(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20230118BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230118BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230118BHJP
H01M 50/533 20210101ALI20230118BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230118BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M50/533
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2019554161
(86)(22)【出願日】2018-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2018040796
(87)【国際公開番号】W WO2019098056
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2017218915
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神山 遊馬
(72)【発明者】
【氏名】岩田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 勝也
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-073757(JP,A)
【文献】特開2013-187077(JP,A)
【文献】特開2006-139968(JP,A)
【文献】特開平07-226197(JP,A)
【文献】特開2017-069207(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108305988(CN,A)
【文献】特開2019-91538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
H01M 50/50-50/598
H01M 4/64-4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極である第1電極及び
負極である第2電極を含む電極体を備え、
前記第1電極は、芯体、前記芯体の表面に形成された第1活物質層、及び、前記第1活物質層が表面に形成されていない芯体露出部を備える第1タブ部を有し、
前記第1活物質層の端部において前記第1活物質層は切欠きを備え、
前記切欠きの外縁は、前記第1タブ部と前記第1活物質層とが接する境界の端部を含
み、
前記電極体において、前記切欠きの前記第1タブ部側の端縁が、前記第1電極及び前記第2電極の積層方向から見て、前記第2電極が有する第2活物質層と重複しない位置にあり、
前記第2電極の前記第2活物質層の寸法が、前記第1電極の前記第1活物質層の寸法より大きく、且つ、前記第2活物質層において第2タブ部が形成された側辺部分が、前記積層方向から見て、前記第1活物質層の側辺に対して外側に拡張し、前記第1活物質層と対向していない、
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記第1タブ部の端部において前記切欠きを備える、請求項
1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記切欠きの外縁の前記第1活物質層に接する部分が、前記第1電極及び前記第2電極の積層方向から見て円弧又は楕円弧を備える、
請求項1~
2のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記芯体がアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔である、
請求項1~
3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記境界の両端部に前記切欠きを有する、
請求項1~
4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記第1活物質層における活物質の充填密度が3.5g/cm
3以上である、
請求項1~
5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV、PHEV)等の駆動用電源において、リチウムイオン二次電池が使用されている。リチウムイオン二次電池は、正負極間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う電池である。
【0003】
これらリチウムイオン二次電池では、金属箔からなる芯体の表面に活物質を含んだ活物質層が形成された正極及び負極を備える。電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV、PHEV)等に用いられる二次電池には、更なる体積エネルギー密度の増加が求められている。二次電池の体積エネルギー密度を増加させる方法として、活物質層の充填密度を更に高くする方法が考えられる。これにより、電池ケース内に含まれる活物質の量を増加させ、体積エネルギー密度を向上させることができる。
【0004】
特許文献1には、第1の極性の電極が、集電体上に活物質層が形成された電極部と、集電体上に活物質層が形成されていないリード部と、電極部とリード部との境界領域に、活物質層から活物質層未形成領域にかけて配置された絶縁層と、を備え、積層方向から見て、第1の極性の電極の絶縁層と他の第1の極性の電極の絶縁層とが、少なくとも一部が異なる位置に形成されている積層型電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
ところで、正極及び負極が積層した構造を有する電極体には、各電極の端部には活物質層が形成されていない芯体露出部を備えるタブ部が設けられる。ここで、一方の電極に設けたタブ部が、充放電に伴う他方の電極の活物質層の膨張及び収縮によっても伸縮し、当該タブ部内に応力が生じて、撓みや皺が生じるおそれがあることがわかった。タブ部に撓みや皺が生じると、そのタブ部を有する電極が湾曲し、他方の電極との距離が広がって電気抵抗が上昇することにより、電極表面にリチウム金属が析出する可能性がある。この現象は、特に、電極の活物質の充填密度が高い場合、或いは、ハイレート充放電を行う場合に、発生する確率が高くなると考えられる。
【0007】
そこで本開示は、充放電により電極表面に生じるリチウム金属の析出を抑制したリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【0008】
本開示の一態様であるリチウム二次電池は、正極である第1電極及び負極である第2電極を含む電極体を備え、第1電極は、芯体、芯体の表面に形成された第1活物質層、及び、第1活物質層が表面に形成されていない芯体露出部を備える第1タブ部を有し、第1活物質層の端部において第1活物質層は切欠きを備え、切欠きの外縁は、第1タブ部と第1活物質層とが接する境界の端部を含み、前記電極体において、前記切欠きの前記第1タブ部側の端縁が、前記第1電極及び前記第2電極の積層方向から見て、前記第2電極が有する第2活物質層と重複しない位置にあり、前記第2電極の前記第2活物質層の寸法が、前記第1電極の前記第1活物質層の寸法より大きく、且つ、前記第2活物質層において第2タブ部が形成された側辺部分が、前記積層方向から見て、前記第1活物質層の側辺に対して外側に拡張し、前記第1活物質層と対向していないことを特徴とする。
【0009】
本開示によれば、充放電により電極に発生するリチウム金属の析出を抑制したリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の一例であるリチウムイオン二次電池の構成を示す断面図である。
【
図2】実施形態の一例である電極体を示す模式図である。
【
図3】実施形態の一例に係る正極及び正極タブ部の構成を示す部分拡大図である。
【
図4】実施形態の一例における正極と負極との位置関係を示す図である。
【
図5】実施形態の他の例における正極と負極との位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
リチウムイオン二次電池において、電極表面におけるリチウム金属の析出は、両電極の短絡、活物質の脱落、並びに、電池寿命及び充放電効率の低下等を引き起こす原因となるため、当該リチウム金属析出を防止するとの課題は、リチウムイオン二次電池において重要である。特に、正極活物質の充填密度を高めることで体積エネルギー密度を向上させたリチウムイオン二次電池におけるリチウム金属析出の防止は、安全性の観点からより一層重要であると考えられる。
【0012】
本発明者らにより、上述の通り、正極及び負極が積層した構造を有する電極体を備えるリチウムイオン二次電池において、一方の電極に設けたタブ部が、充放電サイクルによる他方の電極の活物質層の膨張及び収縮によって伸縮することに起因して、電極表面にリチウム金属が析出するとの課題が見出された。それに対して、本発明者らは、第1電極及び第2電極を含む電極体を備え、第1電極が、芯体、芯体の表面に形成された第1活物質層、及び、第1活物質層が表面に形成されていない芯体露出部を備える第1タブ部を有するリチウムイオン二次電池において、第1活物質層の端部において第1活物質層に切欠きを設け、当該切欠きの外縁が第1タブ部と第1活物質層とが接する境界の端部を含むものとすることにより、上記の課題を解決し得ることを見出した。
【0013】
以下、本開示の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、本開示に係るリチウムイオン二次電池は以下で説明する実施形態に限定されない。実施形態の説明で参照する図面は模式的に記載されたものであるから、図面に描画された構成要素の寸法比率などは以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0014】
[リチウムイオン二次電池]
図1は、実施形態の一例であるリチウムイオン二次電池(以下「電池1」とも称する)の構成を示す断面図である。電池1は、有底で開口を有する外装体4と、該開口を塞ぐ封口板5とを備える。外装体4は、角形の有底筒状の容器であり、外装体4には、
図1では図示しない正極及び負極を備える積層型の電極体3が、非水電解質(図示しない)と共に収容されている。封口板5は、外装体4の開口を塞ぐ蓋体であり、封口板5には、正極端子7、負極端子9、ガス排出弁14、電解液を注液するための電解液注液孔15、電解液注液孔15を封止する封止栓16が設けられている。ガス排出弁14は、電池内部の圧力が所定値以上となったときに破断し、電池内部のガスを電池外部に排出する機能を有する。
【0015】
なお、
図1~
図3では、z軸を電極体3の積層方向に規定し、x軸を外装体4の正極端子7及び負極端子9が設けられている辺に沿った方向に規定し、y軸をx軸及びz軸のそれぞれと直交する方向に規定している。
【0016】
正極端子7は、外部の要素と正極とを電気的に接続させる機能を有する。負極端子9は、外部の要素と負極とを電気的に接続させる機能を有する。正極端子7は、封口板5に設けられた正極端子取り付け孔5aにおいて、絶縁部材10及び11により封口板5と電気的に絶縁された状態で封口板5に取り付けられる。絶縁部材10は、正極端子取り付け孔5aの電池内部側(y軸負方向)に配置され、絶縁部材11は、正極端子取り付け孔5aの電池外部側(y軸正方向)に配置される。また、負極端子9は、封口板5に設けられた負極端子取り付け孔5bにおいて、絶縁部材12及び13により封口板5と電気的に絶縁された状態で封口板5に取り付けられる。絶縁部材12は、負極端子取り付け孔5bの電池内部側(y軸負方向)に配置され、絶縁部材13は、負極端子取り付け孔5bの電池外部側(y軸正方向)に配置される。絶縁部材10~13は、樹脂製であることが好ましい。
【0017】
電極体3は、側面及び底面が絶縁シート17に覆われた状態で外装体4に収容されている。絶縁シート17は、例えば、外装体4の内壁に沿うように箱状に折り曲げられたもの、又は、電極体3を覆うような袋状のものを用いることが好ましい。
【0018】
電極体3において、封口板5側(y軸正方向)の側辺におけるx軸方向の一方の端部に正極タブ部24が配置され、他方の端部に負極タブ部34が配置されている。正極タブ部24のy軸正方向の端部には、正極集電体6が接合されている。負極タブ部34のy軸正方向の端部には、負極集電体8が接合されている。正極集電体6は正極端子7と電気的に接続され、負極集電体8は負極端子9と電気的に接続されている。正極と正極端子7の間の導電経路又は負極と負極端子9の間の導電経路に、電流遮断機構を設けてもよい。電流遮断機構は、電池内部の圧力が所定値以上となったときに作動し、導電経路を切断する機能を有する。電流遮断機構の作動圧は、ガス排出弁の作動圧よりも低く設定することが好ましい。
【0019】
[電極体]
以下、本実施形態に係る電極体3の構成を説明する。
図2は、本実施形態に係る電極体3の構成を示す模式図である。
図2に示すように、本実施形態に係る電極体3は、複数枚の正極20及び複数枚の負極30を、セパレータを介して交互に積層してなる積層型電極体である。各正極20及び各負極30はそれぞれ湾曲せず、平坦な形状である。
【0020】
正極20(第1電極)は、正極芯体(図示しない)と、正極芯体の表面に形成される正極活物質層22(第1活物質層)で構成される。正極20のY軸正方向の側辺の一方の端部には、正極活物質層22が形成されない正極芯体露出部である正極タブ部24(第1タブ部)が設けられる。また、負極30(第2電極)は、負極芯体(図示しない)と、負極芯体の表面に形成される負極活物質層32(第2活物質層)で構成され、Y軸正方向の側辺の正極タブ部24が設けられていない側の端部には負極活物質層32が形成されない負極芯体露出部である負極タブ部34が設けられる。さらに、本実施形態に係る電極体3では、正極20において、正極活物質層22の正極タブ部24を有する端部において、正極活物質層22が切欠き26を備える。切欠き26については後で詳しく説明する。
【0021】
本実施形態に係る積層型の電極体3では、正極及び負極を巻回してなる巻回型の電極体と比較してデッドスペースが小さいこと、また、巻回型の電極体のように正極が折り曲げられて正極活物質層にひび割れ等が生じることが無い。そのため、積層型の電極体3を使用することにより、正極活物質層における正極活物質の充填密度をより高くでき、電池1のエネルギー密度をより一層向上させることができる。
【0022】
以下、本実施形態に係る第1電極としての正極20に設けた正極タブ部24及び切欠き26の特徴について、
図3を参照しながら詳しく説明する。
図3は、正極20の正極タブ部24の近傍の構成を示す部分拡大図である。正極タブ部24は、正極20のY軸正方向の側辺の一方の端部からY軸正方向に向かって延出し、略矩形状を有する。
【0023】
切欠き26が形成されていない領域での正極タブ部24のx軸方向の幅W1は、10mm以上が好ましく、15mm以上がより好ましい。当該領域での正極タブ部24の幅W1がこの範囲にあると、電気抵抗が小さく、ハイレート充放電時の発熱を抑制できると共に、正極集電体6との接合部分の強度が向上するためである。また、正極タブ部24の幅W1は、30mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましい。正極タブ部24の幅W1がこの範囲にあると、充放電に伴う正極タブ部24における皺や撓みの発生が抑えられ、その結果、充放電時のリチウム析出及び電極体3の膨化を防止できるためである。
【0024】
図3に示すように、正極活物質層22の端部において、正極活物質層22に切欠き26が設けられ、切欠き26の外縁は、正極タブ部24と正極活物質層22とが接する境界28の端部を含む。切欠き26は、正極活物質層22に切欠き26を設けなかった場合の形状(
図3において一点鎖線で示す)において、正極活物質層22の正極タブ部24が延出する辺との交点Q(正極活物質層22の端部と正極タブ部24の端部との交点Q)を含む領域に形成される。
【0025】
本実施形態では、正極活物質層22に切欠き26を設けることにより、セパレータ40を介して対向する負極30の負極活物質層32が充放電に伴い膨張及び収縮した場合であっても、正極タブ部24の伸縮により生じる応力が低減されるため、正極タブ部24における撓みや皺の発生を抑制できる。これにより、正極20が湾曲して、正極20と負極30との電極間の距離が部分的に拡大する現象を抑止できる。電極間距離の部分的な拡大が抑えられるため、当該部分において電気抵抗が上昇し、正極20の表面におけるリチウム金属の析出を防止することが可能となる。
【0026】
また、正極タブ部24に撓みや皺が発生すると、正極20の湾曲を引き起こし、ひいては、電極体3全体での積層方向の厚さの拡大(本明細書において「膨れ」とも称する)が生じてしまう。電極体3に膨れが生じると、電極体3を構成する電極に亀裂や破断が発生し、電池1の寿命及び出力特性の低下に繋がってしまうと考えられる。本実施形態では、上述の通り、正極活物質層22に切欠き26を設けることで充放電により正極タブ部24に発生し得る撓みや皺を抑制できる。そのため、正極20の湾曲を抑止し、電極体3の積層方向の膨れを抑えることができる。これにより、電極体3を構成する電極における亀裂の発生及び破断を防止でき、電池1の寿命及び出力特性の低下を抑制することが可能となる。
【0027】
図3では、切欠き26は、積層方向(z方向)から見て円弧の形状を有するが、本開示において切欠き26の形状は特に限定されない。切欠き26の外縁が積層方向から見て1つの円弧又は楕円弧である場合、切欠き26では、充電時に正極タブ部24が圧縮されても、切欠き26の一部への応力集中による亀裂又は破断を防止できる。
【0028】
以下に、積層方向から見た切欠き26の好適なサイズの一例を示す。しかしながら、切欠き26は以下のサイズを有するものに限定されず、切欠き26の形成による皺及び撓み発生の抑制効果と、正極タブ部24の電気抵抗増加及び正極活物質層22の容量低下とのバランス等を鑑みて、適宜決定すればよい。
【0029】
切欠き26のx軸方向の幅W2は15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましい。当該幅W2がこの範囲にあると、正極活物質層22が形成される面積の減少による、正極20の容量低下を抑制できる。また、切欠き26のx軸方向の幅W2は、3mm以上が好ましく、6mm以上がより好ましい。当該幅W2がこの範囲にあると、電池の組み立て時や振動により正極タブ部24が折れ曲がった際にも、切欠き26の正極タブ部24側(y軸正方向側)の端縁P(
図3に示す)が正極タブ部24や正極20に乗り上げることを抑制でき、乗り上げた端縁Pとセパレータの間に応力が掛かることによるセパレータ破損による正負極短絡を抑制できるという利点を有する。
【0030】
切欠き26のy軸方向の幅W3は3mm以上が好ましく、6mm以上がより好ましい。当該幅W3がこの範囲にあると、切欠き26を設けたことによる正極タブ部24の皺や撓みの発生防止効果がより向上するためである。また、切欠き26のy軸方向の幅W3は、15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましい。当該幅W3がこの範囲にあると、正極タブ部24の幅が狭まることによる電気抵抗の上昇を抑制し、発熱の観点から許容し得る電流の上限値を上げることができ、電池1のハイレート特性が有利になるためである。
【0031】
切欠き26が正極タブ部24を切り欠いた領域のx軸方向の深さW4は、1mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましい。当該幅W4がこの範囲にあると、切欠き26を設けたことによる正極タブ部24の皺や撓みの発生防止効果がより向上するためである。また、切欠き26が正極タブ部24を切り欠いた領域のx軸方向の深さW4は、5mm以下が好ましく、8mm以下がより好ましい。当該幅W4がこの範囲にあると、正極タブ部24の幅が狭まることによる電気抵抗の上昇を抑制し、発熱の観点から許容し得る電流の上限値を上げることができ、電池1のハイレート特性が有利になるためである。
【0032】
切欠き26が正極活物質層22を切り欠いた領域のy軸方向の深さW5は、1mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましい。当該幅W5がこの範囲にあると、正極活物質層22が正極タブ部24を引っ張る応力を緩和するためである。また、切欠き26が正極活物質層22を切り欠いた領域のy軸方向の深さW5は、5mm以下が好ましく、8mm以下がより好ましい。当該幅W5がこの範囲にあると、正極活物質層22が形成される面積の減少による、正極20の容量低下を抑制できる。
【0033】
切欠き26のx軸方向の幅W2に対する、切欠き26が正極タブ部24を切り欠いた領域のx軸方向の深さW4は、30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上である。上記比率が高くなると、切欠き26を設けたことによる正極タブ部24の皺や撓みの発生防止効果がより向上するためである。
【0034】
切欠き26のy軸方向の幅W3に対する、切欠き26が正極活物質層22を切り欠いた領域のy軸方向の深さW5は、30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上である。上記比率が高くなると、正極活物質層22が正極タブ部24を引っ張る応力を緩和するためである。
【0035】
また、
図3に示すように切欠き26の外縁が円弧である場合、上記の観点から、当該円弧が、正極タブ部24の幅W1の1/5以上1/3以下の半径を有する円の一部であるか、或いは、3mm以上5mm以下の半径を有する円の一部であることが好ましい。切欠き26の外縁が円弧である場合、当該円弧が一部を構成する円の中心が、正極タブ部24における切欠き26を有する側辺の延長線と、正極活物質層22における正極タブ部24を設けた側辺の延長線の交点Q(
図3に示す)に位置することが好ましい。
【0036】
図4は、作製された積層型の電極体3における正極20と負極30との位置関係を示す図である。本実施形態では、
図4に示すように、積層型の電極体3において、正極20が有する切欠き26の正極タブ部24側(y軸正方向側)の端縁Pが、積層方向から見て、負極30が有する負極活物質層32と重複しない位置にあることが好ましい。切欠き26の端縁Pが負極活物質層32と重複しない位置になるように形成された切欠き26を有する正極20を用いた場合、負極30におけるリチウム金属析出の抑制効果がより一層優れたリチウムイオン二次電池が得られるためである。斯かるリチウム金属析出の抑制効果は、特に、ハイレート充放電時において顕著である。その理由は定かではないが、例えば、負極活物質層32が膨張又は収縮し、セパレータ40を介して正極タブ部24を押し付けた場合であっても、端縁Pからy軸負方向側の切欠き26の形状に沿って滑るように正極タブ部24が伸縮することで、正極タブ部24に皺や撓みを発生させる力が加わらないためであると考えられる。これと同じ理由で、切欠き26の端縁Pが負極活物質層32と重複しない位置にある場合、電極体3の積層方向の膨れを抑えることができる。
【0037】
正極タブ部24と正極活物質層22とが接する境界28の両端に2箇所の切欠き26が設けられていることが好ましい。正極タブ部24と正極活物質層22とが接する境界28のどちらか一端のみに切欠き26が設けられている場合と比較して、充放電による正極タブ部24が伸縮した際に、応力が集中する角部が存在しないことから、正極タブ部24における撓みや皺の発生を抑制できると共に、正極20における亀裂の発生及び破断を防止できるためである。
【0038】
正極タブ部24と正極活物質層22とが接する境界28の両端に切欠き26が設けられている場合、これらの切欠き26間を最短距離で繋ぐ直線上に、正極活物質層22又は後述する保護層が形成されていることが好ましい。これにより、正極タブ部24の伸縮時に応力が集中する箇所である、2つの切欠き26間を最短距離で繋ぐ部分が補強されるため、切欠き26を起点とする亀裂の発生や破断を効果的に防止することができる。
【0039】
なお、本実施形態では、正極活物質層22の正極タブ部24を有する端部に切欠き26を設けた例を示したが、負極活物質層32の負極タブ部34を有する端部に同様の切欠きを設けてもよく、正極活物質層22及び負極活物質層32の両者に切欠きを設けてもよい。負極活物質層32に切欠きを設けた場合においても、正極活物質層22に設けた切欠き26と同様の作用効果が得られると考えられる。
【0040】
以下、本実施形態に係る電池1を構成する正極20、負極30、セパレータ40及び非水電解質の構成及び材料等について詳述するが、これらは例示であって、正極20、負極30、セパレータ40及び非水電解質としては公知のものを使用すればよい。
【0041】
[正極]
正極20は、正極芯体と、正極活物質層22とを備える。正極芯体は、例えば、アルミニウム単体又はアルミニウム合金などの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等が挙げられる。正極芯体の厚さは、特に制限されないが、例えば10μm以上100μm以下程度である。
【0042】
正極活物質層22は、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物で構成される正極活物質を含む。リチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウム(Li)、並びに、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びニッケル(Ni)等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属複合酸化物が例示され、Co、Mn及びNiの少なくとも1種を含有することが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物は、Co、Mn及びNi以外の他の添加元素を含んでいてもよい。当該他の添加元素としては、例えば、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)及びケイ素(Si)等が挙げられる。
【0043】
リチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、例えばLixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-yO2、LixCoyM1-yOz、LixNi1-yMyOz、LixMn2O4、LixMn2-yMyO4、LiMPO4、Li2MPO4F(各化学式において、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb及びBのうち少なくとも1種であり、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3である)が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0044】
正極活物質層22は、更に導電材及び結着材を含むことが好適である。正極活物質層22に含まれる導電材は、正極活物質層22の電気伝導性を高めるために用いられる。導電材の例としては、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
正極活物質層22に含まれる結着材は、正極活物質及び導電材間の良好な接触状態を維持し、且つ正極芯体表面に対する正極活物質等の結着性を高めるために用いられる。結着材の例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミイミド、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ヘキシル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩(CMC-Na、CMC-K、CMC-NH4等、また部分中和型の塩であってもよい)、アクリルゴム、アクリレート系結着材(アクリル酸のエステル又は塩)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
正極活物質層22における正極活物質の含有割合は、特に限定されないが、正極活物質層22の総量に対して95質量%以上であることが好ましく、99質量%以下であることが好ましい。正極活物質層22における導電材の含有割合は、正極活物質層22の総量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、3質量%以下であることが好ましい。正極活物質層22における結着材の含有割合は、正極活物質層22の総量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、3質量%以下であることが好ましい。
【0047】
正極20の正極活物質層22が有する正極活物質の充填密度は、電池1の用途等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、正極活物質の充填密度が3.5g/cm2以上である正極20は、エネルギー密度が高いリチウムイオン二次電池を作製することができるため、好適である。エネルギー密度が高いリチウムイオン二次電池では、従来よりも更にレートの高い電流が生じる。よって、正極タブ部24に切欠き26を設けた本実施形態に係る正極20は、高エネルギー密度を有する電池1での使用においてより有効と考えられる。
【0048】
正極タブ部24の正極活物質層22と接する根元部分の領域に、保護層を設けてもよい。保護層を設けることにより、切欠き26の正極タブ部24側が補強され、切欠き26を起点にした亀裂や破断の発生を効果的に防止できる。また、保護層を設ける場合、保護層が切欠き26のy軸正方向側の端縁を被覆することが好ましい。これにより、当該端縁がセパレータを貫通して負極30に接触することを確実に防止できる。
【0049】
保護層は結着材のみから構成されてもよく、或いは、結着材とセラミック粒子とで構成されてもよい。保護層に使用される結着材としては、正極活物質層22が含有し得る上記の結着材が挙げられる。正極活物質層22に含まれる結着材と保護層に含まれる結着材は同じであってもよいし、異なるものであってもよい。保護層中の結着材の含有割合は、例えば、5質量%以上であってよく、8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。保護層が結着材以外の成分を含有する場合、保護層中の結着材の含有割合は、例えば95質量%以下であってよい。
【0050】
保護層に含まれるセラミック粒子としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア及びシリカ等が挙げられる。保護層中のセラミック粒子の含有割合は、例えば、50質量%以上であってよく、80質量%以下が好ましい。また、保護層は導電材を有していてもよい。保護層に使用される導電材としては、正極活物質層22が含有し得る上記の導電材が挙げられる。保護層中の導電材の含有割合は、保護層の導電性が正極活物質層22よりも低くなるように調整され、例えば、5質量%以下である。
【0051】
[負極]
負極30は、例えば金属箔等からなる負極芯体と、負極芯体の表面に形成された負極活物質層32とで構成される。負極芯体としては、例えば、銅等の負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等が挙げられ、銅箔又は銅合金箔であることが好ましい。負極活物質層32は、負極活物質の他に、結着材を含むことが好適である。負極30は、例えば負極芯体の表面に負極活物質、結着材等を含む負極活物質層スラリーを塗布し、塗布層を乾燥させた後、圧延して負極活物質層32を集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0052】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のリチウムと合金化する金属、又はSi、Sn等の金属元素を含む合金、複合酸化物等を用いることができる。負極活物質は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
負極活物質層32に含まれる結着材としては、正極20の場合と同様にフッ素系樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。水系溶媒を用いて負極活物質層スラリーを調製する場合は、結着材として、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩(PAA-Na、PAA-K等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いることが好ましい。
【0054】
負極30は、例えば正極20と同様の矩形状を有する。電極間におけるリチウムイオンの円滑な移動を確保する観点から、負極30の負極活物質層32の寸法が正極20の正極活物質層22の寸法よりも大きく形成され、且つ、積層方向から見て、負極活物質層32が正極活物質層22を含むように配置していることが好ましい。例えば、電極体3が収容された電池1において、積層方向から見て、負極活物質層32の負極タブ部34が設けられた側辺が、正極活物質層22の正極タブ部24が設けられた側辺に対して3mm以下の範囲で外側(y軸正方向)に拡張していることが好ましい。
【0055】
負極30の厚さは、特に限定されないが、好ましくは60μm以上100μm以下である。負極30は、長尺状の負極集電体上に負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を圧延して負極活物質層を集電体の両面に形成した後、これを負極30の所定の寸法に裁断することにより製造できる。
【0056】
[セパレータ]
セパレータ40には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ40を構成する材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、及び、セルロース等が挙げられる。セパレータ40は、セルロース繊維層とオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層とを有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータ40の表面にアラミド系樹脂、セラミック等が塗布されたものを用いてもよい。セパレータ40の厚さは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0057】
本実施形態では、電極体3は、正極20及び負極30との間に平坦なセパレータを複数枚用いた構成を示す。しかしながら、イオン透過性及び絶縁性を有するものである限り、セパレータの形状は限定されず、例えば、一方の電極を内部に収容する袋状のセパレータを用いてもよく、また、九十九折り形状のセパレータを用いてもよい。
【0058】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒としては、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。非水電解質としては、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質を使用してもよい。
【0059】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチローラクトン、γ-バレローラクトン等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチローラクトン等の鎖状カルボン酸エステル等が挙げられる。
【0060】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等の鎖状エーテル類等が挙げられる。
【0061】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0062】
非水電解質の電解質塩としては、リチウム塩が好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li(B(C2O4)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO34F3)2、LiN(C262l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは1以上の整数}等のイミド塩類等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当たり0.5mol以上2.0mol以下とすることが好ましい。
【0063】
[電池の製造方法]
以下に、本実施形態に係る電池1の製造方法について説明する。
【0064】
(正極の作製)
本実施形態に係る正極20は、例えば、帯状の正極芯体上に正極活物質、導電材、結着材等を含む正極活物質層スラリーを塗布し、塗膜を乾燥及び圧延して正極活物質層22を正極芯体の両表面に形成した後、これを所定の寸法に裁断することにより、製造される。なお、正極活物質層スラリーは正極芯体上において正極タブ部24となる部分には塗布されない。正極活物質層スラリーの塗布方法は、公知の方法であれば特に限定されず、例えば、ロールコート、バーコート、グラビアコート及びダイコート等が挙げられる。
【0065】
正極芯体の両表面に形成した正極活物質層スラリーの塗膜を圧延する方法は、公知の方法であればよく、例えば、一対のプレスローラの間を通すことにより行われる。正極20の作製において、正極活物質層スラリーの組成及び塗布量等を調整し、乾燥塗膜の圧縮を高圧下(例えば、200MPa以上)で行うことによって、正極活物質の充填密度が高い正極20を作製することができる。正極活物質層22の充填密度は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度向上の観点から、3.5g/cm3以上とすることが好ましい。
【0066】
正極20において、正極活物質層22が形成されない正極芯体露出部に保護層を形成する場合は、セラミック粒子、導電材、結着材及び分散媒を含む保護層スラリーを塗布し、乾燥させることにより、当該保護層を形成する。保護層の形成は、正極活物質層22の形成と同時に行ってもよく、別途行ってもよい。
【0067】
正極活物質層22を両表面に形成した正極芯体の裁断に用いる手段としては、電極製造において公知の切断手段であればよく、例えば、金型プレス、カッター、レーザ等が挙げられる。また、正極活物質層22が形成されていない正極芯体露出部を所定形状に切断し、正極タブ部24及び切欠き26を形成する手段についても同様に、公知の切断手段であればよく、例えば、金型プレス、カッター、レーザ等であればよい。
【0068】
正極タブ部24の形成と、切欠き26の形成とは、同時に行ってもよく、別個に行ってもよい。また、正極タブ部24の形成と、切欠き26の形成とは、それぞれ異なる方法により行ってもよい。例えば、正極タブ部24の形成をプレス打ち抜き加工で行い、その後、切欠き26の形成をエネルギー線の照射により行ってもよい。切欠き26は、レーザ等のエネルギー線の照射により形成されることが好ましい。これにより、切欠き26の縁部(z軸方向を含む断面)が尖った形状とならずにより丸みのある形状となるため、充放電に伴い正極タブ部24が伸縮したときに、亀裂の起点が生じることをより確実に防止できる。
【0069】
(負極の作製)
負極30は、例えば、帯状の負極芯体上に負極活物質、導電材、結着材等を含む負極活物質層スラリーを塗布し、塗膜を乾燥及び圧延して負極活物質層32を負極芯体の両表面に形成した後、これを所定の寸法に裁断することにより、製造される。なお、負極活物質層スラリーは負極芯体上において負極タブ部34となる部分には塗布されない。負極活物質層スラリーの塗布方法、塗膜の圧延方法、及び、負極活物質層32を形成した負極芯体の裁断方法等については、上述の正極の作製と同様に行えばよい。
【0070】
(電極体の作製)
図2に示す積層型の電極体3は、例えば、上記で作製された正極20及び負極30を、両電極間にセパレータ40を介して交互に積層することによって、作製される。電極体3において、正極20及び負極30の枚数は特に限定されず、例えば、各電極を10枚以上70枚以下程度の枚数としてもよい。
【0071】
電極体3において、正極20、負極30、及びセパレータ40を積層した状態で固定することが好ましい。例えば、絶縁テープ等の固定部材を電極体3に巻き付けて正極20、負極30、及びセパレータ40を固定してもよいし、セパレータ40に設けられた接着層によって、セパレータ40及び正極20、セパレータ40及び負極30のそれぞれを接着させて正極20、負極30、及びセパレータ40を固定してもよい。これにより、正極20、負極30、及びセパレータ40の積層ずれを防止することができる。
【0072】
(リチウムイオン二次電池の製造)
上記で作製された電極体3において各正極20から延出する正極タブ部24を束ねて積層し、正極集電体6に溶接接続する。同様に、各負極30から延出する負極タブ部34を束ねて積層し、負極集電体8に溶接接続する。溶接接続の手段としては、抵抗溶接、レーザ溶接、超音波溶接等の公知の方法を用いればよい。次いで、絶縁シート17で覆った電極体3を有底角筒状の外装体4に挿入する。その後、外装体4と封口板5の間を溶接接続し、外装体4の開口を封口する。その後、封口板5に設けられた電解液注液孔15より電解質及び溶媒を含む非水電解液を外装体4内に注入する。その後、電解液注液孔15を封止栓16により封止する。これにより、本実施形態に係る電池1が得られる。
【0073】
なお、上記の説明では、正極及び負極をそれぞれ複数含む積層型の電極体3を備える電池1を例示したが、
図2に示す電極体3は一例である。本開示に係る電極体として、例えば、帯状の正極及び帯状の負極をセパレータを介して巻回し、扁平状又は円筒型等に成形して作製される巻回型の電極体を備えていてもよい。例えば、巻回型電極体の巻回軸が延びる方向における一方の端部側に、正極に設けられた複数の正極タブ部と、負極に設けられた複数の負極タブ部がそれぞれ配置され、当該正極タブ部及び当該負極タブ部の少なくとも一方に、本実施形態に係る切込みが設けられる。この場合、帯状の正極に設けられた複数の正極タブ部は、等間隔ではなく、巻回した後で複数の正極タブ部が積層して正極集電体と接合するように、間隔を変えて形成されることが好ましい。帯状の負極に設けられた複数の負極タブ部の形成位置についても同様である。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本開示を更に説明する。
【0075】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)、導電材としての炭素材料、及び分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物:PVdF:炭素材料の質量比が97.5:1:1.5となるように混合し、正極活物質層スラリーを調製した。次に、厚さ15μmの帯状のアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に、ダイコータを用いて当該正極活物質層スラリーを塗布した。次いで、正極活物質層スラリーの塗膜を乾燥させて、正極芯体の両面に正極活物質層を形成した。
【0076】
得られた正極活物質層を形成した帯状の正極芯体を、プレスローラを用いて圧延した後、金型により、
図3に示す正極タブ部24と2箇所の切欠き26とを有する実施例1の正極20を作製した。正極タブ部24のx軸方向の幅W1は、20mmであった。各切欠き26の外縁は、
図3に示すz方向から見た形状が半径4mmの円の一部を構成する円弧であった。また、切欠き26のx軸方向の幅W2、y軸方向の幅W3、正極タブ部24を切り欠いた領域のx軸方向の深さW4及び正極活物質層22を切り欠いた領域のy軸方向の深さW5は、それぞれ8mm、8mm、4mm及び4mmであった。正極活物質層22の充填密度は、3.7g/cm
3であった。
【0077】
[負極の作製]
負極活物質としての黒鉛粉末、結着材としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)及び水を、黒鉛粉末:SBR:CMCの質量比が98:1:1となるように混合し、負極活物質層スラリーを調製した。次に、厚さ8μmの帯状の銅箔からなる負極芯体の両面に、ダイコータを用いて当該負極活物質層スラリーを塗布した。次いで、負極活物質層スラリーの塗膜を乾燥させた後、プレスローラを用いて圧延し、金型を用いて所定の形状に裁断して、負極芯体の両面に負極活物質層32が形成された負極30を作製した。
【0078】
[非水電解質の作製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)を、3:3:4の体積比で混合した。当該混合溶媒に、電解質として、LiPF6を1.2mol/Lの濃度となるように添加して、非水電解質を作製した。
【0079】
[電池の作製]
上述の方法で作製した78枚の正極20及び80枚の負極30を用いて、39枚の正極20と40枚の負極30とをポリオレフィン製のセパレータを介して積層してなる積層型の電極体3を、2組作製した。
図4は、作製された積層型の電極体3における正極20と負極30との位置関係を示す図である。なお、
図4においてセパレータ40は省略されている。作製された電極体3において、負極活物質層32のy軸正方向の端部は、正極活物質層22のy軸正方向の端部より、3mm大きくなるように配置された。即ち、
図4に示すように、正極タブ部24と正極活物質層22との境界28の両端部に設けた切欠き26の正極タブ部24側の端縁Pは、電極の積層方向(z方向)から見て、負極活物質層32と重複しない位置に配置された。作製された2組の電極体3を、有底角筒状の外装体4に挿入し、その後、外装体4と封口板5の間を溶接接続して外装体4の開口を封口した。次いで、封口板5に設けられた電解液注液孔15より上記の電解質及び溶媒を含む非水電解液を外装体4内に注入した後、電解液注液孔15を封止栓16により封止して、実施例1の角形二次電池A1を作製した。
【0080】
<実施例2>
正極活物質層を形成した帯状の正極芯体を切断する工程において、金型を調整することにより、角形二次電池A1と切欠き26の大きさの異なる正極を作製すること以外は、実施例1の方法に従って、実施例2の角形二次電池A2を作製した。形成された各切欠き26の外縁は、
図3に示すz方向から見た形状が半径2mmの円の一部を構成する円弧であった。また、切欠き26のx軸方向の幅W2、y軸方向の幅W3、正極タブ部24を切り欠いた領域のx軸方向の深さW4及び正極活物質層22を切り欠いた領域のy軸方向の深さW5は、それぞれ4mm、4mm、2mm及び2mmであった。正極活物質層22の充填密度は、3.7g/cm
3であった。
【0081】
図5は、角形二次電池A2が備える積層型の電極体3における正極20と負極30との位置関係を示す図である。なお、
図5においてセパレータ40は省略されている。
図5に示すように、角形二次電池A2では、切欠き26の大きさが角形二次電池A1の切欠き26よりも小さく、正極タブ部24と正極活物質層22との境界28の両端部に設けた切欠き26の正極タブ部24側の端縁Pは、電極の積層方向(z方向)から見て、負極活物質層32と重複する位置に配置された。
【0082】
<比較例1>
正極活物質層を形成した帯状の正極芯体を切断する工程において、金型を調整することにより、正極タブ部の根元部分に切欠き26を有さない正極を作製すること以外は、実施例1の方法に従って、比較例1の角形二次電池A3を作製した。
【0083】
[評価試験1]
実施例及び比較例の各電池について、充放電サイクル試験を実施した。各電池を用いて、25℃の電池温度条件下、0.3Itの電流で電圧値が4.3Vになるまで定電流充電を行い、続いて、4.3Vの定電圧で電流値が0.05Itになるまで定電圧充電を行った。その後、0.3Itの電流で電圧値が2.5Vになるまで定電流放電を行った。この定電流放電を行ったときの放電容量(mAh)を、各電池の定格容量とした。
【0084】
次に、各電池について、定格容量に対して1Cレートとなる電流での充放電サイクル試験を行った。即ち、各電池につき、25℃の温度条件下において、1Cレートで4.3Vになるまで(60分間)の定電流充電、15分間の休止期間、0.3Cレートの電流で2.5Vになるまで(60分間)の定電流放電、及び、15分間の休止期間からなる充放電サイクルを、200回繰り返し行った。
【0085】
充放電サイクル試験後、電圧値が放電状態にあるときに各電池を取り出し、各電池を分解して電極体を取り出した。次いで、電極体を構成する負極におけるリチウム金属の析出の有無を、光学顕微鏡を用いて、観察した。上記の測定でリチウム金属の析出が観察されたものを「×」と評価し、リチウム金属の析出が観察されなかったものを「○」と評価した。また、各電極体について、積層方向の厚さの平均値を測定した。各電池につき、評価試験1におけるリチウム金属析出の評価結果及び電極体の厚さ平均値を表1に示す。
【0086】
[評価試験2]
充放電サイクル試験において、各電池について、充電2Cレート、放電0.3Cレートとなるハイレート充放電サイクルを行ったこと以外は、評価試験1の方法に従って、各電池の評価試験を実施した。各電池につき、評価試験2におけるリチウム金属析出の評価結果及び電極体の厚さ平均値を表1に示す。
【0087】
【0088】
実施例1及び2と比較例1との比較から明らかなように、1Cレートの充放電サイクル試験を行った場合、比較例1の電池A3では充放電サイクル試験後に負極にリチウム金属の析出が観察されたのに対して、実施例の電池A1及びA2ではリチウム金属の析出が観察されなかった。切欠き26を設けたことにより、充放電サイクルを繰り返した後でも正極タブ部の撓みや皺の発生が抑えられ、正極と負極との間の距離が維持された結果、負極における充電時のリチウム金属の析出が抑制されたと考えられる。
【0089】
また、より過酷な2Cレートの充放電サイクル試験を行った場合、実施例2の電池A2及び比較例1の電池A3において負極にリチウム金属の析出が観察されたのに対して、実施例1の電池A1及ではリチウム金属の析出が観察されなかった。このことから、正極タブ部24と正極活物質層22との境界28の両端部に設けた切欠き26のy軸正方向側の末端を、積層方向から見て負極活物質層32と重複しない位置に配置することにより、ハイレート充放電への適合性がより高いリチウムイオン二次電池を製造可能となることが示された。
【0090】
さらに、比較例1の電池A3に対して、実施例の電池A1及びA2では、充放電サイクルを繰り返した後でも、電極体3の膨れが抑えられた。斯かる膨れ抑制効果は、特に実施例1の電池A1において顕著であった。これは、充放電サイクルを繰り返した後であっても、正極タブ部の撓みや皺の発生による正極の湾曲が抑えられたためと考えられる。
【符号の説明】
【0091】
1 電池(リチウムイオン二次電池)
3 電極体
4 外装体
5 封口板
5a 正極端子取り付け孔
5b 負極端子取り付け孔
6 正極集電体
7 正極端子
8 負極集電体
9 負極端子
10~13 絶縁部材
14 ガス排出弁
15 電解液注液孔
16 封止栓
17 絶縁シート
20 正極(第1電極)
22 正極活物質層(第1活物質層)
24 正極タブ部(第1タブ部)
26 切欠き
28 境界
30 負極(第2電極)
32 負極活物質層(第2活物質層)
34 負極タブ部
40 セパレータ