(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】不織布塗工機
(51)【国際特許分類】
B05C 9/14 20060101AFI20230117BHJP
B05C 13/02 20060101ALI20230117BHJP
B05C 5/02 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
B05C9/14
B05C13/02
B05C5/02
(21)【出願番号】P 2019014804
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018027605
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018064772
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018167450
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018172556
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018184235
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018182474
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 昌利
(72)【発明者】
【氏名】金田 安生
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友洋
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-059173(JP,A)
【文献】国際公開第2015/049808(WO,A1)
【文献】特開2013-007131(JP,A)
【文献】特開2015-136901(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0226047(US,A1)
【文献】特表2018-528108(JP,A)
【文献】特表2016-522103(JP,A)
【文献】特開2001-179867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 9/14
B05C 13/02
B05C 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布に塗工液を付与する塗工手段、塗工液を付与された不織布が搬送ロールに支持されて搬送される搬送手段、及び付与した塗工液を乾燥させる乾燥手段を有する不織布塗工機において、搬送ロールの表面が凹凸形状及び撥水性を有し
、搬送ロールにおける水の接触角が85°以上であることを特徴とする不織布塗工機。
【請求項2】
搬送ロールが、表面が撥水性の凹凸シートによって被覆されているロールである請求項1記載の不織布塗工機。
【請求項3】
搬送ロールが、表面がポリオレフィンからなり、表面が機械加工により形成された凹凸形状を有するロールである請求項1記載の不織布塗工機。
【請求項4】
搬送ロールが、表面が切削ローレット加工、転造ローレット加工及びレーザ彫刻の群から選ばれる加工方法により形成された凹凸形状を有するロールである請求項1記載の不織布塗工機。
【請求項5】
搬送ロールが金属製ロールである請求項4記載の不織布塗工機。
【請求項6】
凹凸のピッチが300~1000μmであり、隙間/ピッチが0.3~0.6であり、凹凸の高さが50~200μmであり、表面の接触角が85°以上である請求項2~5のいずれか記載の不織布塗工機。
【請求項7】
搬送ロールが、溶射撥水加工がなされたロールである請求項1記載の不織布塗工機。
【請求項8】
搬送ロールが、ブラスト撥水めっき加工がなされたロールである請求項1記載の不織布塗工機。
【請求項9】
搬送ロールが、撥水ファブリックによって被覆されているロールである請求項1記載の不織布塗工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布へ塗工するために使用する不織布塗工機に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布を基材とし、不揮発分を媒体に分散又は溶解させた塗工液を塗工することによって、機能性が付与された製品が製造されている。不揮発分としては、樹脂、無機粒子、有機粒子等が挙げられ、媒体としては、水、有機溶媒等が挙げられる。機能性が付与された製品としては、例えば、リチウムイオン電池用セパレータ、ろ過膜等が挙げられる。
【0003】
リチウムイオン電池用セパレータ(以下、「セパレータ」と略記する場合がある)においては、非発電要素であるセパレータが電池内で占める体積の割合を減らすため、厚さ30μm以下という薄いセパレータが求められている。ろ過膜においては、ろ過性能を向上させるために、同体積のモジュール内により大面積のろ過膜を収納できることが望ましく、薄いろ過膜が求められている。
【0004】
製品の厚さを薄くするためには、基材として薄い不織布を使用する必要がある。厚さ30μm以下といった薄い不織布を基材として使用する場合、「塗工液の裏抜け」という現象が発生する。「塗工液の裏抜け」とは、塗工液が不織布の反対面に滲み出す現象である。以下、「塗工液の裏抜け」を「裏抜け」と記す場合がある。裏抜けに起因し、種々の問題が発生する。具体的には、滲み出した塗工液によって不織布が搬送ロールや搬送支持体に粘着して搬送が困難になる問題、不織布への塗工液付与量が部分的に不足してピンホール等の塗工欠陥を生じる問題、搬送ロールや搬送支持体に一旦転写した塗工液やその乾固物が不織布に再転写して塗工均一性が低下する問題等が発生する。特に、リチウムイオン電池用セパレータ、ろ過膜等においては、ポア径等の物性が均一であることが求められるため、ピンホール等の塗工欠陥の発生や塗工均一性の低下は、性能を低下させる深刻な問題である。
【0005】
裏抜けに伴う諸問題を解決するために、以下のような技術が提案されている。例えば、不織布と、塗工液を塗工してなる塗工層を、搬送支持体と積層し、乾燥後に搬送支持体を剥離して製品を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。搬送支持体としては、裏抜けが発生しない、緻密な紙や樹脂シートが開示されている。また、2層の不織布を積層し、双方の不織布に塗工液を含浸し、片面から塗工液を凝固させた後、2層の不織布を剥離してその一方を製品として得る方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかし、これらの方法には、使用後の搬送支持体や一方の不織布を廃棄することから、コストが高くなる問題、大量の廃棄物が生じる問題等があった。
【0006】
また、塗工液を付与した後の不織布を特定のロールを用いて搬送することによって、裏抜けに伴う面質の悪化を回避する方法も提案されている(例えば、特許文献6~8参照)。特許文献6には、走行方向と略並行方向に溝が設けられたロールが開示されている。また、特許文献7には、直径25mm以下のロールが開示されている。さらに、特許文献8には、スムージングロールが開示されている。しかし、特許文献6~8に開示された方法では、基材として非常に薄い不織布を用いた場合等に、ピンホール等の欠点が発生する場合があり、その効果には未だ改善の余地がある。
【0007】
特定の物性の不織布を使用する方法(例えば、特許文献9参照)、特定の物性の塗工液を使用する方法(例えば、特許文献10及び11参照)によって、裏抜けを回避する方法も提案されている。しかし、これらの方法では、不織布や塗工液の選択の幅が狭いために、製品性能やコストの観点から最適な不織布や塗工液が選択できなくなる場合があった。とりわけ、裏抜けが少ない不織布は、必然的に液体や気体の透過性が低い不織布となってしまうため、リチウムイオン電池用セパレータやろ過膜と言った、物質やイオンの透過を目的とした製品においては、著しい制約となる場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-268096号公報
【文献】特開2005-302341号公報
【文献】特開2013-186958号公報
【文献】特開2013-229118号公報
【文献】国際公開第2008/153117号パンフレット
【文献】特開2014-192027号公報
【文献】特開2014-192147号公報
【文献】特開2015-8109号公報
【文献】特開2013-154304号公報
【文献】特開2013-115031号公報
【文献】特開2014-44857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、不揮発分を媒体に分散又は溶解させた塗工液を不織布に塗工することにおいて、塗工液の裏抜けに起因するピンホール等の欠陥の発生を、高度に回避できる不織布塗工機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題を解決するための手段は下記のとおりである。
【0011】
(1)不織布に塗工液を付与する塗工手段、塗工液を付与された不織布が搬送ロールに支持されて搬送される搬送手段、及び付与した塗工液を乾燥させる乾燥手段を有する不織布塗工機において、搬送ロールの表面が凹凸形状及び撥水性を有し、搬送ロールにおける水の接触角が85°以上であることを特徴とする不織布塗工機。
【0012】
(2)搬送ロールが、表面が撥水性の凹凸シートによって被覆されているロールである上記(1)記載の不織布塗工機。
【0013】
(3)搬送ロールが、表面がポリオレフィンからなり、表面が機械加工により形成された凹凸形状を有するロールである上記(1)記載の不織布塗工機。
【0014】
(4)搬送ロールが、表面が切削ローレット加工、転造ローレット加工及びレーザ彫刻の群から選ばれる加工方法により形成された凹凸形状を有するロールである上記(1)記載の不織布塗工機。
(5)搬送ロールが金属製ロールである上記(4)記載の不織布塗工機。
【0015】
(6)凹凸のピッチが300~1000μmであり、隙間/ピッチが0.3~0.6であり、凹凸の高さが50~200μmであり、さらに表面の接触角が85°以上である上記(2)~(5)のいずれか記載の不織布塗工機。
【0016】
(7)搬送ロールが、溶射撥水加工がなされたロールである上記(1)記載の不織布塗工機。
【0017】
(8)搬送ロールが、ブラスト撥水めっき加工がなされたロールである上記(1)記載の不織布塗工機。
【0018】
(9)搬送ロールが、表面が撥水ファブリックによって被覆されているロールである上記(1)記載の不織布塗工機。
【発明の効果】
【0019】
本発明の不織布塗工機により、不揮発分を媒体に分散又は溶解させた塗工液を不織布に塗工することにおいて、塗工液の裏抜けに起因するピンホール等の欠陥の発生を、高度に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の不織布塗工機の一例を示した概略図である。
【
図2】本発明に用いる搬送ロールに形成される凹凸形状のパターンの一例を示した断面図である。
【
図3】本発明に用いる搬送ロールに形成される凹凸形状のパターンの一例を示した断面図である。
【
図4】本発明に用いる搬送ロールに形成される凹凸形状のパターンの一例を示した断面図である。
【
図5】溶射加工がなされた搬送ロールの表面形状の一例を示した断面図である。
【
図6】溶射撥水加工がなされた搬送ロールの表面形状の一例を示した断面図である。
【
図7】溶射撥水加工がなされた搬送ロールの表面形状の一例を示した断面図である(ダメージを受ける前)。
【
図8】溶射撥水加工がなされた搬送ロールの表面形状の一例を示した断面図である(ダメージを受けた後)。
【
図9】本発明に用いるブラスト加工がなされた搬送ロールにおける凹凸形状のパターンの一例を示した断面図である。
【
図10】本発明に用いるブラスト撥水めっき加工がなされた搬送ロールにおける凹凸形状のパターンの一例を示した断面図である。
【
図11】本発明に用いる撥水ファブリックに使用するガラスクロスの表面パターンの一例を示した図である。
【
図12】本発明に用いる撥水ファブリックの一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、不織布への塗工するための不織布塗工機である。より詳しくは、不揮発分を媒体に分散又は溶解させた塗工液を不織布に塗工するための不織布塗工機である。本発明の不織布塗工機は、不織布に塗工液を付与する塗工手段、塗工液を付与された不織布が搬送ロールに支持され搬送される搬送手段、及び付与した塗工液を乾燥させる乾燥手段を有する。
【0022】
図1は、本発明の不織布塗工機の一例を示した概略図である。アンワインダーによって、不織布ロールMより不織布が引き出される。搬送ロールT1に支持されて、不織布は塗工手段Hへと送られる。次に、塗工手段Hによって、不織布の片面に塗工液が付与される。その後、不織布は、塗工液を付与された面と反対面を1本以上の搬送ロールT2、T3、T4に支持されながら走行し、乾燥手段Dによって乾燥される。搬送ロールT3は、乾燥手段Dの手前の搬送ロールであり、乾燥手段Dからの熱による影響を受ける搬送ロールである。搬送ロールT2は、塗工手段Hから搬送ロールT3までの間に存在する搬送ロールであり、乾燥手段Dからの熱による影響を受けない搬送ロールである。搬送ロールT4は、乾燥手段D内の搬送ロールであり、搬送ロールT3よりも熱による影響を受ける。
【0023】
搬送ロールとは、不織布塗工機中において、不織布の走行方向を決めるために、又は、不織布の走行を安定化させるために用いるロールである。搬送ロールの芯材としては金属、プラスチック、繊維強化プラスチック等を使用することができる。金属としては、鉄、ステンレス、アルミニウム、黄銅、りん青銅等が例示できる。プラスチックとしては、フッ素系樹脂;シリコーン系樹脂;ウレタン系樹脂;アクリル系樹脂;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合(ABS)樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合樹脂等のオレフィン系樹脂等が例示できる。繊維強化プラスチックとしては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維等の高弾性率の繊維素材と、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂とを複合させたものが例示できる。
【0024】
本発明の不織布塗工機では、搬送ロールの表面が凹凸形状及び撥水性を有していることを技術的特徴とする。以下、「表面が凹凸形状及び撥水性を有している搬送ロール」を「搬送ロールZ」と略記する場合がある。搬送ロールにおける水の接触角は85°以上が好ましい。ただし、その最大値は理論上180°である。水の接触角が85°以上であることで、搬送ロールに不織布が粘着せず、裏抜けした塗工液が搬送ロールに付着しにくいという効果が得られ易い。接触角は大きければ大きいほど、裏抜けした塗工液が搬送ロールに付着しにくくなるため、好ましい。接触角の測定は、室温23℃、相対湿度50%の部屋で、携帯式接触角計PG-X+(Fibo System AB、Sweden)を用いて、自動静的接触角を5cm角の範囲で10ヶ所測定し、その平均値を接触角とした。蒸留水滴下量は4.0μLとした。搬送ロールに撥水性を持たせる方法としては、撥水性の材質のロールに凹凸形状を形成する方法、貼付、塗設又はメッキ等の手段によって、撥水性を有する材料で搬送ロールの表面を被覆する方法が挙げられる。
【0025】
搬送ロールZ(I)として、表面が撥水性の凹凸シートによって被覆されているロールが挙げられる。凹凸シートの材質は特に制限しないが、既に水の接触角が85°以上であるポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂からなるシートが好ましい。また、水の接触角が85°未満のシート表面に撥水剤をコートしたシートでも良い。撥水剤としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂が好ましい。
【0026】
搬送ロールZ(II)として、表面がポリオレフィンからなり、機械加工により形成された凹凸形状を表面が有するロールが挙げられる。搬送ロールの表面の素材がポリオレフィンである場合、撥水性を有しており、特に処理は必要無い。金属ロール等を加工して凹凸形状を形成させた搬送ロールは、加工後に、ポリオレフィンからなる素材で搬送ロールの表面を被覆する必要がある。ポリオレフィンとしては、水の接触角が85°以上である超高分子量ポリエチレンやポリプロピレン等が挙げられる。搬送ロールZ(II)は、搬送ロールZ(I)よりも耐久性に優れている。
【0027】
搬送ロールZ(III)として、表面が切削ローレット加工、転造ローレット加工及びレーザ彫刻の群から選ばれる加工方法により形成された凹凸形状を有するロールが挙げられる。中でも、切削ローレット加工では、凹凸形状を短時間に形成することができ、塗布方法に最適な材質及び形状に合わせて加工することができ、搬送ロールへの負荷も小さい。
【0028】
搬送ロールZ(III)において、もともとのロール表面の材質自体が撥水性を有している場合は、特に処理は必要ない。金属製ロール等を加工して凹凸形状を形成させた場合には、その後に撥水処理加工を行う。撥水処理加工としては、撥水性樹脂のコーティングや、撥水メッキ等の手段を用いることができる。耐久性の点で撥水メッキが好ましく、更には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含有させた複合メッキが好適に用いられる。
【0029】
搬送ロールZ(I)~(III)において、凹凸形状における形状パターンには、特に制限は無い。凸部の形状としては、円錐、多角錐、ドーム、絹目、ダイヤモンド等が例示できる。搬送ロールZ(III)においては、加工のし易さと接触面積を少なくするという点で、絹目又はダイヤモンドがより好ましく、ダイヤモンドがさらに好ましい。
図2~4は、搬送ロールZ(I)~(III)が有する凹凸形状のパターンの一例を示した断面図である。
【0030】
搬送ロールZ(I)~(III)において、凹凸のピッチW1は、300~1000μmが好ましく、400~700μmがより好ましい。本発明において、凹凸の「ピッチ」とは、隣接する凸の頂部から頂部までの距離である。該ピッチW1が300~1000μmである場合、裏抜けした塗工液が、搬送ロールZに転写しにくいという効果が得られ易い。
【0031】
搬送ロールZ(I)~(III)において、凹凸の高さhは、50~200μmが好ましく、75~120μmがより好ましい。本発明において、凹凸の「高さ」とは、凸の頂部から凹の谷部までの高さ(Z方向の距離)である。該高さhが50~200μmである場合、搬送ロールに不織布が粘着せず、塗工層に凹凸のパターンが転写されないという効果が得られ易い。
【0032】
搬送ロールZ(I)~(III)において、凹凸の隙間W2/ピッチW1は0.3~0.6が好ましく、0.4~0.5がより好ましい。本発明において、隙間W2とは、
図2で示すように、隣接する凸部の凸の頂部から凹の谷部の中間地点h/2同士を結んだ距離である。該隙間W2/ピッチW1が0.3~0.6である場合、裏抜けした塗工液が、搬送ロールに転写しにくいという効果が得られ易い。
【0033】
搬送ロールZ(IV)として、溶射撥水加工がなされたロールが挙げられる。溶射撥水加工とは、搬送ロール素材の表面に溶射加工を行った後に、撥水加工を行うものである。溶射加工とは、被覆材料を溶融・半溶融状態にした後、搬送ロール素材表面に衝突させて積層させることによって皮膜を形成する加工処理であり、耐摩耗性、耐熱性に優れた搬送ロールが形成できる。被覆材料としては、金属、合金、セラミックス、プラスチック、ガラス等が利用可能であり、金属又はセラミックがより好ましい。金属又はセラミックとしては、ニッケル系、タングステン系、ニッケル-アルミニウム系が挙げられる。溶射加工では、表面に凹凸形状が形成される。ニッケル系、タングステン系の溶射では、Ra:3~15μm、Rz:30~100μm程度の適度な凹凸のある表面形状が得られ、耐摩耗性にも優れているため、好適に用いられる。
【0034】
溶射加工が行われたロール表面は、凹凸形状が形成されているが、その表面には数十μm以下の微細な間隔での凹凸周期が形成されており、搬送される不織布とは点接触に近い状態で接触し、搬送される。そのため、裏抜けした塗工液が、搬送ロールに転写しにくい。
【0035】
また、溶射加工で形成された微細な間隔での凹凸周期の凹部には、通常、樹脂塗工などの方法で封孔処理をすることで、汚れの付着防止及び皮膜の性能向上が図られる。本発明では、溶射加工の後の撥水加工は、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の撥水性の樹脂を、塗工やめっき、プラズマ処理等の手段を用いて、表面に形成させるいずれの撥水加工を行うこともできるが、表面全体に撥水樹脂層を形成するとともに、溶射加工によってできた微細な凹凸周期の凹部に充填するように撥水樹脂層を形成することが好ましく、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂の樹脂塗工が好適に用いられる。フッ素系樹脂としては、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体(FEP)及び四フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等が利用される。シリコーン系樹脂としては、シリコーン樹脂、シリコーンゴムが挙げられる。撥水加工に先立って、溶射加工後の表面を洗浄・研磨を実施して、表面の形状を微調整して、撥水樹脂との密着性向上を図っても良い。撥水樹脂層の耐擦過性を向上させる目的で、充填材として鱗片状マイカ、雲母状酸化鉄、板状酸化チタン、板状炭化ケイ素等の耐擦過性充填材を混合しても良い。
【0036】
搬送ロールZ(IV)における、溶射撥水加工がなされた搬送ロール表面の凹凸形状は溶射加工によって形成されたものであれば、種々の形状のものが使用可能である。溶射加工で表面形状を詳細にコントロールすることは難しく、形状の表現も難しいが、
図5及び
図6を用いて説明する。
図5は、溶射加工がなされた搬送ロールの表面形状の一例を示した断面図である。溶射加工後表面形状1では、αで表される100μm以上の凹凸周期に加え、βで表される数十μm以下の微細な凹凸周期の形状が形成される。
図6は、溶射撥水加工がなされた搬送ロールの表面形状の一例を示した断面図であり、
図5で示される溶射加工後表面形状1の上に撥水性の樹脂を塗工した、撥水加工後表面形状2を表す断面図である。撥水性の樹脂は、
図6に示すように、表面全面を覆うように塗工がなされて撥水樹脂層となるが、溶射加工後表面形状1の凹部を埋めるように撥水樹脂層が形成される。
【0037】
本発明の不織布塗工機では、長期間の使用時や、洗浄作業等を含むメンテナンス作業時において、ロール表面が繰り返し物理的な接触を受けて磨耗が発生したり、突発的な機械的な接触により傷がついたりするダメージが発生する場合がある。そのような場合、通常の撥水加工が施された搬送ロールであれば、ダメージを受けた部分の撥水性が低下し、塗工液が、搬送ロールに転写しにくくなる効果が低減する場合があった。そのような場合には、最悪の場合、新品ロールとの交換が必要となるが、溶射撥水加工がなされた搬送ロールZ(IV)においては、そのような効果の低減が発生しにくい。
図7及び
図8にダメージを受ける前後の溶射撥水加工がなされた搬送ロールの表面形状を示す。それぞれ、溶射加工後表面形状1の上に撥水加工を行い、撥水加工後表面形状2が形成されている搬送ロールの表面形状である。
図7に示すダメージを受ける前の表面形状の凸部3において形成されていた撥水樹脂層が、
図8に示すダメージを受けた後の表面形状の凸部4においては除去されて、溶射加工後表面形状1が撥水樹脂層に覆われていない状態となっている。凸部(
図7の符号3、
図8の符号4)は、搬送されている不織布と点接触する部分となるが、本発明では、この凸部4の撥水樹脂層が存在しなくなったとしても、その周辺には十分な撥水樹脂層が依然存在するために、裏抜けの転写抑制効果が良好に持続される。
【0038】
搬送ロールZ(V)として、ブラスト撥水めっき加工がなされた搬送ロールが挙げられる。ブラスト撥水めっき加工とは、搬送ロール素材の表面にブラスト加工を行った後に、撥水めっき加工を行うものである。ブラスト加工とは、素材の表面に研磨剤を吹き付けて素材表面を研削することにより形状変形をさせる加工方法である。ブラスト加工で使用される研磨剤は投射材とも呼ばれ、金属粒子やセラミック粒子の他、投射できるものであれば、あらゆる素材が投射材として使用可能である。投射材の種類(粒径、組成、密度、硬度、強度)や投射条件(速度、投射角度、投射量)などをコントロールすることで、搬送ロールに所望の表面形状を形成することが可能である。
【0039】
ブラスト撥水めっき加工は、ブラスト加工の後に、撥水めっき加工を行う。ブラスト加工が行われたロール表面は、凹凸形状が形成されているが、加工前のロール表面に通常付着している油分などの表面汚染物が完全に取り除かれた状態となっており、かつロール素材のみからなる表面となっているため、その後の撥水めっき加工に適している。すなわち、ブラスト加工を行わずに、撥水めっき加工を行うと、ロール表面の汚れがめっき不良の原因となってしまい、良好なめっき皮膜形成を阻害する。したがって、撥水めっき加工の前にブラスト加工を行うことで、ロール表面に強固なめっき皮膜を均一に形成することができ、長期に亘って使用することが可能な搬送ロールができる。
【0040】
撥水めっき加工は、複合めっき技術により撥水性を表面に持たせる加工法を用いる。複合めっき技術は、めっきを行う際に、めっき液中にわずかな量の固体粒子を含めておき、金属が析出する際に固体粒子もめっき皮膜中に析出(共析)させ、めっき皮膜に対して、通常のめっき皮膜では得られない特性を、固体粒子の種類によって付与する技術である。本発明における撥水めっき加工では、固体粒子として撥水性を付与する固体粒子を用い、撥水めっき加工を行う。撥水性を付与する固体粒子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂のようなフッ素系樹脂やフッ化黒鉛等が挙げられる。
【0041】
搬送ロールZ(V)における、ブラスト撥水めっき加工がなされた搬送ロール表面の凹凸形状はブラスト加工によって形成されたものであれば、種々の形状が使用可能である。
図9及び
図10を用いて説明する。
図9は、ブラスト加工後の表面形状1′を表す断面図である。符号Aで表される周期が100μm以上、1000μm以下である凹凸形状の上に撥水めっき加工を行った後の表面形状2′を
図10に示す。
図10に示すように全面を覆うように撥水めっき加工がなされる。周期Aは、表面粗さパラメータのRSm値を用いる。
【0042】
本発明の不織布塗工機では、長期間の使用時や、洗浄作業等を含むメンテナンス作業時において、ロール表面が繰り返し物理的な接触を受ける場合や、突発的な機械的な接触等が発生する場合がある。このような場合、撥水めっき加工が施された搬送ロールZ(V)であれば、損傷を受けにくい。すなわち、本発明の撥水めっき加工における撥水性に寄与する成分は、複合めっきの際の撥水性を発現する固形粒子にあり、その固形粒子は、強固なめっき皮膜に含まれているため、損傷を受けにくい。撥水樹脂を塗布して形成される撥水樹脂層を有する搬送ロールに比べると、複合めっき加工が施された搬送ロールは、損傷を受けにくく、耐磨耗性に優れ、長期に亘って良好な撥水性を維持することができる
【0043】
搬送ロールZ(V)に係わるブラスト加工は、投射材として、金属系、非金属系いずれの投射材も使用可能である。ブラスト加工では、Raが5~30μm程度の適度な凹凸のある表面形状を形成する。それにより、塗工液の付着を抑制するとともに、撥水めっきに適した清浄な表面を形成する。
【0044】
本発明において、Ra、周期A、Rz等の表面粗さに関するパラメータの測定の際には、カットオフ値2.5mm、評価長さ12.5mmとして、接触式表面粗さ計(SURFCOM FLEX(登録商標)、株式会社東京精密製)を用いて、JIS B 0601:2001にて測定を行った。
【0045】
撥水めっき加工において用いられる複合めっきとしては、いずれの金属めっき及び撥水性を付与する固体粒子の組み合わせも使用可能であるが、強固な均一なめっき皮膜が良好に形成でき、なおかつ、高い撥水性が得られる複合めっきとして、ニッケル・PTFE複合めっきが好適に使用できる。
【0046】
搬送ロールZ(VI)としては、撥水ファブリックによって被覆されているロールが挙げられる。撥水ファブリックとは、ファブリックに撥水樹脂を塗工したものである。
【0047】
図11は、搬送ロールZ(VI)に用いる撥水ファブリックに使用するガラスクロスの表面パターンの一例を示した図である。本発明において、ファブリックは、
図11で示すように、縦糸aと横糸bとが重なる部分と重ならない部分とを有し、重ならない部分に隙間cが存在し、ファブリック特有の凹凸形状を有する。ファブリックを構成する素材としては特に制限は無い。しかし、搬送ロールT4として使用するためには、乾燥手段Dに使用される温度において不可逆的な熱変形を起こさない素材であることが好ましく、ガラス繊維、アラミド樹脂繊維、ポリイミド樹脂繊維、フェノール樹脂繊維等が例示できる。
【0048】
搬送ロールZ(VI)に用いられる撥水樹脂としては、乾燥手段Dに使用される温度において不可逆的な熱変形を起こさない素材であれば特に制限が無く、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素系樹脂;シリコーンレジン、シリコーンゴム等のシリコーン系樹脂等が例示できる。
【0049】
耐擦過性を向上させる目的で、充填材として鱗片状マイカ、雲母状酸化鉄、板状酸化チタン、板状炭化ケイ素等の耐擦過性充填材を撥水樹脂に混合しても良い。
【0050】
図12は、本発明に用いる撥水ファブリックの一例を示した断面図である。
図12に示すように、縦糸aと横糸bからなるファブリックを撥水樹脂層dが覆うことで、
図11にあるような縦糸aと横糸bとが重ならない部分の隙間cがなくなり、裏抜けした塗工液が隙間cに入り込むことを抑えることができる。
【0051】
撥水樹脂層dで隙間cを覆うことから、縦糸、横糸共に、番手5.6tex以上、200tex以下であることが好ましく、織り密度は30本/25mm以上、80本/25mm以下であることが好ましく、織り組織は、平織、朱子織、綾目が好ましい。番手、織り密度は、縦糸と横糸で異なってもよい。搬送ロールと不織布との接触面積を下げることができるため、搬送ロール表面のRaが3~30μmであることが好ましい。また、搬送ロールZ(VI)は、長期使用時やメンテナンス作業時の物理的な接触によって、表面が損傷を受けたとしても、簡便に交換ができ、簡易なメンテナンスで良好な効果が長期に亘って保たれる。
【0052】
搬送ロールZによって、以下の有利な効果が得られる。すなわち、裏抜けした塗工液が、搬送ロールに転写しにくくなるため、不織布が搬送ロールに粘着しにくくなり、搬送が安定になる。また、得られた塗工層にピンホール等の塗工欠陥が生じにくくなる。さらに、搬送ロールに転写した塗工液が不織布に再転写して、塗工層が不均一になることも抑制される。これらの効果が得られる理由は、搬送ロール表面の凹凸によって、搬送ロールと不織布との接触面積を下げることができるからである。
【0053】
本発明において、搬送ロールZは、不織布の片面に塗工液を付与する工程(塗工工程)後から、不織布を乾燥する工程(乾燥工程)まで、不織布を搬送する。その際、不織布の塗工液を付与した面とは反対面を、搬送ロールによって適宜支持する。搬送ロールZは、搬送ロールT2~T4のうち、少なくとも1本以上の搬送ロールに使用される。したがって、搬送ロールT2~T4全てに搬送ロールZを使用しても良い。塗工手段Hから乾燥手段Dの手前の搬送ロールT3までの間に存在する搬送ロールT2に関しては、乾燥手段Dからの熱による影響を受けない搬送ロールであることから、表面に凹凸形状を有し、且つ、撥水性を有するいずれの搬送ロールも使用可能である。
【0054】
搬送ロールZ(I)及び(II)は、搬送ロールT2及びT3として使用することができる。また、搬送ロールZ(III)は、搬送ロールZ(I)及び(II)よりも、耐熱性に優れている。よって、搬送ロールZ(III)は、搬送ロールT2及びT3としてだけではなく、搬送ロールT4として使用することもできる。特に、耐熱性に優れた金属製ロールの場合、搬送ロールT4に適している。また、乾燥手段Dにおいて、より高い乾燥温度の処理も可能となる。
【0055】
搬送ロールZ(IV)~(VI)も、高い耐熱性を持たせることが可能であり、搬送ロールT2及びT3としてだけではなく、乾燥手段D内の搬送ロールT4に使用することができる。搬送ロールT4として使用することによって、乾燥手段Dの乾燥温度を上昇させることが可能となり、処理の自由度が拡がり、生産性向上に寄与できる。
【0056】
また、なんらかの原因によって、搬送ロールT4に塗工液が付着して汚れの固着等が発生した場合には、表面の洗浄を行う必要があり、その洗浄の際に、搬送ロールの表面に物理的な力を加えて、固着物の除去を行う場合がある。搬送ロールT4として耐摩耗性を向上させた搬送ロールZ(IV)~(VI)を使用することで、上記のような物理的な接触がT4ロール表面にあったとしても、搬送ロール表面は損傷を受けにくく、裏抜けの転写抑制効果が良好に維持される。また、表面への機械的な接触が発生する可能性の高い位置の搬送ロール、メンテナンス作業時に表面清掃等で機械的接触が必要な位置の搬送ロールとしても、耐磨耗性に優れた搬送ロールZ(IV)~(VI)を適用することが好ましい。
【0057】
本発明において、塗工手段Hに特に制限は無い。ただし、余りにも多量の塗工液が裏抜けした場合、本発明によっても裏抜けに起因する悪影響を回避することが困難になることから、厚み方向への動圧が発生しにくい塗工手段を用いることが好ましい。厚み方向への動圧は、多量の塗工液が裏抜けする原因となる。具体的には、キスタッチグラビアコーター、キスロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター等の塗工手段が好ましく用いられる。
【0058】
本発明において、乾燥手段Dにも特に制限は無い。不織布の表面に熱風や乾燥空気を吹き付けて乾燥するエアドライヤー、加熱した金属製円筒の表面に不織布を接触させることで加熱乾燥するシリンダードライヤー、赤外線により不織布を加熱する赤外線ドライヤー等の乾燥手段を用いることができる。
【0059】
乾燥は、塗工液の付着量が少ない点及び迅速に乾燥することができる点から、塗工液を付与した面とは反対の面を先に乾燥させることが好ましい。
【0060】
本発明において、不織布にも特に制限は無い。ただし、厚い不織布を用いる場合には、塗工液の裏抜けがそもそも生じにくく、本発明の技術を使用する動機に乏しい。逆に、薄い不織布、具体的には、その厚さが30μm以下である不織布を用いる場合には、本発明によって、塗工の均一性を大幅に向上させられる。
【0061】
また、塗工手段Hの前に存在する搬送ロールT1は、特に制限は無く、金属類、樹脂、繊維強化プラスチックのいずれも使用することができる。金属としては、鉄、ステンレス、アルミニウム、黄銅、りん青銅等が例示できる。樹脂としては、フッ素系樹脂;シリコーン系樹脂;ウレタン系樹脂;アクリル系樹脂;ABS樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合樹脂等のポリオレフィン系樹脂等が例示できる。繊維強化プラスチックとしては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維等の高弾性率の素材と、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂等の熱硬化性樹脂やポリメチルメタアクリレート等のアクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂とを複合させたものが例示できる。
【0062】
乾燥手段D内部及び乾燥手段Dよりも後において、少なくとも媒体の一部が蒸発し、付与された塗工液が流動性を失った後の不織布を支持するために用いる搬送ロールは、裏抜けの転写抑制効果を有する必要は無い。すなわち、凹凸形状及び撥水性を有していない搬送ロールを使用することができる。ただし、乾燥手段D内部に使用される搬送ロールについては、乾燥手段D内の温度に対して耐性を有する搬送ロールを使用する必要がある。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。実施例I-14は参考例である。
【0064】
[不織布]
繊度0.1dtex、カット長3mmのポリエチレンテレフタレート主体繊維ステープル70質量部、及び繊度0.2dtex、カット長3mmのポリエチレンテレフタレートバインダー繊維ステープル30質量部からなり、表面温度200℃の熱カレンダーにより強度の付与及び厚み調整を行った、坪量8g/m2、厚さ12μmの湿式抄造不織布を用いた。
【0065】
[塗工液]
100質量部(固形分換算)のアルミナ水和物(ベーマイト)、2.0質量部(固形分換算)のアクリル系ポリマーのラテックス、0.4質量部(固形分換算)のマレイン酸-アクリル酸共重合体のナトリウム塩、及び0.2質量部(固形分換算)のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC-Na)を含み、媒体が水である塗工液を調製した。塗工液の固形分濃度は20質量%である。なお、CMC-Naとしては、1質量%水溶液の20℃における粘度が7000mPa・secであるCMC-Naを使用した。
【0066】
[撥水性測定]
本発明において、撥水性は、室温23℃、相対湿度50%の部屋で、携帯式接触角計PG-X+(Fibo System AB、Sweden)を用いて、自動静的接触角を5cm角の範囲で10ヶ所測定し、その平均値とした。蒸留水滴下量は4.0μLとした。
【0067】
<搬送ロールZ(I)>
[実施例I-1]
図1に概略を示した装置によって、前記不織布に、前記塗工液を、媒体(水)を含むWET塗工量が50g/m
2となるように塗工した。塗工手段Hとしては、ダイコーターを使用した。乾燥手段Dとしては、有効長30cmの片面エアドライヤーを、不織布の塗工液が付与されていない面に熱風を当てるようにして用い、続いて、有効長30cmの片面エアドライヤー2台を、不織布の塗工液が付与されている面に熱風を当てるようにして用いた。塗工手段Hと乾燥手段Dとの間にある搬送ロールT2及びT3としては、凹凸ポリエチレン(PE)シートによって被覆された、アルミニウム合金を芯材とする直径60mmのロールを用いた。搬送ロールT4としては、アルミニウム合金を芯材とする直径60mmのロールを用いた。凹凸PEシートは、互いに重ならず、且つ隙間ができないように、スプレーのりで貼り付けた。凹凸PEシートにおいて、凸部の形状は円錐で、凹凸のピッチW1は600μmで、凹凸の高さhは100μmで、凹凸の隙間W2/ピッチW1は0.45で、水の接触角は88°であった。塗工速度は2m/minとした。
【0068】
[実施例I-2]
凹凸PEシートに代え、凹凸ポリプロピレン(PP)シートを使用した以外は、実施例I-1と同様にして、不織布への塗工を行った。凹凸PPシートにおいて、凹凸のピッチW1は700μmで、凹凸の高さhは120μmで、凹凸の隙間W2/ピッチW1は0.40で、水の接触角は94°であった。
【0069】
[実施例I-3]
凹凸PEシートに代え、凹凸ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを使用した以外には、実施例I-1と同様にして、不織布への塗工を行った。凹凸PTFEシートにおいて、凹凸のピッチW1は600μmで、凹凸の高さhは100μmで、凹凸の隙間W2/ピッチW1は0.45、水の接触角は110°であった。
【0070】
[実施例I-4]
凹凸PEシートにおいて、凹凸のピッチW1を450μm、凹凸の高さhを110μm、凹凸の隙間W2/ピッチW1を0.55、接触角を90°にした以外は、実施例I-1と同様にして、不織布への塗工を行った。
【0071】
[実施例I-5]
凹凸PEシートにおいて、凹凸のピッチW1を560μm、凹凸の高さhを200μm、凹凸の隙間W2/ピッチW1を0.57、水の接触角を89°にした以外は、実施例I-1と同様にして、不織布への塗工を行った。
【0072】
[実施例I-6]
凹凸PEシートにおいて、凹凸のピッチW1を600μm、凹凸の高さhを50μm、凹凸の隙間W2/ピッチW1を0.60、水の接触角を89°にした以外は、実施例I-1と同様にして、不織布への塗工を行った。
【0073】
[実施例I-7]
凹凸PEシートにおいて、凹凸のピッチW1を1500μm、高さhを300μm、隙間W2/ピッチW1を0.57に代えた以外は、実施例I-1と同様にして、不織布へ塗工を行った。水の接触角は89°であった。
【0074】
[実施例I-8]
凹凸PEシートの凹凸のピッチW1を600μm、高さhを100μm、隙間W2/ピッチW1を0.22にした以外は、実施例I-1と同様にして、不織布へ塗工を行った。水の接触角は89°であった。
【0075】
[実施例I-9]
凹凸PEシートの凹凸のピッチW1を300μm、高さhを100μm、隙間W2/ピッチW1を0.60にした以外は、実施例I-1と同様にして、不織布へ塗工を行った。水の接触角は89°であった。
【0076】
[実施例I-10]
凹凸PEシートの凹凸のピッチW1を1000μm、高さhを120μm、隙間W2/ピッチW1を0.50にした以外は、実施例I-1と同様にして、不織布へ塗工を行った。水の接触角は89°であった。
【0077】
[実施例I-11]
凹凸PEシートの凹凸のピッチW1を700μm、高さhを75μm、隙間W2/ピッチW1を0.40にした以外は、実施例I-1と同様にして、不織布へ塗工を行った。水の接触角は89°であった。
【0078】
[実施例I-12]
凹凸PEシートの凹凸のピッチW1を500μm、高さhを100μm、隙間W2/ピッチW1を0.45にした以外は、実施例I-1と同様にして、不織布へ塗工を行った。水の接触角は89°であった。
【0079】
[実施例I-13]
凹凸PEシートの凹凸のピッチW1を600μm、高さhを100μm、隙間W2/ピッチW1を0.25にした以外は、実施例I-1と同様にして、不織布へ塗工を行った。水の接触角は85°であった。
【0080】
[実施例I-14]
凹凸PEシートの凹凸のピッチW1を600μm、高さhを130μm、隙間W2/ピッチW1を0.60にした以外は、実施例I-1と同様にして、不織布へ塗工を行った。水の接触角は80°であった。
【0081】
[比較例I-1]
凹凸PEシートを凹凸の無いPEシートに代えた以外は、実施例I-1と同様にして、不織布へ塗工を行った。水の接触角は89°であった。
【0082】
[比較例I-2]
凹凸PTFEシートを凹凸の無いPTFEシートに代えた以外は、実施例I-3と同様にして、不織布へ塗工を行った。水の接触角は112°であった。
【0083】
[比較例I-3]
塗工手段Hと乾燥手段Dとの間にある搬送ロールT2及びT3として、アルミニウム合金製の金属ロールを用い、ロール表面を凹凸PEシートによって被覆しなかった以外は、実施例I-1と同様にして、不織布への塗工を行った。金属ロールの接触角は80°であった。
【0084】
[評価]
塗工後の不織布における100mm×100mmの領域を、解像度600dpiの透過式スキャナでスキャンし、得られた輝度ヒストグラムの最頻値から、5σ以上高い輝度を有するピクセルをピンホールとみなし、その個数により、均一性を判断した。5σ以上高い輝度を有するピクセルが複数個隣接している場合は、1個のピンホールと見なした。ピンホール数が少ない程、均一性の高い塗工になったと判断できる。10m塗工後にサンプリングを行った。結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
搬送ロールT2及びT3の表面が撥水性の凹凸シートによって被覆されている実施例I-1~I-14では、ピンホールは500個未満であった。これに対し、比較例I-1~I-3では、搬送ロールT2及びT3の表面が撥水性の凹凸シートによって被覆されていないため、搬送ロールT2及びT3と不織布との接触が多くなり、ピンホールが500個より多くなった。
【0087】
実施例I-1~I-14を比較すると、ピッチW1が1500μmであった実施例I-7ではピンホールが493個であり、隙間W2/ピッチW1が0.22であった実施例I-8ではピンホールが475個であり、隙間W2/ピッチW1が0.25であった実施例I-13では、ピンホールが460個であり、接触角が80°である実施例I-14ではピンホールが480個であるのに対し、ピッチW1が300~1000μmであり、隙間W2/ピッチW1が0.3~0.6であり、凹凸の高さhが50~200μmであり、さらに凹凸シートの接触角が85°以上である実施例I-1~I-6、I-9~I-12では、ピンホール個数が0~70個と、非常に少なかった。
【0088】
なお、実施例I-1~I-14では、乾燥手段の有効長の関係で、塗工速度が2m/minに制限されているが、塗工液の裏抜けは経時で悪化する現象であるため、塗工速度が高速になることはむしろ有利であり、有効長の長いエアドライヤーを使用すれば、高速化は容易である。
【0089】
<搬送ロールZ(II)>
[実施例II-1]
図1に概略を示した不織布塗工機によって、前記不織布に、前記塗工液を、媒体(水)を含むWET塗工量が50g/m
2となるように塗工した。塗工手段Hとしては、ダイコーターを使用した。乾燥手段Dとしては、有効長30cmの片面エアドライヤーを、不織布の塗工液が付与されていない面に熱風を当てるようにして用い、続いて、有効長30cmの片面エアドライヤー2台を、不織布の塗工液が付与されている面に熱風を当てるようにして用いた。乾燥温度は100℃とした。塗工手段Hと乾燥手段Dの手前の搬送ロールT3との間にある搬送ロールT2としては、凹凸ポリエチレン(PE)シートによって被覆された、アルミニウム合金を芯材とする直径60mmのロールを用いた。凹凸PEシートは、互いに重ならず、且つ隙間ができないように、スプレーのりで貼り付けた。凹凸PEシートにおいて、凸部の形状は円錐で、凹凸のピッチW1は600μmで、凹凸の高さhは100μmで、凹凸の隙間W2/ピッチW1は0.45で、水の接触角は88°であった。塗工速度は30m/minとした。
【0090】
乾燥手段Dの手前の搬送ロールT3及び乾燥手段Dの内部の搬送ロールT4としては、直径60mmの超高分子量ポリエチレン製のロールに切削ローレット加工によって表面に凹凸形状としてダイヤモンドパターンを形成した搬送ロールを使用した。
【0091】
搬送ロールT3及びT4の表面に施した切削ローレット加工は、
図3に示すように、ピッチW1=500μm、高さh=190μmで、隙間W2=226μmとして、凹凸形状の凸の頂部は平坦領域を残して加工を行った。水の接触角は88°であった。
【0092】
[実施例II-2]
搬送ロールT3及びT4の表面に施した切削ローレット加工のパターンを、
図4に示すように、ピッチW1=364μm、高さh=157μm、隙間W2=182μmとして頂部に平坦領域を残さないように加工した以外は実施例II-1と同様にして不織布への塗工を行った。水の接触角は88°であった。
【0093】
[実施例II-3]
搬送ロールT3及びT4の表面に施した切削ローレット加工のパターンを、
図4に示すように、ピッチW1=210μm、高さh=94μm、隙間W2=105μmとして頂部に平坦領域を残さないように加工した以外は実施例II-1と同様にして不織布への塗工を行った。水の接触角は88°であった。
【0094】
[実施例II-4]
搬送ロールT3及びT4の表面に施した切削ローレット加工のパターンを、
図4に示すように、ピッチW1=940μm、高さh=400μm、隙間W2=470μmとして頂部に平坦領域を残さないように加工した以外は実施例II-1と同様にして不織布への塗工を行った。水の接触角は88°であった。
【0095】
[実施例II-5]
切削ローレット加工ではなく、レーザ彫刻によって、搬送ロールT3及びT4の表面加工パターンを、
図4に示すように、ピッチW1=600μm、高さh=100μm、隙間W2=270μmとして頂部に平坦領域を残さないように加工した以外は実施例II-1と同様にして不織布への塗工を行った。水の接触角は88°であった。
【0096】
[実施例II-6]
切削ローレット加工ではなく、レーザ彫刻によって、搬送ロールT3及びT4の表面加工パターンを、
図4に示すように、ピッチW1=940μm、高さh=120μm、隙間W2=475μmとして頂部に平坦領域を残さないように加工した以外は実施例II-1と同様にして不織布への塗工を行った。水の接触角は88°であった。
【0097】
[実施例II-7]
搬送ロールT3及びT4としては、ステンレス製のロールに切削ローレットではなくミール彫刻加工によって表面に凹凸形状としてピラミッドパターン形成し、加工後のロールに熱収縮ポリプロピレンフィルムを巻き、ヘヤードライヤーを吹き付け、被覆し、
図4に示すように、ピッチW1=700μm、高さh=120μm、隙間W2=350μmとしたロールを用い、乾燥温度を80℃にした以外は、実施例II-1と同様にして不織布への塗工を行った。水の接触角は92°であった。
【0098】
[実施例II-8]
搬送ロールT3及びT4として、超高分子量ポリエチレン製のロールではなく、ポリプロピレン製のロールに、切削ローレット加工ではなく、レーザ彫刻加工によって、
図4に示すようにピッチW1=940μm、高さh=120μm、隙間W2=475μmの凹凸形状を形成した以外は、実施例II-1と同様にして不織布への塗工を行った。水の接触角は93°であった。
【0099】
[実施例II-9]
ピッチW1=600μm、高さh=100μm、隙間W2=270μmの凹凸ポリエチレンシートを直径60mmのアルミニウム合金製ロール表面にお互い重ならず且つ隙間ができないようにポリイミドテープで固定した搬送ロールを、搬送ロールT3及びT4として用いた以外は、実施例II-1と同様にして不織布への塗工を行った。エンボス加工の凸部の形状は円錐形状とした。水の接触角は90°であった。
【0100】
[比較例II-1]
搬送ロールT3及びT4として、凹凸形状を表面に形成していない直径60mmの超高分子量ポリエチレン製ロールを用いた以外は実施例II-1と同様にして不織布への塗工を行った。水の接触角は88°であった。
【0101】
[比較例II-2]
搬送ロールT3及びT4として、直径60mmのステンレス製のロールにミール彫刻によって表面に凹凸形状としてダイヤモンドパターンを形成し、
図4に示すように、ピッチW1=580μm、高さh=250μm、隙間W2=260μmとして頂部に平坦領域を残さないように加工した以外は実施例II-1と同様にして不織布への塗工を行った。水の接触角は60°であった。
【0102】
不織布塗工後の塗工面観察を行い、ピンホールや塗布ムラの評価を行った結果を表2に示す。
【0103】
【0104】
実施例II-1~II-8においては、良好な塗工面が形成されていた。
【0105】
実施例II-9では、乾燥手段D内部の搬送ロールT4において、搬送ロール表面に固定した凹凸PEシートが熱により変形し、塗工面にスジが発生した。凹凸PEシートによって被覆されている搬送ロールZは、搬送ロールT2及びT3としては使用できるが、搬送ロールT4として使用することは難しい。
【0106】
また、比較例II-1及びII-2では、塗工液の裏抜けによって、搬送ロールT3及びT4表面が汚れ、その逆転写により、塗工面にスジが発生した。
【0107】
<搬送ロールZ(III)>
[実施例III-1]
図1に概略を示した装置によって、前記不織布に、前記塗工液を、媒体(水)を含むWET塗工量が50g/m
2となるように塗工した。塗工手段Hとしては、ダイコーターを使用した。乾燥手段Dとしては、有効長30cmの片面エアドライヤーを、不織布の塗工液が付与されていない面に熱風を当てるようにして用い、続いて、有効長30cmの片面エアドライヤー2台を、不織布の塗工液が付与されている面に熱風を当てるようにして用いた。塗工手段Hと乾燥手段Dの手前の搬送ロールとの間にある搬送ロールT2としては、凹凸ポリエチレン(PE)シートによって被覆された、アルミニウム合金を芯材とする直径60mmのロールを用いた。凹凸PEシートは、互いに重ならず、且つ隙間ができないように、スプレーのりで貼り付けた。凹凸PEシートにおいて、凸部の形状は円錐で、凹凸のピッチW1は600μmで、凹凸の高さhは100μmで、凹凸の隙間W2/ピッチW1は0.45で、水の接触角は88°であった。塗工速度は30m/minとした。
【0108】
乾燥手段Dの手前及び乾燥手段Dの内部の搬送ロールT3及びT4としては、ステンレス製ロールに切削ローレット加工によって表面に凹凸形状としてダイヤモンドパターンを形成し、その後にPTFE複合メッキ処理を行って撥水処理を施した搬送ロールを使用した。
【0109】
搬送ロールT3及びT4の表面に施した切削ローレット加工は、
図3に示すように、ピッチW1=580μm、高さh=200μmとして、凹凸形状の凸の頂部は平坦領域を残して加工を行った。
【0110】
[実施例III-2]
搬送ロールT3及びT4の表面に施した切削ローレット加工のパターンを、
図4に示すように、ピッチW1=580μm、高さh=250μmとして頂部に平坦領域を残さないように加工した以外は実施例III-1と同様にして不織布への塗工を行った。
【0111】
[実施例III-3]
搬送ロールT3及びT4への撥水処理の方法をPTFE樹脂コーティング処理に変更した以外は実施例III-1と同様にして不織布への塗工を行った。
【0112】
[実施例III-4]
ステンレス製ロールではなく、アルミニウム合金製ロールを使用した以外は実施例III-1と同様にして不織布への塗工を行った。
【0113】
[実施例III-5]
実施例III-4において、切削ローレット加工ではなく、転造ローレット加工を行って、ピッチW1=500μm、高さh=250μmの凹凸形状を形成した以外は実施例III-4と同様にして不織布への塗工を行った。
【0114】
[実施例III-6]
切削ローレット加工ではなく、レーザ彫刻によって、ピッチW1=600μm、高さh=100μmの凹凸形状を形成し、撥水処理をPTFE樹脂コーティングに変更した以外は実施例III-1と同様にして不織布への塗工を行った。
【0115】
[実施例III-7]
テフロン(登録商標)シートに、ピッチW1=600μm、高さh=250μmのエンボス加工を行い、それをアルミニウム合金製ロール表面にポリイミドテープを使用して固定したロールを搬送ロールT3及びT4に用いた以外は、実施例III-1と同様にして不織布への塗工を行った。エンボス加工の凸部の形状は円錐形状とした。
【0116】
[実施例III-8]
ピッチW1=600μm、高さh=100μmの凹凸PEシートをアルミニウム製ロール表面にポリイミドテープを使用して固定したロールを搬送ロールT3及びT4に用いた以外は、実施例III-1と同様にして不織布への塗工を行った。エンボス加工の凸部の形状は円錐形状とした。
【0117】
[比較例III-1]
凹凸形状を表面に形成していないステンレス製ロールを搬送ロールT3及びT4に用いた以外は実施例III-1と同様にして不織布への塗工を行った。
【0118】
[比較例III-2]
切削ローレット加工によって表面に凹凸形状を形成したステンレス製ロールを搬送ロールT3及びT4に用いた以外は実施例III-1と同様にして不織布への塗工を行った。表面に撥水処理は行っていない。
【0119】
不織布塗工後の塗工面観察を行い、ピンホールや塗布ムラの評価を行った結果を表3に示す。
【0120】
【0121】
実施例III-1~III-7においては、良好な塗工面が形成されていた。ただし、実施例III-5においては、転造ローレット加工によってアルミニウム合金製ロールの寸法変化(歪み)があり、搬送中のシートのパスラインの変動が観察された。ただし、塗工面への影響は見られなかった。
【0122】
実施例III-6に用いたレーザ彫刻加工では、切削ローレット加工に比べ、製作に時間を要するとともに、高さhにも制約があった。
【0123】
実施例III-7に用いた搬送ロールT3及びT4では、テフロンシートがダメージを受けており、交換を余儀無くされるような状態であった。
【0124】
実施例III-8では、乾燥手段D内の搬送ロールT4において、搬送ロール表面に形成したPEシートが熱により変形し、塗工面にスジが発生した。凹凸PEシートによって被覆されている搬送ロールZは、搬送ロールT2及びT3としては使用できるが、搬送ロールT4として使用することは難しい。
【0125】
また、比較例III-1及びIII-2では、搬送ロールT3及びT4表面が裏抜け液によって汚れ、その逆転写により、塗工面にスジが発生した。
【0126】
<搬送ロールZ(IV)>
[実施例IV-1]
図1に本発明の不織布塗工機の一例の概略図を示す。前記不織布からなる不織布ロールMから不織布を送り出し、搬送ロールT1~T4からなる搬送手段によって搬送し、塗工手段H及び乾燥手段Dによって、前記塗工液の塗工及び乾燥を行う装置である。
【0127】
塗工手段Hとしては、ダイコーターを使用し、媒体(水)を含むWET塗工量が50g/m2となるように塗工した。乾燥手段Dとしては、有効長30cmの片面エアドライヤーを、不織布の塗工液が付与されていない面に熱風を当てるようにして用い、続いて、有効長30cmの片面エアドライヤー2台を、不織布の塗工液が付与されている面に熱風を当てるようにして用いた。乾燥温度は100℃とした。
【0128】
塗工手段Hと乾燥手段Dの手前の搬送ロールT3との間にある搬送ロールT2としては、凹凸ポリエチレン(PE)シートによって被覆された、アルミニウム合金を芯材とする直径60mmのロールを用いた。凹凸PEシートは、互いに重ならず、且つ隙間ができないように、スプレーのりで貼り付けた。塗工速度は30m/minとした。
【0129】
乾燥手段Dの手前の搬送ロールT3及び乾燥手段Dの内部の搬送ロールT4としては、溶射撥水加工がなされたロールを用いた。溶射はニッケル系の溶射であり、撥水加工はシリコーン系樹脂の塗工であるロールを用いた。表面粗さはRa:10μm、Rz:75μmであった。接触角は106°であった。
【0130】
不織布塗工後の塗工面観察を行ったところ、裏抜けによって引き起こされるピンホールや塗布ムラが観察されず、良好な塗工面が形成されていた。
【0131】
耐久性を確認する目的で、乾燥手段Dの搬送ロールT4に塗工液を強制的に固着させた後、その洗浄除去作業を行い、再度、上記と同様にして塗工を行って、塗工面の観察を行った。洗浄除去作業は、まずは水洗によって行うが、残存する多くの塗工液固着部分については、金属ヘラによって物理的な力を加えて固着物の除去を行った。また、凹部の固着物については、粘着シート貼り付けにより除去を行った。
【0132】
塗布後の塗工面の観察を行ったところ、洗浄作業前と同様の良好な塗工面が形成されていた。
【0133】
上記の塗工液固着-洗浄除去の作業を、搬送ロールT4に対してさらに30回施してから、再度、上記と同様に塗工を行い、塗工面の観察を行ったところ、初期と変わらず良好な塗工面が形成されていた。
【0134】
[比較例IV-1]
実施例IV-1において、乾燥手段Dの手前の搬送ロールT3及び乾燥手段Dの内部の搬送ロールT4に、溶射撥水加工がなされたロールではなく、溶射加工のみがなされ、撥水加工をしていないロールを用いた以外は、実施例30と同様にして、不織布塗工を行い、塗工面の観察を行った。溶射加工のみがなされたロールの表面粗さは、Ra:15μm、Rz:100μm、接触角は80°であった。
【0135】
不織布塗工後の塗工面観察を行ったところ、裏抜けによって引き起こされるピンホールや塗布ムラが観察され、良好な塗工面の形成ができなかった。
【0136】
[比較例IV-2]
実施例IV-1において、乾燥手段Dの手前の搬送ロールT3及び乾燥手段Dの内部の搬送ロールT4に、溶射を行わずに、撥水加工のみを行ったロールを用いた以外は、実施例30と同様にして、不織布塗工を行い、塗工面の観察を行った。撥水加工のみがなされたロールの表面粗さは、Ra:1μm、Rz:5μm、接触角は102°であった。
【0137】
不織布塗工後の塗工面観察を行ったところ、裏抜けによって引き起こされるピンホールや塗布ムラが観察され、良好な塗工面の形成ができなかった。
【0138】
<搬送ロールZ(V)>
[実施例V-1]
図1に本発明の不織布塗工機の一例の概略図を示す。前記不織布からなる不織布ロールMから不織布を送りだし、搬送ロールT1~T4からなる搬送手段によって搬送し、塗工手段H及び乾燥手段Dによって、前記塗工液の塗工及び乾燥を行う装置である。
【0139】
塗工手段Hとしては、ダイコーターを使用し、媒体(水)を含むWET塗工量が50g/m2となるように塗工した。乾燥手段Dとしては、有効長30cmの片面エアドライヤーを、不織布の塗工液が付与されていない面に熱風を当てるようにして用い、続いて、有効長30cmの片面エアドライヤー2台を、不織布の塗工液が付与されている面に熱風を当てるようにして用いた。乾燥温度は100℃とした。
【0140】
塗工手段Hと乾燥手段Dの手前の搬送ロールT3との間にある搬送ロールT2としては、凹凸ポリエチレン(PE)シートによって被覆された、アルミニウム合金を芯材とする直径60mmのロールを用いた。凹凸PEシートは、互いに重ならず、且つ隙間ができないように、スプレーのりで貼り付けた。塗工速度は30m/minとした。
【0141】
乾燥手段Dの手前の搬送ロールT3及び乾燥手段Dの内部の搬送ロールT4としては、ブラスト撥水めっき加工がなされたロールを用いた。ブラスト加工は投射材としてガラスビーズを用い、撥水めっき加工は、ニッケル・PTFE複合めっきを用いた。表面粗さはRa:15μmであった。接触角は120°であった。周期Aは500μmであった。
【0142】
不織布塗工後の塗工面観察を行ったところ、裏抜けによって引き起こされるピンホールや塗布ムラが観察されず、良好な塗工面が形成されていた。
【0143】
耐久性を確認する目的で、乾燥手段Dの搬送ロールT4に塗工液を強制的に固着させた後、その洗浄除去作業を行い、再度、上記と同様にして塗工を行って、塗工面の観察を行った。洗浄除去作業は、水洗によって行った。塗工液固着部が残存する場合には、布製のワイパーにより物理的な力を加えて固着物の除去を行った。
【0144】
塗布後の塗工面の観察を行ったところ、洗浄作業前と同様の良好な塗工面が形成されていた。
【0145】
上記の塗工液固着-洗浄除去の作業を、搬送ロールT4に対してさらに30回施してから、再度、上記と同様に塗工を行い、塗工面の観察を行ったところ、初期と変わらず良好な塗工面が形成されていた。
【0146】
[比較例V-1]
実施例V-1において、乾燥手段Dの手前の搬送ロールT3及び乾燥手段Dの内部の搬送ロールT4に、ブラスト撥水めっき加工がなされたロールではなく、ブラスト加工のみがなされ、撥水めっき加工をしていないロールを用いた以外は、実施例V-1と同様にして、不織布塗工を行い、塗工面の観察を行った。ブラスト加工のみがなされたロールの表面粗さは、Ra:15μm、接触角は60°であった。周期Aは500μmであった。
【0147】
不織布塗工の結果、搬送ロールT3及びT4において、裏抜けした塗工液の転写が発生してしまい、塗工面にピンホール及び塗布ムラが観察され、良好な塗工面の形成ができなかった。
【0148】
[比較例V-2]
実施例V-1において、乾燥手段Dの手前の搬送ロールT3及び乾燥手段Dの内部の搬送ロールT4に、ブラスト加工を行わずに、撥水めっき加工のみを行ったロールを用いた以外は、実施例V-1と同様にして、不織布塗工を行い、塗工面の観察を行った。撥水めっき加工のみがなされたロールの表面粗さは、Ra:1μm、接触角は120°であった。周期Aは150μmであった。
【0149】
不織布塗工の結果、搬送ロールT3及びT4において裏抜けした塗工液の転写が発生してしまい、塗工面にピンホール及び塗布ムラが観察され、良好な塗工面の形成ができなかった。
【0150】
<搬送ロールZ(VI)>
[実施例VI-1]
図1に概略を示した不織布塗工機によって、前記不織布に、前記塗工液を、媒体(水)を含むWET塗工量が50g/m
2となるように塗工した。塗工手段Hとしては、ダイコーターを使用した。乾燥手段Dとしては、有効長30cmの片面エアドライヤーを、不織布の塗工液が付与されていない面に熱風を当てるようにして用い、続いて、有効長30cmの片面エアドライヤー2台を、不織布の塗工液が付与されている面に熱風を当てるようにして用いた。乾燥温度は100℃とした。塗工速度は30m/minとした。
【0151】
塗工手段Hと乾燥手段Dの手前の搬送ロールとの間にある搬送ロールT2としては、凹凸ポリエチレンシートによって被覆された、アルミニウム合金を芯材とする直径60mmのロールを用いた。凹凸ポリエチレンシートは、互いに重ならず、且つ隙間ができないように、スプレーのりで貼り付けた。
【0152】
乾燥手段Dの手前の搬送ロールT3及び乾燥手段Dの内部の搬送ロールT4としては、撥水ファブリックによって被覆された、アルミニウム合金を芯材とする直径60mmのロールを用いた。撥水ファブリックは、お互いに重ならず、且つ隙間ができないように、ポリイミドテープを使用して固定した。
【0153】
搬送ロールT3及びT4に用いた撥水ファブリックとして、JIS R 3414:2012のEP08Bのガラスクロスにポリテトラフルオロエチレン樹脂を含浸して撥水樹脂層を設けたものを用いた。表面粗さはRa:5μmで、水の接触角は110°であった。
【0154】
[実施例VI-2]
搬送ロールT3及びT4に用いた撥水ファブリックとして、JIS R 3414:2012のEP06Bのガラスクロスにポリテトラフルオロエチレン樹脂を含浸して撥水樹脂層を設けたものを用いた以外は実施例VI-1と同様にして不織布へ塗工した。表面粗さはRa:3μmで水の接触角は110°であった。
【0155】
[実施例VI-3]
搬送ロールT3及びT4に用いた撥水ファブリックとして、JIS R 3414:2012のEP25のガラスクロスにポリテトラフルオロエチレン樹脂を含浸して撥水樹脂層を設けたものを用いた以外は実施例VI-1と同様にして不織布へ塗工した。表面粗さはRa:30μmで水の接触角は110°であった。
【0156】
実施例VI-1~VI-2においては、裏抜けによって引き起こされるピンホールや塗工ムラが観察されず、良好な塗工面が形成されていた。実施例VI-3は撥水ファブリックの凹凸パターンが転写されたが、裏抜けによって引き起こされるピンホールや塗工ムラは観察されなかった。また、搬送ロールT3及びT4ロールに塗工液をわざと固着させても、水で濡らした布製のワイパーで塗工液を簡単に拭き取ることができた。このことから、塗工時に塗工液が固着する事態になっても、洗浄除去作業が容易である。この固着-洗浄作業を30回行ってから、再度、上記同様に不織布に塗工を行ったところ、初期と変わらず良好な塗工面が形成されていた。
【0157】
[比較例VI-1]
搬送ロールT3及びT4として、JIS R 3414:2012のEP06Bのガラスクロスをポリイミドテープで固定した搬送ロールを使用した以外は、実施例VI-1と同様にして不織布への塗工を行った。表面粗さはRa:3μmで、水の接触角は測定できなかった。
【0158】
[比較例VI-2]
搬送ロールT3及びT4として、撥水ファブリックの被覆したロールの代わりに、ポリテトラフルオロエチレン樹脂塗工したロールを使用した以外は実施例VI-1と同じにして不織布への塗工を行った。表面粗さはRa:1μmで、水の接触角は110°であった。
【0159】
比較例VI-1及びVI-2において、裏抜けによって引き起こされるピンホールや塗工ムラが観察され、良好な塗面の形成ができなかった。また、比較例VI-1では、乾燥手段Dの内部の搬送ロールT4において、搬送ロール表面に裏抜けした塗工液が固着していた。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明の不織布塗工機を用いた不織布への塗工は、不織布に各種の塗工液を塗工してなる製品の製造、例えば、不織布に無機粒子を塗工してなるリチウムイオン二次電池用セパレータの製造に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0161】
1 溶射加工後表面形状
2 撥水加工後表面形状
3 凸部(ダメージを受ける前)
4 凸部(ダメージを受けた後)
1′ ブラスト加工後表面形状
2′ 撥水めっき加工後表面形状
D 乾燥手段
T1 搬送ロール
T2 搬送ロール
T3 搬送ロール
T4 搬送ロール
H 塗工手段
M 不織布ロール
W1 ピッチ
W2 隙間
h 高さ
α 凹凸周期
β 微細な凹凸周期
A 周期
a 縦糸
b 横糸
c 隙間
d 撥水樹脂層