(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】本暗渠機能回復機
(51)【国際特許分類】
E02B 11/02 20060101AFI20230118BHJP
A01B 13/10 20060101ALI20230118BHJP
【FI】
E02B11/02 Z
A01B13/10
(21)【出願番号】P 2022038883
(22)【出願日】2022-03-14
【審査請求日】2022-03-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究(センシング技術を駆使した畑作物品種の早期普及と効率的生産システムの確立)産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】594156880
【氏名又は名称】三重県
(74)【代理人】
【識別番号】100177921
【氏名又は名称】坂岡 範穗
(72)【発明者】
【氏名】川原田 直也
(72)【発明者】
【氏名】岡 浩行
(72)【発明者】
【氏名】山口 忠一
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-262702(JP,A)
【文献】特開2015-10369(JP,A)
【文献】特開昭54-141203(JP,A)
【文献】実開昭62-3836(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 11/02
A01B 13/00-13/16
A01B 15/00-15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引車に取付けられるフレームと、
前記フレームの左右両側に配置される接地基準輪と、
前記フレームから垂下される前方ナイフと、
前記前方ナイフの下部かつ既設の暗渠管の上方に設けられ、斜め下前方に向かって配置される前方チゼルと、
前記前方チゼルの上端から左右斜め上後方に向かって配置される一対の発土板と、
前記フレームのうち、前記前方ナイフの後方かつ左右両側から垂下される一対の後方ナイフと、
前記後方ナイフの下部かつ既設の暗渠管の左右両側に配置される一対の後方チゼルと、
を備えることを特徴とする本暗渠機能回復機。
【請求項2】
前記前方チゼルの左右両側に立設される一対の補助ナイフを備える請求項1に記載の本暗渠機能回復機。
【請求項3】
前記補助ナイフの前縁が、斜め下前方に傾斜されている請求項2に記載の本暗渠機能回復機。
【請求項4】
前記発土板の後縁から斜め上前方に延伸される反転板を備える請求項1ないし3のいずれか1項に記載の本暗渠機能回復機。
【請求項5】
前記後方ナイフの下部が内側かつ前方向に曲げられている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の本暗渠機能回復機。
【請求項6】
前記後方ナイフの側面に、前記前方チゼルで削りとった空間へ左右から土を押し戻すために凸状に構成される破砕体を備える請求項1ないし5のいずれか1項に記載の本暗渠機能回復機。
【請求項7】
前記破砕体が、前記後方ナイフの両側面に設けられている請求項6に記載の本暗渠機能回復機。
【請求項8】
前記後方チゼルが、前記後方チゼルの後端から斜め上後方に延伸される後方延伸部を備える請求項1ないし7のいずれか1項に記載の本暗渠機能回復機。
【請求項9】
前記後方延伸部の上面が内側方向に傾斜している請求項8に記載の本暗渠機能回復機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過去に敷設された本暗渠の排水機能を回復させる本暗渠機能回復機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特開2021-110166号公報に、下方に向かって設けられる第2アームと、前記第2アームの下端に設けられる埋設ヘッドと、を備え、前記埋設ヘッドに暗渠管を装着して本暗渠を設置する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている技術によって設置された本暗渠では、第2アームによって切断された土層の切断面から余分な水が暗渠管に導かれ、良好な排水機能を得ることができる。しかし、例えば、稲作と畑作とを繰り返すような圃場の場合、田植え前の代掻きで土層の切断面が塞がれてしまい、排水機能が損なわれることがあった。また、特許文献1とは別の技術である、暗渠管の上に疎水層を設ける本暗渠においても、疎水層の経年劣化によって排水機能が損なわれることがあった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、暗渠管の周囲の土を掘り起こし、排水機能を回復させる本暗渠機能回復機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の本暗渠機能回復機は、
牽引車に取付けられるフレームと、
前記フレームの左右両側に配置される接地基準輪と、
前記フレームから垂下される前方ナイフと、
前記前方ナイフの下部かつ既設の暗渠管の上方に設けられ、斜め下前方に向かって配置される前方チゼルと、
前記前方チゼルの上端から左右斜め上後方に向かって配置される一対の発土板と、
前記フレームのうち、前記前方ナイフの後方かつ左右両側から垂下される一対の後方ナイフと、
前記後方ナイフの下部かつ既設の暗渠管の左右両側に配置される一対の後方チゼルと、
を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の本暗渠機能回復機によれば、前方ナイフと前方チゼルによって暗渠管の上方の土を除去し、発土板によって地表の左右方向に排出する。また、後方ナイフと後方チゼルによって暗渠管の側方の土を掘り起こすとともに、前方ナイフと前方チゼルによって形成された暗渠管の上方の空間に土を押し戻す。これによって、暗渠管の上方と側方の心土が破砕されて水の通り道が形成され、本暗渠の機能が回復される。
【0008】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例は、
前記前方チゼルの左右両側に立設される一対の補助ナイフを備える。
【0009】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例によれば、前方チゼルと補助ナイフによって、暗渠管の上方の土を縦断面視で略長方形に切断して排出することができる。これにより、暗渠管の上方により効果的に空間を形成することができる。
【0010】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例は、
前記補助ナイフの前縁が、斜め下前方に傾斜されている。
【0011】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例によれば、補助ナイフの前縁が、斜め下前方に傾斜されているため、牽引車で牽引しながら最初に圃場の土の表面から前方チゼル及び補助ナイフ周辺の構成を土に入れるとき、補助ナイフ等が土に食い込みやすくなる。
【0012】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例は、
前記発土板の後縁から斜め上前方に延伸される反転板を備える。
【0013】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例によれば、反転板によって除去された暗渠管の上方の土を反転させることができる。
【0014】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例は、
前記後方ナイフの下部が内側かつ前方向に曲げられている。
【0015】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例によれば、後方ナイフの下部が内側に曲げられているため、後方チゼルを暗渠管の近くに配置することが可能となる。また、後方ナイフの下部が前方向に曲げられているため、先に後方チゼルと後方ナイフの下部で暗渠管の周囲の土を掘り起こしながら切断する。次に、後方ナイフのうち下部以外の箇所で、暗渠管の上方周囲の土を切断して、前方チゼルと前方ナイフによって形成された暗渠管の上方の空間に押し戻す。これにより、暗渠管の周囲の土を効果的に掘り起こしつつ、暗渠管の上に戻すことができる。
【0016】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例は、
前記後方ナイフの側面に、前記前方チゼルで削りとった空間へ左右から土を押し戻すために凸状に構成される破砕体を備える。
【0017】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例によれば、破砕体によって、暗渠管の周囲の土をより効果的に暗渠管の上に戻すことができる。
【0018】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例は、
前記破砕体が、前記後方ナイフの両側面に設けられている。
【0019】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例によれば、破砕体が後方ナイフの両側面に設けられているため、土の抵抗によって後方ナイフが曲がることを防止できる。
【0020】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例は、
前記後方チゼルが、前記後方チゼルの後端から斜め上後方に延伸される後方延伸部を備える。
【0021】
本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例は、
前記後方延伸部の上面が内側方向に傾斜している。
【0022】
これらの本発明の本暗渠機能回復機の好ましい例によれば、後方延伸部によって暗渠管周辺の土をより効果的に暗渠管の上に戻すことができる。
【発明の効果】
【0023】
上述したように、本発明の本暗渠機能回復機によれば、暗渠管の周囲の土層を掘り起こし、排水機能を回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る本暗渠機能回復機の概要を説明する図である。
【
図4】前方ナイフ及びその周辺部材の左右斜視図である。
【
図5】補助ナイフの他の実施形態を説明する左右斜視図である。
【
図6】後方ナイフ及びその周辺部材の斜視図である。
【
図7】後方チゼルの他の実施形態を説明する図である。
【
図8】本暗渠機能回復機の使用方法を説明する図である。
【
図9】本暗渠機能回復機の使用方法を説明する図である。
【
図10】本暗渠機能回復機の使用方法を説明する図である。
【
図11】本暗渠機能回復機の使用方法を説明する図である。
【
図12】本暗渠機能回復機の使用方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の本暗渠機能回復機1の実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。先ず、本実施形態の本暗渠機能回復機1の概要について説明する。
図1に示すように、本実施形態の本暗渠機能回復機1は、トラクタ2等の牽引車2によって圃場の土fsの中に本暗渠機能回復機1の一部が引き込まれて牽引される。また、圃場の土fsの中を牽引されるとき、前方チゼル40(
図2~
図4参照)が既設の暗渠管4の上方に配置され、一対の後方チゼル60が既設の暗渠管4の両側方に配置される。
【0026】
次に、本実施形態の本暗渠機能回復機1の具体的な構成を説明する。
図1ないし
図3に示すように、本実施形態の本暗渠機能回復機1は、フレーム10と、接地基準輪20と、前方ナイフ30と、前方チゼル40と、補助ナイフ41と、発土板43と、反転板44と、後方ナイフ50と、破砕体53と、後方チゼル60とを備える。
【0027】
フレーム10は、牽引車2に取付けられるとともに、本暗渠機能回復機1の各構成要素を支持するものである。本実施形態ではこのフレーム10に、形鋼や帯板等を溶接やボルト接合等の方法で組立てたものを用いている。また、フレーム10の前端には、牽引車2の3点リンク3に取付けられる取付部11を備える。
【0028】
接地基準輪20は、フレーム10の左右両側に配置されるもので、車輪支持部21と、高さ調整部24と、車輪25とを備える。車輪支持部21は、フレーム10の上面かつ左右両側に一対設けられるもので、フレーム10の左右両端から張り出したアウトリガー22と、その軸が上下方向に配置される角パイプ状の車輪取付部23とを備える。高さ調整部24は、車輪取付部23に差し込まれる筒状部材であり、側面の取付穴mh1と図示しないピンによって車輪取付部23にその高さを調整可能に取付けられる。車輪25は、圃場の土の表面に当接されて転動するもので、前方チゼル40や後方チゼル60等が、圃場の土fsの中で一定の深さに保たれるようにする。
【0029】
次に、
図1ないし3に加えて
図4(A)(B)も参照して、前方ナイフ30及びその周辺部材の説明をする。
図4(A)は前方ナイフ30等を牽引車2の右側から見た斜視図であり、
図4(B)は左側から見た斜視図である。なお、本実施形態では、前方チゼル40、補助ナイフ41、発土板43、及び反転板44を、前方ナイフ30を境に左右で分割して構成している。そして、左右それぞれの前方チゼル40、補助ナイフ41、発土板43、及び反転板44は、溶接等の方法で一体的に組み合わされている。
【0030】
前方ナイフ30は、フレーム10の前方かつ左右方向の略中央から垂下される板状部材であり、その尖った前縁fe1で土fsを切断していくものである。前方ナイフ30もその上部31かつ側面に設けられる取付穴mh2によって、フレーム10にその高さを調整可能に取付けられる。また、前方ナイフ30の上部31はその前縁fe1が略垂直に立設されており、前方ナイフ30の下部32はその前縁fe1が斜め下前方に傾斜されている。さらに、前方ナイフ30の下部32のうちその後側には、左右の前方チゼル40を前方ナイフ30にボルト接合するための取付穴mh3が設けられている。
【0031】
前方チゼル40は、前方ナイフ30の下部32かつ既設の暗渠管4の上方に設けられるとともに、その広い面が正面を向いている板状部材であり、斜め下前方に傾斜して配置される。この前方チゼル40の幅は、左右の片方あたり正面視で5~15センチメートル程度に構成される。本実施形態では、この前方チゼル40にL形鋼を用い、L形鋼の後方に延伸される部分45に取付穴mh4を設けている。そして、左右それぞれの前方チゼル40の互いの取付穴mh4同士を、前方ナイフ30の取付穴mh3に重ねて、図示しないボルトによって締結している。
【0032】
補助ナイフ41は、前方チゼル40の左右両側に立設される一対の板状部材である。補助ナイフ41は、その尖った前縁fe2で土を切断して、上記の前方チゼル40と相まって、土中に縦長略長方形の空間sを形成していく(
図9参照)作用を有する。また、
図5(A)(B)に示すように、補助ナイフ42の前縁fe3を斜め下前方に傾斜させる形態とすることもできる。
図5(A)(B)に示す形態においては、補助ナイフ42の前縁fe3以外の構成は上記の実施形態と変わらないため、同じ符号を付して説明を省略する。
【0033】
発土板43は、前方チゼル40の上端から左右斜め上後方に向かって配置される板状部材であり、前方チゼル40等で掘り出した土を、左右の地表面に放り出す作用を有する。本実施形態では、幅5~15ンチメートル程度の板を、前方チゼル40と同じ傾斜にして設けている。
【0034】
反転板44は、発土板43の後縁から斜め上前方に延伸される板状部材であり、上記の発土板43で左右に放り出す土を反転させる作用を有する。本実施形態では、反転板44と発土板43にL形鋼を用いてこれらを一体的に構成している。また、反転板44のうち前方ナイフ30に近い内側部分は、前方チゼル40等によって切り出した土が、前方チゼル40の真後ろに形成された空間sに落ちないように、反転板44の幅を漸次拡幅させている。
【0035】
次に、
図1ないし3に加えて
図6(A)~(C)も参照して、後方ナイフ50及びその周辺部材の説明をする。
図6(A)は牽引車2の右側に配置される後方ナイフ50等を示す斜視図であり、
図6(B)は左側に配置される後方ナイフ50等を示す斜視図である。また、
図6(C)は
図6(B)のA-A線端面拡大図に補強リブ56を加えたものである。
【0036】
後方ナイフ50は、フレーム10のうち、前方ナイフ30の後方かつ左右両側から垂下される一対の板状部材である。本実施形態では、後方ナイフ50がフレーム10の後端近傍に設置されている。後方ナイフ50も側面に設けられる取付穴mh5と図示しないボルトによって、フレーム10にその高さを調整可能に取付けられる。この後方ナイフ50の下部52は、内側かつ前方に曲げられており、その尖った前縁fe4で既設の暗渠管4の周囲の土fsを切断しつつ、後方チゼル60とともに既設の暗渠管4の周囲の土fsを掘り起こす作用を有する。また、後方ナイフ50の下部52が、内側かつ前方に曲げられていることで、牽引中に土fsの中から本暗渠機能回復機1が浮き上がることを防止できる。さらに、後方ナイフ50は、略垂直に立設された上部51の、その尖った前縁fe4で土fsを切断するとともに、前方チゼル40等によって形成された空間s(
図9参照)に土を押し戻していく作用を有する。
【0037】
破砕体53は、後方ナイフ50の側面に、前方チゼル40等によって形成された空間sへ、左右からより強く土を戻すために、後方ナイフ50の側面から凸状に構成されるものである。本実施形態では、この破砕体53を後方ナイフ50の左右両側面に設けている。さらに、破砕体53は内板54と外板55を備えることで平面視で略<状をなしている。そして、破砕体53の前端は平面視で尖るようにしつつ、後方に行くに従い左右に広がるように外板55を配置している。これらの構成により、平面視で後方ナイフ50とその両側面の破砕体53とは、略矢印状をなすようになる。なお、内板54と外板55との間には、補強リブ56等が適宜設けられている。
【0038】
この破砕体53を後方ナイフ50の左右両側面に設けているのは、土の抵抗を左右略均等に受けるようにして、後方ナイフ50が曲がることを防止するためである。このため、後方ナイフ50自体に十分な強度がある、又は左右の後方ナイフ50同士を他の部材で連結する等の工夫をすれば、破砕体53を後方ナイフ50同士が対向する側(内側)のみに配置することも可能である。
【0039】
後方チゼル60は、後方ナイフ50の下部52かつ既設の暗渠管4の左右両側に配置され、平面視で細長矩形状、側面視でその上面の一部が斜め下前方に向かって傾斜される略くさび状をなすものである。後方チゼル60が略くさび状をなすことで、暗渠管4の側方の土fsを上方に掘り返すことが可能となり、牽引中に土fsの中から本暗渠機能回復機1が浮き上がることを防止できる。
【0040】
また、
図7に示すように、他の実施形態として後方チゼル61には、その後端から斜め上後方に延伸される後方延伸部62を備える構成とすることもできる。この後方延伸部62は、左右それぞれの上面63が左右における内側方向に傾斜されており、既設の暗渠管4の側方の土をより効果的に上方かつ内側に掘り起こすことができる。なお、後方チゼル60,61は、暗渠管4の真横に配置させる必要はなく、暗渠管4の左右両側であればその斜め上方又は下方に配置させてもよい。
【0041】
次に、上述した本実施形態の本暗渠機能回復機1の各構成要素を踏まえつつ、
図8ないし
図12を参照して本暗渠機能回復機1の使用方法を説明する。
【0042】
前提として、
図8に示すように、圃場の土fsの中には既設の暗渠管4が埋設されている。本図に示すのは、当初は、暗渠管4の上方に土fsを縦にナイフで切断した等による水の通り道が形成されていた、又は暗渠管4の周囲の疎水層によって本暗渠の機能が保たれていたが、稲作をしたこと又は経年劣化等の理由によって暗渠管4まで水が到達せず、本暗渠の排水機能が損なわれている状態である。なお、暗渠管4の埋設された場所及び深さは、例えばトラクタ2等の牽引車2をGNSS(Global Navigation Satellite System)とRTK(Real Time Kinematic)測位を組み合わせた高精度な位置情報に基づきその走行を制御したデータ、又は圃場の端に設置された目印等、及び埋設深さの記録等で明確になっているものとする。
【0043】
次に、トラクタ2に牽引された本暗渠機能回復機1を、例えば暗渠管4の埋設時のGPSデータ、又は圃場の端に設置された目印に基づき、圃場の所定の場所に配置させる。次に、トラクタ2の3点リンク3を下降させながら、トラクタ2を前進させる。すると、前方チゼル40の前下端が圃場の土に食い込み、本暗渠機能回復機1が次第に土中に入り込んでいく。このとき、
図5(A)(B)に示すようなその前縁fe3が前傾している補助ナイフ42を用いると、土への食い込みがより良くなる。なお、所定の深さほど本暗渠機能回復機1が土中に入り込むと、接地基準輪20が圃場の土fsの表面に当接され、それ以上は土に入り込まなくなる。
【0044】
所定の深さまで本暗渠機能回復機1が土fsに入り込むと、
図1に示すように、前方チゼル40が暗渠管4の上方に位置するようになり、後方チゼル60が暗渠管4の両側方に位置するようになる。このとき、GNSSを用いてトラクタ2を制御することで、暗渠管4と後方チゼル60との水平方向における距離hdは5センチメートル程度まで近づけることができる(
図3参照)。もっとも、本実施形態の本暗渠機能回復機1では、暗渠管4と後方チゼル60との水平方向における距離hdを8~12センチメートルとしている。また、暗渠管4と前方チゼル40との垂直方向における距離vdも、埋設時の記録によって5センチメートル程度まで近づけることが可能である。
【0045】
上記の状態でさらにトラクタ2を前進させると、
図9に示すように、前方ナイフ30、前方チゼル40、及び補助ナイフ41が土中を進むことによって、2つの縦長略長方形に土が切断される(図中の破線部分)。さらに、切断された土は発土板43によって左右に放り出されて、周囲の土の表面に積まれる。このとき、反転板44によって土が反転されるため、切断されて放り出された土の塊が砕かれて小さくなる。このようにして、縦長略長方形状の空間sが圃場に形成される。
【0046】
次に、
図10に示すように、後方ナイフ50、及び後方チゼル60が土中を進むことによって、空間sの周囲の土が切断される。このとき、後方ナイフ50の下部52が内側かつ前方に曲げられているため、先に後方チゼル60及びそのすぐ上にある後方ナイフ50の下部52が暗渠管4の側方を進む。また、後方チゼル60と暗渠管4との距離hdは8~12センチメートルと比較的近く、さらにその近傍に前方チゼル40等によって形成された空間sがある。これにより、暗渠管4の側方及び上方の土が、図中の矢印方向に向かって掘り返される。そして、
図11に示すように、暗渠管4の周囲の土が破砕された状態となる。
【0047】
次に、後方ナイフ50のうち、垂直に立設された上部51が土中を進んで土fsを切断する。すると、後方ナイフ50そのものでも、空間sに向かって切断した土を押し戻す効果はあるが、破砕体53によってより強く矢印の方向に土を押し戻す。そして、
図12に示すように、暗渠管4の周囲及び上方の土が破砕されるとともに埋め戻された状態となる。これにより、新たな水の通り道wpが形成され、本暗渠の機能が回復される。
【0048】
以上、説明したように、本実施形態の本暗渠機能回復機1によれば、既設の暗渠管4の周囲の土を掘り起こすことで、暗渠管4をそのまま再利用して本暗渠の機能を回復させることができる。このため、本暗渠の機能回復を安価に行うことが可能となる。
【0049】
また、前方チゼル40から発土板43までが連続して構成されている。これにより、切断された縦長略長方形の土を効果的に左右方向に放り出すことができ、同時に暗渠管4の上方に空間sを形成することができる。また、前記の空間sが形成されることで、後方チゼル60及び後方ナイフ50の下部52によって、暗渠管4の側方の土を掘り起こすときに、暗渠管4の側方の土に押されて暗渠管4の直上の土も間接的に掘り返すことができる。これらによって、暗渠管4の周囲に多数の水の通り道wpを形成することが可能となる。
【0050】
さらに、空間sは後方ナイフ50と破砕体53とで埋め戻されるが、そのときにも土fsの表層から心土層に至るまで、多数の水の通り道wpを形成することができる。
【0051】
なお、上述した本暗渠機能回復機の実施形態は、本発明の例示であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、その構成を適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0052】
1・・本暗渠機能回復機、2・・牽引車(トラクタ)、3・・3点リンク、4・・暗渠管、
10・・フレーム、11・・取付部、
20・・接地基準輪、21・・車輪支持部、22・・アウトリガー、23・・車輪取付部、24・・高さ調整部、25・・車輪、
30・・前方ナイフ、31・・上部(前方ナイフ)、32・・下部(前方ナイフ)、
40,45・・前方チゼル、41,42・・補助ナイフ、43・・発土板、44・・反転板、
50・・後方ナイフ、51・・上部(後方ナイフ)、52・・下部(後方ナイフ)、53・・破砕体、54・・内板、55・・外板、56・・補強リブ、
60,61・・後方チゼル、62・・後方延伸部、63・・上面(後方延伸部)、
mh1,mh2,mh3,mh4,mh5・・取付穴、
fe1,fe2,fe3,fe4・・前縁、
fs・・(圃場の)土、s・・空間、wp・・水の通り道、
【要約】
【課題】暗渠管の周囲の土層を掘り起こし、排水機能を回復させる本暗渠機能回復機を提供する。
【解決手段】牽引車2に取付けられるフレーム10と、前記フレームの左右両側に配置される接地基準輪20と、前記フレームから垂下される前方ナイフ30と、前記前方ナイフの下部かつ既設の暗渠管4の上方に設けられ、斜め下前方に向かって配置される前方チゼル40と、前記前方チゼルの上端から左右斜め上後方に向かって配置される一対の発土板43と、前記フレームのうち、前記前方ナイフの後方かつ左右両側から垂下される一対の後方ナイフ50と、前記後方ナイフの下部かつ既設の暗渠管の左右両側に配置される一対の後方チゼル60と、を備える。
【選択図】
図1