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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】無線中継装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/15 20060101AFI20230117BHJP
   H04W 16/26 20090101ALI20230117BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20230117BHJP
   H04B 7/022 20170101ALI20230117BHJP
   H04B 7/06 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
H04B7/15
H04W16/26
H04W16/28
H04B7/022
H04B7/06 152
H04B7/06 954
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019041753
(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公開番号】P2020145614
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000217653
【氏名又は名称】電気興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 行隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 啓介
【審査官】佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-074399(JP,A)
【文献】特開2018-067852(JP,A)
【文献】特開2018-011249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/15
H04W 16/26
H04W 16/28
H04B 7/022
H04B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の無線基地局の通信に用いる複数のアンテナから構成される基地局向けアンテナのアンテナ指向性を成形する、基地局向けの指向性成形部と、
1つ以上の無線端末と通信に用いる複数のアンテナから構成される端末向けアンテナのアンテナ指向性を成形する、端末向けの指向性成形部と、
前記基地局向けアンテナで受信した電波を増幅する下り回線増幅部と、
前記端末向けアンテナで受信した電波を増幅する上り回線増幅部と、
前記下り回線増幅部または前記上り回線増幅部から前記電波についての電気信号を取り出す結合部と、
前記電気信号をデジタル信号に変換して信号処理を行い、前記無線基地局の識別情報と、該識別情報に対応する無線基地局から受信した前記電気信号の受信電力とを得て、該受信電力から少なくとも1つの無線基地局を選択する信号処理部と、
前記指向性成形部に指向性を設定する設定情報と、前記識別情報と、前記受信電力とを記憶する記憶部と、
前記少なくとも1つの無線基地局の設定情報を前記指向性成形部に設定する制御部と
を含んでなり、
前記信号処理部は、
前記デジタル信号から前記1つ以上の無線基地局の識別情報を識別する基地局識別部と、
前記電気信号から、前記1つ以上の無線基地局についての受信電力を解析する受信電力解析部とを有しており、
前記信号処理部は、前記少なくとも1つの無線基地局として、前記受信電力が最大となる無線基地局の前記設定情報を選択することを特徴とする無線中継装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記基地局向けアンテナの指向方向とは反対方向に前記端末向けアンテナの指向方向が向くように、前記設定情報を選択することを特徴とする、請求項1記載の無線中継装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記端末向けアンテナのアンテナ指向性を前記指向性成形部で設定後、前記基地局向けアンテナのアンテナ指向性を前記設定情報で設定することを特徴とする、請求項1または2に記載の無線中継装置。
【請求項4】
前記記憶部は、前記設定情報を予め記憶していることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の無線中継装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線基地局と無線端末との両方と無線通信する無線中継装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信技術の発展に伴い、より広い通信可能エリアの構築が求められている。例えば、図8に示すように、半径数百メートル~数キロメートルの通信エリアを構築する無線基地局1と、無線基地局1で発生する電波の不感地帯を解消するために、無線端末100と通信し、半径数十メートルから数百メートル程度の拡張エリアを構築する無線中継装置10’とが設置される。
【0003】
このように無線中継装置を使用して通信が可能なエリアを広げていく場合、複数の無線基地局からの電波が無線中継装置で受信する環境では、拡張エリアにある無線端末から無線基地局への上り信号の電波が、無線端末が接続されている以外の無線基地局へのエリアへも放射されるため電波干渉が問題となる。例えば、図9に示すように、無線中継装置10’が無線基地局1と通信する際に、別の無線基地局2に対して望まない電波干渉(干渉部分)を与えることがある。
【0004】
このような問題を解消するために、特許文献1では、デジタル信号処理部(DSP)が干渉波の信号レベルを監視し、干渉波の信号レベルが低下するように受信波の信号に重み付けを行うウェイト係数の更新を行う無線中継装置が提案されている。また、特許文献2では、無線親機の親機方向を推定する親機方向推定部を備えた無線中継装置が提案されている。これにより、特許文献2では、無線中継装置の電波と無線親機の電波の混在する場所において、無線子機向けに通信データをアンテナから送信するときに、アンテナの電波の送信方向を前記親機以外の方向に制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-17394
【文献】特開2017-108278
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、低遅延が求められるシステムの場合(例えば、第5世代移動通信システム)、特許文献1の場合には、デジタル信号処理部が受信波の信号に対して重み付けを行うことからアナログ信号からデジタル信号、デジタル信号からアナログ信号への処理やデジタル信号処理に起因する遅延が生じることになる。また、特許文献2の場合には、無線中継装置と無線子機(無線端末)との間での電波の混在(干渉)の解消は期待できるものの、無線親機(無線基地局)と無線中継装置との間での干渉を解消することは、無線中継装置と無線子機(無線端末)との間での制約がある関係上、困難である。例えば2つの無線親機(無線基地局)のエリアの境目に、無線中継装置が設置された場合、受信電力に差がない場合は推定が困難になるほか、反射波や回折波などが多いマルチパス環境では、必ずしも推定した無線親機(無線基地局)の方向が無線親機(無線基地局)側のアンテナと無線子機(無線端末)側のアンテナとのアイソレーションが良好とは限らない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、無線基地局への電波干渉による影響や、無線基地局側のアンテナと無線端末側のアンテナとの間のアイソレーションを考慮した無線中継装置を提供する。
具体的には、
1つ以上の無線基地局の通信に用いる複数のアンテナから構成される基地局向けアンテナのアンテナ指向性を形成する、基地局向けの指向性成形部と、
1つ以上の無線端末と通信に用いる複数のアンテナから構成される端末向けアンテナのアンテナ指向性を形成する、端末向けの指向性成形部と、
前記基地局向けアンテナで受信した電波を増幅する下り回線増幅部と、
前記端末向けアンテナで受信した電波を増幅する上り回線増幅部と、
前記下り回線増幅部または前記上り回線増幅部から前記電波についての電気信号を取り出す結合部と、
前記電気信号をデジタル信号に変換して信号処理を行い、前記無線基地局の識別情報と、該識別情報に対応する無線基地局から受信した前記電気信号の受信電力とを得て、該受信電力から少なくとも1つの無線基地局を選択する信号処理部と、
前記指向性成形部に指向性を設定する設定情報と、前記識別情報と、前記受信電力とを記憶する記憶部と、
前記少なくとも1つの無線基地局の設定情報を前記指向性成形部に設定する制御部と
を含んでなり、
前記信号処理部は、
前記デジタル信号から前記1つ以上の無線基地局の識別情報を識別する基地局識別部と、
前記電気信号から、前記1つ以上の無線基地局についての受信電力を解析する受信電力解析部とを有しており、
前記信号処理部は、前記少なくとも1つの無線基地局として、前記受信電力が最大となる無線基地局の前記設定情報を選択することを特徴とする無線中継装置を提供する。
【0008】
ここで、記信号処理部は、前記基地局向けアンテナの指向方向とは反対方向に前記端末向けアンテナの指向方向が向くように、前記設定情報を選択する態様であることが好ましい。
さらに、前記信号処理部は、前記端末向けアンテナのアンテナ指向性を前記指向性成形部で設定後、前記基地局向けアンテナのアンテナ指向性を前記設定情報で設定する態様であってもよい。
そして、前記記憶部は、前記設定情報を予め記憶している態様であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の無線基地局がある場合でも所望する無線基地局以外の無線基地局への影響を無線基地局側のアンテナ指向性を制御して低減することができるので、無線中継装置から無線基地局への通信の際の電波の干渉を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1Aは、本発明の一実施態様である無線中継装置の機能構成を示すブロック図である。図1Bは、図1Aの無線中継装置の下り回線増幅部と上り回線増幅部とを分けて示したブロック図である。
図2図2Aは、図1Aの指向性成形部の機能構成を示すブロック図である。図2Bは、指向性成形部に接続される、基地局向けアンテナ及び端末向けアンテナの一例を示すブロック図である。
図3図3Aは、基地局向けアンテナ及び端末向けアンテナに用いられるアンテナ素子の配置を示す図である。図3Bは、本発明の一実施態様である無線中継装置の指向性成形部に設置される基地局向けアンテナを構成するアンテナ素子の素子数と正規化指向性利得との関係を示す図である。
図4】本発明の一実施態様である無線中継装置が、基地局向けアンテナを用いて、複数の無線基地局と通信することを示す概略図である。
図5】本発明の一実施態様である無線中継装置の指向性成形部が、無線基地局1に対し、基地局向けアンテナを用いて(図中の「B」に対応する)ビームを形成したことを示す概略図である。
図6図5の「B」に対応する受信電力が一番高い指向性を無線中継装置10が設定するステップを示すフローチャートである。
図7図7Aは、受信電力が一番高い指向性を有する無線基地局を選択するステップを示すフローチャートである。図7Bは、基地局向けアンテナと端末向けアンテナとの間のアイソレーション値を最大にする指向性を選択するステップを示すフローチャートである。
図8】従来の無線基地局と無線中継装置との位置関係及び通信エリアを示す概略図である。
図9】従来の無線中継装置で問題となる電波の干渉を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1Aを参照して、本発明の一実施態様である無線中継装置10を説明する。無線中継装置10は、無線基地局と通信する基地局向けアンテナに対して所定の指向性を与える指向性成形部30と、無線端末と通信する端末向けアンテナに対して所定の指向性を与える指向性成形部32と、指向性成形部30に接続された経路切替部40と、指向性成形部32に接続された経路切替部42と、経路切替部40、42にそれぞれ接続され、電気信号を取り出す結合部を含む下り回線増幅部50及び上り回線増幅部52と、下り回線増幅部50及び上り回線増幅部52にそれぞれ接続される信号処理部60と、信号処理部60に接続された記憶部70と、指向性成形部30、32と経路切替部40、42と信号処理部60と記憶部70とにそれぞれ接続された制御部20とを含む。
【0012】
次に、図1Aに示す無線中継装置10の各部を説明する。ここで、図2Aを参照すると、基地局向けアンテナの指向性成形部30は、経路切替部40にそれぞれ接続される位相器と、該位相器と各基地局アンテナとの間にそれぞれ接続される振幅調整器とを備える。指向性成形部30は、制御部20からの信号(破線で示す)によって、位相器で各基地局向けアンテナに給電する位相を変更し、振幅調整器によって各基地局向けアンテナに給電する振幅を変更することによって、基地局向けアンテナの指向性を変更することができる(かかる点については、各端末向けアンテナに接続される指向性形成部32も同様の構成及び機能を有している)。上記の位相器には、一般的に半導体が使用され、半導体の制御端子に印加される電圧に応じて位相量が変化するアナログ型と、複数の制御端子の電圧レベルのハイ、ローで位相量が変化するデジタル型とがある。また、振幅調整器についても、一般的に半導体が使用され、位相器と同様に、印加電圧に応じて振幅が変化するアナログ型と、電圧レベルのハイ、ローで振幅が変化するデジタル型があり、振幅を減衰させる可変減衰器や増幅器の利得を変化させる可変増幅器がある。位相器及び振幅調整器に半導体を使用することによって高速な指向性成形が可能になるほか、プリント基板の表面に例えばパッチアンテナを、背面に位相器や振幅調整器をそれぞれ配置することにより、小型化や給電損失を抑えることができる。
次に、指向性成形部30に接続される基地局向けアンテナの一例を図2Bに示す。各基地局向けアンテナは、指向性成形部30が成形する指向性にそれぞれ対応する位相器及び振幅調整器に接続されている。このような基地局向けアンテナは、位相器及び振幅調整器1系統についてアンテナ1基を有していてもよく、位相器及び振幅調整器1系統についてアンテナを複数有していてもよい。
【0013】
経路切替部40、42は、上り信号や下り信号を同一周波数でそれぞれ切り替えて使用する時分割複信方式の場合に用いられる。上り信号や下り信号で異なる周波数を使用する周波数分割複信方式の場合には、例えば、図1Bに示すように、下り回線と上り回線とで経路を分離する方法を使用することや、線路切替部40、42の代わりに、上り周波数と下り周波数とを分離するデュプレクサを使用することがある。
【0014】
下り回線増幅部50及び上り回線増幅部52は、アナログの増幅回路によって構成される。そして、下り回線増幅部50や上り回線増幅部52に備えた結合部(図示せず)によって、信号を分離して信号処理部60に送る。このような結合部として、方向性結合器(カプラ)などが用いられる。
【0015】
信号処理部60は、下り回線増幅部50や上り回線増幅部52から受信したアナログ信号をデジタル信号に変換し、受信信号の復調処理を行う。信号処理部60の基地局識別部は、復調された信号から基地局の識別情報(例えば基地局ID)を取り出す。複数の基地局からの信号が混在している場合には、各基地局に対応する異なる基地局IDを得る。信号処理部60の受信電力解析部は、上記のデジタル信号を解析して、基地局識別部で得られた各基地局についての受信電力値を得ることができる。このようにして、所定の指向性における各基地局の受信電力を得ることができる。
【0016】
記憶部70は、信号処理部60で得られた各基地局の受信電力を記憶することができる。また、指向性成形部30、32に設定するための設定情報(位相値及び振幅値)を保存することができる。また、かかる設定情報を予め記憶部70に記憶しておくことによって、指向性成形部30、32を短時間で設定できるので、基地局向けアンテナや端末向けアンテナの指向性を低遅延で切り替えることができる。指向性成形部30、32での成形に時間をかけられる場合や、制御部20の処理能力が高い場合には、信号処理部60から得られた情報から指向性成形部30、32に設定する設定情報を、その都度、計算して求めることもできる。
【0017】
制御部20は、信号処理部60から信号を受信し、記憶部70に記憶した設定情報を読み出し、指向性成形部30、32に設定情報を送信する。また、制御部20は、その他の各部の状態の監視や制御などを行う。
【0018】
このように無線中継装置10によれば、遅延が生じやすいデジタル信号処理を、高速なアナログ増幅処理とは分離した構成を採用しているため、低遅延を実現することができる。また、受信波の信号に対してデジタル信号処理で重み付けを行う無線中継装置に比べて、デジタル-アナログ変換器が不要になるため、小型・軽量化、価格を抑えることができる。
【0019】
次に、図3Aを参照して、基地局向けアンテナや端末向けアンテナとして使用される複数のアンテナ素子の配置の一例を説明する。図3Aでは、アンテナ素子が互いに0.5波長だけ離間して正方配列(16行×16列)された、256素子からなる基地局向けアンテナや端末向けアンテナの一例を示す。なお、図3Aでは、基地局向けアンテナや端末向けアンテナとして256素子(16行×16列)に正方配列された複数のアンテナ素子を含む一例を示しているが、これに限らず、任意のn行×m列の直方配列や、円形配列、三角配列等、平面状に配列された複数のアンテナ素子を含んだものでも良い。次に、図3Bは、図3Aに示すアンテナ素子の数を4素子、16素子、64素子及び256素子としてそれぞれ正方配列した各基地局向けアンテナについて、各アンテナ素子に同位相、同振幅を与えた場合の指向性を示す。なお、指向性は最大放射方向の角度0°で正規化している。アンテナ素子数が増えると指向性は鋭くなり3dBビーム幅(半値幅)は狭くなる。半値幅は4素子が58°、16素子が26°、64素子が13°、256素子が6.5°である。また、アンテナ素子数が増えるほどアンテナの指向性利得は高くなる。更にアンテナ素子数が増えるほど(正規化指向性利得が極小である)ヌルが増えていく。そのため、例えば、-15°方向のアンテナ利得差は4素子に比べて256素子では約30dB低くなっている。そして、アンテナ素子が多い方が半値幅は小さくなるので、不要方向への放射が小さくなり、干渉を軽減できる。
【0020】
次に、図4及び図5を参照して、図1の無線中継装置10の各部の動作を説明する。無線中継装置10が無線基地局1と通信する場合には、制御部20は、基地局向けアンテナの指向性成形部30を構成する位相器及び振幅調整器に設定する位相量及び振幅についての信号を出力する。これにより、制御部20は、基地局向けアンテナを用いて、例えば、図4に示すA~Eに対応する指向性を有するビームを成形させることができる(図4の場合の指向性A~Eを成形するための位相値や振幅値はそれぞれ異なる)。このように、制御部20から、位相量及び振幅についての信号を指向性成形部30に出力することによって、基地局向けアンテナの向きを物理的に変更することなく、その指向性を変更することができる(図5の「B」に対応するビームを参照のこと)。
【0021】
次に、図6を参照して、(図5の「B」に対応する)受信電力が一番高い指向性を無線中継装置10が設定するステップを説明する。まず、ステップS500において、無線中継装置10の基地局向けアンテナの指向性の設定回数k(kは1以上の整数)を設定する。ステップS502において、基地局向けアンテナについて指向性n(nは1以上の整数)を設定する。これらの設定回数k及び指向性nは、記憶部70に記憶される。次に、ステップS504において、無線中継装置10の信号処理部60は、指向性1~nについて、基地局向けアンテナからの受信信号を解析する。ここで、信号処理部60は、無線基地局数分の識別情報(基地局ID)と、その無線基地局の識別情報ごとの受信電力とを記憶部70に記憶する。そして、ステップS506において、信号処理部60は、指向性nが設定回数kと等しいかを判断する。もし、指向性nが設定回数kと等しくない場合(指向性nが設定回数kにまだ達していない場合)には、nに1を加えてから、ステップS502に戻る。一方、指向性nが設定回数kと等しい場合には、ステップS508に進み、信号処理部60は、ステップS504において記憶部70に記憶した各無線基地局の識別情報ごとの受信電力のうち、受信電力が一番大きい指向性に対応する設定情報(位相値及び振幅値)を指向性成形部30に設定する。
【0022】
次に、図7A及び図7Bを参照して、基地局向けアンテナと端末向けアンテナとの間のアイソレーションが一番高い指向性を無線中継装置10が設定するステップを説明する。まず、図7AのステップS500~S510では、基地局向けアンテナの指向性1~nについて、各無線基地局の識別情報とその受信電力とを検討する。なお、図7AのステップS500~S506は、図6のステップS500~S506と同じである。すなわち、ステップS500において、無線中継装置10の基地局向けアンテナの指向性の設定回数kを設定する。ステップS502において、基地局向けアンテナについて指向性nを設定する。これらの設定回数k及び指向性nは、記憶部70に記憶される。次に、ステップS504において、無線中継装置10の信号処理部60は、指向性1~nについて、基地局向けアンテナからの受信信号を解析する。ここで、信号処理部60は、無線基地局数分の識別情報(基地局ID)と、その無線基地局の識別情報ごとの受信電力とを記憶部70に記憶する。そして、ステップS506において、信号処理部60は、指向性nが設定回数kと等しいかを判断する。もし、指向性nが設定回数kと等しくない場合(指向性nが設定回数kにまだ達していない場合)には、nに1を加えてから、ステップS502に戻る。
一方、指向性nが設定回数kと等しい場合には、ステップS510に進み、信号処理部60は、ステップS504において記憶部70に記憶した各無線基地局の識別情報ごとの受信電力のうち、受信電力が一番大きい無線基地局の識別情報(基地局ID)を記憶部70に記憶する。そして、無線中継装置10が通信する無線基地局を決定する。
【0023】
次に、図7BのステップS512~S526において、端末向けアンテナの指向性0~m(mは1以上の整数)について、基地局向けアンテナの指向性0~nとのアイソレーションを検討する。まず、ステップS512において、無線中継装置10の信号処理部60は、端末向けアンテナの指向性の設定回数i(iは1以上の整数)を設定する(このiは記憶部70に記憶される)。ステップS514において、初期値として、信号処理部60は、nに1を入力し、mに1を入力する。ステップS516において、信号処理部60は、基地局向けアンテナの指向性nを設定する。そして、ステップS518において、信号処理部60は、端末向けアンテナの指向性mを設定する。これらの設定回数i及び指向性mは、記憶部70に記憶される。次に、ステップS520において、無線中継装置の信号処理部60は、基地局向けアンテナの指向性nでの無線基地局(S510で記憶部に記憶した基地局IDをもつ無線基地局)からの受信信号と、端末向けアンテナの指向性mで放射した電波を基地局向けアンテナで受信した受信電力とを解析し、基地局向けアンテナと端末向けアンテナのアイソレーション値Am,nを記憶部70に記憶する。そして、ステップS522において、信号処理部60は、指向性mが設定回数iと等しいかどうかを判断する。もし、指向性mが設定回数iと等しくない場合(指向性mが設定回数iにまだ達していない場合)には、mに1を加えてから、ステップS516に戻る。一方、指向性mが設定回数iと等しい場合には、ステップS524に進み、信号処理部60は、指向性nが設定回数kと等しいかを判断する。もし、指向性nが設定回数kと等しくない場合(指向性nが設定回数kにまだ達していない場合)には、nに1を加えてから、ステップS516に戻る。一方、指向性nが設定回数kと等しい場合には、ステップS526に進み、信号処理部60は、ステップS520において記憶部70に記憶した各アイソレーション値Am,nのうち、アイソレーション値が最大になる指向性mと指向性nとに対応する設定情報を選択する。
【0024】
本明細書で説明してきたように、本発明によれば、無線中継装置における無線基地局と無線中継装置間の通信の際の電波の干渉を低減し、基地局との間の通信のスループットが向上する無線中継装置を提供することが可能となる。また、無線中継装置の基地局向けアンテナと端末向けアンテナとの間のアイソレーションも確保することができる。
なお、本願の出願当初の開示事項を維持するために、本願の出願当初の請求項1~9の記載内容を以下に追加する。
(請求項1)
1つ以上の無線基地局の通信に用いる複数のアンテナから構成される基地局向けアンテナのアンテナ指向性を成形する、基地局向けの指向性成形部と、
1つ以上の無線端末と通信に用いる複数のアンテナから構成される端末向けアンテナのアンテナ指向性を成形する、端末向けの指向性成形部と、
前記基地局向けアンテナで受信した電波を増幅する下り回線増幅部と、
前記端末向けアンテナで受信した電波を増幅する上り回線増幅部と、
前記下り回線増幅部または前記上り回線増幅部から前記電波についての電気信号を取り出す結合部と、
前記電気信号をデジタル信号に変換して信号処理を行い、前記無線基地局の識別情報と、該識別情報に対応する無線基地局から受信した前記電気信号の受信電力とを得て、該受信電力から少なくとも1つの無線基地局を選択する信号処理部と、
前記指向性成形部に指向性を設定する設定情報と、前記識別情報と、前記受信電力とを記憶する記憶部と、
前記少なくとも1つの無線基地局の設定情報を前記指向性成形部に設定する制御部と
を含んでなる無線中継装置。
(請求項2)
前記信号処理部は、
前記デジタル信号から前記1つ以上の無線基地局の識別情報を識別する基地局識別部と、
前記電気信号から、前記1つ以上の無線基地局についての受信電力を解析する受信電力解析部とを有しており、
前記信号処理部は、前記少なくとも1つの無線基地局として、前記受信電力が最大となる無線基地局の前記設定情報を選択することを特徴とする請求項1に記載の無線中継装置。
(請求項3)
前記信号処理部は、前記基地局向けアンテナと前記端末向けアンテナとの間でのアンテ
ナ間のアイソレーション値が最大となる前記設定情報を選択することを特徴とする、請求
項1または2に記載の無線中継装置。
(請求項4)
前記信号処理部は、前記基地局向けアンテナの指向方向に前記端末向けアンテナのアンテナ指向性のヌルが向くように、又は、前記端末向けアンテナの指向方向に前記基地局向けアンテナのアンテナ指向性のヌルが向くように、前記設定情報を選択することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の無線中継装置。
(請求項5)
前記信号処理部は、前記基地局向けアンテナの指向方向とは反対方向に前記端末向けアンテナの指向方向が向くように、前記設定情報を選択することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の無線中継装置。
(請求項6)
前記信号処理部は、前記端末向けアンテナのアンテナ指向性を前記指向性成形部で設定後、前記基地局向けアンテナのアンテナ指向性を前記設定情報で設定することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の無線中継装置。
(請求項7)
前記記憶部は、前記設定情報を予め記憶していることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の無線中継装置。
(請求項8)
前記基地局向けアンテナまたは前記端末向けアンテナは、一つ以上のメインビームを有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の無線中継装置。
(請求項9)
前記基地局向けアンテナまたは前記端末向けアンテナは、64個以上のアンテナ素子を有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の無線中継装置。
【符号の説明】
【0025】
1、2 無線基地局
10 無線中継装置
20 制御部
30、32 指向性成形部
40、42 経路切替部
50、52 回線増幅部
60 信号処理部
70 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9