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特許7212907金属カルコゲナイドナノチューブに基づく電気機械共振器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】金属カルコゲナイドナノチューブに基づく電気機械共振器
(51)【国際特許分類】
   H03H 3/007 20060101AFI20230119BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20230119BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20230119BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20230119BHJP
   H03H 9/24 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
H03H3/007 Z
B81C1/00
B81B3/00
C01G41/00 Z
H03H9/24 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021097436
(22)【出願日】2021-06-10
(62)【分割の表示】P 2019534865の分割
【原出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2021177631
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】249804
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(73)【特許権者】
【識別番号】500018608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】at the Weizmann Institute of Science,PO Box 95,7610002 Rehovot,Israel
(73)【特許権者】
【識別番号】518286264
【氏名又は名称】ビー.ジー.ネゲブ テクノロジーズ アンド アプリケーションズ リミテッド, アット ベン‐グリオン ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】テンネ、レシェフ
(72)【発明者】
【氏名】ジョスレビッチ、エルネスト
(72)【発明者】
【氏名】ディヴォン、エフタ
(72)【発明者】
【氏名】レヴィ、ロイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤアコボヴィッツ、アッサフ
(72)【発明者】
【氏名】ユディレヴィッチ、ダン
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/049122(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0253196(US,A1)
【文献】特開2008-116668(JP,A)
【文献】特表2007-513050(JP,A)
【文献】特開2005-056534(JP,A)
【文献】国際公開第2009/002588(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B1/00-B81B7/04
B81C1/00-B81C99/00
C01G25/00-C01G47/00
C01G49/10-C01G99/00
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械共振器の製造方法であって、
基板を用意するステップと、
互いに接触しないように前記基板上に少なくとも第1のパッドと第2のパッドとを取り付けるステップと、
前記第1及び第2のパッド上に少なくとも1つの金属カルコゲナイドナノチューブを、前記金属カルコゲナイドナノチューブの第1の領域が前記第1のパッドと接触し、前記金属カルコゲナイドナノチューブの第2の領域が前記第2のパッドと接触するように、取り付けるステップと、
ペダルが前記金属カルコゲナイドナノチューブに接触するように前記ペダルを前記金属カルコゲナイドナノチューブの上に取り付けるステップであって、前記ペダルが前記金属カルコゲナイドナノチューブに対して非対称に位置づけられる、該ステップと、
前記金属カルコゲナイドナノチューブの下の基板表面層を除去し、それによって前記金属カルコゲナイドナノチューブを前記基板の上方に懸架させるステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記基板がSiOによって被覆されたSiを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1及び第2のパッドが金層によって被覆されたクロム層を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1及び第2のパッドを取り付ける前記ステップが、フォトリソグラフィと金属付着とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの前記金属カルコゲナイドナノチューブを取り付ける前記ステップが、前記金属カルコゲナイドナノチューブのドライ分散を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記金属カルコゲナイドナノチューブの下の前記基板表面層を除去する前記ステップが、フッ化水素酸(HF)を使用して前記基板表面層をエッチングするステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記エッチングの後に臨界点乾燥(CPD)を行う、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ペダルが矩形形状であり、
前記矩形形状の長手方向が前記金属カルコゲナイドナノチューブの長手方向に対して垂直に位置づけられるように前記金属カルコゲナイドナノチューブに取り付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記基板表面層を除去する前記ステップの後に、前記基板の上方に前記ペダルを懸架させる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基板上に電極を形成するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属カルコゲナイドナノチューブに基づく電気機械共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
無機ナノチューブ(INT)は、1992年に最初に報告され、非炭素2次元材料をロールアップしたものとして、および、ナノテクノロジのための有望なビルディングブロックとして、ますます注目を集めるようになっている。カーボンナノチューブ(CNT)は、際だった機械的特性および電気的特性と、その独特な電気機械結合とにより、かなり以前からナノ電気機械システム(NEMS)のための魅力的なビルディングブロックとみなされてきた。特に、ねじり電気機械システムは、超小型無人飛行体(UAV)のナビゲーション用ジャイロスコープや、様々な化学および生物学的センサの基盤として使用することができる。CNTベースのねじりデバイスに関しては、単層CNT(SWCNT)および多層CNT(MWCNT)の製造およびねじり電気機械的特性の特性評価や、MWCNTおよびSWCNTねじり共振器の作製など、広範な研究が行われてきた。共振NEMSの感度を決定する最も重要な要因の1つは、そのQファクタ、すなわち1周期当たりの蓄積エネルギーと消散エネルギーとの比に対応する無次元パラメータである。すなわち、Qファクタが高いほど、1共振周期中に消散するエネルギーが少ない。内部摩擦、層間結合、結晶構造および化学組成が、ナノチューブのねじり挙動、特にそのQファクタ(Q)を決定する重要な役割を果たすことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、初めて、金属カルコゲナイドナノチューブの共振電気機械挙動を提示する。金属カルコゲナイドナノチューブ、具体的には二硫化タングステン(WS)の共振ねじり挙動を示し、カーボンナノチューブのものと比較する。WSナノチューブは、例えば、これまでにナノチューブに見られたなかで最も高いQファクタ(Q)とねじり共振振動数を有することがわかった。恐らくは速度依存層間摩擦のために、様々なナノチューブ、特にWSの場合の動的および静的ねじりばね定数が異なることがわかった。これらの結果は、金属カルコゲナイドナノチューブが高Q電気機械共振器システムのための有望なビルディングブロックであることを示している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施形態では、本発明は少なくとも1つの金属カルコゲナイドナノチューブを含む電気機械共振器を提供する。
【0005】
一実施形態では、共振器はマイクロ電気機械デバイス、ナノ電気機械デバイス、またはこれらの組み合わせである。
【0006】
一実施形態では、金属カルコゲナイドナノチューブは、WS、MoS、WSe、MoSeを含む。一実施形態では、金属カルコゲナイドナノチューブは、WS、MoS、WSe、MoSeからなる。一実施形態では、金属カルコゲナイドナノチューブは、Mo1-xNb、Mo1-xNbSe、W1-xTa、W1-xTaSe、Mob1-x-y、MoNb1-x-ySe、Re1-x、Ti1-xSc、Zr1-x、Hf1-xLa、Ta1-xHf、Pt1-xIr、Ru1-xMn、Rh1-xRu、Mo1-xRe、W1-xRe、Re1-xOs、Ti1-x、Zr1-xNb、Hf1-xTa、Ta1-x、Pt1-xAu、Ru1-xRh、Rh1-xPd、WS2-xSe、Mo1-x2-ySe、WS2-x-ySeTeを含み、0.0001<x<0.5、および0.0001<y<0.5、または0.0001<x<0.9999、および0.0001<y<0.999、または0.0001<x<0.5、または0.0001<x<0.9999、または0.0001<x<1.999、または0.0001<x<1.999、および0.0001<y<1.9999である。
【0007】
一実施形態では、ナノチューブは別の物質がドープされる。一実施形態では、ナノチューブは、金属によりドープされる。一実施形態では、金属はNbまたはReである。一実施形態では、物質は、水素、酸素、フッ素、またはナトリウムを含む。一実施形態では、電気機械共振器は、ジャイロスコープ、加速度計、質量センサ、物質センサ、磁力計、または可動鏡からなるグループから選択される。一実施形態では、本発明は、本発明の電気機械共振器を含む、ジャイロスコープ、加速度計、質量センサ、物質センサ、磁力計、または可動鏡を提供する。一実施形態では、本発明の電気機械共振器は、ジャイロスコープ、加速度計、質量センサ、物質センサ、磁力計、または可動鏡からなるグループから選択される装置における構成要素である。
【0008】
一実施形態では、ナノチューブの直径が1nmと1000nmの間の範囲である。一実施形態では、前記ナノチューブの直径が1nmと100nmの間の範囲である。一実施形態では、前記ナノチューブの直径が1nmと10nmの間、または10nmと50nmの間、または50nmと250nmの間、または250nmと500nmの間、または500nmと1μmの間の範囲である。
【0009】
一実施形態では、単一のナノチューブの場合、前記ナノチューブは単層または多層ナノチューブである。一実施形態では、複数のナノチューブの場合、ナノチューブは単層、多層またはこれらの組み合わせのナノチューブである。
【0010】
一実施形態では、ナノチューブは少なくとも部分的に中空である。一実施形態では、ナノチューブは中空ではない。一実施形態では、前記ナノチューブの少なくとも一部が表面(一実施形態では基板の表面)の上方に懸架されている。
【0011】
一実施形態では、本発明の共振器は、
・基板と、
・少なくとも第1のパッドおよび第2のパッドと、
・電気接点と、をさらに含む。
【0012】
一実施形態では、前記ナノチューブの第1の領域が第1のパッドと接触し、ナノチューブの第2の領域が第2のパッドと接触している。
【0013】
一実施形態では、第1のパッドと第2のパッドのそれぞれが基板と接触している。一実施形態では、基板が被覆されている。一実施形態では、基板はSiを含み、被覆はSiOを含む。
【0014】
一実施形態では、共振器はペダルをさらに含む。一実施形態では、ペダルがナノチューブと接触している。一実施形態では、ペダルが矩形形状であり、前記矩形の長さが前記ナノチューブの長さに対して垂直に位置づけられるように前記ナノチューブに取り付けられている。一実施形態では、矩形ペダルが前記ナノチューブに対して非対称に位置づけられている。
【0015】
一実施形態では、ナノチューブが基板の上方に懸架されている。一実施形態では、ペダルが基板の上方に懸架されている。一実施形態では、共振器が電子構成要素/電子機器に接続される。
【0016】
一実施形態では、機器は、ネットワーク分析器、オシロスコープ、ロックイン増幅器、スペクトル分析器、RF信号発生器、電源、AC発電機、DC発電機、信号発生器、パルス発生器、関数発生器、波形発生器、デジタルパターン発生器、周波数発生器、またはこれらの組み合わせを含む。
【0017】
一実施形態では、パッドと基板とが独立して前記電気接点により前記機器の1つまたは複数に接続され、前記機器が電気接点を介してパッド間および基板間に電圧を印加する。
【0018】
一実施形態では、パッドと基板とが独立して電気接点によってネットワーク分析器(または上記で挙げた機器のうちの任意のその他の機器)に接続され、ネットワーク分析器(またはその他の電子機器)が電気接点を介してパッド間および基板間に電圧を印加する。一実施形態では、基板上に電極が形成され、電極は電気接点によってネットワーク分析器または任意のその他の電子機器に接続される。本態様によると、一実施形態では、電気接点を介してパッド間および電極間に電圧が印加される。
【0019】
一実施形態では、印加される電圧によってナノチューブにおいて機械的応答が生じる。一実施形態では、共振器のQファクタが1と1000000の間の範囲である。一実施形態では、共振器のQファクタが1と100の間の範囲である。一実施形態では、共振器のQファクタが100と1000の間の範囲である。一実施形態では、共振器のQファクタが1000と1000000の間の範囲である。一実施形態では、共振器のQファクタが1と5の間の範囲である。
【0020】
一実施形態では、共振器は基板上に形成された電極をさらに含む。一実施形態では、電極が電気接点によって電子機器に接続される。
【0021】
一実施形態では、本発明は、電気機械デバイスの製造方法であって、
・基板を設けることと、
・パッドが互いに接触しないように基板上に少なくとも第1のパッドと第2のパッドとを付けることと、
・ナノチューブの第1の領域が第1のパッドと接触し、ナノチューブの第2の領域が第2のパッドと接触するように、パッド上に少なくとも1つの金属カルコゲナイドナノチューブを付けることと、
・ナノチューブの下の基板表面層を除去し、それによってナノチューブを基板の上方に懸架させることと、を含む方法を提供する。
【0022】
一実施形態では、基板がSiOによって被覆されたSiを含む。一実施形態では、パッドが金層によって被覆されたクロム層を含む。
【0023】
一実施形態では、パッドを付けるステップが、フォトリソグラフィと金属付着とを含む。一実施形態では、少なくとも1つの金属カルコゲナイドナノチューブを付けるステップが、ナノチューブのドライ分散を含む。一実施形態では、ナノチューブの下の基板表面層を除去するステップが、フッ化水素酸(HF)を使用して基板層をエッチングすることを含む。一実施形態では、エッチングの後に臨界点乾燥(CPD)を行う。パッドおよびナノチューブを付ける他の方法、および表面層をエッチングする他の方法も当技術分野で知られており、本発明に含まれる。
【0024】
一実施形態では、この方法は、基板表面層を除去する前記ステップの前に、ペダルが前記ナノチューブに接触するように前記ペダルを前記ナノチューブの上に付けることをさらに含む。一実施形態では、ペダルが矩形形状であり、前記矩形の長さ(矩形形状の長手方向)が前記ナノチューブの長さ(長手方向)に対して垂直に位置づけられるようにナノチューブに取り付けられる。一実施形態では、矩形ペダルが前記ナノチューブに対して非対称に位置づけられる。一実施形態では、基板表面層を除去する前記ステップの後に、ペダルが前記基板の上方に懸架される。
【0025】
一実施形態では、この方法は、基板上に電極を形成することをさらに含む。
【0026】
一実施形態では、本発明は、電気機械共振器を動作させる方法であって、
・少なくとも1つの金属カルコゲナイドナノチューブと、
・基板と、
・任意により基板上に形成された電極と、
・基板上に組み付けられた少なくとも第1のパッドおよび第2のパッドと、
・第1および第2のパッドに接続され、任意により基板および/または任意により電極に接続された電気接点と、を含む共振器であって、
前記金属カルコゲナイドナノチューブの第1の領域が第1のパッドと接触し、ナノチューブの第2の領域が第2のパッドと接触し、ナノチューブの第3の領域が基板の上方に懸架される共振器を設けることと、
電圧が金属カルコゲナイドナノチューブの機械的応答を生じさせるように、パッドと基板との間、またはパッドと電極との間に電圧を印加することとを含む方法を提供する。
【0027】
一実施形態では、基板が被覆される。一実施形態では、被覆された基板がシリコンを含み、被覆がシリコン酸化物を含む。
【0028】
一実施形態では、機械的応答が、ねじり、面内回転、面内曲げ、位相ずれ曲げ、またはこれらの組み合わせを含む。
【0029】
一実施形態では、電気機械デバイス/共振器が、超小型無人飛行体(UAV)のナビゲーションのためのジャイロスコープとして、または、化学センサなどの物質センサとして、または生物学的センサとして使用される。一実施形態では、デバイスがペダルをさらに含み、前記ペダルは、ペダルが基板の上方に懸架されるように懸架ナノチューブと接触する。
【0030】
一実施形態では、ペダルが矩形形状であり、矩形の長さがナノチューブの長さに対して垂直に位置づけられるように、ナノチューブに取り付けられる。一実施形態では、矩形パッドがナノチューブに対して非対称に位置づけられる。一実施形態では、電圧印加がAC電圧、またはAC電圧とDC電圧の組み合わせの印加を含む。一実施形態では、前記AC電圧の周波数がRF帯にある。
【0031】
一実施形態では、デバイスを動作させる方法は、ナノチューブの機械的応答を検出することをさらに含む。一実施形態では、応答が光学的に検出される。一実施形態では、応答が電気的に検出される。一実施形態では、電気的検出が導電率測定を含む。一実施形態では、電気的検出がキャパシタンス測定を含む。
【0032】
本発明とみなされる主題については、本明細書の末尾において特に示し、明確に特許請求する。しかし、本発明は、本発明の目的、特徴、および利点とともに、構成と動作方法の両方について、以下の詳細な説明を参照することにより、添付図面とともに読めば最もよくわかるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】ナノチューブベースのねじり共振器の共振スペクトル測定のための設定(概略設定)を示す図であり、(a)多層CNT、BNNTおよびWSNTの概略構造と、(b)走査電子顕微鏡(SEM)画像と、(c)ナノチューブベースのねじり共振器の原子間力顕微鏡(AFM)画像と、(d)基板と、ナノチューブに装着されたオフセットペダルとの間にDC電圧とAC電圧を印加することによって作動させるねじり共振器とを示す図である。振幅がレーザドップラー振動計(LDV)によって検出され、ネットワーク分析器に出力される。
図2A】異なるナノチューブベースのねじり共振器の代表的共振スペクトルを示す図であり、CNT(デバイス#2)を示す図である。挿入図に、より高い分解能で測定された様々な共振ピークの式1へのフィッティングを示す。
図2B】異なるナノチューブベースのねじり共振器の代表的共振スペクトルを示す図であり、BNNT(デバイス#5)を示す図である。挿入図に、より高い分解能で測定された様々な共振ピークの式1へのフィッティングを示す。5.84MHzにおいて1つの明確なピークがあり、それより高い振動数においてLDVレーザスポットの場所に関わりなく現れたより小さく、したがって測定の一部についての比較的低い信号対雑音比が原因の測定のアーチファクトである可能性が高い特徴がある(相対振幅信号スケール参照)。
図2C】異なるナノチューブベースのねじり共振器の代表的共振スペクトルを示す図であり、WSNT(デバイス#1)を示す図である。挿入図に、より高い分解能で測定された様々な共振ピークの式1へのフィッティングを示す。
図3】カーボンナノチューブベースのねじり共振器(デバイス2、図2A)の異なる通常モードの測定共振振動数とシミュレーションされた共振振動数との比較を示す図である。中密ロッドと中空の円筒の2つの極端な層間結合の事例を調べたものである。下線付きのシミュレーション振動数は、測定振動数により近い振動数である。
図4A】CNT、BNNTおよびWSNTのねじり共振特性の比較を示す図であり、空気中および真空中における代表的なCNT、BNNTおよびWSNTベースの共振器のねじり共振ピーク(それぞれ、CNTデバイス#2(左)、BNNTデバイス#1(中央)、およびWSNT#1(右))を示す図である。括弧内の値は真空中での測定値を表す。
図4B】NT、BNNTおよびWSNTのねじり共振特性の比較を示す図であり、NT直径の関数として空気中で測定されたねじり共振器の動的ねじりばね定数を示す図である(左下CNT、中央BNNT、右上WS)。
図4C】NT、BNNTおよびWSNTのねじり共振特性の比較を示す図であり、共振器のねじりばね定数の関数としての空気中におけるすべての共振器のQファクタとを示す図である(左下CNT、中央BNNT、右上WS)。
図5A】CNT、BNNTおよびWSNT共振器の静的ねじりばね定数の測定を示す図であり、力-距離測定時のAFMカンチレバーおよびペダルの概略図である。
図5B】CNT、BNNTおよびWSNT共振器の静的ねじりばね定数の測定を示す図であり、CNT共振器(デバイス#5)の線形剛性を、ペダル両端間におけるカンチレバーの位置の関数としてプロットした図である。
図6】ペダル上のLDVシステムのレーザスポットの照準を示す図である。
図7】BNNTベースのねじりデバイス#1のFEAシミュレーションを示す図である。
図8】WSNTベースのねじりデバイス#1のFEAシミュレーションを示す図である。
図9】二硫化タングステンナノチューブベースのねじり共振器のLDVスペクトル(下)と混合スペクトル(上)とを示す図である。
図10】電気信号混合測定を示す概略説明図である。
【0034】
図を簡単にし、明確にするために、図に示す要素は必ずしも一律の縮尺では描かれていないことはわかるであろう。例えば、要素のうちの一部の要素の寸法が、明確にするために他の要素に対して誇張されている場合がある。また、適切とみなされる場合には、対応する要素または類似の要素を示すために、図面間で参照番号を繰り返し使用することがある。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下の詳細な説明では、本発明を十分に理解することができるように、多くの特定の詳細が記載される。しかし、本発明は、これらの特定の詳細がなくても実施可能であることが当業者にはわかるであろう。また、本発明が不明瞭にならないように、周知の方法、手順および構成要素については、詳細に説明していない。
【0036】
上述のように、共振NEMSの感度を決定する最も重要な要因の1つは、そのQファクタである。Qファクタが高いほど、1振動周期中に消散するエネルギーが少ない。内部摩擦、層間結合、結晶構造および化学組成が、ナノチューブのねじり挙動、特にそのQファクタ(Q)を決定する重要な役割を果たし得る。
【0037】
Qファクタに影響を与えるこれらの側面が、ねじりデバイスの有望なビルディングブロックとしての金属カルコゲナイドナノチューブの考察を促す動因であった。この目的のために、WSナノチューブ(WSNT)が、その有意な電気機械的応答、スティックスリップねじり挙動、および高通電容量のために、有望な材料であることがわかった。
【0038】
一実施形態では、本発明は、金属カルコゲナイドナノチューブに基づくねじり共振器を提供する。これらの共振器の電気機械的特性を、周囲条件および真空中においてCNTベースのねじり共振器と比較する。金属カルコゲナイドナノチューブは、より高いねじり共振振動数およびQファクタを示し、ねじりNEMSデバイスのための利用可能な材料ツールボックスを拡張することがわかった。本発明は、さらに、金属カルコゲナイドナノチューブが、NEMS全般および特にねじりNEMSのための有望なビルディングブロックであることも実証する。
【0039】
一実施形態では、本発明で開示されるねじり共振器はその静電作動を可能にする意図的対称性の破れを示す。
【0040】
ねじり共振器の一実施形態(図1)は、両端において金属パッドで挟み付けられ、上部に懸架ペダルが取り付けられた懸架ナノチューブ(MWCNT、WSNT)からなる。ペダルは、ナノチューブを基準にして中心から逸れており、それによってペダルの各端がナノチューブから異なる距離にある(図1b、図1cで、ナノチューブを基準にしてペダルの右手側がペダルの左手側より長く、図1dで、ナノチューブの線を基準にしてペダルの向こう側が手前側よりも短い)。共振器は、電子ビームリソグラフィを使用し、その後、ウェットエッチングと臨界点乾燥とによって製作した(実施例を参照)。ねじり共振器の振動挙動を測定するために、DCバイアス電圧と、より小さいAC駆動電圧とを、ネットワーク分析器を使用して基板とペダルの間に印加した。AC成分の周波数を、0.1MHzないし24MHz(本実施形態による検出システムの上限)で掃引した。基板とペダルの間の交流電圧は、ナノチューブに対するペダルの中心のずれと組み合わさって、ペダル上に振動性ネットトルクを生じさせ、それによってナノチューブを周期的にひねった。レーザドップラー振動計(LDV)を使用してペダルの振幅を検出し、これを各ナノチューブベースの共振器の共振応答を捉えるために、これを駆動AC電圧周波数の関数として示す(図1d)。
【0041】
要約すると、金属カルコゲナイドナノチューブ、すなわちWSNTおよびBNNTに基づくねじりNEMSの共振スペクトルを初めて測定し、MWCNTに基づく類似のデバイスと比較した。大気圧下で、WSNTが最も高いQファクタおよび共振振動数を示し、それにBNNTとMWCNTが続くことがわかった。特定の理論に束縛されるものではないが、これらの結果は、炭素とBNとWSNTとの間の3つの主な相違、すなわち、(i)直径(ねじりばね定数に強い影響を与える)と、(ii)剪断弾性率(ばね定数に線形に影響を与える)と、(iii)ねじり挙動全体に寄与する有効数の層に影響を及ぼす層間結合とに帰することができる。Qファクタは、空気中でのねじりばね定数への体系的依存性を有し、この依存性は、固有材料特性が支配的である、より真空度の高い真空中において有意に変化することが予想される。
【0042】
INTの場合、CNTと比較すると、層間結合がより大きいことがわかった。より大きい層間結合によって、剛性が増し、この増大により、共振振動数が高くなる。また、より大きい層間結合は、エネルギー散逸を低減し、これによってQファクタが向上する。ねじり/ひねりに対するWSNTの電気的応答(すなわち、ひねられる結果としての電気コンダクタンスの変化)は、CNTよりも高い。共振振動数が高いほど、Qファクタが高く、ねじりに対する電気的応答が高く、これらすべてによって、慣性変化に対するねじり共振器の感度が高くなる。したがって、INTに基づく本発明により提供される共振器は、CNTに基づく共振器と比べて有利である。
【0043】
ねじり共振ピークから動的ねじりばね定数を導き出し、AFMによって測定した静的ばね定数と比較した。CNTおよびBNNTの場合は動的ねじりばね定数が静的ばね定数よりもわずかに高いが、WSNTの動的kは、静的kよりも大幅に大きいことがわかった。この定数の差は、速度依存層間摩擦に由来する可能性があるが、この興味深い挙動を完全に理解するためにはさらなる研究が必要である。様々なNTの共振スペクトルを真空条件下でも測定した。空気減衰の低下によるすべてのNTのQファクタの予期された上昇を観察したにもかかわらず、NTの真の固有挙動の観察を可能にするのに十分な真空度にはまだ達していないと考えられている。より高い真空度での今後の実験により、金属カルコゲナイドナノチューブのねじり機械的特性のより正確な値が得られるであろう。それでも、取得可能なデータにより、固有ねじり共振特性の有意な推算が得られ、金属カルコゲナイドナノチューブがカーボンナノチューブよりも高い共振振動数およびQファクタを有することが示され、したがって、有用なNEMSデバイスのビルディングブロックの役割を果たす金属カルコゲナイドナノチューブの高い可能性が実証される。WSNTおよびBCNNT(BCNNT=炭窒化ホウ素ナノチューブ)のねじれ運動時の電気機械結合は、ねじれ運動の電気的検出を原理上可能にすることができ、それによって、NEMSのビルディングブロックとしての金属カルコゲナイドナノチューブの可能性にさらに寄与する可能性がある。
【0044】
ある実施形態では、デバイスはペダルを含み、他の実施形態では、デバイスはペダルを含まないことを注記しておく。ペダルを含むデバイスでは、ペダルは単に電気機械的オフセットの分析のためだけのものではなく、実施形態によってはデバイスの一部である。ペダルは、慣性挙動を有する質量を与え、共振振動数を変調する。デバイスがペダルを含まない実施形態では、他の共振電気機械的機能が可能とされる。例えば、ストリングとしてのナノチューブの振動に基づくデバイスも本発明の実施形態に含まれる。この態様によると、一実施形態では、2つの固定部またはパッドの間の、基板の上方に懸架されたナノチューブ部分は、ナノチューブに取り付けられた追加の構造体を含まない。一実施形態では、本発明は、無機ナノチューブを含む共振器を提供する。一実施形態では、本発明は、無機ナノチューブを含む電気機械共振器を提供する。一実施形態では、本発明は、無機ナノチューブを含む共振器であって、共振器が電気的に起動される共振器を提供する。一実施形態では、本発明のデバイスの電気的起動が機械的応答を生じさせる。一実施形態では、本発明のデバイスの電気的起動が共振応答を生じさせる。一実施形態では、特定の共振振動数での電気的起動が、ナノチューブを回転または振動させる。一実施形態では、特定の周波数での電気的起動は、回転/振動が検出可能なようにナノチューブを回転または振動させる。一実施形態では、特定の振動数での電気的起動が、回転/振動が他のデバイス/システムをさらに起動するために使用されるように、ナノチューブを回転または振動させる。一実施形態では、本発明のデバイスにおけるナノチューブの動きが、電気的応答を生じさせる。一実施形態では、電気的応答が検出または記録される。一実施形態では、電気的応答は他のデバイス/システムを起動するために使用される。上記の各デバイスは、以下で説明するようにさらに特徴づけられる。
【0045】
「ナノ構造」という用語は、ナノメートル範囲(すなわち、特定の実施形態によると、0.1nmと100nmの間、または、0.1nmと500nmの間、または、0.1nmと999nmの間)における少なくとも1つの寸法を有する任意の3次元構造を包含するものと意図されている。本発明によると、ナノチューブの形態のナノ構造は、一般式MpXqの少なくとも1つの金属カルコゲナイド化合物のロールアップシートを含み、ここで、Mは金属、Xはカルコゲナイド原子(イオン)、pおよびqは0と3の間の任意の数である。一実施形態では、p、qまたはこれらの組み合わせは整数である。一実施形態では、ナノチューブ(NT)は、チューブの形態の上述のナノ構造である。
【0046】
他の実施形態によると、ナノチューブの形態のナノ構造が、一般式Mの少なくとも1つの金属カルコゲナイド化合物のロールアップシートを含み、ここで、Mは第1の金属、Mは第2の金属、Xは第1のカルコゲナイド、Xは第2のカルコゲナイド原子(イオン)であり、pおよびqは0と3の間である。一実施形態では、p1、p2、q1、q2またはこれらの組み合わせは整数である。ある実施形態では、p1、p2、q1、q2またはこれらの組み合わせは整数ではない。一実施形態では、p1はゼロであり、p2、q1およびq2はゼロではない。一実施形態では、q1はゼロであり、p1、p2およびq2はゼロではない。一実施形態では、金属カルコゲナイド化合物は、1種類の金属と1種類のカルコゲナイドとを含む。一実施形態では、金属カルコゲナイド化合物は、2種類の金属と1種類のカルコゲナイドとを含む。一実施形態では、金属カルコゲナイド化合物は、1種類の金属と2種類のカルコゲナイドとを含む。一実施形態では、金属カルコゲナイド化合物は、2種類の金属と2種類のカルコゲナイドとを含む。
【0047】
上記の説明は、本発明のナノチューブを作製するための可能な金属カルコゲナイドの一例である。本発明のナノチューブには、1種類のみの金属(例えばWのみ)と1種類のみのカルコゲナイド(例えばSのみ)とを含む金属カルコゲナイド、複数の金属と1種類のみのカルコゲナイドとを含む金属カルコゲナイド、1種類のみの金属と複数のカルコゲナイドとを含む金属カルコゲナイド、複数の金属と複数のカルコゲナイドを含む金属カルコゲナイドを含む、任意の金属カルコゲナイド化合物が含まれることを注記しておく。複数のナノチューブが使用されるデバイスにおいて、上記のナノチューブの組み合わせを使用することができる。特定の一実施形態では、ナノチューブは式MXnのものであり、ここで、Mは金属、Xはカルコゲナイドであり、nは0と3の間の範囲である。別の特定の実施形態では、ナノチューブは式MXnのものであり、ここで、Mは金属、Xはカルコゲナイドであり、nは1、2または3の値の整数である。
【0048】
ある実施形態では、ナノ構造は、ナノチューブ、ナノスクロール、ナノケージ、またはこれらの任意の組み合わせから選択される。
【0049】
金属カルコゲナイドナノチューブという用語は、(実施形態によっては炭素原子で構成されない)金属カルコゲナイド化合物を含むナノチューブを包含するものと意図されている。ナノチューブは、2次元シート(すなわち、金属カルコゲナイド化合物のシート)からなり、シートは巻かれてチューブを形成する。シート内の原子は、強い化学結合によって保持される。
【0050】
一実施形態では、無機ナノチューブ(INT)とは、炭素を含まないナノチューブを指す。一実施形態では、「無機ナノチューブ」という用語は、カーボンナノチューブを含まない。一実施形態では、無機ナノチューブは、炭素を含まず、無機成分のみからなる。
【0051】
本発明のナノチューブは、一実施形態では単層とすることができる。ある実施形態では、本発明のナノチューブは多層ナノチューブである。本発明のあるデバイスでは、単層ナノチューブと多層ナノチューブの両方が存在する。ある実施形態では、ナノチューブは、1層の材料を含む単層の閉チューブである。一実施形態では、多層ナノチューブが、複数の閉中空チューブを含み、より直径の小さいチューブがより直径の大きいチューブ内に位置づけられる。他の実施形態では、チューブはヘリカルチューブである。一実施形態では、チューブはスパイラルチューブである。
【0052】
ある実施形態では、本発明のデバイスは共振器である。ある実施形態では、本発明の電気機械デバイスは共振器である。
【0053】
本発明の金属カルコゲナイドは、上述したような式MXのものであり、ある実施形態では、Mは任意の金属である。ある実施形態では、金属Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、または半金属とすることができる。
【0054】
ある実施形態では、金属Mは、Li、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLu、Ca、Sr、Ba、Sn、Pb、Sb、Bi、レアアース、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Nb、Ta、W、およびMo、Re、Zr、Hf、Pt、Ru、Rh、In、Ga、および、WMo、TiW、WMo1-zのような合金から選択される。ある実施形態では、これらの金属が、上述したような式Mの本発明の金属カルコゲナイドに存在する。
【0055】
ある実施形態では、カルコゲナイド(X)または(X)/(X)が、S、Se、Teから選択される。
【0056】
ある実施形態では、ナノチューブの直径は、1nmと999nmの間、または1nmと990nmの間、または1nmと900nmの間の範囲である。ある実施形態では、ナノチューブの直径は、10nmと999nmの間、または10nmと990nmの間、または10nmと900nmの間の範囲である。ある実施形態では、ナノチューブの直径は、20と600nmの間、20nmと500nmの間、20と400nmの間、20と350nmの間、20と300nmの間、20と250nmの間、20と200nmの間、20と150nmの間、またはさらに20と100nmの間の範囲である。ある実施形態では、チューブ状ナノ構造体の直径は、約25と約500nmの間、約50と約500nmの間、約100と約500nmの間、約150と約500nmの間、約200と約500nmの間、約250と約500nmの間、またはさらに約300と約500nmの間である。さらなる実施形態では、チューブ状ナノ構造体の直径が、約25と約400nmの間、約50と約350nmの間、または約100と約250nmの間である。
【0057】
ナノスクロールは、ワイヤ状の構造であり、金属カルコゲナイド材料の層が巻物型になっており、ワイヤ状スクロールの直径がナノメートル範囲内にある。ある実施形態では、ナノスクロールは、中空の中心部を含まない。他の実施形態では、ナノスクロールは、中空の中心部を含む。本発明の実施形態において、ナノチューブに言及する場合、同実施形態はナノスクロールにも適用可能である。
【0058】
2次元ロールアップ材料の層を含む多層ナノチューブでは、層の数は一実施形態では2層と10層の間、ある実施形態では2層と20層の間の範囲である。
【0059】
それぞれが閉チューブ状に形成された層を含むナノチューブの場合、ナノチューブの断面は1つの同心円が他の同心円の内側にある、2ないし10または2ないし20の同心円を呈する。
【0060】
上述したような(多層)ナノスクロールにおいて、層の数は、スクロールの内側の層からまたはスクロールの断面の中心から最も外側の層まで外側に向かって数えることができる。
【0061】
ある実施形態では、本発明のナノチューブまたはナノスクロールは、被覆されている。一実施形態では、被覆層は無機材料を含む。一実施形態では、被覆層は有機材料を含む。
【0062】
ある実施形態では、本発明の電気機械デバイス/共振器は、光学作動/感知と組み合わされる。ある実施形態では、本発明の電気機械デバイスは、磁気作動/感知と組み合わされる。ある実施形態では、本発明の電気機械デバイスは、電気作動/感知と組み合わされる。一実施形態では、本発明の電気機械デバイスは、化学/生物学的物質の存在を感知するためのセンサとして使用される。一実施形態では、感知される物質は水である。一実施形態では、本発明のデバイスに基づくセンサ/検出器は、湿度センサ(水分センサ)、物質検出器、化学センサ/検出器、生物学的センサ/検出器、密度検出器、地質学検出器を含む。一実施形態では、本発明の電気機械デバイスは、化学/生物学的物質の反応の動力学を評価するためのセンサとして使用される。
【0063】
一実施形態では、本発明のデバイスにおけるパッド間の間隔(距離)は、10nmと100nmの間、または10nmと200nmの間、または10nmと10μmの間、または10nmと500nmの間、または100nmと1000nmの間、または1μmと10μmの間、または1μmと5μmの間、または10nmと10μmの間、または10nmと100μmの間の範囲である。
【0064】
一実施形態では、本発明のナノチューブの長さは、100nmと100μmの間、または10nmと100nmの間、または1μmと10μmの間、または1μmと100μmの間、または100nmと1000nmの間の範囲である。一実施形態では、ナノチューブの長さは、20nmと100nmの間、または20nmと1000nmの間、または10nmと200μmの間の範囲である。
【0065】
カルコゲナイドは、少なくとも1個のカルコゲンアニオンと少なくとも1個のカチオンとからなる化合物である。カルコゲナイドアニオンは、周期表の16族に属する原子から形成される。金属カルコゲナイドは、金属カチオンとカルコゲナイドアニオンからなる化合物である。ある実施形態では、「カルコゲナイド」という用語は、アニオンのみを指すが、他の実施形態では「カルコゲナイド」という用語は、カルコゲナイドアニオンと金属カチオンとを含む化合物を指す。
【0066】
ある実施形態では、本発明のデバイスの製造は、以下の方法のうちの1つまたは複数を含む。すなわち、溶液からの付着(例えば電着または無電解析出、飽和、遠心分離)、PVD、CVD、電子ビーム蒸着または抵抗加熱蒸着などの気相堆積/蒸着法である。ある実施形態では、本発明のデバイスの各部を形成するために使用される方法は、STM、AFMなど、可動先端部と表面とを使用する方法、またはSTMおよびAFMデバイスおよびシステムに関係する方法を含む。一実施形態では、本発明の構造は、溶液から、または気相から表面上への原子/分子の自己集合を利用する。一実施形態では、様々な露光パラメータを使用する電子ビームリソグラフィを使用して、本発明のデバイスにおける構造が形成される。一実施形態では、スタンピング、成形、ソフトリソグラフィ、UVおよび電子ビームリソグラフィ、および関連する方法を含む方法を使用して、本発明のデバイスにおける構造および構成要素がパターン形成/形成される。ウェットエッチング、ドライエッチング、レジスト塗布およびリフトオフ、スピンコーティング、ドロップキャスティング、および関連する方法を含む方法を使用して、本発明のデバイスにおける構成要素および構造がパターン形成/形成される。上記の技法のうちの技法の組み合わせも、本発明のデバイスを製作するのに有用であり得る。本発明の構造を形成するために、当業者に知られているような任意の他の方法も使用可能である。
【0067】
ドーピング
【0068】
一実施形態では、ナノチューブ/ナノスクロールはドープされる。一実施形態では、ドーパント材は非金属である。本態様によると、一実施形態では、ナノチューブ/ナノスクロールにおけるドーパントは水素、酸素、フッ素またはナトリウムである。中性原子またはイオンの形態の他の任意の元素も本発明の実施形態におけるドーパントとして使用可能である。
【0069】
別の実施形態では、ドーパントは金属である。本態様によると、一実施形態では、ドープ金属カルコゲナイドナノチューブの一般構造式は、A(1-x)-B-カルコゲナイドである。原子(イオン)Bが、AとBの性質と、組み込まれるBの量、すなわちA-Bカルコゲナイド格子内のxの値との関数としてその特性を変化させるA-カルコゲナイドの格子に組み込まれる。ある実施形態では、Aカルコゲナイドの格子へのBの組み込みにより、高電導半導体の形成、または、既知の半導体(すなわち選択されたAカルコゲナイド)から得られる金属および金属様ナノチューブの形成にも至る、電子特性の変化が生じる。
【0070】
したがって、ある実施形態では、本発明のナノチューブ/ナノスクロールは、式A(1-x)-B-カルコゲナイドの無機金属カルコゲナイドナノチューブを含み、ここで、Aは金属/遷移金属、または、そのような金属/遷移金属の合金であり、Bは金属または遷移金属であり、xは、A≠Bであることを条件として0.3以下である。
【0071】
金属Aは、Mo、W、Re、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Pt、Ru、Rh、In、Ga、およびWMo、TiW、WMo1-zのような合金から選択される、金属または遷移金属、または金属または遷移金属の合金とすることができる。他の実施形態では、金属Aは、金属カルコゲナイドナノチューブを形成する任意の金属または任意の金属合金から選択される。
【0072】
ある実施形態では、金属Bは、Si、Nb、Ta、W、Mo、Sc、Y、La、Hf、Ir、Mn、Ru、Re、Os、V、Au、Rh、Pd、Cr、Co、Fe、Ni、およびWMo1-zのような合金から選択される。
【0073】
ナノチューブ内では、Bおよび/またはB-カルコゲナイドがA-カルコゲナイド内に組み込まれる。ある実施形態では、カルコゲナイドは、S、Se、Teから選択される。例えば、本発明のナノチューブは、Mo1-xNb、Mo(W)1-xReであってもよく、またはWMoS、WMoSe、TiWS、TiWSeの合金を含むかまたは合金からなってよく、NbまたはReがその中にドープされる。本発明の合金においては、WMo、TiWを例にとると、WとMoまたはTiとWとの比率は、一方の金属または遷移金属の0.65ないし0.75、他方の金属または遷移金属の0.25ないし0.35であってよく、例えばW0.70.29Nb0.01(Nbドーパントの割合とともに示す)であってよい。他の実施形態では、金属Bは、金属カルコゲナイドナノチューブ中のドーパントとして使用可能な任意の金属から選択される。
【0074】
組み込まれるとは、Bおよび/またはB-カルコゲナイドが、A-カルコゲナイド格子内に均一にドープされるかまたは合金化されることを意味する。Bおよび/またはB-カルコゲナイドは、格子内のA原子を置き換える。このような置換は、連続置換または交替置換とすることができる。
【0075】
一実施形態では、ドーパントの濃度は、ナノチューブの総金属含有量の0.1%と40%の間の範囲である。一実施形態では、A(1-x)-B-カルコゲナイドの式において、xは0.01未満である。一実施形態では、xは0.005未満である。一実施形態では、xは0.005と0.01の間である。
【0076】
一実施形態では、ドーパントは、ナノチューブの総金属含有量の0.0001%と10%の間である。一実施形態では、カルコゲナイドは、S、Se、およびTeから選択される。一実施形態では、ナノチューブは、Mo1-xNb、Mo1-xNbSe、W1-xTa、W1-xTaSe、MoNb1-x-y、MoNb1-x-ySe、Re1-x、Ti1-xSc、Zr1-x、Hf1-xLa、Ta1-xHf、Pt1-xIr、Ru1-xMn、Rh1-xRu、Mo1-xRe、W1-xRe、Re1-xOs、Ti1-x、Zr1-xNb、Hf1-xTa、Ta1-x、Pt1-xAu、Ru1-xRh、Rh1-xRhから選択された材料を含むかまたはこれらから選択された材料からなり、0.0001<x0.5、および0.0001<y<0.5、または、0.0001<x<0.9999、および0.0001<y<0.9999、または0.0001<x<0.5、または0.0001<x0.9999、または0.0001<x<1.9999、または0.0001<x<1.9999、および0.0001<y<1.9999である。
【0077】
1つの化合物におけるカルコゲナイドの混合も、上述のような本発明の一実施形態である。本態様によると、一実施形態では、ナノチューブはWS2-xSe、Mo1-xWxS2-ySe、WS2-x-ySeTeなどを含むかまたはこれらからなる。
【0078】
一実施形態では、本発明の金属カルコゲナイドナノチューブは、ミスフィット化合物を含む。一実施形態では、金属カルコゲナイドナノチューブは、BiSeを含むか、BiSeからなる。
【0079】
電気機械デバイスは、電気エネルギーが機械エネルギーに、またはその逆に変換されるデバイスである。例えば、電気機械デバイスでは電気的刺激に応答して運動が発生する。
【0080】
本発明の実施形態では、ペダルがナノチューブに取り付けられる1片の材料であり、電気的刺激に応答するナノチューブの機械的特性(例えば運動/回転/曲げ/振動)を検出するために使用される。本発明の実施形態では、ペダルは、本発明のデバイスにおけるナノチューブによって行われる機械的動作を変更、可能化、平衡化、増強、低減、移転、吸収、呈示、感知、検出、および/または制御する。
【0081】
一実施形態では、ナノチューブはカーボンナノチューブを含まない。一実施形態では、ナノチューブは炭素を含まない。一実施形態では、本発明のデバイスはカーボンナノチューブを含まない。
【0082】
臨界点乾燥(CPD)は、液気界面なしに液体から気体に円滑に移行する超臨界液体COによって洗浄することによって、溶媒の表面張力の破壊的影響を受けることなく試料を乾燥させることを伴う方法である。
【0083】
一実施形態では、本発明のデバイスにおけるナノチューブは、カーボンナノチューブを含まない。一実施形態では、本発明のデバイスにおけるナノチューブは炭素を含まない。
【0084】
本発明の共振器
【0085】
一実施形態では、本発明は、少なくとも1つの金属カルコゲナイドナノチューブを含む電気機械共振器を提供する。一実施形態では、デバイスは1つのナノチューブを含む。一実施形態では、デバイスは複数のナノチューブを含む。一実施形態では、本発明は、本発明の1つまたは複数のデバイス/共振器を含むシステムまたは装置を提供する。本態様によると、一実施形態では、本発明のシステムおよび装置は、一実施形態において1つのナノチューブを含むか、または他の実施形態において複数のナノチューブを含む。一実施形態では、本発明のシステムおよび装置は、プローブ、モニタ、コントローラ、測定デバイス、コンピュータ化要素、電気接点、光学機器、電流/電圧発生器、緩衝器、電気構成要素、光学構成要素、および、本発明の電気機械デバイス、システムおよび装置の動作および機能を可能/容易にするその他の要素をさらに含む。一実施形態では、デバイスは、マイクロ電気機械(MEM)デバイス、ナノ電気機械(NEM)デバイス、またはこれらの組み合わせである。
【0086】
一実施形態では、金属カルコゲナイドナノチューブは、WS、MoS、WSe、MoSeを含む。一実施形態では、金属カルコゲナイドナノチューブは、Mo1-xNb、Mo1-xNbSe、W1-xTa、W1-xTaSe、MoNb1-x-y、MoNb1-x-ySe、Re1-x、Ti1-xSc、Zr1-x、Hf1-xLa、Ta1-xHf、Pt1-xIr、Ru1-xMn、Rh1-xRu、Mo1-xRe、W1-xRe、Re1-xOs、Ti1-x、Zr1-xNb、Hf1-xTa、Ta1-x、Pt1-xAu、Ru1-xRh、Rh1-xPd、WS2-xSe、Mo1-x2-ySe、WS2-x-ySeTeを含む。一実施形態では、ナノチューブは、別の物質によりドープされる。一実施形態では、ナノチューブは金属によりドープされる。一実施形態では、金属はNbまたはReである。一実施形態では、ドーピング物質は、水素、酸素、フッ素またはナトリウムを含む。
【0087】
一実施形態では、本発明の電気機械デバイスは、共振器と、ジャイロスコープと、加速度計と、質量センサと、磁力計と、可動鏡とからなるグループから選択される。
【0088】
一実施形態では、ナノチューブの直径は、1nmと1000nmの間の範囲である。一実施形態では、ナノチューブの直径は、1nmと100nmの間の範囲である。一実施形態では、ナノチューブの直径は、1nmと10nmの間、または10nmと50nmの間、または50nmと250nmの間、または250nmと500nmの間、または500nmと1μmの間の範囲である。
【0089】
一実施形態では、単一のナノチューブの場合、ナノチューブは単層または多層ナノチューブである。一実施形態では、複数のナノチューブの場合、ナノチューブは単層、多層またはこれらの組み合わせである。一実施形態では、ナノチューブは少なくとも部分的に中空である。一実施形態では、ナノチューブは中空ではない。
【0090】
一実施形態では、本発明のデバイス/共振器は、
・基板と、
・少なくとも第1のパッドおよび第2のパッドと、
・電気接点と
をさらに含む。
【0091】
一実施形態では、ナノチューブの第1の領域は、第1のパッドと接触し、ナノチューブの第2の領域は、第2のパッドと接触する。一実施形態では、第1のパッドと第2のパッドのそれぞれが基板と接触する。一実施形態では、基板は被覆される。一実施形態では、基板はSiを含み、被覆はSiOを含む。一実施形態では、基板はドープSiである。一実施形態では、基板は導電性である。一実施形態では、基板上の被覆は、電気的に絶縁性である。
【0092】
一実施形態では、前記ナノチューブの少なくとも一部が表面の上方に懸架されている。一実施形態では、ナノチューブの懸架部は2つのパッドの間に配置される。一実施形態では、ナノチューブの懸架部は2つのパッド間を架橋し、基板の表面の上方に(または被覆された基板の上方に)懸架される。一実施形態では、電気接点はパッドに接続される。一実施形態では、少なくとも1つの電気接点が各パッドに接続される。一実施形態では、電気接点はパッドを、電気機器、測定機器、パッドに電流/電圧を印加する機器、またはこれらの組み合わせに接続する。一実施形態では、基板は低電気抵抗の材料である。一実施形態では、電気接点は基板に接続される。一実施形態では、基板に接続された電気接点が基板を、電気機器、測定機器、基板に電流/電圧を印加する機器、またはこれらの組み合わせに接続する。
【0093】
一実施形態では、デバイスはペダルをさらに含む。一実施形態では、ペダルはナノチューブと接触している。一実施形態では、ペダルは、矩形形状であり、矩形の長さがナノチューブの長さに対して垂直に位置するようにナノチューブに取り付けられる。一実施形態では、矩形パッドはナノチューブに対して非対称に位置づけられる。一実施形態では、ナノチューブは基板の上方に懸架される。一実施形態では、デバイスは、電子機器を含むかまたは電子機器に接続される。一実施形態では、機器は、ネットワーク分析器、オシロスコープ、ロックイン増幅器、スペクトル分析器、RF信号発生器、電源、AC発電機、DC発電機、信号発生器、パルス発生器、関数発生器、波形発生器、デジタルパターン発生器、振動数発生器、またはこれらの組み合わせを含む。一実施形態では、デバイスに印加された電圧がナノチューブにおいて機械的応答を生じさせる。
【0094】
一実施形態では、デバイスは電子構成要素をさらに含む。
【0095】
一実施形態では、パッドと基板とが電気接点によってネットワーク分析器(または上記で列挙した任意の他の機器)に接続され、ネットワーク分析器(または上記で列挙した任意の他の機器)は電気接点を使用して、パッド間および基板間に電圧を印加する。
【0096】
一実施形態では、印加される電圧は前記ナノチューブにおいて機械的応答を生じさせる。一実施形態では、印加される電圧は、DC電圧とAC電圧とを含む。一実施形態では、デバイスのQファクタは、1と1000000との間の範囲である。一実施形態では、デバイスのQファクタは、1と100の間の範囲である。一実施形態では、デバイスのQファクタは100と1000の間の範囲である。一実施形態では、デバイスのQファクタは、1000と1000000の間の範囲である。一実施形態では、デバイスのQファクタは、1と5の間の範囲である。
【0097】
一実施形態では、デバイス/共振器は、基板上に形成された電極をさらに含む。本態様によると、一実施形態では、パッドを電圧発生器の1つの極に接続し、基板上の電極を電圧発生器の別の極に接続することによって、デバイスに電圧が印加される。本態様によると、一実施形態では、絶縁被覆の下の基板を電圧発生器に接続するのではなく、電極が電圧発生器に接続される。一実施形態では、このような接続によって、ナノチューブが機械的応答を示すように、電極とパッドの間に電圧を発生させることができる。本態様によると、一実施形態では、電極は電気接点を介して電圧発生器に(または上述の任意の他の電圧源に)接続される。
【0098】
製造方法
【0099】
一実施形態では、本発明は、電気機械デバイスの製造方法であって、
・基板を用意するステップと、
・パッドが互いに接触しないように、前記基板上に少なくとも第1のパッドと第2のパッドとを取り付けるステップと、
・ナノチューブの第1の領域が前記第1のパッドと接触し、前記ナノチューブの第2の領域が前記第2のパッドと接触するように、前記パッド上に少なくとも1つの金属カルコゲナイドナノチューブを取り付けるステップと、
・前記ナノチューブの下の基板表面層を除去し、それによって前記基板の上方に前記ナノチューブを懸架するステップと、を含む方法を提供する。
【0100】
一実施形態では、基板はSiOによって被覆されたSiを含む。一実施形態では、基板表面層を除去することは、基板の被覆の層を除去することを含む。一実施形態では、基板表面層を除去することは、基板のSiO被覆の層を除去することを意味する。本態様によると、一実施形態では、被覆された基板を「基板」と呼ぶ。本態様によると、被覆は基板の一部である。他の実施形態では、基板上の被覆層を被覆または被覆層と呼び、基板を含まない。
【0101】
一実施形態では、パッドは、金層によって被覆されたクロム層を含む。一実施形態では、パッドを取り付けるステップは、フォトリソグラフィと金属付着とを含む。一実施形態では、少なくとも1つの金属カルコゲナイドナノチューブを取り付けるステップは、前記ナノチューブのドライ分散を含む。一実施形態では、ナノチューブの下の基板表面層を除去するステップは、フッ化水素酸(HF)を使用して基板層をエッチングするステップを含む。一実施形態では、エッチングの後に臨界点乾燥(CPD)が行われる。本発明の基板をエッチングするために他のエッチング技術および他のエッチング剤も使用可能である。より長いかまたはより短いエッチング時間を使用して、本発明の基板/被覆された基板のエッチング断面/エッチング深度を制御することができる。エッチング材、エッチング温度、およびエッチャント溶液濃度など、他のエッチングパラメータを変更してエッチングプロセスを制御することも可能である。このような変更は当業者に知られている。
【0102】
一実施形態では、方法は、基板上に電極を形成するステップをさらに含む。電極は、一実施形態ではリソグラフィを使用して形成することができる。基板上に電極を形成するために、任意の他の知られている形成技術を使用することができる。電極は、パッドの形成の前または後に形成することができる。電極は、実施形態によってはパッド上にナノチューブを取り付ける前または後に形成することができる。本発明の実施形態において、必要に応じて基板上に複数の電極を形成することができる。
【0103】
動作方法
【0104】
一実施形態では、本発明は、電気機械デバイス/共振器を動作させる方法であって、
・少なくとも1つの金属カルコゲナイドナノチューブと、
・基板と、
・任意により前記基板上に形成された電極と、
・前記基板上に取り付けられた少なくとも第1のパッドおよび第2のパッドと、
・前記第1および第2のパッドと、任意により前記基板および/または任意により前記電極に接続された電気接点とを含むデバイスであって、
前記金属カルコゲナイドナノチューブの第1の領域が前記第1のパッドと接触し、前記ナノチューブの第2の領域が前記第2のパッドと接触し、前記ナノチューブの第3の領域が前記基板の上方に懸架されたデバイスを用意するステップと、
電圧が前記金属カルコゲナイドナノチューブの機械的応答を生じさせるように、前記パッドと前記基板の間、または前記パッドと前記電極の間に電圧を印加するステップとを含む方法を提供する。
【0105】
一実施形態では、共振器はDC電圧によって起動される。一実施形態では、共振器はAC電圧によって起動される。一実施形態では、共振器は、DC電圧とAC電圧との組み合わせによって起動される。一実施形態では、共振器は、RF信号発生器によって起動される。一実施形態では、共振器は、関数発生器によって起動される。一実施形態では、共振器の起動は、ネットワーク分析器、オシロスコープ、ロックイン増幅器、スペクトル分析器、RF信号発生器、AC発電機、DC発電機、信号発生器、パルス発生器、電源、関数発生器、波形発生器、デジタルパターン発生器、周波数発生器、またはこれらの組み合わせのうちの1つまたは複数の機器を使用して行われる。一実施形態では、デバイスに印加される電圧は、上述の機器のうちの任意の1つまたは複数の機器を使用して印加される。
【0106】
一実施形態では、デバイスの機械的応答が検出される。一実施形態では、デバイスの機械的応答は、光学的に検出される。一実施形態では、デバイスの機械的応答は、電気的に検出される。一実施形態では、デバイスの機械的応答は、特定の1つの振動数または特定の複数の振動数での共振を含む。一実施形態では、デバイスの共振振動数は上記したように検出される。一実施形態では、信号を発生するためにデバイスの共振挙動が使用される。
【0107】
一実施形態では、デバイスの機械的応答は、上記したような機械的変形に対する無機ナノチューブの電気的応答を測定することによって電気的に検出される。
【0108】
一実施形態では、機械的応答の光学的検出は、レーザドップラー振動計、レーザ干渉計、光学顕微鏡、または当技術分野で知られているその他の方法によって行われる。ある実施形態では、電気的検出は、ロックイン増幅器、ネットワーク分析器、スペクトル分析器および/または任意の汎用電気回路を使用して行われる。共振器に電圧を印加するための上記のいくつかの電気機器を使用して、本発明の実施形態におけるナノチューブの機械的応答を検出することができる。
【0109】
一実施形態では、デバイスの機械的応答は、上記したように機械的変形に対する無機ナノチューブの電気的応答を測定することによって電気的に検出される。
【0110】
一実施形態では、機械的応答の検出は、変形時のナノチューブのコンダクタンスの変化を測定することによって行われる。
【0111】
一実施形態では、機械的応答の検出は、変形時の共振器のキャパシタンスの変化を測定することによって行われる。(ナノチューブが動くとナノチューブと基板の間、またはナノチューブと電極の間のキャパシタンスが変化する。)
【0112】
一実施形態では、基板は被覆される。一実施形態では、被覆された基板はシリコンを含み、前記被覆はシリコン酸化物を含む。
【0113】
一実施形態では、基板の上方に懸架されたナノチューブの領域は、第1のパッドと第2のパッドの間に位置する。一実施形態では、基板の上方に懸架されたナノチューブの少なくとも1つの領域が、第1のパッドと第2のパッドの間に位置する。
【0114】
一実施形態では、機械的応答は、ねじり、面内回転、面内曲げ、位相ずれ曲げ、またはこれらの組み合わせを含む。
【0115】
一実施形態では、電気機械デバイスは、超小型無人飛行体(UAV)のナビゲーションのためのジャイロスコープとして、または化学センサとして、または生物学的センサとして使用される。一実施形態では、デバイスはペダルをさらに含み、ペダルは、ペダルが前記基板の上方に懸架されるように、懸架ナノチューブと接触している。図1dに、ペダルとナノチューブとが基板の上方に懸架されているデバイスの一実施形態を示す。
【0116】
一実施形態では、ペダルは矩形形状であり、前記矩形の長さが前記ナノチューブの長さに対して実質的に垂直に位置するように前記ナノチューブに取り付けられる。一実施形態では、矩形パッドは、前記ナノチューブに対して対称に位置づけられる。一実施形態では、矩形パッドは前記ナノチューブに対して非対称に位置づけられる。一実施形態では、対称および非対称とは、ナノチューブの長さに対するペダルの向きを指す。例えば、対称な向きでは、ナノチューブの一方の側のペダルの部分が、ナノチューブの他方の側のペダルの部分と同じ形状および大きさである。ある実施形態では、非対称な向きでは、ナノチューブの一方の側のペダルの部分がナノチューブの他方の側のペダルの部分よりも小さいかまたは大きい。ある実施形態では、このような非対称の結果として、ペダルがナノチューブに対して対称な向きとされている場合のデバイスの電気機械的特性とは異なる特定の電気機械的特性が生じる。
【0117】
一実施形態では、ナノチューブの長さに対するペダルの長さの垂直または実質的に垂直な向きとは、ナノチューブの長さに対して、90度の角度、または85度と95度の間、80度と100度の間、または70度と110度の間の、任意の角度にあることを意味する。ナノチューブに対するペダルの他の角度方向も本発明の実施形態において使用される。ある実施形態では、ペダルは非矩形形状を有する。他のペダル形状および、ナノチューブに対するペダルの他の向きも、本発明の実施形態において可能である。例えば、丸いペダルまたは円形ペダル、涙形、ワイヤ状、楕円形、または完全に非対称のペダル幾何形状も本発明の実施形態において使用される。使用される各ペダル形状について、ナノチューブの長さに対するいかなる非対称の向きも本発明の実施形態に含まれる。本発明の実施形態において、ナノチューブの一方の側にあるペダル部分の大きさは、ペダルの他方の側にあるペダル部分の大きさとは異なる。ペダルの大きさを変更し、本発明のデバイスの様々な用途に合わせることができる。
【0118】
一実施形態では、電圧の印加はAC電圧、またはAC電圧とDC電圧の組み合わせの印加を含む。一実施形態ではAC電圧の周波数はRF帯内にある。
【0119】
一実施形態では、デバイスを動作させる方法は、ナノチューブの機械的応答を検出するステップをさらに含む。一実施形態では、応答は光学的に検出される。一実施形態では、応答は電気的に検出される。一実施形態では、電気的検出は導電率の測定を含む。一実施形態では、電気的検出はキャパシタンスの測定を含む。
【0120】
一実施形態では、本発明のデバイスは電気機械共振器を含む。一実施形態では、本発明のデバイスは電気機械共振器である。一実施形態では、本発明の共振器はデバイスである。一実施形態では、デバイスは電気機械デバイスである。一実施形態では、本発明の共振器は電気機械デバイスを含む。一実施形態では、共振器の説明はデバイスの説明を意味する。
【0121】
RF、ACおよびDCという用語は、当技術分野で知られている電子技術用語である。
【0122】
一実施形態では、ナノチューブの一部が基板の上方に懸架される。一実施形態では、基板の上方に懸架されるナノチューブとは、ナノチューブの一部が基板の上方に懸架される一方で、ナノチューブの懸架部分がパッドに取り付けられたナノチューブの2つの部分の間に配置されるようにナノチューブの少なくとも2つの固定部がパッドに(各部分が別個のパッドに)取り付けられることを意味する。
【0123】
一実施形態では、本発明の共振器の共振振動数は、15と24MHzの間の範囲である。一実施形態では、本発明の共振器の共振振動数は、10と30MHzの間の範囲である。一実施形態では、本発明の共振器の共振振動数は、7と30MHzの間または7と50MHzの間の範囲である。一実施形態では、共振振動数はねじり共振振動数である。一実施形態では、共振振動数はMHz帯にある。一実施形態では、共振振動数は、KHz帯にある。
【0124】
一実施形態では、共振器を起動するために共振器に電圧が印加される。一実施形態では、共振器に電圧を印加するためにRF発生器が使用される。一実施形態では、デバイス/共振器に電圧を印加するためにAC発電機が使用される。一実施形態では、印加されるAC電圧の振動数はRF(無線振動数)帯にある。一実施形態では、印加される電圧の振動数はMHz帯にある。
【0125】
本発明の実施形態では、セルフセンシングとは、デバイスの起動とデバイスの応答の検出とが、同一かまたは類似の技術を使用して、または同一の装置によって、または同一かまたは類似の原理に従って、または、同一かまたは類似の物理特性/パラメータを使用して行われることを意味する。
【0126】
一実施形態では、「一つの」(「a」または「one」または「an」)という語は少なくとも1つを指す。一実施形態では、「2つ以上」という語句は、特定の目的に適合する任意の単位とすることができる。一実施形態では、「約」または「ほぼ」または「実質的に」とは、示されている記載から、+1%、または実施形態によっては-1%、または実施形態によっては±2.5%、または実施形態によっては±5%、または実施形態によっては±7.5%、または実施形態によっては±10%、または実施形態によっては±15%、または実施形態によっては±20%、または実施形態によっては±25%の逸脱を含み得る。
【0127】
実施例
【0128】
実施例1
ナノチューブの共振スペクトル
【0129】
図2に、大気圧でのCNT、BNNTおよびWSNTベースのねじり共振器の代表的な共振スペクトルを示す。結果を従来の被駆動減衰振動子、式1にフィッティングすることによって、スペクトルにおけるピークごとに共振振動数およびQファクタを導き出した。ここでθmaxはペダルの振幅、kはねじりばね定数、τはペダルにかかる最大静電トルクであり、vは駆動周波数、vは固有共振振動数
【0130】
【数1】
【0131】
であり、ここで、Iはペダルの質量慣性モーメントであり、QはQファクタである。CNT、BNNTおよびWSNTベースの共振器すべての結果を表3、表4および表5にそれぞれまとめてある。CNTが11個、BNNTが9個、WSNTが5個の合計25のデバイスを測定した。CNTベースの共振器は測定振動数帯で2ないし5のピークを示し、WSNTは1ないし2のピーク、BNNTは明確なピークを1つのみ示した。
【0132】
【数2】
【0133】
実施例2
有限要素解析
【0134】
それぞれの対応する振動モードに異なるピークを割り当てるためと、特に、ねじりモードを特定するために、COMSOL MULTIPHYSICSTMを使用して有限要素解析(FEA)を行った。発明人等のFEAシミュレーションの数値的収束を、メッシュの精緻化によって検証した。これらのシステムに存在し得る広範囲なパラメータを含む様々なシミュレーションを行った。すなわち、(i)5.8と88.4nmの間のNT直径、(ii)170GPa(WSNTの場合)と0.8ないし1.2TPa(CNTおよびBNNTの場合)の間のヤング率、(iii)0と0.3の間のポアソン比、(iv)1380kg/cm(BNNTの場合)と7730kg/m(WSのかさ密度)の間の密度、および(v)中空円筒の極端な場合(負荷を担持する最も外側の層のみ)から中密のロッド(すべての層が結合)の他方の極端な場合までにわたる層間結合の程度である。これらのシミュレーションすべてにおいて、最低振動数自然(固有)モードは常にねじりであり、それに他のモード(面内回転、面内曲げ、および面外曲げ)に関係する有意により高い振動数が続いた。この詳細な解析の後は、すべての測定スペクトルの最初のピーク(すなわち最低振動数)をナノチューブベースの共振器のねじりモードに問題なく割り当てることができる。図2Aに共振スペクトルが図示されている共振器のこのような解析の例を、図3に示す。FEAシミュレーションを実験と比較すると、ねじりモードは中空円筒の場合と一致している一方、面内曲げモードおよび面外曲げモードは中密ロッドの場合と一致することがわかる。この結果は、ナノチューブの外側層のみが関与することがわかっているMWCNTのねじり挙動と一致し、曲げ運動はすべての層の関与を必要とするという直感的想定と一致する。測定ピーク位置と計算共振振動数との不一致は、ナノチューブの内部構造の複雑さおよびその異方性を考慮に入れないモデルの単純さと、製造工程中に生じる不良および欠陥によって説明がつく。また、「ねじり」と呼んでいる通常モードは、実際には曲げ運動のわずかな成分を含み、同様に、「面外」と呼ぶ通常モードは、実際にはねじれ運動のわずかな成分を含み、それぞれのモードはすべての壁から(中密ロッドの場合)、または外側の壁のみから(中空円筒の場合)の異なる寄与を有する。原理上、実験装置は面内運動を作動させたり検出したりするようには設計されておらず、したがってこれらのモードは理論上、スペクトルにおいて現れることが予期されていない。それにもかかわらず、レーザビームに対する共振器の位置ずれと、ナノチューブに対するペダルのずれと、により、x-y-zクロストークおよび寄生作動がある程度予期される。これは、スペクトルにおいて面内曲げモードが出現することと面内回転モードがないことの説明となり得る。
【0135】
BNNTベースのねじり共振器とWSNTベースのねじり共振器のFEAシミュレーションは、CNT(図3)のものと定性的に類似しており、それぞれ図7および図8にまとめてある。BNNTベースの共振器の測定共振振動数をシミュレーションと比較すると、BNNTの共振ねじれ運動は、中密ロッドの場合と中空円筒の場合の中間の場合であること、すなわち、ねじれ運動時にある程度の層間結合があることを示唆している。WSNTベースの共振器のFEAシミュレーションは、不一致を示しているように見える。すなわち、測定ねじり共振振動数は、中密ロッドの極端な場合よりも高いように見え、共にねじれる層の数がナノチューブに存在する層の数よりも多いかのようである。この不一致は、シミュレーションのために使用したヤング率は最も広く受け入れられている値(170GPa)であったが、WSNTはヤング率の大きなばらつきを示す(約15GPaと約615GPaの間)ことがわかっているという事実に関係している可能性がある。
【0136】
実施例3
ねじり共振スペクトルの比較
【0137】
図4Aに、大気圧および真空中における各材料の典型的なねじりデバイスのねじり共振スペクトルの比較を示す(括弧内の値は真空中で測定された値を表す)。測定されたすべてのねじり共振器のねじり共振スペクトルを比較すると、WSNTが最も高い平均ねじり共振振動数(19.7±4.1MHz)を示し、次にBNNT(5.21±1.57MHz)とCNT(1.26±0.43MHz)が続く。同じ傾向は、平均Qファクタにも当てはまり、WSNTが86±30、BNNTが28±4、CNTが15±9である。なお、図4Aの挿入図内の数値は、特定のデバイスについての結果であり、したがって、上記の平均値とは異なる。動的k、すなわち、関係
【0138】
【数3】
【0139】
を使用して、空気中で測定された共振スペクトルから導き出されたねじりばね定数が、図4Bにおいてナノチューブ直径dの関数としてプロットされている(発明人等の装置の場合、有効kは、懸架ナノチューブの同時に反対方向にひねられる2つの部分を考慮に入れている)。WSNTが最も高い動的kを示し、次にBNNTとCNTが続く。この傾向は、ナノチューブの直径(中密ロッドの場合を想定した約d、および中空円筒形の場合を想定した約d)に対するkの予期された強い依存性と一致している。したがって、直径におけるkの冪乗則は、層間結合の測定値を示し得る。すなわち、層がより結合されている場合は4により近く、最も外側の層のみがねじり負荷を担持する場合はより3に近くなるはずである。BNNTは約d3.6の冪乗則を示すことがわかり、これはCNT(約d2.2)よりもより大きな相関結合を示唆している。BNNTの冪乗則は、FEAシミュレーションによって示唆される2つの極端な場合の中間の場合と一致している。WSNTは、恐らくは共振器を構成する個々のナノチューブ間の層間結合のばらつきが大きいためと、前述のヤング率のばらつきの大きさのために、いかなるこのような冪乗則にもフィッティングされ得ない。
【0140】
図4Cに、大気圧における測定Qファクタが動的ねじりばね定数とともに増加することを示す。この関係は、空気抵抗の優勢効果に帰することができる。周囲条件におけるように粘性損失(すなわち空気による減衰)が優勢なエネルギー散逸メカニズムである場合、
【0141】
【数4】
【0142】
であり、ここでkは動的ねじりばね定数、Iはペダル質量慣性モーメント、bは空気摩擦による減衰係数である。ナノチューブの材料および直径の影響は無視できるほどであるため、質量慣性モーメントは、主としてペダルの幾何形状と密度に依存し、したがってIはすべての共振器についてかなり類似しているはずである(ただし、ナノファブリケーションの不正確さによる、ナノチューブを基準にしたペダル位置のずれのわずかな相違を除く)。CNTベースおよびBNNTベースの共振器についてそれぞれ計算されたスクイーズ数0.04および0.15(実施例9参照)は、これらの共振器の場合、システムの減衰係数bは、スクイーズ膜減衰(2つの近接面の間に閉じ込められたガスのスクイーズによって生じる減衰の向上)とは異なり、主として純粋な抗力減衰(他の面から遠い流体中の移動体によって生じる抗力)によりもたらされると予期されることを示している。純粋な抗力を推算する一般的な手法は、振動する物体を球体の重ね合わせに置き換えることである。各球体の減衰係数は、式2によって与えられ、式中でμは空気粘度、rは球体の半径、ρは空気密度、ωは振動数である。共振において
【0143】
【数5】
【0144】
であるため、本システムの期待減衰係数はb~k0-0.25となるはずであり、したがってQ~k0.25-0.5が予想される。図4Cに示すように、Q~k0.30±0.07という結果はこの予測と一致する。共振振動数がより高いため、WSNTに基づくねじり共振器のスクイーズ数はより高く(0.55)、スクイーズ膜減衰の寄与がより大きいことを示している。高振動数でのねじり共振器のスクイーズ膜減衰係数は、収束級数の形態のものであり、したがって、共振振動数への単純な冪乗則依存を有さない。
【0145】
【数6】
【0146】
実施例4
デバイス振動数応答の真空測定
【0147】
ナノチューブの固有挙動、すなわちナノチューブの材料および構造に起因する内部摩擦を観察するために、空気減衰を、NTの内部摩擦と比較して無視できる点まで低減する必要がある。固有挙動が優勢である空気圧範囲を固有領域と呼ぶことができる。したがって、真空中でねじりデバイス振動数応答の測定を行った。これを表1にまとめる。ペダルと空気分子との相互作用の減少により期待されたように、真空はすべてのナノチューブのQファクタを上昇させた。空気中でのQファクタに対する真空中でのQファクタの比を平均すると、すべてのQファクタがほぼ同じ率だけ変化したようである(CNTデバイスが2.4±0.6、BNNTが1.7±0.3、WSNTが2.3±0.2)。これは、測定されたQファクタは固有Qに近いが、達した真空度では空気減衰が完全には除去されなかったことを示唆している。各材料の固有Qは空気中でのQとは無関係なはずあるため、固有領域に達していたとすれば、真空では各材料のQファクタが異なる率で変化することが期待されたはずである。それでも、真空中で測定されたQの固有成分は空気中での測定値と比較するとより有意であった。
【0148】
【表1】
【0149】
MWCNTねじりデバイスについて空気中で測定したQファクタQを、事前に行った類似のデバイスについて十分な真空中で測定したQと比較することによって、BNNTとWSNTの期待固有Qを概算的に推算することができる(実施例8参照)。この概算によると、BNNTとWSのQファクタは、かなり類似しており(それぞれ200および216)、両方ともCNTより大きく、CNTは事前の測定によると真空中での平均Qファクタが98である。Qファクタの変化は、大気圧と真空中での挙動を比較するとすべての材料のすべてのデバイスについて明らかであるが、式3によって予測される、より高い振動数への見かけ上の期待シフトにもかかわらず、共振振動数は誤差の範囲で同じままである。Qの変化率は約2倍であるため、振動数の期待シフトは約0.2%となるはずであり、これは測定誤差の範囲である。
【数7】
【0150】
動的kのこの計算に続いて、様々なナノチューブの静的ねじりばね定数(静的k)も、原子間力顕微鏡(AFM)先端をペダルに沿った様々な位置でペダルに押し付ける確立された方法を使用し、ナノチューブをねじりながら力を測定することによって測定した(図5A)。システムの線形剛性Kをペダル全体の各位置について計算した。式4によりKのプロットを先端位置の関数としてフィッティングすることによって静的kを導き出した(図5B)。ここでxおよびaは、それぞれ、恣意的な原点を基準にした先端とナノチューブの位置であり、kは静的ねじりばね定数、Kは曲げばね定数である。
【0151】
【数8】
【0152】
表2において、共振スペクトル測定値(動的k、図4B)から導き出されたねじりばね定数を、AFM測定値から導き出された静的ねじりばね定数と比較する。測定されたすべてのデバイスが、静的ねじりばね定数よりも高い動的ねじりばね定数を示している。CNTベースのデバイスの場合は、定数間の差は誤差の範囲であるが、BNNTおよびWSNTベースのデバイスの場合は差が有意である。
【0153】
【表2】
【0154】
動的kが導き出される共振スペクトル測定は、静的AFM押圧測定におけるよりも6ないし7桁高い平均速度でナノチューブをひねることを必要とする。二層カーボンナノチューブ(DWCNT)における引き出し実験時に、外側層と内側層との層間摩擦が引き出し速度の上昇とともに線形に上昇することがわかっている。測定引き出し速度はねじり方向ではなく軸方向であり、本明細書で示す動的実験におけるよりも大幅に低いが、層間摩擦が大きいほど層間の結合が強く、したがってより多くの層が負荷を共有して全体的ねじりに寄与するため、すなわち、動的kが静的kよりも高くなるはずであるため、上記の知見は本結果と一致する。表1に示すように共振振動数、したがって空気中と真空中での動的ねじりばね定数に明らかな差がないため、静的kに対して増大している動的kは、スクイーズ膜効果に由来するものとは考えられない。単一MWCNTデバイス測定に基づくCNTベースのねじりデバイスの静的kと動的kとの比較のみによって、動的kが静的kよりもわずかに小さいことがわかっていた。そのことと本結果との不一致についてはまだわかっていない。
【0155】
BNNTは、静的kに対して動的kの上昇を示している。CNTの場合と同様に、速度依存層間摩擦メカニズムが、このより高い動的kの説明となり得る。BNNTの動的/静的の比がCNTの動的/静的の比よりも高いことは、この2種類のナノチューブの異なる化学組成および構造によって、および、(層間摩擦が接触面積に依存し、直径が大きいほど接触面積が大きいため)この2種類のナノチューブの直径の相違によって説明がつくと考えられる。BNNTの場合に動的kがより高くなる別の要因についても考える必要があり、BNNTのファセットに関係している。直径の大きい(>27nm)BNNTはファセット化されるが、AFMを使用してねじられるとファセットが消滅することが証明されている。BNNTのファセットがなくなるのに要する時間は、振動の時間より長く、それによってBNNTは振動全体を通してファセット化されたままである可能性がある。実際にそうだとすると、動的kは、ファセット化BNNTの層間結合により、ファセットがなくなったものと比較して動的kが静的kよりも大きくなるはずである。
【0156】
CNTおよびBNNTと比較して、WSNTはより高い動的/静的比を示す。WSNTは、ねじりスティックスリップ挙動を示すことが知られている。隣接する平衡位置間の不可逆的ジャンプによりエネルギーが散逸するこの挙動は、原子スケールでの速度依存摩擦に関与することが知られている。CNTに関して前述したように、動的測定中の高ねじり速度が層間摩擦の増大を引き起こし、その結果として層間のより強い結合につながる可能性がある。これは、ねじれ運動により多くの層が関与し、それによってkを増大させることを意味する。「スティックレジーム」時に、WSNTの異なる層が全か無かの状況において必ずしもロックまたはロック解除されないことが以前に示唆されている。動的作動により、層が静的AFM押圧測定と比較して上昇したロッキング度を有するようになる可能性がある。高い動的/静的比は、CNTおよびBNNTに対するWSNTの機械的特性および構造的特性の相違によって説明される可能性がある。これらはすべて、異なる機械的特性および動的挙動を有する異なる材料であるが、層間摩擦は接触面積に依存するため直径の相違も考慮する必要がある。類似した直径のナノチューブについてさらに実験を行えば、ナノチューブ材料と寸法の影響を見分ける一助となる可能性がある。
【0157】
実施例5
ナノファブリケーション
【0158】
1000nmの酸化物層を有する高濃度ドープシリコンウエハ(Si<100>、P/Bドープ、抵抗0.005ないし0.02Ω・cm)を、約1cm×1cmに切り出した。次に、この切り出したシリコンウエハをアセトン中での超音波処理と、それに続くIPA中での超音波処理により洗浄し、Nによるブロー乾燥を行った。洗浄されたシリコンウエハに、(後でワイヤボンディング接点となる)パッドおよび(後で電子ビームリソグラフィのために使用される)位置合わせマークのフォトリソグラフィを施し、次に、20nmのCrおよび200nmのAuの電子ビーム蒸着を行い、アセトン中でリフトオフを行った。その後、このシリコンウエハ上にナノチューブを以下のようにして分散させた。
・CNT- アーク放電により合成され、Iljin Nanotech Co.,Ltdより購入したMWCNTを、束を分離するために、ジクロロエタン(DCE)中で懸濁させて超音波処理し、遠心分離機にかけた。この懸濁液を数滴、ウエハに塗布し、この試料を数秒間、スピンさせた。
・BNNT- CVD合成BNNTを数片、DCE中で溶解させ、超音波処理した。この懸濁液を数滴、ウエハに塗布し、空気乾燥した。次に、この試料をアセトンで洗浄し、IPA処理し、Nによってブロー乾燥した。
・WSN- 外部硫化(OS)により成長させたものを、ドライ分散によって基板上に分散させた。
ナノチューブをSEMによってマッピングし、それらの直径をAFM撮像によって測定した。選択したナノチューブ上に電子ビームリソグラフィ(EBL)を使用してペダルデバイスと電極をパターン形成した。CNTの場合、マイルドプラズマアッシングを行った。ペダルデバイスおよび電極のパターン形成を完成させるために、5nmのCrと80nmのAuの蒸着を行い、その後、アセトンによるリフトオフを行った。次に、すべてのペダルデバイスの寸法を測定するために、すべてのねじりデバイスをAFMにより撮像した。ウエハを導電性エポキシ接着剤でチップキャリアに接着し、ねじりデバイスの電極とチップキャリアとのワイヤボンディングを行った。NTを懸架させ、製造プロセスを仕上げるために、HF(1:6BOE)を7分間使用して約700nmのSiO層をエッチングした。エッチングの後、表面張力損傷を回避しながら乾燥を可能にするために臨界点乾燥(CPD)を行った。
【0159】
実施例6
共振スペクトル測定
【0160】
上述した方法を使用して製造したねじりデバイスにネットワーク分析器(keysight E5061Bネットワーク分析器)を接続した。ネットワーク分析器によって発生した、DC成分とAC成分とからなる静電作動信号を、高濃度ドープシリコン(基板)に接続するとともに、接地を、懸架ナノチューブとペダルを挟み付ける2つの電極に接続した。ペダルの変位の検出を、×100の拡大レンズ付きのレーザドップラー振動計(DD-300変位デコーダを備えたPolytec LDV OFV5000)によって行った。図6に示すように、LDVに接続されたカメラを使用して、作動させたねじりデバイスに向けてレーザを照射した。LDVの出力をネットワーク分析器にフィードバックし、ネットワーク分析器は作動に加えて、該当振動数のみをフィルタリングして除外し、雑音を低減し、結果、すなわち駆動周波数(ペダルの励起周波数)の関数としてのペダル変位のスペクトルを表示するためにも使用した。標準実験で、2VのDC電圧と1.4VのAC電圧を印加した(ただし、使用したケーブルからの減衰のため、高駆動周波数でデバイスに達する電圧はこれより低かった)。全共振スペクトルを取得するために、0.1から24MHz(LDV検出範囲の上限)までで作動電圧の周波数掃引を行った。全共振スペクトルの測定後、測定の精度を上げるために一度に1つのピークのみを含めるように周波数掃引を絞り込んで高分解能測定を行った。信号対雑音比を上げるために、平均化を使用した。すなわち、各周波数掃引は、実際には少なくとも30回の測定の平均であった。各ピークを式1にフィッティングすることによって、共振振動数とQファクタとを導き出した。
【0161】
【表3-1】
【0162】
【表3-2】
【0163】
すべてのデバイスについて、ピーク番号1がねじりに割り当てられ、以降のピークは他の振動モードに対応する。注:各測定が30ないし200掃引の平均からなる3回ないし5回の測定間の変動から算出した誤差範囲。(a)30ないし200掃引の平均からなる1回の測定について式1へのフィッティングから算出した誤差範囲。(b)「該当なし」として示すQファクタは、信号対雑音比が信頼性のあるフィッティングを可能にするのに十分ではなかったため取得不能であった。これらの場合、共振周波数の誤差範囲は該当なしである。
【0164】
【表4】
【0165】
【表5】
【0166】
実施例7
静的ねじりばね定数測定
【0167】
閉ループスキャナを備えたVeeco Multimode/Nanoscope V上でAFM撮像および静的kの測定を行った。測定手順は、Garel,J. et al. Nano Lett. 2012, 12, 6347-6352に詳細に記載されている。
【0168】
実施例8
真空での固有Qの推算
【0169】
まず、本測定からの空気中のQ(QCNT,air)と、Papadakis et al. Phys. Rev.Lett.2004,93,146101により測定された固有領域における真空中のQ(Qintrinsic)と、を比較することによって、CNTデバイスの総Qに対する空気減衰(Qviscous)の寄与を推算した。
【0170】
【数9】
【0171】
ナノチューブの固有Qを概算的に推算するために、摩擦係数と慣性モーメントはすべての材料について同じであるものと仮定した。以下の式を使用して、
【0172】
【数10】
【0173】
Qviscousをスケーリングして(CNTについて以前に求められた粘性減衰によるQ)、BNNTおよびWSNTについてそれに相当する値を求めた。ここで、kは動的ねじりばね定数、Iは質量慣性モーメント、bは減衰係数である。
【0174】
【数11】
【0175】
【数12】
【0176】
これらの推算値を使用して、BNNTとWSの固有Qファクタを以下のように推算した。
【0177】
【数13】
【0178】
【数14】
【0179】
実施例9
スクイーズ数の計算
【0180】
スクイーズ数は、システムにおけるスクイーズ膜減衰の有意性を示す無次元パラメータであり、以下のように定義される。
【0181】
【数15】
【0182】
ここで、μは動的粘性、ωは振動数、lはペダルの長さ、Pは圧力、hは間隙サイズである。これらすべてのパラメータの代入によって、CNTについて約0.04、BNNTについて0.15、WSNTについて約0.55の値が求められる。
【0183】
実施例10
金属カルコゲナイドナノチューブに基づくセルフセンシングねじり共振器
【0184】
電気機械デバイスを作製した。このデバイスは、導電性材料(例えばドープSiウエハ)からなる基板上に配置された単層または多層の無機ナノチューブ(例えばWS)に基づく。導電性材料は、シリコン酸化物などの高絶縁誘電体層によって被覆した。ナノチューブは、絶縁層上にパターン形成された2つの金属パッド(ソースおよびドレイン)によって端部を挟み付け、ナノチューブの上に、平坦な金属プレート(ペダル)を非対称に配置した。ペダルを含むナノチューブの中央部が、絶縁層にエッチングされたトレンチの上方に懸架される。パッドによって挟み付けられたナノチューブの懸架部は、ペダルとともに共振器を構成する。
【0185】
パッドを金属パターンによって外部回路に接続した。ソースパッドはRF信号発生器に接続され、ドレインはロックイン増幅器に供給される。ゲート電極を構成する基板の導電層を別の信号発生器に接続した。ゲートには、信号の振幅よりも高い、いくらかのDC電圧によってオフセットされたRF信号(ω)が印加される。ソースには、周波数の2倍および中間周波数のわずかなシフト(2ω-Δω)で信号が印加される。共振振動数におけるデバイスの機械的振動の結果として、ナノチューブのピエゾ抵抗または電荷変調による導電率の変調が生じる。共振器デバイスは信号混合器として機能し、機械的共振の検出は、ロックイン技法により検出される中間周波数(Δω)で信号を測定することによって得られる。信号は、デバイスが共振しているときに特異な挙動を有する。
【0186】
ゲートに印加されるRF信号によって、デバイスを同様に作動させ、レーザドップラー振動記録計を使用して光学的に検出した。デバイスを特性評価するために、作動の周波数を掃引することによって取得した2つのスペクトルと、機械的共振の(光学的および電気的)測定発現とを比較した。
【0187】
図9は、WSナノチューブベースのねじりデバイスの共振スペクトルの比較である。スペクトルは、レーザドップラー振動計(下の線)と、電気信号混合測定(上の線)とを使用して取得した。各測定において得られた共振の特徴間には相関がある。17.2MHzにおけるピーク(光学的測定と電気的測定の両方で取得)は、共振器のねじりモードに属するものとみなされる。27MHzにおける別の共振特徴は、恐らく、面外曲げなどの曲げモードである。
【0188】
図10は、電気信号混合測定の概略説明図である。2つのRF源を使用して、ソースとゲートに信号が供給される。2つの信号を混合することによって中間周波数の基準信号が得られる。ロックイン増幅器でドレイン電流が測定される。
【0189】
本明細書では、本発明の特定の特徴について示し、説明したが、これにより当業者には、多くの修正、代替、変更および同等物が思いつくであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、すべてのそのような修正および変更が本発明の真の趣旨に含まれることを意図していることが理解されよう。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10