(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】テラヘルツレーザとテラヘルツ抽出における改善
(51)【国際特許分類】
G02F 1/39 20060101AFI20230117BHJP
G02F 1/37 20060101ALI20230117BHJP
H01S 3/108 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
G02F1/39
G02F1/37
H01S3/108
(21)【出願番号】P 2019551979
(86)(22)【出願日】2018-03-23
(86)【国際出願番号】 AU2018050271
(87)【国際公開番号】W WO2018170555
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-03-17
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】514114910
【氏名又は名称】マッコーリー ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】パスク,ヘレン エム.
(72)【発明者】
【氏名】スペンス,デヴィッド ジェームズ
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203714(JP,A)
【文献】特開2011-203718(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103811990(CN,A)
【文献】特表2006-504128(JP,A)
【文献】特開平11-054820(JP,A)
【文献】特開2006-066436(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0021825(US,A1)
【文献】Nedeljkovic, Milos et al.,Free-Carrier Electrorefraction and Electroabsorption Modulation Predictions for Silicon Over the 1-14-μm Infrared Wavelength Range,IEEE Photonics Journal,英国,IEEE,2011年,Vol.3,No.6,,P.1171-1180
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
H01S 3/00-3/02
3/04-3/0959
3/098-3/102
3/105-3/131
3/136-3/213
3/23-4/00
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
THz周波数電磁放射生成システムであって、
THz周波数電磁放射を生成する非線形結晶、
1300nm以上で動作するNdレーザから生じ、シリコンのバンドギャップ波長よりも長い波長を有し、前記非線形結晶と干渉することによりTHz周波数電磁放射を可能とする基本ビーム、
前記非線形結晶と結合して前記THz周波数電磁放射を外部環境へ伝搬させる仲介シリコン、
を備え、
前記THz周波数電磁放射生成システムは、シリコンのバンドギャップエネルギー未満の光子エネルギーを有する基本ビームを利用して、前記仲介シリコン内の自由キャリアの生成を抑制する
ことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記基本ビームの光子エネルギーは、ポンプ外部レーザ源から伝搬し、またはポンプ源によってポンプされたレーザ結晶から引き出すことができる
ことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記システムはキャビティ内システムであり、前記基本ビームはキャビティ内レーザ結晶によって生成することができる
ことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記システムはキャビティ外システムであり、前記基本ビームは基本ポンプレーザによって生成することができる
ことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記非線形結晶がTHz周波数電磁放射を出射する手段は、前記THz周波数電磁放射を生成する、
誘導ポラリトン散乱、差周波数生成、パラメトリック生成、光整流、またはチェレンコフ法、
のうち少なくとも1つを含む
ことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項6】
前記非線形結晶は、誘導ポラリトン散乱(SPS)アクティブ結晶を含む
ことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項7】
前記SPSアクティブ結晶は、
ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、よう素酸リチウム(LiIO3)、リン酸チタニルカリウム(KTiOPO4/KTP)、ヒ酸チタニルカリウム(KTiOAsO4/KTA)、リン酸チタニルルビジウム(RbTiOPO4/RTP)、リン酸ガリウム(GaP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、石英、
のうち少なくとも1つを含む
ことを特徴とする請求項
6記載のシステム。
【請求項8】
前記システムは、ナノ秒期間、ピコ秒期間、マイクロ秒期間、ミリ秒期間、複数秒期間のパルス領域、または連続波(CW)で動作する
ことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項9】
前記仲介シリコンは、表面プロファイルを有し、
前記表面プロファイルは、周期繰り返し断面を有する
ことを特徴とする請求項1から
8のいずれか1項記載のシステム。
【請求項10】
前記表面プロファイルは、一連のプリズムを含む
ことを特徴とする請求項
9記載のシステム。
【請求項11】
前記基本ビームは、前記THz
周波数電磁放射の出射領域近傍において、前記非線形結晶の第1表面に沿って全内部反射する
ことを特徴とする請求項1から1
0のいずれか1項記載のシステム。
【請求項12】
前記システムはさらに、
前記基本ビームを共鳴させる第1共鳴キャビティ、
ストークスビームを共鳴させる第2共鳴キャビティ、
を備える
ことを特徴とする請求項1から1
1のいずれか1項記載のシステム。
【請求項13】
前記第1および第2共鳴キャビティは、互いに角度オフセットしていることにより、前記第1および第2共鳴キャビティ内で共鳴するビームが前記非線形結晶内で交差するように構成されている
ことを特徴とする請求項1
2記載のシステム。
【請求項14】
前記基本ビームと前記ストークスビームは、前記非線形結晶の第1面において全内部反射する
ことを特徴とする請求項1
3記載のシステム。
【請求項15】
前記基本ビームは、第1レーザビームを規定し、
前記第1レーザビームと第2レーザビームは、前記非線形結晶と干渉することにより、THz周波数電磁放射を可能とし、
前記第2レーザビームは、シリコンのバンドギャップエネルギー未満の光子エネルギーを有する、
請求項1から1
4のいずれか1項記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ(THz)周波数電磁放射を生成する出射源に関する。具体的には1例において、本発明は、非線形誘導ポラリトン散乱(SPS)プロセスを介したキャビティ内固体状態レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書における背景技術の議論は、その技術が広く知られているかまたは当該分野における共通知識の一部を形成することを認めたものとみなすべきではない。
【0003】
THz周波数電磁放射(例えばTHzレーザ源が生成するもの)は、多くの分野においてさらに重要になっている。例えば、化学検出と生体検出、分光計、爆発物や密輸品物質の検出、病気診断、薬剤の品質制御、星や銀河の生成を理解するための天文学におけるリモート測定、などが挙げられる。THz周波数電磁放射源の使用例として、以下が挙げられる:“The 2017 terahertz science and technology roadmap”, Journal of Physics D: Applied Physics, Volume 50, Number 4。
【0004】
THz周波数電磁放射源において、放射源の出力パワーを最大化することが望ましい。
【0005】
テラヘルツ誘導ポラリトン散乱(SPS)レーザは、THz周波数電磁放射源の1形態として知られている。例えば:Lee A. J, Pask H. M. Continuous wave, frequency-tunable terahertz laser radiation generated via stimulated polariton scattering; Opt Lett. 2014 Feb 1;39(3):442-5. doi: 10.1364/OL.39.000442が挙げられる。同文献の内容は相互参照により本願に組み込まれる。その他公知文献として以下が挙げられる:Kawase K, Sato M, Taniuchi T, Ito H, Coherent tunable THz-wave generation from LiNbO3 with monolithic grating coupler; Appl. Phys. Lett. 1996 March 68:2483. doi:10.1063/1.115828、同文献は、SPSを利用したテラヘルツパラメトリック生成を記載している;Shikata J, Kawase K, Karino K, Taniuchi T, Ito H, Tunable terahertz-wave parametric oscillators using LiNbO3 and MgO:LiNbO3 crystals; IEEE Transacations on Microwave Theory and Techniques 2000 April:48(4):653、同文献は、SPSを利用したテラヘルツパラメトリック発振器を記載している。その他のレーザベースTHz生成技術として以下が挙げられる:チェレンコフ放射を用いるもの、Suizu K, Koketsu K, Shibuya T, Tsutsui T, Akiba T, Kawase K, Extreme frequency-widened terahertz wave generation using Cherenkov-type radiation; Optics Express 2009; 17(8):6676-6681. doi: 10.1364/OE.17.006676;光整流を用いるもの、Rice A, Jin Y, Ma F, Zhang X. C, Terahertz optical rectification from <110> zinc-blende crystals; Applied Physics Letters 1994: 64:1324. doi: 10.1063/1.111922;差周波数生成を用いるもの、Miyamoto K, Lee A, Saito T, Akiba T, Suizu K, Omatsu T Broadband terahertz light source pumped by a 1 μm picosecond laser; Applied Physics B 2013; 110(3):321-6. doi 10.1007/s00340-013-5359-8。
【0006】
図1から
図3は、SPSレーザ構成の概略レイアウトを示す。
図1は、SPS生成器(またはテラヘルツパラメトリック生成器(TPG))21を示す。
図2は、キャビティ外SPSレーザ(またはテラヘルツパラメトリック発振器(TPO))22を示す。
図3は、キャビティ内SPSレーザ(またはキャビティ内テラヘルツパラメトリック発振器))23を示す。図面において、「ポンプ」場は、ポンプレーザから出力するレーザ場として定義される。「基本」場は、ストークス場とTHz場へのSPSプロセスを介して非線形変換される場である。TPGとTPOのケースにおいて、これは同じポンプ場である。キャビティ内SPSレーザのケースにおいて、これはキャビティ内レーザ結晶が生成した場である。「ストークス」場は、SPSプロセスにおいてSPS結晶内でTHzによって生成される。
【0007】
SPSプロセスは、THz放射を生成する非線形光プロセスである。同様のレーザ構成を用いてTHz放射を生成するために用いることができるその他非線形方法としては、差周波数生成(DFG),光整流および非線形チェレンコフ放射が挙げられる。これら全ての非線形プロセスにおいて、位相整合を用いて、レーザ場波長/周波数を適切にチューニングする。通常の場はレーザビームの形態をとり、これはレーザキャビティ/共鳴器内で共鳴する場合としない場合がある。位相整合は、共伝搬場間において位相関係が確立するプロセスである。SPSレーザのケースにおいて重要なのは、エネルギーと運動量が保存され、「基本」場の光子エネルギーは「ストークス」場と「THz」場のエネルギー和である。同様に「基本」場の波ベクトルは、「ストークス」場と「THz」場の波ベクトルの和である。
【0008】
図4は、キャビティ内SPSレーザ1の実験機器の概略を示す。キャビティ内レーザ1において、SPSアクティブ結晶(通常はMgO添加ニオブ酸リチウム(LN))2は、固体状態レーザ(通常はQスイッチNd:YAGシステム)のキャビティ3内に配置されている。これにより、高強度「基本」場4(1064nm)にアクセスする。これは非線形SPSプロセスの閾値を実現するために必要である。THzスペクトルのその他部分にアクセスするために、その他結晶とレーザ源を用いてもよい。
【0009】
キャビティ外構成において(例えばTPG/TPO)SPS-THzレーザを動作させたが、これは大型高パワーレーザに依拠している。一方でキャビティ内システムは、より小型かつ効率的である。これらキャビティ内レーザにおいて、LN結晶近傍で別キャビティを形成して、別の場を発振させる。これを「ストークス」(この波長は通常、1068~1080nmである)と呼ぶ。SPSプロセスは、基本場4の一部をストークス場5と所望THz場へ変換する。
【0010】
基本キャビティ4に対してストークスキャビティ5の角度を変更することにより(LNを用いる場合は通常1.5~3度)、非線形結晶内で位相整合角を変更し、ストークス波長とTHz場周波数を調整することができる。
【0011】
THz場は、個別のTHz周波数を有するか、または約1~10THzのTHz周波数内に調整することができる。LNのSPSケースにおいて、THz放射は通常、1THz~4THzである。別システムにおいては別の調整範囲が得られる。これらシステムは、十分高い(~μW)レベルの平均パワーで調整可能THz周波数電磁放射を生成することができるわずかな例である。
【0012】
LN結晶2内でTHz場を生成する角度に起因して、LN/空気境界7において全内部反射が生じる。この構成を
図5に示す。同様の全内部反射は、非線形結晶を用いるときも生じる。
【0013】
図6に示すように、これを回避して結晶からのTHz放射12を効率的に外部取得するために、LN結晶12と空気との間の中間媒体として高抵抗Siプリズム8を用いる。LN結晶とSiプリズムとの間に別の層(例えば空気やポリマ)を配置してもよい。
【0014】
Siは、他材料と比較して元来より低いTHz吸収を維持しつつ、THz場を広範なTHz周波数範囲で外部取得するのに適した屈折率を有する材料である。高抵抗Siは通常、他のシリコン形態よりも低いTHz吸収を有する。
【0015】
ただし1つの大きな問題は、光電効果を介して(Siのバンドギャップ超のエネルギーを有する光子がSi面に衝突することによる)、電子とホールの自由キャリアがSiプリズム8内に誘起されることである。これら自由キャリアは、Siプリズム8を伝搬するTHz放射を吸収する。K. Kawase, J. Shikata, and I. Hiromasa, "Terahertz wave parametric sources," J. Phys. D Appl. Phys. 34, R1-R14 (2001)。
【0016】
基本光子とストークス光子(1064nm=1.16eV;1080nm=1.15eV)の光子エネルギーは、Siのバンドギャップ(1.11eV)超であり、したがって自由キャリアが生じる。エネルギーと波長は以下の数式によって関係することがよく知られている:E=hc/λ。これら基本光子とストークス光子は、いくつかの手段を通じてレーザシステム内で散乱する。例えばレーザとLN結晶内の不完全物または不純物、端面とミラーの不完全性、拡張または収縮共鳴器モード、などである。これら部品の製造公差に起因して、これらシステムにおいてレーザ放射の散乱を完全に防ぐのは不可能である。
【0017】
ただし、かみそり刃や別プリズムなどのブロック素子を用いることにより、Siプリズムの表面に衝突するこの散乱レーザ放射を一部防ぐことができる。この手法は散乱レーザ放射がSiプリズムの外部に衝突する問題を解決する助けになるが、LN結晶内で内部散乱することと、LN結晶に接着したSiプリズムの表面において自由キャリアが生成されることの問題は解決しない。構成例によっては、Siプリズムにおける自由キャリア吸収効果により、THz場の総損失が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、望ましい形態において、THz周波数電磁放射源からのパワー抽出の改善した形態を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1側面において、THz周波数電磁放射生成システムを提供する。同システムは:THz周波数電磁放射を生成する非線形結晶;前記非線形結晶と干渉することによりTHz周波数電磁放射を可能とする基本ビーム;前記非線形結晶と結合して前記THz周波数電磁放射を外部環境へ伝搬させる仲介シリコン;を備え、前記システムは、シリコンのバンドギャップエネルギー未満の光子エネルギーを有する基本ビームを利用する。
【0020】
前記基本ビームは、ポンプ外部レーザ源から伝搬し、またはポンプ源によってポンプされたレーザ結晶から引き出すことができる。
【0021】
実施形態において前記システムはキャビティ内システムであり、前記基本ビームはキャビティ内レーザ結晶によって生成することができる。実施形態において前記システムはキャビティ外システムであり、前記基本ビームは基本ポンプレーザによって生成することができる。
【0022】
前記非線形結晶がTHz周波数電磁放射を出射する手段は:前記THz周波数電磁放射を生成する誘導ポラリトン散乱、差周波数生成、パラメトリック生成、光整流、またはチェレンコフ法、のうち少なくとも1つを含む。前記基本ビームは:固体状態レーザ、レーザダイオード、希土類添加レーザ結晶、エルビウム結晶、またはVECSEL半導体、のうち少なくとも1つによって生成することができる。
【0023】
実施形態において、前記非線形結晶は、誘導ポラリトン散乱(SPS)アクティブ結晶を含むことが望ましい。前記SPSアクティブ結晶は:ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、よう素酸リチウム(LiIO3)、リン酸チタニルカリウム(KTiOPO4/KTP)、ヒ酸チタニルカリウム(KTiOAsO4/KTA)、リン酸チタニルルビジウム(RbTiOPO4/RTP)、リン酸ガリウム(GaP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、石英、のうち少なくとも1つを含むことが望ましい。
【0024】
前記システムは、ナノ秒期間、ピコ秒期間、マイクロ秒期間、ミリ秒期間、複数秒期間のパルス領域、または連続波(CW)で動作する。
【0025】
前記仲介シリコンは、周期繰り返し断面を含むプロファイル化した表面を有することが望ましい。実施形態において、前記プロファイル化表面は、一連のプリズムを含む。単一プリズムを用いることもできる。
【0026】
実施形態において、前記基本ビームは、前記THz放射の出射領域近傍において、前記非線形結晶の第1表面に沿って全内部反射する。
【0027】
前記システムはさらに:前記基本ビームを共鳴させる第1共鳴キャビティ;前記ストークスビームを共鳴させる第2共鳴キャビティ;を備えることが望ましい。前記第1および第2共鳴キャビティは、互いに角度オフセットしていることにより、対応するビームが前記非線形結晶内で交差するようにすることが望ましい。
【0028】
実施形態において、前記基本ビームと前記ストークスビームは、前記非線形結晶の前記第1面に隣接する重畳領域において全内部反射する。
【0029】
本発明の別側面において、THz周波数電磁放射システムのテラヘルツ出力パワーを増加させる方法を提供する。前記システムは:THz周波数電磁放射生成源;前記THz周波数電磁放射を出力環境へ仲介出力する仲介シリコン;を備え、前記方法は:シリコンのバンドギャップエネルギー未満の基本ビーム光子エネルギーを利用して、前記THz周波数電磁放射生成源においてTHz周波数電磁放射を生成するステップを有する。
【0030】
本発明の別側面において、非線形誘導ポラリトン散乱プロセスを介してテラヘルツ周波数電磁放射を生成するキャビティ内固体状態レーザのテラヘルツ周波数電磁放射出力パワーを増加させる方法を提供する。前記テラヘルツ周波数電磁放射出力パワーは、非線形結晶内で形成され、前記非線形結晶と空気との間のシリコン仲介構造を利用することによって抽出される。前記方法は、前記シリコン仲介構造において自由キャリアを生成しない基本波長とストークス波長を利用するステップを有する。
【0031】
本発明の別側面において、非線形誘導ポラリトン散乱を介してTHz周波数電磁放射を出力するキャビティ内固体状態レーザを提供する。前記レーザは:第1共鳴光キャビティをポンプする第1外部ポンプ;基本ビームを生成するとともに前記基本ビームを共鳴させるレーザ結晶を有し、前記基本ビームと干渉することによりストークスビームを生成する第1非線形結晶を有する、第1共鳴光キャビティ;ストークスビームを共鳴させる第2共鳴光キャビティ;備え、前記第1および第2共鳴光キャビティは、前記非線形結晶内においてある角度で前記基本ビームと前記ストークスビームが交差して、非線形ポラリトン散乱の位相整合を実現するように構成されており、前記第1共鳴光キャビティはさらに、シリコンのバンドギャップ未満の光子エネルギーを有する基本ビームを共鳴させる。
【0032】
本発明の別側面において、THz周波数電磁放射生成システムを提供する。前記システムは:THz周波数電磁放射を生成する非線形結晶;前記非線形結晶と干渉することによりTHz周波数電磁放射を可能とする第1レーザビームと第2レーザビーム;前記非線形結晶と接続され前記THz周波数電磁放射を外部環境へ仲介する仲介シリコン;を備え、前記第1および第2レーザビームはそれぞれ、前記バンドギャップエネルギー未満の光子エネルギーを有する。
【0033】
本発明の実施形態を、例示目的のみで、添付する図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】既知のTHz生成の様々な形態の概略を示す。
【
図2】既知のTHz生成の様々な形態の概略を示す。
【
図3】既知のTHz生成の様々な形態の概略を示す。
【0035】
【
図4】SPS THzレーザの既知形態の概略を示す。
【0036】
【
図5】THz放射の内部反射プロセスの概略を示す。
【0037】
【
図6】Siプリズムを利用してTHz放射を抽出する概略を示す。
【0038】
【0039】
【
図8】従来技術における出力パワーレベルのグラフを示す。
【0040】
【
図9】本実施形態が生成できる出力パワーレベルのグラフを示す。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【
図13】キャビティ内浅反射構成レイアウトの概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
実施形態1は、SPSプロセスにおいて「通常より長い」1342~1380nmのレーザ波長を利用して、シリコン(Si)プリズム内における自由キャリア(電子とホール)の生成を防ぐ。Siプリズムは、生成されたTHz放射を吸収し、これによりこれらシステムから通常生成される総パワーを減少させる。
【0046】
SIプリズムにおいて自由キャリアを生成しないレーザ波長を用いることにより、自由キャリア吸収問題を解決する手段を提供する。すなわち、Siのバンドギャップ未満の光子エネルギーを有する波長を用いる。
【0047】
図7を参照する。この長い波長におけるレーザ発振は、従来の結晶配置においてNd添加レーザ結晶41を用いることによって実現できる。これら結晶は、~1064nmバンドに加えて1300nmレンジにおいてレーザ放射バンドを有する。Nd:YVO
4は特に、1342nmにおいて強レーザ放射を生成するのに適している。これは、同波長レンジにおいて非常に高い放射断面積を有することによる。
【0048】
Nd:YVO
4における1342nm放射ラインを用いるキャビティ内THz SPSレーザを、
図7の符号40に示すように構築した。本構成は、1342nm(0.92eV)において基本ビーム42を生成し、~1346nm(0.92eV)から1380nm(0.90eV)において調整可能ストークス放射43を生成した。対応するTHz調整レンジは、ストークスと基本キャビティとの間の同じ角度で1064nmを用いるとき実現できるものと同様のものである。この長い波長においてレーザ動作を実現するためには、結晶およびミラーコートを変更して1064nmレーザラインを抑制するとともに1342nmにおける強発振を促進することにより、レーザシステムを再構成することが必要であった。
【0049】
得られたシステムは、ストークスとTHz放射を出力した。重要なのは、THz放射が非常に強く、THzパワーが従来設計から大幅に増加したことである(3倍以上)。キャビティ内にブロック素子を追加してもTHz出力に対して影響がないことも確認した。これは、散乱レーザ光がSiプリズムに対して影響せず、自由キャリアが生成されなかったことを示唆している。
【0050】
1064nmで動作するシステムの性能と1342nmで動作するシステムの性能を直接比較するのは困難である。これは、システムに対する変更数が多いことによる。ミラーコートはわずかに異なり、レーザ結晶も異なる。ただし1342nm基本場を利用するシステムから、1064nm場よりも大幅に多いTHz放射が検出された。~1.9THzにおいて3倍以上のパワーが検出された。
【0051】
本実施形態は、Nd添加レーザ結晶がアクセスできる別の強レーザ波長を利用することにより、自由キャリア問題を解決することを試みる。1064nmとブロック素子を用いるシステムにおいても、内部Si境界においてLN結晶内部のレーザ場の内部散乱が自由キャリアを生成しているのか否かについての疑問がある。望ましい実施形態の構成は、この可能性を除去する。
【0052】
本システム設計/アプローチによって実現できるTHz出力パワーの大ゲインは、THzパワー生成の高パワーレベルを提供する。
【0053】
図8を参照する。既存設計における入力ダイオードポンプパワーのレベル差を表すTHz出力パワーを示す。最大出力パワー51は約6.5μWである。
図9を参照する。Nd:YVO4結晶を利用し、基本場波長1342nmの構成は、約24μW(符号61)であった。ダイオードレーザポンプがより高ければ、さらに高いTHzパワーを実現できると想定される。
【0054】
したがって上記実施形態は、シリコンのバンドギャップ未満のレーザ光子エネルギーを利用することを介して、THzパワー生成における出力パワーを実質的に増やす手段を提供する。
【0055】
本実施形態の教示内容は、仲介シリコンを用いるその他THz生成システムへ拡張することができる。そのようなデバイスにおいて、シリコンのバンドギャップ未満の光子エネルギーを用いて、自由キャリアの発生を回避できる。
【0056】
本実施形態は、SPSプロセスに基づく別のレーザ構成に拡張できる。このレーザ構成は、
図1~
図3に示すキャビティ内およびキャビティ外THz発振器(TPO)とTHz生成器(TPG)を備える。
【0057】
これら実施形態は、共線および非共線位相整合であり、基本場および/またはストークスレーザ場がSPSプロセス結晶内部において全内部反射(TIR)する、共鳴器構成に拡張できる。
【0058】
THz生成システムの別実施形態は、SPSベースである必要はなく、差周波数生成を用いるシステムを包含する。
【0059】
Nd添加結晶に加えてその他レーザゲイン媒体を用いて、SIのバンドギャップ未満の光子エネルギーを有するレーザを生成できることは、明らかである。例えばツリウム(Tm)やエルビウム(Er)添加レーザ結晶が挙げられる。垂直キャビティ外表面放射レーザ(VECSEL)チップやディスクレーザなどの半導体媒体が挙げられる。
【0060】
SPSプロセスを介したTHz放射の生成は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)に限られるものではなく、その他SPSアクティブ結晶を含む。例えば:よう素酸リチウム(LiIO3)、リン酸チタニルカリウム(KTiOPO4/KTP)、ヒ酸チタニルカリウム(KTiOAsO4/KTA)、リン酸チタニルルビジウム(RbTiOPO4/RTP)、リン酸ガリウム(GaP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、石英、が挙げられる。各ケースにおいて、生成したTHz放射を外部結合するため、仲介シリコンを利用する。
【0061】
これらSPSレーザは、別の時間領域で動作できる。例えば以下が挙げられる:ナノ秒(上記実施形態と同様)、ピコ秒期間、マイクロ秒期間、ミリ秒期間、複数秒期間のパルス領域、または連続波(CW)領域。
【0062】
したがって本発明は、THz周波数パワーの出力および/またはTHz放射源の光効率を増加させたい場合一般における用途を有する。
【0063】
その他構成もいくつか可能である。例として、THz放射レーザ共鳴器構成の「浅反射」構成を説明する。これにより、SPS結晶内におけるTHz生成をさらに効率化し、SPS結晶からより効率的にTHz放射を抽出できる。
【0064】
図10~
図12において、3つの放射構成を示す。
図10は、
図7の動作関係を簡略化した形態を示す。結晶内においてストークスビームと基本ビームとの間で重なりがある(101)。
図11は、結晶112の面111において場が重なる別構成を示す。
図12は、さらに浅い反射構成を示す。浅反射構成120において、基本場121とストークス場122はともに、SPS結晶124内において全内部反射(123)する。その結果、2つのビーム間の重なる領域123(すなわちTHzビームが生成される領域)は、SPS結晶の面に対して非常に近い。これは、本構成において生成するTHz放射が、線形構成のようにSPS結晶の体積部分を伝搬してSPS結晶内部における吸収損失を生じさせる必要がないことを意味する。浅反射構成124は、THz放射127と128を外部伝搬するためにシリコンプリズム125と126を使用し、したがって1342nm基本波長を用いることの利点を得る。表面放射構成のその他特性は、2つの空間分離したTHzビーム127と128がシステムから放射されることである。これはポンププローブシステムまたは干渉計において利用できる。
【0065】
浅反射構成において、システムは以下のいずれかで動作する:i)基本場はTIR反射し、ストークス場は反射せず線形を維持する;ii)基本場は線形であり、ストークス場はTIR反射する;iii)基本場とストークス場ともにTIR反射する。
【0066】
図13は、
図7の構成を変形して浅反射構成をした1形態を示す。本構成において、先述のように、初期ポンプレーザと光学部品136を用いて、基本場生成結晶をポンプし、基本場137を生成する。基本場は結晶131を介して投影され、全内部反射132してキャビティミラー134と138を介して共鳴する。基本場はストークス場133を駆動し、ストークス場133はミラー135と139との間で共鳴し、点132において全内部反射する。重畳場は2つのTHz周波数放射140と141を生成する。
【0067】
<解釈>
本明細書における「1実施形態」「実施形態」「ある実施形態」などの語句は、その実施形態に関する特定の特徴、構造、特性などが本発明の少なくとも1つの実施形態において含まれていることを意味する。したがって本明細書の各箇所における「1実施形態において」「実施形態において」「ある実施形態において」などのフレーズは、必ずしも同じ実施形態をさしているものでないが、同じである場合もある。さらに、特定の特徴、構造、特性などは、任意の適切な態様で組み合わせることができる。このことは、当業者にとって本開示の実施形態から明らかである。
【0068】
本明細書において、明示しない限り、共通オブジェクトを記載する通常の形容詞「第1」「第2」「第3」などは、同様のオブジェクトの別インスタンスを示すに過ぎず、そのオブジェクトが時間的、空間的、ランク的、その他の態様において所与の順序でなければならないことを意図するものではない。
【0069】
特許請求範囲と本明細書において、備えている、からなる、備えるなどの語句は、その後の要素/特徴のうち少なくとも1つを含んでいることを意味するオープン語句であり、それ以外のものを除外するものではない。したがって、特許請求範囲において、備えるという語句を用いる場合、これはその後に続く要素やステップに限定するものと解釈すべきではない。例えば、AとBを備えるデバイスは、要素AとBのみを有するデバイスに限定すべきではない。本明細書における、含んでいる、含む、有する、などの語句も、その後に続く要素/特徴のうち少なくとも1つを含んでいることを意味するオープン語句であり、それ以外のものを除外するものではない。したがって、含むは備えるの同義語である。
【0070】
本明細書において、語句「例」は、例示を提供する意味で用いており、品質を示すものではない。すなわち、「実施例」は例として提示する実施形態であり、例示する品質の実施形態でなければならないものではない。
【0071】
本発明の上記実施例において、本開示を整理して1以上の発明要素の理解を補助するために、本発明の様々な特徴部分を1つの実施形態、図面、それらの説明にグループ化したことを、理解されたい。ただしこの開示方法は、特許請求する発明が各請求項において明示的に記載している以上の特徴部分を必要とすることを意図しているものとして解釈すべきではない。むしろ特許請求範囲は、上記実施形態に含まれる全要素よりも少ない要素のなかに発明要素が存在することを反映したものである。したがって発明の詳細な説明の後の特許請求範囲は、発明の詳細な説明に含まれるものであり、各請求項は本発明の個別の実施形態を表している。
【0072】
さらに、本明細書が記載する実施形態は、別の実施形態に含まれている特徴部分を含んでいないものもあるが、別実施形態の特徴部分の組み合わせも本発明の範囲内であることを意図しており、その組み合わせも別実施形態を形成する。このことは当業者にとって明らかである。例えば特許請求範囲において、特許請求する実施形態は任意の組み合わせで用いることができる。
【0073】
本明細書において、様々な詳細部分を説明した。ただし本発明の実施形態は、これら詳細部分なしでも実施できることを理解されたい。別実施例において、既知の方法、構造、技術を詳細説明しないことにより、本明細書の理解をあいまいにしないようにしている。
【0074】
同様に、特許請求範囲において、接続されているという用語を用いるとき、直接接続のみに限定するものと解釈すべきではない。用語「連結」「接続」およびその派生語句を用いることができる。これら語句は、互いの同義語を意図していないことを理解されたい。したがって、デバイスBに接続されたデバイスAは、デバイスAの出力がデバイスBの入力に対して直接接続されているデバイスまたはシステムに限定すべきではない。これは、Aの出力とBの入力との間に経路が存在することを意味し、その経路は別デバイスその他の手段であってもよい。「接続されている」は、2以上の要素が物理接触または電気的接触しており、あるいは2以上の要素が直接接続はされていないが相互協調動作することを意味する。
【0075】
したがって、本発明の望ましいと思われる実施形態を説明したが、その他の変形例も本発明の要旨を逸脱するものではなく、そのような変更や変形も本発明の範囲に含まれることを、当業者は認識するであろう。例えば任意の数式は、使用可能な手順の代表例であるに過ぎない。ブロック図に対して機能を追加または削除でき、機能ブロック間で動作を相互交換できる。本発明の範囲内において、方法に対してステップを追加または削除することができる。