(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20230117BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20230117BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20230117BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/64
A61K8/55
A61K8/06
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2018529441
(86)(22)【出願日】2017-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2017022608
(87)【国際公開番号】W WO2018020903
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】P 2016149248
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】酒井 歩
(72)【発明者】
【氏名】高橋 潤
(72)【発明者】
【氏名】坪田 往子
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-094723(JP,A)
【文献】特開2016-094363(JP,A)
【文献】特開2015-147734(JP,A)
【文献】特開2013-241475(JP,A)
【文献】特開2009-275017(JP,A)
【文献】特開2006-328024(JP,A)
【文献】Vitalizing Serum,(ID#):3013969,2015年,<URL:https://www.portal.mintel.com>
【文献】Tone Perfecting Creme,(ID#):2390541,2014年,<URL:https://www.portal.mintel.com>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K38/00-38/58
A61K41/00-45/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解セリシンと、レシチンと、多価アルコールとを含んでなる、ラメラ液晶構造を有する皮膚外用剤であって、
前記加水分解セリシンを0.001~2質量%、
前記レシチンを0.05~2質量%、
前記多価アルコールを3~20質量%含んでなり、
前記加水分解セリシンと前記レシチンの配合比(質量比)が、1:0.1~1:8であり、
前記レシチンと前記多価アルコールの配合比(質量比)が、1:10~1:100であり、
ここで、前記レシチンは、水素添加レシチンまたは水素添加レシチンとフィトステロールとの複合体であり、
前記ラメラ液晶構造が前記レシチンと前記多価アルコールから形成され、かつ当該ラメラ液晶構造が前記加水分解セリシンを含んでなることを特徴とする、皮膚外用剤。
【請求項2】
レシチンおよび多価アルコールが、水中油型エマルジョンに含まれてなる、請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
前記水中油型エマルジョンに、さらに加水分解セリシンが含まれてなる、請求項1または2に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
前記水中油型エマルジョンのエマルジョン粒子の平均乳化粒子径が10μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
レシチンおよび多価アルコールにより形成された液晶相に、加水分解セリシンを含んでなる、ラメラ液晶構造体であって、
前記加水分解セリシンを0.001~2質量%、
前記レシチンを0.05~2質量%、
前記多価アルコールを3~20質量%含んでなり、
前記加水分解セリシンと前記レシチンの配合比(質量比)が、1:0.1~1:8であり、
前記レシチンと前記多価アルコールの配合比(質量比)が、1:10~1:100であり、
ここで、前記レシチンは、水素添加レシチンまたは水素添加レシチンとフィトステロールとの複合体であり、
前記ラメラ液晶構造が前記レシチンと前記多価アルコールから形成され、かつ当該ラメラ液晶構造が前記加水分解セリシンを含んでなることを特徴とする、ラメラ液晶構造体。
【請求項6】
レシチンおよび多価アルコールにより形成された液晶相に、油性成分を分散させて液晶中油型エマルジョン相を形成させ、該液晶中油型エマルジョン相に水相を添加して乳化し、水中油型エマルジョンを形成させることを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の皮膚外用剤の製造方法であって、
加水分解セリシンを、液晶相に添加するか、乳化に先だち水相に添加するか、または形成された水中油型エマルジョンに添加するかのいずれかの工程を少なくとも一つ以上含む、皮膚外用剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国特許出願である特願2016-149248号(出願日:2016年7月29日)に基づくものであって、その優先権の利益を主張するものであり、その開示内容全体は参照することによりここに組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、皮膚外用剤に関する。詳しくは、ラメラ液晶構造を有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0003】
角質細胞間脂質は、角層細胞間にラメラ液晶構造をとって存在しており、このラメラ液晶構造が皮膚のバリア機能に寄与していることが知られている。また、角質細胞間脂質が皮膚の水分保持機能に寄与しており、角質細胞間脂質を外部から供給することにより、皮膚の水分保持機能が回復することが知られている。これに基づき、角質細胞間脂質と類似の液晶構造をもつ組成物が提案されている。
【0004】
特開2010-280587号公報には、ステロール、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびレシチンを必須成分として含有する液晶形成用乳化剤と、それを含有した化粧料が開示されている。ここには、この化粧料が、皮膚上で液晶構造を形成し、外部の刺激から皮膚を保護し、皮膚内部からの水分の蒸散を防ぐとともに、肌に一定量の水分を与えることで、荒れ肌や乾燥肌を改善することが記載されている。ここに記載されているものは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを必須成分とするものであり、これは本発明とは異なる。
【0005】
特開2000-264826号公報には、セラミドやグルコシルセラミド等の化合物と、多価アルコールと、ステロール系化合物とを含有してなる液晶組成物と、その液晶組成物が配合された皮膚化粧料が開示されている。ここには、この皮膚化粧料が、うるおい向上効果かつ安定性に優れたものであることが記載されている。
【0006】
特開平09-132512号公報には、ステロール脂肪酸エステルを必須成分とするラメラ構造体が開示されており、ステロール脂肪酸エステルは、リン脂質を共存させなくてもラメラ構造を形成する自己ラメラ形成能があることが記載されている。このステロール脂肪酸エステルを化粧料に配合することにより、皮膚の乾燥に起因する皮膚疾患の治療にも有効な化粧料が得られることが記載されている。
【0007】
これら上述した化粧料は、通常、原料成分を加熱下で混合して液晶構造を形成し、次いで撹拌しながら冷却する操作により製造される。しかしながら、冷却撹拌条件によっては冷却工程中に加熱下で形成したラメラ液晶構造が破壊される場合がある。また、化粧料に配合する成分によっては、形成したラメラ液晶構造が破壊される場合がある。ラメラ液晶構造が破壊されると、化粧料の保存安定性や皮膚のバリア機能改善効果が低下するといった不都合が生じる場合がある。
【0008】
このようにラメラ液晶構造は、非常にデリケートな側面を有することから、その形成を促進し、安定性を向上させることは、ラメラ液晶構造を利用する技術においては重要である。
【0009】
絹タンパク質であるセリシンは、親水性アミノ酸を多く含み、その優れた生体親和性から、食品、化粧品、医薬品などへの応用が検討され、一部は実用化されている。
【0010】
例えば、特開2008-221209号公報には、セリシンからなる界面活性剤が開示されており、水中油型エマルジョン用に使用できることが記載されている。しかしながら、ここには、セリシンによるエマルジョンの安定化について言及はあるものの(段落0010)、ラメラ液晶構造の形成促進および/またはその安定化作用については、記載も示唆もされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、皮膚のバリア機能改善効果および保存安定性に優れたラメラ液晶構造を有する皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は今般、加水分解セリシンにラメラ液晶構造の形成を促進する効果があることを見出した。そして、液晶乳化法(形成した液晶相に油相を分散保持させた液晶中油型エマルジョンを形成させたのち、水相を添加し水中油型エマルジョンを形成させる乳化法)において、レシチンと多価アルコールとを含んでなる液晶相に、あらかじめ加水分解セリシンを添加することにより、ラメラ液晶構造が安定化することも見出した。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0013】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0014】
<1> 加水分解セリシンと、レシチンと、多価アルコールとを含んでなる、ラメラ液晶構造を有する皮膚外用剤。
【0015】
<2> レシチンおよび多価アルコールが、水中油型エマルジョンに含まれてなる、前記<1>の皮膚外用剤。
【0016】
<3> 前記水中油型エマルジョンに、さらに加水分解セリシンが含まれてなる、前記<1>または<2>の皮膚外用剤。
【0017】
<4> 加水分解セリシンとレシチンの配合比(質量比)が、1:0.1~1:8である、前記<1>~<3>のいずれかの皮膚外用剤。
【0018】
<5> レシチンと多価アルコールの配合比(質量比)が、1:10~1:100である、前記<1>~<4>のいずれかの皮膚外用剤。
【0019】
<6> 前記水中油型エマルジョンのエマルジョン粒子の平均乳化粒子径が10μm以下である、<1>~<5>のいずれかの皮膚外用剤。
【0020】
<7> レシチンおよび多価アルコールにより形成された液晶相に、加水分解セリシンを含んでなる、ラメラ液晶構造体。
【0021】
<8> 前記<7>に記載のラメラ液晶構造体を有する、前記<1>~<6>のいずれかの皮膚外用剤。
【0022】
<9> レシチンおよび多価アルコールにより形成された液晶相に、油性成分を分散させて液晶中油型エマルジョン相を形成させ、該液晶中油型エマルジョン相に水相を添加して乳化し、水中油型エマルジョンを形成させることを含む、皮膚外用剤の製造方法であって、
加水分解セリシンを、液晶相に添加するか、乳化に先だち水相に添加するか、または形成された水中油型エマルジョンに添加するかのいずれかの工程を少なくとも一つ以上含む、皮膚外用剤の製造方法。
【0023】
さらに本発明の別の態様によれば、以下のような発明も提供される。
<10> 加水分解セリシンと、レシチンと、多価アルコールとを含んでなる組成物の、皮膚外用剤としての使用。
<11> 皮膚外用剤を製造するための、加水分解セリシンと、レシチンと、多価アルコールとを含んでなる組成物の使用。
【0024】
ここで、前記組成物、すなわち、皮膚外用剤は、典型的には、ラメラ液晶構造を有する。また、前記組成物において、レシチンおよび多価アルコールは、水中油型エマルジョンに含まれてなることが好ましい。より好ましくは、前記水中油型エマルジョンは、さらに加水分解セリシンを含んでなる。
【0025】
<12> レシチンおよび多価アルコールにより形成された液晶相に、加水分解セリシンを含んでなる、ラメラ液晶構造体の皮膚外用剤としての使用。
<13> 皮膚外用剤を製造するための、レシチンおよび多価アルコールにより形成された液晶相に、加水分解セリシンを含んでなる、ラメラ液晶構造体の使用。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ラメラ液晶構造の形成を促進し、より安定したラメラ液晶構造体を得ることができる。これにより、ラメラ液晶構造を有する皮膚外用剤において、皮膚のバリア機能をより改善させ、またその保存安定性を一層、向上させることができる。また、本発明によれば、特殊な製造設備(例えば、高圧乳化機(マイクロフルイダイザー等))を用いなくても、ラメラ液晶構造を有する皮膚外用剤を調合することが可能となるため、作業性の向上や、製造コストの低減の観点からも、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例1について偏光顕微鏡で観察した写真を示す。
【
図2】比較例1について偏光顕微鏡で観察した写真を示す。
【
図3】比較例3について偏光顕微鏡で観察した写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
皮膚外用剤
本発明による皮膚外用剤は、前記したように、加水分解セリシンと、レシチンと、多価アルコールとを含んでなるものであって、ラメラ液晶構造を有するものである。さらに典型的には、本発明による皮膚外用剤は、油性成分と、水とをさらに含んでなる。
ここで皮膚外用剤は、皮膚外用剤組成物または皮膚外用用組成物と言い換えることができる。
【0029】
本発明において、ラメラ液晶構造とは、両親媒性分子の二分子膜と水とが交互に配向した分子配列の規則性を残しながら流動性を保った状態のものを意味する。通常、ラメラ液晶構造は、光学異方性という特異な光学特性を持つことから、偏光顕微鏡下で独特の形状であるマルターゼクロス像を示す。
【0030】
したがって、「ラメラ液晶構造を有する」とは、皮膚外用剤が、ラメラ液晶構造を含むことをいい、例えば、偏光顕微鏡を使用して、後述する実施例に記載の方法および条件に従うことで、ラメラ液晶構造を有することを確認することができる。
【0031】
・加水分解セリシン
本発明に用いられる加水分解セリシンは、蚕繭や生糸等から加水分解物として容易に入手可能である。すなわち、本発明において用いられる加水分解セリシンは、蚕繭、生糸等の原料を、例えば、塩酸、硫酸もしくはリン酸等を使用した酸加水分解法、水酸化ナトリウムもしくは炭酸ナトリウム等を使用したアルカリ加水分解法、または、微生物や植物由来のプロテアーゼを使用した酵素分解法により、原料中のセリシンを部分加水分解して溶出し、得ることができる。これを公知のタンパク質分離精製手法に従って精製することによって、高純度のセリシン加水分解物の水溶液を得ることができる。さらに、熱風乾燥、減圧乾燥、または凍結乾燥等の処理に付して乾燥させ、固体としてもよい。
【0032】
加水分解セリシンは、アミノ酸組成としてセリンを20~40モル%含有することが好ましい。セリン含有量が20モル%以上であることにより、セリシンの有する様々な作用効果、特に保湿作用が十分に得られる。また、セリシンがレシチンと多価アルコールとの親和性を高め、ラメラ液晶膜を強固なものとすることができ、ラメラ液晶構造が安定化し、ひいては皮膚外用剤の安定性を保つことができる。なお、アミノ酸組成は、高速液体クロマトグラフアミノ酸分析システムLC-10(株式会社島津製作所製)を用いたポストカラム誘導体化-蛍光検出法により測定し、求めることができる。
【0033】
加水分解セリシンの重量平均分子量は、1,000~100,000であることが好ましく、5,000~50,000であることがより好ましい。重量平均分子量が1,000以上であることにより、構成アミノ酸の割合が増え、それに伴い、セリシンがレシチンと多価アルコールとの親和性を高めて、ラメラ液晶膜を強固なものとすることができ、ラメラ液晶構造が安定化し、ひいては皮膚外用剤の安定性を保つ上で有利であると考えられる。また、重量平均分子量が100,000以下であることにより、それ自身の水溶性低下に起因する取り扱い性の低下や、経時的な加水分解セリシンの析出を防ぎ、皮膚外用剤の安定性を保つ上で有利であると考えられる。なお、重量平均分子量は、高速液体クロマトグラフCLASS-LC10(株式会社島津製作所製)を用いたGPC分析により測定し、求めることができる。
【0034】
本発明の皮膚外用剤において、加水分解セリシンの含有量は特に限定されず、皮膚外用剤の剤型や目的、他の成分の構成割合等によって適宜調整することができる。
【0035】
例えば、皮膚外用剤全体に対し、0.001~2質量%であることが好ましく、0.01~1質量%であることがより好ましい。含有量が0.001質量%以上であることにより、加水分解セリシンの界面活性作用によりラメラ液晶膜が安定化されるため、ラメラ液晶構造が安定化し、ひいては皮膚外用剤の安定性を保つ上で有利であると考えられる。また、保湿効果が充分に発揮されるため、皮膚のバリア機能改善効果に優れる。含有量が2質量%以下であることにより、皮膚外用剤の経時安定性および皮膚外用剤調合時の取り扱い性に優れる。
【0036】
本発明に用いられる加水分解セリシンは、天然保湿因子のアミノ酸組成と類似のアミノ酸組成を有し、かつ、ヒドロキシル基を有するアミノ酸およびカルボキシル基を有するアミノ酸の割合が高いため、親水性が高く、肌との密着性を高めると共に、角質層の肌環境(水分量)を改善する高い効果が期待できる。
【0037】
本発明者らの検討によれば、加水分解セリシンには、油-水界面への吸着作用に加えて、レシチンと多価アルコールとの相互作用があることが判明した(実施例参照)。このようにセリシンが、レシチンと多価アルコールとに相互作用があり、レシチンと多価アルコールとの親和性を高めることができるため、エマルジョン中のラメラ液晶構造をより強固なものとすることができると共に、ラメラ液晶構造をより安定化させることができると考えられる。ラメラ液晶構造の安定化が図られると、エマルジョン自体の安定性を高めることができ、結果として、それを含む皮膚外用剤の安定性を高める上で有利であると考えられる。
【0038】
より詳しくは、加水分解セリシンは、レシチンと多価アルコールとを含んでなる液晶相に添加することにより、油性成分を液晶相に分散保持させた際に、レシチン単独のとき(すなわち加水分解セリシンを添加しないとき)よりも、ラメラ液晶構造の形成が促進される。これは、加水分解セリシンが、多価アルコールへのレシチンの分散性を向上させることに起因すると考えられる。さらに、加水分解セリシンは、レシチンが形成するラメラ液晶構造の親水性部分に選択的に存在することにより、多価アルコールへのレシチンの分散性を高め、ラメラ液晶膜を強固なものとすることで、ラメラ液晶構造を維持しやすくなり、ラメラ液晶構造を安定化させる効果があると考えられる。なお、これら作用メカニズムに関する説明は、一つの理論的考察であって、本発明を限定するものではない。
【0039】
よって本発明の別の一つ態様によれば、加水分解セリシンを有効成分とする、ラメラ液晶構造の形成促進および/または安定化剤が提供されてもよい。
【0040】
・レシチン
本発明に用いられるレシチンは、大豆または卵黄由来のレシチンおよびそれらのレシチンを酵素処理したものであり、水素添加などの化学処理が施されていてもよい。
ここで、レシチンとは、動物・植物から取り出された各種のリン脂質を主体とする混合物の総称であり、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)を主成分としている。ラメラ液晶構造形成の観点から、レシチン中のホスファチジルコリン含有量は、65質量%以上が好ましく、より好ましくは70~90質量%である。レシチン中のホスファチジルコリン含有量が65質量%以上であると、多価アルコールへの溶解性が良好であり、好ましいラメラ液晶構造を形成させる上で有利である。
【0041】
本発明において使用するレシチンとしては、レシチンにステロールを複合化した複合体(レシチン複合体)を用いてもよい。このような複合体としては、水素添加レシチンとフィトステロールの複合体、水素添加レシチンとコレステロールとの複合体等が挙げられる。該複合体を用いることによって、レシチンが形成するラメラ液晶膜の中において、親水性部分と疎水性部分にわたってステロールが存在することになり、ラメラ液晶膜をより安定化させるのに有益であると考えられる。このため、使用するレシチンとしては、レシチンにステロールを複合化した複合体を用いることが好ましい。
【0042】
本発明の皮膚外用剤において、レシチンの含有量は特に限定されず、皮膚外用剤の剤型や目的、他の成分の構成割合等によって適宜調整することができる。
【0043】
例えば、皮膚外用剤全体に対し、レシチンの含有量は、0.05~2質量%であることが好ましく、0.1~1.5質量%であることがより好ましい。含有量が0.05質量%以上であることは、レシチンと加水分解セリシンと多価アルコールを含む液晶構造を形成させて、油性成分を分散保持させた後、水相を添加し水中油型エマルジョンを形成させる際に、良好な乳化性能が発揮する上で有利である。含有量が2質量%を超えて配合しても、さらなる乳化性能の向上は認め難い。含有量が2質量%以下で配合することは、最終的に得られる皮膚外用剤にべたつきやのびの悪さという使用感の悪化を招かないようにする上で有利である。また、多価アルコールへの分散に多くの時間を要しないため、調合時の取り扱い性が良好となるため好ましい。
【0044】
・多価アルコール
本発明において使用可能な多価アルコールは、分子中に水酸基を2個以上有する水溶性多価アルコールであれば、特に制限はない。具体的には、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、ソルビトール等が挙げられる。なかでも、ラメラ液晶構造の安定性に優れるという点から、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオールが好ましく用いられる。これらの多価アルコールは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
本発明の皮膚外用剤において、多価アルコールの含有量は特に限定されず、皮膚外用剤の剤型や目的、他の成分の構成割合等によって適宜調整することができる。
【0046】
例えば、皮膚外用剤全体に対し、3~20質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。含有量が3質量%以上であることは、レシチンを充分に分散させる上で有利である。含有量が20質量%以下で配合することは、ラメラ液晶構造の維持のため有利であり安定性も良好で、皮膚外用剤を塗布したときにべたつき感を感じ難く、使用感も良好となることが期待できる。
【0047】
加水分解セリシンとレシチンの配合比(質量比)は、望ましくは1:0.1~1:8、好ましくは1:0.2~1:4である。配合比がこの範囲であることにより、加水分解セリシンが、レシチンが形成するラメラ液晶構造の親水性部分に選択的に存在することにより、ラメラ液晶膜を強固なものとすることで、ラメラ液晶構造を維持しやすくなり、また形成したラメラ液晶構造が安定化されるため、皮膚のバリア機能改善効果がより優れた皮膚外用剤を得ることができる。
【0048】
レシチンと多価アルコールの配合比(質量比)は、望ましくは1:10~1:100、好ましくは1:10~1:55である。配合比がこの範囲であることにより、レシチンを充分に分散させることができる。また、最終的に得られる皮膚外用剤のべたつきやのびの悪さという使用感の悪化を防ぐことができる。
【0049】
・油性成分
本発明に用いられる油性成分は、本発明において液晶相との間で液晶中油型エマルジョンを形成することができる油相として使用できるものであれば、特に限定されるものではなく、通常、化粧品や医薬部外品等の皮膚外用剤に用いられる油性成分を用いることができる。このような油性成分としては、例えば、天然動植物油脂、半合成油脂、炭化水素、高級脂肪酸、エステル油、シリコーン油、セラミド等が挙げられる。なかでもラメラ液晶構造形成の観点からエステル油が好ましく、特に単独でラメラ液晶形成能を有する(すなわち、自己ラメラ形成能を有する)ステロール脂肪酸エステル油が好ましい。なお、エステル油が好ましいといえるのは、エステル構造を有するため、炭化水素等と比べて液晶形成やその維持に寄与しやすいためと考えられる。
【0050】
油性成分の含有量は、皮膚外用剤全体に対し、0.01~30質量%であることが好ましく、0.1~20質量%であることがより好ましい。含有量が0.01質量%以上であることにより、優れたスキンケア効果、特に保護・エモリエント効果が得られ、ラメラ液晶構造の安定性にも優れる。30質量%以下であることにより、使用感を良好なものとすることができる。また、ラメラ液晶構造が安定化されるため油性成分の結晶析出を抑制し、皮膚外用剤の安定性を保つことができる。
【0051】
本発明の好ましい態様によれば、皮膚外用剤は、前記したように、レシチンおよび多価アルコールにより形成された液晶相に、油性成分が分散した液晶中油型エマルジョン相と、水相とを有する、水中油型エマルジョンを含んでなる。
【0052】
ここで、液晶相は、レシチンおよび多価アルコールを含んでなり、これらにより形成された液晶構造を有する相をいう。水相は、主として水からなり、水および水性成分を含む。液晶相に、油性成分が分散することで、液晶中油型のエマルジョンが形成される。このようにレシチンおよび多価アルコールにより形成された液晶相に、油相を添加すると、油相の周りにラメラ液晶構造が形成されると考えられる。すなわち、この液晶中油型エマルジョンにおける場合の液晶相はラメラ液晶相であるといえる。そして、液晶中油型エマルジョンによる相に、水相を添加して分散・乳化することで、水中油型エマルジョンが形成され、これが本発明の皮膚外用剤の主要成分となる。本発明では、このような水中油型エマルジョンを含む皮膚外用剤に、セリシンが含まれる。本発明においては、セリシンが皮膚外用剤に含まれていれば、どのように含まれているかは特に制限されない。したがって、例えば、セリシンは、液晶相に含まれていても良いし、水相に含まれていても良く、または、乳化して形成された水中油型エマルジョンに添加されていてもよい。好ましくは、セリシンは液晶相に含まれる。
【0053】
よって、本発明の好ましい態様によれば、皮膚外用剤は、レシチンおよび多価アルコールが、水中油型エマルジョンに含まれてなるものである。
【0054】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、皮膚外用剤は、前記水中油型エマルジョンに、さらに加水分解セリシンが含まれてなるものである。
【0055】
本発明による皮膚外用剤には、前述の成分の他、通常、化粧品、医薬品等に用いられる成分を、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて適宜配合することができる。具体的には、保湿剤、紫外線吸収剤、乳化剤、増粘剤、界面活性剤、キレート剤、油性成分、アルコール類、色材、粉末成分、ビタミン類、抗炎症剤、pH調整剤、防腐剤、動物・植物・魚貝類・微生物由来の抽出物等が挙げられる。
【0056】
本発明の皮膚外用剤は、形態、剤型、用途に応じた種々の基材を配合することにより医薬品、医薬部外品、各種化粧品等の製剤として利用することができる。ここで、形態としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、ローション、美容液、乳液、クリーム、ジェル、パック、スプレー、ロールオン、スティック、ソープ、シート、ムース、軟膏等、適宜選択することができる。
【0057】
本発明の皮膚外用剤の調製方法は、特に限定されず、例えば、加熱条件下において、レシチンと多価アルコールとを含んでなる液晶相を形成し、該液晶相に油性成分を分散保持させ液晶中油型エマルジョンを形成した後、水相を添加し乳化を行い、混合しながら室温まで冷却するという一般的な液晶乳化法を用いて調製することができる。
より好ましくは、レシチンと多価アルコールとを含んでなる液晶相にあらかじめ加水分解セリシンを添加して調製する方法が挙げられる。
【0058】
具体的には、例えば、以下のとおりである。
(1)レシチンと多価アルコールとを常温(例えば、15~25℃)にて混合した後、加水分解セリシンを添加して、さらに混合し、分散相を得る。
(2)該分散相を65~70℃に加温し液晶相を得た後、あらかじめ70~80℃において加温した油性成分を徐々に添加、混合する。その後、70~80℃に昇温する。
(3)油性成分を分散保持させ形成した液晶中油型エマルジョンに、あらかじめ70~80℃で加温しながら均一混合した水および水性成分からなる水相を添加して乳化を行い、放冷により常温まで冷却する。
【0059】
ここで、加水分解セリシンは、前記した(1)の工程で加えてもよいが、その代わりに、またはそれと相加的に、水相に加えても良いし、もしくは、乳化して冷却した後に加えても良い。本発明の好ましい態様によれば、加水分解セリシンの添加は、上記のように、(1)の工程で行う。
【0060】
本発明は、上述のとおり、製造過程の最終工程において、水および水性成分を含む水相を添加することにより得られる。該水性成分としては、水あるいは水性溶媒を主な媒体としてなる水性成分であれば、特に限定されるものではなく、水あるいは水性溶媒の他、通常、化粧品、医薬品等に用いられる成分を、安定性に影響が出ない範囲の配合量で配合してもよい。
【0061】
よって、本発明の別の態様によれば、レシチンおよび多価アルコールにより形成された液晶相に、油性成分を含む油相を分散させて液晶中油型エマルジョン相を形成させ、そこに水相を添加して乳化し、水中油型エマルジョンを形成させることを含む、皮膚外用剤の製造方法であって、加水分解セリシンを、液晶相に添加するか、乳化に先だち水相に添加するか、または形成された水中油エマルジョンに添加するかのいずれかの工程を少なくとも一つ以上含む、皮膚外用剤の製造方法が提供される。すなわち、加水分解セリシンを添加する工程は前記した各工程のいずれか、またはその2以上の組合せであることができる。ここで好ましくは、加水分解セリシンは、液晶相に添加する。
【0062】
本発明の皮膚外用剤の水中油型エマルジョンのエマルジョン粒子の平均乳化粒子径は、10μm以下であることが好ましい。平均乳化粒子径がこの範囲であることにより、ラメラ液晶構造が安定であり、皮膚外用剤の安定性および使用感を良好なものとすることができる。
なお、この平均乳化粒子径は、例えば、粒度分布測定装置(装置名:レーザ回折/散乱式粒度分布装置LA-920、株式会社堀場製作所製)を用いて、エマルジョン粒子の粒度分布を体積基準で作成し、その中央値を平均乳化粒子径とすることで測定できる。測定サンプルとしては、エマルジョン組成物を水に分散させたものを用いることができる。
【0063】
本発明の別の態様によれば、レシチンおよび多価アルコールにより形成された液晶相に、加水分解セリシンを含んでなる、ラメラ液晶構造体が提供される。より詳しくは、本発明の別の態様によれば、レシチンおよび多価アルコールにより形成された液晶相に、油性成分を分散させて得られるラメラ液晶相に、加水分解セリシンを含んでなる、ラメラ液晶構造体が提供される。ここで、ラメラ液晶構造体における、加水分解セリシンとレシチンの配合比や、レシチンと多価アルコールの配合比は、上述した範囲であることが望ましい。本発明の皮膚外用剤は、このようなラメラ液晶構造体に基づく液晶相を含むといえることから、本発明の皮膚外用剤は、かかるラメラ液晶構造体を有するものであるといえる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0065】
<実施例において使用した材料>
本実施例においては、加水分解セリシンを下記の方法で調製されたものを用いた。
【0066】
[加水分解セリシン製造方法]
生糸からなる絹織物を、0.2質量%炭酸ナトリウム水溶液(pH11~12)で95℃にて2時間処理し、加水分解セリシンを抽出した。得られた抽出液を平均孔径0.2μmのフィルターで濾過し、凝集物を除去した後、濾液を透析膜により脱塩し、濃度0.2質量%のセリシン加水分解物抽出液を得た。この抽出液を、エバポレーターを用いて濃度約2質量%まで濃縮した後、凍結乾燥して、加水分解セリシンの粉末を得た。この加水分解セリシンの分子量分布は3,000~70,000、重量平均分子量は30,000で、アミノ酸組成としてセリンを35モル%含有していた。
【0067】
またその他の成分は医薬部外品または化粧品用として、下記のように市販されているものを用いた。
・水素添加レシチンとフィトステロールの複合体: 商品名「Phytocompo-PP」(リン脂質含有量60~90質量%)(日本精化株式会社製)
・水素添加レシチン: 商品名「SLP-PC70H」(辻製油株式会社製)
・マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル: 商品名「Plandool-MAS」(日本精化株式会社製)
・N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・2-オクチルドデシル): 商品名「Plandool-LG1」(日本精化株式会社製)
・スクワラン: 商品名「スクワラン」(株式会社マルハニチロ食品製)
・アクリル酸・メタクリル酸共重合体: 商品名「カーボポールETD2020」(Carbopol ETD2020)(日本ルーブリゾール株式会社製)
【0068】
<実施例1~14、および比較例1~3>
表1および2に示す組成に基づき、実施例1~14、および比較例1~3の皮膚外用剤を得た。なお、表に示す各成分の皮膚外用剤中の量は質量%によるものであり、精製水の量を示す残余とは全体として100質量%にする量をいう。
【0069】
なお、皮膚外用剤は、A相(液晶相)を常温にて混合した後、70℃で加熱し、液晶相を得た。そこへ、あらかじめ70℃で加熱混合したB相(油相)を徐々に添加し油性成分を分散保持させ、80℃に昇温させた後、あらかじめ80℃で加熱したC相(水相)を添加して乳化を行い、放冷により常温まで冷却することにより調製した。なお実施例4では、常温まで冷却した後、D相(任意追加成分)を添加し混合することにより調製した。
【0070】
評価方法
得られた実施例1~14、および比較例1~3の皮膚外用剤をについて、ラメラ液晶構造の形成状態、経時安定性、バリア機能改善効果(水分量・水分蒸散量)を評価した。
なお、評価方法は次の通りである。
【0071】
[ラメラ液晶構造の形成状態]
得られた皮膚外用剤に対し、偏光顕微鏡によるラメラ液晶構造の観察を行った。観察は、偏光顕微鏡(装置名:VHX-5000、株式会社キーエンス製、倍率:500倍)を用いて実施した。下記評価基準に従ってラメラ液晶構造の形成状態を評価した。
【0072】
(ラメラ液晶構造の形成状態の評価基準)
AA: マルターゼクロス像を十分に確認できる
A: マルターゼクロス像を確認できる
B: マルターゼクロス像をわずかに確認できる
C: マルターゼクロス像を全く確認できない
なお、ここで、マルターゼクロス像とは、ラメラ液晶構造に特有の形状像として知られるものである。
【0073】
[平均乳化粒子サイズ]
平均乳化粒子サイズは、粒度分布測定装置(装置名:レーザ回折/散乱式粒度分布装置LA-920、株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。下記評価基準に従って平均乳化粒子サイズを評価した。
【0074】
(平均乳化粒子サイズの評価基準)
A: 平均乳化粒子径が10μm以下のもの
C: 平均乳化粒子径が10μmを超えるもの
【0075】
[経時安定性]
得られた実施例1~14、および比較例1~3の皮膚外用剤を透明ガラス瓶に50g充填し、40℃にて3ヶ月保存し、保存後の皮膚外用剤に対し、下記評価基準に従って経時安定性を評価した。なお、25℃、遮光下で同期間保存したものを標準品とした。
【0076】
(ラメラ液晶構造の安定性の評価基準)
AA: 液晶構造が保持されている
A: 粒子形状がいびつになっているが、液晶構造が保持されている
B: 粒子同士の合一が進み粒子径が大きくなっており、液晶構造がやや崩壊している
C: 液晶構造が崩壊している
【0077】
(皮膚外用剤の安定性の評価基準)
AA: 標準品と比較し、着色・析出(オリ)等の変化を全く認めない
A: 標準品と比較し、析出(オリ)の発生はないが、ごくわずかに着色等が認められるが、品質上、問題となることはない
B: 標準品と比較し、わずかに着色が認められるか、外観が濁る等の変化を認める
C: 明らかな着色もしくは析出(オリ)が認められる
【0078】
[バリア機能改善効果]
皮膚バリア機能は、細胞間脂質のラメラ液晶構造により発揮される。バリア機能が低下すると、水分が蒸散し、水分量も低下する。したがって、水分量が増加し、経皮水分蒸散量が減少すれば、バリア機能が改善されたと言え、バリア機能改善効果に優れていることを意味する。
【0079】
まず、健康な30~70代の被験者10名の左前内腕被験部(直径1.8cmの円の領域)に、人為的に予め、擬似の乾燥による肌荒れ状態を作製した。24時間後、水分量および経皮水分蒸散量を後述する方法によって測定し、この試験の連用前の値として用いた。
【0080】
水分量については、得られた実施例1~14、および比較例1~3の皮膚外用剤を用いて、経皮水分蒸散量については、実施例1、4および比較例1の皮膚外用剤を用いて評価した。
1日朝と晩の2回、前記皮膚外用剤を適量、前記肌荒れ状態とした皮膚に塗布した。14日間継続使用し、翌日の朝に、水分量および水分蒸散量を測定した。
【0081】
[水分量]
連用前後の被験部位の角質水分量を測定した。角質水分量は、コンダクタンス値として、SKICON-200(アイ・ビイ・エス株式会社製)を用い、室温23℃、湿度55%の恒温恒湿室内にて測定した。なお、塗布物の直接的な影響を避けるため、測定の15分以上前に石鹸にて測定部位を洗浄した。各被験部につき任意の5カ所を測定し、平均値を算出した。各皮膚外用剤の使用前後の角質水分量の平均値から、下記式よりコンダクタンス値の上昇率を算出し、下記評価基準に従って保湿効果を評価した。
【0082】
コンダクタンス値の上昇率(%)
=(連用後の水分量-連用前の水分量)/(連用前の水分量)×100
【0083】
(水分量の評価基準)
AA: 被験者10名のコンダクタンス値の上昇率の平均が50%以上
A: 被験者10名のコンダクタンス値の上昇率の平均が30%以上50%未満
B: 被験者10名のコンダクタンス値の上昇率の平均が10%以上30%未満
C: 被験者10名のコンダクタンス値の上昇率の平均が10%未満
【0084】
[経皮水分蒸散量]
連用前後の被験部位の経皮膚水分蒸散量(TEWL値)を測定した。なお、塗布物の直接的な影響を避けるため、測定の15分以上前に石鹸にて測定部位を洗浄した。各被験部につき3回測定を行い、平均値を算出した。下記式よりTEWL値の変化率を算出した。連用前のTEWL値の変化率を100%とし、変化率が大きいほどバリア機能が改善されたと言え、バリア機能改善効果に優れていることを意味する。
【0085】
TEWL値の変化率(%)
=(連用後のTEWL値/連用前のTEWL値)×100
【0086】
結果は表1~3に示される通りであった。
また
図1に実施例1、
図2に比較例1、
図3に比較例3の偏光顕微鏡で観察した際の写真を示す。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表1より、加水分解セリシンを、液晶乳化組成物(レシチンと多価アルコールとから形成される組成物)に添加することにより、ラメラ液晶構造の形成が促進されることが示唆された。さらに、実施例1と、実施例3~6とを比較すると、加水分解セリシンをレシチンと多価アルコールにあらかじめ添加し共存させることにより、その効果が増長することが示唆された。そして、ラメラ液晶構造の形成状態がよい皮膚外用剤のほうが、バリア改善効果にも優れていた(表1、3)。
表2より油性成分としては、ステロールエステルを用いることにより、よりラメラ液晶構造の形成状態がよい皮膚外用剤となることが示唆された。
【0091】
図1(実施例1の写真)によれば、液晶構造が保持されていることが観察できた。
一方、
図2(比較例1の写真)は、加水分解セリシンを添加せずに調製した時の偏光顕微鏡を観察した写真であり、液晶構造の形成効率が低くなっていることが観察された。また、
図3(比較例3の写真)は、レシチンを添加せずに調製した時の偏光顕微鏡を観察した写真である。ここでは、ラメラ液晶構造が認められ、ラメラ液晶構造形成促進効果もあったが、乳化粒子サイズが大粒径側にシフトし、かつ粒度分布が広くなり、乳化粒子サイズにばらつきがあり、このため、皮膚外用剤の安定性については劣るものであった。
【0092】
以下、本発明による皮膚外用剤の製造例を示す。
【0093】
<実施例15: 美容液>
(1)加水分解セリシン 0.25(質量%)
(2)水素添加レシチンとフィトステロールの複合体 0.25
(3)グリセリン 5
(4)1,3-ブチレングリコール 3
(5)マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル 2.5
(6)キサンタンガム 適量
(7)1,2-ペンタンジオール 適量
(8)アクリル酸・メタクリル酸共重合体 適量
(9)フェノキシエタノール 適量
(10)水酸化カリウム 適量
(11)精製水 残余
【0094】
上記中、前記(1)~(4)を常温にてよく混合した後、65~70℃に加温し、そこに、あらかじめ70~80℃において加温した油相(5)を徐々に添加、混合する。その後、あらかじめ70~80℃で加温しながら均一混合した水相(6)~(11)を添加し乳化を行い、放冷により常温まで冷却する。
【0095】
<実施例16: 乳液>
(1)加水分解セリシン 0.25(質量%)
(2)水素添加レシチンとフィトステロールの複合体 0.5
(3)グリセリン 8
(4)1,3-ブチレングリコール 5
(5)マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル 2.5
(6)ヒマワリ種子油脂肪酸フィトステリル 1.0
(7)スクワラン 0.5
(8)キサンタンガム 適量
(9)1,2-ペンタンジオール 適量
(10)アクリル酸・メタクリル酸共重合体 適量
(11)フェノキシエタノール 適量
(12)水酸化カリウム 適量
(13)精製水 残余
【0096】
上記中、前記(1)~(4)を常温にてよく混合した後、65~70℃に加温し、そこに、あらかじめ70~80℃において加温した油相(5)~(7)を徐々に添加、混合する。その後、あらかじめ70~80℃で加温しながら均一混合した水相(8)~(13)を添加し乳化を行い、放冷により常温まで冷却する。
【0097】
<実施例17: クリーム>
(1)加水分解セリシン 0.25(質量%)
(2)水素添加レシチンとフィトステロールの複合体 0.75
(3)グリセリン 10
(4)1,3-ブチレングリコール 8
(5)マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル 10
(6)イソステアリン酸ヘキシルデシル 2
(7)ベヘニルアルコール 0.5
(8)スクワラン 0.3
(9)キサンタンガム 適量
(10)1,2-ペンタンジオール 適量
(11)アクリル酸・メタクリル酸共重合体 適量
(12)フェノキシエタノール 適量
(13)水酸化カリウム 適量
(14)精製水 残余
【0098】
上記中、前記(1)~(4)を常温にてよく混合した後、65~70℃に加温し、そこに、あらかじめ70~80℃において加温した油相(5)~(8)を徐々に添加、混合する。その後、あらかじめ70~80℃で加温しながら均一混合した水相(9)~(14)を添加し乳化を行い、放冷により常温まで冷却する。