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特許7212739温度センサを接触させるための白金組成物のワイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】温度センサを接触させるための白金組成物のワイヤ
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/22 20060101AFI20230118BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20230118BHJP
   C22F 1/14 20060101ALI20230118BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20230118BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230118BHJP
【FI】
G01K7/22 L
G01K7/22 Z
C22C5/04
C22F1/14
H01B1/00 Z
C22F1/00 603
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 661Z
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 613
C22F1/00 640A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 650A
C22F1/00 681
C22F1/00 686A
【請求項の数】 26
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021158486
(22)【出願日】2021-09-28
(65)【公開番号】P2022060168
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2021-11-26
(31)【優先権主張番号】20199749.1
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ヴェグナー マティアス
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-017291(JP,A)
【文献】特表2009-504917(JP,A)
【文献】特開2002-340692(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03444364(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 7/00-7/42
C22C 5/04
C22F 1/00
C22F 1/14
H01B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサを電気的に接触させるためのワイヤであって、前記ワイヤは、少なくとも50重量%の白金組成物からなり、前記白金組成物は、
2重量%~3.5重量%のタングステンと、
47.95重量%までの、ロジウム、金、イリジウム及びパラジウム並びにこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の貴金属と、
0.05重量%~1重量%の、(i)ジルコニウム、(ii)アルミニウム、並びに(iii)ジルコニウム並びにアルミニウム、イットリウム及びスカンジウムから選択される少なくとも1種の元素、からなる群から選択される少なくとも1種の非貴金属の酸化物と、
残部として、少なくとも50重量%の、不純物を含めた白金と
を含むワイヤ。
【請求項2】
前記白金組成物が、分散硬化されていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ。
【請求項3】
少なくとも12%の破断伸びを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワイヤ。
【請求項4】
少なくとも15%の破断伸びを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワイヤ。
【請求項5】
前記白金組成物中の前記不純物の合計割合が最大で1重量%であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項6】
前記白金組成物中の前記不純物の合計割合が最大で0.5重量%であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項7】
前記ワイヤが少なくとも90重量%の前記白金組成物から構成されているか、前記ワイヤが外側のコーティング又はメッキを除いて前記白金組成物から構成されているか、又は前記ワイヤが前記白金組成物から構成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項8】
前記少なくとも1種の非貴金属の酸化物の少なくとも50モル%が、イットリア又はスカンジア、又はイットリア及びスカンジアで安定化された立方晶ジルコニアであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項9】
前記少なくとも1種の非貴金属の酸化物の少なくとも80モル%が、イットリア又はスカンジア、又はイットリア及びスカンジアで安定化された立方晶ジルコニアであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項10】
前記白金組成物が、溶融冶金によって製造され、続いて、前記白金組成物に含有される前記非貴金属が少なくとも90%酸化されるか、又は完全に酸化されるような酸化媒体中での温度処理によって酸化されることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項11】
前記白金組成物が、続いて、ワイヤに成形され、この前及び後に焼鈍される、又は続いて、ワイヤに成形され、この前若しくは後に焼鈍されることを特徴とする請求項10に記載のワイヤ。
【請求項12】
前記白金組成物が、少なくとも80重量%の、不純物を含めた白金を含有することを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項13】
前記白金組成物が、17.95重量%までのロジウムを含有することを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項14】
前記白金組成物が、少なくとも1重量%の、ロジウム、金、パラジウム及びイリジウムからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属を含むことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項15】
前記白金組成物が、少なくとも5重量%の、ロジウム、金、パラジウム及びイリジウムからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属を含むことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項16】
前記白金組成物が、2重量%~3.5重量%のタングステンと、5重量%~15重量%のロジウムと、0.05重量%~1重量%の、(i)ジルコニウム、(ii)アルミニウム、並びに(iii)ジルコニウム並びにアルミニウム、イットリウム及びスカンジウムから選択される少なくとも1種の元素、からなる群から選択される少なくとも1種の非貴金属の酸化物と、残部として、不純物を含めた白金とからなること、又は
前記白金組成物が、2重量%~3重量%のタングステンと、0.05重量%~1重量%の、(i)ジルコニウム、(ii)アルミニウム、並びに(iii)ジルコニウム並びにアルミニウム、イットリウム及びスカンジウムから選択される少なくとも1種の元素、からなる群から選択される前記少なくとも1種の非貴金属の酸化物と、残部として、不純物を含めた白金とからなること
を特徴とする請求項1から請求項15のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項17】
前記白金組成物が、2.0重量%~3.0重量%のタングステンを含むことを特徴とする請求項1から請求項16のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項18】
前記白金組成物が、2.4重量%~2.8重量%のタングステンを含むことを特徴とする請求項1から請求項16のいずれか1項に記載のワイヤ。
【請求項19】
温度を測定するための温度センサであって、少なくとも1つの請求項1から請求項18のいずれか1項に記載のワイヤを含み、又は2つの請求項1から請求項18のいずれか1項に記載のワイヤを含む温度センサ。
【請求項20】
前記温度センサの熱接点又は抵抗構造体又は抵抗層が、電気的接触のために少なくとも1つの前記ワイヤに電気伝導的に接続されていることを特徴とする請求項19に記載の温度センサ。
【請求項21】
前記温度センサが、2つの請求項1から請求項15のいずれか1項に記載のワイヤを含み、2つの前記ワイヤのうちの第1のワイヤの一端が、前記熱接点又は前記抵抗構造体又は前記抵抗層の一方の側に電気伝導的に接続され、2つの前記ワイヤのうちの第2のワイヤの一端が、前記熱接点又は前記抵抗構造体又は前記抵抗層の他方の側に電気伝導的に接続されていることを特徴とする請求項20に記載の温度センサ。
【請求項22】
白金組成物の製造方法であって、時系列的な
A)2重量%~3.5重量%のタングステンと、47.95重量%までの、ロジウム、金、イリジウム及びパラジウム並びにこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の貴金属と、0.05重量%~1重量%の、(i)ジルコニウム、(ii)アルミニウム、並びに(iii)ジルコニウム並びにアルミニウム、イットリウム及びスカンジウムから選択される少なくとも1種の元素、からなる群から選択される少なくとも1種の易酸化性の非貴金属と、残部として、少なくとも50重量%の、不純物を含めた白金とを含む溶融物を調製する工程と、
B)前記溶融物を凝固させて固形体を形成する工程と、
C)前記固形体を加工して体積体を形成する工程と、
D)前記体積体に含有される前記非貴金属を、酸化媒体中で、少なくとも750℃の温度で少なくとも24時間の時間をかけて熱処理することにより酸化する工程と、
E)前記体積体を加工してワイヤを形成する工程と
を含む方法。
【請求項23】
請求項1から請求項18のいずれか1項に記載のワイヤが、前記方法によって製造され又は伸線又はプレス加工されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
工程E)において、前記固形体が、まず、少なくとも1300℃で少なくとも1時間延性焼鈍され、その後、伸線又はプレス加工されてワイヤが形成されることを特徴とする請求項22又は請求項23に記載の方法。
【請求項25】
1000℃~1200℃の温度での焼鈍が、伸線若しくはプレス加工の前及び/又は後に実施されることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
温度センサの製造方法であって、
請求項22から請求項25のいずれか1項に記載の方法でワイヤを製造することと、
前記ワイヤの少なくとも1つの断片又は前記ワイヤの少なくとも2つの断片に、熱接点又は抵抗構造体又は抵抗層を電気的に接触させることと
を特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金組成物を含む、温度センサを電気的に接触させるためのワイヤ、少なくとも1つのそのようなワイヤを有する温度センサ、並びにそのようなワイヤ及びそのような温度センサの製造方法に関する。この白金組成物は、少なくとも50重量%の白金(Pt)と2重量%~3.5重量%のタングステン(W)とからなり、0.05重量%~1重量%の非貴金属であるジルコニウム(Zr)又はアルミニウム(Al)の酸化物を含む。この白金組成物は、47.95重量%までの貴金属であるロジウム、金、イリジウム及びパラジウムのうちの少なくとも1種を含有していてもよく、上記酸化物の一部として、非貴金属であるイットリウム(Y)及びスカンジウム(Sc)の酸化物、並びに、残部として、不純物を含めた白金を含んでいてもよい。
【背景技術】
【0002】
分散硬化白金ワイヤ(Pt DPH-Aワイヤ)は、現在では、過酷な条件下でサーミスタ及び他の温度センサを電気的に接触させるために普及している。これらの温度センサは、とりわけ自動車産業において、(例えば、触媒式排出ガス浄化装置の温度及び/又は排気ガス温度の測定を測定するための)自動車の排気ガスライン又は排気ガス流の温度測定に使用されている。運転条件下では、腐食性のある排気ガス雰囲気の中で、1000℃以上の温度がある。温度センサの電気的接触時及びワイヤの製造時には、1300℃~1600℃の温度が発生する可能性がある。このような温度センサは、例えば、独国特許第102 11 029B4号明細書から公知である。ワイヤへの熱的ストレスに加えて、例えば振動による部品への機械的ストレスも発生する。分散硬化白金は優れた耐食性を特徴としているが、多くの場合、機械的特性が不十分である。
【0003】
この種の分散硬化白金組成物の製造、加工、及び物理的特性は、例えば、英国特許出願公開第1 280 815A号明細書、英国特許出願公開第1 340 076A号明細書、英国特許出願公開第2 082 205A号明細書、欧州特許出願公開第0 683 240A2号明細書、欧州特許出願公開第0 870 844A1号明細書、欧州特許出願公開第0 947 595A2号明細書、欧州特許出願公開第1 188 844A1号明細書、欧州特許出願公開第1 295 953A1号明細書、欧州特許出願公開第1 964 938A1号明細書、米国特許第2 636 819A号明細書、米国特許第4 507 156A号明細書、独国特許出願公開第23 55 122A1号明細書、国際公開第81/01013A1号パンフレット及び国際公開第2015/082630A1号パンフレットから公知である。
【0004】
分散固化白金組成物は、通常、ジルコニウム(Zr)及び任意にイットリウム(Y)又はスカンジウム(Sc)等の他の非貴金属を合金化することにより、粉末冶金又は溶融冶金によって製造され、このジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)及びスカンジウム(Sc)は後続の酸化プロセスで酸化されて、ジルコニア(ZrO)、イットリア(Y)及びスカンジア(SC)を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】独国特許第102 11 029B4号明細書
【文献】英国特許出願公開第1 280 815A号明細書
【文献】英国特許出願公開第1 340 076A号明細書
【文献】英国特許出願公開第2 082 205A号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0 683 240A2号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0 870 844A1号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0 947 595A2号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1 188 844A1号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1 295 953A1号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1 964 938A1号明細書
【文献】米国特許第2 636 819A号明細書
【文献】米国特許第4 507 156A号明細書
【文献】独国特許出願公開第23 55 122A1号明細書
【文献】国際公開第81/01013A1号パンフレット
【文献】国際公開第2015/082630A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それゆえ、本発明の目的は、先行技術の欠点を克服することである。それは、分散硬化白金からなるワイヤの利点を可能な限り保持することを目的とする。特に、白金組成物から作製されるか又は白金組成物を有するワイヤと、それに電気的に接触する温度センサとを提供することを意図しており、この白金組成物及びワイヤをできるだけ安価で簡単な方法で製造できるようにすることを意図している。加えて、このワイヤは、可能な限り高い強度と破断伸び(破断時の伸び)を有することが意図されている。その結果、このワイヤは温度センサに加工することができ、このセンサは、自動車の排気ラインに見られるような過酷な条件下で使用することができる。
【0007】
本発明により、機械的特性を改善することを意図しており、コストを削減することを意図している。一般に、この種の白金組成物からなるか又は白金組成物を含有するワイヤは、排気ガス流又はエンジン内の温度センサを電気的に接触させるための接触ワイヤ等、大きな機械的ストレスと組み合わせて、腐食性条件で高い適用温度で主に使用される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、温度センサを電気的に接触させるためのワイヤ(線材)であって、このワイヤは少なくとも50重量%の白金組成物からなり、この白金組成物は、
1)2重量%~3.5重量%のタングステンと、
2)47.95重量%までの、ロジウム、金、イリジウム及びパラジウム並びにこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の貴金属と、
3)0.05重量%~1重量%の、(i)ジルコニウム、(ii)アルミニウム、並びに(iii)ジルコニウム並びにアルミニウム、イットリウム及びスカンジウムから選択される少なくとも1種の元素、からなる群から選択される少なくとも1種の非貴金属の酸化物と、
4)残部として、少なくとも50重量%の、不純物を含めた白金と
を含有するワイヤによって達成される。
【0009】
本発明によれば、0.05重量%~1重量%の上記少なくとも1種の非貴金属の酸化物として、ジルコニウムの酸化物、又はジルコニウムの酸化物とイットリウムの酸化物及び/若しくはスカンジウムの酸化物とが好ましい。
【0010】
上記白金組成物は、好ましくは、白金系合金である。白金系合金とは、少なくとも50原子%の白金からなる合金であると理解される。
【0011】
好ましくは0.1重量%~0.7重量%、特に好ましくは0.2重量%~0.5重量%の上記少なくとも1種の非貴金属の酸化物が上記白金組成物に含有される。非貴金属の酸化物の割合が高いと、機械的ストレス下でのワイヤの強度が高くなる。非貴金属の酸化物の割合が低い白金組成物を含有するワイヤは、ワイヤを製造するための白金組成物の加工性、例えば溶接性や成形性の点で有利である。
【0012】
本発明のさらなる発展によれば、上記白金組成物が、30重量%までのロジウム、金、イリジウム及びパラジウム並びにこれらの混合物からなる群から選択される貴金属のうちの少なくとも1種を含有し、好ましくは0.5重量%~30重量%のこれらの貴金属のうちの少なくとも1種を含有し、特に好ましくは1重量%~20重量%のこれらの貴金属のうちの少なくとも1種を含有し、最も好ましくは1重量%~10重量%のこれらの貴金属のうちの少なくとも1種を含有することが提供されてもよい。
【0013】
さらには、上記白金組成物が、上記少なくとも1種の貴金属として、10重量%までの金、30重量%までのロジウム、30重量%までのイリジウム、又は47.95重量%までのパラジウムを含むことが提供されてもよい。
【0014】
上記白金組成物は、通常の、又は製造プロセスに起因する不純物を除いて純粋な白金-タングステン組成物であって、この純粋な白金-タングステン組成物に上記少なくとも1種の非貴金属であるジルコニウム、又はアルミニウム、又はジルコニウムとアルミニウム、イットリウム及び/若しくはスカンジウムの酸化物が分布しているものであってもよい。しかしながら、さらには、上記白金組成物は、他の貴金属、すなわち、ロジウム、金、イリジウム及びパラジウムを含有していてもよく、この場合、この白金組成物は、好ましくは白金系合金である。
【0015】
上記白金組成物の成分に含まれる不純物は、設計プロセスに起因して、及び設計プロセスの一部として出発材料に入るか、又は合理的な努力で原材料から(さらに又は完全に)取り除くことができなかった通常の不純物であると理解される。
【0016】
好ましくは、上記白金組成物が粉末冶金によって製造されないということが提供されてもよい。
【0017】
本発明に係るワイヤでは、白金組成物が分散硬化されているということが提供されてもよい。
【0018】
本発明に係る組成物の分散硬化白金組成物は、白金(白金族金属)及びタングステンのマトリクス中に、上記少なくとも1種の非貴金属の酸化物の析出物を有し、これにより、白金組成物の硬化が生じる。
【0019】
分散硬化により、ワイヤの機械的特性が向上する。
【0020】
白金組成物中の不純物の合計割合が最大で1重量%、好ましくは最大で0.5重量%であるということも提供されてもよい。
【0021】
これにより、白金組成物の物理的特性、ひいてはワイヤの物理的特性が、不純物の影響を受けないか、又は不純物の影響が可能な限り小さくなる。
【0022】
さらには、当該ワイヤが少なくとも90重量%の上記白金組成物から構成されていること、又は当該ワイヤが外側のコーティング又はメッキを除いて上記白金組成物から構成されていること、又は当該ワイヤが上記白金組成物から構成されているということが提供されてもよい。
【0023】
これにより、上記白金組成物が当該ワイヤの物理的特性、特に機械的特性を決定することが保証される。コーティングが存在する場合、これは特に電気的特性、特に当該ワイヤの電気的接触性を改善したり、腐食性媒体に対するシールドとして機能したりすることができる。
【0024】
さらには、上記少なくとも1種の非貴金属の酸化物の少なくとも50モル%がイットリア及び/又はスカンジアで安定化された立方晶ジルコニアとして存在し、好ましくは上記少なくとも1種の非貴金属の酸化物の少なくとも80モル%がイットリア及び/又はスカンジアで安定化された立方晶ジルコニアとして存在するということが提供されてもよい。
【0025】
これらの対策により、酸化物に沿った酸素拡散性を高めることができ、従って、酸化性雰囲気中で比較的短時間に非貴金属の酸化によりワイヤを硬化させることができることが見出された。その結果、上記白金組成物では、酸化領域を通る酸素拡散性が高くなり、それゆえ非貴金属であるジルコニウム、イットリウム及びスカンジウムの良好な酸化性が達成される。その結果、上記白金組成物は、酸化的析出により特に短時間で硬化させることができる。加えて、このようにして、特に高い引張り強度及び破断伸びを有する白金組成物又はワイヤを製造することができる。加えて、ジルコニアの立方晶変態を安定化させることで、熱衝撃による応力を最小限に抑えられる。
【0026】
好ましくは、上記白金組成物が溶融冶金によって製造され、続いて、この白金組成物に含有される非貴金属が完全に酸化されるような酸化媒体中での温度処理によって酸化され、その白金組成物は、好ましくは続いてワイヤに成形され、特に好ましくはこの前及び/又は後に焼鈍されるということも提供されてもよい。
【0027】
その結果、特によく硬化した白金組成物又は特によく硬化したワイヤが製造される。
【0028】
上記白金組成物は、少なくとも80重量%の、不純物を含めた白金を含み、この白金組成物は好ましくは17.95重量%までのロジウムを含むということが提供されてもよい。
【0029】
白金の含有量が多いと、上記白金組成物に含まれる他の貴金属が少なくなり、それゆえその白金組成物は安価になる。
【0030】
また、上記白金組成物が、少なくとも1重量%の、ロジウム、金、パラジウム及びイリジウムからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属を含み、この白金組成物が、好ましくは上記少なくとも1種の貴金属として、少なくとも5重量%のロジウムを含むということも提供されてもよい。
【0031】
貴金属であるロジウム、金、パラジウム及び/又はイリジウムを添加することで、上記白金組成物の機械的特性を向上させることができる。特に、ロジウムを添加すると、当該ワイヤの高温特性を特に有利に改善することができる。
【0032】
好ましくは、上記白金組成物が、2重量%~3.5重量%のタングステンと、5重量%~15重量%のロジウムと、0.05重量%~1重量%の、(i)ジルコニウム、(ii)アルミニウム、並びに(iii)ジルコニウム並びにアルミニウム、イットリウム及びスカンジウムから選択される少なくとも1種の元素、からなる群から選択される少なくとも1種の非貴金属の酸化物と、残部として、不純物を含めた白金とからなること、又は
上記白金組成物は、2重量%~3.5重量%のタングステンと、0.05重量%~1重量%の、(i)ジルコニウム、(ii)アルミニウム、並びに(iii)ジルコニウム並びにアルミニウム、イットリウム及びスカンジウムから選択される少なくとも1種の元素、からなる群から選択される少なくとも1種の非貴金属の酸化物と、残部として、不純物を含めた白金とからなること
がさらに提供されてもよい。
【0033】
その結果、上記白金組成物、ひいては当該ワイヤが所望の特性を有することを確実にすることができる。
【0034】
本発明による組成物では、再結晶状態で、少なくとも300MPa、好ましくは少なくとも350MPaの引張強度が達成される。さらには、この合金は、少なくとも12%、好ましくは少なくとも15%の破断伸びを有する。ジルコニアで安定化されているため、材料が1300℃を超える温度に曝されても、この特性の組み合わせは実質的に維持される。
【0035】
この材料特性は、DIN EN ISO 6892-1規格に従って決定された。
【0036】
さらには、当該ワイヤが少なくとも12%、好ましくは少なくとも15%の破断伸びを有するということが提供されてもよい。
【0037】
このようなワイヤは、優れた加工性を有し、それゆえ、例えば、温度センサの製造に特に適している。加えて、このようなワイヤは、例えば自動車の排気ガス温度を測定するための温度センサを使用する際に発生する機械的、熱的、及び化学的なストレスにも耐えることができる。
【0038】
上記白金組成物が、2.0重量%~3.0重量%、好ましくは2.3重量%~2.8重量%のタングステンを含むということも提供されてもよい。
【0039】
これらのタングステン含有量では、耐食性を犠牲にすることなく、引張強度と破断伸びとの特に良好な組み合わせが達成される。
【0040】
本発明の目的は、温度を決定するための温度センサ、特に高温センサであって、少なくとも1つのこの種のワイヤを含み、好ましくは2つのこの種のワイヤを含む温度センサによっても達成される。
【0041】
この種の温度センサ、特に高温センサは、当該ワイヤについて述べた利点を有しており、特に、温度が急速に変化する領域での使用によく適しており、また、振動環境での使用にもよく適しており、すなわち、自動車の排気ガスの流れの中での使用に適している。
【0042】
これに関して、当該温度センサの熱接点又は抵抗構造体、特に抵抗層が、電気的接触のために少なくとも1つの当該ワイヤに電気的に接続されており、この温度センサが、好ましくは2つのそのようなワイヤを有し、この2つのワイヤのうちの第1のワイヤの一端は、上記熱接点又は抵抗構造体又は抵抗層の一方の側に電気伝導的に接続され、2つのワイヤのうちの第2のワイヤの一端は、上記熱接点又は抵抗構造体又は抵抗層の他方の側に電気伝導的に接続されているということが提供されてもよい。
【0043】
このような温度センサは、熱的にも機械的にも化学的にも厳しい環境下で、特に良好に使用することができる。
【0044】
本発明の目的は、以下の時系列的な
A)2重量%~3.5重量%のタングステンと、47.95重量%までの、ロジウム、金、イリジウム及びパラジウム並びにこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の貴金属と、0.05重量%~1重量%の、(i)ジルコニウム、(ii)アルミニウム、並びに(iii)ジルコニウム並びにアルミニウム、イットリウム及びスカンジウムから選択される少なくとも1種の元素、からなる群から選択される少なくとも1種の易酸化性の非貴金属と、残部として、少なくとも50重量%の、不純物を含めた白金とを含む溶融物を調製する工程と、
B)上記溶融物を凝固させて固形体を形成する工程と、
C)上記固形体を加工して体積体を形成する工程と、
D)上記体積体に含有される上記非貴金属を、酸化媒体中で、少なくとも750℃の温度で少なくとも24時間の時間をかけて熱処理することにより酸化する工程と、
E)上記体積体を加工してワイヤを形成する工程と
を含む白金組成物の製造方法によっても達成される。
【0045】
これに関して、本発明に係るワイヤが、当該方法によって製造され、特に伸線(伸線加工)又はプレス加工されることが提供されてもよい。
【0046】
工程E)において、固形体は、まず、少なくとも1300℃で少なくとも1時間延性焼鈍され、その後、伸線又はプレス加工されてワイヤが形成され、焼鈍プロセスは、好ましくは、伸線若しくはプレス加工の前、間及び/又は後に、1000℃~1200℃の温度で行われるということも提供されてもよい。
【0047】
その結果、ワイヤを形成するための固形体の加工が簡素化され、得られたワイヤは高い強度と高い破断伸びを有する。
【0048】
最後に、本発明の目的は、温度センサの製造方法であって、このような方法でワイヤを製造し、そのワイヤの少なくとも1つの断片、好ましくはワイヤの少なくとも2つの断片に、熱接点又は抵抗構造体又は抵抗層を電気的に接触させることを特徴とする温度センサの製造方法によっても達成される。
【0049】
上記ワイヤは、電気的接触の前にコーティングすることができる。
【0050】
本発明は、分散硬化白金組成物からなる、又はそれを含有するワイヤにタングステンを添加することにより、ワイヤの引張強度を大幅に増加させることが可能であり、一方でワイヤの破断伸びは低下しないか又はほとんど低下しないという驚くべき発見に基づいている。従って、本発明に係るワイヤは、自動車、エンジン、並びに温度変化、高温並びに同時に振動及び機械的ストレスが発生し、かつ化学的にも腐食しやすい環境も伴う他の機械の高温センサのための電気接触ワイヤとしての用途に使用することができる。
【0051】
さらに、本発明に係るワイヤでは、白金の代わりに(たとえわずかであっても)タングステンを使用しているため、より少ない貴金属が使用されており、従って、さらなる経済的利点がある。
【0052】
本発明の例示的な実施形態が以下に説明されるが、しかしながら、それらの実施形態が本発明を限定することはない。
【実施例
【0053】
分散固化又は分散硬化した白金-タングステン合金、すなわち、2.1重量%のタングステンを含有する白金-タングステン合金(PtW2.1 DPH-A)及び2.4重量%のタングステンを含有する白金-タングステン合金(PtW2.4 DPH-A)、並びに比較のために先行技術から公知の分散硬化した白金(Pt DPH-A)を製造した。分散硬化白金合金に2.1重量%又は2.4重量%のタングステンを添加することにより、約15%という非常に良好な破断伸びを維持しながら、同時に降伏強度を3倍、引張強度を2倍にすることができた。
【0054】
この材料は次のようにして製造した。
【0055】
以下に説明する白金組成物は、重量2.5kgのインゴットを溶融物(融液)から真空誘導溶解により鋳造して製造した。2種類の白金組成物、すなわち、2.1重量%のタングステン、1800ppmのジルコニウム、300ppmのイットリウム、50ppmのスカンジウム、及び残部として不純物を含めた白金(PtW2.1 DPH-A)と、2.4重量%のタングステン、1800ppmのジルコニウム、300ppmのイットリウム、50ppmのスカンジウム、及び残部として不純物を含めた白金(PtW2.4 DPH-A)、をこの方法で製造した。非貴金属であるジルコニウム、イットリウム、スカンジウムは、真空誘導溶解中に添加した。
【0056】
このインゴットを真空誘導溶解で鋳造した後、2.5mmに圧延し、非貴金属のZr、Y及びScがその酸化物に完全に変化するまで酸化処理(900℃、24日間)を行った。その後、延性焼鈍プロセス(1400℃で6時間)を行い、1100℃の連続炉で1mm、1m/分の条件で中間焼鈍プロセスを行い、この材料を最終サイズ(線径0.25mm)まで伸線し、1100℃の連続炉で1m/分の伸線速度で最終焼鈍プロセスを行った。1100℃という温度を選んだのは、この温度では上記材料が短時間で完全に再結晶するからである。
【0057】
基準材のPt DPH-Aも同様に製造したが、タングステンの添加だけは省略した。
【0058】
続いて、機械的特性を引張試験で実験的に測定した。
【0059】
白金組成物PtW2.1 DPH-Aから直径0.252mmのワイヤを製造し、白金組成物PtW2.4 DPH-Aから同じ直径0.252mmのワイヤを製造した。
【0060】
加えて、比較のために、白金組成物Pt DPH-Aから直径0.246mmのワイヤを製造した。
【0061】
白金組成物PtW2.1 DPH-A及びPtW2.4 DPH-Aのワイヤについては、以下に記載する機械的特性を測定するために、実験設定に以下のパラメータを使用した:初期力10N/mm、降伏強度速度1mm/分、弾性率速度1mm/分、及び試験速度10mm/分。0.246mmの白金組成Pt DPH-Aのワイヤについては、以下のパラメータを使用した:初期力5N/mm、降伏強度速度1mm/分、弾性率速度1mm/分、及び試験速度10mm/分。測定装置で試料をクランプする際の初期力が小さいため、ワイヤの構造が変化せず、それゆえこの初期力は測定結果に影響を与えない。
【0062】
直径0.25mmの白金組成物PtW2.1 DPH-A、PtW2.4 DPH-A及びPt DPH-Aのワイヤについては、それぞれ5本のワイヤを測定し、平均化して標準偏差(s)を算出することにより、以下の値に使用した。さらには、超高温での温度安定性を調べるために、1400℃で1時間の追加のさらなる焼鈍プロセスを行った後、ワイヤの機械的特性を測定した。
【0063】
【表1】
【0064】
p0.2は降伏強さ又は0.2%耐力であり、Rは引張強度であり、Fは最大力であり、A100mmは破断伸びであり、sは平均値からの標準偏差である。この引張試験は、Zwick Roell Z250床置き型試験機で行った。
【0065】
上記白金組成物を含む、又は白金組成物からなる本発明に係るワイヤの有利な技術的効果は、同時に高い破断伸びを伴う高い引張強度に見ることができるが、これは、白金及びタングステン及び酸化物分散硬化との適切な組み合わせによって達成された(ジルコニアを基準にしているが、上記効果はアルミナにも期待できるので、アルミナにも移行可能である)。タングステン及び酸化物形成剤の量は、(特に、タングステンを添加していないPt DPH-A合金と直接比較して)機械的特性を大幅に向上させ、耐酸化性又は耐腐食性を臨界レベル未満に低下させないように選択し、その結果、ワイヤの材料が劣化して、最悪の場合でも、動作条件(例えば、内燃機関の高温の排気ガス中)で破損することはない。
【0066】
高い破断伸びは、分散硬化白金及び分散硬化白金合金では非常に珍しい。これらは通常もっと脆い。高い破断伸びは、溶融物からの製造と、分散硬化白金合金の非貴金属であるジルコニウム、アルミニウム、イットリウム及び/又はスカンジウムの内部酸化によって有利になると推測される。特に、イットリウム及び/又はスカンジウムによって安定化されたジルコニアを用いる実施形態では、このプロセスは、酸化イットリウム及び/又は酸化スカンジウムによるジルコニアの立方晶高温相の安定化を伴い、この相は全温度範囲にわたって安定している。非安定化ジルコニアは、約1170℃で単斜晶から正方晶に遷移し、最終的に約2370℃で立方晶の結晶構造に遷移する3つの結晶変態として存在する。
【0067】
以上の説明、並びに特許請求の範囲、図面及び例示的な実施形態に開示された本発明の特徴は、本発明をその様々な実施形態で実現するために、個別にも任意の組み合わせでも必須でありうる。