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特許7211953熱曲げ偏光シートの包装体および射出偏光レンズ
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  • 特許-熱曲げ偏光シートの包装体および射出偏光レンズ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】熱曲げ偏光シートの包装体および射出偏光レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230117BHJP
   G02C 7/12 20060101ALI20230117BHJP
   B65D 77/04 20060101ALI20230117BHJP
   B65D 81/20 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
G02B5/30
G02C7/12
B65D77/04 A
B65D81/20 F
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019542029
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2018033214
(87)【国際公開番号】W WO2019054295
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2017174891
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598167992
【氏名又は名称】株式会社ウインテック
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(72)【発明者】
【氏名】木村 英明
(72)【発明者】
【氏名】赤木 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】藤井 尊
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/067937(WO,A1)
【文献】特開2002-145372(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084154(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02C 7/12
B65D 77/04
B65D 81/20
B29C 45/14
B29C 45/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムの両面に接着層を介して透明プラスチックシートを接着した積層偏光シートを射出成形用に熱曲げ加工してなる偏光シートを、熱曲げ偏光シートを入れるに十分な幅の非接着性の隔離用フィルムを十分な深さを持つように二枚重ね部分を作りその側面をシールした三方袋に入れて重ねて防湿包装されて保存あるいは輸送されたものであって、
射出成形前処理としての予備乾燥を行わずに、かつ、保護フィルムの剥離操作を実質的に行わずに、射出成形に用いることの出来るものであることを特徴とする熱曲げ偏光シートの包装体である、熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項2】
前記包装された熱曲げ偏光シートの含水率が0.35wt%以下、好ましくは0.3wt%以下である請求項1記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項3】
前記包装体の内部気体の水蒸気量が、15g/m以下好ましくは、14g/m以下である請求項1記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項4】
前記透明プラスチックシートが厚み0.1~1mmであり、芳香族ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、アセチルセルロース、及び芳香族ポリカーボネートと脂環式ポリエステルとの組成物からなる群から選択された少なくとも1種の透明プラスチックフィルムまたはシートである請求項1記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項5】
前記包装体が、熱曲げ加工された偏光シートの熱曲げ加工時に用いられた保護フィルムを剥離したものを、非接着性の隔離用フィルムを介して、数十乃至数百個を重ねて包装した一次包装体、およびこの一次包装体複数個を梱包してなる耐久性の二次包装体である請求項1記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項6】
前記非接着性の隔離用フィルムが、ポリオレフィンフィルムから選択されたものである請求項1記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項7】
前記一次包装体または二次包装体が、少なくとも周囲に十分な緩衝層を持ち、前記緩衝層が、無或いは低発塵性の素材或いは無或いは低発塵性の素材にて被覆して無或いは低発塵性としてなるものである請求項5記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項8】
前記一次包装体が、積載可能な容器に熱曲げ偏光シートを収納したものであって、前記容器が、無或いは低発塵性の素材或いは無或いは低発塵性の素材にて被覆して無或いは低発塵性としてなるものである請求項5記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項9】
前記二次包装体に用いる包装材が、両面、複両面、複々両面ダンボール、若しくはプラスチック、プラスチックダンボールから選択された、1種もしくは2種以上である請求項5記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項10】
前記一次包装体または耐久性二次包装体の包装のいずれかが、防湿包装材を用いるものである請求項5記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項11】
前記一次包装体および/または二次包装体の包装のいずれかの内部空気が乾燥空気若しくは窒素に置換されているか、もしくは内部が減圧されている請求項5記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項12】
乾燥剤が同封されたものであり、前記乾燥剤が、シリカゲル、生石灰、塩化カルシウム加工品、シリカアルミナゲル、粘土およびシート状乾燥剤から選択された1種もしくは2種以上である請求項1記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項13】
包装状態を感知するセンサーが同封されたものであり、前記センサーが、水蒸気分圧または酸素を感知するものである請求項1記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項14】
開封した後に、密封或いは簡易密封可能である請求項1記載の熱曲げ偏光シートの包装体。
【請求項15】
請求項1に記載の包装体にて保管された熱曲げ偏光シートについて、
射出成形前処理としての予備乾燥を行わずに、かつ、保護フィルムの剥離操作を実質的に行わずに、射出成形に用いたものであることを特徴とする射出偏光レンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩特性を有するサングラスやゴーグル等に用いられる透明樹脂にて射出成形された射出偏光レンズに関し、その射出成形に用いる熱曲げ偏光シートの包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、実用化されている偏光板には、典型的には一軸延伸ポリビニルアルコール(PVA)フィルムにヨウ素または二色性有機染料を吸着もしくは含浸させた偏光フィルムが用いられている。この偏光フィルムは、通常、その片面あるいは両面にトリアセチルセルロースなどの透明樹脂を保護層として用いて、取り扱いが容易で二次加工に適し、安価、軽量な偏光板とされている。
【0003】
耐衝撃性を要求される用途、例えば、サングラス用偏光レンズは、通常、二色性有機染料を用いた偏光フィルム層やこれとフォトクロミック層などの機能層を、芳香族ポリカーボネートシート或いはフィルムを保護層として用いて積層偏光シートとし、所望形状に打ち抜き加工し、これを、部分球面に熱曲げ加工し、その凹面側にレンズ用芳香族ポリカーボネートを射出成形して偏光レンズ(以下、射出偏光レンズと記す。)とし、適宜、表面処理などして製造される。
【0004】
この生産工程は、(1)偏光フィルムおよびその積層偏光シートの製造、(2)積層偏光シートの打ち抜きおよびその熱曲げ加工、(3)芳香族ポリカーボネートの射出成形および適宜、表面処理、による。
さらに、(4)販売店にて、様々なレンズ形状へ加工されサングラスとして販売される。
通常は、それぞれの工程が別々に行われ、その間、保管、保存、移送、輸送、流通等される。また、同一場所の生産においても、生産スケジュール、その他の諸々の事情により、一時保管や保存が行われる。
【0005】
(1)で製造された積層偏光シートは流通、加工などの取り扱いの際に、その表面をキズ、汚れや異物から保護するための保護フィルムが付着されている。
この保護フィルムとして、特に芳香族ポリカーボネートのガラス転移温度近辺の高温環境下での熱曲げ加工に耐えるものとしてポリオレフィン系の保護フィルムが提案されている(特許文献1、2)。
(2)では、前記の保護フィルム付きのまま、打ち抜き加工され、前処理として予備乾燥され、熱曲げ加工品とされ、適宜、複数個を重ねて梱包される。
また、(3)では、乾燥され、保護フィルムを剥離し、金型に装着され芳香族ポリカーボネートが射出成形される。
【0006】
乾燥は、(2)では熱曲げ加工時の色調変化を抑制するために、また、(3)でも射出成形時の色調変化を抑制するために行われる。
また、偏光層は、乾燥が進むと脆い層となることから、打ち抜き工程においては、通常、乾燥前に打ち抜き加工が行われる。場合によっては、湿度の高い部屋である程度吸湿させたものを用いる方法(特許文献3)があり、また、ポリビニルアルコールとしてより高分子量のものを用いる方法(特許文献4)が提案されている。
また、本発明者らは先に、前記した工程(3)における予備乾燥を行う必要のない包装体とそれを用いた射出偏光レンズ(特許文献5)を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-145616号公報
【文献】特開2011-110879号公報
【文献】特開平5-119216号公報
【文献】特開2008-262104号公報
【文献】WO2016/067937 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、保存(保管、移送、輸送)などの後においても射出成形前の予備乾燥を不要とする特許文献5に記載の提案をさらに発展させたものを課題とする。
上記した従来技術における複数の生産工程では、それぞれに保管・輸送等を伴う。それらの保管環境は、通常の倉庫などにおける保管であり、湿度、及び温度の管理などは行われていない。その為、地域、及び季節要因などにより様々であるが、室内倉庫に保管すると想定した場合、保管環境は-10℃~40℃程度、湿度は5~90%が考えられる。
【0009】
保管期間は、生産効率の観点から比較的短期間となるのが通常である。しかし、需要の変動などにより短期間で使用されない場合は1ヶ月程度、長期的には6ヶ月程度、より長期ではそれ以上の保管を伴う場合がある。
【0010】
熱曲げ偏光シートは、上記した環境及び期間における保管・保存により吸湿する。その為、吸湿したものを射出成形することによる色変化を抑制するために、前処理としての予備乾燥が必須となる。通常、該予備乾燥は60~80℃、好ましくは65~75℃で5~24時間で、適宜条件を選択し、射出成形時に問題となる色変化を招かない程度まで乾燥しているのが現状である。しかし、これらの前処理は、生産工程やスケジュールが非常に煩雑になり、生産効率にも影響を及ぼす為、改善が望まれていた。
本発明者らは、新規に熱曲げ偏光シートの水分量と射出成形時の色変化との関係、および、熱曲げ偏光シートの水分量と平行関係にある周囲気体中の水蒸気分圧との関係を定量化した。そして、色変化の許容される熱曲げ偏光シートの水分量を維持する熱曲げ偏光シートの包装体、また、該包装された熱曲げ偏光シートの予備乾燥を行わずに用いた射出偏光レンズを見出し、それらに基づいて先に発明を完成させ出願した。
本発明は、さらに検討を進めた結果、より省力化された製造工程を見出し本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、
(1).射出成形用に熱曲げ加工された偏光シートを、非接着性の隔離用フィルムを介して重ねて防湿包装されて保存あるいは輸送されたものであって、
射出成形前処理としての予備乾燥を行わずに、かつ、保護フィルムの剥離操作を実質的に行わずに、射出成形に用いることの出来るものであることを特徴とする熱曲げ偏光シートの包装体である。
後述するように、前記偏光シートは一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムの両面に接着層を介して透明プラスチックシートを接着した積層偏光シートである。これを個別のレンズ用原版形の個別積層偏光シートとし、これを加熱下に球面あるいは非球面に熱曲げしてなる熱曲げ偏光シートとし、これを金型に装着し、その凹面に透明なレンズ用樹脂を射出成形して、射出偏光レンズを得ることができる。
本発明において、前記熱曲げ偏光シートは非接着性の隔離用フィルムを介して重ねて防湿包装されて、保存あるいは輸送される。このことにより、前記射出成形処理前の予備乾燥、及び保護フィルムの剥離操作を実質的に行わずに射出成形に用いることのできる熱曲げ偏光シートの包装体およびそれを用いた射出偏光レンズを提供することができる。
【0012】
前記(1)の発明において、
(2).前記包装された熱曲げ偏光シートの含水率が0.35wt%以下、好ましくは0.3wt%以下であること、
(3).前記包装体の内部気体の水蒸気量が、15g/m以下好ましくは、14g/m以下であることからなる熱曲げ偏光シートの包装体である。また、
【0013】
(4).前記透明プラスチックシートが厚み0.1~1mmであり、芳香族ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、アセチルセルロース、及び芳香族ポリカーボネートと脂環式ポリエステルとの組成物からなる群から選択された少なくとも1種の透明プラスチックフィルムまたはシートであること、
【0014】
(5).前記包装体が、該熱曲げ加工された偏光シートの熱曲げ加工時に用いられた保護フィルムを剥離したものを、非接着性の隔離用フィルムを介して、数十乃至数百個を重ねて包装した一次包装体、およびこの一次包装体複数個を梱包してなる耐久性の二次包装体であること、
(6).前記非接着性の隔離用フィルムが、ポリオレフィンから選択されたものであること、
(7).前記一次包装体または耐久性二次包装体が、少なくとも周囲に十分な緩衝層を持ち、前記緩衝層が、無或いは低発塵性の素材或いは無或いは低発塵性の素材にて被覆して無或いは低発塵性としてなるものであること、
(8).前記一次包装体が、積載可能な容器に熱曲げ偏光シートを収納したものであって、前記容器が、無或いは低発塵性の素材或いは無或いは低発塵性の素材にて被覆して無或いは低発塵性としてなるものであること、
(9).前記二次包装体に用いる+包装材が、両面、複両面、複々両面ダンボール、若しくはプラスチック、プラスチックダンボールなどから選択された、1種もしくは2種以上であることからなる熱曲げ偏光シートの包装体である。さらに、
【0015】
(10).前記一次包装体または二次包装体の包装のいずれかが、防湿包装材を用いるものであること、
(11).前記一次包装体または二次包装体の包装のいずれかの内部空気が乾燥空気若しくは窒素に置換されているか、もしくは内部が減圧されたものからなる熱曲げ偏光シートの包装体である。また、
【0016】
(12).乾燥剤が同封されたものであり、前記乾燥剤が、シリカゲル、生石灰、塩化カルシウム加工品、シリカアルミナゲル、粘度およびシート状乾燥剤から選択された1種もしくは2種以上であること、
(13).包装状態を感知するセンサーが同封されたものであり、前記センサーが、水蒸気分圧または酸素を感知するものであること、
(14).開封した後に、密封或いは簡易密封可能としてなるものからなる熱曲げ偏光シートの包装体である。
【0017】
また、本発明は前記(1)の発明において、
(15).射出成形前処理としての予備乾燥を行わずに、かつ、保護フィルムの剥離操作を実質的に行わずに、射出成形に用いたものであることを特徴とする射出偏光レンズである。
【発明の効果】
【0018】
本発明による、包装体の熱曲げ品は、長期保管に伴う吸湿の防止に優れたものであり、長期保存された後に、射出成形前処理としての予備乾燥を行わずに、かつ、保護フィルムの剥離操作を実質的に行わずに、良好な射出偏光レンズを製造することを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は本願発明の熱曲げ偏光シートの包装体の包装形態の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成を説明する。
偏光フィルム
偏光フィルムの基材フィルムとしてポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いる。
このポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)及びその誘導体または類縁体であるポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリ(エチレン‐酢酸ビニル)共重合体ケン化物等が挙げられ、PVAが好ましい。
PVAフィルムの重量平均分子量は、50,000~350,000、特に好ましくは、分子量150,000~300,000である。原料PVAフィルムの厚みは、通常50~300μm程度であり、これを延伸・染色してなるPVA偏光フィルムは、通常10~50μm、好ましくは20~40μmである。
PVAフィルムの延伸倍率は通常2~8倍の範囲、延伸後の強度の点から3~6.5倍が好ましい。
【0021】
この偏光フィルム(染色延伸PVAフィルム)は、例えば、前記ポリビニルアルコールのフィルム基材を水中で一方向に延伸させつつ、二色性有機染料で染色した後、適宜、ホウ酸、金属塩などの水溶液で処理し乾燥することにより製造する。
【0022】
積層偏光シート
本発明では、上記の層構造偏光フィルムの少なくとも片面に透明な保護フィルム或いはシート(以下、「フィルム或いはシート」を適宜単に「シート」と記す。)を貼合して積層偏光シートとする。
透明な保護シートとしては、芳香族ポリカーボネート、非晶性ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリスルフォン、アセチルセルロース、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、及び芳香族ポリカーボネートと脂環式ポリエステルとの組成物などのこれらの混合物からなる透明樹脂製のシートが挙げられる。これらの中で、最も汎用的な偏光フィルムの製造において必須であるアセチルセルロースがあり、機械的強度や耐衝撃性などの特性から芳香族ポリカーボネート系樹脂が好ましく、耐薬品性などからはポリオレフィン、ポリアクリレートやポリアミドが挙げられ、レンズ成形後の染色性からはポリアクリレートやポリアミドが挙げられる。
【0023】
芳香族ポリカーボネートシートは、フィルム強度、耐熱性、耐久性あるいは曲げ加工性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカンや2,2-(4-ヒドロキシ-3,5-ジハロゲノフェニル)アルカンで代表されるビスフェノール化合物から周知の方法で製造された重合体が好ましく、その重合体骨格に脂肪酸ジオールに由来する構造単位やエステル結合を持つ構造単位が含まれても良く、特に、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネートが好ましい。
【0024】
芳香族ポリカーボネートの分子量は、粘度平均分子量で12,000~40,000のものが好ましく、20,000~35,000のものがより好ましい。また、芳香族ポリカーボネートは、光弾性定数が大きく、応力や配向による複屈折に基づいて着色干渉縞や白抜けが発生しやすい。そこで、予め大きなリタデーション値を持たせることにより、白抜けの発生を無くし、着色干渉縞を見えなくすることが好ましい。リタデーション値は、2000nm以上で、20000nm以下、好ましくは3000nm以上、特に加工工程での低下を考慮した場合4000nm以上とすることが好ましい。
リタデーション値の値は、配向度や残留応力の大きさにほぼ比例したものである。ゆえに、高い方が表面形状の精度が低くなり、また、延伸方向に垂直な方向に膨張する傾向があり、この方向は通常の積層構成では偏光フィルムの透過軸方向と同じであるというデメリットがある。また、白抜けや着色干渉縞は、偏光フィルムを透過して、人の目で見ることができるものである。ゆえに、高リタデーションとしたシートの効果は偏光フィルムの光入射側、すなわち、人の目の反対側に用いることによる。
なお、芳香族ポリカーボネートシートの厚みは0.1~1mmの間で適宜選択可能である。
【0025】
芳香族ポリカーボネートとの組成物として、保護層用のシート或いはフィルムとして、レンズ用射出成形用樹脂としても使用できる本発明の脂環式ポリエステル樹脂は、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸で代表されるジカルボン酸成分と1,4-シクロヘキサンジメタノールで代表されるジオール成分と、必要に応じて他の少量の成分とを、エステル化またはエステル交換反応させ、次いで、適宜、重合触媒を添加し徐々に反応槽内を減圧にし、重縮合反応させる公知方法により得られるものである。
【0026】
ポリアミド樹脂は、レンズ用透明ポリアミド樹脂として公知のものが挙げられ、耐熱性の一指標である熱変形温度100~170℃の範囲であり、芳香族ポリアミド樹脂、脂環族ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、並びに、これらの共重合体が挙げられ、機械的強度、耐薬品性、透明性等のバランスから脂環式ポリアミド樹脂は好ましいものであるが、2種以上のポリアミド樹脂を組み合わせてもよい。このようなポリアミド樹脂の例として、GLILAMID TR FE5577、XE 3805(EMS製)、NOVAMID X21(三菱エンジニアリングプラスチックス製)、東洋紡ナイロンT-714E(東洋紡製)などが例示される。
【0027】
(メタ)アクリル樹脂は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート(MMA)に代表される各種(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、またはPMMAやMMAと他の1種以上の単量体との共重合体であり、さらにそれらの樹脂の複数種が混合されたものでもよい。これらのなかでも、低複屈折性、低吸湿性、耐熱性に優れた環状アルキル構造を含む(メタ)アクリレートが好ましい。以上のような(メタ)アクリル樹脂の例として、アクリペット(三菱レイヨン製)、デルペット(旭化成ケミカルズ製)、パラペット(クラレ製)などが例示される。
【0028】
本偏光フィルムの両面に透明プラスチックシートを貼り合わせるために用いる接着剤としては、ポリビニルアルコール樹脂系材料、アクリル樹脂系材料、ウレタン樹脂系材料、ポリエステル樹脂系材料、メラミン樹脂系材料、エポキシ樹脂系材料、シリコーン系材料等が使用できる。
芳香族ポリカーボネートシートを用いる場合、特に、接着層自体あるいは接着した際の透明性と芳香族ポリカーボネートシートとの接着性の点から、ウレタン樹脂系材料であるポリウレタンプレポリマーと硬化剤からなる2液型の熱硬化性ウレタン樹脂が好ましい。
また、高リタデーションの芳香族ポリカーボネートシートを用いる場合、通常、偏光フィルムに接着剤溶液を塗布し、予備乾燥して溶剤を減少させた後に芳香族ポリカーボネートのシート或いはフィルムを重ね、次いで、反対面も同様とした後、偏光層の劣化を促進しない条件、特に温度、湿度を一定に保った状態にて熟成硬化させる方法により製造されているが、本発明でも同様に積層偏光シートを製造することが出来る。
【0029】
本発明の積層偏光シートの層構成は、前述の範囲に限定されるものではなく、例えば、偏光フィルムと透明な保護層を接着する接着剤に、調光染料、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、その他を適宜溶解させたものを用いても良いし、透明な保護シートにこれら機能性の添加剤を含有させたものを用いることもできる。
【0030】
熱曲げ偏光シート
上記で製造した積層偏光シートを個別のレンズ用の原板形状に加工して個別積層偏光シートとし、これを加熱下に球面あるいは非球面に熱曲げしてなる熱曲げ個別積層偏光シート(以下、熱曲げ偏光シートと記す。)とする。
個別積層偏光シート(個別のレンズ用の原板形状)への加工は、生産性などから、通常、トムソン刃からなる打ち抜き刃を用いた、複数個の個別積層偏光シートを同時打ち抜き加工することによる。個別積層偏光シートの形状は、最終製品の形状(サングラス、ゴーグルなど)により適宜、選択される。例えば、二眼用の場合の標準的な形状は、直径80mmの円盤或いはその両端を偏光軸に垂直な方向に同幅切り取ったスリット形状である。
【0031】
上記の個別積層偏光シートへの良好な打ち抜き加工は、適度なねばりが必須となる。
芳香族ポリカーボネートシートを保護層とする積層偏光シート(以下、芳香族ポリカーボネート偏光シートと記す。)は、芳香族ポリカーボネートシート部分が打ち抜きにて過剰に破壊されないので、偏光フィルム層、接着層、両表面の保護フィルムが大きく破壊されることはなく、微細な破砕片の発生や延伸方向への割れの伝搬、過剰な変形伸びなどの有無が検討対象となる。この際、前記したとおり、偏光層が乾燥して打ち抜きされたことにより破壊され、微細な破砕片を生じさせないために、適宜吸湿させたものを用いる方法も推奨される。
【0032】
次いで、個別積層偏光シートを、前乾燥処理した後、加熱下に球面あるいは非球面に熱曲げしてなる熱曲げ偏光シートとする。前乾燥は、個別積層偏光シートを熱曲げ加工後に、色変化しない条件を選択する。通常、60~80℃、好ましくは65~75℃で8時間以上、好ましくは24時間程度の送風乾燥をすることによる。
芳香族ポリカーボネート偏光シートの熱曲げ加工は、射出成形に用いる金型表面に沿うように曲げられる。熱曲げ加工は、平面である個別積層偏光シート、通常、部分球面、場合により楕円面のような三次元曲面とするものである。変形に伴うエネルギー最小のこのような加工は、縮みを伴う加工となり、スムースな縮みが妨げられる場合には、波、さらに皺の発生となり、良品の製造ができないものとなるので、スムースな縮みを確保するように、温度、荷重の負荷など、緩やかな過重負荷による制御を行うことが好ましい。
【0033】
加熱温度は、保護シートに用いた透明プラスチックシートのガラス転移点より50℃低い温度以上でガラス転移点未満の温度が加工温度として選択される。芳香族ポリカーボネート偏光シートの場合、熱曲げ加工における曲げ金型の最高温度は、芳香族ポリカーボネートのガラス転移温度より25℃低い温度以上、好ましくは20℃低い温度以上でガラス転移点より5℃低い温度以下である。
また、予熱処理により曲げ加工直前の芳香族ポリカーボネート偏光シートの温度を曲げ加工に用いる温度以下で短時間では色変化を起こさない温度、芳香族ポリカーボネート偏光シートの場合、芳香族ポリカーボネートのガラス転移温度より25℃低い温度程度として用いることは好ましい。
【0034】
包装体
本発明の熱曲げ偏光シートの包装体は、まず、熱曲げ偏光シートの含水率を、所望の期間、適正値に保ち、該熱曲げ偏光シートのゴミの付着やキズ等、外観上の不具合から保護する、熱曲げ偏光シートの包装体である。
熱曲げ偏光シートの水分量については、後述の実施例で示すとおり含水率で定量化した。結果、熱曲げ加工直後、及び射出成形前の乾燥処理後において、熱曲げ偏光シートの水分量は0.15wt%以下であることがわかった。また、含水率が0.4wt%を超えた熱曲げ偏光シートを射出成形した場合、射出成形後の色変化が著しくなり外観不具合を生じるものであった。
以上から、熱曲げ偏光シートの含水率の適正値は、0.35wt%以下、好ましくは0.3wt%以下となる。包装体を形成する際、熱曲げ偏光シートの含水率は、上記適正値の状態で封入し、それを維持することが必須となる。
【0035】
尚、吸湿速度は、環境により大きく異なるが、概ね、その温度が100℃以下となった時点から徐々に吸湿が始まり、60~70℃以下となるとより急速な吸湿が始まる。防湿梱包に用いる材料がプラスチック素材の場合、通常、70℃以上の耐熱性は有するものであり、上記した60~70℃程度で防湿性の素材を用いて梱包することにより、熱曲げ偏光シートの含水率を上記適正値の状態で梱包できる。
尚、本明細書における含水率は、ガス圧式水分計(アイ・ティー・エスジャパン社製:アクアトラック)により測定した水分量を、検体の含水率に換算したものである。該測定器は、サンプルを容器内で真空引きした後加熱し、気化した水分を試薬(水素化カルシウム等)に反応させ、発生した水素ガスの圧力をセンサーで検知して、サンプル重量から水分量を測定するものである。
【0036】
次に、本包装体は、該熱曲げ偏光シートの熱曲げ加工時に用いられた保護フィルムを剥離したものを、非接着性の隔離用フィルムを介して、数十乃至数百個を重ねて包装した一次包装体、またはこの一次包装体複数個を梱包した耐久性の二次包装体である。
熱曲げ加工時に用いられた保護フィルムの剥離と非接着性の隔離用フィルムを介しての包装は、通常、常温で行い、多数個を取り扱うものであることから一定の時間を要するものとなる。
この観点から、一時保管して別工程にて包装する方法が、熱曲げ偏光シートの含水率の適正値が十分に保持される環境にて行うこととして好ましい例となる。
また、前記非接着性の隔離用フィルムとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン、ポリブタジエン、またはこれらのコモノマーの組み合せ等のポリオレフィンからなるものが例示される。
【0037】
生産工程の観点から、上記した吸湿の始まる前に包装することが難しい場合、熱曲げ偏光シートの吸湿を防ぐために、適宜、低湿度保管庫などに一時保管して、別工程で包装する。低湿度保管庫は、上記した熱曲げ偏光シートの含水率を適正値の範囲に維持するように適宜条件を選択する。具体的には、東洋リビング製、スーパードライSD-702-D1Xなどを用いることも可能である。
尚、熱曲げ偏光シートを製造後、該熱曲げ偏光シートが再吸湿した場合には、再乾燥して用いることも可能であり、乾燥方法は、上記した含水率となる乾燥時間を選択し、通常、80℃以下で送風乾燥などする。
【0038】
また、後述の実施例において、熱曲げ偏光シートの水分量と平衡状態にある包装体内部の気体の水蒸気量も定量化した。測定は、ガスクロマトグラフ(島津社製:GC-2014)による。
尚、本明細書における気体中の水蒸気量の測定は、特開2006-145254号公報に準じて測定した。
【0039】
結果、熱曲げ偏光シートの含水率が適正値以上である0.48wt%である場合、それと平衡状態にある周辺気体の水蒸気量は概ね16g/mである。
従って、包装体の内部気体の水蒸気量は、15g/m以下、好ましくは14g/m以下が適正値となり、これにより、熱曲げ偏光シートの含水率を前記適正値に維持することができる。
【0040】
包装体内部の気体は、減圧下に輸送されることを想定して予め脱気しておくことが望ましい。尚、近年の航空貨物便の貨物室環境を考慮すると、必ずしも減圧下と同程度の体積にまで減圧処理することを必要とするものではない。
また、包装体内部空気の水蒸気量を一定にするため、除湿した空気、若しくは窒素などを注入することも適宜行っても良い。
【0041】
本発明に用いることのできる防湿包装材は、水蒸気の不透過性を持つものによる。
当然に、防湿包装材の水蒸気透過量は、周囲環境の温度と水蒸気圧の差により大きく異なるが、防湿包装材を用いた包装体が、通常保管の環境としてはより過酷な40℃・90RH%の周囲環境に長期間曝されることを想定し、評価し、該環境下において一定の性能を示すものを防湿包装材として使用することはのぞましい。
【0042】
具体的には、防湿包装材を用いた包装体の性能指数を算出し、本発明の包装体を構成する際の指標とすることができる。尚、本明細書では、包装体を密封する際の接着層(粘着テープ、熱融着層等)部分も含めた包装体としての性能を考慮する。また、包装体外部の環境は、上記した保存環境としては苛酷と想定される40℃/90RH%を前提条件とする。
性能指数は、容器を構成している素材(i)の水蒸気透過量(Di)と表面積(Si)及び素材の厚み(di)を、構成要素毎に計算した値を足し合わせ、その値を包装体内部の体積(V)で割った値となり、以下(1)式となる。
この性能指数の式(1)の値が小さいほど、包装体内部の湿度変化は小さくなり、防湿特性が良いと考えることができる。初期条件と周辺環境を同一にして、包装体を放置した場合には、保管可能時間は性能指数が小さいほど長くなる。性能指数が半分になると、保管可能時間が倍になり、性能指数が1/10になると、保管可能時間は10倍になる。

【0043】
上記した性能指数などにより包装体の性能を評価し、所望の保管期間において最適な防湿包装材を選択して、内部の水蒸気量を維持するように本発明の包装体を構成することができる。
具体的には、上記式(1)による防湿性能指数が、6.092×10-5(hour-1)以下の包装体を使用した包装体の場合、内部気体の水蒸気量を約3ヶ月維持することが可能となる見込みとなる。しかし、実際の環境では、上記前提条件の過酷な環境よりも、低い湿温度条件となる場合が多く、その際には上記期間よりも長期にわたって防湿性を維持するものと考えることができる。
また、前記性能指数が、前記値以上の包装体である場合には、後述する乾燥剤を同封するなどの対応が必要となる。
【0044】
防湿包装材の素材は、具体的には、延伸及び非延伸ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレートのポリマー素材から選択できる。また、水蒸気を透過させないことを考慮して、無機物層を積層、或いは蒸着してなるものから構成することが望ましい。
無機物層を積層する場合、具体的には、厚み1μm~50μm、好ましくは3μm~30μm、より好ましくは5μm~20μm、の無機物層、好ましくは金属層を有するフィルムとする。但し、金属層の厚みを薄くする場合には、ピンホールなどの影響により水蒸気不透過性を保つことが難しくなる為、プラスチック素材による多層化、若しくは防湿包装材全体の厚みの向上などが必要になる。
また、防湿包装材は、輸送・保管時などに生じる物理的ストレスにより破損などしないよう、ある程度の強度を持つものを選択する。防湿包装材の強度を向上させるために、ポリエチレン素材のフィルム等を網目状に積層して多層化するなどしてもよい。
【0045】
防湿包装材の厚みは、強度を向上させるために厚くするなどの対応も適宜行われる。また、生産性の観点からは、防湿包装材の厚みが厚いものを用いて、熱融着方式による密封を選択した場合、熱融着のためにより長時間の加熱が必要になる為、適切な厚みを選択する。
【0046】
包装体の性能を考慮して、適宜、乾燥剤を封入する事も出来る。
乾燥剤は、シリカゲル、生石灰、塩化カルシウム加工品、シリカアルミナゲル、粘度、シート状乾燥剤等から選択するか、これらの組み合わせにより構成することが出来る。
乾燥剤の封入量は、包装体の防湿性能により適宜調整する。尚、前述の通り包装体の防湿性能が低い場合、内部の乾燥状態の維持は、乾燥剤に依存することになり、多くの乾燥剤の封入が必要となる。
例えば、防湿包装材に、吸湿剤や吸湿フィルム等を積層させるなどして、吸湿性能を付与するなどの処理も行うことができる。これにより、乾燥剤を封入する工程を省力する事も出来、乾燥剤の封入量の考慮も必要としない。
具体的には、富士ゲル産業社製、ACTIVE PACKなどを使用できる。
【0047】
センサー
熱曲げ偏光シートは、前述した含水率の適正値以上に吸湿した場合でも、目視で容易に識別できる程の変色は伴わない。この為、前記熱曲げ偏光シートの含水率を特殊な装置で測定するか、包装された熱曲げ偏光シートを取り出し射出成形し、製造完了後でなければ品質を確認することができない。事故等により、包装体が破損し防湿性を維持していない場合、熱曲げ偏光シートの含水率を識別することは困難である。
以上から、熱曲げ偏光シートの包装体が、防湿状態を維持していたかどうかを、目視により識別可能にするセンサーを設けることは望ましい。
【0048】
センサーは、包装体内部の水蒸気量をセンシングするものでも良いし、封入された熱曲げ偏光シートの含水率をセンシングするものでも良い。若しくは、内部の酸素を検知するものにより構成しても良く、それらの組み合わせから構成しても良い。
詳細には、包装体内部の水蒸気量が前述した適性範囲を超えた場合の履歴を、数値、色変化、若しくは重量変化等により示すもので構成する。また、湿度履歴を示すとの観点から、不可逆性のものが望ましい。センサー感度は、前述した内部空気の水蒸気量の適正範囲を超えた場合に反応するよう、適宜調整して用いる。
より具体的には、塩化コバルト、若しくは臭化コバルト等の吸湿程度により色変化を伴うもの、或いは、吸湿材の吸湿による重量変化により吸湿履歴を示すものなどから選択、もしくはこれらの組み合わせにより構成しても良い。より具体的には、上記物質を含有させた湿度インジケーター、シリカゲルなどから選択されたもの、若しくはこれらの組み合わせなどを用いることができる。
【0049】
また、上記した通り、包装体内部に窒素などを封入する場合には、事故等により包装体が破損し空気が進入した場合に、酸素をセンシングするセンサーを構成することも出来る。
これらのセンサーは、防湿包装体の内部、及び内部容器の内側、或いは防湿包装材の内側のいずれに取り付けてもよい。
【0050】
包装形態
熱曲げ偏光シート複数個を包装材で包装して予備一次包装、及び一次包装とし、耐久性を考慮する場合には該予備及び一次包装複数個を耐久性の素材で包装した二次包装体とし、前記いずれかの段階の包装体に緩衝層を設け、また、前記いずれかの段階の包装体に防湿包装材を使用し、密封し、積載可能な状態として包装体とする。
包装する熱曲げ偏光シートの個数は、通常、開封後、全数使用完了までの間、前述した熱曲げ偏光シートの含水率を適正範囲に保持することが可能な数量以下であり、且つ、単位作業として、多すぎない適度な個数が選択される。さらに、金型キャビティは高圧の射出樹脂による力が中心軸、面に対して対称に負荷され、ねじれを発生しない設計とされることから、偶数個取りであり、この個数の倍数を最小単位とすることが好ましい。
以上の観点から、包装個数を10乃至400個から選択した予備一次包装を構成することができ、10乃至1000個から選択して構成する一次包装体を構成することができる。
また、包装体の耐久性を向上させるとの観点から、該予備及び一次包装体を、数個乃至100個から選択し、耐久性包装材で包装して二次包装体を構成することもできる。
本発明による熱曲げ偏光シートの包装体に用いる防湿包装材は、上記した包装体のいずれの段階でも用いることが可能である。
【0051】
包装形態は、輸送及び保管のために積載可能な状態とする。
具体的には、上記した予備或いは一次包装体、いずれかの段階に、容器を用いて包装を行い積載可能な状態とすることができる。
容器の形状は、トレー、袋、筒状いずれの形状でも良い。また、容器、及び包装材の素材は、紙、低或いは無発塵紙、ボール紙、プラスチック等から選択するか、組み合わせて構成することができる。熱曲げ偏光シートを供する射出成形の工程においては、成形後の外観不具合を考慮して環境の清浄度を管理する場合があるため、好ましくはプラスチック素材などから選択することは好ましい。容器の具体的なものとしては、射出成形、中空成形、真空、圧空成型、インフレーション成型などのプラスチック素材の容器などが用いられる。
【0052】
射出成形の自動化など、機械化の場合、LSIなどの電子技術を利用する場合、容易に人と同様の作業を行うものを利用することは不可能ではないと思われる。しかし、経済性を考慮した場合、より安価な、可能なかぎり、簡単、単純で信頼性のある機械でなければ実用性はない。
熱曲げ偏光シートの金型への装着を機械を用いて行う場合、
1).人手にても通常熟練を要する熱成形時等のための保護フィルムは剥離除去されたものが必要である。すなわち、実質的に剥離作業を不要とする保護フィルムが必須となる。
2).単純な動作の観点から、熱曲げ偏光シートを同一位置部位にての保持。
なお、脱離は金型装着位置であり、同一位置部位となる。
3).簡単操作による保持と脱離。この観点から、保持と脱離は凹み面の中心部分で吸着、脱着を行うのが好適である。一次包装形態は、この動作を簡単、単純動作で実現できるものが好ましいこととなる。
【0053】
一次包装形態は、上記1)から、保護フィルムは剥離除去されたもの、2)から適宜移動させて同一位置とできるもの、3)から、保持時に熱曲げ偏光シートの凹み面側は解放されていることを実現できる包装形態となる。
上記の要件1)及び2)を満たした包装の一例を用いた場合を実施例に記載した。
この場合、添付図面のように三方シール袋を形成した。すなわち、熱曲げ偏光シート(偏光シート)を入れるに十分な幅の連続剥離性フィルムを用い、十分な深さを持つように二枚重ね部分を作りその側面をシールしたものである。
この三方シール袋の連続体は、巻き取りができる。また、引き延ばすことにより、非シール面が開口した連続体となり、この開口部にて、偏光シートの出し入れを容易に行うことができ、また、位置の調節も容易である。
【0054】
次に、全要件を実現する包装材料は、凹面底部補助具、凸面上部補助具、位置決め機能を発揮できる強度を有する筒状材、剥離性フィルムとなる。包装の一例をあげると、
位置決め機能を発揮できる強度を有する筒状材(筒材)を立てて保持し、凹面底部補助具(底材)を保持用補助具(底保持具)にて筒材の上部に保持し、所定幅の連続剥離性フィルムの端部を重ねる。この上に保護フィルムは剥離除去した熱曲げ偏光シート(偏光シート)の凸面側を重ねる。所定幅の連続剥離性フィルムを二枚重ねとなるように移動させて偏光シートの凹面側に重ねる。底保持具を偏光シートと二枚重ね連続剥離性フィルムの厚み相当分だけ下げて、偏光シート、二枚重ね連続剥離性フィルムと重ね、厚み相当分だけ下げるとの動作を繰り返して、設定枚数の偏光シートを重ねた後、凸面上部補助具(蓋材)にて蓋をし、適宜、筒或いは袋状の包装フィルムにて全体を包装することによる。
この一次包装では、二枚重ね連続剥離性フィルムは一方から引き抜けるもので、最上部の熱曲げ偏光シートの重層物の凹面側を容易に解放される。また、底保持具と同様なものの逆方向の動作にて、解放された熱曲げ偏光シートの重層物の凹面側の位置を同じにできる。
すなわち、金型への装着が、前記包装された熱曲げ偏光シートの重層物の凹面側を真空吸着にて保持移送することによることを可能とし、また、前記包装された熱曲げ偏光シートの重層物の凹面側の真空吸着の位置を実質的に変化させないことを可能とする。
【0055】
輸送及び保管時の物理的ストレスにより、熱曲げ偏光シート、並びに包装体の破損を防ぐために、包装体には十分な厚みを持つ緩衝層を設ける。緩衝層は、上記した予備或いは一次包装体、若しくは耐久性二次包装体のいずれの段階に設けても良い。
緩衝層の素材は、紙、ボール紙、プラスチック等から選択するか、組み合わせて構成することができる。上記した通り、環境清浄度を管理している場合、緩衝層に用いる素材としては、2枚のポリエチレンシートの一方のシートに成型した円柱状の突起の中に空気を閉じ込め緩衝層とする気泡緩衝材などの低発塵性のものを用いることは望ましい。
【0056】
二次包装に用いる耐久性の包装材は、両面、複両面、複々両面ダンボール、若しくはプラスチック、プラスチックダンボールなどから選択された、若しくはこれらの組み合わせからなるものが採用される。
また、二次包装体の容積は、減圧下に輸送されることを想定し、内部に梱包された予備並びに一次包装体の体積変動を吸収するマージンを考慮した容積とする。
【0057】
包装体の密封は、包装体の防湿性能を保つのに有効な方式を用いることが出来、熱融着方式、粘着テープによる密着、若しくはチャックによる密封方法などから選択されるか、これらの組み合わせによる。
熱融着方式とする場合、熱融着に用いる包装素材の融着面温度が確実に融着温度より高くなるようにし、熱容量に見合った加熱時間を与えるようにする。また、包装材の表層材がオーバーヒートしないようにし、更に、加熱不足が生じないよう適宜温度と加熱時間を選択し、熱融着による密封状態に欠陥の生じないようにする。更に、熱融着層に用いる素材、厚み、熱融着面積なども要素も、包装体の防湿性能への影響を考慮して選択する。
粘着テープによる密封方式とする場合、保存・輸送の際に曝される環境下においても、十分な密着状態を保つものを選択し、具体的には、耐水性のものを選択することが望ましい。
チャック方式の場合、二重チャック構造としており十分な気密性を保てるものとする事が望ましい。
また、包装体の開封後、熱曲げ偏光シートの使用中における短時間の吸湿を防ぐために、これらの方式の組み合わせにより再密封可能な状態とするなどの対応も行う。具体的には包装の密封を熱溶着により行い一次密封とし、該一次密封よりも内側、若しくは外側に粘着テープ、若しくはチャック等の再密封可能な二次密封を設けることが出来る。これにより、長期保存・保管に対応しつつ、開封後は二次密封を使用して、開封後における短時間の吸湿を防ぐことも可能である。
【0058】
射出偏光レンズ
防湿梱包された熱曲げ偏光シートを、梱包から取り出し、適宜、保護フィルムを取り除いて金型に装着し、レンズ用透明樹脂を射出成形して射出偏光レンズを製造する。
レンズ用透明樹脂としては、好ましくは、芳香族ポリカーボネート、ポリアクリレート、アセチルセルロース、及び芳香族ポリカーボネートと脂環式ポリエステルとの組成物が挙げられる。本発明においては、レンズ用透明樹脂として、芳香族ポリカーボネートが好ましく、射出成形は、通常は、樹脂温度は260~340℃、好ましくは270~310℃、射出圧力50~200MPa、好ましくは80~150MPa、金型温度60~130℃、好ましくは80~125℃である。
通常、保管・輸送を経た熱曲げ偏光シートは、射出成形時の色変化を抑制する目的の前処理として、60℃~80℃、好ましくは65℃~75℃で5~24時間の予備乾燥が行われるが、本明細書の包装体の施された熱曲げ偏光シートは、前記予備前乾燥を行わずに、開封後直ぐに射出成形工程に供することが可能である。
【0059】
上記にて製造した芳香族ポリカーボネート射出成形レンズは、適宜、ハードコート処理が施され、さらに、ミラーコートや反射防止コート等が施されて、製品とされる。
ハードコートの材質あるいは加工条件は、外観や下地の芳香族ポリカーボネートに対して、あるいは続いてコートされるミラーコートや反射防止コート等の無機層に対する密着性に優れている必要があり、この点から、焼成温度は芳香族ポリカーボネートシートのガラス転移点より50℃低い温度以上でガラス転移点未満の温度が好ましく、特に、ガラス転移点より40℃低い温度以上でガラス転移点より15℃低い温度未満で、30℃前後低い温度で、ハードコートの焼成に要する時間は概ね0.5~2時間である。
【0060】
上記で製造されたレンズは、レンズメーカーにて、最終製品であるサングラスやゴーグルなどに加工されて販売され、また、個別の販売店(小売店)にて、玉摺り、穴あけ、ネジ締めなど、様々な製品用にレンズ加工がなされてサングラスやゴーグルなどとして販売される。
【実施例
【0061】
検体の作製
ポリビニルアルコールを延伸、染色した偏光フィルムを用い、この両面に接着剤にて厚み0.3mmの延伸芳香族ポリカーボネートシートの延伸軸を揃えて張り合わせた厚み0.6mmの芳香族ポリカーボネート偏光シートを製造し、これを二眼レンズ用の形状に切り出し、個別積層偏光シートとした。
次いで、該個別積層偏光シートを熱曲げ加工し、熱曲げ偏光シートを得た。
熱曲げは、予熱器にて予備加熱し、これを所定の温度、所定の局率の部分球面雌型に乗せ、シリコンゴム製雄型にて押し付けると同時に減圧を開始して雌型に吸着させ、雄型を引き上げ、雌型に吸着された打ち抜き片を所定の時間、所定の温度の熱風雰囲気中で保持した後、取り出す工程からなる連続熱曲げ装置を使用した。
上記において、個別積層偏光シートの予備加熱は138℃雰囲気温度とし、雌型は8R相当(半径約65.6mm)の部分球面で表面温度138℃、シリコンゴム製雄型による押し付け時間は2秒、雌型への吸着は、吹き込み熱風温度が140℃である雰囲気下で9分間とした。
【0062】
実施例1
上記で得た熱曲げ偏光シートの両表面に貼付していた保護フィルムを剥がし、隔離用フィルムとしてHDPE製フィルムを用いて、図1のように100枚重ねた。
次に、上記で得た100枚をプラスチック製トレーに入れ上蓋をし、一次包装体を得た。 上記の一次包装体3個を三菱ガス化学製のRPシステム用ハイガスバリア袋に入れて、除湿空気を注入しながら熱融着方式にて密封し、二次包装体を得た。
【0063】
上記した二次包装体を室温にて1ヶ月保存後に、段ボール箱に入れて自動車に乗せて500kmを走行した。
次いで、上記した二次包装体から熱曲げ偏光シートを取り出し、予備乾燥を行わずに射出成形機金型キャビティに装着し、芳香族ポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量23000、商品名:ユーピロンCLS3400、三菱エンジニアリングプラスチックス(株))を用いて射出成形し、射出偏光レンズを得た。射出成形条件は、樹脂温度310℃、射出圧力125MPa、保持圧63MPa、金型温度80℃、射出サイクル70秒にそれぞれ設定した。
【0064】
射出偏光レンズのキズや汚れ、異物を評価したが、いずれも生じておらず、色変化もなく製品として使用可能な程度に外観が良好であった。
また、隔離用フィルムを巻き取りながら熱曲げ偏光シートを取り出すことが可能となり、自動機にて凹面側から真空吸着により熱曲げ偏光シートを保持移送し、射出成形機金型キャビティに装着することが可能となった。
【0065】
実施例2
隔離用フィルムを塩化ビニリデンにした以外は、実施例1と同様の手順で射出偏光レンズを得た。射出偏光レンズには汚れが生じており、製品としては適さないものであった。
実施例3
隔離用フィルムを厚紙にした以外は、実施例1と同様の手順で射出偏光レンズを得た。射出偏光レンズにはキズや汚れ、異物が生じており、製品としては適さないものであった。
実施例4
隔離用フィルムを薄紙にした以外は、実施例1と同様の手順で射出偏光レンズを得た。射出偏光レンズにはキズや汚れ、異物が生じており、製品としては適さないものであった。
実施例5
隔離用フィルムを使用しなかった以外は、実施例1と同様の手順で射出成形を試みたが、熱曲げ偏光シートが数枚密着してしまい、射出成形に供することができなかった。また、密着を解き、射出偏光レンズを得たが、キズが生じており、製品としては適さないものであった。
実施例6
隔離用フィルムをLDPEにした以外は、実施例1と同様の手順で射出偏光レンズを得た。射出偏光レンズにはキズ、汚れ、異物は生じておらず、色変化もなく製品として使用可能な程度に外観が良好であった。
【0066】
表1

図1