(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】土石流堆積工
(51)【国際特許分類】
E02B 7/02 20060101AFI20230118BHJP
【FI】
E02B7/02 B
E02B7/02 C
(21)【出願番号】P 2019098288
(22)【出願日】2019-05-27
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000173681
【氏名又は名称】一般財団法人砂防・地すべり技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100110179
【氏名又は名称】光田 敦
(72)【発明者】
【氏名】嶋 丈示
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-207431(JP,A)
【文献】特開2005-030070(JP,A)
【文献】特開平06-180008(JP,A)
【文献】特開昭58-006834(JP,A)
【文献】特開2004-316081(JP,A)
【文献】実開昭60-120027(JP,U)
【文献】特開2007-218080(JP,A)
【文献】実開平04-089115(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/02
JーSTAGE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川の途中に構築され、凹所構造体を有し、上流端に入口部を下流端に出口部を有する土石流堆積工であって、
凹所構造体は、河川の幅より拡幅されており、底部と、入口部及び出口部を除いて底部の周囲を囲う周壁部と、を有し、
底部の横幅方向の中央に、上流から下流に向かって溝として形成されている流路工が設けられており、
凹所構造体内には、出口側から入口側に順次、縮流工、スリット工及び分散工が配置され、スリット工及び分散工は、いずれも周壁部の高さより低く形成されており、
縮流工は、流路工の両側面に互いに対向して形成された一対の突起から成り、
スリット工は、流路工の横幅方向の左右両側に設けられ、それぞれスリットを有する堰として形成され、
分散工は、流路工を挟んで左右の両側に、複数対上方に突出するように形成されている構成であることを特徴とする土石流堆積工。
【請求項2】
左右に形成されたスリット工の間に、閉塞壁材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の土石流堆積工。
【請求項3】
複数対の分散工は、それぞれ平面視で上流側に向けてハの字状に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の土石流堆積工。
【請求項4】
入口部及び出口部は、それぞれ周壁部の上流端及び下流端において周壁部と連続して形成された入口壁及び出口壁が形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の土石流堆積工。
【請求項5】
底部、周壁部、入口壁及び出口壁は、それぞれコンクリートで形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の土石流堆積工。
【請求項6】
底部は、上流から下流に向けて水平又は下方に傾斜していることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の土石流堆積工。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土石流堆積工に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、土石流を減勢し、堆積させるための土石流および流木対策施設として、国土交通省は、土石流・流木対策技術指針において、土石流堆積地と土石流堆積流路を示している。
【0003】
図8(a)に土石流堆積地40を示すが、流路の途中に拡幅部(流路を拡幅した土地の区域)41を設けて成り、拡幅部41の上流端と下流端に、それぞれ上流端砂防堰堤42と下流端砂防堰堤43が配置され、さらに必要に応じて、上下流方向の中間に床固工44が配置されている。
【0004】
土石流堆積地40は、土石流・流木処理計画上必要となる堆積量を堆積させることのできる空間を、流路の拡幅及び掘りこんで渓床勾配を緩くすることにより確保するものである。
【0005】
図8(b)に土石流堆積流路45を示すが、背後地盤において宅地が発達している等の土地利用状況や谷底平野等地形条件により、土石流堆積地40のように流路の拡幅が困難な場合おいて、流路を掘りこんで渓床46の勾配を元の渓床勾配47より緩くすることにより、土砂48を堆砂させて、土石流・流木処理計画上必要となる堆積量を堆積させることのできる空間を、確保するものである。
【0006】
なお、土石流を堰き止める砂防ダム等の砂防施設が 配置された傾斜地において、土石流の流れが予測される土石流本体の流れを横断するように、かつ砂防ダムの上流位置に配置され、土石流発生の際、初期移動の土石流先端部の土石流を捕捉するための複数の堰を複数段に配置している構成は、知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記土石流堆積地40は、上流の流路から土砂が堆積工に流入すると、土砂流の勢いに任せて堆積するため、流入口付近に、或いは出口に向けて堆積しても横幅方向に分散することが少なく、横幅方向の中心部に土砂が堆積する傾向があり、土石流堆積地40に全体に土砂が行き渡るわけではなく、土砂を多量に溜め込もうと拡幅しても、その幅で堆積しない、という点が懸念される。
【0009】
即ち、上記土石流堆積地40は、流入口から流出口に向けて勾配なりに堆砂するが、流入口から拡幅部41に向けて広がっているため、掃流力が落ちて、土砂が流入口付近、或いは中心部に堆積し、全体に溜まるわけではないので、施設規模を十分に活かした捕捉効果は得られない。
【0010】
上記土石流堆積流路45、或いは特許文献1に示すものは、流路幅は特に拡幅されていないので、堆積される土石等の量は限られており、土石の除去作業の頻度が多くなる。
【0011】
また、特許文献1に示すものは、土石流発生の際、初期移動の土石流先端部の土石流を捕捉するためのであり、土砂を河川の横幅方向にガイドし拡散させて、多量に捕捉するものではない。
【0012】
本発明は、上記従来の土石流堆積工等の問題を解決することを目的とするものであり、土石流の土砂等を効果的に捕捉し、より多量堆積可能である土石流堆積工を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するために、河川の途中に構築され、凹所構造体を有し、上流端に入口部を下流端に出口部を有する土石流堆積工であって、凹所構造体は、河川の幅より拡幅されており、底部と、入口部及び出口部を除いて底部の周囲を囲う周壁部と、を有し、底部の横幅方向の中央に、上流から下流に向かって溝として形成されている流路工が設けられており、凹所構造体内には、出口側から入口側に順次、縮流工、スリット工及び分散工が配置され、スリット工及び分散工は、いずれも周壁部の高さより低く形成されており、縮流工は、流路工の両側面に互いに対向して形成された一対の突起から成り、
スリット工は、流路工の横幅方向の左右両側に設けられ、それぞれスリットを有する堰として形成され、分散工は、流路工を挟んで左右の両側に、複数対上方に突出するように形成されている構成であることを特徴とする土石流堆積工を提供する。
【0014】
左右に形成されたスリット工の間に、閉塞壁材が配置されている構成としてもよい。
【0015】
複数対の分散工は、それぞれ平面視で上流側に向けてハの字状に配置されている構成としてもよい。
【0016】
入口部及び出口部は、それぞれ周壁部の上流端及び下流端において周壁部と連続して形成された入口壁及び出口壁が形成されている構成としてもよい。
【0017】
底部、周壁部、入口壁及び出口壁は、それぞれコンクリートで形成されている構成としてもよい。
【0018】
底部は、上流から下流に向けて水平又は下方に傾斜している構成としてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るに土石流堆積工よれば、河川に対して拡幅した凹所構造体を設け、その凹所構造体に、中央部に流路工を設けるとともに、出口側から入口側に順次、縮流工、スリット工及び分散工を配置する構成とすることで、平常時ないし中小出水時には、縮流工で縮流し、堰上がってもスリット工を通して縮流工で縮流し、一時的に流路工に堆積した土砂も、徐々に下流に流して土砂を堆積する機能を回復し、洪水時は、分散工によって、土砂が、中心部に集中して堆積することを抑制し、土石流堆積工1の広範囲に分散させて堆積させて、より多量の土砂を受容可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る土石流堆積工の実施例を説明する図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)におけるA-A断面図である。
【
図2】(a)は上記実施例の下流側から見た正面図であり、(b)は堆積工の一例を示す斜視図である。
【
図3】上記実施例の平常時の作用を説明する図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)におけるA-A断面図である。
【
図4】上記実施例の中小出水時の作用を説明する平面図である。
【
図5】上記実施例の中小出水時の作用を説明する図であり、(a)は
図4におけるA-A断面図であり、(b)は流路工内に溜まった土砂が流され、回復に向かう状態を示す断面図である。
【
図6】上記実施例の洪水時の作用を説明する図であり、土砂がスリット工の高さまで堆積した状態を示す平面図である。
【
図7】上記実施例の洪水時の作用を説明する図であり、(a)は土砂が堆積する過程を説明する断面図であり、(b)は土砂がスリット工の高さまで堆積した状態を示す
図6のA-A断面図である。
【
図8】従来技術を説明する図であり、(a)は従来技術の一例である土石流堆積地の斜視図であり、(b)は従来技術の他の例である土石流堆積流路の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る土石流堆積工を実施するための形態を実施例に基づき図面を参照して、以下説明する。
【0022】
(実施例)
本発明に係る土石流堆積工の実施例を、
図1~7を参照して説明する。本明細書では、河川の上流から下流に向かう方向を上下流方向と言い、河川の上下流方向に直交する方向を横幅方向という。また、下流に向かって左右の方向を左右方向という。
【0023】
まず、この実施例の構成を、
図1、
図2を参照して説明する。この実施例の土石流堆積工1は、河川の途中に河川の流れに沿って形成され、
図1に示すように、河川の幅より広く拡幅され、所定の深さに掘削された凹所を有する凹所構造体2を有する。
【0024】
凹所構造体2は、
図1に示すように、本実施例では、上流から下流に向かって細長で、平面視で矩形であるが、凹所構造体2の平面視の形状は、矩形でなくても、河川より拡幅されていれば、楕円形、細長の六角形等、他の形状でもよい。
【0025】
凹所構造体2は、底部3と底部3を囲む周壁部4を有する。底部3は、コンクリートで形成したコンクリート製の底部3とするが、石やネット等を敷き詰めたり、その他の材料で形成してもよく、又は土を掘削した状態の底部でもよい。
【0026】
この底部3は、
図1(a)等では上下流方向に水平で記載したが、そのように水平でも良いが、元河床勾配(土石流堆積工1の施工箇所の元々の河床の勾配)や河川の流れの勢い、水量等に応じて、上流から下流に向けて下方に傾斜するように、勾配を付けて形成する。例えば、元河床勾配が大きい場合、底部3の勾配を大きくする、或いは逆に勾配を小さくする等である。
【0027】
周壁部4は、本実施例では、底部3に向けて下方に傾斜する傾斜壁としているが、垂直壁でもよい。周壁部4は、底部3と連続してコンクリートで形成したコンクリート製の周壁部4とするが、石を積み上げたり、ネットで囲ったりする等他の材料で形成したり、又は土を掘削した状態の周壁部としてもよい。
【0028】
土石流堆積工1の上流端および下流端には、入口部8と出口部9が形成されている。入口部8と出口部9には、それぞれ周壁部4の上流端及び下流端に連続する左右の入口壁10と出口壁11が形成されている。
【0029】
入口壁10と出口壁11についても、本実施例では傾斜壁としているが、垂直壁でもよい。また、本実施例では、入口壁10と出口壁11は、周壁部4と同様にコンクリートで製造したコンクリート製の入口壁10と出口壁11とするが、石を積み上げたり、ネットで囲ったりする等、他の材料で形成したり、又は土を掘削した状態の入口壁と出口壁としてもよい。
【0030】
底部3の横幅方向の中央に、上流から下流に向かって溝として形成されている流路工12が形成されている。流路工12は、
図2(a)に示すように、横幅方向の左右両側に側面壁13が形成されており、この側面壁13は、本実施例では傾斜壁としているが、垂直壁でもよい。
【0031】
土石流堆積工1の入口部8と出口部9では、入口壁10の下流端と出口壁11の上流端が、それぞれ流路工12の側面壁13の上流端と下流端に連続している。
【0032】
土石流堆積工1内において、下流端付近(出口部9付近)には、
図1(a)、(b)、
図2(a)に示すように、縮流工17が形成されている。縮流工17は、流路工12の左右両側の側面壁13にそれぞれ対向して突出するように設けられた一対の突起18から成り、一対の突起18の間の間隔dは、流路工12の横幅sより狭く形成されている。
【0033】
土石流堆積工1内において、下流端付近(出口部9付近)で、かつ縮流工17より上流側に、流路工12を挟んで左右両側に対称的に、一対のスリット工21が設けられている。スリット工21は、スリット22を有する堰として構成されている。スリット工21は、本実施例ではコンクリートで形成されているが、コンクリートでなくても、鋼材(鋼板、鋼管等)、その他の材料で形成してもよい。
【0034】
スリット工21は、本実施例では横幅方向に対して垂直な断面は、
図1(b)に示すように台形状であり、その高さは、周壁部4の高さを超えない程度の高さとし、横幅方向の中央部に上下流方向に貫通したスリット22を有する。
【0035】
スリット22の横幅は、後記する作用の記載で説明するが、平常時に、土石流の流水が縮流工17によって縮流(流水の横幅を狭めて流す)され、仮に、上流が堰上がって水深が上昇しても、スリット22を通して流れるようにして、水深が流路工12内に収まるように、設計される。
【0036】
なお、スリット22は、必ずしも必須ではないが、スリット22を設けることで、スリット22を通して土石流の一部を流すことで、スリットのない場合に生じやすい越流を低減し、土石流堆積工1におけるオーバーフローを防止することが可能となる。
【0037】
流路工12を挟んで左右の両側のスリット工21の間は、閉塞壁材23で閉塞されている。閉塞壁材23は、土石流堆積工1の高さ、即ち周壁部4の高さを超えない程度の高さとし、パネル(板材)等、完全に土石流を不透過にする部材であってもよいが、柵、格子材等、完全に不透過にしない部材であってもよい。
【0038】
また、左右の両側のスリット工21は、本実施例では、流路工12を挟んで、左右両側にそれぞれ1基(左右一対)設けているが、土石流堆積工1の上下流方向の勾配、即ち底部3の勾配、水量等に応じて、左右両側にそれぞれ複数基(左右複数対)設けても良い。
【0039】
例えば、底部3の勾配がない、或いは比較的平坦な場合は、本実施例のように1基でも良いが、元河床勾配が大きい場合等では、左右両側にそれぞれ2基、3基等と複数対設けても良い。
【0040】
土石流堆積工1内において、
図1(a)に示すように、入口部8からスリット工21の間であって、流路工12を挟んで左右の両側の底部3上に、複数対の分散工25が、平面視で上流側に向けてハの字状に並べられて設けられている。
【0041】
分散工25は、土石流に対してガイドとなり、土砂を横幅方向の中央側から左右方向に向けて誘導するように移動させて、横幅方向にも拡がるようにして、土砂が、横幅方向における中心部に集中して堆積することを抑制し、土石流堆積工1の広範囲に分散させて堆積させて、より多量の土砂を受容可能とする機能を有する。
【0042】
分散工25は、本実施例では、コンクリート製とし、その構造は、
図1(a)、
図2(b)に示すように、複数の台形盤が連続して上方に突出する構成とした。しかし、分散工25の材料は、鋼材、盛土等でもよく、また、その構造は、柵、ブロック等でもよい。
【0043】
さらに、分散工25の形状は、平面視で矩形、円形、或いはそれらの、配置、組み合わせ等、多様であり、土石流堆積工1の全体形状、土石流の流量、流れの勢い等の状態等によって、適宜選択すればよい。分散工25の高さは、土石流堆積工1の高さ、即ち周壁部4の高さを超えない程度の高さとするが、低すぎると、土砂の分散効果が低減する。
【0044】
(作用)
以上、本発明に係る土石流堆積工1の実施例の構成を説明したが、このような土石流堆積工1の作用について、土石流の流下状態が、平常時、中小出水時、洪水時のそれぞれについて、以下説明する。
【0045】
平常時:
平常時には、河川を流れる土石流の流水28は、入口部8から土石流堆積工1に入り、
図3(a)、(b)に示すように、流路工12内を流れる。そして、土石流の土砂は、土石流堆積工1の中央にある流路工12から、流水28によって下流へ運ばれる。
【0046】
なお、平常時に、河川を流れる水量が若干増加し、縮流工17によって流水28を縮流することで、仮に、上流側が堰上がり流路工12内で水深が上昇し、底部3に溢水しても、スリット工21のスリット22を透過することで、水深は流路工12内に収まる。
【0047】
換言すると、このように、土石流の水量が若干増加し、上流側が堰上がり流路工12内の水深が上昇しても、流水は流路工12内に収まり、縮流工17を通過して流れるように、スリット工21のスリット22の横幅を設定する。
【0048】
中小出水時:
ここで、「中小出水」とは、平常時より河川を流れる水量が多いが、洪水が起きるほどではない出水であって、より具体的には、5~30年確率規模の出水(毎年1/5~1/30の確率規模の出水)を言う。
【0049】
このような中小出水時には、
図4、
図5(a)に示すように、縮流工17によって流水28を縮流することで、流路工12内は堰上がり、流路工12内は湛水する。そして、底部3に溢水すると、土石流の流水28は、スリット工21のスリット22を透過して下流側に流れる。
【0050】
中小出水時には、土石流の土砂29は、
図4、
図5(a)に示すように、流路工12の湛水30内において、上流から下流方向に向かって、徐々に堆砂(堆積)していく。この堆砂の先頭部(堆砂の下流端部)を堆砂肩33と言う。
【0051】
堆砂肩33がスリット工21の位置まで到達しない状態(
図5(a)参照)では、流路工12内に溜まった土砂29は、平常時、或いは洪水時の後半の流水によって、
図4(b)に示すように、徐々に浸食されて下流へ流される。そのために、流路工12は、再び流路工12の機能を回復する。
【0052】
洪水時:
洪水時には、河川を流れる土石流は、入口部8から土石流堆積工1に入り、流路工12を流れ、縮流工17によって流水28が縮流され、流路工12から溢れると、
図6、
図7(a)に示すように、スリット工21でも堰上げが発生し、土石流堆積工1の上流側内は、徐々に湛水していく。
【0053】
堆積工内が湛水しても、土石流の土砂29は低いところから堆砂するので、流路工12内で堆砂肩33を形成しながら下流に向けて進行する。そのような状態で、
図6、
図7(a)に示すように、凹所構造体2におけるスリット工21より上流側は、広い湛水池になる。
【0054】
ところで、堆砂肩33の下流側への進行を自然に任せると、前記した
図8(a)に示すような土石流分散堆積池の構成では、左右方向には拡散しにくく、土砂29は、土石流堆積工内で横幅方向の中央部に集中して堆積する傾向がある。
【0055】
しかしながら、本発明の土石流堆積工1は、
図6に示すように、流路工12を挟んで左右に複数対の分散工25を、上流側に向けハの字状に配置して設けたため、この分散工25により、入口部10から堆砂肩33は下流側に向かうとともに、土砂29を下流方向に向けて左右に誘導、拡散し、土砂29は、凹所構造体2の広い範囲に堆積される。
【0056】
そして、堆砂肩33が、スリット工21の位置まで到達し、スリット工21の高さまで土砂29が堆積すると、
図5(c)に示すように、土石流の流水28は、スリット工21および閉塞壁材23を越水して下流側の流路工12に流入して、土石流堆積工1の出口部9から、河川の下流に流される。
【0057】
このようにして、本発明に係る土石流堆積工1によると、洪水時においても、土石流堆積工1の拡幅された凹所構造体2の広いスペースを、横幅方向にも有効に活用して、多量の土砂を堆積することができるので、洪水時における土石流の土砂、土石、流木等の移動を、効果的に抑制することが可能となる。
【0058】
なお、土石流堆積工1に流入する土石流の流量に対して土砂が少なく、スリット工21まで堆砂肩33が到達しなければ、中小出水時と同様に土砂は、下流に徐々に浸食されて移動し、土石流堆積工1は普通時の状態に回復する。
【0059】
以上、本発明に係る土石流堆積工を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る土石流堆積工は上記のような構成であるから、河川両側域に広さに余裕のある山間地等の河川に適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 土石流堆積工
2 凹所構造体
3 底部
4 周壁部
8 入口部
9 出口部
10 入口壁
11 出口壁
12 流路工
13 流路工の側面壁
17 縮流工
18 縮流工の突起
21 スリット工
22 スリット工のスリット
23 閉塞壁材
25 分散工
28 流水
29 土砂
30 湛水
33 堆砂肩
40 土石流堆積地
41 拡幅部
42 上流端砂防堰堤
43 下流端砂防堰堤
44 床固工
45 土石流堆積流路
46 渓床
47 元の渓床勾配