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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】状態監視システムおよび状態監視方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20230117BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20230117BHJP
   G08C 15/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G05B23/02 T
G08C15/00 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019052935
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020153836
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下山 陽太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亨
(72)【発明者】
【氏名】畠山 航
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-185507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-99/00
G05B 23/02
G08C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置を構成する機械要素の状態を監視する状態監視システムであって、
前記機械要素の状態を検出するためのセンサと、
前記機械要素の異常を診断するための処理装置とを備え、
前記処理装置は、
前記センサの検出信号から複数の特徴量を算出し、
算出した前記複数の特徴量から有効な特徴量抽出し、
抽出した前記有効な特徴量に基づいて前記機械要素の異常を診断
算出した前記複数の特徴量のうち、経時的な変化が変化検出しきい値よりも小さい第1の特徴量については、当該第1の特徴量を前記有効な特徴量として抽出し、
算出した前記複数の特徴量のうちの経時的な変化が前記変化検出しきい値以上である第2の特徴量については、相関および類似性のうちの少なくとも一方を評価して統合し、統合した特徴量を前記有効な特徴量として抽出する、状態監視システム。
【請求項2】
前記処理装置は、第1および第2のモードを順次行なうように構成され、
前記第1のモードは、前記装置が正常であるときに行なわれ、
前記処理装置は、前記第1のモードにおいて、前記センサの検出信号から算出される前記複数の特徴量の経時的な傾向に基づいて、前記有効な特徴量を抽出し、
前記処理装置は、前記第2のモードにおいて、前記装置の運用中における前記有効な特徴量に基づいて、前記機械要素の異常を診断する、請求項1に記載の状態監視システム。
【請求項3】
前記処理装置は、
前記第1のモードにおいて前記有効な特徴量から統計的手法を用いて異常判断しきい値を生成し、
前記第2のモードにおいて、前記有効な特徴量が前記異常判断しきい値以上であるときに、前記機械要素の異常と診断する、請求項2に記載の状態監視システム。
【請求項4】
前記第2のモード中、前記処理装置は、前記有効な特徴量の中から、経時的な変化が前記変化検出しきい値以上である特徴量を検出し、検出した特徴量から前記有効な特徴量を新たに生成し、および新たに生成した前記有効な特徴量についても前記異常判断しきい値を生成する、請求項3に記載の状態監視システム。
【請求項5】
前記処理装置は、前記第1のモードにおいて、
前記第2の特徴量を経時的な変化の関連性に基づいてグルーピングするグルーピング処理を行ない、
各グループの経時的な変化を特徴づける特徴量を、前記有効な特徴量として抽出する、請求項2から4のいずれか1項に記載の状態監視システム。
【請求項6】
前記処理装置は、複数の前記第2の特徴量の間の経時的な変化の正規化相関に基づいて、前記関連性を評価する、請求項5に記載の状態監視システム。
【請求項7】
前記処理装置は、複数の前記第2の特徴量の各々の経時的な変化の変化点の時刻を比較することより、前記関連性を評価する、請求項5に記載の状態監視システム。
【請求項8】
前記処理装置は、複数の前記第2の特徴量の各々を正規化し、正規化した前記複数の第2の特徴量間の差分の逆数を比較することにより、前記関連性を評価する、請求項5に記載の状態監視システム。
【請求項9】
前記処理装置は、前記グルーピング処理において、複数の前記第2の特徴量を、前記関連性の高いものから順にグルーピングする、請求項5から8のいずれか1項に記載の状態監視システム。
【請求項10】
前記処理装置は、前記グルーピング処理において、グルーピングされた複数の前記第2の特徴量を、前記関連性の低いものから順に除いていく、請求項5から8のいずれか1項に記載の状態監視システム。
【請求項11】
前記処理装置は、前記第1のモード中の一定期間における前記複数の特徴量の分布状況に基づいて、前記変化検出しきい値を設定する、請求項から10のいずれか1項に記載の状態監視システム。
【請求項12】
装置を構成する機械要素の状態を監視する状態監視方法であって、
前記装置に設置したセンサにより前記機械要素の状態を検出するステップと、
前記センサの検出信号から複数の特徴量を算出するステップと、
算出した前記複数の特徴量から有効な特徴量抽出するステップと、
抽出した前記有効な特徴量に基づいて前記機械要素の異常を診断するステップとを含
前記抽出するステップにおいて、
算出した前記複数の特徴量のうち、経時的な変化が変化検出しきい値よりも小さい第1の特徴量については、当該第1の特徴量が前記有効な特徴量として抽出され、
算出した前記複数の特徴量のうちの経時的な変化が前記変化検出しきい値以上である第2の特徴量については、相関および類似性のうちの少なくとも一方を評価して統合し、統合した特徴量が前記有効な特徴量として抽出される、状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、装置を構成する機械要素の状態を監視する状態監視システムおよび状態監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機械および設備およびそれらを含むプラントでは、各種センサを用いて物理量を測定することによって、状態を監視している。たとえば風力発電装置においては、風力を受けるブレードに接続される主軸を回転させ、増速機により主軸の回転を増速させた上で発電機のロータを回転させることによって発電が行なわれているが、このような風力発電装置の各部の異常を診断する状態監視システム(CMS:Condition Monitoring System)が知られている。特許第5917956号公報(特許文献1)には、風力発電装置の各部に固設された振動、音等を検出するセンサにより測定される診断パラメータを用いて、各部に損傷が発生しているか否かが診断される状態監視システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5917956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような装置においては、多種多様な部品について損傷、取り付け不良、回転軸についてのアンバランス、ミスアラインメント等、多数の種類の異常が発生し得る。これら多様な異常をもれなく監視するためには、多数の種類の診断パラメータに様々な信号処理(たとえばフィルタリング等)を組み合わせて処理を行なうことが必要とされるため、多くの労力がかかる虞がある。
【0005】
この発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、多様な種類の異常を簡便に監視できる状態監視システムおよび状態監視方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のある局面に従えば、状態監視システムは、センサと、処理装置とを備え、装置を構成する機械要素の状態を監視する。センサは、機械要素の状態を検出するために用いられる。処理装置は、機械要素の異常を診断するために用いられる。処理装置は、センサの検出信号から複数の特徴量を算出する。処理装置は、算出した複数の特徴量から、経時的な傾向が互いに独立する少なくとも1つの特徴量を有効な特徴量として抽出する。処理装置は、抽出した有効な特徴量に基づいて機械要素の異常を診断する。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、多様な種類の異常を簡便に監視できる状態監視システムおよび状態監視方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施の形態に係る状態監視システムの全体構成を概略的に示した図である。
図2】風力発電装置の構成を概略的に示した図である。
図3】風力発電装置の各部の損傷に関するセンサおよび特徴量を説明するための表である。
図4】本実施の形態に係るモニタ装置および制御装置の構成の概要を示すブロック図である。
図5】比較例に係る状態監視システムの機能を概念的に説明する図である。
図6】本実施の形態に係る状態監視システムの機能を概念的に説明する図である。
図7】学習モードに関する制御装置の構成を説明するブロック図である。
図8】変化検出しきい値の算出法を説明するフローチャートである。
図9】有効な特徴量の抽出法を説明するフローチャートである。
図10】変曲点の定義を説明する図である。
図11】2つの特徴量の変化点の時刻差の算出方法の一例を説明する図である。
図12】トレンドの2階微分の乗算に基づく関連性評価値の算出方法を概念的に説明するための図である。
図13】特徴量の正規化を概念的に説明するための図である。
図14】特徴量間のユークリッド距離の一例を説明する図である。
図15】関連性の高い特徴量から順に統合していくグルーピング法を説明するフローチャートである。
図16】関連性の低い特徴量から除いていくグルーピング法の概念を説明する図である。
図17】関連性の低い特徴量から除いていくグルーピング法を説明するフローチャートである。
図18図17のステップS32,S33の処理を概念的に説明する図である。
図19】重複評価値を概念的に説明する図である。
図20】運用モードに関する制御装置の構成を説明するブロック図である。
図21】再抽出部の処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0010】
<状態監視システムの全体構成>
図1は、本実施の形態に係る状態監視システム100の全体構成を概略的に示した図である。図1を参照して、状態監視システム100は、風力発電装置10を構成する機械要素の状態を監視する。状態監視システム100は、モニタ装置80と、データサーバ(監視側制御装置、以下、単に制御装置とも称する)330と監視用端末340とを備える。なお、本実施の形態では、本実施の形態に従う状態監視システムの監視対象として、風力発電装置10またはその各部を上げているが、あくまで一例であり、本実施の形態に従う状態監視システムの監視対象はこれに限定されない。
【0011】
モニタ装置80は後述するセンサ70A~70H(図2参照)と有線または無線で接続される。モニタ装置80は、センサ70A~70Hの検出信号を基に、検出信号の特徴を示す「特徴量」を算出する。特徴量は、例えば実効値、ピーク値、クレストファクター、エンベロープ処理後の実効値、エンベロープ処理後のピーク値等である。モニタ装置80は、当該特徴量を、インターネット320を介して制御装置330へ送信する。
【0012】
なお、モニタ装置80と制御装置330との通信は有線または無線で行なわれ、図1のようにインターネットを介して行われてもよい。
【0013】
制御装置330は、モニタ装置80から受信した特徴量を基にさらなる詳細な解析を行なう。また、制御装置330は、当該特徴量の統計的演算等により、風力発電装置10の各部が異常であるか否かを判定する。制御装置330は、上記結果を監視用端末340に有線または無線で送信する。また、制御装置330と監視用端末340とは、たとえば社内LAN(Local Area Network)および/またはインターネットを介して接続される。制御装置330は必要に応じて、モニタ装置80に観察する特徴量の指示を出力する等のフィードバック制御を、有線又は無線で出力する(図示せず)。
【0014】
監視用端末340は、制御装置330が受信した特徴量に関する情報の閲覧、特徴量の詳細な解析の指令、モニタ装置80の設定変更、風力発電装置の各機器の状態の閲覧等に利用される。
【0015】
<風力発電装置の構成>
図2は、風力発電装置10の構成を概略的に示した図である。図2を参照して、風力発電装置10は、主軸20と、ブレード30と、増速機40と、発電機50と、主軸受60と、センサ70A~70Hと、モニタ装置80とを備える。増速機40、発電機50、主軸受60、センサ70A~70Hおよびモニタ装置80は、ナセル90に格納され、ナセル90は、タワー91によって支持される。
【0016】
主軸20は、ナセル90内に進入して増速機40の入力軸に接続され、主軸受60によって回転自在に支持される。そして、主軸20は、風力を受けたブレード30により発生する回転トルクを増速機40の入力軸へ伝達する。
【0017】
ブレード30は、主軸20の先端に設けられ、風力を回転トルクに変換して主軸20に伝達する。
【0018】
主軸受60は、ナセル90内において固設され、主軸20を回転自在に支持する。主軸受60は、たとえば、自動調芯ころ軸受、円すいころ軸受、円筒ころ軸受、玉軸受等の転がり軸受によって構成される。なお、これらの軸受は、単列のものでも複列のものでもよい。
【0019】
センサ70A~70Hは、ナセル90の内部の各機器に固設され、風力発電装置10を構成する機械要素の状態を検出する。具体的には、センサ70Aは、主軸受60の上面に固設され、主軸受60の状態を検出する。センサ70B~70Dは、増速機40の上面に固設され、増速機40の状態を検出する。センサ70E,70Fは、発電機50の上面に固設され、発電機50の状態を検出する。センサ70Gは主軸受60に固設され、ミスアライメントとナセルの異常振動を検出する。センサ70Hは主軸受60に固設され、アンバランスとナセルの異常振動を検出する。以下、センサ70A~70Hを「センサ70」とも総称する。センサ70は、制御装置330の監視対象の情報を取得するための振動、音、AE(Acoustic emission)等を検出する。また、センサ70の代わりとして、SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)等のセンサ70の値を収集する制御機器からセンサ70の値を提供するように構成してもよい。
【0020】
増速機40は、主軸20と発電機50との間に設けられ、主軸20の回転速度を増速して発電機50へ出力する。一例として、増速機40は、遊星ギヤおよび中間軸、高速軸等を含む歯車増速機構によって構成される。なお、特に図示しないが、この増速機40内にも、複数の軸を回転自在に支持する複数の軸受が設けられている。
【0021】
発電機50は、増速機40の出力軸に接続され、増速機40から受ける回転トルクによって発電する。発電機50は、たとえば、誘導発電機によって構成される。なお、この発電機50内にも、ロータを回転自在に支持する軸受が設けられている。
【0022】
モニタ装置80は、ナセル90の内部に設けられ、センサ70A~70Hが検出した各機器の振動、音、AE等の検出信号を受信する。なお、図示はしていないが、センサ70A~70Hとモニタ装置80とは、有線ケーブルまたは無線で接続されている。
【0023】
<診断パラメータと故障の種類の関係>
図3は、風力発電装置の各部の損傷に関するセンサおよび特徴量を説明するための表である。本実施の形態に係る制御装置は、各種センサの検出信号から算出される特徴量と、所定のしきい値とを比較して異常を判断する。以下、このような特徴量がその値を超えたら異常と判断するしきい値を「異常判断しきい値」とも称する。
【0024】
具体的には、主軸受60については、主軸受60に固設された高周波用振動センサ70Aにより測定されたデータから、モニタ装置80により実効値が算出される。制御装置330において算出された実効値が対応する異常判断しきい値以上であると判定された場合には、主軸受60の軸受が損傷していることが監視用端末340に表示される。
【0025】
また、主軸受60については、主軸の半径方向の振動を測定するように取付けた低周波用振動センサ70Hにより測定されたデータから、モニタ装置80により1次回転周波数成分、2次回転周波数成分、3次回転周波数成分が算出される。制御装置330において、それぞれの周波数成分が対応する異常判断しきい値以上であると判定される場合には、主軸受60がアンバランスであることが監視用端末340に表示される。
【0026】
さらに、主軸受60については、主軸の軸方向の振動を測定するように取付けた低周波用振動センサ70Gにより測定されたデータから、モニタ装置80により1次回転周波数成分、2次回転周波数成分、3次周波数成分が算出される。制御装置330においてそれぞれの周波数成分が対応する異常判断しきい値以上であると判定される場合には、主軸受60が主軸20とミスアライメントであることが監視用端末340に表示される。
【0027】
さらに、増速機40については、高周波用振動センサ70B~70Dにより測定されたデータから、モニタ装置80により実効値が算出される。制御装置330において算出された実効値が対応する異常判断しきい値以上であると判定される場合には、増速機40の軸受が損傷していることが監視用端末340に表示される。
【0028】
さらに、増速機40については、高周波用振動センサ70B~70Dにより測定されたデータから、モニタ装置80により歯車の1次かみ合い周波数成分、2次かみ合い周波数成分、3次かみ合い周波数成分が算出される。制御装置330において、それぞれの算出値が対応する異常判断しきい値以上であると判定される場合には、増速機40の歯車が損傷していることが監視用端末340に表示される。
【0029】
さらに、発電機50については、高周波用振動センサ70E,70Fにより測定されたデータから、モニタ装置80により実効値が算出される。制御装置330において算出された実効値が対応する異常判断しきい値以上であると判定される場合には、発電機50の軸受が損傷していることが監視用端末340に表示される。
【0030】
さらに、ナセル90については、主軸の半径方向の振動を測定するように取付けた低周波用振動センサ70Hにより測定されたデータから、モニタ装置80により低周波振動成分が算出される。制御装置330において低周波振動成分が対応する異常判断しきい値以上であると判定される場合には、ナセル90が異常振動していることが監視用端末340に表示される。
【0031】
また、ナセル90については、主軸の軸方向の振動を測定するように取付けた低周波用振動センサ70Gにより、測定されたデータから、モニタ装置80により低周波振動成分が算出される。制御装置330において低周波振動成分が対応する異常判断しきい値以上であると判定される場合には、ナセル90が異常振動していることが監視用端末340に表示される。
【0032】
上記測定項目は、理解を容易にするために、一部を取り出して説明したものであって、これに限定されない。たとえば、振動センサ、AEセンサ、温度センサ、音センサの測定データについて、統計的手法を用いて、実効値、ピーク値、平均値、クレストファクター、エンベロープ処理後の実効値、エンベロープ処理後のピーク値を算出し、対応するしきい値と比較するように構成してもよい。このような構成により、制御装置330により風力発電装置10の各部の状態が監視可能であり、監視用端末340に各部の状態を表示することができる。
【0033】
図4は、本実施の形態に係るモニタ装置80および制御装置330の構成を示すブロック図である。図4を参照して、モニタ装置80は、風力発電装置10に設置されたセンサ70から信号を受ける。制御装置330は、モニタ装置80からの信号を受けて、風力発電装置10の状態を監視し、異常を検出する。
【0034】
モニタ装置80は、A/Dコンバータ110Bと、データ取得部120Bと、記憶部130Bと、データ演算部140Bと、出力部150Bとを含む。
【0035】
A/Dコンバータ110Bは、センサ70の検出信号を受信する。A/Dコンバータ110Bは、アナログ信号である当該検出信号をデジタル信号に変換する。A/Dコンバータ110Bは、当該デジタル信号をデータ取得部120Bに送信する。
【0036】
データ取得部120Bは、A/Dコンバータ110Bからデジタル信号を受信してフィルタ処理を行ない、記憶部130Bに記憶させるとともに、データ演算部140Bに送信する。
【0037】
データ演算部140Bは、データ取得部120Bおよび/または記憶部130Bからフィルタ処理が施されたセンサ70の検出信号を受信する。データ演算部140Bはセンサ70の検出信号から特徴量を計算し、記憶部130Bに記憶させるとともに、出力部150Bに送信する。
【0038】
出力部150Bは、データ演算部140Bから特徴量を受信し、制御装置330のデータ取得部120に送信する。
【0039】
制御装置330は、データ取得部120と、記憶部130と、データ演算部140と、出力部150とを含む。
【0040】
データ取得部120は、モニタ装置80の出力部150から特徴量を受信し、記憶部130に記憶させるとともに、データ演算部140に送信する。
【0041】
データ演算部140は、記憶部130から風力発電装置10の正常時のセンサ70の検出信号を基にデータ演算部140Bが算出した特徴量を読み出し、読み出した特徴量から統計的手法を用いて異常判断しきい値を生成する。異常判断しきい値は、「第1のしきい値」の一実施例に対応する。このように、特徴量を用いて異常か否かを判定するための異常判断しきい値を生成するモードを、以下「学習モード」と称する(詳しくは後述)。学習モードは、「第1のモード」の一実施例に対応する。
【0042】
また、データ演算部140は、記憶部130から風力発電装置10の運転時のセンサ70の検出信号を読み出し、異常判断しきい値と比較することで、風力発電装置10の異常の有無を判断する。データ演算部140は、判定結果を出力部150に出力する。このように、異常判断しきい値を用いて監視対象の状態を監視するモードを、以下「運用モード」と称する(詳しくは後述)。運用モードは、「第2のモード」の一実施例に対応する。
【0043】
出力部150は、データ演算部140の出力を受信し、監視用端末340に送信する。
<学習モードと運用モードの定義>
このような状態監視システムは、監視対象の装置の正常時に、特徴量が異常か否かを判断するためのしきい値を生成する「学習モード」と、学習モードの後、当該装置の実際の運転時に、学習モードに生成されたしきい値を用いて当該装置の状態を監視する「運用モード」の2つのモードを有する。
【0044】
すなわち、本願明細書においては、学習モードは、風力発電装置10が正常であるときの特徴量を用いて監視対象が異常か否かを判定するための異常判断しきい値を生成するモードであり、運用モードは異常判断しきい値を用いて監視対象の状態を監視するモードである。
【0045】
学習モードは、典型的には、監視システム100の監視対象となる装置が新たに設置された直後に行なわれる。当該装置が新たに設置された直後は、当該装置の各部が故障していないと考えられるので、当該装置の各部は正常である(異常が生じていない)とみなせる。また、当該監視対象となる装置の状況が変わった場合(たとえば、当該装置の一部の部品を交換後に正常動作の確認を行なった後、または、定期的な保守点検を行なった後)に、必要に応じて学習モードを行なうように構成してもよい。学習モードが終了すると、運用モードが開始される。
【0046】
以下に、制御装置330がどのようにそれぞれのモードを実行しているかを概念的に説明する。最初に比較例に係る制御装置の構成を説明する。
【0047】
図5は、比較例に係る状態監視システムの機能を概念的に説明する図である。図5はデータ取得部120、学習部1および監視部2を含む。なお、学習部1および監視部2は、データ演算部140に含まれる。
【0048】
学習モードにおいて、学習部1はデータ取得部120から特徴量を受信し、特徴量を用いて異常判断しきい値を算出する。
【0049】
運用モードにおいて、監視部2はデータ取得部120から特徴量を受信する。監視部2は、当該特徴量を、学習部1で算出した異常判断しきい値と比較する。監視部2は、特徴量が異常判断しきい値以上である場合、特徴量が異常であると判定し、警告を出力する。
【0050】
しかし、このような状態監視システムにおいて、監視対象の装置の全体を監視する場合、当該装置の部品毎、さらには当該部品の異常の種類の指標となる特徴量毎に異常判断しきい値を算出し、各特徴量が異常判断しきい値以上であるか監視する必要がある可能性がある。しかし、多くの場合、このような状態監視システムが監視する装置の部品およびその異常は多岐にわたる。
【0051】
たとえば、風力発電装置には、多種多様な形状の軸受けおよびギヤの損傷および取り付け不良、回転軸のアンバランスおよびミスアライメントといった数多くの種類の異常が発生しうる。また、「軸の回転数の異常」という異常1つをとっても、正常状態の軸の回転数自体も数十rpm~1500rpmまで幅広いため、異常となる回転数も多岐にわたる。こうした多種多様な異常をもれなく監視するためには、様々な算出式およびフィルタリング等の信号処理を組み合わせて、大量の特徴量および異常判断しきい値(例えば各々100~1000個)を算出することが必要となる可能性がある。よって、分析者がそれらの特徴量および異常判断しきい値を全て確認するには多くの労力がかかる虞がある。
【0052】
<本実施の形態に係る状態監視システムの動作>
図6は、本実施の形態に係る状態監視システムの機能を概念的に説明する図であり、図5と対比される図である。図6を参照して、本実施の形態に係る制御装置330と、比較例に係る制御装置330(図5)の主な違いは、学習モードにおいて抽出部3が付加され、運用モードにおいて選択部5および変化検出部4が付加されていることである。なお、抽出部3、選択部5および変化検出部4は、データ演算部140に含まれる。
【0053】
本実施の形態に従う状態監視システム100は、要約すると、学習モードにおいて、監視対象の装置の各部の挙動を監視するセンサから検出された大量の特徴量(例えば100~1000個)の中で、関連性の高い特徴量同士を統合し、少数の有効な特徴量を抽出する(例えば10~50個)。そして、状態監視システム100は、これらの有効な特徴量を基に異常判断しきい値を生成する。一方、運用モードにおいて、状態監視システム100は、当該異常判断しきい値を用いて有効な特徴量の異常を判断する。これにより、多様な種類の異常を簡便に監視することを可能とする。
【0054】
以下、本実施の形態に係る制御装置330について、比較例に係る制御装置330と異なる機能に重点を置いて説明し、同じ機能については説明を繰り返さない。
【0055】
<学習モードの概要>
学習モードにおいて、抽出部3は、データ取得部120から受信した多数の特徴量から少数の有効な特徴量を抽出し、当該有効な特徴量を学習部1に送信する。なお、本明細書においては「有効な特徴量」とは、多数の特徴量の中でもそれらの特徴量のみを監視すれば、監視対象の異常を検出できる代表的な特徴量、および/または、監視対象の異常検出のために監視すべき特徴量を指す。
【0056】
抽出部3は、データ取得部120から受信した複数の特徴量の各々が「有効」かどうかを判断するために、各特徴量の変化の有無に着目する。具体的には、抽出部3は、下記の処理(1)~(3)を行なう。
【0057】
処理(1)では、特徴量の変化の有無を判断するために、制御装置330は、学習モード中の一定期間における特徴量の分布状況に基づいて全ての特徴量に対して、特徴量の変化を検出するしきい値(以下、「変化検出しきい値」とも称する)を生成する。変化検出しきい値は、「第2のしきい値」の一実施例に対応する。変化検出しきい値は、記憶部130から読み出した特徴量等の情報を基に分析者が手動で設定するように構成してもよいし、記憶部130から読み出した特徴量を統計的に処理して自動で算出するように構成してもよい。
【0058】
処理(2)では、全ての特徴量のうち、学習モード中に、その値の変化が変化検出しきい値より小さい特徴量を、「(着目すべき)変化が起こっていない特徴量」と判定し、当該特徴量を「有効な特徴量」として抽出する。当該変化が起こっていない特徴量は、「第1の特徴量」の一実施例に対応する。
【0059】
なお、特徴量の値が変化検出しきい値より小さい場合とは、例えば、ある回転部材の回転速度を特徴量としたとき、回転速度の経時変化(すなわち時刻に対する特徴量の値の変化、以下「トレンド」とも称する)がほぼ一定値を示す場合を指す。変化が起こっていない特徴量を有効な特徴量とする理由は処理(3)の後に説明する。
【0060】
処理(3)では、全ての特徴量のうち、学習モード中、特徴量の値が変化検出しきい値以上である特徴量を、「(着目すべき)変化が起こった特徴量」と判定する。当該変化が起こった特徴量について、相関および/または類似性を評価して統合を行ない(詳しくは後述)、統合された特徴量を有効な特徴量として抽出する。当該変化が起こった特徴量は、「第2の特徴量」の一実施例に対応する。
【0061】
また、処理(3)により有効な特徴量が抽出された際には、有効な特徴量ごとの抽出方法も記憶される。たとえば、処理(3)により、第1~第4の特徴量F1(t)~F4(t)が、1つの有効な特徴量である第5の特徴量F5(t)に統合された場合を考える。その場合の第5の特徴量F5(t)は、第1~第4の特徴量F1(t)~F4(t)を用いて、下記数式(1)に示す関数で表されるとする。ただし、P(x)はxの関数である。
【0062】
F5(t)=P(F1(t),F2(t),F3(t),F4(t))・・・(1)
この場合、抽出部3は、数式(1)に示す関数を記憶部130に記憶させる。数式(1)に示す関数は後述する選択部5で使用される。
【0063】
ここで、処理(2)で変化が起こっていない特徴量を有効な特徴量として抽出する理由を説明する。学習モードで変化が起こった特徴量については、今後(運用モード)においても同じようなタイミングおよび態様の変化が起こると予測できる。しかし、学習モードで変化が起こっていない特徴量については、今後どう変化が起こるかを予測できないので、運用モードにおいても当該変化が起こっていない特徴量を個別に監視し続ける必要がある。
【0064】
さらに、もし変化が起こっていない特徴量を処理(2)で特に有効な特徴量としないで、処理(3)で説明する変化が起こった特徴量と共に、相関および/または類似性を評価して統合を行なうと、当該変化が起こっていない特徴量は全て1つの変化の起こっていない特徴量にまとめられてしまうからである。しかし、上述のように変化が起こっていない特徴量においては、今後もし変化が起こる場合の変化のタイミングおよび態様が予想できないので、個別に監視し続ける必要がある。
【0065】
そのため、変化が起こっていない特徴量について、処理(3)で特徴量の統合を行なう前に、処理(2)で各々を有効な特徴量とすることで、運用モードで個別に監視し続けることとする。
【0066】
一方、変化が起こった特徴量に関しては、学習モードで起こった変化と同様な変化が運用モードにおいても起こると想定される。従って、学習モードで類似した変化が起こった特徴量は、運用モードにおいても類似した変化を起こすと考えられる。例えば、学習モードで同じ波形を示す2つの特徴量は、運用モードにおいては当該特徴量に関連する異常が生じるまでは、同じ波形を示し続ける可能性が高い。よって、処理(3)により、学習モードにおいて変化が類似した複数の特徴量を統合して1つの有効な特徴量とすれば、運用モードにおいては当該有効な特徴量のみを監視することで、実質的には複数の特徴量の変化を検出できると考えられる。
【0067】
ここで、変化が類似した特徴量とは、典型的には、種類、サイズおよび動作状態が共通する複数の部材の同じセンサまたは互いに近接した位置に設置されたセンサから測定された信号を基に、特徴量の算出前に近接した周波数帯域でフィルタ処理されている複数の特徴量を示す。当該複数の部材の特徴量とは、例えば、同じ回転速度かつ同じ負荷の下で、回転される同じサイズの歯車の振動の実効値である。運用モードにおいて、当該実効値は、関連する異常が生じるまでは同じ値であり続けることが予想される。例えば、軸受に異常が発生した場合、特定の周波数帯域の振動が増加する。振動は伝搬するので、当該軸受の近傍に設置された複数のセンサで、当該振動が測定される。このため、近接した振動センサの信号から算出された実効値(特徴量)のうち、当該周波数帯域を含むようなフィルタ処理をされていたものは全て上昇する。従って、例えば当該歯車が20個有る場合に、20個の当該軸受の近傍に3個の振動センサがある場合に、3個の特徴量のトレンドを監視する手間に代えて、統合した1個の有効な特徴量のトレンドを監視することができるので、監視の効率がよくなる。
【0068】
反対に、変化が類似しない2つの特徴量とは、典型的には、種類、サイズおよび動作状態が異なる複数の部材に設置されたセンサまたは互いに離れた位置に設置されたセンサから測定された信号を基にした複数の特徴量および特徴量算出前に異なる周波数帯域でフィルタ処理されている複数の特徴量を示す。このような2つの特徴量は、異なる傾向のトレンドグラフを示すので、統合すれば、元々の2つの特徴量が正しく検出できなくなる。よって、この2つの特徴量は、互いに統合せず、適宜それぞれの変化が類似した特徴量同士で統合される。よって、この2つの特徴量は、運用モードにおいても個別に監視される。
【0069】
なお、後述するように、本明細書では特徴量同士の類似度の大小は、関連性評価値の大小で示される。
【0070】
すなわち、学習モードにおいて監視対象の装置の状態を示す多数の特徴量が適宜統合され、少数の有効な特徴量として抽出されるので、運用モードにおいては、少数の有効な特徴量のみを監視すれば、監視対象の装置の多様な異常を検出することができる。すなわち、監視対象の装置の状態を効率良く監視することができる。
【0071】
このようにして、処理(1)~(3)により、監視すべき少数の「有効な特徴量」を抽出し、有効な特徴量のみを監視することで、監視対象全体を監視することが可能になる。
【0072】
<運用モードの概要>
再び図6を参照して、運用モードにおいて、選択部5は、データ取得部120から特徴量を受信し、受信した特徴量から有効な特徴量を抽出する。選択部5は抽出部3において行なわれた処理で抽出された有効な特徴量のリストを参照して、統合処理を行なうことにより、有効な特徴量を抽出する。例えば、選択部5は、上記処理(3)により、第1~第4の特徴量F1(t)~F4(t)を、上記数式(1)を用いて1つの有効な特徴量である第5の特徴量F5(t)に統合する。
【0073】
運用モードにおいて、監視部2は、記憶部130からから有効な特徴量を読み出す。監視部2は、当該有効な特徴量を、学習部1で算出した異常判断しきい値と比較する。監視部2は、有効な特徴量が異常判断しきい値以上である場合、有効な特徴量が異常であると判定し、すなわち風力発電装置10の機械要素に異常が生じていると診断し、警告を出力する。
【0074】
運用モードにおいて、変化検出部4は、監視部2とは別に有効な特徴量の変化を検出する。変化検出部4は、トレンド変化が変化検出しきい値以上である特徴量を、変化が起こった特徴量であると判定し、当該特徴量の再抽出および再学習を実行する。
【0075】
<学習モードの詳細な説明>
以下、学習モードについてより詳細に説明する。
【0076】
学習モードは、監視対象の装置が正常な状態(例えば当該装置の設置直後)におけるセンサ70の検出信号を基に、異常判断しきい値および変化検出しきい値を算出し、かつ、有効な特徴量を抽出するモードである。
【0077】
図7は、学習モードに関する制御装置330の構成を説明するブロック図である。制御装置330において、データ取得部120、記憶部130およびデータ演算部140(抽出部3および学習部1)が学習モードにおいて使用される。
【0078】
データ取得部120は、学習モードにおいて、正常な状態で取得した特徴量のトレンドを記憶部130に記憶すると共に、抽出部3に送信する。
【0079】
抽出部3は、データ取得部120から受信した特徴量のトレンドから、上記処理(1)~(3)により有効な特徴量を抽出し、当該有効な特徴量について変化検出しきい値を算出する。抽出部3は、学習部1に有効な特徴量のリストを送信する。抽出部3は、有効な特徴量のリストと変化検出しきい値とを記憶部130に送信する。なお、記憶部130に記憶された変化検出しきい値は、変化検出部4に送信され、運用モードにおいて特徴量の変化の検出に使用される(図6参照)。
【0080】
学習部1は、記憶部130から読み出した有効な特徴量のトレンドを基に、統計的手法等を利用して、異常判断しきい値を算出する。
【0081】
すなわち、学習モードにおける制御装置330の動作は、次の動作(1)および動作(2)で構成される。
【0082】
動作(1):抽出部3が全ての特徴量のトレンドから「有効な特徴量」を抽出する。
動作(2):学習部1は、有効な特徴量のトレンドから異常判断しきい値を算出する。
【0083】
以下、動作(1)、(2)の各々について詳細に説明する。
図8および図9は、上記動作(1)を説明するためのフローチャートである。
【0084】
図8は、変化検出しきい値の算出法を説明するフローチャートであり、抽出部3により実行される。
【0085】
ステップS01において、抽出部3は、記憶部130から特徴量のトレンドを読み出す。ステップS02において、抽出部3は、特徴量のトレンドの標準偏差σおよび平均値μを算出する。ステップS03において、抽出部3は、rを所定の係数としたとき、抽出部3は、μ±r*σを変化検出しきい値として設定する。ここで、rは正の数であり、例えば3である。ステップS04において、抽出部3は、記憶部130に変化検出しきい値を記憶し、処理を終了する。
【0086】
図9は、有効な特徴量の抽出法を説明するフローチャートであり、図8のフローチャートの後に、抽出部3により実行される。ステップS11において、抽出部3は、記憶部130から特徴量トレンドと変化検出しきい値とを読み出す。ステップS12において、抽出部3は、トレンド変化が変化検出しきい値より小さい特徴量があるか否かを判定する。
【0087】
トレンド変化が変化検出しきい値より小さい特徴量が有る場合(ステップS12にてYES)、ステップS17において、抽出部3は、トレンド変化が変化検出しきい値より小さい特徴量を、有効な特徴量とする。続くステップS18において、抽出部3は有効な特徴量を記憶部130に記憶する。
【0088】
一方、抽出部3は、トレンド変化がステップS12で変化検出以上である特徴量からも、ステップS13~S16により有効な特徴量を抽出し、記憶部130に保存する。すなわち、ステップS13~S16においては、ステップS12でトレンド変化が変化検出しきい値以上である特徴量が処理される。
【0089】
ステップS18の後、もしくは、ステップS12においてトレンド変化が変化検出しきい値以上である特徴量が無い場合(ステップS12にてNO)、抽出部3はステップS13に処理を進める。抽出部3は、ステップS13において、ステップS12で変化検出しきい値以上である特徴量について、特徴量のトレンド変化の関連性を評価するための指標である「関連性評価値」を算出する。関連性評価値とは、特徴量のトレンド変化の関連性を評価する値であり、2つの特徴量の類似度を示す。関連性評価値の算出法については後に詳細に説明する。
【0090】
続いて、ステップS14において、抽出部3は、関連性評価値を用いて特徴量をグルーピングする。このグルーピングにより、関連性の高い特徴量が同一のグループにまとめられる。グルーピングは、類似している特徴量単位で1つのグループを作り、後にグループ内の特徴量を統合するための布石である。具体的なグルーピングの方法については後に詳述する。
【0091】
ステップS15において、抽出部3は、それぞれのグループから特徴量を1つ抽出して「有効な特徴量」とする。有効な特徴量は、グループ内から代表値を選んでもよいし、グループ内の特徴量から新たな特徴量を算出してもよい。この有効な特徴量の抽出により、監視しなくてはならない特徴量の数が減るため、監視の効率を高めることができる。
【0092】
続いて、ステップS17において、抽出部3は、記憶部130に有効な特徴量を記憶し、処理を終了する。
【0093】
これらの処理により、記憶部130には、変化が起こらなかった特徴量、および、変化が起こった特徴量から抽出された特徴量が、有効な特徴量として記憶される。
【0094】
<関連性評価値>
次に、関連性評価値について詳しく説明する。関連性評価値とは、上記のとおり、特徴量のトレンド変化の関連性を評価するための値であり、2つの特徴量の類似度を示す。関連性評価値の算出方法の例として、以下に第1~第3の算出方法の例を挙げる。また、第1~第3の方法で算出された値を算術演算(乗算・加算等)で統合した値を、関連性評価値として使用してもよい。
【0095】
(1)第1の算出方法
関連性評価値の第1の算出方法は、トレンドの変化点の時刻差に基づいた関連性評価値を算出する方法である。具体的には、まず、第1の特徴量のトレンド(以下、第1のトレンドとも称する)、および、第2の特徴量のトレンド(以下、第2のトレンドとも称する)について、各々変化点を算出する。次に、第1のトレンドの変化点と第2のトレンドの変化点との時刻差を基に2つの特徴量の関連性を評価する(後に詳述)。なお、第1の算出方法では、トレンドの変化点の時刻差が小さいほど関連性評価値が高くなるように定義する。これは後述するように、関連性評価値に関してしきい値を設け、関連性評価値がしきい値以上であれば、第1および第2の特徴量が類似しているという処理を行なうためである。
【0096】
(1-1)トレンドの変化点を探す方法
まず、トレンドの変化点を探す方法としては、例えば、トレンドの2階微分を行ない、2階微分が0を取る点、すなわち変曲点を探す方法がある。
【0097】
図10は、変曲点の定義を説明する図である。図10を参照して、トレンドのグラフにおいて、横軸(t)は時間、縦軸F(t)は特徴量を指す。y=F(t)のグラフにおいて、F(t)の1回微分y=F’(t)は、y=F(t)の接線の傾きを示す。よって、2階微分F”(t)は、接線の傾きの変化を示す。
【0098】
ここで、F”(t)の符号の正負が変化する点に着目する。F”(t)は接線の傾きの正負が変化する点であることから、接線の傾きが増加から減少に、または減少から増加に転じる点であり、すなわち、トレンドの曲がり方が変わる点(変曲点)である。従って、変曲点は、トレンドの変化点の代表的な例の1つである。従って、本明細書の関連性評価値の第1の算出方法において、トレンドの変化点とはトレンドの変曲点のことを指すとする。
【0099】
次に、上記の方法で算出した変化点の時刻差を基に評価値を算出する方法としては、例えば、(1-2)変化点の時刻差の逆数の和を変化点数で除算する方法、および、(1-3)トレンドの2階微分を乗算する方法(詳しくは後述)を用いることができる。以下にこの2つの方法を説明する。
【0100】
(1-2)変化点の時刻差の逆数の和を変化点数で除算する方法
抽出部3は、最初に、全ての特徴量から選んだ2つの特徴量の各々について、変化点を上記の方法で算出する。次に、抽出部3は、当該2つの特徴量のうち、変化点の数が多い方を第1の特徴量F1(t)、変化点の数が少ない方を第2の特徴量F2(t)とする。
【0101】
図11は、2つの特徴量の変化点の時刻差の算出方法の一例を説明する図である。図11の横軸は時刻t、縦軸は時刻tにおける第1の特徴量F1(t)および第2の特徴量F2(t)を示す。第1の特徴量F1(t)の変化点(以下、第1の変化点とも称する)は検出された時刻(t11,t12,t13・・・)順にP11,P12,P13・・と示す。第2の特徴量F2(t)の変化点(以下、第2の変化点とも称する)は検出された時刻(t21,t22,t23・・・)順にP21,P22,P23・・と示す。
【0102】
ここで、第1の変化点P11,P12,P13・・の各々に対し、第2の変化点の中から最も検出された時刻が近い変化点を選択し、選択した変化点との時刻差tdを計算する。図11に示すように、第1の変化点P11に対し、最も検出された時刻が近い第2の変化点はP21であるので、当該時刻差td1は、td1=|t21-t11|と示される。同様に、第1の変化点P12に対し、最も検出された時刻が近い第2の変化点はP22であるので、P12の当該時刻差td2=|t22-t12|である。なお、第1の変化点P13に最も近い第2の変化点もP22であるので、P13の当該時刻差td3=|t22-t13|である。
【0103】
さらに、当該時刻差tdが小さいほど関連性評価値を高くするため、当該時刻差の逆数tr=1/tdをとる。次に、この逆数trを全ての第1の変化点について算出する。ここで第1の変化点は全部でi_all個あるとし、さらに、全て((i_all)個)の第1の変化点についてのtrの和をtsとすると、tsは次式(2)で示される。
【0104】
【数2】
【0105】
これにより、第1の変化点と第2の変化点の時刻差が小さいほど、和tsが高くなるが、一方で、合計した時刻差tdの数(すなわち第1の変化点の数)が多いほど関連性評価値が高くなる。このように、第1の変化点の数が関連性評価値に与える影響をキャンセルするために、和tsを第1の変化点の数で割った値を関連性評価値R1とすると、R1は次式(3)で示される。
【0106】
R1=ts/(第1の変化点の数)・・・(3)
このようにすれば、関連性評価値R1は、第1および第2の特徴量F1(t)およびF2(t)の変化点の時刻差が小さいほど、すなわち、両特徴量のトレンド変化が近い時間に起こる傾向が強いほど、高い値を示すことになる。よって、関連性評価値R1は、トレンド変化が生じた時刻という指標に基づいて、第1および第2の特徴量F1(t)およびF2(t)の類似度が高いほど、大きい値を示すことになる。
【0107】
(1-3)トレンドの2階微分を乗算する方法
次に、トレンドの2階微分を乗算する方法について説明する。
【0108】
図12は、トレンドの2階微分の乗算に基づく関連性評価値の算出方法を概念的に説明するための図である。第1の特徴量F1(t)および第2の特徴量F2(t)が仮に同一の時刻に変化点を有するトレンドであるとする。特徴量F1(t)およびF2(t)に関して、1つ目の変化点P11、P21の検出された時刻t=t11=t21においては、F1”(t)=F2”(t)=0である。また、2つ目の変化点P12、P22の検出された時刻t=t12=t22においても、F1”(t)=F2”(t)=0である。しかし、t11<t<t12においては、|F1”(t)|>0かつ|F2”(t)|>0である。
【0109】
従って、2つの特徴量のトレンドの2階微分の乗算の絶対値をr2=|F1”(t)×F2”(t)|とすると、t=t11=t21においては、r2=0であり、t11<t<t12においては、r2>0である。
【0110】
よって、変化点が同一である2つの特徴量においては、共に変化点である時刻tにおいてはr2=0であり、その他の時刻tにおいてはr2>0となる。
【0111】
一方、再び図12を参照すると、第3の特徴量F3(t)は、特徴量F1(t)およびF2(t)とは異なる時刻t31に変化点(P31)が検出される特徴量である。
【0112】
よって、第1の特徴量F1(t)と第3の特徴量F3(t)のトレンドの2回微分の乗算の絶対値r2は、時刻t=t11=t21または時刻t=t31においては、r2=0であり、その他の時刻tについては、r2>0である。
【0113】
よって、変化点が異なる2つの特徴量においては、どちらかが変化点である時刻tにおいてはr2=0であり、その他の時刻tにおいてはr2>0である。
【0114】
すなわち、2つのトレンドにおいて、変化点が同一の時刻に起こる場合よりも、変化点が異なる時刻に起こる場合の方が、r2の値は小さくなる傾向がある。
【0115】
よって、全ての時刻t(0≦t≦t_all)について、r2の値を足し合わせた値を関連性評価値R2とすると、R2は次式(4)で表される。
【0116】
【数4】
【0117】
すなわち、R2は、トレンドの変化という指標に基づいて、第1および第2の特徴量F1(t)およびF2(t)の類似度が高いほど、大きい値を示すことになる。このようにして、抽出部3は、複数の特徴量の経時的な変化の変化点の時刻を比較することより、特徴量間の関連性を評価することができる。
【0118】
(2)第2の算出方法
関連性評価値の第2の算出方法は、2つの特徴量のトレンド変化の類似度を関連性評価値とする方法である。すなわち、類似度が高いほど関連性評価値が高くなるように設定する。具体的には、類似度は例えば正規化した特徴量同士のユークリッド距離の逆数で表される。
【0119】
(2-1)特徴量の正規化
より詳細に説明すると、まずユークリッド距離を取る下準備として、全ての特徴量を正規化する。正規化の方法としては、例えば、全ての特徴量の最大値および最小値を同一とする方法がある。例えば、全ての特徴量の最大値を1、最小値を0とすることで全ての特徴量を正規化できる。
【0120】
図13は、特徴量の正規化を概念的に説明するための図である。図13を参照して、2つの特徴量F1(t)とF2(t)は、共に振動するパターンを示すが、その振幅およびベースラインの高さが異なる。特徴量F1(t)およびF2(t)に対して、両者の最大値、最小値を同一とする正規化を行なった結果である、正規化後の特徴量をf1(t)およびf2(t)とする。f1(t)およびf2(t)では振幅およびベースラインの高さの差がキャンセルされ、振動のパターンのみを比較することができる。
【0121】
また、他の正規化の方法としては、中央値および分散を用いる方法がある。たとえば、全ての特徴量について、各々の特徴量の所定の期間の全ての時刻の値の中央値を計算する。次に、各特徴量の全ての時刻の値から中央値の値を減算した値を、さらに中央値で除算した値を用いることで、中央値および分散を正規化できる。
【0122】
(2-2)ユークリッド距離の算出
このように正規化した2つの特徴量に対し、各時刻の特徴量間のユークリッド距離を取り、当該ユークリッド距離を全ての時刻で足し合わせた値の逆数を関連性評価値とすることができる。
【0123】
図14は、特徴量間のユークリッド距離の一例を説明する図である。図14を参照して、例1では、例えばほぼ挙動が一致する特徴量F1(t)およびF2(t)がそれぞれ正規化され、結果としてほぼ同じ値を示すようになったf1(t)およびf2(t)のグラフが例示されている。この場合、各時刻について、正規化された特徴量f1(t)およびf2(t)の値の差|f2(t)-f1(t)|(すなわちユークリッド距離)を算出すると、全ての時刻tについてユークリッド距離はほぼ0に近くなる。よって、当該ユークリッド距離を全ての時刻t(0≦t≦t_all)について合計した値をS12とすると、S12は以下の式(5)で表される。なお、S12はf1(t)とf2(t)のグラフの間の面積でもある。
【0124】
【数5】
【0125】
すなわち、ほぼ挙動が一致する特徴量同士であれば、全てのtについてのユークリッド距離が小さいので、S12の値も小さくなる。
【0126】
一方、再び図14を参照して、例2では、特徴量F1(t)とF3(t)を正規化した結果である、f1(t)およびf3(t)のグラフが例示されている。f1(t)とf3(t)は挙動が大きく異なる。この場合、2つのグラフのユークリッド距離|f3(t)-f1(t)|は、ほとんどの時刻tにおいて大きな値となる。
【0127】
したがって、当該ユークリッド距離を全てのt(0≦t≦t_all)について合計した値をS13とすると、S13は以下の式(6)で表される。なお、S13はf1(t)とf3(t)のグラフの間の面積でもある。
【0128】
【数6】
【0129】
したがって、挙動が大きく異なる特徴量同士であれば、ユークリッド距離は平均して大きくなるので、S13の値も大きくなる。
【0130】
よって、特徴量のトレンド変化の類似度が高いほど、Sの値は小さくなる。よって、関連性評価値R3=1/Sとすると、R3はトレンド変化の類似度が高いほど、大きな値を示すことになる。このようにして、抽出部3は、複数の特徴量を正規化し、正規化した複数の特徴量間の差分の逆数を比較することにより、関連性を評価することができる。
【0131】
関連性評価値の第3の算出方法は、2つの特徴量の正規化相関係数の絶対値を関連性評価値とする方法である。なお、正規化相関係数は、2つの変数の関係性の強さを示す指標の1つとして知られている。
【0132】
関連性評価値を算出する準備として、まず全ての時刻t(0≦t≦t_all)においての、特徴量F1(t)と特徴量F2(t)各々の平均値F1(t)ave、F2(t)aveを次式(7),(8)で算出する。
【0133】
【数7】
【0134】
【数8】
【0135】
ここで、正規化相関係数をIとすると、Iは次式(9)で表される。
【0136】
【数9】
【0137】
この正規化相関係数Iの絶対値を関連性評価値R3とすると、R3=|I|である。
上述したとおり、正規化相関係数は、2つの変数の関係性の強さの指標である。よって、R3は2つの特徴量のトレンド変化の類似度が高いほど、大きい値を示す。このように、抽出部3は、特徴量のトレンドの正規化相関に基づいて、特徴量の関連性を評価することができる。
【0138】
以上のように、第1~第3の方法のいずれかを用いることにより、抽出部3は、特徴量同士が類似しているほど評価値が高くなるように、関連性評価値を算出することができる。なお、関連性評価値の定義および算出方法は上記の方法に限定されず、特徴量同士のトレンド変化の関連性を評価するための値およびその値を算出できる方法であればよい。
【0139】
<グルーピング>
次に、グルーピングについて詳しく説明する。本明細書において、グルーピングは、関連性評価値の高い特徴量を同じグループにまとめることを目的とする。このようなグルーピングには、例えば、次の2つの方法がある。
【0140】
第1のグルーピング方法は、関連性の高い特徴量から順に統合していく方法である。その処理フローを図15に示す。
【0141】
(1)関連性の高い特徴量から統合していくグルーピング法
図15は、関連性の高い特徴量から順に統合していくグルーピング法を説明するフローチャートであり、抽出部3により実行される。
【0142】
ステップS20により、抽出部3は、記憶部130から、特徴量に関する関連性評価値を読み出す。ステップS21において、抽出部3は、最も関連性評価値の高い特徴量の組み合わせを選出する。
【0143】
ステップS22において、抽出部3は当該、最も関連性評価値の高い特徴量の関連性評価値の値(以下、「関連性評価値の最大値」とも称する)が関連性しきい値以上であるか否かを判定する。関連性評価値の最大値が関連性しきい値以上である場合(ステップS22においてYES)、ステップS24において抽出部3は、当該特徴量を統合する。当該統合の方法としては、2つの特徴量を各々正規化後、2つの特徴量の平均をとる方法を用いることができる。当該統合の方法の他の例として、2つの特徴量のうち一方の特徴量を代表値として他方の特徴量を破棄する方法等、および、2つの特徴量を正規化後加算して、再度正規化する方法等をとることができる。
【0144】
ステップS24の後、抽出部3はステップS25において、統合した特徴量と、その他の特徴量との関連性評価値を再計算する。続いて、抽出部3は、再びステップS20の処理に戻り、関連性評価値の最大値が、関連性しきい値より小さくなるまで、ステップS20~S22を繰り返す。
【0145】
この関連性評価値の最大値が関連性しきい値より小さい場合というのは、残った特徴量同士は全て関連性が低い、すなわち、それぞれ固有の個性を有する、独立した特徴量であることを示す。また、関連性が高い、すなわち、それぞれ類似した個性を持つ特徴量同士は既に統合されていることを示す。よって、関連性評価値の最大値が、関連性しきい値より小さい場合において、残った特徴量は、全て運用モードで監視されることが望ましい「有効な特徴量」であると考えられる。なお、この関連性しきい値については、分析者が上記目的を鑑みて適切な値を設定できるように構成する、もしくは、コンピュータによる統計的処理により特徴量を基に自動で算出されるように構成することが好ましい。
【0146】
よって、ステップS22において、関連性評価値の最大値が関連性しきい値より小さい場合(ステップS22にてNO)、抽出部3はステップS24において記憶部130に残った特徴量を有効な特徴量として記憶し、処理を終了する。このようにして、抽出部3は、関連性の高い特徴量を順にグルーピングすることで、有効な特徴量を算出する。
【0147】
(2)関連性の低い特徴量から除いていくグルーピング法
図16は、関連性の低い特徴量から除いていくグルーピング法の概念を説明する図である。
【0148】
(2-1) 図16を参照して、抽出部3は、まず全ての特徴量を1つのグループにする。ここではF1~F10の10個の特徴量を例示している。また、それぞれの特徴量の類似度が高い、すなわち関連性評価値が高い特徴量同士を、丸、三角、四角の図形で示している。すなわち、丸で示された特徴量F1は同じ丸で示された特徴量F3と類似度が比較的高い(例えば、関連性評価値が関連性しきい値以上である)が、三角で示された特徴量F2と類似度は比較的低い(例えば、関連性評価値が関連性しきい値未満である)。
【0149】
(2-2) 次に、抽出部3は、関連する特徴量毎にグループ分けする。図18で詳述するが、ここでは、グループを複製し、複製したグループから最も関連性の低い2つの特徴量を片方ずつ除くという処理を繰り返し行なう。その結果、図示したように、グループ内の最も関連性の低い2つの特徴量の関連性評価値が元のグループより上がった複数のグループが生成できる。ここでは、グループ内の特徴量数が多い順にグループG1~G5としている。
【0150】
ただし、(2-2)の結果では同じ要素が複数のグループに存在する(例えば図16ではグループG1とG5の両方に特徴量F5が存在し、グループG3とG4の両方に特徴量F8が存在する)等の重複がみられる。
【0151】
(2-3) よって、抽出部3は、重複する特徴量を有するグループ同士を統合する。これにより、特徴量の重複度が高いグループは統合される。
【0152】
(2-4) 最後に、抽出部3は、グループ毎にグループ内の特徴量を統合し、「有効な特徴量」とする。例えば、図16では丸のグループの特徴量F1,F3,F5,F6を統合することで、有効な特徴量Faが算出されている。特徴量F1,F3,F5,F6は互いに類似しているので、有効な特徴量Faは、特徴量F1,F3,F5,F6と同じ特性を有する。
【0153】
図17は、関連性の低い特徴量から除いていくグルーピング法の具体的な処理を説明するフローチャートであり、抽出部3により実行される。ステップS30において、抽出部3は、記憶部130から関連性評価値、関連性しきい値、重複しきい値を読み出す。
【0154】
(2-1)全ての特徴量を1つのグループにする
ステップS31において、抽出部3は、全ての特徴量を1つのグループにグルーピングする。
【0155】
(2-2)関連する特徴量毎にグループ分け
ステップS32,S33において、抽出部3は、関連する特徴量毎にグループ分けする。そのために、抽出部3は、グループの複製、および、グループ内の関連性評価値を上げる処理を行なう。
【0156】
ステップS32において、抽出部3はグループを複製する。ステップS33において、抽出部3は、関連性評価値の最も低い組み合わせの特徴量を2つのグループで1つずつ削除する(図18で詳述)。
【0157】
図18は、図17のステップS32,S33の処理を概念的に説明する図である。図17には、1回目のステップS32,S33の処理、および、ステップS37から処理が戻った後の2回目のステップS32,S33の処理が例示されている。
【0158】
図18を参照して、1回目のステップS32,S33の処理を説明する。ステップS32では、ステップS31で生成された全ての特徴量F1~Fnがグルーピングされた1つのグループが複製される。なお、本明細書において、以下n,mは自然数を指す。ステップS33では、複製前のグループ内で関連性評価値の最も低い2つの特徴量を複製後の2つのグループで片方ずつ消去する。例えば、図18では、関連性評価値の最も低い2つの特徴量がF1,Fnである場合、片方のグループから特徴量F1を、もう片方のグループから特徴量Fnを消去している。このように処理することで、全ての特徴量はどこかのグループに存在したまま、グループ内の関連性評価値は上昇する。
【0159】
再び図17を参照して、続くステップS34~S37において、抽出部3は、関連性評価値が高いグループを隔離する。
【0160】
ステップS34において、抽出部3はグループ内の特徴量が1つであるグループを「隔離」する。関連する特徴量毎のグループ分けにおいて、隔離とは、ステップS38に至るまで処理が施されず、ステップS38で再び使用されることを示す。ステップS35において、抽出部3は、グループ内の関連性評価値の平均値を算出する。ステップS36において、抽出部3は、関連性評価値の平均値が関連性しきい値以上のグループも隔離する。ステップS37において、抽出部3は、隔離されていないグループがあるか否かを判定する。隔離されていないグループがある場合(ステップS37においてYES)、抽出部3は、ステップS32に処理を戻す。
【0161】
よって、ステップS34~37の結果、グループ内の特徴量の関連性評価値の高いグループ、すなわち、類似度が高い特徴量だけになったグループが隔離される。従って、グループ内の特徴量の類似度が低いグループについて、ステップS32,33のグループ内の特徴量の類似度を上げる処理が再び施される。
【0162】
再び図18を用いて2回目のステップS32,S33の処理を説明する。ステップS32では、ステップS37で残ったグループがそれぞれ2つに複製される。ステップS33では、複製前のグループ内で関連性評価値の最も低い2つの特徴量を複製後の2つのグループで片方ずつ消去する。例えば、図18の2回目のステップS32で生成されたグループを左からG1~G4と名付けると、グループG1で最も関連性評価値の最も低い2つの特徴量がF2,Fnである場合、グループG1から特徴量F2が、グループG2から特徴量Fnがそれぞれ消去される。一方、グループG3で最も関連性評価値の最も低い2つの特徴量がF1,F(n-1)である場合、グループG3から特徴量F1が、グループG4から特徴量F(n-1)がそれぞれ消去される。すなわち、ステップS32,33を繰り返し、グルーピングされた特徴量を関連性の低いものから順に除いていく結果、図16の(2-2)に示すように、類似する特徴量同士が集まったグループができる。
【0163】
(2-3)重複する特徴量を有するグループ同士を統合する。
次に抽出部3は、ステップS38~S48で、構成する特徴量が重複するグループを統合する。
【0164】
ステップS37において全てのグループが隔離されている場合(ステップS37においてNO)、ステップS38において、抽出部3は、グループを要素数(すなわちグループに含まれる特徴量の数)の多い順にG1~Gnとする。ステップS39において、抽出部3はm=1とする。
【0165】
ステップS40において、抽出部3は、重複評価値|Gn∩Gm|/|Gn|が重複しきい値以上か否かを判定する。ここで、|Gn∩Gm|はグループGnとGmに共通に含まれる特徴量の数、|Gn|はグループGnに含まれる特徴量の数を示す。
【0166】
図19は、重複評価値を概念的に説明する図である。例1において、Gn={F1,F2,・・・,F10}、Gm={F1,F2,・・・,F9,F11,F12,・・・}とする。すなわち、Gn∩Gm={F1,F2,・・・,F9}であり、グループGnに含まれ、かつ、グループGmに含まれない特徴量はF10である。この場合、|Gn|=10,|Gn∩Gm|=9なので、重複評価値|Gn∩Gm|/|Gn|は0.9である。なお、重複しきい値は、分析者が事前に手動で設定できる値であり、例えば0.9である。また、重複しきい値を、残ったグループの重複評価値等から、統計処理等を行ない自動で計算されるように構成してもよい。以上より、|Gn∩Gm|/|Gn|が重複しきい値以上とは、グループGnに含まれる要素の重複度が高いということになる。
【0167】
|Gn∩Gm|/|Gn|が重複しきい値以上である場合(S40においてYES)、ステップS41において、抽出部3は、グループGmにグループGnを統合する。より正確には、グループGmに、グループGnに含まれるグループGmと重複していない要素(特徴量)を追加する。
【0168】
再び図19の例1を参照して、重複評価値|Gn∩Gm|/|Gn|=0.9≧重複評価値であるので、グループGnがグループGmに統合される。よって、グループGmに、グループGnに含まれるグループGmと重複していない特徴量であるF10が追加される。
【0169】
一方、|Gn∩Gm|/|Gn|が重複しきい値未満である場合(S40においてNO)、抽出部3は、グループGnの統合を行なわず、ステップS42に処理を進める。
【0170】
図19の例2では、Gn={F1,F2,・・・,F10}、Gm={F1,F2,・・・,F8,F11,F12,・・・}の例が示されている。すなわち、特徴量F10が|Gn∩Gm|に含まれない点が例1と異なる。よって、|Gn∩Gm|/|Gn|=0.8となり、重複しきい値未満である。このような場合、グループGnは統合されない。
【0171】
ステップS42において、抽出部3は、mが(n-1)以下であるか否かを判定する。すなわち、グループGnがグループG1~G(n-1)の各々に重複しているかを確認し、重複している場合に統合するといった処理を行なったかを判定する。
【0172】
mが(n-1)以下である場合(S42においてYES)、ステップS43において、抽出部3は、mの値に1を加え、処理をステップS40に戻す。
【0173】
ステップS42においてmが(n-1)より大きい場合(S42においてNO)、ステップS44において、抽出部3は、1回でもグループGnが他のグループに統合されたか否かを判定する。1回でもグループGnが他のグループに統合された場合(ステップS44においてYES)、抽出部3は、ステップS45においてグループGnを削除し、ステップS47に処理を進める。1回もグループGnが他のグループに統合されていない場合(ステップS44においてNO)、抽出部3は、ステップS46でグループGnを隔離した後、ステップS47に処理を進める。すなわち、グループGnは他のグループと要素が多く重複しない、独立の個性を持ったグループである。
【0174】
ステップS47において、抽出部3は、nが1以下であるか否かを判定する。nが1より大きいとき(ステップS47にてNO)、抽出部3はステップS48においてnの値を1小さくして、ステップS38に処理を戻す。
【0175】
よって、ステップS38~S48で、重複度が高いグループは統合され、独立の個性を持ったグループのみが隔離されて残ることになる。
【0176】
(2-4)グループ毎にグループ内の特徴量を統合し、「有効な特徴量」とする。
nが1以下のとき(ステップS47にてYES)、グループの数は1以下なので、統合することができない。よって、抽出部3は、最後に残ったグループG1と、ステップS49において隔離されたグループにおいて、グループ毎に有効な特徴量を算出する。有効な特徴量は、上述の通り、加算、平均または代表値の選出等の手段で統合する。続くステップS50において、抽出部3は、記憶部130に有効な特徴量を記憶し、処理を終了する。
【0177】
ステップS49においては、重複度が高くない特徴量を持ったグループについて、それぞれ特徴量が算出される。なお、各グループ内の要素(特徴量)はステップS37までの処理で互いに類似したものだけになっている。よって、それぞれに個性を持った特徴量が隔離されたグループの数だけ算出される。換言すると抽出部3は、抽出部3に入力された複数の特徴量から、経時的な傾向が互いに独立する少なくとも1つの特徴量を有効な特徴量として抽出する。
【0178】
なお、ステップS40~S43の処理ループにおいて、グループGnは、重複評価値|Gn∩Gm|/|Gn|が重複しきい値以上であるグループGm全てに統合され、統合されたグループ同士が重複しきい値以上であれば再度統合されるという方法で、共通の特徴量を有するグループが統合されていく。しかし、共通の特徴量を有するグループの統合の方法は上記の例に限定されず、共通の特徴量を有するグループ同士が適切に統合されるという目標を達するものであればよい。例えばグループGnは|Gn∩Gm|/|Gn|が最も大きくなるグループGmにだけ統合される等の別の方法をとることも可能である。
【0179】
以上のように、本実施の形態に係る状態監視システム100の学習モードでは、監視対象の装置の各部の挙動を監視する多数のセンサから検出された大量の特徴量から、トレンドの変化が変化検出しきい値以上の特徴量について、(1)トレンドの関連性の高い特徴量が同じグループに入るようにグルーピングされ、(2)当該グループ内で特徴量の統合を行なうことで、各グループのトレンド変化を特徴付ける少数の有効な特徴量が抽出される。よって、次に説明する運用モードでは当該有効な特徴量を監視するだけで、監視対象の装置の多様な異常を検出することが可能となる。
【0180】
<運用モードの詳細な説明>
続いて、運用モードを詳しく説明する。学習モードでは、制御装置330は多数の特徴量から少数の有効な特徴量を抽出した。運用モードでは、制御装置330は、当該少数の有効な特徴量を監視することで、監視対象の装置の状態を監視する。運用モードでは、制御装置330は、センサ70から取得した検出信号を分析する。運用モードの構成を図20に示す。
【0181】
図20は、運用モードに関する制御装置330の構成を説明するブロック図である。制御装置330において、データ取得部120、記憶部130、データ演算部140(選択部5、変化検出部4、再抽出部6、再学習部7、監視部2)および出力部150が運用モードにおいて使用される。
【0182】
選択部5は、特徴量および有効な特徴量のリストを記憶部130から読み出す。選択部5は、有効な特徴量のリストに基づいて、全ての特徴量から有効な特徴量を、選択または統合して抽出する。
【0183】
変化検出部4は、選択部5から有効な特徴量を、記憶部130から変化検出しきい値を読み出す。変化検出部4は、有効な特徴量の中から、経時的な変化が変化検出しきい値以上である有効な特徴量を「(着目すべき)変化が起こった特徴量」と判定し、変化が起こった有効な特徴量のリストを再抽出部6に出力する。
【0184】
再抽出部6は、変化検出部4から変化した有効な特徴量のリストを受信するとともに、記憶部130から変化した有効な特徴量のトレンドを読み出す。再抽出部6は、変化が検出された有効な特徴量について、当該有効な特徴量から新たな有効な特徴量を抽出する再抽出を行なう。再抽出部6は、新たな有効な特徴量のリストを再学習部7および記憶部130に送信する。
【0185】
再学習部7は、再抽出部6から有効な特徴量のリストを受信し、記憶部130から有効な特徴量のトレンドを読み出す。再学習部7は、新たな有効な特徴量について、学習モードで実施する学習部と同じ処理を行ない、異常判断しきい値を算出する。再学習部7は、当該異常判断しきい値を記憶部130に記憶する。
【0186】
記憶部130は、当該異常判断しきい値を、学習部1で算出された異常判断しきい値に追加する。
【0187】
監視部2は、記憶部130から異常判断しきい値を読み出し、有効な特徴量と異常判断しきい値とを比較する。監視部2は、異常判断しきい値以上である特徴量を異常が生じていると判定する。監視部2は出力部150に判定結果を出力する。
【0188】
出力部150は、異常が生じているという判定結果を受信した場合、監視用端末340に分析者および/かつ監視システムに対する警告および/または当該異常が生じた特徴量、特徴量が対応する部位および当該異常の種類等を報知する。
【0189】
図21は、再抽出部の処理を説明するフローチャートであり、再抽出部6により実行される。
【0190】
ステップS60において、再抽出部6は、記憶部130から特徴量のトレンドと変化検出しきい値を読み出す。このトレンドは、直近のトレンドを含む任意の期間のトレンドである。例えば、学習モードで使用したトレンドの期間と同じ長さの運用モードで蓄積されたトレンドを用いる。
【0191】
ステップS61において、再抽出部6は、変化検出しきい値以上である特徴量を集めて、関連性評価値を算出する。関連性評価値の算出方法は、学習モードと同様である。
【0192】
ステップS62において、再抽出部6は、関連性評価値を用いて特徴量をグルーピングする。グルーピングの方法は学習モードと同様である。
【0193】
ステップS63において、再抽出部6は、それぞれのグループの特徴量から、「有効な特徴量」を抽出する。有効な特徴量の抽出方法は学習モードと同様である。ステップS63において、再抽出部6は記憶部130に有効な特徴量を記憶して、処理を終了する。
【0194】
以上のように、本実施の形態に係る制御装置によれば、学習モードにおいて、モニタ装置80により算出された多種多様な特徴量から有効な特徴量を抽出することができる。これにより、特徴量の異常を検出するためのしきい値の設定および管理、また当該しきい値を用いた監視対象の装置の監視を容易に行なうことができる。また、本実施の形態に係る制御装置によれば、運用モード中に変化した特徴量を検出して、有効な特徴量の再抽出と、異常判断しきい値の再算出とを行なうことができる。これにより、運用モード中に監視対象の装置の運転状況等が変化しても、異常の見逃しを防ぐことができる。よって、多様な種類の異常を簡便に監視できる状態監視システムおよび状態監視方法を提供することができる。
【0195】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0196】
1 学習部、2 監視部、3 抽出部、4 変化検出部、5 選択部、6 再抽出部、7 再学習部、10 風力発電装置、20 主軸、30 ブレード、40 増速機、50 発電機、60 主軸受、70A~70F 高周波用振動センサ、70G,70H 低周波用振動センサ、80 モニタ装置、90 ナセル、91 タワー、100 状態監視システム、110 A/Dコンバータ、120,120B データ取得部、130,130B 記憶部、140,140B データ演算部、150,150B 出力部、320 インターネット、330 監視側制御装置(データサーバ)、340 監視用端末。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21