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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】スクロール型真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20230119BHJP
   F04C 25/02 20060101ALI20230119BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20230119BHJP
   F04C 29/04 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
F04C18/02 311M
F04C18/02 311G
F04C18/02 311Q
F04C25/02 N
F04C29/00 D
F04C29/04 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018210443
(22)【出願日】2018-11-08
(65)【公開番号】P2020076370
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2020-11-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】506423165
【氏名又は名称】有限会社スクロール技研
(74)【代理人】
【識別番号】100069073
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 和保
(72)【発明者】
【氏名】川添 新二
【合議体】
【審判長】佐々木 芳枝
【審判官】窪田 治彦
【審判官】長馬 望
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-99362(JP,A)
【文献】特開2016-169627(JP,A)
【文献】特開昭59-34495(JP,A)
【文献】特開平6-137286(JP,A)
【文献】特開2009-85154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口と連通する作動空間をその内部に画成するハウジングと、該ハウジングに回転自在に保持される一対の回転軸と、前記作動空間内に配され、それぞれの回転軸に固定される第1および第2の駆動スクロール部材と、該第1および第2の駆動スクロール部材の間に配される従動スクロール部材と、従動スクロール部材を前記ハウジングに回転自在に保持する第1および第2の従動スクロール受けとによって構成され、従動スクロール部材の両側に立設する第1および第2の従動スクロールラップと前記第1および第2の従動スクロールラップと噛合する第1及び第2の駆動スクロール部材の第1および第2の駆動スクロールラップとによって第1および第2の移動空間が画成されるスクロール型真空ポンプにおいて、
前記第1および第2の移動空間、前記回転軸の中心側において一方の回転軸に形成された吸引口と連通し、最外周端において前記作動空間と連通すると共に、中心側から径方向外方に向けてその容積を拡大させて流体を吸引し、最外周ラップの所定範囲においてその容積を減少させて流体を圧縮し吐出するように、第1および第2の駆動スクロールラップ並びに第1および第2の従動スクロールラップが形成されていることを特徴とするスクロール型真空ポンプ。
【請求項2】
最外周ラップの第1および第2の移動空間の容積を減少させて圧縮を行う範囲は、前記第1および第2の駆動スクロールラップが一体に形成されること、および、圧縮を行う範囲の最外周ラップの径方向の幅が、中心側から外周近傍までの膨張を司る駆動スクロールラップの径方向の幅よりも広く形成されることを特徴とする請求項1記載のスクロール型真空ポンプ。
【請求項3】
前記移動空間の最外周端に位置する従動スクロール部材には、排出孔が形成され、その排出孔には逆止弁としてリード弁が設けられることを特徴とする請求項2記載のスクロール型真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動スクロール部材及び従動スクロール部材とを具備し、前記駆動スクロール部材及び従動スクロール部材とによって画成される画成空間を変化させて吸入口から気体を吸引するスクロール型真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特表2002-527670号公報)は、スクロールタイプ真空ポンプを開示する。このスクロールタイプ真空ポンプは、直列に2ステージとして同じハウジング内に配置され、同じ軸によって駆動するエキスパンダ(膨張機)及びコンプレッサ(圧縮機)を具備するもので、これによって、再膨張・圧縮プロセスに通常伴う過熱を許容するものである。この特許文献1では、スクロールタイプ真空ポンプにおいて、第1ステージが、スクロールタイプのエキスパンダであり、第2ステージがスクロールタイプのコンプレッサであることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2002-527670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているように、エキスパンダを真空ポンプとして使用する場合、放出ポケット内の空気圧力が周囲空気圧力よりかなり低いため、周囲空気が放出ポケットに向かって再膨張することなる。こうした周囲空気の再膨張によって、エネルギーが消費され、過熱が生じる。またコンプレッサを真空ポンプとして使用し、始動時あるいは大気への漏洩によりコンプレッサの入口空気が大気圧である場合、通常、潤滑が行われず、あるいは、内部冷却が行えないので、再膨張・圧縮プロセスに伴う熱が、コンプレッサに損傷を与え、さらに再膨張・圧縮熱によって、スクロール要素に過度の熱増大が生じ、その結果、スクロール要素の先端、ベース間のゴーリングが生じるという不具合がある。また、特許文献1に開示されるスクロールタイプ真空ポンプでは、エキスバンダとコンプレッサの2段階構造であることから、装置自体が大型化するという不具合が生じる。
【0005】
このため、本発明は、圧縮熱が発生しない膨張式を採用すると共に、効率的な吸引・吐出を可能にする構造を有するスクロール型真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、吐出口と連通する作動空間をその内部に画成するハウジングと、該ハウジングに回転自在に保持される一対の回転軸と、前記作動空間内に配され、それぞれの回転軸に固定される一対の駆動スクロール部材と、該一対の駆動スクロール部材の間に配される従動スクロール部材と、従動スクロール部材を前記ハウジングに回転自在に保持する一対の従動スクロール受けとによって構成され、従動スクロール部材の両側に立設する従動スクロールラップとそれぞれの従動スクロールラップと噛合するそれぞれの駆動スクロール部材の駆動スクロールラップとによって移動空間が画成されるスクロール型真空ポンプにおいて、前記移動空間は、前記回転軸の中心側において一方の回転軸に形成された吸引口と連通し、最外周端において前記作動空間と連通すると共に、中心側から外周方向に向けてその容積を拡大させ、最外周ラップの所定範囲においてその容積を減少させることにある。
【0007】
これによって、上述したスクロール型真空ポンプにおいては、電動モータ等の外部動力によって回転軸が回転すると、駆動スクロール部材及び従動スクロール部材が高速で回転すると同時に、従動スクロール部材が駆動スクロール部材に対して相対的に旋回運動を行うことから、回転軸に形成された吸引口から吸引された流体は、中心側から外周方向に向けて容積が拡大して減圧される移動空間に吸引され、外周方向に移動し、最外周ラップにおいてはその容積を減少させて圧縮されて、作動空間を介して吐出口から吐出することができる。
【0008】
また、前記駆動スクロールラップのそれぞれは、最外周ラップの圧縮行程を行う範囲において幅が広く形成されることが望ましい。このように、本発明に係る駆動スクロールラップ及び従動スクロールラップは、駆動スクロールラップ及び従動スクロールラップの最外周ラップ(具体的には、最外周端部から270°の範囲若しくは3π/2[rad]の範囲)においてスクロールラップの幅を増大させたことによって、最外周ラップにかかる遠心力に耐えることができると共に、流体の圧縮時の圧力に耐えうることが可能となるものである。
【0009】
前記移動空間の最外周端に位置する従動スクロール部材には、排出孔が形成され、その排出孔には逆止弁が設けられることが望ましい。これによって、流体の吐出時の逆流を防止できるため、吸引された流体を確実に吐出できるものである。尚、逆止弁としては、排出孔を覆うように形成されたリード弁であることが望ましい。さらに、前記リード弁は、遠心力の影響を小さくするために、従動スクロール部材の中心線上に設置することが望ましい。
【0010】
それぞれの駆動スクロール部材は、圧力相殺機構として、その外周部分において連結されることが望ましい。具体的には、一方の駆動スクロール部材の駆動スクロールラップの外周部分が他方の駆動スクロール部材に対応する部分に形成された溝部に嵌め込まれて形成されることが望ましい。これによって、真空圧を駆動スクロールラップの強度で支持できるため、駆動スクロール部材の強度アップを図れるものである。また、この構造によって、真空圧がベアリングに作用しないため、ベアリングの寿命を延ばすことができる。
【0011】
また、吸入口が形成された回転軸の端部には、達成真空度に応じて軸シールや磁性流体シールを設けることが望ましい。上述した構造では、吸引口が形成された回転軸の端部のみを、例えば磁性流体シールを行えば良いので、構造が簡単となるため、コストダウンを達成できるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、吸込口より気体を膨張させながら吸引するため、圧縮熱が発生しないため、冷却機構が不要となるという効果がある。また、吸引口を有する回転軸周縁のみシールを行えば良いので、構造が簡単でコストを低減できる。さらに、シール部が1ヶ所なので、高真空を得られるという効果もある。さらに、流体が水蒸気などの凝縮性気体でも遠心力で分離可能なため、ガスバラストなどの機構が不要となるという効果もある。さらに圧力相殺機構のため、真空圧がベアリングに作用しないという効果もある。さらにまた、真空部分は中央側の移動空間のみのため、早く到達真空度が得られるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例に係るスクロール型真空ポンプの構成を示した断面説明図である。
図2】本発明の実施例に係る膨張、圧縮の状態を示した説明図である。
図3】本発明の実施例に係る逆止弁構造を示した説明図である。
図4】本発明に実施例に係る圧力相殺機構を示した説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施例について図面により説明する。
【実施例
【0015】
本発明の実施例に係るスクロール型真空ポンプ1は、図1に示すように、吐出口2が設けられ、この吐出口2と連通する作動空間3をその内部に画成するハウジング5を具備する。前記作動空間3内には、真空ポンプ機構4が配される。また、前記ハウジング5は、吐出口2が設けられる円筒側面部5aと、吸入口6が形成された第1の回転軸7を、ベアリング9を介して回転自在に保持するハウジング蓋部5bと、例えば電動モータ60などの外部動力と連結される第2の回転軸8を、ベアリング10を介して回転自在に支持するハウジング底部5cとによって構成される。尚、第1の回転軸7の端部には、達成真空度に応じて軸シールや磁性流体シール40が設けられる。また、第2の回転軸8と前記電動モータ60は、カップリング50を介して連結されるものである。
【0016】
前記第1の回転軸7には、第1の鏡板11が一体に成形され、この第1の鏡板11の第1の回転軸7の反対側面には、中心方向から径方向外方に向かって螺旋状に拡がる第1の駆動スクロールラップ12が設けられる。前記第1の回転軸7、第1の鏡板11及び第1の駆動スクロールラップ12によって第1の駆動スクロール部材13が構成される。また、前記第2の回転軸8には、第2の鏡板14が一体に成形され、この第2の鏡板14の第2の回転軸8の反対側面には、中心方向から径方向外方に向かって螺旋状に拡がる第2の駆動スクロールラップ15が設けられる。前記第2の回転軸8、第2の鏡板14及び第2の駆動スクロールラップ15によって第2の駆動スクロール部材16が構成される。
【0017】
前記第1の駆動スクロール部材13と前記第2の駆動スクロール部材16との間には、従動スクロール部材17が配される。この従動スクロール部材17は、鏡板18と、この鏡板18の両側に中心方向から径方向外方に向かって螺旋状に拡がる第1及び第2の従動スクロールラップ19,20が形成される。また、前記従動スクロール部材17は、その外周部分において第1及び第2の従動スクロール受け24,25が連結され、前記第1の従動スクロール受け24はベアリング26を介して前記ハウジング蓋部5bに回転自在に支持され、前記第2の従動スクロール受け25は、ベアリング27を介して前記ハウジング底部5cに回転自在に支持される。前記従動スクロール受け25と前記第2の駆動スクロール部材16の第2の鏡板14との間には、従動スクロール部材17の自転を防止するためのオルダムリング28が設けられる。
【0018】
この構成によって、第1の駆動スクロール部材13の第1の駆動スクロールラップ12及び前記従動スクロール部材17の第1の従動スクロールラップ19によって第1の移動空間21が画成され、第2の駆動スクロール部材16の第2の駆動スクロールラップ15の前記従動スクロール部材17の第2の従動スクロールラップ20とによって第2の移動空間22が画成される。また、第1の移動空間21と第2の移動空間22とは、従動スクロール部材16の鏡板18の中央側に形成された貫通口23によって連通する。
【0019】
また、本発明によれば、前記第1及び第2の駆動スクロールラップ12,15及び従動スクロールラップ19,20は、そのインボリュート曲線を調整して、それらによって画成される第1及び第2の移動空間21,22が、中心側から外周近傍まで移動しながら、その容積を拡大させると共に、最外周ラップの所定範囲(外周端から270°(3π/2))においてその容積を減少させることにある。また、第1の駆動スクロールラップ12の最外周ラップ12aは、図4(a),(e)に示されるように、膨張行程を司る駆動スクロールラップ12b、15bに比べ幅広く形成される。また前記最外周ラップ12aは、第1及び第2の駆動スクロールラップ12,15が一体に形成されたもので、第2の駆動スクロール部材16には前記最外周ラップ12aが嵌合する嵌合溝15aが形成され、第1の駆動スクロール部材13及び第2の駆動スクロール部材16は、その外周部で連結されるものである。
【0020】
これによって、電動モータ60を駆動すると、第2の回転軸8を介して、第1及び第2の駆動スクロール部材13,16が回転すると同時に、オルダムリング28を介して従動スクロール部材17が、前記第1及び第2の駆動スクロール部材13,16と共に回転しながら、前記第1及び第2の駆動スクロール部材13,16に対して相対的に旋回運動を行い、前記第1及び第2の移動空間21,22が中心側から径方向外方に向かって移動し、その容積を拡大していく。これによって、第1及び第2の移動空間21,22の中心側の移動空間21aは、図2の(d)→(c)→(a)→(b)に示すようにその容積が拡大するので、吸入口6から流体を吸引することができ、さらに移動空間21aは、径方向外方に移動して移動空間21bから21cとその容積を拡大し、中心側の移動空間21aを減圧する。
【0021】
前記第1及び第2の駆動スクロールラップ12,15の最外周ラップ12aの所定の範囲(例えば、最終端から270°(3π/2))では、前記第1及び第2の移動空間21,22の最外周ラップに位置する移動空間21dの容積を減少させるように形成され、吸入されて膨張した流体を圧縮して吐出する構造となっている。
【0022】
このように、中央側から所定の範囲で第1及び第2の移動空間21,22を拡大させて流体の吸引を行うと共に、外周側の所定の範囲で第1及び第2の移動空間21,22を縮小させて流体を圧縮し吐出する構造であることから、図3に示すように、従動スクロール部材17の外周部分に形成された排出孔29に、逆止弁機構としてのリード弁30を設けるものである。これによって、排出された流体の逆流を防止できるものである。尚、前記排出孔29は、従動スクロール部材17の従動スクロールラップ19,20の最外周端部31(図2および図3に示す)の最内周側近傍に位置するもので、これによって駆動スクロールラップ12aの最外周端部32(図2に示す)によって圧縮された流体を確実に排出することができるものである。また、前記従動スクロールラップ19,20の最外周端部31は、半径Rを有する円弧状に形成されるもので、この半径Rは、例えば2R=t+2Ror+αによって規定される。ここで、tは、図2(a)において示される幅広に形成された駆動スクロールラップ12aのラップであり、Rorは駆動スクロールラップ12aの最外周端部32の旋回半径であり、αは微小隙間の寸法である。さらに図2(b)で示す符号cは、従来の従動スクロールラップの最外周シール点を示すもので、本発明においては、前記最外周端部32を前記c点からπ分延長することによって圧縮行程を可能にしたものである。
【0023】
また、上述したように、第1のスクロール部材13及び第2のスクロール部材16は、第1のスクロール部材13の最外周ラップ12aが,従動スクロール部材17に形成された貫通部18aを介して第2のスクロール部材16の嵌合溝15aに嵌合することによって連結されるので、圧力相殺機構が形成され、真空圧を幅広に形成された最外周ラップ12aの強度で支持でき、強度アップが可能になるものである。
【符号の説明】
【0024】
1 スクロール型真空ポンプ
2 吐出口
3 作動空間
4 真空ポンプ機構
5 ハウジング
6 吸入口
7 第1の回転軸
8 第2の回転軸
9,10,26,27 ベアリング
11 第1の鏡板
12 第1の駆動スクロールラップ
13 第1の駆動スクロール部材
14 第2の鏡板
15 第2の駆動スクロールラップ
15a 最外周ラップ
16 第2のスクロール部材
17 従動スクロール部材
18 鏡板
19 第1の従動スクロールラップ
20 第2の従動スクロールラップ
21 第1の移動空間
22 第2の移動空間
23 貫通口
24 第1の従動スクロール受け
25 第2の従動スクロール受け
29 排出孔
30 リード弁
40 磁性流体シール
50 カップリング
60 電動モータ
図1
図2
図3
図4