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特許7212917焼菓子用品質改良剤及び焼菓子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】焼菓子用品質改良剤及び焼菓子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/26 20060101AFI20230119BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20230119BHJP
   A21D 13/16 20170101ALI20230119BHJP
   A21D 13/44 20170101ALI20230119BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
A21D2/26
A21D13/80
A21D13/16
A21D13/44
A23G3/34 102
A23G3/34 106
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018147759
(22)【出願日】2018-08-06
(65)【公開番号】P2020022372
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-06-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年1月31日~平成30年8月1日 別紙1記載の提出先に、試供品として「パサツカネーゼ(試供品)」を配布 特30条記事別紙あり
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年2月1日~平成30年7月30日 別紙3記載の提出先に、製品パンフレット(別紙2)「パサツカネーゼ(試供品)」を配布 特30条記事別紙あり
(73)【特許権者】
【識別番号】500204496
【氏名又は名称】大宮糧食工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 秀信
(72)【発明者】
【氏名】横田 政栄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小川 直子
(72)【発明者】
【氏名】都能 諒太
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-068171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/26
A21D 13/80
A21D 13/16
A21D 13/44
A23G 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉質原料100質量部に対して糖類50~200質量部含有し、かつ、ベーキングパウダーを含有する原料を用いて得られる、スポンジケーキ、マフィン、パウンドケーキ、バームクーヘン、シフォンケーキ、カステラ、どら焼き、焼まんじゅう、もみじまんじゅう、ホットケーキ、スコーン、マドレーヌ、ワッフル、バターケーキ、クッキー、サブレから選ばれた1種の焼菓子に適用される品質改良剤であって、エキソマルトテトラオヒドロラーゼと、キシラナーゼと、ホスホリパーゼとを含有し、前記エキソマルトテトラオヒドロラーゼの活性の至適温度が45℃以上であることを特徴とする焼菓子用品質改良剤。
【請求項2】
前記エキソマルトテトラオヒドロラーゼの活性の至適温度が55℃以上である、請求項1記載の焼菓子用品質改良剤。
【請求項3】
前記焼菓子用品質改良剤の形態の全体100g中に、前記エキソマルトテトラオヒドロラーゼを1500~50000U含有し、前記キシラナーゼを100~8500U含有し、前記ホスホリパーゼを500~700000U含有する、請求項1又は2に記載の焼菓子用品質改良剤。
【請求項4】
前記焼菓子が、卵又はその加工物を原料として含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼菓子用品質改良剤。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の焼菓子用品質改良剤を、澱粉質原料100質量部に対して糖類50~200質量部含有し、かつ、ベーキングパウダーを含有する原料を用いて得られる、スポンジケーキ、マフィン、パウンドケーキ、バームクーヘン、シフォンケーキ、カステラ、どら焼き、焼まんじゅう、もみじまんじゅう、ホットケーキ、スコーン、マドレーヌ、ワッフル、バターケーキ、クッキー、サブレから選ばれた1種の焼菓子生地に含有させて、焼菓子を製造することを特徴とする焼菓子の製造方法。
【請求項6】
活性の至適温度が45℃以上であるエキソマルトテトラオヒドロラーゼと、キシラナーゼと、ホスホリパーゼとを、澱粉質原料100質量部に対して糖類50~200質量部含有し、かつ、ベーキングパウダーを含有する原料を用いて得られる、スポンジケーキ、マフィン、パウンドケーキ、バームクーヘン、シフォンケーキ、カステラ、どら焼き、焼まんじゅう、もみじまんじゅう、ホットケーキ、スコーン、マドレーヌ、ワッフル、バターケーキ、クッキー、サブレから選ばれた1種の焼菓子生地に含有させて、焼菓子を製造することを特徴とする焼菓子の製造方法。
【請求項7】
前記エキソマルトテトラオヒドロラーゼの活性の至適温度が55℃以上である、請求項記載の焼菓子の製造方法。
【請求項8】
前記澱粉質原料100質量部に対して、前記エキソマルトテトラオヒドロラーゼを15~500U、前記キシラナーゼを1~85U、前記ホスホリパーゼを5~7000U含有させる、請求項5~7のいずれか1項に記載の焼菓子の製造方法。
【請求項9】
前記焼菓子が、卵又はその加工物を原料として含有する、請求項のいずれか1項に記載の焼菓子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼菓子用品質改良剤及び焼菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、穀粉等の澱粉質原料を原料とする焼菓子が抱える問題としては、老化の問題がある。すなわち、小麦粉等に含まれる澱粉質は、焼成前の生地中や焼成直後には、アミロースやアミロペクチン等からなる澱粉分子のマトリックス構造中に水分子が比較的均一に分散し保持されているので、これにより柔軟性のある構造となっている。ただし、時間経過により水分子が蒸散したり、その均一分散性が失われたりするので、澱粉分子が再結晶化する傾向となる。一般に、焼成から期間経過した焼菓子については、澱粉の老化によりしっとり感が失われ、硬さやパサつきが目立つようになる。勿論、澱粉により形成される組織(テクスチャー)は、焼成後の焼菓子の体積(ボリューム)や食感のそれ自体に大きく関与している。
【0003】
このような問題に関連して、例えば特許文献1~3には製パン技術として、アミラーゼ類酵素のパン生地への使用により、焼成後のパンの老化抑制を含めた品質を改良することができると記載されている。
【0004】
一方、酵素に関連する焼菓子分野の技術として、例えば、特許文献4には、ホスホリパーゼ類のケーキ生地への使用により、大量生産する場合にも気泡を安定化させ、ボリュームや柔らかさの低下を起こすことなく高品質のケーキを安定的に製造することができると記載されている。また、特許文献5には、キシラナーゼ類のパイ生地やクラッカー生地への使用により、焼成後の体積を増加させ、食感を向上させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-244777号公報
【文献】特開2013-46614号公報
【文献】特開2017-176122号公報
【文献】特開2017-109号公報
【文献】特開平8-84557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1~3の技術では、澱粉分子がアミラーゼ類酵素により部分的な分解を受けて、これにより生成するグルコースやマルトース等の糖類が、保水を維持し易い状態にするため、焼成後のパンの品質が向上するものと考えられているが、本発明者らの研究によると、砂糖等の糖類を多く配合する焼菓子にあっては、その糖類が酵素活性を阻害して効果が十分に発揮されないという問題があった。また、一方でアミラーゼ類酵素により過剰に澱粉が分解されると、焼成時に気泡を包み込む澱粉粒の膜が弱くなるため、焼成後に形を保つことができず、結果として体積減少が起きてしまうという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、砂糖等の糖類を多く配合する焼菓子において、焼菓子の体積(ボリューム)への影響を抑えつつ、澱粉により形成される組織(テクスチャー)に対する品質改良の効果を十分に発揮させることを可能にする、焼菓子用品質改良剤及び焼菓子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、その第1の側面においては、澱粉質原料100質量部に対して糖類50~200質量部含有する焼菓子に適用される品質改良剤であって、エキソマルトテトラオヒドロラーゼと、キシラナーゼと、ホスホリパーゼとを含有することを特徴とする焼菓子用品質改良剤を提供するものである。
【0009】
本発明による焼菓子用品質改良剤によれば、エキソマルトテトラオヒドロラーゼを用いるので、砂糖等の糖類の濃度が比較的高い条件であっても、保水の維持に寄与できるマルトテトラオース等の糖類を有効に生成させて、澱粉の老化による食感の劣化を抑制することができる。また、更にキシラナーゼとホスホリパーゼとを併用することで、前記3種の酵素を単体で使用するよりも食感改良の効果に更に優れ、加えて、焼菓子の体積(ボリューム)の維持・増加効果も優れている。
【0010】
本発明による焼菓子用品質改良剤においては、前記エキソマルトテトラオヒドロラーゼの活性の至適温度が45℃以上であることが好ましい。また、その至適温度は55℃以上であることがより好ましい。これによれば、生地の調製から焼成までの経温履歴の間に、比較的高温下で酵素が作用し、ひいては酵素が生地中で糊化状態の澱粉分子に十分に接触するように該酵素を作用させることができ、澱粉の老化による食感の劣化をより有効に抑制することができる。
【0011】
また、上記焼菓子用品質改良剤においては、前記焼菓子が、卵又はその加工物を原料として含有することが好ましい。これにより、ホスホリパーゼが卵レシチンに作用して乳化力の強いリゾレシチンを生成させ、食感のより良好な焼菓子を得ることができる。
【0012】
また、上記焼菓子用品質改良剤においては、前記焼菓子が、スポンジケーキ、マフィン、パウンドケーキ、バームクーヘン、シフォンケーキ、カステラ、どら焼き、焼まんじゅう、もみじまんじゅう、ホットケーキ、スコーン、マドレーヌ、ワッフル、バターケーキ、クッキー、サブレから選ばれた1種であることが好ましい。
【0013】
本発明は、その第2の側面においては、上記焼菓子用品質改良剤を、澱粉質原料100質量部に対して糖類50~200質量部含有する焼菓子生地に含有させて、焼菓子を製造することを特徴とする焼菓子の製造方法を提供するものである。
【0014】
本発明は、その第3の側面においては、エキソマルトテトラオヒドロラーゼと、キシラナーゼと、ホスホリパーゼとを、澱粉質原料100質量部に対して糖類50~200質量部含有する焼菓子生地に含有させて、焼菓子を製造することを特徴とする焼菓子の製造方法を提供するものである。
【0015】
本発明による焼菓子の製造方法によれば、エキソマルトテトラオヒドロラーゼを用いるので、砂糖等の糖類の濃度が比較的高い条件であっても、保水の維持に寄与できるマルトテトラオース等の糖類を有効に生成させて、澱粉の老化による食感の劣化を抑制することができる。また、更にキシラナーゼとホスホリパーゼとを併用することで、前記3種の酵素を単体で使用するよりも食感改良の効果に更に優れ、加えて、焼菓子の体積(ボリューム)の維持・増加効果も優れている。
【0016】
本発明による焼菓子の製造方法においては、前記エキソマルトテトラオヒドロラーゼの活性の至適温度が45℃以上であることが好ましい。また、その至適温度は55℃以上であることがより好ましい。これによれば、生地の調製から焼成までの経温履歴の間に、比較的高温下で酵素が作用し、ひいては酵素が生地中で糊化状態の澱粉分子に十分に接触するように該酵素を作用させることができ、澱粉の老化による食感の劣化をより有効に抑制することができる。
【0017】
また、上記焼菓子の製造方法においては、前記焼菓子が、卵又はその加工物を原料として含有することが好ましい。これにより、ホスホリパーゼが卵レシチンに作用して乳化力の強いリゾレシチンを生成させ、食感のより良好な焼菓子を得ることができる。
【0018】
また、上記焼菓子の製造方法においては、前記焼菓子が、スポンジケーキ、マフィン、パウンドケーキ、バームクーヘン、シフォンケーキ、カステラ、どら焼き、焼まんじゅう、もみじまんじゅう、ホットケーキ、スコーン、マドレーヌ、ワッフル、バターケーキ、クッキー、サブレから選ばれた1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明による焼菓子用品質改良剤及び焼菓子の製造方法によれば、エキソマルトテトラオヒドロラーゼを用いるので、砂糖等の糖類の濃度が比較的高い条件であっても、保水の維持に寄与できるマルトテトラオース等の糖類を有効に生成させて、澱粉の老化による食感の劣化を抑制することができる。また、更にキシラナーゼとホスホリパーゼとを併用することで、前記3種の酵素を単体で使用するよりも食感改良の効果に更に優れ、加えて、焼菓子の体積(ボリューム)の維持・増加効果も優れている。よって、これにより、見た目の商品価値に優れ、長期保管にも適した焼菓子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】試験例1において、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ(G4アミラーゼ)とマルトース生成アミラーゼに関し、それぞれの酵素活性に与えるショ糖の影響について調べた結果を示す図表である。
図2】試験例2において、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ(G4アミラーゼ)の活性の至適温度について調べた結果を示す図表である。
図3】試験例3において、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ(G4アミラーゼ)、キシラナーゼ、ホスホリパーゼの各酵素を組み合わせることによる、パウンドケーキの焼き上がり時の体積に与える影響について調べた結果を示す図表である。
図4】試験例4において、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ(G4アミラーゼ)、キシラナーゼ、ホスホリパーゼの各酵素が、パウンドケーキの焼き上がり時の体積に与える影響について更に調べた結果を示す図表である。
図5】試験例5において、パウンドケーキのテクスチャー分析を行った結果を示す図表であり、図5(a)は硬さ応力を測定した結果を示す図表であり、図5(b)は凝集性を測定した結果を示す図表である。
図6】試験例5において、パウンドケーキの食感の官能評価を行った結果を示す図表である。
図7】試験例6において、配合量を変えて添加した各酵素がパウンドケーキの焼き上がり時の体積に与える影響について調べた結果を示す図表であり、図7(a)はエキソマルトテトラオヒドロラーゼ(G4アミラーゼ)、キシラナーゼ、及びホスホリパーゼを含む酵素製剤を配合したときの結果を示す図表であり、図7(b)はG4アミラーゼを配合したときの結果を示す図表である。
図8】試験例6において、配合量を変えて添加した各酵素が焼き上がりから15日間経過後のパウンドケーキの食感に与える影響について調べた官能評価の結果を示す図表であり、図8(a)はエキソマルトテトラオヒドロラーゼ(G4アミラーゼ)、キシラナーゼ、及びホスホリパーゼを含む酵素製剤を配合したときの結果を示す図表であり、図8(b)はG4アミラーゼを配合したときの結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、焼菓子の品質改良の技術に関するものである。焼菓子としては、例えば、スポンジケーキ、マフィン、パウンドケーキ、バームクーヘン、シフォンケーキ、カステラ、どら焼き、焼まんじゅう、もみじまんじゅう、ホットケーキ、スコーン、マドレーヌ、ワッフル、バターケーキ、クッキー、サブレ等が挙げられる。これらは、通常、その甘味・風味のための砂糖等の糖類を、澱粉質原料100質量部に対して50~200質量部程度、より典型的には60~160質量部程度、更により典型的には80~ 140質量部程度含有している。本発明は、これらの焼菓子に好適に適用され得る。ただし、本発明の適用範囲は、以上に挙げた具体的な焼菓子の種類によって、なんら限定されるものではない。
【0022】
上記焼菓子に含まれる砂糖等の糖類としては、一般的に製菓に使用される糖類であってよく、その糖類は複数種類を併用してよく、特に制限はない。すなわち、糖類の分類としては、単糖類(炭素数により三炭糖、五炭糖、六炭糖がある)、二糖類、少糖類(オリゴ糖類)、多糖類等であるが、このうち、一般的に製菓に使用される糖類としては、二単糖を中心とし、酸や酵素で澱粉を分解した澱粉糖やオリゴ糖類等であってよく、より具体的には、葡萄糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、水飴、各種液糖、各種オリゴ糖、蜂蜜、黒糖等であってよい。なお、複数種類の糖類を併用したときの上記澱粉質原料との質量比は、その併用した糖類の合計量として求められる。
【0023】
また、上記焼菓子の原料となる澱粉質原料としては、通常製菓に用いられる澱粉質原料であればよく、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉等の小麦粉、大麦粉、米粉、大豆粉、白玉粉などの穀粉等であってよく、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、とうもろこし澱粉、タピオカ澱粉などの澱粉素材等であってよく、その種類や由来に特に制限はない。また、場合によっては、その澱粉質原料は、物理的・化学的あるいは酵素的処理を加えることによって天然澱粉の特性を改良した、加工澱粉等であってよく、より具体的には、例えば、リン酸架橋澱粉、酸化澱粉、酢酸澱粉等であってよい。これらの穀粉や澱粉素材は、それぞれの複数種類を併用してよく、穀粉と澱粉素材とを併用してよく、あるいは焼菓子の原料として単独で使用してよく、特に制限はない。なお、複数種類の澱粉質原料を併用したときの上記糖類との質量比は、その併用した澱粉質原料の合計量として求められる。
【0024】
本発明に用いるエキソマルトテトラオヒドロラーゼとしては、アミロース等の多糖類のα(1→4)-グルカン構造を加水分解して、非還元末端からマルトテトラオース単位を生成する活性を備えた酵素(EC 3.2.1.60、別名:Glucan 1,4-alpha-maltotetraohydrolase)であればよく、その由来、調製法等に、特に制限はない(以下では「エキソマルトテトラオヒドロラーゼ」を「G4アミラーゼ」と表記する場合がある。)。例えば、シュードモナス・サッカロフィラ(Pseudomonas saccharophila)やシュードモナス・スツゼリ(Pseudomonas stuzeri)等のシュードモナス種微生物等に由来する天然の酵素が知られているので、そのような由来のものを用いればよい。また、例えば、食品に使用可能な酵素製剤として商品名「POWERFresh 3050 GF」(ダニスコジャパン株式会社製)、商品名「POWERFresh 3150」(ダニスコジャパン株式会社製)、商品名「POWERFresh 4150」(ダニスコジャパン株式会社製)、商品名「POWERSoft 7033」(ダニスコジャパン株式会社製)、商品名「デナベイクEXTRA」(ナガセケムテックス株式会社製)等が知られているので、そのような市販の酵素製剤を用いてもよい。
【0025】
本発明の好ましい態様においては、上記G4アミラーゼとして、シュードモナス・サッカロフィラやシュードモナス・スツゼリに由来する親酵素に、所定の変異を導入して、熱安定性が高められた酵素が知られているので、そのような改変酵素を用いてもよい(特表2002-509720号公報、特表2007-526752号公報、特表2008-505632号公報、特表2009-540818号公報)。その場合、酵素の至適温度としては、45℃以上であることが好ましく、45~80℃であることがより好ましく、55~75℃であることが更により好ましい。これによれば、生地の調製から焼成までの経温履歴の間に、比較的高温下で酵素が作用し、ひいては酵素が生地中で糊化状態の澱粉分子に十分に接触するように該酵素を作用させることができ、澱粉の老化による食感の劣化をより有効に抑制することができる。なお、上記の市販の酵素製剤のうちの商品名「POWERFresh 3050 GF」(ダニスコジャパン株式会社製)、商品名「POWERFresh 3150」(ダニスコジャパン株式会社製)、商品名「POWERFresh 4150」(ダニスコジャパン株式会社製)、商品名「POWERSoft 7033」(ダニスコジャパン株式会社製)は、G4アミラーゼの至適温度として少なくとも55℃以上を示す酵素製剤である。また、このように至適温度の高められた改変酵素を任意に得るには、当業者に周知の変異作成手段により、G4アミラーゼをコードする遺伝子に変異を導入した後、その変異遺伝子を宿主微生物に導入して、高温で酵素活性の高い菌株を単離する、等のスクリーニングを行うことにより得ることができる。
【0026】
本発明に用いるキシラナーゼとしては、ヘミセルロース、アラビノキシラン等の多糖類のキシラン構造(キシロースがβ1→4結合した構造)を加水分解する活性を備えた酵素であればよく、エンドキシラナーゼ、エキソキシラナーゼ、β-キシロシダーゼ等であってよく、その作用様式や由来等に、特に制限はない。例えば、食品に使用可能な酵素製剤として商品名「セルロシン HC100」(エイチビィアイ株式会社製)、商品名「スクラーゼX」(三菱ケミカルフーズ株式会社製)、商品名「Pentopan 500 BG」(ノボザイムズ ジャパン株式会社製)、商品名「BakeZyme BXP 5001 BG」(DSM株式会社製)等が知られているので、そのような市販の酵素製剤を用いてもよい。
【0027】
本発明に用いるホスホリパーゼとしては、卵レシチン、大豆レシチン等のリン脂質から脂肪酸を遊離したり、リン酸ジエステル結合を加水分解したりする活性を備えた酵素であればよく、ホスホリパーゼA、ホスホリパーゼB、ホスホリパーゼC、ホスホリパーゼD等であってよく、その作用様式や由来等に、特に制限はない。例えば、食品に使用可能な酵素製剤として商品名「ホスホリパーゼA1」(三菱ケミカルフーズ株式会社製)、商品名「Cakezyme Smart」(DSM株式会社製)、商品名「デナベイクRICH」(ナガセケムテックス株式会社製)、商品名「PLA2ナガセ10P/R」(ナガセケムテックス株式会社製)等が知られているので、そのような市販の酵素製剤を用いてもよい。
【0028】
本発明の好ましい態様においては、上記ホスホリパーゼとして、ホスホリパーゼA2(EC 3.1.1.4)を用いることが好ましい。ホスホリパーゼA2は、グリセロリン脂質のsn-2位のエステル結合を加水分解する活性を備えた酵素である。これによれば、原料に卵や液卵、乾燥卵、加糖卵、凍結卵、殺菌卵等の卵の加工品を含む場合、その卵原料に含まれる卵レシチンから乳化力の高いリゾレシチンを生成させて、食感のより良好な焼菓子を得ることができる。
【0029】
上記に説明したG4アミラーゼと、キシラナーゼと、ホスホリパーゼとは、その酵素活性の力価を客観的に、下記のように評価することができる。
【0030】
(G4アミラーゼの力価測定)
可溶性でんぷんの水溶液(1w/v%)を基質溶液として、酵素を添加し、40℃で10分間反応させた後に、可溶性でんぷんの分解により生成した還元末端を、常法に従いSomogy-Nelson法により測定する。1U(ユニット)の活性は、40℃で10分間に1mgのグルコースに相当する還元力を生成するに要する酵素量とする。
【0031】
(キシラナーゼの力価測定)
アズリン色素架橋小麦アラビノキシランを基質として酵素と反応させ、加水分解により解離された染色断片の吸光度を測定し、キシロース生成量に換算する。1U(ユニット)の活性は、アラビノキシラン基質から40℃の条件下でキシロースを1分間当たり1μmol解離するに要する酵素量とする。
【0032】
(ホスホリパーゼの力価測定)
大豆レシチンを基質として、酵素を添加し、37℃で10分間反応させる。生成された遊離脂肪酸を、非エステル結合型遊離脂肪酸測定キットNEFA Cテストワコー(富士フィルム和光純薬株式会社製)により定量する。1U(ユニット)の活性は、37℃にて1分間で1μmolの遊離脂肪酸を生成するのに要する酵素量とする。
【0033】
本発明においては、焼菓子の生地に、上記に説明したG4アミラーゼと、キシラナーゼと、ホスホリパーゼとを含有せしめることにより、生地が焼き上がるまでのいずれかの段階で、それらの酵素が生地に作用して、焼き上がり後の焼菓子の体積(ボリューム)を増加させ、焼き上がりから所定期間経過後における食感の劣化を抑制することができる。この場合、各酵素を生地に含有せしめるタイミングに特に制限はなく、適宜所望の原料を混合し、調製して得られた生地に更に上記酵素を添加するようにしてもよく、あるいは、原料の一部にあらかじめ上記酵素を添加し、他の原料と合わせて全体の生地を調製するようにしてもよい。また、上記の3種の酵素は一緒のタイミングで添加してもよく、それぞれを別々のタイミングで添加してもよい。
【0034】
焼菓子の生地の調製は、通常採用される方法でよく、上述したようにそのいずれかのタイミングで、上記酵素を添加して、その調製された生地中に含有せしめることができる。以下には、一般的な生地の調製方法を述べる。ただし本発明の範囲がこれらの生地の調製方法に限られる趣旨ではない。
【0035】
(シュガーバッター法)
シュガーバッター法とは製菓の原料である油脂と糖類をすり合わせた中に、溶き解した卵や水分を加えて乳化させ、それと小麦粉・ベーキングパウダー・それ以外の粉末材料を合わせて生地を調製する方法である。
【0036】
(フラワーバッター法)
フラワーバッター法とは製菓の原料である油脂と小麦粉・ベーキングパウダー・それ以外の粉末材料を合わせたものをすり合わせた中に、溶き解した卵や水分と糖類を合わせたものを混合し生地を調製する方法である。
【0037】
(オールイン法)
オールイン法とは製菓の原料である油脂と糖類、小麦粉・ベーキングパウダー・それ以外の粉末材料、溶き解した卵や水分を起泡剤や乳化剤を加え一度に撹拌して泡立てて生地を調製する方法である。
【0038】
(共立て法)
全卵と糖類を充分に泡立てた後に小麦粉・ベーキングパウダー・それ以外の粉末材料を合わせ場合によっては少量の油脂を最後に加えて生地を調製する方法である。
【0039】
(別立て法)
卵の卵白と卵黄を分けて、卵白と原料の一部である糖類を合わせ泡立ててメレンゲを作成し、卵黄と残りの糖類を撹拌したものを合わせた後に小麦粉・ベーキングパウダー・それ以外の粉末材料を軽く合わせ、場合によっては少量の油脂を最後に加えて生地を調製する方法である。
【0040】
上記の3種の酵素は、同一の組成物中に含有せしめて、焼菓子用品質改良剤の形態としてもよい。これによれば、その改良剤を添加するだけで、上記の3種の酵素を一度に生地中に含有せしめることができる。この場合、その組成物の形態中には、本発明の作用効果に影響を与えない限り、上記の3種の酵素以外にも、適宜、他の成分を含有せしめてもよい。他の成分としては、例えば、賦形剤、膨張剤、pH調整剤、酵素、増粘多糖類、乳化剤、乳化剤と重合リン酸塩との混合物、乳製品、エキス類、糖質、甘味料、発酵風味料、卵、無機塩類、保存料等が挙げられる。焼菓子用品質改良剤の形態として同一の組成物中に含有される他の成分の含有量は特に限定されず、当業者によって任意の量が選択され得る。
【0041】
上記酵素の適用量としては、焼菓子の種類や用いる酵素の種類によっても異なり、一概ではないが、例えば、焼菓子原料の澱粉質原料100質量部に対して、上記G4アミラーゼは15~500Uを使用するのが好ましく、40~320Uを使用するのがより好ましく、80~240Uを使用するのが更により好ましい。上記キシラナーゼは1~85Uを使用するのが好ましく、2~40Uを使用するのがより好ましく、4~20Uを使用するのが更により好ましい。上記ホスホリパーゼは5~7000Uを使用するのが好ましく、50~3000Uを使用するのがより好ましく、100~1500Uを使用するのが更により好ましい。なお、酵素活性の力価を表わすU(ユニット)は上述した単位とし、同一の種類の酵素を複数併用する場合は、その併用酵素の総体としての力価で表わされる。
【0042】
また、上記焼菓子用品質改良剤の形態中に上記の3種の酵素を含有せしめる場合には、上記のような力価の生地への適用のために適した含有量としては、上記同様、焼菓子の種類や用いる酵素の種類によっても異なり、一概ではないが、例えば、焼菓子用品質改良剤の形態の全体100g中に、上記G4アミラーゼは1500~50000Uを含有するのが好ましく、4000~32000Uを含有するのがより好ましく、8000~24000Uを含有するのが更により好ましい。上記キシラナーゼは100~8500Uを含有するのが好ましく、200~4000Uを含有するのがより好ましく、400~2000Uを含有するのが更により好ましい。上記ホスホリパーゼは500~700000Uを含有するのが好ましく、5000~300000Uを含有するのがより好ましく、10000~150000Uを含有するのが更により好ましい。なお、上記同様に、酵素活性の力価を表わすU(ユニット)は上述した単位とし、同一の種類の酵素を複数併用する場合は、その併用酵素の総体としての力価で表わされる。
【実施例
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。なお、以下には各試験に使用した酵素を示す。
【0044】
(酵素)
G4アミラーゼ:「POWERFresh 3050 GF」(ダニスコジャパン株式会社製)力価 3500 U/g
マルトース生成アミラーゼ:「β-アミラーゼ #1500S」(ナガセケムテックス株式会社製)力価 11000 U/g
キシラナーゼ:「Pentopan 500 BG」(ノボザイムズ ジャパン株式会社製)力価 1500U/g
ホスホリパーゼ:「PLA2ナガセ10P/R」(ナガセケムテックス株式会社製)力価 100000 U/g
【0045】
[試験例1]
G4アミラーゼとマルトース生成アミラーゼに関し、それぞれの酵素活性に与えるショ糖の影響について比較した。
【0046】
具体的には、酵素を基質でんぷんに作用させ、でんぷんの低分子化に伴う、でんぷんのヨウ素による青色呈色の減少を測定した。可溶性でんぷんの水溶液(1w/v%)を基質溶液として、それぞれの酵素を添加し、40℃で20分間反応させた後に、酵素1gが1分間にでんぷんのヨウ素による青色を10 %減少させる酵素量を求めた。更に、上記酵素反応を、ショ糖を10w/v%、20w/v%、又は25w/v%となるように更に添加した基質溶液で行って、ショ糖を添加しない場合の酵素活性を100%としたときの相対活性を求めた。得られた結果を図1に示す。
【0047】
図1に示されるように、マルトース生成アミラーゼでは、10w/v%のショ糖濃度以降に酵素活性が急激に低下した。それに対して、G4アミラーゼでは、25w/v%のショ糖濃度でも相対活性が70%近く維持されており、ショ糖耐性が高いことが明らかとなった。
【0048】
以上の結果によると、砂糖等の糖類を多く配合するケーキ類等の焼菓子においては、従来、製パン等に用いられてきたマルトース生成アミラーゼより、G4アミラーゼのほうが、その品質改良剤として好適であると考えられた。
【0049】
[試験例2]
G4アミラーゼの活性の至適温度について調べた。
【0050】
具体的には、可溶性でんぷん水溶液(1w/v%)を基質溶液として、酵素を添加し、15~90℃の範囲の各温度条件で10分間反応させた後に、可溶性でんぷんの分解により生成した還元末端を、常法に従いSomogy-Nelson法により測定した。本試験系における最も高い酵素活性の結果が得られた温度条件の場合の、その酵素活性を100%としたときの、それ以外の温度条件の場合の相対活性を求めた。得られた結果を図2に示す。
【0051】
図2に示されるように、本試験系において最も高い酵素活性の結果が得られた温度条件は65℃であった。また、おおむね45~80℃の温度範囲で、それ以外の温度条件の場合に比べて、酵素活性がより高かった。
【0052】
[試験例3]
G4アミラーゼがパウンドケーキの焼き上がり時の体積及び焼き上がりから所定期間経過後のパウンドケーキの食感に与える影響について調べた。また、G4アミラーゼに加えて更にホスホリパーゼ及び/又はキシラナーゼを組み合わせて添加したときの、それら体積や食感の与える影響についても調べた。
【0053】
表1には、生地中に配合した各酵素の組み合わせ、及び原料薄力粉100質量部に対する添加量を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表2に示すように、各酵素を含む製剤は、その全体量100質量部を、各酵素の合計量をA質量部としたとき、その他の部分(100-A)を乾燥コーンスターチが占めるようにして調製した。
【0056】
【表2】
【0057】
表3に示す原材料配合で、いわゆるシュガーバッター法により、パウンドケーキを調製した。具体的には、製菓用液体油脂とグラニュー糖をすり合わせた中に、液卵を加えてミキサー KENMIX KMM-770(株式会社愛工舎製)を使用して乳化させ、それと薄力粉、ベーキングパウダー、α化澱粉、上記各酵素を含む製剤を合わせ、比重0.83~0.85g/ccの生地を調製した。得られた生地の360g分をパウンド型に流し込み、オーブン(上火170℃、下火170℃)で47分間焼成した。
【0058】
【表3】
【0059】
焼き上がったパウンドケーキの体積を、菜種置換法で測定し、酵素を添加しない場合の体積を100%としたときの相対値を求めた。得られた結果を図3に示す。
【0060】
また、焼き上がりから15日間もしくはそれに加えて30日間経過後のパウンドケーキの食感にかかる官能評価を行った。官能評価では、パネラー5~7人に試食してもらい、酵素を添加しないControl(試験例3-1)を基準として、それと比べて食感が「悪い・変わらない・良い・非常に良い」の4段階で評価した。そして、悪い→0点、変わらない→1点、良い→2点、非常に良い→3点で集計して、パネル人数に応じた平均値を算出した。得られた結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
その結果、パウンドケーキの焼き上がり時の体積については、図3に示されるように、各酵素を単独で添加しただけでは増加効果がほとんどみられないのに対して(試験例3-2~試験例3-4)、G4アミラーゼとキシラナーゼとを併用した試験例3-5、G4アミラーゼとホスホリパーゼとを併用した試験例3-6では、体積増加の効果が認められ、更に3種の酵素を併用すると、より顕著な体積増加の効果が認められた(試験例3-8)。
【0063】
また、焼き上がりから15日間もしくは30日間経過後のパウンドケーキの食感については、表4に示されるように、G4アミラーゼを単独で添加した試験例3-2では若干の改良効果がみられた(15日間での試験例3-1との比較)。ただし、G4アミラーゼとホスホリパーゼとを併用した試験例3-6のほうが、焼き上がりから所定期間経過後のパウンドケーキの食感についての改良効果がより優れており(15日間での試験例3-2との比較)、更に3種の酵素を併用した試験例3-8では、焼き上がりから所定期間経過後のパウンドケーキの食感についての改良効果が更により顕著であった(15日間又は30日間での試験例3-6との比較)。
【0064】
[試験例4]
試験例3で用いた3種の酵素について、表5に示すとおり、パウンドケーキの生地中に配合するG4アミラーゼの量は一定とし、キシラナーゼ及び/又はホスホリパーゼの添加量を変化させ、あとは試験例3と同様にして、パウンドケーキの焼き上がり時の体積及び焼き上がりから所定期間経過後のパウンドケーキの食感に与える影響について調べた。
【0065】
【表5】
【0066】
具体的には、試験例4-4の配合を試験例3-8の配合と同じものとするとともに、その配合を中心にして、試験例4-1~試験例4-7にわたって、キシラナーゼ及びホスホリパーゼの配合量を徐々に増加させた。そして、体積の評価については、試験例3-1で酵素を添加しないで調製したパウンドケーキの体積を100%としたとき、それに対する相対値を求めた。また、食感の官能評価については、焼き上がりから15日間経過後のパウンドケーキの食感にかかる官能評価を行い、その官能評価では、試験例4-4(試験例3-8の配合と同じ)を基準として、それと比べて食感が「悪い・変わらない・良い・非常に良い」の4段階で評価してもらった。そして、悪い→0点、変わらない→1点、良い→2点、非常に良い→3点で集計して、パネル人数に応じた平均値を算出した。焼き上がり時の体積に関する結果を図4に示す。また、焼き上がりから15日間経過後のパウンドケーキの食感にかかる官能評価の結果を表6に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
その結果、パウンドケーキの焼き上がり時の体積については、図4に示されるように、G4アミラーゼに対するキシラナーゼ及びホスホリパーゼの配合割合に関わらず、この試験例の範囲では、おおむね無添加に比べて104~108.4%程度の体積の増加がみられた(試験例4-1~試験例4-7)。
【0069】
また、焼き上がりから15日間経過後のパウンドケーキの食感については、表6に示されるように、キシラナーゼ及びホスホリパーゼの配合割合の低い試験例4-1では平均ポイントは0.1となり、試験例4-4の基準に比べて、焼き上がりから15日間経過後のパウンドケーキの食感の改良効果は乏しかった。そして、G4アミラーゼに対するキシラナーゼ及びホスホリパーゼの配合割合が増加するにつれて、試験例4-4の基準と同等あるいはそれ以上に食感の改良効果が認められるようになった。
【0070】
[試験例5]
試験例3、4で用いた3種の酵素について、表7に示すとおり、それら3種の酵素を含有する酵素製剤を調製し、この酵素製剤を用いて試験例3と同様の配合(表3)、調製法にてパウンドケーキを調製した。また、対照として、酵素製剤を添加しないでパウンドケーキを調製した。
【0071】
【表7】
【0072】
得られたパウンドケーキのテクスチャー分析と食感の官能評価試験を行った。
【0073】
具体的には、テクスチャー分析では、焼き上がりから1日目及び30日目のパウンドケーキの中央部より3×3×1.5cmを切り出し試料とし、硬さ及びしっとり感を表わす凝集性を測定した。測定にはクリープメーター(RE2-33005B、株式会社山電製)を使用して、ロードセル20N、測定スピード1mm/sec、プランジャーは円柱型径16mm、測定歪率40%の条件でテクスチャー分析を行った。硬さに関しては、25%圧縮時の硬さ応力(hPa)を測定値とした。また、凝集性に関しては、40%圧縮を2回繰り返し、1回目の総負荷エネルギーを100%としたときの2回目の総負荷エネルギーを1回目に対する100分率にして比較した。得られた結果について、硬さについては図5(a)に、凝集性については図5(b)に、それぞれ示す。
【0074】
また、食感の官能評価試験では、焼き上がりから30日目のパウンドケーキについて、2点嗜好法を用いて嗜好型官能評価を実施した。具体的には、柔らかさ・まとまりがある・しっとりしている、の3項目において、好ましい方を判定させた。パネル数は身体的疾患や偏食、アレルギーのない健康な男女20名(男性6名女性14名)で非喫煙者対象とし、食品に関する知識、経験を有している20~60代に実施した。得られた結果を図6に示す。
【0075】
その結果、図5に示されるように、テクスチャー分析からも、長期保管により硬さが増し(図5(a)参照)、しっとり感が乏しくなる(図5(b)参照)、といった焼菓子の組織(テクスチャー)の経時劣化が、G4アミラーゼ、キシラナーゼ、及びホスホリパーゼの3種の酵素を含有する酵素製剤の使用により防がれたことが分かる。
【0076】
また、図6に示されるように、柔らかい、しっとり、まとまりがある、といった食感の官能評価の面でも、上記の3種の酵素を含有する酵素製剤の使用により、長期保管後の食感についての改良効果が得られたことが分かる。
【0077】
[試験例6]
試験例5で用いたG4アミラーゼ、キシラナーゼ、及びホスホリパーゼの3種の酵素を含有する酵素製剤を用いて、試験例3と同様の配合(表3)、調製法にてパウンドケーキを調製した。ただし、酵素製剤の配合量を、菓子生地の粉体原料100質量部に対する添加量として0質量部(G4アミラーゼとしては0U)、0.5質量部(G4アミラーゼとしては50U)、1質量部(G4アミラーゼとしては100U)、1.5質量部(G4アミラーゼとしては150U)、3質量部(G4アミラーゼとしては300U)と変えて、それぞれ酵素製剤の配合量の異なるパウンドケーキを調製した。また、比較として、上記酵素製剤に代えてG4アミラーゼを配合し、その配合量を、菓子生地の粉体原料100質量部に対する添加量として0U、7U、35U、70U、87.5U、210U、280Uと変えて、それぞれG4アミラーゼの配合量の異なるパウンドケーキを調製した。
【0078】
得られたパウンドケーキの体積を、菜種置換法で測定し、酵素製剤あるいはG4アミラーゼを添加しない場合の体積を100%としたときの相対値を求めた。得られた結果を表8及び図7に示す。
【0079】
また、焼き上がりから15日間経過後のパウンドケーキの食感にかかる官能評価を行った。官能評価では、パネラー5~7人に試食してもらい、酵素製剤あるいはG4アミラーゼを添加しない対照を基準として、それと比べて食感が「悪い・変わらない・良い・非常に良い」の4段階で評価した。そして、悪い→0点、変わらない→1点、良い→2点、非常に良い→3点で集計して、パネル人数に応じた平均値を算出した。得られた結果を表9及び図8に示す。
【0080】
【表8-1】
【0081】
【表8-2】
【0082】
【表9-1】
【0083】
【表9-2】
【0084】
その結果、表8-1及び図7(a)に示されるように、G4アミラーゼ、キシラナーゼ、及びホスホリパーゼの3種の酵素を含有する酵素製剤の使用により、菓子生地の粉体原料100質量部に対するG4アミラーゼの添加量として50~300Uの添加量の範囲で、パウンドケーキの焼き上がり時の体積を増加させる効果が得られた。これに対して、表8-2及び図7(b)に示されるように、G4アミラーゼの単独での使用では、同等な添加量の範囲でほとんど体積を増加させる効果が得られずに、添加量を増やしても、逆に体積を減少させてしまう傾向となった。
【0085】
また、表9-1及び図8(a)に示されるように、G4アミラーゼ、キシラナーゼ、及びホスホリパーゼの3種の酵素を含有する酵素製剤の使用により、菓子生地の粉体原料100質量部に対するG4アミラーゼの添加量として50~300Uの添加量の範囲で、パウンドケーキの焼き上がりから15日目の食感についての改良効果が得られた。これに対して、表9-2及び図8(b)に示されるように、G4アミラーゼの単独での使用では、酵素製剤を配合したときよりも食感の改良効果は相対的に弱く、添加量を増やしても、逆に食感を改良する効果を損ねてしまう傾向となった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8