(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】PLAベースの物品の熱成形
(51)【国際特許分類】
B29C 51/42 20060101AFI20230118BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20230118BHJP
B29C 51/08 20060101ALI20230118BHJP
【FI】
B29C51/42
C08L67/04
B29C51/08
(21)【出願番号】P 2021539107
(86)(22)【出願日】2020-01-08
(86)【国際出願番号】 EP2020050324
(87)【国際公開番号】W WO2020144235
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-09-02
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】ドールンハイム,マールテン
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-051646(JP,A)
【文献】特開2004-269588(JP,A)
【文献】特開2010-280910(JP,A)
【文献】特開2011-046005(JP,A)
【文献】特開2001-162676(JP,A)
【文献】特開2006-212897(JP,A)
【文献】特開2006-299270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00 - 51/46
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形物を製造する方法であって、
示差走査熱量測定(DSC)によって決定される0.70超の、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔH
cc/ΔH
m)を有する結晶化可能なポリ乳酸(PLA)ベースの樹脂のシートを加熱して、DSCによって決定される0.5超の、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比を有する加熱されたシートを用意すること
、
前記DSCは、RCS(90)冷却装置を備えたT.A.Instruments Q2000 DSC装置を用い、PLAベース樹脂のサンプルを10℃/分の加熱速度で25℃から260℃に加熱する工程を含み、
ここで、該加熱は、該シートが、1秒間当たり5℃~25℃の加熱速度で、80℃以下の表面温度から90℃以上~150℃以下の表面温度に加熱される加熱工程を含み、そして、加熱直後に、
該加熱されたシートを形成して、型によって成形物を製造すること、ここで、該型は、70℃以上~120℃以下の温度を有する、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記結晶化可能なPLAベースの樹脂は、
ポリL-乳酸(PLLA)ポリマーにおけるラクトイル単位の全重量に対するL-ラクトイル単位の重量に基づいて、少なくとも95%
の光学純度を有するPLLAポリマーの50~100重量%、又は
ポリD-乳酸(PDLA)ポリマーにおけるラクトイル単位の全重量に対するD-ラクトイル単位の重量に基づいて、少なくとも95%
の光学純度を有するPDLAポリマーの50~100重量%
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記結晶化可能なPLAベースの樹脂の前記シートの加熱は、上記の加熱工程の前に余熱工程を含み、該余熱工程において、該シートは、30℃以上~80℃以下の温度に維持される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記加熱工程において、前記シートは、100℃以上~145℃以
下の表面温度に加熱される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記加熱工程において、前記シートは、100℃以上~135℃以下の表面温度に加熱される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記加熱工程において、前記加熱速度が、6~25℃/
秒である、請求項1
又は2記載の方法。
【請求項7】
前記加熱工程において、前記加熱速度が、8~20℃/秒である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記加熱されたシートが、DSCによって決定される0.6超
の全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔH
cc/ΔH
m)を有
し、
前記DSCは、RCS(90)冷却装置を備えたT.A.Instruments Q2000 DSC装置を用い、PLAベース樹脂のサンプルを10℃/分の加熱速度で25℃から260℃に加熱する工程を含む、請求項1
又は2記載の方法。
【請求項9】
前記加熱されたシートが、DSCによって決定される25J/グラム未
満の融解エンタルピー(ΔH
m,0)を有
し、
前記DSCは、RCS(90)冷却装置を備えたT.A.Instruments Q2000 DSC装置を用い、PLAベース樹脂のサンプルを10℃/分の加熱速度で25℃から260℃に加熱する工程を含む、
請求項1
又は2記載の方法。
【請求項10】
前記結晶化可能なPLAベースの樹脂が核形成パッケージを含み、ここで、
該結晶化可能なPLAベースの樹脂がPLLAポリマーを含む場合、該核形成パッケージが核形成剤としてPDLAを含み;又は
該結晶化可能なPLAベースの樹脂がPDLAポリマーを含む場合、該核形成パッケージが核形成剤としてPLLAを含
む、
請求項1
又は2記載の方法。
【請求項11】
前記核形成パッケージが、該結晶化可能なPLAベースの樹脂中に存在するPLAの量に基づい
て0.1~30重量%の量で、核形成剤として鉱
物を含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記PLAベースの樹脂が、充填剤及び/又は耐衝撃性改良剤を含む、請求項1
又は2記載の方法。
【請求項13】
前記型が、
85℃超~120℃以
下の温度を有する、請求項1
又は2記載の方法。
【請求項14】
前記成形物が、DSCによって決定される0.5未満
の全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔH
cc/ΔH
m)を有し、且つDSCによって決定される15J/グラム
超の融解エンタルピー(ΔH
m,0)を有
し、
前記DSCはいずれも、RCS(90)冷却装置を備えたT.A.Instruments Q2000 DSC装置を用い、PLAベース樹脂のサンプルを10℃/分の加熱速度で25℃から260℃に加熱する工程を含む、請求項1
又は2記載の方法。
【請求項15】
前記成形物が耐熱性であり、且つ60~100℃の温度の水に5分間浸漬された場合に、2%未満の収縮を示す、請求項1
又は2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形によってポリ乳酸(PLA:polylactic acid)成形物を製造する方法に、及びそのような熱成形されたPLA物品に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオベースのポリマーは、石油由来の材料の代替物として興味深い。バイオベースのポリマーは、多くの魅力的な寿命選択肢、例えばリサイクル可能性及び分解性を包含する寿命選択肢、を提供することができ、且つ再生可能な資源から得られることができる。ポリラクチド、すなわちPLA、としてまた知られているポリ乳酸は、産業堆肥化条件下で分解されることができるポリマーとして、特に注目を集めている。更に、ポリ乳酸を製造する為の原材料(例えば、乳酸又はラクチド)は、農産業に由来する糖の発酵から得られることができる。
【0003】
ポリ乳酸は、魅力的な特性、例えば高い剛性、を有し、且つそれは、例えば繊維、フィルム及び射出成型生成物に溶融加工されることができるという事実を有している。しかしながら、一般的に使用されるポリ乳酸物品は一般的に、耐熱性が低く且つ靱性が低いという欠点があり、それは、多目的ポリマーとしてのその実用的な用途を低減する。
【0004】
増加された耐熱性及び強度を示すPLA物品について継続的に探索されている。
【0005】
PLA物品の調製について、幾つかの方法が文献に記載されている。
【0006】
例えば、米国特許出願公開第2008/0258357号明細書は、半結晶性ポリ乳酸を製造する方法を記載し、ここで、PLA樹脂の非晶質シートは、それらが半結晶性になるまで該シートを加熱し、そして次に、相対的に低温の型において該シートを形成することによって熱成形される。該半結晶性の熱成形物は、改善された耐熱性を有することが記載されている。しかしながら、該シートの結晶化度は、熱成形物が該型の形状細部を適切に保持する為には高過ぎる。
【0007】
米国特許第8,110,138号明細書は、ポリ(ヒドロキシアルカン酸)(PHA:poly(hydroxyalkanoic acid))、例えばポリ乳酸(PLA)、を押し出して、部分的に結晶化されたフィルム又はシートである第1の物品を製造すること;該第1の物品を、約90℃以上の温度を有する加熱された型内で熱成形して、第2の物品を製造すること;そして、該第2の物品を、約40秒間未満、該加熱された型内で保持することによって該第2の物品を熱処理して、熱成形物を製造することであって、該PHA組成物は、PHA及び該組成物の重量に基づいて0~約4%の核形成物質(nucleator)を含む又はそれから本質的になる、上記製造することを含む方法を開示する。しかしながら、この方法は、異なる温度での幾つかの成型工程を必要とし、それは、複数の型への投資を伴い、それは該方法のコストを劇的に増大する。更に、該得られた熱成形物は、良好な特性を有しうるが、それらは、最も厳しい用途の為には(例えば、それらの耐熱性に関して)まだ不十分である。
【0008】
米国特許出願公開第2009/311511号明細書は、乳酸ポリマー組成物、該組成物を含む成型物、及び該成型物を製造する方法に関する。より特には、該文書は、透明度を維持しながら結晶化を加速することによって耐熱性を付与されることができる乳酸ポリマー組成物、該組成物を含む成型物及びシート、該シートの二次形成によって得られた熱成形物、並びに該熱成形物を製造する方法に関する。
【0009】
完全を期す為に、米国特許第9,045,635号明細書が、ポリ乳酸ステレオコンプレックス、その製造の方法、及びポリ乳酸樹脂の為の核形成剤に関することに留意されたい。より具体的には、該開示は、良好な耐熱性及び高レベルの機械特性且つ化学的抵抗性を有するポリ乳酸ステレオコンプレックス、その効率的な製造の方法、そのようなポリ乳酸ステレオコンプレックスを含む核形成剤、並びにそのような核形成剤を使用してポリ乳酸樹脂組成物を製造する方法に関する。しかしながら、この文書は、成形された熱成形物を製造する方法に関するものでない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
改善された外観、例えば良好な細部保持、耐熱性及び強度を包含する改善された外観、を有するPLA物品を結果として生じる改善された方法、特に、ポリスチレンの為のように十分に確立された方法と比較して装置への投資が最小限に抑えられた、産業標準によって許容されるスピードで実行されることができる単純化された方法についての必要性がある。
【0011】
本発明の目的は、そのような方法及びそのようなPLA物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、示された先の問題が生じない、そのようなPLA物品を製造する為の改善された方法を今見出した。特に、本発明者等は、成形物を製造する為の改善された方法であって、
示差走査熱量測定(DSC:differential scanning calorimetry)によって決定される0.70超の、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比を有する結晶化可能なポリ乳酸(PLA:polylactic acid)ベースの樹脂のシートを加熱して、DSCによって決定される0.5超の、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)を有する加熱されたシートを用意すること、ここで、該該加熱は、該シートが、1秒間当たり5℃~25℃の加熱速度で、80℃以下の表面温度から90℃以上~150℃以下の表面温度に加熱される加熱工程を含み、そして、加熱直後に、
該加熱されたシートを形成して、型によって成形物を製造すること、ここで、該型は、70℃以上~120℃以下の温度を有する、
を含む上記方法を今見出した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1Aは、様々な型温度(30℃、75℃、85℃又は95℃)及び様々な加熱シート温度(100℃)で得られたサンプル5-F~サンプル5-Kについての収縮の結果を示す。
【
図1B】
図1Bは、様々な型温度(30℃、75℃、85℃又は95℃)及び様々な加熱シート温度(130℃)で得られたサンプル5-F~サンプル5-Kについての収縮の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
結晶化可能なPLA樹脂のシートを、高温(例えば、90~150℃、特に100~145℃、より特には110~140℃、より特には110~135℃、最も特には115~135℃)に、高スピード(例えば、5~25℃/秒、特に6~25℃/秒、より特には7~20℃/秒、更により特には8~15℃/秒、の加熱速度)で加熱することによって、熱成形前に低い結晶化度を有する加熱されたシート(全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比が、DSCによって決定される0.5超、特に0.6超、より特には0.7超、更により特には0.75超、である)が得られることが今見出された。
【0015】
そのような加熱されたシートを得ることによって、PLAの結晶化のほとんどは、加熱直後に行われた形成工程中に、該型内で生じ、ここで、該型は、70~120℃、特に75℃超~120℃以下、より特には80℃超~115℃以下、更により特には85℃超~110℃以下、の温度である。このことは、良好な加工性能、並びに優れた形態細部と耐熱性とを有する成形生成物を結果として生じる。
【0016】
結晶化可能なポリ乳酸(PLA)ベースの樹脂という語は、本明細書で使用される場合、より結晶性が高い状態に形成されることができ、例えば前述の方法に従って加工される場合において、DSCによって決定される例えば15J/g超、特に25J/グラム超、より特には30J/グラム超、更により特には35J/グラム超、の融解エンタルピー(ΔHm,0)によって定義される結晶量を有する成形物を結果として生じる、(PLA)ベースの樹脂を意味する。
【0017】
一般的に、本明細書に記載されている結晶化可能なPLAベースの樹脂のシートは、DSCによって決定される0.70超の、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)を有しうる。特に、本明細書に記載されている方法の為に好適な結晶化可能なPLAベースの樹脂のシートは、DSCによって決定される0.75超の、特に0.80超の、又は更により特には0.85超の、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比を有しうる。
【0018】
このことは、該シートが、幾らかの結晶化度を有しうるが、実質的には非晶質(amorphous)であることを意味する。本明細書に記載されている方法は、該PLAの結晶化のほとんどが、良好な特性を有するPLA物品を熱成形する為に最適であることが見出されている方法の間のある時点で生じることを確実にする。
【0019】
本明細書に記載されている結晶化可能なPLAベースの樹脂の典型的な融解エンタルピー(ΔHm,0)は、DSCによって決定される12J/g未満、特に9J/グラム未満、より特には7J/グラム未満、更により特には5J/グラム未満、でありうる。
【0020】
本明細書に記載されている加熱は、熱成形前の加熱において、結晶化が実質的に生じないことを確実にする。従って、該加熱されたシートは、DSCによって決定される0.5超の、特に0.6超の、より特には0.7超の、又は更により特には0.75超の、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)を有しうる。
【0021】
本明細書に記載されている加熱されたシートの典型的な融解エンタルピー(ΔHm,0)は、DSCによって決定される25J/グラム未満、特に20J/グラム未満、より特には15J/グラム未満、更により特には10J/グラム未満、又は更により特には8J/グラム未満、でありうる。
【0022】
形成中、該PLA樹脂の結晶化の大部分は、型(mold)内で生じる。従って、該成形物の結晶化度は、該加熱されたシートの結晶化度よりも高い。一般的に、該成形物は、DSCによって決定される0.5未満の、特に0.4未満の、より特には0.2未満の、更により特には0.1未満の、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)を有しうる。
【0023】
本明細書に記載されている成形物の典型的な融解エンタルピー(ΔHm,0)は、DSCによって決定される15J/グラム超、特に25J/グラム超、より特には30J/グラム超、更により特には35J/グラム超、でありうる。
【0024】
如何なる理論によっても拘束されるものではないが、該成形物の結晶化度は、該成形物の良好な特性に寄与すると考えられる。特に、該成形物は、容易に熱成形され、良好な耐熱性を有し、及び、型から離型すると、それは、例えば該型を介して該成形物に移された、設計された物品仕様を維持する。
【0025】
加熱を受ける前及び受けた後のシート並びに形成後の成形物における、該PLAベースの樹脂の融解エンタルピー(ΔHm,0)及び、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)は、当技術分野において知られている方法によって測定されることができる。特に、それらは、下記の通り、示差走査熱量測定(DSC)によって測定されうる。
【0026】
認定されたインジウムで較正されたDSC装置(例えば、RCS(90)冷却装置を備えたT.A.Instruments Q2000 DSC装置)が50ml/分の窒素流で動作し、使用されうる。PLAベースのシートのサンプル(加熱前又は加熱後のPLAベースのシートから採取される)又は既知の重量の成形物のサンプルが、密閉パンに入れられる(例えば、5.00±2.00mgのサンプルが、T.A.Instruments製のTzeroパンに秤量して入られ、T.A.Instruments製のTzero Hermetic蓋で密閉される)。該密閉パンは、空の参照パンと一緒に該DSC装置のオーブンに入れられる。サンプルを有する該パンは、25℃で2分間平衡化され、引き続き、10℃/分の加熱速度で260℃に加熱する工程を受ける。冷結晶化ピーク及び融解ピークは、例えばTA Universal分析ソフトウェアを使用して積分されて、サンプルの全融解エンタルピー(ΔHm)及び冷結晶化エンタルピー(ΔHcc)を提供する。該全融解エンタルピー(ΔHm)は、元のサンプル中に存在する結晶の融解エンタルピーと、DSC測定中に生じる該サンプルの更なる結晶化から生じる融解エンタルピーとを反映する。
【0027】
全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比は、下記の通りに計算される。
【0028】
【数1】
ΔH
cc:結晶化エンタルピー
ΔH
m:融解エンタルピー
【0029】
比1は、完全に非晶質のポリマーに相当し、比0は、可能な限り最大の結晶化されたポリマーに相当する。
【0030】
サンプル中の融解エンタルピー(ΔHm,0)は、下記の通りに定義される。
ΔHm,0=ΔHm-ΔHcc
【0031】
融解エンタルピーΔHm,0は、元のサンプル中に存在する結晶の融解エンタルピーを反映する。
【0032】
米国特許出願公開第2009/311511号明細書においては、結晶化度パーセンテージ(%)が、下記の式:結晶化度%=(ΔHm-ΔHcc)/93*100に従って決定されることに留意されたい。この式から、物質が正の結晶化度%を有する為には、融解エンタルピー(ΔHm)が冷結晶化エンタルピー(ΔHcc)よりも高くなければならないことは明らかである。該式が、結晶化度%について負の値を与える場合、該物質は完全に非晶質である。結晶化度%についての負の値は理論的には不可能であるが、該値が、該測定系又はデータ処理における変動に起因する場合に報告されうる。
【0033】
本明細書に記載されている方法の為に好適な結晶化可能なPLAベースの樹脂は、
ポリL-乳酸(PLLA:poly L-lactic acid)ポリマーにおけるラクトイル単位の全重量に対するL-ラクトイル単位の重量に基づいて、少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%、の光学純度を有するPLLAポリマーの50~100重量%、又は
ポリD-乳酸(PDLA)ポリマーにおけるラクトイル単位の全重量に対するD-ラクトイル単位の重量に基づいて、少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%、の光学純度を有するPDLAポリマーの50~100重量%
を含みうる。
【0034】
L-ラクトイル単位及びD-ラクトイル単位は、それぞれL-乳酸モノマー単位及びD-乳酸モノマー単位と云われうる。
【0035】
該PLLAポリマーは好ましくは、少なくとも100,000、より好ましくは少なくとも125,000g/mol~最大200,000g/mol、の絶対的重量平均分子量(Mw)を有しうる。該PDLAポリマーは好ましくは、少なくとも75,000、より好ましくは少なくとも100,000、最も好ましくは少なくとも125,000g/mol、の絶対的重量平均分子量(Mw)を有し得、好ましくは最大200,000g/mol、である。PLLA又はPDLA樹脂のいずれかがより低い絶対的重量平均分子量の値で適用される場合、該成形PLA物品の機械特性、例えば破断点伸び及び耐衝撃性、は、ある特定の適用については不十分になりうる。対照的に、上記で特定された上限を超えることによって、例えばシート押出し及び熱成形中の該PLA樹脂の加工性は損なわれうる。より特には、シート押出しの間及び最終的な熱成形方法において、高い圧力及びトルクレベルが見られることができ、結晶化が遅くなり、より長いサイクル時間をもたらし得、それは或る適用においては望ましくないでことでありうる。
【0036】
絶対的重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)等の当技術分野において知られている方法によって決定されうる。特に、GPCは好ましくは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを使用して行われ、分子量の絶対値を決定する為の光散乱検出器を備えうる。より特には、Viscotek GPC Mx VE2001系が、ヘキサフルオロイソプロパノール(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール又はHFiPとしてまた知られている)と共に、溶媒としての、0.02MのCF3COOKを流速0.7mL/分で用いて使用されうる。直列に接続されたPolymer Standard Service(PSS)(M、300×8.00mm、7μm)から供給された2つのPFG分析カラムが、サイズ排除カラムとして使用されうる。
【0037】
本明細書に記載されているPLA樹脂において使用されるPLLAポリマー及びPDLAポリマーは、商業的に入手可能でありうる。商業的に入手可能なPLLAポリマー及びPDLAポリマーの例は、例えば、Luminy(商標)PLLA L175、Luminy(商標)PLLA L130、Luminy(商標)PDLA D070、Luminy(商標)PDLA D120(全て、Total Corbion PLA BV、オランダ、から商業的に入手可能)を包含する。
【0038】
代替的には、PLLAポリマー及びPDLAポリマーは、当技術分野において知られている方法によって乳酸又はラクチドモノマー(例えば、L-ラクチドモノマー及びD-ラクチドモノマー、それらはそれぞれL-及びD-乳酸の環式二量体である)から得られうる。ラクチドモノマーの重合は、開環重合機序、例えば溶融重合における開環重合機序、を介して行われる。ラクチドの開環重合を実施するのに好適な触媒は、当技術分野において知られている。本明細書に記載されている方法において使用されうる商業的に入手可能なラクチドモノマーは、L-ラクチドであるPURALACT(商標)L及びD-ラクチドであるPURALACT(商標)D(共にTotal Corbion PLA BV、オランダ、から入手可能)を包含する。
【0039】
本明細書に記載されているPLAベースの樹脂はまた、核形成パッケージを含みうる。該結晶化可能なPLAベースの樹脂がPLLAポリマーを含む場合、該核形成パッケージは好ましくは、核形成剤としてPDLAを含みうる。該結晶化可能なPLAベースの樹脂がPDLAポリマーを含む場合、該核形成パッケージは好ましくは、核形成剤としてPLLAを含みうる。核形成剤としての該PLLA又はPDLAは好ましくは、該結晶化可能なPLAベースの樹脂(PLLA及びPDLAの両方を含む)中に存在するPLAの全量に基づいて0.1~10重量%の量で存在しうる。
【0040】
該核形成パッケージは、追加的に又は代替的に、無機核形成剤、例えば鉱物、を含みうる。そのような鉱物は、タルク及び/又はカオリンから選択されうる。該無機核形成剤は好ましくは、該結晶化可能なPLAベースの樹脂(PLLA及びPDLAの両方を含む)中に存在するPLAポリマーの量に基づいて0.1~30重量%の量で存在しうる。
【0041】
本明細書に記載されているPLAベースの樹脂は、他の添加剤を更に含み得、それらは該核形成パッケージの一部であり得、又は独立して該PLAベースの樹脂に添加され得、例えば、充填剤、耐衝撃性改良剤(例えば、脂肪族ポリエステル及び/又はコア-シェルゴム)、潤滑剤、強化剤、UV安定剤、熱安定剤、難燃剤、抗酸化剤及び着色剤から選択される。特定の実施態様において、該PLAベースの樹脂は、充填剤及び/又は耐衝撃性改良剤を含みうる。
【0042】
特に好適なPLA樹脂は、国際公開第2013/131649号パンフレットに記載されている組成物でありうる。
【0043】
本明細書に記載されている結晶化可能なPLAベースの樹脂のシートは、当技術分野において知られている方法によって得られ得、但し、該処理条件は、該PLAベースの樹脂が、該シートにおいて結晶化可能なままであるような条件である(すなわち、該PLA樹脂は、該シートの形成中に完全には結晶化されていない)。例えば、PLLAポリマー又はPDLAポリマー、及び任意の添加剤、例えば核形成パッケージ又は前述の他の添加剤は、溶融配合され、シート押出し方法によってシートに形成されうる。特に、押出し温度は、PLLAポリマー及びPDLAポリマーを確実に溶融し、240℃を有意に超える温度で熱分解することができるPLAの分解を防止する為に、170℃以上~220℃以下でありうる。特に、該押出し温度は、180~210℃でありうる。該押出しシートは、温度が50℃未満、特に20~40℃、に設定されているチルロール(chill roll)上でクエンチされうる。得られたPLAベースの樹脂の結晶化可能なシートは、一般的に、上記されている通り0.70超の、特に0.75超の、より特には0.80超の、又は更により特には0.85超の、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)を有しうる。更に、本明細書に記載されている結晶化可能なPLAベースの樹脂のシートの典型的な融解エンタルピー(ΔHm,0)は、上記されている通りDSCによって決定される12J/グラム未満、特に9J/グラム未満、より特には7J/グラム未満、更により特には5J/グラム未満、でありうる。
【0044】
特定の例において、結晶化可能なPLAベースの樹脂のシートは好適には、国際公開第2013/131649号パンフレットに記載される方法によって得られうる。例えば、該PLAベースの樹脂成分(例えば、PLLAポリマー、核形成パッケージ及び追加の任意の最適な添加剤)は、溶融材料が固化するシートに成形される前に、乾燥条件下で混合され、溶融されうる。より特には、該PLAベースの樹脂成分は、押出機内で混合され得、ここで、該PLAベースの樹脂は、結晶化可能なPLAベースの樹脂のシートを提供する為にフラットダイ(flat dye)を通じて押し出されうる。
【0045】
そのような押出し方法によって得られた結晶化可能なPLAベースの樹脂のシートは、押出しシート(extruded sheet)と云われうる。
【0046】
本明細書に記載されている方法の為に好適な結晶化可能なPLAベースの樹脂のシートは、最終的な成形物によって必要とされる任意の厚さでありうる。一例として、出発シートは、100~1500μm、特に200~800μm、の厚さを有しうる。
【0047】
本明細書に記載されている方法は、結晶化可能なPLAベースの樹脂のシートを加熱することを含む。加熱は、加熱工程を含み、ここで、該シートは、80℃以下の表面温度から、90℃以上~150℃以下の表面温度に加熱される。加熱は好ましくは、100~145℃、より好ましくは110~140℃、より好ましくは110~135℃、最も好ましくは115~135℃、の表面温度まで行われうる。より低い表面温度では、最終生成物は、その生成物細部(product detail)を喪失し得、又はある用途の為の必要とされる耐熱性を提供し得ず、一方、より高い表面温度では、該シートは、過度のたるみを生じる恐れがある。
【0048】
上記表面温度への加熱は、迅速に達成されることが重要である。従って、該加熱工程は、5~25℃/秒、特に6~25℃/秒、より特には7~20℃/秒、の加熱速度で、更により特には8~15℃/秒、の加熱速度で、行われる。より高い加熱速度は、高温のシート(hot sheet)表面温度をもたらし得、一方、該シートのコアは、形成されるにはまだ冷た過ぎ、そのことは、パーツ細部(part detail)にとって有害となり得、又は更には形成方法の間に該シート中に孔の形成を結果として生じうる。より低い加熱速度は、形成方法にとって、及び必要なパーツ細部の達成にとって有害となり得、又は更には形成方法の間に該シート中に孔の形成を結果として生じる程度まで、該形成工程の前に該加熱されたシートにおけるPLAの結晶化を有害にもたらしうる。
【0049】
例えば、形成の為に型に入れられる直前の該加熱工程の最後における該シートの表面温度は、当技術分野において入手可能な方法、例えば高温計(pyrometer)のような非接触式赤外線機器を使用すること、接触式温度計を使用すること、によって、又はサーモストリップ(thermo-strip)を使用することによって測定されうる。接触式温度計の使用が好まれうる。
【0050】
非晶質の結晶化可能なPLA樹脂のシートを加熱することは、上記の加熱工程の前に予熱工程を含み得、ここで、該シートは、30℃以上~80℃以下の温度に維持される。
【0051】
該予熱工程の加熱速度及び加熱時間は無関係であり、但し、該シートの温度は、80℃を超えて上昇されず、その後の加熱工程は、既定の温度及び加熱速度で行われる。
【0052】
該予熱及び加熱工程における該シートの温度は、該シートの開始温度、加熱の為に使用されるオーブンの温度設定及び上記温度における該シートの時間から、当業者によって容易に推定されることができる。該予熱及び加熱工程における該シートの温度がまた、上記された方法に従って測定されうる。
【0053】
当業者が理解する通り、該シートが該加熱工程中に加熱に付される時間は、該シートの特定の開始温度及び最終温度、並びに特定の加熱速度に依存するであろう。例えば、該シートが予熱される場合、該加熱工程は、該シートを、1秒当たり5~25℃の加熱速度で、30~80℃の予熱温度から90~150℃の表面温度にし、該加熱工程の加熱時間は、0.5~24秒で変わるだろう。予熱工程が行われない場合でも、例えば該シートの開始温度が該予熱工程に類似の温度範囲である場合、類似の加熱時間が使用されうる。このことは、例えば、該シートが前述の方法において形成及び冷却後(例えば25~75℃)に直接的に使用される場合に、当てはまりうる。他方では、予熱が行われない場合、該シートは、1秒当たり5℃~25℃の加熱速度で、室温(例えば、10~25℃)から90℃以上~150℃以下の表面温度にもたらされ得、例えば2.6~28秒の加熱時間が必要である。本明細書に記載された表面温度及び加熱速度の他の組み合わせについて、必要とされる加熱時間の具体的な計算は、当業者によって容易に行われうる。
【0054】
加熱は、当技術分野において典型的に使用されるオーブン、例えばcalrod、セラミック、石英(quarz)及びハロゲンオーブンで行われうる。任意の長さのオーブンが使用され得、但し、加熱は、前述された表面温度及び速度まで行われる。そうする為には、加熱は、指数関数的プロファイルを有しうる。例えば、長いオーブン(例えば、2メートルよりも長い)において、加熱は、該シートの温度が、例えば室温(例えば、10~25℃)から30℃~80℃以下の温度に徐々に上昇させられ、そして次に、該シートの温度が、(1秒当たり5~25℃)の既定の速度で必要な表面温度(90~150℃)に急速に上昇させられる予熱工程を含みうる。このことは、必要な温度で独立して調整されることができる異なる加熱ユニットを有する長いオーブンで容易に達成されることができる。正しいオーブン設定を決定することは、十分に当業者の範囲内である。該シートの加熱時間は、オーブンの長さ、並びに該シートの開始温度及び最終温度に依存するだろう。例えば、予熱工程は、該シートを、相対的に長時間、相対的に低温に付される必要がありうる。対照的に、その後の加熱工程は、既定の加熱速度を達成する為に、高温で短い加熱時間を必要とするだろう。
【0055】
より短いオーブン(例えば、0.5~1m)がまた使用されうる。そのようなより短いオーブンは、予熱工程を必要とし得ず、及び、該シートは、1秒当たり5℃~25℃の加熱速度で、直接的に室温(例えば、10~25℃)から90℃以上~150℃以下の表面温度にもたらされうる。
【0056】
そうして得られた加熱されたシートは、DSCによって決定される0.5超の、特に0.6超の、より特には0.7超の、又は更により特には0.75超の、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)を有する。
【0057】
如何なる理論によっても拘束されるものではないが、該加熱されたシートは、特定された範囲内において、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)を有することが重要である。このことが、該生成物の良好な成形性を許すと同時に、熱安定性生成物を達成する為に必要とされるPLAの結晶化が、形成工程中に生じる。
【0058】
更に、本明細書に記載されている加熱されたシートの典型的な融解エンタルピー(ΔHm,0)は、DSCによって決定される25J/グラム未満、特に20J/グラム未満、より特には15J/グラム未満、更により特には10J/グラム未満、又はなおより特には8J/グラム未満、でありうる。加熱直後に、該加熱されたシートが形成されて、型によって成形物が用意される。得られるべき成形物のタイプは、使用されるべき型を決定するだろう。但し、型温度は、70℃以上~120℃以下に制御されることができる。好適な型の例は、例えば加熱手段を提供されたカップ型を包含しうる。
【0059】
75℃超~120℃以下、特に80℃超~115℃以下、又は更には85℃超~110℃以下、の型温度が、好まれうる。そのような型温度は有利には、ある特定の適用の為に改善された特性、例えば良好な生成物細部(good product detail)、低減された生成物収縮及び良好な型再現性、を有する成形物を結果として生じる。
【0060】
収縮とは、本明細書で使用される場合、例えば、該成形物の寸法が、該型寸法に対応する寸法よりも、例えば冷却時に、小さくなる場合の、該成形物の寸法の低減を意味する。そのような収縮は、型内で、又は成形物がその型から除去される場合に生じうる。収縮はまた、該成形物を、温水中に(例えば60~100℃の温度で)、5分間浸漬させる場合に生じうる。
【0061】
形成の為に、該成形物は、0.5~10秒、特に0.5~4秒間、加熱された型内にとどまりうる。より短い成型時間は、生成スピードを増大しうるが、熱成形中にPLA樹脂の結晶化を有害に低減し得、或る用途について悪化した特性を有する生成物を結果として生じうる。より長い成型時間は、最終的な成形物の特性を更に改善することなしに、生成スピードを低下しうる。
【0062】
本明細書に記載されている方法において、1段階方法(カット-イン-プレイス(cut-in-place)方法とまた呼ばれる)が有利には使用され得、ここで、該成形物は、1段階で形成され、結晶化され、そしてカットされる。しかしながら、所望に応じて、2段階方法も使用され得、ここで、該成形物は、第1のステーションで形成され、そして結晶化され、及び第2のステーションで冷却され、そしてカットされる。本明細書に記載されている方法において望ましい場合、追加の型が使用されうる。そのような追加の型は、熱成形の為に使用される型よりも低い温度(例えば、10~40℃)を有し得、該成形物は、該追加の型内において冷却されことを許される。1段階方法において行われる場合に、追加の型の使用を必要とすること無しに、加熱した型から該成形物を単に除去することによって、冷却がまた室温で行われうる。
【0063】
本明細書に記載されている方法によって得られるPLAベースの樹脂の成形物(熱成形物とまた呼ばれる)は、改善された特徴、例えば良好な耐熱性、最小限の収縮又は収縮なし、良好な機械特性、及び良好な型再現性、を示す。如何なる理論によっても拘束されるものではないが、該成形物の良好な特性は、本明細書に記載されている方法において起こるPLAの結晶化だけでなく、例えば熱成形中に、結晶化が起こる瞬間にも起因すると考えられる。
【0064】
本明細書に記載されている成形物は、DSCによって決定される0.5未満の、特に0.4未満の、より特には0.2未満の、更により特には0.1未満の、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)を有する。更に、本明細書に記載されている成形物の典型的な融解エンタルピー(ΔHm,0)は、DSCによって決定される15J/グラム超、特に25J/グラム超、より特には30J/グラム超、更により特には35J/グラム超、でありうる。
【0065】
本明細書に記載されている成形物は一般的に、耐熱性であり得、すなわち高温に付される場合に低い変形能且つ収縮を有する。収縮は、該成形物又はそのサンプルを、60~100℃の温度の水に5分間浸漬し、そして、浸漬前及び浸漬後の該成形物又はそのサンプルの寸法を比較することによって測定されうる。特に、本明細書に記載されている成形物又はそのサンプルは、温水、すなわち60~100℃の温度の水、に、例えば5分間、浸漬された場合に、2%未満の収縮を示しうる。
【0066】
また、成形物、例えばカップ、の収縮は、該成形物に60~100℃の温度の水を充填し、そして充填前及び充填後の高さを比較することによって測定されうる。カップ寸法の変化は、下記の式によって計算されうる。
【0067】
【0068】
本明細書に記載されている成形物は、それらの改善された特性を考慮すれば、広範な用途に好適である。特に、該成形物は、PLAが制限された用途を有していることが知られている用途において使用されることができる。例えば、本明細書に記載されている成形物は、水のおよそ沸点の温度に耐えなければならない、食品容器、例えばカップ、ボウル、トレー、プレート及び箱、例えばコーヒーカップ及び食品トレー、例えば電子レンジ可能な箱、として好適に使用されうる。
【0069】
本発明は、更に、下記の実施例によって例示されているが、それに限定されることも又はそれらによって限定されることもない。
【実施例】
【0070】
実施例1
実施例1は、異なる加熱速度で加熱された、異なるPLA及び核形成されたPLAの配合物に基づく、幅60mm及び深さ60mmのカップの形成挙動を示す。
【0071】
試験された材料は、表1に列挙されている。
【0072】
PLA配合物の調製(溶融配合)
サンプル2~5は、110~130kg/molの絶対的重量平均分子量を有するPLLA(Total Corbion PLA製のLuminy(商標)PLLA L175)を、表1に記載される添加剤と一緒に溶融配合することによって調製された。配合の前に、PLLA及びPDLAは、-40℃よりも低い露点のデシカント温風乾燥機において、85℃で、最低4時間乾燥された。
【0073】
上記配合は、170/180/190/200/200/200/200/200/200/190℃の温度プロファイル、ダイへのホッパーを有するBrabender 25mm共回転二軸押出機において行われた。結果として生じたストランドは、水浴中で冷却され、そして造粒された。
【0074】
押出しPLAシートの調製
110~130kg/molの絶対的重量平均分子量を有する市販のPLLA(Total Corbion PLA製のLuminy(商標)PLLA L175)(サンプル1)及び上記されている通りに配合されたサンプル2~5が、95/205/195/195/195/195℃の温度プロファイル、最終帯域へのホッパーを有するBattenfeld一軸押出機で、0.5mmシートに変形させられた。
【0075】
シート押出しの前に、サンプル1~5のPLA配合物は、-40℃よりも低い露点のデシカント温風乾燥機中において、85℃で、最低4時間乾燥させられた。
【0076】
ダイ温度は、190~200℃に設定され、及び、押出しシートは、25℃で操作される水平冷却ロールにおいて冷却された。
【0077】
【表1】
*全ての配合物において、PLLAはLuminy(商標)PLLA L175であり、且つPDLAはLuminy(商標)PDLA D070であった。
【0078】
該押出しPLAシートにおける、融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)は、認定インジウムで較正されたRCS(90)冷却装置を備えたT.A.Instruments Q2000 DSC装置を使用し、窒素流を50ml/分で流して、DSCによって測定された。
【0079】
5.00±2.00mgの該PLAベースのシートのサンプルが、T.A.Instruments製のTzeroパンに秤量して入れられ、T.A.Instruments製のTzero Hermetic蓋で密閉された。該密閉パンは、空の参照パンと一緒に該DSC装置のオーブンに入れられた。サンプルを含むパンは、25℃で2分間平衡化され、続いて10℃/分の加熱速度で、260℃に加熱された。
【0080】
冷結晶化ピーク及び融解ピークが、TA Universal分析ソフトウェアを使用して積分され、そして全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)及び元のサンプルの融解エンタルピー(ΔHm,0)が、上記されている通り計算された。
【0081】
押出しシートごとの結果が、上記の表1に列挙されている。
【0082】
熱成形カップ
該押出しPLAシート(サンプル1~5)のそれぞれについて、熱成形(本明細書に記載されている方法の加熱工程及び形成工程の両方を含む)は、1989 Kiefel KD20/25熱成形機(thermoformer)で行われた。該熱成形機には、12個の個々に制御可能な上下セラミック加熱エレメント、プラグ補助及び凹型が備えられており、該型の温度は、95℃以下に操作される水ベースの温度制御ユニットによって制御された。
【0083】
該押出しPLAシートは、フレームに固定され、且つ該熱成形機の加熱ステーションに移された。該シートは、室温(25℃)から異なる加熱速度で加熱された。該シートの温度は、該加熱ステーションから取り出した直後に、Testo 635-1接触式温度計を用いて測定された。該加熱速度及び該加熱されたシートの表面温度は、下記の表2及び表4に列挙されている。
【0084】
該加熱されたシートは、下記のいずれかであった。
1.上部の直径60mm及び高さ60mmを有するカップに熱成形された。そうする為に、該加熱されたシートは形成ステーションに移され、そこで該シートは、熱成形を補助するプラグによって予め伸ばされ、続いて該シートを型に入れて成形する5.5バールの陽圧を施与することによって形成された。型温度は25℃に設定された。熱成形物は、該型に6秒間維持され、その後、手動で取り出された。
2.該加熱PLAシートの、融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比を決定できるようにする為に、冷水中ですぐにクエンチされた。
【0085】
以下の分析が行われた。
該PLA押出しシートについて前に詳述された示差走査熱量測定(DSC)が、該加熱されたシートのサンプルで行われて、その融解エンタルピー(ΔHm,0)と全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)とを得た(表2)。異なるPLA押出しシート(サンプル1~5)が、詳述されている異なるプロファイルを使用して、室温から下記の表2に示されている温度に加熱された。
【0086】
熱成形生成物の視覚的評定。
得られた熱成形生成物は、下記の表3に列挙されている評定に従って評定され、結果が表4に列挙されており、該表は、異なる配合物のPLA押出しシート(先のサンプル1~5)についての、熱成形方法のパラメータと該結果として生じたカップの成形性(表3に従って評定された)とを示す。
【0087】
下記の表2及び表4中の灰色の領域は、原因とは独立して、十分に形成しなかった材料を示す。
【0088】
【表2】
*ΔH
cc及びΔH
m(下記のΔH
m = ΔH
cc + ΔH
m,0の通り、表の値から誘導される)から計算された。
【0089】
【0090】
【0091】
良好な成形性(例えば、評定1)について、複数の条件の組み合わせが満たされたことが見出された。特に、
1.該加熱されたシートの最低温度は、84℃よりも高く、例えば90℃以上であった。
2.核形成剤及び充填剤の添加(サンプル3~5におけるような)は、形成ウィンドウ(forming window)(すなわち、良好な形成特性を結果として生じる該加熱されたシートの温度範囲)を低減した。
3.該加熱されたシートの融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比は、0.5超であった。
【0092】
該温度が該PLAシートの融点に近い場合、全てのサンプルが十分に形成された(熱成形前に該シートを加熱する為に使用された加熱速度に関わらず)ことに留意されたい。しかしながら、該PLAシートがPLAの融点近くの温度に加熱される場合、それらは非常に軟らかくなる。このことは、該生成物における良好な材料分布を達成することを(また)困難にする。
【0093】
実施例2
実施例2は、サンプル5の配合物(表1に列挙されている)に基づく押出しPLAシートの熱成形方法を示す。
【0094】
PLAベースの樹脂の結晶化可能なシートの調製(シート押出し)
シート押出しは、スクリーンパック、溶融ポンプ及びフラットダイを有する100mm一軸押出機で行われた。該押出しシートは、25℃で操作される水平冷却ロールにおいて冷やされ、そしてコア上において巻き取られた。該結果として生じたシートは、幅450mm及び厚さ0.69mmを有していた。
【0095】
該押出しシート(加熱前)の、融解エンタルピー及び、全融解エンタルピーに対する冷結晶化エンタルピーの比(ΔHcc/ΔHm)は、DSCを用いて測定され、そして表6に列挙されている。
【0096】
熱成形
結果として生じたシートは、シングルキャビティプロトタイプツール(single cavityprototype tool)を有するGabler M98熱成形機で、直径70.6mm及び高さ90.6mmのカップに熱成形された。
【0097】
PLAロールストックがほどかれ、そしてロール加熱器で40℃に予熱された。予熱ステーションの後、該シートは、3.6メートル長のオーブン内に移された。
【0098】
この一連の実験において使用された温度プロファイルが、表5に列挙されている。
【0099】
オーブンから取り出した後、該シートは、プラグ補助及び陽圧を使用して電気加熱された型内で形成され、そして所定の位置でカットされた。該形成方法は、自動化されており、及び該オーブンから出た後に、加熱された型に入る前に、該加熱されたシートのサンプルを得ることが出来なかったので、該加熱されたシートのDSC特性は測定されなかった。
【0100】
型温度は変化させられ、そして表5において見られることができる。
【0101】
熱成形されたカップは、形態細部及び厚さ分布についてすぐに視覚的にチェックされた。該熱成形されたカップに、可変温度ケトルによって得られた60℃、70℃、80℃、90℃及び100℃の水をすぐに充填することによって、収縮が試験された。該熱成形されたカップの収縮は、下記の式を使用して計算された。
【0102】
【0103】
目視検査時の形態細部及び該熱成形された生成物(カップ)の収縮の結果が、表7において示されている。
【0104】
【0105】
【表6】
*ΔH
cc及びΔH
m(下記のΔH
m=ΔH
cc+ΔH
m,0の通り、表の値から誘導される)から計算された。
【0106】
【表7】
*ok:良好な形態細部;nok:良好でない形態細部
【0107】
サンプル5-A~サンプル5-Fは、十分に形成された生成物に形成されることができず、それ故に、カップの高さの収縮は測定されることができなかった。様々な型温度(30℃、75℃、85℃又は95℃)及び様々な加熱シート温度(
図1Aについては100℃及び
図1Bについては130℃)で得られたサンプル5-F~サンプル5-Kについての収縮の結果が、
図1においてグラフで表されている。サンプル5-Lに関して、該加熱されたシートは、形成方法が行われる前は非常に軟らかく、望ましくない壁部厚さ分布を結果として生じたことに留意されたい。それ故に、結果として得られた生成物(カップ)は、商業目的の為には十分に良好でなかった。他の全ての観点において、生成物(カップ)の形態細部は、「ok」であった。
【0108】
良好な生成物細部及び/又は90℃超の熱安定性を有するカップが、下記の場合に得られたことが判った。
1.加熱速度が、4℃/秒超、例えば少なくとも5℃/秒、であった。最良の結果が、少なくとも7℃/秒、又は更には少なくとも9℃/秒、の加熱速度で達成された。
2.型温度が、60℃超、例えば少なくとも70℃、であった。最良の結果は、80℃超の温度で達成された。
3.該PLAシートが、85℃超、例えば90℃以上、の表面温度に加熱された。最良の結果が、100℃超の型温度で達成された。