(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】カルベン化合物、カルベン‐金属ナノ粒子複合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 235/04 20060101AFI20230118BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20230118BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230118BHJP
C07F 1/12 20060101ALN20230118BHJP
【FI】
C07D235/04 CSP
B82Y5/00
B82Y40/00
C07F1/12
(21)【出願番号】P 2021520142
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 KR2019013314
(87)【国際公開番号】W WO2020076106
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】10-2018-0120648
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515276624
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF BIOSCIENCE AND BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オ・ソク・クォン
(72)【発明者】
【氏名】テ・ジュン・カン
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ジュ・パク
(72)【発明者】
【氏名】チョル・スン・パク
(72)【発明者】
【氏名】キョン・ホ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジン・ヨン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヨン・リ
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ス・リ
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/083342(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0107518(KR,A)
【文献】特表2016-536170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 235/04
B82Y 5/00
B82Y 40/00
C07F 1/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端に窒素含有官能基を有するポリエチレングリコール(PEG)が置換された下記化学式1または2で表されるカルベン化合物。
【化1】
【化2】
前記化学式1および2中、
R1、R2、R5およびR6は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基または炭素数2~30のヘテロアリール基であ
り、
R3、R4、R7、R8、R9およびR10は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数2~30のヘテロアリール基または下記化学式3で表される構造であるか、R7~R10のうち互いに隣接した二つ以上の置換基が結合して炭化水素環を形成し、
R3およびR4の少なくとも一つは、下記化学式3で表される構造であり、
R7~R10の少なくとも一つは、下記化学式3で表される構造であるか、R7~R10のうち互いに隣接した二つ以上の置換基が結合して炭化水素環を形成する場合、前記炭化水素環を形成する炭素に結合した水素のうち少なくとも一つは、下記化学式3で表される構造で置換され、
【化3】
前記化学式3中、
nは、括弧内の単位の繰り返し数として、
3~30の整数であり、
Aは、窒素
含有官能基を含む炭素数1~20のアルキル基または窒素(N)原子を含む炭素数2~30のヘテロアリール基である。
【請求項2】
前記窒素含有官能基は、アジド(azide)、フタルイミド(phthalimide)およびアミン(amine)からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載のカルベン化合物。
【請求項3】
前記R1およびR2の少なくとも一つおよび前記R5およびR6の少なくとも一つは、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基または炭素数2~30のヘテロアリール基である、請求項1に記載のカルベン化合物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカルベン化合物が金属ナノ粒子と結合しているカルベン‐金属ナノ粒子複合体。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子の粒子径が、1nm~40nmである、請求項4に記載のカルベン‐金属ナノ粒子複合体。
【請求項6】
前記金属は、銅(Cu)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、金(Au)、ハフニウム(Hf)、クロム(Cr)、インジウム(In)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、鉛(Pb)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、アンチモン(Sb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つである、請求項4に記載のカルベン‐金属ナノ粒子複合体。
【請求項7】
一末端にチオール基を含み、他の末端に窒素含有官能基を含むポリエチレングリコールと金属ナノ粒子を混合し、硫黄‐金属ナノ粒子を製造するステップと、
前記硫黄‐金属ナノ粒子と請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカルベン化合物を混合するステップとを含む、カルベン‐金属ナノ粒子複合体の製造方法。
【請求項8】
前記硫黄‐金属ナノ粒子と前記カルベン化合物を混合するステップは、前記金属ナノ粒子の表面に存在する金属‐硫黄結合を金属‐カルベン結合に置換するステップを含む、請求項7に記載のカルベン‐金属ナノ粒子複合体の製造方法。
【請求項9】
バイオプローブ部が、クリック反応(click reaction)により固定化している、請求項4に記載のカルベン‐金属ナノ粒子複合体を含むバイオセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルベン化合物、カルベン‐金属ナノ粒子複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金は、実生活だけでなく、産業分野においてもその価値が非常に高く、その大きさと形状によって、様々な分野(半導体メモリ素子、有機化学反応触媒、次世代エネルギー、現場診断用LFA(Lateral Flow Assay)およびバイオセンサ分野など)において、独特の物理的および化学的性質を示している。最近、ナノ科学の発展によって、金ナノの製造など、金の加工法の開発に伴いその活用範囲がより様々になっている。
【0003】
金ナノプローブ(ナノ粒子(nanoparticle)、ナノロッド(nanorod)など)の大量生産技術の開発に伴い、バイオ産業分野において疾病の診断および治療に活用されているが、金ナノプローブでは、特に、金表面処理技術が性能に及ぼす影響が非常に大きい。かかる金表面処理のために、従来、アルキルアミン(alkylamine)、カルボン酸(carboxylic acid)(デカン酸、クエン酸など)、チオール(thiol)、アンモニウム(ammonium)などを用いた処理方法が、水または有機溶媒への分散性、バイオプローブ部の付着容易性などの利点から、広く活用されている。
【0004】
中でも、チオールは、金(Au)との高い結合強度を有する。また、チオール‐金結合は、高い塩濃度溶液および酸/塩基溶液の下でその表面が不安定で凝集現象が発生し、特に、60℃以上および0℃以下で凝集現象が非常にひどく製品の貯蔵性に深刻な限界を有している。例えば、現場診断用LFAに使用される製品である金ナノプローブは、表面がチオールで囲まれて水分散が可能であるように発売されており、必ず冷蔵保管をするようになっているが、金ナノ粒子にバイオプローブ部(例えば、抗体、DNAなど)を固定化すると、製品を冷蔵保管できず、直ちに使用しなければならないという欠点がある。また、LFA製品の特性上、アフリカのような高温の地域にも頻繁に納品されるため、高温に耐えられる高い安定性を有する金ナノプローブが必ず必要である。
【0005】
上記のような問題を解決するために、カルベン化合物と金原子との反応性が高く、強固な結合が可能であるという利点から、従来、イミダゾリウム塩(imidazolium salt)を金イオンと反応させて有機金属錯体を形成し、その後、還元反応を通じてカルベン金ナノ粒子を製造する方法(J.Am.Chem.Soc.2015,137,7974‐7977)が使用されていたが、金ナノ粒子の形状または大きさに均一性がないようで、ベンゾイミダゾリウム塩(benzimidazolium salt)を金イオン(aurate ion)にアニオン変換し、有機金属錯体形成と還元反応を同時に低温(0.6℃)で行って均一な形態の金ナノ粒子を合成(Chem.Mater.2015,27,414‐423)していたが、有機溶媒で合成することで水では分散されず、これをバイオセンサに適用または応用できないという欠点がある。また、何よりも、従来のカルベン金ナノ粒子は、末端基に何らの機能性官能基がなく、バイオセンサなどへの適用が不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国公開特許公報2006/0100365号(2006.05.11.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、LFAのようなバイオセンサなどの分野において利用可能であるように、末端基に機能性官能基を含むカルベン化合物を合成し、結論的に、カルベン‐金属ナノ粒子の表面を安定化し、高濃度の塩(salt)溶液、強酸または強塩基、高温および超極低温(ultra‐low temperature)の様々な環境でも、化学的および物理的に安定性を有するカルベン金ナノ粒子複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、末端に窒素含有官能基を有するポリエチレングリコール(PEG)が置換された下記化学式1または2で表されるカルベン化合物を提供する。
【化1】
【化2】
前記化学式1および2中、
R1、R2、R5およびR6は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基または炭素数2~30のヘテロアリール基であるか、
R3、R4、R7、R8、R9およびR10は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数2~30のヘテロアリール基または下記化学式3で表される構造であるか、R7~R10のうち互いに隣接した二つ以上の置換基が結合して炭化水素環を形成し、
R3およびR4の少なくとも一つは、下記化学式3で表される構造であり、
R7~R10の少なくとも一つは、下記化学式3で表される構造であるか、R7~R10のうち互いに隣接した二つ以上の置換基が結合して炭化水素環を形成する場合、前記炭化水素環を形成する炭素に結合した水素のうち少なくとも一つは、下記化学式3で表される構造で置換され、
【化3】
前記化学式3中、
nは、括弧内の単位の繰り返し数として、1~30の整数であり、
Aは、窒素(N)原子を含む炭素数1~20の脂肪族炭化水素基または窒素(N)原子を含む炭素数2~30の芳香族炭化水素基である。
【0009】
また、本発明は、上述のカルベン化合物が金属ナノ粒子と結合したカルベン‐金属ナノ粒子複合体を提供する。
【0010】
本発明は、チオール基を含むポリエチレングリコールと金属ナノ粒子を混合するステップと、前記チオール基を含むポリエチレングリコールが結合した金属ナノ粒子と上述のカルベン化合物を混合するステップとを含むカルベン‐金属ナノ粒子複合体の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、上述のカルベン‐金属ナノ粒子複合体を含むバイオセンサを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカルベン化合物は、安定性に優れ、これを金属に結合したカルベン‐金属ナノ粒子複合体は、従来の金属ナノプローブに比べて、様々な種類の溶媒、様々な範囲のpHや温度でも、金属ナノ粒子からカルベン化合物が分離し難く、これにより、本発明のカルベン‐金属ナノ粒子複合体を用いると、バイオプローブ部(生体物質)をより強固に固定することができ、バイオセンサなどに有用に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態によるカルベン金ナノ粒子複合体を用いたLFAの模式図を示す図示である。
【
図2】本発明の実験例1によるpH安定性に関する実験結果を示す図示である。
【
図3】本発明の実験例2の<1>による塩安定性に関する実験結果を示す図示である。
【
図4】本発明の実験例2の<2>による溶媒安定性に関する実験結果を示す図示である。
【
図5】本発明の実験例3の<1>による温度安定性に関する実験結果を示す図示である。
【
図6】本発明の実験例3の<2>による金ナノ粒子の温度安定性に関する実験結果を示す図示である。
【
図7】本発明の実験例4によるマラリア診断キットに関する実験結果を示す図示である。
【
図8】本発明の実験例5によるpH安定性に関する実験結果を示す図示である。
【
図9】本発明の実験例6による高温安定性に関する実験結果を示す図示である。
【
図10】本発明の実験例7による低温安定性に関する実験結果を示す図示である。
【
図11】本発明の製造例1によって製造されたカルベン化合物の
1H‐NMRスペクトルを示す図示である。
【
図12】本発明の製造例3によって製造されたカルベン化合物の
1H‐NMRスペクトルを示す図示である。
【
図13】本発明の製造例4によって製造されたカルベン化合物の
1H‐NMRスペクトルを示す図示である。
【
図14】本発明の製造例5によって製造されたカルベン化合物の
1H‐NMRスペクトルを示す図示である。
【
図15】本発明の製造例6によって製造されたカルベン化合物の
1H‐NMRスペクトルを示す図示である。
【
図16】本発明の一実施形態によるカルベン‐金属ナノ粒子複合体のTEMイメージを示す図示である。
【
図17】金‐硫黄結合と金‐カルベン結合の結合エネルギー/結合長さを比較した図示である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
1.カルベン化合物
本発明は、末端に窒素含有官能基を有するポリエチレングリコール(PEG)が置換された前記化学式1または化学式2で表されるカルベン化合物を提供する。
【0016】
前記カルベン化合物は、末端に窒素含有官能基が置換されたポリエチレングリコール(PEG)をカルベン化合物に導入して製造され得る。
【0017】
前記カルベン化合物は、末端部位にポリエチレングリコール基を導入することで水分散性を高め、前記ポリエチレングリコールの末端に窒素含有官能基を導入することで、今後のクリック反応(click reaction)により窒素含有官能基にバイオプローブ部(例えば、抗体、DNA、アプタマー、プライマーなど)の付着が容易になるように機能化したものであってもよい。したがって、LFAなどにおいて、通常、バイオプローブ部が金属ナノ粒子間の静電気的な引力によって結合することとは異なり、クリック反応による強固な化学的共有結合で固定され得るという利点がある。
【0018】
前記窒素含有官能基は、アジド(azide)、フタルイミド(phthalimide)またはアミン(amine)であってもよい。
【0019】
前記R1、R2、R5およびR6は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基または炭素数6~30のアリール基であってもよい。
【0020】
前記R1、R2、R5およびR6は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、水素または炭素数1~20のアルキル基であってもよい。
【0021】
前記R1、R2、R5およびR6は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、水素、イソプロピルまたはベンジルであってもよい。
【0022】
前記R1およびR2の少なくとも一つおよび前記R5およびR6の少なくとも一つは、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基または炭素数6~30のアリール基であってもよい。
【0023】
前記R1およびR2の少なくとも一つおよび前記R5およびR6の少なくとも一つは、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、イソプロピルまたはベンジルであってもよい。
【0024】
前記R3、R4、R7、R8、R9およびR10は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数2~30のヘテロアリール基または前記化学式3で表される構造であるか、R7~R10のうち互いに隣接した二つ以上の置換基が結合し、炭化水素環を形成してもよい。
【0025】
前記R3、R4、R7、R8、R9およびR10は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、水素または前記化学式3で表される構造であるか、R7~R10のうち互いに隣接した二つ以上の置換基が結合し、炭化水素環を形成してもよい。
【0026】
前記R7~R10のうち互いに隣接した二つ以上の置換基が結合して炭化水素環を形成する場合、前記炭化水素環を形成する炭素に結合した水素のうち少なくとも一つは、前記化学式3で表される構造で置換され得る。
【0027】
前記R3およびR4の少なくとも一つは、前記化学式3で表される構造であってもよい。また、前記R7~R10の少なくとも一つは、前記化学式3で表される構造であってもよい。
【0028】
前記nは、括弧内の単位の繰り返し数として1~30の整数であってもよく、好ましくは1~10であってもよい。前記nが1未満の場合、カルベン化合物の水分散性が低下し、nが30超の場合、長いポリエチレングリコールの鎖のため、バイオプローブ部間の距離が遠くなり、逆にバイオセンシング効率が減少する。
【0029】
前記Aは、窒素(N)原子を含む炭素数1~20のアルキル基または窒素(N)原子を含む炭素数2~30のヘテロアリール基である。具体的には、前記Aは、アジド(azide)、フタルイミド(phthalimide)またはアミン(amine)であってもよい。
【0030】
本発明において、「隣接した」基は、当該置換基が置換された原子と直接連結された原子に置換された置換基、当該置換基と立体構造的に最も近く位置した置換基、または当該置換基が置換された原子に置換された他の置換基を意味し得る。例えば、ベンゼン環でオルト(ortho)位置に置換された2個の置換基および脂肪族環で同一炭素に置換された2個の置換基は、互いに「隣接した」基として解釈され得る。
【0031】
前記アルキル基は、直鎖または分岐鎖であってもよく、炭素数1~20であってもよく、好ましくは炭素数1~10であってもよい。より好ましくは炭素数1~6であってもよい。前記アルキル基の具体的な例としては、メチル、エチル、プロピル、n‐プロピル、イソプロピル、ブチル、n‐ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、sec‐ブチル、1‐メチルブチル、1‐エチルブチル、ペンチル、n‐ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert‐ペンチル、ヘキシル、n‐ヘキシル、1‐メチルペンチル、2‐メチルペンチル、4‐メチル‐2‐ペンチル、3,3‐ジメチルブチル、2‐エチルブチル、ヘプチル、n‐ヘプチル、1‐メチルヘキシル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、オクチル、n‐オクチル、tert‐オクチル、1‐メチルヘプチル、2‐エチルヘキシル、2‐プロピルペンチル、n‐ノニル、2,2‐ジメチルヘプチル、1‐エチルプロピル、1,1‐ジメチルプロピル、イソヘキシル、4‐メチルヘキシル、5‐メチルヘキシル、ベンジルなどがあるが、これに限定されるものではない。
【0032】
前記シクロアルキル基は、炭素数3~20であってもよく、好ましくは炭素数3~10であってもよい。前記シクロアルキル基の具体的な例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、3‐メチルシクロペンチル、2,3‐ジメチルシクロペンチル、シクロヘキシル、3‐メチルシクロヘキシル、4‐メチルシクロヘキシル、2,3‐ジメチルシクロヘキシル、3,4,5‐トリメチルシクロヘキシル、4‐tert‐ブチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどがあるが、これに限定されるものではない。
【0033】
前記アリール基は、炭素数6~30であってもよく、好ましくは炭素数6~10であってもよい。前記アリール基は、単環式アリール基または多環式アリール基であってもよい。前記単環式アリール基の具体的な例としては、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基などがあり、前記多環式アリール基の具体的な例としては、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ピレニル基、ペリレニル基、クリセニル基、フルオレニル基、トリフェニレン基などがあるが、これに限定されるものではない。
【0034】
前記ヘテロアリール基は、異種原子として、N、O、P、S、SiおよびSeから選択される1個以上を含む芳香族環基であり、炭素数は2~30であってもよく、好ましくは炭素数2~20であってもよい。前記ヘテロアリール基の具体的な例としては、チオフェン基、フラン基、ピロール基、イミダゾール基、チアゾール基、オキサゾール基、オキサジアゾール基、トリアゾール基、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジン基、トリアゾール基、アクリジル基、キノリニル基、キナゾリン基、キノキサリニル基、フタラジニル基、イソキノリン基、インドール基、カルバゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、ベンゾチアゾール基、ベンゾカルバゾール基、ベンゾチオフェン基、ジベンゾチオフェン基、ベンゾフラニル基などがあるが、これに限定されるものではない。
【0035】
また、前記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基または炭化水素環は、また、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはヘテロアリール基で置換または非置換されてもよい。
【0036】
2.カルベン‐金属ナノ粒子複合体およびその製造方法
本発明は、上述のカルベン化合物が金属ナノ粒子と結合したカルベン‐金属ナノ粒子複合体を提供する。
【0037】
前記金属ナノ粒子の粒子径は、1nm~40nmであってもよい。前記金属ナノ粒子の粒子径が1nm未満の場合、金属ナノ粒子の表面に、必要な水準のカルベン化合物を導入することが難しくバイオセンサとしての効率が低下し、前記金属ナノ粒子の粒子径が40nm超の場合、カルベン‐金属ナノ粒子複合体が均一ではなく、バイオセンサの効率および再現性が低下し得る。すなわち、40nmを超えると、小さな環境の変化だけでも金属ナノ粒子の凝集現象が発生する可能性が高くなる。
【0038】
前記金属ナノ粒子は、銅(Cu)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、金(Au)、ハフニウム(Hf)、クロム(Cr)、インジウム(In)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、鉛(Pb)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、アンチモン(Sb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)およびこれらの組み合わせ(例えば、二元金属ナノ粒子(bimetallic nanoparticles))からなる群から選択されるいずれか一つであってもよい。好ましくは、前記カルベン‐金属ナノ粒子複合体が適用されるバイオセンサの様々な環境での安定性、結晶性およびカルベン化合物と金属ナノ粒子の表面との結合力を考慮すると、前記金属は、金(Au)であってもよい。
【0039】
前記カルベン‐金属ナノ粒子複合体は、
図16のTEMイメージに示されているように、均一な形態を有することができ、カルベン‐金属ナノ粒子複合体が均一な形態を有することから、水分散性に優れる。
【0040】
また、本発明は、一末端にチオール基を含み、他の末端に窒素含有官能基を含むポリエチレングリコールと金属ナノ粒子を混合し、硫黄‐金属ナノ粒子を製造するステップと、前記硫黄‐金属ナノ粒子と上述のカルベン化合物を混合するステップとを含むカルベン‐金属ナノ粒子複合体の製造方法を提供する。
【0041】
具体的には、前記一末端にチオール基を含み、他の末端に窒素含有官能基を含むポリエチレングリコールと金属ナノ粒子を混合する場合、チオール基の硫黄が金属表面で金属‐硫黄結合を媒介にして、金属ナノ粒子の表面に、末端に窒素含有官能基を含むポリエチレングリコールが導入され得る。このように形成された硫黄‐金属ナノ粒子に、本発明による上述のカルベン化合物を導入すると、金属ナノ粒子の表面に存在する金属‐硫黄結合が、金属‐カルベン結合に置換され、最終的に、カルベン‐金属ナノ粒子複合体が形成され得る。
【0042】
この際、前記金属ナノ粒子の表面に存在する金属‐硫黄結合を金属‐カルベン結合に置換する反応は、常温(20℃~30℃)で行われることができる。周知のとおり、金属‐カルベン結合が金属‐硫黄結合よりも結合力が強いことから、常温で1~10時間放置するだけでも置換反応が起こり得る。特に、
図17によると、前記金属が金(Au)の場合に、金‐硫黄結合(結合エネルギー:‐14.36Kcal/mol、結合長さ:2.60Å)よりも金‐カルベン結合の(結合エネルギー:‐63.55Kcal/mol、結合長さ:2.03Å)強度がより強いため、前記のように常温でも金属‐硫黄結合の金‐カルベン結合への置換が容易であり得る(Chem.Soc.Rev.2017 Apr 18;46(8):2057‐2075参照)。
【0043】
前記カルベン‐金属ナノ粒子複合体は、上記のように、末端に窒素基が露出した状態で存在することことから、以降、バイオプローブ部(生体物質)をより容易に結合することができるという利点がある。特に、金属‐硫黄結合とは異なり、金属‐カルベン結合の安定性によって、高濃度の塩(salt)条件、強酸または弱塩基条件、高温および超極低温(ultra low temperature)の様々な環境でも金属‐カルベン結合を維持することで、カルベン‐金属ナノ粒子複合体の凝集現象が生じないという効果がある。
【0044】
3.バイオセンサ
本発明は、上述のカルベン‐金属ナノ粒子複合体を含むバイオセンサを提供する。
【0045】
前記バイオセンサは、特に、金属ナノ粒子の粒子径、材質、形状、周辺環境によって色が変わり、これによって金属ナノ粒子の表面プラズモンバンド(surface plasmon band)が変化することを用いるナノバイオセンサであってもよいが、これに限定されるものではなく、携帯が容易に製造された現場診断用LFA(Lateral Flow Assay)診断キットであってもよく、その他にも、SERS(Surface‐Enhanced Raman Spectroscopy)ベースのバイオセンサ、Dark fieldベースのバイオセンサなどが適用され得る。
【0046】
この際、バイオセンサは、分析しようとする生体物質と特異的に結合するバイオプローブ部(例えば、抗体、DNA、アプタマー、プライマーなど)を基板または金属ナノ粒子に固定化することが重要である。
【0047】
前記バイオセンサで、本発明のカルベン‐金属ナノ粒子複合体は、バイオプローブ部を固定化する役割を果たすことができる。具体的には、本発明のカルベン‐金属ナノ粒子複合体は、末端に窒素含有官能基を含んでおり、クリック反応(click reaction)を用いて、窒素含有官能基にバイオプローブ部(例えば、抗体、DNA、アプタマー、プライマーなど)が付着され得る。これによって、通常、バイオプローブ部が金属ナノ粒子と静電気的な引力によって結合することとは異なり、バイオプローブ部が、金属ナノ粒子に、より強固な化学的結合で固定化され得ることから、これをバイオセンサなどの分野に適用する場合、製品の優れた貯蔵性および保管容易性、且つ様々な環境への適用性も高めることができるという利点がある。
【0048】
以下、好ましい実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0049】
しかし、これらの実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲はこれによって限定されるものではない。
【0050】
<製造例>カルベン化合物の製造
<製造例1>
【化4】
【0051】
上記のような反応式にしたがって、カルベン化合物1を製造した。
【0052】
図11にカルベン化合物1の
1H‐NMR分析結果を示した。
【0053】
【0054】
上記のような反応式にしたがって、カルベン化合物2を製造した。
【0055】
【0056】
上記のような反応式にしたがって、カルベン化合物3を製造した。
【0057】
図12にカルベン化合物3の
1H‐NMR分析結果を示した。
【0058】
【0059】
上記のような反応式にしたがって、カルベン化合物4を製造した。
【0060】
図13にカルベン化合物4の
1H‐NMR分析結果を示した。
【0061】
【0062】
上記のような反応式にしたがって、カルベン化合物5を製造した。
【0063】
図14にカルベン化合物5の
1H‐NMR分析結果を示した。
【0064】
【0065】
上記のような反応式にしたがって、カルベン化合物6を製造した。
【0066】
図15にカルベン化合物6の
1H‐NMR分析結果を示した。
【0067】
<実施例>カルベン金ナノ粒子複合体の製造
<実施例1>
【化10】
【0068】
先ず、末端にアジドが導入されたチオール‐PEG化合物を有機溶媒に分散した金ナノ粒子に入れ、金‐硫黄結合で製造された金ナノ粒子複合体(Au NPs Thiol)を製造した。
【0069】
以降、製造例1で製造したカルベン化合物1を入れ、金‐硫黄結合を金‐カルベン結合に置換し、カルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)を製造した。
【0070】
<比較例1>
下記の構造のような金ナノ粒子複合体を準備した。
【化11】
【0071】
<比較例2>
下記の構造のような金ナノ粒子複合体を準備した。
【化12】
【0072】
<実験例>
<実験例1>pH安定性実験
pH1~12の溶液をそれぞれ準備し、実施例1のカルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)、金ナノ粒子複合体(Au NPs Thiol)を浸漬し、溶液の色の変化を観察し、その結果を
図2に示した。
【0073】
<実験例2>塩安定性実験
<1>水、NaCl濃度10mM、50mM、100mM、250mM、500mM、1,000mMの水溶液を準備し、実施例1のカルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)、金ナノ粒子複合体(Au NPs Thiol)を浸漬し、溶液の色の変化を観察し、その結果を
図3に示した。
【0074】
<2>高濃度塩イオン水溶液での安定性を確認するために、1,000mMのNaCl水溶液に実施例1のカルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)、比較例2の金ナノ粒子複合体を浸漬し、溶液の色の変化を観察し、その結果を
図4に示した。
【0075】
<実験例3>温度安定性実験
<1>実施例1のカルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)が混合された-20℃の低温および-78℃の極低温の水溶液を準備し、常温で放置した後、1日後、3日後、5日後、7日後の溶液の色の変化を観察し、その結果を
図5に示した。
【0076】
<2>5nmの金ナノ粒子(Aldrich)と20nmの金ナノ粒子(BBI solution)を準備して水溶液を製造した後、それぞれ-20℃で冷却し、また、常温で5日間放置して水溶液の変化を観察し、その結果を
図6に示した。
【0077】
<実験例4>マラリア診断キット
実施例1のカルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)にマラリア抗体をクリック反応(click reaction)で導入し、マラリア診断キット(LFA)を製造した。
【0078】
100ng/ml、10ng/ml、1ng/mlのマラリア抗原試料を用いて診断テストを実施し、その結果を
図7に示した。
【0079】
<実験例5>pH安定性実験
pH1~12の溶液をそれぞれ準備し、実施例1のカルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)、比較例1の金ナノ粒子複合体を浸漬し、溶液の色の変化を観察し、その結果を
図8に示した。
【0080】
<実験例6>高温安定性実験
実施例1のカルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)、比較例1の金ナノ粒子複合体が入った水溶液をそれぞれ準備し、100℃で6時間放置した後、溶液の色の変化を観察し、その結果を
図9に示した。
【0081】
<実験例7>低温安定性実験
実施例1のカルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)、比較例1の金ナノ粒子複合体が入った水溶液をそれぞれ準備し、-20℃で6時間放置した後、溶液の色の変化を観察し、その結果を
図10に示した。
【0082】
前記実験例1および実験例5によると、チオール‐PEGが結合した金ナノ粒子(Au NPs Thiol)および金ナノ粒子(Au NPs)は、強酸、強塩基の条件で、金ナノ粒子に結合したリガンドが離れることによって金ナノ粒子の凝集現象で紫色を示す一方、本発明によるカルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)は、pH全領域で金ナノ粒子が凝集せず安定して維持されること(pH全領域で色の変化なし)を確認することができた。
【0083】
前記実験例2の<1>および<2>によると、チオール‐PEGが結合した金ナノ粒子(Au NPs Thiol)および金ナノ粒子(Au NPs)は、それぞれ50mM、100mMの濃度付近から金ナノ粒子に結合したリガンドが離れることによって金ナノ粒子の凝集現象で赤黒い色を示す一方、本発明によるカルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)は、NaCl塩の全濃度領域(0~1,000mM)で金ナノ粒子が凝集せず安定して維持されることを確認することができた。
【0084】
実験例3の<1>、実験例6、実験例7によると、金‐硫黄結合で導入された金ナノ粒子は、高温(70℃)および低温(-20℃)で金ナノ粒子に結合したリガンドが離れることによって金ナノ粒子の凝集現象で紫色を示す一方、本発明によるカルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)は、高温(100℃)、低温(-20℃)、極低温(-78℃)でも金ナノ粒子が凝集せず安定して維持されることを確認することができた。
【0085】
一方、実験例3の<2>によると、対照群として金ナノ粒子の場合、低温(-20℃)では、数分から数時間内に金ナノ粒子が凝集して沈殿する現象を確認することができた。
【0086】
実験例4によると、本発明によるカルベン金ナノ粒子複合体(Au NPs Carbene)を適用したマラリア診断キットで、10ng/mlの低い濃度でも診断が可能であることを確認することができた。