(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】チェーンガイド及びそれを用いたチェーン伝動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 7/18 20060101AFI20230117BHJP
【FI】
F16H7/18 B
(21)【出願番号】P 2020568172
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2020001994
(87)【国際公開番号】W WO2020153378
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2019008802
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207425
【氏名又は名称】大同工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】直江 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】関 秀明
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0122620(US,A1)
【文献】特開2002-98203(JP,A)
【文献】特開2018-173139(JP,A)
【文献】中国実用新案第207437709(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーンガイドであって、
固定部材に固定するための固定部を有する本体と、
耐摩耗性合成樹脂からなり、チェーンに摺接する摺接面を有する第1及び第2シュー部と、
チェーンの走行線に沿うように延びるゼロタッチ面を有する制振部と、を備え、
前記ゼロタッチ面は、前記チェーンの走行線から離間するように形成されていると共に、前記チェーンの弦振動時に接触して前記チェーンの弦振動を抑制する直線形状又は湾曲形状の面であり、
前記本体の表面側の長手方向両端部分に前記第1及び第2シュー部をそれぞれ固定し、
これら第1及び第2シュー部の間に前記ゼロタッチ面を有する前記制振部が配置されるように前記本体に前記制振部を一体に成形する、
ことを特徴とするチェーンガイド。
【請求項2】
前記本体は、合成樹脂からなる、
ことを特徴とする請求項1記載のチェーンガイド。
【請求項3】
駆動側スプロケットと、
従動側スプロケットと、
前記駆動側スプロケット及び前記従動側スプロケットとの間に巻掛けられるチェーンと、
請求項1又は2記載のチェーンガイドと、を備え、
前記チェーンガイドは、前記チェーンの張り側において前記ゼロタッチ面が前記チェーンの走行線に近接するように配置されている、
ことを特徴とするチェーン伝動装置。
【請求項4】
前記駆動側スプロケットがクランクスプロケットであり、前記従動側スプロケットがカムスプロケットであり、前記チェーン伝動装置がタイミングチェーン伝動装置であり、
前記第1シュー部は、前記クランクスプロケットの近くに配置され、
前記第2シュー部は、前記カムスプロケットの近くに配置され、
前記第1及び第2シュー部によりガイドされる前記チェーンの走行線に前記ゼロタッチ面が近接するように配置されてなる、
ことを特徴とする請求項3記載のチェーン伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンに接触して該チェーンをガイドするチェーンガイド及びそれを用いたチェーン伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、チェーン伝動装置、例えばエンジン内に配置されるタイミングチェーン伝動装置101は、
図9A及び
図9Bに示すように、クランクスプロケット102とカムスプロケット103とそれらの間に巻き掛けられるチェーン104とを有し、チェーン104の弛み側にチェーンテンショナ105が配置され、その張り側にチェーンガイド106が配置される。チェーンガイド106は、張り側チェーンの略全域に摺接するシュー106aを有し、チェーン張力によりチェーンの各リンクに垂直抗力を生じる。これにより、チェーン104の走行に摩擦抵抗を生じ、タイミングチェーン伝動装置101の伝動にエネルギロスを発生する。該エネルギロスは、チェーンガイド106のチェーン104と摺接する距離が長い程大きい。
【0003】
従来、チェーンガイドは、チェーンとの間に生じる摩擦抵抗を低減するため、チェーンとの接触面積を小さくしたものが特許文献1及び特許文献2に提案されている。
【0004】
特許文献1には、チェーンが摺動するガイド溝の底面を、曲率の等しい半円状の凸部と凹部とを交互に連続させて波形状に形成したチェーンガイドが記載されている。該チェーンガイドは、前記凸部及び凹部の半径を、リンクプレートにおける凸部の当接部分の曲率半径より小さくして、リンクプレートとチェーンガイドとの接触面積を小さくした状態でチェーンをガイドする。
【0005】
特許文献2には、チェーンの走行方向に2個の接触部と、これら接触部の間に非接触部とを有するチェーンガイドが記載されている。該チェーンガイドは、2個の接触部の接触面にチェーンを摺接してガイドし、前記非接触部がチェーンと接触しないので、チェーンとの間の接触面積を小さくすると共に、該非接触部が開口部からなり、チェーンとエンジンブロックとの間隙を小さくすることを可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-218756号公報
【文献】米国特許第9689475号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1のチェーンガイドは、ガイド溝の凹部にオイルが溜まり、オイル保持力を向上すると共に、チェーンの接触面積を小さくして摩擦抵抗の低減を図ることが可能であるとしても、チェーンのリンクプレートが凸部に間欠的に当接し、上記チェーンとの間で間欠的におよび多角的に当接する事によって打音による異音が発生し、さらには接触面が小さくなることにより接触圧が大きくなることによって合成樹脂からなるチェーンガイドを早期に摩耗するおそれがある。
【0008】
前記特許文献2のチェーンガイドは、チェーンとエンジンブロックとの間隙を小さくしてタイミングチェーンのコンパクトが可能となると共に、チェーンとの接触面積を小さくして摩擦抵抗の低減を図ることが可能であるとしても、離れて配置された接触部の間は、開口を有する非接触部からなり、チェーンは、ガイドされることなく非接触で走行するため、エンジンによる可変負荷によりチェーンが弦振動し、異音の発生や摺動面の異常摩耗を発生する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、チェーンと接触する面積を少なくすると共に、チェーンの弦振動の発生を抑制し、もって上述した課題を解決したチェーンガイド及びそれを用いたチェーン伝動装置を提供することを目的とするものである。
【0010】
本発明の一態様は、
チェーンガイド(6)であって、
固定部材に固定するための固定部(27,28,29)を有する本体(20)と、
耐摩耗性合成樹脂からなり、チェーンに摺接する摺接面(13a)を有する第1及び第2シュー部(13,13)と、
チェーンの走行線(S-S)に沿うように延びるゼロタッチ面(15a)を有する制振部(15)と、を備え、
前記ゼロタッチ面(15a)は、前記チェーンの走行線(S-S)から離間するように形成されていると共に、前記チェーンの弦振動時に接触して前記チェーンの弦振動を抑制する直線形状又は湾曲形状の面であり、
前記本体(20)の表面側の長手方向両端部分に前記第1及び第2シュー部(13,13)をそれぞれ固定し、
これら第1及び第2シュー部(13,13)の間に前記ゼロタッチ面(15a)を有する前記制振部が配置されるように前記本体に前記制振部を一体に成形する、
ことを特徴とするチェーンガイド(6)である。
【0011】
【0013】
例えば
図1,
図2を参照して、
駆動側スプロケット(2)と、
従動側スプロケット(3,3)と、
前記駆動側スプロケット及び前記従動側スプロケットとの間に巻掛けられるチェーン(4)と
、
チェーンガイド(6)と、を備え、
前記チェーンガイド(6)
は、前記チェーン(4)の張り側において前記ゼロタッチ面(15a)が前記チェーンの走行線(S-S)に近接するように配置
されている、
チェーン伝動装置(1)にある。
【0014】
例えば
図2を参照して、前記駆動側スプロケットがクランクスプロケット(2)であり、前記従動側スプロケットがカムスプロケット(3,3)であり、前記チェーン伝動装置がタイミングチェーン伝動装置(1)であり、
前記
第1シュー部(13)は、前記クランクスプロケット(2
)の近くに配置され、
前記第2シュー部(13)は、前記カムスプロケット(3)の近くに配置され、
前記第1及び第2シュー部(13,13)によりガイドされる前記チェーン(4)の走行線(S-S)に前記ゼロタッチ面(15a)が近接するように配置されてなる。
【0015】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲の記載に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る本発明によると、チェーンガイドは、第1及び第2シュー部と、ゼロタッチ面を有する制振部とを有するので、チェーンをガイドする第1及び第2シュー部は、チェーンと接触する長さが短くて足り、チェーンと第1及び第2シュー部との接触面積を小さくして、エネルギロスを低減できるものでありながら、制振部のゼロタッチ面がチェーンの弦振動を抑制して、該振動による不具合、例えば異音の発生、スプロケットの噛合い不良による異常摩耗、異常張力によるチェーン破断や歯飛びを低減することができる。
【0017】
また、本体に、第1及び第2シュー部を固定すると共に制振部を一体に成形したので、制振部のゼロタッチ面は垂直抗力が生じるようなチェーンとの接触は実質的にないので、例えば、通常仕様の合成樹脂(例えばポリアミド樹脂)を本体に用いても摩耗が早期に進行することはなく、本体を該通常仕様の樹脂による射出成形等により容易に製造できると共に、チェーンに摺接する第1及び第2シュー部は、耐摩耗性合成樹脂(例えばポリイミド樹脂)からなり、比較的小さい接触面積に起因する高い面圧が作用しても、十分な耐久性を有すると共に、比較的高価な樹脂であっても、使用量が少ないので、コストアップを抑制できる。
【0018】
更に、本体の長手方向両端部分に第1及び第2シュー部を固定し、その間に制振部を配置したので、チェーンとの摺接によるシュー部からの圧力を本体でバランスよく受け、両シュー部により規定されたチェーンの走行線に合せてゼロタッチ面が位置して、本体の固定によるチェーンガイドのチェーン伝動装置への取付けが容易であると共に、例えばインサート成形によりシュー部を本体に固定して、十分な強度を有するチェーンガイドを高い精度にて比較的容易に製造することができる。
【0019】
請求項3に係る本発明によると、前記チェーンガイドを用いたチェーン伝動装置は、チェーンガイドとチェーンとの摩擦抵抗を低減して、エネルギロスの発生を抑え、かつチェーンの弦振動を低減して、安定した動力伝達を行うことができる。
【0020】
請求項4に係る本発明によると、前記チェーンガイドをタイミングチェーン伝動装置に適用して、エネルギロスを低減し、かつ長期に亘って高い精度による安定したタイミングを維持することができる。
【0021】
本発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照とした以下の説明により明らかになるであろう。なお、添付図面においては、同じ若しくは同様の構成には、同じ参照番号を付す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態の基本構成を示す正面図。
【
図2】本発明の実施の形態によるチェーンガイドを備えたチェーン伝動装置を示す正面図。
【
図4A】前記チェーンガイドの摺動部材の取付けを示す図。
【
図4B】
図4Aとは異なる前記チェーンガイドの摺動部材の取付けを示す図。
【
図5】前記チェーンガイドの摺動部材の取付けに関する実施の形態を示す図。
【
図6A】チェーンガイドの配置構造を示すチェーン伝動装置を示す正面図。
【
図6B】他のチェーンガイドの配置構造を示すチェーン伝動装置を示す正面図。
【
図6C】他のチェーンガイドの配置構造を示すチェーン伝動装置を示す正面図。
【
図6D】他のチェーンガイドの配置構造を示すチェーン伝動装置を示す正面図。
【
図6E】他のチェーンガイドの配置構造を示すチェーン伝動装置を示す正面図。
【
図7】チェーンガイドの異なる実施の形態を示す概略正面図。
【
図8】従来のチェーンガイドと本発明に係るチェーンガイドによる摺動抵抗の試験結果を示す図。
【
図9A】従来のチェーンガイドを備えたチェーン伝動装置の全体正面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態は、エンジンクランク軸の回転をカム軸に伝達するタイミングチェーン伝動装置に適用される。チェーン伝動装置1は、
図1及び
図2に示すように、駆動側となるエンジンクランクスプロケット2と従動側となる2個のカムスプロケット3,3との間にチェーン4が巻掛けられている。チェーン4は、サイレントチェーンが好適であるが、これに限らず、ローラチェーン、ブシュチェーン等の他の伝動用チェーンでもよい。
【0024】
チェーン伝動装置1は、チェーン4の弛み側外側面に摺接するように、チェーンテンショナ5が配置され、チェーン4の張り側外側面に摺接するようにチェーンガイド6が配置されている。チェーンテンショナ5は、耐摩耗性の合成樹脂、鋼板等からなる弓形部材9を有し、該弓形部材の弓状の摺接面9aがチェーン4に摺接する。該弓形部材9は、一端がピン10により摺動自在に支持され、他端が油圧アクチュエータ11に連結している。チェーンテンショナ5は、油圧アクチュエータ11への油圧の供給により、摺接面9aによりチェーン4に所定張力を付与する。
【0025】
チェーンガイド6は、
図1に原理を示すように、離れた位置に配置され、チェーン4に所定圧力で接触してチェーン4をガイドする2個のシュー部(接触ガイド部)13,13と、これら両シュー部の間に配置される制振部15とを有する。シュー部13は、比較的小さな半径(例えばR100以下)の湾曲面を有する弓形部材からなり、上記湾曲面がチェーン4に接触する摺接面13aとなる。上記制振部15は、上記シュー部13,13にガイドされるチェーン4の走行線S-Sに沿うように延びるゼロタッチ面15aを有しており、該ゼロタッチ面は、直線形状又は大きな半径の湾曲面でもよく、基本的にはチェーン4に対して僅かに離れており、シュー部13,13間のチェーン4の弦振動を抑制する。なお、上記ゼロタッチ面15aは、チェーン4に僅かに接触してもよく、この場合もチェーンとの間に垂直抗力は殆ど発生せず、摩擦によるチェーンの走行抵抗の影響は実質的にはない。ゼロタッチ面15aが若干チェーン4を押込んでも、摩擦の増加は無視できる。逆に、ゼロタッチ面15aがチェーン4と若干離れていても(例えば1mm程度)、該離れた分だけ弦振動する可能性はあるが、該振動は、極めて軽微であり、チェーンの走行に影響を与えることはない。上記ゼロタッチ面15aは、チェーン4の走行線S-Sに沿って、該チェーンに触れるか触れないかのように、即ちチェーンとの差が0でタッチするような意味でなづけてある。設計上、ゼロタッチ面15aは、チェーン4の走行線S-Sに沿って極く近接するように配置されるが、実際上、製造誤差、取付け誤差、チェーンの振動等により、ゼロタッチ面15aは、チェーン4を1[mm]程度押込んだり、またチェーン4と1[mm]程度離れる場合もあり、これらを含めてゼロタッチ面と定義する。
【0026】
従って、本チェーンガイド6は、チェーン4と接触する部分がシュー部13,13のみであって、チェーンの走行部分の略全面を摺接する従来のチェーンガイド106(
図9A及び
図9B参照)に比して接触面積が大幅に少なく(例えば10分の1以下)、従って摩擦抵抗が少なく(例えば10%以上減少)、チェーン伝動装置1の走行抵抗によるエネルギロスを大幅に低減できる。また、制振部15によりチェーンの弦振動を抑制して、チェーンの打音による異音の発生や、スプロケットとの噛合い不良による異常摩耗、カムとクランクとのタイミング不良、異常張力によるチェーンの破断や歯飛びの発生を防止できる。
【0027】
ついで、
図2,3に沿って、チェーンガイドを具体化した実施の形態について説明する。チェーンガイド6は、本体20を有し、該本体20の表側における長手方向両端部に前記シュー部13,13が固定され、これら両シュー部の間部分における該本体20自体に前記制振部15が成形されている。本体20は、エンジン内におけるタイミングチェーン伝動装置1に配置されるため、耐熱性及び耐油性を有するが、制振部15では基本的にチェーン4と接触しないので、耐摩耗性はそれ程必要なく、ポリアミド(PA)46,ポリアミド(PA)66等の高価でない一般的な合成樹脂が用いられ、射出成形により
図3に示す形状に成形される。本体20の表面側(チェーン側面)は、幅方向両端が縁部21となる凹溝部22が形成され、縁部上面は、チェーン走行(前後)方向に略直線形状からなり、凹溝部22は、底面の前後両端部にシュー装着部22a,22aがあり、前後方向に僅かに凹凸して延び、チェーン4をガイドするガイド溝になっている。該凹溝部22の前後方向中央部が所定長さに亘って前記ゼロタッチ面15aになっている。即ち、該ゼロタッチ面15aは、上記ガイド溝の底面にあって、チェーン4の走行線に沿ってチェーンに触れるか触れないかの位置で直線状に平行に延びており、該ゼロタッチ面15aを含む部分が前記制振部15を構成する。
【0028】
本体20は、上記ガイド溝を構成する凹溝部22を含む表側部23と裏側部25とを有し、これら表側部23と裏側部25とは長尺形状を囲むように肉厚となっており、表側部23と裏側部25との間は複数本のリブ26・・・で連結されており、リブの間は、薄板又は開口になっている。該表側部23及び裏側部25の間における箇所に、本体20をエンジンブロック等の固定部材に止める固定孔(固定部)27,28,29が形成されている。前方の固定孔27は円形からなり、緩みなくボルト等に嵌合するが、中間及び後の固定孔28,29は、長円形からなり、本体20の固定位置を調整することができる。
【0029】
前記シュー部13は、本体20のシュー装着部22aにインサート成形、接着又はスナップフィット等の適宜な固定手段によって取付けられる。該シュー部13は、チェーン4に摺接して該チェーンをガイドする。該シュー部13は、チェーン張り側におけるクランク(駆動側)スプロケット2及びカム(従動側)スプロケット3の近くにチェーンの走行(前後)方向の比較的短い長さからなり、その上面が比較的小さな半径の湾曲面からなる摺接面13aとなる。該シュー部13は、チェーン4と所定垂直圧で当接し、かつ短い長さからなるため、チェーンとの間に比較的大きな面圧が作用し、高い耐摩耗性を有する合成樹脂を用いることが好ましい。該シュー部13の合成樹脂(エンジニアリングプラスティック)は、本体20に使用されるポリアミド系等の通常仕様の合成樹脂では強度不足となり、比較的高価なポリアセタール(ポリオキシメチレン)、ポリエーテルエーテルケトン等が適用可能であるが、シュー部の成形容易性等から、ポリイミド樹脂が好ましい。該合成樹脂は、比較的高い面圧でも充分な耐摩耗性を有し、比較的高価であっても、シュー部13は、チェーンガイド6の極く一部であって使用材料が少なく、チェーンガイドのコストアップも抑えることができる。
【0030】
前記チェーン伝動装置1には、エンジンブロック(固定部材)に固定孔27,28,29を通してボルトが締付けられる等によりチェーンガイド6が取付けられる。この際、チェーンガイド6は、チェーン4の張り側外側面に両シュー部13,13が所定圧力に接触するように、かつゼロタッチ面15aが、上記両シュー部13,13で張られたチェーンの走行線S-Sに極く近接するように調整される。
【0031】
そして、エンジンの回転によりクランクスプロケット2が回転すると、該回転は、チェーン4を介してカムスプロケット3,3に伝達され、適正なタイミングによりカム軸を回転する。チェーン伝動装置1のチェーン4は、チェーンテンショナ5により所定張力に付与されると共に、張り側はチェーンガイド6のシュー部13,13に摺接して、チェーン4を適正にガイドすると共に、両シュー部13,13の間において、制振部15のゼロタッチ面15aに沿ってチェーン4が走行する。この際、エンジンの負荷変動等によりチェーン4の張力が変化して、両シュー部13,13の間で弦振動が発生するような動きがあるが(例えばエンジン回転数2000~5000rpm付近で発生)、チェーン4の上記動きは制振部のゼロタッチ面15aで規制されて、弦振動の発生は抑制されてチェーン4は走行する。
【0032】
ついで、シュー部13の本体20への取付けについて説明する。
図3,
図4A及び
図5の樹脂に示すように、チェーンガイド6の本体20の射出成形に際し、上記シュー部13がインサート成形される。また、
図4Bに示すように、本体20は、通常仕様の合成樹脂により射出成形される。この際、本体のガイド溝22の一部に平面又は凹みからなるシュー装着部22aが形成され、該シュー装着部22aにシュー部13が接着剤により接着される。
図5の樹脂におけるスナップフィットに示すように、上記合成樹脂からなる本体20における前後部分の両側面に凹状の係合溝30を形成する。シュー部13には下方部分に凹溝を形成し、該凹溝の両側面に内側に突出する係合突起31を形成する。弾性を有する該係合突起31を前記係合溝30に係合して、シュー部13が本体20に取付けられる。上記本体20を合成樹脂で形成するチェーンガイド6は、ゼロタッチ面15aを有する制振部15が該本体20に一体に成形される。
【0033】
本体20は、ダイキャストにより形成してもよい。
図5のダイキャストにおけるスナップフィットに示すように、本体20に、上記樹脂のスナップフィットと同様に、両側面に係合溝30を形成する。シュー部13には係合溝30に係合する係合突起31が形成され、該合成樹脂からなり弾性を有するシュー部13は、その係合突起31が本体20の係合溝30に係合することにより本体20に装着される。
図5のダイキャストにおけるボルトに示すように、合成樹脂からなるシュー部13が、ダイキャストからなる本体20にボルト34により固定されてもよい。
【0034】
図4C及び
図5の板金に示すように、本体20は、板金により形成してもよい。該本体20は、その前後方向両端部に係合突起32を形成する。シュー部13は、凹溝33が形成され、その摺接面13aの部材の内側に係合凹部35が形成される。合成樹脂からなるシュー部13は、その係合凹部35に板金からなり弾性を有する本体20の係合突起32が係合することにより、本体20に装着される。
【0035】
上記ダイキャストからなる本体20及び板金からなる本体20に、接着剤による接着によりシュー部13を固定してもよい。なお、ダイキャスト及び板金からなる本体20には合成樹脂からなる制振部が例えばスナップフィット、接着又はボルト等の固定手段により固定される。この際、ゼロタッチ面15aを有する制振部15は、板金からなる本体20自体に形成されても良く、また、ポリアミド等の一般的な合成樹脂を板金からなる本体20に装着しても良く、シュー部13には上述した耐摩耗性の優れたポリイミド樹脂等が用いられる。
【0036】
ついで、
図6A~
図6Eに沿って、チェーンガイド6におけるシュー部13及び制振部15の配列の異なる実施の形態について説明する。チェーンガイド6は、上述したタイミングチェーン伝動装置1にチェーンテンショナ5と共に用いられ、図中点線で示すDは、クランクスプロケット2とカムスプロケット3とを結ぶ張り側の接線である。
図6Aに示すチェーンガイド6は、シュー部13と制振部15とが1個ずつで、制振部15が駆動側スプロケット2側に、シュー部13が従動側スプロケット3側に配置される。
図6Bに示すチェーンガイド6は、シュー部13と制振部15とが1個ずつで、シュー部13が駆動側スプロケット2側に、制振部15が従動側スプロケット3側に配置される。
図6Cに示すチェーンガイド6は、1個のシュー部13と2個の制振部15,15とからなり、2個の制振部15の間にシュー部13が配置される。
図6Dに示すチェーンガイド6は、先の
図1及び
図2と同様に、2個のシュー部13,13と1個の制振部15とからなり、2個のシュー部13の間に制振部15が配置される。
図6Eに示すチェーンガイド6は、3個のシュー部13,13,13と2個の制振部15,15とからなり、シュー部13の間に制振部15が配置される。
【0037】
なお、シュー部13及び制振部15は、
図2に示すように1個の部材(例えば本体20)からなるのが好ましいが、別個の部材から構成してもよく、また
図6A~
図6Eに示す配列以外の配列でもよく、例えば制振部15をチェーン4の内側または内外両側に配置してもよい。
【0038】
チェーン4をガイドする接触ガイド部は、チェーン4に摺接する摺接面13aを有するシュー部13が好ましいが、必ずしもシュー部に限らず、回転部材等の他の部材でもよい。
図7に示すようにチェーンガイド6’は、軸にベアリングを介して回転自在に支持される回転部13’と制振部15とからなる。接触ガイド部である回転部13’は、駆動側スプロケット2及び従動側スプロケット3の近くに配置され、チェーン4に接して回転し、チェーン4をガイドする。これら両回転部13’,13’の間に制振部15が配置される。
【0039】
チェーン伝動装置の張り側の略全域を摺接ガイドする従来のチェーンガイド106(
図9参照)と
図2に示す本発明に係るチェーンガイド6とを比較した試験結果を
図8に示す。本発明に係るチェーンガイド6は、シュー部13がポリイミド樹脂からなり、制振部15が本体20に一体に形成されたポリアミド樹脂からなる。小型エンジンを載せた摺動抵抗ヘッド試験機に、従来のチェーンガイド106又は上記本発明に係るチェーンガイド6を装着して、各回転数におけるクランクねじり張力を測定した。その結果、全ての回転数において、従来のチェーンガイドに比し、本発明に係るチェーンガイド1は、摺動抵抗が10%以上減少した。
【0040】
なお、上述した実施の形態では、便宜上、部材6をチェーンガイドと、部材9をチェーンテンショナ5の弓形部材9と呼称したが、これら部材6及び9は、共にチェーン4の張り側及び緩み側にてチェーン4と接触して案内するチェーンガイドである。このため、弓形部材9についても、チェーンガイド6と同様に、チェーンに接触してチェーンをガイドする接触ガイド部と、チェーンの走行線に沿うように延びるゼロタッチ面を有する制振部と、を有するように構成されても良い。また、弓形部材9の形状についても、上述した
図1、6A~6Eに示すように、接触ガイド部及び制振部について種々の構成を取ることができる。
【0041】
なお、上述した実施の形態は、タイミングチェーン伝動装置に適用したが、これに限らず、他のエンジン内チェーンに適用してもよく、更にエンジン内チェーンに限らず、あらゆるチェーン伝動装置に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本チェーンガイドは、例えば、タイミングチェーン伝動装置等のチェーン伝動装置においてチェーンをガイドすることができる。
【0043】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために、以下の請求項を添付する。
【符号の説明】
【0044】
1 (タイミング)チェーン伝動装置
2 駆動側(クランク)スプロケット
3 従動側(カム)スプロケット
4 チェーン
5 チェーンテンショナ
6,6’ チェーンガイド
13,13’ 接触ガイド部(シュー部、回転部)
13a 摺接面
15 制振部
15a ゼロタッチ面
20 本体
27,28,29 固定部(固定孔)