(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】基油拡散防止剤及びそれを含有するグリース
(51)【国際特許分類】
C10M 139/04 20060101AFI20230118BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20230118BHJP
C10M 107/50 20060101ALN20230118BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20230118BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20230118BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20230118BHJP
C10N 40/14 20060101ALN20230118BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20230118BHJP
【FI】
C10M139/04
C10M169/04
C10M107/50
C10N30:00 Z
C10N30:08
C10N40:02
C10N40:14
C10N50:10
(21)【出願番号】P 2019026130
(22)【出願日】2019-02-16
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】503121505
【氏名又は名称】株式会社フロロテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】神保 雅子
(72)【発明者】
【氏名】服部 雅高
(72)【発明者】
【氏名】小原 弘明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆彦
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-001293(JP,A)
【文献】米国特許第05549835(US,A)
【文献】特開平05-078682(JP,A)
【文献】特開2005-247998(JP,A)
【文献】特開2008-201901(JP,A)
【文献】特開2007-308578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される、分子量1000以下のシラン化合物を含む基油拡散防止剤。
Z-PFPE-X-Si(OR
1)
p(R
2)
q・・・(1)
{式中:
Zは、炭素数1~6のフルオロアルキル基又は[(R
2)
q(R
1O)
pSi-X]基を表し、;
PFPEは、[(OC
6F
12)
a-(OC
5F
10)
b-(OC
4F
8)
c-(OC
3F
6)
d-(OC
2F
4)
e-(OCF
2)
f]基を表し[但し、a、b、c、d、e及びfは、それぞれ独立して0以上10以下の整数であって、a、b、c、d、e及びfの和は、1以上である。なお、a、b、c、d、e及びfを付した各パーフルオロオキシアルキレン基の存在順序は任意である。]、
Xは、アミド基、カルバメート基、アルキレン基及びオキシアルキレン基から選ばれた連結基を表し、
R
1及びR
2は独立に低級アルキル基を表し、pは1~3の整数を表し、qは0~2の整数を表し、pとqの和は3である。}
【請求項2】
基油、増ちょう剤及び請求項1に記載の基油拡散防止剤を含有するグリース。
【請求項3】
シラン化合物が、(OR
1)基の加水分解により縮合した状態で含有されている請求項
2記載のグリース。
【請求項4】
基油がシリコーン油である請求項2又は3記載のグリース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリースの基油の拡散を防止するために用いる基油拡散防止剤に関し、特にシリコーンオイルを基油とするグリースの基油の拡散を防止するために用いる基油拡散防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種機器の急速な高性能化及び小型化に伴って、その機械的な回転部や摺動部等に使用されるグリースに対して、従来よりも優れた特性が求められている。たとえば、小型化された各種機構部、モーター類、各種ベアリング類、接点類又はスイッチ類等に使用するグリースでは、特に、耐熱性、低温安定性及び軽トルク性等の特性が求められている。
【0003】
これらの特性を満足するために、エステル系又はポリアルファオレフィン系等の合成潤滑油を基油として、ウレア系又は石鹸系等の増ちょう剤を添加したグリースが市販されている。しかしながら、かかる市販のグリースは、基油が比較的低粘度であるため、グリース塗布後に、時間の経過と共に基油が塗布面から拡散してしまうという問題があった。特に、小型化された機器に適用されるグリースでは、基油の拡散は防止されるべき事項である。このため、基油拡散防止剤として、フルオロアルキルシラン化合物を用いることが記載されている(特許文献1)。また、パーフルオロポリアルキルエーテル油を基油とし、この基油に基油拡散防止剤としてパーフルオロイソプロポキシアルキルシラン化合物を添加することが記載されている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、年々小型化が進む機器においては、フルオロアルキルシラン化合物又はパーフルオロイソプロポキシアルキルシラン化合物よりなる基油拡散防止剤では、その効果が不十分であった。
【0005】
【文献】特許第2540393号公報
【文献】特開2007-308578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、基油拡散防止能のより向上した基油拡散防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特許文献1及び2に記載されているシラン化合物とは異なり、加水分解性シリル基に特定の連結基を介して特定のパーフルオロアルキレンエーテル基が結合されてなるシラン化合物を採用することにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される、分子量1000以下のシラン化合物を含む基油拡散防止剤に関するものである。
Z-PFPE-X-Si(OR1)p(R2)q・・・(1)
一般式(1)中のZは、炭素数1~6のフロオロアルキル基であり、特に好ましくはパーフルオロアルキル基である。また、Zは、[(R2)q(R1O)pSi-X]基であってもよく、R1、R2、X、p及びqの意味は後述するとおりである。PFPEは、[(OC6F12)a-(OC5F10)b-(OC4F8)c-(OC3F6)d-(OC2F4)e-(OCF2)f]基を表し、a、b、c、d、e及びfは、それぞれ独立して0以上10以下の整数であって、a、b、c、d、e及びfの和が1以上となるものである。なお、a、b、c、d、e及びfを付した各パーフルオロオキシアルキレン基の存在順序は任意である。Xは、アミド基、カルバメート基、アルキレン基及びオキシアルキレン基から選ばれた連結基を表す。R1及びR2は独立に低級アルキル基であり、好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。pは1~3の整数を、qは0~2の整数を表し、pとqの和は3である。
【0008】
本発明に用いるシラン化合物は、上記一般式(1)で表されるものであり、分子量は1000以下である。分子量が1000を超えると、フルオロアルキル基やパーフルオロオキシアルキレン基の鎖長が長くなり、基油との相溶性が悪くなり基油拡散防止効果が低下する傾向となる。具体的には、以下のシラン化合物が好適である。
(ア)C4F9-(OCF2CF2)2-OCF2-C(O)NH(CH2)3-Si(OC2H5)3
(イ)C4F9-(OCF2CF2)2-OCF2-C(O)NH(CH2)3-Si(OCH3)3
(ウ)C4F9-(OCF2CF2)2-OCF2-CH2O(CH2)3-Si(OCH3)3
(エ)C4F9-(OCF2CF2)2-OCF2-CH2OC(O)NH(CH2)3-Si(OCH3)3
(オ)C3F7-(OCF2CF2CF2)3-OC2F4-C(O)NH(CH2)3-Si(OCH3)3
(カ)C3F7-[OCF(CF3)CF2]2-OCF(CF3)C(O)NH(CH2)3-Si(OCH3)3
(キ)C3F7-[OCF(CF3)CF2]3-OCF(CF3)C(O)NH(CH2)3-Si(OC2H5)3
(ク)C3F7-[OCF(CF3)CF2]2-OCF(CF3)CH2O(CH2)3-Si(OC2H5)3
(ケ)C3F7-[OCF(CF3)CF2]3-OCF(CF3)CH2O(CH2)3-Si(OCH3)3
(コ)C3F7-[OCF(CF3)CF2]3-OCF(CF3)CH2OC(O)NH(CH2)3-Si(OCH3)3
(サ)(H3CO)3Si-(CH2)3NHC(O)CF2O-(CF2CF2O)2-OCF2-C(O)NH(CH2)3-Si(OCH3)3
(シ)(H3CO)3Si-(CH2)3NHC(O)CF2O-(CF2CF2O)2-(OCF2)2-OCF2-C(O)NH(CH2)3-Si(OCH3)3
(ス)(H3CO)3Si-(CH2)3NHC(O)OCH2CF2O-(CF2CF2O)2-(OCF2)2-OCF2CH2O-C(O)NH(CH2)3-Si(OCH3)3
なお、本発明に用いるシラン化合物は、加水分解により、一部縮合体となっていてもよい。
【0009】
本発明に係るシラン化合物を含む基油拡散防止剤を、基油及び増ちょう剤に添加してグリースとして用いられる。基油としては、シリコーン油、エステル油、炭化水素系合成油、鉱物油又はフッ素系オイル等の従来公知の基油が用いられる。特に、本発明においては、シリコーン油を基油とするのが好ましい。本発明に用いるシラン化合物及びシリコーン油は、いずれも珪素元素を含む化合物であって、相溶性に優れており、本発明に係る基油拡散防止剤の効果が向上するからである。増ちょう剤としても、リチウム石けん又はカルシウム石けん等の金属石けん系増ちょう剤並びにウレア、PTFE又はベントン等の非石けん系増ちょう剤等の従来公知の増ちょう剤が用いられる。
【0010】
また、本発明に係るシラン化合物を含む基油拡散防止剤を、市販グリースに添加して、グリースを調製してもよい。市販グリースとしては、KS-609(信越化学工業株式会社製)又はKS-650N(信越化学工業株式会社製)等のシリコーン系グリース、スミテック331(住鉱潤滑剤株式会社製)等のポリαオレフィン系グリース、スミテックSG402(住鉱潤滑剤株式会社製)等のエステル系グリース並びにデムナムグリース(ダイキン工業株式会社製)、バリエルタ(NOKクリューバー株式会社製)又はスミテック(住鉱潤滑剤株式会社製)等のフッ素系グリースが用いられる。
【0011】
本発明に係る基油拡散防止剤は、グリース総量に対して、0.1~10重量%程度含有され、特に0.5~5重量%程度含有させるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る基油拡散防止剤は、シリコーン油等の基油の拡散を防止しうる効果を奏する。したがって、本発明に係る基油拡散防止剤を含有するグリースは、小型化された機器に適用されても、長期に亙って良好な潤滑性能を与えるという効果を奏する。
【実施例】
【0013】
実施例1
市販シリコーングリース(信越化学工業株式会社製、KS-609)に、下記化学式で表されるシラン化合物(分子量765)よりなる基油拡散防止剤を3質量%添加した後、均一に攪拌してグリースを得た。
C4F9-(OCF2CF2)2-OCF2-C(O)NH(CH2)3-Si(OC2H5)3
【0014】
実施例2
基油拡散防止剤の添加量を1質量%にした他は、実施例1と同様にしてグリースを得た。
【0015】
実施例3
基油拡散防止剤の添加量を0.1質量%にした他は、実施例1と同様にしてグリースを得た。
【0016】
実施例4
市販シリコーングリースに代えて、市販ポリαオレフィングリース(住鉱潤滑剤株式会社製、スミテック331)を用いた他は、実施例1と同様にしてグリースを得た。
【0017】
実施例5
基油拡散防止剤の添加量を1質量%にした他は、実施例4と同様にしてグリースを得た。
【0018】
実施例6
実施例1で用いたシラン化合物よりなる基油拡散防止剤に代えて、下記化学式で表されるシラン化合物(分子量779)よりなる基油拡散防止剤を用いた他は、実施例1と同様にしてグリースを得た。
C4F9-(OCF2CF2)2-CF2CH2-O-C(O)NH(CH2)3-Si(OC2H5)3
【0019】
実施例7
実施例1で用いたシラン化合物よりなる基油拡散防止剤に代えて、下記化学式で表されるシラン化合物(分子量844)よりなる基油拡散防止剤を用いた他は、実施例1と同様にしてグリースを得た。
(H5C2O)3Si-(CH2)3NHC(O)-CF2-(OCF2CF2)2-OCF2-C(O)NH-(CH2)3-Si(OC2H5)3
【0020】
実施例8
実施例1で用いたシラン化合物よりなる基油拡散防止剤に代えて、下記化学式で表されるシラン化合物(分子量721)よりなる基油拡散防止剤を用いた他は、実施例1と同様にしてグリースを得た。
C4F9-(OCF2CF2)2-CF2CH2-C(O)NH(CH2)3-Si(OCH3)3
【0021】
比較例1
シラン化合物よりなる基油拡散防止剤に代えて、下記化学式で表される化合物(分子量548)よりなる基油拡散防止剤を用いた他は、実施例1と同様にしてグリースを得た。
C4F9-(OCF2CF2)2-OCF2-CH2OH
【0022】
比較例2
基油拡散防止剤の添加量を1質量%にした他は、比較例1と同様にしてグリースを得た。
【0023】
比較例3
シラン化合物よりなる基油拡散防止剤に代えて、下記化学式で表される化合物(分子量約1500)よりなる基油拡散防止剤を用いた他は、実施例1と同様にしてグリースを得た。
HOCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CH2OH
(式中、mは約6であり、nは約10である。)
【0024】
比較例4
基油拡散防止剤の添加量を1質量%にした他は、比較例3と同様にしてグリースを得た。
【0025】
比較例5
シラン化合物よりなる基油拡散防止剤に代えて、下記化学式で表される化合物(分子量約3900)よりなる基油拡散防止剤を用いた他は、実施例1と同様にしてグリースを得た。
C3F7-(OCF2CF2CF2)l-OCF2CF2CH2O-C(O)NH(CH2)3-Si(OCH3)3
(式中、lは約21である。)
【0026】
比較例6
シラン化合物よりなる基油拡散防止剤に代えて、下記化学式で表される化合物(分子量652)よりなる基油拡散防止剤を用いた他は、実施例1と同様にしてグリースを得た。
CF3-(CF2)7CH2CH2-Si(OiPr)3
(式中、iPrはイソプロピル基である。)
【0027】
比較例7
市販シリコーングリース(信越化学工業株式会社製、KS-609)のみとした。
【0028】
比較例8
市販ポリαオレフィングリース(住鉱潤滑剤株式会社製、スミテック331)のみとした。
【0029】
[基油拡散試験]
実施例1~8及び比較例1~8で得られた各グリースを、ポリエステルフィルム(ソマブラックフィルム R100MD ソマール株式会社製)表面に、直径6mmで高さ1mmの円柱状に塗布した。そして、80℃の恒温器に入れて促進試験を行い、24時間後の基油の拡散状態を評価した。
図1に示すように、基油は塗布したグリースの径方向に拡散するので、基油の直径(Amm)を測定した。そして、拡散幅(mm)=A-6を求めた。この結果を表1に示した。
【0030】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━
拡散幅
━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例1 0mm
実施例2 0mm
実施例3 4mm
実施例4 0mm
実施例5 0mm
実施例6 0mm
実施例7 0mm
実施例8 0mm
比較例1 11mm
比較例2 13mm
比較例3 10mm
比較例4 15mm
比較例5 20mm
比較例6 11mm
比較例7 21mm
比較例8 50mm
━━━━━━━━━━━━━━━━
【0031】
表1の結果から明らかなように、実施例に係る各グリースは、比較例に係る各グリースに比べて、基油の拡散が顕著に防止されていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施例及び比較例に係る各グリースの基油拡散試験を行った際のグリースの塗布状態及び基油の拡散状態を示した模式的平面図である。