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特許7212822溶接訓練システム、溶接訓練方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】溶接訓練システム、溶接訓練方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20230119BHJP
【FI】
B23K9/095 515Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022522981
(86)(22)【出願日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2022000660
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】504358148
【氏名又は名称】株式会社コベルコE&M
(73)【特許権者】
【識別番号】519124453
【氏名又は名称】イマクリエイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【弁理士】
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【弁理士】
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【弁理士】
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】青山 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】大森 康生
(72)【発明者】
【氏名】大野 純一
(72)【発明者】
【氏名】小倉 英明
(72)【発明者】
【氏名】谷山 博昭
(72)【発明者】
【氏名】山本 彰洋
(72)【発明者】
【氏名】川崎 仁史
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-532909(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0260261(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想空間内での溶接作業の状況を被訓練者に提示することにより溶接作業の訓練を支援する溶接訓練システムにおいて、
前記溶接作業に用いられる溶接棒オブジェクトの先端部と母材オブジェクトとの間の距離を、当該先端部に配置される距離判定用の点オブジェクトと当該母材オブジェクトとの間の距離に基づいて判定する判定部と、
判定した距離が所定の閾値以下である場合、前記仮想空間内における溶接処理を実行する溶接処理部と、
前記溶接処理が実行される場合、前記溶接棒オブジェクトの軸方向の長さを小さくする補正部と、
補正後の前記溶接棒オブジェクトの先端部に、前記点オブジェクトを移動させる移動部と、
補正後の前記溶接棒オブジェクト及び移動後の前記点オブジェクトを含む画像を表示部に表示させる表示制御部と
を備えることを特徴とする、溶接訓練システム。
【請求項2】
前記表示制御部は、前記点オブジェクトを前記表示部に透明で表示させる、
請求項1に記載の溶接訓練システム。
【請求項3】
前記溶接棒オブジェクトの軸方向の長さを変化させる値を設定する設定部
をさらに備え、
前記補正部は、前記設定部により設定された値に基づいて、前記溶接棒オブジェクトの軸方向の長さを小さくする、
請求項1又は2に記載の溶接訓練システム。
【請求項4】
判定した距離が所定の閾値以上である場合、前記溶接処理部は、前記溶接処理を停止する、
請求項1乃至3の何れかに記載の溶接訓練システム。
【請求項5】
前記溶接棒オブジェクトの軸方向の長さが所定の閾値以下となった場合、前記溶接処理部は、前記溶接処理を停止する、
請求項1乃至4の何れかに記載の溶接訓練システム。
【請求項6】
仮想空間内での溶接作業の状況を被訓練者に提示することにより溶接作業の訓練を支援する溶接訓練方法において、
前記溶接作業に用いられる溶接棒オブジェクトの先端部と母材オブジェクトとの間の距離を、当該先端部に配置される距離判定用の点オブジェクトと当該母材オブジェクトとの間の距離に基づいて判定し、
判定した距離が所定の閾値以下である場合、前記仮想空間内における溶接処理を実行し、
前記溶接処理が実行される場合、前記溶接棒オブジェクトの軸方向の長さを小さくする補正を行い、
補正後の前記溶接棒オブジェクトの先端部の位置に、前記点オブジェクトを移動させることを特徴とする、溶接訓練方法。
【請求項7】
コンピュータを、仮想空間内での溶接作業の状況を被訓練者に提示することにより溶接作業の訓練を支援する溶接訓練装置として機能させるためのプログラムにおいて、
前記コンピュータを、
前記溶接作業に用いられる溶接棒オブジェクトの先端部と母材オブジェクトとの間の距離を、当該先端部に配置される距離判定用の点オブジェクトと当該母材オブジェクトとの間の距離に基づいて判定する判定部、
判定した距離が所定の閾値以下である場合、前記仮想空間内における溶接処理を実行する溶接処理部、
前記溶接処理が実行される場合、前記溶接棒オブジェクトの軸方向の長さを小さくする補正部、
及び、補正後の前記溶接棒オブジェクトの先端部の位置に、前記点オブジェクトを移動させる移動部
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接作業の訓練を支援する溶接訓練システム、溶接訓練方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
バーチャルリアリティ技術の進展に伴って、当該技術を用いて溶接作業の訓練を支援するシステムが種々提案されている。例えば、特許文献1には、実世界溶接を実行するための溶接ツールと、顔面装着ディスプレイを含む溶接ヘルメットと、これらの溶接ツール及び溶接ヘルメットを3D空間中で加工対象物体に関して追跡する空間トラッカとを備え、空間トラッカからの情報に基づいて仮想オブジェクトを生成し、その仮想オブジェクトを顔面装着ディスプレイ上の所定の位置に送るように構成された溶接システムが開示されている。この溶接システムの場合、顔面装着ディスプレイ上で画像を確認しながら溶接作業の訓練を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-101124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来の溶接システムの場合、実世界溶接を実行するための溶接ツール(トーチ、溶接ガンなど)を操作することになるため、装置構成が大掛かりになるなどの不都合が生じる。このような特別なツールではなく、既存のVRコントローラなどを用いることができると便宜であるが、その場合、溶接処理中に溶接棒が短くなる現象を仮想空間内において模倣することが困難になる。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、簡易な構成で溶接作業の訓練を支援することが可能な溶接訓練システム、溶接訓練方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一の態様の溶接訓練システムは、仮想空間内での溶接作業の状況を被訓練者に提示することにより溶接作業の訓練を支援する溶接訓練システムにおいて、前記溶接作業に用いられる溶接棒オブジェクトの先端部と母材オブジェクトとの間の距離を、当該先端部に配置される距離判定用の点オブジェクトと当該母材オブジェクトとの間の距離に基づいて判定する判定部と、判定した距離が所定の閾値以下である場合、前記仮想空間内における溶接処理を実行する溶接処理部と、前記溶接処理が実行される場合、前記溶接棒オブジェクトの軸方向の長さを小さくする補正部と、補正後の前記溶接棒オブジェクトの先端部に、前記点オブジェクトを移動させる移動部と、補正後の前記溶接棒オブジェクト及び移動後の前記点オブジェクトを含む画像を表示部に表示させる表示制御部とを備えることを特徴とする。
【0007】
前記態様において、前記表示制御部は、前記点オブジェクトを前記表示部に透明で表示させてもよい。
【0008】
また、前記態様において、前記溶接棒オブジェクトの軸方向の長さを変化させる値を設定する設定部をさらに備え、前記補正部は、前記設定部により設定された値に基づいて、前記溶接棒オブジェクトの軸方向の長さを小さくしてもよい。
【0009】
また、前記態様において、判定した距離が所定の閾値以上である場合、前記溶接処理部は、前記溶接処理を停止してもよい。
【0010】
また、前記態様において、前記溶接棒オブジェクトの軸方向の長さが所定の閾値以下となった場合、前記溶接処理部は、前記溶接処理を停止してもよい。
【0011】
本発明の一の態様の溶接訓練方法は、仮想空間内での溶接作業の状況を被訓練者に提示することにより溶接作業の訓練を支援する溶接訓練方法において、前記溶接作業に用いられる溶接棒オブジェクトの先端部と母材オブジェクトとの間の距離を、当該先端部に配置される距離判定用の点オブジェクトと当該母材オブジェクトとの間の距離に基づいて判定し、判定した距離が所定の閾値以下である場合、前記仮想空間内における溶接処理を実行し、前記溶接処理が実行される場合、前記溶接棒オブジェクトの軸方向の長さを小さくする補正を行い、補正後の前記溶接棒オブジェクトの先端部の位置に、前記点オブジェクトを移動させることを特徴とする
【0012】
本発明の一の態様のプログラムは、コンピュータを、仮想空間内での溶接作業の状況を被訓練者に提示することにより溶接作業の訓練を支援する溶接訓練装置として機能させるためのプログラムにおいて、前記コンピュータを、前記溶接作業に用いられる溶接棒オブジェクトの先端部と母材オブジェクトとの間の距離を、当該先端部に配置される距離判定用の点オブジェクトと当該母材オブジェクトとの間の距離に基づいて判定する判定部、判定した距離が所定の閾値以下である場合、前記仮想空間内における溶接処理を実行する溶接処理部、前記溶接処理が実行される場合、前記溶接棒オブジェクトの軸方向の長さを小さくする補正部、及び、補正後の前記溶接棒オブジェクトの先端部の位置に、前記点オブジェクトを移動させる移動部として機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶接処理中に溶接棒が短くなる現象を仮想空間内において適切に模倣することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1の溶接訓練システムの構成を示すブロック図。
図2】情報処理装置(溶接訓練システム)の構成を示す機能ブロック図。
図3】表示される画面の一例を示す図。
図4】情報処理装置(溶接訓練システム)の動作の手順を示すフローチャート。
図5】溶接棒短縮化処理の手順を示すフローチャート。
図6】実施の形態2の溶接訓練システムの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す各実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための方法及び装置を例示するものであって、本発明の技術的思想は下記のものに限定されるわけではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0016】
(実施の形態1)
[システムの構成]
図1は、実施の形態1の溶接訓練システムの構成を示すブロック図である。本実施の形態の溶接訓練システム100は、情報処理装置1によって構成される。
【0017】
情報処理装置1は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)2と通信可能に接続されており、情報処理装置1からの表示制御にしたがって、HMD2が備える表示部21に画像が表示される。また、情報処理装置1は、被訓練者が操作する入力装置3と通信可能に接続されており、入力装置3から入力される情報を用いて各種の処理を実行する。
【0018】
本実施の形態において、被訓練者は、HMD2の表示部21に表示されている画像を観察しながら、入力装置3を溶接トーチなどの溶接機器に見立てて操作する。入力装置3は、被訓練者が手で操作可能なハンドコントローラ(VRコントローラ)で構成されている。このハンドコントローラは、位置センサを有しており、その位置センサによる検出結果が入力装置3から情報処理装置1に対して出力される。また、HMD2も同様に位置センサを有しており、その位置センサによる検出結果がHMD2から情報処理装置1に対して出力される。
【0019】
次に、情報処理装置1の詳細な構成について説明する。情報処理装置1は、CPU、RAM、ROM、不揮発性メモリ、入出力インタフェース、及び通信インタフェース等を含むコンピュータである。情報処理装置1のCPUは、ROM又は不揮発性メモリからRAMにロードされたプログラムにしたがって情報処理を実行する。
【0020】
上記のプログラムは、例えば光ディスク又はメモリカード等の情報記憶媒体を介して情報処理装置1に供給されてもよいし、インターネット又はLAN等の通信ネットワークを介して供給されてもよい。
【0021】
図2は、情報処理装置1の構成を示す機能ブロック図である。情報処理装置1は、入力情報取得部11、位置算出部12、距離判定部13、溶接処理実行部14、溶接棒長さ補正部15、補正値データベース(DB)16、距離判定オブジェクト移動部17、画像生成部18、及び表示制御部19を備えている。これらの機能部は、情報処理装置1のCPUがプログラムにしたがって情報処理を実行することによって実現される。
【0022】
入力情報取得部11は、入力装置3及びHMD2から入力される各種の情報を取得する。入力装置3から入力される情報には、被訓練者によって操作される入力装置3の位置を示す位置情報、及び被訓練者が入力装置3を用いて選択した内容を示す選択情報などが含まれる。また、HMD2から入力される情報には、HMD2の位置を示す位置情報などが含まれる。
【0023】
位置算出部12は、入力装置3及びHMD2から入力された位置情報に基づいて、仮想空間内において表示される各オブジェクトの位置を算出する。
【0024】
距離判定部13は、後述する溶接棒オブジェクトの先端部と母材オブジェクトとの距離を判定する。この距離は、溶接棒オブジェクトの先端部に配置される距離判定用の点オブジェクト(以下「距離判定オブジェクト」という)と母材オブジェクトとの距離に基づいて判定される。
【0025】
溶接処理実行部14は、距離判定部13により判定された溶接棒オブジェクトの先端部と母材オブジェクトとの間の距離に基づいて、溶接処理を実行する。これにより、例えばアーク溶接の場合であれば火花が飛び散る現象などが模倣される。
【0026】
溶接棒長さ補正部15は、溶接処理に伴って溶接棒の軸方向の長さが小さくなる現象を仮想空間内で模倣するために、溶接棒オブジェクトの長さを補正する。どの程度小さくするのかは、補正値DB16に格納されている設定値によって規定される。
【0027】
補正値DB16は、上記のとおり溶接棒オブジェクトの長さを補正する場合の設定値(補正値)を格納するデータベースである。この補正値DB16では、溶接の種類毎に補正値が規定されている。例えば、溶接の種類として、アーク溶接、半自動溶接、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接の3つが定められており、それぞれに対して異なる補正値(毎秒3.5mm,4.5mmなど)が規定されている。なお、補正値DB16は、情報処理装置1がアクセス可能であれば、情報処理装置1の外部に設けられていてもよい。
【0028】
距離判定オブジェクト移動部17は、溶接棒オブジェクトの短縮化に伴い、距離判定オブジェクトを仮想空間内で移動させる。後述するように、距離判定オブジェクトは、短くなった溶接棒オブジェクトの先端部を追従して移動する。
【0029】
画像生成部18は、位置算出部12により検出された各オブジェクトの位置、溶接処理実行部14による溶接処理の実行の有無、溶接棒長さ補正部15による補正処理、及び距離判定オブジェクト移動部17による移動処理に基づいて、仮想空間内に表示される画像を生成する。
【0030】
表示制御部19は、画像生成部18により生成された画像の表示を、HMD2に対して指示する。その結果、画像生成部18により生成された画像が、HMD2の表示部21に表示される。
【0031】
図3は、HMD2の表示部21に表示される画面の一例を示す図である。図3に示す例では、溶接機器であるトーチに対応するトーチオブジェクト41、そのトーチに取り付けられた溶接棒に対応する溶接棒オブジェクト42、被溶接材(母材)に対応する母材オブジェクト43が、画面40に含まれている。さらに、画面40には、溶接棒オブジェクト42の先端部に配置される点オブジェクトである距離判定オブジェクト44、及び同じく基端部に配置される点オブジェクトである基端部オブジェクト45が含まれている。
【0032】
本実施の形態において、距離判定オブジェクト44及び基端部オブジェクト45は透明で表示される。そのため、被訓練者が距離判定オブジェクト44及び基端部オブジェクト45を画面40上で視覚的に確認することはない。なお、距離判定オブジェクト44及び基端部オブジェクト45が透明以外の色で表示されてもよいが、現実空間ではこれらに対応するものは存在しないため、透明で表示されることが好ましい。但し、後述するとおり、距離判定オブジェクト44及び基端部オブジェクト45はそれぞれ溶接棒オブジェクト42の先端部及び基端部に追従して移動するため、目立たない色(例えば、溶接棒オブジェクト42と同色)で表示されるのであれば特段問題が生じることはない。
【0033】
トーチオブジェクト41及び溶接棒オブジェクト42は、被訓練者による入力装置3の操作に応じて仮想空間内で移動する。そして、溶接棒オブジェクト42の先端部と母材オブジェクト43との間の距離に応じて溶接処理が実行される。このような仮想空間での溶接作業の状況が、HMD2の表示部21に表示されることになる。
【0034】
[システムの動作]
次に、上記のように構成された溶接訓練システム100の動作について、図4及び図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。
被訓練者は、HMD2を装着し、HMD2の表示部21に表示されている訓練の種類を確認する。この訓練の種類には、溶接の種類(アーク溶接・半自動溶接・TIG溶接)、母材の種類(すみ肉・V字開先)、及び母材の置き方(下向き・縦向き・横向き)が含まれる。被訓練者は、これらの溶接、母材、及び母材の置き方のそれぞれについて所望の種類を決定し、入力装置3を用いて選択する。
【0035】
図4に示すように、情報処理装置1は、上記のようにして行われた入力装置3による選択を受け付けると(S101)、選択された種類の訓練を実施するための溶接作業訓練処理を実行する(S102)。この溶接作業訓練処理においては、被訓練者によって操作される入力装置3の位置を示す位置情報、及び被訓練者に装着されたHMD2の位置を示す位置情報が、情報処理装置1に対して継続して入力される。情報処理装置1は、それらの位置情報に基づいて、トーチオブジェクト41、溶接棒オブジェクト42、母材オブジェクト43、距離判定オブジェクト44、及び基端部オブジェクト45等の各オブジェクトの仮想空間内での位置を算出し、その算出結果にしたがって画像を生成する。このようにして生成された画像は、情報処理装置1からHMD2に対して送信され、HMD2の表示部21に表示される。
【0036】
なお、被訓練者の操作に伴って溶接棒オブジェクト42が仮想空間内で移動した場合、それに伴って溶接棒オブジェクト42の先端部及び基端部の位置が変化する。このとき、情報処理装置1は、溶接棒オブジェクト42の先端部及び基端部の位置の変化に合わせて距離判定オブジェクト44及び基端部オブジェクト45の位置もそれぞれ変化させる。このような処理が行われることにより、距離判定オブジェクト44及び基端部オブジェクト45が溶接棒オブジェクト42の先端部及び基端部にそれぞれ配置された状態を維持することができる。
【0037】
上記の溶接作業訓練処理の中で、溶接処理に伴って溶接棒の軸方向の長さが小さくなる現象を仮想空間内で模倣するための溶接棒短縮化処理が実行される。この処理の詳細については後述する。
【0038】
ステップS102の溶接作業訓練処理によって一定の訓練が行われた後、情報処理装置1は、訓練を終了させるか否かを判定する(S103)。例えば、被訓練者が入力装置3を用いて訓練終了を指示した場合、または訓練の回数・時間が予め定められた回数・時間に達した場合などに、訓練終了と判定され(S103でYES)、処理が終了する。他方、訓練を終了させずに継続すると判定された場合(S103でNO)、情報処理装置1は、ステップS102に戻り、再度訓練が行われる。
【0039】
次に、図5を参照しながら、溶接棒短縮化処理について詳述する。なお、この溶接棒短縮化処理は、上記の溶接作業訓練処理の中で繰り返し実行される。
【0040】
情報処理装置1は、溶接棒オブジェクト42の先端部に配置された距離判定オブジェクト44と、母材オブジェクト43との間の距離を算出し(S201)、その距離が予め設定されている閾値T1以下であるか否かを判定する(S202)。なお、閾値T1としては例えば0.1mmなどの値が設定される。
【0041】
ステップS202において算出した距離が閾値T1以下であると判定した場合(S202でYES)、情報処理装置1は、溶接処理を実行する(S203)。このように、本実施の形態では、距離判定オブジェクト44と母材オブジェクト43との間の距離が一定値以下となった場合に溶接処理を実行する。これは、当該距離を、溶接棒オブジェクト42の先端部と母材オブジェクト43との間の距離とみなすことができるためである。このようにして溶接処理が実行された後、溶接処理に伴って必要となる溶接棒オブジェクト42の短縮化及び距離判定オブジェクト44の移動が行われる。
【0042】
情報処理装置1はまず、溶接棒オブジェクト42の軸方向の長さを、補正値DB16で規定されている補正値にしたがって小さくする補正処理を実行する(S204)。例えば、今回の訓練においてアーク溶接が選択されている場合であって、補正値DB16においてアーク溶接に対して毎秒3.5mmの補正値が規定されているとき、情報処理装置1は、溶接棒オブジェクト42の先端部をその基端部に向かって軸方向に毎秒3.5mmで移動させることにより、溶接棒オブジェクト42の軸方向の長さを小さくする。
【0043】
次に、情報処理装置1は、上記のようにして短縮化された溶接棒オブジェクト42の先端部に距離判定オブジェクト44が追従するように、距離判定オブジェクト44を移動させる(S205)。より具体的に説明すると、情報処理装置1は、溶接棒の長さが補正された後の仮想空間内における距離判定オブジェクト44の3次元位置座標pos_e1_newを次の式1によって算出し、その算出された位置座標pos_e1_newに距離判定オブジェクト44を移動させる。
pos_e1_new = pos_e1 - shorten_distance×(pos_e1 - pos_e2)/edge_distance …式1
但し、pos_e1は距離判定オブジェクト44の現在の3次元位置座標(e1.x, e1.y, e1.z)であり、pos_e2は基端部オブジェクト45の現在の3次元位置座標(e2.x, e2.y, e2.z)である。また、shorten_distanceはステップS204の溶接棒オブジェクト42の長さ補正で用いられた補正値である。さらに、edge_distanceはpos_e1とpos_e2との間の距離であって、以下の式2により算出される。
【数1】
【0044】
上記のようにして溶接棒の長さ補正(S204)及び距離判定オブジェクト44の移動(S205)が実行された後、情報処理装置1はステップS201に戻り、それ以降の処理を繰り返す。
【0045】
上記のステップS202において当該距離が閾値T1より大きいと判定した場合(S202でNO)、情報処理装置1は、その距離が予め設定されている閾値T2以下であるか否かを判定する(S206)。なお、閾値T2は閾値T1より大きく、例えば10.0mmなどの値が閾値T2として設定される。
【0046】
ステップS206において当該距離が閾値T2以上であると判定した場合(S206でYES)、情報処理装置1は、実行済みの溶接処理を停止する(S207)。このように、本実施の形態では、距離判定オブジェクト44と母材オブジェクト43との間の距離が一定値以下となった場合に溶接処理を停止する。これは、当該距離を、溶接棒オブジェクト42の先端部と母材オブジェクト43との間の距離とみなすことができるためである。その後、情報処理装置1はステップS201に戻り、それ以降の処理を繰り返す。
【0047】
また、ステップS206において当該距離が閾値T2より小さいと判定した場合(S206でNO)、情報処理装置1は、溶接棒オブジェクト42の長さを算出する(S208)。この長さは、pos_e1とpos_e2との間の距離、すなわちedge_distanceで得られる。
【0048】
次に、情報処理装置1は、溶接棒オブジェクト42の長さが予め設定されている閾値T3以下であるか否かを判定する(S209)。なお、閾値T3としては、溶接処理を続行するのが適切ではない程度の溶接棒の長さを示す値(例えば20.0mmなど)が設定される。
【0049】
ステップS208において溶接棒オブジェクト42の長さが閾値T3以下であると判定した場合(S209でYES)、情報処理装置1は、実行済みの溶接処理を停止する(S207)。このように、本実施の形態では、溶接棒オブジェクト42の長さが溶接処理に適切ではない程度となった場合に溶接処理が停止される。その後、情報処理装置1はステップS201に戻り、それ以降の処理を繰り返す。
【0050】
他方、ステップS208において溶接棒オブジェクト42の長さが閾値T3より大きいと判定した場合(S209でNO)、情報処理装置1は、溶接処理を停止することなくステップS201に戻り、それ以降の処理を繰り返す。
【0051】
上記の溶接棒短縮化処理が繰り返し実行されることにより、距離判定オブジェクト44と母材オブジェクト43との間の距離に応じて溶接処理の実行/停止が行われ、また、溶接処理が実行された場合に溶接棒オブジェクト42が短く補正される。これにより、溶接処理中に溶接棒が短くなる現象を仮想空間内にて模倣することが可能になる。
【0052】
なお、距離判定オブジェクト44ではなく、溶接棒オブジェクト42の先端部と母材オブジェクト43との間の距離を直接求める手法を採用した場合、当該先端部は複数の点で構成される領域であるため、当該先端部を構成する点のうちのどの点と母材オブジェクト43との間の距離を求めればよいか不明になるという問題が生じる。本実施の形態のように、母材オブジェクト43との距離を求めるための距離判定オブジェクト44を導入することにより、このような問題の発生を回避することができる。
【0053】
また、距離判定オブジェクト44は溶接棒オブジェクト42とは別のオブジェクトであるため、溶接処理の実行に伴って溶接棒オブジェクト42が短くなる場合、それに合わせて距離判定オブジェクト44を移動させなければ、溶接棒オブジェクト42の先端部と母材オブジェクト43との間の距離を適切に得ることはできない。そこで、本実施の形態では、距離判定オブジェクト44を、短縮化により基端部に向かって移動した溶接棒オブジェクト42の先端部を追従するように移動させる。これにより、短くなった溶接棒オブジェクト42の先端部に距離判定オブジェクト44を配置させることが可能になるため、距離判定オブジェクト44を用いて、溶接棒オブジェクト42の先端部と母材オブジェクト43との間の距離を適切に得ることができる。
【0054】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1における情報処理装置及びHMDが一つの装置で構成される。図6は、実施の形態2の溶接訓練システムの構成を示すブロック図である。図6に示すように、本実施の形態の溶接訓練システム200は、HMDで構成されており、情報処理部201及び表示部202を備えている。この情報処理部201は、実施の形態1における情報処理装置1に相当し、表示部202は、同じく表示部21に相当する。また、溶接訓練システム200は、実施の形態1の場合と同様に入力装置3と通信可能に接続される。
【0055】
情報処理部201は、実施の形態1における情報処理装置1と同様の処理を実行し、仮想空間内における溶接作業の状況を表示部202に表示させる。これにより、本実施の形態において、実施の形態1と同様の作用効果が得られる。
【0056】
(その他の実施の形態)
上記の各実施の形態では、ヘッドマウントディスプレイが用いられているが、本発明はこれに限定されるわけではなく、例えば眼鏡型ディスプレイ等の他のウェアラブルデバイスが用いられてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 情報処理装置
11 入力情報取得部
12 位置算出部
13 距離判定部
14 溶接処理実行部
15 溶接棒長さ補正部
16 補正値データベース
17 距離判定オブジェクト移動部
18 画像生成部
19 表示制御部
2 ヘッドマウントディスプレイ
21 表示部
3 入力装置
41 トーチオブジェクト
42 溶接棒オブジェクト
43 母材オブジェクト
44 距離判定オブジェクト
45 基端部オブジェクト
100,200 溶接訓練システム
【要約】
溶接訓練システムを構成する情報処理装置(1)は、溶接作業に用いられる溶接棒オブジェクトの先端部と母材オブジェクトとの間の距離を、当該先端部に配置される距離判定用の点オブジェクトと当該母材オブジェクトとの間の距離に基づいて判定する距離判定部(13)と、判定した距離が所定の閾値以下である場合、仮想空間内における溶接処理を実行する溶接処理実行部(14)と、溶接処理が実行される場合、溶接棒オブジェクトの軸方向の長さを小さくする溶接棒長さ補正部(15)と、補正後の溶接棒オブジェクトの先端部に、点オブジェクトを移動させる距離判定オブジェクト移動部(17)と、補正後の溶接棒オブジェクト及び移動後の点オブジェクトを含む画像を表示部に表示させる表示制御部(19)とを備える。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6