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特許7212334それを必要とする対象においてNKCC1の発現を低下させるためのベクターおよび医薬組成物、ならびに関連する治療的処置方法
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  • 特許-それを必要とする対象においてNKCC1の発現を低下させるためのベクターおよび医薬組成物、ならびに関連する治療的処置方法 図1
  • 特許-それを必要とする対象においてNKCC1の発現を低下させるためのベクターおよび医薬組成物、ならびに関連する治療的処置方法 図2
  • 特許-それを必要とする対象においてNKCC1の発現を低下させるためのベクターおよび医薬組成物、ならびに関連する治療的処置方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】それを必要とする対象においてNKCC1の発現を低下させるためのベクターおよび医薬組成物、ならびに関連する治療的処置方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20230118BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230118BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230118BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230118BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230118BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20230118BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20230118BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230118BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230118BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230118BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230118BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALN20230118BHJP
【FI】
C12N15/113 Z
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/864 100Z
A61K31/713
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/18
A61P25/16
A61K48/00
A61P25/28
A61P9/12
A61K31/7105
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020505522
(86)(22)【出願日】2018-04-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 EP2018059255
(87)【国際公開番号】W WO2018189225
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】17305434.7
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591049848
【氏名又は名称】アンセルム
【氏名又は名称原語表記】INSERM
(73)【特許権者】
【識別番号】519365919
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリー-ヴァル-デソンヌ
【氏名又は名称原語表記】Universite d’Evry-Val-d’Essonne
(73)【特許権者】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(73)【特許権者】
【識別番号】510121547
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ・イスティトゥート・イタリアーノ・ディ・テクノロジャ
【氏名又は名称原語表記】FONDAZIONE ISTITUTO ITALIANO DI TECNOLOGIA
(73)【特許権者】
【識別番号】511262290
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ テレトン
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】フェデリコ・ミンゴッツィ
(72)【発明者】
【氏名】ジュゼッペ・ロンジッティ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・コンテスタビレ
(72)【発明者】
【氏名】ラウラ・カンチェッダ
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-535836(JP,A)
【文献】特表2013-517251(JP,A)
【文献】特表2008-528637(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190899(WO,A1)
【文献】特表2013-500067(JP,A)
【文献】GALKA-MARCINIAK PAULINA; ET AL,"SIRNA RELEASE FROM PRI-MIRNA SCAFFOLDS IS CONTROLLED BY THE SEQUENCE AND STRUCTURE OF RNA.",BIOCHIMICA ET BIOPHYSICA ACTA,NL,ELSEVIER,2016年02月26日,VOL:1859, NR:4,PAGE(S):639 - 649,http://dx.doi.org/10.1016/j.bbagrm.2016.02.014
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象においてNKCC1の発現を低下させる治療的処置方法での使用のための、対象においてNKCC1の発現を低下させることができる人工マイクロRNA(amiR)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターであって、amiRが、配列番号4、8、15、16、18、23、25、39、40、44、45、53、57、64、66、67、68、69、82、および88からなる群から選択される少なくとも1つの核酸配列を含むことを特徴とする、ベクター。
【請求項2】
対象が、ダウン症候群、脆弱X症候群、レット症候群、結節性硬化症、外傷性脳傷害、癲癇、自閉症、統合失調症、パーキンソン病、および高血圧からなる群から選択される疾患を患っている、請求項1に記載の使用のためのベクター。
【請求項3】
amiRが、天然miRNAに由来する5’フランキング領域と、TGCTヌクレオチドオーバーハングと、配列番号4、8、15、16、18、23、25、39、40、44、45、53、57、64、66、67、68、69、82、および88からなる群から選択されるhNKCC1に由来する5’G+短い21個のヌクレオチドのアンチセンス配列と、ループ形成配列と、hNKCC1に由来し、内部ループを作製するために2個のヌクレオチドが除去された(Δ2)短い19個のヌクレオチドのセンス配列と、CAGGオーバーハングと、天然miRNAに由来する3’フランキング領域とからなる、請求項1または2に記載の使用のためのベクター。
【請求項4】
天然miRNAに由来する5’フランキング領域が配列番号90である、請求項1から3のいずれかに記載の使用のためのベクター。
【請求項5】
ループ形成配列が配列番号91である、請求項1から4のいずれかに記載の使用のためのベクター。
【請求項6】
天然miRNAに由来する3’フランキング領域が配列番号92である、請求項1から5のいずれかに記載の使用のためのベクター。
【請求項7】
非ウイルスベクターまたはウイルスベクターである、請求項1から6のいずれかに記載の使用のためのベクター。
【請求項8】
ウイルスベクターがAAVベクターである、請求項7に記載の使用のためのベクター。
【請求項9】
神経特異的プロモーターを含む、請求項1から8のいずれかに記載の使用のためのベクター。
【請求項10】
神経特異的プロモーターが、シナプシン-1(Syn)プロモーター、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、神経細線維軽鎖遺伝子プロモーター、およびニューロン特異的vgf遺伝子プロモーターからなる群から選択される、請求項9に記載の使用のためのベクター。
【請求項11】
治療的処置方法が、ベクターを対象の海馬にデリバリーすることを含む、請求項1から10のいずれかに記載の使用のためのベクター。
【請求項12】
治療的処置方法が、静脈内注射によってベクターを対象にデリバリーすることを含む、請求項1から10のいずれかに記載の使用のためのベクター。
【請求項13】
治療的処置方法が、くも膜下腔内投与によってベクターを対象にデリバリーすることを含む、請求項1から10のいずれかに記載の使用のためのベクター。
【請求項14】
請求項1から10のいずれかに記載のベクターを含む、それを必要とする対象においてNKCC1の発現を低下させる治療的処置方法での使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それを必要とする対象においてNKCC1の発現を低下させるためのベクター、医薬組成物、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SLC12A2(NKCC1)によってコードされるNa、K、2Cl共輸送体(NKCC)は、形質膜を横切るナトリウム、カリウム、および塩素イオンの電気的中性輸送を提供する、カチオン-塩素イオン共輸送体(CCC)のサブファミリーに属する。いくつかの証拠により、NKCC1が、細胞内塩素イオン濃度の制御を通じていくつかの疾患の病因に関与していることが示されている。たとえば、最近の研究により、塩素イオン共輸送体NKCC1が、DSマウスモデルおよびダウン症候群を患っている患者の脳において過剰発現されていることが示されている(Deidda et al., 2015、WO2015091857A1)。ダウン症候群(DS)は、小児および成人における知能障害の最も頻度の高い原因である。ダウン症候群とは、ヒト21番染色体の3つ目のコピーの全部または一部の存在によって引き起こされる遺伝子障害であり、したがって21トリソミーとも呼ばれる。ダウン症候群は、ほぼ必ず、認知機能障害、記憶欠損、および学習困難によって特徴づけられている。したがって、NKCC1阻害剤(しかし利尿性のFDA認可薬でもある)ブメタニドを用いた薬理学的処置は、DSのTs65Dnマウスモデルにおいてシナプス可塑性および認知機能障害を回復させる(Deidda et al., 2015、WO2015091857A1)。しかし、いくつかのデータにより、ブメタニドを用いた生涯の処置が必要となり、したがって、望ましくない過剰な利尿(これは処置コンプライアンスを危うくする)およびいくつかの電解質の慢性的な不均衡の関連する副作用を潜在的に誘導することが示されている。さらに、ブメタニドを用いた全身処置は脳以外の臓器においてもNKCC1活性を遮断し、これは聴器毒性を引き起こし得る(Ben-Ari et al., 2016)。したがって、NKCC1活性の低下に基づいたDSの治療の観点から、これらの限界を克服する必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、それを必要とする対象においてNKCC1の発現を低下させるためのベクター、医薬組成物、および方法に関する。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、NKCC1発現を低下させるために人工マイクロRNA(amiR)の使用に基づいた、RNA干渉(RNAi)戦略を開発した。人工マイクロRNAは、天然に存在する一次(primary)マイクロRNA(pri-miRNA)足場(たとえば、マウスマイクロRNA155、GeneBank受託番号:NR_029565.1)の21~22個のヌクレオチドのアンチセンス標的化配列(いわゆるガイド鎖)を、hNKCC1に対するアンチセンス標的化配列で置き換えることによって構築する。具体的には、本発明者らは、導入遺伝子の発現を駆動するためにヒトシナプシンプロモーターを使用することによってNKCC1に対する特定のamiRのニューロン特異的発現を達成するシステムを設計した。
【0005】
したがって、第1の態様では、本発明は、それを必要とする対象においてKCC1の発現を低下させるための処置方法での使用のための、KCC1の発現を低下させることができるamiRをコードするポリヌクレオチドを含むベクターであって、amiRが、配列番号4、8、15、16、18、23、25、39、40、44、45、53、57、64、66、67、68、69、82、および88からなる群から選択される少なくとも1つの核酸配列を含むベクターに関する。
【0006】
本発明の第2の態様は、本発明によるベクターを含む、それを必要とする対象においてNKCC1の発現を低下させるための処置方法での使用のための医薬組成物に関する。
【0007】
本発明の第3の態様は、対象に、治療上有効な量の本発明によるベクターをデリバリーすることを含む、それを必要とする対象においてNKCC1の発現を低下させる方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のさらなる特長および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【0009】
本明細書中で使用される「Na-K-Cl共輸送体」を表すNKCCとは、ナトリウム、カリウム、および塩素イオンの細胞内外への能動輸送を支援するタンパク質を示す。この膜輸送タンパク質のいくつかの変種、すなわちアイソフォーム、とりわけNKCC1およびNKCC2が存在する。NKCC1はSLC12A2遺伝子(遺伝子ID6558)によってコードされており、全身にわたって広く分布しているが、脳、具体的には発達中の動物およびヒトの脳においても分布している。これは、ニューロン中の細胞内塩素イオンを増大させるように作用し、したがってGABAをより興奮性にさせる。大規模な調査により、NKCC1を遮断することで細胞内塩素イオンが低下し、したがってGABAの阻害作用が増大されることが示されている。例示的なヒト核酸およびアミノ酸配列は、それぞれNCBI参照配列NM_001046.2およびNP_001037.1によって表される。
【0010】
本明細書中で使用される用語「対象」とは、ヒトおよび動物の対象をどちらもいう。動物には、それだけには限定されないが、哺乳動物、げっ歯類、霊長類、サル(たとえば、マカク、アカゲザルマカク、またはブタオザルマカク)、イヌ科動物、ネコ科動物、ウシ科動物、ブタ、トリ(たとえばニワトリ)、マウス、ウサギ、およびラットが含まれる。一部の実施形態では、対象は典型的にはヒトを意図する。
【0011】
一部の実施形態では、対象は、ダウン症候群、脆弱X症候群、レット症候群、結節性硬化症、外傷性脳傷害、癲癇、自閉症、統合失調症、パーキンソン病、高血圧からなる群から選択される疾患を患っている。したがって、本発明のベクターは上述の疾患の処置に特に適している。
【0012】
本明細書中で使用される用語「レット症候群」とは、当分野におけるその一般的な意味を有しており、特に表出性言語および手の使用の領域において発達の逆転をもたらす、X染色体に関連した神経発達障害を指す。臨床的特長には、小さな手足および一部の場合では小頭症を含めた頭部成長速度の減速が含まれる。レット症候群は樹状突起棘の神経病理学に関連づけられており、具体的には、海馬錐体ニューロンにおける低下した樹状突起棘の密度が、レット症候群に罹患している患者において見出されている(Chapleau CA et al, Neurobiol Dis 2009, 35(2): 219-33)。
【0013】
本明細書中で使用される用語「結節性硬化症」または「ブルヌヴィーユ病」とは、当分野におけるその一般的な意味を有しており、それぞれタンパク質ハマルチンおよびツベリンをコードしており、どちらも腫瘍抑制因子として作用する2つの遺伝子、TSC1およびTSC2のいずれか一方における突然変異によって引き起こされる神経皮膚症候群を指す。結節性硬化症は、脳ならびに腎臓、心臓、眼、肺、および皮膚などの他の重要臓器における非悪性腫瘍の成長をもたらす。様々な種類の樹状異常が結節性硬化症患者において記載されている(Machado-Salas JP, Clin Neuropathol 1984, 3(2): 52-8)。
【0014】
本明細書中で使用される用語「外傷性脳傷害」または「TBI」とは、当分野におけるその一般的な意味を有しており、任意の種類の頭部への外傷、たとえば頭部への衝撃または振動によって引き起こされる、任意の微視的または巨視的な傷害、創傷、または損傷を指す。外傷性脳傷害は、外部からの物理的な力によって引き起こされる、脳への後天的な傷害であり得る。外傷性脳傷害の一般的な原因には、それだけには限定されないが、転倒(たとえば、ベッドからの転倒、浴室ですべること、階段からの転倒、梯子からの転倒、および関連する転倒)、車両関連の衝突(たとえば、車、オートバイ、または自転車に関わる衝突、およびそのような事故に関わる歩行者)、暴力(たとえば、銃創、家庭内暴力、または小児虐待(たとえば揺さぶられっ子症候群)、スポーツ傷害(たとえば、サッカー、ボクシング、フットボール、野球、ラクロス、スケートボード、ホッケー、および他の高衝撃スポーツまたは極限スポーツ中に起こるもの)、爆薬爆破および他の戦闘傷害(たとえば、貫通性創傷、榴散弾または破片による頭部への深刻な一撃、および爆破後の転倒または物体との肉体衝突からのもの)などが含まれる。TBIを診断する方法は当分野において十分に確立されている。また、外傷性脳傷害には、虚血性事象(たとえば脳卒中)、手術、放射線照射、または他の医療処置の結果生じる脳外傷も含まれ得る。
【0015】
本明細書中で使用される用語「癲癇」とは、当分野におけるその一般的な意味を有しており、再発性の非挑発性の癲癇発作によって特徴づけられた慢性神経障害を指す。これらの癲癇発作は、脳における異常、過剰、または同調的な神経活性の、一過性の徴候および/または症状である。40種を超える異なる種類の癲癇が存在し、それだけには限定されないが、小児期欠神癲癇、若年性欠神癲癇、良性ローランド癲癇、間代性発作、複雑部分発作、前頭葉癲癇、熱性痙攣、乳児痙攣、若年性ミオクローヌス癲癇、レノックス-ガストー症候群、ランドー-クレフナー症候群、ミオクローヌス発作、癲癇発作に関連するミトコンドリア障害、ラフォラ疾患、進行性ミオクローヌス癲癇、反射癲癇、およびラスムッセン症候群が含まれる。また、単純部分癲癇、複雑部分発作、全般発作、続発性全般発作、側頭葉発作、強直間代性発作、強直性発作、精神運動発作、辺縁系発作、癲癇重積症、不応性癲癇重積症または超不応性(super-refractory)癲癇重積症、腹部発作、無動発作、自律神経発作、巨大両側性ミオクローヌス、失立発作、焦点発作、笑い発作、ジャクソン型マーチ、運動発作、多焦点発作、新生児発作、夜間発作、感光性発作、感覚発作、シルヴァン発作、離脱性痙攣、および視覚反射発作を含めた、多種類の癲癇発作も存在する。
【0016】
本明細書中で使用される用語「統合失調症」とは、当分野におけるその一般的な意味を有しており、錯覚、幻覚、および患者の他人への関心が徹底的になくなることなどの、思考プロセスの機能不全によって特徴づけられた神経精神障害の群を表す。世界人口の約1パーセントが統合失調症を患っており、この障害は高い罹患率および死亡率を伴っている。
【0017】
本明細書中で使用される用語「パーキンソン病」または「PD」とは、当分野におけるその一般的な意味を有しており、黒質(緻密部)およびその黒質線条体投射のドーパミン作動性ニューロンに特に影響を与える神経変性疾患を指す。本明細書中で使用される用語「パーキンソン病」、「パーキンソン」、および「パーキンソニズム」には、特異体質パーキンソン病、脳炎後パーキンソン病、神経遮断剤によって誘導されたパーキンソニズムなどの薬物性パーキンソン病、および虚血後パーキンソニズムを含めた、状態の様々な形態が含まれることを理解されたい。
【0018】
本明細書中で使用される用語「高血圧」とは、異常に高い動脈圧が存在する状態を説明している。若年成人では、通常は拡張期血圧が90mmHgより高く、収縮期血圧が約135~140mmHgより高い場合に、高血圧状態が存在する。
【0019】
本明細書中で使用される用語「脆弱X症候群」とは、当分野におけるその一般的な意味を有しており、4000人の男子のうち約1人および8000人の女子のうち約1人に影響を与えている、最も一般的な遺伝型の精神遅滞を指す。脆弱X症候群(FXS)は、X染色体上に位置する脆弱X精神遅滞1(FMR1)遺伝子の5’非翻訳領域(5’-UTR)中のCGGトリヌクレオチド反復の拡大によって引き起こされる遺伝子障害である。突然変異により、脆弱X精神遅滞タンパク質(FRMP)の発現の低下または非存在がもたらされる。FXSに関連する主要な症状は、精神遅滞および学習障害、具体的には座る、歩く、および話すことの学習の遅れである。その結果、FXS患者は、通常は神経質または雑然とした話し方をする。さらに、FXS患者は、中央実行系、作業記憶、音韻記憶および/もしくは視覚空間的記憶の欠損、または顔の符号化の困難を有し得る。また、たとえば、多動性、常同症、不安、癲癇発作、社会的行動障害、認知遅延、昜刺激性、攻撃性、または自傷行動などの行動および感情の問題にも遭遇し得る。さらに、FXSは、幼児期早期中に斜視を含めた眼科的な問題ならびに再発性の中耳炎および副鼻腔炎も引き起こし得る。
【0020】
本明細書中で使用される用語「自閉症」とは、社会的相互作用およびコミュニケーションの障害、他の欠陥を伴う限定的および反復的な行動によって特徴づけられている、神経発生の障害のファミリーを示す。これらの徴候はすべて、子供が三歳になる前に始まる。自閉症は、神経細胞およびそのシナプスがどのように接続して組織化されるかを変えることによって、脳内での情報処理に影響を与える。これがどのように起こるかはよく理解されていない。2つの他の自閉症スペクトラム障害(ASD)は、認知発達および言語の遅延を欠くアスペルガー症候群、他の2つの障害の完全な基準が満たされていない場合に診断される非定型自閉症、および広汎性発達障害が指定されていない場合のPDD-NOSである。
【0021】
本明細書中で使用される用語「ダウン症候群」または「21トリソミー」とは、21番染色体の3つ目のコピーの全部または一部の存在によって引き起こされる染色体状態を指す。これは、典型的には認知能力および身体発育の遅延、ならびに特定の組の顔面特徴と関連している。ダウン症候群患者における認知性機能不全は、樹状分枝および複雑さの低下と共に、皮質ニューロンにおける異常な形状のスパインの数が少ないことに関連している(Martinez de Lagran, M. et al, Cereb Cortex 2012, 22(12): 2867-77)。
【0022】
本明細書中で使用される用語「処置」または「処置する」とは、疾患に罹患する危険性がある患者または疾患に罹患したと疑われる患者、および病気である患者または疾患もしくは病状を患っていると診断された患者の処置を含めた、予防的または防止的処置の両方、および治癒的または疾患改変処置を指し、臨床的再発の抑制が含まれる。処置は、障害もしくは再発性障害を防止する、治癒する、発症を遅延させる、重篤度を低下させる、または1つもしくは複数の症状を寛解させるため、あるいは、そのような処置の非存在下において予想されるものを超えて対象の生存を延長させるために、医学的障害を有する対象または最終的に障害を獲得し得る対象に投与し得る。「治療レジメン」とは、病気の処置パターン、たとえば治療中に使用する投薬パターンを意味する。治療レジメンには導入レジメンおよび維持レジメンが含まれ得る。語句「導入レジメン」または「導入期間」とは、疾患の初期処置に使用される治療レジメン(または治療レジメンの一部分)を指す。導入レジメンの全体的な目標は、処置レジメンの初期期間中に高レベルの薬物を患者に提供することである。導入レジメンでは、医師が維持レジメンで用いられると予想される用量よりも多い用量の薬物を投与すること、医師が維持レジメンで薬物を投与すると予想される頻度よりも高頻度で薬物を投与すること、または両方が含まれ得る「負荷レジメン」を(部分的にまたは全体で)用いてもよい。語句「維持レジメン」または「維持期間」とは、病気の処置中に患者の維持に使用する、たとえば患者を長期間(数カ月間または数年間)の間、寛解に保つために使用する、治療レジメン(または治療レジメンの一部分)を指す。維持レジメンは、連続的な治療(たとえば、薬物を一定間隔、たとえば、週に1回、月に1回、年に1回などで投与すること)または断続的な治療(たとえば、中断された処置、断続処置、再発での処置、または特定の事前に決定した基準[たとえば疾患徴候など]に到達した際の処置)を用い得る。
【0023】
本明細書中で使用される用語「ポリヌクレオチド」および「核酸」とは、当分野におけるその一般的な意味を有しており、DNAまたはRNA分子を指す。しかし、これらの用語は、それだけには限定されないが、4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル(fiuorouracil)、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチル-アミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルシュードウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノ-メチル-2-チオウラシル、ベータ-D-マンノシルキューオシン(queosine)、5’-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン、シュードウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、シュードウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、および2,6-ジアミノプリンなどの、DNAおよびRNAの既知の塩基類似体のうちの任意のものが含まれる配列を捕らえる。
【0024】
使用される用語「miR」、「マイクロRNA」、または「miRNA」とは、当分野におけるその一般的な意味を有しており、RNAに基づく遺伝子調節に関与している真核生物で見出された、15~30個のヌクレオチドの長さの短い非コードRNA配列を指す。
【0025】
本明細書中で使用される用語「人工miRNA」または「amiR」とは、pri-miRNA足場をコードする核酸配列、ガイド鎖をコードする核酸配列、およびパッセンジャー鎖をコードする核酸配列を指し、pri-miRNA足場は天然に存在するpri-miRNAに由来しており、少なくとも1つのフランキング配列、および少なくとも4個のヌクレオチドを含むループ形成配列を含む。天然に存在するpri-マイクロRNA足場の21~22個のヌクレオチドのガイド鎖(アンチセンス標的化配列)を置き換えることによって様々なamiR配列が構築される。
【0026】
一部の実施形態では、amiRのガイド鎖およびamiRのパッセンジャー鎖はNKCC1核酸配列と少なくとも50%の相補性を共有しているが、互いに100%相補的ではない。一部の実施形態では、ガイド鎖をコードする核酸配列およびパッセンジャー鎖をコードする核酸配列を、フランキング配列とループ形成配列との間のpri-miRNA足場内に挿入し、それにより基部を形成する。
【0027】
一部の実施形態では、amiRのガイド鎖をコードする核酸配列およびamiRのパッセンジャー鎖をコードする核酸配列は少なくとも1つの塩基対ミスマッチを有する。一部の実施形態では、ガイド鎖をコードする核酸配列およびパッセンジャー鎖をコードする核酸配列は、2個の塩基対ミスマッチ、3個の塩基対ミスマッチ、4個の塩基対ミスマッチ、5個の塩基対ミスマッチ、6個の塩基対ミスマッチ、7個の塩基対ミスマッチ、8個の塩基対ミスマッチ、9個の塩基対ミスマッチ、10個の塩基対ミスマッチ、11個の塩基対ミスマッチ、12個の塩基対ミスマッチ、13個の塩基対ミスマッチ、14個の塩基対ミスマッチ、または15個の塩基対ミスマッチを有する。一部の実施形態では、ガイド鎖をコードする核酸配列およびパッセンジャー鎖をコードする核酸配列は、10個を超えない連続した塩基対のミスマッチしか有さない。一部の実施形態では、少なくとも1つの塩基対ミスマッチはアンカー位置に位置する。一部の実施形態では、少なくとも1つの塩基対ミスマッチは基部の中心部分に位置する。
【0028】
一部の実施形態では、本発明のamiR足場は、天然miRNAに由来する5’フランキング領域(たとえばマウスmiRNA-155からのもの、配列:tggaggcttgctgaaggctgtatgct)と、TGCTヌクレオチドオーバーハングと、配列番号4、8、15、16、18、23、25、39、40、44、45、53、57、64、66、67、68、69、82、および88からなる群から選択されるhNKCC1に由来する5’G+短い21個のヌクレオチドのアンチセンス配列(ガイド鎖)と、ループ形成配列(たとえばGTTTTGGCCACTGACTGAC)と、hNKCC1に由来し、内部ループを作製するために2個のヌクレオチドが除去された(Δ2)短い19個のヌクレオチドのセンス配列(パッセンジャー鎖)と、CAGGオーバーハングと、天然miRNAに由来する3’フランキング領域(たとえばマウスmiRNA-155からのもの、配列:caggacacaaggcctgttactagcactcacatggaacaaatggccc)とからなる。そのようなコンストラクトは米国特許公開第2004/0053876号に記載されており、図1に図示される。一部の実施形態では、amiR足場は、pri-MIR-21、pri-MIR-22、pri-MIR-26a、pri-MIR-30a、pri-MIR-33、pri-MIR-122、pri-MIR-375、pri-MIR-199、pri-MIR-99、pri-MIR-194、pri-MIR-155、およびpri-MIR-451からなる群から選択されるpri-miRNAに由来する。
【0029】
本明細書中で使用される用語「ベクター」とは、当分野におけるその一般的な意味を有しており、ポリヌクレオチドの挿入または取り込みによって操作することができるプラスミド、ウイルス、または他の媒体を指す。本発明のベクターは、遺伝子操作のために、ポリヌクレオチドを細胞内に導入する/転移させるため、および挿入されたポリヌクレオチドを細胞内で転写または翻訳させるために使用する。ベクターは一般に、少なくとも細胞内での増殖のための複製起点および発現制御要素(たとえばプロモーター)を含有する。ベクター内に存在する、本明細書中に記載した発現制御要素を含めた制御要素は、妥当な転写および適切な場合は翻訳を容易にするために含める(たとえば、イントロンのためのスプライシングシグナル、mRNAのインフレーム翻訳を可能にするための遺伝子の正しい読取り枠の維持、ストップコドンなど)。
【0030】
典型的には、ベクターは非ウイルスベクターまたはウイルスベクターである。多数の適切なベクターが当業者に公知であり、市販されている。非ウイルスベクターは、典型的には、形質移入を容易にする物理化学的方法と潜在的に併せて、裸DNAのみがデリバリーされるプラスミドに基づく遺伝子デリバリー系に依存している。一部の実施形態では、ウイルスベクターは、アデノ関連ウイルス、レトロウイルス、ウシ科動物パピローマウイルス、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、ポリオーマウイルス、および感染性ウイルスである。レトロウイルスが、その遺伝子を宿主ゲノム内に組み込み、大量の外来遺伝物質を転移させ、広範囲の種および細胞型を感染させるその能力、および特殊な細胞系にパッケージングされることが理由で、遺伝子デリバリーベクターとして選択され得る。レトロウイルスベクターを構築するためには、目的遺伝子をコードする核酸をウイルスゲノム内に特定のウイルス配列の代わりに挿入して、複製欠損であるウイルスを生成する。ビリオンを生成するためには、gag、pol、および/またはenv遺伝子を含有するが、LTRおよび/またはパッケージング構成成分を含有しないパッケージング細胞系を構築する。cDNAを含有する組換えプラスミドを、レトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と共にこの細胞系内に導入(たとえばリン酸カルシウム沈殿による)した際、パッケージング配列が、組換えプラスミドのRNA転写物がウイルス粒子内にパッケージングされることを可能にし、その後、これらは培養培地中に分泌される。その後、組換えレトロウイルスを含有する培地を収集し、適宜濃縮し、遺伝子移入に使用する。レトロウイルスベクターは多様な細胞型に感染することができる。レンチウイルスは複雑なレトロウイルスであり、一般的なレトロウイルス遺伝子gag、pol、およびenvに加えて、調節的または構造的機能を有する他の遺伝子を含有する。この高度な複雑さにより、ウイルスが、潜伏感染の過程中など、その生活環を調節することを可能にする。レンチウイルスの一部の例には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV1、HIV2)およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が含まれる。レンチウイルスベクターはHIV病原性遺伝子を多重に弱毒化させることによって作製されており、たとえば、遺伝子env、vif、vpr、vpu、およびnefを欠失させて、ベクターを生物学的に安全にする。レンチウイルスベクターは当分野で公知であり、たとえば、どちらも本明細書中に参照によって組み込まれている米国特許第6,013,516号および第5,994,136号を参照されたい。一般に、ベクターは、外来核酸を取り込ませるため、選択のため、および核酸を宿主細胞内に転移させるための必須配列を保有するように構成される。目的ベクターのgag、pol、およびenv遺伝子も当分野で公知である。しがたって、関連遺伝子を選択されたベクター内にクローニングし、その後、目的標的細胞を形質転換させるために使用する。適切な宿主細胞を、パッケージング機能、すなわちgag、pol、およびenv、ならびにrevおよびtatを保有する2つ以上のベクターを用いて形質移入する、非分裂細胞を感染させることができる組換えレンチウイルスは、本明細書中に参照によって組み込まれている米国特許第5,994,136号に記載されている。一部の実施形態では、ベクターはAAVベクターである。本明細書中で使用される用語「AAV」とは、30種を超える天然に存在する利用可能なアデノ関連ウイルス、ならびに人工AAVを指す。典型的には、AAVカプシド、ITR、および本明細書中に記載の他の選択されたAAV構成成分は、それだけには限定されないが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、rh10、AAVrh64R1、AAVrh64R2、rh8、rh74、AAV-DJ、AAV2g9、既知もしくは言及したAAVのうちの任意のものの変異体/変異型またはまだ発見されていないAAVまたはその変異体/変異型もしくは混合物を含めた、任意のAAVから容易に選択し得る。AAVの様々な血清型のゲノム配列、ならびに、ネイティブ末端反復(TR)、Repタンパク質、およびVP1タンパク質を含めたカプシドサブユニットの配列は、当分野で公知である。そのような配列は、文献またはGenBankなどの公共データベース中に見出すことができる。たとえば、その開示がAAV核酸およびアミノ酸配列の教示のために本明細書中に参照によって組み込まれている、GenBank受託番号NC_002077(AAV-1)、AF063497(AAV-1)、NC_001401(AAV-2)、AF043303(AAV-2)、NC_001729(AAV-3)、NC_001829(AAV-4)、U89790(AAV-4)、NC_006152(AAV-5)、AF513851(AAV-7)、AF513852(AAV-8)、およびNC_006261(AAV-8)を参照されたい。また、たとえば、Srivistava et al. (1983) J. Virology 45:555、Chiorini et al. (1998) J. Virology 71:6823、Chiorini et al. (1999) J. Virology 73: 1309、Bantel-Schaal et al. (1999) J. Virology 73:939、Xiao et al. (1999) J. Virology 73:3994、Muramatsu et al. (1996) Virology 221:208、Shade et al.,(1986) J. Virol. 58:921、Gao et al. (2002) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 99: 11854、Moris et al. (2004) Virology 33:375-383、国際公開公報WO00/28061号、WO99/61601号、WO98/11244号、および米国特許第6,156,303号も参照されたい。本発明の組換えAAVベクターは、典型的には、5’および3’アデノ関連ウイルス逆方向末端反復(ITR)、プロモーターに作動可能に連結された目的ポリヌクレオチド(すなわち異種ポリヌクレオチド)を含む。本発明のベクターは、当分野で公知の方法を使用して生成される。手短に述べると、方法は、一般に、(a)AAVベクターを宿主細胞内に導入することと、(b)AAVベクターから欠けているウイルス機能を含むAAVヘルパーコンストラクトを宿主細胞内に導入することと、(c)ヘルパーウイルスを宿主細胞内に導入することとを含む。複製およびAAVベクターのAAVビリオン内へのパッケージングを達成するためには、AAVビリオンの複製およびパッケージングのすべての機能が存在している必要がある。宿主細胞内への導入は、標準のウイルス学的技法を同時または順次に使用して実施することができる。最後に、宿主細胞を培養してAAVビリオンを生成し、CsCl勾配またはカラムクロマトグラフィーなどの標準技法を使用して精製する。残留ヘルパーウイルスの活性は、たとえば熱不活性化などの公知の方法を使用して不活性化することができる。その後、精製したAAVビリオンは方法における使用の準備が整う。
【0031】
典型的には、本発明のベクターには、レシピエント細胞中においてコード配列の複製、転写、および翻訳を集団で提供する、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製起点、内部リボソーム進入部位(「IRES」)、エンハンサーなどを総称する「制御配列」が含まれる。選択されたコード配列が適切な宿主細胞中で複製、転写、および翻訳されることができる限りは、これらの制御配列がすべて必ず存在している必要はない。別の核酸配列は、DNA調節配列を含むヌクレオチド領域を指すためにその通常の意味で本明細書中で使用される「プロモーター」配列であり、調節配列は、RNAポリメラーゼと結合して下流(3’方向)のコード配列の転写を開始させることができる遺伝子に由来する。転写プロモーターには、「誘導性プロモーター」(プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現が分析物、補因子、調節タンパク質などによって誘導される)、「抑制プロモーター」(プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現が分析物、補因子、調節タンパク質などによって誘導される)、および「構成的プロモーター」が含まれることができる。構成的プロモーターの例には、それだけには限定されないが、レトロウイルスのラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(RSVエンハンサーと共にでもよい)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(CMVエンハンサーと共にでもよい)[たとえばBoshart et al, Cell, 41:521-530 (1985)を参照]、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、およびEF1aプロモーター[Invitrogen]が含まれる。一部の実施形態では、神経特異的プロモーターを使用する。例示的な神経特異的プロモーターには、以下のものに限定されないが、当業者に明らかとなるであろうものの中でとりわけ、シナプシン-1(Syn)プロモーター、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(Andersen et al., Cell. Mol. Neurobiol., 13:503-15 (1993))、神経細線維軽鎖遺伝子プロモーター(Piccioli et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:5611-5 (1991))、およびニューロン特異的vgf遺伝子プロモーター(Piccioli et al., Neuron, 15:373-84 (1995))が含まれる。
【0032】
一部の実施形態では、本発明のベクターは対象の海馬にデリバリーする。一部の実施形態では、本発明のベクターは静脈内注射によって対象にデリバリーする。一部の実施形態では、本発明のベクターはくも膜下腔内投与によってデリバリーする。本明細書中で使用される用語「くも膜下腔内投与」とは、脊柱管内へのベクターの投与を指す。たとえば、くも膜下腔内投与は、脊柱管の頸部中、脊柱管の胸部中、または脊柱管の腰部中への注射を含み得る。典型的には、くも膜下腔内投与は、ベクターを、脊柱管のくも膜と脳軟膜の間の領域である脊柱管のくも膜下腔(くも膜下空間)内に注射することによって行う。くも膜下(subarchnoid)空間は、骨梁(くも膜から伸びて脳軟膜内に溶け込む繊細な結合組織フィラメント)と脳脊髄液が含有される互いに連通するチャネルとからなるスポンジ状組織によって占有されている。一部の実施形態では、本発明のベクターは脳室内投与によってデリバリーする。本明細書中で使用される用語「脳室内投与」とは、対象の前脳の脳室領域内へのベクターの投与を指す。
【0033】
一部の実施形態では、有効量は治療上有効な量である。「治療上有効な量」とは、疾患を合理的な損益比で処置するために十分な量のベクターを意味する。ベクターの合計1日用量は、担当医によって正しい医学的判断の範囲内で決定されることが理解されよう。任意の特定の患者の具体的な治療上有効な用量レベルは、患者の年齢、体重、全体的な健康、性別、および食事習慣、用いた特定の化合物の投与時間、投与経路、および排泄速度、処置の継続期間、用いる具体的なポリペプチドと組み合わせてまたは同時に使用する薬物、ならびに医学分野で周知の同様の要因を含めた様々な要因に応じる。たとえば、当分野の技術内では、所望の治療効果を達成するために必要なものよりも低いレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで徐々に投薬量を増加させることは周知である。したがって、病状、対象(たとえば、その重量、代謝などによる)、処置スケジュールなどに応じて、ベクターの用量を適応させ得る。本発明の状況における好ましい有効用量は、至適な形質導入を可能にする用量である。典型的には、10~1012個のウイルスゲノム(vg)を1用量あたりマウスに投与する。典型的には、ヒトに投与するAAVベクターの用量は、1010~1014vgの範囲であり得る。
【0034】
本発明のベクターは、医薬組成物に製剤化される。これらの組成物は、ベクターに加えて、薬学的に許容される賦形剤、担体、バッファー、安定化剤、または当業者に周知の他の材料を含み得る。そのような材料は無毒性であるべきであり、活性成分(すなわち本発明のベクター)の有効性を妨害すべきではない。担体または他の材料の正確な性質は、投与経路に従って当業者によって決定され得る。医薬組成物は典型的には液状形態である。液状医薬組成物には、一般に、水、石油、動物または植物油、鉱物油または合成油などの液状担体が含まれる。生理食塩水、塩化マグネシウム、デキストロースもしくは他のサッカライド溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはポリエチレングリコールなどのグリコールを含め得る。注射用には、活性成分は、発熱物質を含まず、適切なpH、等張性、および安定性を有する水溶液の形態である。当業者は、たとえば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、乳酸リンゲル注射液などの等張媒体を使用して、適切な溶液を調製することが十分にできる。保存料、安定化剤、バッファー、抗酸化剤および/または他の添加剤を必要に応じて含め得る。遅延放出には、ベクターを、生体適合性ポリマーから形成されたマイクロカプセル中または当分野で公知の方法に従ったリポソーム担体系中などの、徐放用に製剤化された医薬組成物中に含め得る。典型的には、本発明の医薬組成物は、プレフィルドシリンジで供給される。「すぐに使用できるシリンジ」または「プレフィルドシリンジ」とは、充填された状態で供給されるシリンジであり、すなわち、投与する医薬組成物は既にシリンジ中に存在しており、投与の準備ができている。プレフィルドシリンジは、改善された利便線、手頃価格、正確さ、無菌性、および安全性など、別々に提供されるシリンジおよびバイアルと比較して多数の利点を有している。プレフィルドシリンジの使用は、より高い用量精度、医薬品をバイアルから引き出す際に起こる場合がある針刺し傷害の潜在性の低下、再構成および/または医薬品をシリンジ内から引き出すことの必要性が原因の投薬間違いを低下させる、事前に測定された投薬量、ならびに、薬物廃棄物を最小限にすることによって価格を下げることを支援する、シリンジの過剰充填の減少をもたらす。一部の実施形態では、本発明の液状医薬組成物のpHは、5.0~7.0、5.1~6.9、5.2~6.8、5.3~6.7、または5.4~6.6の範囲である。
【0035】
本発明を以下の図および実施例によってさらに例示する。しかし、これらの実施例および図は、いかなる様式でも本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、天然miRNAに由来する5’フランキング領域と、TGCTヌクレオチドオーバーハングと、hNKCC1に由来する5’G+短い21個のヌクレオチドのアンチセンス配列と、ループ形成配列と、hNKCC1に由来し、内部ループを作製するために2個のヌクレオチドが除去された(Δ2)短い19個のヌクレオチドのセンス配列と、CAGGオーバーハングと、天然miRNAに由来する3’フランキング領域とからなるamiRコンストラクトを表す。
【0037】
図2図2は、培養中のWTおよびTs65Dnニューロンにおける、対応するNKCC1タンパク質レベルのマウスNKCC1に対する、3つの異なるamiR分子のウイルス発現の効果を表す。対照amiR(破線)では、WTと比較してTs65Dnニューロンにおいてより高いマウスNKCC1の発現がWT細胞の百分率として表された。3つの異なるamiR分子のウイルス発現は、WTおよびTs65DnニューロンのどちらにおいてもマウスNKCC1タンパク質を低下させた。ヒストグラムは平均±SEMを表している。**p<0.01、***p<0.001、二方向ANOVAの後に事後チューキー試験。
【0038】
図3図3は、GABAに対して興奮性応答を示すTs65Dnマウスからの培養中の海馬ニューロンを表す。対照amiRでは、GABAの入浴塗布によってWTニューロンではスパイク頻度が減少していた一方で、Ts65Dnニューロンでは増加していた。ウイルスデリバリーによる2つの異なるamiR分子(すなわち、図2のamiR#1およびamiR#3)の投与は、スパイク頻度を低下させることによってTs65DnニューロンにおけるGABAの興奮性作用を戻した。ヒストグラムは平均±SEMを表している。**p<0.01、***p<0.001、二方向反復観測ANOVAの後に事後チューキー試験。
【0039】
図4図4は、Ts65Dnマウスの行動タスクにおける認知機能における、マウスNKCC1に対するamiRの海馬ウイルスデリバリーの効果を表す。(A)上、新規物体認識タスクの略図である。下、Ts65DnマウスはWTと比較して乏しい新規性識別を示した。2つの異なるamiR分子(すなわち、図2のamiR#1およびamiR#3)のウイルスデリバリーは、Ts65Dnマウスにおいて物体新規性識別を回復させた。(B)上、物体位置試験の略図。下、Ts65DnマウスはWTと比較して強い空間的記憶機能障害を示した。2つの異なるamiR分子のウイルスデリバリーは、Ts65Dnマウスにおいて空間的記憶を回復させた。(C)上、T字迷路自発的交替試験の略図。下、Ts65DnマウスはWTと比較して交替の低下を示した。2つの異なるamiR分子のウイルスデリバリーはTs65Dnマウスにおいて交替行動を回復させた。(D)上、文脈的恐怖条件づけ試験の略図である。下、Ts65DnマウスはWTと比較して連合記憶障害を示した。2つの異なるamiR分子のウイルスデリバリーはTs65Dnマウスにおいて文脈学習を回復させた。すべてのパネルで、ヒストグラムは平均±SEMを表しており、丸は単一動物からのデータを示している。すべてのパネルで、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、二方向ANOVAの後に事後チューキー試験である。
【0040】
図5図5は、ヒトNKCC1(hNKCC1)DNA配列(NM_001046.2)に対する様々なamiR分子のスクリーニングに使用した二重ルシフェラーゼセンサープラスミドを表す。センサープラスミドは、2つの明確に異なるプロモーターからホタルルシフェラーゼ(FLuc)およびウミシイタケルシフェラーゼ(RLuc)を発現する。hNKCC1 DNA配列は、RLucの下流かつポリアデニル化(pA)シグナルの前にクローニングされる。プラスミドを、hNKCC1に対する様々なamiR分子と共にヒトH293腎細胞中に同時形質移入した際、Rluc/Fluc比の減少はamiR対応配列のサイレンシング活性を反映する。
【0041】
図6図6は、図6の二重ルシフェラーゼhNKCC1センサープラスミドのRluc/Fluc比における、ヒトNKCC1(hNKCC1)に対する様々なamiR分子の効果を表す。対照試料をhNKCC1センサープラスミドおよび対照amiR配列で形質移入した。ヒストグラムは平均±SEMを表している。
【実施例
【0042】
実施例1:Ts65Dnニューロンでは、細胞内塩素イオン濃度が上昇しており、脱分極および場合によってはGABAの興奮性作用がもたらされる。ニューロン中のNKCC1の発現を低下させるために、本発明者らはamiRを用いたRNAi戦略を設計する。ダウン症候群の周知のマウスモデルであるTs65Dnマウスからの初代神経培養物を使用して、本発明者らは、ウイルスベクターを用いた本発明のamiR戦略がNKCC1タンパク質の発現を低下させることができることを見出した。amiRによるNKCC1タンパク質の発現の低下は、野生型(WT)ニューロンと同様にTs65DnニューロンにおけるGABAの阻害作用を回復させた。さらに、本発明者らは、Ts65Dnマウスの海馬におけるamiR分子のインビボ(in vivo)ウイルスデリバリーが、学習および記憶の4つの異なる行動試験において認知欠損を救出したことを見出した。したがって、この手法は、DSにおいて生理活性および行動性パラメータを回復させるために、インビトロ(in vitro)およびインビボにおいて効率的である。
【0043】
実施例2:表B中に報告したamiR配列はすべて、オンラインツールBLOCK-iT(商標)RNAi Designer(アルゴリズム1、表A)を使用することによって、ヒトNKCC1(hNKCC1)DNA配列(NM_001046.2)に基づいて予測される。8つの追加のアルゴリズム(アルゴリズム2~9、表Aに列挙)を使用することによって、本発明者らは、一部の事例ではアルゴリズム1を用いて得られた表B中に報告したものに対応する、いくつかの追加のRNAi配列を予測した。アルゴリズム1によって予測された配列のそれぞれ(表B)を、これらの配列±4個のヌクレオチドがアルゴリズム2~9によって予測された回数に基づいてスコアづけした。したがって、表Bに列挙した配列は、NKCC1と結合してサイレンシングする確率が最も高い。
【0044】
実施例3:表B中に報告した89個のamiR配列のうち78個の、hNKCC1に対するサイレンシング有効性を、二重ルシフェラーゼhNKCC1センサー(図6および7)を用いて評価した。ヒトH293T腎細胞を96ウェルプレート中で成長させ、Lipofectamnine2000(Thermo)を用いて、hNKCC1二重ルシフェラーゼプラスミドセンサーと共にそれぞれのamiR配列を形質移入した。48時間後、Victor3マルチプレートリーダー(PerkinElmer)上で二重ルシフェラーゼアッセイ(Promega)を用いてウミシイタケルシフェラーゼ(RLuc)とホタルルシフェラーゼ(FLuc)の間の比を測定した。それぞれの形質移入したamiR配列について、対照amiRプラスミドを形質移入した試料に関するRLuc/FLuc比の減少は、hNKCC1ノックダウンの度合を示している。平均RLuc/Fluc比(4つの独立した形質移入物から得た)として表されるHNKCC1に対する様々なamiR配列のサイレンシング活性を、対照amiRプラスミドを形質移入した試料に対するスチューデントt検定で得られた対応するP値と共に、表C中に報告する。
【0045】
実施例4:また、表B中に報告したhNKCC1に対する様々なamiR配列も、自由に利用可能なマイクロRNA予測ツールTargetScan(Agarwal et al., Elife.12: 4 (2015))を用いて予測された可能なオフターゲット遺伝子数について評価した。すべての注釈づけられたヒト遺伝子について、完全長転写物配列(コード配列+3’非翻訳領域)においてオフターゲット予測を評価した(ENSEMBLリリースGRCh38)。表Dは、amiR配列のそれぞれについて可能なオフターゲット遺伝子数を示す。このリストは可能なオフターゲット遺伝子の最低数から最高数の順であり、表Cからの対応するサイレンシング活性も報告している。したがって、表Dの上に列挙した配列が、最も低いオフターゲット確率でNKCC1をサイレンシングする活性が高い。
【0046】
【表1】


【0047】
【表2-1】



【表2-2】


【表2-3】

【0048】
【表3-1】



【表3-2】


【表3-3】

【0049】
表C中に報告したデータに基づいて、hNKCC1ノックダウンにおいてより有効なamiR配列は、配列番号4、8、15、16、18、23、25、39、40、44、45、53、57、64、66、67、68、69、82、および88である。
【0050】
【表4-1】


【表4-2】


【表4-3】

【0051】
表D中に報告したデータに基づいて、配列番号25、39、45、53、64、66、および82が、可能なオフターゲット遺伝子の最低数を示すという点で、本発明における使用に最も好ましい配列であるとして同定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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