(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】マフラ及びマフラ用パイプ
(51)【国際特許分類】
F01N 1/08 20060101AFI20230119BHJP
F01N 13/08 20100101ALI20230119BHJP
【FI】
F01N1/08 A
F01N13/08 B
F01N1/08 H
(21)【出願番号】P 2019057502
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100142550
【氏名又は名称】重泉 達志
(74)【代理人】
【識別番号】100180758
【氏名又は名称】荒木 利之
(72)【発明者】
【氏名】福田 拡
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-231933(JP,A)
【文献】特開2001-248417(JP,A)
【文献】特開昭57-76220(JP,A)
【文献】特開2017-141741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 1/08
F01N 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インレットパイプからマフラケースに導入された排気ガスがアウトレットパイプから排出されるマフラにおいて、
前記マフラケースは、内部が第1消音室及び第2消音室を含む複数の消音室に仕切られ、
前記アウトレットパイプは、前記第1消音室内に吸気口が配置され、前記前記第1消音室から前記マフラケースの外部まで延び、
前記インレットパイプは、
前記マフラケースの外部から前記第1消音室を跨いで前記第2消音室まで延びる筒状の固定パイプと、
前記固定パイプの内側又は外側に隣接して設けられ、前記固定パイプに対し排気ガスの流通方向へ所定の移動区間だけ移動自在な筒状の可動パイプと、
前記可動パイプを閉塞し、前記インレットパイプ内を流通する排気ガスの圧力を下流方向へ受ける受圧部と、
前記固定パイプに設けられ、前記可動パイプを排気ガスの上流方向へ付勢する付勢部材と、
前記固定パイプに形成され、前記第2消音室内で前記固定パイプの内外を連通する低圧用固定孔部と、
前記固定パイプに形成され、前記第1消音室内で前記固定パイプの内外を連通する高圧用固定孔部と、
前記可動パイプに形成され、前記可動パイプが前記移動区間の
上流側のガス低圧位置のときに前記低圧用固定孔部と重なって前記インレットパイプと前記第2消音室とを連通させる低圧用可動孔部と、
前記可動パイプに形成され、前記可動パイプが前記移動区間の
下流側のガス高圧位置のときに前記高圧用固定孔部と重なって前記インレットパイプと前記第1消音室とを連通させる高圧用可動孔部と、を有するマフラ。
【請求項2】
前記可動パイプは、前記固定パイプの内側に設けられる請求項1に記載のマフラ。
【請求項3】
前記インレットパイプは、前記固定パイプにおける排気ガスの下流方向端部を閉塞する閉塞部を有し、
前記受圧部は、前記可動パイプにおける排気ガスの下流方向端部に設けられ、
前記付勢部材は、前記固定パイプ内の前記受圧部と前記閉塞部の間に設けられたばね部材である請求項2に記載のマフラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マフラケースの内部が複数の消音室に仕切られたマフラ及びこのマフラに使用されるマフラ用パイプに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用マフラとして、マフラケースと、マフラケース内に排気ガスを導入するインレットパイプと、マフラケース内の排気ガスを外部に排出するアウトレットパイプと、マフラケース内またはアウトレットパイプに設けられて排気ガスの流通を制御する制御弁とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のマフラでは、マフラケースの内部は、第1隔壁板および第2隔壁板により、第1消音室、第2消音室および第3消音室に区画され、インレットパイプは第3消音室及び第2消音室をこの順で跨いで第1消音室に開口する。インレットパイプには、第2消音室と常時連通するためのパンチング孔が形成されている。また、アウトレットパイプは第1消音室及び第2消音室をこの順で跨いで第3消音室に開口する。さらに、マフラケース内には、両端が第2消音室及び第3消音室に開口する第1連通管と、第2消音室を跨いで両端が第1消音室および第3消音室に開口する第2連通管が設けられ、第2連通管の第3消音室の端部に制御弁が設けられる。
【0003】
制御弁は、第2連通管の端部外周に軸方向移動自在に嵌まり合う筒体からなる弁体を備えており、第2連通管は一端部に排気ガス流入口を有し、弁体は第2連通管の他端部外周を覆う円筒部と、第2連通管開口端を閉塞する受圧面を有する底壁とを備え、円筒部にはその内外を連通させる複数個の連通孔が円周方向に等間隔で形成されている。第2連通管の外周面と弁体の内周面との間には所定の隙間が形成されており、この隙間に圧縮状態で収納されたコイルばねの両端が、第2連通管に外向きに形成したフランジと弁体の開口端に内向きに形成した複数のフランジとに支持される。
【0004】
排気ガスの圧力が低いエンジンの低負荷運転時には、弁体の受圧面に加わる圧力が小さいため、弁体はコイルばねの付勢力で閉弁位置に保持され、第2連通管による第1消音室と第3消音室の間の連通が阻止される。一方、エンジンの運転状態が低負荷運転から高負荷運転に移行すると、弁体の受圧面に加わる排気ガスの圧力が増加するため、弁体はコイルばねの弾発力に抗して移動し、円筒部に形成した連通孔が第2連通管のフランジの位置を越えると、第1消音室と第3消音室が連通管を介して相互に連通する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のマフラでは、連通管等のパイプ端部に設けられた制御弁が、閉弁位置のときにパイプ内の排気ガスの流通を阻止することから、例えばインレットパイプやアウトレットパイプのように、排気ガスが常時流通するパイプに制御弁を設けることができない。これにより、排気ガスの流通の阻止が許容される制御弁設置用のパイプをマフラケースに増設する必要があり、スペース効率が極めて悪い。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の消音室が形成されたマフラケース内の排気ガスの流通経路を、排気ガスが常時流通するパイプを利用して切り替えることのできるマフラ及びこのマフラに使用されるマフラ用パイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明によれば、インレットパイプからマフラケースに導入された排気ガスがアウトレットパイプから排出されるマフラにおいて、前記マフラケースは、内部が第1消音室及び第2消音室を含む複数の消音室に仕切られ、前記アウトレットパイプは、前記第1消音室内に吸気口が配置され、前記前記第1消音室から前記マフラケースの外部まで延び、前記インレットパイプは、前記マフラケースの外部から前記第1消音室を跨いで前記第2消音室まで延びる筒状の固定パイプと、前記固定パイプの内側又は外側に隣接して設けられ、前記固定パイプに対し排気ガスの流通方向へ所定の移動区間だけ移動自在な筒状の可動パイプと、前記可動パイプを閉塞し、前記インレットパイプ内を流通する排気ガスの圧力を下流方向へ受ける受圧部と、前記固定パイプに設けられ、前記可動パイプを排気ガスの上流方向へ付勢する付勢部材と、前記固定パイプに形成され、前記第2消音室内で前記固定パイプの内外を連通する低圧用固定孔部と、前記固定パイプに形成され、前記第1消音室内で前記固定パイプの内外を連通する高圧用固定孔部と、前記可動パイプに形成され、前記可動パイプが前記移動区間の上流側のガス低圧位置のときに前記低圧用固定孔部と重なって前記インレットパイプと前記第2消音室とを連通させる低圧用可動孔部と、前記可動パイプに形成され、前記可動パイプが前記移動区間の下流側のガス高圧位置のときに前記高圧用固定孔部と重なって前記インレットパイプと前記第1消音室とを連通させる高圧用可動孔部と、を有するマフラが提供される。
【0009】
このマフラによれば、可動パイプは固定部材に対して所定の移動区間だけ移動自在に構成され、付勢部材により排気ガスの上流方向へ付勢されるとともに、排気ガスの圧力が下流方向へ作用する。すなわち、可動パイプは、可動パイプに作用する排気ガスの圧力が付勢部材の付勢力より小さい場合に、可動パイプは移動区間の上流側のガス低圧位置に位置し、可動パイプに作用する排気ガスの圧力が付勢部材の付勢力より大きい場合に、移動区間の下流側のガス高圧位置に位置することとなる。
これにより、エンジンから送出される排気ガスが比較的低圧の場合は、可動パイプはガス低圧位置に位置し、可動パイプの低圧用可動孔部が固定パイプの低圧用固定孔部と重なって、インレットパイプと第2消音室が連通する。排気ガスはインレットパイプからマフラケースの第2消音室へ流入し、アウトレットパイプの吸気口が配置されている第1消音室を経由してマフラケースの外部へ排出される。このように、排気ガスはマフラケース内にて第1消音室及び第2消音室の両方を経由して排出されるので、十分に消音された状態で外部へ排出される。また、インレットパイプにおける排気ガスの流通距離が比較的長いことから、排気ガスの音圧は低周波側に制御される。
一方、エンジンの回転数が上昇する等により、可動パイプの受圧部に作用する排気ガスの圧力が付勢部材の付勢力より大きくなると、可動パイプはガス高圧位置まで移動し、可動パイプの高圧用可動孔部が固定パイプの高圧用固定孔部が重なって、インレットパイプと第1消音室が連通する。排気ガスはインレットパイプからアウトレットパイプの吸気口が配置されている第1消音室へ直接流入し、第2消音室を経由することなくマフラケースの外部へ排出される。このように、排気ガスはマフラケース内にて第1消音室のみを経由して排出されるので、マフラケース内の流通抵抗が小さくなり、エンジンの出力を増大させることができる。また、インレットパイプにおける排気ガスの流通距離が比較的短いことから、排気ガスの音圧は高周波側に制御される。
【0010】
また、上記マフラにおいて、前記可動パイプは、前記固定パイプの内側に設けられてもよい。
【0011】
このマフラによれば、インレットパイプの可動部分を固定パイプの内部に収めることができる。
【0012】
また、上記マフラにおいて、前記インレットパイプは、前記固定パイプにおける排気ガスの下流方向端部を閉塞する閉塞部を有し、前記受圧部は、前記可動パイプにおける排気ガスの下流方向端部に設けられ、前記付勢部材は、前記固定パイプ内の前記受圧部と前記閉塞部の間に設けられたばね部材であってもよい。
【0013】
このマフラによれば、ばね部材は固定パイプ内における可動パイプの外側に設けられ、可動パイプ内を流通する排気ガスに曝されることはない。従って、高温の排気ガスに繰り返しさらされて、ばね部材が早期に劣化することはなく、排気ガスの流通経路の切替機能を長期にわたって維持することができる。
【0014】
また、本発明によれば、排気ガスが流通するマフラ用パイプであって、筒状の固定パイプと、前記固定パイプの内側又は外側に隣接して設けられ、前記固定パイプに対し排気ガスの流通方向へ所定の移動区間だけ移動自在な筒状の可動パイプと、前記可動パイプを閉塞し、前記マフラ用パイプ内を流通する排気ガスの圧力を下流方向へ受ける受圧部と、前記固定パイプに設けられ、前記可動パイプを排気ガスの上流方向へ付勢する付勢部材と、前記固定パイプに形成され、前記固定パイプの内外を連通する第1固定孔部と、前記固定パイプにおける前記第1固定孔部の上流側に形成され、前記固定パイプの内外を連通する第2固定孔部と、前記可動パイプに形成され、前記可動パイプが前記移動区間の上流側のガス低圧位置のときに前記第1固定孔部と重なって前記マフラ用パイプと外部とを連通させる第1可動孔部と、前記可動パイプに形成され、前記可動パイプが前記移動区間の下流側のガス高圧位置のときに前記第2固定孔部と重なって前記マフラ用パイプと外部とを連通させる第2可動孔部と、を有するマフラ用パイプが提供される。
【0015】
また、上記マフラ用パイプにおいて、前記可動パイプは、前記固定パイプの内側に設けられてもよい。
【0016】
また、上記マフラ用パイプにおいて、前記固定パイプにおける排気ガスの下流方向端部を閉塞する閉塞部を有し、前記受圧部は、前記可動パイプにおける排気ガスの下流方向端部に設けられ、前記付勢部材は、前記固定パイプ内の前記受圧部と前記閉塞部の間に設けられたばね部材であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数の消音室が形成されたマフラケース内の排気ガスの流通経路を、排気ガスが常時流通するパイプを利用して切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態を示すマフラの外観斜視図である。
【
図2】排気ガスが低圧のときのマフラの概略構成説明図である。
【
図3】排気ガスが高圧のときのマフラの概略構成説明図である。
【
図4】変形例を示す排気ガスが低圧のときのマフラの概略構成説明図である。
【
図5】変形例を示す排気ガスが高圧のときのマフラの概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1から
図3は本発明の一実施形態を示すものであり、
図1はマフラの外観斜視図、
図2は排気ガスが低圧のときのマフラの概略構成説明図、
図3は排気ガスが高圧のときのマフラの概略構成説明図である。
【0020】
図1に示すように、このマフラ1は自動車車両に搭載され、排気ガスの消音機能を有するマフラケース2と、マフラケース2に接続され車両のエンジン側から排気ガスが送出されるインレットパイプ3と、マフラケース2のインレットパイプ3の反対側に接続され排気ガスを車両外部へ向けて送出するアウトレットパイプ4と、を有する。
図2に示すように、マフラケース2の内部は隔壁21により複数の消音室R1,R2に仕切られている。
【0021】
本実施形態においては、マフラケース2の内部は1つの隔壁21により第1消音室R1及び第2消音室R2に仕切られている。隔壁21には複数のパンチング孔22が形成されており、第1消音室R1及び第2消音室R2の間で通気可能となっている。円筒状のインレットパイプ3はマフラケース2の外部から第1消音室R1を跨いで第2消音室R2まで延び、円筒状のアウトレットパイプ4は第1消音室R1内に吸気口41が配置され、第1消音室R1から第2消音室R2を跨いでマフラケース2の外部まで延びる。
【0022】
具体的に、インレットパイプ3は、マフラケース2の外部から第1消音室R1を跨いで第2消音室R2まで延びる筒状の固定パイプ5と、固定パイプ5の内側に隣接して設けられ排気ガスの流通方向へ所定の移動区間だけ移動自在な筒状の可動パイプ6と、を有する。
【0023】
固定パイプ5は、マフラケース2及び隔壁21に固定され、第1消音室R1内で固定パイプ5の内外を連通する高圧用固定孔部51と、第2消音室R2内で固定パイプ5の内外を連通する低圧用固定孔部52と、を有する。本実施形態においては、高圧用固定孔部51及び低圧用固定孔部52は、それぞれ軸方向へ延びる長孔であり、周方向に均等に並んで複数形成される。固定パイプ5の内周面には、可動パイプ6の排気ガスの上流側への移動を規制する上流側ストッパ53と、可動パイプ6の排気ガスの下流側への移動を規制する下流側ストッパ54と、が設けられる。これにより、可動パイプ6は、上流側ストッパ53と下流側ストッパ54の間で移動可能となっている。
【0024】
可動パイプ6は、排気ガスの下流方向端部を閉塞し、インレットパイプ3内を流通する排気ガスの圧力を下流方向へ受ける受圧部61を有する。また、可動パイプ6は、移動区間の上流側のストッパ53と接触したガス高圧位置のときに高圧用固定孔部51と重なってインレットパイプ3と第1消音室R1とを連通させる高圧用可動孔部62と、移動区間の下流側のストッパ54と接触したガス低圧位置のときに低圧用固定孔部52と重なってインレットパイプ3と第2消音室R2とを連通させる低圧用可動孔部63と、を有する。本実施形態においては、高圧用可動孔部62及び低圧用可動孔部63は、円形のパンチング孔であり、軸方向及び周方向に均等に並んで複数形成される。
【0025】
尚、可動パイプ6の上流側端部と下流側端部の外側には、それぞれリング状の緩衝部材81,82が設けられている。リング状の緩衝部材81の材質は任意であるが、例えばサスウール、スチールウール等の金属ウールが好適に用いられる。可動パイプ6は、ばね部材としてのコイルばね7により排気ガスの上流方向へ付勢される。
【0026】
固定パイプ5は排気ガスの下流方向端部を閉塞する閉塞部55を有し、コイルばね7は閉塞部55に設けられている。本実施形態においては、コイルばね7は固定パイプ5内の受圧部61と閉塞部55の間に圧縮された状態で設置される。
【0027】
以上のように構成されたマフラ1によれば、可動パイプ5は各ストッパ53,54の間に設定された移動区間だけ移動自在に構成され、コイルばね7により排気ガスの上流方向へ付勢されるとともに、排気ガスの圧力が下流方向へ作用する。すなわち、可動パイプ5は、可動パイプ5に作用する排気ガスの圧力がコイルばね7の付勢力より小さい場合に、可動パイプ5は移動区間上流側のガス低圧位置に位置し、可動パイプ5に作用する排気ガスの圧力がコイルばね7の付勢力より大きい場合に、移動区間の下流側のガス高圧位置に位置することとなる。
【0028】
これにより、エンジンから送出される排気ガスが比較的低圧の場合は、
図2に示すように、可動パイプ5はガス低圧位置に位置し、可動パイプ6の低圧用可動孔部63が固定パイプ5の低圧用固定孔部52と重なって、インレットパイプ3と第2消音室R2が連通する。このとき、高圧用可動孔部62及び高圧用固定孔部51は塞がっている。排気ガスはインレットパイプ3からマフラケース2の第2消音室R2へ流入し、アウトレットパイプ4の吸気口41が配置されている第1消音室R1を経由してマフラケース2の外部へ排出される。このように、排気ガスはマフラケース2内にて第1消音室R1及び第2消音室R2の両方を経由して排出されるので、十分に消音された状態で外部へ排出される。また、インレットパイプ3における排気ガスの流通距離が比較的長いことから、排気ガスの音圧は低周波側が抑制される。
【0029】
一方、エンジンの回転数が上昇する等により、可動パイプ5の受圧部に作用する排気ガスの圧力が付勢部材の付勢力より大きくなると、
図3に示すように、可動パイプ6はガス高圧位置まで移動し、可動パイプ6の高圧用可動孔部62が固定パイプ5の高圧用固定孔部51と重なって、インレットパイプ3と第1消音室R1が連通する。このとき、低圧用可動孔部63及び低圧用固定孔部52は塞がっている。ここで、可動パイプ5がガス低圧位置とガス高圧位置の中間に位置するとき、低圧用可動孔部52の一部が低圧用固定孔部63と重なるとともに、高圧用可動孔部51の一部が高圧用固定孔部62と重なり、インレットパイプ3は第1消音室R1及び第2消音室R2の両方と連通するようになっている。インレットパイプ3と第1消音室R1が連通すると、排気ガスはインレットパイプ3からアウトレットパイプ4の吸気口41が配置されている第1消音室R1へ直接流入し、第2消音室R2を経由することなくマフラケース2の外部へ排出される。このように、排気ガスはマフラケース2内にて第1消音室R1のみを経由して排出されるので、マフラケース2内の流通抵抗が小さくなり、エンジンの出力を増大させることができる。また、インレットパイプ3における排気ガスの流通距離が比較的短いことから、排気ガスの音圧は高周波側が抑制される。
【0030】
このように、本実施形態のマフラ1によれば、マフラケース2内の排気ガスの流通経路を、排気ガスが常時流通するインレットパイプ3を利用して切り替えることができる。
【0031】
また、本実施形態のマフラ1によれば、可動パイプ6を固定パイプ5の内側に配置したので、インレットパイプ3の可動部分を固定パイプ5の内部に収めることができる。また、コイルばね7が固定パイプ5内における可動パイプ6の外側に設けられ、コイルばね7が可動パイプ6内を流通する排気ガスに曝されることはない。従って、高温の排気ガスに繰り返しさらされて、コイルばね7が早期に劣化することはなく、排気ガスの流通経路の切替機能を長期にわたって維持することができる。
【0032】
尚、前記実施形態においては、固定パイプ5と可動パイプ6に第1消音室R1または第2消音室Rに排気ガスを流通させるための孔部51,52,62,63を形成したものを示したが、例えば
図4及び
図5に示すように、これらとは別に音圧周波数等を調整するための調整孔156,164を別途設けてもよい。
図4及び
図5のマフラ101では、可動パイプ6がガス高圧位置のときに、可動パイプ6の可動調整孔164が固定パイプ5の固定調整孔156と重なって、これらの形成箇所においてもインレットパイプ3と第1消音室R1とが連通する。これにより、各調整孔156,164が形成されていない場合に対して排気ガスの音色を変えることができる。
【0033】
また、前記実施形態においては、固定パイプ5と可動パイプ6の孔部51,52,62,63を周方向に均等に並べて形成したものを示したが、孔部の形成位置は適宜変更することができ、例えば
図4及び
図5に示すように、周方向所定区間にのみ形成してもよい。
図4及び
図5のマフラ101では、第1消音室R1におけるアウトレットパイプ4側にのみ高圧用固定孔部151及び高圧用可動孔部162が形成されている。可動パイプ6の高圧用可動孔部162は、軸方向及び周方向へ延びる四角形状に形成されている。これにより、排気ガスのマフラケース2内の流通抵抗をより小さくし、エンジンの出力をより増大させることができる。さらに、
図4及び
図5のマフラ101では、第2消音室R1におけるアウトレットパイプ4と反対側にのみ低圧用固定孔部152及び低圧用可動孔部163が形成されている。これにより、マフラケース2内の排気ガスの流通距離をより長くし、排気ガスの音圧はより低周波側が抑制される。
【0034】
さらに、固定パイプ5と可動パイプ6の孔部51,52,62,63の大きさを軸方向で変化させることも可能である。例えば、低圧用可動孔部63及び高圧用可動孔部62のうち、可動パイプ5がガス低圧位置とガス高圧位置の中間に位置するときに低圧用固定孔部52または高圧用固定孔部51と重なる部分を、他の部分より大きく形成してもよい。
【0035】
また、前記実施形態においては、マフラケース2の内部が2つの消音室に仕切られるものを示したが、3つ以上の消音室に仕切られるものであっても本発明を適用することができる。この場合、2つの消音室に対して、前記実施形態のインレットパイプ3と同様の固定パイプ5及び可動パイプ6を有するマフラ用パイプを適用して排気ガスの低圧時と高圧時で流通経路を切り替えるようにすることができる。本発明のマフラ用パイプは、インレットパイプの他、消音室同士を接続する連通パイプにも適用することができる。すなわち、マフラ用パイプは、筒状の固定パイプと、固定パイプの内側又は外側に隣接して設けられ固定パイプに対し排気ガスの流通方向へ所定の移動区間だけ移動自在な筒状の可動パイプと、可動パイプを閉塞しマフラ用パイプ内を流通する排気ガスの圧力を下流方向へ受ける受圧部と、固定パイプに設けられ可動パイプを排気ガスの上流方向へ付勢する付勢部材と、固定パイプに形成され固定パイプの内外を連通する第1固定孔部と、固定パイプにおける第1固定孔部の上流側に形成され固定パイプの内外を連通する第2固定孔部と、可動パイプに形成され可動パイプが移動区間の下流側のガス低圧位置のときに第1固定孔部と重なってマフラ用パイプと外部とを連通させる第1可動孔部と、可動パイプに形成され可動パイプが移動区間の上流側のガス高圧位置のときに第2固定孔部と重なってマフラ用パイプと外部とを連通させる第2可動孔部と、を有していればよい。さらに、例えば、3つの消音室に対して低圧時と高圧時に加えて中間圧力時で流通経路を切り替える構成とすることも可能である。
【0036】
また、前記実施形態においては、可動パイプ6が固定パイプ5の内側に設けられるものを示したが、可動パイプ6は固定パイプ5の外側に設けられていてもよい。さらに、ばね部材としてコイルばね7を用いたものを示したが、他の形式のばねであってもよいし、付勢力を生じさせる他の部材であってもよく、要は可動パイプ6が付勢部材により排気ガスの上流方向へ付勢されてればよい。
【0037】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0038】
1 マフラ
2 マフラケース
3 インレットパイプ
4 アウトレットパイプ
5 固定パイプ
6 可動パイプ
7 コイルばね
41 吸気口
51 高圧用固定孔部
52 低圧用固定孔部
55 閉塞部
61 受圧部
62 高圧用可動孔部
63 低圧用可動孔部
151 高圧用固定孔部
152 低圧用固定孔部
162 高圧用可動孔部
163 低圧用可動孔部
R1 第1消音室
R2 第2消音室