(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】付加製造のための高強度金属ガラス系複合材料
(51)【国際特許分類】
B22F 10/34 20210101AFI20230117BHJP
B22F 10/22 20210101ALI20230117BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20230117BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230117BHJP
B22F 10/38 20210101ALI20230117BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230117BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230117BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230117BHJP
C22C 45/10 20060101ALI20230117BHJP
C22C 45/02 20060101ALN20230117BHJP
【FI】
B22F10/34
B22F10/22
B22F10/25
B22F10/28
B22F10/38
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
C22C45/10
C22C45/02 Z
(21)【出願番号】P 2019566364
(86)(22)【出願日】2018-06-04
(86)【国際出願番号】 US2018035813
(87)【国際公開番号】W WO2018223117
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-28
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508032284
【氏名又は名称】カリフォルニア インスティチュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス シー ホーフマン
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104117672(CN,A)
【文献】特表2010-523822(JP,A)
【文献】特表2012-502178(JP,A)
【文献】特開2012-214826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/34
B22F 10/22
B22F 10/25
B22F 10/28
B22F 10/38
B33Y 10/00
B33Y 70/00
B33Y 80/00
C22C 45/10
C22C 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス形成能を特徴とし、バルク金属ガラスマトリックスを形成するための、ベリリウムを含まない、バルク金属ガラス組成物の粉末と、
前記バルク金属ガラスマトリックス中に延性結晶相を形成するための、少なくとも1つの
追加の金属組成物の粉末とを提供する工程;
前記バルク金属ガラス組成物の粉末と前記少なくとも1つの追加の金属組成物
の粉末とを混合して粉末混合体を形成する工程であって、前記少なくとも1つの追加の金属組成物の体積分率は、粉末混合体の15~95体積%である工程;
付加製造の熱源を用いて、
少なくともバルク金属ガラス組成物の粉末を、前記バルク金属ガラス組成物の粉末に固有の表面不動態化酸化物層を溶解するように、少なくとも部分的に溶融し、前記粉末混合体を含む層を溶融する工程;
前記層を固化して、前記バルク金属ガラス組成物を含む前記バルク金属ガラスマトリックス内に分散された少なくとも1つの追加の金属組成物を含む延性結晶相を含むバルク金属ガラスマトリックス複合材料を形成する工程であって、
前記延性結晶相の体積分率は、前記バルク金属ガラスマトリックス複合材料の15~95%を構成し、
前記延性結晶相は、前記バルク金属ガラスマトリックス内の亀裂伝播を抑制し、前記バルク金属ガラスマトリックス複合材料を補強し、
前記バルク金属ガラスマトリックス複合材料は、2体積%以下の気孔率、
一体構造部分に形成されたときの前記バルク金属ガラス組成物の強度の少なくとも50%の総合強度、前記バルク金属ガラス組成物
の破壊靭性より
も少なくとも5%大きい破壊靭性、前記バルク金属ガラス組成物
の引張靭性より少なくとも1%大きい引張延性、及び100μmの切欠き半径を有する部分で測定したときの切欠き靭性が40MPa・m
1/2より大きい切欠き靭性、
からなる群から選択される少なくとも1つの性質を有
する工程;及び、
付加製造工程において溶融ステップと固化ステップとを繰り返し、前記バルク金属ガラスマトリックス複合材料からなる複数の層を互いに堆積させて、バルク金属ガラスマトリックス複合材料部分を形成する工程;
とを含む、粉末を基とした付加製造を利用して前記金属複合材料
部分を形成するための方法。
【請求項2】
前記
付加製造工程は、粉末床溶融結合、積層造形法、直接金属レーザー焼結法、指向性エネルギー堆積法、電子ビーム製造法
及び溶射付加製造法からなる群から選択される
工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バルク金属ガラス組成物の粉末の粒径は
第1の粒径であることを特徴とし、前記少なくとも1つの追加の金属組成物の粉末の粒径
は第2の粒径であることを特徴とし、前記第1の粒径は前記第2の粒径の20%以内である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記バルク金属ガラスマトリックス複合材料は、1GPaを超える
前記全体的な強度を有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記
引張延性は、4%を超える、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記破壊靭性は80MPa・m
1/2を超える、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの追加の金属組成物は、前記バルク金属ガラス組成物のガラス形成能力を実質的に変化させない、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記バルク金属ガラスマトリックス複合材料
部分の表面を滑らかにするために、前記表面に機械加工又は仕上げ加工することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記バルク金属ガラスマトリックス複合材料
部分は、結晶質金属表面に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの追加の金属組成物は、前記バルク金属ガラス組成物
に対して硬度
が少なくとも5%低い
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの追加の金属組成物は、前記バルク金属ガラス組成物
に対して剛性率
が低い
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの追加の金属組成物は、前記バルク金属ガラス組成物
に対して剛性
が低い
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの追加の金属組成物は、一体構造の部品として張力において5%を超える延性を示す結晶質金属である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの追加の金属組成物
及び前記バルク金属ガラス組成物
は、それらの最も豊富な元素として同じ金属元素
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記バルク金属ガラス組成物は、その最も豊富な金属が、Ti、Zr、Hf、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、及びAlからなる群から選択される
元素である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記バルク金属ガラス組成物はZr-Cu-Alを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記バルク金属ガラス組成物は、密度が5.5g/cm
3未満のTi系の金属ガラスである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記バルク金属ガラス組成物はZr系であって、前記少なくとも1つの追加の金属組成物は、V、Nb、Ta、Mo又はFe
からなる群から選択される1つ又は複数と合金化されたTi又はZr系の合金である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記バルク金属ガラスマトリックス複合材料は、Ti系で密度が6g/cm
3未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記バルク金属ガラス組成物は、Fe-Ni-B-X
を含み、前記少なくとも1つの追加の金属組成物は、Fe系である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記バルク金属ガラス組成物
及び少なくとも1つの追加の金属組成物の両方はAl、Fe及びTiからなる群から選択される元素系である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記バルク金属ガラスマトリックス複合材料
部分は、腕時計、宝飾品、電子ケース、構造部品、歯車、及び運動ラウンドからなる群から選択される
物品である、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記
延性結晶質相の体積分率は、前記バルク金属ガラスマトリックス複合材料
部分全体にわたって変化する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも1つの追加の金属組成物は、W、Mo、Hf
及びTaからなる群から選択される耐熱金属相を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1つの追加の金属組成物が、バルク金属ガラス組成物中に低い溶解度を有する成分を含み、前記成分がバルク金属ガラス組成物を溶解していることから、デンドライト相
が、前記バルク金属ガラスマトリックス中に形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記バルク金属ガラスマトリックス複合材料は、前記バルク金属ガラスマトリックス
を含むガラス相、前記
延性結晶質相
を含む結晶質相、及び前記
成分を含むデンドライト相
、の3つの相を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記バルク金属ガラス組成物及び前記少なくとも1つの追加の金属組成物は、前記少なくとも1つの追加の金属組成物が前記バルク金属ガラス組成物に
少なくとも部分的に溶解されたときに、前記バルク金属ガラス組成物
のガラス形成能力
が向上するように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記少なくとも1つの追加の金属組成物は、前記バルク金属ガラス組成物のガラス形成能力と比較してガラス形成能力が向上するように、
溶解時に前記バルク金属ガラス組成物に成分を与える、請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2017年6月2日に出願された米国仮出願第62/514653号の優先権を主張し、その開示は、参考文献として本明細書に援用する。
【0002】
(連邦政府の補助金に関する記載)
本明細書に記載の発明は、NASA契約NNN12AA01Cに基づく作業の履行において行われたものであって、契約者が所有権を保持することを選択した公法96-517(35USC202)の規定に従う。
【技術分野】
【0003】
本発明は、一般に強度及び靭性を向上させたバルク金属ガラスマトリックス複合材料、それらの付加製造、並びにそれらから製造される部品、及びそれによって製造される部品に関する。
【背景技術】
【0004】
バルク金属ガラス(BMG)は、アモルファス又はガラス状金属としても知られており、比較的大きな鋳造厚さ(一般に1mmを超える)でガラス状態に急冷することができる合金である。次に、BMGマトリックス複合材料(BMGMC)は、高強度金属ガラスマトリックス内に分散された結晶/デンドライト相を含む二相材料であって、ここで、結晶質相は、典型的には、鋳造中の溶融物からの合金の冷却中に化学的な偏析によりその場(in situ)で成長する。
【0005】
金属付加製造は、金属3Dプリンティングとしても一般的に知られており、航空機及びロケットエンジンにおけるノズルの製造のような商業的用途に急速に組み込まれている新興の製造技術である。典型的には、3Dプリント工程は、所望のバルク(すなわち正味寸法)部品又は構造を組み立てるために、材料の多数の薄層を連続的に堆積させる工程を含む。付加製造の最も一般的な方式は、パウダーベッド方式又は粉末供給システムのいずれかに基づく。パウダーベッド方式に基づく3Dプリントでは、レーザー又は電子ビームが金属粉末の薄層を溶融し、それを連続的に実施して部品を形成し、部品は粉末に埋め込まれた状態になる。パウダーベッド方式の最も一般的な方式は、直接金属レーザー焼結法(DMLS)又はレーザー溶融法(SLM)である。対照的に、粉末供給システムに基づくプリント方式では、金属粉末は、レーザー又は電子ビームに吹き込まれ、金属の堆積物として堆積される。さらに、パウダーベッドが存在しない状態で、金属がビルディングヘッドから直接堆積される3Dプリントシステムが存在する。このようなベッドレス技術は、指向性エネルギー堆積方式(DED)と呼ばれ、その最も一般的な方式は、レーザー直接堆積法(LENS)である。付加製造の他の一般的な方式は、堆積、溶射付加製造、レーザー箔溶接、及び超音波付加製造である。最近、バルク金属ガラス部品も、鋳造の代わりに付加製造によって製造することもできることが実証されている。
【発明の概要】
【0006】
本開示による実施形態は、一般に、強度及び靭性を向上させたバルク金属ガラスマトリックス複合材料、それらの付加製造方法、及びそれらから製造される部品、並びにそれによって製造される部品に関する。
【0007】
本開示による多くの実施形態は、
バルク金属ガラス組成物の粉末を、少なくとも1つの追加の金属組成物の粉末と混合する工程であって、少なくとも1つの追加の金属組成物が、バルク金属ガラス組成物から形成されるバルク金属ガラスマトリックス中の亀裂の伝播を抑制するように構成された補強結晶質延性相を形成し、少なくとも1つの金属結晶質相の体積分率が、バルク金属ガラスマトリックス複合材料の15~95体積%である工程;
付加製造の熱源を用いて、バルク金属ガラス組成物と少なくとも1つの追加の金属組成物の混合粉末を、バルク金属ガラスマトリックス組成物内に配置された自然酸化物層が溶解するように少なくとも1つの追加の金属組成物を部分的に溶融させるように溶融する工程;及び
層プリント法によって混合粉末から形成された溶融物を層状に固化させて、2体積%以下の気孔率、バルク部分に形成されたときのバルク金属ガラス組成物の強度の少なくとも50%の総合強度、バルク金属ガラス組成物より少なくとも5%大きい破壊靭性、バルク金属ガラス組成物より少なくとも1%大きい引張延性、及びバルク金属ガラス組成物から形成された100μmの切欠き半径を有する部分で測定したときの切欠き靭性が40MPa・m1/2より大きい切欠き靭性、の群から選択される少なくとも1つの性質を有するバルク金属ガラスマトリックス複合材料を形成する工程を含む、
粉末を基とした付加製造を利用してバルク金属ガラスマトリックス複合材料を形成するための方法を対象とする。
【0008】
多くの他の実施形態では、層ごとの固化工程は、粉末床溶融結合、積層造形法、直接金属レーザー焼結法、指向性エネルギー堆積法、電子ビーム製造法、溶射付加製造法、コールドスプレー付加製造法、及び結合剤噴射法からなる群から選択される。
【0009】
さらに多くの他の実施形態では、バルク金属ガラス組成物粉末の粉末及び少なくとも1つの追加の金属組成物の粉末は、固化前に混合される。
【0010】
さらに多くの他の実施形態では、バルク金属ガラス組成物粉末粒径は、少なくとも1つの追加の金属組成物粉末の粒径の20%以内である。
【0011】
さらに多くの他の実施形態では、固化バルク金属ガラスマトリックス複合材料は、1GPaを超える強度を有する。
【0012】
さらに多くの他の実施形態では、固化バルク金属ガラスマトリックス複合材料は、張力下において4%を超える延性を有する。
【0013】
さらに多くの他の実施形態では、固化バルク金属ガラスマトリックス複合材料の破壊靭性は80MPa・m1/2を超える。
【0014】
さらに多くの他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物は、バルク金属ガラス組成物のガラス形成能力を実質的に変化させない。
【0015】
さらに多くの他の実施形態では、この方法は、固化バルク金属ガラスマトリックス複合材料の表面を滑らかにするために、表面に機械加工又は仕上げ加工することをさらに含む。
【0016】
さらに多くの他の実施形態では、バルク金属ガラスマトリックス複合材料は、結晶質金属表面に適用される。
【0017】
さらに多くの他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物の硬度は、バルク金属ガラス組成物の硬度よりも少なくとも5%低い。
【0018】
さらに多くの他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物の剛性率は、バルク金属ガラス組成物の剛性率よりも低い。
【0019】
さらに多くの他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物の剛性は、バルク金属ガラス組成物の剛性よりも低い。
【0020】
さらに多くの他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物は、一体構造の部品として張力下において5%を超える延性を示す結晶質金属である。
【0021】
さらに多くの他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物は、バルク金属ガラス組成物と同じ主要な金属元素から構成される。
【0022】
さらに多くの他の実施形態では、バルク金属ガラス組成物は、その最も豊富な金属が、Ti、Zr、Hf、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、及びAlからなる群から選択される。
【0023】
さらに多くの他の実施形態において、バルク金属ガラス組成物はZr-Cu-Alを含む。
【0024】
まだ多くの他の実施形態において、バルク金属ガラス組成物は、密度が5.5g/cm3未満のTi系の金属ガラスである。
【0025】
さらに多くの他の実施形態では、バルク金属ガラス組成物はZr系であって、少なくとも1つの追加の金属組成物は、V、Nb、Ta、Mo又はFeのうちの1つ又は複数と合金化されたTi又はZr系の合金である。
【0026】
バルク金属ガラスマトリックス複合材料は、Ti系で密度が6g/cm3未満であるもの、Ti系であって、少なくとも1つの追加金属組成物がTi系であるもの、Fe系であって、少なくとも1つの追加金属組成物がFe系であるもの、のうちいずれかを含むことができる。
【0027】
さらに多くの他の実施形態では、バルク金属ガラス組成物は、Fe-Ni-B-Xであって、ここで、Xは、1つ以上の追加の成分であって、少なくとも1つの追加の金属組成物は、Fe系である。
【0028】
さらに多くの他の実施形態では、バルク金属ガラス組成物はAl系であって、少なくとも1つの追加の金属組成物はAl系である。
【0029】
さらに多くの他の実施形態では、バルク金属ガラスマトリックス複合材料は、腕時計、宝飾品、電子ケース、構造部品、歯車、及び運動ラウンドからなる群から選択される三次元物体へとプリントされる。
【0030】
さらに多くの他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物の体積分率は、固化バルク金属ガラスマトリックス複合材料全体にわたって変化する。
【0031】
さらに多くの他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物は、W、Mo、Hf又はTaからなる群から選択される耐熱金属相を含む。
【0032】
さらに多くの他の実施形態では、固化バルク金属ガラスマトリックス複合材料は、正味寸法の部品として形成される。
【0033】
さらに多くの他の実施形態では、デンドライト相はバルク金属ガラス組成物中に低い溶解度を有する少なくとも1つの追加の金属組成物から溶解した成分から、溶融及び固化中にバルク金属ガラスマトリックス中に形成される。
【0034】
さらに多くの他の実施形態では、固化バルク金属ガラスマトリックス複合材料は、バルク金属ガラスマトリックス、補強結晶質延性相、及びバルク金属ガラスマトリックス全体に分布するデンドライト相の3つの相を含む。
【0035】
さらに多くの他の実施形態では、バルク金属ガラス組成物及び少なくとも1つの追加の金属組成物の組成は、少なくとも1つの追加の金属組成物がバルク金属ガラス組成物に部分的に溶解されたときに、バルク金属ガラス組成物がガラス形成能力を向上するように選択される。
【0036】
さらに多くの他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物は、バルク金属ガラスマトリックスが、溶融前のバルク金属ガラス組成物のガラス形成能力と比較してガラス形成能力が向上するように、溶融中にバルク金属ガラス組成物に十分な金属成分を与える。
【0037】
追加の実施形態及び特徴は、以下の説明に一部記載されており、一部は、本明細書を検討することによって当業者に明らかになるか又は発明の対象の実施によって理解される。本発明の性質及び利点のさらなる理解は、本明細書の一部を成す明細書の残部及び図面を参照することによって実現されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本発明のこれらと他の特徴及び利点は、添付のデータ及び図面と併せて考慮される場合、以下の詳細な説明を参照することによって、より良く理解されるだろう。
【
図1】
図1は、従来技術による金属ガラスを形成するための臨界冷却速度の温度時間図の模式図である。
【
図2】
図2Aは、BMG合金及び従来の結晶質合金の機械的特性を比較したものである。
図2Bは、従来技術によるBMG合金の一発破壊を示したものである。
【
図3】
図3Aは、従来技術による様々な材料の破壊靭性及び降伏強度値である。
図3Bは、従来技術による従来のBMGの破損を示したものである。
【
図4】
図4Aは、実施形態による複合材料の模式図である。
図4Bは、金属ガラス複合材料(左)及び一体構造の金属ガラス材料(右)における破壊伝播の画像である。
【
図5】
図5A~5Fは、従来技術によるBMGMC及び一体構造のBMGの特性を示すデータである。
【
図6】
図6A~6Cは、従来技術によるBMGMCの特性を示すデータである。
【
図7】
図7は、従来技術による複合材料の形成に対するβ安定剤の効果を実証するデータである。
【
図8】
図8は、先行技術に従ってZr及びTi-BMGMCの熱流データのグラフである。
【
図9】
図9は、先行技術に従ったZr及びTi-BMGMCの鋳造部分の画像である。
【
図10B】
図10Bは、実施形態による、軟質(上部)及び硬質(下部)介在物を備える複合材料の顕微鏡写真画像である。
【
図11】
図11は、従来技術によるセミスライド工程によってBMGMCを形成するための工程である。
【
図12】
図12は、従来技術によるデンドライトサイズに対する冷却速度依存性を示す模式図である。
【
図13】
図13は、実施形態によるBMGMCを形成する方法のフローチャートである。
【
図14】
図14A~14Cは、実施形態によるBMGMCで使用するための材料の表である。
【
図15】
図15A及び15Bは、実施形態によるBMGMCを形成する方法の模式図である。
【発明の詳細な説明】
【0039】
本明細書に記載された本発明の実施形態は、本発明を網羅的又は開示された正確な形態に限定することを意図していない。むしろ、説明のために選択された実施形態は、当業者が本発明を実施することを可能にするように選択されている。
【0040】
データ及び図面を参照すると、優れた機械的特性、特に高い靭性及び強度を有する部品を付加製造するために使用することができる非Be系BMGマトリックス複合材料のための方法及び合金系の実施形態が提供される。実施形態の合金は、破壊に抵抗するのに十分な濃度でマトリックス全体に分散された、適切に設計された軟質の結晶質金属の介在物で補強された高強度BMGマトリックスを含むBMGMC材料を対象とする。
【0041】
金属ガラスとしても知られているアモルファス金属は、歯車、切削工具、軸受、電子ケーシング、宝飾品、スペースクラフトの部品、及び他の有理な部品及び機構を含む、幅広い用途のための魅力的な候補とするのに都合の良い特性の、特有の独特の組み合わせを有する比較的新しい材料である(例えば、米国特許第13/928,109号;米国特許第14/177,608号;米国特許第14/259,608号;米国特許第14/491,618号;米国特許第15/062,989号;及び米国特許第15/918,831号を参照のこと)。例えば、これらの資料は、典型的には、優れた腐食性、耐摩耗性、高強度及び高硬度を示すが、同時に、十分な弾性を示す。さらに、金属ガラス合金から部品を製造することは、原則として、射出成形又は類似の鋳造工程のような簡単な工程と両立する。しかしながら、アモルファス金属を有効な部品に成形することは、とりわけ、1mmを超える寸法を有する部品の製造において、金属ガラス溶融物をガラス状に急冷するのに必要な極めて速い冷却速度(すなわち、臨界冷却速度R
c)の必要に関する制限のために、依然として困難であって、ガラス状溶融物は、
図1に示すように、競合する結晶化が起こるよりも速く固化しなければならない。
【0042】
要するに、完全に冷却し、固化するのにより長い時間を必要とする嵩高い(厚い)部品は、ガラス相によって与えられる有利な特性を失うことなく製造することがより困難である。さらに、
図1からも分かるように、バルク金属ガラスは、製造後の熱処理に対して極めて敏感である。例えば、金属ガラス合金をその対応するガラス転移温度付近の温度に長時間曝露すると、最終的に結晶化し、すべての有利な特性が失われる。
【0043】
金属ガラス合金のガラス形成能力(GFA)を特徴付けるために使用される1つのパラメータは、「臨界ロッド径」(dc)であり、ここで、より良好なガラス形成体は所定の冷却速度で、より厚い(すなわち、より大きな臨界ロッド径を有する)、完全にアモルファスの部分を生じさせることができる。アモルファス金属のガラス形成能力を構成する別の方法は、物質がアモルファス相を形成するのに必要な最小冷却速度Rcによるものであって、この「臨界冷却速度」は、利用可能な製造工程のタイプを決定する。例えば、非常にガラス形成能力に乏しい材料は、106℃/秒という高い臨界冷却速度を有する場合がある。材料のガラス形成に関する別のパラメータは、脆性である。脆性は、材料がガラス転移に向かって冷却されるにつれて、材料の動力学がどの程度急速に減速するかを特徴づける。より高い脆性を有する材料は、比較的狭いガラス転移温度範囲を有するが、低い脆性を有する材料は、比較的広いガラス転移温度範囲を有する。脆性の最も一般的な定義は、「動的脆性指数」mであり、これは、材料がガラス転位温度より上の温度からガラス転移温度に近づくにときの、温度による材料の粘度(又は緩和時間)の勾配を特徴付ける。物理的には、脆性は、ガラス中の動的不均一性の存在、並びに粘度と拡散との間の通常のストークス-アインシュタインの関係の崩壊に関連し得る。
【0044】
材料が応力下に置かれ、その強度の限界に達すると、それは通常、変形又は破壊のいずれかの選択肢を有する。応力下に置かれたときの金属ガラスの強度を記述するために、靭性、脆さ、脆性などを含む多くのパラメータを使用することができる。靭性は、材料がエネルギーを吸収し、破壊することなく塑性変形する能力である。材料靭性の1つの定義は、材料が破壊前に吸収することができる単位体積当たりのエネルギー量である。それはまた、応力が加えられたときの材料の破壊抵抗として定義される。靭性は、一般に、強度と延性とのバランスを必要とする。一般的に言えば、材料は、応力を受けたときに、著しい塑性変形を伴わずに破壊する場合、脆いと考えられる。脆い材料は、高強度のものであっても、破壊前に比較的わずかなエネルギーしか吸収しない。
図2A及び2Bは、バルク金属ガラスが、特に従来の結晶質アルミニウム合金(
図2A)と比較して、典型的には延性を有さず、引張において非常に脆く、結果として応力下で容易に破壊する(
図2B)ことを示す。それにもかかわらず、
図3A及び3Bに示すように、BMGはまた、大きな塑性領域サイズを有し、亀裂形成に耐えることができる高強度材料である。言い換えれば、従来のBMGは、亀裂が形成されにくい強固な材料であるが、一旦、BMG固体内から亀裂が生じると、材料の脆さのために、容易に伝播し、破滅的な破損をもたらす。
【0045】
BMG合金の延性、すなわち靭性を改善するための1つのアプローチが
図4Aに示されており、硬いが脆いBMGマトリックスに軟質の割れ阻止介在物を組み込むことを含む、介在物は、ガラスマトリックスの塑性領域サイズに一致するようにサイズを調整される(
図3A及び3B)。この目的のために、バルク金属ガラスマトリックス複合材料(BMGMC)材料(ここで、強いバルク金属ガラスマトリックスは、分散された軟質の結晶質金属デンドライト相を組み込む)は、特に一体構造のBMG材料又は鋼のような高性能の従来の結晶質合金と比較して、前例のない機械的特性を有することが報告されている。例えば、
図4Bは、BMGMC合金DH1(
図4B、左)のデンドライトが、亀裂先端を効率的に鈍らせ、亀裂成長を阻止することを実証しており、これは、亀裂及び破壊に耐える一体構造のBMG合金Vit1(
図4B、右)の致命的な破損とは対照的である。
【0046】
Hofmannらは、Zr-Ti-Be-X及びTi-Zr-Be-X合金系(ここで、Xは、1つ以上のβ安定化元素及び/又は他のガラス形成能力増強元素を表す)に基づくBMGMCの機械的特性が、混合物の単純な規則によって与えられる予想を超えて増強され得ることを実証した(Hofmannら、PNAS,105(51)20136-20140(2008)及びHofmannら、Nature(2007))、これらの開示は、本明細書中で参考文献として援用される)。具体的には、
図5A~5Fに示すようにHofmannらは、BMGMC合金の化学組成、デンドライト相の体積分率、複合材料相の弾性率、及び金属ガラスマトリックスの靭性を合理的に変更することにより、機械的特性を大幅に向上させることができることを示している。より具体的には、Hofmannらは、異なるデンドライト体積分率を有するTi-Zr-V-Cu-Be系BMGMC(DV-DVA1系)の系を開発し、ここで、DV4、DVA11及びDVA12はすべて、60%を超えるBCCデンドライトを有する(
図5A及び5C)。得られた合金は、厚さ1cmより大きい破片への冷却に適用可能なだけでなく(
図5B)、Ti合金(
図5C~5E)又は一体構造のBMG(
図5F)などの従来の結晶質合金と比較して、多くの補強された機械的特性を有していた。Hofmannらによって報告された優れたBMGMC特性は、1.5GPaを超える降伏強さ、引張における5%を超える延性、100MPa・m
1/2を超える破壊靭性値(
図6A及び6B)、20%を超える降伏強さの疲労耐久限界(
図6C)、及び曲げにおける過剰な延性を含む。
【0047】
それでも、Zr-Ti-Be-X及びTi-Zr-Be-X系のBMGMCの多くの実証された利点にもかかわらず、それらの工学用途における使用は、合金の配合及び製造に関連する問題のために、広範囲にはなされていない。具体的には、これらの合金の主な欠点は、それらが通常、少量の合金成分としてでさえ有毒であると考えられているベリリウムを含有することである。しかしながら、Beは、BMGマトリックスにおいて良好なガラス形成能力を確保する(d
c>1mmを確保する)ために必須であると考えられており、何年にもわたる研究にもかかわらず、利用可能な適当な代替物は存在しなかった。さらに、BMGMCが不溶性合金成分の相分離によってその場(in situ)で形成される場合、Beは、第4族金属(すなわち、Zr、Ti、Hf)のBCC(β)同素体において非常に低い溶解度を有し、次いで、最も一般的なBMGMC形成剤であるため(
図7に要約されるように)、デンドライト相分離を促進及び増強するためにしばしば必要であった。さらに、Beを除去すると、合金の溶融温度が劇的に上昇し、鋳造が困難になる。例えば、
図8は、ほぼ同じTi-Zr-Vの存在及び同じデンドライト体積分率を維持しながら、Alを合金DV1(
図5Cに要約されるように)中のBeに置き換えてTi
52Zr
18V
12Cu
15Al
3を形成すると、固相線温度が210℃上昇し、新しいAl含有合金はほとんど鋳造できなくなり、もはやアモルファスにならなくなることを示す。さらに、デンドライト含有BMGMCは、非常に高い粘度(一体構造のBMGよりもはるかに高い)を有し、特により高い溶融温度の観点から、それらの鋳造の問題を生ずる。このように、BMGMCの鋳型鋳造は、しばしば、過熱(合金粘度を低下させるために必要とされる)による鋳型の損傷、悪い外観、及び鋳造部品の品質不良をもたらす。例えば、
図9は、鋳造部品欠陥又は不完全鋳造の増加を含む、50%を超えるデンドライト体積分率を有するBMGMC合金の鋳造に関連する課題を説明する。従って、BMGMC合金を用いた部品の製造は、部品が複雑で、Beを含まず、高い強度及び靭性であるような望ましい特性を有するが、従来のダイカスト又は射出成形では達成できないままである。
【0048】
(BMGMC材料の実施形態)
実施形態は、一般に、優れた機械的特性、特に高い靭性及び強度を有する付加製造部品に使用することができる非Be系BMGマトリックス複合材料のための方法及び合金系を対象とする。上述のように、今日まで、BMGMCの開発は、主として、それらが鋳造に適用可能であるという要件によって制限されており、したがって、努力は、BMGマトリックスの良好なガラス形成能力、デンドライト相の容易な相分離、低融点、及び比較的低いデンドライト濃度を有する合金に焦点を当ててきた。しかしながら、やはり上述したように、そのような制約下で得られる合金は、それらの微細構造が致命的な亀裂の成長を阻止しないので、脆い傾向がある。
【0049】
したがって、実施形態の合金は、破壊に抵抗するのに十分な濃度でマトリックス全体に分散された、適切に設計された軟質の結晶質金属デンドライト介在物で補強された高強度BMGマトリックスを含むBMGMC材料を対象とする。多くの実施形態では、BMGマトリックス及び結晶質金属デンドライト介在物は、相間に可能な限り最大の弾性(すなわち、弾性係数)不整合が存在するように選択される。具体的には、第1のDundursのパラメータを用いて
図10Aに示すように、複合材料の相対靭性が、その相間の弾性不整合によってどのように影響を受けるかを予測することが可能である。より具体的には、軟質デンドライト相がより硬質のマトリックスに含まれ、材料間の弾性不整合パラメータが最大化される場合に、より高い相対靭性を得ることができる(例えば、Launey,M.E.,et al.,PNAS,106(13),pp.4986-4991(2009)を参照のこと)。硬質介在物と軟質介在物が境界層の相を形成する方法の違いを
図10Bに示す。
【0050】
具体的には、硬質連続マトリックス中の軟質介在物は、応力が結晶相中に集中し、剪断破壊(10B、底部)によってアモルファス相に沿ってせん断帯が形成されるハード介在物とは対照的に、変形がネッキング(10A、上部)によって最初に生じるように、ガラス相中に応力を集中させることによって、複合材料を通る破壊の伝播をより良好に防止する。したがって、多くの実施形態では、マトリックスと介在物との間の弾性不整合(Dundursのパラメータα)は0未満であって、他の実施形態では-0.5未満である。他の実施形態は、マトリックス相が結晶相よりも少なくとも5%硬く、破壊に耐えることができる十分な濃度で提供される複合材料を対象とする。
【0051】
図4Aに提供される模式図に示されるように、実施形態による複合材料は、一般に、少なくとも2つの相、すなわち、連続的な高強度マトリックス相全体に分散された軟質の結晶相(円及び空隙によって示される)を含む。所望の亀裂抑制効果を達成し、その結果、脆性を最小限に抑え、十分な延性を得るために、固化合金には、ある最小限の粒子量/体積分率が必要であることが示されている。したがって、多くの実施形態では、マトリックス中の介在物の濃度は、BMGMCの十分な破壊靱性を確保するために、少なくとも15体積%以上であって、他の実施形態では15体積%から95体積%までである。
【0052】
実施形態によるBMGMCの組成物に目を向けると、BMGマトリックス材料と結晶相材料との組み合わせは、いくつかの可能な組成の規則に従うことができる。多くの実施形態において、結晶相の添加は、バルク金属ガラスマトリックス組成物のガラス形成能力を実質的に変化させない。多くの他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物の硬度は、バルク金属ガラスマトリックス組成物の硬度よりも少なくとも5%低い。さらに他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物の弾性係数は、バルク金属ガラスマトリックス組成物の弾性係数よりも低い。さらに他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物の剛性は、バルク金属ガラスマトリックス組成物の剛性よりも低い。様々な実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物は、一体構造の部品として張力下において5%を超える延性を示す結晶質金属である。様々な他の実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物は、バルク金属ガラスマトリックス組成物と同じ一次金属元素を含む。
【0053】
複合材料の実際の組成に目を向けると、多くの実施形態では、バルク金属ガラスマトリックス組成物は、その最も豊富な金属が、Ti、Zr、Hf、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、及びAlからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、バルク金属ガラスマトリックス組成物はZrCuAlである。他の実施形態では、バルク金属ガラスマトリックス組成物は、密度が5.5g/cm3未満のTi系金属ガラスである。さらに他の実施形態では、バルク金属ガラスマトリックス組成物は、Zr系であって、結晶相を形成する少なくとも1つの追加の金属組成物は、V、Nb、Ta、Mo又はFeのうちの1つ以上と合金化されたTi又はZr系の合金である。多くの実施形態では、結晶相は、W、Mo、Hf又はTaからなる群から選択される耐熱金属相から形成されてもよい。様々な実施形態において、バルク金属ガラスマトリックス複合材料は、Ti系で、6g/cm3未満の密度を有するもの、Ti系であって、結晶相を形成する少なくとも1つの追加金属組成物がTi系であるもの、Fe系であって、結晶相を形成する少なくとも1つの追加金属組成物がFe系であるもの、のいずれかのものを備えてもよい。いくつかの実施形態では、バルク金属ガラスマトリックス組成物は、Fe-Ni-B-Xであって、結晶相を形成する少なくとも1つの追加の金属組成物は、Fe系である。他の実施形態では、バルク金属ガラスマトリックス組成物はAl系であって、結晶相を形成する少なくとも1つの追加の金属組成物はAl系である。
【0054】
(BMGMC材料を形成するための方法の実施形態)
上述のように、成功したBMGMC材料の形成は、金属マトリックス中の粒子の濃度及びサイズを系統的に制御する技量を必要とする。従来、複合材料の結晶質デンドライト相は、鋳造中にその場(in situ)で形成される(鋳造溶融物の冷却及び固化時に特別に添加された不溶性合金成分が偏析するため)。
図11に要約されるように、最良の複合材料は、デンドライトがガラス形成BMG液体と熱平衡状態にあり、そのサイズが
図12に示されるように半固体処理によって制御されるような平衡複合材料を作り出すことによって達成された。これらの特性は、マトリックスの結晶化及び粒子の誤った選定のために、他の非BeBMGMCにおいて再現することがほとんど不可能であった。同様に、張力下における有意な延性及び破壊靭性は、Be含有BMGMCにおいてのみ達成される。さらに、文献は、BMGMCの優れた特性は、デンドライトを粗くするために固相線温度を超える半固体(又は等温)保持を使用してのみ得ることができることを示唆している。
【0055】
多くの実施形態では、本開示において有利な合金特性をもたらすBMGMC微細構造は、マトリックス材料のためのBe非含有BMG粉末、軟質介在物相のための結晶質金属粉末、及び金属付加製造を使用して、その場(in situ)又は系外(ex situ)で「合成」される。したがって、多くの実施形態では、製造工程は、
図13に表にした工程を含む。図示されたように、多くの実施形態では、まず、金属付加製造工程を利用する粉末と共に使用するのに適したBMG粉末が選択される。多くの実施形態では、対象となる金属付加製造工程を利用する粉末は、粉末床溶融結合、直接金属レーザー焼結、指向性エネルギー堆積、レーザー直接堆積法、溶射付加製造又は別の粉末利用工程のうちの1つを含むことができる。このような方法は、付加製造と同様に従来の半固形工程とは直接対照的であって、この工程に含まれる急速な加熱及び冷却のために、半固形処理を行う方法がない。
【0056】
さらに、多くの実施形態では、本出願の方法による靭性部品の3D製造のためのBMG粉末は、一体構造の部品として3Dプリントされる場合に、結果として得られるBMGが少なくとも40MPa・m
1/2の切欠き靭性を示すように選択される。いくつかのそのような実施形態では、そのような特性を有するBMG粉末は、本出願の方法に従ってプリントされたBMGMC材料3Dにおける臨界せん断帯間隔が、プリント前に粒子と相互作用するのに十分な大きさであることを確実にするのに役立ち得る。多くの実施形態において、BMG粉末合金組成物は、例えば、
図14A~14Cに示される表から選択される。多くの実施形態では、選択されたBMG粉末は次いで、本出願のBMGMC合金の高強度マトリックスを形成することに使用されうる。
【0057】
多くの実施形態において、上記の基準に従って選択されたBMG粉末は、次に、1つ以上の軟質結晶質粉末と混合される。多くの実施形態において、添加された粉末は、本出願のBMGMC合金の補強相を形成する。多くの実施形態では、添加される粉末(又は複数の種類の粉末)は、結晶質金属粉末、アモルファス金属粉末、及びそれらの任意の組み合わせリストから選択される。多くの実施形態では、添加粉末の粉末粒径は、マトリックスのBMG粉末の粉末粒径の20%以内である。多くの実施形態では、混合された粉末の粒径を一致させることに加えて、混合された合金の密度もまた、厳密に一致させる(例えば、20%以内)。多くの実施形態では、このような粉末の粒径又は粒径と、混合された粉末間の密度との一致は、原料の混合又はプリント中の沈降の防止を確実にする。さらに、多くの実施形態では、粉末粒径子の実寸は、直径20~200μmである。多くのそのような実施形態では、直径20~200μmの粉末粒子サイズは、粒子がBMGMC変形の長さの程度に適合するのに十分な大きさであることを保証し、したがって、BMGマトリックスに複合材料による補強の最大利益を提供する(Hofmann et al.、in Nature 2007(本開示は、参考文献として本明細書に援用される)によって説明されるように)。最後に、多くの実施形態では、添加される補強粉末の体積分率は、合金の15%~95%である。多くのそのような実施形態では、15体積%を超える補強添加剤の存在は、亀裂を効果的に阻止するためのデンドライト間の十分な距離を保証する。同時に、補強添加剤の体積分率を95%未満に維持することにより、合金の強度に対する十分なBMGマトリックスの寄与が保証される。これは、もちろん、BMGマトリックスが、部品を通るより軟質の相の浸透を防止するために、付加製造中にマトリックスが形成されるように、補強粒子よりも低い溶融温度を示す場合にのみ可能である。
【0058】
本発明の実施形態に従うと、本明細書に記載される実施形態に従うバルク金属ガラスマトリックス複合材料は、従来の複合材料より改良された多くの機械的特性を有することが出来、それらは、体積2%以下の気孔率、バルク部分に形成された場合のバルク金属ガラス組成物の強度の少なくとも50%の全体的な強度、バルク金属ガラス組成物よりも少なくとも5%大きい破壊靱性、バルク金属ガラス組成物よりも少なくとも1%大きい引張延性、80MPa・m1/2よりも大きい場合には40MPa・m1/2よりも大きいノッチ強さ、バルク金属ガラス組成物から形成された部分でノッチ半径100μmで測定した場合には100MPa・m1/2よりも大きい場合があるノッチ強さ、1GPaよりも大きい強度、及び場合によっては1.2GPaよりも大きい引張力、張力下における4%を超える延性を有する。
【0059】
(BMGMC部品の付加製造方法の実施形態)
上述のように、BMGMC材料の実施形態は、高体積分率で軟質介在物を組み込むが、先行技術の研究によって見出されるように、介在物の体積分率の増加はまた、合金をより高粘度にし、合金の溶融温度を有意に上昇させ、特にBe添加剤を排除した場合に、合金を鋳造することをより困難にする。最近、金属付加製造(AM)技術(3Dプリントとしても知られている)は、新規な金属合金からの正味寸法の部品を付加製造することにおいて急速な進歩を遂げている。典型的には、金属AMは、チタン、鋼板、鋳造アルミニウム合金、及びインコネルなどの従来の結晶質金属合金から構成部品を製造するために使用されてきた。しかしながら、多くのAM技術に固有の急冷速度は、バルク金属ガラス(BMG)及びナノ結晶金属などの準安定合金の製造も可能にした。具体的には、堆積層ごとの103Ks-1を超える冷却速度により、微細構造(又はその欠如)を有する合金から、鋳造又は他の方法では製造できない厚い正味寸法のコンポーネントをプリントすることが可能となった。
【0060】
上述のように、デンドライトがガラス形成BMG液体と熱平衡状態にあり、それらのサイズが半固体処理によって制御される平衡複合材料を作り出すことによって最良の特性が達成されているので、AM工程は、典型的には、BMGMCからの物体の製造には使用されてこなかった。付加製造では、急速な加熱及び冷却工程のために半固体処理を行う方法がない。多くの実施形態では、BMGMC材料及びそれから作られる物の両方を形成するために、付加製造工程が使用される。このような実施形態の模式図を
図15A及び15Bに示す。図示のように、多くの実施形態では、まず、金属付加製造工程を利用する粉末と共に使用するのに適したBMG粉末が選択される。多くの実施形態では、対象となる金属付加製造工程を利用する粉末は、粉末床溶融結合、直接金属レーザー焼結、指向性エネルギー堆積、レーザー直接堆積法、溶射付加製造又は別の粉末利用工程のうちの1つを含むことができる。多くの実施形態において、上記の基準に従って選択されたBMG粉末は、次に、1つ以上の軟質結晶質粉末と混合される。多くの実施形態において、添加された粉末は、本出願に記載のBMGMC合金の補強(デンドライト)相を形成する。多くの実施形態では、添加される粉末(又は複数種類の粉末)は、結晶質金属粉末、アモルファス金属粉末及びそれらの任意の組み合わせのリストから選択される(この工程は、
図15Aに要約される)。いったんBMGMC材料が成形されると、例えば粉末床溶融結合、直接金属レーザー焼結、指向性エネルギー堆積、レーザー直接堆積法、溶射付加製又は他の粉末利用工程等の付加製造工程を用いて層毎に堆積することができる(この工程は
図15Bに要約されている)。
【0061】
本出願の方法に従って選択された粉末供給原料からのBMGMC部品の製造のためのパラメータは、適切な合金微細構造、したがって補強された靭性及び延性を確実にするために、本明細書に記載された方法に従って調整されることが理解されるだろう。多くのそのような実施形態では、付加製造の立ち上げの熱源は、感熱性BMG粉末の適切な加熱/溶融に適応するように調整される。したがって、いくつかの実施形態では、本出願の付加製造工程は、結晶質粉末介在物の溶融温度と比較して、BMGのより低い溶融温度を利用し、他の実施形態では、本工程は、レーザー加熱源と結びついた差を利用するために、加熱手段のより急速な掃引を使用する。さらに、多くの実施形態では、付加製造工程の熱源は、溶融後に固化すると、BMG粉末が2%未満の気孔率を有する固体複合マトリックスを形成することを確実にするように調整してもよい。BMGは、製造後に気孔率を除去するために熱処理することができないので(アモルファス相の熱感受性のため)、本出願の3DプリントBMGMCの全体的な靭性にとって、製造工程中にそれらの全体の密度を維持することが非常に重要である。多くの実施形態では、堆積されたBMGMC層の各層の厚さは、250μm未満であって、そのとき各層は、100K/sよりも速く冷却され、いくつかの実施形態では、1,000K/sよりも速く冷却される(
図15B)。補強相の存在は、空洞化を防止するために、溶融した溶融物を濡らすための界面を提供することによって、プリントによるより高密度の部品の形成を実際に助けることができる。粒子はまた、マトリックスから離れて冷却する間に熱を蓄積することによって、固化時の溶融BMGマトリックスの冷却速度を助け、ガラスをより容易に形成することを可能にすることができる。これは、ガラス相とは対照的に、結晶相の熱伝導率及び熱容量が高いためである。
【0062】
さらに、多くの実施形態では、本出願の付加製造方法は、介在物の結晶粒子が複合材料のBMGマトリックス全体に均一に分散されることを確実にする。多くの実施形態では、添加剤補強粉末の粒子は、プリント工程中にBMGマトリックス中に完全に溶解しないが、それらのプリント前の体積の少なくとも90%を保持する。BMG合金は、典型的には、結晶質合金よりもはるかに低い溶融温度を有するので、BMGは、補強粉末を有意に溶融することなく溶融され得る。しかしながら、レーザーを使用した3Dプリントシステムに基づく多くの実施形態では、部品の1つの層上におけるレーザーの複数の通り道を使用して、BMGマトリックスを強化することができ、同時に、最適な特性が達成されるまで補強粉末を部分的に溶解することもできる。他の実施形態では、異なる加熱方法を使用して、BMG粉末を優先的に溶融させて、補強デンドライト粉末をわずかに/部分的に溶融させることができる。したがって、本出願の実施形態によれば、混合された粉末の供給原料から系外(ex situ)で付加的に製造されたBMGMC合金は、その場(in situ)で形成されたBMGMCの高い靭性及び延性を達成し、BMGマトリックスは、合金の強度の要因であって、一方、補強結晶質介在物(すなわち、第2の相)は、マトリックスに由来する亀裂伝播を抑制することにより補強機構を提供する。したがって、多くの実施形態では、上述のように、本出願のBMGMCが、粒子介在物の間の領域における亀裂形成を防止するのに十分に強靭なBMGマトリックスと、マトリックス亀裂が発生した場合に亀裂伝播をブロックするのに十分な介在物濃度とを有することも同様に重要である。
【0063】
本出願の付加的な製造方法は、本出願のBMGMC合金においてデンドライト介在物相とマトリックス相との間に強力な界面が存在することを確実にする。より具体的には、多くの実施形態では、介在物の各々とBMGマトリックスとの間の界面領域の靭性が十分に高く、発生する亀裂が粒子相の縁部を変形させることなく横切るのを防止することを保証するために予防措置がとられる(その開示は参考文献として本明細書に援用される、Ritchie、Hofmann、Applied Physics Letters 2009に記載されているように)。例えば、多くの実施形態では、付加製造工程中にBMG粉末粒子から脆い酸化物層(典型的にはBMG表面上に形成される)の厚みを取り除くか又は少なくとも部分的に減少させるための予防措置がとられる。この目的のために、多くの実施形態では、BMG粉末粒子は、表面不動態化酸化物層を溶解するために、付加製造工程中に部分的に溶融され、したがって、十分に強靭なマトリックス-デンドライト界面及び全体的に補強された材料靭性を保証する。対照的に、BMG表面酸化物を少なくとも部分的に溶解しないと、マトリックスに由来する亀裂が脆い酸化物マトリックス-デンドライト界面の経路を介してデンドライト介在物の減衰効果を逃れることができるので、全体的な材料靭性が失われることになるだろう。さらに、多くの実施形態では、製造中にマトリックス中に溶解した少量の表面酸化物及びデンドライト成分が、固化BMGマトリックスの靭性又はガラス形成を損なわないように、元の粉末選択工程は、補強相とマトリックス相との間の化学的適合性を保証する。
【0064】
他の実施形態では、粒子は、工程中にBMGマトリックス中に部分的に溶解したときに、マトリックスに添加された余分な金属がそのガラス形成能力に有害な影響を及ぼさず、実際にそれを補強することができるように設計される。これは、そのガラス形成を最適化する元素がわずかに枯渇したBMG粉末を作製し、次いで、これらの元素を、補強粒子を既知の程度まで部分的に溶解することによって戻すことで達成することができる。さらなる実施形態では、補強粒子を部分的に溶解することにより、固化時にマトリックス中に小さなデンドライトを生成することができ、これにより、追加の補強相を提供することができる。次いで、最終的なプリント複合材料は、固化中にガラスから相分離したガラスマトリックス、大きな補強粒子及び小さなデンドライトを含むことができる。
【0065】
実施形態による方法を使用して、バルク金属ガラスマトリックス複合材料をプリントすることができる。このような実施形態では、少なくとも1つの追加の金属組成物の体積分率は、固化バルク金属ガラスマトリックス複合材料全体にわたって変化させることができる。最終部品は、正味寸法に形成されてもよいし、その表面を滑らかにするために機械加工又は仕上げ加工されてもよい。層ごとの堆積は、他の金属ガラスに適用されてもよいが、いくつかの実施形態では、結晶質金属表面に適用されてもよい。本方法は、例えば、腕時計、宝飾品、電子ケース、構造部品、歯車、及び運動ラウンドを含む、任意の適切な物を形成するために使用されてもよい。
【0066】
(例示的な実施形態)
以下の実施例は、当業者に対して、本発明を作り、また利用する方法の、完全な開示及び説明を与えるために提示され、また本発明者らが考えているその発明の範囲を限定するものではなく、また以下の実施例は、実施した全ての又は唯一の実施した実験のみを提示しているものでもない。使用した数値(例えば、量、温度等)に関する正確性を確認する努力をなされたが、いくつかの実験誤差及びずれを考慮すべきである。特に断らない限り、部は重量部であって、分子量は重量平均分子量であって、温度は摂氏度であって、圧力は大気圧又はその近傍である。
【0067】
(実施例1)
(Zr系BMG合金の機械的性質の改善)
一体構造のBMGを与えるZr
52.5Ti
5Cu
17.9Ni
14.6Al
10を用いた付加製造(SLMによる)の実例は、LiらによってMaterials and Dsign112(2016)217-226において報告されており、その記載は、本明細書中で参考文献として援用される。Liらによって付随して報告された圧縮試験からのデータは、付加製造により得られたBMG部品が脆いことを示している。しかしながら、Liが使用するZi系合金は、Beを含有しない良好なガラス形成体であって、
図14(a)の表に示したものと同様の組成物を有するため、本出願の付加製造方法に適した合金である。したがって、多くの実施形態において、本出願の方法によれば、Zr
52.5Ti
5Cu
17.9Ni
14.6Al
10から製造された部品の可塑性、したがって靭性を、3Dプリント中に補強デンドライト相をその場(in situ)又は系外(ex situ)で加えることによって大幅に改善することができる。
【0068】
(実施例2)
(Fe系BMG合金の機械的性質の改善)
実施例1と同様に、安価な一体構造のBMG部品は、Fe系のBMG合金から(選択的レーザー溶融によっても)、これまでにも、Fe74Mo4P10C7.5B2.5Si2などが付加的に製造されており、例えばSimon Pauly,et al.,Materials Today,Vol.16,Numbers1/2,(2013),p.37-41;及びHyo Yun Jung,et al.,Materials&Design,Vol.86(2015),p.703-708.等によって報告されており、これらの開示は、参考文献として本明細書に援用されるが、これらの部品は、一体構造のBMGから予想されるように、脆いことが証明された。しかしながら、多くの実施形態では、Fe74Mo4P10C7.5B2.5Si2または類似の合金の破壊靭性及び延性は、本出願の方法に従って、3Dプリント中に補強デンドライト相をその場(in situ)または系外(ex situ)で付加することによって改善することができる。
【0069】
(均等論)
本発明のこの説明は、例示及び説明の目的で提示されている。網羅的であること又は本発明を記載された正確な形態に限定することは意図されておらず、上記の教示に照らして多くの修正及び変形が可能である。実施形態は、本発明の原理及びその実用的な用途を最も良く説明するために選択され、説明した。この説明により、当業者は、様々な実施形態において、特定の用途に適した様々な修正を加えて、本発明を最良に利用し、実施することができる。本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。