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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】配線基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/12 20060101AFI20230117BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
H01L23/12 501P
H01L23/12 N
H05K3/00 J
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022561204
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2021029415
(87)【国際公開番号】W WO2022102182
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2020187948
(32)【優先日】2020-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】北畠 有紀子
(72)【発明者】
【氏名】柳井 威範
(72)【発明者】
【氏名】松浦 宜範
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/066114(WO,A1)
【文献】特開2011-228613(JP,A)
【文献】特開2011-238895(JP,A)
【文献】特開2014-072440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/12
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線基板の製造方法であって、
キャリア上に剥離層、金属層及びデバイス層を順に備えた積層シートを用意する工程と、
平面視した場合に前記デバイス層の輪郭よりも内側を通ってその両端が前記積層シートの端部に達するように、かつ、断面視した場合に前記キャリア、前記剥離層及び前記金属層を貫通するように、前記積層シートの前記キャリア側の表面から切込み線を入れる工程と、
前記キャリア、前記剥離層及び前記金属層における、前記切込み線から外側の外縁部分を除去し、それにより前記デバイス層の前記金属層側の表面の一部を露出させて前記キャリアの剥離を促進するための加圧可能露出部とする工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記積層シートが、平面視した場合に前記金属層が前記デバイス層の端部からはみ出した延出部分を有しており、
前記方法が、前記切込み線を入れる前に、前記延出部分において前記金属層を前記デバイス層の輪郭に沿って予め切断しておく工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記外縁部分の除去後、前記キャリアを前記積層シートから前記剥離層の位置で剥離する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記キャリアの剥離が、前記キャリアを固定した状態で、前記デバイス層の前記加圧可能露出部を前記キャリアから前記デバイス層を引き離す方向に力を加えることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記切込み線が、平面視した場合に前記デバイス層の輪郭から0.5mm以上30.0mm以下内側の領域を通るように設けられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記加圧可能露出部が、多角形状又は円弧形状を有するように、前記切込み線が設けられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記切込み線が少なくとも2箇所設けられることにより、前記加圧可能露出部が少なくとも2箇所形成され、
前記キャリアの剥離が、前記少なくとも2箇所の加圧可能露出部を前記キャリアから前記デバイス層を引き離す方向に力を加えることにより行われる、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記キャリアの剥離が、前記デバイス層を前記キャリアにより規定される面に対して、垂直方向に引き離す方向に力を加えることにより行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記デバイス層が、配線層、前記配線層上に設けられた電子素子、並びに前記配線層及び前記電子素子を包囲するモールド層を含み、
前記切込み線が、平面視した場合に、前記配線層及び前記電子素子を横切ることなく、前記モールド層を横切るように設けられる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記デバイス層の弾性率が前記キャリアの弾性率よりも低い、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記デバイス層が樹脂を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記デバイス層の弾性率が前記キャリアの弾性率よりも高い、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記デバイス層がセラミックスを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記キャリアが、ガラスキャリアである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記キャリアが、直径100mm以上の円板状、又は短辺が100mm以上の矩形状である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記積層シートの用意が、
キャリア上に剥離層及び金属層を備えたキャリア付金属箔を用意する工程と、
前記金属層の表面に第1配線層を形成する工程と、
前記第1配線層を基礎として前記デバイス層を構築する工程と、
を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記キャリアの剥離後に露出した前記金属層をエッチングにより除去する工程をさらに含む、請求項3~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
キャリア上に剥離層、金属層及びデバイス層を順に備えた、配線基板材料であって、
平面視した場合に前記デバイス層の輪郭よりも内側を通る少なくとも1本の線に沿って、前記キャリア、前記剥離層及び前記金属層の外縁部分が少なくとも1箇所欠けており、それにより前記デバイス層の前記金属層側の表面の一部が露出されている、配線基板材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板の実装密度を上げて小型化するために、プリント配線板の多層化が広く行われるようになってきている。このような多層プリント配線板は、携帯用電子機器の多くで、軽量化や小型化を目的として利用されている。そして、この多層プリント配線板には、層間絶縁層の更なる厚さの低減、及び配線板としてのより一層の軽量化が要求されている。
【0003】
このような要求を満たす技術として、コアレスビルドアップ法を用いた多層プリント配線板の製造方法が採用されている。コアレスビルドアップ法とは、いわゆるコア基板を用いることなく、絶縁層と配線層とを交互に積層(ビルドアップ)して多層化する方法である。コアレスビルドアップ法においては、支持体と多層プリント配線板との剥離を容易に行えるように、キャリア付金属箔を使用することが提案されている。例えば、特許文献1(特開2005-101137号公報)には、キャリア付銅箔のキャリア面に絶縁樹脂層を貼り付けて支持体とし、キャリア付銅箔の極薄銅層側にフォトレジスト加工、パターン電解銅めっき、レジスト除去等の工程により第一の配線導体を形成した後、ビルドアップ配線層を形成し、キャリア付支持基板を剥離し、極薄銅層を除去することを含む、半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献1に示されるような埋め込み回路の微細化のため、金属層の厚さを1μm以下としたキャリア付金属箔が望まれる。そこで、金属層の厚さ低減を実現するため、スパッタリング等の気相法により金属層を形成することが提案されている。例えば、特許文献2(国際公開第2017/150283号)には、ガラスシート等のキャリア上に、剥離層、反射防止層、及び極薄銅層(例えば膜厚300nm)がスパッタリングにより形成されたキャリア付銅箔が開示されている。また、特許文献3(国際公開第2017/150284号)には、ガラスシート等のキャリア上に、中間層(例えば密着金属層及び剥離補助層)、剥離層及び極薄銅層(例えば膜厚300nm)がスパッタリングにより形成されたキャリア付銅箔が開示されている。特許文献2及び3には、所定の金属で構成される中間層を介在させることでキャリアの機械的剥離強度の優れた安定性をもたらすことや、反射防止層が望ましい暗色を呈することで、画像検査(例えば自動画像検査(AOI))における視認性を向上させることも教示されている。
【0005】
とりわけ、電子デバイスのより一層の小型化及び省電力化に伴い、半導体チップ及びプリント配線板の高集積化及び薄型化へのニーズが高まっている。かかるニーズを満たす次世代パッケージング技術として、FO-WLP(Fan-Out Wafer Level Packaging)やPLP(Panel Level Packaging)の採用が近年検討されている。そして、FO-WLPやPLPにおいても、コアレスビルドアップ法の採用が検討されている。そのような工法の一つとして、コアレス支持体表面に配線層及び必要に応じてビルドアップ配線層を形成した後にチップの実装及び封止を行い、その後に支持体を剥離する、RDL-First(Redistribution Layer-First)法と呼ばれる工法がある。例えば、特許文献4(特開2015-35551号公報)には、ガラス又はシリコンウェハからなる支持体の主面への金属剥離層の形成、その上への絶縁樹脂層の形成、その上へのビルドアップ層を含む再配線層(Redistribution Layer)の形成、その上への半導体集積回路の実装及び封止、支持体の除去による剥離層の露出、剥離層の除去による2次実装パッドの露出、並びに2次実装パッドの表面への半田バンプの形成、並びに2次実装を含む、半導体装置の製造方法が開示されている。
【0006】
ところで、コアレスビルドアップ法等を用いて作製した配線層付キャリアから、キャリアを剥離する際、配線層が大きく湾曲して断線や剥離を引き起こす結果、配線層の接続信頼性が低下することが起こりうる。そこで、かかる問題に対処したキャリアの除去方法が提案されている。例えば、特許文献5(特開2020-119952号公報)には、キャリアの表面に仮接着層を介して設けられたワーク(例えば、仮接着層に接する配線層と、配線層に接合された複数のチップと、各チップを封止するモールド層とを含む)からキャリアを除去する方法が開示されている。特許文献5に開示される方法では、ワークが設けられたキャリアの表面側に比べてキャリアの裏面側が側方に突出した段差部を形成し、ワークを上方から保持した状態で、段差部に下向きの力を加えることにより、ワークからキャリアを容易に除去できるとされている。また、特許文献6(特開2020-27888号公報)には、キャリアの表面に仮接着層を介して設けられたワークからキャリアを除去する方法に関して、ワーク側からキャリアの外周縁に沿ってキャリアの裏面にまで達しない深さまで切削ブレードを切り込ませ、キャリアの裏面側が表面側より外向きに突出した段差部を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-101137号公報
【文献】国際公開第2017/150283号
【文献】国際公開第2017/150284号
【文献】特開2015-35551号公報
【文献】特開2020-119952号公報
【文献】特開2020-27888号公報
【発明の概要】
【0008】
キャリアを剥離した後の配線層の表面に対して、回路パターンの露光転写を含むフォトリソグラフィプロセスを行うことがある。ここで、一般的な露光装置では、露光が行われるウェハやパネル等の対応サイズが定められており、この対応サイズに一致したウェハ等を用意することが求められる。すなわち、ウェハ等の大きさが所定の対応サイズから外れる場合(例えば対応サイズより小さい場合)、露光前の位置合わせの基準となるアライメントマークのずれが生じる結果、位置合わせが適切に行われず、その後の露光に支障を来すおそれがある。この点、特許文献5及び6に開示されるキャリアの剥離方法は、キャリア剥離時のデバイス層(例えば、配線層、電子素子(チップ)及びモールド層を含む)へのダメージは抑制されるものの、デバイス層自体の加工を伴う結果、サイズが必然的に小さくなってしまうため、加工後のデバイス層に対してフォトリソグラフィプロセスを精度良く行うことは困難である。
【0009】
本発明者らは、今般、キャリア、剥離層、金属層及びデバイス層を順に備えた積層シートのデバイス層以外の部分に対して所定の切込み線を入れ、この切込み線から外側の外縁部分を除去してデバイス層に加圧可能露出部を形成させることにより、キャリア剥離時のデバイス層へのダメージを抑制でき、かつ、キャリア剥離後のデバイス層に対してフォトリソグラフィプロセスを精度良く実施可能な配線基板を製造できるとの知見を得た。
【0010】
したがって、本発明の目的は、キャリア剥離時のデバイス層へのダメージを抑制でき、かつ、キャリア剥離後のデバイス層に対してフォトリソグラフィプロセスを精度良く実施可能な、配線基板の製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の一態様によれば、配線基板の製造方法であって、
キャリア上に剥離層、金属層及びデバイス層を順に備えた積層シートを用意する工程と、
平面視した場合に前記デバイス層の輪郭よりも内側を通ってその両端が前記積層シートの端部に達するように、かつ、断面視した場合に前記キャリア、前記剥離層及び前記金属層を貫通するように、前記積層シートの前記キャリア側の表面から切込み線を入れる工程と、
前記キャリア、前記剥離層及び前記金属層における、前記切込み線から外側の外縁部分を除去し、それにより前記デバイス層の前記金属層側の表面の一部を露出させて前記キャリアの剥離を促進するための加圧可能露出部とする工程と、
を含む、方法が提供される。
【0012】
本発明の他の一態様によれば、キャリア上に剥離層、金属層及びデバイス層を順に備えた、配線基板材料であって、
平面視した場合に前記デバイス層の輪郭よりも内側を通る少なくとも1本の線に沿って、前記キャリア、前記剥離層及び前記金属層の外縁部分が少なくとも1箇所欠けており、それにより前記デバイス層の前記金属層側の表面の一部が露出されている、配線基板材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本発明の配線基板の製造方法の一例を模式断面図で示す工程流れ図である。
図1B図1Aと対応する工程を、積層シートをキャリア側から見た模式上面図で示す工程流れ図である。
図2】金属層の延出部分をデバイス層の輪郭に沿って予め切断する工程の一例を示す図であり、図1A(ii)に示される工程よりも前の工程に相当する。
図3A】矩形状の積層シートにおける、(i)切込み線の位置の一例と、(ii)当該切込み線から外側の外縁部分を除去した後の状態とを示す上面図である。
図3B】円板状の積層シートにおける、(i)切込み線の位置の一例と、(ii)当該切込み線から外側の外縁部分を除去した後の状態とを示す上面図である。
図4】積層シートからキャリアを剥離する工程の一例を示す図であり、図1A(iii)に示される工程以降の工程に相当する。
図5】従来の配線基板の製造方法の一例を模式断面図で示す工程流れ図であり、前半の工程(工程(i)及び(ii))に相当する。
図6】従来の配線基板の製造方法の一例を模式断面図で示す工程流れ図であり、図5に示される工程に続く後半の工程(工程(iii)及び(iv))に相当する。
図7A】キャリアがシリコンウェハである場合に、剥離による外部応力の進展する方向とへき開方位とが一致し、シリコンウェハにクラックが入る場合を上面図で示す工程流れ図であり、前半の工程(工程(i)及び(ii))に相当する。
図7B】キャリアがシリコンウェハである場合に、剥離による外部応力の進展する方向とへき開方位とが一致し、シリコンウェハにクラックが入る場合を上面図で示す工程流れ図であり、図7Aに示される工程に続く後半の工程(工程(iii)及び(iv))に相当する。
図8A】キャリアがシリコンウェハである場合に、剥離による外部応力の進展する方向とへき開方位とが不一致であり、シリコンウェハのクラックが抑制される場合を上面図で示す工程流れ図であり、前半の工程(工程(i)及び(ii))に相当する。
図8B】キャリアがシリコンウェハである場合に、剥離による外部応力の進展する方向とへき開方位とが不一致であり、シリコンウェハのクラックが抑制される場合を上面図で示す工程流れ図であり、図8Aに示される工程に続く後半の工程(工程(iii)及び(iv))に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
配線基板の製造方法
本発明は配線基板の製造方法に関する。本発明の方法は、(1)積層シートの用意、(2)切込み線の形成、(3)加圧可能露出部の形成、(4)所望により行われるキャリアの剥離、及び(5)所望により行われる金属層の除去の各工程を含む。
【0015】
以下、図面を参照しながら、工程(1)~(5)の各々について説明する。
【0016】
(1)積層シートの用意
本発明の配線基板の製造方法の一例が図1A及び1Bに示される。まず、図1A(i)に示されるように、キャリア12上に剥離層15、金属層16及びデバイス層20を順に備えた積層シート10を用意する。剥離層15は、キャリア12上に設けられ、キャリア12と金属層16との剥離に寄与する層である。金属層16は、剥離層15上に設けられる金属で構成される層である。デバイス層20は、金属層16上に設けられる、デバイス機能を有する層である。
【0017】
積層シート10は、キャリア12と剥離層15との間に中間層14をさらに有していてもよい。中間層14、剥離層15及び金属層16の各々は、1層から構成される単層であってもよく、2層以上から構成される複層であってもよい。
【0018】
キャリア12は、ガラス、セラミックス、シリコン、樹脂、及び金属のいずれで構成されるものであってもよいが、好ましくはガラスキャリア、単結晶シリコンキャリア又は多結晶シリコンキャリアである。本発明の好ましい態様によれば、キャリア12は、直径100mm以上の円板状であり、より好ましくは直径200mm以上450mm以下の円板状である。本発明の別の好ましい態様によれば、キャリア12は、短辺が100mm以上の矩形状であり、より好ましくは短辺が150mm以上600mm以下で、かつ、長辺が200mm以上650mm以下の矩形状である。
【0019】
デバイス層20は、配線層20a、配線層20a上に設けられた電子素子20b、及び少なくとも電子素子20bを包囲するモールド層20cを含むのが好ましく、より好ましくは、モールド層20cは、配線層20a及び電子素子20bを包囲する。もっとも、デバイス層20は、主として配線層20aで構成され、電子素子20b及び/又はモールド層20cを含まないものであってもよい。
【0020】
好ましくは、積層シート10は、次のようにして用意することができる。まず、キャリア12上に、所望により設けられる中間層14(すなわち任意の層)、剥離層15、及び金属層16を備えたキャリア付金属箔18を用意する。次いで、金属層16の表面に第1配線層を形成する。その後、第1配線層を基礎としてデバイス層20を構築する。第1配線層の形成及びデバイス層20の構築は、公知の手法によって行えばよく、例えば上述したコアレスビルドアップ法を好ましく採用することができる。以下の説明において、キャリア12、中間層14(存在する場合)、剥離層15及び金属層16を「キャリア付金属箔18」と総称することがある。なお、キャリア付金属箔18の好ましい態様については後述するものとする。
【0021】
積層シート10は、平面視した場合に金属層16がデバイス層20の端部からはみ出した延出部分Eを有していてもよい。この場合、図2(i)及び(ii)に示されるように、後述する切込み線Cを入れる前に、延出部分Eにおいて金属層16(所望により、さらに剥離層15及び中間層14(存在する場合))をデバイス層20の輪郭に沿って予め切断しておくのが好ましい。こうすることで、キャリア付金属箔18を、デバイス層20からより一層容易かつ確実に剥離することができる。
【0022】
(2)切込み線の形成
用意した積層シート10のキャリア12側の表面から切込み線Cを入れる。この切込み線Cは、図1A(ii)に示されるように、断面視した場合にキャリア12、中間層14(存在する場合)、剥離層15及び金属層16を貫通するように積層シート10に入れられる。このとき、切込み線Cは、図1B(ii)に示されるように、平面視した場合にデバイス層20の輪郭よりも内側を通ってその両端(すなわち切込み線Cの両端)が積層シート10の端部に達するように入れられる。このような切込み線Cを積層シート10に入れることで、キャリア付金属箔18における、切込み線Cから外側の外縁部分が、切込み線Cから内側の部分とは切り離された状態となる。その結果、後述する加圧可能露出部Pの形成工程において、キャリア付金属箔18の切込み線Cから外側の外縁部分を除去することが可能となる。切込み線Cの形成方法は、公知の手法を採用すればよく、特に限定されない。例えば、カッター等の切削工具、又は切削ブレード等の工作機械を用いて積層シート10に切込み線Cを入れることができる。
【0023】
積層シート10には、後述する加圧可能露出部Pが多角形状又は円弧形状を有するように、切込み線Cが設けられるのが好ましい。ここで、図3A及び3Bに、矩形状(長方形又は正方形の形状)の積層シート(図3A)及び円板状(ウェハ形状)の積層シート(図3B)における、(i)切込み線Cの位置の一例と、(ii)切込み線Cから外側の外縁部分を除去した後の状態とをそれぞれ示す。積層シート10が矩形状である場合、例えば図3A(i)に示される点線に沿ってキャリア12側から切削ブレードを用いてキャリア付金属箔18に切込み線Cを入れることで、三角形状を有する加圧可能露出部Pを形成することができる(図3A(ii))。また、積層シート10が円板状である場合、例えば図3B(i)に示される点線に沿ってキャリア12側から切削ブレードを用いてキャリア付金属箔18に切込み線Cを入れることで、円弧形状を有する加圧可能露出部Pを形成することができる(図3B(ii))。
【0024】
積層シート10には、切込み線Cが少なくとも2箇所設けられることにより、デバイス層20に後述する加圧可能露出部Pが少なくとも2箇所形成されるのが、キャリア12の剥離時における配線層20a及び電子素子20bへのダメージを効果的に抑制できる観点から好ましい。例えば、積層シート10が矩形状である場合、図3A(i)に示されるように、キャリア付金属箔18及びデバイス層20における対角線上の2つの角(あるいは四隅)を切り欠くように切込み線Cを設けるのが好ましい。また、積層シート10が円板状である場合、図3B(i)に示されるように、キャリア付金属箔18及びデバイス層20の双方を通る互いに平行な2つの直線(あるいはさらに当該2つの直線と垂直な2つの直線)に沿って切込み線Cを設けるのが好ましい。積層シート10において、切込み線C(及び加圧可能露出部P)が設けられる箇所の数の上限は特に限定されるものではないが、典型的には4箇所以下である。
【0025】
デバイス層20が、配線層20a、配線層20a上に設けられた電子素子20b、並びに配線層20a及び電子素子20bを包囲するモールド層20cを含む場合、切込み線Cは、平面視した場合に、配線層20a及び電子素子20bを横切ることなく、モールド層20cを横切るように設けられるのが好ましい。こうすることで、モールド層20cのみからなる部分に後述する加圧可能露出部Pを形成することができるため、キャリア12の剥離時における配線層20a及び電子素子20bへのダメージを効果的に抑制することができる。かかる観点から、切込み線Cは、平面視した場合にデバイス層20の輪郭から0.5mm以上30.0mm以下内側の領域を通るように設けられるのが好ましく、より好ましくは1.0mm以上15.0mm以下、さらに好ましくは1.5mm以上5.0mm以下内側の領域を通るように設けられる。
【0026】
(3)加圧可能露出部の形成
切込み線Cを形成した積層シート10から、キャリア12、中間層14(存在する場合)、剥離層15及び金属層16における、切込み線Cから外側の外縁部分を除去する。これにより、図1A(iii)及び図1B(iii)に示されるように、デバイス層20の金属層16側の表面の一部を露出させて加圧可能露出部Pとすることができる。加圧可能露出部Pは、キャリア12の剥離を促進するために、デバイス層20に対して直接的に力を加えることが可能な部位である。本明細書において「加圧」とは、物(対象)に力を加えることを意味し、物(対象)を「押すこと」及び「引くこと」の双方の意味を含む。以下の説明において、デバイス層20に加圧可能露出部Pが設けられた積層シート10を「配線基板22」又は「配線基板材料」と称することがある。
【0027】
上述のとおり、キャリア12を剥離した後のデバイス層20(例えば配線層20aを含む)の表面に対して、回路パターンの露光転写を含むフォトリソグラフィプロセスを行うことがある。ここで、一般的な露光装置では、露光が行われるウェハやパネル等の対応サイズが定められており、この対応サイズに一致したウェハ等を用意することが求められる。すなわち、ウェハ等の大きさが所定の対応サイズから外れる場合(例えば対応サイズより小さい場合)、露光前の位置合わせの基準となるアライメントマークのずれが生じる結果、位置合わせが適切に行われず、その後の露光に支障を来すおそれがある。
【0028】
この点、特許文献5及び6に開示されるような従来の方法は、キャリア剥離後の配線層等を含むデバイス層に対してフォトリソグラフィプロセスを精度良く行うことは困難であった。ここで、図5及び6には、従来の配線基板の製造方法の一例が示される。図5及び6に示される従来工程では、まず、キャリア付金属箔118上にデバイス層120が設けられた積層シート110を用意する(図5の工程(i))。この例において、キャリア付金属箔118は、キャリア112上に、中間層114、剥離層115、及び金属層116を順に備える。また、デバイス層120は、配線層120a、電子素子120b、及びモールド層120cを含む。次いで、用意した積層シート110のデバイス層120側から、切削ブレードBを用いてキャリア付金属箔118に到達する切込みを入れ、デバイス層120における切込みから外側の外縁部分を除去して延出部分Eを形成する(図5の工程(ii))。その後、吸引装置Sによりデバイス層120を固定した状態で、形成した延出部分Eに対して、デバイス層120からキャリア112を引き離す方向に力を加える(図6の工程(iii))。こうして、キャリア112及び中間層114を、デバイス層120から剥離層115の位置で剥離する(図6の工程(iv))。
【0029】
このように、従来の配線基板の製造方法は、デバイス層120の外縁部分(例えば、デバイス層120の輪郭から0.2mm以上5mm以下の位置より外側部分)を除去するものであった。このため、加工前のデバイス層120が露光装置の対応サイズと一致していても(例えば、直径300mmの円板状)、加工後のデバイス層120のサイズ(例えば、直径295mmの円板状)は露光装置の対応サイズよりも小さいものとなっていた。したがって、キャリア112剥離後のデバイス層120に対してフォトリソグラフィプロセスを行う場合、デバイス層120と露光装置とのサイズの差に起因してアライメントマークのずれが生じる結果、露光前の位置合わせが適切に行われないおそれがある。したがって、従来の配線基板の製造方法は、キャリア剥離後のデバイス層に対してフォトリソグラフィプロセスを精度良く行うことが困難である。
【0030】
これに対して、本発明の方法は、積層シート10におけるキャリア12、中間層14(存在する場合)、剥離層15及び金属層16を加工することで加圧可能露出部Pを形成するため、デバイス層20のサイズが保持される。したがって、キャリア12を剥離した後のデバイス層20に対して、アライメントマークに基づく露光前の位置合わせが適切に行われる結果、フォトリソグラフィプロセスを精度良く実施することができる。その上、キャリア12の剥離の際は、加圧可能露出部Pに対して適度な力を加えることで、容易にキャリア12を剥離することができるため、デバイス層20へのダメージを抑制することができる。また、キャリア12の剥離除去は物理的な剥離により簡便に行うことができるため、剥離層を溶解する溶液の液浸やレーザー照射等の工程を伴う剥離手法を採用しなくてもよいという利点もある。
【0031】
(4)キャリアの剥離(任意工程)
所望により、キャリア付金属箔18の外縁部分を除去した後、キャリア12及び中間層14(存在する場合)を配線基板22から剥離層15の位置で剥離する。このとき、配線基板22が加圧可能露出部Pを有することで、容易にキャリア12を剥離することが可能となる。ここで、図4には、キャリア12を剥離する工程の一例が示される。図4(i)及び(ii)に示されるように、キャリア12等の剥離は、キャリア12を固定した状態で、デバイス層20の加圧可能露出部Pをキャリア12からデバイス層20を引き離す方向(図4(i)の矢印で示される方向)に力を加えることにより行われるのが好ましい。加圧可能露出部Pへの加圧手法は特に限定されず、手や治工具、機械等を用いることができる。例えば、押圧部材を用いて加圧可能露出部Pを押圧する、又はフック部材を加圧可能露出部Pに引っ掛け、キャリア12からデバイス層20を引き離す方向に引っ張ることにより、キャリア12を剥離することができる。
【0032】
この剥離工程でキャリアが単結晶シリコンキャリアである場合、剥離の進展方向に留意することが好ましい。ここで、キャリア付金属箔18のキャリア12が単結晶シリコンキャリアである場合における、キャリア12の剥離工程を図7A、7B、8A及び8Bにそれぞれ示す。図7A~8Bに示される工程では、キャリア12が単結晶シリコンキャリアであるキャリア付金属箔18を用意し(図7A(i)及び図8A(i))、キャリア付金属箔18の金属層16上にデバイス層20を形成した後(図7A(ii)及び図8A(ii))、キャリア12の剥離を行う(図7B(iii)及び(iv)並びに図8B(iii)及び(iv))。
【0033】
図7B(iii)及び(iv)に示すように、外部応力STの進展する方向とへき開方位CLとが一致する方向で剥離をした場合、最初の剥離による外部応力STが加わった点を起点として、へき開方位CLに沿ってクラックCRが発生する等、シリコンキャリアが破壊されてしまう可能性がある。こうしたシリコンキャリアのへき開による破壊を抑制するため、キャリア12が単結晶シリコンキャリアのときは、図8B(iii)及び(iv)に示すように、シリコンキャリア上のx軸(図中の左右方向)及びy軸(図中の上下方向)のへき開方位CLのいずれの方向とも不一致となるように、外部応力STを加えてキャリア12の剥離を行うことが好ましい。
【0034】
より具体的に説明する。図7A(i)及び図8(i)に示すように、キャリア12の中心からノッチNまでの半直線Lを起点として、右回り(時計回り)に角度θを規定すると、θ=0°、90°、180°、及び270°がへき開方位CLに該当する。このため、剥離による外部応力STの進展方向θrについては、図8B(iii)に示すように、θrが1°<θr<89°の範囲内となるように、外部応力STの進展方向を保持しつつ剥離を行うことが好ましく、5°<θr<85°の範囲内とすることがより好ましい。このようなθrの範囲を満たす剥離方法によりシリコンウェハで構成されるキャリア12の破壊の抑制が可能となる。この剥離の際の特に好ましいθrの範囲は、半直線Lを起点として右回りにθr=45±5°、135±5°、225±5°及び315±5°である。これらの角度はシリコンウェハの結晶方位<100>方向で最もウェハがへき開しづらいため、これらの角度で外部応力を進展させることで、ウェハの破壊を効果的に抑制しつつキャリアの除去を行うことが可能となる。また、外部応力STの進展方向θrを上記角度とすべく、加圧可能露出部Pをθr=45±10°、135±10°、225±10°及び/又は315±10°に形成した後に、キャリア12の剥離を行うのが好ましい。
【0035】
加圧可能露出部Pが少なくとも2箇所形成される場合、キャリア12の剥離は、上記少なくとも2箇所の加圧可能露出部Pをキャリア12からデバイス層20を引き離す方向に力を加えることにより行われるのが好ましい。こうすることで、加圧可能露出部Pが1箇所のみの場合と比べて、加圧可能露出部Pに加わる力を分散させることができ、結果としてデバイス層20のダメージをより一層効果的に抑制することが可能となる。この効果をさらに高めるために、キャリア12の剥離は、デバイス層20をキャリア12により規定される面(キャリア面)に対して、垂直方向に引き離す方向に力を加えることにより行われるのが好ましい。
【0036】
典型的には、デバイス層20の弾性率がキャリア12の弾性率よりも低いものでありうる。例えば、デバイス層20の弾性率がキャリア12の弾性率の1倍未満、より典型的には0.7倍未満、より好ましくは0.5倍未満である。この態様の例としては、デバイス層20(例えばモールド層20c)が樹脂を含む場合が挙げられる。この場合、キャリア12等を剥離する前に、デバイス層20の金属層16と反対側の面、及び/又は露出したデバイス層20の端部に補強材を当接させるのが好ましい。こうすることで、キャリア12の剥離をよりスムーズに行うことができ、かつ、キャリア12剥離時のデバイス層20へのダメージをより一層低減することができる。補強材の当接は、デバイス層20に補強材を接着(例えば接着剤や粘着テープを用いた接着)させることにより行われてもよいし、接着剤等を用いることなくデバイス層20に補強材を単に密着させることにより行われてもよい。補強材は、金属、ゴム(例えばシリコンゴム)、樹脂(例えばエポキシ樹脂)、又はそれらの組合せで構成されるのが好ましい。デバイス層20の金属層16と反対側の面に補強材を当接させる場合、当該面全体を補強材(例えばシリコンゴムのような剛性を有しない補強材)に当接させてもよいし、平面視した場合に少なくとも配線層20a及び電子素子20bが覆われるように上記面の一部を補強材(例えば金属板のような剛性を有する補強材)に当接させてもよい。
【0037】
あるいは、デバイス層20の弾性率がキャリア12の弾性率よりも高いものであってもよい。例えば、デバイス層20の弾性率がキャリア12の弾性率の1倍超、より典型的には2倍超、より好ましくは4倍超である。この態様の例としては、デバイス層20(例えばモールド層20c)がセラミックスを含む場合が挙げられる。この場合、上述した補強材をデバイス層20に当接させることなくキャリア12の剥離を好ましく行うことができる。もっとも、本態様においても、補強材をデバイス層20に当接させた後に、キャリア12を剥離してもよいことはいうまでもない。
【0038】
(5)金属層の除去(任意工程)
所望により、キャリア12の剥離後に露出した金属層16をエッチングにより除去する。こうすることで埋め込み配線が露出するため、その上にフォトリソグラフィプロセスによる更なる回路を形成するのにより適したものとなる。金属層16のエッチングは公知の手法に基づき行えばよく、特に限定されない。
【0039】
配線基板材料
本発明の好ましい態様によれば、キャリア付金属箔18と、キャリア付金属箔18上に設けたデバイス層20とを備えた、配線基板22(配線基板材料)が提供される。この配線基板22は、平面視した場合にデバイス層20の輪郭よりも内側を通る少なくとも1本の線に沿って、キャリア付金属箔18の外縁部分が少なくとも1箇所欠けている(図1B(iii)参照)。これにより、配線基板22は、デバイス層20のキャリア付金属箔18側の表面の一部が露出して、キャリア12(及び存在する場合には中間層14)の剥離を促進するための加圧可能露出部Pを成している(図1A(iii)参照)。このような配線基板22によれば、キャリア12(及び存在する場合には中間層14)の剥離時のデバイス層20へのダメージを抑制でき、かつ、剥離後のデバイス層20に対してフォトリソグラフィプロセスを精度良く実施することができる。
【0040】
配線基板22(配線基板材料)は、あらゆる方法によって製造されたものであってよい。典型的には、配線基板22は、上述した配線基板の製造方法において、デバイス層20に加圧可能露出部Pを形成した後で、かつ、キャリア12を剥離する前の積層シート10に相当するものである。したがって、配線基板22は、例えば図1A(iii)及び図1B(iii)に示されるような構成を採用することができる。配線基板22に含まれるデバイス層20については上述したとおりである。
【0041】
キャリア付金属箔
図1Aを参照しつつ上述したとおり、本発明の方法において所望により用いられるキャリア付金属箔18は、キャリア12、所望により中間層14、剥離層15、及び金属層16を順に備える。
【0042】
上述のとおり、キャリア12の材質はガラス、セラミックス、シリコン、樹脂、及び金属のいずれであってもよい。好ましくは、キャリア12は、ガラス、単結晶シリコン、多結晶シリコン又はセラミックスで構成される。キャリア12の形態はシート、フィルム及び板のいずれであってもよい。また、キャリア12はこれらのシート、フィルム及び板等が積層されたものであってもよい。例えば、キャリア12はガラス板、セラミックス板、シリコンウェハ、金属板等といった剛性を有する支持体として機能しうるものであってもよいし、金属箔や樹脂フィルム等といった剛性を有しない形態であってもよい。キャリア12を構成する金属の好ましい例としては、銅、チタン、ニッケル、ステンレススチール、アルミニウム等が挙げられる。セラミックスの好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、その他各種ファインセラミックス等が挙げられる。樹脂の好ましい例としては、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド、ポリイミド、ナイロン、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK(登録商標))、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等が挙げられる。より好ましくは、電子素子を搭載する際の加熱に伴うコアレス支持体の反り防止の観点から、熱膨張係数(CTE)が25ppm/K未満(典型的には1.0ppm/K以上23ppm/K以下)の材料であり、そのような材料の例としては、上述したような各種樹脂(特にポリイミド、液晶ポリマー等の低熱膨張樹脂)、ガラス、単結晶シリコン、多結晶シリコン及びセラミックス等が挙げられる。また、ハンドリング性やチップ実装時の平坦性確保の観点から、キャリア12はビッカース硬度が100HV以上であるのが好ましく、より好ましくは150HV以上2500HV以下である。これらの特性を満たす材料として、キャリア12はガラス、シリコン又はセラミックスで構成されるのが好ましく、より好ましくはガラス又はセラミックスで構成され、特に好ましくはガラスで構成される。ガラスから構成されるキャリア12としては、例えばガラス板が挙げられる。ガラスをキャリア12として用いた場合、軽量で、熱膨脹係数が低く、絶縁性が高く、剛直で表面が平坦なため、金属層16の表面を極度に平滑にできる等の利点がある。また、キャリア12がガラスである場合、微細回路形成に有利な表面平坦性(コプラナリティ)を有している点、配線製造工程におけるデスミアや各種めっき工程において耐薬品性を有している点、キャリア付金属箔18からキャリア12を剥離する際に化学的分離法が採用できる点等の利点がある。キャリア12を構成するガラスの好ましい例としては、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、及びそれらの組合せが挙げられ、より好ましくは無アルカリガラス、ソーダライムガラス、及びそれらの組合せであり、特に好ましくは無アルカリガラスである。無アルカリガラスは、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、及び酸化カルシウムや酸化バリウム等のアルカリ土類金属酸化物を主成分とし、更にホウ酸を含有する、アルカリ金属を実質的に含有しないガラスのことである。この無アルカリガラスは、0℃から350℃までの広い温度帯域において熱膨脹係数が3ppm/K以上5ppm/K以下の範囲で低く安定しているため、加熱を伴うプロセスにおけるガラスの反りを最小限にできるとの利点がある。キャリア12の厚さは100μm以上2000μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以上1800μm以下、さらに好ましくは400μm以上1100μm以下である。キャリア12がこのような範囲内の厚さであると、ハンドリングに支障を来さない適切な強度を確保しながら配線の薄型化、及び電子部品搭載時に生じる反りの低減を実現することができる。
【0043】
所望により設けられる中間層14は、1層構成であってもよいし、2層以上の構成であってもよい。中間層14が2層以上の層で構成される場合には、中間層14は、キャリア12直上に設けられた第1中間層と、剥離層15に隣接して設けられた第2中間層とを含む。第1中間層は、キャリア12との密着性を確保する点から、Ti、Cr、Al及びNiからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成される層であるのが好ましい。第1中間層は、純金属であってもよいし、合金であってもよい。第1中間層の厚さは5nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上300nm以下、さらに好ましくは18nm以上200nm以下、特に好ましくは20nm以上100nm以下である。第2中間層は、剥離層15との剥離強度を所望の値に制御する点から、Cuで構成される層であるのが好ましい。第2中間層の厚さは5nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上400nm以下、さらに好ましくは15nm以上300nm以下、特に好ましくは20nm以上200nm以下である。第1中間層と第2中間層との間には、別の介在層が存在していてもよく、介在層の構成材料の例としては、Ti、Cr、Mo、Mn、W及びNiからなる群から選択される少なくとも1種の金属とCuとの合金等が挙げられる。一方、中間層14が1層構成の場合には、上述した第1中間層を中間層としてそのまま採用してもよいし、第1中間層及び第2中間層を、1層の中間合金層で置き換えてもよい。この中間合金層は、Ti、Cr、Mo、Mn、W、Al及びNiからなる群から選択される少なくとも1種の金属の含有量が1.0at%以上であり、かつ、Cu含有量が30at%以上である銅合金で構成されるのが好ましい。中間合金層の厚さは5nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上400nm以下、さらに好ましくは15nm以上300nm以下、特に好ましくは20nm以上200nm以下である。なお、上述した各層の厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。中間層14を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。また、特に制限されるものではないが、中間層14の成膜後に大気に暴露される場合、それに起因して混入する酸素の存在は許容される。中間層14は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、金属ターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により形成された層であるのが膜厚分布の均一性を具備できる点で特に好ましい。
【0044】
剥離層15は、キャリア12、及び存在する場合には中間層14の剥離を可能ないし容易とする層である。剥離層15は、有機剥離層及び無機剥離層のいずれであってもよい。有機剥離層に用いられる有機成分の例としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸等が挙げられる。窒素含有有機化合物の例としては、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。一方、無機剥離層に用いられる無機成分の例としては、Cu、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni、In、Sn、Zn、Ga、Moの少なくとも一種類以上を含む金属酸化物若しくは金属酸窒化物、又は炭素等が挙げられる。これらの中でも、剥離層15は主として炭素を含んでなる層であるのが剥離容易性や膜形成性の点等から好ましく、より好ましくは主として炭素又は炭化水素からなる層であり、さらに好ましくは硬質炭素膜であるアモルファスカーボンからなる層である。この場合、剥離層15(すなわち炭素含有層)はXPSにより測定される炭素濃度が60原子%以上であるのが好ましく、より好ましくは70原子%以上、さらに好ましくは80原子%以上、特に好ましくは85原子%以上である。炭素濃度の上限値は特に限定されず100原子%であってもよいが、98原子%以下が現実的である。剥離層15は不可避不純物(例えば雰囲気等の周囲環境に由来する酸素、炭素、水素等)を含みうる。また、剥離層15には後に積層される金属層16等の成膜手法に起因して、剥離層15として含有された金属以外の種類の金属原子が混入しうる。剥離層15として炭素含有層を用いた場合にはキャリアとの相互拡散性及び反応性が小さく、300℃を超える温度でのプレス加工等を受けても、金属層と接合界面との間での高温加熱による金属結合の形成を防止して、キャリアの引き剥がし除去が容易な状態を維持することができる。剥離層15はスパッタリング等の気相法により形成された層であるのが剥離層15中の過度な不純物を抑制する点、他の層の連続生産性の点などから好ましい。剥離層15として炭素含有層を用いた場合の厚さは1nm以上20nm以下が好ましく、より好ましくは1nm以上10nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0045】
剥離層15は、金属酸化物層及び炭素含有層のそれぞれの層を含むか、又は金属酸化物及び炭素の双方を含む層であってもよい。特に、キャリア付金属箔18が中間層14を含む場合、炭素含有層がキャリア12の安定的な剥離に寄与するとともに、金属酸化物層が中間層14及び金属層16に由来する金属元素の加熱に伴う拡散を抑制することができ、結果として例えば350℃以上もの高温で加熱された後においても、安定した剥離性を保持することが可能となる。金属酸化物層はCu、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni、In、Sn、Zn、Ga、Mo及びそれらの組合せで構成される金属の酸化物を含む層であるのが好ましい。金属酸化物層は金属ターゲットを用い、酸化性雰囲気下でスパッタリングを行う反応性スパッタリング法により形成された層であるのが、成膜時間の調整によって膜厚を容易に制御可能な点から特に好ましい。金属酸化物層の厚さは0.1nm以上100nm以下であるのが好ましい。金属酸化物層の厚さの上限値としては、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは30nm以下、特に好ましくは10nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。このとき、剥離層15として金属酸化物層及び炭素層が積層される順は特に限定されない。また、剥離層15は、金属酸化物層及び炭素含有層の境界が明瞭には特定されない混相(すなわち金属酸化物及び炭素の双方を含む層)の状態で存在していてもよい。
【0046】
同様に、高温での熱処理後においても安定した剥離性を保持する観点から、剥離層15は、金属層16に隣接する側の面がフッ化処理面及び/又は窒化処理面である金属含有層であってもよい。金属含有層にはフッ素の含有量及び窒素の含有量の和が1.0原子%以上である領域(以下、「(F+N)領域」と称する)が10nm以上の厚さにわたって存在するのが好ましく、(F+N)領域は金属含有層の金属層16側に存在するのが好ましい。(F+N)領域の厚さ(SiO換算)は、XPSを用いてキャリア付金属箔18の深さ方向元素分析を行うことにより特定される値とする。フッ化処理面ないし窒化処理面は、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive ion etching)、又は反応性スパッタリング法により好ましく形成することができる。一方、金属含有層に含まれる金属元素は、負の標準電極電位を有するのが好ましい。金属含有層に含まれる金属元素の好ましい例としては、Cu、Ag、Sn、Zn、Ti、Al、Nb、Zr、W、Ta、Mo及びそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)が挙げられる。金属含有層における金属元素の含有率は50原子%以上100原子%以下であることが好ましい。金属含有層は1層から構成される単層であってもよく、2層以上から構成される多層であってもよい。金属含有層全体の厚さは、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以上500nm以下、さらに好ましくは50nm以上400nm以下、特に好ましくは100nm以上300nm以下である。金属含有層自体の厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0047】
あるいは、剥離層15は、炭素層等に代えて、金属酸窒化物含有層であってもよい。金属酸窒化物含有層のキャリア12と反対側(すなわち金属層16側)の表面は、TaON 、NiON、TiON、NiWON及びMoONからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸窒化物を含むのが好ましい。また、キャリア12と金属層16との密着性を確保する点から、金属酸窒化物含有層のキャリア12側の表面は、Cu、Ti、Ta、Cr、Ni、Al、Mo、Zn、W、TiN及びTaNからなる群から選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。こうすることで、金属層16表面の異物粒子数を抑制して回路形成性を向上し、かつ、高温で長時間加熱された後においても、安定した剥離強度を保持することが可能となる。金属酸窒化物含有層の厚さは5nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上400nm以下、さらに好ましくは20nm以上200nm以下、特に好ましくは30nm以上100nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0048】
金属層16は金属で構成される層である。金属層16は、1層構成であってもよいし、2層以上の構成であってもよい。金属層16が2層以上の層で構成される場合には、金属層16は、剥離層15のキャリア12と反対の面側に、第1金属層から第m金属層(mは2以上の整数)までの各金属層が順に積層した構成とすることができる。金属層16全体の厚さは1nm以上2000nm以下であることが好ましく、好ましくは100nm以上1500nm以下、より好ましくは200nm以上1000nm以下、さらに好ましくは300nm以上800nm以下、特に好ましくは350nm以上500nm以下である。金属層16の厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。以下、金属層16が第1金属層及び第2金属層の2層で構成される例について説明する。
【0049】
第1金属層は、キャリア付金属箔18に対してエッチングストッパー機能や反射防止機能等の所望の機能を付与するものであることが好ましい。第1金属層を構成する金属の好ましい例としては、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni、Mo及びそれらの組合せが挙げられ、より好ましくはTi、Zr、Al、Cr、W、Ni、Mo及びそれらの組合せ、さらに好ましくはTi、Al、Cr、Ni、Mo及びそれらの組合せ、特に好ましくはTi、Mo及びそれらの組合せである。これらの元素は、フラッシュエッチング液(例えば銅フラッシュエッチング液)に対して溶解しないという性質を有し、その結果、フラッシュエッチング液に対して優れた耐薬品性を呈することができる。したがって、第1金属層は、後述する第2金属層よりもフラッシュエッチング液によってエッチングされにくい層となり、それ故エッチングストッパー層として機能しうる。また、第1金属層を構成する上述の金属は光の反射を防止する機能も有するため、第1金属層は、画像検査(例えば自動画像検査(AOI))において視認性を向上させるための反射防止層としても機能しうる。第1金属層は、純金属であってもよいし、合金であってもよい。第1金属層を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。また、上記金属の含有率の上限は特に限定されず、100原子%であってもよい。第1金属層は物理気相堆積(PVD)法により形成された層であるのが好ましく、より好ましくはスパッタリングにより形成された層である。第1金属層の厚さは、1nm以上500nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以上400nm以下、さらに好ましくは30nm以上300nm以下、特に好ましくは50nm以上200nm以下である。
【0050】
第2金属層を構成する金属の好ましい例としては、第4族、第5族、第6族、第9族、第10族及び第11族の遷移元素、Al、並びにそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)が挙げられ、より好ましくは第4族及び第11族の遷移元素、Al、Nb、Co、Ni、Mo、並びにそれらの組合せ、さらに好ましくは第11族の遷移元素、Ti、Al、Mo、及びそれらの組合せ、特に好ましくはCu、Ti、Mo、及びそれらの組合せ、最も好ましくはCuである。第2金属層は、いかなる方法で製造されたものでよく、例えば、無電解金属めっき法及び電解金属めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び真空蒸着等の物理気相堆積(PVD)法、化学気相成膜、又はそれらの組合せにより形成した金属箔であってよい。特に好ましい第2金属層は、極薄化によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、スパッタリング法や真空蒸着等の物理気相堆積(PVD)法により形成された金属層であり、最も好ましくはスパッタリング法により製造された金属層である。また、第2金属層は、無粗化の金属層であるのが好ましいが、配線パターン形成に支障を来さないかぎり予備的粗化やソフトエッチング処理や洗浄処理、酸化還元処理により二次的な粗化が生じたものであってもよい。ファインピッチ化に対応する観点から、第2金属層の厚さは10nm以上1000nm以下であることが好ましく、より好ましくは20nm以上900nm以下、さらに好ましくは30nm以上700nm以下、さらにより好ましくは50nm以上600nm以下、特に好ましくは70nm以上500nm以下、最も好ましくは100nm以上400nm以下である。このような範囲内の厚さの金属層はスパッタリング法により製造されるのが成膜厚さの面内均一性や、シート状やロール状での生産性の観点で好ましい。
【0051】
金属層16が1層構成の場合には、上述した第2金属層を金属層16としてそのまま採用することが好ましい。一方、金属層16がn層(nは3以上の整数)構成である場合には、金属層16の第1金属層から第(n-1)金属層までを上述した第1金属層の構成とすることが好ましく、金属層16の最外層、すなわち第n金属層を上述した第2金属層の構成とすることが好ましい。
【0052】
金属層16、所望により中間層14、及び所望により剥離層15(すなわち少なくとも金属層16、例えば金属層16及び中間層14)が、キャリア12の端面にまで延出することにより、当該端面が被覆されるのが好ましい。すなわち、キャリア12の表面のみならず端面も少なくとも金属層16で被覆されていることが好ましい。端面も被覆することで、配線基板の製造工程におけるキャリア12への薬液の浸入を防止することができる他、キャリア付金属箔18又は積層シート10をハンドリングする際の側端部における剥離によるチッピング、すなわち剥離層15上の皮膜(すなわち金属層16)の欠けを強固に防止させることができる。キャリア12の端面における被覆領域は、キャリア12の表面から厚さ方向(すなわちキャリア表面に対して垂直な方向)に向かって、好ましくは0.1mm以上の領域、より好ましくは0.2mm以上の領域、さらに好ましくはキャリア12の端面全域にわたるものとする。

図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B