(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】窒化ジルコニウム膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/076 20060101AFI20230118BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20230118BHJP
C08K 5/544 20060101ALI20230118BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230118BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230118BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20230118BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230118BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20230118BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20230118BHJP
【FI】
C01B21/076 Z
C08K3/28
C08K5/544
C08L63/00 C
C08L101/00
C09D7/62
C09D7/63
C09D133/00
C09D163/00
(21)【出願番号】P 2018146497
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222559(JP,A)
【文献】特表平08-504396(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037913(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/066296(WO,A1)
【文献】特開2008-222903(JP,A)
【文献】特開2005-255802(JP,A)
【文献】特開2012-184297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/076
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
C09D 133/00
C09D 163/00
C23C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(a)と、下記式(1)で表されるアミノ基を含むシラン化合物(b)と、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)と、第1有機溶媒とを質量比で(b)/(a)=0.1~3.0及び(c)/(a)=0.01~1.5の割合で混合した混合液に、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有
せず、かつ、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、波長550nmの光透過率が12%以下である窒化ジルコニウム粉末(d)を質量比で((a)+(b)+(c))/(d)=0.01~0.25の割合で添加して分散液を調製し、前記分散液にバインダ(e)と第2有機溶媒とを質量比で(d)/((a)+(b)+(c)+(d)+(e))=0.5~0.8の割合で混合した液組成物を調製し、前記液組成物を基材上に塗布乾燥し前記第1及び第2有機溶媒を除去して窒化ジルコニウム膜を製造する
窒化ジルコニウム膜の製造方法。
R
(4ーn)-Si-(OR’)
n (1)
但し、式中、Rはアミノ基含有の有機基を表し、R’はメチル基、エチル基又はプロピル基を表し、nは1~3から選択される整数を表す。
【請求項2】
前記シラン化合物(b)が、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン及びN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種のシラン化合物である、請求項
1記載の
窒化ジルコニウム膜の製造方法。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂(a)が、ビスフェノールA型又はビスフェノールF型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂及びポリグリコール型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂である、請求項
1記載の
窒化ジルコニウム膜の製造方法。
【請求項4】
前記バインダ(e)がエポキシ樹脂又はアクリル樹脂である請求項
1記載の
窒化ジルコニウム膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性と高い遮光性を有し、かつ耐光性と耐湿性を兼備した耐候性に優れ、膜の外観が良好であって、黒色パターニング膜として好適に用いられる窒化ジルコニウム膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の黒色パターニング膜を形成するための原料である黒色顔料として、カーボンブラックが知られている。しかしカーボンブラックは導電性があるため、絶縁性が要求される用途には向かない。
【0003】
本出願人は、絶縁性の高い黒色顔料として好適に用いられる窒化ジルコニウム粉末を提案した(例えば、特許文献1(要約、請求項3)参照。)。この窒化ジルコニウム粉末は、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸化ジルコニウムのピークを有さず、黒色顔料として黒色パターニング膜を形成するときに高解像度のパターニング膜を形成するとともに形成したパターニング膜が高い遮光性能を有する特長がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される窒化ジルコニウム粉末は、窒素ガス単体、又は窒素ガスと水素ガスの混合ガス、又は窒素ガスとアンモニアガスの混合ガスの雰囲気下で、二酸化ジルコニウム粉末と金属マグネシウム粉末と窒化マグネシウム粉末の混合物を焼成して製造するため、この窒化ジルコニウム粉末を黒色顔料として、黒色パターニング膜を形成したときに、この黒色パターニング膜を大気雰囲気下で使用すると、耐候性が不十分であって、遮光性能が劣化し易く、未だ改善する余地があった。
【0006】
本発明の目的は、絶縁性と高い遮光性を有し、かつ耐光性と耐湿性を兼備した耐候性に優れ、膜の外観が良好である窒化ジルコニウム膜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、窒化ジルコニウム膜のX線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有さず、かつ前記窒化ジルコニウム膜を温度60℃、湿度90%の条件で100時間高温耐湿試験を行ったときに、試験前と試験後の膜の表面抵抗率がそれぞれ5×1013Ω/cm2以上であり、かつ540J/cm2のUV照射光にて処理した後の膜の表面抵抗率が5×1013Ω/cm2以上であり、膜厚1.0μmのOD値が2.4以上であることを特徴とする窒化ジルコニウム膜である。
【0008】
本発明の第2の観点は、エポキシ樹脂(a)と、下記式(1)で表されるアミノ基を含むシラン化合物(b)と、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)と、第1有機溶媒とを質量比で(b)/(a)=0.1~3.0及び(c)/(a)=0.01~1.5の割合で混合した混合液に、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有せず、かつ、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、波長550nmの光透過率が12%以下である窒化ジルコニウム粉末(d)を質量比で((a)+(b)+(c))/(d)=0.01~0.25の割合で添加して分散液を調製し、前記分散液にバインダ(e)と第2有機溶媒とを質量比で(d)/((a)+(b)+(c)+(d)+(e))=0.5~0.8の割合で混合した液組成物を調製し、前記液組成物を基材上に塗布乾燥し前記第1及び第2有機溶媒を除去して窒化ジルコニウム膜を製造する方法である。
R(4ーn)-Si-(OR’)n (1)
但し、式中、Rはアミノ基含有の有機基を表し、R’はメチル基、エチル基又はプロピル基を表し、nは1~3から選択される整数を表す。
【0009】
本発明の第3の観点は、第2の観点に基づく発明であって、前記シラン化合物(b)が、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン及びN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種のシラン化合物である窒化ジルコニウム膜の製造方法である。
【0010】
本発明の第4の観点は、第2の観点に基づく発明であって、前記エポキシ樹脂(a)が、ビスフェノールA型又はビスフェノールF型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂及びポリグリコール型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂である窒化ジルコニウム膜の製造方法である。
【0011】
本発明の第5の観点は、第2の観点に基づく発明であって、前記バインダ(e)がエポキシ樹脂又はアクリル樹脂である窒化ジルコニウム膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の観点の窒化ジルコニウム膜は、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有しないため、膜厚1.0μmのOD値が2.4以上であり、遮光性に優れ、絶縁性に優れる。また窒化ジルコニウム膜を温度60℃、湿度90%の条件で100時間高温耐湿試験を行ったときに、試験前と試験後の膜の表面抵抗率がそれぞれ5×1013Ω/cm2以上であり、かつ540J/cm2のUV照射光にて処理した後の膜の表面抵抗率が5×1013Ω/cm2以上であり、耐湿性及び耐光性に優れる。
【0013】
本発明の第2の観点の窒化ジルコニウム膜の製造方法では、エポキシ樹脂(a)と、所定の構造式のアミノ基を含むシラン化合物(b)と、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)と、第1有機溶媒とを所定の質量比で混合し、この混合液に所定の窒化ジルコニウム粉末(d)を所定の質量比で添加して分散液を調製し、この分散液にバインダ(e)と第2有機溶媒とを所定の質量比で混合して液組成物を調製し、この液組成物を基材上に塗布乾燥し第1及び第2有機溶媒を除去して窒化ジルコニウム膜を製造する。このため、製造された窒化ジルコニウム膜は、耐光性と耐湿性を兼備した耐候性に優れ、膜の外観が良好となる。また黒色パターニング膜として使用したときに高い遮光性能を有する。
【0014】
本発明の第3の観点の窒化ジルコニウム膜の製造方法では、前記シラン化合物(b)が所定のシラン化合物であるため、このシラン化合物がエポキシと反応することで、化学的結合の効果が得られ、この結果、窒化ジルコニウム膜に絶縁性が得られる。
【0015】
本発明の第4の観点の窒化ジルコニウム膜の製造方法では、前記エポキシ樹脂(a)が所定のエポキシ樹脂であるため、このエポキシ樹脂は窒化ジルコニウム粉末とシラン化合物とが均一に混ざり合い、この結果、窒化ジルコニウム膜は所定の隠蔽性と絶縁性を両立した膜になる。
【0016】
本発明の第5の観点の窒化ジルコニウム膜の製造方法では、前記バインダ(e)がエポキシ樹脂又はアクリル樹脂であるため、窒化ジルコニウム膜は所定の隠蔽性と絶縁性を両立した膜になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例1と比較例1でそれぞれ得られた窒化ジルコニウム膜のX線回折プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0019】
[原料粉末である窒化ジルコニウム粉末]
本実施形態の原料粉末である窒化ジルコニウム粉末は、粉末L値が15未満であり、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有しない特徴がある。これにより、窒化ジルコニウム粉末は、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、370nmの光透過率Xが少なくとも18%、すなわち、18%以上であり、550nmの光透過率Yが12%以下である。光透過率Xが18%未満では、窒化ジルコニウム膜をパターニング膜として形成するときにフォトレジスト膜の底部まで露光されず、パターニング膜のアンダーカットが発生する。また光透過率Yが12%を超えると、形成したパターニング膜の遮光性が不足し、後述する高いOD値が得られない。好ましい光透過率Xは19%以上であり、好ましい光透過率Yは8%以下である。この粉末のX線回折プロファイル特性は、窒化ジルコニウム膜にしたときも不変である。
【0020】
上記光透過率Xと光透過率Yの二律背反的な特性を考慮して、本実施形態の原料粉末である窒化ジルコニウム粉末は、370nmの光透過率Xに対する前記550nmの光透過率Y(X/Y)が2.5以上であることが好ましく、3.0以上であることが更に好ましい。X/Yが2.5以上であることにより、紫外線透過の効果があり、パターニング膜のアンダーカットを発生しないことが優先されるからである。
【0021】
原料粉末である窒化ジルコニウム粉末は、BET法により測定される比表面積が20m2/g~90m2/gであることが好ましい。窒化ジルコニウム粉末の上記比表面積が20m2/g以下では、黒色レジストとしたときに、長期保管時に顔料が沈降し易いからであり、90m2/gを超えると、黒色顔料としてパターニング膜を形成したときに、遮光性が不足し易い。30m2/g~60m2/gがより好ましい。表面処理される前の窒化ジルコニウム粉末は、例えば特許文献1に示される方法で製造される。この方法では、窒化ジルコニウム粉末は、二酸化ジルコニウム粉末又はシリカがコーティングされた二酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウム粉末と、窒化マグネシウム粉末とを、金属マグネシウムが二酸化ジルコニウムの2.0倍モル~6.0倍モルの割合になるように、かつ窒化マグネシウムが二酸化ジルコニウムの0.3倍モル~3.0倍モルの割合になるように混合して混合物を得た後、前記混合物を窒素ガス単独、又は窒素ガスと水素ガスの混合ガス、又は窒素ガスとアンモニアガスの混合ガスの雰囲気下、650℃~900℃の温度で焼成して、前記二酸化ジルコニウム粉末を還元することにより、製造される。
【0022】
[窒化ジルコニウム膜の製造方法]
製造された窒化ジルコニウム膜の遮光性(透過率の減衰)を表す指標として光学濃度、即ちOD(Optical Density)値が知られている。本実施形態の製造された窒化ジルコニウム膜は高いOD値を有する。ここでOD値は、光が窒化ジルコニウム膜を通過する際に吸収される度合を対数で表示したものであって、次の式(2)で定義される。式(2)中、Iは透過光量、I0は入射光量である。
OD値=-log10(I/I0) (2)
【0023】
本実施形態の窒化ジルコニウム膜を製造するために、先ず、エポキシ樹脂(a)と、上述した式(1)で表されるアミノ基を含むシラン化合物(b)と、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)と、第1有機溶媒とを用意する。
【0024】
本実施形態のエポキシ樹脂(a)としては、ビスフェノールA型又はビスフェノールF型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂等が例示される。このエポキシ樹脂は単独で使用することも、また2種以上で併用することもできる。これらのエポキシ樹脂は窒化ジルコニウム粉末とシラン化合物とが均一に混ざり合うことができるので、好ましい。その中でもビスフェノールA型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が、製造された窒化ジルコニウム膜に対して、隠蔽力を維持しながら、耐候性を付与しやすいため、特に好ましい。
【0025】
本実施形態のアミノ基を含むシラン化合物(b)としては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(上述した式(1)のn=3)、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(同じくn=3)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン(同じくn=3)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン(同じくn=2)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(同じくn=3)等が例示される。このシラン化合物は単独で使用することも、また2種以上で併用することもできる。これらのシラン化合物はエポキシ樹脂のエポキシ基との反応により、化学的結合が生じるため、好ましい。その中でもγ-アミノプロピルトリメトキシシランが、製造された窒化ジルコニウム膜に対して、隠蔽力を維持しながら、耐候性を付与しやすいため、特に好ましい。
【0026】
本実施形態のシリコンアルコキシド又はその縮合物(c)としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等の4つのアルコキシ基を有するテトラアルコキシシラン類、及びモノメチルトリアルコシキシラン、モノフェニルトリアルコキシシラン等の3つのアルコキシ基と1つのアルキル基又はアリ-ル基を有するトリアルコキシシラン類、もしくはそれらの混合物、更にはこれらのシリコンアルコキシドを部分加水分解・重縮合させたもののうち、第1有機溶媒に溶解もしくは均質懸濁するものが用いられる。このシリコンアルコキシドとその縮合物(c)は単独で使用することも、また2種以上で併用することもできる。
【0027】
本実施形態のシリコンアルコキシドの縮合物の平均重合度としては2~10が好ましく、予め調製したものを用いても、又は均質な混合液中で調製してもよい。またシリコンアルコキシド又はその縮合物(c)の沸点が第1有機溶媒の沸点より高いものを用いることは特に好ましい。
【0028】
またシリコンアルコキシド又はその縮合物(c)として、第1有機溶媒を分散溶媒とするシリカゾルを用いることも可能である。具体的には、例えば、メタノ-ル、メチルセルソルブ等に分散されたシリカゾルが挙げられる。本実施形態では、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)とともに、例えば、チタンアルコキシド、アルミニウムアルコシキド、ジルコニウムアルコシキドなどの他の金属アルコキシドを少量用いてもよい。
【0029】
本実施形態の第1有機溶媒としては、エポキシ樹脂(a)とアミノ基を含むシラン化合物(b)とシリコンアルコキシド又はその縮合物(c)とともに溶解もしくは均質懸濁することができるものが用いられる。また、第1有機溶媒の沸点が、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)の沸点より低いものは特に好ましく用いられる。
【0030】
本実施形態の第1有機溶媒としては、メタノ-ル、エタノ-ル、プロパノ-ル、シクロヘキサノ-ル、フェノ-ル、エチレングリコ-ル、アセトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、キノリン、アニソ-ル、ジメチルエ-テル、ジメチルスルホオキシド、メチルセルソルブ、3-メトキシ-3-メチルブタノールなどが用いられる。
【0031】
次に、用意したエポキシ樹脂(a)と、上述した式(1)で表されるアミノ基を含むシラン化合物(b)と、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)と、第1有機溶媒とを混合して混合液を調製する。エポキシ樹脂(a)を含むことにより、製造された窒化ジルコニウム膜には耐湿性と耐光性の効果を生じる。またアミノ基を含むシラン化合物を含むことにより、製造された窒化ジルコニウム膜にはエポキシ樹脂との反応効果と、シリコンアルコキシドとの結合効果を生じる。更にシリコンアルコキシド又はその縮合物を含むことにより、製造された窒化ジルコニウム膜には電気的絶縁性の効果を生じる。エポキシ樹脂(a)とアミノ基を含むシラン化合物(b)とを混合する比率は、質量比で(b)/(a)=0.1~3.0の割合である。(b)/(a)が0.1未満であると、エポキシ樹脂中のエポキシ基とアミノ基を含むシランの反応が少ないため、フリーのエポキシ樹脂が多く存在し、このため製造された窒化ジルコニウム膜の表面抵抗率とOD値を両立することができない。即ち、製造された窒化ジルコニウム膜の表面抵抗率が5×1013Ω/cm2以上に高めようとすると、膜厚1.0μmのOD値が2.3以下となる。(b)/(a)が3.0を超えると、フリーのアミノシランが多く存在し、このため製造された窒化ジルコニウム膜をUV照射した後の膜の表面抵抗率が5×1013Ω/cm2以上にならず、耐光性に劣る。また膜の表面に凝集粒が発生し、膜の外観が不良になる。(b)/(a)は0.2~2.5であることが好ましい。
【0032】
またエポキシ樹脂(a)とシリコンアルコキシド又はその縮合物(c)とを混合する比率は、質量比で(c)/(a)=0.01~1.5の割合である。(c)/(a)が0.01未満であると、シリコンアルコキシドがエポキシ樹脂に対して少な過ぎるため、製造された窒化ジルコニウム膜の表面抵抗率とOD値を両立することができない。即ち、製造された窒化ジルコニウム膜の表面抵抗率が5×1013Ω/cm2以上に高めようとすると、膜厚1.0μmのOD値が2.3以下となる。また膜の外観も不良になる。(c)/(a)が1.5を超えると、シリコンアルコキシドがエポキシ樹脂に対して多過ぎるため、即ち金属酸化物の割合が高くなり過ぎるため、製造された窒化ジルコニウム膜にUV光を照射した後の膜の表面抵抗率が5×1013Ω/cm2以上にならず、耐光性に劣る。また膜の外観も不良になる。(c)/(a)は0.02~1.3であることが好ましい。また第1有機溶媒は、上記(a)、(b)及び(c)の固形分100質量%に対して50質量%~500質量%加えることが好ましい。
【0033】
得られた混合液に、上述した窒化ジルコニウム粉末(d)を添加混合して分散液を調製する。添加する比率は、質量比で((a)+(b)+(c))/(d)=0.01~0.25の割合である。((a)+(b)+(c))/(d)が0.01未満であると、製造された窒化ジルコニウム膜の表面抵抗率とOD値を両立することができない。即ち、製造された窒化ジルコニウム膜の表面抵抗率が5×1013Ω/cm2以上に高めようとすると、膜厚1.0μmのOD値が2.3以下となる。また膜の外観も不良になる。(a)+(b)+(c))/(d)が0.25を超えると、製造された窒化ジルコニウム膜の膜厚1.0μmのOD値が2.3以下となる。また膜の外観も不良になる。((a)+(b)+(c))/(d)は0.02~0.23であることが好ましい。
【0034】
調製した分散液にバインダ(e)と第2有機溶媒とを質量比で(d)/((a)+(b)+(c)+(d)+(e))=0.5~0.8の割合で混合した液組成物を調製する。第2有機溶媒は、各成分が良好に分散した液組成物になるように、また基材への液組成物の塗工性を考慮して、液組成物100質量%に対して10質量%~95質量%加えることが好ましい。第2有機溶媒の添加量が上記範囲外であると、製造された窒化ジルコニウム膜の外観が不良になり、OD値も低くなる。高いOD値を得るためには、窒化ジルコニウム粉末(d)を高濃度で添加する必要がある。窒化ジルコニウム粉末(d)は液組成物中で良好に分散している必要がある。
【0035】
バインダ(e)としては、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂が好ましい。また第2有機溶媒としては、メタノ-ル、エタノ-ル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、フェノール、キシレン、トルエン、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル(以下、PGMEAという。)等が挙げられる。調製した液組成物を基材上に塗布乾燥した後、第1及び第2有機溶媒を除去することにより窒化ジルコニウム膜が得られる。基材としては、ガラス、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル、芳香族アミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等が挙げられる。また第1及び第2有機溶媒を除去する方法としては、例えば乾燥機等を用いて乾燥する方法が挙げられる。
【0036】
[製造された窒化ジルコニウム膜]
本実施形態の製造された後の窒化ジルコニウム膜は、膜のX線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有しない。また窒化ジルコニウム膜を温度60℃、湿度90%の条件で100時間高温耐湿試験を行ったときに、試験前と試験後の膜の表面抵抗率がそれぞれ5×1013Ω/cm2以上であり、かつ540J/cm2のUV照射光にて処理した後の膜の表面抵抗率が5×1013Ω/cm2以上であり、膜厚1.0μmのOD値が2.4以上である特徴を有する。
【0037】
〔窒化ジルコニウム膜を黒色パターニング膜として形成する方法〕
本実施形態の窒化ジルコニウム膜をブラックマトリックスに代表されるパターニング膜として形成する方法について述べる。先ず、上述した液組成物に感光性樹脂を含ませて黒色感光性組成物に調製する。次いでこの黒色感光性組成物を基板上に塗布した後、プリベークを行って溶剤を蒸発させて、フォトレジスト膜を形成する。次にこのフォトレジスト膜にフォトマスクを介して所定のパターン形状に露光したのち、アルカリ現像液を用いて現像して、フォトレジスト膜の未露光部を溶解除去し、その後好ましくはポストベークを行うことにより、所定の黒色パターニング膜が形成される。
【0038】
上記基板としては、例えば、ガラス、シリコン、ポリカーボネート、ポリエステル、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等を挙げることができる。また上記基板には、所望により、シランカップリング剤等による薬品処理、プラズマ処理、イオンプレーティング、スパッタリング、気相反応法、真空蒸着等の適宜の前処理を施しておくこともできる。黒色感光性組成物を基板に塗布する際には、回転塗布、流延塗布、ロール塗布等の適宜の塗布法を採用することができる。塗布厚さは、乾燥後の膜厚として、通常、0.1μm~10μm、好ましくは0.2μm~7.0μm、更に好ましくは0.5μm~6.0μmである。パターニング膜を形成する際に使用される放射線としては、本実施形態では、波長が250nm~370nmの範囲にある放射線が好ましい。放射線の照射エネルギー量は、好ましくは10J/m2~10,000J/m2 である。また上記アルカリ現像液としては、例えば、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、コリン、1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ-[4.3.0]-5-ノネン等の水溶液が好ましい。上記アルカリ現像液には、例えばメタノール、エタノール等の水溶性有機溶剤や界面活性剤等を適量添加することもできる。なお、アルカリ現像後は、通常、水洗する。現像処理法としては、シャワー現像法、スプレー現像法、ディップ(浸漬)現像法、パドル(液盛り)現像法等を適用することができ、現像条件は、常温で5~300秒が好ましい。このようにして形成されたパターニング膜は、高精細の液晶、有機EL用ブラックマトリックス材、イメージセンサー用遮光材等の光学部材用遮光材、遮光フィルター、IRカットフィルター等に好適に用いられる。
【実施例】
【0039】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0040】
(実施例及び比較例で用いるエポキシ樹脂(a))
実施例1~17及び比較例1、3~10において使用されるエポキシ樹脂(a)を表1に示す。
【0041】
【0042】
(実施例及び比較例で用いるアミノ基を含むシラン化合物(b))
実施例1~17及び比較例1、3~10において使用されるアミノ基を含むシラン化合物(b)を表2に示す。
【0043】
【0044】
(実施例及び比較例で用いるシリコンアルコキシド又はその縮合物(c))
実施例1~17及び比較例1、3~10において使用されるシリコンアルコキシド又はその縮合物(c)を表3に示す。
【0045】
【0046】
(実施例及び比較例で用いる窒化ジルコニウム粉末(d))
実施例1~17及び比較例1~10において使用される窒化ジルコニウム粉末(d)を表4に示す。
【0047】
【0048】
(実施例及び比較例で用いるバインダ(e))
実施例1~17及び比較例1~10において使用されるバインダ(e)を表5に示す。
【0049】
【0050】
<実施例1>
先ず、特許文献1の実施例1に記載された窒化ジルコニウム粉末を用意した。即ち、BET法により測定される比表面積から算出される平均一次粒径が50nmの単斜晶系二酸化ジルコニウム粉末7.4gに、平均一次粒径が150μmの金属マグネシウム粉末7.3gと平均一次粒径が200nmの窒化マグネシウム粉末3.0gを添加し、石英製ガラス管に黒鉛のボートを内装した反応装置により均一に混合した。このとき金属マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムの5.0倍モル、窒化マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムの0.5倍モルであった。この混合物を窒素ガスの雰囲気下、700℃の温度で60分間焼成して焼成物を得た。この焼成物を、1リットルの水に分散し、10%塩酸を徐々に添加して、pHを1以上で、温度を100℃以下に保ちながら洗浄した後、25%アンモニア水にてpH7~8に調整し、濾過した。その濾過固形分を水中に400g/リットルに再分散し、もう一度、前記と同様に酸洗浄、アンモニア水でのpH調整をした後、濾過した。このように酸洗浄-アンモニア水によるpH調整を2回繰り返した後、濾過物をイオン交換水に固形分換算で500g/リットルで分散させ、60℃での加熱攪拌とpH7への調整をした後、吸引濾過装置で濾過し、更に等量のイオン交換水で洗浄し、設定温度;120℃の熱風乾燥機にて乾燥することにより、窒化ジルコニウム粉末(d)を用意した。
【0051】
次いで、アミノ基を含むシラン化合物(b)として3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、KBM-903)2.0gに、シリコンアルコキシド(c)として平均重合度が4のテトラメトキシシラン(三菱ケミカル社製、MKシリケート51)1.0gと、第1有機溶媒として3-メトキシ-3-メチルブタノール150.0gとを混合し、更にエポキシ樹脂(a)としてビスフェノールA型のエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、jER828)10.0gを添加して、室温で10分間撹拌混合して混合液を用意した。この混合液では、(b)/(a)=0.2、(c)/(a)=0.1であった。
【0052】
次に、この混合液に、上記用意した窒化ジルコニウム粉末(d)130gを添加して、室温で10分間撹拌した後、ビーズミル(アシザワ社製、ラボスターミニ)でビースミルの出口温度を40℃に維持して、窒化ジルコニウム粉末の分散液を得た。この分散液では、((a)+(b)+(c))/(d)=0.1であった。この分散液の総固形分は48.6質量%であり、窒化ジルコニウム濃度は44.3質量%であった。一方、バインダ(e)としてのエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、jER828)73.6gと第2有機溶媒としてのPGMEA217gとを混合してバインダ液を調製した。上記分散液に上記バインダ液を添加し、室温にて10分間混合して液組成物を調製した。ここで、(d)/((a)+(b)+(c)+(d)+(e))は質量比で0.6であった。たて100mm、よこ100mm、厚さ1mmのガラス基板上に、得られた液組成物1gをスピンコーターで1500rpm、90秒間スピンコーティングした後、大気雰囲気下、塗膜を120℃で30分間加熱して、窒化ジルコニウム膜を得た。
【0053】
<実施例2~17及び比較例3~10>
実施例2~17及び比較例3~10では、実施例1と同一の窒化ジルコニウム粉末を用いた。以下の表6に示すように、エポキシ樹脂(a)、アミノ基を含むシラン化合物(b)、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)及びバインダ(e)の種類を実施例1と同一にするか、又は変更し、各質量比を実施例1と同一にするか、又は変更した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例2~17及び比較例3~10の窒化ジルコニウム膜を得た。
【0054】
【0055】
<比較例1>
窒化ジルコニウム粉末として、特許文献1の比較例1に記載された微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体からなる窒化ジルコニウム粉末を用意した。即ち、平均一次粒径が19nmの二酸化ジルコニウム粉末7.2gと、平均一次粒径が20nmの微粒子酸化マグネシウム3.3gを混合粉砕して混合粉体Aを得た。この混合粉体0.5gに平均一次粒径が150μmの金属マグネシウム粉末2.1gを加えて混合し混合粉体Bを得た。このとき金属マグネシウムと酸化マグネシウムの添加量はそれぞれ二酸化ジルコニウムの1.4倍モル、1.4倍モルであった。この混合粉体Bを窒素ガスの雰囲気下、700℃の温度で60分間焼成した。以下、実施例1と同様にして、微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体からなる窒化ジルコニウム粉末を得た後、実施例1と同様にして、窒化ジルコニウム膜を得た。
【0056】
<比較例2>
比較例2では、実施例1と同じ窒化ジルコニウム粉末を用いたが、エポキシ樹脂(a)、アミノ基含有シラン化合物(b)、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)、バインダ(e)等と混合することなく、窒化ジルコニウム膜を得た。
【0057】
<比較試験と評価>
実施例1~17、比較例1~10で得られた窒化ジルコニウム膜をそれぞれ試料として、以下に詳述する方法で、(1) X線回折プロファイル、(2) 膜厚0.1μmのOD値(以下、単にOD値ということもある。)、(3) 膜の外観、(4) 高温耐湿試験前後の膜の表面抵抗率及び (5) UV光を照射した後の膜の表面抵抗率をそれぞれ測定又は算出した。それぞれの測定結果又は算出結果を以下の表7に示す。
【0058】
(1) X線回折プロファイル: 実施例1と比較例1の試料について、X線回折装置(リガク社製、型番MiniflexII)により、CuKα線を用いて印加電圧45kV,印加電流40mAの条件にて、θ-2θ法でX線回折プロファイルからX線回折分析を行った。そのX線回折プロファイルから、窒化ジルコニウムのピーク(2θ=33.95°、39.3°)、二酸化ジルコニウムのピーク(2θ=30.2°)及び低次酸化ジルコニウム又は低次酸窒化ジルコニウムのピーク(2θ=30.5°、35.3°)の有無を調べた。
図1にX線回折プロファイルを示す。
図1において、「ZrN」は窒化ジルコニウムを、「Zr
2N
2O」は低次酸窒化ジルコニウムをそれぞれ意味する。
【0059】
(2) OD値:光学濃度計(361TVisual;X-Rite社製)を用いて、遮光性OD値を測定した。また走査型レーザー顕微鏡(LEXT OLS4500:オリンパス社製)にて、膜厚を測定することで、1μm当りのOD値を算出した。
【0060】
(3) 膜の外観:黙視により窒化ジルコニウム膜の表面を観察し、膜表面に凝集粒がなく平滑である膜を「良好」とし、膜表面に凝集粒が存在する膜を「不良」と判定した。
【0061】
(4) 高温耐湿試験前後の膜の表面抵抗率:試料を温度60℃、湿度90%に設定した恒温恒湿器に100時間入れ、高温耐湿試験を行った。試験前と試験後の各膜の表面抵抗率を三菱ケミカルアナリテック社製ハイレスタ(型番:MCP-HT800)を用いて、電圧1000Vで測定した。
【0062】
(5) UV光を照射した後の膜の表面抵抗率:岩崎電機社製のSUV-W161を用いて、150mW/cm2のUV光を試料に照射した後、上記(3)と同様にして、UV光を試料に照射した後の膜の表面抵抗率を算出した。
【0063】
【0064】
図1及び表7から明らかなように、比較例1の試料は、高温耐湿試験前後の膜の表面抵抗率(以下、第1表面抵抗率という。)及び540J/cm
2のUV光を照射した後の膜の表面抵抗率(以下、第2表面抵抗率という。)がそれぞれ5×10
13Ω/cm
2以上であり、耐候性に優れていた。しかし、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピーク(2θ=33.95°、39.3°)のみならず、低次酸窒化ジルコニウムのピーク(2θ=30.5°、35.3°)を有した。この結果、OD値は2.0となり、窒化ジルコニウム膜が十分な遮光性を有しなかった。なお膜の外観は良好であった。これに対して実施例1の試料は、第1及び第2表面抵抗率がそれぞれ5×10
13Ω/cm
2以上であり、耐湿性及び耐光性に優れていたことに加えて、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸化ジルコニウム又は低次酸窒化ジルコニウムのピークを有しなかったため、OD値は3.2であり、窒化ジルコニウム膜が十分な遮光性を有していた。また膜の外観は良好であった。
【0065】
比較例2では、用いた試料が実施例1と同一ではあるが、エポキシ樹脂(a)、アミノ基含有シラン化合物(b)、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)、バインダ(e)等と混合することなく製造した窒化ジルコニウム膜であって、バインダ成分がないため、粉末の密着性が得られないことから、膜の外観は不良であり、OD値は2.3と低くかった。また高温耐湿試験前の第1表面抵抗率が6.0×1013Ω/cm2と高かったが、高温耐湿試験後の第1表面抵抗率が1.0×1013Ω/cm2であり、また第2表面抵抗率が8.0×1012Ω/cm2であり、いずれの表面抵抗率も低く、耐湿性及び耐光性に劣っていた。
【0066】
比較例3では、(b)/(a)が0.05と低く、エポキシ樹脂に比べてアミノ基含有シラン化合物が少な過ぎたため、窒化ジルコニウム膜中に未反応のエポキシ樹脂が多く存在し、膜の外観が不良であって、OD値が2.0と低く、高温耐湿試験前の第1表面抵抗率が5.0×1013Ω/cm2と高かったが、高温耐湿試験後の第1表面抵抗率が7.0×1012Ω/cm2であり、また第2表面抵抗率が3.0×1013Ω/cm2であり、いずれの表面抵抗率も低く、耐湿性及び耐光性に劣っていた。
【0067】
比較例4では、(b)/(a)が3.3と高く、エポキシ樹脂に比べてアミノ基含有シラン化合物が多過ぎたため、表面処理された窒化ジルコニウム粉末中に未反応のアミノ基含有シランが多く存在し、高温耐湿試験前後の第1表面抵抗率がともに1×1014Ω/cm2であって、耐湿性は良好であったが、フリーのアミノシランが多く、エポキシ樹脂の比率が低かったため、OD値が2.4と高いものの、第2表面抵抗率が3.0×1013Ω/cm2となり、耐光性に劣っていた。膜の外観は良好であった。
【0068】
比較例5では、(c)/(a)が0.005と低く、エポキシ樹脂に比べてシリコンアルコキシドが少な過ぎたため、膜の外観が不良であって、OD値が2.0と低く、高温耐湿試験前の第1表面抵抗率が5.0×1013Ω/cm2と高かったが、高温耐湿試験後の第1表面抵抗率が8.0×1012Ω/cm2であり、また第2表面抵抗率が3.0×1013Ω/cm2であり、いずれの表面抵抗率も低く、耐湿性及び耐光性に劣っていた。
【0069】
比較例6では、(c)/(a)が1.8と高く、エポキシ樹脂に比べてシリコンアルコキシドが多過ぎたため、高温耐湿試験前後の第1表面抵抗率がともに2×1014Ω/cm2であって、耐湿性は良好であったが、シリコンアルコキシドの比率が高いことによる金属酸化物の比率が高くなったため、OD値が2.3と低く、第2表面抵抗率が4.0×1013Ω/cm2となり、耐光性に劣っていた。膜の外観は良好であった。
【0070】
比較例7では、((a)+(b)+(c))/(d)が0.005と低く、窒化ジルコニウム粉末に対して他の成分が少な過ぎ、窒化ジルコニウム膜の改質効果がなく、膜の外観は不良であって、OD値が2.0と低く、第1及び第2表面抵抗率が5×1013Ω/cm2以上にならず、耐湿性及び耐光性に劣っていた。
【0071】
比較例8は、((a)+(b)+(c))/(d)が0.3と高く、窒化ジルコニウム粉末に対して他の成分が多過ぎたため、第1及び第2表面抵抗率が5×1013Ω/cm2以上となり、耐湿性及び耐光性に優れていたが、OD値が2.0と低かった。膜の外観は良好であった。
【0072】
比較例9は、(d)/((a)+(b)+(c)+(d)+(e))が0.45と低く、膜中の窒化ジルコニウム成分が低いため、第1及び第2表面抵抗率が5×1013Ω/cm2以上となり、耐湿性及び耐光性に優れていたが、OD値が2.3と低かった。膜の外観は良好であった。
【0073】
比較例10は、(d)/((a)+(b)+(c)+(d)+(e))が0.85と高く、膜中の窒化ジルコニウム成分が高過ぎたため、ジルコニウム成分の密着性が悪かった。これにより、第1及び第2表面抵抗率が5×1013Ω/cm2以上となり、耐湿性及び耐光性に優れていたが、OD値が2.0と低く、また膜の外観が不良であった。
【0074】
これに対して、実施例1~15の試料は、本発明の第1の観点の要件を満たしているため、膜厚1.0μmのOD値が2.4以上であって可視光の遮光性能が高く、紫外線を透過するためパターニングに有利であることに加え、第1及び第2表面抵抗率は5×1013Ω/cm2以上であり、耐光性及び耐湿性の双方に優れ、耐候性を有し、また膜の外観も良好であることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の窒化ジルコニウム膜は、高精細の液晶、有機EL用ブラックマトリックス材、イメージセンサー用遮光材等の光学部材用遮光材、遮光フィルター、IRカットフィルター等に利用することができる。