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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】自動車用衝突エネルギー吸収部品
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/15 20060101AFI20230118BHJP
   B62D 29/04 20060101ALI20230118BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20230118BHJP
【FI】
B62D21/15 B
B62D29/04 Z
B32B15/092
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020104467
(22)【出願日】2020-06-17
(65)【公開番号】P2021195069
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000101905
【氏名又は名称】イイダ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】樋貝 和彦
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 毅
(72)【発明者】
【氏名】玉井 良清
(72)【発明者】
【氏名】北村 繁明
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 直樹
【審査官】谷川 啓亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158028(JP,A)
【文献】特表2011-529817(JP,A)
【文献】特開平02-150484(JP,A)
【文献】特開2019-038926(JP,A)
【文献】特開2018-047714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/00 - 21/20
B62D 25/00 - 25/24
B62D 29/00 - 29/04
B32B 15/00 - 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に蛇腹状に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する自動車用衝突エネルギー吸収部品であって、
引張強度が590MPa級以上1180MPa級以下の鋼板から形成されてなり、天板部と、該天板部の両端からコーナー部を介して連続する一対の縦壁部と、を有する筒状部材と、
該筒状部材よりも引張強度の低い鋼板から形成されてなり、前記筒状部材の内面側に配設されて少なくとも前記コーナー部との間に閉断面空間を形成する閉断面空間形成壁部材と、
前記閉断面空間に設けられた樹脂と、を備え、
該樹脂は、ゴム変性エポキシ樹脂と硬化剤とを含んでなり、前記樹脂の耐水性のため引張破断伸びが2%以上80%未満、前記筒状部材及び前記閉断面空間形成壁部材との接着強度が12MPa以上、圧縮公称歪10%における圧縮公称応力が6MPa以上、であることを特徴とする自動車用衝突エネルギー吸収部品。
【請求項2】
車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に蛇腹状に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する自動車用衝突エネルギー吸収部品であって、
引張強度が590MPa級以上1180MPa級以下の鋼板から形成されてなり、天板部と、該天板部の両端からコーナー部を介して連続する一対の縦壁部と、を有する筒状部材と、
該筒状部材よりも引張強度の低い鋼板から形成されてなり、前記筒状部材の内面側に配設されて少なくとも前記コーナー部との間に閉断面空間を形成する閉断面空間形成壁部材と、
前記閉断面空間に設けられた樹脂と、を備え、
該樹脂は、ゴム変性エポキシ樹脂を含んでなり、前記樹脂の耐水性のため引張破断伸びが2%以上80%未満、前記筒状部材及び前記閉断面空間形成壁部材との接着強度が12MPa以上、圧縮公称歪10%における圧縮公称応力が6MPa以上、であることを特徴とする自動車用衝突エネルギー吸収部品。
【請求項3】
前記閉断面空間形成壁部材は、前記天板部及び前記コーナー部を跨ぐように配設されて、両端部が前記一対の縦壁部の内面に接合されるとともに中央部が前記天板部の内面に接していることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車用衝突エネルギー吸収部品。
【請求項4】
前記閉断面空間形成壁部材は、中央部が前記天板部の内面に接合されていることを特徴とする請求項3記載の自動車用衝突エネルギー吸収部品。
【請求項5】
前記閉断面空間形成壁部材は、前記コーナー部を跨ぐように配設されて、一端側が該コーナー部から連続する前記縦壁部の内面に接合され、他端側が該コーナー部から連続する前記天板部の内面に接合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車用衝突エネルギー吸収部品。
【請求項6】
前記樹脂は、前記閉断面空間における少なくともコーナー領域に設けられ、前記閉断面空間における前記樹脂の両側の領域のうち少なくとも一方の領域が空洞であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の自動車用衝突エネルギー吸収部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用衝突エネルギー吸収部品に関し、特に、車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に、長手方向に軸圧壊することで衝突エネルギーを吸収する自動車用衝突エネルギー吸収部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突エネルギー吸収性能を向上させる技術として、自動車部品の形状・構造・材料等の最適化等多くの技術が存在する。さらに、近年では、閉断面構造を有する自動車部品の内部に樹脂(例えば、発泡樹脂)を充填することで、該自動車部品の衝突エネルギー吸収性能の向上と軽量化を両立させる技術が数多く提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、サイドシル、フロアメンバー、ピラー等のハット断面部品の天板方向を揃えフランジを重ねて内部に閉鎖空間を形成した構造の自動車用構造部材において、その内部に発泡充填材を充填することにより、最小限の重量増で該自動車用構造部材の曲げ強度、ねじり剛性を向上させ、車体の剛性及び衝突安全性を向上させる技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ハット断面部品を対向させてフランジ部を合わせたピラー等の閉断面構造の内部空間内に高剛性発泡体を充填するに際し、該高剛性発泡体の充填および発泡による圧縮反力により発泡体を固定し、振動音の伝達を抑制する防振性の向上を図るとともに、強度、剛性、衝撃エネルギー吸収性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-240134号公報
【文献】特開2000-318075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に開示されている技術によれば、自動車部品の内部に発泡充填材又は発泡体を充填することにより、該自動車部品の曲げ変形に対する強度や衝突による曲げ変形の衝撃エネルギー吸収性、さらには捻り変形に対する剛性を向上することができ、当該自動車部品の変形を抑制することが可能であるとされている。
しかしながら、本発明が目的とするフロントサイドメンバーやクラッシュボックスのように、自動車の前方又は後方から衝突荷重が入力して軸方向(長手方向)に軸圧壊する際に、蛇腹状に座屈変形して衝突エネルギーを吸収する自動車部品に対しては、該自動車部品の内部に発泡充填材や発泡体を充填する技術を適用したとしても、衝突エネルギーの吸収性を向上させることが困難であるという課題があった。
【0007】
さらに、上記のような従来の自動車部品は耐水性が低く、長期間にわたって使用すると雨天や高湿度等といった使用環境によっては衝突エネルギーの吸収性能が低下して問題であった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、フロントサイドメンバーやクラッシュボックスのような車体の前方又は後方から衝突荷重が入力して蛇腹状に軸圧壊する際に、衝突エネルギーの吸収効果を向上することができ、かつ、耐水性を確保することで雨天や高湿度等といった実車での使用環境において長期間使用しても変化せずに安定して優れた衝突エネルギーの吸収効果を保持することが可能な自動車用衝突エネルギー吸収部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品は、車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収するものであって、
引張強度が590MPa級以上1180MPa級以下の鋼板から形成されてなり、天板部と、該天板部の両端からコーナー部を介して連続する一対の縦壁部と、を有する筒状部材と、
該筒状部材よりも引張強度の低い鋼板から形成されてなり、前記筒状部材の内面側に配設されて少なくとも前記コーナー部との間に閉断面空間を形成する閉断面空間形成壁部材と、
前記閉断面空間に設けられた樹脂と、を備え、
該樹脂は、ゴム変性エポキシ樹脂と硬化剤とを含んでなり、引張破断伸びが2%以上80%未満、前記筒状部材及び前記閉断面空間形成壁部材との接着強度が12MPa以上、圧縮公称歪10%における圧縮公称応力が6MPa以上、であることを特徴とするものである。
【0010】
(2)本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品は、車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収するものであって、
引張強度が590MPa級以上1180MPa級以下の鋼板から形成されてなり、天板部と、該天板部の両端からコーナー部を介して連続する一対の縦壁部と、を有する筒状部材と、
該筒状部材よりも引張強度の低い鋼板から形成されてなり、前記筒状部材の内面側に配設されて少なくとも前記コーナー部との間に閉断面空間を形成する閉断面空間形成壁部材と、
前記閉断面空間に設けられた樹脂と、を備え、
該樹脂は、ゴム変性エポキシ樹脂を含んでなり、引張破断伸びが2%以上80%未満、前記筒状部材及び前記閉断面空間形成壁部材との接着強度が12MPa以上、圧縮公称歪10%における圧縮公称応力が6MPa以上、であることを特徴とするものである。
【0011】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記閉断面空間形成壁部材は、前記天板部及び前記コーナー部を跨ぐように配設されて、両端部が前記一対の縦壁部の内面に接合されるとともに中央部が前記天板部の内面に接していることを特徴とするものである。
【0012】
(4)上記(3)に記載のものにおいて、
前記閉断面空間形成壁部材は、中央部が前記天板部の内面に接合されていることを特徴とするものである。
【0013】
(5)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記閉断面空間形成壁部材は、前記コーナー部を跨ぐように配設されて、一端側が該コーナー部から連続する前記縦壁部の内面に接合され、他端側が該コーナー部から連続する前記天板部の内面に接合されていることを特徴とするものである。
【0014】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれか一つに記載のものにおいて、
前記樹脂は、前記閉断面空間における少なくともコーナー領域に設けられ、前記閉断面空間における前記樹脂の両側の領域のうち少なくとも一方の領域が空洞であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、天板部と、該天板部の両端からコーナー部を介して連続する一対の縦壁部と、を有する筒状部材と、該筒状部材よりも引張強度の低い鋼板から形成されてなり、前記筒状部材の内面側に配設されて少なくとも前記コーナー部との間に閉断面空間を形成する閉断面空間形成壁部材と、前記閉断面空間に設けられた樹脂と、を備え、該樹脂は、ゴム変性エポキシ樹脂を含んでなり、引張破断伸びが2%以上80%未満、前記筒状部材及び前記閉断面空間形成壁部材との接着強度が12MPa以上、圧縮公称歪10%における圧縮公称応力が6MPa以上、であることにより、車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する筒状部材が圧縮変形する過程において、該筒状部材の変形抵抗を低下させることなく蛇腹状に繰り返し座屈変形を発生させることができ、衝突エネルギーの吸収効果を大幅に向上させるとともに、耐水性を確保することができ、雨天や高湿度等といった実車での使用環境において長期間使用しても変化せず安定して優れた衝突エネルギーの吸収効果を保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の構成を説明する説明図である。
図2】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の断面図である。
図3】本実施の形態及び実施例における自動車用衝突エネルギー吸収部品に入力する衝突荷重を説明する図である。
図4】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品に用いる樹脂の耐水性に係る特性を示す図である((a)界面剥離、(b)凝集破壊強度)。
図5】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品に用いる閉断面空間形成壁部材の具体例を示す断面図である(その1)。
図6】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品に用いる閉断面空間形成壁部材の具体例を示す断面図である(その2)。
図7】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品に用いる閉断面空間形成壁部材の具体例を示す断面図である(その3)。
図8】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品に用いる閉断面空間形成壁部材の具体例を示す断面図である(その4)。
図9】本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の具体的な態様を例示する断面図である。
図10】実施例において、軸圧壊試験において発明例として用いた試験体の構造を示す断面図である。
図11】実施例において、樹脂の接着強度の測定及び耐水性評価試験に用いる試験片及び試験方法を説明する図である。
図12】実施例において、軸圧壊試験において比較対象として用いた試験体の構造を示す図である。
図13】実施例において、比較例に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品を試験体として軸圧壊試験を行ったときの、衝突荷重と軸圧壊変形量(ストローク)の測定結果を示す図である。
図14】実施例において、発明例に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品を試験体として軸圧壊試験を行ったときの、衝突荷重と軸圧壊変形量(ストローク)の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品について、図1図8に基づいて以下に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0018】
本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収するものであって、図1図3に示すように、筒状部材3と、閉断面空間形成壁部材9と、樹脂11と、を備えたものである。
【0019】
<筒状部材>
筒状部材3は、天板部5aと、天板部5aの両端からコーナー部5bを介して連続する一対の縦壁部5cと縦壁部5cから連続するフランジ部5dとを有するハット断面形状のアウタ部品5のフランジ部5dと、平板形状のインナ部品7の両端部とが接合部13で接合されて筒状に形成されたものである。ここで、コーナー部5bとは、天板部5aと縦壁部5cとをつなぐ屈曲した部位であって、天板部5a側のR止まり5eと縦壁部5c側のR止まり5eとの間の部位である(図2参照)。以下の説明においても同様である。
【0020】
筒状部材3を構成するアウタ部品5とインナ部品7は、いずれも、引張強度が590MPa級以上1180MPa級以下の鋼板から形成されてなるものである。ここで、鋼板の種類としては、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛系めっき鋼板、亜鉛合金系めっき鋼板、アルミ合金系めっき鋼板、等が例示できる。
【0021】
なお、筒状部材3は、車体前部の左右位置において車体前後方向に延びて車体骨格の一部を構成するフロントサイドメンバーや、該車体骨格の前端又は後端に設けられるクラッシュボックスといった閉断面構造を有する自動車部品に用いられる。そして、このような自動車部品は、筒状部材3の軸方向(長手方向)が車体の前後方向と一致するように該車体に配設される。これにより、車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際には、筒状部材3が軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する。
【0022】
<閉断面空間形成壁部材>
閉断面空間形成壁部材9は、筒状部材3よりも引張強度の低い(例えば、270MPa級、440MPa級等の)鋼板から形成されてなり、図2に示すように、筒状部材3の内面側において配設されて、天板部5aの中央付近に接合、接触又は分割される場合も含めて、少なくともコーナー部5bとの間に閉断面空間を形成するものである。
【0023】
自動車用衝突エネルギー吸収部品1において、閉断面空間形成壁部材9は、図2に示すように、アウタ部品5とインナ部品7との間においてコーナー部5bを含みコーナー部5bを跨ぐように配設された略コ字断面形状の部材であり、その両端部がアウタ部品5の一対の縦壁部5cに接合され、筒状部材3におけるアウタ部品5の天板部5a、コーナー部5b及び縦壁部5cの一部の内面と間に閉断面空間を形成する。
【0024】
閉断面空間形成壁部材9とアウタ部品5との間に形成される閉断面空間とは、図1に示す筒状部材3の軸方向に交差する方向の断面形状が閉断面であり、該閉断面が筒状部材3の軸方向に沿って連続して形成された空間のことをいう。
そして、閉断面空間形成壁部材9の両端部と縦壁部5cの内面又は天板部5aの内面は、例えばスポット溶接等により接合されている。
【0025】
<樹脂>
樹脂11は、閉断面空間形成壁部材9とアウタ部品5との間に形成された閉断面空間の軸方向の全長に設けられたものである。なお、樹脂11は、閉断面空間の軸方向における一部、例えば、衝突荷重が入力する側の一部、に設けられてもよい。
【0026】
樹脂11は、ゴム変性エポキシ樹脂と硬化剤を含んでなるものであり、所定の温度及び時間で加熱処理を行うことで樹脂11自体の接着能によりアウタ部品5と閉断面空間形成壁部材9とに接着させることができる。
さらに、樹脂11は、引張破断伸びが2%以上80%未満、筒状部材3及び閉断面空間形成壁部材9との接着強度が12MPa以上、圧縮公称歪10%における圧縮公称応力が6MPa以上の物性を有するものである。これら各物性はいずれも、樹脂11を加熱処理した後の値である。
【0027】
樹脂11がゴム変性エポキシ樹脂及び硬化剤を含んでなるものとした理由は、筒状部材3に衝突荷重が入力して蛇腹状に軸圧壊変形する際に、加熱処理により樹脂11を加熱硬化させ、12MPa以上の接着強度で筒状部材3及び閉断面空間形成壁部材9と接着することにより、筒状部材3の変形に追随して樹脂11が変形することができるためである。
【0028】
さらに、樹脂11の物性(引張破断伸び、接着強度及び圧縮公称応力)を求める方法と、各物性を上記のとおり規定する理由は下記のとおりである。
【0029】
≪引張破断伸び≫
所定の間隙に調整した2枚の鋼板の間に未硬化の樹脂を入れ、所定の条件で加熱硬化させ、鋼板を剥がして平板状樹脂を作製し、該平板状樹脂を所定の形状に加工して試験片を作製する。次いで、所定の引張速度で樹脂が破断するまで引張試験を行い、樹脂破断時の標線間伸び量を測定する。そして、該測定した樹脂破断時の標線間伸び量を初期の標線間距離で除して百分率表示した値を引張破断伸びとする。
【0030】
通常、車体は、降雨やその跳ね返りの水、高湿環境にさらされるため、車体の一部を構成する樹脂にも耐水性が要求される。そのため、自動車用衝突エネルギー吸収部品1の樹脂の界面剥離を防止した密着性(接着強度)が長期にわたって確保可能となる耐水性を保持することが必要となる。
そこで、自動車用衝突エネルギー吸収部品1においては、引張破断伸びが2%以上80%未満であることにより、雨天や高湿度等の使用環境においても樹脂11と筒状部材3及び閉断面空間形成壁部材9との密着性が低下せず、衝突エネルギーの吸収効果を保持可能となる耐水性を確保することが可能となる。
【0031】
引張破断伸びが2%未満では、筒状部材3の軸圧壊過程において樹脂11にクラック・破断が発生しやすくなり、筒状部材3や閉断面空間形成壁部材9から剥離して座屈耐力や変形抵抗が低下しやすくなる。
【0032】
一方、引張破断伸びが80%を超えると、樹脂11の耐水性を保持することができなくなり、筒状部材3の軸圧壊過程において、樹脂11が筒状部材3や閉断面空間形成壁部材9から剥離して座屈耐力や衝突特性が低下しやすくなる。
【0033】
なお、樹脂の耐水性を表す指標には、雨天や高湿度等の使用環境においても樹脂が鋼板界面から剥離しにくい特性と樹脂が膨潤しにくく破断しにくい特性とがある。そして、これらの樹脂の特性は、例えば、2枚の鋼板を重ね合わせて接着した試験片を所定温度の温水に所定時間浸漬した後、該試験片における接着面が破断するまで引張荷重を負荷し、破断した接着面における樹脂の状態を観察する耐水性評価試験を行うことで得ることができる。
【0034】
図4に、上記の耐水性評価試験により得られた樹脂の特性の一例を示す。
図4(a)は、耐水性評価試験において接着面から剥離した樹脂の面積の割合である樹脂界面剥離面積率(=(破断時に樹脂が剥離した接着面の面積)/(試験片における接着面の面積)×100)と、樹脂の引張破断伸びとの関係を示すグラフである。
一方、図4(b)は、上記の耐水性評価試験において樹脂の内部から破壊(凝集破壊)したときの凝集破壊強度と、樹脂の引張破断伸びとの関係を示すグラフである。
【0035】
本発明では、樹脂11が鋼板製の筒状部材3及び閉断面空間形成壁部材9から剥離すると衝突特性を低下させることから、耐水性として、樹脂が鋼板界面から剥離しにくい特性が重要である。そして、樹脂の界面剥離は、図4(a)に示すとおり、引張破断伸びと相関し、引張破断伸びが80%以上となると樹脂の界面剥離が生じて耐水性が低下したことを示している。そのため、雨天や高湿度等の使用環境においては、樹脂11と筒状部材3及び閉断面空間形成壁部材9との密着性が低下し、筒状部材3の軸圧壊変形の過程において樹脂11が剥離して座屈耐力や変形抵抗が低下しやすくなる。
【0036】
また、樹脂が膨潤しにくく破断しにくい特性に関しても、図4(b)に示すように、樹脂の引張破断伸びが80%未満であれば、雨天や高湿度等の使用環境においても樹脂の界面剥離は生じることがなく(樹脂界面剥離面積率0%)、凝集破壊強度も十分に高い値(12MPa以上)を保つことができることを示している。
【0037】
≪接着強度≫
所定の間隙に調整した2枚の鋼板の間に未硬化の樹脂を入れ、所定の条件で加熱硬化させ、試験片を作製する。次いで、所定の引張速度で該試験片の引張試験を行い、鋼板と樹脂とが破断した時の荷重を測定する。そして、該測定した破断時の荷重を鋼板と樹脂との接着面積で除した値(=せん断接着強度)を接着強度とする。
【0038】
そして、このように求めた接着強度が12MPa以上であることにより、筒状部材3の軸圧壊過程において樹脂11が筒状部材3や閉断面空間形成壁部材9から剥離して座屈耐力や変形抵抗が低下することを防ぐことができる。
【0039】
≪圧縮公称応力≫
所定の間隙に調整した2枚の鋼板の間に未硬化の樹脂を入れ、所定の条件で加熱硬化させ、鋼板を剥がして平板状樹脂を作製する。次いで、該平板状樹脂を円柱状に切り出して試験片を作製する。そして、当該試験片における円形状面を圧縮面とし、所定の試験速度で公称歪10%まで圧縮した時の荷重について、初期の試験片の断面積で除した値を圧縮公称応力する。
【0040】
そして、このように求めた圧縮公称歪10%における圧縮公称応力が6MPa以上であることにより、軸圧壊過程において、筒状部材3が蛇腹状に変形しても、樹脂11自体が潰れて破壊しないほど十分な耐力を有することができる。
【0041】
なお、樹脂11の引張破断伸び、接着強度及び圧縮公称応力が上記範囲となるように、ゴム変性エポキシ樹脂及び硬化剤の種類や組成、さらには、加熱処理の温度や時間を適宜調整すればよい。
【0042】
また、硬化剤としては、ポリアミン系(脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、芳香族ポリアミン、ポリアミドアミン)、酸無水物系、フェノール系、チオール系、潜在性硬化剤であるジシアンジアミド、イミダゾール化合物、ケチミン化合物、有機酸ヒドラジド等、使用環境・反応温度等によって最適に選定するとよい。
【0043】
以上、本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、筒状部材3に衝突荷重が入力して軸圧壊する過程において、樹脂11は筒状部材3及び閉断面空間形成壁部材9から剥離することなく座屈抵抗を向上させ、筒状部材3の変形抵抗を低下させることなく筒状部材3に蛇腹状に繰り返し座屈を発生させることができ、衝突エネルギーの吸収性を向上させることができる。さらに、自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、雨天や高湿度等の使用環境であっても樹脂11の密着性が低下せず、長期にわたって優れた衝突エネルギーの吸収効果を確保可能となる耐水性を保持することができる。
【0044】
なお、上記の説明において、樹脂11は、加熱処理した後にゴム変性エポキシ樹脂と硬化剤とを含んでなるものであった。もっとも、硬化剤の量によっては、所定の温度及び時間で加熱処理した後の樹脂11に硬化剤が残留しない又は検出されない場合がある。
【0045】
そのため、本発明の実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1の他の態様として、加熱処理した後の樹脂11が硬化剤を含まない又は検出されないもので、所定の温度及び時間で加熱処理を行うことで樹脂11自体の接着能によりアウタ部品5と閉断面空間形成壁部材9とに接着させたものであってもよい。
【0046】
加熱処理した後の樹脂11が硬化剤を含まない又は検出されないものである場合においても、その物性は、引張破断伸びが2%以上80%未満、筒状部材3及び閉断面空間形成壁部材9との接着強度が12MPa以上、圧縮公称歪10%における圧縮公称応力が6MPa以上を有するものとする。そして、樹脂11の引張破断伸び、接着強度及び圧縮公称応力が上記範囲となるように、加熱処理前に閉断面空間に設けるゴム変性エポキシ樹脂及び硬化剤の種類や組成、さらには、加熱処理の温度や時間を適宜調整すればよい。
【0047】
このように、ゴム変性エポキシ樹脂を含み、かつ硬化剤を含まない又は検出されない樹脂11が上記物性の範囲内にあれば、雨天や高湿度等の使用環境であっても樹脂11の密着性が低下せずに長期にわたって確保可能となる耐水性を保持することができる。筒状部材3の軸圧壊する過程において、樹脂11は筒状部材3及び閉断面空間形成壁部材9から剥離することなく座屈抵抗を向上させ、筒状部材3の変形抵抗を低下させることなく筒状部材3に蛇腹状に繰り返し座屈を発生させることができ、衝突エネルギーの吸収性を向上させることができる。
【0048】
また、本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、図2に断面図を示したような、閉断面空間形成壁部材9とアウタ部品5の縦壁部5cとが接合部15により接合されて、天板部5a及びコーナー部5bと縦壁部5cの一部との間に樹脂11が設けられた例を説明したが、本発明はこれに限るものではない。
【0049】
例えば図5に示すように、閉断面空間形成壁部材9の縦壁部9aが縦壁高さの1/2以下のわずかであって、アウタ部品5の天板部5a及びコーナー部5bを主体とする内面との間に形成された閉断面空間に樹脂11が設けられたものであってもよい。
【0050】
さらに、衝突時に特に割れが発生しやすいコーナー部5bの内面との間に閉断面空間を形成して樹脂11を設けるようにすれば、衝突エネルギー吸収効果の向上が期待できる。そのため、図6に示すようにコーナー部5bとの間に形成された閉断面空間に樹脂11が設けられたものであってもよい。
【0051】
この場合、天板部5aの両側の各コーナー部5bを跨ぐように二つの閉断面空間形成壁部材9が配設され、各閉断面空間形成壁部材9は、一端側がコーナー部5bから連続する縦壁部5cの内面に接合部15により接合され、他端側がコーナー部5bから連続する天板部5aの内面に接合部15により接合されたものであってもよい(図6(a))。あるいは、一つの閉断面空間形成壁部材9が天板部5aと二つのコーナー部5bを跨ぐように配設されて、両端部が一対の縦壁部5cの内面に接合部15により接合されるとともに中央部が天板部5aの内面に接しているものであってもよく(図6(b))、また、中央部が天板部5aの内面に接合されたものでもよい。
これらによって、天板部5aとの間に閉断面空間を形成する閉断面空間形成壁部材9を小さくすることができて、車体の軽量化とも両立できる。
【0052】
なお、樹脂11は、アウタ部品5と閉断面空間形成壁部材9との閉断面空間に充満させる必要はなく、図6(c)及び図6(d)に示すように、閉断面空間における少なくともコーナー領域19に樹脂11が設けられ、閉断面空間における樹脂11の両側の領域のうち少なくとも一方の領域が空洞17であってもよい。
【0053】
ここで、閉断面空間におけるコーナー領域19とは、例えば図6(c)及び図6(d)に示すようなハット断面形状のアウタ部品5とハット断面形状の閉断面空間形成壁部材9との間に形成された閉断面空間においては、図6(c)の部分拡大図(破線円で囲まれた部位)に示すように、アウタ部品5のR止まり5eと閉断面空間形成壁部材9のR止まり9bとを結んだ直線で仕切られた領域のことをいう。
【0054】
そして、閉断面空間領域における少なくともコーナー領域19に樹脂11を設けるとは、図6(c)及び図6(d)に示すように、コーナー領域19に樹脂11が設けられておればよく、樹脂11の端部が閉断面空間における天板部5a側や縦壁部5c側に延出してもよい。例えば、左右のコーナー領域19に設置された樹脂11の間には空洞17があり、空洞17によって左右の樹脂11がつながっていないようにするとよい。
【0055】
さらに、空洞17とは、閉断面空間においてアウタ部品5と閉断面空間形成壁部材9との間に樹脂11が設けられていない領域であって、アウタ部品5と閉断面空間形成壁部材9のいずれにも樹脂11が接触していない領域のことをいう。
【0056】
このように、図6(a)~図6(d)に示す自動車用衝突エネルギー吸収部品1においては、閉断面空間形成壁部材9及び樹脂11を最小限の大きさと量に限定することにより、自動車用衝突エネルギー吸収部品1の軽量化を図りつつ衝突特性を大幅に向上できる。
【0057】
また、図7に示すように、閉断面空間形成壁部材9によりコーナー部5b及び縦壁部5cの内面との間に形成された閉断面空間に樹脂11が設けられたものであってもよい。この場合、図6と同様に、二つの閉断面空間形成壁部材9を用いて天板部5aと縦壁部5cにそれぞれ接合部15を設けてもよいし(図7(a))、一つの閉断面空間形成壁部材9を用い、その中央部をアウタ部品5の天板部5aと接触又は接合させて各コーナー部5bとの間に閉断面空間が形成されるように、一対の縦壁部5cに接合部15を設けてもよい(図7(b))。
【0058】
さらに、図8に示すように、ハット断面形状の閉断面空間形成壁部材9の両側端をアウタ部品5とインナ部品7と合わせて接合部15で接合したものであってもよい。この場合においても、樹脂11は、アウタ部品5とインナ部品7それぞれとの間に形成された閉断面空間に充満させる必要はない。例えば、図8に示すように、閉断面空間における少なくともコーナー領域19に樹脂11を設置し、閉断面空間における樹脂11の両側の領域のいずれか一方の領域を空洞17とすることで、車体の軽量化とも両立できる。
【0059】
本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、ハット断面形状のアウタ部品5と平板形状のインナ部品7とからなる筒状部材3を備えたものを例に挙げたが、本発明はこれに限るものではなく、図9に示すように、ハット断面形状のアウタ部品5とハット断面形状のインナ部品7とを対向させてそれぞれのフランジ部が接合して筒状に形成された筒状部材3を備えた態様のものであってもよい。
【0060】
図9(a)は、図6(d)に示した態様で閉断面空間形成壁部材9が配設されて樹脂11が設けられた例、図9(b)は、図6(c)に示した態様で閉断面空間形成壁部材9が配設されて樹脂11が設けられた例、図9(c)は、図7(a)に示した態様で閉断面空間形成壁部材9が配設されて樹脂11が設けられた例、図9(d)は、図8に示した態様で閉断面空間形成壁部材9が配設されて樹脂11が設けられた例である。
なお、図9において、アウタ部品5については図5図8と同じ符号を付し、インナ部品7についてはアウタ部品5と対応する符号を付している。
【0061】
同様に、図5図6(a)、(b)及び(d)に示した態様や、図7(b)に示した態様についても、ハット断面形状のアウタ部品とインナ部品と対向させてフランジ部を合わせて形成された筒状部材に適用可能である。
【0062】
また、図9では、アウタ部品5とインナ部品7とが同形状のハット断面形状である例を示したが、アウタ部品5とインナ部品7とは異なるハット断面形状であってもよい。
【実施例
【0063】
本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の効果を確認するための実験を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0064】
実験は、本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品を模した試験体について軸圧壊試験を行うものであり、軸圧壊試験は、図3に示すように、試験体31の軸方向に試験速度17.8m/sで衝突荷重を入力して試験体長(試験体31の軸方向長さL0)を200mmから120mmまで80mm軸圧壊変形させたときの衝突荷重と軸圧壊変形量(ストローク)の関係を示す荷重-ストローク曲線の測定及び高速度カメラによる変形状態の撮影を行った。さらに、測定した荷重-ストローク曲線から、ストロークが0~80mmまでの吸収エネルギーを求めた。
【0065】
図10に、発明例とした試験体31の構造及び形状を示す。
発明例は、前述した本発明の実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1(図1及び図2)を試験体31とし、軸圧壊試験を行ったものである。
【0066】
試験体31は、アウタ部品5とインナ部品7とがスポット溶接により接合された筒状部材3を有し、アウタ部品5と閉断面空間形成壁部材9との間に閉断面空間が形成され、該閉断面空間における天板部両側の各コーナー領域に樹脂11が設けられている。そして、アウタ部品5と閉断面空間形成壁部材9との間の隙間高さを8mm、3mm、1mm(図10(a)~(c))とした。
【0067】
アウタ部品5には、引張強度590MPa級~1180MPa級、板厚1.2mm又は1.4mmの鋼板を用い、インナ部品7には、引張強度590MPa級、板厚1.2mmの鋼板を用いた。
また、閉断面空間形成壁部材9には、引張強度270MPa級、板厚0.5mmの鋼板を用いた。
【0068】
樹脂11は、ゴム変性エポキシ樹脂及び硬化剤を所定の加熱温度及び加熱時間で加熱処理したものであり、加熱処理した後の樹脂11の引張破断伸び、接着強度及び圧縮公称応力のそれぞれの値を本発明の範囲内とした。
【0069】
また、耐水性は樹脂11を構成するモノマー成分を逐次調整することで変更が可能であり、モノマー成分を変更することで引張破断伸びや圧縮公称応力が変化する。
樹脂11の引張破断伸び、接着強度及び圧縮公称応力は、それぞれ下記の試験方法を別途行うことにより求めた。
【0070】
<引張破断伸び>
2枚の鋼板の間隙を2mmに調整し、その間に未硬化の樹脂を入れ、180℃×20分保持の条件で加熱硬化させ、鋼板を剥がして厚さ2mmの平板状樹脂を作製した。続いて、当該平板状樹脂をダンベル形状(JIS6号ダンベル)に加工して試験片を作製し、引張速度2mm/minで樹脂が破断するまで引張試験を行い、樹脂破断時の標線間伸び量を測定した。そして、該測定した樹脂破断時の標線間伸び量を初期の標線間距離(=20mm)で除した値を百分率表示し、引張破断伸びとした。
【0071】
<せん断接着強度>
図11に示すように、被着体23及び被着体25は、幅25mm、厚さ1.6mm、長さ100mmの鋼板(SPCC)とし、接着部(幅25mm、長さ10mm)に未硬化の樹脂27を設置し、厚み0.15mmに調整した状態で、180℃×20分保持の条件で加熱硬化したものを試験片21とした。次いで、試験片21を引張速度5mm/minで被着体23又は被着体25と樹脂27とが破断するまでの引張試験を行い、破断時の荷重を測定した。そして、破断時の荷重を接着部の面積(接着面積:幅25mm×長さ10mm)で除した値をせん断接着強度とした。
【0072】
<圧縮公称応力>
2枚の鋼板の間隙を3mmに調整し、その間に未硬化の樹脂を入れ、180℃×20分保持の条件で加熱硬化させた後、鋼板を剥がして厚さ3mmの平板状樹脂を作製した。次いで、該平板状樹脂から直径20mmの円柱状に切り出したものを円形状樹脂試験片とした。そして、当該円形状樹脂試験片における直径20mmの円形状面を圧縮面とし、試験速度2mm/minで公称歪10%まで圧縮した時の荷重について、初期の円形状樹脂試験片の断面績で除した値を圧縮公称応力とした。
【0073】
<耐水性>
図11に示す試験片21を70℃の温水に72時間浸漬した後、試験片21を引張速度5mm/minで被着体23又は被着体25と樹脂27とが破断するまでの引張試験を行い、被着体23又は被着体25と樹脂27の剥離状態を観察した。樹脂27の内部から破壊した凝集破壊(破断時に被着体23と被着体25の樹脂接着面に樹脂が残存する)面積率が100%であった場合を界面剥離なし(○)、被着体23又は被着体25と樹脂27の間の界面剥離(破断時に被着体表面が現れて、被着体23と被着体25の接着面に樹脂が残存する割合が100%未満)が発生した場合を×評価とした。
【0074】
本実施例では、比較対象として、発明例の筒状部材3及び閉断面空間形成壁部材9と同一形状であって樹脂が設けられていない試験体33(図12)を用いた場合と、発明例と同一形状の試験体31において樹脂11の物性が本発明の範囲外の場合を比較例とし、発明例と同様に軸圧壊試験を行った。
表1に、発明例及び比較例とした試験体の構造、樹脂の種類、引張破断伸び、接着強度、圧縮公称歪10%における圧縮公称応力の各条件を示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1において、発明例1~発明例7は、筒状部材3を構成するアウタ部品5とインナ部品7に用いた鋼板の引張強度(590MPa級以上1180MPa級以下)、閉断面空間形成壁部材9に用いた鋼板の引張強度(270MPa級)、樹脂11の種類、引張破断伸び、接着強度、圧縮公称応力のいずれもが、前述の実施の形態で示した本発明の範囲内としたものである。
【0077】
そして、発明例1~発明例4は、所定の加熱温度及び加熱時間で加熱処理した後に、樹脂11に硬化剤が残留したものである。また、発明例5~発明例7は、発明例1~発明例4に比べて硬化剤の量が少なく、所定の加熱温度及び加熱時間で加熱処理した後、樹脂11に硬化剤が残留しなかった又は検出されなかったものである。
【0078】
これらに対し、比較例1~比較例4は、樹脂が設けられていない試験体33を用いたもの、比較例5~比較例7は、樹脂11の種類をエポキシ又はウレタンとし、引張破断伸び、接着強度、圧縮公称応力の少なくともいずれか一つが本発明の範囲外である試験体31を用いたもの、比較例8~比較例14は、樹脂11の引張破断伸びが80%以上である試験体31を用いたものである。
【0079】
図13及び図14に、それぞれ比較例1に係る試験体33及び発明例1に係る試験体31(図10(a))を用いて軸圧壊試験を行ったときの荷重―ストローク曲線の測定結果を示す。
図13及び図14は、横軸を衝突開始から試験体の軸方向における変形量を表すストローク(mm)とし、縦軸を試験体に入力した衝突荷重(kN)とした荷重―ストローク曲線である。グラフ中に示す吸収エネルギーは、ストロークが0~80mmにおける衝突エネルギーの吸収量である。
【0080】
図13に示す比較例1は、樹脂が設けられていない試験体33(図12)の結果であり、試験体33に入力する衝突荷重は、入力開始直後に最大値(約300kN)を示し、その後、筒状部材3の座屈とともに衝突荷重の値は変動した。そして、ストロークが80mmに達した試験終了時における吸収エネルギーは6.5kJであった。
【0081】
図14に示す発明例1は、アウタ部品5及び閉断面空間形成壁部材9との間に形成された閉断面空間に樹脂11が設けられ、引張破断伸び(=3%)、接着強度(=12MPa)及び圧縮公称歪10%における圧縮公称応力(=6MPa)のいずれもが本発明の範囲内である試験体31の結果である。図14に示す荷重-ストローク曲線から、衝突荷重の入力開始直後の最大値は約400kNであり、前述の比較例1に比べて大幅に向上した。さらに、ストロークが10mm以降における衝突荷重は、比較例1に比べると高い値で推移した。そして、ストロークが0~80mmにおける吸収エネルギーについても、比較例1に比べて大幅に向上して13.8kJとなった。
【0082】
このように、発明例1においては、アウタ部品5及び閉断面空間形成壁部材9との間に樹脂11が設けられ、その引張破断伸び、接着強度及び圧縮公称応力を本発明の範囲内とすることにより、軸圧壊過程において座屈耐力が増加するとともに樹脂11が剥離せずに変形抵抗が上昇し、蛇腹状の圧縮変形が生じて衝突エネルギーの吸収性が向上したことが分かる。
【0083】
次に、軸圧壊試験に用いる試験体の構造、樹脂の種類及び接着強度を変更して軸圧壊試験を行い、ストロークが0~80mmにおける吸収エネルギーの測定結果と試験体重量を前掲した表1に示す。
【0084】
表1中の試験体重量は、樹脂11が設けられた試験体31においてはアウタ部品5、インナ部品7、閉断面空間形成壁部材9及び樹脂11の各重量の総和である。一方、樹脂が設けられていない試験体33においては、アウタ部品5、インナ部品7及び閉断面空間形成壁部材9の各重量の総和である。
【0085】
前掲した表1に示したとおり、発明例1における吸収エネルギーは13.8kJであリ、比較例1における吸収エネルギー6.5kJに比べて大幅に向上した。また、比較例1よりも引張強度の高い鋼板(1180MPa級)をアウタ部品5に用いた比較例4における吸収エネルギー(=8.5kJ)と比較しても、発明例1においては吸収エネルギーが大幅に向上した。
【0086】
発明例1における試験体重量は1.24kgであり、樹脂が設けられていない比較例1における試験体重量(=1.06kg)よりも増加した。しかしながら、発明例1においては、吸収エネルギーを試験体重量で除した単位重量当りの吸収エネルギーは11.1kJ/kgであり、比較例1(=6.1kJ/kg)よりも向上した。
【0087】
発明例2は、樹脂11の厚みが発明例1よりも小さい1mmとした試験体31(図10(c))を用いたものである。
発明例2における吸収エネルギーは10.0kJであり、比較例1(=6.5kJ)に比べて大幅に向上した。
また、発明例2における試験体重量は1.11kgであり、発明例1よりも軽量であった。そして、発明例2における単位重量当たりの吸収エネルギーは9.0kJ/kgであり、比較例1(=6.1kJ/kg)よりも向上した。
【0088】
発明例3は、アウタ部品5に用いた鋼板の引張強度1180MPa級、樹脂11の厚み1mmとした試験体31(図10(c))を用いたものである。
発明例3における吸収エネルギーは12.8kJであり、引張強度1180MPa級の鋼板をアウタ部品5に用いた比較例4(=8.5kJ)に比べて大幅に向上した。
また、発明例3における試験体重量は1.12kgであり、発明例1よりも軽量であった。その上、発明例3における単位重量当たりの吸収エネルギーは11.4kJ/kgであり、比較例4(=7.9kJ/kg)よりも向上した。
【0089】
発明例4は、アウタ部品5に用いた鋼板の引張強度590MPa級、樹脂11の厚み3mmとした試験体31(図10(b))を用いたものである。
発明例4における吸収エネルギーは10.5kJであり、比較例1(=6.5kJ)に比べても大幅に向上した。
また、発明例4における試験体重量は1.17kgであり、発明例1よりも軽量となった。そして、発明例4における単位重量当たりの吸収エネルギーは9.0kJ/kgであり、比較例1(=6.1kJ/kg)よりも向上した。
【0090】
発明例5は、アウタ部品5に用いた鋼板の引張強度590MPa級、樹脂11の厚み8mmとした試験体31(図10(a))を用いたものである。
発明例5における吸収エネルギーは13.8kJであリ、比較例1における吸収エネルギー6.5kJに比べて大幅に向上した。また、比較例1よりも引張強度の高い鋼板(1180MPa級)をアウタ部品5に用いた比較例4における吸収エネルギー(=8.5kJ)と比較しても、発明例5においては吸収エネルギーが大幅に向上した。
また、発明例5における単位重量当たりの吸収エネルギーは11.1kJ/kgであり、比較例1(=6.1kJ/kg)よりも大幅に向上した。
【0091】
発明例6は、アウタ部品5に用いた鋼板の引張強度1180MPa級、樹脂11の厚み1mmとした試験体31(図10(c))を用いたものである。
発明例6における吸収エネルギーは12.8kJであり、比較例4(=8.5kJ)に比べて大幅に向上した。
また、発明例6における試験体重量は1.11kgであり、発明例1よりも軽量であった。その上、発明例6における単位重量当たりの吸収エネルギーは11.5kJ/kgであり、比較例4(=7.9kJ/kg)よりも向上した。
【0092】
発明例7は、アウタ部品5に用いた鋼板の引張強度590MPa級、樹脂11の厚み3mmとした試験体31(図10(b))を用いたものである。
発明例7における吸収エネルギーは10.4kJであり、比較例1(=6.5kJ)に比べても大幅に向上した。
また、発明例7における試験体重量は1.17kgであり、発明例1よりも軽量となった。そして、発明例7における単位重量当たりの吸収エネルギーは8.9kJ/kgであり、比較例1(=6.1kJ/kg)よりも向上した。
【0093】
比較例1は、樹脂が設けられていない試験体33(図12)を用いたものであり、試験体重量は1.06kgであった。そして、吸収エネルギーは、前述した図13に示したとおり、6.5kJであり、単位重量当たりの吸収エネルギーは6.1kJ/kgであった。
【0094】
比較例2は、比較例1と同一形状の試験体33において、アウタ部品5に板厚1.4mmの鋼板を用いたものであり、試験体重量は1.17kgであった。
比較例2における吸収エネルギーは7.0kJ、単位重量当たりの吸収エネルギーは6.0kJ/kgであり、吸収エネルギーは比較例1よりも増加したものの、発明例1~発明例7には及ばなかった。
【0095】
比較例3は、比較例1と同一形状の試験体33において、アウタ部品5に引張強度980MPa級の鋼板を用いたものであり、試験体重量は1.06kgであった。
比較例3における吸収エネルギーは8.1kJ、単位重量当たりの吸収エネルギーは7.6kJ/kgであり、いずれも比較例1よりも増加したものの、発明例1~発明例7には及ばなかった。
【0096】
比較例4は、比較例1と同一形状の試験体33において、アウタ部品5に引張強度1180MPa級の鋼板を用いたものであり、試験体重量は1.07kgであった。
比較例4における吸収エネルギーは8.5kJ、単位重量当たりの吸収エネルギーは7.9kJ/kgであり、双方とも比較例1よりも増加したものの、発明例1~発明例7には及ばなかった。
【0097】
比較例5、比較例6及び比較例7は、発明例2に係る試験体31(図10)と同一形状であるが、樹脂の種類、又は、樹脂の引張破断伸び、接着強度及び圧縮公称応力の少なくともいずれか一つが本発明の範囲外としたものである。
比較例5、比較例6及び比較例7における吸収エネルギー及び単位重量当たりの吸収エネルギーは、発明例1~発明例7のいずれにも及ばなかった。
【0098】
比較例8は、発明例1に係る試験体31と同一形状であるが、耐水性評価に劣る引張破断伸びが80%の樹脂を使用した例である。試験体重量は1.24kgであり、樹脂が設けられていない比較例1における試験体重量(=1.06kg)よりも増加した。さらに、耐水性評価において界面剥離が発生した。そして、比較例8において、吸収エネルギー(12.8kJ)を試験体重量で除した単位重量当りの吸収エネルギーは10.3kJ/kgであり、発明例1(=11.1kJ/kg)に及ばなかった。
【0099】
比較例9は、発明例2に係る試験体31と同一形状であるが、耐水性評価に劣る引張破断伸びが100%の樹脂を使用した例である。試験体重量は1.11kgであり、発明例1よりも軽量であった。しかしながら、耐水性評価において界面剥離が発生した。そして、比較例9における単位重量当たりの吸収エネルギーは8.6kJ/kgであり、発明例2(=9.0kJ/kg)に及ばなかった。
【0100】
比較例10は、発明例3に係る試験体31と同一形状であるが、耐水性評価に劣る引張破断伸びが100%の樹脂を使用した例である。試験体重量は1.12kgであり、発明例3と同じであるが、耐水性評価において界面剥離が発生した。そして、比較例10における単位重量当たりの吸収エネルギーは11.0kJ/kgであり、発明例3(=11.4kJ/kg)に及ばなかった。
【0101】
比較例11は、発明例4に係る試験体31と同一形状であるが、耐水性評価に劣る引張破断伸びが90%の樹脂を使用した例である。試験体重量は1.17kgであり、発明例4と同じであるが、耐水性評価において界面剥離が発生した。そして、比較例11における単位重量当たりの吸収エネルギーは8.5kJ/kgであり、発明例4(=9.0kJ/kg)に及ばなかった。
【0102】
比較例12は、発明例5に関わる試験体31と同一形状であるが、耐水性評価に劣る引張破断伸びが85%の樹脂を使用した例である。試験体重量は1.24kgであり、発明例5と同じであるが、耐水性評価において界面剥離が発生した。そして、比較例12における単位重量当たりの吸収エネルギーは10.3kJ/kgであり、発明例5(=11.1kJ/kg)に及ばなかった。
【0103】
比較例13は、発明例6に係る試験体31と同一形状であるが、耐水性評価に劣る引張破断伸びが110%の樹脂を使用した例である。試験体重量は1.11kgであり、発明例6と同じであるが、耐水性評価において界面剥離が発生した。そして、比較例13における単位重量当たりの吸収エネルギーは11.1kJ/kgであり、発明例6(=11.5kJ/kg)に及ばなかった。
【0104】
比較例14は、発明例7に関わる試験体31と同一形状であるが、耐水性評価に劣る引張破断伸びが100%の樹脂を使用した例である。試験体重量は1.17kgであり、発明例7と同じであるが、耐水性評価において界面剥離が発生した。そして、比較例14における単位重量当たりの吸収エネルギーは8.5kJ/kgであり、発明例7(=8.9kJ/kg)に及ばなかった。
【0105】
また、本発明の範囲内である樹脂を適用した発明例1~発明例7は、耐水性が良好であったが、本発明の範囲を逸脱する樹脂を適用した比較例8~比較例14は、耐水性が劣っていた。
【0106】
以上、本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品によれば、軸方向に衝突荷重が入力して軸圧壊する場合において、衝突エネルギーの吸収性能を向上できて、しかも、耐水性に優れることが示された。
【符号の説明】
【0107】
1 自動車用衝突エネルギー吸収部品
3 筒状部材
5 アウタ部品
5a 天板部
5b コーナー部
5c 縦壁部
5d フランジ部
5e R止まり
7 インナ部品
7a 天板部
7b コーナー部
7c 縦壁部
9 閉断面空間形成壁部材
9a 縦壁部
9b R止まり
11 樹脂
13 接合部
15 接合部
17 閉断面空間
19 コーナー領域
21 試験片
23 被着体
25 被着体
27 樹脂
31 試験体
33 試験体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14