(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】フラーレン誘導体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/266 20060101AFI20230118BHJP
C07C 22/08 20060101ALI20230118BHJP
C07C 23/46 20060101ALI20230118BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230118BHJP
【FI】
C07C17/266
C07C22/08
C07C23/46
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022558041
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2021044774
(87)【国際公開番号】W WO2022124273
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2020204606
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(73)【特許権者】
【識別番号】000005979
【氏名又は名称】三菱商事株式会社
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 威史
(72)【発明者】
【氏名】中川 千恵子
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/033973(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/033974(WO,A1)
【文献】特開2016-178130(JP,A)
【文献】国際公開第2019/182143(WO,A1)
【文献】特開2019-142775(JP,A)
【文献】特開2013-140923(JP,A)
【文献】特開2019-099570(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194630(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/266
C07C 22/08
C07C 23/46
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレン誘導体の製造方法であって、
フラーレンと下記式(2)
【化1】
(式(2)中、Xはハロゲン原子を表し、Rf
1およびRf
2は
それぞれ独立に炭素数1~4のパーフルオロアルキル基であり、Rf
1
およびRf
2
は互いに連結して環構造を形成してもよい。)
で表される化合物を塩基の存在下に反応
させて、
フラーレン骨格と、
下記一般式(1)
【化2】
(式(1)中、C
*
はそれぞれ前記フラーレン骨格を形成する互いに隣り合った炭素原子であり、Rf
1
およびRf
2
はそれぞれ独立に炭素数1~4のパーフルオロアルキル基であり、Rf
1
およびRf
2
は互いに連結して環構造を形成してもよい。)
で示される部分構造と
を有するフラーレン誘導体を製造する工程を含む、
フラーレン誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記塩基が、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属アルコキシド、ピリジン、トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセンからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
1に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウム-tert-ブトキシド、ピリジン、トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセンからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
2に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記Xがヨウ素である、請求項
1~3のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記フラーレンが、C
60、C
70、C
74、C
76、又はC
78である、請求項
1~4のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記フラーレンと前記式(2)で示される化合物を反応させる工程に、相間移動触媒が使用される、請求項
1~5のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記相間移動触媒が、18-クラウン-6-エーテル、15-クラウン-5-エーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
6に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記フラーレンと前記式(2)で示される化合物を反応させる工程が、-50℃から50℃の温度で行われる、請求項
1~7のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記フラーレンと前記式(2)で示される化合物を反応させる工程の前に、前記フラーレンを溶媒と混合する工程を有する、請求項
1~8のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項10】
前記Rf
1
およびRf
2
がトリフルオロメチル基である請求項1~9のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項11】
前記式(1)で示される部分構造が1つのフラーレン骨格に対して1つ含まれる、請求項1~10のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体、薄膜、光電変換素子、固体撮像装置およびフラーレン誘導体の製造方法に関する。
本願は、2020年12月9日に、日本に出願された特願2020-204606号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
フラーレンは、カーボンからなる閉殻構造の分子で、安定な構造、高い吸光特性及び良好な電気的特性により多様な分野で使用されている。また、近年、フラーレンに置換基が結合した多様なフラーレン誘導体も開発されている。一方、光電変換素子は、光電効果を利用して光を電気信号に変換させる素子で、光ダイオード及び光トランジスタなどを含み、固体撮像装置などの電子装置に適用され得る。そこで、光電変換素子の開発において、高い吸光特性及び良好な電気的特性を有するフラーレン又はその誘導体を使用した技術が注目されており、そのような素子の開発が課題となっている。例えば、特許文献2は、光電変換素子を開示している。
【0003】
特許文献1には、昇華性を示す、複数の分岐型アルキル鎖を有するフラーレン誘導体が開示されている。
【0004】
非特許文献1には複数のトリフルオロメチル基を有するフラーレン誘導体(60-2-1等)が記載されている。また、非特許文献1にはジフルオロメタノ構造を有するフラーレン誘導体(C60CF2)も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-99570号公報
【文献】国際公開WO2016/194630号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Brian J. Reeves et al.,Solar RRL 2019,3,1900070.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フラーレン誘導体は、五角環と芳香族環との融合環が、置換基によって置換された構造を有することによって、非置換のフラーレンと比較して、立体障害を大きくし、パイ共役系を減少させることができる。そのために、フラーレン誘導体は、非置換のフラーレンと比較して、蒸着時にフラーレンの凝集を減らして成膜特性を改善させることができ、凝集によって発生する可能性がある吸収波長領域の変形のような光学特性の変形を効果的に減らすことができる。
【0008】
しかしながら、多くのフラーレン誘導体は、蒸着するために加熱すると熱分解してしまうという課題があった。また、昇華性を示すフラーレン誘導体であっても昇華温度が高すぎたり、合成が困難であったりする、といった課題があった。
【0009】
例えば、特許文献1の合成例に挙げられているフラーレン誘導体は、昇華温度が400℃以上と比較的高く、この誘導体の分解温度に近いことから、安定的に蒸着させることが困難である。
【0010】
非特許文献1に記載のトリフルオロメチル基を有するフラーレン誘導体は、昇華温度が400℃未満と低いものの、合成のために特殊な反応装置を用いるため、大量生産には向かない。
また、非特許文献1に記載のジフルオロメタノ構造を有するフラーレン誘導体は、昇華温度が高く実用的ではない。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、特殊な合成装置を必要とせずに合成でき、熱分解しない低い温度で蒸着が可能なフラーレン誘導体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、前記フラーレン誘導体を含む光電素子、及び前記光電素子を含むイメージセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
本発明の第一の態様は、以下のフラーレン誘導体を提供する。
【0013】
[1]
フラーレン骨格と、
下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、C
*はそれぞれ前記フラーレン骨格を形成する互いに隣り合った炭素原子であり、Rf
1およびRf
2はそれぞれ独立に炭素数1~4のパーフルオロアルキル基であり、Rf
1およびRf
2は互いに連結して環構造を形成してもよい。)
で示される部分構造と、を有するフラーレン誘導体。
本発明の第一の態様のフラーレン誘導体は、以下の特徴を有することが好ましい。以下の特徴は2つ以上を組み合わせることも好ましい。
[2] 前記フラーレン骨格が、C
60、C
70、C
74、C
76、又はC
78である前
項[1]に記載のフラーレン誘導体。
[3] 前記Rf
1およびRf
2がトリフルオロメチル基である前項[1]または[2]に記載のフラーレン誘導体。
[4] 前記式(1)で示される部分構造が、1つのフラーレン骨格に対して1つ含まれる、前項[1]~[3]のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体。
[5] 前項[1]~[4]のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体を含む薄膜。
本発明の第二の態様は、以下の光電変換素子を提供する。
[6] 互いに対向する第1電極と第2電極と、
前記2つの電極の間に配置される有機層と、を有し、
前記有機層は、前項[1]~[4]のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体を含む、光電変換素子。
本発明の第三の態様は、以下の固体撮像装置を提供する。
[7] 前項[6]に記載の光電変換素子を有する固体撮像装置。
本発明の第四の態様は、以下のフラーレン誘導体の製造方法を提供する。
[8] 前項[1]~[4]のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法であって、
フラーレンと下記式(2)
【化2】
(式(2)中、Xはハロゲン原子を表し、Rf
1およびRf
2は前記式(1)で示されるものと同じである。)
で表される化合物を、塩基の存在下に反応させる工程を有する、フラーレン誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフラーレン誘導体は、特殊な反応装置を用いることなく合成でき、さらに熱分解せずに低い温度で昇華するので、蒸着方式による成膜に用いるフラーレン誘導体として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の好ましい実施形態の例についてその構成を説明する。本発明は、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、数、材料、量、形状、数値、比率、位置、構成等について、変更、付加、省略、置換、組み合わせ等が可能である。
【0016】
[フラーレン誘導体]
本実施形態のフラーレン誘導体は、フラーレン骨格に式(1)で表される部分構造を有する化合物である。なお、本実施形態において「フラーレン誘導体」とは、これらのフラーレン骨格に対して特定の基が付加した構造を有する化合物を意味し、「フラーレン骨格」とはフラーレン由来の閉殻構造を構成する炭素骨格をいう。
【化3】
(式(1)中、C
*はそれぞれフラーレン骨格を形成する互いに隣り合った炭素原子であり、Rf
1およびRf
2はそれぞれ独立に炭素数1~4のパーフルオロアルキル基であり、Rf
1およびRf
2は互いに連結して環構造を形成してもよい。)
【0017】
また本実施形態のフラーレン誘導体は、フラーレン骨格に、メタノ基を介することで、パーフルオロ基が結合した、前記式(1)の構造を有する。そのため、昇華温度が低いという特性を有し、蒸着による成膜などに好適に用いられる。
【0018】
Rf1およびRf2はそれぞれパーフルオロアルキル基であり、その炭素数は1~4である。前記炭素数は例えば、1~2や、3~4であってもよい。Rf1およびRf2の炭素数は、同じであっても、異なっていても良い。炭素数が4よりも大きいと、得られたフラーレン誘導体が加熱時に融解し、昇華しなくなる場合がある。また、Rf1およびRf2が互いに連結して、環構造を形成する場合、形成された環構造は、3~9員環となり、5~7員環であることが好ましい。例えば必要に応じて、4~8員環や、6~7員環などであっても良い。
【0019】
Rf1およびRf2の具体例としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ヘプタフルオロイソプロピル基、ノナフルオロブチル基、ノナフルオロイソブチル基、ノナフルオロ-sec-ブチル基、ノナフルオロ-tert-ブチル基などが挙げられる。原料の入手のしやすさという観点からトリフルオロメチル基が特に好ましい。また、Rf1およびRf2が互いに連結して環構造が形成される場合の具体例としては、オクタフルオロブチレン基、デカフルオロペンテン基、ドデカフルオロヘキセン基が挙げられる。
【0020】
本実施形態のフラーレン誘導体中のフラーレン骨格は任意に選択できるが、フラーレン骨格の炭素数が60~200であることが好ましい。前記炭素数は必要に応じて、60~150や、60~100や、60~90や、60~80や、60~70などであってもよい。フラーレン骨格の具体例としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96、C120、C200等が挙げられ、また中でも、C60、C70、C74、C76またはC78がより好ましく、C60またはC70であることがさらに好ましく、C60であることが特に好ましい。これは、原料となるフラーレンが、少ない炭素数の方が純度の高いものを得やすく、特にC60は他のフラーレンよりも純度の高いものを得やすいためである。
【0021】
本実施形態のフラーレン誘導体は、上記のような構造を有することにより昇華温度を低くすることができ、そのため、フラーレン誘導体を分解させずに昇華による蒸着が可能となる。前記式(1)で示される部分構造の数は、昇華温度を低くできる観点からは、1つのフラーレン骨格に対して、複数ある方がより好ましく、一方で、合成や精製の煩雑さを避ける観点からは、1つであることが好ましい。前記式(1)で示される部分構造の数は、必要に応じて、例えば、1~50や、1~30や、1~20や、1~10や、1~5や、1~3や、1~2や、1のみであってもよい。
【0022】
昇華による蒸着が可能かどうかは、簡易的には熱重量分析によって確認することができる。熱重量分析で、窒素雰囲気下において、初期重量対比で10%の重量減少が起こる温度が400℃以下であれば通常可能であり、初期重量対比50%の重量減少が起こる温度が400℃以下であればより確実に可能である。これら温度の下限は任意に選択でき、例えば200℃以上などが挙げられるが、これのみに限定されない。前記10%の重量減少が起こる温度は、例えば、400℃以下や、380℃以下や、360℃以下や、340℃以下や、320℃以下や、300℃以下や、280℃以下であってもよい。前記初期重量対比50%の重量減少が起こる温度は、例えば、400℃以下や、380℃以下や、360℃以下や、340℃以下や、320℃以下や、300℃以下や、280℃以下であってもよい。なお前記10%の重量減少が起こる温度は、前記50%の重量減少が起こる温度よりも低い。これらの温度の差は、任意に選択できるが、例えば、45~65℃や、40~60℃や、35~55℃などであってもよい。
【0023】
[フラーレン誘導体の製造方法]
本実施形態のフラーレン誘導体の製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、フラーレンと式(2)で示される化合物とを塩基の存在下に反応させ、前記式(1)で示されるフラーレン誘導体を得る。
【化4】
(式(2)中、Xはハロゲン原子を表し、Rf
1およびRf
2は前記式(1)に示されるものと同じである。)
【0024】
ここで、前記反応に用いるフラーレンとしては、任意に選択できるが、炭素数が60~200が好ましい。前記炭素数は必要に応じて、60~150や、60~100や、60~90や、60~80や、60~70などであってもよい。フラーレンの具体例としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96、C120、C200等が挙げられ、また中でも、C60、C70、C74、C76またはC78がより好ましく、C60またはC70であることがさらに好ましく、C60であることが特に好ましい。
【0025】
上記式(2)中、Xはハロゲン原子を表し、前記ハロゲン原子の例としては塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられ、反応性の観点からXはヨウ素であることが好ましい。Rf1およびRf2の好ましい例は、前記式(1)と同様である。
【0026】
また、本反応には溶媒を用いてもよく、特に限定されないが、フラーレンと前記式(2)の化合物とを溶解させるものが好ましい。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン等が挙げられる。中でも、フラーレンと前記式(2)の化合物の溶解度が高いことから、1,2-ジクロロベンゼンが好ましい。
【0027】
前記塩基は、特に限定されるものではないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどの金属炭酸塩、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウム-tert-ブトキシドなどの金属アルコキシド、ピリジン、トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセンなどの有機塩基などが挙げられ、中でも反応収率に優れる点からカリウム-tert-ブトキシドが好ましい。前記塩基は、一種類のみを用いても良く、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。前記塩基の量は任意に選択でき、例えば、式(2)で表される化合物に対して、0.01~100モル当量などが例として挙げられる。
また、塩基の溶媒への溶解性を高め、反応速度を高める目的で、相間移動触媒を用いてもよい。相間移動触媒としては例えば、18-クラウン-6-エーテルや15-クラウン-5-エーテルなどのクラウンエーテル類、ポリエチレングリコールジメチルエーテルなどのポリアルキレングリコール類が挙げられる。反応速度を高める効果が強いことからクラウンエーテル類が好ましく、15-クラウン-5-エーテルが特に好ましい。前記相間移動触媒は、一種類のみを用いても良く、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。前記塩基の量は任意に選択でき、例えば、式(2)で表される化合物に対して、0.01~500モル当量などが例として挙げられる。
【0028】
本反応の反応温度は、高い方が反応が進みやすく、低い方が反応選択性が高く目的物の収率が向上する。このような観点から反応温度は、目的に応じて選択すればよい。通常、-50℃から用いた溶媒の沸点までの間で選択することが好ましく、-20℃から50℃の間で温度を選択することがより好ましい。例えば本反応の反応温度は、必要に応じて、-50℃から-20℃や、-20℃から-5℃や、-5℃から0℃や、0℃から10℃や、10から30℃や、30℃から50℃などが、例として挙げられる。
【0029】
本反応の反応時間については、高い収率を得るには十分反応が進行するまで長時間行う方がよい。生産量を上げるには、反応速度が遅くならないうちに、短時間で1回の反応を終了し、このような反応を複数回繰り返した方がよい。このような観点から、反応時間は、目的に応じて選択すればよいが、通常、1分から120時間の間で選択されるのが好ましく、5分から24時間の間で選択されることがより好ましく、30分から12時間の間で選択されることがさらに好ましい。
【0030】
反応時の圧力については、特に限定されず、加圧しても、加圧しなくても良い。例えば、溶媒の沸点付近またはそれ以上の温度で反応させたい場合などは、加圧した状態でも反応することもできる。加圧する場合には、圧力は、例えば、常圧から10気圧の間で好ましく選択できる。加圧設備などの特殊な装置を必要とせず、コストを低く抑えることができる観点から、常圧での反応が好ましい。
フラーレンと、式(2)で示される化合物と、塩基と、溶媒を混合する順番は、任意に選択できる。例えば、フラーレンを溶剤に溶解し、その後、式(2)で示される化合物と塩基とをさらに加えて、混合しても良い。ただしこの例のみに限定されない。
【0031】
[薄膜]
本実施形態の薄膜は、前記フラーレン誘導体を含む。薄膜は、スピンコートやスリットコートなどの湿式による成膜方法や、蒸着などの乾式による成膜方法など、どのような方法で形成されても構わないが、蒸着によって形成されることが好ましい。
薄膜は、本実施形態のフラーレン誘導体のみで構成されていてもよいし、他の化合物と混合された状態で構成されていてもよい。
【0032】
本実施形態の薄膜は、フラーレン誘導体の化学結合の損傷なしにフラーレン誘導体の固有特性をそのまま維持しやすい。これによって、成膜時に凝集が発生しやすい非置換のフラーレン(例えば、C60)の薄膜に比べて、光学特性を改善することができ、さらには後述する光電変換素子や固体撮像装置の特性をも改善することができる。
【0033】
本実施形態のフラーレン誘導体を含む薄膜の吸光特性は、非置換のフラーレンを含む薄膜の光吸収特性と異なる。本実施形態のフラーレン誘導体を含む薄膜は、約400nm~500nmの可視光線の短波長領域での異常な吸光が減少する。なお前記異常な吸光は、フラーレン又はフラーレン誘導体の凝集に起因すると考えられる。例えば、本実施形態のフラーレン誘導体を含む薄膜の波長450nmでの吸光係数は、非置換のフラーレンを含む薄膜の波長450nmでの吸光係数より小さい。例えば、フラーレン誘導体を含む薄膜の波長450nmでの吸光係数は、非置換のフラーレンを含む薄膜の波長450nmでの吸光係数の約1/2以下である。
【0034】
[光電変換素子]
本実施形態の光電変換素子は、互いに対向する第1電極と第2電極と、前記2つの電極の間に配置される有機層とを有する。前記有機層は、前記式(1)で表されるフラーレン誘導体を含む。また、前記有機層は前記フラーレン誘導体の他に、他の化合物を含んでもよい。前記第1電極および前記第2電極は特に限定されず、既知の材料等が使用できる。
また、前記本実施形態の光電変換素子は、上記のような特徴を有していればその構造は特に限定されない。光電変換素子の構造としては、例えば、特許文献2などに記載の素子構造が挙げられる。
【0035】
[固体撮像装置]
本実施形態の固体撮像装置(イメージセンサ)は、前記光電変換素子を一つ以上有する。また、固体撮像装置は多様な電子装置に適用され、例えばモバイルホン、デジタルカメラなどに好ましく適用され得るが、これらに限定されるものではない。
【0036】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形あるいは変更が可能である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(合成例1)化合物1aおよび化合物1bの合成
50mLのナスフラスコ中で、C
60(216mg,0.3mmol)を1,2-ジクロロベンゼン(20mL)に溶解させ、氷浴で冷却した。これに、カリウム-tert-ブトキシド(67mg,0.6mmol)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヨードプロパン(92mg,0.33mmol)、15-クラウン-5-エーテル(264mg,1.2mmol)を加えた後、氷浴で冷却しながら攪拌し、6時間反応させた。反応は常圧で行った。反応後、反応混合物を分取HPLC(カラム:ナカライテスク社製COSMOSIL PBB(内径20mm,長さ250mm)、溶離液:トルエン)で精製し、化合物1aを含むフラクションと、化合物1bを含むフラクションとを得た。それぞれ溶媒を留去し、得られた固体をメタノールで洗浄し、乾燥することにより、化合物1a84mgおよび化合物1b40mg、それぞれを茶褐色の固体として得た。以下に、化合物1aの化学式を(C1a)、化合物1bの化学式を(C1b)、としてそれぞれ示す。なお、化合物1bは置換基が付加している位置が異なる異性体の混合物である。
【化5】
【化6】
【0039】
(合成例2)化合物2の合成
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヨードプロパンに替えて、1,1,1,3,3,4,4,4-オクタフルオロ-2-ヨードブタンを同一モル量用いた以外は、合成例1と同様に合成を行い、化合物2を茶褐色の固体として79mg得た。以下に、化合物2の化学式を(C2)として示す。
【化7】
【0040】
(合成例3)化合物3の合成
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヨードプロパンに替えて、1,1,1,2,2,3,3,5,5,6,6,7,7,7-テトラデカフルオロ-4-ヨードヘプタンを同一モル量用いた以外は、合成例1と同様に合成を行い、化合物3を茶褐色の固体として91mg得た。以下に、化合物3の化学式を(C3)として示す。
【化8】
【0041】
(合成例4)化合物4の合成
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヨードプロパンに替えて、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロ-1-ヨードシクロヘキサンを同一モル量用いた以外は、合成例1と同様に合成を行い、化合物4を茶褐色の固体として80mg得た。以下に、化合物4の化学式を(C4)として示す。
【化9】
【0042】
(合成例5)化合物5の合成
C
60に替えて、C
70を同一モル量用いた以外は合成例1と同様に合成を行い、化合物5を茶褐色の固体として68mg得た。以下に、化合物5の化学式を(C5)として示す。
【化10】
【0043】
(合成例6)化合物6の合成
非特許文献1に記載されている方法で、化合物6(C6)を得た。以下に、化合物6の化学式を(C6)として示す。
【化11】
【0044】
(合成例7)化合物7の合成
特許文献1の合成例1の方法で、化合物7(C7)を得た。以下に、化合物7の化学式を(C7)として示す。
【化12】
【0045】
(実施例1-1)
化合物1aの昇華による蒸着の可否および、昇華温度を確認するために、真空中における化合物1aの熱重量分析を実施した。試料(約5mg)を真空熱重量分析装置(アドバンス理工社製VPE-9000)にセットした。1Pa以下の真空中において、室温から1000℃まで10℃/分の速度で昇温させた。試料の重量が当初の重量に対して10%低下したときの温度をTs(℃)(-10%)、50%低下したときの温度をTs(℃)(-50%)とした。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例1-2~1-6、比較例1-1~1-4)
化合物1aに代えて、表1に記載の化合物を用いた以外は実施例1と同様に、熱重量分析を実施した。結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1より、C60のフラーレン骨格を有する実施例1-1~5と比較例1-1とを比べると、本発明のフラーレン誘導体は、比較例1-1の未置換のフラーレン(C60)よりも低い温度で昇華可能であることがわかる。また、C70のフラーレン骨格を有する実施例1-6と比較例1-4とを比べると、フラーレン骨格がC70であっても、同様な傾向がみられることが分かる。
【0049】
さらに、実施例1-1~5と比較例1-2~3とを比べると、本発明のフラーレン誘導体は、従来から昇華することが知られているフラーレン誘導体と比較して、より低い温度で昇華可能であることがわかる。
【0050】
(実施例2-1)
ガラス基板上に化合物1aを蒸着し、蒸着された薄膜の吸光特性を評価した。前記薄膜は、超音波洗浄器を用いてイソプロピルアルコール(IPA)及びアセトンで洗浄した乾燥ガラス基板上に、高真空下、0.1~1.0Å/sの速度で蒸着させることによって作製した。吸光特性は、UV-Vis分光光度計(島津製作所製UV-2400)を用いて、450nmにおける吸光係数により評価した。結果は表2に示した。
【0051】
(実施例2-2~2-6、比較例2-1~2-2)
化合物1aに代えて、表2に記載の化合物を用いた以外は実施例2-1と同様に吸光特性を評価した。結果を表2に示す。
【0052】
【0053】
表2より、本発明のフラーレン骨格がC60であるフラーレン誘導体を含む薄膜(実施例2-1~2-5)は、未置換のフラーレンC60を含む薄膜(比較例2-1)と比較して、450nmにおける吸光係数が小さいことがわかる。また、本発明のフラーレン骨格がC70であるフラーレン誘導体を含む薄膜(実施例2-6)は、未置換のフラーレンC70を含む薄膜(比較例2-2)と比較して、450nmにおける吸光係数が小さいことがわかる。このことから、本発明のフラーレン誘導体は、凝集による可視光線短波長領域において異常な吸光特性が起こらないことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
特殊な合成装置を必要とせずに合成でき、熱分解せずに低い温度で蒸着が可能なフラーレン誘導体を提供する。
本発明のフラーレン誘導体は、光電素子や固体撮像装置等に好ましく用いることができる。