(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】転がり軸受の状態監視装置および転がり軸受の状態監視方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/045 20190101AFI20230117BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20230117BHJP
F16C 19/52 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
G01M13/045
F16C19/26
F16C19/52
(21)【出願番号】P 2019039338
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筒井 英之
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/013999(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/013998(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-99/00
F16C 19/26
F16C 19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の転動体が回転輪と静止輪との間に周方向に一定の間隔で配置され、ラジアル荷重を受けて使用される転がり軸受の状態監視装置であって、
前記静止輪の軌道面の負荷域中央に生じる損傷を検出する損傷検出部と、
前記負荷域中央から周方向に前記間隔だけ離れた位置において、前記損傷検出部によって検出された損傷に起因して新たな損傷が発生する時期を交換時期として予測する予測部とを備え、
前記予測部は、前記損傷検出部が損傷を検出するまでの第1の総負荷回数と、前記負荷域中央において転動体と前記軌道面との間に接触面圧が生じるとした場合の第1の最大接触面圧と、前記負荷域中央において転動体と前記軌道面との間に接触面圧が生じないとした場合の第2の最大接触面圧と、前記損傷検出部が損傷を検出した後に、前記負荷域中央から周方向に前記間隔だけ離れた位置において損傷が発生するまでの第2の総負荷回数との関係を用いて前記交換時期を予測し、
前記第1の最大接触面圧と前記第2の最大接触面圧とは、いずれも前記負荷域中央から周方向に前記間隔だけ離れた位置において転動体と前記軌道面との間に生じる最大接触面圧である、転がり軸受の状態監視装置。
【請求項2】
前記予測部は、
前記転がり軸受に負荷される第1のラジアル荷重に基づいて、前記第1の最大接触面圧と前記第2の最大接触面圧とを算出し、
前記負荷域中央において転動体と前記軌道面との間に生じる最大接触面圧が、前記第1の最大接触面圧となる第2のラジアル荷重を算出し、
前記負荷域中央において転動体と前記軌道面との間に生じる最大接触面圧が、前記第2の最大接触面圧となる第3のラジアル荷重を算出し、
前記第2のラジアル荷重と前記転がり軸受の基本動定格荷重とから第1の基本定格寿命を算出し、
前記第3のラジアル荷重と前記転がり軸受の基本動定格荷重とから第2の基本定格寿命を算出し、
前記第1の総負荷回数と、前記第1の基本定格寿命と、前記第2の基本定格寿命と、前記損傷が生じてから前記交換時期までの前記転がり軸受の第2の総負荷回数との関係式を用いて、前記第2の総負荷回数を算出する、請求項1に記載の転がり軸受の状態監視装置。
【請求項3】
前記転がり軸受の状態監視装置は、風力発電装置の主軸軸受の状態を監視するように構成され、
前記風力発電装置の発電電力を制御する制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記予測部により予測された前記交換時期が所望の交換時期に満たない場合には、前記損傷検出部によって損傷が検出された時点より後の前記発電電力を、当該時点より前の前記発電電力に比べて抑制する、請求項1または2に記載の転がり軸受の状態監視装置。
【請求項4】
前記転がり軸受の状態監視装置は、風力発電装置の主軸軸受の状態を監視するように構成され、
前記風力発電装置の発電電力を制御する制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記予測部により予測された前記交換時期が所望の交換時期に満たない場合には、前記損傷検出部によって損傷が検出された時点より後の前記発電電力を、当該時点より前の前記発電電力に比べて抑制するように構成され、
前記制御部は、
前記所望の交換時期に基づいた、前記損傷検出部が損傷を検出した後に、前記負荷域中
央から周方向に前記間隔だけ離れた位置において損傷が発生するまでの第3の総負荷回数と、前記第1の総負荷回数と、前記第1の基本定格寿命と、第3の基本定格寿命との関係式を用いて、前記第3の基本定格寿命を算出し、
前記第3の基本定格寿命と前記転がり軸受の基本動定格荷重とから第4のラジアル荷重を算出し、
前記転がり軸受に前記第4のラジアル荷重が負荷される場合に、前記負荷域中央において前記転動体と前記軌道面との間に生じる最大接触面圧が前記第2の最大接触面圧となる第5のラジアル荷重を算出し、
前記転がり軸受に負荷されるラジアル荷重と前記発電電力との予め準備された関係を用いて、前記第5のラジアル荷重に基づいて前記発電電力の抑制率を算出し、
前記損傷検出部によって損傷が検出された時点より後の前記発電電力を、前記抑制率を用いて抑制する、請求項2に記載の転がり軸受の状態監視装置。
【請求項5】
前記転がり軸受の内外輪間のラジアル方向の相対変位を検出するための変位検出部をさらに備え、
前記損傷検出部は、前記変位検出部によって検出された相対変位に基づいて、前記損傷が生じたことを検出する、請求項1から4のいずれか1項に記載の転がり軸受の状態監視装置。
【請求項6】
前記変位検出部は、前記相対変位を検出する変位センサを含む、請求項5に記載の転がり軸受の状態監視装置。
【請求項7】
前記変位検出部は、前記転がり軸受の振動加速度、前記転がり軸受から生じる音、及び前記転がり軸受に生じる応力のうちの少なくとも1つの測定値と前記相対変位との予め準備された関係を用いて、前記測定値に基づいて前記相対変位を間接的に検出する、請求項5または請求項6に記載の転がり軸受の状態監視装置。
【請求項8】
複数の転動体が回転輪と静止輪との間に周方向に一定の間隔で配置され、ラジアル荷重を受けて使用される転がり軸受の状態監視方法であって、
前記静止輪の軌道面の負荷域中央に生じる損傷を検出するステップと、
前記負荷域中央から周方向に前記間隔だけ離れた位置において、前記損傷を検出するステップによって検出された損傷に起因して新たな損傷が発生する時期を交換時期として予測するステップとを含み、
前記予測するステップは、前記損傷を検出するステップが損傷を検出するまでの第1の総負荷回数と、前記負荷域中央において転動体と前記軌道面との間に接触面圧が生じるとした場合の第1の最大接触面圧と、前記負荷域中央において転動体と前記軌道面との間に接触面圧が生じないとした場合の第2の最大接触面圧と、前記損傷を検出するステップが損傷を検出した後に、前記負荷域中央から周方向に前記間隔だけ離れた位置において損傷が発生するまでの第2の総負荷回数との関係を用いて前記交換時期を予測し、
前記第1の最大接触面圧と前記第2の最大接触面圧とは、いずれも前記負荷域中央から周方向に前記間隔だけ離れた位置において転動体と前記軌道面との間に生じる最大接触面圧である、転がり軸受の状態監視方法。
【請求項9】
前記予測するステップは、
前記転がり軸受に負荷される第1のラジアル荷重に基づいて、前記第1の最大接触面圧と前記第2の最大接触面圧とを算出するステップと、
前記負荷域中央において転動体と前記軌道面との間に生じる最大接触面圧が、前記第1の最大接触面圧となる第2のラジアル荷重を算出するステップと、
前記負荷域中央において転動体と前記軌道面との間に生じる最大接触面圧が、前記第2の最大接触面圧となる第3のラジアル荷重を算出するステップと、
前記第2のラジアル荷重と前記転がり軸受の基本動定格荷重とから第1の基本定格寿命を算出するステップと、
前記第3のラジアル荷重と前記転がり軸受の基本動定格荷重とから第2の基本定格寿命を算出するステップと、
前記第1の総負荷回数と、前記第1の基本定格寿命と、前記第2の基本定格寿命と、前記損傷が生じてから前記交換時期までの前記転がり軸受の第2の総負荷回数との関係式を用いて、前記第2の総負荷回数を算出するステップとを含む、請求項8に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項10】
前記転がり軸受の状態監視方法は、風力発電装置の主軸軸受の状態を監視するように構成され、
前記風力発電装置の発電電力を制御するステップをさらに含み、
前記制御するステップは、前記予測するステップにより予測された前記交換時期が所望の交換時期に満たない場合には、前記損傷を検出するステップによって損傷が検出された時点より後の前記発電電力を、当該時点より前の前記発電電力に比べて抑制する、請求項8または9に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項11】
前記転がり軸受の状態監視方法は、風力発電装置の主軸軸受の状態を監視するように構成され、
前記風力発電装置の発電電力を制御するステップをさらに含み、
前記制御するステップは、前記予測するステップにより予測された前記交換時期が所望の交換時期に満たない場合には、前記損傷
を検出するステップによって損傷が検出された時点より後の前記発電電力を、当該時点より前の前記発電電力に比べて抑制するように構成され、
前記制御するステップは、
前記所望の交換時期に基づいた、前記損傷
を検出するステップが損傷を検出した後に、前記負荷域中央から周方向に前記間隔だけ離れた位置において損傷が発生するまでの第3の総負荷回数と、前記第1の総負荷回数と、前記第1の基本定格寿命と、第3の基本定格寿命との関係式を用いて、前記第3の基本定格寿命を算出するステップと、
前記第3の基本定格寿命と前記転がり軸受の基本動定格荷重とから第4のラジアル荷重を算出するステップと、
前記転がり軸受に前記第4のラジアル荷重が負荷される場合に、前記負荷域中央において前記転動体と前記軌道面との間に生じる最大接触面圧が前記第2の最大接触面圧となる第5のラジアル荷重を算出するステップと、
前記転がり軸受に負荷されるラジアル荷重と前記発電電力との予め準備された関係を用いて、前記第5のラジアル荷重に基づいて前記発電電力の抑制率を算出するステップと、
前記損傷を検出するステップによって損傷が検出された時点より後の前記発電電力を、前記抑制率を用いて抑制するステップとを含む、請求項9に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受の状態監視装置および転がり軸受の状態監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2010-159710号公報(特許文献1)は、風力発電装置の主軸軸受(転がり軸受)の状態を監視する監視装置を開示する。この監視装置は、荷重検出手段と、判定手段とを備える。荷重検出手段は、主軸軸受に作用する負荷荷重を検出する。判定手段は、荷重検出手段の検出信号を判定情報の一つとして用いて、上記主軸軸受に関する所定の判定、たとえばメンテナンス必要時期の判定を行なう。
【0003】
この監視装置によれば、風力発電装置における主軸軸受のメンテナンス必要時期の予測等の判定を精度良く行なうことができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
風力発電装置の主軸軸受のように、交換が容易ではなく、かつ、比較的低速条件で使用される軸受(転がり軸受)は、損傷が発生しても継続使用されることが多い。そのために、このような軸受については、損傷の進展に従って軸受を交換する時期の予測が課題となっている。
【0006】
低速条件で使用される転がり軸受については、損傷が進展しても、装置の構成部品(たとえば、風力発電装置において主軸に連結される増速機など)が損壊する程までには振動は増大しない。しかしながら、損傷が進展することにより内外輪間の相対変位(静止輪に対する回転輪のぶれを示す。)が増大すると、軸受が支持している部品の変位による弊害が生じ、軸受が支持している部品とそれに隣接する部品との異常接触や、歯車の噛み合い不良等を生じ得る。たとえば、風力発電装置の場合には、主軸軸受の損傷による内外輪間の相対変位の増大は、主軸に連結される増速機の歯車の噛み合い不良等を生じ得る。したがって、風力発電装置の主軸軸受のような低速条件で使用される転がり軸受については、内外輪間の相対変位に基づいて軸受の交換時期を予測するのが望ましい。
【0007】
なお、このような低速条件で使用される転がり軸受としては、風力発電装置用の軸受のほか、たとえば、潮力発電装置用の軸受や、大型の圧延ローラやガイドローラ用の軸受等が想定される。
【0008】
軸受の交換時期の根拠とする内外輪間の相対変位の許容量については、軸受が支持する部品に基づいて決定し得るが、この場合は、軸受が支持する部品の寸法精度に加えて、部品の組立精度や温度分布等も考慮する必要があり、軸受が支持する部品から内外輪間の相対変位の許容量を決定するのは容易ではない。
【0009】
上記特許文献1に記載の監視装置は、風力発電装置における主軸軸受のメンテナンス必要時期の予測を精度良く行なうことができる一手法を提供するものとして有用であるけれども、損傷が生じつつも継続使用される軸受の交換時期の予測については、精度改善の余地がある。
【0010】
本願発明者らは、軸受交換時期の予測を実現するにあたり、転がり軸受の損傷の進展について種々の検討及び実験を行なった結果、静止輪に対する転動体の総通過回数(転がり軸受の総回転回数に比例する。)の増加に応じて内外輪間の相対変位が段階的に増大し、所定の段階から相対変位が軸受支持部品に影響を与え得るほど急激に増大することの知見を得た。そして、本願発明者らは、さらに検討を深めた結果、転がり軸受の損傷について、段階的に増大する相対変位の各段階における損傷状況と損傷の進展メカニズムについて知見を得るに至った。
【0011】
それゆえに、この発明の主たる目的は、軸受交換時期を予測可能な転がり軸受の状態監視装置および状態監視方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明によれば、転がり軸受の状態監視装置は、複数の転動体が回転輪と静止輪との間に周方向に一定の間隔で配置され、ラジアル荷重を受けて使用される転がり軸受の状態監視装置である。転がり軸受の状態監視装置は、静止輪の軌道面の負荷域中央に生じる損傷を検出する損傷検出部と、負荷域中央から周方向に上記間隔だけ離れた位置において、損傷検出部によって検出された損傷に起因して新たな損傷が発生する時期を交換時期として予測する予測部とを備える。予測部は、損傷検出部が損傷を検出するまでの第1の総負荷回数と、負荷域中央において転動体と軌道面との間に接触面圧が生じるとした場合の第1の最大接触面圧と、負荷域中央において転動体と軌道面との間に接触面圧が生じないとした場合の第2の最大接触面圧と、損傷検出部が損傷を検出した後に、負荷域中央から周方向に間隔だけ離れた位置において損傷が発生するまでの第2の総負荷回数との関係を用いて交換時期を予測する。第1の最大接触面圧と第2の最大接触面圧とは、いずれも負荷域中央から周方向に間隔だけ離れた位置において転動体と軌道面との間に生じる最大接触面圧である。
【0013】
好ましくは、予測部は、転がり軸受に負荷される第1のラジアル荷重に基づいて、第1の最大接触面圧と第2の最大接触面圧とを算出する。予測部は、負荷域中央において転動体と軌道面との間に生じる最大接触面圧が、第1の最大接触面圧となる第2のラジアル荷重を算出する。予測部は、負荷域中央において転動体と軌道面との間に生じる最大接触面圧が、第2の最大接触面圧となる第3のラジアル荷重を算出する。予測部は、第2のラジアル荷重と転がり軸受の基本動定格荷重とから第1の基本定格寿命を算出する。予測部は、第3のラジアル荷重と転がり軸受の基本動定格荷重とから第2の基本定格寿命を算出する。予測部は、第1の総負荷回数と、第1の基本定格寿命と、第2の基本定格寿命と、損傷が生じてから交換時期までの転がり軸受の第2の総負荷回数との関係式を用いて、第2の総負荷回数を算出する。
【0014】
好ましくは、転がり軸受の状態監視装置は、風力発電装置の主軸軸受の状態を監視するように構成される。転がり軸受の状態監視装置は、風力発電装置の発電電力を制御する制御部をさらに備える。制御部は、予測部により予測された交換時期が所望の交換時期に満たない場合には、損傷検出部によって損傷が検出された時点より後の発電電力を、当該時点より前の発電電力に比べて抑制する。
【0015】
好ましくは、転がり軸受の状態監視装置は、風力発電装置の主軸軸受の状態を監視するように構成される。転がり軸受の状態監視装置は、風力発電装置の発電電力を制御する制御部をさらに備える。制御部は、予測部により予測された交換時期が所望の交換時期に満たない場合には、損傷検出部によって損傷が検出された時点より後の発電電力を、当該時点より前の発電電力に比べて抑制するように構成される。制御部は、所望の交換時期に基づいた、損傷検出部が損傷を検出した後に、負荷域中央から周方向に間隔だけ離れた位置において損傷が発生するまでの第3の総負荷回数と、第1の総負荷回数と、第1の基本定格寿命と、第3の基本定格寿命との関係式を用いて、第3の基本定格寿命を算出する。制御部は、第3の基本定格寿命と転がり軸受の基本動定格荷重とから第4のラジアル荷重を算出する。制御部は、転がり軸受に第4のラジアル荷重が負荷される場合に、負荷域中央において転動体と軌道面との間に生じる最大接触面圧が第2の最大接触面圧となる第5のラジアル荷重を算出する。制御部は、転がり軸受に負荷されるラジアル荷重と発電電力との予め準備された関係を用いて、第5のラジアル荷重に基づいて発電電力の抑制率を算出する。制御部は、損傷検出部によって損傷が検出された時点より後の発電電力を、抑制率を用いて抑制する。
【0016】
好ましくは、転がり軸受の状態監視装置は、転がり軸受の内外輪間のラジアル方向の相対変位を検出するための変位検出部をさらに備える。損傷検出部は、変位検出部によって検出された相対変位に基づいて、損傷が生じたことを検出する。
【0017】
好ましくは、変位検出部は、相対変位を検出する変位センサを含む。
好ましくは、変位検出部は、転がり軸受の振動加速度、転がり軸受から生じる音、及び転がり軸受に生じる応力のうちの少なくとも1つの測定値と相対変位との予め準備された関係を用いて、測定値に基づいて相対変位を間接的に検出する。
【0018】
また、この発明によれば、転がり軸受の状態監視方法は、複数の転動体が回転輪と静止輪との間に周方向に一定の間隔で配置され、ラジアル荷重を受けて使用される転がり軸受の状態監視方法である。転がり軸受の状態監視方法は、静止輪の軌道面の負荷域中央に生じる損傷を検出するステップと、負荷域中央から周方向に間隔だけ離れた位置において、損傷を検出するステップによって検出された損傷に起因して新たな損傷が発生する時期を交換時期として予測するステップとを含む。予測するステップは、損傷を検出するステップが損傷を検出するまでの第1の総負荷回数と、負荷域中央において転動体と軌道面との間に接触面圧が生じるとした場合の第1の最大接触面圧と、負荷域中央において転動体と軌道面との間に接触面圧が生じないとした場合の第2の最大接触面圧と、損傷を検出するステップが損傷を検出した後に、負荷域中央から周方向に間隔だけ離れた位置において損傷が発生するまでの第2の総負荷回数との関係を用いて交換時期を予測する。第1の最大接触面圧と第2の最大接触面圧とは、いずれも負荷域中央から周方向に間隔だけ離れた位置において転動体と軌道面との間に生じる最大接触面圧である。
【0019】
好ましくは、予測するステップは、転がり軸受に負荷される第1のラジアル荷重に基づいて、第1の最大接触面圧と第2の最大接触面圧とを算出するステップを含む。予測するステップは、負荷域中央において転動体と軌道面との間に生じる最大接触面圧が、第1の最大接触面圧となる第2のラジアル荷重を算出するステップを含む。予測するステップは、負荷域中央において転動体と軌道面との間に生じる最大接触面圧が、第2の最大接触面圧となる第3のラジアル荷重を算出するステップを含む。予測するステップは、第2のラジアル荷重と転がり軸受の基本動定格荷重とから第1の基本定格寿命を算出するステップを含む。予測するステップは、第3のラジアル荷重と転がり軸受の基本動定格荷重とから第2の基本定格寿命を算出するステップを含む。予測するステップは、第1の総負荷回数と、第1の基本定格寿命と、第2の基本定格寿命と、損傷が生じてから交換時期までの転がり軸受の第2の総負荷回数との関係式を用いて、第2の総負荷回数を算出するステップを含む。
【0020】
好ましくは、転がり軸受の状態監視方法は、風力発電装置の主軸軸受の状態を監視するように構成され、風力発電装置の発電電力を制御するステップをさらに含む。制御するステップは、予測するステップにより予測された交換時期が所望の交換時期に満たない場合には、損傷を検出するステップによって損傷が検出された時点より後の発電電力を、当該時点より前の発電電力に比べて抑制する。
【0021】
好ましくは、転がり軸受の状態監視方法は、風力発電装置の主軸軸受の状態を監視するように構成される。転がり軸受の状態監視方法は、風力発電装置の発電電力を制御するステップをさらに含む。制御するステップは、予測するステップにより予測された交換時期が所望の交換時期に満たない場合には、損傷検出部によって損傷が検出された時点より後の発電電力を、当該時点より前の発電電力に比べて抑制するように構成される。制御するステップは、所望の交換時期に基づいた、損傷検出部が損傷を検出した後に、負荷域中央から周方向に間隔だけ離れた位置において損傷が発生するまでの第3の総負荷回数と、第1の総負荷回数と、第1の基本定格寿命と、第3の基本定格寿命との関係式を用いて、第3の基本定格寿命を算出するステップを含む。制御するステップは、第3の基本定格寿命と転がり軸受の基本動定格荷重とから第4のラジアル荷重を算出するステップを含む。転がり軸受に第4のラジアル荷重が負荷される場合に、負荷域中央において転動体と軌道面との間に生じる最大接触面圧が第2の最大接触面圧となる第5のラジアル荷重を算出するステップを含む。制御するステップは、転がり軸受に負荷されるラジアル荷重と発電電力との予め準備された関係を用いて、第5のラジアル荷重に基づいて発電電力の抑制率を算出するステップを含む。制御するステップは、損傷を検出するステップによって損傷が検出された時点より後の発電電力を、抑制率を用いて抑制するステップとを含む。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、軸受交換時期を予測可能な転がり軸受の状態監視装置および状態監視方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施の形態に従う状態監視装置によって監視される転がり軸受の断面図と、状態監視装置のブロック図とを併せて示した図である。
【
図2】転がり軸受について、初期損傷発生前の負荷域中央付近の状態を模式的に示した図である。
【
図3】転がり軸受について、初期損傷発生後の負荷域中央付近の状態を模式的に示した図である。
【
図4】ステージ1における負荷域中央付近の損傷状態の一例を示す図である。
【
図5】ステージ2における負荷域中央付近の損傷状態の一例を示す図である。
【
図6】ステージ3における負荷域中央付近の損傷状態の一例を示す図である。
【
図7】ステージ3における負荷域中央付近の損傷状態の一例を示す図である。
【
図8】無負荷の転動体数と内外輪間の相対変位δxとの関係を示した図である。
【
図9】内輪が複数の転動体から受ける総負荷回数と、内外輪間の相対変位δxとの関係を示した図である。
【
図10】同一回転速度におけるラジアル荷重と初期損傷発生までの総負荷回数との関係を表す図である。
【
図11】同一回転速度におけるラジアル荷重と余寿命との関係を表す図である。
【
図12】同一ラジアル荷重における回転速度と初期損傷発生までの総負荷回数との関係を表す図である。
【
図13】同一ラジアル荷重における回転速度と余寿命との関係を表す図である。
【
図14】予測部により実行される転がり軸受の余寿命を算出する処理を説明するためのフローチャートである。
【
図15】予測部により実行される転がり軸受の基本定格寿命を算出する処理を説明するためのフローチャートである。
【
図16】ヘルツ理論に基づいて算出されたラジアル荷重と最大接触面圧との関係を表す図である。
【
図17】余寿命の予測値と実測値との関係を表す図である。
【
図18】この実施の形態1に従う転がり軸受の状態監視装置が適用される風力発電装置の構成を概略的に示した図である。
【
図19】風力発電装置の発電電力とラジアル荷重との関係を示した図である。
【
図20】この発明の実施の形態2による状態監視装置の構成を示すブロック図である。
【
図21】発電制御部により実行される発電電力の抑制率を算出する処理を説明するためのフローチャートである。
【
図22】ヘルツ理論に基づくラジアル荷重(横軸)と最大接触面圧(縦軸)との関係を示す図である。
【
図23】風力発電装置の発電電力の抑制率と所望の余寿命比との関係を示した図である。
【
図24】玉軸受について、内輪が複数の転動体から受ける総負荷回数と、内外輪間の相対変位との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、同一又は対応する要素には同一の符号を付して、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0025】
[実施の形態1]
(転がり軸受及び状態監視装置の構成)
図1は、この発明の実施の形態1による状態監視装置によって監視される転がり軸受の断面図と、状態監視装置のブロック図とを併せて示した図である。なお、この実施の形態1では、外輪が回転輪のころ軸受によって転がり軸受が構成される場合について代表的に説明されるが、この発明の適用範囲は、このような軸受の状態監視装置に限定されるものではなく、監視対象の転がり軸受は、内輪が回転輪のものであってもよいし、玉軸受等であってもよい。
【0026】
図1を参照して、転がり軸受10は、内輪12と、外輪16と、複数の転動体18とを含む。内輪12は、非回転の軸体14に外嵌される。外輪16は、内輪12の外周側に設けられ、図示しない回転体と一体的に回転する。複数の転動体18の各々は、円柱形の「ころ」であり、図示されない保持器によって隣接の転動体と等間隔に保持されつつ内輪12と外輪16との間に介在する。
【0027】
内輪12は、複数の転動体18のうち負荷域を通過中のものからラジアル荷重を受ける。なお、この実施の形態では、静止輪である内輪12において、その中心軸よりも鉛直方向上側に負荷域が形成される。そして、内輪12は、軌道面(内輪12の外周面)に損傷が発生していない正常状態においては、複数の転動体18のうち、内輪中心軸の鉛直上方向に位置する負荷域中央を通過している転動体から最大の荷重を受ける。
【0028】
転がり軸受10の状態を監視する状態監視装置100は、変位センサ102と、回転センサ104と、損傷検出部106と、予測部108とを含む。変位センサ102は、内輪12と外輪16とのラジアル方向の相対変位δを検出するためのセンサである。変位センサ102は、軸体14又は軸体14に対して変位しない堅牢な構造物に固設され、内輪12(静止輪)に対する外輪16(回転輪)の鉛直方向Xの変位を検出して損傷検出部106へ出力する。回転センサ104は、転がり軸受10の回転速度dNを検出し、その検出値を予測部108へ出力する。なお、回転センサ104が転がり軸受10の回転位置を検出し、その検出値に基づいて予測部108が回転速度dNを算出してもよい。
【0029】
上記したように、内輪12は、軌道面に損傷が発生していない正常状態においては、負荷域中央を通過している転動体から最大の荷重を受ける。そのため、負荷域中央に初期損傷が生じる確率が高い。損傷検出部106は、変位センサ102の検出値に基づいて、負荷域中央に初期損傷が生じたことを検出する。具体的には、損傷検出部106は、変位センサ102の検出値に基づいて、内輪12と外輪16との間のラジアル方向の最大変位δx(
図1におけるX方向の変位)を検出する。なお、変位センサ102によって検出される内外輪間の相対変位δは、複数の転動体18の公転に伴なって微小変動を繰り返すところ、ここでの最大変位δxとは、短期的(たとえば、外輪16の1回転又は複数の転動体18の1公転等)な相対変位δの最大値である。以下では、この最大変位δxを、単に「内外輪間の相対変位δx」と称する。
【0030】
損傷検出部106は、内外輪間の相対変位δxが増大したことに応じて、負荷域中央に損傷が生じたことを検出し、負荷域中央に損傷が生じたことを予測部108に通知する。
【0031】
予測部108は、損傷検出部106からの通知を受けたことに応じて、相対変位δxの段階的な増大パターンに基づき、初期損傷が発生してから「ころピッチ損傷」が最初に発生するまでの総負荷回数を算出することによって、軸受10の交換時期を予測する。なお、総負荷回数とは、内輪12(静止輪)の軌道面における周方向の任意の箇所(例えば負荷域中央)において、複数の転動体18の各々が通過する毎に軌道面が受ける負荷回数の、転がり軸受10の使用が開始されてからの総数である。総負荷回数は、言い換えれば、内輪12に対する複数の転動体18の総通過回数であり、総負荷回数TLは、転がり軸受10の総回転回数TR(転がり軸受10の使用が開始されてからの外輪16(回転輪)の回転回数の総数を示す)に基づいて、次式(1)にて算出することができる。
【0032】
TL=TR×Nc/dN×転動体数 …(1)
ここで、Ncは、転動体中心の公転回転速度を示し、転動体18の直径及びピッチ円径が分かればdNから算出可能である。
【0033】
すなわち、本願発明者らは、転がり軸受の損傷の進展について種々の検討及び実験を行なった結果、静止輪が複数の転動体から受ける総負荷回数(静止輪に対する複数の転動体の総通過回数)の増加に応じて内外輪間の相対変位が段階的に増大し、ある段階から相対変位が軸受支持部品に影響を与え得るほど急激に増大することの知見を得た。そして、本願発明者らは、このような相対変位の増大パターンは、以下に説明する「ころピッチ損傷」が静止輪の軌道面に発生することによるものであるとの知見をさらに得て、「ころピッチ損傷」が静止輪の軌道面に最初に発生する時期を軸受10の交換時期とすることとした。
【0034】
そこで、以下では、この「ころピッチ損傷」について、その発生メカニズムと、静止輪である内輪12が受ける総負荷回数の増加に応じた相対変位δxの段階的な増大パターンについて詳しく説明する。
【0035】
(ころピッチ損傷の説明)
図2は、転がり軸受10について、初期損傷発生前の負荷域中央付近の状態を模式的に示した図である。
図3は、転がり軸受10について、初期損傷発生後の負荷域中央付近の状態を模式的に示した図である。「初期損傷」とは、内輪12(静止輪)の軌道面に最初に生じる損傷のことである。この初期損傷は、複数の転動体18と内輪12(静止輪)の軌道面との接触面圧が最大となる負荷域中央において発生する確率が高く、ここでも、負荷域中央において初期損傷が発生するものとする。
【0036】
なお、この
図2および
図3では、転がり軸受10の負荷域中央付近が拡大して示されており、図示を容易にするために、軌道面が直線状に描かれている。そして、複数の転動体18のうちのある転動体が負荷域中央を通過しているときに、次に負荷域中央を通過するもの、現在負荷域中央を通過中のもの、及びその前に負荷域中央を通過したものを、それぞれ転動体18-1,18-2,18-3とする。
【0037】
図2を参照して、負荷域中央を通過中の転動体18-2と内輪12(静止輪)の軌道面との最大接触面圧を最大接触面圧Pmax0とする。このとき、転動体18-2に隣接する転動体18-1,18-3と内輪12の軌道面との最大接触面圧を最大接触面圧Pmax1とする。最大接触面圧Pmax1は「第1の最大接触面圧」に相当する。初期損傷が発生する以前においては、負荷域中央を通過中の転動体18-2と内輪12の軌道面との接触面圧が最大であり、したがって、最大接触面圧Pmax0>最大接触面圧Pmax1である。
【0038】
図3を参照して、複数の転動体18と内輪12の軌道面との接触面圧が最大となる負荷域中央において、内輪12の軌道面に初期損傷が発生したものとする。そして、初期損傷がある程度拡大すると、負荷域中央を通過中の転動体18-2から内輪12が荷重をほとんど受けない状態(或いは、隣接する転動体18-1,18-3に比べて接触面圧が十分に小さい状態であり、以下では、概略的に「無負荷」状態とも称する。)が発生する。
【0039】
負荷域中央を通過中の転動体18-2が無負荷の状態においては、転動体18-2が受けるべき荷重をその他の転動体で受けることとなり、特に、転動体18-2に隣接する転動体18-1,18-3には大きな荷重がかかる。さらに、転動体18-2が初期損傷部を通過する際に、内輪12(静止輪)に対して外輪16(回転輪)が変動することによる慣性力も生じる。
【0040】
このように、初期損傷の発生後は、転動体18-2に隣接する転動体18-1,18-3には、荷重を受ける転動体数の減少と、初期損傷部を転動体が通過する際の慣性力とによって、初期損傷発生前に比べて大きな接触面圧が生じる。初期損傷発生後における転動体18-1,18-3と内輪12の軌道面との最大接触面圧を最大接触面圧Pmax2とすると、最大接触面圧Pmax2>最大接触面圧Pmax0(>最大接触面圧Pmax1)である。最大接触面圧Pmax2は「第2の最大接触面圧」に相当する。
【0041】
したがって、負荷域中央において初期損傷が発生すると、負荷域中央の初期損傷部を転動体が通過する毎に、負荷域中央の初期損傷部からころピッチだけ離れた位置において大きな接触面圧(最大接触面圧Pmax2)が繰り返し生じ、内輪12の軌道面に新たなフレーキングが発生する。以下では、初期損傷部からころピッチだけ離れた位置に発生する損傷を「ころピッチ損傷」と称する。
【0042】
そして、ころピッチ損傷が一旦発生すると、損傷が進展したころピッチ損傷部と初期損傷部とを隣接する転動体が通過する際に同時に「無負荷」となる状態が発生する。そうすると、ころピッチ損傷部からさらにころピッチだけ離れた位置においてさらに大きな接触面圧が繰り返し生じる状態となり、連鎖的かつ加速的にころピッチ損傷が進展する。
【0043】
以上のような損傷の進展により、内外輪間の相対変位δxは段階的に増大する。
図4から
図7は、転がり軸受10において、負荷域中央に発生した損傷が進展する様子を示した図である。なお、これらの図では、転がり軸受10の負荷中央域付近が拡大して示されている。
【0044】
図4は、負荷中央に初期損傷が発生した直後の状態を示した図である。初期損傷とは、内輪12(静止輪)の軌道面に最初に生じる損傷のことである。この初期損傷は、転動体18と内輪12(静止輪)の軌道面との接触面圧が最大となる負荷域中央において発生する確率が高く、
図4から
図7でも、負荷域中央において初期損傷が発生した場合について示されている。
【0045】
図4を参照して、転動体18と内輪12の軌道面との接触面圧が最大となる負荷域中央において、内輪12の軌道面に初期損傷(D1-1)が発生している。以下では、負荷域中央に初期損傷が発生する以前の状態を「ステージ0」と称し、負荷域中央に初期損傷が発生した状態(
図4)を「ステージ1」と称する。
【0046】
図5は、負荷域中央に発生した初期損傷が軌道面の幅方向全域に拡大した状態を示した図である。
図5を参照して、初期損傷が発生した負荷域中央において、損傷(D1-2)が軌道面の周方向に拡大しつつ幅方向全域に拡大すると、負荷域中央を通過中の転動体18は、荷重をほとんど受けない状態(或いは、隣接する転動体に比べて接触面圧が十分に小さい状態であり、以下では、概略的に「無負荷」状態とも称する。)となる。以下では、負荷域中央において初期損傷部が軌道面幅方向全域に拡大することにより(
図5)、負荷域中央を通過中の転動体18が「無負荷」となる状態を「ステージ2」と称する。
【0047】
図6は、負荷域中央に発生した損傷が軌道面の周方向にさらに拡大した状態を示した図である。
図6を参照して、負荷域中央において軌道面の幅方向全域に拡大した損傷は、さらに軌道面の周方向(主に転動体18の移動下流方向)へと拡大する(D1-3)。そして、軌道面の周方向への損傷が進展すると、隣接する2つの転動体18が損傷部に同時に入り込む状況が発生する。以下では、軌道面の周方向への損傷が進展し、複数の転動体18が損傷部に同時に入り込むことにより複数の転動体18が「無負荷」となる状態を「ステージ3」と称する。
【0048】
以上のような損傷の進展により、内外輪間の相対変位δxは段階的に増大する。すなわち、負荷域中央において初期損傷が発生してから、その初期損傷が拡大して負荷域中央を通過中の転動体18が「無負荷」状態になるまで、初期損傷の拡大に伴なって相対変位δxは増大する(ステージ1)。
【0049】
負荷域中央を通過中の転動体18が「無負荷」となる状態(ステージ2)では、内外輪間の相対変位δxは、初期損傷が生じていることによりステージ0に比べて大きい。しかしながら、隣接する2つの転動体18が損傷部に同時に入り込むまでに損傷が軌道面周方向に拡大するまでは、相対変位δxは、ステージ0と同様に総負荷回数の増加に応じて増大傾向を示さない。
【0050】
そして、隣接する2つの転動体18が損傷部に同時に入り込むまでに損傷が軌道面周方向に拡大し、複数の転動体18が同時に「無負荷」となる状態が発生すると(ステージ3)、荷重を受ける転動体数が減少することにより内外輪間の相対変位δxはさらに増大する。
【0051】
さらに、複数の転動体18が同時に「無負荷」状態になると(ステージ3)、内外輪間の相対変位δxは急激に増大する。この理由は、以下のとおりと考えられる。すなわち、同時に「無負荷」状態となる転動体18が発生すると、荷重を受ける転動体数がさらに減少することによって各転動体18が受ける荷重が増大し、その結果、損傷の進展速度が上昇する。これにより、内外輪間の相対変位δxが急激に増大する。
【0052】
なお、複数の転動体18が同時に「無負荷」となる状態は、隣接する2つの転動体18が損傷部に同時に入り込むまでに損傷が軌道面周方向に拡大する場合に限られず、以下のような場合にも生じ得る。
【0053】
図7は、初期損傷部から離れた位置に新たなフレーキングが発生した様子を示した図である。
図7を参照して、初期損傷の発生後、初期損傷部(D1)から離れた位置に、損傷の剥離片の噛み込みにより軌道面に生じた圧痕が起点となって新たなフレーキングが発生し得る(D2)。そして、この新たなフレーキングによる損傷が軌道面幅方向に拡大すると、新たなフレーキングに起因する損傷部と初期損傷部とに複数の転動体18が同時に浸入する状況が発生し得る。この場合にも、荷重を受ける転動体数が複数減少することによって各転動体18が受ける荷重が増大し、その結果、損傷の進展速度が上昇する。
【0054】
なお、各転動体18が受ける荷重の増大は、転動体18が損傷部に進入する際に、静止輪(内輪12)に対して回転輪(外輪16)が変動することによる慣性力も増大させるので、この点からの損傷の進展速度の増大に寄与する。以上のような理由により、複数の転動体18が同時に「無負荷」となる状態になると(ステージ3)、内外輪間の相対変位δxは急激に増大する。
【0055】
なお、ステージ3においても、理論的には、2つの転動体18が「無負荷」状態となってから、さらに損傷が拡大することにより、又は新たなフレーキングが発生することにより、3つめの転動体18が「無負荷」状態となるまで、総負荷回数の増加に応じて相対変位δxが増大傾向を示さない状態が発生し得る。しかしながら、このような状態になると、多数の無負荷の転動体18が発生することによってその他の転動体18が受ける荷重が相当増大し、かつ、複数の転動体18が損傷部を同時に通過するときに生じる慣性力も相当なものとなり、損傷が連鎖的かつ加速的に進展する。その結果、転動体18が損傷部を通過する際に同時に無負荷となる転動体数が加速的に増加し、内外輪間の相対変位δxも加速的に増大することとなる。
【0056】
図8は、無負荷の転動体数と内外輪間の相対変位δxとの関係を示した図である。なお、相対変位δxは、ラジアル荷重の影響を受けるので、この
図8では、3段階のラジアル荷重毎に分けて図示されている。
【0057】
図8を参照して、横軸は、ころピッチ損傷が進展することによって転動体が損傷部を通過時に同時に無負荷となる転動体の数を示す。縦軸は、内外輪間の相対変位δxを示す。丸印は、ラジアル荷重が90kNの場合を示し、三角印は、ラジアル荷重が70kNの場合を示す。四角印は、ラジアル荷重が50kNの場合を示す。
【0058】
図示されるように、無負荷の転動体数が増加するに従って、内外輪間の相対変位δxは加速的に増大する。そして、上述のように、ころピッチ損傷が一旦発生すると、ころピッチ間隔で無負荷となる転動体の数が加速的に増加し、その結果、内外輪間の相対変位δxは加速的に増大する。すなわち、ステージ3における相対変位δxの増大速度は非常に速い。そこで、この実施の形態1に従う状態監視装置では、ステージ3が開始する時点を転がり軸受10の交換時期とすることとした。
【0059】
図9は、複数の転動体18から内輪12が受ける総負荷回数と、内外輪間の相対変位δxとの関係を調べた実験結果の一例を示す図である。
図9は、初期損傷部から離れた位置に、損傷の剥離片の噛み込みにより軌道面に生じた圧痕が起点となって新たなフレーキングが発生し、その新たなフレーキングに起因する損傷部と初期損傷部とに複数の転動体18が同時に進入する状態となる場合の実験結果を示したものである。なお、実験条件としては、転がり軸受10は、内径120mm、外径215mm、幅40m、動定格荷重260kNの単列円筒ころ軸受とし、この転がり軸受10に対して、ラジアル荷重90kN、回転速度500回/分を付与した。
【0060】
図9において、STG0はステージ0を、STG1はステージ1を、STG2はステージ2を、STG3はステージ3をそれぞれ意味している。
【0061】
この実施の形態1においては、初期損傷が検出された時点で、初期損傷が発生した時点からころピッチ損傷が発生する時点までの総負荷回数(以下では、「余寿命」ともいう。)を算出することにより、転がり軸受10の交換時期を予測することとした。
図9において、N1は初期損傷が発生するまでの総負荷回数、N2は初期損傷が発生してからころピッチ損傷が発生するまでの総負荷回数である。ステージ1が継続する時間は他のステージと比べて短いため、この実施の形態においてはステージ2の開始時点において初期損傷が発生することとした。したがって、
図9において余寿命は、ステージ2が開始する時点からステージ3が開始する時点までの総負荷回数、すなわちN2である。総負荷回数N1は「第1の総負荷回数」に対応し、総負荷回数N2は「第2の総負荷回数」に対応する。
【0062】
(予測部による交換時期の予測)
図10は、同一回転速度におけるラジアル荷重と初期損傷発生までの総負荷回数との関係を表す図である。
図11は、同一回転速度におけるラジアル荷重と余寿命との関係を表す図である。
【0063】
図10,11を参照して、ラジアル荷重が大きくなると初期損傷発生までの総負荷回数と余寿命とが共に小さくなることがわかる。すなわち、ラジアル荷重が転がり軸受10の交換時期に与える影響は大きい。
【0064】
図12は、同一ラジアル荷重における回転速度と初期損傷発生までの総負荷回数との関係を表す図である。
図13は、同一ラジアル荷重における回転速度と余寿命との関係を表す図である。
【0065】
図12,13を参照して、回転速度が大きくなっても、初期損傷発生までの総負荷回数と余寿命とはそれほど変化しないことがわかる。すなわち、回転速度が転がり軸受10の交換時期に与える影響は小さい。
【0066】
ラジアル荷重が転がり軸受10の交換時期に大きな影響を与えるのは、ラジアル荷重が大きくなるほど、負荷域中にある転動体18と軌道面との間に生じる接触面圧が大きくなるためである。そこで、この実施の形態では、転がり軸受10に負荷されるラジアル荷重、負荷域中央からころピッチだけ離れた位置において転動体18と軌道面との間に生じる最大接触面圧、および当該位置における総負荷回数の関係を用いて、当該位置の余寿命を算出し、転がり軸受10の交換時期を予測することとした。
【0067】
ころピッチ損傷は、負荷域中央から周方向にころピッチだけ離れた位置において、転動体18から軌道面に繰り返し負荷される接触面圧による転がり疲れが蓄積することにより生じるといえる。また、当該位置における最大接触面圧は、負荷域中央に初期損傷が生じる前後で大きく異なる。そこで、予測部108は、変動応力を繰り返し受ける部材の寿命予測法である修正マイナー則に従い、当該初期損傷が生じる前後の基本定格寿命と総負荷回数との関係式から余寿命を算出して転がり軸受10の交換時期を予測する。基本定格寿命とは、一群の同じ軸受を同一条件で個々に回転させたとき、その90%(信頼度90%)が転がり疲れによるフレーキングを生じることなく回転できる実質的な総回転数をいう。
【0068】
基本定格寿命はラジアル荷重から算出することができるが、予測部108が行なう余寿命の算出に必要な基本定格寿命は、負荷域中央から周方向にころピッチだけ離れた位置における転がり疲れに関連するものである。そこで、当該位置における最大接触面圧が負荷域中央に負荷されるものとした場合のラジアル荷重を用いる。すなわち、予測部108は、転がり軸受10に負荷されるラジアル荷重から、負荷域中央からころピッチだけ離れた位置における、負荷域中央に初期損傷が生じる前後の最大接触面圧をそれぞれ求める。負荷域中央に当該最大接触面圧が生じるような、初期損傷が生じる前後のラジアル荷重をそれぞれ逆算する。当該ラジアル荷重から転がり軸受10の初期損傷が生じる前後の基本定格寿命をそれぞれ求める。
【0069】
再び
図9を参照して、負荷域中央に損傷が発生してから相対変位δxは総負荷回数の増加に応じて増大傾向を示すが、総負荷回数がN1に達すると、当該増大傾向を示さなくなる。この実施の形態においては、当該時点において負荷域中央に損傷が発生することとした。損傷検出部106は当該時点において負荷域中央に損傷が発生したことを検出し、当該損傷の発生の検出を予測部108に通知する。相対変位δxが上記増大傾向を示している期間は比較的短いため、損傷検出部106が予測部108に当該通知を行なう時点は、相対変位δxが増大を開始した時点としてもよい。
【0070】
予測部108は、損傷検出部106からの上記通知に応じて、転がり軸受10の余寿命を算出する。
図14は、予測部108により実行される転がり軸受10の余寿命を算出する処理を説明するためのフローチャートである。
【0071】
図14を参照して、予測部108は、ステップS10において損傷検出部106から負荷域中央に損傷が生じたことを検出した旨の通知があったか否かを判定する。当該通知があった場合(S10にてYES)、予測部108はステップS11に処理を進める。当該通知がない場合(S10にてNO)、予測部108はステップS10に処理を戻す。
【0072】
予測部108は、ステップS11において、負荷域中央に損傷が生じるまでの総負荷回数N1を算出する。負荷域中央に損傷が生じるまでに内輪12が複数の転動体18から受ける総負荷回数は、言い換えれば、負荷域中央に損傷が生じるまでの、内輪12に対する複数の転動体18の総通過回数である。この総負荷回数(すなわち転動体18の総通過回数)N1は、負荷域中央に損傷が生じるまでの転がり軸受10の総回転回数R1に基づいて、以下の式(2)にて算出することができる。
【0073】
N1=R1×Nc/dN×転動体数 …(2)
予測部108は、ステップS12において、予め最大接触面圧Pmax1から導出した基本定格寿命L1と、予め最大接触面圧Pmax2から導出した基本定格寿命L2と、総負荷回数N1と、余寿命N2との、修正マイナー則における関係式(3)から余寿命N2を算出する(式(3)を変形した式(4)参照)。
【0074】
N1/L1+N2/L2=1 …(3)
N2=L2(1-N1/L1) …(4)
以下では、ステップS12において必要となる基本定格寿命L1,L2を算出する処理について説明する。
図15は、予測部108により実行される転がり軸受10の基本定格寿命を算出する処理(以下では「軸受寿命計算」ともいう。)を説明するためのフローチャートである。軸受寿命計算は、転がり軸受の仕様が決定すれば行なえる。そのため、予測部108による交換時期の予測の直前に行なわれる必要はなく、当該予測に先立って行なわれていればどのような時期で行なわれてもよい。また、軸受寿命計算は、予測部108によって行なわれる必要はなく、予測部108が他の計算実体によって行なわれた軸受寿命計算の結果を参照するようにしてもよい。
【0075】
この軸受寿命計算において算出される最大接触面圧及びラジアル荷重は、転動体と軌道面との接触部分を弾性体として、その他の部分を剛体とするヘルツ理論によって算出される。
【0076】
図15を参照して、予測部108は、ステップS110において、実際のラジアル荷重Fr0が転がり軸受10に負荷された場合の最大接触面圧Pmax1と最大接触面圧Pmax2とを算出する。ラジアル荷重Fr0は「第1のラジアル荷重」に対応する。最大接触面圧Pmax1は、上述したように、初期損傷が発生する以前において、負荷域中央から周方向にころピッチだけ離れた位置における転動体18と内輪12の軌道面との間に生じる最大接触面圧である。最大接触面圧Pmax2は、上述したように、初期損傷が発生した後において、負荷域中央から周方向にころピッチだけ離れた位置における転動体18と内輪12の軌道面との間に生じる最大接触面圧である。
【0077】
予測部108は、ステップS111において、負荷域中央の最大接触面圧Pmax0が最大接触面圧Pmax1となるラジアル荷重Fr1を算出する。ラジアル荷重Fr1は「第2のラジアル荷重」に対応する。さらに、予測部108は、ステップS112において、負荷域中央の最大接触面圧Pmax0が最大接触面圧Pmax2となるラジアル荷重Fr2を算出する。ラジアル荷重Fr2は「第3のラジアル荷重」に対応する。
【0078】
図16は、ヘルツ理論に基づくラジアル荷重(横軸)と最大接触面圧(縦軸)との関係を表す図である。この図を用いて、
図15のステップS110~S112において行なわれた処理を視覚的に説明する。
【0079】
図16とともに
図15を参照して、曲線S0はラジアル荷重と最大接触面圧Pmax0との関係を表す。曲線S1はラジアル荷重と最大接触面圧Pmax1との関係を表す。曲線S2はラジアル荷重と最大接触面圧Pmax2との関係を表す。
【0080】
曲線S1上の点P1は、ラジアル荷重がFr0である曲線S1上の点であり、点P1の最大接触面圧が最大接触面圧Pmax1である。曲線S2上の点P2は、ラジアル荷重がFr0である曲線S2上の点であり、点P2の最大接触面圧がPmax2となる。これらは、
図15のステップS110において最大接触面圧Pmax1と最大接触面圧Pmax2とを算出していることに相当する。
【0081】
曲線S0上の点P10は、最大接触面圧Pmax0が最大接触面圧Pmax1である曲線S0上の点であり、点P10のラジアル荷重がFr1である。これは、
図15のステップS111によりFr1を求めていることに相当する。
【0082】
曲線S0上の点P20は、最大接触面圧Pmax0が最大接触面圧Pmax2である曲線S0上の点であり、点P20のラジアル荷重がFr2となる。これは、
図15のステップS112によりFr2を求めていることに相当する。
【0083】
再び
図15を参照して、予測部108は、以下の式(5)よりラジアル荷重Fr1が負荷されている場合の転がり軸受10の基本定格寿命L1を算出する(ステップS113)。基本定格寿命L1は「第1の基本定格寿命」に対応する。
【0084】
L1=(C/Fr1)10/3 …(5)
Cは基本動定格荷重である。基本動定格荷重とは、転がり軸受の動的負荷能力を表すもので100万回転の基本定格寿命を与えるような一定荷重をいう。
【0085】
予測部108は、以下の式(6)よりラジアル荷重Fr2が負荷されている場合の転がり軸受10の基本定格寿命L2を算出する(ステップS114)。基本定格寿命L2は「第2の基本定格寿命」に対応する。
【0086】
L2=(C/Fr2)10/3 …(5)
以上の処理により、予測部108は、転がり軸受10の余寿命を算出し、転がり軸受10の交換時期を予測する。
【0087】
なお、この実施の形態1においては、軸受寿命計算において行なわれる最大接触面圧及びラジアル荷重はヘルツ理論によって算出したが、それ以外の方法によって算出しても構わない。例えば、有限要素法(FEM)を用いて全ての部分を弾性体や弾塑性体とする方法によって算出してもよい。動力学解析によって動的な影響を考慮した方法によってもよい。動力学解析とは、転がり軸受10の構成要素(内輪12、外輪16及び転動体18)毎に運動方程式を立て、連立常微分方程式を時間軸に沿って積分していく手法である。理論モード解析を用いて状態監視装置全体のモード情報を求めて、当該モード情報を動力学解析に導入して振動特性を考慮する方法によって算出してもよい。理論モード解析とは、構造体(弾性体)がどのような振動モード(固有値情報)を有しているかを数理的に求めるものである。
【0088】
図17は、余寿命の予測値と実測値との関係を表す図である。
図17を参照して、余寿命の予測値と実測値とは明確な関係があり、予測部108が行なう交換時期の予測が有効な指針となることがわかる。なお、余寿命の実測値は予測値に比べ一桁程度短寿命となるのは、損傷部分から生じる剥離片が転動体に噛み込むことにより圧痕が形成され、その圧痕付近に接触面圧が集中するためと考えられる。余寿命の予測値は、上記剥離片の影響などの外的要因により、実際の余寿命とかい離する場合もある。かい離が大きい場合には、実情に合わせた実験や解析を行ない、その結果に基づいて余寿命の予測値を補正するのが望ましい。
【0089】
上述した転がり軸受の状態監視装置100は、様々な機械装置に適用可能であるが、特に、風力発電装置の主軸軸受の状態監視に好適である。すなわち、風力発電装置の主軸軸受は、交換が容易ではなく、かつ、比較的低速条件で使用され、さらに、軸受に損傷が発生しても継続使用されることが多い。このような風力発電装置の主軸軸受については、損傷による軸受交換時期の予測が課題である。そこで以下では、この実施の形態1に従う状態監視装置100を適用した風力発電装置について説明する。
【0090】
(風力発電装置の構成)
図18は、この実施の形態1に従う転がり軸受の状態監視装置が適用される風力発電装置の構成を概略的に示した図である。
図18を参照して、風力発電装置210は、主軸220と、ブレード230と、増速機240と、発電機250と、主軸軸受(以下、単に「軸受」と称する。)260と、変位センサ270と、データ処理装置280とを備える。増速機240、発電機250、軸受260、変位センサ270及びデータ処理装置280は、ナセル290に格納され、ナセル290は、タワー300によって支持される。
【0091】
主軸220は、ナセル290内に進入して増速機240の入力軸に接続され、軸受260によって回転自在に支持される。そして、主軸220は、風力を受けたブレード230により発生する回転トルクを増速機240の入力軸へ伝達する。ブレード230は、主軸220の先端に設けられ、風力を回転トルクに変換して主軸220に伝達する。
【0092】
増速機240は、主軸220と発電機250との間に設けられ、主軸220の回転速度を増速して発電機250へ出力する。一例として、増速機240は、遊星ギヤや中間軸、高速軸等を含む歯車増速機構によって構成される。なお、特に図示しないが、この増速機240内にも、複数の軸を回転自在に支持する複数の軸受が設けられている。発電機250は、増速機240の出力軸に接続され、増速機240から受ける回転トルクによって発電する。発電機250は、たとえば誘導発電機によって構成されるが、発電機250の種類はこれに限定されるものではない。なお、この発電機250内にも、ロータを回転自在に支持する軸受が設けられている。
【0093】
軸受260は、ナセル290内において固設され、主軸220を回転自在に支持する。軸受260は、転がり軸受であり、この実施の形態に従う状態監視装置の監視対象となる軸受である。なお、この軸受260は、内輪が回転輪であり、外輪が静止輪である点で、
図1以下に説明した転がり軸受10と異なるが、上記の実施の形態1に従う状態監視装置100は、このような軸受260にも適用可能である。なお、外輪が静止輪の場合、負荷域は、外輪においてその中心軸よりも鉛直方向下側であり、初期損傷及びころピッチ損傷は、外輪内周面の軌道面に形成される。
【0094】
変位センサ270は、軸受260の内外輪間の相対変位を検出するためのセンサである。変位センサ270は、軸受260のハウジングに固設され、外輪(静止輪)に対する内輪(回転輪)の鉛直方向の変位δxを検出してデータ処理装置280へ出力する。
【0095】
データ処理装置280は、ナセル290内に設けられ、変位センサ270から検出値を受ける。そして、データ処理装置280は、予め設定されたプログラムに従って、軸受260の余寿命を算出することにより軸受260の交換時期を予測する。このデータ処理装置280は、上述した損傷検出部106及び予測部108の機能を実現するものである。
【0096】
以上のように、この実施の形態1においては、余寿命を算出することにより、転がり軸受の交換時期を予測することができる。
【0097】
[実施の形態2]
上述した実施の形態1では、初期損傷が検出された時点で、初期損傷が発生した時点からころピッチ損傷が発生する時点までの総負荷回数(余寿命)を算出することにより、転がり軸受の交換時期を予測する構成について説明した。
【0098】
実施の形態2では、予測された交換時期を所望の交換時期まで遅らせるための構成について説明する。この構成は、算出された余寿命が、所望の交換時期に基づいた所望の余寿命に満たない場合に適用される。なお、所望の交換時期(所望の余寿命)は、この実施の形態に従う転がり軸受の状態監視装置が適用される風力発電装置(
図18参照)が目標とする総発電量および、転がり軸受を交換するための人員および機械設備の確保などを参考にして設定することができる。
【0099】
図19は、風力発電装置の発電電力とラジアル荷重との関係を示した図である。
図19を参照して、横軸はラジアル荷重を示し、縦軸は風力発電装置の発電電力を示す。
【0100】
図示されるように、風力発電装置の発電電力が増加するに従って、ラジアル荷重は増大する。
図11で説明したように、ラジアル荷重が大きくなると、余寿命が小さくなる。すなわち、風力発電装置において、発電電力が余寿命に与える影響が大きい。
【0101】
そこで、この実施の形態2に従う状態監視装置においては、初期損傷が検出された時点で算出される余寿命が所望の余寿命に満たない場合には、風力発電装置の発電電力を抑制することとした。風力発電装置の発電電力を抑制することで転がり軸受に負荷されるラジアル荷重も抑制されるため、転がり軸受の余寿命を延ばすことができる。
【0102】
図20は、この発明の実施の形態2による状態監視装置の構成を示すブロック図である。この実施の形態2による状態監視装置100は、
図1に示した実施の形態1による状態監視装置100と同様に、転がり軸受10の状態を監視する。実施の形態2による状態監視装置100は、実施の形態1による状態監視装置100に対して、発電制御部110を付加したものである。
【0103】
上述したように、予測部108は、損傷検出部106からの通知を受けたことに応じて、
図14のフローチャートに示す処理を実行することにより、転がり軸受10の余寿命N2(初期損傷が発生してからころピッチ損傷が最初に発生するまでの総負荷回数)を算出する。
【0104】
発電制御部110には、図示しない上位制御装置から転がり軸受10の所望の余寿命N3が予め通知されている。所望の余寿命N3は「第3の総負荷回数」に対応する。発電制御部110は、所望の余寿命N3に基づいて、風力発電装置の発電電力の抑制率を算出する。発電電力の抑制率とは、初期損傷が検出された時点での発電電力に対する発電電力の減少量の割合[%]をいう。発電制御部110は「制御部」の一実施例に対応する。
【0105】
図21は、発電制御部110により実行される発電電力の抑制率を算出する処理を説明するためのフローチャートである。
図20に示すフローチャートは、
図14に示したフローチャートのS12の処理の後に、ステップS13~S17の処理を追加したものである。
【0106】
図14と同じステップS12において、予測部108により転がり軸受10の余寿命N2が算出されると、発電制御部110は、ステップS13において、予め最大接触面圧Pmax1から導出した基本定格寿命L1と、総負荷回数N1と、所望の余寿命N3と、基本定格寿命L3との、修正マイナー則における関係式(6)から基本定格寿命L3を算出する(式(6)を変形した式(7)参照)。
【0107】
N1/L1+N3/L3=1 …(6)
L3=N3/(1-N1/L1) …(7)
算出された基本定格寿命L3は、所望の余寿命N3を得ることができる転がり軸受10の基本定格寿命に相当する。基本定格寿命L3は「第3の基本定格寿命」に対応する。発電制御部110は、ステップS14において、
図19に示した軸受寿命計算の逆算を行なうことにより、基本定格寿命L3を与えるために転がり軸受10に負荷されるラジアル荷重Fr3を算出する。ラジアル荷重Fr3は「第4のラジアル荷重」に対応する。具体的には、発電制御部110は、以下の式(8)より転がり軸受10の基本定格寿命L3および基本動定格荷重Cからラジアル荷重Fr3を算出する。
【0108】
Fr3=C/L33/10 …(8)
発電制御部110は、ステップS15において、実際のラジアル荷重Fr3が転がり軸受10に負荷された場合の負荷域中央の最大接触面圧Pmax0が最大接触面圧Pmax2となるラジアル荷重Fr4を算出する。最大接触面圧Pmax2は、上述したように、初期損傷が発生した後において、負荷域中央から周方向にころピッチだけ離れた位置における転動体18と内輪12の軌道面との間に生じる最大接触面圧である。
【0109】
図22は、ヘルツ理論に基づくラジアル荷重(横軸)と最大接触面圧(縦軸)との関係を示す図である。この図を用いて、
図21のステップS15において行なわれた処理を視覚的に説明する。
【0110】
図22における曲線S0,S1,S2は
図16における曲線S0,S1,S2と同じものである。曲線S0上の点P3は、ラジアル荷重がFr3である曲線S0上の点であり、点P3の最大接触面圧が最大接触面圧Pmax0である。
【0111】
曲線S2上の点P30は、最大接触面圧が最大接触面圧Pmax0である曲線S2上の点であり、点P30のラジアル荷重がFr4となる。これは、
図21のステップS15によりFr4を求めていることに相当する。言い換えると、ラジアル荷重Fr4は、実際のラジアル荷重Fr3が負荷された場合において、負荷域中央の最大接触面圧Pmax0が最大接触面圧Pmax2となるラジアル荷重に相当する。ラジアル荷重Fr4は「第5のラジアル荷重」に対応する。
【0112】
再び
図21を参照して、発電制御部110は、ステップS16において、負荷域中央の最大接触面圧Pmax0が最大接触面圧Pmax2となるラジアル荷重Fr4を転がり軸受10に負荷するための発電電力の抑制率を算出する。具体的には、発電制御部110は、
図19に示す風力発電装置の発電電力とラジアル荷重との関係に基づいて、ラジアル荷重Fr4を転がり軸受10に負荷する場合の発電電力を算出する。
図19に示す発電電力とラジアル荷重との関係を表す関係式またはテーブル等を予め用意しておくことにより、発電制御部110は、ラジアル荷重Fr4が負荷される場合の発電電力を算出することができる。
【0113】
発電制御部110は、算出した発電電力と、初期損傷が検出された時点での発電電力に対する発電電力とに基づいて、発電電力の抑制率を算出する。発電電力の抑制率は、(初期損傷が検出された時点での発電電力-算出した発電電力)/(初期損傷が検出された時点での発電電力)で表わすことができる。
【0114】
発電制御部110は、ステップS17において、算出した発電電力の抑制率に従って、風力発電装置の発電電力を抑制する。
【0115】
図23は、風力発電装置の発電電力の抑制率と所望の余寿命比との関係を示した図である。
図23において、所望の余寿命比とは、発電電力の抑制率が0%のときの余寿命N2に対する所望の余寿命N3の割合である。
図23を参照して、発電電力の抑制率が大きくなると、所望の余寿命比が大きくなることがわかる。すなわち、発電電力の抑制率を調整することで、余寿命を調整することができ、結果的に転がり軸受10の交換時期を所望の時期まで遅らせることが可能となる。
【0116】
以上のように、この実施の形態2においては、所望の交換時期に基づいた所望の余寿命を用いて発電電力の抑制率を算出し、この抑制率に従って発電電力を抑制することにより、転がり軸受10の交換時期を所望の交換時期まで遅延させることができる。
【0117】
なお、上述した実施の形態1および2では、転がり軸受10はころ軸受であるものとしたが、この発明は玉軸受についても同様に適用可能である。
【0118】
図24は、玉軸受について、内輪が複数の転動体から受ける総負荷回数と、内外輪間の相対変位δxとの関係を示した図である。
図24は、ころ軸受についての
図9に対応するものである。
図24では、軸受の負荷域中央に初期損傷が発生してからの総負荷回数と相対変位δx戸の関係が示されている。
【0119】
図24を参照して、ころ軸受と同様に、玉軸受の場合も、総負荷回数がN11に到達した時点からステージ3が開始するまでの余寿命N12を算出することにより、玉軸受の交換時期を予測することができる。
【0120】
玉軸受の場合、軸受寿命計算において行なわれるラジアル荷重Frが負荷される場合の基本定格寿命Lの算出は以下の式(9)による。
【0121】
L=(C/Fr)3 …(9)
また、玉軸受の場合も、ころ軸受と同様に、総負荷回数がN11に到達した時点から、所望の余寿命N3から算出されるラジアル荷重Fr4が負荷されるように、発電電力を抑制することにより、玉軸受の交換時期を所望の交換時期まで遅らせることができる。
【0122】
また、上記においては、内外輪間の相対変位δxは、変位センサ102(270)によって測定するものとしたが、転がり軸受10の回転加速度、回転速度、転がり軸受10から生じる音、及び転がり軸受10に生じる応力のうちの少なくとも1つの測定値と相対変位δxとの予め準備された関係を用いて、先の測定値に基づいて相対変位δxを間接的に検出してもよい。
【0123】
さらに、上記においては、内外輪間の相対変位δxの変化に従って軸受の交換時期を予測したが、それ以外の検出値に従っても構わない。例えば、加速度センサの検出値から軸受が正常に振動していた状態から異常な振動を行なうようになった時点を検出し、当該時点で負荷域中央に損傷が発生したものとしてもよい。
【0124】
今回開示された各実施の形態は、適宜組合わせて実施することも予定されている。そして、今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0125】
10,260 軸受、12 内輪、14 軸体、16 外輪、18 転動体、100 状態監視装置、102,270 変位センサ、104 回転センサ、106 損傷検出部、108 予測部、110 発電制御部、210 風力発電装置、220 主軸、230 ブレード、240 増速機、250 発電機、280 データ処理装置、290 ナセル、300 タワー。