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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】金属空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20230118BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20230118BHJP
   H01M 50/178 20210101ALI20230118BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20230118BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20230118BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20230118BHJP
   H01M 50/193 20210101ALI20230118BHJP
   H01M 50/55 20210101ALI20230118BHJP
【FI】
H01M12/06 A
H01M12/08 K
H01M50/178
H01M50/184 C
H01M50/105
H01M50/121
H01M50/193
H01M50/55 301
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021520719
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2020018930
(87)【国際公開番号】W WO2020235389
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2019095421
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 知哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148493
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】佐多 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】水畑 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】北川 知
(72)【発明者】
【氏名】相本 豊賀
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-238985(JP,A)
【文献】特開2013-62135(JP,A)
【文献】特開2018-137050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
H01M 12/08
H01M 50/178
H01M 50/184
H01M 50/105
H01M 50/121
H01M 50/193
H01M 50/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外包体に収容された負極および正極を有する金属空気電池であって、
前記負極および前記正極の少なくとも一方は、前記外包体の内部から外部へ延出するリードを備え、
前記リードの外面には封止部材が設けられ、
前記外包体は、前記封止部材および前記リードを挟み込んだ状態で溶着された溶着部を有して封止され、
前記封止部材は、前記外包体の内部で前記リードを覆う粘着層を含むことを特徴とする金属空気電池。
【請求項2】
請求項1に記載の金属空気電池において、
前記封止部材は、さらに、前記外包体と溶着された樹脂フィルム層を備えることを特徴とする金属空気電池。
【請求項3】
請求項2に記載の金属空気電池において、
前記粘着層は前記リードに接着することを特徴とする金属空気電池。
【請求項4】
請求項2または3に記載の金属空気電池において、
前記樹脂フィルム層は、前記リードに接して備えられ、
前記粘着層は、前記樹脂フィルム層と前記リードとの界面を被覆することを特徴とする金属空気電池。
【請求項5】
請求項2または3に記載の金属空気電池において、
前記封止部材は、前記溶着部において、前記外包体と前記リードとの間に、前記樹脂フィルム層が前記外包体と対向し、さらに、前記粘着層が前記リードと対向するように積層されてなることを特徴とする金属空気電池。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか1つの請求項に記載の金属空気電池において、
前記外包体は樹脂フィルム材により形成され、前記樹脂フィルム層は前記外包体を構成する樹脂フィルム材と同じ組成の高分子を含む樹脂フィルム材により形成されてなることを特徴とする金属空気電池。
【請求項7】
請求項1に記載の金属空気電池において、
前記封止部材は前記粘着層からなり、前記粘着層は前記外包体と前記リードとの間に設けられてなることを特徴とする金属空気電池。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つの請求項に記載の金属空気電池において、
前記粘着層は、一般式(I)
【化1】
[式中、Rは炭素数1~3のアルキル基を示し、nは1以上の整数である]
で表される化合物を含むことを特徴とする金属空気電池。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1つの請求項に記載の金属空気電池において、
前記粘着層は、一般式(II)
【化2】
[式中、Rは炭素数1~3のアルキル基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~3のアルキル基を示し、nは1以上の整数である。]
で表される化合物を含むことを特徴とする金属空気電池。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1つの請求項に記載の金属空気電池において、
前記粘着層は、一般式(III)
【化3】
[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~3のアルキル基を示し、nは1以上の整数である。]
で表される化合物を含むことを特徴とする金属空気電池。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1つの請求項に記載の金属空気電池において、
前記粘着層は、ブチルゴムを包含する未加硫ゴムであることを特徴とする金属空気電池。
【請求項12】
前記リードは、前記負極と電気的に接続している、請求項1~11のいずれか1つに記載の金属空気電池。
【請求項13】
前記リードは、前記正極と電気的に接続している、請求項1~12のいずれか1つに記載の金属空気電池。
【請求項14】
前記負極および前記正極は、それぞれ前記外包体の内部から外部へ延出するリードを備える、請求項1~13のいずれか1つに記載の金属空気電池。
【請求項15】
前記リードは、ニッケル箔、ニッケルメッキ鉄箔、スズメッキニッケル箔、銅箔、真鍮箔のいずれかで形成されている、請求項1~14のいずれか1つに記載の金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属空気電池に関する。本願は、2019年5月21日に、日本に出願された特願2019-095421号に基づく優先権を主張するものであり、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池は、正極、負極、および電解液を備えて、高いエネルギー密度を有することから、実用化に向けた開発および研究が進められている。一般的に、金属空気電池の外包体には、金属製容器や樹脂製容器が使用されている。また、外包体として熱融着性樹脂を含むラミネート包材を用い、各電極および電解液を収容した構成のラミネート型金属空気電池も提案されている。
【0003】
例えば特許文献1に開示される金属空気電池は、負極、セパレータ、正極、および撥水膜が積層されてなる電極とアルカリ電解液とが、ラミネート包材からなる外包体の内部に収容されてなる。電極の各タブリードには、あらかじめテープ状のポリプロピレンが取り付けられて、タブリードとラミネート包材との溶着部の封止性を高めることが意図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-49687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の金属空気電池では、図18に示すように、金属空気電池101のラミネート包材102から外部へ、電極103のタブリード104が延出されている。ラミネート包材102はタブリード104を外部へ延出した状態で封止されており、タブリード104に取り付けられたポリプロピレン105は熱溶着によりラミネート包材102に接着される。
【0006】
しかしながら、ラミネート包材102に収容されているアルカリ電解液によって、タブリード104とポリプロピレン105との接着性が低下するおそれがあり、ラミネート包材102とタブリード104との間からアルカリ電解液が漏出しやすくなるといった問題点があった。
【0007】
本開示は、前記のような従来の問題点にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、電極を収容した外包体から電解液が漏出することのないように構成し、信頼性および安全性に優れた金属空気電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための本開示の金属空気電池は、外包体に収容された負極および正極を有する金属空気電池であって、前記負極および前記正極の少なくとも一方は、前記外包体の内部から外部へ延出するリードを備え、前記リードの外面には封止部材が設けられ、前記外包体は、前記封止部材および前記リードを挟み込んだ状態で溶着された溶着部を有して封止され、前記封止部材は、前記外包体の内部で前記リードを覆う粘着層を含むことを特徴としている。
【0009】
この特定事項により、前記封止部材がリードとの間で良好な接着界面を形成するものとなり、電解液の漏出を防ぐことが可能となる。
【0010】
前記構成の金属空気電池において、前記封止部材は、さらに、前記外包体と溶着された樹脂フィルム層を備えることが好ましい。これにより、前記外包体と前記封止部材との溶着性が高められ、より一層、電解液の漏出を抑制することが可能となる。
【0011】
また、前記構成の金属空気電池において、前記粘着層は前記リードに接着していることが好ましい。これにより、前記粘着層はリードとの間で良好な接着界面を形成し、電解液の漏出を防ぐものとなる。
【0012】
また、前記構成の金属空気電池において、前記樹脂フィルム層は、前記リードに接して備えられ、前記粘着層は、前記樹脂フィルム層と前記リードとの界面を被覆する構成とされてもよい。これにより、前記封止部材における樹脂フィルム層は外包体に良好に溶着し、さらに前記粘着層はそのような樹脂フィルム層とリードとの接着界面を被覆して、電解液の漏出を防ぐものとなる。
【0013】
また、前記構成の金属空気電池において、前記封止部材は、前記溶着部において、前記外包体と前記リードとの間に、前記樹脂フィルム層が前記外包体と対向し、さらに、前記粘着層が前記リードと対向するように積層されてなる構成とされてもよい。これにより、前記封止部材における樹脂フィルム層は前記外包体に良好に溶着し、そのような樹脂フィルム層とリードとの間で粘着層が良好な接着界面を形成して、電解液の漏出を防ぐものとなる。
【0014】
また、前記構成の金属空気電池において、前記外包体は樹脂フィルム材により形成され、前記樹脂フィルム層は前記外包体を構成する樹脂フィルム材と同じ組成の高分子を含む樹脂フィルム材により形成されてなることが好ましい。これにより、封止部材を構成する樹脂フィルム層と外包体との溶着界面を良好に形成して液密に封止することが可能となる。
【0015】
また、前記構成の金属空気電池において、前記封止部材は前記粘着層からなり、前記粘着層は前記外包体と前記リードとの間に設けられてなることが好ましい。これにより、封止部材を構成する粘着層が外包体とリードと間で良好な接着界面を形成するものとなり、電解液の漏出を防ぐことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本開示に係る金属空気電池では、外包体から電解液が漏出することを抑制し得て、電池性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示に係る金属空気電池を模式的に示す斜視図である。
図2】本開示の実施形態1に係る金属空気電池における上方部分を示す正面図である。
図3図2におけるA-A断面図である。
図4図3におけるB-B断面図である。
図5】本開示の実施形態2に係る金属空気電池における上方部分を示す正面図である。
図6図5におけるC-C断面図である。
図7図6におけるD-D断面図である。
図8図6におけるE-E断面図である。
図9図6におけるF-F断面図である。
図10】本開示の実施形態3に係る金属空気電池における上方部分を示す正面図である。
図11図10におけるG-G断面図である。
図12図11におけるH-H断面図である。
図13図11におけるI-I断面図である。
図14】本開示の実施形態4に係る金属空気電池における上方部分を示す正面図である。
図15図14におけるJ-J断面図である。
図16図14におけるK-K断面図である。
図17図14におけるL-L断面図である。
図18】従来の金属空気電池を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態に係る金属空気電池1について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1は、本開示に係る金属空気電池1を模式的に示す斜視図である。金属空気電池1は、シート状の外装ケースである外包体2に、負極3および正極4が収容されて構成されている。
【0020】
負極3および正極4は、外包体2の内部から外部へ延出するリード6を備える。外包体2は、リード6を外包体2の外部へ延出した状態で溶着されて封止されている。
【0021】
外包体2は有底袋状の容器とされ、負極3および正極4を収容するために上部が開放された形状であらかじめ用意されている。この外包体2の内部には、負極3、正極4および電解液が収容され、上部が溶着されて封止されている。
【0022】
外包体2を構成する材料は、電解液に対して耐腐食性を有する樹脂材料であって、かつ、耐熱性および熱融着性を有する材料であることが好ましい。電解液は、イオン導電性を有する液体であり、例えばアルカリ金属水酸化物水溶液(アルカリ電解液)であることが好ましい。
【0023】
例示の形態では、外包体2は、耐アルカリ性に優れた熱可塑性樹脂材により形成されることが好ましく、例えばポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系の樹脂フィルム材(ラミネートフィルム)からなることが好ましい。また、外包体2は、前記樹脂フィルム材からなる単一層により構成された単層構造であるに限られず、複数層が積層された複層構造であってもよい。
【0024】
リード6は、負極3および正極4のそれぞれに備えられている。リード6の形状は、当該技術分野で用いられる形態であれば特に限定されないが、例えば、ワイヤー、メッシュ、箔、板状の形態が用いられる。特に、リード6の周囲からの漏液防止および高出力化のための導体断面積の大面積化の観点から金属箔であることが好ましい。負極3では、リード6として、ニッケル箔、ニッケルメッキ鉄箔、スズメッキニッケル箔、銅箔、真鍮箔等が用いられることが好ましい。また、正極4では、リード6としてニッケル箔が用いられることが好ましい。
【0025】
外包体2の上部は、前記のとおり溶着されて封止されており、溶着部21が形成されている。溶着部21では、リード6が封止部材5を介して外包体2に溶着されている。リード6には、少なくとも一部の領域にあらかじめ封止部材5が備えられ、封止部材5およびリード6を挟み込んだ状態で外包体2が溶着されている。
【0026】
本開示に係る金属空気電池1に備えられる封止部材5の構成には種々の態様が可能であり、以下の各実施形態にて詳細に説明する。
【0027】
(実施形態1)
図2図4は、本開示の実施形態1に係る金属空気電池1を示しており、図2は金属空気電池1における上方の一部分を示す正面図、図3図2におけるA-A断面図、図4図3におけるB-B断面図である。なお、説明の便宜上、図1および図2における図中上方を金属空気電池1における上方と仮定して、以下説明する。
【0028】
図1に示したように、金属空気電池1において、リード6は負極3および正極4のそれぞれに設けられており、各リード6には封止部材5が備えられている。封止部材5は、リード6にあらかじめ外装されている。
【0029】
外包体2は、製造過程において、内部に負極3および正極4が配置され、リード6を外包体2の外部に延出させた状態で熱溶着されている。外包体2の上部は電解液を注入後に封止されている。
【0030】
図2に示すように、リード6は、正極4の上方に延出された金属製帯状体であり、外表面が封止部材5で被覆されている。負極3も同様にリード6を有し、封止部材5が備えられている。封止部材5は、リード6の全体に対して備えられている必要性はなく、図2に示すように、リード6の長さ方向の一部分であって、少なくとも外包体2との溶着部位に対応させて配設されている。
【0031】
例えば、外包体2は上端部を含む上部一定の範囲が封止のために溶着される。溶着は、熱溶着(ヒートシール)や超音波溶着などによって行われ、外包体2の上部に溶着部21を形成する。図2においては、識別のために溶着部21にハッチングを付して示している。リード6において、封止部材5は、溶着部21に重なり合うように配設されている。また、封止部材5は、外包体2の外部では溶着部21よりも上方まで延出して設けられるとともに、外包体2の内部では溶着部21よりも下方にも延長して設けられている。
【0032】
なお、封止部材5は、溶着部21において外包体2とリード6との間に介在されていればよく、図2および図3に示されるように外包体2の上端部から外部に露出して設けられても、また外包体2に被覆されて外包体2の外部に露出しないように設けられていてもよい。
【0033】
封止部材5は粘着層51を有しており、リード6の外表面を被覆するように設けられている。本実施形態では、封止部材5は1層の粘着層51により形成されている。
【0034】
図3に示すように、外包体2の上部は、リード6を挟み込んだ状態で熱溶着により一体に溶着されて封止されることで、溶着部21を構成する。この溶着部21においては、外包体2とリード6とが、封止部材5としての粘着層51を介して接着され、封止されている。
【0035】
また、図4に示すように、粘着層51は、外包体2とリード6との間に設けられて、リード6の外表面に隙間なく密着されている。外包体2とリード6との接着界面は、粘着層51が隙間なく被覆するものとなり、良好に形成される。
【0036】
粘着層51は、リード6に対する接着性を有するとともに、変形性に富むものとされている。すなわち、粘着層51は、リード6との間で、良好な接着界面を形成することが可能な材料により形成されている。
【0037】
かかる粘着層51を構成する材料の一例としては、一般式(I)
【0038】
【化1】
【0039】
[式(I)中、Rは炭素数1~3のアルキル基を示し、nは1以上の整数である。]
で表される化合物を含む材料が挙げられる。
【0040】
前記式(I)中、2つのRは、同じ炭素数のアルキル基であってもよい。
【0041】
また、粘着層51を構成する材料として、一般式(II)
【0042】
【化2】
【0043】
[式(II)中、Rは炭素数1~3のアルキル基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~3のアルキル基を示し、nは1以上の整数である。]
で表される化合物を含む材料が挙げられる。
【0044】
前記式(II)中、2つのRは、同じ炭素数のアルキル基であってもよい。一方のRが水素原子またはハロゲン原子である場合には、他方は炭素数1~3のアルキル基とされる。
【0045】
さらに好ましい粘着層51を構成する材料としては、一般式(III)
【0046】
【化3】
【0047】
[式(III)中、Rは水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~3のアルキル基を示し、nは1以上の整数である。]
で表される化合物を含む材料が挙げられる。
【0048】
このような粘着層51の好ましい例として、-CH-C(CH-(以下、構成単位Uという)と、二重結合を含む高分子化合物を含み、より好ましくは、イソブチレンに対して少量のイソプレンを共重合したブチルゴムを含む材料により形成されることである。この場合、ブチルゴムは、前記式(I)における2つのRがともに炭素数1のアルキル基とされている。
【0049】
ここで、構成単位Uは、ブチルゴムの原料であるイソブチレンに由来し、主鎖にメチル基を複数有することで分子運動性が低下し、高分子鎖間の分子浸透が抑制される。そのため、粘着層51に電解液が浸透しにくいものとすることができ、電解液の漏出の防止に効果を発揮する。
【0050】
さらに、粘着層51の好ましい例として、未加硫ブチルゴムを含む材料により形成されることが望ましい。未加硫のブチルゴムは、加硫により高分子鎖同士が架橋されていないため、優れた可塑性、粘着性を有している。この可塑性により接着対象物との間に隙間のない界面を形成したり、粘着性により接着対象物との間で良好な密着界面を形成したりすることが可能となり、電解液の接着界面への浸透を防ぐことができる。
【0051】
粘着層51における前記式(I)ないし(III)で表される化合物の含有量は、80wt%以上であることが好ましい。これにより、粘着層51は、粘着性および液封止性に優れたものとすることができる。
【0052】
図4に示すように、金属空気電池1は、溶着部21において外包体2と封止部材5とが溶着されて液密に封止されている。また、封止部材5として備えた粘着層51が可塑性を有していることにより、リード6と粘着層51との間には隙間が形成されることなく、良好に接着界面が形成される。さらに、粘着層51は高い粘着性を有していることにより、リード6に対して良好に密着して接着されるものとなり、リード6との間で電解液の流通を防ぐものとなる。
【0053】
これにより、金属空気電池1は、リード6を延出させた溶着部21から電解液が漏出することがなく、外包体2を安定的に封止した構成とすることができ、電池性能を向上させるとともに、安全性および長期信頼性を高めて、高寿命化を図ることが可能となる。
【0054】
(実施形態2)
図5図9は、本開示の実施形態2に係る金属空気電池1を示しており、図5は金属空気電池1における上方の一部分を示す正面図、図6図5におけるC-C断面図、図7図6におけるD-D断面図、図8図6におけるE-E断面図、図9図6におけるF-F断面図である。
【0055】
なお、以下に説明する各実施形態は、基本構成において前記実施形態1と共通し、封止部材5の構成に特徴を有することから、封止部材5の構成について詳細に説明し、その他の構成については前記実施形態1と共通の符号を用いてその説明を省略する。
【0056】
前記実施形態1では、封止部材5は粘着層51により形成された構成を示した。実施形態2では、封止部材5は、粘着層51と樹脂フィルム層52とを備えて構成されている。粘着層51を構成する材料は前記実施形態1に示したとおりである。
【0057】
図5および図6に示すように、封止部材5は、粘着層51に加えて、外包体2との溶着性を有する樹脂フィルム層52とを備えて構成されている。これらのうち、粘着層51はリード6に密着して設けられ、樹脂フィルム層52は粘着層51の外側で外包体2に溶着して設けられている。
【0058】
このような封止部材5において、粘着層51と樹脂フィルム層52とは積層された部分を含んで構成されている。内側の層を構成する樹脂フィルム層52は、リード6において、少なくとも外包体2との溶着部位となる長さ方向の途中部に設けられ、溶着部21に重なり合う範囲を有している。例示の形態では、図5および図6に示すように、樹脂フィルム層52は、外包体2の外部にまで延出して設けられるとともに、外包体2の内部で溶着部21よりも下方にも延長して設けられている。
【0059】
これに対し、粘着層51は、樹脂フィルム層52とリード6との界面を被覆するように設けられている。図5および図6に示すように、粘着層51は、溶着部21よりも下方に設けられて、外包体2の内部で、樹脂フィルム層52とリード6との界面に外装されている。
【0060】
封止部材5として、粘着層51と樹脂フィルム層52とは部分的に積層して設けられるとともに、リード6に対する被覆範囲を上下方向にずらした状態で設けられている。これらのうち、粘着層51は、樹脂フィルム層52とリード6にまたがるように外装されている。粘着層51における上部側は樹脂フィルム層52を被覆し、粘着層51の下部側はリード6を被覆した状態で備えられている。
【0061】
図7に示すように、金属空気電池1において、外包体2が溶着されてなる溶着部21では、外包体2に樹脂フィルム層52が溶着されるとともに、この樹脂フィルム層52がリード6に隙間なく接着されている。また、外包体2の内部では、図8に示すように、溶着部21の下方に樹脂フィルム層52と粘着層51とが積層されてリード6に外装されて接着されている。さらに下方では、図9に示すように、リード6に粘着層51のみが外装されて接着されている。
【0062】
このように封止部材5として備えられた粘着層51は、可塑性を有していることでリード6との間、および樹脂フィルム層52との間に隙間を形成することなく、リード6および樹脂フィルム層52に接着されている。また、粘着層51は高い粘着性を有しているので、リード6、および樹脂フィルム層52に対して良好に密着するものとなる。
【0063】
これにより、粘着層51とリード6との間、および粘着層51と樹脂フィルム層52との間に良好な接着界面が形成されるため、リード6と樹脂フィルム層52との界面に電解液が到達するのを防ぐことができる。また、粘着層51により被覆されたリード6と樹脂フィルム層52との界面は、電解液に触れることがない。相対的に溶着強度の低いリード6と樹脂フィルム層52との界面に、電解液が浸透することがないため、浸透した電解液がリード6と樹脂フィルム層52との溶着界面の剥離を引き起こしながら、溶着部21外部へと漏洩することを防ぐことができる。
【0064】
樹脂フィルム層52は、外包体2を構成する樹脂フィルム材と同じ組成の高分子を含む樹脂フィルム材によって形成されていることが好ましい。かかる樹脂フィルム材としては、一般式(IV)
【0065】
【化4】
【0066】
または、一般式(V)
【0067】
【化5】
【0068】
で表されるポリオレフィン系樹脂を含む材料により形成されていることが好ましい。一般式(IV)で表される高分子化合物を含む樹脂フィルム材としてはポリプロピレンフィルムが挙げられ、一般式(V)で表される高分子化合物を含む樹脂フィルム材としてはポリエチレンフィルムが挙げられる。
【0069】
実施形態1の場合のように、異種素材である粘着層51と外包体2とを直接溶着する場合とは異なり、このような樹脂フィルム材により樹脂フィルム層52が構成されていることによって、溶着時に外包体2と樹脂フィルム層52に含まれる高分子が相溶するため、金属空気電池1は、溶着部21における外包体2と樹脂フィルム層52との高い一体性を保持することができ、電解液の浸透耐性を高めて、電解液を漏出させない構成とすることができる。
【0070】
樹脂フィルム層52は、溶着部21において外包体2に一体に溶着されたものとなり、外包体2とリード6との双方に接着して備えられている。図5に示すように、封止部材5の幅(図中左右方向の幅)は、リード6の幅よりも大きくなるように設けられている。さらに、リード6の幅に対して、樹脂フィルム層52の幅の方が大きく、粘着層51の幅は樹脂フィルム層52の幅と同等または樹脂フィルム層52の幅より大きく設けられている。
【0071】
このように封止部材5の大きさが設けられていることによって、リード6の外表面(正面、背面および両側面)を樹脂フィルム層52で隙間なく被覆することができる。さらに、その樹脂フィルム層52の外表面を粘着層51で被覆して、樹脂フィルム層52とリード6との界面を露出させないようにすることができる。
【0072】
これにより、金属空気電池1は、リード6を延出させた溶着部21から電解液が漏出することが抑制されて、外包体2を安定的に封止した構成とすることができ、電池性能を向上させるとともに、長期信頼性を高めて、高寿命化を図ることが可能となる。
【0073】
(実施形態3)
図10図13は、本開示の実施形態3に係る金属空気電池1を示しており、図10は金属空気電池1における上方の一部分を示す正面図、図11図10におけるG-G断面図、図12図11におけるH-H断面図、図13図11におけるI-I断面図である。
【0074】
実施形態3に係る金属空気電池1は、封止部材5として、互いに積層された粘着層51と樹脂フィルム層52とを備えている。図11に示すように、封止部材5は、溶着部21において、リード6と外包体2との間に、粘着層51がリード6と対向し、樹脂フィルム層52が外包体2と対向するように順に積層されてなる。
【0075】
図12に示すように、粘着層51はリード6に接着して備えられ、粘着層51に外装された樹脂フィルム層52は外包体2に溶着されている。また、封止部材5は、図13に示す外包体2の内部におけるI-I断面図においても、図12と同様に、樹脂フィルム層52と粘着層51とを積層して備えている。
【0076】
これにより、溶着部21における外包体2と樹脂フィルム層52との高い一体性を保持することができ、電解液の浸透耐性を高めて、電解液を漏出させない構成とすることができる。さらに、リード6との接着性に優れ、かつ樹脂フィルム層52との接着性に優れる粘着層51が、リード6と樹脂フィルム層52との間に設けられて、リード6に沿って電解液が漏出するのを防ぐものとなる。さらに、リード6と粘着層51との界面、および樹脂フィルム層52と粘着層51との界面が隙間なく密に被覆された状態となり、電解液の浸透の余地を有しない構成とすることができる。
【0077】
本実施形態に係る金属空気電池1にあっても、図10および図12に示すように、封止部材5の幅(図中左右方向の幅)は、リード6の幅よりも大きくなるように設けられている。加えて、リード6の幅に対して、粘着層51の幅の方が大きく設けられることで、リード6の外表面(正面、背面および両側面)を粘着層51で隙間なく被覆した構成とされている。また、樹脂フィルム層52の幅は、粘着層51の幅と同等または粘着層51の幅よりも大きく設けられている。
【0078】
このように封止部材5の大きさが設けられていることによって、外包体2を熱溶着により封止して溶着部21を形成する際に、リード6の外表面(正面、背面および両側面)と外包体2との一体性を高めて隙間なく封止することができる。さらに、その樹脂フィルム層52の内側でリード6を粘着層51で被覆して、リード6を露出させないようにすることができる。
【0079】
金属空気電池1は、リード6を延出させた溶着部21から電解液が漏出することが抑制されて、外包体2を安定的に封止した構成とすることができ、電池性能を向上させるとともに、長期信頼性を高めて、高寿命化を図ることが可能となる。
【0080】
さらに、樹脂フィルム層52と粘着層51とが積層された封止部材5を利用する場合、粘着層51の片面が樹脂フィルム層52により保護されるため、封止部材5を取り扱う際に、不用意に貼りついたりすることを防ぐことができるため、電池組立における生産性が向上する。
【0081】
(実施形態4)
図14は、本開示の実施形態4に係る金属空気電池10の上方の一部を示す正面図である。図15は、図14におけるJ-J断面図、図16は、図14におけるK-K断面図、図17は、図14におけるL-L断面図である。
【0082】
なお、以下に説明する各実施形態は、基本構成において前記実施形態2と共通し、負極3および正極4a、4bの構成に特徴を有することから、負極3および正極4a、4bの構成について詳細に説明し、その他の構成については前記実施形態1および前記実施形態2と共通の符号を用いてその説明を省略する。
【0083】
本開示の実施形態4に係る金属空気電池10は、図14に示すように、外包体2から3つのリード6a、6b、6cが延伸している。外包体2の上方の溶着部21では、外包体2とリード6a、6b、6cとのそれぞれの間に、封止部材5a、5b、5cが介在されて、液密に封止されている。
【0084】
かかる金属空気電池10として、外包体2内の電解液8中に負極3、正極4aおよび正極4bが浸漬された状態で配置されている。
【0085】
負極3は、リード6aを有する集電極9と、集電極と電気的に接続される負極活物質を含む負極活物質層11とを有する。
【0086】
正極4aは、負極3と対向して配置される電極である。正極4aは、例えば、リード6bと、酸素還元能を有する酸素還元触媒を含む空気極である。
【0087】
正極4bは、正極4aと反対側で負極3と対向して配置される電極である。実施形態4に係る金属空気電池が一次電池の場合、正極4bは、例えば、リード6cと、酸素還元能を有する酸素還元触媒を含む空気極である。また、実施形態4に係る金属空気電池が二次電池の場合、正極4bは、例えば、リード6cと、酸素発生能を有する酸素発生触媒を含む電極である。
【0088】
負極3と正極4aの間、および負極3と正極4bの間には、電解液8を含むセパレータが介在している。セパレータ12は、図14図17に示すように、例えば、負極3の金属活物質層11を収容する袋形状とされている。リード6aは、袋状のセパレータ12から外部に延伸されている。
【0089】
各リード6a、6b、6cは封止部材5a、5b、5cを備えて、外包体2の外部に延出されている。外包体2の内部に位置するリード6a、6b、6cは、その全体が封止部材5で被覆されて、露出する部分を有しない。封止部材5a、5b、5cは、前記実施形態1~3のいずれの構成と同様のものであってもよい。
【0090】
これにより、金属空気電池10は、外包体2の溶着部21では、外包体2とリード6a、6b、6cとの間に、それぞれ封止部材5a、5b、5cが介在されて液密に封止されている。外包体2の内部では、リード6a、6b、6cに、それぞれ封止部材5a、5b、5cが外装されて、リード6a、6b、6cと封止部材5a、5b、5cとの界面は電解液8に接触することがないように構成されている。
【0091】
したがって、金属空気電池10は、リード6a、6b、6cを延出させた溶着部21から電解液が漏出することがなく、外包体2を安定的に封止した構成とすることができる。また、リード6a、6b、6cと電解液8との接触が封止部材5a、5b、5cによって防止されていることから、充電反応に際してリード6a、6b、6cに金属析出物が生成されるのを抑制し、電極間の短絡を防ぐことができる。
【0092】
(他の実施形態)
本開示に係る金属空気電池1は、前記の実施形態以外にも他の様々な形で実施することができる。例えば、金属空気電池1における封止部材5の構成は前記実施形態に限定されるものではなく、三層であっても、三層以上の複層構造であってもよい。また、かかる構成を備える金属空気電池1は、例えば、亜鉛空気電池、リチウム空気電池、ナトリウム空気電池、カルシウム空気電池、マグネシウム空気電池、アルミニウム空気電池、鉄空気電池などに好適とされ、一次電池および二次電池のいずれにも適用可能であり、特に、浸透性の高いアルカリ電解液を使用する亜鉛空気電池に適用する場合に効果的である。
【0093】
(実施例1)
前記実施形態2に係る金属空気電池1の実施例として、外包体2には厚さ150μmのポリエチレン層と、厚さ15μmのナイロン層との2層積層構造を有する樹脂フィルム材を用いて形成した。
【0094】
リード6には、厚さ100μmであり、幅10mmのニッケル箔を用い、その長さ方向の一部の領域を封止部材5の樹脂フィルム層52としてのポリエチレン層を接着した。このポリエチレン層は、厚さ100μmで、14mm×10mmの大きさを有し、熱溶着によりニッケル箔の表裏両面に接着した。
【0095】
さらに、封止部材5の粘着層51として、ニッケル箔とポリエチレン層とにまたがるようにブチルテープを貼り付けた。このブチルテープには、厚さ1.3mmの日東電工製防水・気密テープNo.6951を、20mm×5mmの大きさで用いた。
【0096】
そして、外包体2には、ナイロン層が外方となるように用いて、インパルスシーラーで外包体2のポリエチレン層と樹脂フィルム層52とを熱溶着し、溶着部21を形成した。これにより、リード6のニッケル箔を被覆したポリエチレン層と、外包体2のポリエチレン層とが溶着され、液密な接着界面を有する金属空気電池1が得られた。
【0097】
(実施例2)
前記実施形態3に係る金属空気電池1の実施例として、外包体2には厚さ150μmのポリエチレン層と、厚さ15μmのナイロン層との2層積層構造を有する樹脂フィルム材を用いて形成した。
【0098】
リード6には、厚さ100μmであり、幅10mmのニッケル箔を用い、その長さ方向の一部の領域にブチルテープを貼り付け、封止部材5の粘着層51および樹脂フィルム層52を形成した。このブチルテープには厚さ400μmの日東電工製No.55(ポリエチレン層と粘着層の積層品)を、14mm×10mmの大きさで用いた。ニッケル箔には、ブチルテープのポリエチレン層を外側に向けるとともに粘着層を接着させて貼り付けた。
【0099】
そして、外包体2には、ナイロン層が外方となるように用いて、インパルスシーラーで外包体2のポリエチレン層と、ブチルテープのポリエチレン層とを熱溶着し、溶着部21を形成した。これにより、リード6のニッケル箔を被覆したブチルテープのポリエチレン層と、外包体2のポリエチレン層とが溶着され、液密な接着界面を有する金属空気電池1が得られた。
【0100】
なお、正極4のリード6としてニッケル箔を用いるのに対し、負極3のリード6として厚さ100μmであり、幅10mmの銅箔を用いることが好ましい。
【0101】
以上、本開示に係る金属空気電池1、10によれば、外包体2から電解液が漏出することを効果的に抑制し得るので、電池性能を向上させることが可能となり、信頼性および安全性に優れたものとすることができる。
【0102】
なお、本開示は前記各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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