(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】セラミックス-銅複合体、セラミックス回路基板、パワーモジュール及びセラミックス-銅複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/14 20060101AFI20230118BHJP
H01L 23/15 20060101ALI20230118BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20230118BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20230118BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20230118BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20230118BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20230118BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20230118BHJP
B23K 1/008 20060101ALI20230118BHJP
H05K 1/03 20060101ALN20230118BHJP
【FI】
H01L23/14 M
H01L23/14 C
H01L23/12 D
H05K1/09 A
H05K3/38 E
C04B37/02 B
B23K1/00 330E
B23K1/19 B
B23K1/008 A
H05K1/03 610E
(21)【出願番号】P 2020562405
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051108
(87)【国際公開番号】W WO2020138283
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2018248175
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 晃正
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【審査官】平林 雅行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-139680(JP,A)
【文献】特開2013-234383(JP,A)
【文献】特開2017-075382(JP,A)
【文献】特開2016-115821(JP,A)
【文献】特開2017-175061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/00-3/08
B23K 31/02
B23K 33/00
C04B 37/00-37/04
H01L 23/12-23/15
H05K 1/03
H05K 1/09
H05K 1/16
H05K 3/10-3/26
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス層と、銅層と、前記セラミックス層と前記銅層の間に存在するろう材層とを備えた、平板状のセラミックス-銅複合体であって、
前記銅層は、前記セラミックス層に対向する第一の面と、当該第一の面とは逆の第二の面を有する圧延銅板により構成され、
前記第二の面における、インターセプト法により測定される銅結晶の平均結晶粒径が250μm以下であり、
前記圧延銅板は、Agの含有量が、5ppm以上、100ppm以下であり、Alの含有量が、2.0ppm以下であり、Mgの含有量が、0.1ppm以下であり、
前記ろう材層は、Ag、CuおよびTi、並びに、SnおよびInのいずれか一方、又は、SnおよびInの両方を含み、Agが85質量部以上93.1質量部以下、Cuが5.0質量部以上13質量部以下、Tiが1.5質量部以上5.0質量部以下、SnおよびInの合計量が0.40質量部以上3.5質量部以下であり、
前記セラミックス層と前記銅層との接合部の面積1cm
2に対し、前記ろう材層を1.0mg以上
12.0mg以下有し、
当該セラミックス-銅複合体を、その主面に垂直な面で切断したとき、前記銅層の切断面において、
(102)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(102)%、
(101)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(101)%、
(111)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(111)%、
(112)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(112)%としたとき、下記式(1)を満たす、セラミックス-銅複合体。
式(1) S(102)+S(101)>S(111)+S(112)
【請求項2】
前記圧延銅板は、前記第一の面の外縁部の一部又は全周に、前記セラミックス層に向かって凸のバリを有する、請求項1に記載のセラミックス-銅複合体。
【請求項3】
前記圧延銅板は、前記第一の面の外縁部の一部に前記セラミックス層に向かって凸のバリを有さない部分があるか、又は、前記第一の面の外縁部の一部に前記セラミックス層に向かって凸であり、その高さが20μm以下であるバリを有する、請求項2に記載のセラミックス-銅複合体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のセラミックス-銅複合体の、少なくとも前記銅層の一部が除去されて回路が形成された、セラミックス回路基板。
【請求項5】
請求項4に記載のセラミックス回路基板が搭載されたパワーモジュール。
【請求項6】
セラミックス基板と、銅板とを、ろう材を介して接合する接合工程を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のセラミックス-銅複合体の製造方法であって、
前記接合工程において、真空下または不活性ガス雰囲気下で、770℃以上830℃以下の温度での10分以上60分以下の加熱により、前記セラミックス基板と、前記銅板とを、前記ろう材を介して接合する接合工程を含み、
前記銅板は、その主面に垂直な面で切断した切断面において、
(102)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(102)%、
(101)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(101)%、
(111)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(111)%、
(112)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(112)%としたとき、
下記式(1)を満たす、セラミックス-銅複合体の製造方法。
式(1) S(102)+S(101)>S(111)+S(112)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス-銅複合体、セラミックス回路基板、パワーモジュール、及び、セラミックス-銅複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュールの製造に際しては、アルミナ、ベリリア、窒化珪素、窒化アルミニウム等のセラミックス材料に金属板を接合した、セラミックス-金属複合体が用いられることがある。
近年、パワーモジュールの高出力化や高集積化に伴い、パワーモジュールからの発熱量は増加の一途をたどっている。この発熱を効率よく放散させるため、高絶縁性と高熱伝導性を有する窒化アルミニウム焼結体や窒化珪素焼結体のセラミックス材料が使用される傾向にある。
【0003】
一例として、特許文献1には、セラミックス基板と、このセラミックス基板上にろう材を介して接合された金属板とを有する金属-セラミックス接合体が記載されている。この接合体において、金属板の底面からはみ出すろう材の長さは、30μmより長く且つ250μm以下である。
【0004】
別の一例として、特許文献2には、セラミックス基板の少なくとも一方の面に複数の回路パターンに沿ったろう材層を形成し、そのろう材層を介して金属板を接合し、その金属板の不要部分をエッチング処理することにより金属板からなる回路パターンを形成すると共に、金属板の外縁からはみ出したろう材層によるはみ出し部を形成したセラミックス回路基板が記載されている。このセラミックス回路基板において、はみ出し部の最大面粗さRmaxは、5~50μmである。
【0005】
さらに別の一例として、特許文献3には、銅又は銅合金からなる銅部材と、AlN又はAl2O3からなるセラミックス部材とが、Ag及びTiを含む接合材を用いて接合されたCu/セラミックス接合体が記載されている。この接合体において、銅部材とセラミックス部材との接合界面には、Ti窒化物又はTi酸化物からなるTi化合物層が形成されており、そして、このTi化合物層内にはAg粒子が分散されている。
【0006】
また別の一例として、特許文献4には、プレス加工により打ち抜き成形された金属板をセラミックス基板の一方の面に積層してろう付けにより接合するパワーモジュール用基板の製造方法であって、金属板としてプレス加工により打ち抜き成形された金属板を用い、該金属板のバリの高さ等を特定し、該バリが生じている側の表面をセラミックス基板の一方の面に重ねるように積層してろう付けすることを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-112980号公報
【文献】特開2005-268821号公報
【文献】特開2015-092552号公報
【文献】特開2016-039163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記技術を用いても、セラミックス-金属複合体、セラミックス回路基板またはパワーモジュールの製造安定性、及び、歩留まりには改善の余地があった。また、セラミックス-金属複合体、セラミックス回路基板またはパワーモジュールの歩留まりを低下させる要因の一つに、ろう材しみ出し、ろう材しみ出しに起因するセラミックス回路基板上における半田濡れ性の不具合、半導体素子の接合不具合が生じることがあった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明は、一つには、セラミックス-金属複合体、セラミックス回路基板またはパワーモジュールの製造安定性及び歩留まりを向上するものであり、さらに具体的には歩留まり低下の一因と考えられるろう材しみ出しの抑制されたセラミックス-金属複合体を提供するものである。なお、ろう材しみだしとは、セラミックス基板と銅板の接合に使用したろう材(主に銀)が銅板の端面を這い上がり、銅板表面上に回り込む現象をいう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
すなわち、本発明によれば、
セラミックス層と、銅層と、セラミックス層と銅層の間に存在するろう材層とを備えた、平板状のセラミックス-銅複合体であって、
セラミックス-銅複合体を、その主面に垂直な面で切断したとき、銅層の切断面において、
(102)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(102)%、
(101)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(101)%、
(111)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(111)%、
(112)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(112)%としたとき、
下記式(1)を満たすセラミックス-銅複合体が提供される。
式(1) S(102)+S(101)>S(111)+S(112)
【0011】
また、本発明によれば、上記のセラミックス-銅複合体の、少なくとも銅層の一部が除去されて回路が形成された、セラミックス回路基板が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、上記のセラミックス回路基板が搭載されたパワーモジュールが提供される。
【0013】
本発明によれば、
セラミックス基板と、銅板とを、ろう材を介して接合する接合工程を含むセラミックス-銅複合体の製造方法であって、
銅板は、その主面に垂直な面で切断した切断面において、
(102)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(102)%、
(101)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(101)%、
(111)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(111)%、
(112)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(112)%としたとき、
下記式(1)を満たすセラミックス-銅複合体の製造方法が提供される。
式(1) S(102)+S(101)>S(111)+S(112)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ろう材の染み出しを抑制したセラミックス-金属複合体、セラミックス回路基板、パワーモジュール、及び、ろう材の染み出しを抑制することができるセラミックス-銅複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0016】
【
図1】本実施形態のセラミックス-銅複合体を模式的に示した図である。
図1(A)はセラミックス-銅複合体全体を模式的に示した斜視図であり、
図1(B)はその断面を模式的に示した図である。
【
図2】本実施形態に係るセラミックス-銅複合体の銅層の切断面の結晶方位マップである。
【
図4】本実施形態における圧延銅板の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)たとえば
図2以降において、
図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応するものではない。たとえば、図に示されている各部の縦横の寸法は、縦方向または横方向に誇張されている場合がある。
【0018】
<セラミックス-銅複合体>
図1(A)は、本実施形態のセラミックス-銅複合体(複合体)10を模式的に示した斜視図である。
セラミックス-銅複合体10は、平板状である。
セラミックス-銅複合体10は、少なくとも、セラミックス層1と、銅層2と、それら二層の間に存在するろう材層3とを備える。別の言い方としては、セラミックス層1と銅層2とは、ろう材層3により接合されている。
【0019】
図1(B)は、
図1(A)に示されたセラミックス-銅複合体10を、その主面に垂直な面αで切断したときの切断面を模式的に示した図である。銅層2の切断面は、切断面αで切断したときの切断面とすることができる。なお、切断面αは、例えば、平板状の複合体の重心を通るように設定することができる。また、銅層2が圧延銅板により構成されるで構成されるとき、切断面αは、銅板圧延方向と垂直な向きとすることができる。
【0020】
本実施形態に係るセラミックス-銅複合体10は、
当該セラミックス-銅複合体10を、その主面に垂直な面で切断したとき、銅層2の切断面において、
(102)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(102)%、
(101)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(101)%、
(111)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(111)%、
(112)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(112)%としたとき、下記式(1)を満たす。
式(1) S(102)+S(101)>S(111)+S(112)
【0021】
このようなセラミックス-金属複合体10により、該セラミックス-金属複合体10、セラミックス-回路基板またはパワーモジュールの歩留まりを向上することができる理由については明らかではないが、本発明者らは鋭意検討の結果、セラミックス-金属複合体10における銅層2の結晶方位を特定の態様に制御した場合、歩留まりが向上することを知見し、本実施形態を成し得たものである。本発明者らの検討によれば、歩留まりを低下させる要因の1つはろう材しみ出しの発生であり、本実施形態のセラミックス-金属複合体によれば、ろう材しみ出しの発生を抑制することができるため、得られるセラミックス-金属複合体10、セラミックス-回路基板またはパワーモジュールにおける製造安定性及び歩留まりが向上するものと考えられる。また、発明者らの推測によれば、セラミックス-金属複合体10の主面に垂直な面で切断したときの銅層2の切断面において、各結晶方位を有する銅結晶が占める面積率を特定の条件を満たすよう制御することで、銅層2における銅の結晶粒子の成長を抑制することかでき、ろう材の銅層2中への拡散量が増大するため、銅層2の端部からろう材がしみ出し、銅層2の端面を這い上がり、銅層2の上面にしみ出すろう材の量、及び、その頻度を低減させることができ、得られるセラミックス-金属複合体10、セラミックス-回路基板またはパワーモジュールにおけるしみ出しに関連する不具合が低減し、歩留まりが向上するものと考えられる。
なお、上記説明は推測を含み、また、上記説明により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0022】
銅層2の切断面における、各結晶方位を有する銅結晶の面積が、上記式(1)を満たすようにするためには、セラミックス-銅複合体10の製造において、適切な素材/材料を選択し、かつ、セラミックス-銅複合体10の製造条件を適切に調整することが重要である。具体的には追って説明する。
【0023】
<各結晶方位を有する銅結晶の面積率(%)の算出方法>
本実施形態のセラミックス-銅複合体10を、その主面に垂直な面で切断したときの銅層2の切断面における、各結晶方位を有する銅結晶の面積率(%)の測定方法について説明する。
【0024】
(試料の調製)
まず、例えば以下のようにして、各結晶方位を有する銅結晶の面積率(%)を測定するための「切断面」を得る。
(i)セラミックス-銅複合体10(または後述のセラミックス回路基板)を、主面かつ銅板の圧延方向に垂直な面で、コンターマシンで切断し、セラミックス-銅複合体10の切断面を露出させる。ここで、切断面は、セラミックス-銅複合体10の重心を通る面とすることもできる。
(ii)切断したセラミックス-銅複合体10を樹脂包埋し、樹脂包埋体を作成する。
(iii)作成した樹脂包埋体中のセラミックス-銅複合体10の断面を、ダイヤモンド砥粒を用いてバフ研磨する。
(iv)Arミリングで、セラミックス-銅複合体10の研磨面をフラットミリング処理する。
【0025】
(EBSD法による回折パターンの取得)
そして、上記の研磨されたセラミックス-銅複合体10の断面について、電子後方散乱回折法(EBSD法:Electron Back Scattering Diffraction)により得られる回折パターンを利用して、セラミックス-銅複合体10の切断面の銅層2における、各結晶方位を有する銅結晶の面積率(%)を算出する。
本手法によれば、試料に電子線を照射することにより、試料の表層に存在する各結晶方位を有する結晶面で電子後方散乱回折を発生させ、発生した回折パターンを解析することで、試料の表面に存在する銅結晶の結晶方位を解析することができる。
分析の条件は例えば以下とすることができる。
装置:日立ハイテク社製SU6600形電界放出形走査顕微鏡、TSL社製EBSD
加速電圧:15kV
視野:800μm×300μm
【0026】
分析箇所は、セラミックス-銅複合体10の切断面、かつ、銅層2内の任意の領域とすることかできる。このとき、同一の結晶方位を有する銅結晶は、同一の色を付されることとなる。また、解析においては、例えば、(100)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する結晶面を、(100)面とみなし、(100)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する結晶面を、(100)面に含めることができる。
上記の手法により、分析した領域について、有する結晶方位によって銅結晶粒を色分けした結晶方位マップを作成する(例えば
図2)。上記結晶方位マップを用い、分析した領域の面積を100%としたとき、各結晶方位を有する銅結晶が占める面積率を算出する。
【0027】
上記したように、本実施形態に係るセラミックス-銅複合体10は、その主面に垂直な面で切断したとき、銅層2の切断面において、
(102)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(102)%、
(101)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(101)%、
(111)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(111)%、
(112)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(112)%としたとき、下記式(1)を満たす。
式(1) S(102)+S(101)>S(111)+S(112)
【0028】
また、S(102)+S(101)は、S(111)+S(112)より、3%以上大きいことが好ましく、5%以上大きいことがより好ましく、8%以上大きいことがさらに好ましい。
【0029】
また、S(102)+S(101)は、2%以上、50%以下であることが好ましく、5%以上、40%以下であることがより好ましく、20%以上、30%以下であることがさらに好ましい。
S(102)+S(101)を上記数値範囲内とすることにより、得られるセラミックス-金属複合体、セラミックス-回路基板、パワーモジュールにおけるしみ出しに関連する不具合がより低減し、より歩留まりが向上するものと考えられる。
【0030】
また、S(111)+S(112)は、1%以上、30%以下であることが好ましく、3%以上、25%以下であることがより好ましく、5%以上、20%未満であることがさらに好ましい。
S(111)+S(112)を上記数値範囲内とすることにより、得られるセラミックス-金属複合体、セラミックス-回路基板、パワーモジュールにおけるしみ出しに関連する不具合がより低減し、より歩留まりが向上するものと考えられる。
【0031】
S(102)は、例えば、1%以上、40%以下とすることができ、2%以上、30%以下であることがより好ましく、3%以上、25%以下であることがさらに好ましい。
S(101)は、例えば、1%以上、40%以下とすることができ、2%以上、30%以下であることがより好ましく、3%以上、25%以下であることがさらに好ましい。
S(111)は、例えば、0.1%以上、25%以下とすることができ、0.5%以上、20%以下であることがより好ましく、1%以上、10%以下であることがさらに好ましい。
S(112)は、例えば、0.1%以上、25%以下とすることができ、0.5%以上、20%以下であることがより好ましく、1%以上、10%以下であることがさらに好ましい。
各結晶方位の面積率を上記数値範囲内とすることにより、よりろう材しみ出しの発生が少なくなるものと考えられる。
【0032】
以下、本実施形態に係るセラミックス-銅複合体10を構成するセラミックス層1、銅層2、セラミックス層1と銅層2の間に存在するろう材層3について詳細に説明する。
【0033】
<銅層>
本実施形態に係るセラミックス-銅複合体10を構成する銅層2は、セラミックス層1に対向する第一の面4と、当該第一の面4とは逆の第二の面5を有する圧延銅板により構成されることが好ましい。
銅板は、大きな圧力で圧延された無酸素銅(OFC:Oxygen-Free Copper)であることがさらに好ましい。
圧延銅板を用いることにより、ろう材しみ出しが抑制され、熱サイクル試験を経た際の応力緩和効果がより高く、信頼性の高いセラミックス-銅複合体10となるものと考えられる。
参考までに、三菱伸銅株式会社の無酸素銅板OFCG材は、圧延工程を含む工程により製造されている。
【0034】
本実施形態に係る圧延銅板は、セラミックス層1に対向する第一の面4と、当該第一の面4とは逆の第二の面5を有し、第二の面5における、インターセプト法により測定される銅結晶の平均結晶粒径が250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることが好ましい。下限は制限されないが、例えば、20μm以上とすることができる。
インターセプト法により測定される銅結晶の平均結晶粒径を上記態様とすることで、得られるセラミックス-金属複合体、セラミックス-回路基板、パワーモジュールにおけるしみ出しに関連する不具合がより低減し、より歩留まりが向上するものと考えられる。
【0035】
本実施形態では、銅結晶の平均結晶粒径は、インターセプト法により計測する。具体的には、インターセプト法とは、第二の面5をSEM/EBSDを用いて例えば50倍で観察し、観察画像上に所定長さの直線を複数本平行に引き、銅結晶粒子を上記直線が横切った部分の直線の長さの平均値を、銅結晶の平均結晶粒径として得る手法である。本実施形態では、少なくとも10本以上の直線を引くことにより、上記銅結晶の平均結晶粒径を求めることが好ましい。
なお、分析の箇所は、第二の面5における任意箇所であり、例えば、
図1(A)の領域Aとすることができる。
【0036】
圧延銅板は、不純物としてCu以外の金属元素を含むことができる。かかる金属元素の具体例として、AgおよびAlが挙げられる。
本実施形態に係る圧延銅板は、Agの含有量が、5ppm以上、100ppm以下であることが好ましく、より好ましくは、7ppm以上、50ppm以下である。
また、本実施形態に係る圧延銅板は、Alの含有量が、2.0ppm以下であることが好ましく、より好ましくは、1.0ppm以下、さらに好ましくは0.5ppm以下である。
また、本実施形態に係る圧延銅板は、Mgの含有量が、0.1ppm以下であることが好ましく、0ppmまたは実施例の項で前述する方法にて検出限界以下であることがより好ましい。
圧延銅板に含まれる不純物量と、セラミックス-銅複合体10等の歩留まりの関係は必ずしも明白ではないが、不純物量を上記数値範囲内とすることにより、銅の結晶方位を制御することができ、さらに、銅の結晶粒子の成長を抑制することかでき、ろう材の銅層2中への拡散量が増大するため、ろう材しみ出しに関連する不具合がより低減し、より歩留まりが向上するものと考えられる。
【0037】
圧延銅板に含まれる不純物量は、ICP発光分析にて分析することができる。具体的には、本実施形態に係る圧延銅板を切り出し、アセトン、及び、塩酸・硝酸の混酸で洗浄し、洗浄した試料1gに硝酸5mlを加えサンドバスで溶解し、得られた溶液をICP発光分析装置ICPE-9000(島津製作所社製)等を用いて測定することより、圧延銅板に含まれる不純物量を求めることができる。
【0038】
本実施形態に係る圧延銅板は、上記第一の面4の外縁部の一部又は全周に、セラミックス層1に向かって凸のバリを有する圧延銅板とすることもできる。
図4は、かかる圧延銅板の構成の一例を示す断面図であり、第一の面4の外縁部にバリ11が設けられた圧延基板(銅層2)を示す。また、本実施形態に係る圧延銅板は、上記第一の面4の外縁部の一部にセラミックス層1に向かって凸のバリを有さない部分があるか、又は、上記第一の面4の外縁部の一部にセラミックス層1に向かって凸であり、その高さが20μm以下であるバリを有する圧延銅板とすることもできる。
上記態様の圧延銅板は、例えば、プレス加工により打ち抜き成形をすることによって得ることができる。
本実施形態によれば、上記態様の形状を有する圧延銅板を用いても、ろう材しみ出しに関連する不具合がより低減し、より歩留まりが向上し、信頼性の高いセラミックス-銅複合体10とすることができる。
【0039】
<ろう材層>
本実施形態に係るろう材層3は、Ag、CuおよびTi、並びに、SnおよびInのいずれか一方、又は、SnおよびInの両方を含むことが好ましい。また、ろう材層3は、Agが85質量部以上93.1質量部以下、Cuが5.0質量部以上13質量部以下、Tiが1.5質量部以上5.0質量部以下、SnおよびInの合計量が0.40質量部以上3.5質量部以下であることがさらに好ましい。
上記態様とすることで、ろう材しみ出しに関連する不具合がより低減し、より信頼性の高いセラミックス-銅複合体10とすることができる。
【0040】
<セラミックス層>
セラミックス層1は、セラミックス基板により構成され、とくにその材料は制限されない。
例えば、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの窒化物系セラミックス、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物系セラミックス、炭化珪素等の炭化物系セラミックス、ほう化ランタン等のほう化物系セラミックス等であることができる。
銅層2との接合強度向上の点からは、窒化アルミニウム、窒化珪素等の非酸化物系セラミックスが好適である。更に、優れた機械強度、破壊靱性の観点より、窒化珪素が好ましい。
【0041】
<各層の厚み(平均厚み)>
セラミックス層1の厚みは、典型的には0.1mm以上3.0mm以下である。基板全体の放熱特性や熱抵抗率低減などを鑑みると、好ましくは0.2mm以上1.2mm以下、より好ましくは0.25mm以上1.0mm以下である。
銅層2の厚みは、典型的には0.1mm以上1.5mm以下である。放熱性などの観点から、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上である。
ろう材層3の厚みは、セラミックス層1と銅層2を接合可能である限り限定されない。典型的には3μm以上40μm以下、好ましくは4μm以上25μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下である。
【0042】
本実施形態に係るセラミックス-銅複合体10は、セラミックス層1と、銅層2との接合部の面積1cm2に対し、ろう材層3を1.0mg以上15.0mg以下有することが好ましく、5.0mg以上12.0mg以下有することがより好ましい。上記態様とすることで、ろう材しみ出しに関連する不具合がより低減し、より信頼性の高いセラミックス-銅複合体10とすることができる。
【0043】
<追加の層など>
本実施形態に係るセラミックス-銅複合体は、上述の3層以外の追加の層を備えていてもよい。
例えば、本実施形態に係るセラミックス-銅複合体は、セラミックス層1を中心層として、その両面に、ろう材層3を介して銅層を備える5層構成であってもよい。
【0044】
上記のような5層構成の場合、該セラミックス-銅複合体は銅層を2層有することとなるが、その場合、該セラミックス-銅複合体をその主面に垂直な面で切断したとき、少なくともいずれかの銅層の切断面において、上記式(1)を満たすことが好ましく、2層両方の銅層の切断面において、上記式(1)を満たすことがより好ましい。また、一層のろう材しみ出しに関連する不具合の低減や、より歩留まりを向上させるという観点からは少なくともいずれかの銅層の切断面において、より好ましくは2層両方の銅層の切断面において、S(102)+S(101)、S(111)+S(112)及び各結晶方位の面積率を上述の態様とすることがより好ましい。
【0045】
<複合体の形状、大きさ等>
前述のように、本実施形態に係るセラミックス-銅複合体10は、平板状である。
典型的には、本実施形態に係るセラミックス-銅複合体10は、10mm×10mmから200mm×200mm程度の大きさの略矩形状である。
【0046】
<セラミックス-銅複合体の製造方法>
本実施形態に係るセラミックス-銅複合体10は、たとえばセラミックス基板と、銅板とを、ろう材を介して接合する接合工程を含む製造方法によって製造することができる。
より詳細には、本実施形態に係るセラミックス-銅複合体10の製造方法は、例えば、以下工程により製造することができる。
(工程1)ろう材ペーストをセラミックス板の片面または両面に塗布し、その塗布面に銅板を接触させる。
(工程2)真空中もしくは不活性雰囲気中で加熱処理をすることで、セラミックス板と銅板を接合する。
まず、本実施形態に係るセラミックス-銅複合体10の製造に用いる原料について説明する。
【0047】
<銅板>
銅板としては、圧延銅板が好ましく、より具体的には、大きな圧力で圧延された無酸素銅(OFC:Oxygen-Free Copper)であることがさらに好ましい。参考までに、三菱伸銅株式会社の無酸素銅板OFCG材は、圧延工程を含む工程により製造されている。
【0048】
また、本実施形態に係るセラミックス-銅複合体10の製造に用いる銅板はその主面に垂直な面で切断した切断面において、
(102)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(102)%、
(101)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(101)%、
(111)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(111)%、
(112)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する銅結晶が占める面積率をS(112)%としたとき、下記式(1)を満たす。
式(1) S(102)+S(101)>S(111)+S(112)
原料の銅板として、上記の式(1)を満たす結晶方位を有する銅板を用いることによって、得られるセラミックス-銅複合体10の結晶方位を制御することができ、ろう材しみ出しに関連する不具合を低減し、歩留まりが向上するものと考えられる。
【0049】
銅板の、その主面に垂直な面で切断した切断面における各結晶方位を有する銅結晶の面積率(%)は、上記したセラミックス-銅複合体10をその主面に垂直な面で切断したときの銅層2の切断面における各結晶方位を有する銅結晶の面積率(%)の測定方法と、同様の手法で測定することができる。
【0050】
また、本実施形態に係るセラミックス-銅複合体10の製造に用いる銅板は、S(102)+S(101)が、S(111)+S(112)より、2%以上大きいことが好ましく、3%以上大きいことがより好ましく、5%以上大きいことがさらに好ましい。
【0051】
また、S(102)+S(101)は、2%以上、50%以下であることが好ましく、5%以上、40%以下であることがより好ましく、10%以上、30%以下であることがさらに好ましい。
S(102)+S(101)を上記数値範囲内とすることにより、得られるセラミックス-銅複合体10の結晶方位を制御することができ、熱サイクル試験中に発生する応力緩和能力が向上し、ろう材しみ出しに関連する不具合を低減し、歩留まりが向上するものと考えられる。
【0052】
また、S(111)+S(112)は、1%以上、30%以下であることが好ましく、3%以上、25%以下であることがより好ましく、5%以上、20%未満であることがさらに好ましい。
S(111)+S(112)を上記数値範囲内とすることにより、得られるセラミックス-銅複合体10の結晶方位を制御することができ、ろう材しみ出しに関連する不具合を低減し、歩留まりが向上するものと考えられる。
【0053】
S(102)は、例えば、1%以上、40%以下とすることができ、2%以上、30%以下であることがより好ましく、3%以上、25%以下であることがさらに好ましい。
S(101)は、例えば、0.1%以上、30%以下とすることができ、0.5%以上、20%以下であることがより好ましく、1%以上、15%以下であることがさらに好ましい。
S(111)は、例えば、0.1%以上、25%以下とすることができ、0.5%以上、20%以下であることがより好ましく、1%以上、10%以下であることがさらに好ましい。
S(112)は、例えば、0.1%以上、25%以下とすることができ、0.5%以上、20%以下であることがより好ましく、1%以上、15%以下であることがさらに好ましい。
各結晶方位の面積率を上記数値範囲内とすることにより、ろう材しみ出しに関連する不具合が低減し、歩留まりが向上するものと考えられる。
【0054】
上記したように、例えば、セラミックス-銅複合体10の原料に用いる銅板の各結晶方位の面積率を上記態様とすることで、得られるセラミックス-銅複合体10における銅層2の各結晶方位の面積率を制御することができる。また、上記のセラミックス-銅複合体10が、セラミックス-銅複合体10の接合工程におけるろう材染み出しを抑制することができる効果を有する理由は以下のように推測される。すなわち、従来接合工程においては、セラミックス基板と、銅板との間のろう材が、接合工程中に染み出して外観不良が発生したり、染み出したろう材がさらに銅板上にはい上がり、はい上がったろう材によってハンダ濡れ性が低下したりする場合があった。また、例えばプレス加工により銅板に発生するバリを利用し、銅板のバリのある側をセラミックス基板に対向させることよって、バリで壁を作り、物理的にろう材の染み出しを抑制しようとする技術があった(例えば、特許文献4)。しかしながら、バリを銅板の全周に亘って形成すること、また、バリの高さを銅板の全周にわたって精密に制御することは困難であり、例えば、一部バリが形成されないところがあったり、形成されたバリの高さが相対的に低いところがあったりすると、それらの箇所からろう材が染み出すことがあった。
詳細なメカニズムは明らかではないが、本実施形態に係る製造方法によれば、例えば、セラミックス-銅複合体10の原料に用いる銅板の各結晶方位の面積率を上記態様とすることで、得られる各結晶方位の面積率を制御することができ、ろう材を介してセラミックス基板と、銅板とを接合する接合工程において、銅結晶粒の粒成長が起きにくく、粒子が粗大化しないため、接合工程におけるろう材染み出しを抑制することができるものと考えられる。
【0055】
本実施形態において、銅板は、不純物としてCu以外の金属元素を含むことができる。かかる金属元素の具体例として、AgおよびAlが挙げられる。
本実施形態に係る銅板は、Agの含有量が、5ppm以上、100ppm以下であることが好ましく、より好ましくは、7ppm以上、50ppm以下である。
また、本実施形態に係る銅板は、Alの含有量が、2.0ppm以下であることが好ましく、より好ましくは、1.0ppm以下、さらに好ましくは0.5ppm以下である。
銅板に含まれる不純物量と、セラミックス-銅複合体10の熱サイクル試験後の信頼性の関係は必ずしも明白ではないが、不純物量を上記数値範囲内とすることにより、銅の結晶粒子の成長を抑制することかでき、ろう材の銅層2中への拡散量が増大するため、ろう材しみ出しに関連する不具合がより低減し、より歩留まりが向上するものと考えられる。
また、本実施形態に係る銅板は、Mgの含有量が、0.1ppm以下であることが好ましく、0ppmまたは実施例の項で前述する方法にて検出限界以下であることがより好ましい。
【0056】
銅板に含まれる不純物量は、上記したようにICP発光分析にて分析することができる。具体的には、本実施形態に係る圧延銅板を切り出し、アセトン、及び、塩酸・硝酸の混酸で洗浄し、洗浄した試料1gに硝酸5mlを加えサンドバスで溶解し、得られた溶液をICP発光分析装置ICPE-9000(島津製作所社製)を用いて測定することより、圧延銅板に含まれる不純物量を求めることができる。
【0057】
本実施形態に係る銅板は、セラミックス層1に対向する第一の面と、当該第一の面とは逆の第二の面を有し、上記第一の面の外縁部の一部又は全周に、セラミックス層1に向かって凸のバリを有する銅板とすることもできる。
上記の外縁部の一部又は全周に凸のバリを有する圧延銅板は、例えば、プレス加工により打ち抜き成形をすることによって得ることができる。
銅板の、プレス加工により打ち抜き成形をすることによって生じるバリを有する面をセラミックス層1に対向する面とすることで、バリで壁を作り、物理的にろう材の染み出しを抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態に係る銅板は、上記第一の面の外縁部の一部にセラミックス層1に向かって凸のバリを有さない部分があるか、又は、上記第一の面の外縁部の一部にセラミックス層1に向かって凸であり、その高さが20μm以下であるバリを有する銅板とすることもできる(
図4)。すなわち、本実施形態によれば、用いる銅板がプレス加工により打ち抜き成形をすることによって生じるバリを有する銅板であって、バリが銅板の全周に亘っては形成されていない場合(その一部にバリのない部分がある場合)や、形成されたバリの高さが相対的に低いところがある場合においても、銅板における各結晶方位の面積率を上記態様とすることで、接合工程におけるろう材染み出しを抑制することができる。
【0059】
<セラミックス基板>
本実施形態に係るセラミックス基板については、上記セラミックス層1に係る説明の通りであり、とくにその材料は制限されない。
例えば、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板などの窒化物系セラミックス基板、酸化アルミニウム基板、酸化ジルコニウム基板などの酸化物系セラミックス基板、炭化珪素基板等の炭化物系セラミックス基板、ほう化ランタン基板等のほう化物系セラミックス基板等であることができる。
銅板との接合強度向上の点からは、窒化アルミニウム基板、窒化珪素基板等の非酸化物系セラミックス基板が好適である。更に、優れた機械強度、破壊靱性の観点より、窒化珪素基板が好ましい。
【0060】
<ろう材>
耐熱サイクル特性をより良好とする観点などから、本実施形態に係るろう材は、Ag、CuおよびTi、並びに、SnおよびInのいずれか一方、又は、SnおよびInの両方を含むことが好ましい。
また、ろう材は、Agが85質量部以上93.1質量部以下、Cuが5.0質量部以上13質量部以下、Tiが1.5質量部以上5.0質量部以下、SnおよびInの合計量が0.40質量部以上3.5質量部以下であることがさらに好ましい。
上記態様とすることで、より信頼性の高いセラミックス-銅複合体10とすることができる。
また、適切な配合の種類及び量の組成のろう材を用いることは、得られる各結晶方位の面積率を上記数値範囲内にコントロールするという観点からも重要である。
【0061】
上記のAgとしては、比表面積が0.1m2/g以上0.5m2/g以下のAg粉末を使用するとよい。適度な比表面積のAg粉末を用いることで、粉末の凝集、接合不良、接合ボイドの形成などを十分に抑えることができる。なお、比表面積の測定にはガス吸着法を適用することができる。
Ag粉末の製法は、アトマイズ法や湿式還元法などにより作製されたものが一般的である。
また、Ag粉末のメジアン径D50は、たとえば0.5μm以上8μm以下とすることができる。
【0062】
上記のCuとしては、Agリッチ相を連続化させるために、比表面積0.1m2/g以上1.0m2/g以下、かつ、レーザー回折法により測定した体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が0.8μm以上8.0μm以下のCu粉末を使用するとよい。比表面積や粒径が適度なCu粉末を使用することで、接合不良の抑制や、Agリッチ相がCuリッチ相により不連続化することの抑制などを図ることができる。
【0063】
上記のろう材中に含有するSnまたはInは、セラミックス板に対するろう材の接触角を小さくし、ろう材の濡れ性を改善するための成分である。これらの配合量は好ましくは0.40質量部以上3.5質量部以下である。
配合量を適切に調整することで、セラミックス板に対する濡れ性を適切として、接合不良の可能性を低減することができる。また、ろう材層3中のAgリッチ相がCuリッチ相により不連続化し、ろう材が割れる起点になり、熱サイクル特性低下の可能性を低減することができる。
【0064】
上記のSnまたはInとしては、比表面積が0.1m2/g以上1.0m2/g以下、かつ、D50が0.8μm以上10.0μm以下のSn粉末またはIn粉末を使用するとよい。
比表面積や粒径が適度な粉末を使用することで、接合不良の可能性や接合ボイド発生の可能性を低減することができる。
なお、金属粉末のD50は、たとえばレーザ回折・散乱式 粒子径分布測定装置で測定することができる。
また、金属粉末の比表面積は、たとえばBET比表面積測定装置で測定することができる。
【0065】
ろう材は、窒化アルミニウム基板や窒化珪素基板との反応性を高める等の観点から、活性金属を含むことが好ましい。具体的には、窒化アルミニウム基板や、窒化珪素基板との反応性が高く、接合強度を非常に高くできるため、チタンを含むことが好ましい。
チタン等の活性金属の添加量は、Ag粉末と、Cu粉末と、Sn粉末またはIn粉末の合計100質量部に対して、1.5質量部以上5.0質量部以下が好ましい。活性金属の添加量を適切に調整することで、セラミックス板に対する濡れ性を一層高めることができ、接合不良の発生を一層抑えることができる。また、未反応の活性金属の残存が抑えられ、Agリッチ相の不連続化なども抑えることができる。
【0066】
ろう材は、少なくとも上述の金属粉末と、必要に応じて有機溶剤やバインダーとを混合することで得ることができる。混合には、らいかい機、自転公転ミキサー、プラネタリーミキサー、3本ロール等を用いることができる。これにより、例えばペースト状のろう材を得ることができる。
ここで使用可能な有機溶剤は限定されない。例えば、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、イソホロン、トルエン、酢酸エチル、テレピネオール(ターピネオール)、ジエチレングリコール・モノブチルエーテル、テキサノール等が挙げられる。
ここで使用可能なバインダーは限定されない。例えば、ポリイソブチルメタクリレート、エチルセルロース、メチルセルロース、アクリル樹脂、メタクリル樹脂等の高分子化合物が挙げられる。
【0067】
<ろう材ペースト塗布工程>
上記(工程1)でろう材ペーストをセラミックス板に塗布する方法は限定されない。例えば、ロールコーター法、スクリーン印刷法、転写法などが挙げられる。均一に塗布しやすいという点から、スクリーン印刷法が好ましい。
スクリーン印刷法でろう材ペーストを均一に塗布するためには、ろう材ペーストの粘度を5Pa・s以上20Pa・s以下に制御することが好ましい。また、ろう材ペースト中の有機溶剤量を5質量%以上17質量%以下、バインダー量を2質量%以上8質量%以下に調整することで、印刷性を高めることができる。
【0068】
ろう材の塗布量は、例えば、1.0mg/cm2以上15.0mg/cm2以下とすることができ、5.0mg/cm2以上12.0mg/cm2以下とすることが好ましい。
塗布量を上記数値範囲内とすることによって、銅の結晶方位をより適切に制御することができ、ろう材しみ出しに関連する不具合がより低減し、より歩留まりが向上するものと考えられる。
【0069】
<接合工程>
上記(工程2)のセラミックス板と銅板との接合については、真空中または窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気中、770℃以上830℃以下の温度で、10分以上60分の時間での処理が好ましい。
温度を770℃以上とする、処理時間を10分以上とする、または、温度を770℃以上としかつ処理時間を10分以上とすることで、銅板からの銅の溶け込み量が十分多くなり、セラミックス板と銅板との接合性を十分強固にすることができる。
一方、温度を830℃以下とする、処理時間を60分以下とする、または、温度を830℃以下としかつ処理時間を60分以下とすることで、得られるセラミックス-銅複合体10の銅層2の切断面各結晶方位の面積率を上記数値範囲内にコントロールする、ろう材層3中のAgリッチ相の連続性が担保されやすくなる、銅板中への過度なろう材の拡散が抑えられる、銅の再結晶化による銅結晶の粗大化が抑えられる、ろう材しみ出しを抑制できる、セラミックスと銅の熱膨張率差に由来する応力を低減できる、等のメリットを得ることができる。
【0070】
上記(工程1)および(工程2)のような工程により、本実施形態の複合体(セラミックス層1と、銅層2と、それら二層の間に存在するろう材層3とを備える)を得ることができる。
【0071】
<セラミックス回路基板>
得られたセラミックス-銅複合体10を更に処理/加工してもよい。
例えば、セラミックス-銅複合体10の、少なくとも銅層2の一部を除去して回路を形成してもよい。より具体的には、銅層2やろう材層3の一部を、エッチングにより除去することで回路パターンを形成してもよい。これにより、セラミックス回路基板を得ることができる。
複合体に回路パターンを形成してセラミックス回路基板を得る手順について、以下に説明する。
【0072】
・エッチングマスクの形成
まず、銅層2の表面に、エッチングマスクを形成する。
エッチングマスクを形成する方法として、写真現像法(フォトレジスト法)やスクリーン印刷法、互応化学社製PER400Kインクを用いたインクジェット印刷法など、公知技術を適宜採用することができる。
【0073】
・銅層2のエッチング処理
回路パターンを形成するため、銅層2のエッチング処理を行う。
エッチング液に関して制限はない。一般に使用されている塩化第二鉄溶液、塩化第二銅溶液、硫酸、過酸化水素水等を使用することができる。好ましいものとしては、塩化第二鉄溶液や塩化第二銅溶液が挙げられる。エッチング時間を調整することで、銅回路の側面を傾斜させてもよい。
【0074】
・ろう材層3のエッチング処理
エッチングによって銅層2の一部を除去した複合体には、塗布したろう材、その合金層、窒化物層等が残っている。よって、ハロゲン化アンモニウム水溶液、硫酸、硝酸等の無機酸、過酸化水素水を含む溶液を用いて、それらを除去するのが一般的である。エッチング時間や温度、スプレー圧などの条件を調整することで、ろう材はみ出し部の長さ及び厚みを調整することができる。
【0075】
・エッチングマスクの剥離
エッチング処理後のエッチングマスクの剥離方法は、限定されない。アルカリ水溶液に浸漬させる方法などが一般的である。
【0076】
・メッキ/防錆処理
耐久性の向上や経時変化の抑制などの観点から、メッキ処理または防錆処理を行ってもよい。
メッキとしては、Niメッキ、Ni合金メッキ、Auメッキなどを挙げることができる。メッキ処理の具体的方法は、(i)脱脂、化学研磨、Pd活性化の薬液による前処理工程を経て、Ni-P無電解めっき液として次亜リン酸塩を含有する薬液を使用する通常の無電解めっきの方法、(ii)電極を銅回路パターンに接触させて電気めっきを行う方法などにより行うことができる。
防錆処理は、例えばベンゾトリアゾール系化合物により行うことができる。
【0077】
<パワーモジュール>
例えば上記のようにして銅回路が形成されたセラミックス回路基板の、その銅回路上に適当な半導体素子を配置するなどして、セラミックス回路基板が搭載されたパワーモジュールを得ることができる。
パワーモジュールの具体的構成や詳細については、例えば、前述の特許文献1~3の記載や、特開平10-223809号公報の記載、特開平10-214915号公報の記載などを参照されたい。
【0078】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0079】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0080】
<セラミックス-銅複合体の作製>
[実施例1]
ろう材(活性金属を含む。)として、Ag粉末(福田金属箔粉工業株式会社製:Ag-HWQ、メジアン径D50:2.5μm、比表面積:0.4m2/g)89.5質量部、Cu粉末(福田金属箔粉工業株式会社製:Cu-HWQ、メジアン径D50:3μm、比表面積:0.3m2/g)9.5質量部、Sn粉末(福田金属箔粉工業株式会社製:Sn-HPN、メジアン径D50:3μm、比表面積:0.3m2/g)1.0質量部の合計100質量部に対して、水素化チタン粉末(トーホーテック株式会社製:TCH-100)を3.5質量部含むろう材を準備した。
ここで、金属粉末のD50は、レーザ回折・散乱式 粒子径分布測定装置で測定した。また、金属粉末の比表面積は、BET比表面積測定装置で測定した。
上記ろう材と、バインダー樹脂PIBMA(ポリイソブチルメタクリレート、三菱ケミカル株式会社「ダイヤナール」)と、溶剤ターピネオールとを混合し、ろう材ペーストを得た。なお、バインダーの添加量は、上記Ag粉末、Cu粉末、Sn粉末、水素化チタン粉末の合計100質量部に対し、8質量部以下とした。
【0081】
このろう材ペーストを、窒化珪素基板の両面に、各面での乾燥厚みが約10μm、乾燥後(溶剤除去後)の塗布量が8.0mg/cm2となるように、スクリーン印刷法で塗布した。窒化珪素基板としては、デンカ株式会社製の、厚み0.32mm、縦45mm×横45mmの大きさのものを用いた。
その後、窒化珪素基板の両面に銅板1-1を重ね、1.0×10-3Pa以下の真空中にて780℃、30分の条件で加熱し、窒化珪素基板と銅板をろう材で接合した。これにより、窒化珪素基板と銅板とがろう材で接合されたセラミックス-銅複合体を得た。
【0082】
接合した銅板にエッチングレジストを印刷し、塩化第二鉄溶液でエッチングして回路パターンを形成した。さらにフッ化アンモニウム/過酸化水素溶液でろう材層、窒化物層を除去した。めっき工程は、脱脂、化学研磨による前処理工程を経て、ベンゾトリアゾール系化合物により防錆処理を行った。
以上により、上記のセラミックス-銅複合体の銅層の一部が除去されて回路が形成された、セラミックス回路基板を得た。
【0083】
[実施例2~6、比較例1~3]
銅板として表1に記載のものを用い、ろう材ペーストの組成、塗布量を表2に記載の組成と配合とした以外は、実施例1と同様にして、窒化珪素基板と銅板をろう材で接合したセラミックス-銅複合体を得た。そして、エッチング処理等を行い、セラミックス回路基板を得た。
【0084】
【0085】
【0086】
表1中、銅板1-1~4-2は以下の通りである。なお、いずれの銅板中の銅結晶の粒径も、20μm程度であった。また、いずれの銅板も、セラミックス層との対向面に凸のバリを有していた。
・銅板1-1:三菱伸銅株式会社製、OFCG-Ver.2-1-1(OFCG:Oxygen-Free Copper Grain controlの略)、厚さ0.8mmの圧延銅板
・銅板1-2:三菱伸銅株式会社製、OFCG-Ver.2-1-2(OFCG:Oxygen-Free Copper Grain controlの略)、厚さ0.8mmの圧延銅板
・銅板1-3:三菱伸銅株式会社製、OFCG-Ver.2-1-3(OFCG:Oxygen-Free Copper Grain controlの略)、厚さ0.8mmの圧延銅板
・銅板2-1:三菱伸銅株式会社製、OFCG-Ver.2-2-1(OFCG:Oxygen-Free Copper Grain controlの略)、厚さ0.8mmの圧延銅板
・銅板2-2:三菱伸銅株式会社製、OFCG-Ver.2-2-2(OFCG:Oxygen-Free Copper Grain controlの略)、厚さ0.8mmの圧延銅板
・銅板2-3:三菱伸銅株式会社製、OFCG-Ver.2-2-3(OFCG:Oxygen-Free Copper Grain controlの略)、厚さ0.8mmの圧延銅板
・銅板3-1:三菱伸銅株式会社製、OFCG-Ver.2-3-1(OFCG:Oxygen-Free Copper Grain controlの略)、厚さ0.8mmの圧延銅板
・銅板4-1:三菱伸銅株式会社製、OFC(OFC:Oxygen-Free Copperの略)-1、厚さ0.8mm
・銅板4-2:三菱伸銅株式会社製、OFC(OFC:Oxygen-Free Copperの略)-2、厚さ0.8mm
【0087】
<原料として用いた銅板の評価>
実施例・比較例において、原料として用いた銅板について以下の方法で評価を行なった。
【0088】
(各結晶方位を有する銅結晶の面積率(%)の算出)
以下の方法で原料銅板の各結晶方位を有する銅結晶の面積率(%)を算出した。
まず、以下手順で、測定用の「断面」を得た。
(i)原料銅板を、銅板の圧延方向と主面に垂直で、かつ、銅板の重心を通る断面で切断した。切断にはコンターマシンを用いた。
(ii)切断した銅板を樹脂包埋し、樹脂包埋体を作成した。
(iii)作成した樹脂包埋体中の銅板断面を、ダイヤモンド砥粒を用いてバフ研磨した。
(iv)Arミリングで、銅板の研磨面をフラットミリング処理した。
得られた銅板の断面について、後述のセラミックス-銅複合体の評価方法と同様の方法で電子後方散乱回折法による分析を行い、分析を行なった領域の面積を100%としたとき、各結晶方位を有する銅結晶が占める面積率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0089】
(不純物量分析)
上記の各実施例・比較例で用いた銅板について、ICP発光分析で不純物量を分析した。各実施例・比較例で用いた銅板を切り出し、アセトン、及び、塩酸・硝酸の混酸で洗浄し、洗浄した試料1gに硝酸5mlを加えサンドバスで溶解し、得られた溶液をICP発光分析装置ICPE-9000(島津製作所社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0090】
<セラミックス-銅複合体の評価>
得られた実施例・比較例のセラミックス-銅複合体について以下の方法で評価を行なった。
【0091】
(各結晶方位を有する銅結晶の面積率(%)の算出)
以下の方法でセラミックス-銅複合体の各結晶方位を有する銅結晶の面積率(%)を算出した。
まず、以下手順で、測定用の「断面」を得た。
(i)各実施例および比較例で得られたセラミックス回路基板を、銅板の圧延方向と主面に垂直で、かつ、基板の重心(縦45mm×横45mmの窒化珪素基板のほぼ中心)を通る断面で切断した。切断にはコンターマシンを用いた。
(ii)切断したセラミックス回路基板を樹脂包埋し、樹脂包埋体を作成した。
(iii)作成した樹脂包埋体中のセラミックス回路基板断面を、ダイヤモンド砥粒を用いてバフ研磨した。
(iv)Arミリングで、セラミックス回路基板研磨面をフラットミリング処理した。
【0092】
上記で研磨された銅層断面について、電子後方散乱回折法による測定を行った。
具体的には、まず、上記で研磨された銅層断面のほぼ中心付近で、800×300μmの視野を設定した。この視野内の銅層について、加速電圧15kVの条件で電子線後方散乱回折(EBSD)法による分析を行い、データを取得した。EBSD法には、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のSU6600形電界放出形走査顕微鏡、および、株式会社TSLソリューションズ製のEBSDを用いた。
【0093】
測定データを、株式会社TSLソリューションズ製のソフトウェア:OIM Data Analysis 7.3.0により可視化して有する結晶方位によって銅結晶粒を色分けした結晶方位マップを作成した。この結晶方位マップを、画像処理ソフトウェアで解析することで、分析した領域の面積を100%としたとき、各結晶方位を有する銅結晶が占める面積率(%)を求めた。
【0094】
(インターセプト法により測定される銅結晶の平均結晶粒径)
各実施例および比較例で得られたセラミックス-銅複合体の銅層の上面から観察したとき、
図1(A)の領域Aに存在する銅結晶の平均結晶粒径をインターセプト法により測定した。
実施例および比較例で得られたセラミックス-銅複合体を、コンターマシンを用いて切り出し、第二の面5が上になるように、試料台にセットし、加速電圧15kVの条件で、50倍の観察視野において、電子線後方散乱回折(EBSD)法による分析を行い、銅結晶の面積率(%)の算出と同様の方法で、銅結晶粒を色分けした結晶方位マップを作成した。この結晶方位マップを、画像処理ソフトウェアで解析することで、銅結晶の平均結晶粒径を求めた。
【0095】
画像処理ソフトウェアとしては、Media Cybernetics社製のImage-Pro Plus Shape Stack バージョン6.3を用いた。平均結晶粒径の算出には、インターセプト法を用い、1つの観察画像上に所定長さの直線を10本以上平行に引き、銅結晶粒子を上記直線が横切った部分の直線の長さの平均値を、銅結晶の平均結晶粒径として得た。
【0096】
(ろう材しみ出し評価)
各実施例および比較例のセラミックス-銅複合体について、以下の方法でろう材染み出しの評価を行なった。なお、ろう材しみだしとは、セラミックスと銅板の接合に使用したろう材(主に銀)が銅層の端部からはみだし、銅層の端面6を這い上がり、銅層表面(第二の面5)上に回り込む現象をいう。
まず、得られたセラミックス-銅複合体を硫酸及び過酸化水素水の混合液(粗化溶液)に浸漬し、銅板の表面を約0.5μmエッチングし、粗化した。
粗化後のセラミックス-銅複合体の銅層表面(第二の面5)の外観を観察し、ろう材が銅層の端面6を這い上がり、銅層表面(第二の面5)上に回り込み、回り込んだろう材が銅層表面(第二の面5)上で銅層端部から銅層中央方向に広がり、かつ、ろう材が銅層表面(第二の面5)の端部から2mm離れた箇所を越えて広がっている箇所がある場合、ろう材しみ出しありと判断した(
図3参照)。N=100枚のセラミックス-銅複合体についてしみ出しの発生を確認し、以下の基準で判定した。
○:N=100の外観観察の結果、ろう材しみ出しの発生がない。
×:N=100の外観観察の結果、ろう材しみ出しの発生があった。
【0097】
解析結果や評価結果などをまとめて表3に示す。
【0098】
【0099】
表3に示されるように、セラミックス-銅複合体を、その主面に垂直な面で切断したとき、銅層の切断面において、S(102)+S(101)>S(111)+S(112)となる実施例のセラミックス-銅複合体においては、ろう材しみ出しの発生が抑えられていた。
【0100】
一方、セラミックス-銅複合体を、その主面に垂直な面で切断したとき、銅層の切断面において、S(102)+S(101)<S(111)+S(112)となる比較例のセラミックス-銅複合体においては、ろう材しみ出しの発生が認められた。
【0101】
この出願は、2018年12月28日に出願された日本出願特願2018-248175号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。