(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】焼結可能な磁性粉末組成物と、この組成物を焼結して作られた三次元物品
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20230117BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230117BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230117BHJP
B33Y 40/00 20200101ALI20230117BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230117BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230117BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20230117BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20230117BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20230117BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
B22F1/00 Y
B22F10/28
B33Y70/00
B33Y40/00
B33Y10/00
B33Y80/00
B29C64/153
B29C64/314
C08K3/01
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2019526004
(86)(22)【出願日】2017-11-20
(86)【国際出願番号】 FR2017053176
(87)【国際公開番号】W WO2018091855
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-08-17
(32)【優先日】2016-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ルメール,アルノ
(72)【発明者】
【氏名】タングイ,フランスワ
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-264360(JP,A)
【文献】特開2004-193543(JP,A)
【文献】特表平09-512864(JP,A)
【文献】特表平07-500140(JP,A)
【文献】特開平07-320968(JP,A)
【文献】特開平06-236807(JP,A)
【文献】特開2015-229781(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101752074(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B29C 67/00
B33Y 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の総重量に対して下記(1)(2):
(1)50~95重量%の少なくとも一種の粉末磁石と、
(2)5~50重量%の少なくとも1種の熱可塑性ポリマーと、
を含む、一層ずつの焼結のための磁性粉末組成物であって、
上記粉末組成物が0.1~100μmの範囲のD50を有
し、
上記の少なくとも1種の粉末磁石が希土類ベースおよび/またはアルニコベースおよび/またはフェライトベースの粒子から選択され、D50が0.1~100μmの範囲にあることを特徴とする、磁性粉末組成物。
【請求項2】
上記の少なくとも一種の熱可塑性ポリマーがポリアミド、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、ポリエステル、エポキシ/ポリエーテルハイブリッド、ポリウレタン、ブロックコポリマー、ポリアリーレンエーテル-ケトンおよびこれらの混合物の中から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
下記(a)及び(b)の工程を含む請求項1
又は2に記載の磁性粉末組成物の製造方法:
(a)少なくとも一種の熱可塑性ポリマーと、少なくとも一種の粉末磁石とをコンパウンディングで混合し、
(b)(a)で得られた混合物を粉砕してD50が100μm未満の粉末を50%超の収率で作る。
【請求項4】
下記(c)の工程を更に含む、請求項
3に記載の製造方法:
(c)シリカ、水和シリカ、非晶質アルミナ、ガラス質シリカ、ガラス質リン酸塩、ガラス質ホウ酸塩、ガラス質酸化物、二酸化チタン、タルク、マイカ、ヒュームドシリカ、熱分解シリカ、カオリン、アタパルジャイト、ケイ酸カルシウム、アルミナおよびマグネシウムシリケートの中から選択される流動剤の添加剤を(b)で得られた粉末に加える。
【請求項5】
上記熱可塑性ポリマーの粉末と粉末磁石とを乾式混合する請求項1
又は2に記載の磁性粉末組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1
又は2に記載の磁性粉末組成物の、
一層ずつの焼結による磁性物品の製造での使用。
【請求項7】
シリカ、水和シリカ、非晶質アルミナ、ガラス質シリカ、ガラス質リン酸塩、ガラス質ホウ酸塩、ガラス質酸化物、二酸化チタン、タルク、マイカ、ヒュームドシリカ、熱分解シリカ、カオリン、アタパルジャイト、ケイ酸カルシウム、アルミナおよびマグネシウムシリケートの中から選択される流動剤をさらに含む請求項1
又は2に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1
又は2に記載の磁性粉末組成物を一層ずつ焼結する磁性三次元物品の製造方法。
【請求項9】
下記の特性1)~4)の少なくとも1つを有する請求項
8に記載の
磁性三次元物品の製造方法:
1)固有保磁力H
Ci=1~15kOe、および/または
2)MMPA規格0100-00で測定した残留磁気Br=0.3~1.8T、
3)ISO規格180:2000に従って測定した23℃でのアイゾット耐衝撃強度が10~30kJ/m
2、および/または
4)ISO規格178:2010に従って測定した曲げ弾性率が50~200MPa。
【請求項10】
上記物品がスポーツ用品、靴、スポーツシューズ、靴底、装飾品、かばん、メガネ、家具、オーディオ・ビジュアル機器、コンピューター機器、自動車あるいは航空宇宙の機器並びに/または医療機器、エレクトロニクス、電化製品、コンピューター、電気および/若しくはマイクロエレクトロニクスの機器の構成要素である請求項
9に記載の磁性三次元物品
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粉末組成物と、溶融または焼結によって一層ずつ粉末を凝集させて三次元の磁性物品を作る方法でのその使用とに関するものである。
【0002】
本発明で「磁性物品」とは固有保磁力(Coercivite intrinseque)HCi=1~15kOeおよび/または残留磁気(Remanence)Br=0.3~1.8Tである物品を意味する。
【背景技術】
【0003】
この溶融による粉末の凝集(以下「焼結」という)は放射線、例えばレーザビーム(レーザー焼結)、赤外線、UV放射または一層ずつ粉末層を溶融させて物品を作成することができるその他任意の電磁放射源によって行われる。
【0004】
一層ずつ粉末層を溶融させて物品を作成する方法は[特許文献1](国際公開第WO2009/138692号公報)(第1~3頁)に記載されている。この技術は一般にプロトタイプ、部品モデル(「ラピッドプロトタイピング」)を製造するのに使用され、または、自動車、航海、航空、航空宇宙、医療(プロテーゼ、追加システム、細胞組織・・・)、テキスタイル、衣料品、ファッション、装飾、電子機器ハウジング、電話装置、ホームオートメーション、コンピュータ、照明器具等の分野で、完成部品の小さなシリーズを製造するために使用されている(「ラピット製造」)。
【0005】
本発明は特に、自動車、家電製品、コンピュータ、エレクトロニクス、マイクロエレクトロニクス、その他の高度な技術のマーケットで重要である。
【0006】
これらの市場では、希土類元素から作られた永久磁石は戦略物資と考えられている。希土類とはスカンジウム、イットリウムおよび15のランタニド、例えばネオジムやサマリウムを含む類似特性を有する金属のグループである。例えば、ネオジムは任意サイズの電気モーター、ハード・ディスクの読み書きヘッド、ハイブリッドカーまたは風力発電機の強力磁石を作るために使用されている。強力永久磁石の中でネオジムベ―スのものにはNdFeB磁石、NIB磁石およびネオ磁石の名称で知られているものが含まれる。これらはネオジム(Nd)、鉄(Fe)およびホウ素の合金で構成される(例えばNd2Fel4B)。
【0007】
現在、これらの永久磁石を作る方法は2つある:
(1)純金属のレーザ焼結:この方法は極めて高温度を使用し、従って、非常に高価である。得られた部品の機械的特性は制限され、耐酸化性も制限される。
(2)熱可塑性(場合によっては熱硬化性)の化合物を使用し、完成部品を得るためにさらに射出成形または圧縮成形する。磁気特性は低下するが、得られる機械的特性(耐衝撃性、曲げ特性等)は新しい用途では許容される。
【0008】
これらの市場では、機械的特性、特に耐衝撃性および柔軟性と物理化学的特性の観点から通常は熱可塑性ポリマー(以下、TP)が選択される。熱可塑性ポリマーは従来法、例えば射出成形、押出成形および/または組立によって容易に物品が製造できる。従って、開発の時間を可能な限り短くして、複雑な形状を製造できる、特に、TPの機械的特性と磁石の磁気特性とを組み合わせた磁性材料に対するニーズが存在する。一層ずつ粉末層を溶融させる焼結プロセスは上記ニーズを満たす方法を提供するが、粉末形態のTPおよび磁石に特定の前処理を行うことが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第WO2009/138692号公報
【文献】フランス特許第0950637号号公報
【文献】フランス特許第0856752号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、複雑な形状の部品でも焼結装置を使用して作ることができる良好な特性、特に密度、機械特性および磁気特性に優れた粉末形態の磁性粉末を提供することにある。
本発明の他の目的は、焼結によって直接作ることができる密集、解像度および機械的性質に優れた磁性物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の対象は、組成物の総重量に対して、
(1)50~95重量%の少なくとも1種の粉末磁石と、
(2)5~50重量%の少なくとも1種の熱可塑性ポリマーと
を含む焼結可能な磁性粉末組成物であって、
粉末組成物のD50が100μm以下であることを特徴とする磁性粉末組成物にある。
【0012】
磁性粒子の含有量が50重量%未満では所望の磁気特性を得ることが困難であり、また、磁性粒子の含有量が95重量%を超えると本発明の磁性焼結粉末組成物から得られた焼結品の機械的強度が低下し、焼結磁石粉末のリサイクルが困難または不可能になる。
【0013】
本発明組成物では、組成物の総重量に対して0.1~5重量%の含有率でD50が20μm以下である粉末流動助剤(agent d'ecoulement pulv饅ochrulent)を含むのが有利である。
【0014】
本発明はさらに、以下の工程を含む、本発明粉末組成物の製造方法に関するものである:
(a)少なくとも一種の上記ポリマーと少なくとも一種の磁石とをコンパウンディングによって混合し、
(b)D50が100μm以下の粉末が50%以上の収率が得られるように(a)で得られた混合物を粉砕、特に低温粉砕し、
(c)必要に応じて(b)で得られた粉末に添加剤、例えば流動化剤を添加する。
【0015】
本発明方法の工程(b)で50%以上の収率とは、粉砕前の初期粉末の総重量に対する重量収率であり、これは100kgの粉末を粉砕した場合に、粉砕後に得られた粉末の50kg以上が100m以下のD50を有することを意味する。
【0016】
本発明はさらに他の対象は、D50が100m以下である本発明の粉末組成物の、焼結による磁性物品の製造での使用にも関するものである。
【0017】
焼結によって作られた物品は下記の特性を有するのが有利である:
【0018】
D50はテストした粒子を正確に2つの集団に分ける粒子径の値である。換言すれば、本発明組成物中の粒子の50%以下は100μm以下の粒子径を有する。本発明組成物でD50が100m以下であることは、滑らかで規則的な表面外観を有する正確に定義された物品を得るために不可欠である。
【0019】
D50はISO規格9276-パート1~6:「粒径分析の結果の表現」に従って測定した。本明細書ではレーザ粒径分析(Sympatec Helos)とソフトウェア(Fraunhofer)とを使用して粉末の粒度分布を求め、それからD50を求めた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
I-ポリマー
本発明組成物に適したポリマーの例としてはポリアミド(ホモポリアミドおよびコポリアミド)、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、ポリエステル、エポキシ/ポリエーテルハイブリッド、ポリウレタン、ブロックコポリマーおよびポリアリーレンエーテル-ケトンが挙げられる。
【0021】
ポリアミド(ホモポリアミドまたはコポリアミド、CoPAと略称)とは下記(1)化合物(4)の中から選択される同一のモノマー(ホモポリアミドの場合)または複数の異なるモノマー(CoPAの場合)の縮合または重合生成物を意味する:
(1)アミノ酸またはアミノカルボン酸タイプのモノマー、好ましくはα、ω-アミノカルボン酸のモノマー、
(2)主環に3~18個の炭素原子を有する置換されていてもよいラクタムタイプのモノマー、
(3)4~18個の炭素原子を有する脂肪族ジアミンと4~18個の炭素原子を有するジカルボン酸との反応で得られる「ジアミン.二酸」タイプのモノマー、
(4)アミノ酸タイプのモノマーとラクタムタイプのモノマーとの混合物によって形成されたコポリアミドの場合の異なる炭素数のモノマーと上記の混合物。
【0022】
本明細書でコポリアミドの「モノマー」という用語は「反復単位」を意味する。これは特に、PAの繰り返し単位がジアミンと二酸との組み合わせで構成されている場合である。これはモノマーに相当するジアミンと二酸との組み合わせ、すなわち、ジアミン.二酸カップル(等モル量)と考える。これは、二酸またはジアミンはそれ自体では単独で重合するのに十分ではない構成単位であるという事実によって説明される。
【0023】
アミノ酸タイプのモノマー:
α、ω-アミノカルボン酸の例としては4~18個の炭素原子を有するもの、例えばアミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、アミノ-11-ウンデカン酸、n-ヘプチル-11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸を挙げることができる。
【0024】
ラクタムタイプのモノマー:
ラクタムの例としては主環に3~18個の炭素原子を有するものを挙げることができ、置換されていてもよい。例としてはβ、β-ジメチルプロピオラクタム、α、α-ジメチルプロピオラクタム、アミロラクタム、カプロラクタム(ラクタム6ともよばれる)、カプリルラクタム(ラクタム8ともよばれる)、エナントラクタム、2-ピロリドンおよびラウリルラクタム(ラクタム12ともよばれる)を挙げることができる。
【0025】
ジアミン.二酸タイプのモノマー:
ジカルボン酸の例としては4~18の炭素原子を有する酸を挙げることができる。例としてはアジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、スベリン酸、イソフタル酸、ブタン二酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、スルホイソフタル酸のナトリウムまたはリチウム塩、二量化脂肪酸(この二量体化脂肪酸の二量体の含有量は少なくとも98%で、好ましくは水素化されている)およびドデカン二酸HOOC-(CH2)10-COOHを挙げることができる。
【0026】
ジアミンの例としては4~18個の炭素を有する脂肪族ジアミンを挙げることができ、芳香族および/または飽和環式ジアミンでもよい。例としてはヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、テトラメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、1,5-ジアミノヘキサン、2,2,4-トリメチル-1、6-ジアミノ-ヘキサン、ポリオールジアミン、イソホロンジアミン(IPD)、メチルペンタメチレンジアミン(MPDM)、ビス(アミノシクロヘキシル)メタン(BACM)、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン(BMACM)、メタキシレンジアミン、ビス-P-アミノシクロヘキシルメタンおよびトリメチルヘキサメチレンジアミンを挙げることができる。
【0027】
「ジアミン.二酸」タイプのモノマーの例としてはヘキサメチレンジアミンとC6-C36二酸との縮合反応で得られるもの、特に、6.6、6.10、6.11、6.12、6.14、6.18を挙げることができる。また、デカンジアミンとC6-C36二酸との縮合で得られる単量体、特に、10.10、10.12、10.14、10.18モノマー、デカンジアミンとテレフタル酸との縮合で得られるもの、すなわち、10.Tモノマーを挙げることができる。
【0028】
上記モノマーの異なる種類で形成されるコポリアミドの例としては、少なくとも2つのα、ω-アミノカルボン酸または2つのラクタムまたは1種のラクタムとα、ω-アミノカルボンとの縮合で得られるコポリアミドを挙げることができる。また、少なくとも1種のα、ω-アミノカルボン酸(またはラクタム)と、少なくとも1種のジアミンと、少なくとも一種のジカルボン酸との縮合で得られるコポリアミドを挙げることができる。さらに、脂肪族ジアミンと、脂肪族ジカルボン酸と、上記の互いに異なる脂肪族ジアミンおよび上記の互いに異なる脂肪族二酸の中から選択される少なくとも1種の他のモノマーとの縮合で得られるコポリアミドを挙げることができる。
【0029】
コポリアミドの例としてはカプロラクタムおよびラウリルラクタムのコポリマー(PA6/12)、カプロラクタムとヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とのコポリマー(PA-6/6,6)、カプロラクタムとラウリルラクタムとヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とのコポリマー(PA6/12/6.6)、カプロラクタムとヘキサメチレンジアミンとアゼライン酸とアミノ―11-ウンデカン酸とラウリルとのコポリマー(PA6/6.9/11/12)、カプロラクタムとアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとアミノ-11-ウンデカン酸とのコポリマー(PA6/6.6/11/12)、ヘキサメチレンジアミンとアゼライン酸とラウリルラクタムとのコポリマー(PA6.9/12)、2-ピロリドンとカプロラクタムとのコポリマー(PA4/6)、2-ピロリドンとラウリルラクタムとのコポリマー(PA4/12)、カプロラクタムと11-アミノウンデカン酸とのコポリマー(PA6/11)、ラウリルラクタムとカプリルラクタムとのコポリマー(PA12/8)、11-アミノウンデカン酸と2-ピロリドンとのコポリマー(PA11/4)、カプリルラクタムとカプロラクタムとのコポリマー(PA8/6)、カプリルラクタムと2-ピロリドンとのコポリマー(PA8/4)、ラウリルラクタムとカプリルラクタムとのコポリマー(PA12/8)、ラウリルラクタムとアミノ-11-アミノウンデカン酸とのコポリマー(PA12/11)を挙げることができる。
【0030】
特に好ましいものはポリアミド11、ポリアミド12と、モノマー6.10、6.12、6.14、6.18、10.10および10.12を使用したポリアミドおよびコポリアミドである。
【0031】
好ましい粒子径は実質的に(メジアン径d50)100μmに近いものである。
【0032】
ポリオレフィンとはオレフィン単位を含むもの、例えばエチレン、プロピレン、ブテン-1等のポリマーで、例としては下記を挙げることができる:
1)ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとα-オレフィンとの共重合体(これらは不飽和カルボン酸無水物、例えば無水マレイン酸または不飽和エポキシド、例えばグリシジルメタクリレートがグラフトされてもよい)
2)エチレンと、下記(i)~(iv)の中から選択される少なくとも1種の化合物とのコポリマー:(i)不飽和カルボン酸、その塩、そのエステル、(ii)飽和カルボン酸のビニルエステル、(iii)不飽和ジカルボン酸、その塩、そのエステル、そのモノエステル、その無水物、(iv)不飽和エポキシド。これらのエチレンコポリマーには不飽和ジカルボン酸無水物またはエポキシドがグラフトされていてもよい。
【0033】
本発明で使用できるポリアリーレンエーテル-ケトンは下記の式IA、式IBの単位およびこれらの混合物を含むことができる。
【0034】
一般名PEK、PEEKEK、PEEK、PEKEKK(ここでEはエーテル官能基、Kはケトン官能基を表す)に対応するポリアリーレンエーテルケトンが除外されるものではない。特に、これらをPEKKと組み合わせ、PEKKの質量割合を50%以上、好ましくは80%以上にして使用する場合を除外するものではない。
【0035】
ポリアリーレンエーテル-ケトンはIA単位とIB単位との混合物を含むポリエーテル-ケトン-ケトンであるのが好ましく、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対するテレフタル酸単位の質量比率は55%~85%、好ましくは55%~70%、理想的には60%である。テレフタル酸単位およびイソフタル酸単位とはテレフタル酸およびイソフタル酸の式を表す。
【0036】
このポリアリーレンエーテル-ケトンは粉砕または沈殿によって製造された粉末の形態をしている。
【0037】
本発明でブロック共重合体とは、硬質または剛性のあるブロックまたはセグメント(熱可塑性挙動のハード成分)と、柔質または可撓性のあるブロックまたはセグメント記(エラストマー性挙動のソフト成分)とを交互に含むエラストマー性熱可塑性ポリマー(TPE)を意味する。「ソフト」ブロックは低いガラス転移温度(Tg)を有する。ガラス転移温度(Tg)が低いとはガラス転移温度Tgが15℃以下、好ましくは0℃以下、好ましくは-15℃以下、好ましくは-30℃以下、より好ましくは-50℃以下であることを意味する。
【0038】
本発明のプロック共重合体中のソフトまたは可撓性ブロックは特に、ポリエーテルブロック、ポリエステルブロック、ポリシロキサンブロック、例えばポリジメチルシロキサンまたはPDMSブロック、ポリオレフィンブロック、ポリカーボネートブロックおよびこれらの混合物から選択される。使用可能なソフトブロックは例えば[特許文献2](フランス特許第0950637号公報)の第32頁第3行目~第38頁第23行目に記載されている。ポリエーテルブロックは例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(1,2プロピレングリコール)(PPG)、ポリ(1,3-プロピレングリコール)(PO3G)、ポリ(テトラメチレングリコール)(PTMG)およびこれらのコポリマーまたはブレンドの中から選択される。本発明のソフトブロックの数平均モル質量Mnは250~5000g/モル、好ましくは250~3000g/モル、より好ましくは500~2000g/モルの範囲である。
【0039】
ハードブロックはポリアミド、ポリウレタン、ポリエステルまたはこれらポリマーの混合物にすることができる。このハードブロックは[特許文献3](フランス特許第0856752号号公報)に記載されている。ハードブロックはポリアミドベースであるのが好ましい。
【0040】
ポリアミドブロック(PAと略記)はホモポリアミドまたはコポリアミドにすることができる。本発明組成物中で使用可能なポリアミドブロックは[特許文献2](フランス特許第0950637号号公報)の第27頁第18行目~第31頁第14行目に記載されている。ポリアミドブロックの数平均モル質量Mnは400~20,000g/モル、好ましくは500~10,000g/モル、より好ましくは600~3000g/モルの範囲であるのが好ましい。ポリアミドブロックの例はPA12、PA11、PA10.10、PA6.10、PA6、PA6/12を挙げることができ、コポリアミドは少なくとも一つのモノマー:11、5.4、5.9、5.10、5.12、5.13、5.14、5.16、5.18、5.36、6.4、6.9、6.10、6.12、6.13、6.14、6.16、6.18、6.36、10.4、10.9、10.10、10.12、10.13、10.14、10.16、10.18、10.36、10.T、12.4、12.9、12.10、12.12、12.13、12.14、12.16、12.18、12.36、12.Tおよびこれらの混合物またはコポリマーを含む。
【0041】
上記の少なくとも1種のブロックコポリマーはポリエーテルブロック、ポリエステルブロック、ポリアミドブロック、ポリウレタンブロックおよびこれらの混合物から選択される少なくとも一つのブロックを含むのが有利である。ハードブロックとソフトブロックとを有する共重合体の例としては、(a)ポリエステルブロックとポリエーテルブロックとの共重合体(COPEまたはコポリエーテルエステルとよばれる)、(b)ポリウレタンブロックとポリエーテルブロックとの共重合体(熱可塑性ポリウレタン、略称TPU)、(c)ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとの共重合体(IUPACでPEBAとよばれる。ポリエーテルブロックアミドともよばれる)をそれぞれ挙げることができる。
【0042】
上記の少なくとも一種の共重合体はポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを含む共重合体(PEBA)を含むのが好ましい。PEBAはPA12-PEG、PA6-PEG、PA6/12-PEG、PA11-PEG、PA12-PTMG、PA6-PTMG、PA6/12-PTMG、PA11-PTMG、PAl2-PEG/PPG、PA6-PEG/PPG、PA6/12-PEG/PPG、PA11-PEG/PPG、PA11/PO3G、PA6.10/PO3Gおよび/またはPA10.10/PO3Gを含むのが有利である。
【0043】
本明細書では、溶融による粉末凝集によって三次元物品を製造する分野の慣例に従って、ポリマー粉末の溶融温度(Tm)は粉末の最初の加熱溶融温度(Tf1)に対応する。これはISO規格11357-3のプラスチック-示差走査熱量測定(DSC)パート3に従って測定される。ブロック共重合体は180℃以下の溶融温度Tf(第一加熱:Tf1)を有する。本発明組成物中でこうしたTf<180℃のコポリマーを使用することで、例えばポリアミド12または11を使用して粉末焼結した部品と比較して、柔軟性が改善(弾性率が1000MPa以下)の3次元物品を焼結法によって製造することができる。
【0044】
本発明の特定実施形態では、本発明の共重合体のソフトブロックに対するハードブロックの重量比は0.7以下である。そうすることによって得られる三次元物品の柔軟性を良好なものにすることができる。例えば、ISO規格527-2:93-1BAに従って測定した弾性モジュラス(弾性率)が100MPa以下、破断伸びが100%以上にすることができる。
【0045】
本発明で磁性粒子とはD50が0.1~100μmの範囲にある希土ベースの磁性粒子および/またはアルニコ(アルミニウム、ニッケル、コバルト)ベースの磁性粒子および/またはフェライトベースの磁性粒子を意味する。
【0046】
フェライト粒子としてはマグネトプランバイト型フェライト粒子を用いることができる。このマグネト型フェライト粒子の例としては、バリウムフェライト粒子、ストロンチウムフェライト粒子およびAOnFe2O3(AはBa、SrまたはBa-Srであり、n=5.0~6.5)の一般式で表されるバリウム-ストロンチウムフェライト粒子(この粒子にTi,Mn,Al,La,Zn,BiおよびCoからなる群から選択される少なくとも一つの元素を0.1~7.0モル%の量で添加して得られた粒子でもよい)を挙げることができる。
【0047】
フェライト粒子の平均粒径は1.0~5.0μm、好ましくは1.0から2.0μmであるのが好ましい。そのBET比表面積値は1~10m2/g、好ましくは1~5m2/g、その保磁力IHCは119~557kA/m(1500~7000Oe):好ましくは119~398kA/m1500~5000Oe)、残留磁化値は100~300mT(1000~3000G)好ましくは100~200mT(1000~2000G)であるのが好ましい。
【0048】
磁性希土類粒子は少なくとも一つの希土類元素と少なくとも一つの遷移金属とからなる金属化合物の粒子である。この磁性希土類粒子の例には希土類コバルトをベースにした粒子、希土類-鉄-ホウ素をベースにした粒子および希土類-鉄-窒素をベースにした粒子を含む磁性粒子が挙げられる。磁性希土類粒子の中では優れた特性を有するボンド磁石を製造することができる希土類-鉄-ホウ素をベースにした粒子と窒素-希土類-鉄をベースにした粒子が特に好ましい。
【0049】
磁性希土類粒子は1~100μmのD50、好ましくは1~80μmのD50を有している。そのBET比表面積値は0.5~5m2/g、好ましくは0.5~3m2/gで、保磁力は239~1591kA/m(3.0~20kOe)、好ましくは318~1114kA/m(4.0~15kOe)であり、残留磁化値は0.3~1.8mT(3.0~18kG)、好ましくは0.5~1.3mT(5.0~13kG)である。
【0050】
Nb-Fe-Bをベースにした磁性粒子はポリマー樹脂に直接混合することができる。しかし、フレーク状の微粒子の形をしたNbの-Fe-Bベースの磁性粒子の場合には、本発明粉末組成物が優れた流動性と磁気特性とを有するようにするために、混合する前に、粒子を100μm以下の平均粒径を有する粒子に粉砕する、例えばジェットミル、アトマイザー、ボールミルを用いて予め粉砕するのが好ましい。
【0051】
本発明の粉末に用いる磁性粒子には酸化による磁気特性の劣化を避けるために必要に応じて種々の表面処理を施すのが有利であるが、これは必須ではない。すなわち、本発明組成物で使用するポリマー、特にポリアミドは金属粒子の酸化の問題を制限することができる。
【0052】
磁性金属粒子または磁石の表面処理に使用される被覆材料としては種々のカップリング剤、例えばシランベースのカップリング剤、チタンベースのカップリング剤、アルミニウムベースのカップリング剤、ベースのカップリング剤、シロキサンポリマー、有機リン酸および無機リン酸ベースの表面処理剤、酸をベースにした表面処理剤等を使用することができる。これらの表面被覆材の中ではシランベースのカップリング剤が好ましい。
【0053】
本発明の粉末組成物は下記のような種々の方法で製造できる:
(1)乾式混合(ドライブレンド):ポリアミド粉末と磁性粉末とを必要に応じて添加剤(改質剤、UV安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、充填剤、離型剤、顔料、カップリング剤、補強材、例えばタルク、ガラス繊維、潤滑剤・・・)と一緒に乾式で混合する。
(2)押出-粉砕:ポリアミド粉末と磁性粉とを必要に応じて添加剤(改質剤、UV安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、充填剤、離型剤、顔料、カップリング剤、強化材料、例えば、タルク、ガラス繊維、潤滑剤・・・)と一緒に押出した後に粉砕して、粒子径(D50)が0.1~100μmの範囲内にある粉末にする。
【0054】
得られた粉砕粉末に必要に応じて1種以上の添加剤、例えばレベリング剤、安定剤、カップリング剤から選択される添加剤を添加することができる。
【0055】
本発明組成物はさらに、組成物の流動を改善し、特に一層ずつ焼結するプロセスで平坦な層を形成させるのに十分な量(組成物の重量の0.1~5%を占める)の流動化剤を含むのが有利である。この流動剤はポリマー粉末の焼結の分野で一般的に使用されるものから選択できる。この流動化剤は実質的に球形であるのが好ましい。流動化剤はシリカ、沈シリカ、水和シリカ、ガラス質シリカ、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、ガラス質リン酸塩、ガラス質ホウ酸塩、ガラス質酸化物、非晶質アルミナ、沈降二酸化チタン、タルク、マイカ、カオリン、アタパルジャイト、ケイ酸カルシウム、アルミナ、マグネシウムシリケートの中から選択できる。
【0056】
本発明組成物は、焼結粉末に使用されるポリマーに適した任意のタイプの添加剤を含むことができる。特に、凝集技術に使用する粉末の特性を改善するのに役立つ添加剤および/または溶融によって得られた物品の機械的特性(降伏点応力および破断点伸び)または審美的(色)を改善するための添加剤を含むことができる。本発明組成物は特に、着色材、染料顔料、TiO2、赤外線吸収顔料、カーボンブラック、耐火性添加剤、ガラス繊維、炭素繊維を含むことができる。
【0057】
本発明の組成物はさらに、酸化防止剤、安定剤、光安定剤、耐衝撃剤、帯電防止剤、難燃剤およびこれらの混合物から選択される少なくとも一つの添加剤を含むことができる。これらの添加剤はD50w 20μm以下の粉末の形をしている。これらの添加剤を本発明粉末組成物の製造時に導入することによってそれらの分散および有効性を向上させることができる。本発明組成物を焼結工程で使用することで、後工程でコーティングやペイントを非としない着色された磁性部品を直接得ることができる。
【0058】
本発明はさらに、磁性物品を製造するための焼結工程での上記定義の熱可塑性粉末組成物の使用にも関するものである。
【0059】
本発明はさらに、本発明粉末組成物を一層ずつ焼結した層を含む三次元磁性体の製造方法にも関するものである。
本発明は特に、電磁エネルギーを導入をして各粉末層の領域を選択的に溶融する層を一層ずつ処理して三次元部品を粉末から製造するプロセスにも関するものである。選択性はサセプタ、インヒビター、マスクを適用して得られる。このプロセスの例としては選択的レーザ焼結法SLSまたはその他任意の高速焼結タイプのプロセス、例えばHSS、HPのマルチジェット融合MJF、マスクを用いた選択焼結、SMSの焼結、選択的ホット焼結SHS等を挙げることができる。これらの方法ではレーザ焼結(レーザー焼結)を使用するのが好ましい。
【0060】
本発明はさらに、上記方法に従って製造することが可能な以下の特性を有する3次元磁性物品にも関するものである:
(1)固有保磁力HCi=1~15kOe、および/または
(2)残留磁気Br=0.3~1.8T、
MMPA規格0100-00準拠
(3)ISO規格180:2000に従って23℃で測定したアイゾット衝撃抵抗値=10~30kJ/m2の範囲、および/または
(4)ISO規格178:2010に従って測定した曲げ弾性率=50~200MPaの範囲。
【0061】
上記3次元磁性物品はスポーツ部品、靴、スポーツシューズ、靴底、装飾品、かばん、眼鏡、家具、視聴覚機器、コンピューター機器、自動車あるいは航空宇宙の機器並びに/または医療機器、エレクトロニクス、電化製品、コンピューター、電気および/若しくはマイクロエレクトロニクスの機器の構成要素であるのが有利である。
【0062】
焼結によって得られる本発明物品は下記の有利な特性を有する:
1)モジュラスが射出成形で得られた部分よりも大きい。
2)多関節パーツや介在物要素にすることが可能な設計が複雑な部品を得ることができる。
3)開発時間が短い(射出成形とは違って成形する必要がない)。
【0063】
純粋金属の焼結で得られる金属片に比べて、
4)機械的特性:耐衝撃性、柔軟性、破断伸びが優れる。
5)耐食性がある。