(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】ノナナールの測定方法及びノナナール検知素子
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20230118BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20230118BHJP
G01N 21/77 20060101ALI20230118BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20230118BHJP
【FI】
G01N31/00 V
G01N31/22 121A
G01N31/22 122
G01N21/77 A
G01N21/78 Z
(21)【出願番号】P 2018217322
(22)【出願日】2018-11-20
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】597124316
【氏名又は名称】学校法人東北工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【氏名又は名称】林 恒徳
(74)【代理人】
【識別番号】100106356
【氏名又は名称】松枝 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 容子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 捺美
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-154014(JP,A)
【文献】特開2008-224590(JP,A)
【文献】特開2005-003673(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0073604(US,A1)
【文献】米国特許第04753891(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00 -31/22
G01N 21/75 -21/83
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の気体に含まれるノナナールの測定方法であって、
パラローズアニリン誘導体が溶解したpH1~4の溶液を調整する第一のステップと、
ガラスからなる多孔体の孔内に前記溶液を含浸させて作製される検知素子の測定対象の気体への暴露前の光透過率を測定する第二のステップと、
前記検知素子を測定対象の気体に暴露させ、その後当該暴露させた前記検知素子の光透過率を測定する第三のステップと、
暴露後の前記検知素子を清浄気体中に所定時間静置し、その後当該静置された前記検知素子の光透過率を測定する第四のステップとを備えることを特徴とするノナナールの測定方法。
【請求項2】
前記第二のステップ、前記第三のステップ及び前記第四のステップで測定された各光透過率の比較に基づいて、測定対象の気体中のノナナールを選択的に測定することを特徴とする請求項1に記載のノナナールの測定方法。
【請求項3】
塩酸を用いてpH1~4の前記溶液を調整することを特徴とする請求項1に記載のノナナールの測定方法。
【請求項4】
酢酸を用いてpH1~4の前記溶液を調整することを特徴とする請求項1に記載のノナナールの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体状態のノナナールの測定方法及びノナナール検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ノナナールは香料などに用いられる揮発性有機化合物の一種で、アルデヒド類の中でも分子量の比較的大きい物質である。室内環境で測定されることもありシックハウス症候群と無関係であるとはいえない。また近年肺がん患者の呼気にノナナールが健常者より多く含まれていることが明らかになってきている。
【0003】
このため、簡単に気体中の揮発性有機化合物の濃度を検出する様々なセンサや検知管や検知素子が提案されている。例えば、半導体を用いて揮発性有機化合物の濃度を検出する小型のガスセンサが販売されている(非特許文献1参照)。しかしながらこのセンサでは、揮発性有機化合物の特定を行うことはできない。
【0004】
また、揮発性有機化合物の中のアルデヒド類は、シッフ試薬を用いて検出する技術がある(特許文献1,2,3参照)。特許文献1にはゲル状組成物でパラローズアニリン塩酸塩とスルホン酸を用いてホルムアルデヒドが検出可能なことが記載されている。また、特許文献2には多孔体に塩基性フクシンからなるシッフ試薬と硫酸やリン酸を用いてホルムアルデヒドが検出可能なことが記載されている。また、特許文献3には塩基性フクシンからなるシッフ試薬と硫酸やリン酸を用いて、溶液中や多孔体を用いてプロピオンアルデヒド、ノナナール、ベンズアルデヒドが検出可能なことが記載されている。しかしながら、これらの測定技術ではホルムアルデヒドなどの比較的低分子のアルデヒド類とノナナールとの混合気体の場合、両方のアルデヒドを測定することになりノナナールの選択的な測定を行うためには複雑なスペクトル解析が必要となり、感度よく簡便に測定することが出来ない。
【0005】
また、揮発性有機化合物の簡易測定には検知管を用いる方法が知られているが、検知管を用いる方法ではノナナールの測定に対する検知管が存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-003673号公報
【文献】特開2008-224590号公報
【文献】特開2011-154014号公報
【文献】特許第3639123号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】https://www.new-cosmos.co.jp/product/?fb=b90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上に説明したように、関連する技術では、例えば環境中に存在する複数のアルデヒド、特に環境中に存在する可能性が大きいホルムアルデヒドやアセトアルデヒドを含み、加えてノナナールを含む気体中のノナナールを選択性良く、簡便に測定を行うことが出来ないという問題があった。
【0009】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、ノナナールの測定を選択性良く簡便に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の測定方法は、測定対象の気体に含まれるノナナールの測定方法であって、パラローズアニリン誘導体が溶解したpH1~4の溶液を調整する第一のステップと、ガラスからなる多孔体の孔内に前記溶液を含浸させて作製される検知素子の測定対象の気体への暴露前の光透過率を測定する第二のステップと、前記検知素子を測定対象の気体に暴露させ、その後当該暴露させた前記検知素子の光透過率を測定する第三のステップと、暴露後の前記検知素子を清浄気体中に所定時間静置し、その後当該静置された前記検知素子の光透過率を測定する第四のステップとを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明のノナナール検知素子は、ガラスからなる多孔体に、パラローズアニリン誘導体が溶解したpH1~4の溶液を含浸させて作製されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多孔体内にパラローズアニリン誘導体が溶解したpH1~4の溶液を含浸させて作製される検知素子(ノナナール検知素子)の測定対象の気体への暴露及び清浄気体中への静置による呈色(吸収スペクトル)変化の状態により、ノナナールの選択的測定を行うようにしたので、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等複数のアルデヒド類が混合した気体中でもノナナールの測定が簡便に行えるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態におけるアルデヒド類の測定方法を説明するための工程図である。
【
図2】本発明の実施の形態1における吸光度の測定結果を示す特性図である。
【
図3】本発明の実施の形態1における吸光度の測定結果を示す特性図である。
【
図4】本発明の実施の形態1における吸光度の測定結果を示す特性図である。
【
図5】本発明の実施の形態2における吸光度の測定結果を示す特性図である。
【
図6】本発明の実施の形態2における吸光度の測定結果を示す特性図である。
【
図7】本発明の比較例1における吸光度の時間変化の結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0015】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。以下では、本実施の形態1における検知素子の作製とともに、ノナナールの測定方法について説明する。
【0016】
まず、検知素子の作製について説明すると、
図1(a)に示すように、パラローズアニリン誘導体であるパラローズアニリン塩酸塩を熱水に溶解させ、これを冷却した後、塩酸、無水亜硫酸ナトリウムを加えた溶液からなる検知溶液101を容器102中に作製する。この検知溶液のpHは3±0.5である(第一ステップ)。塩酸により検知溶液のpH領域は1以上4以下(1~4)の範囲となるように調整される。無水亜硫酸ナトリウムは、パラローズアニリン塩酸塩を無色にする作用を有する。次に、
図1(b)に示すように、検知溶液101に、平均孔径4nmの多孔質ガラスである多孔体103を浸漬する。多孔体103は、例えば8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。なお、多孔体103は平均孔径が20nm以下であるとよい。また、ここでは多孔体を板状としたが、これに限るものではなく、ファイバ状に形成してもよい。
【0017】
多孔体103をガラス(硼珪酸ガラス)から構成した場合、この平均孔径を20nm以下とすることで、可視UV波長領域での透過スペクトルの測定において、可視領域(400~800nm)では光が透過する。しかし、平均孔径が20nmを越えて大きくなると、可視領域で急激な透過率の減少が観測されることが判明している(特許文献4参照)。このことにより、多孔体は平均孔径が20nm以下とした方が良い。なお、本実施の形態における多孔体103の比表面積は1g当たり100m2以上である。
【0018】
上述した多孔体103を検知溶液101に24時間浸漬し、多孔体103の孔内に検知溶液を含浸させた後、検知溶液が含浸した多孔体を風乾し、
図1(c)に示すように、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、検知素子103aを作製する。従って、検知素子103aにはパラローズアニリン塩酸塩を含む検知剤が導入され、検知素子103aの多孔質の孔内にpH3±0.5の当該検知剤が担持されているものとなる。
【0019】
次に、検知素子103aを用いたノナナールの測定方法について説明する。
【0020】
まず検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して、吸光度を求める(第二ステップ)。次に
図1(d)に示すように、例えば、ノナナールのガスが250ppbの濃度で存在する測定対象の気体104の中に、検知素子103aを例えば24時間暴露する。この暴露は室温の状態で行う。この後、暴露後の検知素子103aを測定対象の気体104中より取り出し、
図1(e)に示すように、暴露後の検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第三ステップ)。その後、暴露後の検知素子103aをノナナールやアルデヒド類の存在しない清浄空気中に少なくとも24時間静置し、その後、検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第四ステップ)。このようにして吸光度を求めたら、求められた吸光度のスペクトル(吸収スペクトル)及び吸光度より気体中に含まれるノナナールの定量を行う。吸収スペクトルはノナナールとの反応による生成物に固有の特徴を備え、585nmに吸収極大をもつ吸収が現れる。
【0021】
上述した吸光度の測定結果を
図2に示す。
図2に示すように、波長585nmを中心として波長およそ550~650nmの範囲において、暴露後吸収スペクトルと暴露前吸収スペクトルとの間に大きな違いがみられる。暴露後吸収スペクトルから暴露前吸収スペクトルを差し引くことで、ノナナールとの反応による生成物に固有のおよそ585nmの吸収極大が判明する。
【0022】
また、この吸収は清浄気体中に静置後も減衰せず吸光度は増加する。吸光度は70時間ほどかけて上昇し一定値を与える(上昇後減少しない)が、48時間後に一定値の90%を与えるため、48時間後の吸光度の値を用いて精度の良いノナナールの定量が可能である。
図2では、32時間静置後の吸収スペクトルを例示し、暴露後の吸収スペクトルより吸光度が上昇している状態が現れている。なお、暴露前に存在する538nmに吸収極大をもつ吸収はパラローズアニリンの吸収である。
【0023】
次に、検知素子103aを用いたホルムアルデヒドの計測について説明する。
【0024】
まず検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して、吸光度を求める(第二ステップ)。次に
図1(d)に示すように、例えば、ホルムアルデヒドのガスが150ppbの濃度で存在する測定対象の気体104の中に、検知素子103aを例えば24時間暴露する。この暴露は室温の状態で行う。この後、暴露後の検知素子103aを測定対象の気体104中より取り出し、
図1(e)に示すように、暴露後の検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第三ステップ)。その後、暴露後の検知素子103aをアルデヒド類の存在しない清浄空気中に少なくとも1時間(好ましくは5時間程度)静置し、その後、検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第四ステップ)。このようにして吸光度を求めたら、求められた吸光度のスペクトル(吸収スペクトル)及び吸光度よりノナナールとの比較を行う。
【0025】
上述した吸光度の測定結果を
図3に示す。暴露後吸収スペクトルから暴露前吸収スペクトルを差し引くことで、ホルムアルデヒドとの反応による生成物に固有のおよそ585nmの吸収極大が判明する。すなわち、暴露直後の吸光度のスペクトルには、ホルムアルデヒドとの反応による生成物に固有の特徴を備え585nmに吸収極大をもつ吸収が現れる。しかし、この吸収は清浄気体中に1時間静置後には減衰し、585nmでは暴露前の吸光度と同様となる。
図3では、1時間静置後の吸収スペクトルを例示し、585nm周辺では、暴露前の吸収スペクトルと同様の吸光度に戻っている状態が現れている。なお、暴露前に存在する538nmに吸収極大をもつ吸収はパラローズアニリンの吸収である。
【0026】
ホルムアルデヒドの場合、585nmに吸収の現れるホルムアルデヒドとの反応による生成物の吸収は暴露直後には確認できるが、清浄空気中に静置後は確認できないものとなっている。これはホルムアルデヒドとパラローズアニリンの反応は可逆的であり、ホルムアルデヒドが存在する空気に触れているときは両者の反応による生成物が生成しているが、ホルムアルデヒドを含まない清浄空気に触れると生成物が反応物に戻っていると考えられる。なお
図3において暴露前と1時間静置後の吸光度が若干異なるのは含有水分量の違いと考えられる。従って、ホルムアルデヒドとノナナールが混合している気体中のノナナールを測定しようとする場合、検知素子を暴露後に所定時間静置することで、ノナナールとの反応による生成物はその状態のまま安定であるが、ホルムアルデヒドとの反応による生成物は不安定であり、より選択性良くノナナールの計測が可能となる。
【0027】
次に、検知素子103aを用いたアセトアルデヒドの計測について説明する。
【0028】
まず検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して、吸光度を求める(第二ステップ)。次に
図1(d)に示すように、例えば、アセトアルデヒドのガスが150ppbの濃度で存在する測定対象の気体104の中に、検知素子103aを例えば24時間暴露する。この暴露は室温の状態で行う。この後、暴露後の検知素子103aを測定対象の気体104中より取り出し、
図1(e)に示すように、暴露後の検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第三ステップ)。その後、暴露後の検知素子103aをアルデヒド類の存在しない清浄空気中に1時間静置し、その後、検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第四ステップ)。このようにして吸光度を求めたら、求められた吸光度のスペクトル及び吸光度よりノナナールとの比較を行う。
【0029】
上述した吸光度の測定結果を
図4に示す。
図4に示すように、暴露直後の吸光度のスペクトルは暴露前と変わらず新しい吸収は現れなかった。アルデヒド類とシッフ試薬の反応においてpHは重要な因子となっており、アセトアルデヒドの場合、反応生成物ができにくいpH領域にあったと考えられる。従って、アセトアルデヒドとノナナールが混合している気体中のノナナールを測定しようとする場合、多孔質ガラス中の検知溶液では、ノナナールとのみ反応が起こり、生成物はその状態のまま安定であるが、アセトアルデヒドとの反応は起こらないため、より選択性良くノナナールの計測が可能となる。
【0030】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。以下では、本実施の形態2における検知素子の作製とともに、ノナナールの測定方法について説明する。
【0031】
まず、検知素子の作製について説明すると、
図1(a)に示すように、パラローズアニリン誘導体であるパラローズアニリン塩酸塩を熱水に溶解させ、これを冷却した後、塩酸、無水亜硫酸ナトリウム、及び酢酸を加えた溶液からなる検知溶液101を容器102中に作製する。この溶液のpHは2±0.5である(第一ステップ)。塩酸及び酢酸により検知溶液のpH領域は1以上4以下(1~4)の範囲となるように調整される。無水亜硫酸ナトリウムは、パラローズアニリン塩酸塩を無色にする作用を有する。次に、
図1(b)に示すように、検知溶液101に、平均孔径4nmの多孔質ガラスである多孔体103を浸漬する。多孔体103は、例えば8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。なお、多孔体103は平均孔径が20nm以下であるとよい。また、ここでは多孔体を板状としたが、これに限るものではなく、ファイバ状に形成してもよい。
【0032】
多孔体103をガラス(硼珪酸ガラス)から構成した場合、この平均孔径を20nm以下とすることで、可視UV波長領域での透過スペクトルの測定において、可視領域(400~800nm)では光が透過する。しかし、平均孔径が20nmを越えて大きくなると、可視領域で急激な透過率の減少が観測されることが判明している(特許文献4参照)。このことにより、多孔体は平均孔径が20nm以下とした方が良い。なお、本実施の形態における多孔体103の比表面積は1g当たり100m2以上である。
【0033】
上述した多孔体103を検知溶液101に24時間浸漬し、多孔体103の孔内に検知溶液を含浸させた後、検知溶液が含浸した多孔体を風乾し、
図1(c)に示すように、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、検知素子103aを作製する。従って、検知素子103aにはパラローズアニリン塩酸塩を含む検知剤が導入され、検知素子103aの多孔質の孔内にpH2±0.5の当該検知剤が担持されているものとなる。
【0034】
次に、検知素子103aを用いたノナナールの測定方法について説明する。
【0035】
まず検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して、吸光度を求める(第二ステップ)。次に
図1(d)に示すように、例えば、ノナナールのガスが250ppbの濃度で存在する測定対象の気体104の中に、検知素子103aを例えば24時間暴露する。この暴露は室温の状態で行う。この後、暴露後の検知素子103aを測定対象の気体104中より取り出し、
図1(e)に示すように、暴露後の検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第三ステップ)。その後、暴露後の検知素子103aをノナナールやアルデヒド類の存在しない清浄空気中に24時間静置し、その後、検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第四ステップ)。このようにして吸光度を求めたら、求められた吸光度のスペクトル及び吸光度より気体中に含まれるノナナールの定量を行う。吸光度のスペクトルはノナナールに固有の特徴を備え585nmに吸収極大をもつ吸収が現れる。
【0036】
上述した吸光度の測定結果を
図5に示す。
図5に示すように、波長585nmを中心として波長およそ550~650nmの範囲において、暴露後吸収スペクトルと暴露前吸収スペクトルとの間に大きな違いがみられる。暴露後吸収スペクトルから暴露前吸収スペクトルを差し引くことで、ノナナールとの反応による生成物に固有のおよそ585nmの吸収極大が判明する。
【0037】
また、この吸収は清浄気体中に静置後も減衰せず吸光度は増加する。吸光度は70時間ほどかけて上昇し一定値(上昇後減少しない)を与えるが、48時間後に一定値の90%を与えるため、48時間後の吸光度の値を用いて精度の良いノナナールの定量が可能である。
図5では、45時間静置後の吸収スペクトルを例示し、暴露後の吸収スペクトルより吸光度が上昇している状態が表されている。なお暴露前に存在する538nmに吸収極大をもつ吸収はパラローズアニリンの吸収である。
【0038】
次に、検知素子103aを用いたホルムアルデヒドの計測について説明する。
【0039】
まず検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して、吸光度を求める(第二ステップ)。次に
図1(d)に示すように、例えば、ホルムアルデヒドのガスが150ppbの濃度で存在する測定対象の気体104の中に、検知素子103aを例えば24時間暴露する。この暴露は室温の状態で行う。この後、暴露後の検知素子103aを測定対象の気体104中より取り出し、
図1(e)に示すように、暴露後の検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第三ステップ)。その後、暴露後の検知素子103aをアルデヒド類の存在しない清浄空気中に5時間静置し、その後、検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第四ステップ)。このようにして吸光度を求めたら、求められた吸光度のスペクトル及び吸光度よりノナナールとの比較を行う。
【0040】
上述した吸光度の測定結果を
図6に示す。暴露後吸収スペクトルから暴露前吸収スペクトルを差し引くことで、ホルムアルデヒドとの反応による生成物に固有のおよそ600nmの吸収極大が判明する。すなわち、暴露直後の吸光度のスペクトルはホルムアルデヒドとの反応による生成物に固有の特徴を備え600nmに吸収極大をもつ吸収が現れる。しかし、この吸収は清浄気体中に5時間静置後に減衰し600nmでは暴露前の吸光度より少なくなり、安定しない。
図6では、5時間静置後の吸収スペクトルを例示し、600nm周辺では、暴露前の吸収スペクトルよりも吸光度が低下している状態が現れている。なお、暴露前に存在する538nmに吸収極大をもつ吸収はパラローズアニリンの吸収である。
【0041】
ホルムアルデヒドの場合、600nmに現れる生成物の吸収は暴露直後には確認できるが、清浄空気に静置後は確認できないものとなっている。これはホルムアルデヒドとパラローズアニリンの反応は可逆的であり、ホルムアルデヒドが存在する空気に触れているときは両者の反応による生成物が生成しているが、ホルムアルデヒドを含まない清浄空気に触れると生成物が反応物に戻っていると考えられる。なお、
図6において暴露前と5時間静置後の吸光度が異なるのは含有水分量の違いと考えられる。従って、ホルムアルデヒドとノナナールが混合している気体中のノナナールを測定しようとする場合、検知素子を暴露後に静置することで、ノナナールとの反応による生成物はその状態のまま安定であるが、ホルムアルデヒドとの反応の生成物は不安定であり、より選択性良くノナナールの計測が可能となる。
【0042】
次に、検知素子103aを用いたアセトアルデヒドの計測について説明する。
【0043】
まず検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して、吸光度を求める(第二ステップ)。次に
図1(d)に示すように、例えば、アセトアルデヒドのガスが150ppbの濃度で存在する測定対象の気体104の中に、検知素子103aを例えば24時間暴露する。この暴露は室温の状態で行う。この後、暴露後の検知素子103aを測定対象の気体104中より取り出し、
図1(e)に示すように、暴露後の検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第三ステップ)。その後、暴露後の検知素子103aをアルデヒド類の存在しない清浄空気中に1時間静置し、その後、検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第四ステップ)。このようにして吸光度を求めたら、求められた吸光度のスペクトル及び吸光度よりノナナールとの比較を行う。暴露直後の吸光度のスペクトルは暴露前と変わらず新しい吸収は現れなかった。アルデヒド類とシッフ試薬の反応においてpHは重要な因子となっており、アセトアルデヒドの場合、反応生成物ができにくいpH領域にあったと考えられる。従って、アセトアルデヒドとノナナールが混合している気体中のノナナールを測定しようとする場合、多孔質ガラス中の検知溶液では、ノナナールとのみ反応が起こり、生成物はその状態のまま安定であるが、アセトアルデヒドとの反応は起こらないため、より選択性良くノナナールの計測が可能となる。
【0044】
このように、パラローズアニリン誘導体が溶解したpH1~4の溶液に多孔質ガラスを含浸し乾燥して作製した検知素子を作製し、暴露前の吸光度(第一の吸収スペクトル)を測定する。その後、測定対象の気体に暴露し、暴露後の吸光度(第二の吸収スペクトル)を測定する。その後暴露後の検知素子を、1時間から48時間清浄気体中に静置し、その静置後の吸光度(第三の吸収スペクトル)を測定する。第一から第三の吸収スペクトルを比較することでノナナールが高選択で簡便に測定できる。
【0045】
[比較例1]
次に、本発明の比較例1について説明する。以下では、本比較例1における検知素子の作製とともに、ホルムアルデヒド暴露時の結果について説明する。
【0046】
まず、検知素子の作製について説明すると、
図1(a)に示すように、パラローズアニリン誘導体であるパラローズアニリン塩酸塩を熱水に溶解させ、これを冷却した後、塩酸、無水亜硫酸ナトリウム及びリン酸を加えた溶液からなる検知溶液101を容器102中に作製する。この溶液のpHは0.5±0.5(pH領域は1未満)である(第一ステップ)。次に、
図1(b)に示すように、検知溶液101に、平均孔径4nmの多孔質ガラスである多孔体103を浸漬する。多孔体103は、例えば8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。
【0047】
上述した多孔体103を検知溶液101に24時間浸漬し、多孔体103の孔内に検知溶液を含浸させた後、検知溶液が含浸した多孔体を風乾し、
図1(c)に示すように、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、検知素子103aを作製する。従って、検知素子103aにはパラローズアニリン塩酸塩を含む検知剤が導入され、検知素子103aの多孔質の孔内にpH1未満の当該検知剤が担持されているものとなる。
【0048】
次に、検知素子103aを用いたノナナールの測定方法について説明する。
【0049】
まず検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して、吸光度を求める(第二ステップ)。次に
図1(d)に示すように、例えば、ノナナールのガスが250ppbの濃度で存在する測定対象の気体104の中に、検知素子103aを例えば24時間暴露する。この暴露は室温の状態で行う。この後、暴露後の検知素子103aを測定対象の気体104中より取り出し、
図1(e)に示すように、暴露後の検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第三ステップ)。その後、暴露後の検知素子103aをノナナールやアルデヒド類の存在しない清浄空気中に24時間静置し、その後、検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第四ステップ)。このようにして吸光度を求めたら、求められた吸光度のスペクトル及び吸光度より気体中に含まれるノナナールの定量を行う。吸光度のスペクトルはノナナールに固有の特徴を備え617nmに吸収極大をもつ吸収が現れる。また、この吸収は清浄気体中に静置後は70時間ほどかけて上昇しその後減少する。そのためノナナールの測定値に含まれる誤差が大きくなる。静置時間と吸光度の関係を
図7に示した。
【0050】
次に、検知素子103aを用いたホルムアルデヒドの計測について説明する。
【0051】
まず検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して、吸光度を求める(第二ステップ)。次に
図1(d)に示すように、例えば、ホルムアルデヒドのガスが150ppbの濃度で存在する測定対象の気体104の中に、検知素子103aを例えば1時間暴露する。この暴露は室温の状態で行う。この後、暴露後の検知素子103aを測定対象の気体104中より取り出し、
図1(e)に示すように、暴露後の検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第三ステップ)。その後、暴露後の検知素子103aをアルデヒド類の存在しない清浄空気中に1時間静置し、その後、検知素子103aの厚さ方向の光の透過率を測定して吸光度を求める(第四ステップ)。このようにして吸光度を求めたら、求められた静置後の吸光度のスペクトル及び吸光度よりノナナールとの比較を行う。暴露直後の吸光度のスペクトルはホルムアルデヒドに固有の特徴を備え620nmに吸収極大をもつ吸収が現れる。この吸収は清浄気体中に静置後も減衰せず存在した。よってこの検知素子を用いるとホルムアルデヒドの干渉をなくすことはできなかった。
【0052】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0053】
101:検知溶液、102:容器、103:多孔体、103a:検知素子、103b:暴露後の検知素子、104:測定対象の気体