用いることによって、フィブリル化セルロース繊維を製造することができる。そして、これらの装置の種類、処理条件(繊維濃度、温度、圧力、回転数、リファイナーの刃の形状、リファイナーのプレート間のギャップ、処理回数)等のフィブリル化条件の調整により、目的のフィブリル化状態を得ることができる。
【0027】
セルロース繊維を配合する場合、その配合量は1質量%以上30質量%未満であることが好ましく、2質量%以上20質量%未満であることがさらに好ましい。セルロース繊維の配合量が1質量%未満である場合、セルロース繊維を配合しなかった場合と変わらない。セルロース繊維の配合量が1質量%以上であると、繊維同士の接触点が増え、抄紙の際に紙切れがより起こり難くなり、より安定した生産が可能になる。セルロース繊維の配合量が30質量%以上である場合、CFRP加工の際に、セルロース繊維が樹脂の浸透を阻害することがあり、樹脂を均一に含浸させることが難しい場合がある。
【0028】
本発明の炭素短繊維湿式不織布は、炭素短繊維を抄紙機でシート化する抄紙法によって得られる。
【0029】
抄紙法では、例えば、長網式、円網式、傾斜ワイヤー式を用いることができる。これらの抄紙方式を単独で有する抄紙機を使用しても良いし、同種又は異種の2機以上の抄紙方式がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機を使用しても良い。均一性に優れた炭素短繊維湿式不織布を製造するには、長網式、傾斜ワイヤー式のように、緩やかに、ワイヤー上のスラリーから脱水することができる抄紙方式を使用することが好ましい。本発明の炭素短繊維湿式不織布は、単層であっても良いし、複層であっても良い。
【0030】
抄紙法において、繊維を分散することを目的に、パルパーでの離解作業を行う。パルパーの種類は特に限定しておらず、縦型パルパーを使用しても良いし、横型パルパーを使用しても良いし、その他の形式のパルパーでもなんら問題は無い。パルパーの離解能力も特に限定していないが、パルパーの離解能力が強すぎる場合、炭素短繊維がパルパーによって砕かれ、ミルド状となり、CFRP加工後の強度が低くなる場合がある。パルパーの離解能力が弱すぎる場合、炭素短繊維が全く離解せずに、地合いが悪くなり、炭素短繊維が不均一になり、CFRP加工後の強度も不均一になる場合がある。炭素短繊維の離解の状態については、パルパーの強度、時間を調節することでコントロールすることが望ましい。
【0031】
抄紙法において、繊維を均一に水中に分散させる目的や各種機能を付与する目的で、繊維を水中に分散する際に、各種アニオン性、ノニオン性、カチオン性、あるいは両性の分散剤、消泡剤、親水剤、濾水剤、紙力向上剤、粘剤、帯電防止剤、高分子粘剤、離型剤、抗菌剤、殺菌剤、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の薬品を添加する場合もある。
【0032】
本発明の炭素短繊維湿式不織布には、必要に応じてサイズ剤を配合することができる。サイズ剤としては、本発明の所望の効果を損なわないものであれば、強化ロジンサイズ剤、ロジンエマルジョンサイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、合成サイズ剤、中性ロジンサイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)などのサイズ剤の中からいずれをも用いることができる。
【0033】
抄紙機で製造された湿紙を、ヤンキードライヤー、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等で乾燥することにより、炭素短繊維湿式不織布を得る。湿紙の乾燥の際に、ヤンキードライヤー等の熱ロールに密着させて熱圧乾燥させることによって、密着させた面の平滑性が向上する。熱圧乾燥とは、タッチロール等で熱ロールに湿紙を押しつけて乾燥させることを言う。熱ロールの表面温度は、100~180℃が好ましく、100~160℃がより好ましく、110~160℃がさらに好ましい。圧力は、好ましくは50~1000N/cmであり、より好ましくは100~800N/cmである。
【実施例】
【0034】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部数や百分率は質量基準である。実施例17及び18は参考例である。
【0035】
実施例1
表1記載の繊維長の炭素短繊維と叩解リヨセルとPVAバインダー(クラレ製、製品名:VPB107-1)とを、表1記載の配合比率(質量基準)で水に投入して、縦型パルパーで10分間混合分散した後、湿紙を傾斜ワイヤー方式で、一層抄きで湿式抄紙し、表面温度130℃のヤンキードライヤーで乾燥し、抄紙速度20m/minで、坪量50g/m2の炭素短繊維湿式不織布を得た。
【0036】
実施例2、3、比較例1及び2
炭素短繊維の分散状態を変えて、表1記載の繊維結束数に変えた以外は、実施例1と同様に、実施例2、3、比較例1及び2の炭素短繊維湿式不織布を得た。
【0037】
実施例4~7、比較例3及び4
炭素短繊維の配合比率及び平均繊維長を表1記載内容に変えた以外は、実施例1と同様に、実施例4~7、比較例3及び4の炭素短繊維湿式不織布を得た。
【0038】
実施例8~19、比較例5及び6
炭素短繊維、セルロース繊維及びバインダー合成繊維の配合比率を表1記載内容に変えた以外は、実施例1と同様に実施例8~19、比較例5及び6の炭素短繊維湿式不織布を得た。
【0039】
実施例20~23
炭素短繊維、セルロース繊維、合成繊維(バインダー合成繊維を除く)及びバインダー合成繊維の配合比率を表1の値に変えた以外は、実施例1と同様に実施例20~23の炭素短繊維湿式不織布を得た。
【0040】
実施例24~30及び比較例7
炭素短繊維湿式不織布の坪量、繊維配合比率を表1記載内容に変えた以外は、実施例1と同様に実施例24~30及び比較例7の炭素短繊維湿式不織布を得た。
【0041】
【0042】
表1に記載されている繊維の詳細は、以下のとおりである。
【0043】
叩解リヨセル:リヨセル繊維(繊度1.4デシテックス、繊維長3mm)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理し、平均繊維径14.0μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部を発生させるように調製した繊維。
叩解針葉樹パルプ:ろ水度500mlCSFとなるように調製した天然針葉樹パルプ。
PET繊維:ポリエチレンテレフタレート(PET)延伸繊維、繊度1.7デシテックス、繊維長5mm
アラミド繊維:繊度0.9デシテックス、繊維長5mm
PVAバインダー:ポリビニルアルコール系バインダー合成繊維(湿熱接着性バインダー樹脂繊維、クラレ製、製品名:VPB107-1)
PETバインダー:PET未延伸バインダー合成繊維(熱融着性バインダー合成繊維、繊度1.2デシテックス、繊維長5mm)
【0044】
実施例及び比較例で作製した炭素短繊維湿式不織布において、結束炭素短繊維本数が5本以上である炭素短繊維束の数(繊維結束数)、坪量、流れ方向の引張強度(強度)を測定した。また、CFRP加工後の強度、均一性及び成形流動性を評価した。測定結果及び評価結果を表1に示した。
【0045】
<繊維結束数>
炭素短繊維湿式不織布を1cm×1cmに断裁して、その中に含まれる結束炭素短繊維本数が5本以上である炭素短繊維束の数をルーペで観察してカウントを行った。
【0046】
<坪量>
炭素短繊維湿式不織布の坪量をJIS P 8124:2011に則って測定した。
【0047】
<強度>
JIS P8113(2006)に準じ、引張強度の測定を行った。なお、引張試験機には(日本A&D社製、商品名:テンシロン(登録商標)UTM-III-100型)を使用した。測定した引張強度からN/mの値を求めた。
【0048】
<抄紙安定性>
炭素短繊維湿式不織布を抄紙するにあたり、抄紙の安定性の評価を行った。抄紙の安定性が低い場合、安定した生産が困難となる場合がある。
【0049】
○:紙切れ等の問題が発生せず、安定した抄紙ができる。
△:紙切れ等の問題がやや発生したものの、抄紙ができる。
×:紙切れ等の問題が頻発して、安定した抄紙ができない。
【0050】
<CFRP加工>
炭素短繊維湿式不織布のCFRP加工を行った。炭素短繊維湿式不織布に、硬化剤を混合した熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)を炭素短繊維湿式不織布の質量の二倍量塗工した後、厚みが2mmとなるように熱プレス加工(温度120℃、圧力5MPa)を行い、炭素短繊維湿式不織布のCFRP板を得た。
【0051】
使用したエポキシ樹脂は以下のとおりである。
エポキシ樹脂:GM-6800(ブレニー技研)
硬化剤混合後粘度:505cps
【0052】
エポキシ樹脂は、硬化剤を主剤/硬化剤が10/3となるように混合した後、CFRP加工を実施した。
【0053】
<CFRP加工後の強度評価>
作製したCFRP板の強度をJIS K 7074:1988に則って、サンプルごとにN=10回測定して、評価を行った。
【0054】
○:CFRPとして十分高い強度が得られた。
△:CFRPとしてやや低めではあるものの、高い強度が得られた。
×:CFRPとして強度が不足していた。
【0055】
<CFRP加工後の均一性評価>
作製したCFRP板の強度の変動係数を求め、評価を行った。
【0056】
○:変動係数が10%未満であり、強度が均一であった
△:変動係数が10~30%であり、強度がやや不均一であった。
×:変動係数が30%よりも高く、強度が不均一であった。
【0057】
<CFRP成形流動性評価>
炭素短繊維湿式不織布の成形流動性を測定するため、上記<CFRP加工>と同様に、炭素短繊維湿式不織布に熱硬化性樹脂を塗工して得た、炭素短繊維湿式不織布+エポキシ樹脂複合体31を、上板(スリットあり)11と下板(スリットなし)21との間に置き、熱プレス成形(温度120℃、圧力5MPa)して、幅2mm、長さ50mmのリブ41を成形して、成形流動性の評価を行った(
図1)。
【0058】
○:炭素短繊維を含んだリブが3mmよりも高く形成され、高い成形流動性が見られた。
△:炭素短繊維を含んだリブが高さ0.5~3mmの範囲で形成され、やや高い流動性が見られた。
×:炭素短繊維を含んだリブが0.5mmよりも低く形成され、成形流動性が見られなかった。
【0059】
結束炭素短繊維本数が5本以上である炭素短繊維束が1cm2あたり3個以上であり、炭素短繊維の平均繊維長が1mm以上50mm未満であり、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量が15質量%未満であり、流れ方向の引張強度が30N/m以上5000N/m未満であることを特徴とする炭素短繊維湿式不織布である実施例に1~3においては、優れた成形流動性とCFRP加工後の強度及び均一性を持つことが分かる。炭素短繊維結束が多いため、複雑に絡み合った炭素短繊維が少なく、また、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量が少ないため、繊維同士の結着が適度な強度に抑えられていることから、優れた成形流動性が示されたと推測される。
【0060】
また、結束炭素短繊維本数が5本以上である炭素短繊維束が1cm2あたり3個未満である比較例1及び2では、優れたCFRP加工後の強度を持つものの、CFRP加工の際の成形流動性が低いことが分かる。これは炭素短繊維が複雑に絡み合い、炭素短繊維が流動しづらい状態になっているため、成形流動性や均一性に劣る結果となったと推測される。
【0061】
結束炭素短繊維本数が5本以上である炭素短繊維束が1cm2あたり3個以上であり、炭素短繊維の平均繊維長が1mm以上50mm未満であり、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量が15質量%未満であり、流れ方向の引張強度が30N/m以上5000N/m未満であることを特徴とする炭素短繊維湿式不織布である実施例4~7においては、優れた成形流動性とCFRP加工後の強度及び均一性を持つことが分かる。炭素短繊維の配合比率を変更して平均繊維長を調節しても、1mm以上50mm未満の範囲では優れた成形流動性が示されたと推測する。
【0062】
また、炭素短繊維の平均繊維長が1mmであっても、炭素短繊維束が1cm2あたり3個未満である比較例3では、高い成形流動性が確認されているものの、抄紙安定性やCFRP加工後の強度が劣ることが分かる。抄紙の安定性が低い原因は、炭素短繊維の平均繊維長が1mmであり、且つ炭素短繊維束が少ないため、炭素短繊維同士の絡み合いが極端に少なく、紙切れが多発したためと推測する。CFRP加工後の強度が劣る原因は、炭素短繊維の平均繊維長が1mmであり、且つ炭素短繊維束が少ないことから、炭素短繊維の持つ強度を十分に発揮できていないためと推測する。また、炭素短繊維の平均繊維長が50mmである比較例4では、炭素短繊維同士が複雑に絡み合うことで、繊維が流動しにくくなり、成形流動性が劣る結果となったと推測する。抄紙についても、長い炭素短繊維が複雑に絡み合い、ダマ状になりやすいことから、安定性が劣る結果となった。
【0063】
結束炭素短繊維本数が5本以上である炭素短繊維束が1cm2あたり3個以上であり、炭素短繊維の平均繊維長が1mm以上50mm未満であり、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量が15質量%未満であり、流れ方向の引張強度が30N/m以上5000N/m未満であることを特徴とする炭素短繊維湿式不織布である実施例8~19においては、優れた成形流動性とCFRP加工後の強度及び均一性を持つことが分かる。セルロース繊維及び湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量を調節しても、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の割合が15質量%未満の範囲では、優れた成形流動性が示された。また、セルロース繊維のみを配合した場合、又は湿熱接着性バインダー合成繊維や熱融着性バインダー樹脂繊維のみを配合した場合においても、問題無く優れた成形流動性が示されることが分かる。
【0064】
また、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量が15質量%以上である比較例5及び6では、炭素短繊維湿式不織布の強度が高くなり、CFRP加工時の成形流動性が劣ることが分かる。これは炭素短繊維湿式不織布の強度が高く、樹脂が流動する力よりも炭素短繊維湿式不織布の強度の方が強いため、炭素短繊維が流動しづらかったことが原因であると推測される。
【0065】
結束炭素短繊維本数が5本以上である炭素短繊維束が1cm2あたり3個以上であり、炭素短繊維の平均繊維長が1mm以上50mm未満であり、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量が15質量%未満であり、流れ方向の引張強度が30N/m以上5000N/m未満であることを特徴とする炭素短繊維湿式不織布である実施例20~23においては、優れた成形流動性とCFRP加工後の強度及び均一性を持つことが分かる。実施例20から、セルロース繊維を変更しても、変わらず優れた成形流動性とCFRP加工後の強度を持つことが分かる。また、実施例21から、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の代わりにPET未延伸バインダー合成繊維を使用しても、変わらず優れた成形流動性とCFRP加工後の強度を持つことが分かる。また、実施例22及び23から、PET繊維やアラミド繊維などの合成繊維(バインダー合成繊維を除く)を配合しても、変わらず優れた成形流動性とCFRP加工後の強度を持つことが分かる。
【0066】
結束炭素短繊維本数が5本以上である炭素短繊維束が1cm2あたり3個以上であり、炭素短繊維の平均繊維長が1mm以上50mm未満であり、湿熱接着性バインダー樹脂繊維の配合量が15質量%未満であり、流れ方向の引張強度が30N/m以上5000N/m未満であることを特徴とする炭素短繊維湿式不織布である実施例24~30においては、優れた成形流動性とCFRP加工後の強度及び均一性を持つことが分かる。炭素短繊維湿式不織布の坪量を変更しても、炭素短繊維湿式不織布の強度が30N/m以上5000N/m未満であれば、変わらず優れた成形流動性とCFRP加工後の強度を持つことが分かる。ただし、坪量が低く、流れ方向の引張強度が弱い実施例24においては、抄紙の際に紙切れが発生し、抄紙の安定性がやや欠ける結果となった。また、坪量が大きい実施例29においては、湿紙が乾燥しづらく、抄紙の安定性がやや欠ける結果となった。実施例224と同坪量であるものの、炭素短繊維の配合量を更に上げた実施例30においては、抄紙の際に紙切れが更に多く発生し、抄紙安定性が実施例24よりも低かった。
【0067】
さらに炭素短繊維の含有量が多く、流れ方向の引張強度が30N/m未満である比較例7においては、紙切れが非常に多く発生し、抄紙安定性が著しく欠けることから、炭素短繊維湿式不織布として適さないという結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の炭素短繊維湿式不織布は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)加工用として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0069】
11 上板(スリットあり)
21 下板(スリットなし)
31 炭素短繊維湿式不織布+エポキシ樹脂複合体
41 リブ